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5-1 5. マルチGNSS解析技術等の開発にむけたGNSS解析ソフトウェアの技術仕様調査 5.1 調査対象の解析ソフトウェア 以下に示す GNSS 解析ソフトウェアを調査対象とする。 <調査対象 GNSS 解析ソフトウェア> Bernese Version5.0 GAMIT/GLOBK Release10.4 RTKLIB GIPSY-OASIS II Bernese はスイスのベルン大学が開発した高品質測量の標準に適合した精巧なツールで あるとともに、 GNSS を用いた多くのアプリケーションに対応する。現在 GPS GLONASS のデータ解析に使用可能である。 GAMIT GLOBK GPS の観測データを広範囲に解析するプログラムで、主たる用途 は地殻変動の調査である。ソフトウェアは MIT とハーバード大学よって開発された。 RTKLIB は東京海洋大学の高須氏によって開発された GNSS 解析ソフトウェアで、高精 度な測位を目指したもので、RTK PPP に利用可能である。 GIPSY-OASIS II は米国ジェット推進研究所(JPL)によって開発されたパラメータ推定ソフト ウェアで、GPS GLONASS、低軌道衛星(LEO)の軌道決定や EOP の推定、ベースラインや 受信機アンテナ位置の推定機能を有する。

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5-1

5. マルチGNSS解析技術等の開発にむけたGNSS解析ソフトウェアの技術仕様調査

5.1 調査対象の解析ソフトウェア

以下に示す GNSS 解析ソフトウェアを調査対象とする。

<調査対象 GNSS 解析ソフトウェア> ・Bernese Version5.0 ・GAMIT/GLOBK Release10.4 ・RTKLIB ・GIPSY-OASIS II

Bernese はスイスのベルン大学が開発した高品質測量の標準に適合した精巧なツールで

あるとともに、GNSS を用いた多くのアプリケーションに対応する。現在 GPS と GLONASSのデータ解析に使用可能である。

GAMIT と GLOBK は GPS の観測データを広範囲に解析するプログラムで、主たる用途

は地殻変動の調査である。ソフトウェアは MIT とハーバード大学よって開発された。

RTKLIB は東京海洋大学の高須氏によって開発された GNSS 解析ソフトウェアで、高精

度な測位を目指したもので、RTK や PPP に利用可能である。 GIPSY-OASIS II は米国ジェット推進研究所(JPL)によって開発されたパラメータ推定ソフト

ウェアで、GPS や GLONASS、低軌道衛星(LEO)の軌道決定や EOP の推定、ベースラインや

受信機アンテナ位置の推定機能を有する。

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5-2

5.2 測位手法の種類及び各測位手法で使用している観測データおよび補正データ

ここでは、測位手法の種類と各測位手法で使用している観測データおよび補正データ

について説明する。

5.2.1 測位手法の種類と各ソフトウェアの対応

測位手法の種類比較として、スタティック測位/キネマティック測位、ネットワーク

測位/短基線/PPP(Precise Point Positioning)とに分類した。表 5-1 に、各解析ソフトウ

ェアの測位手法との対応を示す。

表 5-1 各解析ソフトウェアの測位手法の対応

Bernese GAMIT- GLOBK

RTKLIB GIPSY-OASIS II

観測ネットワークによる

スタティック測位

○ ○ ○

観測ネットワークによる

キネマティック測位

○ ○ ○

単基線によるスタティッ

ク相対測位 ○ ○ ○* ○

単基線によるキネマティ

ック測位 ○ ○ ○* ○

PPPによるスタティック測

○ ○ ○* ○

PPPによるキネマティック

測位 ○ ○ ○* ○

*ほぼリアルタイムでの処理が可能

PPP は他の測位のように相対測位ではなく、衛星のクロック補正や軌道は外部から情報

が与えられるものとして推定対象としない。したがって、高精度を達成させるのには与えら

れる軌道情報、クロック情報、EOP の精度が良いことが条件となる。また、相対測位が二重

差観測量に基づくものであるのに対して PPP による単独測位はゼロ差観測量に基づいている。

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5-3

5.2.2 観測データおよび補正データ

表 5-2 に各解析ソフトウェアで使用可能な観測データおよび補正データの種類を示す。

表 5-2 各解析ソフトウェアで使用可能な観測データおよび補正データの種類

Bernese V 5.0

GAMIT/GLOBK R10.4

RTK-LIB V2.4.1

GIPSY-OASIS II

RINEX Observation

V2.10/2.11/2.12 V3.0

使用可能

V2.10/2.11/2.12 V3.0

使用可能

RINEX Navigation

V2.10/2.11/2.12 V3.0

使用可能 V2.10/2.11/2.12 V3.0

使用可能

RINEX Clock

V3.0 - V3.0 -

RINEX Meteorological

V2.10/2.11/2.12 V3.0

使用可能 - -

精密暦 EOP

SP3‐c IGS Pole(.ERP)

SP3 SP3‐c SP3 IGS Pole(.ERP)

SINEX 使用可能 使用可能 使用可能 -

Troposphere SINEX

使用せず ただし作成可能

- - -

IONEX 使用せず ただし作成可能

- 使用可能 -

ANTEX V1.3 - V1.3 -

その他 Bernese 専用の Code Product 有り

RTCMV2.3/3.1 NTRIP1.0 NMEA0183 SBAS message NGSPCV EMS2.0

* NTRIP: Networked Transport of RTCM via Internet Protocol *NMEA0183:National Marine Electronics Association による規格 *EMS:EGNOS Message Server

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5-4

5.2.2.1 Bernese

Bernesever5.0 での処理では、RINEX観測データは二重差解析用とゼロ差解析用とで別々

に処理される。観測データはサイクルスリップやアウトライア検出の後にBernese固有の形

式に変換され、二重差解析用前処理ではベースラインが形成され、ベースラインに対応し

た一重差が算出される。ゼロ差解析用前処理と二重差解析用前処理の両方において

post-fit-residualのチェックによって事後のアウトライア検出が実施され、異常な観測データ

は適切にマーキングされる。観測データの前処理のフローを 図 5-1 に示す。

図 5-1 観測データの前処理のフロー

(出典 Rolf Dach 他 Bernese GPS Software Version 5.0)

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5-5

表 5-3 にBerneseの主要な前処理の説明を示す。

表 5-3 主要な前処理の説明(1/2)

処理 処理の説明

RINEX レベルの前処理 ・ Melbourne-Wubbena 線形結合によるアウトライアスクリーニ

ング(Melbourne-Wubbena 線形結合については 5.3.1.4に詳述)

・ サイクルスリップが検知された場合ジオメトリフリー線形

結合に基づきスリップの大きさを決定 (ジオメトリフリー線形結合については 5.3.1.2 に詳述)

・ サイクルスリップ前後の carrier smoothed code を連結 ・ 搬送波位相のサイクルスリップは修復されない ・ 電離層フリー(5.3.1.1 に詳述)のコード線形結合と搬送波位

相線形結合との差(L3-P3)に基づいて MW 線形結合で検出

できない異常データを検出 ・ クリーンアークについてコード擬似距離をキャリア位相に

よってスムージング

GPS 時刻に基づく受信機

クロック補正(同期化) ・ 受信機クロック誤差を1μs 未満の精度で決定 ・ 受信機クロック同期化のために放送暦または IGS ファイル

を使用 ・ GPS と GLONASS の同時処理の場合、GPS 時刻と GLONASS

時刻の差分推定処理を実行 ・ O-C の算出によるアウトライア検出(オプション) ・ キネマティック局のデータ処理が可能

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表 5-3 主要な前処理の説明(2/2)

処理 処理の説明

ベースラインの形成と 一重差算出

・ 搬送波位相と擬似距離の両方について受信機間の一重差を

算出してファイルに出力 ・ Maximum Path Method による(受信機数-1)個の独立

したベースラインを選定 ・ 共通可視期間が最大となるベースラインを選定可能 ・ ベースラインを最短とする選定が可能 ・ 特定の局からすべての局をつなぐベースラインを選定可能

搬送波位相データの 前処理

・ O-C に基づく Non-parametric screening によって、サイクル

スリップの無い期間を特定 ・ 最初の STEP(Non-parametric screening)でクリーンと判定

された期間について、搬送波位相のエポック間の差を算出

し、その結果によってベースライン暫定解を作成。暫定解は

自動サイクルスリップ検出で参照される。 ・ 前記2つの処理結果を利用して自動サイクルスリップ検出

を実行 ・ ゼロ差ファイルの前処理におけるクロックイベントの処理

(受信機クロックジャンプは通常搬送波位相と擬似距離に

均等に起こるはずであるが、差が一定値以上ある場合にチェ

ック) ・ キネマティック局のエポック毎の位置推定を行う。キネマテ

ィック測位の場合、スタティック測位とは違い最悪の衛星を

除外して行く繰り返し処理が実行される。

Post-Fit Residual の スクリーニング

・ 残差ファイルの閲覧 ・ 残差の統計処理を行い、衛星毎、地上局毎、ベースライン毎

の残差の RMS のサマリーファイルを作成

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5-7

5.2.2.2 GAMIT-GLOBK

GAMIT で主たる GPS 処理を行う前に、以下のようなファイルが必要となる。

① RINEX Observation File と RINEX Navigation File

② L-ファイル形式の局位置

③ 各サイトの受信機とアンテナ情報

④ 衛星リストとシナリオファイル

⑤ 解析の制御ファイル

⑥ 外部エフェメリスから作成する G-ファイルおよび T-ファイル

⑦ 以下のグローバルファイルとのリンク

・ ニューテーション

・ 月・太陽のエフェメリス

・ 基準楕円体に関するデータファイル

・ うるう秒に関するファイル

・ 衛星、受信機およびアンテナファイル

・ 地球回転パラメータファイル

・ 海洋潮汐

GAMIT の入力としては、Navigation File と Observation File を含む Compressed RINEX 形式のもの

が収集される。圧縮形式から解凍された Navigation File は廃棄され、軌道時刻情報としては SOPAC

(Scripps Orbit and Parameter Array Center)からダウンロードされた精密暦が使用される。

この際 ITRF 座標系に準拠した POTS および ONSA の2つの IGS 局が選ばれる。Hatanaka 形式に

圧縮されたこの 2 局の IGS 局からの観測データも SOPAC からダウンロードされる。SOPAC は

RINEX Observation File を Hatanaka 形式に圧縮するが、GAMIT が読み込めるのは Navigation File

も Observation File も RINEX 形式に c-shell script を使って変換される。

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5.2.2.3 RTKLIB

RTKLIB の測位機能として、以下のようなものがある。

・単独測位(図 5-2、図 5-3)

・SBAS メッセージを用いた Wide Area Differential GPS

・RTCM メッセージを用いた Local Area Differential GPS

・PPP

・RTK

RTKLIBは、RINEXデータを用いたオフライン測位に加えてさまざまなインタフェースを用いたリ

アルタイムの測位機能を持つ。図 5-2~図 5-11 に、リアルタイム測位時のコンフィギュレーショ

ンを示す。

図 5-2 単独測位 (ファイル出力)

出典:RTKLIB ver. 2.4.1 Manual

図 5-3 単独測位 (シリアル出力+入力データログ)

出典:RTKLIB ver. 2.4.1 Manual

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図 5-4 RTK-GPS/GNSS (ローバ/基準局シリアル入力+ファイル出力)

出典:RTKLIB ver. 2.4.1 Manual

図 5-5 RTK-GPS /GNSS (ローバシリアル入力+ファイル出力、基準局:無線 LAN 経由接続)

出典:RTKLIB ver. 2.4.1 Manual

図 5-6 RTK-GPS /GNSS

(ローバシリアル入力、基準局:携帯パケット回線-インターネット経由)

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出典:RTKLIB ver. 2.4.1 Manual

図 5-7 RTK-GPS /GNSS (ローバシリアル入力、基準局:インターネット NTRIP Caster 経由)

出典:RTKLIB ver. 2.4.1 Manual

図 5-8 RTK-GPS /GNSS (ネットワーク RTK:インターネット経由)

出典:RTKLIB ver. 2.4.1 Manual

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図 5-9 RTK-GPS /GNSS (単一 NRTK サーバを用いたマルチ RTK)

出典:RTKLIB ver. 2.4.1 Manual

図 5-10 リアルタイム PPP (NTRIP ストリームからリアルタイムの軌道クロックを入力)

出典:RTKLIB ver. 2.4.1 Manual

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図 5-11 長基線 RTK(精密軌道暦を FTP でダウンロード)

RTKLIBがリアルタイムで測位する際にサポートする受信機インタフェースデータを 表 5-4 に

示す。

表 5-4 RTKLIB がサポートする受信機とのリアルタイムインタフェースデータ

出典:RTKLIB セミナーテキスト

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5-13

5.2.2.4 GIPSY-OASIS II

GIPSY-OASYSⅡは RINEX File を入力とする。ただし、コードレス2周波受信機は L2 のコード擬

似距離を出力しないこと、またトリンブル社等の典型的なコードレス受信機は1時間にミリ秒単

位の非常にドリフトが大きい内部クロックを利用しているので、生の L1/L2 位相データのサイ

クルスリップの検出が困難である。このような理由から、PhasEdit と呼ばれる RINEX File をクリ

ーンにするツールが利用される。PhasEditはRINEX FileをCleaned RINEX Fileに変換する。PhasEdit

を使うと、サイクルスリップは修復されるか、修復できない場合はフラグを付与される。

PhasEdit は以下の3つの主要な処理から構成される。

① Bad Point やサイクルスリップの検出

② サイクルスリップの修復

③ 位相アンビギュイティの調整

入力の RINEX File と出力の RINEX File は、コメント等を除いて同一のフォーマットである。

また、RINEX File 中の観測データは1Hz までが処理可能である。

クリーンになった RINEX File に対する観測データの前処理は以下の手順で実施される。

① RINEX から GIPSY 固有形式への変換

② アウトライア検出とサイクルスリップの検出

③ 搬送波位相データの間引き

④ 擬似距離のキャリアスムージング

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5-14

5.3 測位手法ごとの解析方法(線形結合の種類、アンビギュイティ決定方法、正規方程式

算出方法)

5.3.1 線形結合の種類

表 5-5 に精密測位に利用する線形結合の種類とそれぞれの解析ソフトへの使用について示す。

表 5-5 精密測位に利用する線形結合と各解析ソフトでの使用

Bernese GAMIT-GLOBK RTK-LIB GIPSY-OASIS II

電離層フリー線形

結合

・データスクリー

ニングに使用

・軌道時刻推定に

使用

・アンビギュイテ

ィ決定に使用

・PPP の測位計算

に使用

・サイクルスリッ

プ検出に使用

・アンビギュイテ

ィ決定に使用

・軌道時刻推定に

使用

ジオメトリ

フリー線形結合

・データスクリー

ニングに使用

・電離層モデルの

作成に使用

使用せず ・サイクルスリッ

プ検出に使用

使用せず

ワイドレーン

線形結合

・中基線のアンビ

ギュイティ決定

に使用

・アンビギュイテ

ィ決定に使用

使用せず ・サイクルスリッ

プ検出に使用

・アンビギュイテ

ィ決定に使用

Melbourne-Wubbena

線形結合

精度の良いコー

ド情報と共に、ワ

ードレーンアン

ビギュイティ決

定に使用

使用せず 使用せず 使用せず

これらの線形結合について以下に説明する。

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5-15

5.3.1.1 電離層フリー線形結合

電離層遅延量は、周波数の2乗に反比例する部分が支配的である。この性質を使って2周波

観測量を使って電離層遅延が殆ど含まれず距離情報が保存される線形結合を作成することがで

きる。厳密には周波数の3乗以上の高次の項に反比例する微小な遅延量成分が存在するが、こ

の項は小さいので通常無視しても影響がない。この線形結合による搬送波位相観測量およびコ

ード擬似距離は以下の式で示される。

( )22

212

122

21

31 LfLf

ffL −

−= (5-1)

( )22

212

122

21

31 PfPf

ffP −

−= (5-2)

ここで、

L3:搬送波位相距離ベースの電離層フリー線形結合

P3:P コードベースの電離層フリー線形結合

f1:L1 周波数

f2:L2 周波数

L1:L1 搬送波位相距離測定値

L2:L2 搬送波位相距離測定値

P1:L1 P コード擬似距離測定値

P2:L2 P コード擬似距離測定値

対流圏遅延を無視すれば二重差観測量は次式で表すことができる。

ijkl

ijkl

ijkl BL 33 += ρ (5-3)

ijklρ :幾何学的距離のニ重差

ここで電離層フリーバイアス ijklB3 は次式で表される。

( )ijkl

ijkl

ijkl nfnf

ffB 22

2211

212

22

13

1 λλ −−

= (5-4)

このバイアスは L3 の整数値アンビギュイティを用いて ijkln33λ と表すことはできない。しかし、

Wide-lane Ambiguity ijkl

ijkl

ijkl nnn 215 −= (後述する)が既知であれば電離層フリーバイアス ij

klB3 は次式

に置き換えられる。

ijkl

ijkl

ijkl n

ffcn

fff

cB 122

21

522

21

23

3

1

43421λ

++

−=

(5-5)

ここで、右辺第 1 項は既知である。また、波長λ 3は約 11cm である。右辺第2項中の未知のア

ンビギュイティ ijkln1 は narrow-lane ambiguity と呼ばれる。

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5-16

5.3.1.2 ジオメトリフリー線形結合

この線形結合による搬送波位相観測量およびコード擬似距離は

214 LLL −= (5-6)

214 PPP −= (5-7)

これは受信機時計および衛星、受信機位置に対して独立(ジオメトリフリー)となり、電離層遅延

と初期アンビギュイティが含まれる(対流圏遅延は無視してある)。この線形結合は電離層モデ

ルのパラメータ推定に用いられる。

5.3.1.3 ワイドレーン線形結合 5L

この線形結合による搬送波位相観測量は以下のように表される。

( )221121

51 LfLf

ffL −

−= (5-8)

この線形結合は二重差の搬送波位相観測量としてサイクルスリップの検知やアンビギュイティ

を解くために使用される。電離層遅延および対流圏遅延を無視すれば二重差観測量は次式で与え

られる。

( )43421

321 ijkln

ijkl

ijkl

ijkl

ijkl nn

ffcL

55

2121

5 −−

+=

λ

ρ (5-9)

波長 5λ は約 86cm であり、 21,λλ の約 4 倍の長さとなる。この線形結合はワイドレーンと呼ばれ、

アンビギュイティ

ijkl

ijkl

ijkl nnn 215 −= (5-10)

は wide-lane ambiguity と呼ばれる

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5-17

5.3.1.4 Melbourne-Wubbena 線形結合 6L

この線形結合は搬送波位相と P-code( 21 , PP )観測と線形結合により表され次式のようになる。

( ) ( )221121

221121

611 PfPf

ffLfLf

ffL −

+−−

−= (5-11)

二重差観測量は

ijkl

ijkl nL 556 λ= (5-12)

良質の P-code データ(rms≦1m)とともに、この線形結合は wide-lane ambiguity ijkln5 を解くために

利用される。ゼロ差観測量では、同様にしてこの線形結合は

ikl

ikl nL 556 λ= (5-13)

となり、ゼロ差観測量のサイクルスリップのチェックに使用される。

注)この方法によりチェックできるのは ijkl

ijkl nn 21 − のみである。

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5-18

5.4 補正データの適用方法ならびにそれらを用いた解析工程

5.4.1 Bernese

(本項に示す内容は全て”Bernese GPS Software Version 5.0”, Rolf Dach 他, Jan. 2007 からの

情報である。)

Berneseによるパラメータ推定は、重み付き最小二乗法による処理である。推定処理のための機

能は大きく2つに分けられる。そのうちの一つはGPSESTと呼ばれる処理で、観測方程式をセッ

トアップし正規方程式を解き、各種パラメータを推定する。GPSESTは、20 局から 30 局程度の観

測局で 24 時間程度の処理が上限である。Berneseの処理の概要を 図 5-12 に、また単一セッション

の推定を行うGPSESTモジュールによる推定処理のフローを 図 5-13 に示す。

世界中で GPS の観測ネットワークが拡大しまた処理する期間も延長が必要な場合、ADDNEQ2

と呼ばれる処理を用いる。ADDNEQ2 は、GPSEST によって作成された単一セッションの正規方

程式ファイルを複数入力して解を結合する。ADDNEQ2 は多くのパラメータ推定を元となる観測

量に立ち返ることなく高速に実施するための normal equation stacking method と呼ばれる手法を採

用している。

図 5-12 Bernese の処理フロー概要(出典 Bernese GPS Software Version 5.0)

繰り返し

軌道データ

精密暦

RINEX-N 等

EOP データ

IERS または

Bernese 形式

観測データ

RINEX 形式

meta データ

SINEX 局情報

ANTEX 等

軌道部分:

EOP 準備

軌道生成

シミュレーシ

ョン:模擬

観測値生成

変換部分:

処理部分

処理結果

ファイル群

観測データ前処理

セッション解算出

マルチセッション解算出

外部からの

meta 情報の

内部展開

観測データ

入出力

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5-19

図 5-13 Bernese による推定の流れ(GPSEST)

(出典 Bernese GPS Software Version 5.0)

パラメータのセットアップ 入力オプション/初期化処理/エポックパラメータ以外のセットアップ

セッション/ファイルに関するループ処理

すべてのエポックに関するループ

エポック毎の処理

パラメータの事前削除(エポック毎)

パラメータの事前削除(セッション毎)

正規方程式の解法

残差の計算

アンビギュイティの決定

結果ファイルの記録

パラメータの事前削除

正規方程式ファイルの蓄積

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5-20

(a) 最小二乗法によるパラメータの推定

Bernese では推定アルゴリズムとして最小二乗推定(Least-Squares Estimation)を採用している。

フルランクのガウス-マルコフモデル(Gauss-Markoff Model)における観測方程式は

12)(;)( −== PDXE σyβy (5-14)

ここで、

X :n×u 行列の係数行列 β:u×1 ベクトルの推定パラメータ

y:n×1 ベクトルの観測データ

P :n×u の重み行列

un, :観測データ数、推定パラメータ数

)(⋅E :期待値 operator

)(⋅D :分散 operator 2σ :分散(重み)

観測データに残差ベクトルを付加することにより、観測方程式を以下に書き直す。

12)()()(

−==

==+

PDDE

X

σye0eβey

(5-15)

ここで、誤差伝搬の法則により 0e =)(E 、 βy XE =)( 、 )()( ye DD = が成立するため、(5-14)式と (5-15)

式は数学的に全く同一のものである。 最小二乗法の理論に従えば、推定パラメータβは以下の 2 次形式評価関数を最小化することに

より求めることができる。

( ) ( )βyβy XPX T −−=Ω2

1)(σ

β (5-16)

式 (5-16) が最小、つまり極値をとるとき 0ββ =Ω dd /)( となりこれは正規方程式(Normal Equations)

と呼ばれる。

正規方程式

yβ PXPXX TT =ˆ (5-17)

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5-21

推定値

未知数の推定値: ( ) yβ PXPXX TT 1ˆ −= (5-18)

推定共分散行列: ( ) 12ˆ)ˆ(−

= PXXD Tσβ (5-19)

観測量の推定値: βy ˆˆ X= (5-20)

残差(O-C)の推定値: yye −= ˆˆ (5-21)

推定値における評価関数: βyyyee ˆˆˆ PXPP TTT −==Ω (5-22)

重み係数の推定値: )/(ˆ 2 un −Ω=σ (5-23)

自由度/冗長性

unf −= (5-24)

(b) アンビギュイティの決定

Bernese におけるアンビギュイティ決定の基本的手順は以下の通りである。

① 推定処理(フィルタ処理)により軌道や時刻等と共にアンビギュイティを実数値と

して推定する。

② ステップ1で求めた実数値アンビギュイティと共分散を用い整数値アンビギュイ

ティを解く(Resolve)。高い信頼性を得るために、統計的評価を行う。

以下にステップ2に相当する実数値アンビギュイティの整数化について記述する。

BerneseではAmbiguity Resolution Strategyとして 4つのアルゴリズム(ROUND, SIGMA, SEARCH,

QIF)が用意されている。それぞれのアルゴリズムはそれぞれ違った線形結合を使用する。例えば

QIF アルゴリズムは L1 と L2 両方の観測が必要とされ、SEARCH アルゴリズムも両周波数の使用

によってより良い結果を得る。一方 ROUND と SIGMA アルゴリズムは 1 つの搬送波位相のみで

よい。

各アルゴリズムを記述するにあたり Bernese におけるアンビギュイティの扱い方について述べ

る。

Bernese では前述したように二重差を主な観測量として処理を行う。したがって、二重差アンビ

ギュイティを求める必要がある。今、ある衛星に対する受信機間一重差アンビギュイティ Mn を仮

定すれば、衛星 M を基準とした衛星 N との二重差アンビギュイティは

MNNM nnn −= (5-25)

となる。また、二重差アンビギュイティの差(三重差ではない)を

212121 NNMNMNNN nnnnn −=−= (5-26)

と定義する。

ここで、図 5-14 に示すような短時間(数分)のセッションを考えると、短時間のセッションで

は全ての時間可視な衛星が一つ以上存在するが、図 5-15 に示すような長時間のセッション(数時

間)では全ての時間にわたり可視な衛星は存在せず、長い基線では極少数の衛星のみが可視な時

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5-22

間が存在する。このため、図 5-15 において一重差アンビギュイティA1 を基準とした場合、二重

差アンビギュイティA3-A1 やA4-A1、A5-A1 は誤差が小さいが、A6-A1 やA2-A1、A7-A1 等は誤差

が大きくなったり、解くことが不可能となったりする。したがって、二重差アンビギュイティは、

特に長時間のセッションでは、基準となる一重差アンビギュイティを適切に選択する必要がある。

これはつまり、ある一つの一重差アンビギュイティを基準とした場合、どの二重差アンビギュイ

ティ、もしくはどれとどれの二重差アンビギュイティの差を用いるか、適切な組み合わせを選択

する必要がある。

図 5-14 短基線、短いセッションの場合の衛星可視

図 5-15 長基線、長いセッションの場合の衛星可視

ⅰ.ROUND Algorithm

ROUND Algorithm は、統計的情報である共分散を用いず、実数の推定値を最も近い整数へ

と丸めるという最も単純なものである。通常、このアルゴリズムは SIGMA アルゴリズムに

おいても全く同様な処理が行われるため用いる必要が無い。

ⅱ.SIGMA Algorithm 同じ一重差アンビギュイティを基準とした 2 つの二重差アンビギュイティを ji xx , とする。

ix に対する RMS 誤差を次式により計算する。

iii Qm 0σ= (5-27)

ここで、

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5-23

0σ :(5-23)式で表される重み係数の推定値の平方根

Q : (5-17)式における ( ) 1−PXX T

また、二重差アンビギュイティの差 ji xx − に対する RMS 誤差は

jjijiiijj QQQm +−= 20ο (5-28)

によって計算される。

このアルゴリズムにより決定される二重差アンビギュイティはROUND Algorithmと同様に、

最初の最小二乗推定により求められた実数値アンビギュイティを最も近い整数へと丸め、以

下の評価を行う。

・RMS 誤差 iji mm , が maxmax σσ ≤≤ iji morm を満足しているか

・信頼区間( iiii mxmx ζζ +− , )or( ijijijij mxmx ζζ +− , )の範囲内に一つの整数値が入っ

ているか

ここで、 ςσ ,max はユーザ定義の入力パラメータである。また、一度の処理で解くアンビギュ

イティの数を maxN (ユーザ定義の入力パラメータ)とし、上記の評価を満足する場合に解と

みなす。以上の処理を全ての二重差アンビギュイティの組み合わせに対し繰り返す。二回目

以降の繰り返し処理では、前回の処理で解かれた整数値アンビギュイティを用い、全てのア

ンビギュイティが決定するか、最大繰り返し数以内で上記の評価を満足することができなく

なるまで繰り返す。

以上の繰り返し処理は全ての線形結合に適用することができ、以下のケースにおける使用

が推奨される。

・1 周波観測しか使うことができないが、セッション(解析時間)が長く(数時間)、基線

が短い(20km 以内)場合

・2 周波の高品質なコード観測(P-Code 等)が利用可能である場合。このケースでは

Melbourne-Wubbena 線形結合が利用可能である。基線は長くても良く(数千 km まで)、

セッションは長く(数時間)なければならない。

ⅲ.SEARCH Algorithm

SEARCH Algorithm では最初の最小二乗推定処理より以下の情報を用いる。

T

uxx ),...,( 1=x :解ベクトルのうちの実数値二重差アンビギュイティ部。 u は二重差アンビ

ギュイティの数

0σ :(5-23)式で表される重み係数の推定値の平方根

Q :(5-17)式における ( ) 1−PXX T

SIGMA Algorithm と同様に、アンビギュイティパラメータ ix 、 ji xx − に対する RMS 誤差はそ

れぞれ

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5-24

iii Qm 0σ= 、 jjijiiijj QQQm +−= 20ο (5-29)

によって計算される。 整数値アンビギュイティ Aix を求めるため SIGMA Algorithm と同様に信頼区間を設定し、以

下の評価式を導入する。

uimxxmx iiAiii ,...,2,1=+≤≤− ζζ (5-30)

jiujimxxmx ijijAijijij ≠=+≤≤− ,,...,2,1,ζζ (5-31)

上記の (5-30)式、(5-31)式を満足する整数値アンビギュイティで構成されるアンビギュイティ

ベクトルを

TAuAA xx ),...,( 1=x (5-32)

とすると、(5-30)式、(5-31)式を満足する全ての整数値アンビギュイティの組み合わせは

ANAA xxx ,...,, 21 , N:組み合わせの数

となる。全ての整数値アンビギュイティベクトルに対し、再び最小二乗推定によるσ値を計

算し

Nσσσ ,...,, 21 , N:組み合わせの数

σ値が最小となるときのアンビギュイティベクトルを最終的な解とする。ただし、 ・最終解とみなされたアンビギュイティベクトルにおけるσ値 hσ と最初の最小二乗推定に

よるσ値 0σ との比 0/σσ h が大きい場合

・ほとんど同一のσ値となる他のアンビギュイティベクトル qx が存在する場合

( 1/ ≈hq σσ )

を除く。

SEARCH Algorithm は 1 周波のみの観測においても適用することができるが、計算負荷や整

数アンビギュイティベクトルの数を低減するため 2 周波観測の場合、さらにもう一つの条件

を加える。ジオメトリフリー L4 線形結合を用いると、

ijkl

ijkl

ijkl

ijkl xx

ff

IL 221122

21

4 1 λλ −=⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛−+ (5-33)

と表せる。ここで、式の右辺を計算する際、実数アンビギュイティ ijklx1 、 ij

klx2 の変りに整数値

アンビギュイティ ijAklx1 、 ij

Aklx2 を用いる。 ij

AklijAkl xx 2211 λλ −

また、差

( ) ( )ijAkl

ijAkl

ijkl

ijkl xxxx 22112211 λλλλ −−− (5-34)

は最初の最小二乗推定処理により推定される電離層遅延バイアスと整数値アンビギュイティ

を用いた式を計算した結果としての電離層遅延バイアスの差となり、この差は微小でなけれ

ばならない。

rapid static mode(高速に解を求める場合)においては SEARCH Algorithm の利用がほぼ必

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5-25

須条件となる。L1 と L2 の両周波数による観測が可能な場合、アンビギュイティを解決し cm

オーダーの精度を達成するのに数分のデータで十分となる。もし、1 周波のみ利用可能な場

合は約 30 分のデータ期間が必要となる。Rapid static mode では通常短い基線(数 km 程度ま

で)の処理が行われる。

SEARCH Algorithmの欠点としては、全てのアンビギュイティが解かれる(Resolve)か解か

れないかの二者択一であることが挙げられる。この問題はセッションが長い、もしくは基線

が長い場合、図 5-15 のように同時可視衛星数が少なくなり生じる。

ⅳ.QIF(Quasi Ionosphere-Free) Algorithm

Ionoshere-Free線形結合における二重差観測方程式は対流圏遅延を無視すると以下のように

表される。

)( 22112

22

133 nfnf

ffcBL −−

+=+= ρρ (5-35)

ここでnは整数値を示す。L1 と L2 周波数における最初の最小二乗推定より与えられる実

数値アンビギュイティを 21 , bb とすると Ionosphere-Free Bias に相当する

)(~

221122

21

3 bfbfff

cB −−

= (5-36)

を計算できる。さらに変形して、

2211

221

21

21

1213

3

33

~~

~

bb

bff

fb

fff

cff

BB

b

ββλ

+=−

−−

=+

== (5-37)

したがって整数値アンビギュイティを 21, nn とすると L3 アンビギュイティは次式を満たす。

22113 nnb ββ += (5-38)

今ここで、QIF Algorithm によるアンビギュイティ除去問題を

333

~bbd −= (5-39)

において

max3 dd < (5-40)

となる 21, nn の組み合わせを見つける問題と定義すれば、上記の評価式を満足する 21, nn は

21 , nn をパラメータとすれば、 ),( 21 nn 空間において

32211~bnn =+ ββ (5-41)

の帯(Band)上に存在することになる。Band 幅は 3~b の RMS 誤差により決まる。ここで、

3~b :既知数。最初の最小二乗推定処理より推定される L1,L2 実数値アンビギュイティに

より表現される電離層フリーアンビギュイティ。誤差分散が最小な衛星の組み合わせ

を使用する。

3b :未知数。 21, nn により表現される電離層フリーアンビギュイティ。

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5-26

また、 21, nn は Wide-lane 整数アンビギュイティ 5n を用いて

215 nnn −= (5-42) を満たす。しがたって、無数に存在する 21, nn の組み合わせの中から (5-41)式を満たす 21, nn を

見つける探索問題は、 ),( 21 nn 空間において高い信頼度で整数化できるWide-lane 線形結合を

拘束条件とすることで 図 5-16 に示すように探索範囲を限定することができる。

以下に具体的計算手順を記述する。 L1 二重差アンビギュイティ(実数値)を

21 111 ,, iii bbb 、同様に L2 二重差アンビギュイティを

21 222 ,, jjj bbb とおき、 ji bb 21 , の組もしくは二重差アンビギュイティの差2121 2211 , jjii bbbb −− の組の

場合における、電離層フリー L3 アンビギュイティ 3~b の RMS 誤差(標準偏差)を次式により

計算する。

22

22122111

210 2 QQQ ββββσσ ++⋅= (5-43)

ここで、 ji bb 21 , の組の場合

),(),,(),,( 222221121111 jjjiii bbQQbbQQbbQQ ===

2121 2211 , jjii bbbb −− の組の場合

),(),(2),(

),(),(),(),(

),(),(2),(

222111

22122111

222111

22222222

2121212112

11111111

jjjjjj

jijijiji

iiiiii

bbQbbQbbQQ

bbQbbQbbQbbQQ

bbQbbQbbQQ

−−=

−−−=

−−=

σ値が最小となる二重差アンビギュイティもしくはアンビギュイティの差の組について、整

数アンビギュイティの組 21~,~ nn の探索区域を次式のように定義し、(図 5-16 参照)

512

max215

max11

~~~;...;1;0,)(nint~

;...;1;0,)(nint~

nnnkkkbbn

iiibn

−==±−=

=±= (5-44)

(5-39)式に示す評価式において、以下の式を満足していればその時の 21~,~ nn を解とする。

)~()~( 2221113 nbnbd −+−= ββ (5-45)

:ユーザの最大値max

max3

ddd < (5-46)

もしここで、上式を満足する整数アンビギュイティの組が存在しない場合、2 番目に小さなσ

値の組について計算を進める。以上の手順により 1 組の解を得た後、パラメータ全体を解く最小

二乗推定を行い再び上記の手順を繰り返し、全ての組のアンビギュイティを解く。

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5-27

Wide-Lane Combination

Narrow-Lane Combination

2i

2(i+k)

2k

Search Range

図 5-16 Search Ranges in ),( 21 nn Space

(出典 Rolf Dach 他 Bernese GPS Software Version 5.0)

これまでに4つのアンビギュイティ除去法(Ambiguity Resolution)を述べたが、それぞれのア

ルゴリズムには一長一短があり、観測できる周波数や基線、セッションの長さにより最適なアル

ゴリズムを選択する必要がある。

まず、1 周波のみ観測の場合、適用できるアルゴリズムは SEARCH Algorithm と SIGMA Algorithm

に絞られる。1 周波観測では電離層の影響を取り除くことができない為、基線長が長くなると使

用ができなくなる。SEARCH Algorithm は一度に全てのアンビギュイティを解くため短時間のセッ

ションでしか用いることができない。逆に SIGMA Algorithm は徐々に解いていくため長時間のセ

ッションでの使用が可能である。

もし、2 周波観測が可能であれば、非常に短い基線(数km以内)ではSIGMA Algorithmを用いて

L1 とL2 を独立的に解くことができる。逆に非常に長い基線においては電離層の影響を除去でき

るQIF AlgorithmとP-codeのような高品質な擬似距離が観測可能であればMelbourne-Wubbena線形

結合を用いてSIGMA Algorithmを利用できる。また、短時間のセッションでは中距離程度であれば

SEARCH Algorithmで効率良く解くことができる。表 5-6 に推奨されるアルゴリズムをまとめる。

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5-28

表 5-6 アンビギュイティ決定の方法

(出典 Rolf Dach 他 Bernese GPS Software Version 5.0)

基線長 時間 P コード アンビギュイティ決定方法

1A 短基線

(<20-40km)

>1 時間 無 SIGMA:L1&L2 or L1orL2

1B 短基線

(<5-10km)

1-5 分 無 SEARCH:L1&L2 対流圏推定無し

または

SEARCH:L1、複数回実行モード

2 中基線

(<100-200km)

>2-4 時間 無 (0)アンビギュイティフロート解

(ネットワーク)

整数化無し:L3

CRD と TRP を推定

(1)Wide Lane アンビギュイティ

SIGMA:L5

CRD,TRP、ION を fix

Wide Lane アンビギュイティを save

(2)Narrow Lane アンビギュイティ

SIGMA:L3

CRD、TRP を推定

Narrow Lane アンビギュイティを save

3A 長基線

(<6000km)

>8-24 時間 有 (1)Wide Lane アンビギュイティ

SIGMA::MW

P1-C1 DCB を fix

(2)Narrow Lane アンビギュイティ

SIGMA:L3

Wide Lane アンビギュイティを fix

CRD と TRP を推定

Narrow Lane アンビギュイティを save

3B 長基線

(<1000km-2000km)

>8-24 時間 無 QIF:L1&L2

SIP、CRD、TRP を推定

ION を fix(または推定)

L1/L2 アンビギュイティを save

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5-29

(c) Bernese による軌道推定

Bernese は GPS および GLONASS の軌道推定を行うオプション機能を持っており、CODE や一

部の IGS Analysis Center において、精密軌道を算出するのに利用されている。

Bernese による軌道推定はアプリオリ軌道の改良のオフライン処理として実施され、以下の手順を

採る。出力は標準軌道ファイルと太陽輻射圧ファイルの2つに記録される。

① 軌道改良の準備

軌道改良の準備としてアプリオリ軌道の初期値を用い、数値積分を行って基準となる軌道生成を

行う。また、軌道改良に必要な Partial Derivative の算出を行う。

② アプリオリ軌道、Partial Derivative と観測データを用いて正規方程式を解いて軌道要素の更

新計算をアプリオリ軌道の初期エポックに対して行う。

③ 更新された初期軌道を元に再度軌道生成を行う。出力は指定された時間間隔でファイルに記

録される。

ただし、②および③は初期軌道が真の軌道から大きく離れていればイタレーション計算される。

観測量として搬送波位相の二重差を採用しているため、軌道と時計は分離されている。

観測データによる軌道改良の対象パラメータ:

・ ケプラー6要素(各アークの接触要素初期値)

・ CODE empirical radiation pressure model

太陽輻射圧加速度=ROCK モデル+補正項

ROCK モデル:GPS については ROCK4/42モデルのバージョン T が採用されており、T10 あるいは

T20 と呼ばれる熱の再放射モデルを含んだもの

補正項:軌道周期で変化する加速度成分とバイアス成分を太陽指向の座標系で表現したもので、9種

類の係数パラメータで定義できる。

GPS BlockⅡまたはⅡA 衛星が蝕中および蝕から抜けて30分間程度の間は、衛星の姿勢はノミ

ナル姿勢からのずれが生じ、10cm程度を上限とするレンジバイアスが生じる。また、蝕から

抜けても太陽電池パドルが太陽を追尾していない間は太陽輻射圧がモデルからずれるので、

Bermese を使った軌道推定では誤差要因となる。これらの影響はソフトウェアでは考慮されない

ので注意が必要である。

Bernese で衛星情報ファイルの衛星アンテナ位相中心情報を使用する場合、衛星の位置が質量中心

で与えられている(通常はこのパターン)かアンテナ位相中心で与えられているかを注意して指

定する必要がある。CODE や IGS からの衛星位置情報は衛星の質量中心で与えられている。

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5-30

(d) Bernese による衛星クロックおよび受信機クロックの推定

Berneseの主な処理は二重差観測量を用いたクロック消去に基づいた解析である。しかしPPPや精密時

刻同期等のアプリケーションに対応するためにゼロ差観測量を用いて衛星クロックおよび受信機クロック

を推定することが可能である。 クロックの推定は、1つのクロックを基準とすることも、アンサンブルクロック

を基準とすることのどちらも可能である。 アンサンブルクロックはすべてのクロック補正の和が0になるとい

う前提で求められる。 クロックの推定では推定対象のクロックを選ぶこともできるが、推定しないクロックが

複数ある場合には、それらの間に矛盾が無いことを良く確かめることが必要である。 表 5-7 に軌道推定

とクロック推定の比較を示す。

表 5-7 軌道推定とクロック推定の比較

軌道推定 クロック推定

観測量の加工 電離層フリー線形結合二重差により衛

星クロック成分と受信機クロックを消去

して推定に利用

電離層フリーの線形結合のゼロ差観測

量を利用

推定対象状態量 軌道アークのケプラー6要素初期値

+9種類の太陽輻射圧パラメータとし

て推定

エポック毎のパラメータとして推定

クロック推定の方法として、以下の2種類から1つを選択できる。

・ クロックパラメータを他のパラメーター(対流圏、局位置等)と同時に推定

・ 他のパラメータを推定したのち、これらを固定値としてクロックパラメータを推定

Bernese Version5.0 では、GPS/GLONASS 共用受信機のデータを扱うことができない。これは、以下の

理由による。

・ GPS Time と GLONASS Time には数 100nsec のオフセットがあり、現状これらの差を考慮した処理

ができない。

・ GLONASS のみで解を求める場合には FDMA で衛星から異なる周波数で送られるコード擬似距離

の間にはバイアスがないと仮定しているが、現実には無視できない衛星周波数間バイアスが存在す

る。

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5-31

Bernese による高レートクロック推定は、グローバルネットワークの二重差観測量を用いて他のパラメータを

推定した後、それらによる誤差を生の観測量から差し引いて(対流圏遅延はモデルによって除去)、クロッ

ク成分だけが残った電離層フリーの線形結合観測量を用いる。高レートクロック推定の詳細な手順は以

下の通りである。

① 擬似距離観測データのスクリーニングを行い、受信機クロック同士を同期化する。擬似距離観測量か

ら、衛星クロックと受信機クロックをそれぞれのエポックについて算出する。

② エポック間の搬送波位相の差がクロックと観測量について算出され、スクリーニングされ、それぞれの

クロックのエポック間変動量の推定に利用される。

この処理は、搬送波位相のアンビギュイティを排除するために実行される。また、搬送波位相のエポ

ック間の差からサイクルスリップがアウトライアとして検知される。

③ 擬似距離から推定されたクロックと搬送波位相から推定されたクロックのエポック間の差がそれぞれの

クロックについて独立に結合される。

Bernese では、クロックジャンプは、ノイズと区別して検知される。 クロックの過去のエポック間平均変動量

とその標準偏差を基にして大きく変動した場合に検知される。

クロックの過去のエポック間平均変動量は以下の通り

(5-47)

エポック間の変動量に基づくクロックジャンプの有無の評価は以下の通り

(5-48)

異なる時間同士でのエポック間の変動量に基づくクロックジャンプの有無の評価は以下の通り

(5-49)

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5-32

(e) 電離層

電離層モデルは確定的(deterministic)要素を表現するモデルと確率的(stochastic)要素を表現する

モデルに分けられる。はじめに Bernese で用いられている確定的(deterministic)要素を表現するモデ

ルについて述べ、その後確率的(stochastic)要素を表現するモデルについて述べる。

ⅰ.確定的(deterministic)要素を表現するモデル

確定的要素を表現するモデルでは全ての電子を無限の薄さの膜に集中させた、薄膜モデ

ル(Single-layer Model or thin-shell Model)が用いられる。Single-Layer Modelについて、図

5-17 に示す。

図 5-17 電離層 Single-layer Model

(出典 Rolf Dach 他 Bernese GPS Software Version 5.0)

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5-33

Single Layer Model の Mapping function は次式で与えられる。

zHR

RzwithzE

EzFV

I sin'sin'cos

1)(+

=== (5-50)

ここで、

', zz :衛星の天頂距離

R :地球の平均半径

H :地表面から薄膜までの高度

E :電子密度

例として、TEC (Total Electron Content)を計測するために電離層の情報のみを含むジオメトリフ

リー線形結合と呼ばれる周波数の線形結合を用いる。この観測方程式は

BsEzF

ffL I +⎟⎟

⎞⎜⎜⎝

⎛−−= ),()(11

22

21

βα (5-51)

ここで、 21 LLL −= :ジオメトリフリー位相観測(m)

TECU/1003.4 217 sm×=α :定数 21, ff :L1、L2 の周波数

)(zFI :Mapping Function

),( sE β :緯度、Sun-fixed 経度の関数である垂直 TEC(単位:TECU)

B :初期位相のアンビギュイティによる定数バイアス

さらに、Bernese では垂直 TEC は以下の 2 つのモデルが採用されている。

・ Local Model:2 次元のテイラー展開に基づく

∑∑==

−−=maxmax

000

0)()(),(

m

m

mnnm

n

nssEsE βββ (5-52)

ここで、

maxmax , mn :緯度 β 、経度 s に関するテイラー展開の次数

nmE :テイラー展開の TEC 係数(local model において推定されるパラメータ)

00 , sβ :テイラー展開における基準点

注) s,β はピアスポイントにおける緯度経度である。

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5-34

・ Global Model:球面調和展開に基づく

∑∑==

+=n

mnmnmnm

n

nmsbmsaPsE

00)sincos)((sin~),(

max

ββ (5-53)

ここで、

maxn :球面調和展開の次数

nmP~ :正規化したルジャンドル関数

nmnm ba , :球面調和展開における TEC 係数(Global model において推定されるパラメータ)

ⅱ.確率的(stochastic)要素を表現するモデル

ⅰで示したモデルには含まれない短周期の TEC の変動は未知数 SIP (Stochastic Ionosphere

Parameter)として推定パラメータとして扱う。

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5-35

(f) 対流圏

Bernese では対流圏モデルとして以下のものを使用できる。

・Saastamoinen Model

・Niell Model

・Modified Hopfield Model

・Differential refraction model based on formulae by Essen and Froome

以下に、Saastamoinen Model によるスラント対流圏遅延量の計算方法を示す。

( )

項星仰角に依存する補正ユーザ高度、および衛

補正項ユーザ高度に依存する

相対湿度

気温

大気圧

衛星の天頂角

ユーザ高度

ユーザ緯度

::

:][:][:

][:][:][:

45.38468415.17exp

100108.6

00028.02cos0026.0

tan05.01255sec)1(002277.0 2

R

R

BRH

KelvinThPaP

radkmhrad

TTRHe

hD

BeT

PDT

δ

ψ

φ

φ

δψψ

⎟⎠⎞

⎜⎝⎛

−−×

×⎟⎠⎞

⎜⎝⎛×=

×+×=

+⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡×−×⎟

⎠⎞

⎜⎝⎛ ++××+×=

(5-54)

上記で B、およびδRは Baersima が提案した補正項であり、それぞれテーブル化されている。この

うち、Bernese Version 5.0 では B のみが適用可能である。

Niell Model は、Saastamoinen Model に Neil が提案したマッピングファンクションを適用したものである。

詳細は Niell(1996)を参照。

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5-36

(g) 規模の大きいネットワーク測位における解の結合

非常に多くの観測局を用いた大規模な複数地点の測位処理を行う場合には、図 5-13 に示した

GPSESTの解析工程で算出された小規模なセッションでの出力を複数結合して、所望の解を得る

必要がある。この解析解の結合にはADDNEQ2 と呼ばれる処理を用いる。図 5-18 に、解の結合

の処理フローを示す。この処理の入力とは、複数の正規方程式ファイルであり、ファイルから

の入力に対して以下のような処理が実行される。

・ 正規方程式の再スケ-リング

・ 事前の基準座標系変換

・ パラメーターの表現形式の変換

・ パラメータスタッキングの準備としての有効期間の変更

・ パラメータスタッキング

・ パラメータ数の削減(reduction)

・ パラメータの追加(局の移動速度の推定、地球回転パラメータの SINEX 形式への変換)

・ 架空の観測量を利用したパラメータの拘束

・ パラメータの事前除去および削除

観測方程式

12)()(0)(

−==

==+

PyDvDvE

Apvy

σL

L (5-55)

が与えられたとき、最小二乗推定を適用することにより、以下の正規方程式が得られる。

( ) PyApPAA TT =ˆ (5-56)

(5-56)式から、未知数pおよびその共分散行列Dの推定値は、以下の式により求まる。

( ) PyAPAAp TT 1ˆ −= (5-57)

( ) 12ˆ)ˆ( −= PAApD Tσ (5-58)

ここで、各記号の意味は以下の通りである。

A :n×u の計画行列 (design matrix)

p :u×1 の未知数ベクトル

p̂ :未知数の推定値ベクトル

y :n×1 の観測ベクトル

P :n×n の重み行列

E(・) :期待値

D(・) :分散

σ2 :単位重みの分散(分散係数; variance factor)

次に、(5-55)を以下のように 2 つの観測方程式に分ける。

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5-37

12

2222222

11

2111111

)(,

)(,−

==+

==+

PyDpAvy

PyDpAvy

σ

σ (5-59)

(5-55)式から (5-56)式を得たのと同様に、(5-59)の個々の式から、以下の正規方程式を得ることが

できる。

[ ][ ] [ ]iiTiiii

Ti yPApAPA =ˆ (5-60)

( )ii

iiTiii APApD

Σ=

=−

2

12

ˆ

ˆ)ˆ(

σ

σ

where, i = 1 or 2

(5-61)

次に、(5-60)、(5-61)の 2 つの正規方程式から得られた個々の解から両式に共通の解( cp̂ )を求

める。ここで、(5-60)式の個々の解p1、p2を擬似観測量(pseudo-observation) (yp)として使用すると、

以下の式が得られる。

12)(,ˆ −==+ pcpcppp PyDpAvy σ (5-62)

ここで、擬似観測量ypおよびその分散D(yp)を、(5-60)式、および (5-61)式から得られるの個々の

推定値で置き換えると、(5-62)式は以下のように書ける。

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡Σ

Σ=⎟⎟

⎞⎜⎜⎝

⎛⎥⎦

⎤⎢⎣

⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡=⎥

⎤⎢⎣

⎡+⎥

⎤⎢⎣

2

12

2

1

2

1

2

1

00

ˆˆ

ˆˆˆ

c

cp

p

pp

D

pII

vv

pp

σ

(5-63)

ここで (5-63)式は、(5-60)式の個々の推定値が新たな(擬似)観測量として、個々の共分散推定値

が重み行列として使われ、新たな観測方程式を構成している。(5-62)式、(5-63)式から以下の正規

方程式が得られる。

[ ][ ] [ ]ppTpcpp

Tp yPApAPA =ˆ (5-64)

または、

[ ] [ ] ⎥

⎤⎢⎣

⎡⎥⎦

⎤⎢⎣

ΣΣ

=⎥⎦

⎤⎢⎣

⎡⎥⎦

⎤⎢⎣

ΣΣ

2

11

2

11

12

11

ˆˆ

00

,ˆ0

0,

pp

IIpII

II TTc

TT (5-65)

( )iiTii APA=Σ−1

を代入すると、

[ ][ ] [ ]222111222111 ˆ yPAyPApAPAAPA TTc

TT +=+ (5-66)

と、個々の正規方程式を使用して、全体の方程式を得ることができる。この個々の正規方程式の

重ね合わせは、正規方程式のスタッキング(Stacking)とも呼ばれ、個々の観測方程式が独立のと

き常に成立する。

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5-38

ここで、異なるクラスターにおける二重差解析解をスタッキングする際は、上記の独立性が成立

しないことに注意が必要である。異なるクラスターの局を使用してベースラインを形成する際、

重み行列 Ppの非対角要素にある、当該ベースラインの相関成分の非ゼロ項は無視される。したが

って、クラスター間を結ぶベースラインは、この影響を最小限に抑えるために、注意深く選ぶ必

要がある。同様の理由により、ゼロ差解析で複数クラスターの正規方程式をスタッキングする際、

衛星時計やその他のクラスター間で共通の未知数を推定する際に、ゼロ差観測量の独立性が成立

しないことにも注意が必要である。

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5-39

図 5-18 ADDNEQ2 による解の結合

(出典 Rolf Dach 他 Bernese GPS Software Version 5.0)

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5-40

5.4.2 GAMIT-GLOBK

GAMIT は、重み付き最小二乗法を使って以下のパラメータの推定を行う。

・ 複数の地上局の相対位置

・ 衛星軌道および EOP

・ 天頂方向の対流圏遅延量(zenith delay)

・ 二重位相差をフィッティングした位相アンビギュィティ

観測量とパラメータの間の関係は非線形なので、GAMIT は2種類の解を提供する。

一つは数 10cm 以内の誤差を持つドラフト解であり、もう一つは最終解である。

GAMIT を使った測位処理は以下の手順で実施する。

① データ処理準備(データ収集や前処理)

② 各アークに対する参照軌道の生成

③ 観測残差と partial derivative の算出

④ アウトライアやデータ欠損の検出

⑤ 最小二乗法による解の導出

GAMIT における対流圏補正は、Saastamoinen Model を使用している。このモデルでは、GPS

観測点における温度、気圧、湿度を与えて対流圏遅延を算出する。遅延量は、以下の式で与

えられる。

(5-67)

ここで、

P:圧力(hPa)

T:絶対温度(K)

λ:衛星の天頂角(rad)

また、水蒸気分圧 e(hPa)は以下の式で算出される。

(5-68)

ここで、

RH:相対湿度(%)

である。これらの温度や湿度は RINEX MET File にて提供される。

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5-41

GLOBK はカルマンフィルタを用いて GAMIT 等で算出された測位解を結合させる機能を持つ。

GLOBK の処理は以下のような特徴を持つ。

① 個別の日あるいは個別のセッションの出力から、複数の日に跨った局の座標の平均を推

定する。この場合、GPS においては軌道パラメータは各アークにおいて統計確率論的

(stochastic)に扱われる。

② GLOBK によって算出された複数の日に跨った局の座標の平均を組み合わせて数年にわ

たる局の移動速度を算出する。

③ 時系列の評価や測定精度の評価を行うために、個別のセッションからの出力を用いて座

標の推定を行う。

GLOBK による解の結合は、GAMIT の出力である h-File あるいは SINEX File に含まれる局の位

置やその移動速度の推定結果を擬似観測データとして、その統計的性質を表わすデータとともに

入力することによって実行される。SINEX File(Software INdependent Exchange File)は必

ずしも GAMIT でなくても生成可能であるので、他のプログラムで生成された解を GLOBK で結

合することも可能である。

GLOBK には、以下のような制約がある。

① GLOBK は線形モデルを仮定している。したがって、量の大きな調整(局位置にして 10m

を超えるもの、衛星軌道位置にして 100 m を超えるもの)については、GLOBK の前段階の

ソフトウェアを含めた繰り返し処理で新しい擬似観測量を生成する必要がある。

② GLOBK の前段階のソフトウェアがサイクルスリップを見逃したり、品質の悪いデータを

棄却しなかったり、対流圏モデルの誤差を持っていたりする場合があっても、GLOBK には

これを修正する機能はない。GLOBK は他と矛盾するセッションを特定することに役に立ち、

なおかつ場合によっては GLOBK の解からある特定の局の効果を減ずることはできるが、

GLOBK の段階での処理で特定の局や衛星の効果をまったく除去することはできない。

③ GLOBK には、位相アンビギュイティを決定することはできない。この点は前段階での処

理で解決されていなければならない。

GLOBK での解析工程概要を以下に示す。

① 前段階の処理で生成された擬似観測量をアスキー形式からバイナリ形式に変換する。

② アウトライアの有無や適正な誤差範囲に収まっているかを確認するために、“glog”を使って時

系列の局位置をプロットする。もしアウトライアが発見されれば、GAMIT 等の GLOBK の前

段階のソフトウェアに戻って品質の悪いデータを除去する必要がある。クリーンなデータセ

ットが得られたら、”globk”による拘束の弱い推定処理を行って局位置のサーベイを行う。

③ 1年あるいはそれ以上の期間に渡る局位置の推定結果(“survey”h-files)が得られたら、これ

らのファイルを入力として再度“glog”と”globk”を使って局位置の時系列データや局の移動速

度を算出する。

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5-42

5.4.3 RTKLIB

RTKLIBを使って測位を行う場合のフローを図 5-19に示す。精密測位を行う前に、最初に1エポ

ック分の観測データおよび航法メッセージを入力し、いったん擬似距離観測値を使った単独測位

により初期近似解を算出する。ここで近似解は相対測位ルーチン中でフィルタ初期化及び観測方

程式線形化に使われる。

次の相対測位ルーチンでは、最初にカルマンフィルタの時間更新を行う。この中でサイクルス

リップや新衛星の検出を行い必要な初期化・再初期化を行う。

次に、搬送波位相及び疑似距離観測値による二重差観測値及び観測方程式から残差や観測行列

を計算する。

その後、観測誤差共分散行列を生成し、カルマンフィルタ観測更新を行い、このエポックの推

定値(FLOAT 解)とその共分散行列を得る。相対測位ルーチンの処理フローを図 5-20に示す。

次に、推定値及びその共分散行列を使った整数Ambiguity 決定ルーチンに入る。以上のフィルタ

では衛星切り換わり操作の煩雑さを避けるため、一重差搬送波位相バイアスを推定しているので、

まずこれら推定値から二重差推定値を生成する。

次に生成した実数推定値から整数解を求める。整数Ambiguity 決定のために今まで多数の手法が

提案されているが、RTK-LIBではOTF(On The Fly)アンビギュイティ解法 として、現在最も一

般的である整数最小二乗法の一つであるLAMBDA ([Teunissen1995])を使用している。ただし整数

解検索にはより検索効率の良いMLAMDA([Chang2005])を採用し観測データ入力単独測位相対測

位整数Ambiguity 決定測位解出力共通衛星選択フィルタ初期化・時間更新二重差残差・観測行列

計算観測誤差共分散計算カルマンフィルタの観測更新を行っている。整数Ambiguity 決定処理フ

ローを図 5-21に示す。

図 5-19 RTKLIB の測位フロー

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5-43

図 5-20 相対測位ルーチンの処理フロー

図 5-21 整数 Ambiguity 決定処理フロー

RTKLIB はグローバルネットワークに未対応であり単一基線の推定のみが可能であり、また

軌道やクロックの推定機能は内蔵されていないので、外部からの軌道情報およびクロック情報

を必要とする。特に PPP の場合の達成精度は、これらの外部情報の精度に大きく依存する。

RTKLIB では次の観測方程式を用いている。(出典:高須 2010、高須 2009)

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5-44

( )ρερ

ελρϕλ

+++=

+−++−=≡Φ Φ

ijrb

ijrb

ijrb

ijkrb

jkrb

ikrbk

ijrb

ijkrb

ijrb

jikrbk

ijkrb

TIP

NNTI

,

,,,,,,

(5-69)

ここで、

測誤差び擬似距離観測値の観 :搬送波位相、およ

ュイティ信号の搬送波アンビギ  :

信号の搬送波の波長  :

  :対流圏遅延量 

信号の電離層遅延量   :

心間の幾何学的距離 受信機アンテナ位相中  :衛星

 信号の擬似距離観測値  :

信号の搬送波観測値   :

レンス間のシングルディファ  :受信機

レンス間のシングルディファ  :衛星

P

ki

kr

kk

ki

kr

ki

kr

ki

kr

rb

ij

LN

L

LI

L

L

brji

εε

λ

ρ

ϕ

,

(cycle)

(m)(m)T

(m)

(m)/

(m)P

(cycle)

,(),()

,

ir

,

ir

,

,

Φ

未知数ベクトル(x)は以下の通りである。

TTTTbNbEbWrNrErW

Tr GGZGGZx ),,,,,,,,,( 21,,,,,, NNIr= (5-70)

ここで、

( )( ) ングルディファレンスュイティの受信機間シ信号の搬送波アンビギ :

ンス間シングルディファレ電離層遅延量の受信機 :

傾斜の南北方向成分における対流圏遅延量  :受信機r

傾斜の東西方向成分における対流圏遅延量  :受信機r

延量における天頂対流圏遅  :受信機r

ンテナ位置   :受信機rのア

k

1mrb,1

2rb,1

1rb,1

LN

LIIII

r

Tmkrbkrbkrbk

T

brN

brE

brW

Tr

NNN

bG

bG

bZ

,2

,1

,

)(,

)(,

)(,

,...,,

,...,,

)(

)(

)(

=

=

また、観測ベクトル(y)は以下の通りである。

( )( )( )Tm

krbkrbkrbkrbk

Tmkrbkrbkrbkrbk

TTTTT

PPPPP

PP

1,

14,

13,

12,

1,

14,

13,

12,

2121

,...,,,

,...,,,

,,,

=

ΦΦΦΦ=Φ

ΦΦ=y

(5-71)

RTKLIBでは、(5-71) 式の観測ベクトルを入力として、(5-70)式の未知数ベクトルをEKF

(Extended Kalman Filter:拡張カルマンフィルタ)を用いて、以下のフィルタ方程式により推定し

ている。

<フィルタ方程式>

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5-45

( )( )[ ] 1

)()(

)()()))(ˆ(()(ˆ)(ˆ

−+−−=

−−=+−−+−=+

RHPHHPK

PHKIPxhyKxx

k

kk

Tkkkkk

kk

kkkkk

(5-72)

<予測方程式>

1111

11

)()(

)(ˆ)(ˆ+++

+

++

++=−

+=−kk

Tkkk

kkk

kk

kk

QFPFP

xFx (5-73)

(5-72)式で、h(x)は観測モデルベクトル、H(x)は推定値x近傍での観測モデルベクトルの偏微分

係数行列、Rは観測誤差の共分散行列であり、それぞれ以下のように表される。

( )( ) ( )( ) ( )

( ) ( )( )( )

( )

{ }

ッピング関数 :電離層遅延量のマ

項のマッピング関数 :対流圏遅延量の

項のマッピング関数 :対流圏遅延量の

遅延量 :天頂静水圧対流圏

量 :天頂総対流圏遅延

iI

kk

irW

irH

ir

irrN

ir

irrE

irW

irWG

rH

rT

rHrTi

rWGrHi

rHi

r

mrbIrbIk

mrb

mrb

rbIrbIkrbrb

rbIrbIkrbrb

kP

mkrbkrbk

mrbIrbIk

mrb

mrb

krbkrbkrbIrbIkrbrb

krbkrbkrbIrbIkrbrb

k

TTP

TP

TT

m

wetm

cHydrostatim

AzElGAzElGmm

Z

Z

ZZmZmT

ImImT

ImImTImImT

NNImImT

NNImImTNNImImT

21

2

,

,

,,,,

,

,

,,,,,

1,21

1,111

31,

311,

11313

21,

211,

11212

,

,1

,1,21

1,111

3,

1,

31,

311,

11313

2,

1,

21,

211,

11212

,

2,2,2,1,

/

sincotcoscot1

)(

ˆˆ

ˆˆˆˆ

,,,)ˆ(

λλγ

γρ

γργρ

λγρ

λγρλγρ

=

++=

−+=

⎥⎥⎥⎥⎥

⎢⎢⎢⎢⎢

−−+

−−+−−+

=

⎥⎥⎥⎥⎥

⎢⎢⎢⎢⎢

−+−−+

−+−−+−+−−+

=

=

Φ

ΦΦ

M

M

h

h

hhhhxh

(5-74)

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5-46

( )

( )

 

⎥⎥⎥⎥

⎢⎢⎢⎢

−−

=

=

⎥⎥⎥⎥⎥

⎢⎢⎢⎢⎢

=

=

⎥⎥⎥⎥

⎢⎢⎢⎢

−−

−−−−

=∂

∂=

=

1001

01010011

,,,,

sincotcoscot

sincotcoscotsincotcoscot

,,,

)()ˆ(

21

,,,

222,

222,

2,

111,

111,

1,

21

ˆ

L

MOMMM

L

L

L

MMM

L

D

M

M

E

00DMDMDMDE00DMDMDMDED0DMDMDMDE

0DDMDMDMDE

xxhxH

rT,

I2bT,rT,

I1bT,rT,

2I2bT,rT,

1I1bT,rT,

xx

TmIIII

mr

mr

mrG

mr

mr

mrG

mrWG

rrrGrrrGrWG

rrrGrrrGrWG

Tmrrr

mmm

AzElmAzElmm

AzElmAzElmmAzElmAzElmm

eee

γγ

λγλγ

(5-75)

( )( )

の観測誤差標準偏差信号の擬似距離観測値 :

観測誤差標準偏差信号の搬送波観測値の :

ki

kP

ki

k

mkPkPkPkP

mkkkk

P

P

L

L

diag

diag

,

,

1,

21,

21,,

1,

21,

21,,

2,,2,2

2,,2,2

σ

σ

σσσ

σσσ

Φ

ΦΦΦΦ

Φ

Φ

=

=

⎥⎥⎥⎥⎥

⎢⎢⎢⎢⎢

=

L

L

R

R

DDRDDR

DDRDDR

R

T,2

T,1

T,2

T,1

(5-76)

また、(5-73)式で、Fは状態遷移行列、Qはシステム雑音の共分散行列であり、それぞれ以下

のように表される。

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5-47

テム誤差:電離層遅延量のシス

テム誤差:対流圏遅延量のシス

の場合

の場合)

Q Q

QQ

Q

I

F

I

T

I

T

Kinematic

II

I

Static

⎥⎥⎥⎥

⎢⎢⎢⎢

⎡∞

=

⎪⎪⎪

⎪⎪⎪

⎥⎥⎥⎥

⎢⎢⎢⎢

=

×

×

×

3232

33

33

0

)(

0(

(5-77)

PPP における電離層遅延量は、L1 と L2 の観測量の電離層フリーの線形結合を用いることに

より消去される。RTK の場合には、L1 および L2 の観測量から、各エポックにおいて拡張カル

マンフィルタ(EKF)を用いて電離層遅延量を逐次推定して補正することによって、長基線で

の精度や FIX 率の劣化を防いでいる。拡張カルマンフィルタによる逐次推定では、電離層遅延

量だけでなく、以下に示す状態量が同時に推定される。

・ECEF 座標で表現されたローバの位置ベクトル

・各 GPS 衛星方向のスラント L1 電離層遅延量の一重差

・搬送波位相の一重差のアンビギュイティ

・対流圏における天頂方向の総湿潤遅延量(基準局とローバの両方)

・対流圏遅延 gradient の東方向成分(基準局とローバの両方)

・対流圏遅延 gradient の北方向成分(基準局とローバの両方)

これらの計算においては、搬送波位相のアンビギュイティは一重差の実数解という形で求ま

るが、以下の式を使ってこれを二重差の最適整数解の形にする。

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5-48

EKF により得られたローバ位置およびアンビギュイティのフロート解を用いて、ニ重差の未

知数は以下のように表現できる。

( )

⎟⎟⎟

⎜⎜⎜

⎛=

⎟⎟⎠

⎞⎜⎜⎝

⎛=+=

=+=

×

DD

IG

QQQQ

GGPP'

NrxGx

33

k

TTr

NRN

NRRTk

T

kk

)(

ˆ,ˆ)(ˆ'ˆ

(5-78)

ここで、N は整数アンビギュイティのニ重差である。上式から、以下の条件 を満たすよ

うに整数アンビギュイティの最適解を求める。

(5-79)

整数最適解( N(

)を求めるには LAMBDA 法とその拡張である MLAMBDA 法が用いられる。 上記により得られたアンビギュイティの FIX 解を Ratio-Test により検証した後、ローバ位置

の FIX 解を以下の式より得る。

(5-80)

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5-49

5.4.4 GIPSY-OASIS II

GIPSY-OASIS II を使った測位のフローは、以下の通りである。

① 入力ファイルの収集

・RINEX Observation File の収集

・RINEX Navigation File の収集

・TPEO file の収集(EOP、極運動等)

② データ処理

・ アウトライア、サイクルスリップ検出

・ 軌道生成

・ 衛星/観測局の取捨選択

・ 地球モデル/観測モデルのセット

・ パラメータ推定処理

・ サイクルスリップ後処理

・ データポイントの編集

・ 最終解の展開

・ ベースラインの展開

通常は測位とともに軌道と衛星クロックの推定も行うが、軌道と衛星クロックを推定せ

ずに IGS や JPL からの外部入力を選択することも可能である。また、観測局のうちその

位置を推定対象とするものと局位置を与えられたものとして固定するものとを区別して

指定することができる。

GIPSY-OASIS II では必ずしもアンビギュイティを解く必要はないが、ambigon2 と呼ばれ

る処理を実行してアンビギュイティを解くことも可能であり、高精度を目指す場合には

実行するべきである。アンビギュイティを解くことによって、水平測位精度を約1mm

まで改善することができる。しかし、垂直方向の測位誤差の支配的要因は対流圏である

ことから、アンビギュイティを解いても垂直方向の精度は変わらない。

PPP を行う場合には、軌道や衛星クロック、地球回転パラメータの推定は行わず外部入

力とし、衛星の食についても JPL の事前データを準備する。

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5-56

GIPSYで用いているWide-laneアンビギュイティ導出方法のうち、Pseudorange MethodはBernese

で用いられているSIGMA AlgorithmのMelbourne-Wuebbena線形結合を用いた方法とほぼ同様であ

り、2 周波の高品質のコードおよび位相観測が可能ならば非常に高い信頼性を有し、電離層の影

響を削除できるため基線長に依存せずに使用できる。対して、電離層フリー Method は 2 周波の

位相のみの観測で使用することができ、電離層の影響を相殺できる短い基線においては有効であ

るが、基線が長くなると電離層の影響を無視できなくなる。

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5-57

5.5 マルチ GNSS に向けた将来の拡張性および発展性

表 5-8 に各解析ソフトウェアについてマルチGNSSに向けた将来の拡張性および発展性について

示す。

表 5-8 各解析ソフトウェアについてマルチ GNSS に向けた将来の拡張性および発展性 (1/2)

将来の拡張性および発展性

Bernese

Version5.2 で

Release される

予定の処理

・Galileo, SBAS, Compass, および QZSS の2周波ユーザ用の処理

(準備完了しているが、データが揃わず試験が未完了)

・時系列でのデータ不連続やアウトライア検出

・GLONASS アンビギュィティ決定

・PPP を含む GLONASS クロック推定

・GNSS 依存の受信機アンテナ補正

・L2C の 1/4-cycle shift をアンビギュィティ決定に考慮

・衛星 wise アンテナオフセット/パターンの推定の改善

・複数年にまたがる GNSS 衛星アンテナオフセット/パターン推定

・ADDNEQ2 で扱う衛星アンテナパラメータアプリオリ値の更新

・ADDNEQ2 での受信機アンテナパラメータ考慮(GNSS-specific)

・RINEX ヘッダー情報のチェックを含む個々にキャリブレーションされた

受信機アンテナのサポート

・RXOBV3 や ADDNEQ2 における局や観測データの除外オプション

・軌道生成処理でのフィッティングにおける経験的パルスの推定

・固体地球潮汐による加速度の ORBGEN での軌道生成への考慮

・システム的な制約の定義に基づくアーク分割の定義

・特に GPTEST のエポックパラメータについて観測データのサンプリングの

柔軟化

・GPSEST へクロック RINEX ファイルを受信機クロックのアプリオリ値として

取り込み

・与えられたファイル入力によるアプリオリクロックの内挿

・ゼロディファレンスおよび一重差参照アンビギュィティの改善

・基線長による MAUPRP 自動処理オプション

・特定の期間についてサイクルスリップの毎エポック検出

・RNXSMT で受信機クロックイベントを処理

・ADDNEQ2 で解を結合する場合のエルミートパラメータの算出

・SINEX のインポートに関する改善

・基線を選ぶ場合に特定の受信機を除外

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表 5-8 各解析ソフトウェアについてマルチ GNSS に向けた将来の拡張性および発展性 (2/2)

将来の拡張性および発展性の説明

GAMIT-GLOBK

(MIT Dr. King

へのヒアリングに

よる)

・将来的に新しい GNSS を処理できるようにする意向はある。しかし、具

体的なスケジュールは未定である。ソフトウェア改修のリソースが限られ

ていることや開発の目的を考えると、新しい GNSS が高精度な観測量とし

て使えることが判明した後ということになるであろう。

RTKLIB

(東京海洋大学高

須氏へのヒアリン

グによる)

V 2.5.0 での Release 予定

・ガリレオの公式サポート

・1周波 PPP

・PPP の改良と長基線 RTK

・処理対象受信機の追加

・ソフトウェア受信機の処理モジュール追加

・長期ビジョンは未定

GIPSY-OASISⅡ

( JPL Dr. Desai

へのヒアリングに

よる)

GIPSY-OASYSⅡは現状 GPS と GLONASS(および DORIS と SLR)のみを

サポートしている。将来的には Galileo や Compass を処理できるようにする

ことを検討しているが、現時点で明確なスケジュールは立案されていない。

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5.6 参考文書

<Berniese 関連>

・Bernese GPS Software Version 5.0, Rolf Dach 他, Jan. 2007

・Niell, A. E. (1996), Global Mapping Functions for the Atmosphere Delay at Radio Wavelengths, Journal

of Geophysical Research, 101(B2), pp. 3227-3246

<GAMIT-GLOBK 関連>

・Introduction to GAMIT/GLOBK, Release 10.4, T.A.Herring 他, Oct. 2010

・GAMIT Reference Manual, Relese10.4, T.A. Herring 他, Oct 2010

<RTKLIB 関連>

・RTKLIB ver. 2.4.1 Manual

・[高須 2010] T.Takasu and A.Yasuda, Kalman-filter-based integer ambiguity resolution strategy for

long-baseline RTK with ionosphere and troposphere estimation, ION GNSS 2010, September 21-24,

Oregon Convention Center, Portland, U.S.

・[高須 2009] T.Takasu, and A.Yasuda, Development of the low-cost RTK-GPS receiver with an open

source program package RTKLIB, International Symposium on GPS/GNSS 2009, ICC Jeju, Korea

・[Teunissen1995] Teunissen, P. J. G., The least-square ambiguity Decorrelation adjustment: a method for

fast GPS ambiguity estimation, J. Geodesy, vol.70 (1995)

・[Chang2005] Chang, X.-W., Yang, X. and Zhou, T., MLAMDA: A modified LAMBDA method for integer

least-squares estimation, J. Geodesy, vol.79 (2005)

<GIPSY-OASIS 関連>

・GIPSY-OASIS II, How it works, Thierry Gregorius 他, Oct 1996