3 構造的失業とミスマッチ -...

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3 構造的失業とミスマッチ 西川正郎 本稿では,1980 年代以降の日本の労働市場における構造的失業とミス マッチに関する動向と研究を概観した.構造的失業がどの程度の水準かにつ いて統一的な証左はない.部門間ショックが男子高齢者失業を増加させ,景 気下降局面で失業を増加させていた可能性がある.労働市場におけるマッチ ング機能については情報の非対称性が作用していることがわかった.景気循 環を超えた労働供給需要面での変化が,マッチング効率の低い制度のもとで はミスマッチを増加させている可能性が考えられる.内部労働市場にとどめ られたミスマッチの生産性への影響や若年労働の非正規化・非就業化という ミスマッチの成長力への影響が懸念される.日本における失業について,ミ スマッチによる構造的失業が増加しているとは断定されないが,マッチング が失業に与える影響について明らかになりつつある.

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Page 1: 3 構造的失業とミスマッチ - ESRI日本のUV曲線を図表3-1に,欠員率として職業安定業務統計における 欠員率4) を横軸に,失業率として労働力調査の雇用失業率5)

3 構造的失業とミスマッチ

西川正郎

要 旨

本稿では,1980 年代以降の日本の労働市場における構造的失業とミスマッチに関する動向と研究を概観した.構造的失業がどの程度の水準かについて統一的な証左はない.部門間ショックが男子高齢者失業を増加させ,景気下降局面で失業を増加させていた可能性がある.労働市場におけるマッチング機能については情報の非対称性が作用していることがわかった.景気循環を超えた労働供給需要面での変化が,マッチング効率の低い制度のもとではミスマッチを増加させている可能性が考えられる.内部労働市場にとどめられたミスマッチの生産性への影響や若年労働の非正規化・非就業化というミスマッチの成長力への影響が懸念される.日本における失業について,ミスマッチによる構造的失業が増加しているとは断定されないが,マッチングが失業に与える影響について明らかになりつつある.

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労働・所得分配分科会の樋口座長をはじめ委員の各位からの中間報告会やご紹介いただいた文献などのご教示なくしては本稿はなかった.労働力調査の部門別統計の使用・作成については,経済社会総合研究所の塩屋公一氏および内閣府(元)計量分析室の浦沢氏からご助力を受けた.同僚各位からも貴重なコメントを頂いた.横浜国立大学小林正人教授には統計手法についてご助言頂いた.記して謝したい.ありうべき誤りおよび意見にわたる部分は筆者に帰す.

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1 はじめに

失業は,その発生する理由によって,分けられることが多い.概念的に分類すれば1),1) マクロ的な景気後退期に労働需要が減退することによって生ずる需要不

足失業,2) 転職者や新たな就業機会を求めて職探しを始めた際に,企業や労働者が

それぞれもつ情報が不完全なことなどによって生じる摩擦的失業,3) 労働市場全体としての需給は一致しているにもかかわらず,求人側の求

める人材と求職者の有する属性との間で条件が一致しないたために生じるミスマッチ失業,とくにそれが固定的な条件で短期的にはミスマッチが解消できないような場合には構造的失業となる,

に分けられる.日本の失業率は,戦後長く 1%台の低位にあったが,高度成長の終わりと

ともに,上昇傾向に入った.円高不況といわれた 1986 年に 2.9%まで高まった後,バブルの発生にともない 1991 年には 2.0%まで低下した.バブルの崩壊後の長引く景気低迷期の間に,2002 年には 5.5%に達した.その後の景気拡大期末の 2007 年央でも 3.6%までしか回復しなかった.失業率の変動は,景気変動にとどまらず,労働市場の供給・需要・調整にかかわる多様な要因によるが,とくに労働市場におけるミスマッチが指摘されるようになった.

70 年代には,二度の原油価格の高騰による相対価格の大幅なショックの

3 構造的失業とミスマッチ 83

1) たとえば,樋口[2001], p. 32.これら 1)-3)の三者を区分することは容易ではない.とくに構造的失業と摩擦的失業の区分は明確でなく,本稿でも以下原則として構造的失業に摩擦的失業を含んで扱う.マクロ経済バランスの観点から,総体としての労働需給が一致しても残る失業として,均衡失業率との用語を用いることもある.概念間の関係については玄田[2004], pp. 290-294.

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もとで,重厚長大から軽薄短小といわれる産業に雇用移動が必要とされた.雇用のミスマッチに関心が高まったのは,80 年代後半に円高にともなって日本経済の構造転換が課題とされた時期である.輸出主導型から内需主導型への経済構造の転換を目指すなかで,構造調整による失業率が上昇しかねないという懸念が生じた.90 年代には,経済のグローバル化,とくに対外直接投資と急速な円高から製造業における空洞化が懸念された.その後,不良債権問題処理が長引き,企業の円滑な退出が停滞した際に,労働力も効率的でない配分が維持され,新たな産業分野での雇用拡大が見られなかった.

2002 年からの緩やかだが長い景気拡大期においては,地域間の格差が問題2) になり,とくに有効求人倍率が景気回復後も 0.7 を超えない 7 道県が残された(橘川[2006]).労働市場の現場では,技術革新の進展,長期雇用慣行の弱まりのもとで,人的資本の技能と企業の要求するそれとの乖離が大きくなったといわれる.また,この間のもっとも顕著な変化は,就業形態の多様化や非正規就業が拡大したことであろう.高度成長期以降の日本経済については,部門を超えた雇用調整圧力の高まりがうかがわれる.

本稿では,こうした経済雇用動向を念頭に置きながら,ミスマッチによる構造的失業を中心に検証する.その際,ミスマッチをどうとらえるか,ミクロ的なミスマッチとマクロ的な景気循環を区別して把握できるのか,そもそもマッチングはどのようにしてなされているのか,ミスマッチの本源的な原因を何に帰するのか,などの課題について説明する.第 2 節では,構造的失業についてのさまざまなアプローチによる研究を概観する.第 3 節では,構造的失業を説明する仮説の 1 つの大きな柱となっている需要の部門間移動仮説(sectoral shifts theory)について,その理論的展開と研究を概観するとともに,地域間の雇用ばらつき指標をもとに検証した.第 4 節では,マクロ的失業・求人の関係を規定する求職・求人のマッチング機能についての実証分析を通じて,情報の非対称性の存在を確認する.第 5 節では,構造的失業をめぐって,労働市場の枠組みやその環境に生じている変化と影響を考察する.第 6 節において,構造的失業についての議論を整理し,今後を展望する.

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2) 景気拡大の最終期と見られる 2007 年の全国の有効求人倍率は,平均 1.04,最大は愛知県 1.95,最小は青森県 0.47 である.0.7 に至らなかったのは,北海道,青森,秋田,高知,長崎,宮崎,鹿児島,沖縄の 8 道県.

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2 労働移動と構造的失業

労働移動と構造的失業の研究を概観すると,構造的失業は UV 分析や自然失業率を用いたフィリップス曲線によれば 2000 年代初頭まで増大していたとの試算もできる.フロー分析は,90 年代の労働移動に産業による制約があったことを示唆する.時系列分析は,ミクロ・ショックによる均衡失業率の増加を支持する傾向がある.求人求職の分布等に基づくミスマッチ指標からは,その拡大は見られず,むしろ 90 年代に縮小傾向が見られる.地域別の雇用情勢のばらつきは 00 年代に拡大している.

2.1 失業欠員分析で見る構造的失業失業と欠員の関係構造的失業について,伝統的な分析手法として UV 分析(失業・欠員分

析)3) がある.労働市場における情報の不完全性や労働者の属性に不均一性がなければ,労働力供給が労働力需要を上回るときは失業だけが存在し,需要が供給を上回るときには欠員だけが存在するはずである.しかし,現実には情報の不完全性や属性に差異があるため,供給超過であっても欠員が,需要超過であっても失業が生じる.失業と欠員の併存関係を 2 次元にプロットしたものが,UV 曲線である.欠員と失業は,右下がりの関係にあり,原点に対して凸であるとされる.UV 分析では,45 度線との交点では失業者数と欠員数が一致しており,労働需要と供給が総体として均衡していると見なす.またミスマッチを悪化させる要因が UV 曲線を外側にシフトさせる.

日本の UV 曲線を図表 3-1 に,欠員率として職業安定業務統計における欠員率4) を横軸に,失業率として労働力調査の雇用失業率5) を縦軸に描いている.1986 年まで景気後退にともなって左上方に移動した後,1990 年まで景気の長期拡大にともない右下方に移動した.1994 年ごろまでバブル崩壊後の生産縮小にともない左上方に移動した後,1997 年の景気の山の時点

3 構造的失業とミスマッチ 85

3) Unemployment と Vacancy の頭文字をとっている.4) 欠員率=(有効求人数−就職件数)/[(有効求人数−求職数)+雇用者数]5) ここでは,自営業や農業分野の影響を除くため,失業者を,雇用者総数と失業者の和で除した,

雇用失業率で示した.

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に向かって右上方に移動している.1999 年ごろには左上方に再び移動し,2002 年からの景気の力強さには欠けたが長期の拡大にともないまた右下に移動している.この間の UV 曲線は,景気循環に沿って左上方と右下方への移動をくり返しながら,同時に経時的に外側にシフトしているように見える.

欠員率に雇用動向調査を用いた図表 3-2 では,UV 曲線の関係が 23 年間にわたって安定的である.この場合,均衡にあるとされる 45 度線との交点では,失業率と欠員率がおよそ 3%程度になっている.

欠員統計の比較職業安定業務統計と雇用動向調査統計の推移を比較した図表 3-3 によれば,

1988 年と 94 年に両者は交差しており,90 年代末以降では,雇用動向調査における欠員率統計が景気にかかわらず低迷している一方,職業安定業務統計ではバブル期を上回るほど大きく上昇している.

職業安定業務統計は,全国の公共職業安定所(ハローワーク)における職業紹介業務の実績を集計した業務統計である.求人状況を把握する指標として,有効求人倍率などに幅広く用いられている.雇用動向調査は,従業員 5名以上の常用雇用労働者を雇用する事業所(農林漁業・公務を含む)からの無作為抽出による 1 万余の事業所を標本とした調査である.労働移動を研究する際のもっとも基礎的な統計の 1 つとなっている.毎年 6 月末現在の「欠員(仕事があるにもかかわらず,その仕事に従事する人がいない状態)を補充するために行っている求人」とされる.両者については,産業別の動向などから雇用動向調査の欠員の性格が変化している可能性が示唆される(藤井

[2008])一方,公共職業安定所の景気循環に逆サイクル的な機能発揮(中村

[2002])や,その他の充足手段の長期的な拡大の指摘(北浦ほか[2003])がある.

UV曲線による構造的失業UV 分析による構造的失業を長期に分析した分析(樋口[2001], p. 35)では,

1984 年から 2000 年までの期間について,需要不足失業率と構造的失業率の2 つに完全失業率を分解している.失業率水準のかなりの部分は構造的失業

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3 構造的失業とミスマッチ 87

欠員率(%)

(年)1984 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06

雇用動向調査欠員率(%)

職業安定業務統計欠員率(%)

0

1

2

3

4

5

6

7

図表 3-3 欠員統計の比較

注) 職業安定業務統計,雇用動向調査により作成.

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

1.8 2.0 2.2 2.4 2.6 2.8 3.0 3.2 3.4 3.6 3.8 4.0

雇用失業率(%)

欠員率(%)

1984年

2007年

2002年

1997年

1986年 1990年1994年

図表 3-1 失業率と欠員率(職業安定業務統計)の推移

注) 職業安定業務統計,労働力調査により作成.

雇用失業率(%)

欠員率(%)

2.02.53.03.54.04.55.05.56.06.57.0

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0

1986年

2006年

2002年

1996年

1993年

1989年

図表 3-2 失業率と欠員率(雇用動向調査)の推移

注) 雇用動向調査,労働力調査により作成.

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によってもたらされており,また,失業率上昇の半分程度は構造的失業率の高まりによると試算された.政府においては,『労働経済白書』(2002, p.

105)などで,ミスマッチによる構造的失業が推計されている.藤井[2008]は,『労働経済白書』の分析を UV 関係がより安定的な時期に延長して推計を行い,シフト要因は特定せずに,長期にわたるシフトを推定した(図表

3-4).ミスマッチ要因で外側に移動することとマクロ的な景気後退で左上に移動することとが,同時に発生しているとした.UV 関係は,各時期に右下がりであり,80 年代以降の多くの時期は需要不足による失業増加があったとされる.

大竹・太田[2002]は,UV 曲線の外側へのシフト要因として,離職率,経営上の都合による離職の割合,高齢失業者の割合,失業者のうち雇用保険受給者の割合,トレンド項を取り上げ,推定している.北浦ほか[2003]では,シフト要因を,職業・産業上の要因,性・年齢要因,雇用保険関係の要因の13 要因6) と広く取り上げ,シフトを検定している.

UV 分析による構造的失業率推計の一覧(図表 3-5)を見ると,2000 年を前後して 3%弱から 4%弱まで幅のある結果と要約される.なお,91 年ごろから実績とともに構造的失業率が上昇していることは共通である.

部門UV曲線によるミスマッチ推計マクロでの UV 分析に対して,年齢によって分割された下位(サブ)の

労働市場を想定した UV 分析を佐々木[2004]は行っている.年齢階級ごとの UV 関係を推定して,年齢階級間のミスマッチが 1980 年から 2001 年の間に UV 曲線をどれほどシフトさせたか推定した.マクロの UV 分析では90 年代後半からの失業率の急上昇の一因として年齢間の雇用ミスマッチの拡大があげられているが,この実証研究では年齢階級間でのミスマッチはむしろ縮小傾向にあり,失業率の上昇は年齢階級間ミスマッチの拡大によるものではないとしている.年齢間だけでなく,地域間のミスマッチにも拡大し

88

6) UV 曲線の外側シフト要因として,第 3 次産業就業者比率,離職率,産業別ミスマッチ指数,産業別の雇用者数の変動,職業別就業者数の変動,高齢者雇用比率,55 歳以上失業者割合,25歳未満失業者割合,女性労働力率,女性失業者割合,パートタイム労働者比率,雇用保険平均需給日数,雇主の社会負担を検定対象にしている.

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3 構造的失業とミスマッチ 89

20032002

20012004

2000

2005

2006

① 1967-75

③ 1990-93

② 1983-89

④ 2001-06

2007

99

98

9796

95

9484

87

888683

1985

8683

85

82 89

90919280

75

76 938179

77

66

65

64

6772

68

6971

70

7473

1985

78

6.5

6.0

5.5

5.0

4.5

4.0

3.5

3.0

2.5

2.0

01.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5

欠員率(%)

(%)

図表 3-4 シフトする UV 曲線

注) 藤井[2008](p. 24)による.失業率は雇用失業率,欠員率は職業安定業務統計による.いずれも季節調整値.

図表 3-5 UV 曲線に基づく構造的失業率

推計年完全失業率(%)

実績 需要不足 構造的大竹・太田[2002] 1999 4.7 1.4 3.2樋口[2001] 2000 4.7 1.26 3.46労働経済白書[2002] 2001 5.0 1.1 3.9藤井[2008] 2001 5.0 1.3 3.5

2006 4.1 0.4 3.8

北浦ほか[2003] 2003 5.0 2 2.92-3.25

注) 藤井[2008](p. 18)および各文献をもとに作成.

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た試みもある(藤井[2008]).

UV分析の限界UV 分析については,1)上記の欠員統計の問題だけでなく,2)UV 曲線関

数の特定化の根拠が明確でないこと,3)そのシフトの特定化がされていないか恣意性があること(大橋・中村[2004], p. 195),4)45 度線の交点は需要不足以外の要因による失業の理論的最大値であって現実の失業とは一致しないこと(玄田[2004], p. 296),あるいは失業率=欠員率となる失業率が均衡失業率になる保証がないこと(太田[2005], p. 76)などが指摘されている(玄田

[2004], pp. 294-296).UV 分析は,そのわかりやすいアプローチから用いられてきたが,現在は UV 曲線の位置・形状を規定する大きな要因であるマッチング関数に焦点がある.

2.2 地域別等からアプローチした雇用のばらつき部門ごとの労働需給がどうなっているか,統計上把握しやすいこともあり,

地域別の需給を分析したアプローチがある.

地域別需給・賃金動向地域ごとの労働需給の推移を全国 10 の地域ブロック別の新規求人倍率ま

たは有効求人倍率の変動係数で見ると(図表 3-6),80 年代末から 2000 年代初めまで一貫して下落傾向にあったが,最近はやや高まりが見られる.完全失業率を労働力人口でウェイトづけした変動係数(図表 3-7)で見ても,近時の上昇傾向を確認できる.

地域の雇用情勢格差についての研究を見ると,1980 年からの 20 年間の地域間の失業率格差については,地域ごとの産業構造の違いや性年齢別の労働力構造の違いによってかなり説明できるとされる(勇上[2005], p. 33).地域の定義を雇用圏に則したものとなるよう,都市雇用圏により失業率統計を作成した周[2005]では,1980 年から 20 年間の失業率の地域間格差は縮小傾向にあり,その格差縮小には地域間の労働参加率の格差縮小が貢献しているとされた.

地域の労働需給を反映する失業率と賃金の格差の動向を見ると(勇上,本

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書第 12 章),バブル期から約 10 年間にわたって格差の縮小が続いた後,2000 年代にはバブル期を凌ぐ,地域間での格差拡大傾向がある.90 年代の縮小には,公共投資による下支え効果とともに,都道府県間の粗移動率は縮小に転じているものの労働移動による需給バランスの調整機能が高まったことがあるとしている.

3 構造的失業とミスマッチ 91

1983 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 03 05 07(年)

変動係数

新規求人倍率 有効求人倍率

0.450.400.350.300.250.200.150.100.050.00

図表 3-6 求人倍率で見た地域ブロック別労働需給のばらつき

注) 職業安定業務統計により作成.変動係数は,労働力人口でウェイトづけした標準偏差を算術平均で除したもので,相対的なばらつきの大きさを示す.

1983 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 03 05 07(年)

地域ブロック別 都道府県別

変動係数

0.30

0.25

0.20

0.15

0.10

0.05

0.00

図表 3-7 失業率で見た地域ブロック・県別労働需給のばらつき

注) 労働力調査により作成.変動係数は,労働力人口でウェイトづけした標準偏差を算術平均で除したもので,相対的なばらつきの大きさを示す.地域ブロックは,部門間移動仮説の検定に用いた雇用者の地域別と同じ.

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地域間移動地域間の労働需給にばらつきがあるもとで,どのように労働移動が生じて

いるか,雇用動向調査における,地域ブロックないし都道府県の外から当該地域ブロックないし都道府県内で職を得た者の,当該地域で職を得た者全体に対する割合を見ると(図表 3-8),80 年から長期的には下落傾向にあり,勇上[2005]とあわせて見ると,直接的な転職行動というより産業構造の変化などが地域間格差を縮小した可能性がある.2000 年代初めにはやはり高まりが見られる.

時系列統計では,地域別の労働需給のばらつき度合いと地域外からの入職割合には相関があるように見える.しかし,これをクロスセクションで観察して見ると,需給の逼迫度と,移動との関係に明確な関係が認められない.有効求人倍率と県内雇用者に占める県内移動者の比率を 2002 年と 2006 年について見ると(図表 3-9),いずれの年でも明確な関係がない.『経済財政白書』(2006, p. 242)でも,都道府県別失業率と住民人口の転出入の移動状況を比較しているが,2002 年と 2005 年のいずれにおいても明確な関係がないとしている.

産業の入職・離職産業ごとの入職・離職の動向を見ると(図表 3-10),90 年代初頭から 2003

年ごろまで,サービス業ではほぼ一貫して入職率と離職率が一致して変動している,つまり増減員していないのに対し,製造業ではとくに 2000 年前後を中心に離職率が入職率を大きく上回っており,失業増加の要因となっていたと見られる.この産業別の雇用増減の失業やミスマッチへの影響についてはフロー分析や部門間移動仮説で検討されている.

一時点の産業間ないし職業間の移動状況については,最近の就業構造基本調査によって把握できる.同調査による産業間移動・産業内移動を比較すると,産業をまたいで転職した場合の方が,賃金が下落しやすくまた離職期間も長くなる傾向がある(『労働経済白書』2002, pp. 222-227).

2.3 構造的失業や均衡失業率の分析構造的失業に接近するその他の手法としては,失業プールをめぐる移動状

92

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3 構造的失業とミスマッチ 93

0

5

10

15

20

25

1983 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 03 05(年)

流入率(%)

地域ブロック外 県外

図表 3-8 地域ブロック外・県外からの移動入職者割合

注) 雇用動向調査により作成.移動入職者割合=(他地域ブロックないし他県からの入職者数/入職者数).

0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.000.00

5.00

10.00

15.00

20.00

25.00

0.00 0.50 1.00 1.50 2.000.00

5.00

10.00

15.00

20.00

25.00

30.00

35.00

有効求人倍率 有効求人倍率

県内雇用者に占める県内移動者の比

2002年 2006年

図表 3-9 有効求人倍率と県内入職/雇用者比率

注) 職業安定業務統計,雇用動向調査,毎月勤労統計調査により作成.

1983 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 03 05(年)

入職率・離職率(%)

0

5

10

15

20

25

入職率産業計入職率製造業入職率サービス業

離職率産業計離職率製造業離職率サービス業

図表 3-10 入職率・離職率(産業別)

注) 雇用動向調査により作成.

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況をミクロデータを用いて詳細に点検するフロー分析,均衡失業率を時系列分析の手法でマクロ統計から計測するアプローチ,自然失業率を入れたフィリップス曲線の計測,ミスマッチ指標の計測がある.

失業をめぐるフロー分析就業・失業間のフロー分析の枠組みにおいて労働力調査個票7) をもとに

部門間移動の分析を行い,マッチングやミスマッチの態様を見ると,産業を超えて移動することの困難さがうかがえ,結果として産業内移動が多くなっている.

1988-99 年のフロー分析を行った阿部[2005](pp. 27-62)では,1990 年代の失業率変動を産業特性の観点から見て,1)建設業,製造業,サービス業の失業プールへの参入確率の悪化がマクロ失業率の悪化に大きく影響している.また,雇用者シェアが伸びている産業では同一産業内で転職する者が多い一方で離職確率が高く,雇用者シェアの縮小している産業では離職確率が低くて産業間移動を余儀なくされている,2)失業プールにおける混雑効果が失業率の変動を大きく規定している,3)混雑効果が強く影響する理由は,失業者が同一産業内で職探しをするためであり,産業間移動が難しいからである,4)1990 年代末期には,低学歴者,無業者,パートタイマーといったグループのインフロー確率に改善が見られるが,技術進歩との関係は不明としている.

産業間の移動状況を,労働力調査特別調査男子の個票を用いた Abe andOhta[2001]は,1988 年と 1999 年の間の失業のプールをめぐるフローの労働力の移動を分析した.失業プールへの流出入,産業ごとの寄与,産業をまたいだ移動,プロビット関数を用いた産業分断の効果などを分析した結果,1)この間の失業率の上昇には建設業が大きく寄与している.90 年代後半には失業はサービス産業から主に発生している,2)転職の多くは同一産業内で起きており,各産業の状況が当該産業からの失業確率や当該産業への再就職確率に大きく影響する.労働市場の産業ごとの分割がどう規定されているかを

94

7) 労働力調査特別調査の時系列的制約から,大産業分類が用いられており,阿部[2005]は 10 産業,Abe and Ohta[2001]は 7 産業の分類である.いずれも,製造業,サービス業(狭義)が 1 つの産業とされている.

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今後の検討課題としている.この研究は,現実に発生した「失業変動にとって,産業間の再配分よりも,

産業内の労働再配分が,量的に重要であることを示唆する」(太田・玄田・照

山[2008], p. 10)と評価できる.一方,事前の調整については,「概して労働者が失業プールに陥る確率が大きい産業ほど求人は減少している」(太田

[2005])とセクター固有のショックが示唆され,「そのような産業から生じた失業者は,全体の求人率が低下するだけでなく当該産業の求人率が低下した場合にも,失業期間が長期化しがちになる.というのも失業を経験した労働者でも前に属していた産業にもどることが多いからである」(同上)と,部門間移動の困難さがうかがわれる.「これらの結果は,産業別労働市場が存在しており,それが個々人の失業期間ひいては失業率に影響している可能性を示唆している」(同上)研究であり,阿部[2005]と同旨である.失業の因果関係を見るには産業間移動の困難度(失業期間)や態様などさらなる検証が必要である.

月次データが使用可能な労働力調査の個票を用いた研究(太田・照山

[2003])では,90 年代の失業率上昇の背景としては,失業への流入確率の上昇と流出確率の低下の双方がある,年齢等の属性にかかわらず失業への流入確率が上昇している,男性が失業する確率の産業間・規模間格差が拡大していることがあげられている.ここでの分析だけでは,ミスマッチによる失業が増加しているかどうか判断しがたく,詳細な労働者属性による推移の分析や創出喪失分析との関係の検討を必要としている.

産業を超えた移動が困難な背景には,高い転職コスト,とくに転職による賃金低下がある.産業間の転職による賃金への影響について,1985-92 年の転職時の賃金変化を雇用動向調査入職票を用いて検定した(阿部[2005], pp.

63-79)結果では,転職者が産業間を移動する場合には産業内で移動するよりも賃金の低下は大きく,産業特殊的人的資本の損失が見られるとしている.一方,転職の実態を雇用動向調査の個票(1991-2002 年)を用いて各年ごとの転職から賃金下落率の低い転職例の属性を計測した Bognanno・神林[2006]では,それまで日本に特徴的だった企業規模・産業をまたぐ高い転職コストが時系列的に減少しつつあるが,職種間では増加傾向が見られるとしている.また,この間,高齢の男子ほど転職コストは増加している.

3 構造的失業とミスマッチ 95

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時系列データによる均衡失業率失業や雇用の変動要因を,構造に先験的な制約が小さい時系列分析の手法

に基づいた研究が 90 年代に進んだ.そこでは,ミクロ的な構造についての直接的な知見は用いずミクロ分析との補完が必要になる.宮川・玄田・出島[1994]は,集計マッチング関数(AMF: Aggregate Matching Function)を想定し就職動向の決定要因を分析している.同関数モデルのもとで,競争的な労働市場で需給が一致しているような想定,つまり供給(求人)関数または需要(求職)関数のいずれの変動も新規就職数を決める要因となっている想定と,労働需要の大きさが就職数を決定して割り当て現象が生じているような想定のいずれが,より現実のデータよりよく説明するか,共和分検定により検証した.この結果,就職者数と求人数が 1 つの共通の確率トレンドに従う(共和分関係にある)ことが確認され,就職動向は長期的には労働需要側の要因のみにより規定されるとの示唆を得た.また,誤差修正 VAR モデルにより,集計マッチング関数を推定した結果では,常用労働者の就職者数の均衡からの乖離は 1 年程度で調整されることや,短期的には失業者数(つまり職がなく求職している者)や転職希望者数(在職しながら求職している者)が,就職者数動向に逆方向に影響を与えている効果が得られた.

失業率とマクロ産出量の 2 変数構造 VAR モデルをもって,マクロデータからミクロ的な影響を抽出した分析として,照山・戸田[1997]がある.ここでは,部門間再配分の摩擦によるショックをミクロ的なショックと見なし,ミクロ的なショックは本来的にマクロでは中立的な影響しか与えない,失業率や生産量には恒常的変動部分と一時的な変動部分があると仮定している.産出量が一定であっても均衡失業率が恒常的変動部分をもっており,生産量にかかわらず均衡失業率が一定でなかった可能性を確認している.均衡失業率の変動要因として,マクロ的ショックと,ミクロ的な再配分ショックの両者がともに影響しているが,後者の影響が大きいとしている.一時的な失業率変動についても,両者が影響を与えていることや現実の失業率変動は均衡失業率の変動による部分が大きいことを確認している.このように失業率変動に再配分ショックが相当程度影響を与えていることを示唆している.このモデルでは,部門横断的な影響を与えると見なされるミクロ・ショック(たとえば石油危機のような大幅な相対価格変化や,ICT 技術による生産性の

96

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広範な急速改善)について,摩擦的移動の要因を除くと,マクロ的ショックによってとらえられていると考えられる.

構造的なショックを,景気循環,部門間,労働供給,合理化の 4 類型で想定し,より最近時の 2001 年まで,構造 VAR モデルで失業率の変動要因を分析した鎌田・真木[2003]では,90 年代後半以降の失業率の高止まりを,負の景気循環ショック,正の部門間移動のショック,正の合理化ショックといった,複数の要因による結果であるとしている.

フィリップス曲線と構造的失業フィリップス曲線を賃金変化率 - 失業率平面に描くと,1970 年代・80 年

代の 20 年間と,90 年代の 10 年間では,長期的な関係が大きく変わり,フィリップス曲線の傾きがゆるやかになったように見える.しかし,これはフィリップス曲線がフラットになったというより,自然失業率が右にシフトしたものと推定されている(大竹・太田[2002]).具体的には,先の UV 曲線によって推定した構造的失業率と需要不足失業率をフィリップス曲線に導入した場合の各種の推計結果の良好度を比較して,構造的失業率が自然失業率

(インフレ率がゼロのときの失業率)にかなり近いものであるとの推測を確認している.

自然失業率の考え方を取り入れたフィリップス曲線について,デフレーションや低インフレーションのもとでは,賃金の下方硬直性により短期的だけでなく長期的にも総需要を減少させ,フィリップス曲線が非線型の L 字型になるとの指摘がある(Akerlof et al.[1996]).このモデルに基づく分析

(北浦ほか[2003])では,90 年代の日本のデフレーションが,柔軟な日本の労働市場における賃金調整能力を上回っており,通常の垂直な自然失業率曲線が右シフトしたと考えるより,長期の非線型フィリップスカーブに沿った動きと解釈した方が適切としている.

他方,バブル崩壊後に,日本のフィリップス曲線が大きくフラット化した原因として,名目賃金の下方硬直性の顕現化を指摘している分析(山本,本

書第 2 章)がある.賃金硬直性以外に就業意欲喪失効果が働いているとしている.実質摩擦増加の背景としてマッチング効率の低下を取り上げ考察しているが,それが 90 年代以降の日本の実質摩擦の増大要因と断定はできない

3 構造的失業とミスマッチ 97

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としている.

ミスマッチ指標UV 曲線のシフトを表す指標を陽表的に計測する分析は,Jackman and

Roper[1987]の指標8) を中心として行われている9).『労働経済白書』(2002,

pp. 108-112),大橋[2006]などの先行研究や他の指標を踏まえて,太田・玄田・照山[2008](pp. 6-9)では,包括的に再推計を行い,「地域間・年齢階層間・職業間のミスマッチの程度は,いずれも,90 年代以降の失業率の急上昇期に,拡大の傾向を示すことなく,逆に多くの場合には,縮小傾向にあることが示される」,「ミスマッチの指標の先行研究が示した結果が,近年まで延長したデータによっても再確認できた」としている.

3 部門間移動仮説と人的資本の特殊性

3.1 部門間移動の理論と実証1980 年代のリアル・ビジネス・サイクル理論の一環として,需要の部門

間移動(sectoral shifts across sectors)から生じるミスマッチによる失業の存在やその規模に注目が高まった.構造的失業率10) の実証的な基礎を検証した Lilien[1982a, b]とそれをめぐる議論(Abraham and Katz[1986]など)がある.

Lilien の仮説と反論Lilien の仮説を要約すると,雇用へのショックは,部門により異なる部門

間ショックと,経済全体に同時に作用するマクロ・ショックがある.部門間移動に際して労働者は失業のプールを一定期間経るから,より大きな部門間ショックはより大きな構造的・摩擦的な失業を発生する.部門間ショックは,部門ごとの雇用需要の伸び率のウェイトづけの標準偏差 σ11) で説明される,

98

8) このミスマッチ指標は,部門間の求人と求職の分布の違いを見るもの,具体的には,各セクターの求職者総数に占める割合と求人者総数に占める割合の差の絶対値の総和に 2 分の 1 を乗じて算出している.

9) ミスマッチ指標は,部門分割の程度によって影響される.10) Lilien は,摩擦的ないし自然失業率と呼んだ.

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というものである.オリジナルの Lilien[1982a]の研究では,戦後の米国失業率推移のかなりの部分,とくに 70 年代の 2%ポイントの上昇のほとんどが部門間移動により説明されるとされた.自然失業率をめぐるミルトン・フリードマンの主張に,具体的に需要不足ではない失業の量について裏づけを与えたとされたため,大きく注目された.

これに対し,Abraham and Katz[1986]では,産業間の労働需要の伸び率のばらつきを表す σ は,マクロ・ショックとも正の相関をとりうることを示し,混濁した contaminated 指標であることを明らかにした.各部門の雇用者数の伸び率に差異が生じるのは,部門特有のミクロ・ショックに影響されるだけではなく,各部門においてマクロ・ショックへの感応度に差が存在したり,あるいは各部門のトレンド成長率に差があるからである.

Abraham and Katz[1986]は,同時に部門間ショックとマクロ・ショックは区別されることを認め,むしろ欠員情報を活用して区別することを提言した.σ がマクロ・ショックをとらえた指標か部門間ショックをとらえた指標かを区別するために,σ が失業率と正の相関があっても,1)もし σ がマクロ・ショック指標であれば,UV 曲線に沿った移動であるはずで,欠員率と負の相関があるはずであり,2)もし σ が部門間ショックをとらえた指標であれば,UV の外へシフトがもたらされているはずで,欠員率と正の相関があるはずとした.

この反論を嚆矢に,需要の部門間仮説については,その指標の拡張を中心にさまざまな研究が展開されてきた.米国では,「セクトラルシフト仮説では,部門間移動が失業の 25-40%を説明していると推計している.ただ,時期によればより顕著に説明しているかもしれない.たとえば,1973 年の石油危機から生じている部門間移動は,73 年から 75 年の 3.5%ポイントの失業率上昇の 6 割を説明しているかもしれない」(Brainerd and Cutler[1993])

との紹介が教科書(Borjas[1999], p. 492)でなされている.

ばらつき指標の拡張Lilien の提唱したばらつき指標を拡張した主な研究は以下である.

3 構造的失業とミスマッチ 99

11) 以下,ばらつき指標と呼ぶ.

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純化指標(purged index) Lilien[1982b],Neelin[1987]12),Samson[1990],Mills et al.[1995]らは,ばらつき指標からマクロ変数の影響を除去する方向で拡張した.マクロ・ショックを期待されない金融政策および期待された金融政策13) としてとらえ,σ をマクロ・ショックで説明される部分とそれ以外に分割した.具体的には,各部門の雇用伸び率の平均からの乖離のうち,マクロ・ショック(期待されない貨幣増加率と期待された貨幣増加率)で説明しきれない残差によって標準偏差を作成し,純化されたばらつき指標purged dispersion index としている14).水平指標(horizontal Index) 当該期以前の雇用調整方向との関係でどれほ

ど雇用調整が高まっているかを勘案してばらつきを計測する方法(Davis

[1987])が提唱された.ある部門で雇用調整をしているときに,さらにその部門の雇用に不利なミクロ・ショックがあれば,必要な再配分量を増し構造的摩擦的な失業を増やすが,有利なミクロ・ショックであれば,雇用調整量を縮減し構造的摩擦的な失業を抑制するだろうという観点に基づいている.当期の伸び率と j 期(3-6 四半期程度)前の伸び率をもって標準偏差を計算した.この場合,j 期前と同じ方向の当期の変化(同符号)がばらつきを増すことになる.景気局面効果指標(Stage-of-Business-Cycle effect index) 水平指標の発想

をさらに進め,マクロの景気局面による部門への効果の非対称性に着目した指標である(Mills et al.[1995], pp. 295,300-301).ミクロ・ショックは,不況期には部門の雇用調整について拡大的に作用する一方,好況期には部門の雇用調整を抑制するという非対称性が予想される.マクロ指標のトレンドからの下方乖離を 1 それ以外は零とした景気局面ダミーを作成し,σ との交差項を用いる15).さらに全体の雇用調整の方向と同一でそれを上回った雇用調

100

12) Neelin(カナダ)や Samson(先進 8 カ国)についての研究を除けば,先行研究は米国について集中している.

13) 基本的には,バロー型(Barro[1977])の誘導型の貨幣増加関数を,政策決定関数の議論,あるいは単位根検定や共和分検定(Johansen[1988])などを用いて,期待されない貨幣増加率と期待された貨幣増加率を推定する(Nishikawa[1989],Mills et al.[1995]および坂田[2003]など).

14) これに対し Lilien がもともと提唱した指標を生のばらつき指標(raw dispersion index)と呼ぶことがある.

15) ミクロのマッチング行動から考えると,景気拡大期には失業の機会費用が高まり失業のプールにとどまる期間が短くなる傾向があり,逆に景気後退にはとどまる期間が長くなる傾向があると推測されることと整合的である.

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整をもってばらつきを計測する方法(Groshen and Potter[2003])などの提言がある.相対価格ショック指標 部門間ショックの原初的な要因が特定できるよう

な場合には,そうした要因を直接取り込むというアプローチである.交易条件の変化などが考えられるが,米国については,Loungani [1986],Hamilton[1983]が原油価格の相対価格変化を直接失業率の推定に取り込んでいる.要素市場情報によるばらつきの把握 要素市場の他の情報をもって,ばらつ

きの情報を補足するアプローチである.Loungani et al.[1990]や Brainardand Cutler[1993]では,金融面とくに株式市場における株価のばらつきをもって部門ごとのショックのばらつきを計測した.日本においては,これまで直接金融市場のウェイトが小さかったことや株式持ち合いがあったとことなども16) あり,この方向の研究は乏しい.

労働市場については,雇用者数のシェアのトレンドを用いて,トレンドからの乖離の程度をもって,恒久的シェアと一時的シェアに分解し,恒久的シェアの変動が失業率を説明する力が高いとの研究がある(Neumann and

Topel[1991],Rissman[1986]).同様に資本ストックの伸び率の業種間乖離度を使用した研究(Toledo and Marquis[1993])がある.

3.2 日本における部門間移動仮説の検証日本における先行研究日本についても,Brunello[1990]は,1970 年から 1988・89 年までの,9

または 12 産業分類・四半期データによるオリジナルの Lilien の指標を用いて検証した.その結果部門間の生のばらつき指標は失業動向を説明しないとして,その理由に新卒採用における調整と出向転籍をあげた.

Lilien の指標に対するさまざまな批判を踏まえ,オリジナルの部門間指標だけでなく,マクロ・ショックの影響を除去した純化された指標,水平指標,

3 構造的失業とミスマッチ 101

16) 産業部門ごとの融資額伸びのばらつきは,追い貸しとされる貸出行動に見られるように部門間ショックに「逆行」した動きを大きく含んだ「混濁」した部門間ばららつき指標と見なされる.才田・関根[2001]では,こうした指標をむしろ資金市場における配分機能低下の証左として用いている.日本の銀行が自己資本比率規制対応のために,不健全な企業への貸出をバブル崩壊後に続け,いわゆる「ゾンビ企業」が創出されたことが指摘されている(Cabellero et al.[2006]).

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原油の相対価格変化を代表する指標などを用いて,1968 年から 1987 年までの労働力調査の月次の 16 産業別雇用者の伸び率をもとに,部門間移動の仮説を総合的に検定した結果(Nishikawa[1989])では,この間の日本の失業率のゆるやかな上昇について,需要の部門間移動仮説は棄却された.仮説が棄却された背景には,労働時間を中心とした雇用調整,労働参加率と雇用の相関の高さ,失業給付が限定的であること,産業政策による産業支援,あるいは,転籍・出向などの長期雇用を可能にする制度的な要因を指摘した.

Prasad[1997]では,雇用者数の業種ごとのシェアを,一時的要素と恒久的要素に分解し,恒久的要素の業種間乖離を労働の再配分にかかるショックの指標と見なして,生のばらつき指標と,水平的指標を算出した.この結果,90 年代については労働再配分ショックが拡大したことはないとしている.

藤田[1998]では,事前の需要情報として,日本では長期にわたり利用可能な職業安定業務統計における求人統計を用いた.90 年代の業種別シェアをHP フイルター(Hodrick and Prescott[1997])を用いて一時的要素と恒久的要素に分解した.恒久的要素の変動ウェイトの増大や恒久的要素の業種間乖離の拡大を確認した.また,労働再配分ショック,失業率,実質 GDP からなる構造 VAR モデルによれば,労働再配分ショックが他の 2 変数へ中長期的な指標性をもっていること,歴史的要因分解をすると 90 年代前半の失業率上昇や景気低迷には労働再配分ショックが大きな役割を果たしていたとしている.

岡村[2005]では,地域別の失業率動向とばらつき指標について検定している.京阪神圏,南関東圏の各都府県におけるばらつき指標を 1970-2002 年の雇用動向調査から作成する際に,Lilien の生のばらつき指標だけでなく,産業間・地域間をまたいだ移動の難易度が反映されるばらつき指標を,カルマンフィルターによる移動コストで難易度を計測することにより算出している.各圏域17) の失業率の 1 階の自己回帰モデルに,当期の各種ばらつき指標を取り込み検定した結果,一部の地域では生のばらつき指標が有意であるが,ほとんどのケースで生のばらつき指標は有意ではなく,移動の難易度を表すばらつき指標が有意であった.ミスマッチをもたらす移動コストやその時系

102

17) 県別の失業率はないため京阪神圏,首都圏の失業率を用いている.

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列的変化が失業に影響している可能性が示唆される.

人的資本蓄積と部門間移動仮説需要の部門間移動仮説を,単位根検定と多変量時系列モデルにより本格的

に検証した最近の研究は,Sakata[2002]および坂田[2003]である.ばらつき指標は,労働力調査における産業 13 分類の雇用者数から生のおよび純化された指標と,景気局面効果指標を用いた.日本において支持されない傾向があった部門間移動仮説について,失業グループに分けることなどにより,支持する研究となった.Sakata[2002]で,男女別の分析(1975-99 年)を行い,長期的関係はないものの,部門間ショックは男性失業率に短期的影響を与えるが,女性には短期的にも与えないとの結果を得た.さらに坂田[2003]では,若年者(15-24 歳層)と高齢層(55-64 歳層)の失業率についても検定し,長期的な各グループの失業率の動向と,部門間移動のばらつきの指標との間にはやはり関係が見出されなかった.しかし,短期的には男子高齢層に関しては部門間移動のショックが失業率を高めるという結果になった.また,内閣府が景気動向指数研究会の議論を踏まえ設定しているマクロ経済全体の景気循環日付18) に従って景気局面効果指標を用い,不況においては,失業全体やどちらの層にも部門間移動のショックが与える影響の高まりが見られた.こうした結果は,人的資本の特殊性が高い男子高齢層には部門間ショックが有意に働くことや,不況期においては部門間ショックが高まると結論している.

地域別ばらつき指標による部門間仮説の検証産業別の Lilien 仮説についてはすでに坂田の先行研究があり19),2000 年

代には地域別雇用情勢の格差拡大が観察された.筆者は,地域別のばらつき指標を用いて,部門間移動仮説を 1980 年代半ばから 2007 年の期間について検証した.被説明変数には,人的資本の特殊性との関係から,全体の失業率だけでなく,男子高齢者など 5 種類のグループの失業率を用いた.説明変数

3 構造的失業とミスマッチ 103

18) 2009 年 3 月 1 日 http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di_ken.html19) 2000 年代の景気拡大と地域間雇用の格差拡大が見られる時期まで産業のばらつき指標を延長

するには,2002 年と 03 年の間の産業分類改訂をまたいだ整合的な時系列データが必要である.

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には,1)生のばらつき指標とマクロ・ショックの影響を除いて純化されたばらつき指標,2)ばらつき指標に景気局面による非対称性を加味した景気局面効果指標(労働市場の景気局面効果指標を独自に作成),3)国際的なショックをとらえる輸入比率を用いた20)21).

労働力調査22) における 10 の各地域の雇用者数 e から,地域別のばらつき指標を作成した.Lilien の生のばらつき指標 σ は全国の雇用者数を E として下記のとおりになる.

σ= ∑

e

E ⋅Δlog (e)−Δlog (E)

純化されたばらつき指標を作成するマクロ・ショックを取り出すため,先行研究と同様に,貨幣増加関数を作成した.変数としては,貨幣供給 m,実質産出量 y,長期金利 r,物価上昇率 p23) を取り上げ,各変数について,単位根検定を行ったところいずれも I ⑴の変数であった.ヨハンセン検定を行ったところ,共和分関係が少なくとも 1 つあることがわかった.モデルの次数については,AIC(赤池情報量基準)により,ラグ次数 2 とした.この結果,図表 3-11 にあるような 2 期前までのラグをもつ誤差修正モデルを推計した24).この推定された貨幣増加関数の残差を,期待されない貨幣増加率 DMR とし,推定された伸び率を期待された貨幣増加率 DME とした.DMR は I 0,DME は I ⑴である.

各地域別雇用者の伸び率を,マクロ・ショックである期待されない貨幣増加率と期待された貨幣増加率に回帰させた残差を e とすると,純化されたばらつき指標は,

104

20) 実際には,後述するように輸入比率と失業率との階差 VAR モデルを推定している.21) 金利を除きすべて季節調整した,四半期値を用いた.22) 労働力調査では 10 地域別の結果を 1983 年から公表している.北海道,東北,南関東,北関

東・甲信,北陸,東海,近畿,中国,四国,九州・沖縄に分割されている.道州制などの議論に見られるように,各地域が経済圏としてある程度 1 つの圏域となっているといえる.

23) M2+CD(実額季節調整値を平均値を指数化して対数変換),実質 GDP(2000 年基準季節調整値実額指数化を対数変換),長期利子率(国債 10 年物四半期平均,%),消費者物価上昇率

(季節調整指数化対数変換前期差,%)である.24) ecm は,貨幣量に,産出量,長期金利,物価変化率を回帰した残差であり,この 4 変数の長

期均衡関係からの乖離を表している.

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s= ∑

e

E e

と定義される.σ も s も,どちらも明確に I 0である.いずれも,2000 年代に限って見ると上昇傾向がうかがえる(図表 3-12)25).

景気局面効果には,景気下降局面で 1,上昇局面で零とした景気局面ダミー変数を用い,それと σ または s との積をもって景気局面効果指標とした.坂田[2003]と同様にして,内閣府の景気基準日付に基づくマクロ景気局面ダミー変数 BM との積で,マクロ景気局面効果指標 BM ⋅σBM ⋅s を作成した.

しかし,景気局面効果は,本来労働市場における雇用調整を中心とした景気局面に基づくと考えられる.日本のバブル崩壊後の労働市場は長く「氷河期」とされる厳しい状況にあり,経済全体の在庫循環も含めた景気循環判断

3 構造的失業とミスマッチ 105

25) σ,s について,失業率全体との相関係数はいずれも−0.15 であり,欠員率(職業安定業務統計査四半期)との相関係数はそれぞれ 0.17,0.13 と正である.

図表 3-11 貨幣増加関数

貨幣増加関数(誤差修正モデル)Δm

係 数 t 統計量定数項 0.002 2.826*Δm 0.625 6.443*Δm 0.114 1.248Δy 0.117 2.203*Δy −0.010 0.186Δr 0.054 0.543Δr −0.078 0.807ΔP −0.331 2.539*ΔP −0.278 3.024*ecm −0.005決定係数 0.827自由度修正済決定係数 0.811残差自乗和 0.002方程式標準誤差 0.004赤池情報量基準 −8.124シュバルツ情報量基準 −7.875サンプルサイズ 108推計期間 1981Q1 2007Q4共和分方程式 ecm=m−1.577y+27.5r−115.4p−0.361

注) 有意水準 5%で有意な係数に*を付した.

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とは必ずしも一致しないと見られる26).このため,労働市場における景気局面区分を新たに作成した.労働関係の指標(図表 3-13.1 および 2),新卒の就職率(図表 3-24, pp. 124-125)27) を見ると,1992 年から 2003 年までが労働市場の長期低迷期であり,雇用人員減が継続的にあった時期である.1998年を境に雇用調整方法が大きく変化したとの指摘もあることから,1992-97年を長期低迷期前半,1998-2003 年を長期低迷後半とすることもできる.1987-1991 年を通じて労働市場では,バブル期と見る28) ことが可能である.1983 年から 1986 年までをバブルの前という意味でバブル前期29) とする.2003 年からは新規の雇用破壊が止まるが新規の雇用創出に乏しい弱い回復期であった.各期を,マクロ経済・労働市場の代表的指標とともに図示した

(図表 3-14).バブル前期 1983-1986 年および長期低迷期 1992-2002 年を 1 と

106

26) 雇用者数の調整にかかわる指標は,マクロの景気循環指標のなかで主に遅行指標とされている.

27) コアの常用雇用の大きな部分を成す新規大卒者の就業率で見ても,人口減少が見込まれるにもかかわらず,1991 年 81.3%をピークとして,2003 年の 55.1%まで長期に一貫して下落していた.

28) バブルの山は 1991 年の 2 月に付け,1991 年はマクロの景気循環では景気後退期とされるが,1991 年全体としては,労働市場は引き続きタイトであったこと,景気の量感の高さとしてその後の景気後退期の谷よりは低かった.

29) 1985 年 6 月を山とすると景気拡大期は,短くまた山が低かったことから,1986 年 11 月の谷までを,景気が緩慢な時期と見なされる.

1980 1985 1990 1995 2000 (年)20050.002

0.004

0.006

0.008

0.010

0.012

0.014

0.016

0.018

PURGSGM SGM

図表 3-12 ばらつき指標と純化されたばらつき指標

注) SGM;(生の)ばらつき指標,PURGSGM;純化されたばらつき指標.

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して,バブル期 1987-1991 年および拡大期 2003-2007 年を零とした労働市場景気局面ダミー BL を作成した.それと σ または s の指標との積をもって労働市場景気局面効果指標 BL⋅σBL⋅s とした.

失業率については,全国の失業率を,男女計 UT,男子 UMT,女子 UFT,それらに加えて,坂田[2003]での結果や高い失業率水準から,男子若年

(15-24 歳層)UMYT と男子高年(55-64 歳層)UMST の五種類を取り上げた(図表 3-15).これらの変数は,推計においては Wallis[1987]の提案に従い,ロジット変換して用いた30).いずれの失業率も I ⑴である.

失業率を,部門間移動仮説の先行研究と同じく,バロー型の自己回帰モデルを用いて,推定した.外生変数は,ばらつきの指標(σ または s),期待されない金融政策,期待された金融政策およびそれらのラグ変数である.失業率を短期的に変動させる変数として輸入比率を取り上げた31)32)輸入比率と失業率は,各 I ⑴でありかつ共和分関係にないため,階差 VAR モデルを推定した.ラグ次数は,赤池情報量基準により 4 とした.5 種類の失業率について,ばらつきの指標の 2 種類(σ または s)のいずれかと組み合わせた場合,それらにそれぞれにマクロ景気局面効果指標(BM ⋅σBM ⋅s)または労働市場局面効果指標(BL⋅σBL⋅s)を加えた場合の,30 ケースを同じ推定式を用い推計した33).たとえば,生のばらつき指標にマクロ景気局面効果指標を加え,推計した失業率関数は以下の形になる.

ΔUT =constant+ ∑

α ΔUT+ ∑

β ΔIMP+ ∑

γσ

+ ∑

δ BM σ+ ∑

η DMR+ ∑

ϕ DME+u

ばらつきの指標や景気局面効果指標の係数を取り出し比較した.ばらつきの指標(σ または s)だけと組み合わせた推計結果(図表 3-16,3-17)では,男

3 構造的失業とミスマッチ 107

30) ロジット変換した方が,対数変換より推定量が望ましい.31) 輸入比率は,国民経済計算における輸入等の国内総生産に対する比率.32) 坂田,Mills とも,運転資本との代替の関係で短期金利を取り入れていた.短期金利は,ここ

での推定期間の後半ではほぼ零近傍に張りついてしまっており失業率との関係が歪んでいること,短期金利が I 0に転じていること,共和分関係をとると符号が予想と反対になることから,取り入れなかった.

33) 標本数は 95,推計期間は 1984Q2-2007Q4.

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108

図表 3-13.1 労働市場の推移――マクロ・供給・需要

年CI 指数一致指数

鉱工業生産指数

国内総生産対前年増減 率

(実質)

消費者物価対前年増減率

労働力人口実数

(就業者÷15 歳以 上 人口)の比率

完全失業率

有効求人倍率

新規求人倍率

2005年=100 2000年=100 % % (千人) % %1983 77.0 70.7 1.6 1.9 58,890 62.1 2.6 0.6 0.91984 82.6 77.4 3.1 2.3 59,270 61.7 2.7 0.7 1.01985 84.0 80.2 5.1 2.0 59,630 61.4 2.6 0.7 1.01986 80.8 80.0 3.0 0.6 60,200 61.1 2.8 0.6 0.91987 84.0 82.7 3.8 0.1 60,840 60.8 2.8 0.7 1.11988 93.1 90.7 6.8 0.7 61,660 61.0 2.5 1.0 1.51989 98.6 96.0 5.3 2.3 62,700 61.4 2.3 1.3 1.91990 102.2 99.9 5.2 3.1 63,840 61.9 2.1 1.4 2.11991 100.7 101.6 3.4 3.3 65,050 62.4 2.1 1.4 2.11992 89.9 95.4 1.0 1.6 65,780 62.6 2.2 1.1 1.61993 82.8 91.7 0.2 1.3 66,150 62.2 2.5 0.8 1.21994 83.4 92.6 1.1 0.7 66,450 61.8 2.9 0.6 1.11995 86.4 95.6 2.0 −0.1 66,660 61.4 3.2 0.6 1.11996 90.2 97.8 2.7 0.1 67,110 61.4 3.4 0.7 1.21997 94.3 101.3 1.6 1.8 67,870 61.5 3.4 0.7 1.21998 86.3 94.4 −2.0 0.6 67,930 60.7 4.1 0.5 0.91999 86.8 94.6 −0.1 −0.3 67,790 59.9 4.7 0.5 0.92000 93.0 100.0 2.9 −0.7 67,660 59.5 4.7 0.6 1.12001 88.6 93.2 0.2 −0.7 67,520 58.9 5.0 0.6 1.02002 87.5 92.0 0.3 −0.9 66,890 57.9 5.4 0.5 0.92003 91.7 95.0 1.4 −0.3 66,660 57.6 5.3 0.6 1.12004 97.9 100.2 2.7 0.0 66,420 57.6 4.7 0.8 1.32005 100.0 101.3 1.9 −0.3 66,500 57.7 4.4 1.0 1.52006 103.8 106.2 2.4 0.3 66,570 57.9 4.1 1.1 1.62007 104.8 109.1 2.1 0.0 66,690 58.1 3.9 1.0 1.5

1983-86 81.1 77.1 3.2 1.7 59,498 61.5 2.7 0.6 0.91987-91 95.7 94.2 4.9 1.9 62,818 61.5 2.4 1.2 1.71992-97 87.8 95.7 1.4 0.9 66,670 61.8 2.9 0.8 1.21998-2002 88.4 94.8 0.3 −0.4 67,558 59.4 4.8 0.5 1.02003-07 99.7 102.4 2.1 −0.1 66,568 57.8 4.5 0.9 1.4

注) 労働統計要覧(各年)等により作成.

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3 構造的失業とミスマッチ 109

図表 3-13.2 労働市場の推移――雇用量・賃金

年雇用者対前年増減率

常用雇用指 数(調査産業計30 以上)

新規求人数

所定内労働 時 間

(調 査 産業 計 30人以上)

所定外労働 時 間

(調 査 産業 計 30人以上)

現金給与総 額(調査産業計30 人 以上)対前年

実質賃金(調 査 産業 計 30人 以 上)対前年

春季賃上げ(主 要企 業)賃上げ率

% 2005年=100 (千人) 2005年=100 2005年=100 % % %1983 2.7 87.9 363.3 114.0 105.7 2.7 0.8 4.41984 1.4 88.5 397.5 114.5 112.6 3.6 1.4 4.51985 1.1 89.5 401.3 113.5 114.6 2.8 0.7 5.01986 1.5 90.1 380.8 113.3 111.4 2.7 2.3 4.61987 1.1 90.7 436.9 113.5 114.4 1.9 2.2 3.61988 2.5 92.1 559.1 113.0 123.5 3.5 3.0 4.41989 3.1 94.5 618.8 111.2 124.6 4.2 1.9 5.21990 3.3 97.6 644.6 110.0 124.5 4.7 1.5 5.91991 3.5 100.7 634.8 108.0 116.5 3.5 0.2 5.71992 2.3 102.9 554.0 106.4 99.5 1.7 0.1 5.01993 1.6 104.0 473.1 104.7 88.3 0.6 −0.6 3.91994 0.7 104.1 455.5 104.5 86.4 1.8 1.3 3.11995 0.5 103.5 474.5 104.6 89.7 1.8 2.1 2.81996 1.1 103.1 530.9 104.3 96.1 1.6 1.6 2.91997 1.3 103.8 558.6 102.9 99.0 2.0 0.4 2.91998 −0.4 104.3 492.1 102.5 90.3 −1.4 −2.1 2.71999 −0.7 103.7 488.5 101.5 89.0 −1.4 −1.0 2.22000 0.5 102.9 585.9 102.0 94.1 −0.3 0.6 2.12001 0.2 102.0 594.9 101.4 90.5 −0.9 0.0 2.02002 −0.7 100.4 598.5 100.5 91.3 −2.9 −1.8 1.72003 0.1 99.2 670.1 100.3 96.6 −0.1 0.2 1.62004 0.4 99.5 761.8 100.6 99.7 −0.8 −0.9 1.72005 0.7 100.0 825.7 100.0 100.0 1.0 1.5 1.72006 1.5 100.7 860.9 100.5 103.3 1.0 0.7 1.82007 0.9 102.1 805.6 100.3 105.2 −0.3 −0.4 1.9

1983-86 1.7 89.0 385.7 113.8 111.0 3.0 1.3 4.61987-91 2.7 95.1 578.8 111.1 121.0 3.6 1.8 5.01992-97 1.3 103.6 507.8 104.6 93.0 1.6 0.8 3.41998-2002 −0.2 102.7 552.0 101.6 91.0 −1.4 −0.9 2.12003-07 0.7 100.3 784.8 100.3 101.0 0.2 0.2 1.7

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110

ⅤⅣⅢⅡⅠ

完全失業率(逆サイクル) 有効求人倍率(除学卒)生産指数(鉱工業)CI指数一致指数

(%) (指数)

0

20

40

60

80

100

120

(年)0.00

1.00

2.00

3.00

4.00

5.00

6.00

0503200199979593918987851983 07

図表 3-14 景気局面の分類

注) 労働力調査,職業安定業務統計,景気動向指数,鉱工業生産統計により作成.季節調整値.

0.00

0.02

0.04

0.06

0.08

0.10

0.12

1980 (年)052000959085

UMYT UMSTUT UMT UFT

図表 3-15 失業率の推移

注) 労働力調査により作成.UT:失業率(全体),UMT:男子失業率,UFT:女子失業率,UMYT:男子若年(15-24 歳)失業率,UMST:男子高齢(55-64 歳)失業率.季節調整値.

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3 構造的失業とミスマッチ 111

図表 3-16 ばらつき指標係数

UT UMT UFT UMYT UMST

σ 1.018 0.470 0.921 1.249 4.065(0.751) (0.281) (0.455) (0.437) (1.564)

σ 0.193 0.874 −0.112 −0.562 1.272(0.136) (0.500) (0.055) (0.192) (0.457)

σ 1.486 2.930 0.443 −2.984 6.226*(1.075) (1.692) (0.222) (1.018) (2.291)

σ −2.372 −2.231 −2.255 1.287 −3.321(1.806) (1.353) (1.184) (0.450) (1.286)

σ −0.369 −1.570 0.761 0.402 −6.580*(0.273) (0.930) (0.395) (0.141) (2.466)

自由度修正済 R 0.290 0.214 0.095 0.038 0.253標本数 95 95 95 95 95説明変数の数(含む定数項) 24 24 24 24 24AI −4.017 −3.579 −3.276 −2.530 −2.743SIC −3.372 −2.943 −2.631 −1.885 −2.098

注) 図表 3-16 から 3-21 まで筆者作成.有意水準 5%で有意な係数に*を付した.( )内は t 統計量の絶対値.図表 3-21 まで同様.

図表 3-17 純化されたばらつき指標係数

UT UMT UFT UMYT UMST

S 0.177 −0.263 0.387 2.101 2.921(0.134) (0.161) (0.198) (0.735) (1.133)

S 0.198 0.172 0.405 −0.509 0.025(0.149) (0.104) (0.210) (0.177) (0.010)

S 1.865 3.815* −0.236 −3.092 6.686*(1.391) (2.288) (0.121) (1.056) (2.556)

S −2.477 −2.507 −2.255 0.981 −3.812(1.898) (−1.517) (1.203) (0.345) (1.446)

S 0.697 −0.205 1.594 1.601 −3.985(0.512) (0.121) (0.819) (0.554) (1.449)

自由度修正済 R 0.295 0.229 0.099 0.042 0.227標本数 95 95 95 95 95説明変数の数(含む定数項) 24 24 24 24 24AIC −4.024 −3.599 −3.281 −2.534 −2.709SIC −3.379 −2.953 −2.635 −1.889 −2.064

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子高齢者の σ および s ケース,ならびに男子の s のケースの 3 つのケースで,2 期前のばらつきの指標が正で有意である.2 期前のばらつきの指標の係数は,男子高齢者失業率関数では男子失業率関数の倍になっている.

さらに,マクロ景気局面効果指標 BM ⋅σBM ⋅s または労働市場局面効果指標 BL⋅σBL⋅s を,ばらつきの指標に加えた場合の係数(図表 3-18,3-19

および図表 3-20,3-21)を見ると,まず符号について,各表の係数に関する部分において上段より下段の方が負の推定値が少ない.上段全体では負の推定値が 53 ある一方,下段の係数で負値をとるものは 39 と少なくなっている.つまり景気局面を加味した場合の方が期待された符号に近い34).4 つの表を通して,有意な係数は,男子高齢者失業率の 2 期前に 5 つ,女子失業率の 1期前に 4 つ,全体の失業率の 1 期前に 3 つ35),男子失業率の 2 期前に 1 つとなっている.男子高齢者は,ばらつきの指標とマクロ景気局面効果指標が同時に有意である.女子失業率および全体失業率は景気局面効果指標としてとらえたときのみばらつきの指標が有意になる.女子労働は,非基幹正社員の割合が高く,景気局面が厳しくなったときに早く雇用調整の対象になりやすいということと整合的である.失業率の種類を通じて有意な係数がある場合に着目すると,生のまたは純化されたばらつき指標にマクロ景気局面効果指標を加えた場合に,マクロ景気局面効果指標の指標 2 期前が,男子高齢,女子,全体の失業率とも有意であり,その大きさは,男子高齢者が全体の 2倍の大きさになっており,女子が中間にある.若年失業率には景気局面効果指標を加えても依然有意な係数がまったくない.また図表 3-16 から 3-21 を通じて,男子若年の失業率関数の決定係数が低い.女子失業率は,ばらつきの指標だけでは決定係数が低いが,景気局面効果指標(マクロまたは労働)を加えると決定係数が改善している36).

以上,地域別に見たばらつきの指標をもとに,マクロ景気局面効果指標に加えて労働市場景気局面効果指標をも作成し,部門間移動仮説を試した

112

34) 生のばらつき指標 σ を用い,労働景気局面効果指標を入れた,男子高齢者失業率関数の場合には,有意な係数は 1 個にとどまるが,正符号係数が多く,係数のばらつきが小さい.

35) 10%水準では全体の失業率の有意な係数は 5 つになる.36) 情報量基準を見ると,AIC では景気局面効果指標の追加によりすべて改善している.SIC(シュバルツ情報量基準)では純化されたばらつき指標に景気局面効果指標を追加した場合だけ改善している.

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2007 年までの推定結果をまとめると,男子高齢者失業ほど部門間ショックの影響を受けている可能性が高くまたその程度が全体の倍近く大きいと見られる.女子失業率やおそらくそれを反映した全体失業率については,マクロ景気局面が厳しい局面では部門間ショックが作用している可能性がある.男子若年失業率は部門間ショックの影響が見られない.坂田[2003](p. 22)と同じく,人的資本の特殊性との関係を考慮して検証してみると,部門間移動仮説は男子若年層には当てはまらないが,男子高年齢層には部門間ショックが失業率を高める効果があることや,景気の下降局面には女子を通じて失業率に影響を与えることがわかった.

部門間移動仮説の限界先述の部門間ショック把握の問題のほかに,Lilien の提唱から始まったば

らつきの指標の手法の限界についての指摘があるので,まとめておく.1) 現実の統計上,どのような詳細度で部門分類を用いるかで結論が変

わってくるという実証上の問題がある.分類が詳しくなるほどより敏感に移動を捕捉できると考えられる.

2) 部門ごとの雇用変動は需要だけでなく供給側の行動変化にもよる.ばらつきの指標は,結果であって必ずしも需要を現していない.部門へのショックでなく,労働供給行動側の変化が特定部門に顕現化している場合もありうる.

3) 部門を先験的に決める手がかりは十分にない.移動する際に 1 回失業のプールを経なければならないような顕著な移動障壁が存在する就業の場が

「部門(セクト)」を成すと見なしているが,どのような場が部門となるか先験的な情報は必ずしも十分でない37).たとえば,失業を経ない子会社間の出向・転職という移動で働く産業が変わるケースに対し,解雇されて失業し再就職した場合に同一産業に移動するとのケースもある.

4) 各労働者が有する技能がどれほど部門固有の技能か,あるいは各部門側がどれほど固有の技能を要求する就業機会であるかによって,同じ部門

3 構造的失業とミスマッチ 113

37) たとえば,雇用の地域的な固定性は経済圏としての地域において生じると見られ,米国では経済圏としての性格が濃いメトロポリタンエリアの統計を用いた研究が進んでいる.日本では,周燕飛[2005]が都市雇用圏の失業統計を作成している.

Page 34: 3 構造的失業とミスマッチ - ESRI日本のUV曲線を図表3-1に,欠員率として職業安定業務統計における 欠員率4) を横軸に,失業率として労働力調査の雇用失業率5)

ショックであっても失業に及ぼす効果が異なってくることが考慮されていない(Abe and Ohta[2001], pp. 440-442,太田[2005], p. 79).

5) 失業期間の長さなど摩擦の態様については陽表的には考慮されておらず,失業プールの混雑や失業への参入退出行動の変化が明示的には考慮されない.

114

図表 3-18 生のばらつき指標とマクロ景気局面効果指標の係数

UT UMT UFT UMYT UMST

σ 0.288(0.207) −0.621(0.350) −0.827(0.396) −0.295(0.096) 3.228(1.144)σ −0.353(0.244) 0.266(0.143) −1.598(0.778) −1.535(0.483) −0.984(0.327)σ 1.981(1.374) 3.155(1.689) 0.774(0.373) −3.308(1.024) 8.367*(2.790)σ −2.423(1.711) −1.631(0.901) −3.860(1.898) 1.186(0.366) −4.743(1.619)σ −0.103(0.072) −1.321(0.731) 0.715(0.345) 0.349(0.108) −6.555*(2.134)

BM σ 1.416(1.191) 1.975(1.284) 0.958(0.564) 2.421(0.913) −1.329(0.554)BM σ 3.252*(2.231) 2.570(1.355) 4.732*(2.286) 2.671(0.832) 6.930*(2.380)BM σ −1.056(0.712) 0.080(0.043) −1.995(0.930) 0.098(0.030) −3.223(1.083)BM σ −0.573(0.393) −0.881(0.478) 1.308(0.631) −0.973(0.311) −0.615(0.203)BM σ −0.381(0.346) −0.763(0.552) 0.786(0.504) 0.247(0.106) 1.299(0.593)

自由度修正済R 0.363 0.256 0.181 0.027 0.268標本数 95 95 95 95 95説明変数の数

(含む定数項) 29 29 29 29 29

AIC −4.092 −3.603 −3.345 −2.486 −2.731SIC −3.313 −2.823 −2.565 −1.706 −1.951

図表 3-19 生のばらつき指標と労働景気局面効果指標の係数

UT UMT UFT UMYT UMST

σ 1.266(0.857) −0.630(0.335) 2.215(1.011) 2.944(0.895) 2.198(0.743)σ −1.251(0.750) 1.270(0.600) −3.235(1.322) −2.439(0.665) 0.455(0.134)σ −0.143(0.086) 1.583(0.756) −0.028(0.012) −4.352(1.160) 7.085*(2.105)σ −0.077(0.050) 0.809(0.417) −1.116(0.503) 3.499(0.980) 1.458(0.451)σ 1.092(0.725) −0.514(0.266) 2.705(1.248) 0.471(0.135) −4.590(1.457)

BL σ −0.114(0.079) 2.974(1.647) −2.154(1.015) −1.341(0.424) 3.840(1.355)BLσ 2.292(1.428) −0.112(0.053) 5.495*(2.331) 4.003(1.103) 3.285(1.012)BLσ 3.928*(2.302) 3.807(1.780) 2.630(1.057) 3.693(0.962) 1.663(0.494)BLσ −1.418(0.877) −2.454(1.208) 1.372(0.592) −1.500(0.419) −0.594(0.191)BLσ −0.918(0.625) 0.827(0.455) −1.819(0.863) 1.950(0.609) 2.036(0.738)

自由度修正済R 0.407 0.317 0.267 0.112 0.341標本数 95 95 95 95 95説明変数の数

(含む定数項) 29 29 29 29 29

AIC −4.164 −3.687 −3.456 −2.577 −2.837SIC −3.385 −2.908 −2.676 −1.798 −2.057

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6) 新卒採用での需給調整とは無関係である(坂田[2003]).日本では雇用人員数を新卒採用で調整している面が大きいので,部門間ショックを十分とらえていない可能性がある.

7) 部門間ショックをマクロ・ショックから分離して集計量変動を説明するという方向の研究は「大きな潜在力をもつ」(Davis[1987])とされたが,

3 構造的失業とミスマッチ 115

図表 3-20 純化されたばらつき指標とマクロ景気局面効果指標の係数

UT UMT UFT UMYT UMST

s −0.574(0.422) −1.205(0.694) −1.577(0.794) 0.559(0.180) 1.844(0.659)s −0.486(0.362) −0.609(0.351) −0.967(0.504) −1.311(0.424) −1.377(−0.494)s 2.011(1.481) 3.793*(2.177) −0.416(0.214) −3.196(1.028) 7.703*(2.780)s −2.430(1.762) −1.813(1.022) −3.749(1.937) 0.613(0.198) −4.866(1.700)s 0.667(0.478) −0.109(0.062) 1.002(0.497) 1.656(0.529) −3.762(1.246)

BM s 1.363(1.178) 1.877(1.272) 1.155(0.706) 2.492(0.984) −1.321(0.558)BM s 3.068*(2.100) 2.461(1.315) 4.502*(2.175) 2.844(0.887) 6.520*(2.205)BM s −1.003(0.685) 0.165(0.090) −1.976(0.940) −1.101(0.347) −2.891(0.967)BM s −0.832(0.572) −1.133(0.621) 1.105(0.538) −0.276(0.089) −0.232(0.077)BM s 0.175(0.158) −0.416(0.301) 1.304(0.850) 0.033(0.015) 0.889(0.401)

自由度修正済R 0.360 0.268 0.188 0.032 0.232標本数 95 95 95 95 95説明変数の数

(含む定数項) 29 29 29 29 29

AIC −4.089 −3.618 −3.353 −2.490 −2.684SIC −3.309 −2.839 −2.573 −1.711 −1.904

図表 3-21 純化されたばらつき指標と労働景気局面効果指標の係数

UT UMT UFT UMYT UMST

s 0.640(0.437) −0.818(0.433) 1.888(0.872) 3.822(1.142) 2.559(0.848)s −1.576(1.006) 0.277(0.137) −2.909(1.258) −2.666(0.749) −1.216(0.375)s 0.327(0.206) 2.049(1.016) −0.482(0.206) −4.375(1.198) 6.272(1.917)s −0.319(0.215) 0.245(0.129) −1.666(0.775) 3.585(1.034) −0.501(0.155)s 1.331(0.890) 0.113(0.059) 2.793(1.296) 0.372(0.109) −2.637(0.821)

BL s −0.350(0.253) 2.229(1.288) −2.049(0.994) −0.703(0.232) 2.044(0.725)BL s 2.922(1.919) 0.255(0.130) 5.822*(2.605) 4.078(1.194) 2.809(0.88 )BL s 3.291(1.976) 3.378(1.631) 2.075(0.846) 2.809(0.761) 2.151(0.637)BL s −2.158(1.391) −2.784(1.419) 0.388(0.173) −2.985(0.868) −0.230(0.073)BL s −0.249(0.168) 1.430(0.778) −1.233(0.580) 3.579(1.118) 1.933(0.671)

自由度修正済R 0.420 0.325 0.268 0.127 0.300標本数 95 95 95 95 95説明変数の数

(含む定数項) 29 29 29 29 29

AIC −4.186 −3.700 −3.456 −2.594 −2.776SIC −3.407 −2.920 −2.677 −1.814 −1.996

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これまでの実証分析の結果から見ても,需要の部門間の配分がマクロ的ショックに波及し,また,逆にマクロ・ショックが部門間に不均衡なショックを与える問題は,需要の部門間移動仮説に付随することは避けえない.より動態的にミスマッチを考察するべきと玄田([2004], pp. 297-298)はしている.

4 マッチング機能

UV 曲線の背後にある失業と求人のマッチング過程に焦点を当て失業や求人についてのマクロ的帰結を導く分析が,Blanchard and Diamond[1989]以降,展開されている.UV 関数の形状位置を決めるマッチング関数を計測し,求人数や求職数について規模の利益があるか,混雑にともなってどのような外部性が発生するか,短期失業者が優先的に採用される場合にフローとストックの失業にどのような影響があるかなど,仮説と検証が蓄積されつつある(Petrongolo and Pissarides[2001]).

日本での研究では,求人と求職のマッチングにおいて,公共職業紹介は一定の役割を果たしてきているが,その効率性についての指摘がある.長期雇用関係を重視してきた日本では,労働者と企業間の情報伝達機能が未発達で,両者間の情報の非対称性がマッチング効率を減じている.人口密度が稠密である地域ほどマッチング効率が高い可能性がある.

4.1 マッチングの経路求職方法日本における求職方法(図表 3-22)は,労働力調査特別調査・労働力調査

による失業者の求職方法調査と,雇用動向調査における入職者の入職経路に関する調査から把握できる.失業者の求職方法では,民間職業紹介ビジネスは 2%前後にとどまり,この間にその他の項目が増加している.公共職業安定所は,雇用動向調査における入職者全体(失業を経ないで入職した者を含む)に占める割合はほぼ安定して 2 割前後となっているほか,失業者の求職方法としてもおおむね 3 割台で推移している.雇用情勢の厳しい時期ほど割合が高まる傾向がうかがえる.民間職業紹介事業は,複合・総合的なマッチ

116

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ング機能を派遣・紹介・仲介・委託・アウトプレースメント・出向・採用などのさまざまな経路で発揮(鈴木[1999])しているとされ,1999 年・2003 年に紹介事業や派遣事業の規制緩和が行われた.

構造的失業への政策手段の 1 つである公共職業紹介の機能についての分析が 2000 年代になって進められている.公共職業紹介事業は,景気が悪化すると求人開拓努力がより行われるなどの可能性があるほか,保険・訓練・紹介の 3 事業が複合された効果があり,その評価は複雑である.これまでの研究でみると,中村[2002]では,景気下降時には公的職業紹介の失業抑制の役割が相対的に高まり実効性があるとし,転職後賃金はいったん大きく低下するがその後他の転職者と有意な差がないとした.混雑によって就職成立の逓減が見られるとした.またマイクロデータにより市場における評価が低い求職者の利用が多いことを明らかにしている.

一方,黒澤[2005]では首都圏の公共職業安定所では,転職後収入への効果は有意に低下させているとされ,混雑にともなう収穫への影響については逓減の可能性を指摘している.失業期間や賃金変化をもとに,他の入職経路との比較(児玉・阿部・樋口・松浦・砂田[2005])や国際的な比較(児玉・樋口・

阿部・橋本・ファール・シュナイダー[2005])を行った分析でも,日本の公共職業紹介事業のマッチング効率が他の入職経路に比べ低いことが示唆されている.公共職業紹介では,すべての求職者に対しサービスを供給する義務があり,求職意欲などで利用者に偏りがあることが影響している(児玉・阿

3 構造的失業とミスマッチ 117

図表 3-22 失業者の求職方法構成比(%)

1984-86 1987-91 1992-99 2000-01 2002-07完全失業者(万人) 100(157) 100(163) 100(190) 100(319) 100(318)公共職業安定所に申込み 36.6 32.1 31.3 37.2 39.3民間職業紹介所などに申込み ― ― ― 2.6 1.7労働者派遣事業所に登録 ― ― ― ― 2.8求人広告・求人情報誌 32.9 36.0 41.8 37.4 33.1学校・知人などに紹介依頼 18.6 17.1 13.2 10.5 8.0事業所求人に直接応募 6.5 5.0 5.7 3.4 4.2事業開始の準備 2.9 2.1 2.3 2.5 1.1その他 2.1 7.1 5.5 6.0 8.7入職者に占める職業安定所経由割合 20.2 18.2 19.4 20.8 21.3

注) 労働力調査特別調査および労働力調査により作成.ただし,「入職者に占める職業安定所経由」は雇用動向調査により作成.

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部・樋口・松浦・砂田[2005], p. 127)さらに,佐々木[2007]は,ハローワークのマッチング機能を,求職者が応募する段階と応募者が求人企業とマッチする段階にわけて分析することによって,求職する人の増加や,適切な求人求職の組合せが必要という政策含意を導き出している.

4.2 マッチング機能と情報マッチング機能を規定する要因として,求人側の求める技能や,求職側の

有する能力だけでなく,そうした条件に関する情報の不確実性や流通が大きな役割を果たす.長期雇用を前提とした企業内部での教育訓練が大勢を占めてきたわが国においては,労働市場で労働者と企業間の情報伝達機能が未発達である可能性が高い(黒澤[2003]).

求人側と求職側の情報の非対称性阿部・神林・李[1999]は,スキルとスペックを区別する.スキルは,ある

仕事を遂行するために必要な一要素であり,「話す能力」などがある.さまざまな能力を総合したものが人的資本になる.しかし,スキルそのものはうまく言語化されていないため,スキルを言語化・指標化したスペックが用いられている.スペックの好例が「英語検定 2 級」などの公的資格である.民間職業紹介事業における求人企業・求職者・応募履歴を分析して,求人企業側はスペックだけを重視して募集と採用を行っていないが,求職側はスペックに頼りがちであるとした.背景には,求めるスキルを 1 つのスペックで語ることの難しさや求職者側が自分のもつ人柄を含めた特性を社会共通の言語で示すことの難しさを指摘し,具体的な現場でのマッチングの解明が必要としている.

中途採用市場の雇用主と労働者とのマッチングの状況を,90 年代末の中小企業 4,000 余社への面接調査や中途中採用された従業員 3,600 名へのアンケート調査に基づき行った調査(黒澤[2003])では,入社前のキャリアや訓練経験のなかで,専門学校の教育訓練など労働市場で認識されやすい訓練経験をもつ者の場合,入社直後の生産性が他の従業員と変わらないにもかかわらず,賃金が高く設定される傾向があり,入社 2-3 年後まで継続する傾向が確認された.他方,業界特殊な研修を受けた者や関連した仕事を外部企業で

118

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すでに経験した者の場合,入社直後の生産性が高いあるいは訓練費用が有意に低くなるにもかかわらず,少なくとも入社 2-3 年までの間は,そうした従業員の優位性が給与には反映されない傾向が見られた.以前の勤務先での経験など転職後の職場で生産性を有意に高めているのにより高い生産性に見合うほどの給与を支払う必要がないのは,外部での訓練や経験を積んだ労働者の能力情報を得るコストが大きく,そのような技能が市場で過少評価される傾向があるからだと推論している.より長期にわたる観察の必要もあるが,労働市場における情報の非対称性が労働者個人の人的資本投資を過少にし,労働力の再配分機能を鈍化させる可能性を指摘している.

阿部[2005](pp. 81-121)は,企業がどのような採用基準を用いて,またそれらをどの程度重視して採用に当たったか,約 500 社の回答をもとに,情報の非対称性のもとでどのようなマッチングが生じているか求人・求職両面から分析している.採用段階以前に求職者が応募に躊躇して求人企業への応募者数を抑制していること,さらには,企業の採用基準の把握可能性に問題があって,採用決定段階にあっても情報が有効に利用されていない.企業が重視する採用基準ほど把握可能性が低く,採用が的確に行われている状況にほど遠いことを見出している.企業の重視する採用基準や求職者のスキルレベルが,私的情報になっており,それを公開すること,職務(job descrip-tion)を企業が明確化することが必要だとしている.

マッチング効率と情報情報収集と転職の成果の関係について,黒澤[2003]と同じ調査から転職者

の転職後の評価アンケートをもとに求職側から分析した大木[2003]では,事前情報が多いほど成果が高いこと,事前情報の入手可能性は相互に高い相関をもっていること,個人の特性のなかでは最終学歴,転職理由,利用した媒体が,これまでの職業経験では外部教育関連機関での教育研修,勤務先での最高職位が,事前情報の入手程度に影響を与えていた.

雇用動向調査による離職期間や転職前後の賃金変化情報を,民間調査(リ

クルートワークス「ワーキングパーソン調査」)による満足度で補完した分析(児玉・阿部・樋口・松浦・砂田[2005], pp. 87-143)では,公共・民間だけでなく,広告,縁故,前職企業からの紹介などさまざまな入職経路のマッチング

3 構造的失業とミスマッチ 119

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効率の違いを比較したところ,たとえば,前職企業や縁故によるインフォーマルな入職経路がマッチング効率に対して比較的高い効果をあげていることが確認されている.

ICT 技術の発達によって,マッチングがより効率的になるかどうかについて考察した大竹[2005](pp. 182-184)では,求人・求職費用の縮減から膨大な応募が発生しその処理のためにシグナリングの果たす役割が,適正かどうかにかかわらず高まりうること,ICT では伝えられない情報があり,技能情報の標準化やそうした情報を仲介する機関が不可欠としている.

4.3 マッチング機能と相互依存マッチング関数の形状を具体的に検証した分析の蓄積が進みつつある.

求人や求職の相互依存関係労働需要側の行動,とくに需要の分布密度が,労働供給側(求職応募)行

動に影響すると考えられる.これを,都道府県別労働市場のパネルデータ(1996-2001 年)を職業安定業務統計および雇用動向調査から作成し,求人市場の集中度指数を外生変数とした対数線型関数における有意性について検定した(神林・上野[2006]).その結果,需要側市場集中度が高い(求人口数が偏る)ほど,観察できない市場特有の要因を除いてもマッチング効率が高いとの理論どおりの結果が得られている.マッチング関数は,規模に関して緩やかに収穫逓増であることが確認されている.

県別の公共職業安定所経由のマッチングパネルデータ(1972-99 年)を用いた Kano and Ohta[2005]では,マッチング関数はゆるやかに収穫逓減であるとされ,マッチング効率は人口密度と所得水準と負の相関があるとされた.人口密度に対し負の相関があることは,職業安定紹介所に登録しても民間職業紹介など他のルートによるマッチングが人口密度により高まるのであれば,ありうると推論されている.

マッチングへの影響マッチングが単に情報伝達速度などの外生的条件によって決まるわけでな

く,求人求職双方の相互依存関係で決まってくる.上野・神林[2005]は,市

120

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場のもっとも基本情報である求人側からの提示賃金および求人規模が,求職者求人者の行動にどのように影響しているか検証した.1993-95 年の雇用動向調査の個票データにより推定した結果,非熟練職種では,求人規模のばらつきが賃金のばらつきを説明し,求人求職の相互依存からくるフリクションの存在と矛盾しない.このため,非熟練職種では,マッチング関数の技術効率をあげるだけでなく,求人・求職者の相互依存関係をコントロールし,フリクションが発生しない方向に導くことが重要であるとの政策的含意を提示している.

5 構造的失業・ミスマッチをめぐる変化

マクロ経済動向をとらえたものとして GDP ギャップを取り上げると38),これと失業率の間に 2000 年ごろまでは安定的な関係があった(図表 3-23).オーカン法則である.しかし,2003 年からの景気拡大期には失業率の回復テンポが鈍い.90 年代以降の景気・雇用情勢の厳しい時期を経てマクロ経済との関係で基調的な失業率が上昇したかも知れない.

3 構造的失業とミスマッチ 121

38) GDP ギャップは,マクロ・ショックだけでなく,ミクロ・ショックにも影響され,かつ結果であり原因ではない.

-6.0-5.0-4.0-3.0-2.0-1.00.01.02.03.04.0 0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.01980 82

(%) (%)

(年)84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 08

完全失業率(目盛右,軸反転)

GDPギャップ

図表 3-23 失業率と GDP ギャップ

注) 労働力調査,内閣府推計値により作成.季節調整値.

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景気循環を超えて失業率を上昇させるという意味で,構造的失業の背景となりうる要因についてどのようなものがあるか.たとえば,UV 曲線をシフトさせるとされた要因がある.構造的失業やミスマッチとの関係で,労働市場の内外で景気循環を超えて顕現化している変化を考察する39)(図表 3-24,

一部は図表 3-13).女子労働や高齢者労働の比率の高まりといった供給要因や,減員により偏った雇用調整の加速,技術革新の影響などの需要要因が変化し,柔軟性や透明性に欠けマッチング効率の低い労働市場制度のもとでは,部門間のミスマッチを増加させている可能性が考えられる.外部労働市場に顕現化せず内部労働市場にとどめられたミスマッチは生産性を低めたと見られる.人口減少化で,これからキャリアを蓄積する若年労働が非正規労働にとどまったり非就業化していることは,今後の成長力を損なうミスマッチである.

5.1 労働供給と構造的失業バブル・デフレ期を通じて,供給面で大きな変化が見られたのは,女子労

働参加の拡大と,少子高齢化の労働人口構成への反映である.

女子労働供給女子労働力が,25-34 歳を中心に拡大した.これには晩婚化の影響もある

と見られる.就業意欲喪失効果は後退傾向にあり,景気低迷にともない失業率を高める効果がある.就業率と失業率の動向を分析すると(『労働経済白

書』2002, pp. 88-97),第 1 次石油危機後に比してバブル崩壊後の景気後退局面では,就業率の低下傾向が弱まっているのに対し失業率の上昇傾向が強まっており,景気後退時に失業率が上昇しやすくなっている.同時に,女性の高学歴化が進み,高学歴の女子労働力供給が高まっているが,それに見合った就業機会がとくに出産後の復帰にともない不足している(樋口[2001],

pp. 185-187).結局,女子労働力は,離職率の高い非正規労働力を中心に増

122

39) こうした変化については,当分科会の他の報告でより掘り下げた分析が行われている.また,90 年代の失業展望の一環として,阿部[2005](pp. 3-25)および太田・玄田・照山[2008](pp.33-71)において労働需要・供給両面から,構造変化の議論と実証分析のサーベイが各々なされている.

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加している.柔軟な就業形態を欠いたり,同一労働同一賃金といったルールが明確でなかったりするためにマッチング効率が悪い労働市場制度のもとでは,女子の高まる労働参加は,ミスマッチを増加させる圧力になっているおそれがある.

高齢者労働の増加高齢者の労働力率が(65 歳以上全体を除けば)この間に高まるとともに

母数も増えたため,55 歳以上の労働力が労働力人口に占める割合が,27%と 20 年前から 10%ポイント増加している.高齢者の失業者に占める割合はほぼ 2 割で横ばいにある.高齢者は,その雇用調整にコストがかかり賃金抑制にも限界があるなかで,いったん解雇されれば,技能対応力や転職する力,再就業への低い緊急性から再就職が難しい40).景気後退期には高齢者の失業率は相対的に高まり,長期失業者の割合が高いなどの特徴がある.高齢者労働力の増加は,調整コストを介して高齢者が若年雇用を抑制する代替効果,高齢者自身の部門ショックに対するマッチングの困難性から,ミスマッチを拡大する効果があった可能性がある41).

若年労働大学卒業後の就職率は,1991 年の 81%から 2003 年の 55%まで急落・低

迷している.若年失業率が,2003 年に 10%近くまで高まった後,高止まりしている.他方,労働力率が 20-24 歳層では 75%(1991 年)まで高まったあと,07 年の 70%まで低下した.若年層での非正規就業や長期失業,非労働力化が進んだ.太田[1999]は,若年失業の増加は,若者の意識変化ではなく,若年労働需要が不足しているためであること,新規学卒者として就業した時期が不況期であると不満な仕事に就く人が増えその後の離職率を高めるという世代効果が若年失業率を高めていることを,UV 分析とマッチング関数から明らかにしている.本来,サービス産業化の進展や急速な技術革新,人口減少のもとでは,若年雇用者には強みとなっているはずである(三谷

3 構造的失業とミスマッチ 123

40) 高齢者の転職については玄田[2002]が詳しい.41) 若年雇用と高齢者雇用との代替など関係については,玄田[2004]の第 4 章が,高齢者雇用と

全体の雇用との関係については同第 5 章が詳しい.

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124

図表 3-24 構造的失業・

女子 高齢 非正規 非正規若年 新卒 雇

女子労働力率(%)

労働力の55歳以上割合

(%)

雇用者に占める非正規の職員・従 業員比(%)

その内若年(15-34歳)非 正規 の 職員・従 業員比(%)

就職率の推移 4 年制大学卒業者の入職割合(%)

失業者の内非自発的な離職割合(%)

労調 労調 特調・労調 特調・労調 学校基本調査 労調

58 1983 49.0 17.3 ― ― 76.4 ―59 1984 48.9 17.6 15.3 ― 76.7 34.460 1985 48.7 18.0 16.4 ― 77.2 30.161 1986 48.6 18.4 16.6 ― 77.5 31.162 1987 48.6 18.9 17.6 ― 77.1 33.563 1988 48.9 19.3 18.3 4.8 77.8 28.4

平成 1 1989 49.5 19.7 19.1 5.2 79.6 25.42 1990 50.1 20.2 20.2 5.4 81.0 24.63 1991 50.7 20.9 19.8 5.3 81.3 22.84 1992 50.7 21.3 20.5 5.6 79.9 22.55 1993 50.3 21.5 20.8 5.9 76.2 24.76 1994 50.2 21.6 20.3 5.8 70.5 26.07 1995 50.0 21.9 20.9 6.4 67.1 26.28 1996 50.0 22.2 21.5 6.8 65.9 26.29 1997 50.4 22.7 23.2 7.5 66.6 23.510 1998 50.1 23.1 23.6 7.9 65.6 30.511 1999 49.6 23.6 24.9 8.3 60.1 32.212 2000 49.3 23.4 26.0 8.6 55.8 31.913 2001 49.2 23.0 27.2 9.4 57.3 31.214 2002 48.5 23.5 29.4 9.9 56.9 42.115 2003 48.3 24.4 30.4 10.1 55.1 41.716 2004 48.3 25.4 31.4 10.5 55.8 37.717 2005 48.4 26.2 32.6 10.8 59.7 34.018 2006 48.5 26.8 33.0 10.7 63.7 32.019 2007 48.5 27.6 33.5 10.4 67.6 32.3

各期平均 1983-86 48.8 17.8 (注 4)16.1 ― 77.0 (注 4)31.91987-91 49.6 19.8 19.0 (注 1) 5.0 79.4 26.91992-97 50.3 21.9 21.2 6.0 71.0 24.91998-2002 49.3 23.3 26.2 9.0 59.1 33.62003-07 48.4 26.1 32.2 10.0 60.4 35.5

(注 1) 1988-91 年の平均 (注 2) 2003-07 年の平均 (注 3) 2003-05 年の平均(注 4) 1984-87 年の平均 (注 5) 1986-87 年の平均

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3 構造的失業とミスマッチ 125

ミスマッチをめぐる変化

用調整 長期失業 イノヴェーション グローバル化離職者の中の経営上の都合の割合

(%)除く出向・出 向 からの復帰

離職者の内出向+出向からの復帰の割合(%)

失業者の内長期失業の割合(%)1 年以上

設備投資に占めるICT投資の 割 合・実質(%)

開業率(%)

廃業率(%)

海外への移転海外売り上げ比率全産業(%)

雇用動向調査 雇用動向調査 特調・労調 JIP 資産統計 雇用保険事業統計 海外事業活動基本調査

(含む出向)7.3 ― ― 7.2 6.1 4.3 ―(含む出向)6.3 ― 15.5 8.3 5.9 4.2 ―(含む出向)6.8 ― 13.5 10.0 5.8 4.2 3.0(含む出向)8.8 ― 16.8 10.5 6.0 4.1 3.2(含む出向)8.1 ― 20.2 10.6 6.8 3.7 4.0

6.0 2.1 22.6 11.4 7.4 3.4 4.95.0 1.8 19.7 12.0 6.7 3.2 5.74.2 1.9 20.1 11.3 6.3 3.0 6.42.7 1.7 17.6 11.9 5.8 3.3 6.03.7 1.5 14.8 12.1 5.1 3.3 6.24.7 2.3 14.5 12.1 4.6 3.4 7.45.1 2.4 16.7 12.4 4.8 3.4 7.95.9 2.8 17.1 13.9 4.6 3.6 8.34.0 2.8 19.6 16.2 4.7 2.5 10.44.6 2.8 20.9 17.4 4.2 2.8 11.07.3 2.7 18.3 18.4 3.9 3.1 11.67.9 3.2 22.1 19.8 4.4 4.0 11.46.9 2.4 25.6 21.0 4.9 4.0 11.89.4 2.7 24.4 22.7 4.4 4.4 14.39.1 3.2 29.2 21.8 4.1 4.6 14.67.1 2.7 33.7 22.8 4.0 4.8 15.65.9 2.2 33.9 23.9 4.1 4.5 16.24.9 1.9 32.7 25.4 4.4 4.4 16.75.7 1.6 32.7 ― 4.8 4.3 18.1― ― 32.3 ― ― ― 18.3

7.3 ― (注 4)15.3 9.0 6.0 4.2 (注 5) 3.1(注 1)4.5 (注 1)1.9 20.1 11.4 6.6 3.3 5.4

4.7 2.4 17.2 14.0 4.7 3.2 8.58.1 2.8 23.9 20.7 4.3 4.0 12.7

(注 2) 5.9 (注 2)2.1 33.1 (注 3)24.0 (注 2)4.3 (注 2)4.5 17.0

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[2001]).しかし,現実には若年の雇用が抑制されており,90 年代から 00 年代当初までの景気の低迷期に新卒であった世代は,入り口において就業経験に乏しい履歴になった.(高齢)正社員と若年非正規雇用者の間で同一労働同一賃金になっているかという問題もある.

そもそも人口が減っているのに,労働参加意欲を考慮した労働力人口比率だけでなく,15 歳以上人口に占める実際の就業者比率でも 2005 年ごろまでは低下傾向にあった.労働力と非労働力の区別が曖昧になっているなかで,人が稼働されない状況が進んでいるのはなぜかという観点から,玄田[2001,2004]は 90 年代の労働市場の就業機会喪失を検証している.自発的失業かどうかを問わず,広く人口全体をマクロ的に見たときに,若年者に「希望する仕事がない」というミスマッチが生じていることを指摘している.若年者がやむなく長期に非正規労働に従事したり,失業や労働市場からの退出により長期非就業化するというミスマッチは,履歴効果を通じ失業を増加させるとともに,人的資本蓄積を損ない成長力低下につながりかねない.

5.2 労働需要と構造的失業雇用調整速度雇用調整速度が早くなっているかどうかについては,確立した見解はない

が,樋口[2001](pp. 51-100)や『労働経済白書』(2002, p. 116)では,調整速度が速まっている可能性を指摘している.企業行動や雇用形態の変化を反映して雇用調整速度が速まっていると仮定した場合,マクロ・ショックのもとでは,景気循環ごとに失業率の振幅が大きくなると見られる.マクロの雇用変化量は変わらず部門間の雇用再配分だけが必要になる純粋な部門間ショックでは,一部門の労働需要減少と他部門の労働需要増加が同時に発生しているはずであるから,構造的失業には影響しないと見られる.しかし,雇用減員に迫られた企業に偏って雇用調整速度のテンポが速まるという非対称性があれば,純粋な部門間ショックでも構造的失業が増加する.

企業統治終身雇用制の神話に対し,日本企業も継続的な厳しい環境,(2 期連続の

赤字企業など)では,解雇を実施することが知られている(村松[1995],駿

126

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河[2002]).近時,企業統治構造の変化との関係で雇用調整についての知見が大きく蓄積されている.久保[2008](pp. 166-167)では,企業のガバナンス構造の変化と,雇用調整や労働削減の方法についてサーベイしている.富山[2001]ではメインバンク関係の変数が雇用調整を遅くする効果があることを示している.ここから,メインバンク制の弱体化が,雇用調整を早くしているかもしれないと考えることはできる.阿部[1999](pp. 75-102)は,産業によっては企業カバナンス構造が雇用削減の意思決定に影響しており,銀行が株をもっていると雇用削減確率を低め,危機になるとメインバンク制が倒産確率を高める影響を与えることを確認している.野田[2008]では,製造業の内部昇進型の企業で,メインバンクのこうした効果が確認されている.また,2 期連続経常赤字が続けば,日本企業であっても無配化と雇用の大幅削減が同時になされることも確認されている(松浦[2001]).資本市場重視の企業行動が雇用調整を早めるかもしれない.

出向企業統治構造の変化にともなって,系列は弱体化したとされる.出向の雇

用調整手段や入職経路としての全体における割合についてはあまり変化が見られない(『労働経済白書』2002, pp. 136-88)とされていたが,離職全体に占める出向+出向からの復帰の割合は,バブル期とほぼ同じ水準まで低下している(図表 3-24).中年(45-59 歳)の経営上の離職理由に占める出向の割合は,90 年代初めまで 20%以上の水準を占めていたが,97 年の 29.3%をピークに 99 年に 15.3%下落したが,最近は 2006 年に 19.5%まで回復している.依然内部労働市場経由の移動経路がいくらか残っているが,グループ内長期取引関係の希薄化や雇用調整対象者との衡平の問題などから内部労働市場の機能が弱まっていく可能性は高い(玄田[2004], pp. 272-273).

グローバル化海外での生産や財の輸入浸透度の拡大など,この間の日本経済のグローバ

ル化は顕著であった.同時に,サービス雇用におけるアウトソーシングは拡大したものの,米国と比べれば低い水準にある.直接的な効果を見ると,輸入競争により,輸入浸透度が高いほど雇用減につながりやすいが,同じ業種

3 構造的失業とミスマッチ 127

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内でも企業によって差異が生じている(冨浦,本シリーズ第 3 巻第 1 章所収).低生産性製造部門からの雇用喪失があったのかどうかについては,直接投資や輸出など経済全体のリンケージのなかで考察する必要がある(樋口[2001],

pp. 241-310).

技術革新日本の企業において,先進的な取り組みもあるのの,全体として急速な

ICT 技術革新の成果を,業務の再構築と一体化して発揮させる余地がある,とくに規模の利益が十分に発揮されていないおそれがある.一方,そうした技術革新が雇用にどのような影響を与えるかは研究途上で,米国では単純労働と高度技能の雇用シェアが増加する効果があるとされている(Goldin and

Katz[2007]).日本でも,高スキル業務と低スキル業務が増加する傾向が見られる(池永[2009]).求められる職務の技能の特殊性や代替される労働力の他部門での雇用可能性など部門間の障壁を規定する要因が技術革新の影響を受けていると見込まれる.

労働保蔵ミスマッチの議論は,産業,地域,職種などの範疇ごとに通常は外部労働

市場における移動の状況を見て議論されることが多い.しかし,企業の内部労働市場における雇用調整圧力や職場のなかのミスマッチについては観察されにくい.日本では,企業の売り上げ低迷により,企業のなかで,雇用が最適生産水準に比し過剰に保蔵されているおそれが強い.企業内のミスマッチは,外部市場における調整に部分的に反映されているが,直接には計測されない.むしろ,マクロ的な最適生産量や個別企業の分析から保蔵量が推計されている(『労働経済白書』2002, pp. 178-89).あるいは,価格(賃金)の面から見ると,年功制の賃金制度が弱まっているとされるが,依然,企業内での中高年労働者の賃金がその生産性に比し高いといわれる.大卒ホワイトカラーの雇用問題とは,賃金が調整される合理的なプロセスのことであり,企業内賃金体系の変化は,企業内ミスマッチを反映した動きといえる.

128

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要素配分と生産性塩路悦朗は,部門間や企業間の資源再配分機能の低下がマクロ的な全要素

生産性低下に与えるインパクトへの関心が高まっているとしている(日本経

済学会 2006 年度秋季大会パネルデイスカッションにおける議論,市村ほか[2007],

pp. 220-221).宮川[2003]は,Lilien のばらつき指標をむしろ生産要素の流動性を示す指標ととらえ,資金面も含め 90 年代にその低下が見られ,そうした不適正な資源配分が生産性上昇の停滞につながった可能性を主張している.生産要素の配分効果も含めた労働生産性上昇率についても,最近の労働生産性低下の要因には労働市場での資源配分のゆがみが寄与していると整理している42).

5.3 労働市場調整と構造的失業長期失業長期失業者(1 年以上の失業期間)の失業者に占める割合は,32%に届い

ている.増加への寄与は,年齢構成では若年労働力が,学歴では高卒者が大きい.また,理由別では倒産・解雇による失業者は失業期間が長期化する傾向がある(篠崎[2004],『労働経済白書』2002, pp. 165-170).中高年労働者では,失業期間が長期化するとともに,就職活動の非活発化がみられるほか,転職後賃金の低下が生じる(玄田[2004], pp. 276-281).失業者側では就労意欲の低下や能力低下のおそれがある一方,採用側へ負のシグナリングとなる.長期失業が,履歴現象を通して構造的失業につながる可能性がある.

非正規労働の増加非正規雇用者の割合は,労働力調査で見ると 32%まで増加している.そ

の背景には,企業が直面する需要変動の拡大,企業側の人件費抑制,労働者の就業選好の変化などがあると見られる(太田・玄田・照山[2008], p. 61).不安定な雇用関係にあるため定着率が低いこと,好況期には長時間労働化する一方不況期には正規社員に優先して解雇されること,男性若年では消極的理由から就業が選択されており,勤続年数にともない男性の賃金では格差が拡

3 構造的失業とミスマッチ 129

42) 米国では,90 年代の生性上昇の分析をサーベイして,その大きな部分が雇用者の再配分に帰することができるとしている(Bartelsman and Doms[2000]).

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大していくこと,また,知識・技能の習得や訓練において差があることが指摘される(『経済財政白書』2007, p. 243,太田・玄田・照山[2008], p. 62).部門間ショックの観点だけから見ると,就業先への特殊性(specificity)が小さいだけ,本来構造ショックからの影響は受けにくいはずである.しかし,技能の蓄積が小さいだけに,グローバル化による輸入代替の影響を被りやすく,また,各企業へのショックに対しても雇用調整の対象となりやすいと見られる.

6 結び

構造的失業の動向構造的失業については,マクロの景気動向と明確に分離しがたいという問

題やモデルに先験的な前提の制約があるなかで研究が進められてきたが,構造的失業の水準がどの程度かについて統一的な証左はない.概観すると,構造的失業は UV 分析や自然失業率を用いたフィリップス曲線によれば 2000年代初頭まで増大していたとの試算もできる.フロー分析は,90 年代の労働移動に産業による制約があったことを示唆する.時系列分析は,ミクロ・ショックによる均衡失業率の増加を支持する傾向がある.

部門間移動仮説については,部門間ショックが,人的資本特殊性の強い男子高齢労働者の失業を増加させたり,景気下降局面で失業を増加させていた可能性がある.求人求職の分布等に基づくミスマッチ指標からは,その拡大は見られずむしろ 90 年代に縮小傾向がある.地域別の雇用情勢のばらつきは 2000 年代に拡大している.求人と求職のマッチングは,情報の非対称性が効率を減じている.柔軟性や透明性に欠きマッチング効率の低い制度のもとでは,景気循環を超えた労働供給や需要面での変化が,部門間のミスマッチを増加させている可能性が考えられる.外部労働市場に顕現化せず内部労働市場にとどめられたミスマッチは生産性を低めた.労働力不足の展望のもとで,若年労働が,非正規労働に長くとどまっていたり非就業化しているミスマッチは,今後の成長力を損なうおそれがある.日本における失業について,ミスマッチによる構造的失業が増加していると断定されないが,マッチングが失業に与える影響について明らかになりつつある

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政策への含意雇用対策には,本稿で見たような産業別・地域別・企業別のショックから

生じる構造的失業への対策を考える立場と,名目賃金の硬直性による非自発的失業に重きを置いて総需要管理政策を考える立場とがある(大竹[2003]).総需要不足失業とともに構造的失業がかなり存在するという前提のもと,大竹・太田[2002]は,構造的失業対策として,失業保険制度改革,職業訓練制度改革,マッチング機能強化,ワークシェアリング,公的サービスによる雇用創出,労働移動促進,解雇法制の点検を提言している.樋口・阿部・児玉[2005](pp. 407-421)は,マッチング機能から見て,情報の非対称性,人的資本の蓄積可能性,求人求職の交渉上の地歩の差に注目した外部労働市場の強化が必要だとしている.ミクロ的労働市場の効率改革を通じ,若年者をはじめとした人的資本の質の改善と事業における活用のマッチングを同時に進めていくことが日本経済にとって重要である.

今後の研究今後の構造的失業やミスマッチに関する研究の発展としては,3 つの分野

が考えられる.1 つは,パネルやフロー・データを用いた,個別の労働者のマッチング態様や移動行動の分析によりマッチング機能がどのように作用しているかをより明らかにすることである.その際,労働市場の内外で起きている変化がどのようにマッチング効率に影響しているか明らかになることが望ましい.2 つに,投入要素の 1 つである労働力の特殊性がどうして発生しているか,資本や技術などの特殊性 specificity との関係を明らかにしながら,部門ごとの仕事の発生や消失がどのように生じているか分析することである43).これは,部門の意味をより明確化させることになる.3 つに,マッチングにはやはり需給のさまざまな要因が影響している.労働市場全体の同時決定的な枠組みのなかでマッチングを位置づけることである44).

3 構造的失業とミスマッチ 131

43) Caballero[2007]は,関係特殊性と技術特殊性に特殊性を分けたうえで,ミクロ的なリストラクチャリングとマクロ景気循環の関係をモデルにより説明している.

44) Shimer[2007]は,ミスマッチを陽表的に失業発生の原因としてとらえて,個別市場における労働需給(失業・欠員)の動向を説明するモデルを設け,米国の失業や欠員に関する実証研究と定量的に整合的な結果を得ている.

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