wh 疑問文の獲得:国立国語研究所の 20世紀後半の …...2...

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WH 疑問文の獲得:国立国語研究所の 20 世紀後半の 獲得研究成果から得られる知見 * 村杉恵子 1 はじめに 人間は,見知らぬものに出会うとき,それが何であれ,その有り様について尋ねたいと 思考する.その問いは,形式化され,答えが与えられることにより,話者の言語・文化・ 社会・世界に関する知識は構築されていく.では幼児はいつ,どのように,そしてなぜ, 母語の疑問文の形式について知るのであろうか. 本稿では,日本語を母語とする幼児の WH 疑問文の獲得について考察する.第 2 節で言 語獲得に関する二つの問題を整理した上で,第 3 節では「人はなぜ WH 疑問文に関する特 徴を(無意識に)知っているのか」という問いについて,幼児の WH 移動に適用される制 約の知識に関する実証的研究を紹介する.第 4 節では,「幼児はどのように言語を獲得する のか」という問題に関して, 国立国語研究所の 20 世紀後半の研究成果を生成文法の視点か ら捉え,現代言語理論のもとで再分析を試みたい.第 5 節では, 本節において残された問 題として, 言語獲得の中間段階についての可能な分析を提示し, 第 6 節においてこの論文 を結ぶ. * 本稿は,2014 12 6 日・7 日に大阪大学にて開催された国立国語研究所プロジェクト「日本語 疑問文の通時的・対照言語学的研究」の研究発表会において行った同題目の発表に加筆修正したもの である.また第 5 節は,2014 6 21 日・22 日に国立国語研究所で行われた同プロジェクト研究発 表会での議論をもとに考察している.プロジェクトリーダーである金水敏氏をはじめ貴重な議論や資 料を分かち合ってくださった研究発表会の参加者の皆様, そして本稿の編集にあたりご助言をくださ った志波彩子氏に心より感謝する. 2 節から第 4 節は,国立国語研究所プロジェクト「言語の普遍性及び多様性を司る生得的制約: 日本語獲得に基づく理論的研究」で得られた研究成果を一部含んでいる.共に研究を進めた 11 名のプ ロジェクトメンバーの皆様に心より感謝する.第 3 節は,杉崎鉱司氏との共同研究として 2014 11 8 日にボストン大学で開催された The 39 th Boston University Conference on Language Development で発表した内容の概要であり,国立国語研究所プロジェクト「言語の普遍性及び多様性 を司る生得的制約:日本語獲得に基づく理論的研究」の報告書に含まれる杉崎・村杉(2013)の文言 を含んでいる.本稿に掲載することをお許しくださった杉崎鉱司氏に感謝する. また, この機会を借り て,斎藤衛氏をはじめ、南山大学言語学研究センターの関係者の皆様に,心より感謝する. 本研究は,JSPS 科学研究助成費(#26370515)ならびに南山大学パッへ I-A 研究奨励金(2014)にも 援助を受けている.ここに記して感謝する.

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Page 1: WH 疑問文の獲得:国立国語研究所の 20世紀後半の …...2 言語獲得に関する二つの問題 人は,なぜ言語を獲得することができるのだろうか.そして,幼児はいつ,どのように

WH 疑問文の獲得:国立国語研究所の 20 世紀後半の

獲得研究成果から得られる知見*

村杉恵子

1 はじめに

人間は,見知らぬものに出会うとき,それが何であれ,その有り様について尋ねたいと

思考する.その問いは,形式化され,答えが与えられることにより,話者の言語・文化・

社会・世界に関する知識は構築されていく.では幼児はいつ,どのように,そしてなぜ,

母語の疑問文の形式について知るのであろうか.

本稿では,日本語を母語とする幼児の WH 疑問文の獲得について考察する.第 2 節で言

語獲得に関する二つの問題を整理した上で,第 3 節では「人はなぜ WH 疑問文に関する特

徴を(無意識に)知っているのか」という問いについて,幼児の WH 移動に適用される制

約の知識に関する実証的研究を紹介する.第 4 節では,「幼児はどのように言語を獲得する

のか」という問題に関して, 国立国語研究所の 20 世紀後半の研究成果を生成文法の視点か

ら捉え,現代言語理論のもとで再分析を試みたい.第 5 節では, 本節において残された問

題として, 言語獲得の中間段階についての可能な分析を提示し, 第 6 節においてこの論文

を結ぶ.

* 本稿は,2014 年 12 月 6 日・7 日に大阪大学にて開催された国立国語研究所プロジェクト「日本語

疑問文の通時的・対照言語学的研究」の研究発表会において行った同題目の発表に加筆修正したもの

である.また第 5 節は,2014 年 6 月 21 日・22 日に国立国語研究所で行われた同プロジェクト研究発

表会での議論をもとに考察している.プロジェクトリーダーである金水敏氏をはじめ貴重な議論や資

料を分かち合ってくださった研究発表会の参加者の皆様 , そして本稿の編集にあたりご助言をくださ

った志波彩子氏に心より感謝する.

第 2 節から第 4 節は,国立国語研究所プロジェクト「言語の普遍性及び多様性を司る生得的制約:

日本語獲得に基づく理論的研究」で得られた研究成果を一部含んでいる.共に研究を進めた 11 名のプ

ロジェクトメンバーの皆様に心より感謝する.第 3 節は,杉崎鉱司氏との共同研究として 2014 年 11

月 8 日にボストン大学で開催された The 39th Boston University Conference on Language

Development で発表した内容の概要であり,国立国語研究所プロジェクト「言語の普遍性及び多様性

を司る生得的制約:日本語獲得に基づく理論的研究」の報告書に含まれる杉崎・村杉(2013)の文言

を含んでいる.本稿に掲載することをお許しくださった杉崎鉱司氏に感謝する. また, この機会を借り

て,斎藤衛氏をはじめ、南山大学言語学研究センターの関係者の皆様に,心より感謝する.

本研究は,JSPS 科学研究助成費(#26370515)ならびに南山大学パッへ I-A 研究奨励金(2014)にも

援助を受けている.ここに記して感謝する.

Page 2: WH 疑問文の獲得:国立国語研究所の 20世紀後半の …...2 言語獲得に関する二つの問題 人は,なぜ言語を獲得することができるのだろうか.そして,幼児はいつ,どのように

2 言語獲得に関する二つの問題

人は,なぜ言語を獲得することができるのだろうか.そして,幼児はいつ,どのように

母語を獲得するのだろうか.言語獲得理論は,これらの二つの問題に対して答えを与えよ

うとしている.

植物が,その発芽から結実までに一定の順を踏むように,人の言語発達にも一定のプロ

セスが観察される.植物の成長のために,水,空気,適温,日光,肥料などが必要となる

ように,人の言語獲得においても,生活の中で与えられる豊かな言語経験は不可欠である.

しかし,石ころにどれだけ豊かな水,空気,適温,日光,肥料を与えても花が咲かない

ように,言語獲得にもまた,環境から与えられた経験のみによって学習されるとは考えに

くい論理的問題が存在する.

幼児に与えられる入力は,豊かではあるが有限個であり,そこには個人差もある.言語

知識は運用プロセスを経て産出されるがゆえに,現実に与えられる文には,非文もあれば

途切れた文もある.幼児が与えられる言語経験とは,実は,量的にも質的にも限りのある

「不完全」なものなのである.その貧困な刺激を手がかりに,幼児は,生後わずか数年で

母語の文法的な特徴を個人差なくなど質に獲得することができるようになる.

では,人は,なぜ限られた入力をもとに文法知識を得ることができるのだろうか.この

言語獲得に関する問題について,ノーム・チョムスキーは,人の脳には,生まれながらに

種に特有な,言語を獲得するのに適した仕組みが備わっており,それは,言語に共通の普

遍文法として脳に存在すると提案する.言語獲得のプロセスは,概略,(1)に示すように

図式化することができる.

(1)α 語の言語経験→言語獲得装置→α 語の大人の文法

(普遍文法)

これは α 語に関する言語経験が,普遍的な文法を内蔵する言語獲得装置に与えられると,

言語獲得装置(Language Acquisition Device)内のパラメターの設定が行われ,その α 語の

大人の文法ができあがることを示した図式である.Chomsky(1981)による「普遍文法に

対する原理とパラメターのアプローチ」(The Principles and Parameters Approach to the

Universal Grammar)は,普遍文法のモデルの一つである.この理論の下では,普遍文法と

は(2)から成る体系をもつと仮定されている.

(2)a.すべての言語において満たされるべき属性(=原理)

b.言語の可能な異なり方を,複数の選択肢(値)により規定するパラメ

ター

Page 3: WH 疑問文の獲得:国立国語研究所の 20世紀後半の …...2 言語獲得に関する二つの問題 人は,なぜ言語を獲得することができるのだろうか.そして,幼児はいつ,どのように

このモデルは,文法体系が,普遍文法の一部として生物学的に規定された原理と言語間

の違い(言語の多様性)を制限するパラメターから成ると規定する.すなわち言語獲得に

関する論理的問題は,人間が言語を獲得するための青写真を生得的に備えて生まれている

と考えることによって自然に説明される.植物の種子の中に一定の養分があるからこそ発

芽が可能となるように,ノーム・チョムスキーを中心とした生成文法理論の一連の研究は,

言語とは,人間に生まれつき備わった文法知識があるがゆえに獲得されうるとする合理主

義仮説を提案している.

人は,あらゆる言語の話者になりうる普遍的な属性を持って生まれ出ずる.それは生ま

れつき与えられている知識であるから,幼い子どもであっても,早期の段階で普遍的な原

理に関する知識を示すことが予測される.

一方で,現実には,幼児の産出や理解は,大人のそれと同質になるには一定の時間を要

する.その理由は,幼児の認知的な発達に関する要因もあるだろう.たとえば,目の前に

あるものが「何か」を問うほうが,それが「何故そうなのか」を問うよりも早期に獲得さ

れるのは知能の発達と関連するかもしれない.

しかし,言語獲得に時間がかかる要因もまた,文法の仕組みにもあるとする提案がノー

ム・チョムスキーによって提案されている.普遍文法は,言語の異なり方を選択肢の形で

規定する「パラメター」を含む.幼児は,パラメターのもつ複数の可能な値の中から言語

経験と合致する値を選択する.母語獲得とは,幼児がそれぞれのパラメターの値を,言語

経験に基づいて決定していく過程である.その値の選択には,与えられた言語経験との照

合が必要である.そのため,現実の言語獲得は,瞬時的ではなく,時間を要することにな

る.人は,生後わずか5年ほどで母語を獲得するが,それは,母語の特性に関する選択の

過程が終結することを意味する.

このアプローチに基づくと,冒頭に述べた言語獲得に関する二つの問題は,次のように

集約することができる.

(3)a.普遍文法の原則は,いつ幼児の言語知識の一部となるのか

b.言語獲得段階はどのようなもので,その発達に関与する要因は何か

現代言語理論では,普遍文法に関する制約は,生得的能力であると考えられている.また,

幼児の概念の発達や,普遍文法の一部であるパラメターの設定が,言語発達の過程を説明

しうる.第 3 節では,(3a)の問いについて考えてみよう.

3 幼児の普遍文法の知識:WH 移動に関する制約(杉崎・村杉 2013)

人はどの文が非文で,どの文は文法的であるかを無意識に知っている.しかし,大人は,

子どもに,どの文がなぜ非文であるかを明示的に教えることはできない.

Page 4: WH 疑問文の獲得:国立国語研究所の 20世紀後半の …...2 言語獲得に関する二つの問題 人は,なぜ言語を獲得することができるのだろうか.そして,幼児はいつ,どのように

杉崎・村杉(2013)ならびに Sugisaki and Murasugi(2014)は,第 2 節で述べた背景を

基に,WH 疑問文に関する幼児の言語獲得についての実験的研究を行っている.本節では,

そこで述べられている内容を概観し,幼児が,一定の文が非文であることを(誰にも直接

的に教わらずとも)知っていると考えられる可能性について考察する.

英語において WH 要素は,WH で導かれた埋め込み節内から文頭へと移動することはで

きない(Chomsky 1973).この効果を生み出す制約は,一般に WH 制約と称されている.

なお,t は,移動の後に残された痕跡をあらわす.

(4)a.What1 did John say [that May liked t1 ]?

b.*What1 did John wonder [whether Mary liked t1 ]?

埋め込み節が that に導かれている(4a)とは対照的に,(4b)に示したように埋め込み

節が WH 要素である whether で導かれている場合,その埋め込み節内から what が文頭に

移動すると,文は非文となる.親は,なぜ(4a)のような文は文法的で(4b)のような文

が非文法的であるかを幼児に教えることはできない.したがって(4b)を非文とする制約

は,普遍文法の属性を反映したものである可能性が高い.もしそうであるならば,英語を

母語とする幼児の持つ言語知識は,観察しうる最初期からこの制約に従う体系を成してい

ると予測される.

de Villiers, Roeper and Vainikka(1990)は,英語を母語とする 3 歳から 6 歳の幼児が(5a)

のような WH 疑問文を与えられた際,(5b)のように WH 句である how を,埋め込み節内

の paint と結びつけて解釈することはせず,(5c)のように主節の ask と結びつけて解釈す

ることを実験により示した.

(5)a.How did the girl ask who to paint?

b.*How1 did the girl ask [who to paint t1]?

c.How1 did the girl ask [who to paint] t1?

このことから,彼らは,(5b)に示したような間接疑問文からの移動を禁ずる「WH 島

制約」(WH-island constraint)についての知識が,英語を母語とする幼児の文法知識に,

観察しうる早期の段階から存在すると提案している.

興味深いことに,(少なくとも顕在的には)義務的な WH 移動を持たない日本語におい

ても,英語における WH 島制約と同様の効果が観察される(Watanabe 1992).(6)に見ら

れる文法的な差に注目されたい。

(6)a.ジョンは[メアリーが何を買ったと]思っているの?

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b.*ジョンは[メアリーが何を買ったかどうか]知りたがっているの?

(6b)に示すように,WH 句が埋め込まれた節内にあり,その埋め込み節が WH の素性

をもつ要素(「か」)によって導かれている場合,文は非文法的となる.日本語における(6b)

の非文法性が,英語における(5b)の非文法性を生み出す制約と全く同一の制約から導か

れるものであるのか否か,また(6b)にかかわる制約が統語的な制約であるのか否かに関

しては,様々な分析が提案されている.

しかし,先にも述べたように,親は,子どもにどの文が非文かを教えることはできない.

したがって(6b)を非文とする制約は,普遍文法の属性を反映したものである可能性が高

い.もしそうであるならば,日本語を母語とする幼児の持つ言語知識は,英語を母語とす

る幼児の WH 移動に関する制約についての知識と同様に,観察しうる最初期からこの制

約に従う体系を成していると予測される.

(3a)に示した問いへの答えを得るために,杉崎・村杉(2013)ならびに Sugisaki and

Murasugi(2014)では,日本語獲得においても英語の場合と同様に,WH 疑問文に対する

制約が観察しうる最初期から幼児の言語知識に反映されているか否かについて,以下のよ

うな実証的な検証を行っている.Otsu(2007)による先行研究の実験上の問題点を指摘し

た上で,幼児に質問を行う方法(Question after Story)と,幼児に答えの適切さを問う判

断法(Appropriateness Judgment Task)を組み合わせる方法で横断的実験により調査を行っ

ている.(7a)のようなコンテクストをまず幼児に与え,(7b)や(7c)のようなテスト文

への答えに関する知識をその幼児から引き出すことによって,島の制約に関する知識の実

在性を検証している.

(7) a.今日は,おさるさんがゾウさんのおうちに遊びに来ています.テーブルの上

に,おやつのホットケーキと果物があったけど,2 人は一緒に果物を食べるこに

しました.ゾウさんはおさるさんに「何が一番好きなの?」と聞きました.おさ

るさんは「イチゴ!」と答えました.そこへ,ゾウさんのお父さんがお仕事から

帰ってきました.お父さんは,ゾウさんに「何が一番好きなの?」と聞きました.

ゾウさんは,ちょっと恥ずかしかったので,ないしょにしようかなと思いました.

でも,おみやげに電車のおもちゃをもらったので,「ぶどう!」と教えてあげま

した.

b.おさるさんは,何が一番好きとゾウさんに言ったかな?

c.ゾウさんは,何が一番好きかお父さんに言ったかな?

大人の文法において,(7b)への答えは,「いちご」である.これは,埋め込み節を導く

「と」が[-WH]の素性を持つことから,埋め込み節内の「何」が主節の「か」と結びつく

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ことができ,したがってこの文は WH 疑問文として解釈されうると説明されうる.一方,

(7c)への答えは「はい」である.埋め込み節を導く「か」が[+WH]の素性を持つため,

埋め込み節内の WH 要素「何」は,島の制約により主節の「か」と結びつくことができ

ない.そのため,この文は WH 疑問文としてではなく,Yes/No 疑問文として解釈される

と考えられる.

もし,幼児が,(7b)のような文については WH 疑問文として「いちご」と答え,一方,

(7c)のような文について,「はい」で答え,(7c)の答えとして「ぶどう」が適切ではな

いと解釈していると判断される場合,その時の幼児の文法には,大人と同質の島の制約が

実在しないとは言えないとみなすことができる.詳細は,杉崎・村杉(2013)及び Sugisaki and

Murasugi(2014)に譲るが,そこで得られた結論は,3 歳から 4 歳の多くの幼児が,島の

制約に違反することなく,(7c)のような文について,Yes/No 疑問文として解釈する解釈

をしないということである.この結果は,いわゆる島の制約のような普遍文法が生得的に

人間に備わっているとする仮説と矛盾しないことを示している.

4 WH 疑問文はいつどのように獲得されるのか

第 3 節では言語獲得の二つの問題のうち,人はなぜ教えられずとも WH 移動に適用さ

れる制約を知っているのかという問いについて,それが普遍文法の知識であるためである

と考えられる根拠について概観した.人間という種には,生得的な知識の一部として普遍

文法が与えられている.

しかし,実際の母語獲得は,生後,数年を要する.植物にいずれ花が咲くのは,種の中

に在るその植物に特有のプログラムによるものであるが,実際は,種を植えてすぐ花が咲

くわけではない.子葉が退化し,本葉が出て成長し,開花し,そして結実に至るまでの過

程もまた,種にはプログラムされており,その成長には時間がかる.WH 疑問文という形

式にもまた,大人のそれと一致するまでには,一定の発達段階がみられる.以下,第 2

節の(1b)に提示された問題について,20 世紀後半の国立国語研究所の縦断的観察研究

を概観し,現代言語学理論のもとで,その発見について再分析を試みてみたい.

4.1 WH 疑問文の言語獲得段階はどのようなものか

大久保(1975)は,『幼児のことばと知恵』の中で,自身の子どもの縦断的観察的研究

などに基づき,言語獲得の段階を以下のように提案している.なお,カタカナで記された

表現は,日本語を母語とする幼児の発話である.

(8)a.乳児期

(i)ことばの準備期

b.幼児前期

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(ii)一語文の時期(1 歳前後)

(iii)二語文の発生(1 歳半前後)

(iv)第一期語獲得期(2 歳前後)

(v)多語文・従属文の時期(2 歳半前後)

(vi)文章構成期(3 歳前後)

(vii)いちおうの完成期(3 歳から 4 歳)

二語文の発生(1 歳半前後)について,大久保(1975:31)は,「カリフォルニア大学の

スロービンという心理言語学者は,二語文の種類と働きは世界共通だったといいます.そ

して,英語・ドイツ語・ロシア語・その他の言語の例を挙げているのです.」として,否

定に関し,否定辞が英語では no wet,no hungry というように前置され,日本語では,「カ

エロ ナイ」,「オイチイ ナイ」というように後置される一方で,WH 疑問文については,

英語では where ball,日本語では「ドコ アル?」,「コレ ナニ?」といった二種類の語順

がある例が提示されている.現代言語学理論のもとでは主要部パラメターが二語文の段階

で設定される一方で,WH 語は,早期の段階で,母語で可能な語順があらわれることを示

唆している.また大久保の提案する言語獲得の段階は,Stern(1929)が自身の子どもの

縦断的観察に基づき提案する獲得段階とほぼ並行するものである点は,提案された発達段

階が,記述的妥当性を満たしたものであることを示すだろう.1

大久保(1975)によれば,WH 疑問文が頻繁に産出にあらわれるようになるのは,第一

期語獲得期(2 歳前後)である.大久保(1975:33)は「二歳前後の時期には,幼児はもの

(具体的)の名前を知りたがって,しきりに「コエ,ナーニ」と質問をするようになりま

す.そのため,ことばの種類が急にふえてきます.そこで語獲得の第一回目の時期と名付

けたわけです.その他質問が多いので「第一質問期」とも呼んでいます.わたしの被験者

は 1 歳 11 ヶ月から 2 歳がピークでした.」と述べている.

さらに,興味深いことに,大久保(1975)は,この第一期語獲得期(2 歳前後)と同時

期に,助詞を伴う句も産出されるようになることを指摘している.

(9) a.オヤマガデキタ

b.コンドハココ

c.ココニノッタヨ

d.ココニアル

1Stern(1924)は,自身の子ども二名を対象に縦断的観察を行い,幼児の言語が,準備期(生後 2

年:泣き,喃語など),第一期(1 歳から 1 歳半:一語文),第二期(1 歳半から 2 歳:二語文があら

われ,物の名前に関する質問が見られる),第三期(2 歳から 2 歳半:屈折を伴わない発話),そして

第四期(2 歳半以降:従属節の発達がみられる)と発達し,4 歳から 5 歳にかけて文法の主要な部分

は獲得されると提案している.

Page 8: WH 疑問文の獲得:国立国語研究所の 20世紀後半の …...2 言語獲得に関する二つの問題 人は,なぜ言語を獲得することができるのだろうか.そして,幼児はいつ,どのように

e.ココモトケイ

f.オサカナノオメメ

g.ママトパパ(大久保 1975:37)

WH 語が自然発話にあらわれるようになる時期に,格もまた大人と同様の形式を伴って

付与されると言い換えることのできる大久保(1975)の観察は,補文標識(C)に関連す

る要素があらわれる2歳ごろに,少なくとも時制(T)などの機能範疇に関連する要素も

また幼児の産出にあらわれることを示唆している.

また,2 歳ごろまでの間に見られる疑問文の形式の変化の過程について,大久保(1967)

は,『幼児言語の発達』の中で,縦断的観察結果を詳細に記述している.

まず,第一段階として,物の名前を尋ねる際,文末に体言がつき上昇調になる形式があ

らわれる.「これは文末に終助詞「か」がつき,疑問をあらわすかわりに「か」を省略し

て文末が上昇調になる表現形式である」とし,「これは何か」とまだ言えなくて,その意

を一語文で表現しているのである」と述べている.

(10) a.コレ,コレ↑(1;07)

b.コレナーニ↑(1;08)

c.コレナニ↑ コレナニ↑(1;09)(大久保 1967:151)

この観察は,補文標識「か」が音声形式をもって WH 要素と結びつられない段階にお

いて,幼児は,「文(命題)」の端で,発話行為をイントネーションの上昇によって表現す

ることを示唆するだろう.これは,喃語期ならびに一語文期に,末尾の疑問や要求につい

てはピッチを上げ,いわゆる变述については下げるとする Nakatani(2005)ならびに

Murasugi and Nakatani(2005)の発見と共通する.更に,発話行為を音声的に具現化する

Speech Act Phrase が構造的には文の最も高い端にあることから,言語獲得とは,構造的に

下から上へと獲得されるわけではなく,文の上端の要素も,下端にある名詞的要素や動詞

的要素と同様に,早期に獲得されることを示している.

次の段階として,大久保(1967)は,文末に「の」がつき上昇調になる形式「ケンキュ

ウジョイカナイノ↑」(1;11),あるいは文末に「の」「か」以外の助詞がついて,上昇調に

なる形式「モウヒトツハ↑」(1;11)などの「述語省略文」があらわれる段階が続くとされ

る.そして,大人の文法と同様に,WH が「か」と結びついてあらわれるようになるのは,

大久保の資料を見る限り,2 歳を過ぎてからである.

(11)a.モットダシテコヨウカ(2;0)

b.ナニシヨウカ(2;09)

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c.サッキタベマシタカ(2;11)

疑問表現の主な形式と初出年月について,大久保(1967)は表1のようにまとめている.

表1:大久保(1967:167)による疑問表現の主な形式と初出年月

初出の

年・月

一般疑問表現形式 特殊疑問表現形式

1;07 体言文末

1;08 終助詞「ノ」 「ナニ第一期」・「ドコ」

1;10 活用語文末

1;11 「ダレ」「ハ」

2;0 終助詞「カ」・デショ文末

2;01 「ドレ」

2;03 「ドウ」「ドンナ」

2;05 「ドウシテ第一期」

2;06 「ドッチ」

2;07 「ジャナイ」文末

3;0 「ナゼ」

4;0 「イクラ」

4;02 「ナニ第二期」

4;03 「ドウシテ第二期」

4;10 「ドノ」「イツ」

初出の時期と頻出の時期は異なることが多いことから,この表のみからは,それぞれの

項目がその時点で獲得されていると結論することはできない.しかし,少なくともこの表

からは「ナニ」「ドコ」「ダレ」などの WH 要素に関しては早期の初出が認められ,同

時にそれは現代の対照言語学的獲得研究に通ずる観察を含んでいる.

例えば,英語の WH 疑問文は,主語と助動詞の倒置(This is X→What(X)is this?)を

伴うが,項に関する WH 疑問文の主語と助動詞の倒置は,付加詞の WH 疑問のそれより

も早くあらわれることはよく知られている(de Villiers 1991; Erreich 1984; Stromswold 1990

など).日本語においても「何」「誰」などの項や場所を示す擬似付加詞(Quasi-Adjuncts)

を含む WH 疑問文と,「どうして」などの純粋な付加詞(Pure Adjuncts)を含む WH 疑問

文との間には,初出時期において隔たりがある可能性を大久保(1967)から読み取ること

ができる.

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さらに,『幼児言語の発達』においては,「どうして」を含む WH 疑問文の理解が項の

WH 疑問文よりも遅いことが,それぞれの頻出時期の違いからも読み取ることができる.

大久保(1967:162-163)は,幼児(2;02)には,母親からの「どうして」の質問に対して,

その意味が解釈できない,あるいは答えを表現できないためか,怒り出すことがあると記

述している.

(12)『舌切り雀』の絵本を見ながら「舌切られたのねだれに切られたの」と聞くと「オ

バアチャン」,「誰が?」の質問には「コレオバアチャンガ」,「これは何?」と聞く

と「スズメイヤーッテ」,「これ何してるの?」と質問すると「オドリ.」というよ

うに,「誰」と「何」の質問には,受動態や進行相を伴う文ですら答えることがで

きるのに,「どうして?」と尋ねると「チガウワヨ(「どうして」の意味がわからな

いのか,この質問には答えられない)」,「どうして踊ってるの?」と聞くと「チガ

ウワ.バ―カ.(笑)」(「どうして」と聞かれて怒る.)

(12)は,WH の種類をパラダイムにして,幼児の WH 疑問文と付加詞の WH 疑問文

との理解の違いを引き出している例と考えることができよう.

当該の幼児が「どうして」を頻繁に用いるようになるのは,それから 4 ヶ月後の 2 歳 6

ヶ月である.大久保(1967)は,「どうして第一期」として以下のような例を挙げている.

(13) a. ドウシテ買ッタノ↑

b. ママケンキュウジョ行ッテル↑(行ってってきたよ)ドウシテ↑

(お仕事しに)ドウシテ↑

c. ドウシテキラワレルノ↑

d. ドウシテ寝ッコロガッテスルノ↑

e. ママオナカイタイノ↑ オナカドウシテナノ↑ 赤チャンドウシテナイテンノ↑

アカチャンダカラ↑

さらに,続く 4 歳から 6 歳にかけては「どうして第二期」として「ママ,ドウシテ大人

ニナッタノ?(4;03)」「人間ッテドウシテ生キテルノ?」(5;06)など,知識を得るため

の認識的質問が増えるとしている.

さて,これらの記述を(3b)に掲げた現実の言語獲得段階はどのようなものかという問

いに照らして,現代言語学理論の下で整理すると,それは(i)1 歳頃,WH 要素は単独の

語としてイントネーションを伴ってあらわれ,そのとき「か」や「の」は WH 要素と伴

ってあらわれないこと,(ii)項の WH 要素は 2 歳前後に動詞を伴って現れるが,純粋付

加詞の WH 要素は,2 歳後半にあらわれることを示していると言い換えることができる.

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では,なぜ,1 歳頃に発話される WH 要素は,時制を伴った動詞,ならびに「か」や「の」

を伴わないのだろうか.すなわち,なぜ,1 歳頃の幼児の産出には,WH 要素や時制(T)

ならびに補文標識(C)に関わる要素があらわれないのだろうか.次節では,大久保(1967)

の残した縦断的観察記録が,世界の言語の獲得段階に見られる主節不定詞現象の一貫とし

て捉えられることを提案する.

4.2 擬似主節不定詞現象

20 世紀後半,ヨーロッパやアメリカの言語獲得研究において,世界の 2 歳前後の幼児主

節において時制を欠いた動詞を用いることが注目された.主節内で時制を伴わない不定詞

あるいは一致(agreement)を欠く動詞があらわれるという奇妙な特徴が複数の言語の獲得

段階において共通して見られたのである.この種の幼児の「誤用」は,一般に,主節不定

詞現象(Root Infinitive Phenomenon)と呼ばれている.(14)に示すように,フランス語や

オランダ語ではいわゆる不定詞があらわれ,英語ではいわゆる原形があらわれる.

(14)a.Dormir petit bébé.

sleep-INF little baby

„Little baby sleep. ' (Daniel,フランス語:1;11)

b.Earst kleine boekje lezen.

First little book read-INF

„First(I/we)read little book. ' (Hein,オランダ語:2;0)

c.Papa have it. (Eve,英語:1;06)

主節不定詞には意味的に共通する特徴が見られる.それは,非定形動詞が,要求や願望

などのモーダルをあらわしたり(Modal Reference Effects),進行相などの相をあらわした

り(Aspect Effects)するのである.また,一般的に出来事をあらわす(Eventive)動詞が時

制を伴わずにあらわれる(Eventive Constraint).そして主節不定詞は WH 疑問文と共起せ

ず(Crisma‟s Effects),補文標識(Complementizer)に関連する要素や助動詞や主格といっ

た時制に関する機能範疇に関与した要素もあらわれない特徴を伴うことが広くみとめられ

ている.

たとえば,Haegeman(1995)は,オランダ語を母語とする Hein のコーパス(2;04-3;01

を調査し,定形動詞を伴った 3769 の句のうち WH 疑問文は 88 句であるのに対して,非定

形動詞を伴った 721 の句うち WH 疑問文はたった 2 つだけであったことを報告している.

すなわち WH 疑問文があらわれるときは,動詞は定形であり,大人と同様に一定の屈折を

伴うのである.同様の報告は,Kursawe(1994)にもなされている.それによれば,ドイ

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ツ語を母語とする幼児の WH 疑問文 307 文のうち,非定形動詞を含むものはたった 1 つ

(0.3%)であったという.

ここで,4.1 節で紹介した,日本語を母語とする幼児の疑問文が頻出するのは2歳前後

で,その時期は助詞があらわれる時期と重なるとする大久保(1967)の記述を思い出され

たい.この記述は,言い換えれば,2歳前後まで,日本語を母語とする幼児の疑問文の頻

出は認められず,またそのとき格もあらわれないということを示している.すなわち,大

久保の観察は,ヨーロッパの諸言語や英語において,主格のような時制に関する要素や

WH 疑問文が主節不定詞の時期にはあらわれないとする観察内容と共通するのである.

もしそうであるとすれば、では,日本語を母語とする幼児にも,(疑似)主節不定詞を

発話する時期があるのであろうか.言語獲得研究では,空主語(pro)を許さない言語に

おいては主節不定詞現象が存在するが,空主語を許すイタリア語のような言語には主節不

定詞現象は見られないとする説が発表され,当該の言語が空主語言語か否かが,主節不定

詞の有無と強い相関関係を持つとする提案がなされたこともあった(Guasti 1993/1994 な

ど).そして空主語を許す日本語においても主節不定詞現象は存在しないとする仮説(Sano

1995,他)が提案されてきた.また,主節不定詞現象が,すべての言語において観察され

るわけではないとされる時期もあった.

このような提案に対して,南山大学の言語学研究センターを中心とした言語獲得プロジ

ェクトでは,従来の提案とは異なり,どの言語においても,いわゆる主節において時制(素

性)を欠く定形ではない動詞が存在すると提案している.すなわち,すべての言語獲得の

初期段階には,たとえ当該の言語に不定詞そのものの形がなくとも,動詞が時制を欠く現

象が見られるとする提案(Murasugi, Fuji and Hashimoto 2007; 中谷・村杉 2009;

Murasugi,Nakatani and Fuji 2009, 2010; Murasugi and Fuji 2009, 2011; Murasugi and Nakatani

2011 など)である.

たとえば,日本語において主節不定詞に相当するのは,大人の文法において強い命令を

あらわす(例:「さあ,買った,買った」「帰った,帰った」などの)「−た」形(またはオ

ノマトペ)のようである.以下は,野地(1973-1977)によって集められたスミハレの観察

記録を分析したものである.

(15) a.アッチ イッタ(S:1;06)(大人:意志/要求いく/いけ)

b.アッチ アッチ イタ(S:1;06)(大人:意志/要求いく/いけ)

c.シ-シタ(S:1:07)(大人:意志したい)

d.シ-シタ ナー(S:1;07)(大人:意志したい)

e.ババ パイタ(S:1;08)(大人:要求して)

(Murasugi, Fuji and Hashimoto 2007; Murasugi and Fuji 2008, 2009)

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日本語にはいわゆる不定詞という形式が顕在的ではないが,Murasugi, Fuji and

Hashimoto(2007)ならびに Murasugi and Fuji(2009)などでは,(15)に示すような

例は典型的な(擬似)主節不定詞現象を示していると論じている.(15a)は、観察者であ

る父親(野地)によると,幼児をおんぶして出かけ家に戻ろうとしたが,幼児は違う方向

を指し,怒って「あっちいた」と言ったというコンテクストでの発話であるという.した

がって,この発話は「あっちへ行きたい」もしくは「あなたがあっちへ行け」のいずれか

を意図しているものと考えられることから,先に述べた Modal Reference Effects を示す

例といえると分析している.同様に,(15b)では,「あっちに行きたい」,(15c)と(15d)

では「おしっこをしたいという願望や要求をあらわすコンテクストにおいて,この幼児は

「-た」形を用いている.(15e)では,スミハレが芋を持ち,母親にそれについた泤を取る

ように依頼している状況での発話であり,大人の文法では「-て」形が使われるべきところ,

幼児の発話では「-た」形が代わりにあらわれる.

また日本語を母語とする幼児も,「-た」形で進行相をあらわす.これは他の言語に Aspect

Effects として観察される特徴と共通する.

(16)a.ババ ツイタ(1;06)(状態)

(糸が(指に)付いている)

b.シーシタ(1;06)(進行)

((彼女が)おしっこしている)

c.ブー マイマイタ(1;10)(進行)

(飛行機が旋回している)

d.アカチャン ガーゼ オチタ(1;11)(状態)

(あかちゃんのガーゼが(床に)落ちていた)

(Murasugi,Fuji and Hashimoto 2007; Murasugi and Fuji 2008,2009)

(16a)では,幼児は自分の指に糸がついていることを母に知らせるため,また(16b)

では友達がおしっこしているという進行状況をあらわすため,「-ている」形の代わりに「-

た形」を用いている.(16c)では,飛行機が飛び回っているのを見てその回っている様子

を表すオノマトペ「マイマイ」が「-た」を伴っている.(16d)では幼児が赤ちゃんのガ

ーゼが床にあるのを見つけ,それを拾ったという状況であり,大人の文法では「落ちてい

た」となるのが自然であるところを「落ちた」と発話している.

興味深いことに,野地コーパスに基づいて,日本語を母語とする幼児においては「-た」

形であらわれると提案された主節不定詞現象は,中谷友美氏による縦断的観察研究におい

て裏付けられている.日本語を母語とする幼児「ゆうた」の初期の動詞もまた「-た」形で

あり,それらには,やはり(17)に示すように Modal Reference Effects が,また(18)

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に示すよう Aspect Effects が観察されたのである.以下は中谷氏によって観察された事実

である.

(17)a.アイタ(Y:1;07)(願望/要求)

((キャビネットを)あけたい/(キャビネットを)あけて)

b.ハイタ ハイタ(Y:1;07)(意思/要求)

((靴を)はきたい/(靴を)はかせて)

c.ハイッタ ハイッタ(Y:1;07)(意思/要求)

((このノートをカバンに)入れたい/(このノートをカバンに)入れて)

d.トッタ(Y:1;07)(意思/要求)

((石鹸を)とりたい/(石鹸を)とって)(中谷,村杉 2009)

(17)はいずれも,ヨーロッパ言語や英語の主節不定詞で見られる变法を表す効果

(Modal Reference Effects)の典型的な特性を示し,願望,要求,意思などが「-た」形

で表現されている.

また,ほぼ同時期に,ゆうたはスミハレと全く同様に,進行や状態,結果などの相をあ

らわすためにも,「-た」形を用いている.

(18)a.ツイタ(Y:1;03)(状態)

((電気が)ついている)

b.オチタ オチョト オチタ(Y:1;07)(進行)

((僕は)(この人形を)外に落としている)

c.ツイタ(Y:1;06)(状態・結果)

((米が)(手に)付いている)

d.オチタ オチタ(Y:1;07)(状態)

((ビデオのケースが)(床に)落ちている)(中谷・村杉 2009)

中谷氏の観察を紹介しよう.(18a)の「ついた」は,ソファに横たわり電気を見ている

時に発話したもので,1 歳 3 か月という早期に観察されている.氏の観察によれば,「つい

た」は,ゆうたが最も始めに産出した動詞の一つであり,「ついた」に関する動詞活用は,

1 歳 6 か月に「動詞+ちゃった」の形が表れるまで,実に 100%の確率で「-た」形であっ

た.(18b)で,ゆうたは.「人形を外に落としている」という状況で「落ちた」が用いら

れ,(18c)では,ご飯が手に付いている状態を見た幼児が,「ついた」と発話した例であ

る.ご飯が手に付いているのを見た段階では,すでにそのご飯は,そのときまでのしばら

くの間,話者であるゆうたの手についていたことから,この発話は,その時点での状態あ

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るいは結果を意図するものであると分析される.(18d)も同様の例である.これらは先に

述べた Aspect Effects を示す典型的な例であると考えられる.

さらに,これらの擬似主節不定詞が観察される時期には,主格や繋辞,あるいは時を表

す副詞のような T 要素に関連する項目や,疑問文や補文標識のような C 要素に関連する項

目は産出されない.本論で特に関連するところは,WH 疑問文の有無であるが,日本語の

よう WH 要素が(顕在化した形で)移動する必要の言語においても,幼児の初期の段階で

は Crisma’s effect が観察され,時制や C に関する要素(例:補文標識や wh 句)は疑似主

節不定詞である「-た」形と共起しない.詳細は,Murasugi,Fuji and Hashimoto(2007),

Murasugi and Fuji(2009,2011),中谷・村杉(2009),Murasugi,Nakatani and Fuji(2009,

2010),Murasugi and Nakatani(2011)などに譲るが,幼児の発話に動詞を伴う WH-疑問文

や格があらわれるのは,動詞の活用形があらわれはじめる時期,すなわち,疑似主節不定

詞現象が見られなくなってからなのである.

大久保(1969)は「-た」形が1歳代から観察されることは述べているが,それがどの

ような意味で用いられているのかについては詳細な記述がない.したがって,それらが本

稿で述べた疑似主節不定詞に相当するのか否かは厳密にはわからない.しかし,2 歳をす

ぎてから,格や WH 疑問文がほぼ同時期にあらわれることを観察した大久保(1969)の記

述は,それ以前の段階が疑似主節不定詞現象に相当するという提案を裏付けるものである

と言えるだろう.

Murasugi,Nakatani and Fuji(2010)は,主節不定詞の形式には言語によって違いがあり,

その形式にしたがって世界の言語は三つの類型に分類されると提案している.それは,不

定詞があらわれる場合(フランス語,ドイツ語など),動詞の原形があらわれる場合(英語,

スワヒリ語など),代用形があらわれる場合(日本語,韓国語,トルコ語など)の三つであ

る.

世界の言語獲得にみられる事実と特徴をもとに,それぞれの言語を見直したとき,それ

まで目に留めなかった事実と特徴が浮き彫りにされ,また過去になされた記述的一般化が

新たな光を放つ.大久保(1969)の1歳から2歳の幼児の発話に関する記述は,三つの形

式に分類される世界の主節不定詞現象に共通する抽象的特徴に通ずるものであるといえる.

では,なぜ,主節不定詞現象の時期に WH 要素は観察されないのか.Rizzi(1993/1994)

は,この時期の主節不定詞現象を説明するために,幼児言語の特徴として TP 構造よりも

下の位置で切り取ることを可能とする切り取り仮説(truncation hypothesis)を提案してい

る.大人の文構造が CP 構造を持っているのに対し,幼児は,途中までの投射で止まる(切

り取ってしまう)構造を許すという仮説である.この仮説は,主節不定詞現象の観察され

る時期に,C 要素に関する項目や助動詞や主格の T 要素に関する項目があらわれず,また

空主語が多くあらわれる事実も統一的に説明する.

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さらに、この仮説は日本語についても説明力を持つ。1 歳代の幼児の動詞には時制をあ

らわす動詞の活用形は複数あらわれずに、「-た」形のみ産出される段階がある。この時期、

形容詞でも,活用形は一つの形式(現在形あるいは過去形のいずれか)のみがあらわれる。

また、「-た」形と疑問詞(C 要素に関する項目)が共起することもなく,主格(「が」格)

もあらわれない(Murasugi, Fuji and Hashimoto 2007; Murasugi and Fuji 2009; Murasugi,

Nakatani, and Fuji 2010 など).このような(疑似)主節不定詞現象は,Rizzi(1993/1994)

の述べるように,その時期の幼児の文法は時制句の投射のないオプションを許し,一定の

統語構造のまとまり(最近の用語ではフェイズ(phase))で構造を切り取ると考えるのが

一つの可能性である.

もう一つの可能性は,幼児の主節不定詞現象においては,C 投射と T 投射が統合された

範疇であり,それぞれがまだ独立した範疇をなしていないという仮説である.C 投射と T

投射が分離しない形で動詞の上位にあるという仮説は,上記に挙げた主節不定詞の諸特性

を説明するだけではなく,(19)に示すような新たな事実も自然に説明しうる.それはなぜ

か,主節不定詞現象の観察される時期に,独立した C 要素が観察されないにもかかわらず,

CP より上部にあるはずの Speech Act Phrase の要素(イントネーションや,「ね」「な」など

の要素)が、「-た」形と共起して発話されるのかを自然に説明しうるのである.

(19)a.アッチ イタ ナ(S:1;07)(要求,要望)

((お母さんに向かって)あっちに行きたい)

b.ブーワツイタ ネ ネ(S:1;09)(要求,要望)

(ろうそくをつけてほしい)

(擬似)主節不定詞の「-た」形が,文の最末尾(最も高い位置)に「ね」や「な」を伴

ってあらわれるという経験的事実は,後者の仮説が支持される可能性を示唆する

5 残された問題

WH 移動の制約に関する知識は幼児においても観察されるとする研究を紹介した.また

第 4 節においては,WH 疑問文が主節不定詞現象の時期には時制を伴った動詞と共起せず,

発話行為はイントネーションなどであらわされ,また項の WH 疑問文は付加詞のそれより

も早い段階で自然発話にあらわれる可能性が示唆された.

しかし,4.1 節で紹介した大久保(1967)による幼児言語の特徴に関する記述の中で,

なぜ,そのような特徴がみられるのかが説明されないまま残されている事実がある.それ

は,補文標識「か」が自然発話にあらわれる前に,文末に「の」がつき上昇調になる形式

(例:「ケンキュウジョイカナイノ↑」(1;11))が観察されるという経験的事実についてで

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ある.実際,日本語を母語とする幼児の発話において,男女差なく初期の疑問文において

「の」は多用される.それはなぜなのだろうか.

実は,文を名詞化すること,あるいはまた「む」のようなモダリテイ形式を文末につけ

ることによって,疑問をあらわす表現は,納西語や古代日本語にそれぞれ見られることが,

2014 年 6 月 22 日の国立国語研究所プロジェクト「日本語疑問文の通時的・対照言語学的

研究」(PI:金水敏)の研究発表会にて議論されている.

(20)a 他 是否 去 (納西語)

彼は(のだ) 行く(彼はいくのですか)(張,2014)

b.しづ心なく花の散るらむ(古代日本語)(高山,2014)

(19a)は,納西語において名詞化する要素が動詞に前置して疑問文となることを示して

おり,(20b)は,古代疑問文で「か」や「や」とは別に,モダリテイ形式の推量の「む」

が疑問文において用いられていることを示す例である.高山(2014)によると、「む」を用

いる第一種疑問文(観念文)は地の文,心内文,歌に用いられ,モダリテイ形式を用いな

い第二種疑問文(現場型)は会話文や歌に用いられるという.

第1節に概観した生成文法理論の基盤に立つと,幼児の経る中間段階とは,母語の大人

の文法と異なるように見えたとしても,実際は,可能な言語の範囲の中での変異形式であ

ると捉えることができる場合がある.幼児において,補文標識「か」,そして埋め込まれた

構造も獲得していな時期に表現される疑問文は,推量文のような古代日本語タイプの形式

をもつとも考えることもできる.

この幼児の「の」が大人のそれと本質的には変わらない性質をもつとすれば,((擬似)

主節不定詞段階にある)幼児は,命題文(proposition)にイントネーションや「の」を付

けることによって疑問を表現することを示している可能性を示唆するだろう.大人の文法

において,命題文とは,基本的に真偽値の問える文であり,「の」に導かれた文は一般的に

命題文をあらわす.それは,同じ補文標識の一つである「と」とは異なる.「と」で導かれ

た句は,発話あるいはその言い換えであり,真偽値とは無関係である.

これらをふまえると,疑問文の構造には,CP まで投射し「か」のような要素をもつ疑問

文に加えて,「か」で導かれるCPより下の構造位置で刈り取られたモーダル句(Modal Phrase)

のような構造をもつ疑問文があることが予測される.対照言語学と理論言語学,通時的ア

プローチと共時的アプローチが融合するとき,言語には,近代日本語のような CP 疑問文

に加えて,納西語,古代日本語,そして「の」で導かれる日本語を母語とする幼児言語に

見られるような構造をもつ疑問文との二種類のタイプが存在する可能性が示される.

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6 結論に代えて

本稿では,言語獲得に関する二つの問いを掲げ,特に WH 疑問文の獲得について,縦断

的観察研究と横断的実験研究の両面から,その過程と普遍文法に関する考察を提示した.

人はなぜ WH 疑問文に関する統語的特徴を(無意識に)知っているのか.この問いにつ

いては,幼児の WH 移動に適用される制約の知識に関する実証的研究を紹介し,その知識

が普遍文法として生得的であるとする仮説を提示した.

また,幼児はどのように WH 疑問文を獲得するのかという問いについては,20 世紀後半

の国立国語研究所による研究成果を生成文法の視点から捉えなおし,そこで得られた記述

的観察記録が,言語獲得の一時期に多くの言語で見られる主節不定詞現象の特徴をあらわ

していることを示した.

言語発達とは,一見すると,語が学ばれ,徐々に文が作られるようになり,その過程で

文法が習得されるように見えるかもしれない.しかし,本稿で紹介した研究からは,WH

疑問文が産出され始めることが,語を学ぶきっかけとなるという可能性を見出すことがで

きる.文法があるからこそ,語は増えうるのである.この点においても,国立国語研究所

の大久保愛氏の記述的研究は,幼児の言語獲得のプロセスに関して重要な示唆を与えてい

るように思われる.

ノヴァーリスの『断章』の中に「見えるものはすべて,見えないものに触れている.聞

こえるものは,聞こえないものに触れている.感じられるものは,感じられないものに触

れている.おそらく,考えられるものは,考えられないものに触れているだろう.」という

詩がある.世界と自分自身との関係において,人は,自分自身の「見えるもの」「聞こえ

るもの」「感じられるもの」「考えられるもの」を介在にして,知らず識らずのうちに果

てのない未知の世界にも触れている.

見知らぬ世界は,知っている世界に隣接している.自分自身と見知らぬ世界との橋を明

示的に渡す方法のひとつが,言語である.そして WH 疑問文とは,その見知らぬ世界が何

であるのかを直接的に尋ねる手段である.幼児は,生まれ落ちた環境で,自らのもつ能力

を基盤として,日々,未知のものに触れ,見聞きし,感じ,そしてそれについて考える.

言語には人間に与えられた生得的な知識が含まれ,それは見知らぬ世界と知る世界をつな

ぐ道具となる. WH 疑問文とは幼児が確かな意図をもってそれは何であるのかを直接的に

問い,見知らぬ世界を開拓していくための手段の一つであるといえるだろう.

20 世紀の国立国語研究所で進められた WH 疑問文に関する言語獲得研究は,幼児が,自

らの文法知識を用いることによって,語彙を増加させ,見知らぬ世界の一つ一つを自らに

内在化させていく過程を,長く地道な縦断的観察研究に基づいて示しているように思われ

る.

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大久保愛(1975)『幼児のことばと知恵』あゆみ出版.

杉崎鉱司・村杉恵子(2013)「日本語における wh 島制約の獲得:予備的研究」村杉恵子

(編)国立国語研究所共同研究プロジェクト研究成果報告書 2『言語の普遍性及び

多様性を司る生得的制約:日本語獲得に基づく理論的研究』.

高山善行(2014)「疑問文とモダリティの関係をどう捉えるか」国立国語研究所プロジェ

クト「日本語疑問文の通時的・対照言語学的研究」研究発表会.6 月 22 日.

張麟声(2014)「SOV 型言語における文末疑問マーカーの 2 種類の振舞い方について」

国立国語研究所プロジェクト「日本語疑問文の通時的・対照言語学的研究」研究発

表会.6 月 22 日.

中谷友美・村杉恵子(2009)「言語獲得における主節不定詞現象:縦断的観察的研究.」『ア

カデミア』86.南山大学.59-94.