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1 価値とパフォーマンス

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Page 1: 1 価値とパフォーマンス - Nikkan · 2014-09-19 · 「開発はどのような価値を生み出すか」「自社の開発システムがどれだけ良 いか、どうしたらわかるか」「それはどれだけ改善できるか」――。著書

第 1 章

価値とパフォーマンス

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「開発はどのような価値を生み出すか」「自社の開発システムがどれだけ良いか、どうしたらわかるか」「それはどれだけ改善できるか」――。著書

「リーン・シンキング」においてウォマックとジョーンズは価値、つまり顧客が実際に欲しがっていることを探し出し、「バリュー・ストリーム」という価値をつくり出すつながった活動に集中すべきと主張した。

企業は一般的に関心が内向きになり過ぎてしばしば価値を見失い、その代わりとしてムダをつくり出す。その一方で、リーンな企業は非付加価値活動を排除するためにバリュー・ストリームに集中する。

私たちの関心事は、「生産バリュー・ストリーム」と「開発バリュー・ストリーム」という 2 つの中核的バリュー・ストリームにある。生産バリュー・ストリームは原材料を製品に変換し、顧客に手渡す活動が含まれる。それは、高品質な製品を顧客が欲しいときに提供するものである。単なる材料を顧客がお金を支払ってくれる製品へと変えるときに、こうした活動は価値を創造している。一方、開発バリュー・ストリームは新製品の機会を認識する時点(つまり、満たされていない顧客ニーズに気づいた時点)から生産を立ち上げる時点までの活動を含んだものである。

本章の概要を以下に示す。○開発は生産バリュー・ストリームを創造する。開発の主要顧客は生産部

門である。優れた開発システムは常に儲かるバリュー・ストリームを創造する。

○開発は生産システムと利用可能な知識という 2 種類の価値をつくり出す。○開発パフォーマンスはそれが生み出す生産バリュー・ストリームが一貫

して利益を出すかどうか、それが消費する開発資源と利用可能な知識を生み出す速度で測定できる。

○リーンな企業は、これらすべての指標に関して他社より優位にある。リーン企業の開発は他社より優れており、信頼性が高く、安くて速い。

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1儲かる生産バリュー・ストリームをつくり出す

まず、開発とは何を生み出すことか。私がこのように聞くと、開発者たちはさまざまに対立した意見を言い始める(なお、「開発者」とは管理者、技術者、スタイリスト、工業デザイナー、マーケッター、プログラマーやプロジェクトマネジャーを含めた開発プロセスに関わるすべての人を指すと定義する)。ある人は、開発システムは図面や分析を生み出す道具と言う。確かにそうだが、顧客はそれに対して直接お金を支払っているだろうか。そうでなければ、開発は何の役に立っているか。また、別の人は開発が製品を生み出すと指摘する。でも、私たちが買う製品はすべて工場からやってくる(当然、少数の特注製品においては開発と生産バリュー・ストリームは統合されている)。

従来思考型企業の開発がうまく行かないのは無理もない。なぜかというと、彼らは自分が何を開発しようとしているか知らないからだ。

開発バリュー・ストリームは生産バリュー・ストリームを生み出す。生産バリュー・ストリームは、部品メーカーを振り出しに工場から(顧客が欲しがっている)製品の機能へと流れ、やがて顧客へ届く。それは、開発部門が生み出すまで存在しない。図面や解析、試験は、高品質の生産バリュー・ストリームをつくる上では価値がある。そのため、生産部門は開発バリュー・ストリームの主要顧客と言える。開発部門に価値があるのは、それによって生産が社外顧客向けにより良い製品を届けることを可能にする場合だけである。

一般的な製品開発において、製造部門は会社の階層構造の最下位にいる。マーケティング部門が仕様を決め、開発が仕様を満たす製品を設計し、生産技術がその製品のつくり方を考え出して、工場はその生産計画を実行しようと努力する。この一連の活動の参加全部門から、下流部門が要求通りに仕事

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第 1 章 価値とパフォーマンス

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をしていないとの不満の声が聞かれる。

そして、次のような言葉をよく耳にする。「これは良い製品だが、高品質でつくれない」と。いったい何を言っているのか。顧客を満足させずして、どこが良い製品なのか。良い開発バリュー・ストリームは、一貫して儲かる生産バリュー・ストリームをつくるはずだ(図 1–1)。

しかし、「ちょっと待ってくれ」とみなさんは口にする。「それは公平じゃない。たとえば、業界全体が不況だったらどうするか。工場の管理職連中が馬鹿だったらどうするか。すべてを開発部門のせいにはできない」と反論したいのだろう。

まあ、よしとしよう。開発部門を評価するには一貫性に注目すべきである。たとえば、会社は平均的プロジェクトの投資利益率を最も良いプロジェクトの投資利益と比較する。結局のところ、市場と生産部門は一番高い投資利益率を実現できることをみなさんは知っているはずだ。そして、バラツキは開発部門から生まれている。どうせなら業界で最もうまく行ったプロジェクトと、ベンチマークで比較してみたらどうだろう。

本章の後半では、開発を評価する一連の指標を説明している。最初の指標グループはプロジェクトの結果の評価、次のグループは知識価値の創造、そして第三が学習に関するものだ。最後にこれらの多くの指標を 1 つの使いやすく、意味のある複合指標に合成したものとして提案する。

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開発部門にとって生産部門はお客様

開発担当者を中心に必要がある人にはこのように説明してほしい。工場から出てきたモノを顧客が買ってくれるまでは、一銭の儲けにもならない。開発部門は、生産バリュー・ストリームをつくるために存在する。すなわち、生産部門は私たちの顧客のようなものだ。生産も外部の顧客と同様に扱い、彼らが言うことを聞いてサポートすべきだ、と。

Exercise

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第 1 章 価値とパフォーマンス

顧客

部品メーカー

製造製品機能

図 1–1 儲かる生産バリュー・ストリーム

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2プロジェクトの結果

開発を評価する最初の方法は、プロジェクトの結果の評価である。過去の問題を発見するために過去を振り返る方法と、意思決定に使うための将来を予想する方法とを対で紹介する。その指標とは:プロジェクト投資回収率、市場シェア変化、プロジェクト欠陥率とプロジェクト失敗確率だ。

プロジェクト投資利益率投資利益率(ROI)の計算方法は、税金や利息を含めるかどうかによって

何種類に分けられる。そして、次のような簡単な数式が使える。

ROI =  利益−投資     総製品寿命×投資

ここで、条件は以下の通りとする。○利益=(製品寿命全体の販売個数)×(売価-コスト)○コストは製品 1 個当たりの製造、運送、無償保証、販売手数料など○製品寿命はプロジェクト開始から製品販売終了時期までの期間○投資には少なくとも開発と金型コストが含まれている

使われている数字がフォーキャストのものなら、予想 ROI の計算になる。反対に、実績経費や利益を使っていれば実績 ROI の計算になる。当然、より高度な分析結果を得たいなら経費や収入のタイミング、資金コスト、売価やコストの変化などを考慮する。そして、さらに重要なことは製品寿命全体にわたる総売上を予想することは難しいことである。

どのように分析するにせよ、次の 3 つのポイントが重要になる。①開発コストを投資として扱う。②予想 ROI は個人の報酬を決めるためのツールとしてではなく(実績

ROI は開発者の個人評価に使えるほど信頼できる)開発システムを観

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