救急外来における...
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TODAY’S LECTURE CONTENTS
• 読影力向上の意義
• 撮像方法あれこれ
• 基本の解剖
→脳表面、脳実質、血管、脳室
• 外因性の頭部病変
→骨折、血腫、脳挫傷、軸索損傷 etc.
• 内因性の頭部病変
→SAH、脳出血、脳梗塞 etc.
• 落とし穴
頭部画像読影力がなぜ必要か• 脳という臓器の重要性
→生死に直結する臓器の一つ
→生命活動、精神活動、運動機能、感覚機能、身体恒常性などを支配
• 中枢神経に起因する症状の多彩さ
→様々な症候の鑑別に挙がる
→日常診療での中枢神経疾患の遭遇率は高い
• t-PA適応拡大(発症4.5h以内)
→発症4.5時間以内であっても治療開始が早いほど良好な転帰が期待できる
→10分以内に初期評価を終え、45分以内に画像検査の読影を終了し、
1時間以内に治療の適応を判定しt-PA療法を行う事が推奨されている
63歳女性が口の周りの痺れ、右目の異常を訴
えて受診
頭部CTで異常認めず帰宅を指示
翌日他院MRIで脳梗塞の診断、手足に後
遺症
適切な問診・検査を怠り帰宅させ、早期
治療の機会を逸したとして前医を提訴
病院側に約2189万円の支払い命令
頭部CTの表現方法
•濃度densityで表現
•比較する対象は正常大脳白質
•脳白質より黒い色調が強い
→低吸収域 low density area
•脳白質とほぼ等しい色調
→等吸収域 iso-density area
•脳白質より白い色調が強い
→高吸収域 high density area
頭部MRIの表現方法
•信号強度 intensity で表現
•比較する対象は正常大脳白質
•脳白質より黒い色調が強い
→低信号域 low intensity area
•脳白質とほぼ等しい色調
→等信号域 iso-intensity area
•脳白質より白い色調が強い
→高信号域 high intensity area
MRIの主な撮像法
T1WI
• 解剖学的構造の確認に強い
• 造影する時の元画像
T2WI
• 水成分が強調される
• 浮腫などの病変の検出に強い
DWI
• 水分子の拡散運動低下を捉える
• 超急性期脳梗塞の検出が可能
ADC-map
• T2を元に構成
• DWI-highの梗塞の確定が可能
FLAIR
• T2の水を抑制した画像
• 脳室周辺・脳表の病変検出に強い
MRA
• 血流信号や位相情報
• 侵襲なく血流評価が可能
CTとMRIの特徴比較
CT MRI
急性期梗塞の描出 Early CT signで評価 DWIにより描出良好
閉塞血管の情報 CTAでは造影剤が必要 MRAでは造影剤不要
脳内出血の診断 描出良好 T2*WIにより描出良好
くも膜下出血の診断
描出良好 FLAIRにより描出良好
ペースメーカー 問題なし MRI対応機器以外不可
所用時間 短時間 CTと比較すると長時間
基本的な読影のコツ
•左右比較が基本
•全体像を見て印象を確認
•脳室変形は必ず見る
•ウインドウ幅を変える
•経時変化をチェックする
•診断に至らずとも異常所見を拾う事が重要
•診断を導くには疫学を意識しながら網羅的に考える
SYLVIAN FISSUREシルビウス裂の同定
• 前頭葉と側頭葉の境に存在する大きな溝がシルビウス裂
• 尾側のスライスから同定し、上方へ追跡すると確認しやすい
• 水頭症ではシルビウス裂の開大が見られる
CENTRAL SULCUS中心溝の同定• 中心溝は最上端に近い断面で同定する
• 帯状溝辺縁枝法
→大脳縦裂を前から後ろへたどり、
最初にぶつかる溝が帯状溝辺縁枝
→その延長線上の脳溝が中心後溝
→中心後溝の1本前の脳溝が中心溝
• 上前頭回法
→大脳縦裂外側の上前頭回を同定
→上前頭回を前から後ろへたどり、
斜め前からぶつかる最初の脳溝が中心溝
• 逆オメガ法
→「Ω」を逆さまにした形の脳溝が中心溝
血管解剖(内頸動脈系)• 前大脳動脈:
anterior cerebral artery(ACA)
• 前交通動脈:
anterior communicating artery(Acom)
• 中大脳動脈:
middle cerebral artery(MCA)
• 内頸動脈:
internal carotid artery(IC)
• 後交通動脈:
posterior communicating artery(Pcom)
• ウィリス動脈輪を形成する
NORMAL VARIANTS• A1低形成
→一側のA1からAcomを介し対側のACAが供給される
• Azygos ACA
→左右の傍脳梁動脈が癒合して1本の共通幹を形成し、その末梢で両側に皮質枝を分岐する
• 片側優位発達
→左右のACAのうち1本に優位発達あり、優位発達側から対側の皮質枝を分岐することもある
• Triple ACA
→左右2本のACAに加えAcomからaccessory ACAが分岐し、ACAが3本あるように見える
血管解剖(椎骨動脈系)• 椎骨動脈:
vertebral artery(VA)
• 脳底動脈:
basilar artery(BA)
• 上小脳動脈:
superior cerebellar artery(SCA)
• 前下小脳動脈:
anterior inferior cerevellar artery(AICA)
• 後下小脳動脈:
posterior inferior cerebellar artery(PICA)
• 主に小脳・脳幹を栄養
頭部外傷の画像診断
• 外傷性変化はCTにより検出できる事が多い
• 軽傷頭部外傷の大半はCTで異常所見を認めない
• 軽傷頭部外傷患者において以下の項目をすべて満たせばCT省略可能とされる
• GCS15点
• 意識消失や健忘がない
• 以下の危険因子がない受傷歴不明、頭蓋骨骨折の兆候、激しい頭痛や嘔吐、
局所神経症状、けいれん、60歳以上の高齢、
高エネルギー外傷、凝固障害、抗血栓薬内服、
アルコール、薬物中毒
頭部外傷の画像診断
• 全体の印象:脳ヘルニア兆候の有無
→ぱっと見で分かるようなmidline shiftや脳底槽の消失がないか?
• 頭皮:受傷部位を確認
→受傷機転や診察所見から判定が困難な場合もある
• 骨:骨折の有無
→受傷部位の骨折、頭蓋底骨折を検索
• 脳表:出血の検索
→硬膜外血腫、硬膜下血腫、くも膜下出血の有無を慎重に検索
→ウインドウ幅を調節すると血腫と骨や血腫と脳が鑑別しやすい
• 脳実質:脳挫傷や脳浮腫の有無
→頭部外傷に先行する脳血管障害などの所見がないかも探す
→直接損傷側の対側も確認する(頭蓋底・大脳鎌周囲も注意!)
直撃損傷と対側損傷
• 直撃損傷(Coup injury)
→頭蓋骨と打撲部位直下の脳が衝突
• 対側損傷(Contrecoup injury)
→外力が伝わった脳実質が
打撲部位反対側の頭蓋骨に衝突
脳挫傷• 外力による脳実質の損傷
• 出血と浮腫性変化が主体
• 頭蓋骨の隆起と接する部分に好発
→前頭葉、側頭葉
• 外傷側に生じるほか、対側にも生じる
• 浮腫を示す低吸収域の中に、出血を示す高吸収域が混在してみられる
→salt and pepper pattern
• 時間とともに出血が明瞭化し、浮腫が拡大して認識しやすくなる
→遅発性に血腫が形成されることもあり、
その場合は受傷直後の意識清明期の後に
時間をおいて意識障害が出現する
急性硬膜外血腫• 頭蓋骨内板と硬膜との間の血腫
→多くが硬膜動脈の損傷が原因
→静脈洞などの破綻により形成されることも
• 頭蓋骨骨折を伴う事が多い(90%)
→外傷側に存在するため
近傍に皮下血腫や骨折が存在
• 境界明瞭な凸レンズ状の高吸収域
• 血腫内部に低吸収域が混在することがある
→swirl sign
→持続性出血に相当
• 基本的に縫合線を超えて広がることはない
• 大脳鎌や小脳テントを超えて広がることがある
急性硬膜下血腫
• 硬膜とくも膜との間に形成される血腫
→架橋静脈の損傷や脳挫傷に伴って生じる
→脳実質の損傷を伴っていることが多く
急性硬膜外血腫より重篤
• 頭蓋骨骨折を伴わないことも多い
→外傷側にも対側にも生じる
• 頭蓋骨内板に沿った三日月型の高吸収域
→慢性硬膜下血腫への再出血や髄液混在があると
低吸収域と高吸収域が混在してみられる
• 縫合線を越えて広がることがある
→硬膜外血腫より広範に広がりうる
• 大脳鎌や小脳テントを超えて広がることはない
脳ヘルニア
• 頭蓋内病変の増大に伴う頭蓋内圧の亢進により脳組織が隣接腔に偏位すること
• 局在により
• 大脳鎌下ヘルニア(帯状回ヘルニア)
• 中心性テント切痕ヘルニア
• 鉤ヘルニア(下行性テント切痕ヘルニア)
• 上行性テント切痕ヘルニア
• 大孔ヘルニア(小脳扁桃ヘルニア)
と分類される
• 局在に応じて、正中構造の偏位、脳幹周囲の脳槽の狭小化、大孔の狭小化などの所見がみられる
DIFFUSE AXONAL INJURYびまん性軸索損傷
• CTの所見が乏しいにもかかわらず、受傷直後より重篤な意識障害が遷延する場合、びまん性軸索損傷を疑ってMRIを施行する
→FLAIRで異常高信号
• 回転性加速/減速による神経繊維の断裂(剪断損傷:shearing injury)であり、血管損傷により微少な出血を伴うこともある
• 受傷機転は交通事故が最多で、頭部が強く揺れた場合に起こりやすい
画像診断可能な頭痛
• くも膜下出血
→突然発症型の病歴、強い痛み、高血圧などあれば疑って頭部CTを
→SAH認めたら十分な降圧後に造影CTで動脈瘤の有無を確認
• 脳出血
→頭部CTでHDAを確認
→出血かどうか判定が難しい場合に頭部MRI(FLAIR)で確認
• 脳・頸動脈解離
→頭部CT所見乏しく、MRAまたは造影CTにて診断可能
→解像度の問題で診断が非常に難しいことがある
• 下垂体卒中
→トルコ鞍部の信号変化をみる
→ホルモン異常などを確認
STROKE脳卒中
虚血性変化
心原性脳塞栓症
アテローム血栓性脳梗塞
ラクナ梗塞
一過性脳虚血発作
その他
出血性変化
脳実質の出血
くも膜下出血
その他
ACVS:Acute Cerebrovascular
Syndrome
}
脳出血
• 脳出血は発症直後からCTで明瞭な高吸収域として描出される
• 経時的に血腫の色は変化していく
• 新鮮血腫は白くうつる
• 好発部位• 被殻 40%
• 視床 30%
• 皮質下 10%
• 小脳 5~10%
• 脳幹 5~10%
高血圧性脳出血の手術適応
手術適応
原則として75歳以下
被殻出血:血腫量が31ml以上でmass effectが強く、JCS:20~100
小脳出血:血腫径が30mm以上で、神経学的に増悪
皮質下出血:脳表からの深さが1cm以下の出血
手術非適応
10mL以下の小出血
昏睡状態、JCS:300
脳幹出血
INFARCTION脳梗塞
• 脳動脈の閉塞、塞栓などを反映し虚血性変化をきたす
• 超急性期脳梗塞ではDWI高信号となるが、他の撮像法では信号変化を認めないこともある
• 急性期梗塞、亜急性期梗塞ではFLAIR像でも高信号となる
• 陳旧性梗塞ではCTで低吸収域として描出される
脳梗塞の臨床病型(基本3型)
ラクナ梗塞
• 穿通枝の脂肪硝子変性などによる脳深部の小梗
塞
アテローム血栓性脳梗塞
• 脳主幹動脈のアテローム硬化による狭窄などが
原因
心原性脳塞栓症
• 心臓内の血栓による脳血管の閉塞が原因
基本3型以外の脳梗塞
悪性腫瘍関連 血管攣縮 その他
非炎症性 赤血球・血小板 凝固・線溶系 Trousseau症候群 片頭痛 経口避妊薬
感染性 非感染性 動脈解離 多血症 DIC 血管内悪性リンパ腫 くも膜下出血 妊娠または周産期
細菌性 原発性血管炎 もやもや病 鎌状赤血球症 プロテインC欠乏症 未破裂動脈瘤 脳静脈
結核性 結節性多発動脈炎 Burger病 血小板増多症 プロテインS欠乏症 薬剤性 静脈洞血栓症
真菌性 側頭動脈炎 脳アミロイドアンギオパチー血小板機能亢進症 アンチトロンビンⅢ欠乏症 子癇 片頭痛
梅毒 高安病 ホモシスチン脳症 TTP プラスミノゲン異常症 ポルフィリア ミトコンドリア脳筋症
ライム病 Wegener肉芽腫 Fabry病 骨髄腫 ネフローゼ症候群 褐色細胞腫
後天性免疫不全症候群 アレルギー性肉芽腫性血管炎 CADASIL マクログロブリン血症 ビタミンK投与 高カルシウム血症
帯状疱疹ウイルス感染後 SLE CARASIL クリオグロブリン血症 悪性腫瘍
抗リン脂質抗体症候群
関節リウマチ
Sjögren症候群
進行性全身性硬化症
血液凝固異常血管性病変
炎症性
BRANCH ATHEROMATOUS DISEASE
BAD• 最初はラクナ梗塞に類似した画像所見を呈し、神経症状も軽い
• 発症後数日にわたって梗塞巣が拡大し、神経症状が増悪する
• 点滴などの保存的治療に抵抗性である
• 糖尿病、高脂血症、肥満などのアテローム硬化の危険因子を持つ患者に多い
• 好発部位は橋、基底核部
• MRIで穿通枝の方向に3スライス以上
またがる梗塞となる
WATERSHED INFARCTION分水嶺梗塞
• 脳の血流低下に伴って、前・中・後大脳動脈などの主要な動脈系の灌流領域の境界部に生じた脳梗塞
• 原因は、心筋梗塞、不整脈などの一時的な急激な血圧低下
• 頚部や頭蓋内の主幹動脈に狭窄や閉塞を伴っていることが多い
PITFALL
• Artifactが読影の妨げになることも
• 石灰化は病的変化か?
• 頭蓋底の骨がHDAに見えることがある
• 静脈洞がHDAに見えることがある
• 急性期脳梗塞かT2-shine-throughか?
• 経時的変化で病変が一時的にisoに見えることも
• DWIに反映されない超急性期梗塞の存在
アーチファクト(ノイズ、虚像)• 体動
→幼児や不随意運動を認める方にみられやすい
• 金属・医療機材
→歯科金属類などがあると一部分にアーチファクトが描出される
• 空気
→頭蓋底や乳突蜂巣など、空気と脳組織が隣接する領域は磁化率アーチファクト
が生じ、画像がゆがんだり点状の高信号が出現したりする
• 画像で捉えた微細な異常信号を梗塞巣とするか否か
→正常画像を見慣れておく
→他の撮像法と対比してみる
→梗塞巣の位置と神経症状が合致するかを考えて判断する
生理的石灰化• 脳実質外
→硬膜(大脳鎌・小脳テント)
→くも膜、くも膜顆粒
→脈絡叢
• 脳実質内
→錐体床突起靱帯
→床突起間靱帯
→松果体、手綱交連
→基底核(特に淡蒼球)
→小脳歯状核
→血管
なんちゃって脳梗塞T2 SHINE THROUGH
• DWIは水分子の拡散運動を画像化したもので、ADC-mapはそれを定量化したもの
• 拡散運動が制限されるパターンとして代表的なもの
→粘稠度が高い
→細胞毒性浮腫が起きている
→細胞密度が高い
• DWIの画像はT2WIがベースにあるため血管性浮腫などで細胞外腔が大きくなりT2延長を起こすとDWI高信号となる(T2 shine through)
• T2 shine throughではADC-mapも高信号となる
→DWIは常にADC-mapとセットで読影
脳梗塞CTの経時的変化
• 発症直後超急性期Hyperdense MCA sign
レンズ核の不明瞭化島回の消失皮髄境界の不明瞭化脳溝の狭小化• 72時間前後急性期ではもっとも梗塞が良く描出脳浮腫もピークを迎える
• 亜急性期(2-4週~2ヶ月)fogging effectで梗塞巣がぼける
• 慢性期梗塞巣は境界明瞭な低吸収域となる
EARLY CT SIGN• hyperdense MCA sign
→発症直後より出現
→中大脳動脈(MCA)内に高吸収構造を認め、同部より末梢も高吸収になる
• レンズ核の不明瞭化
→発症後1~2時間で出現
→レンズ核は穿通枝灌流領域で虚血に対し脆弱なため、より早期から輪郭が不明瞭化
• 皮質-白質境界・島皮質の不明瞭化
→発症後2~3時間で出現
→皮質の吸収値が低下し白質との境界が不明瞭になる
→島皮質は他部位よりも頭蓋骨のアーチファクトが少ないため観察が容易
• 脳溝の消失・脳実質の低信号化
→発症後3時間以降に出現することが多い
→浮腫性変化を反映した所見である
ACUTE STROKE IMAGING STANDARDIZATION GROUP
便利なWEBサイト
• ASIST-Japan:http://asist.umin.jp/training/index.html
• 超急性期脳梗塞のCT&DWI画像の読影練習ができるwebサイト
• 自動答え合わせ機能・経過写真付き
• ASPECTSも勉強できる
MCA EMBOLISM LOCAL FIBRINOLYTIC INTERVENTION TRIAL
便利なWEBサイト• MELT-Japan:
http://melt.umin.ac.jp/MELT_WEB_SWFObj_Final/index.html
• 超急性期脳梗塞のCT画像の読影練習ができるwebサイト
• 自動答え合わせ機能付き
• ASPECTSも勉強できる
TAKE HOME MESSAGES• 病歴・症候・神経学的所見から病態を推測しながらオーダー・読影する
• 頭部病変を疑ったらまずはCT撮影
→3方向(Axial, Coronal, Sagittal)
→簡便かつ短時間で施行可、出血性病変は発症後すぐにCTに表れる!
• 症状があるのにCTで分からなければMRI撮像
→DWI, ADC, FLAIR, MRA, T1, T2
→MRIではより詳細な評価が可能
→Diffusion-high, ADC-lowならば急性期脳梗塞!
• とにかく早急に専門科コンサルトを
→発症時刻、バイタル、意識レベル、既往歴、内服薬(抗血小板剤、抗凝固剤)など
• CTによる経時的評価は重要
→急変予測、手術適応の有無などの評価を