3.1.3 崩壊余裕度評価法の整備 - 京都大学 ·...

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59 3.1.3 崩壊余裕度評価法の整備 3.1.3.1 鉄骨造高層建物崩壊予測のための部材実験 (1) 業務の内容 (a) 業務の目的 企業の本社機能の多くを占める高層鉄骨事務所建物や都心のマンションに多用される 鉄筋コンクリート(以下、RC と称す)建物が、特に長周期地震動または直下地震を受け たときの損傷の進展と崩壊に至るまでの余裕度を、部分構造物に対する構造実験、高度数 値解析から明らかにする。 (b) 平成24年度業務目的 ・平成 25 年度に実施が予定される鉄骨造高層建物を対象とする大型振動台実験の試験 体を想定し、そこに用いる部材がもつ保有性能を明らかにするための要素試験、縮小 試験体を用いることの妥当性を明らかにする寸法効果確認試験を実施し、大型振動台 実験計画に有用な基礎データを蓄積する。 (c) 担当者 所属機関 役職 氏名 メールアドレス 京都大学 教授 准教授 技術職員 吹田啓一郎 聲高 裕治 藤平 剛久 [email protected] (2) 平成24年度の成果 (a) 業務の要約 平成 25 年度に実施する振動台実験の試験体として設計された 18 層の鉄骨造高層建物の 1/3 縮小骨組の力学的挙動を把握し、振動台実験における試験体の応答ならびに崩壊挙動 を予測するのに必要なデータを取得し、試験体骨組の設計・製作上の問題点の抽出と次年 度実験に向けた対応のために、要素実験と寸法効果確認実験の 2 種類の実験を実施し、以 下の検討を行った。 ・本研究の目的に鑑みて振動台実験で検討対象とする高層鋼構造骨組に付与すべき特性を 検討した。その特徴を盛り込んで設計された想定高層骨組ならびにその 1/3 に縮小試験 体骨組について、振動台実験に用いる入力地震動による時刻歴応答解析の結果を分析し、 要素実験と寸法効果確認実験の試験体の設計ならびに載荷条件の設定を行った。 ・要素実験として、実大骨組と縮小骨組の梁端接合部を対象とする載荷実験を実施し、海 溝型地震による応答を模した一定振幅繰返し載荷実験により基本的な復元力特性と破 壊性状に関するデータを取得した。 ・要素実験として、縮小試験体の柱部材を対象とする載荷実験を実施し、海溝型地震によ る応答を模した一定振幅繰返し載荷実験と大変形時の挙動を把握するための漸増振幅 繰返し載荷実験により、柱部材の劣化域を含む基本的な復元力特性と破壊性状に関する

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59

3.1.3 崩壊余裕度評価法の整備

3.1.3.1 鉄骨造高層建物崩壊予測のための部材実験

(1) 業務の内容

(a) 業務の目的

企業の本社機能の多くを占める高層鉄骨事務所建物や都心のマンションに多用される

鉄筋コンクリート(以下、RC と称す)建物が、特に長周期地震動または直下地震を受け

たときの損傷の進展と崩壊に至るまでの余裕度を、部分構造物に対する構造実験、高度数

値解析から明らかにする。 (b) 平成24年度業務目的

・平成 25 年度に実施が予定される鉄骨造高層建物を対象とする大型振動台実験の試験

体を想定し、そこに用いる部材がもつ保有性能を明らかにするための要素試験、縮小

試験体を用いることの妥当性を明らかにする寸法効果確認試験を実施し、大型振動台

実験計画に有用な基礎データを蓄積する。 (c) 担当者

所属機関 役職 氏名 メールアドレス 京都大学 教授

准教授

技術職員

吹田啓一郎

聲高 裕治

藤平 剛久

[email protected]

(2) 平成24年度の成果

(a) 業務の要約

平成 25 年度に実施する振動台実験の試験体として設計された 18 層の鉄骨造高層建物の

1/3 縮小骨組の力学的挙動を把握し、振動台実験における試験体の応答ならびに崩壊挙動

を予測するのに必要なデータを取得し、試験体骨組の設計・製作上の問題点の抽出と次年

度実験に向けた対応のために、要素実験と寸法効果確認実験の 2 種類の実験を実施し、以

下の検討を行った。 ・本研究の目的に鑑みて振動台実験で検討対象とする高層鋼構造骨組に付与すべき特性を

検討した。その特徴を盛り込んで設計された想定高層骨組ならびにその 1/3 に縮小試験

体骨組について、振動台実験に用いる入力地震動による時刻歴応答解析の結果を分析し、

要素実験と寸法効果確認実験の試験体の設計ならびに載荷条件の設定を行った。 ・要素実験として、実大骨組と縮小骨組の梁端接合部を対象とする載荷実験を実施し、海

溝型地震による応答を模した一定振幅繰返し載荷実験により基本的な復元力特性と破

壊性状に関するデータを取得した。 ・要素実験として、縮小試験体の柱部材を対象とする載荷実験を実施し、海溝型地震によ

る応答を模した一定振幅繰返し載荷実験と大変形時の挙動を把握するための漸増振幅

繰返し載荷実験により、柱部材の劣化域を含む基本的な復元力特性と破壊性状に関する

60

データを取得した。 ・寸法効果確認実験として、振動台実験に用いる縮小骨組の特性を代表する部位として梁

部材、柱部材、接合部パネルで構成される部分架構試験体を製作し、縮小骨組の実現に

必要な設計・製作上の問題点を抽出した。また、これと対応する縮小梁端接合部試験体

とあわせて実施した載荷実験では、海溝型地震による応答を模した一定振幅繰返し載荷

による復元力特性と破壊性状を把握することにより、要素実験の結果と比較しながら縮

小試験体を用いることの妥当性を検討した。 以上により、振動台実験計画に有用な試験体骨組の設計、施工、力学特性に関する基礎

データを蓄積し、実験に適した計画を策定できる目処が得られた。

(b) 業務の成果

1) 振動台実験試験体骨組の構造特性と要素実験・寸法効果確認実験試験体の設計

a) 振動台実験に用いる試験体骨組の特性

都市における鉄骨造高層建物の想定を超える地震動に対する挙動を把握するために、振

動台実験により地震時挙動を再現して崩壊過程を明らかにすると共に、建物が保有する崩

壊余裕度を定量化する。対象とする高層建物は 1980 〜1990 年代に建設された 15 〜20 層

程度の均等ラーメン構造を模擬するもので、梁降伏先行による全層崩壊型とするために柱

梁耐力比は 1.5 倍程度とし、また柱梁接合部の詳細は 1995 年兵庫県南部地震以前の設計・

施工プラクティスを念頭において計画する。このような鉄骨造高層建物は制振ダンパーな

どのエネルギー吸収要素を持たずに柱梁の主要な構造部材の塑性化による地震エネルギー

の吸収を期待して設計されることが多い。そのため、特に南海トラフを震源とする海溝型

地震で予想される継続時間の長い長周期地震動を受けたときには、梁端部に塑性ヒンジが

形成されて多数の繰返し塑性変形を受けることにより破断に至る可能性がある。その結果、

このような高層建物が崩壊に至るシナリオとして、多数の梁端破断を伴って層間変位が増

大するとともに柱は長柱化して下層部に変形が集中し、柱の曲げ座屈や破断が発生して骨

組全体として不安定な大変形領域に入り、さらにPΔ効果による付加曲げも作用して骨組

が倒壊に至ることが想定される。

b)要素実験ならびに寸法効果確認実験の試験体

高層鋼構造骨組が倒壊に至る挙動を分析するために、骨組構成部材の履歴特性を把握す

る必要がある。特に、梁端接合部については梁がある程度の塑性化を伴う大きな振幅で多

数の繰返し変形を受ける場合、柱部材については高軸力や変動軸力下での繰返し曲げを受

けて局部座屈や破断による劣化を伴う場合の挙動が重要となる。このような条件下におけ

る挙動を把握するために梁端接合部、柱部材の要素実験を実施する。また振動台実験に用

いる試験体は、想定する骨組を 1/3 に縮小するものであり、溶接組立部材の製作や柱梁接

合部の現場施工については縮小することが困難で実大のままで製作しなければならない部

分もある。そのため、縮小骨組と同じ条件の柱梁接合部を含む部分架構試験体を製作して

その実現性を確認する。また、他の梁端接合部試験体の性能と比較して縮小による影響や

想定する実大骨組の再現性を確認する。

試験体に用いた鋼材の引張試験結果を表 1 にまとめる。試験片はいずれも JIS Z2241 1A

剛試験片である。また、柱試験体については、別途、短柱圧縮試験により圧縮降伏応力を

61

調べた。その結果は表 2 に示すとおりである。

表 1 試験体鋼材の機械的性質

部位

鋼種

上降伏点

[N/mm2]

下降伏点

[N/mm2]

引張強さ

[N/mm2]

降伏比

[%]

破断伸び

[%]

絞り

[%]

実大梁フランジ

SM490A

1 342 325 513 66.7 32.7 35.1

2 335 331 513 65.3 31.8 37.1

平均 339 328 513 66.1 32.3 36.1

実大梁ウェブ

SM490A

1 387 381 503 76.9 29.4 41.4

2 377 375 499 75.6 30.4 40.6

平均 382 378 501 76.2 29.9 41.0

実大柱フランジ

SM490A

1 342 336 512 66.8 31.5 67.3

2 347 327 507 68.4 32.2 66.4

平均 345 332 510 67.6 31.9 66.9

縮小梁フランジ

SM490A

1 357 343 512 69.7 27.0 57.6

2 360 335 509 70.7 26.8 42.8

平均 359 339 510 70.4 26.9 50.2

縮小梁ウェブ

SM490A

1 404 397 557 72.5 23.1 61.2

2 403 395 556 72.5 21.9 56.2

平均 404 396 557 72.5 22.5 58.7

縮小柱フランジ

SM490A

1 403 390 536 75.2 24.4 51.5

2 392 382 544 72.1 23.5 51.9

平均 398 386 540 73.7 24.0 51.7

縮小シヤープレ

ート

SM490A

1 446 427 570 78.2 18.1 58.2

2 442 430 571 77.4 21.4 54.9

平均 444 429 571 77.8 19.8 56.6

表 2 短柱圧縮試験結果

降伏点(裏当て金無視) 降伏点(裏当て金考慮)

1 533 414

2 550 428

平均 542 421

(単位:N/mm2,いずれも 0.2%オフセット値)

i) 実大ト字形梁端接合部試験体

要素実験のための、縮小骨組の元となる 18 層実大骨組低層部の梁端接合部を対象とする

ト字形試験体である。梁は BH-800×250×19×36、柱は溶接組立□—550×550×36 で、鋼種

はいずれも SM490A を用いている。通しダイアフラムは、板厚が 45mm、鋼種は SM490A であ

62

る。梁端の溶接は現場溶接形式で、ウェブは高力ボルト接合である。この試験体をLTシ

リーズと呼び、試験体の全体を図 1、梁端接合部の詳細を図 2 に示す。柱心から梁の載荷

点までの距離は 3539mm で、梁の実長のシアスパン比は 3.86 である。

3539

1539 1500 500

2100

12-S10T M22

PL-19(SM490A)

−550×550×36(SM490A)

PL-45(SM490A)

1050

H-800×250×19×36(SM490A)

1050

35R+10R

シヤープレートPL-19(SM490A)

7070

7070

7040

430

160

3636 30

604020

45

4040

S10T M22

図 1 実大ト字形梁端接合部試験体LT(単位:mm) 図 2 接合詳細(単位:mm)

柱が溶接組立の箱形断面の場合、実際の鉄骨造建物では柱梁接合部にエレクトロスラグ

溶接により内ダイアフラムを接合するのが一般的である。本研究では実大の 1/3 の縮小試

験体では柱の鋼管板厚が小さく、断面寸法も小さいためにエレクトロスラグ溶接による製

作は困難である。そのため、縮小試験体のダイアフラム形式は通しダイアフラムを用いて

おり、これに合わせて、実大試験体でも通しダイアフラム形式を用いている。

上下フランジとも内開先とし、スカラップは 35R+10R の複合円形式で、ガス切断後にグ

ラインダにより滑らかに仕上げている。梁フランジ溶接部の詳細と施工条件は現行の

JASS61)に準拠するが、フランジ表側に配置された裏当て金(FB-9×25,SM490A)の組立溶

接はフランジ表側に行っている。溶接方法は CO2 半自動溶接で溶接ワイヤーは YGW11,φ1.2

であり、入熱量 15~25KJ/cm ,パス間温度 250°以下に管理して製作した。エンドタブは

セラミック製の固形タブである。

BH 製作のサブマージアーク溶接には、開先角度 60°,深さ 6mm の開先を両面に設け、脚

長は 12mm としている。溶接ワイヤーは YS-S6(径 4.8mm),フラックスは FS-FP1(粒度 12

×48)を用い、溶着金属の品質区分は JIS Z3183 の S501-H に該当する。BH を先組みした

後に開先とスカラップ加工を行っており、スカラップ部分の回し溶接は行っていない。 梁

ウェブの高力ボルト接合部の設計は、梁の終局時のせん断力に対してすべり耐力を確保す

る設計としており、終局時の曲げモーメントは考慮しない設計としている。これは、せん

断力だけを考慮した設計が実務で採用されてきたことを反映したものである。シヤープレ

ートは板厚 19mm の SM490A 材を用い、高力ボルトはトルシア形 S10T M22 を 12 本使い、図

2 に示すように配置している。

試験体の部材と接合部の耐力について、表 1 の素材引張試験による材料強度に基づく値

を以下に示す。

部材の耐力は次のとおりである

梁の全塑性モーメント: bMp = 3227 kN•m

63

パネルの全塑性モーメント: pMp = 5310 kN•m

柱の全塑性モーメント: cMp = 4062 kN•m

梁の全塑性時回転角の弾性成分: bθp = 0.00623 rad 梁端接合部の最大曲げ耐力は次のとおりである。 フランジ接合部の最大曲げ耐力: jMfu = 3527 kN•m 梁端接合部の最大曲げ耐力: jMu = jMfu + jMwu = 3733 kN•m 接合部係数: jMu / bMp = 1.16 鋼構造接合部設計指針 2)による標準値 1.20 を満足しない設計となっているが、これはウ

ェブ高力ボルト接合部を曲げモーメントを考慮せずに設計したことによる。 ⅱ) 縮小ト字形梁端接合部試験体

要素実験のため、振動台実験に用いる縮小骨組の梁端接合部を取り出したト字形試験体

で、実大梁端接合部試験体LTを 1/3 に縮小した形状・寸法である。梁は BH-270×85×6

×12、柱は溶接組立□-200×200×12 で、鋼種はいずれも SM490A である。通しダイアフラ

ムは板厚が 19mm で鋼種が SM490A である。この試験体をSTシリーズと呼ぶ。試験体の全

体を図 3 に、梁端接合部の詳細を図 4 に示す。柱心から梁の載荷点までの距離は 1067mm

で、梁の実長のシアスパン比は 3.58 である。

梁端接合部の接合形式は実大のLTシリーズと同じ通しダイアフラム形式の現場溶接で

あり、ウェブは高力ボルト接合である。接合部の寸法については、スカラップ、裏当て金、

エンドタブなどの溶接詳細や高力ボルトの寸法は縮小できないために実大となっているが、

梁端の最大曲げ耐力に関する接合部係数などの接合部に関する力学性能のバランスは実大

梁端接合部と整合させて設計した。

上下フランジとも内開先で、スカラップは 35R+10R の複合円型である。梁フランジ溶接

部の詳細と施工条件は現行の JASS61)に準拠し、フランジ表側に配置された裏当て金(FB-9

×25,SM490A)の組立溶接はフランジ表側に行っている。溶接方法は CO2 半自動溶接で溶

接ワイヤーは YGW11,φ1.2 であり、入熱量 15~25KJ/cm ,パス間温度 250°以下に管理し

て製作した。エンドタブはセラミック製の固形タブである。

BH 製作のサブマージアーク溶接は開先を設けず脚長は 5mm である。溶接ワイヤーはワイ

ヤーYS-S(径 4.8mm),フラックスは SFMS1(粒度 12×48)を用い、溶着金属の品質区分は

JIS Z3183 の S502-H に該当する。BHを先組みした後に開先とスカラップ加工を行っており、

スカラップ部分の回し溶接は行っていない。

梁ウェブの高力ボルト接合部の設計は、梁の終局時のせん断力に対してすべり耐力を確

保する設計で、終局時の曲げモーメントは考慮しない設計としている。これは、実大の梁

端接合部試験体CTと同じ設定である。シヤープレートは板厚 6mm の SM490A 材を用い、高

力ボルトはトルシア形 S10T M16 を 3 本使い、図 4 に示すように配置している。

64

70

12 15

10 30 30

3040

4030

35R+10R

1219

シヤープレートPL-6(SM490A)

140

S10T M16

図 3 縮小ト字形梁端接合部試験体ST(単位:mm) 図 4 接合詳細(単位:mm)

試験体の部材と接合部の耐力について、表 1 の素材引張試験による材料強度に基づく値

を以下に示す。

部材の耐力は次のとおりである

梁の全塑性モーメント: bMp = 125 kN•m

パネルの全塑性モーメント: pMp = 251 kN•m

柱の全塑性モーメント: cMp = 237 kN•m

梁の全塑性時回転角の弾性成分: bθp = 0.00589 rad 梁端接合部の最大曲げ耐力は次のとおりである フランジ接合部の最大曲げ耐力: jMfu = 134.2 kN•m 梁端接合部の最大曲げ耐力: jMu = jMfu + jMwu = 141.1 kN•m 接合部係数: jMu / bMp = 1.13 鋼構造接合部設計指針 2)による標準値 1.20 を満足しない設計となっており、実大梁端接

合部のCTシリーズの 1.16 に近い値となっている。 ⅲ) 縮小柱部材試験体

要素実験のため、振動台実験に用いる縮小骨組の下層部 1 層分の柱を取り出した試験体

である。図 5 に示すように、材長は 1120mm,断面は溶接組立の□-200×200×12,鋼種は

SM490A である。柱部材は板厚 12mm の鋼板をサブマージアーク溶接により箱形断面に製作

したもので、角溶接の裏当て金には 25mm 角の棒鋼を用いている。通しダイアフラムを想定

したエンドプレート(板厚 40mm,鋼種 SM490A)を、両端に完全溶込み溶接によって取り付

け、載荷装置にはエンドプレートを高力ボルトで接合する。

柱部材の実験では水平力の作用方向を柱断面に対して 0°と 45°とする 2 種類の載荷を

用いるため、試験体はエンドプレートに対する取付角度の異なる 2 種類がある。図中の断

面に示す矢印はこの水平力の載荷方向を示す。

柱試験体の耐力は次のとおりである。

降伏軸力 (0°,裏当て金考慮): c Ny = 4448kN

全塑性モーメント (0°,裏当て金無視): cM p = 237kN⋅m

(0°,裏当て金考慮): cM p = 310kN⋅m

全塑性モーメント(45°,裏当て金無視): cM p = 223kN⋅m

(45°,裏当て金考慮): cM p = 278kN⋅m

65

(a) 0°方向載荷試験体 (b) 45°方向載荷試験体

図 5 縮小柱部材試験体(単位:mm)

iv) 縮小十字形部分架構試験体

寸法効果確認実験のため、振動台実験に用いる縮小骨組の特性を代表する部位として設

定されたもので、中柱の柱梁接合部を中心に梁部材、柱部材、接合部パネルで構成される

十字形部分架構試験体である。縮小骨組の鉄骨製作と施工方法の確認および載荷実験によ

る力学性能の確認を行うのが目的である。

このシリーズをSCと呼び、試験体の形状を図 6 に示す。梁は BH-270×85×6×12,柱

は溶接組立□-200×200×12 で鋼種はいずれも SM490A であり、通しダイアフラムは板厚が

19mm で鋼種が SM490A である。梁端接合部の接合形式は通しダイアフラム形式の現場溶接

であり、ウェブは高力ボルト接合である。これらの部材および接合部の設計は縮小ト字形

梁端接合部試験体のSTシリーズと同じである。柱心から梁の載荷点までの距離は 1125mm

で、梁の実長のシアスパン比は 3.80 であり、STシリーズよりやや大きい。

試験体の部材と接合部の耐力について、表 1 の素材引張試験による材料強度に基づく部

材の耐力を以下に示す。

梁の全塑性モーメント: bMp = 125 kN•m

パネルの全塑性モーメント: pMp = 251 kN•m

柱の全塑性モーメント: cMp = 237 kN•m

梁の全塑性時回転角の弾性成分: bθp = 0.00612 rad STシリーズとの違いは接合部パネルの両側に 2 本の梁が接合されている点であり、接

合部パネルに作用するせん断力が大きいため、終局時には梁と接合部パネルの 2 つの構造

要素が塑性化することになる。柱、梁、パネルが全塑性状態となるときの柱せん断力を、

上述の実耐力から計算すると、cQp = 398kN,bQp = 188kN,pQp = 244kN となる。最初に

梁が塑性化し、歪硬化により耐力が上昇すると接合部パネルが降伏する設定となっている。

また、柱梁耐力比は 2.12,柱パネル耐力比は 1.45 であるから、柱は弾性に留まる。

66

図 6 縮小十字形部分架構試験体SC(単位:mm)

c) 載荷方法の検討

i) ト字形梁端接合部試験体、十字形部分架構試験体の載荷方法

図 7 に実大ト字形梁端接合部試験体の載荷装置、図 8 に縮小ト字形梁端接合部試験体の

載荷装置、図 9 に縮小十字形部分架構試験体の載荷装置を示す。

本研究の対象は海溝型地震による長周期地震動を受ける高層鉄骨構造建物の応答であ

る。このような応答を時刻歴応答解析により検討した研究を見ると、例えば文献 3)のよう

に、層間変形角の最大応答は 2 次設計のクライテリアである 0.01rad と同等かこれをやや

超える程度であり、最も塑性変形の大きい部材である梁の塑性率は 2〜4 程度となることが

指摘されている。また、内陸直下地震との大きな違いは、多数の繰返し塑性変形を受ける

ことにより塑性化した部材の累積塑性変形倍率が 10 倍以上大きくなる点である。このよう

にある程度の大きな塑性変形を繰り返し受けた場合、梁端溶接部では、早期の脆性破断を

防ぐことができたとしても、延性亀裂の進展により梁端接合部に破断が生じることが文献

4)や 5)などの実験で明らかにされている。

3264

3539

2000 2000

横補剛

正 負

上フランジ 下フランジ

1500

1539

図 7 実大ト字形梁端接合部(LT)の載荷装置(単位:mm)

67

正 負

1500

967

1067

1000

567

横補剛

上フランジ 下フランジ

図 8 縮小ト字形梁端接合部(ST)の載荷装置(単位:mm)

1125 1125

730

730

540

298

814

158

横補剛

正 負

500 625 625 500

北側 南側

図 9 縮小十字形部分架構(SC)の載荷装置(単位:mm)

このような海溝型長周期地震動特有の破壊現象を検討の対象とするため、梁端接合部の

塑性化が進行する実験では、一定の振幅による繰り返し載荷を採用する。文献 5)〜8)の研

究では、塑性率 1.2〜4.0 の範囲で塑性率と破断までの繰返し数や累積塑性変形倍率に相関

関係があることが示されている。本実験では、このような関係を得るために塑性率 1.5 お

よび 3.0 の 2 種類の振幅による一定振幅載荷を行う。

ⅱ) 縮小柱部材試験体の載荷方法

図 10 に柱部材試験体の載荷装置を示す。多数回の繰返し塑性変形に対する変形能力を把

握するため、振幅を一定とする繰返し載荷を行い、破断や局部座屈に起因する耐力の劣化

の過程やその要因を分析する。振幅の大きさは部材角の塑性率が 3 程度の 0.015rad とその

2 倍の塑性率である 0.03rad の2とおりを採用する。また、一定振幅載荷の振幅を超える

大変形域での柱の挙動や終局限界状態を確認するための漸増振幅繰返し載荷も行う。載荷

履歴は図 11 に示すように、弾性域に相当する 0.005rad を 1 サイクル載荷後、0.01rad か

ら始まって塑性率 2 に相当する 0.01rad ずつ振幅を増大させ、最大耐力の 60%程度に耐力

が低下するまで正負 2 回ずつ繰り返す。

図 12 に柱軸力の設定を示す。別途実施した 18 層縮小試験体骨組の時刻歴応答解析結果

に基づき、中柱では軸力比-0.3(圧縮)の一定軸力、外柱では軸力比-0.9(圧縮)〜0.3

68

(引張)の範囲で軸力を変動させる。変動軸力の場合、水平油圧ジャッキの載荷荷重に応

じて軸力を低御する。一定振幅繰返し載荷実験では一定軸力下での挙動を確認し、漸増振

幅繰返し載荷実験では一定軸力と変動軸力の 2 種類の載荷行い、終局限界状態に及ぼす軸

力の影響を確認する。

図 10 縮小柱部材実験の載荷装置(単位:mm)

図 11 漸増振幅載荷履歴 図 12 柱軸力の設定

ⅲ)要素実験と寸法効果確認実験

要素実験と寸法効果確認実験のすべての実験を表 3 に示す。

要素実験は梁端接合部実験と柱部材実験からなる。梁端接合部実験では、対象とする高

層鉄骨造建物の梁端接合部の性能を把握するために実大ト字形梁端接合部試験体(LT)

を 2 種類の一定振幅により載荷し、破壊性状と塑性変形性能を確認する。また、これに対

応する振動台実験の試験体骨組から取り出した縮小ト字形梁端接合部試験体(ST)1体

について、特に塑性率 3.0 とやや大きい振幅で載荷し、実大試験体と同様に破壊性状の特

徴を把握する。柱部材実験は、載荷方法の異なる 6 種類の実験により、振動台実験の試験

体骨組の崩壊に影響する柱の劣化域を含む挙動を把握する。

寸法効果確認実験は、振動台実験の試験体骨組の柱、梁、接合部パネルで構成される縮

小十字形部分架構試験体を対象に 2 種類の一定振幅により載荷し、その破壊性状と塑性変

69

形性能を把握することにより、縮小試験体において想定する崩壊機構が形成されることを

確認する。また、これに対応する縮小ト字形梁端接合部試験体(ST)1体について、特

に塑性率 1.5 と地震応答で最も多く経験すると予想されるレベルの振幅に対する変形性能

を確認し、十字形部分架構試験体における梁端接合部の性能が、ト字形の梁端接合部試験

体によって検証可能であるかを確認する。

表 3 実験一覧

実験 部位 試験体 水平力載荷 軸力載荷

パターン 振幅 * 方向 パターン 軸力比

要素実験

梁端

LT-1 一定振幅 3.0 bθp - - -

LT-2 一定振幅 1.5 bθp - - -

ST-1 一定振幅 3.0 bθp - - -

柱部材

BCC0-1 一定振幅

0.015rad 0° 一定軸力 圧縮 0.3

BCC0-2 0.030rad 0°

BIC0

漸増振幅 図 11

0° 一定軸力 圧縮 0.3

BIC45 45°

BIV0 0° 変動軸力

圧縮 0.9

〜引張 0.3 BIV45 45°

寸法効果

確認実験

部分

架構

SC-1 一定振幅 3.0 bθp - - -

SC-2 一定振幅 1.5 bθp - - -

梁端 ST-2 一定振幅 1.5 bθp - - -

* bθp は梁の全塑性時回転角の弾性成分

2) 梁端接合部の要素実験

a) 実大梁端接合部実験

i) 塑性率 3 の大振幅載荷実験(LT-1)

実験から得られた梁の履歴曲線を図 13 に示す。載荷中に観察された損傷過程は、1 サイ

クル目に上フランジのスカラップ底に亀裂の発生が認められ、3 サイクル目に下フランジ

側にも亀裂が発生し、3 サイクル目に上フランジが母材で脆性的に全面破断した。実験後

の破壊状況を図 14 に示す。

ⅱ) 塑性率 1.5 の小振幅載荷実験(LT-2)

実験から得られた梁の履歴曲線を図 15 に示す。載荷中に観察された損傷過程は、2 サイ

クル目に上、下フランジのスカラップ底にかすかな亀裂の兆候が認められ、下フランジは

6 サイクル目、上フランジは 12 サイクル目に明瞭な亀裂が発生した。68 サイクル目に上フ

ランジが母材で脆性的に全面破断した。実験後の破壊状況を図 16 に示す。

70

-4000

-2000

0

2000

4000

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

bM [kN•m]

θb [rad]

図 13 梁の曲げモーメント–回転角関係 図 14 実験後の上フランジの破壊状況

-4000

-2000

0

2000

4000

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

bM [kN•m]

θb [rad]

図 15 梁の曲げモーメント–回転角関係 図 16 実験後の上フランジの破壊状況

b) 縮小梁端接合部実験

i) 塑性率 3 の大振幅載荷実験(ST-1)

実験から得られた梁の履歴曲線を図 17 に示す。載荷中に観察された損傷過程は、3〜4

サイクル目に上,下フランジのスカラップ底に亀裂の発生が認められ、7〜8 サイクル目に

これらの亀裂がフランジ板厚方向に貫通してフランジ表に達して顕著な耐力低下が見られ

た。その後、繰返しに伴って亀裂がフランジ幅方向に伸びると共に耐力が低下し、10 サイ

クル目に上フランジ、13 サイクル目に下フランジがそれぞれ母材で延性的に全面破断した。

実験後の破壊状況を図 18 に示す。

-200

-100

0

100

200

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

bM [kN•m]

θb [rad]

図 17 梁の曲げモーメント–回転角関係 図 18 実験後の上フランジの破壊状況

71

c) 梁端接合部の要素実験による変形能力

梁端接合部を対象とする要素実験で得られた溶接部破断までの繰返し数と載荷振幅の関

係を図 19 に示す。図中の実線は文献 6),8)等の既往の実験によるスカラップ形式の梁端接

合部の結果を回帰分析した平均的な性能を示す。実大梁端接合部についてみると、塑性率

1.5 の LT-2 は既往の研究と同程度の平均的な性能であるが、塑性率 3.0 の LT-1 はかなり

変形能力が低いことが分かる。それに対して縮小試験体の ST-1 は平均的な性能を示してい

る。既往の研究では断面の大きい H-800×300 の方が平均的に変形能力が高いことから、こ

の差は試験体寸法の影響と考えるよりも、LT-1 の早期脆性破断の要因によるものと考えら

れる。その要因としては文献 9)に指摘されているサブマージアーク溶接の破壊靭性が低い

ことが考えられる。

1

10

100

1 2 3 4 5

LT-2

LT-1

ST-1

H-8 0 0×3 0 0

スカラッ プ形式

H-5 0 0×2 0 0

スカラッ プ形式

NF

μ

図 19 梁端接合部の要素実験による変形能力

3) 柱部材の要素実験

a) 一定振幅載荷実験

i) 小振幅載荷実験(BCC0-1)

実験から得られた柱の履歴曲線を図 20 に示す。9 サイクル目に角溶接継目に亀裂が発生

し、61 サイクル目にフランジ全幅が破断した。局部座屈は 11 サイクル目に確認されたが、

その後はほとんど進展していない。実験後の破壊状況を図 21 に示す。

図 20 せん断力−部材角関係 図 21 実験後の破断状況

72

ⅱ) 大振幅載荷実験(BCC0-2)

実験から得られた柱の履歴曲線を図 22 に示す。3 サイクル目に角溶接継目に亀裂が発生

し、13 サイクル目にフランジ全幅が破断した。局部座屈は 3 サイクル目に発生したが、そ

の後の顕著な進展は確認されなかった。実験後の破壊状況を図 23 に示す。

図 22 せん断力−部材角関係 図 23 実験後の破断状況

b) 漸増振幅繰返し載荷実験

i) 一定軸力 0°方向載荷実験(BIC0)

実験から得られた柱の履歴曲線を図 24 に示す。0.03rad の 2 回目に角溶接継目に亀裂が

発生し、0.05rad の 1 回目にフランジ全幅が破断した。局部座屈は 0.05rad の 2 回目に確

認され、その後はほとんど進展していない。実験後の破壊状況を図 25 に示す。

図 24 せん断力−部材角関係 図 25 実験後の破断状況

ⅱ) 一定軸力 45°方向載荷実験(BIC45)

実験から得られた柱の履歴曲線を図 26 に示す。0.02rad の 2 回目で角溶接に亀裂が発生

し、0.04rad の 1 回目に亀裂が角部の板厚方向に貫通した。局部座屈は 0.04rad の 2 回目

に確認され、その後はほとんど進展していない。実験後の破壊状況を図 27 に示す。

ⅲ) 変動軸力 0°方向載荷実験(BIV0)

実験から得られた梁の履歴曲線を図 28 に示す。0.02rad 負側 1 回目で角溶接に亀裂が発

生し、0.04rad 負側 1 回目にフランジ全幅が破断した。局部座屈は 0.01rad 正側 1 回目に

確認されたが、その後はほとんど進展していない。実験後の破壊状況を図 29 に示す。

73

図 26 せん断力−部材角関係 図 27 実験後の破断状況

図 28 せん断力−部材角関係 図 29 実験後の破断状況

ⅳ) 変動軸力 45°方向載荷実験(BIV45)

実験から得られた柱の履歴曲線を図 30 に示す。0.02rad 負側 1 回目で角溶接に亀裂が発

生し、0.03rad 負側 1 回目に亀裂が角部の板厚方向に貫通した。局部座屈は 0.04rad1 回目

に確認され、その後はほとんど進展していない。実験後の破壊状況を図 31 に示す。

図 30 せん断力−部材角関係 図 31 実験後の破断状況

c) 柱部材の要素実験による変形性能

本実験では終局限界状態が柱端部の破断によって決定されているので、局部座屈で性能

が決まる既往の研究とは異なり、最大耐力到達後の劣化が激しい傾向にある。図 32 は、一

定振幅載荷実験で得られた振幅(塑性率μ)と変形性能(累積塑性変形倍率η)の関係を

示したもので、振幅が大きいと変形能力がやや低下する傾向や、最大耐力(Qmax)を超え

74

た劣化領域での累積塑性変形倍率の増大が僅かであることが読み取れる。図 33 に、漸増振

幅載荷実験で得られた累積塑性変形倍率ηを試験体ごとに比較して示す。変動軸力載荷で

は、最大耐力後の耐力低下が著しく、変形性能は一定軸力載荷時の 1/3 程度と低い。また、

0°方向と 45°方向では、若干ではあるが 0°方向載荷の変形性能が低い結果が得られた。

柱部材の要素実験では、いずれも箱形断面柱の角溶接がベースプレートの溶接と交差す

る位置が亀裂の起点となっており、振動台実験に際しては、内ダイアフラム形式に変更す

ることによってこの部分からの亀裂を防止することが望ましい。また、柱の断面性能に与

える角溶接の裏当て金の影響は無視できないため、裏当て金の断面をできるだけ小さくし

て断面性能への影響を小さくすることが必要である。

図 32 一定振幅載荷によるη 図 33 漸増振幅載荷によるη

4) 寸法効果確認実験

a) 縮小十字形部分架構実験

i) 塑性率 3 の大振幅載荷実験(SC-1)

実験から得られた梁、接合部パネル、部分架構全体の履歴曲線を図 34〜37 に示す。載荷

中に観察された損傷過程は、3 サイクル目に左右の梁の上下フランジで全てのスカラップ

底に亀裂の発生が認められた。北側梁は、4 サイクル目にスカラップ底の亀裂が進展して

上下のフランジが母材で脆性的に全面破断した。南側梁は、4 サイクル目に上フランジの

亀裂がフランジ表側に貫通して顕著な耐力低下が見られた。その後、繰返しに伴って亀裂

がフランジ幅方向に進展すると共に耐力が低下し、6 サイクル目に母材で延性的に全面破

断した。実験後の破壊状況を図 38,39 に示す。

-200

-100

0

100

200

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

bM [kN•m]

θb [rad]

-200

-100

0

100

200

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

bM [kN•m]

θb [rad]

-300

-150

0

150

300

-0.01 0 0.01

pM [kN•m]

γb [rad]

図 34 北側梁の履歴曲線 図 35 南側梁の履歴曲線 図 36 パネルの履歴曲線

BCC0-1 BCC0-2

75

-300

-150

0

150

300

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

Q [kN•m]

R [rad]

図 37 部分架構全体の履歴曲線 図 38 北側梁上フランジ 図 39 南側梁上フランジ

ⅱ) 塑性率 1.5 の小振幅載荷実験(SC-2)

実験から得られた梁、接合部パネル、部分架構全体の履歴曲線を図 40〜43 に示す。載荷

中に観察された損傷過程は、11 サイクル目に南側梁に、12 サイクル目で北側梁にスカラッ

プ底の亀裂が発生した。15 サイクル目に南側梁の亀裂がフランジ表側に貫通し、28 サイク

ル目にはフランジ母材の大部分が破断し、32 サイクル目で残りも破断して全面破断に至っ

た。北側梁は下フランジ側で 30 サイクル目に亀裂がフランジ表側に貫通し、42 サイクル

でフランジ母材が延性的に破断した。実験後の破壊状況を図 44,45 に示す。

-200

-100

0

100

200

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

bM [kN•m]

θb [rad]

-200

-100

0

100

200

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

bM [kN•m]

θb [rad]

-300

-150

0

150

300

-0.01 0 0.01

pM [kN•m]

γb [rad]

図 40 北側梁の履歴曲線 図 41 南側梁の履歴曲線 図 42 パネルの履歴曲線

-300

-150

0

150

300

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

Q [kN•m]

R [rad]

図 43 部分架構全体の履歴曲線 図 44 北側梁下フランジ 図 45 南側梁上フランジ

76

b) 縮小梁端接合部実験

i) 塑性率 1.5 の小振幅載荷実験(ST-2)

実験から得られた梁の履歴曲線を図 46 に示す。載荷中に観察された損傷過程は、下フラ

ンジは 15 サイクル目、上フランジは 18 サイクル目にスカラップ底の亀裂が発生した。 33

〜34 サイクル目に亀裂がフランジ板厚方向に貫通してフランジ表に達し、耐力が低下し始

めた。その後、繰返しに伴って亀裂がフランジ幅方向に伸びると共に耐力が低下し、49 サ

イクル目に上フランジが母材で延性的に全面破断した。実験後の破壊状況を図 47 に示す。

-200

-100

0

100

200

-0.02 -0.01 0 0.01 0.02

bM [kN•m]

θb [rad]

図 46 梁の曲げモーメント–回転角関係 図 47 実験後の上フランジの破壊状況

c) 寸法効果確認実験による縮小試験体の破壊性状と変形能力

梁端接合部の要素実験と寸法効果確認実験より得られた変形能力を図 48 にまとめて示

す。寸法効果確認実験で実施した十字形部分架構実験では、振幅が大きい場合(SC-1)に

早期の脆性破断が生じた。亀裂の発生はスカラップ底からの延性亀裂であるが、同時に、

フランジ表側の裏当て金の組立溶接の端部からも延性亀裂が進展し、比較的早期にこの2

つの延性亀裂が進展していることと、特に振幅が大きい場合(SC-1 の北側梁)は、組立溶

接からの亀裂が脆性破断の起点となっていることから、縮小試験体の裏当て金の組立溶接

は、現行の JASS6 に従い、フランジ表面を避けて開先内で行うのが望ましいことを確認し

た。

振幅が塑性率 1.5 程度の場合は、縮小十字形部分架構(SC-2)と縮小梁端接合部(ST-2)

の変形能力はほぼ等しく、梁端接合部試験体で性能を評価できることが分かる。これと、

要素実験の実大梁端接合部(LT-2)もある程度近い変形能力を示していることから、海溝

型長周期地震動に対する応答の繰返し塑性変形による損傷については、十字形部分架構試

験体は一般的なスカラップ形式の梁端接合部の特性と合うことが確認された。

また、塑性率 3.0 の振幅の場合は脆性破断に結びつく要因の影響が現れやすいと見られ

るが、寸法効果確認実験の縮小十字形部分架構(SC-1)や要素実験の縮小梁端接合部(ST-1)

と比較して、要素実験の実大梁端接合部(LT-1)はかなり変形能力が低いことが分かる。

これは要素実験の結果で指摘したように、BH梁の破壊靭性の影響が考えられるため、破

壊靭性や破面観察などの詳細な分析を加えて要因を特定することが重要である。

77

1

10

100

1 2 3 4 5

LT-2

LT-1

ST-1

H-8 0 0×3 0 0

スカラッ プ形式

H-5 0 0×20 0

スカラッ プ形式

NF

μ

SC-2

SC-1

ST-2

図 48 寸法効果確認実験を加えた変形能力

(c) 結論ならびに今後の課題

寸法効果確認実験により、振動台実験用に縮小した骨組の梁の損傷による変形能力は、

梁端接合部試験体を用いて評価できることが示された。また、梁端の現場溶接においては

内開先となるフランジの裏当て金の組立溶接を適切な位置にすることが、変形能力に大き

く影響することが確認された。 要素実験により、梁端接合部および柱部材が多数の繰返し塑性変形を受けた場合の劣化

域を含む復元力特性と変形能力の限界を定量的に把握した。梁端接合部については、BH

梁の破壊靭性に関する検討が必要であること、溶接組立柱については角溶接の裏当て金の

断面を小さくして断面性能への影響を小さくすることと、内ダイアフラム形式に変更する

ことにより角溶接継目からの破断を防止することが望ましいことが確認された。

以上の検討を踏まえて、振動台実験試験体骨組の設計、施工に必要な条件が明らかとな

り、試験体骨組の応答挙動を予測するのに必要な基礎データを蓄積できた。

(d) 引用文献 1) 日本建築学会:建築工事標準仕様書 JASS6 鉄骨工事,2007。 2) 日本建築学会:鋼構造接合部設計指針,第 3 版,2012。 3) 吹田啓一郎,北村有希子,五藤友規,岩田知孝,釜江克宏:高度成長期に建設され

た超高層建物の長周期地震動に対する応答特性,(想定南海トラフ地震の関西地域に

おける予測波を用いた検討),日本建築学会構造系論文集,第 611 号,pp.56-61,2007.1 4) 山田祥平,北村有希子,吹田啓一郎,中島正愛:初期超高層ビル柱梁接合部の実大

実験による耐震性能の検証,日本建築学会構造系論文集,第 623 号,pp.119-126,2008.1

5) 吹田啓一郎,田中剛,佐藤篤司,真鍋義貴,津嘉田敬章,蘇鐘鈺:梁端接合部の最

大曲げ耐力が変形能力に及ぼす影響,(塑性歪履歴を受ける鋼構造柱梁溶接接合部の

変形能力 その1),日本建築学会構造系論文集,第 76 巻第 664 号,pp.1135-1142,2011.6

78

6) 高塚康平,真鍋義貴,吹田啓一郎,田中剛,津嘉田敬章,蘇鐘鈺:スカラップの有

無が変形能力に及ぼす影響,(塑性歪履歴を受ける鋼構造柱梁溶接接合部の変形能力

その 2),日本建築学会構造系論文集,第 77 巻第 673 号,pp.453-459,2012.3 7) 吹田啓一郎,田中剛,真鍋義貴,高塚康平:振幅が変動する載荷履歴が変形能力に

及ぼす影響,(塑性歪履歴を受ける鋼構造柱梁溶接接合部の変形能力 その 3),日本

建築学会構造系論文集,第 77 巻第 682 号,pp.1951-1958,2012.12 8) 梅田敏弘,吹田啓一郎,田中剛,高塚康平:塑性歪履歴を受ける鋼構造柱梁溶接接

合部の変形能力,その 12 スカラップと梁断面寸法が変形能力に及ぼす影響,日本

建築学会近畿支部研究報告集,第 53 号構造系,pp.381-384,2013.6 (予定) 9) 新田泰弘,中野達也,三浦加奈子:溶接組立 H 形断面材を用いた梁端接合部の脆性

破壊(その1実験計画,その2実験結果および考察),日本建築学会大会学術講演梗

概集,C-1 構造Ⅲ, pp.1201-1204,2012.9

(e) 学会等発表実績

学会等における口頭・ポスター発表 なし

学会誌・雑誌等における論文掲載 なし

マスコミ等における報道・掲載 なし

(f) 特許出願、ソフトウエア開発、仕様・標準等の策定

1)特許出願

なし

2)ソフトウエア開発

なし

3) 仕様・標準等の策定

なし (3) 平成25年度業務計画案

平成 24 年度に実施した要素実験に関連して、脆性破断した梁端の材料特性を把握する

ための材料試験を実施する。また要素実験結果の分析に基づいて、大型振動台実験に用い

る試験体の詳細挙動を解析し、崩壊余裕度に関する基礎資料を蓄積する。