14 世紀前半フィレンツェにおける商社に対する投資慣...

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14 世紀前半フィレンツェにおける商社に対する投資慣行―accomandigia deposito小川祐樹(東京大学西洋史学科修士課程) 0.修士論文の計画 仮題)「14 世紀前半のフィレンツェにおける商社の活動とその背景」 第一章 商社の活動のいくつかの特徴 一、会社組織 二、取引の在り方 三、都市政治との結び付き 第二章 政治資本 一、イングランド 二、南イタリア 第三章 金融資本 一、資本構成 二、デポジト契約とアコマンディージャ契約 結論 1.導入 (1)14 世紀前半フィレンツェの商社の特異性 a. 永続的な会社組織 ・コンパニーア契約 13 世紀後半にトスカーナ地方に現れる 複数の出資者からの出資→契約終了時に利益を分配 持続的性格:数年の契約期間が終了したのち、同様の契約を結びなおす ex.)ペルッツィ社 13001343 年の間に 6 b. 大規模な人員 ・社員構成 socio(出資社員)②fattore(被雇用社員)③discepolo(見習社員) ・社員の人数 ex.) ペルッツィ社(1335 年時点):socio 22 人、fattore 134 バルディ社(1310-45 年のあいだ):fattore 346 c. 広範な支店網 ヨーロッパ各地に永続的な支店を設置(cf. 11

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14 世紀前半フィレンツェにおける商社に対する投資慣行―accomandigia と

deposito― 小川祐樹(東京大学西洋史学科修士課程)

0.修士論文の計画 仮題)「14 世紀前半のフィレンツェにおける商社の活動とその背景」

序 第一章 商社の活動のいくつかの特徴 一、会社組織 二、取引の在り方 三、都市政治との結び付き 第二章 政治資本 一、イングランド 二、南イタリア 第三章 金融資本 一、資本構成 二、デポジト契約とアコマンディージャ契約 結論

1.導入 (1)14 世紀前半フィレンツェの商社の特異性 a. 永続的な会社組織 ・コンパニーア契約 13 世紀後半にトスカーナ地方に現れる 複数の出資者からの出資→契約終了時に利益を分配 持続的性格:数年の契約期間が終了したのち、同様の契約を結びなおす ex.)ペルッツィ社 1300~1343 年の間に 6 期 b. 大規模な人員 ・社員構成 ①socio(出資社員)②fattore(被雇用社員)③discepolo(見習社員) ・社員の人数 ex.) ペルッツィ社(1335 年時点):socio 22 人、fattore 134 人 バルディ社(1310-45 年のあいだ):fattore 346 人 c. 広範な支店網 ヨーロッパ各地に永続的な支店を設置(cf. 図 1)

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第 3 回合同研究会(2009 年 8 月 28 日)於 東北学院大学 東大西洋史修士課程:小川 祐樹

d. 大規模な資本 非常に大規模な資本を運用 (← 資本の規模、特にエドワード 3 世への貸付額は研究史上の争点) ・資本の規模を示す事例

ex.)結成時資本金:ペルッツィ社(see 表1) バルディ社(1330 年結成時)18,5720fl. アルベルティ社(1340 年結成時)54,000fl.[一次史料⑪] cf.)メディチ銀行(1420 年結成時)27,570fl.[De Roover1963] ―エドワード 3 世への貸付: ・ヴィッラーニの記述 1338 年時点でのエドワード 3 世の負債を 136 万 5 千 fl.と記述

・1337 年の合同貸付(バルディ:ペルッツィ=3:2)約 16 万 fl. ―1311 年のナポリ王国からの穀物輸出量 バルディ・ペルッツィ・アッチャイウォーリ 3 社合計 40 万サルマ =約 240 万fl.1 e. 多様な業務 金融・商業・不動産等、多岐に渡る業務を行う →利益の中心は穀物・羊毛などの低価重量商品取引 ☆その他の特徴 ①会社と家の結びつき(cf. 表2) 多くの場合、社名となる家の出身者が経営の中心 家の資産と会社の資産が混同されることも ②都市内政治との結び付き(cf. 付録1) 有力な商社の家が都市政治を指導する政治家を輩出 →財政・貨幣・対外進出政策で商社の利を図る ・政治権力と商業活動は相互依存的 (2)政治権力への貸付と特権の獲得 王侯や高位聖職者への金融サービス⇔対価としての特権・便宜

a. イングランド ①ルッカのリッカルディ社(エドワード 1 世)

:宮内府への定額支給⇔徴税請負による返済 ②フレスコバルディ社(1307~11 年)

1 輸出量はナポリ王の証書登録簿より[Davidsohn 1901]。価格換算はペゴロッティの『商業

手引』を利用した。[一次史料⑦]

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:リッカルディ形式 ③バルディ社(1310 年代~40 年代) :リッカルディ形式→戦費等貸付⇔羊毛の独占的輸出権 ⇒1330 年代中頃からペルッツィ社がバルディ社に並んで参入 b. ナポリ王国 ナポリ王ロベルトの時代にフィレンツェ商人に独占的穀物輸出権 (cf. ゲルフ党としての政治的連帯) 王への貸付⇔徴税権・輸出許可・港湾管理権 ・バルディ・ペルッツィ・アッチャイウォーリの 3 社のシンジケート

(1330 年代~ブオナッコルシ社が加わる) ☆まとめ:14 世紀前半のフィレンツェには同時代的にも、同都市の前後の時代にも見られ

ないような大規模な商社が活躍していたが、これらの商社の活動のうち利益の中心は低価

重量商品であり大量の取引量が利潤の確保に必要不可欠であった。なおかつ、こうした商

品の取引において利益を出すための特権の獲得には王侯の貨幣需要に応える必要があった

ため多額の貸付を可能にするだけの資本規模を持たねばならなかった。 2.問題の所在 ☆国王たちへの貸付や商業取引に必要な資金をどのように調達したのか? a. ジョヴァンニ・ヴィッラーニ『年代記』の記述

1. accomandigiaとdepositoによってバルディ社・ペルッツィ社がフィレンツェ市民と外

国人から多額の資金を集めていたという記述(史料1:11 巻 88 章)2 2. ナポリ王国における取り付け騒ぎ(史料1:11 巻 138 章) →外国でも出資を募っていた可能性

b. 先行研究の見解 ①Sapori [Sapori 1967] 「市民からの無数の小出資の集合」 →ヴィッラーニの記述からの印象? ②Hunt [Hunt 1994] 経営に必要な資本金を下方修正 第三者からの出資には言及せず 2 ここでの deposito は広い意味での預金を指している可能性がある。

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第 3 回合同研究会(2009 年 8 月 28 日)於 東北学院大学 東大西洋史修士課程:小川 祐樹

c. 方針 経営に必要な資金>結成時の資本金、であったかどうかを確認するのは非常に困難 ⇒経営史料に実際の第三者からの出資の事実を求める 3.史料 a. 帳簿史料の性格 ・前後編形式貸方借方分離式の人名勘定 ・帳簿の三段階: ①日記帳、②元帳、③秘密帳

b. 使用する史料 (cf. 付録2) ①ペルッツィ社の第 6 秘密帳と第 6 資産帳 [一次史料⑨] 1~139 葉右:借方、140 葉左~:貸方(161 葉以降欠損) ⇒ペルッツィ家関係者からの出資と思われる記載 ②アルベルティ社の元帳 [一次史料⑤] ☆1990 年代に新発見された史料 ①81 葉表~249 葉表(1348~50 年の貸方)3

292 葉表~336 葉裏(1348~50 年の借方) ②337 葉表~462 葉表(1352~58 年の貸方)

467 葉表~549 葉裏(1352~58 年の借方) 羊毛取引の元帳 ⇒取引相手の債権中に出資と思われる記載 4.議論 a. deposito ①deposito とは何か ・deposito(羅 depositum)とはイタリア諸都市で見られた契約形態 史料上では多様な実態を表し、研究史上もさまざまに理解されている ・ローマ法における depositum irregulare から発生 ・14 世紀前半のフィレンツェにおいては、商品に対する前払いを指すことが多い →いわゆる「預金」ではない 3 1346~50 年の会社の後半二年分のみ現存

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②史料に見られる deposito ・アルベルティ社元帳における貸方の記入形式

①人名 dé avere ②日付 ③金額 i quali ④取引内容 ⑤転記先

⑥金額

→③と④の間、もしくは④の中に per fare il diposito という記載があるもの 表:Bartolomeo di Caroccio degli Arberti e Comp.の元帳に見られる deposito 契約 借入先 金額(li.s.d.) 貸付日 返済日 帳数 備考

Barttolomeo di

Charoccio

degl'Alberti

36.5 1357/6/18 11/9 534r 商品の

代金

Paghanino di

Marino di Genova 435 1348/4/28 5/31 241r

両替の

代金

Francesco

Rinuccini e

compagni

5.16 1349/4/27 ? 325v(借方)

Bruno di Vanni 141 1352/5/12

libro

bianco

へ転記

349r

gabella di

contratti

の代金

Simone di Vanni 42.8 1361/4/27

libro

bianco

へ転記

371v

社員の

妻のため

の費用

・通算 8 年の間に 5 件のみ ・通説通り代金の前払いとしての契約であると思われる4 ☆商社側から見れば取引に必要な費用を事前に手に入れられるという点で、後に見る

accomandigia と同様ではあるが、非常に件数が少なく、その重要性は不明。少なくと

もアルベルティ社の経営にとってはそれほど重要ではなかったと思われる。 利子率については読み取れない。

4 325v の事例については不明。記載内容は以下。 「当該会社は前述の年の 4 月 27 日、4 分の 1 フィオリーノ金貨を支払った。これは当該会

社について我々がカリマラ・アルテの財務室から引き受けたもので、当該会社が我々に対

してなした deposito の一部である。Bartolomeo が持参した。」 Ànne dato, dì xxvii di febbraio, anno dato, fiorini quarto d’oro i quali avemo per lui dal camarlingho dell’Arte della Lana, d’uno deposito ch’avea fatto per noi, recò Bartolomeo.

lbr.v s.xvi

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b. accomandigia ①accomandigia とは何か ・accomandigia(羅 accomendatio)とはイタリア諸都市で見られた契約形態

commenda 契約とは異なる ・特定の商取引に対する出資。出資額に応じて当該取引の利益の分配を得る (ジェノバ等の事例では一定の利率による支払の場合も見られる) ・トスカーナ地方においては 13 世紀後半のコンパニーア契約による会社組織の発展の前史

として、19 世紀後半の研究史がある (14 世紀前半の商社における accomandigia の具体的研究は見当たらない) ②史料に見られる accomandigia 1. ペルッツィ社の帳簿(see 表) ・第 5 期会社名義の借方において、「far acomandiggia」等を伴って示される取引 ・明らかに accomandigia 契約として出資されたものである ・しかしながら、その配当の支払いは別帳簿(del Tavolo の帳簿と思われる)へと転記さ

れるため、利益配分の方法は不明 ・出資対象の取引の情報はほとんど得られない (通説通り特定の取引への出資と思われる) ・一人あたま 100li 程度の小規模な額 ・女性の出資者はペルッツィ家の親族がほとんど ・件数:第 6 秘密帳人名勘定(費用の項目)の記載のみで 32 件(総額 2,607li) 2. アルベルティ社の帳簿 ・取引先の人名勘定の貸方において、「far accomandigia」等を伴って示される取引 ・取引先の個人・会社の中心人物が出資をした際に記入される →libro bianco(債権債務関係の帳簿?)に転記 ・件数:1348-50 年 21 件(総額 9.507li) 1352-58 年 28 件(総額 12.830li) ③考察 ・ペルッツィ社の事例では小規模な額 ・アルベルティ社の事例では無視できない額 ∵アルベルティ社の 1340-48(?)年の会社の結成時資本 54,000fl.

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5.結論 ・ペルッツィ社・アルベルティ社の会計史料から両社が accomandigia 契約によって第三者

から資金を集めている事例を取り上げた ⇒これらの事例はそれぞれの会社が該当時期に結んだ accomandigia 契約の一部 ただし、史料に現れない契約の金額については幅広い想定 ①史料に現れたような親族・取引先の関係者のみからの出資であった場合 ∵出資を募るにも縁故関係が足がかりになったはず ②その他のフィレンツェ市民、そして外国での出資もあった場合 ∵ヴィッラーニの記述 ☆①の場合であったとしても、アルベルティ社に関しては1万 fl.を超える額が集まってお

り、accomandigia 契約は 14 世紀前半という資本の流動性が低い時代の商社にとって有

用な運転資金の都合先であったと言えるだろう ☆意義 ①銀行等の間接金融の不在⇒資金の融通を商社自ら行わねばならない

=多角的経営と資本の大規模化の背景としての側面 ②(研究史上において、出資社員の投資による資本 corpo と追加投資 sopraccorpo が注目

されていることへの見直し) ☆展望 ・上でみたような商社への直接的な第三者の出資が、銀行が登場する 14 世紀後半にはどう

変化したのか、あるいは、しなかったのか ⇒Melis が示した 14 世紀後半の商社における経営の小規模化・資本の分散・政治権力への

貸付から産業への投資という商社の活動の変化の議論に新たな視点 ☆問題点 ①アルベルティ社は 1340 年代に倒産した大規模な商社とは性格が異なる ②accomandigia 契約、deposito 契約の法的な制度の考察が足りない (裁判史料等はないのか?)

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主要参考文献 一次史料 ①Agnoletti, Anna Maria E., a cura di, Statuto dell'arte della lana di Firenze, 1317-1319, Firenze, 1940.

②Caggese, Romolo, a cura di, Statuti della repubblica fiorentina, 2 vols., Firenze, 1994.

③Compagni, Dino, Cronica, Torino, 1978. ④Filippi, Giovanni, L'arte dei mercanti di calimala in Firenze : ed il suo piú antico statuto, Torino, 1889.

⑤Goldthwaite, R. A., Settesoldi, Enzo, Spallanzoni, A., Due libri mastri degli Alberti; Una grande compagnia di Calimala, Firenze, 1995.

⑥Marri, G. C., a cura di, Statuti dell’arte del cambio di Firenze (1299-1316) con aggiunte e correzioni fino al 1320, Firenze, 1955.

⑦Pegolotti, B. F., ed. Evans, A., La pratica della Mercatura, New York, 1936. ⑧Rymer, Thomas, Foedera, conventiones, litterae, et cujus generis acta publica inter reges Angliae, vol.2, London, 1818.

⑨Sapori, Armando, I libri di commercio dei Peruzzi, Milano, 1934. ⑩-I libri della ragione bancaria dei Gianfigliazzi, Milano 1943. ⑪―I libri degli Alberti del Giudice, Milano 1952. ⑫Villani, G., Cronica di Giovanni Villani : a miglior lezione ridotta coll'aiuto de'testi a penna, Frankhurt, 1969.

二次文献 Bonolis, Guido, La Giurisdizione della Mercanzia in Firenze nel Secolo XIV, Fireze 1901.

Borsari, Silano, Una compagnia di Calimala: Gli Scali (secc. XIII-XIV), Macerata, 1993.

Dahl, Gunner, Trade, trust, and networks : commercial culture in late medieval Italy, Lund 1998.

Davidsohn, Robert, Forschungen zur Geschichte von Florenz, Berlin 1901. De Roover, Raymond, Business, banking, and economic thought in late medieval and early modern Europe, Chicago 1976.

-The Rise and Decline of the Medici Bank 1397-1494, Cambridge 1963. -"The Development of Accounting Prior to Luca Pacioli According to the

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Accountbooks of Medieval Merchants," in, Studies in the History of Accounting, ed. A. C. Littleton nd B. S. Yamey, Homewood, 1956.

-Money, banking and credit in mediaeval Bruges : Italian merchant-bankers lombards and money-changers, a study in the origins of banking, Cambridge, 1948.

English, Edward D., Enterprise and liability in Sienese banking, 1230-1350, Cambridge 1988.

Fryde, E. B., Studies in medieval trade and finance (History series ; v. 13), London, 1983.

Goldthwaite, Richard A., Private Wealth in Renaissance Florence: A Study of Four Families, Baltimore 1968.

-"Local Banking in Renaissance Florence," Journal of European Economic History, 14, 1985.

Gras, N. S. B., “The Growth of the Rigidity in the Late Middle Ages”, American Economic Review, XXX, 1940.

Hoshino, Hidetoshi, “Francesco di Iacopo Del Bene : cittadino fiorentino del trecento : la famiglia e l'economia”, Annuario Istituto Giaponese di Cultura 4, 1966-1967. ―"Nuovi documenti sulla compagnia delli Acciaiuoli di Firenze nel Trecento", Annuario dell'Istituto giapponese di cultura in Roma, 18, 1983.

Hunt, Edwin S., The Medieval Super-Companies : a study of the Peruzzi Company of Florence, Cambridge, 1994.

Lopez, R. S., and Irving, W. Raymond, Medieval Trade in the Mediterranean World Illustrative Documents, New York, 1955.

Melis, Federigo, Aspetti della vita economica medievale (Studi nell'Archivio Datini di Prato), Siena 1962.

Meltzing, Otto, Das Bankhaus der Medici und seine Vorläufer, Jena 1906. Peruzzi, S. L., Storia del commercio e dei banchieri di Firenze in tutto il mondo conosciuto dal 1200 al 1345, Firenze, 1868.

Renouard, Yves, Les relations des papes d'Avignon et des compagnies commerciales et bancaires de 1316 à 1378, Paris, 1941.

Sapori, Armando, La crisi delle compagnie mercantili dei Bardi e dei Peruzzi, Firenze, 1926.

―Studi di storia economica, 3 vols. Firenze, 1967. Usher, Abbott Payson, The early history of deposit banking in Mediterranean Europe, Cambridge 1943.

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Van Egmond, Warren, The commercial revolution and the beginnings of Western mathematics in Renaissance Florence, 1300-1500, Ph.D. diss., Indiana University, 1986.

Yver, Georges, Le commerce et les marchands, dans l'Italie méridionale au XIII[e] & AU XIV[e] siècle, Paris, 1903.

参考資料 史料1:ジョヴァンニ・ヴィッラーニの『年代記』の記述 11 巻 88 章「バルディ社とペルッツィ社の、前述の戦争のための芳しくない状態とフィレンツェ市のすべ

てのことについて」

フランスの王によるイングランドの王への前述の戦争のとき(1338 年)、イングランド王のすべての収

入と羊毛、その他の物はフィレンツェのバルディ社とペルッツィ社の手の中にあった。彼らはすべての彼

(イングランド王)の出費と給与、その他必要なものを提供した。前述の王の出費は増大し、バルディ社

が受け取っていた王の収入と物資を超えていた。戦争から戻った王は、18 万マルク以上を彼らから受け取

り、ペルッツィ社からは 13 万 5 千マルクを受け取った。1 マルクは 4 と 3 分の 1fl.以上の価値であり、こ

れは合わせて 136 万 5 千 fl.以上になる。これは一つの王国に値するほどの金額である。

この金額には以前に前述の王から彼らになされた契約の金額も含まれているが、そうであったとしても、

一人の君主に自分たちと他人のカネをこれほどまでに大量に貸し付けるとは、熱狂的なまでに儲けを手に

入れようとする貪欲と狂気の沙汰と言える。

周知のようにこのカネは大部分がaccomandigiaとdepositoであり、多くの(フィレンツェの)市民と外

国人たちのものである。すぐ後を読めば分かるように、これ(貸付)は彼らと我らの都市にとって大きな

危険である。というのも以下のような結果になったのだ。彼ら(バルディ社とペルッツィ社)はこの件に

ついてイングランドやフィレンツェ、その他の地域の債権者たちへの支払いに応じることができず、すべ

ての信用を失い、倒産した。特にペルッツィ社は彼らのフィレンツェ市内やコンタードの多くの財産や市

政府における強大な権力と地位にもかかわらず倒産を回避できなかったのだ。

そうして、この(資金の)損失とロンバルディアにおける戦争での市政府の多大な出費のためフィレン

ツェの商人と市政府の権勢と地位は大いに損なわれ、商業とすべてのアルテは衰え、後に述べるように、

惨めな境遇に陥った。

倒産したこの二つの商社は二つの柱であったし、順調であった頃にはその権勢によってほぼすべてのキ

リスト教世界の商業を支配し、すべての世界の支えであったと言えるほどで、他の商社は疑われて信用を

得られなかったのだ。

そして、こうした出来事と後に述べるようなその他の出来事のために、我らが都市フィレンツェは大き

な崩壊を迎え、前代未聞の苦境に置かれた。前述の商社の経営の悪化に加え、フランス王がパリと王国の

全土で彼ら(フィレンツェ)の商社の商品を強奪させた。このことと、市政府がロンバルディアとルッカ

での作戦の出費のために市民から多くの資金を徴発したため、信用の欠如によって多くの他の小さな商社

もすぐ後に、後に述べるように、倒産するのである。

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この話題についてはここまでにして、マスティーノ・デッラ・スカーラ Mastino della Scala 殿との戦争

の進行の話に戻ろう。

11 巻 138 章「如何にしてフィレンツェ市民はロベルト王に援助を求める使者を送り、それを受けることが

できなかったか。」

フィレンツェ市民は、このような状況をみて、彼らの使者をナポリに送り、ロベルト王に援助を要請し、

(王の)甥の一人をカピターノとして送ってくれるよう、そして、すでに述べたようにルッカが彼らに返

還された際に、彼の使者が行った契約を順守するようにと頼んだ。この使者たちは大いなる努力と嘆願で

もって交渉を続けたが、ほとんど王の心を動かすことはかなわず、アテネ公を 600 人の傭兵とともに送る

ことを約束させただけであった。この費用の半分は王がもう半分はフィレンツェ政府が支払うことになっ

ていた。これ以上の成果を得ることはできず、この約束は我らの市政府によって承認された。しかし、王

はこの約束も守ろうとはしなかった。この吝嗇、王の徳と偉大さの敵は、どれだけ、王がなしたすべての

善行と名誉を損なったことか!

もしロベルト王が使者を通して我らの都市になした約束を守り、彼の甥の一人を千人の騎士とともに、

半額の費用を支払って、フィレンツェの敵に対して送っていたならば、ミラノやその他のロンバルディア

人の援助を受けたピサ人もルッカの街を攻撃することなどできなかっただろう。…(中略)…我らがコム

ーネを統治する一部の人々は密かに二人の大使をドイツの入り口であるトレントへと派遣した。そこには

バイエルン人(ルートヴィヒ 4 世)がおり、自らを皇帝と称していた。彼は、数人の貴族とともに五百人

の騎士を派遣した。その指揮官はテック公であり、もし、我らのコムーネが彼を強力な権限をもつ代官と

して受け入れるならば、ピサ軍に従軍しているドイツ人は我々の側につくと言った。しかし、彼(テック

公)がやってきたことにより、ロベルト王は疑心を抱き、フィレンツェ市民が皇帝の側、ギベリン派へと

寝返るのではないかと強く恐れるようになった。そして、フィレンツェの商社と商人にカネを預けていた

多くの彼の臣下、高位聖職者やその他の王国の富裕な人々は、このことのために不信を抱くようになり、

支払を求めた。そして、フィレンツェでは信用が破たんし、(フィレンツェの商社が)取引を行っていたす

べての場所でも信用が失われ、このすぐ後に、このことのために、そして市政府の財政難とルッカを失っ

たことのために、フィレンツェの多くの優良な商社が倒産した。倒産したのは以下の商社である。ペルッ

ツィ社、アッチャイウォーリ社、これらは彼らが市政府に持っていた大きな権力のためにその時点では倒

産しなかったが、少し経ってから倒産した。バルディ社は総崩れし、債権者に支払いを行わず、少しして

やはり倒産した。ブオナッコルシ社、コッキCocchi社、アンテレジAntellesi社、ダ・ウッツァノDa Uzzano

社、コルシーニCorsini社、カステッラーニCastellani社、ペロンドーリ社、そして多くの他の個人の商人、

多くの小さな会社が倒産した。これはフィレンツェの商人にとって巨大な損害であり、破滅であった。そ

して、フィレンツェ市民一般にとっては、ルッカでの敗北に続く大きな損害となった。

周知のようにこの商社の倒産によってフィレンツェにはカネが不足し、ほとんど見つけることができな

いほどであった。所有物を売ろうと思ったら、市内では一つ分のカネに対して二つの商品を差し出さねば

ならなかったし、購入者自体見つからなかった。コンタードでは三分の一かもっと低い価値まで下がった。

この題材についてはここまでにして、次はフィレンツェ市民がルッカを開放するために行った大きな戦

闘と、それが成功しなかったということについて記そう。

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第 3 回合同研究会(2009 年 8 月 28 日)於 東北学院大学 東大西洋史修士課程:小川 祐樹

表1:ペルッツィ社各期の資本と利益

期 年度 資本金

(li.)

平均年間

純利益

(li.)

1 1300-08 124,000 23,000

1' 1308-10 130,000 27,300

2 1310-12 149,000 21,800

3 1312-19 118,000 16,500

3 1319-25 118,000 20,300

4 1324-32 60,000 4,000

5 1331-35 90,000 -9,700

6 1335-44 不明 不明

表2:第 5 期ペルッツィ家の資本金内訳

ペルッツィ家 ペルッツィ家以外

氏名 出資額(li.) 氏名 出資額(li.)

Giotto di Arnoldo de' Peruzzi 6,000 Tano di Micchi Baron celli 4,750

Tommaso di Arnoldo de' Peruzzi 6,000 Gherardo di Micchi Baroncelli 4,000

Amideo di Filippo de' Peruzzi 5,000 Catellino di Mangia degl' Infanghati 4,500

Pacino di Guido de' Peruzzi 5,000 Riuggieri di Lottieri Silimanni 4,000

Rinieri di Pacino de' Peruzzi 4,000 Filippo Villani 4,000

Filippo di Pacino de' Peruzzi 4,000 Stefano di Uguccione Bencivenni 4,000

Donato di Pacino de' Peruzzi 3,500 Baldo di Gianni Orlandini 4,000

Donato di Giotto de' Peruzzi 4,000 Geri di Stefano Soderini 4,000

Guccio di Stefano Soderini 4,000

Giovanni di Stefano Soderini 3,750

Francesco Forzetti 4,000

Gherardo di Gentile Buonaccorsi 3,500

Piero di Bernardo Ubaldini 2,500

寄付金

Sengnore Gieso Cristo 1,500

合計 37.500(42%) 52,500(58%)

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表3:ペルッツィ社第 6 秘密帳にみられるaccomandigia契約

名 家名 続柄 性別金額

(li.s.d.) 備考 帳数

Agnoletta Ricomanni A f 54.3 133s

Arnoldo de’

Arnoldo Peruzzi A m 195.16

何 ら か の

羊 毛 取 引

への出資:

出 資 社 員

(1335~)

131d

Bandecca de

Lepre Raugi A f 20

133s

Dionini de'

Govanetto Peruzzi A m 200.17.9

兄 弟 と 出

資 92s

Francesca

de’Guido Soderini A f 49.3

133s

Francesco

de’Lepre Peruzzi A m 80.10.5

92d

Simone de’

Chiaro Peruzzi A m 100

何 ら か の

羊 毛 取 引

への出資

92s

Giovanna

figliuola de' Luigi Peruzzi A f 151.4 132d

Maddalena Cavalcanti A f 151.14.10 遺産から 132d

Mea Soderini A f 102.12 132s

Pacino de'

Benedetto Peruzzi A m 12.19.5

見 習

(1332) 132s

Pera Sassetti A f 42.6 92s

Guido Raugi B m 23.10.9 56s

Nicholo de' Folco Folchi B m 21.12 77d

Salvestro de'

Lottieri Silimanni B m 162

兄 弟 と 出

資 92d

Guido Raugi B m 35.13 102d

Andrea di Lapo

Ugolini Benivieni C m 33.4

81s

Giano Torrigiani C m 52.4.7 79d

13

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第 3 回合同研究会(2009 年 8 月 28 日)於 東北学院大学 東大西洋史修士課程:小川 祐樹

Giorgio di Cino Del Migliore C m 82.12 93s

Gano de Antonio Ardinghelli C m 30.4 102d

Iacopo Benintendi C m 56.9 93d

Lapo Benini C m 62 102d

Lapo di Giovanni Bonaccorsi C m 80.10 94d

Lippo di Neri Leone C m 55.13 80d

Michele di

Bartolo Giannini C m 62

79s

Perotto Boccadibue D m 34.5 100s

Donato di Guido Capperone E m 54.18.4 82d

Filippo di Bino Tinaccio E m 40.12 82d

Guglielmino Fei E m 38.8 82d

Lippo di Tecco Buonaccorsi E m 104.12

何 ら か の

羊 毛 取 引

への出資

133s

Miniato di Lapo Gaville E m 32.9.5 81d

Ruggero di

Tuccio Ferrucci E m 42

82s

続柄 A ペルッツィ家の親族 B ペルッツィ家以外の出資社員の親族 C 現役被雇用社員 D 元被雇用社員 E 不明 →32 名中、A:12 B:4 C:9 D:1 E:6 図 1:ペルッツィ社の支店網(第 6 期)

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付録1:第 4 期代表トンマーゾ・ペルッツィの息子たちの経歴 Bonifazio Pacino Amideo Roberto

1333 年 14 人委員 1329 年、造幣委員 1329 年、ピサへ

の使者

1331 年、第 5 期

被雇用社員

1335 年、20 人委員

1331 年、第 5 期出資

社員、ブリュージュ支

店代表

1332-34 年、プリ

オーレ

1336 年、第 6 期

被雇用社員

1336 年、第 6 期代

1336 年、第 6 期出資

社員

1335 年、造幣委

1340 年、イングラ

ンドにて死亡

1336 年、プリオー

Ridolfo Filippo Rinieri

1331 年、第 5

期被雇用社

1331 年、第 5 期

被雇用社員

1336 年第 6 期

被雇用社員

1336 年、第 6

期被雇用社

1336 年、第 6 期

被雇用社員

1348 年、黒死

病にて死亡

1343 年、イン

グランドで投

獄される

付録2:14 世紀フィレンツェの商社の現存帳簿 ・1274-1310 Gentile de’Sassetti とその息子の元帳(断片) ・1281-97 Lapo Ricomanni の雑記帳(一葉のみ) ・1290-1324 messer Filippo de’Cavalcanti の個人記録(債権債務混合形式・金額欄無) ・1292-93 Filippo Peruzzi e Comp. della Tavola の財産帳 ・1296-1335 Rinieri Fini de’ Benzi の元帳(複式簿記フィレンツェ生成説の根拠) ・1304-32 Alberti del Giudice の財産帳(個人記録から再構成、自己資本への定率支払から

利益配当への変化) ・1308-12 Arnoldo d’Arnoldo de’ Peruzzi の秘密帳

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第 3 回合同研究会(2009 年 8 月 28 日)於 東北学院大学 東大西洋史修士課程:小川 祐樹

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・1308-26 Giotto d’Arnoldo de’ Peruzzi の秘密帳 ・1311-12 Frescobaldi e Comp.イングランド支店の帳簿 ・1318-24 Francesco del Bene e Comp.の P 帳 ・1321-25 Niccholo Gianfigliazzi の黄帳 ・1322-25 Rinuccio di Nello Rinucci の帳簿(元帳?) ・1332-37 Corbizzi e Comp.の朱帳(年次損益計算) ・1335-43 Peruzzi e Comp.の第 6 秘密帳、第 6 資産帳 ・1336-40 Covoni e Comp.の黄帳 ・1348-58 Alberti antiche の元帳 libro di dare e avere(1990 年代に発見された新史料) ・1355-71 Francesco di Iacopo del Bene e Comp.の白帳(1 葉のみ) ・1366-1411 Francesco di Marco Datini の諸帳簿(帳簿だけで 602 冊)