あなたのチームの「いい人」は機能していますか?
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2016/01/19 - Regional SCRUM GATHERING® Tokyo 2016
あなたのチームの「いい人」は機能していますか?
横道 稔(株式会社サイバーエージェント / 株式会社 RightSegment)
自己紹介
• 横道稔 (@ykmc09_dev) • 株式会社サイバーエージェント アドテクスタジオ • 株式会社 RightSegment にて PrivateDMP を開発 • エンジニア、エンジニアチームのマネージャ • CSM / CSPO
自己紹介元エンタープライズ系 SIer在籍時に平鍋さんの講演でアジャイル開発に出会い、熱い思いを抱く。
組織内でできることを模索。
http://www.slideshare.net/MinoruYokomichi/sesier-devlove-2013
自己紹介現組織内で「リーン/アジャイル開発の研究ゼミ」という分科会活動を立ち上げ。
有志で色々と切磋琢磨しながら社内活動中。
http://www.slideshare.net/MinoruYokomichi/scrum-46847898
お話すること
『「いい人」を台無しにしない』という切り口での
チーム運営、マネジメントの一例(ピープルマネジメント、チームマネジメントだいじ)
開発チーム
PO
SMマネージャ
3つのロールお話するところ
開発チーム
PO
SMマネージャ
3つのロールお話するところここにいる「いい人」
開発チーム
PO
SMマネージャ
3つのロールお話するところここにいる「いい人」
ここの人たちのマネジメントでも、スクラムに限った話ではないです
その他前提
• スプリント内の割り込み作業を、一定量許容しているチームを想定しています
「いい人」の話
開発チームにおける「いい人」とは
嫌なそぶりなく落ちそうな or 落ちているボールを
積極的に拾ってくれる人
「いい人」がやってくれること
例えば...
• 障害時に真っ先にアクションを起こし、責任もって復旧
• 割り込み作業があった際に、誰もやりたがらない空気を受けて率先して引き受ける
• KPT で出た ToDo をいつも多めに引き受けてくれる
• 地味なタスクが発生した時に「今回やっときますね」と手を上げる
「いい人」がやってくれること• 「裏方ほどおいしい仕事はない!」プレジデント社
• 村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」内の「文化的雪かき」になぞらえて「誰の義務でもないけれど、誰かがやらないと、結局あとでみんなが困る種類の仕事」(内田樹)
「いい人」がやってくれていること → 「雪かき」 みなさんの周りにいますか?
「いい人」が陥った問題
• 半期のたび「まわりにくらべて自分の成果は小さい。技術力が向上していない。プロダクトにコミットできていない」と悩む。
• e.g. 他のメンバーにくらべ、コードを書く時間がとれていない。(雪かきしている間に、本当は自分もやりたかった開発チケットはほかの人がやってくれている。)
• 低い自己評価、目標外の仕事 → 低い人事考課
「いい人」が陥った問題
境界を越えて頑張っているつもりだが、報われず疲弊
• 燃え尽きや、離職もちらつく?!
• 「ダレずに開発を走り切る為の習慣 : KLabGames Tech Blog」
http://klabgames.tech.blog.jp.klab.com/archives/1048211387.html
• 『「だるいタスク」を集中させてしまうと、あっという間に人員が疲弊して 最悪離職します』
• 億劫度
「いい人」が生み出した問題
チーム、個人で負のスパイラルに陥っている
• チームに起きている問題
• 属人化によるプロダクトリスクが増大(「あの人しか対応できない・・・」)
• チームメンバーに起きている問題
• 「きっとあの人がやってくれる。」
• 暗黙的な役割の分断により、自己組織化が阻害
「いい人」が生み出した問題
• いい人に起きている問題
• 「働いている気」になっている場合がある
• サーバントリーダの一部分を取り出して、自身を合理化(心理的自己防衛)
• 「自分はサーバントリーダシップを発揮しており、認められなくても価値ある行動をしている」
• こじらせると情報の権威化などを生み、おそらく老害化
これらの問題の原因
チームマネジメント、ピープルマネジメントの欠落
• チームマネジメント
• 属人化リスク、自己組織化の阻害要因を無視
• スクラムマスタやチームメンバーは、正直すこし「助かってしまう」(割り込みにうまく対処できていると感じてしまう)
• 「いつも面倒なことに対応してくれてありがとう!」
これらの問題の原因
• ピープルマネジメント
• 育成に責任を持つマネージャが、実際のチーム内に、育成を効かせられていない
• スクラムマスタやメンバーが各人のキャリア志向を把握できていない
• プロダクト立ち上げの種々状況などが相まって、これらに誰がコミットするのか、曖昧な状態で進んでしまっていた。
「いい人」のかけがえのない価値
「自分よりもチームのため」と思っているゆえの行動
• 今チームのためになることを精一杯やっている
• この人がいなかったら、立ちゆかなくなっていたかも
• 「地味にやってる人たちがあればこそ、何とかなる」 本田宗一郎
この献身的なマインドを重要なチーム内資質として組織に活かす
少なくとも達成したかったこと
「いい人」が正しく機能している状態にする
• 「チーム内の属人化リスク」でない「自己組織化の阻害要因」でない
• 成長実感を得ていて、自他ともに納得感のある評価がなされている(これはもちろん「いい人」だけではなく全員)
なにをしたか
Photo by FurLined
1.「雪かき」を ただしく分散する
Photo by DVIDSHUB https://flic.kr/p/7Ca6jy
「属人化リスク」「自己組織化の阻害要因」の排除
「雪かき」は特定の誰かの仕事ではなく、チームが多能工化、効率化していく上で大切な、全員の仕事であることを、きちんと明示する
• 例:開発チームのスローガンに含めてキックオフミーティングしたり、プロダクトロードマップ&体制図に明示したり
誰が「雪かき」をやるか、どう決める?
まず「雪かき」を仕分けする
• スポット的で学びが少ない(重要度:低)
• プロダクトとチームを成長、存続させる上で欠かせない(重要度:高)
• こっちの「雪かき」の全員対応に注力
「雪かき」の仕分け重要度(学びの多さ、プロダクト存続)高 低
頻度
高
低
「雪かき」の仕分け重要度(学びの多さ、プロダクト存続)高 低
頻度
高
低
誰が「雪かき」をやるか、どう決める?• 重要度:高。頻度:高。(障害対応、重要度の高い問い合わせ対応 etc.)
• 不平等感なく全員にあたるようにする。 Bot でランダムアサイン化 など。
ビジネスサイドが問い合わせ
Bot がアサイン
アサインされた開発チームメンバー
ニーズがあるなら機能化、 Bot 化したいなという思い
誰が「雪かき」をやるか、どう決める?
• 「いい人」がやってくれていた作業は、ペア作業でノウハウ伝承。
• もちろん自動化、Bot 化できるものは漸次対応。
「雪かき」の仕分け重要度(学びの多さ、プロダクト存続)高 低
頻度
高
低
誰が「雪かき」をやるか、どう決める?
• 重要度:高。頻度:低。(新メンバーの受け入れ、立ち上げ期間支援)
• 最終的に全員にあたるように順番に担当。(学びの機会の平準化)
「雪かき」の仕分け重要度(学びの多さ、プロダクト存続)高 低
頻度
高
低
誰が「雪かき」をやるか、どう決める?
• 重要度:低。頻度:問わない。(既知の問い合わせや、今後再発生し得ないようなスポット作業、定例設定)
• チームにゆとりがなければ、スクラムマスタが巻き取る。(ゆとりがあればランダムアサイン)
• 積極的に Bot で自動化。
「雪かき」の仕分け重要度(学びの多さ、プロダクト存続)高 低
頻度
高不公平感のないランダムアサイン Bot 化、自動化促進
SM が巻き取る (割込タスクにしない) ※チームに余裕がでればチームで対応
Bot 化、自動化促進
低 全員1回はあたるようにSM が巻き取る
(割込タスクにしない) ※チームに余裕がでればチームで対応
「いい人」が本来とるべき行動
献身的なマインドを活かす方法は、
「雪かきをすること」ではなく
「みんなで雪かきする文化をつくること」
これをスクラムマスタやマネージャから伝える
3.チームメンバーの「いい人」に対する見かたを変える
Photo by MDphotographyPhoto by vagabondblogger
「OKR」を用いた期待マネジメントOKR とは...
• 『「Objective and Key Result(目標と主な結果)」の略で、企業のチームメンバーそれぞれの目標と期待されている結果を明確にし、組織のオペレーションとコミュニケーションを効率化するためのシステム』出典:「OKR (目標と主な結果)」http://hiromaeda.com/2015/01/19/okr/
How Google Works 日本経済新聞出版社
「OKR」を用いた期待マネジメント
• 成長実感をともなう仕事の目標を合意の上、 OKR で明示(GitHub や Qiita:Team などを利用)
• 「みんなで雪かきする文化をつくること」も明示
宣言によって、本人の意志が固まる 「いい人」に対する期待値が整う
※役割分断の原因とならないようにし、むしろ越境のためのツールとすることが必要です※あくまでも自己組織化のためのツールとし、人事考課と切り離すことをおすすめします
とある「いい人」の OKR 例
「元シェル芸人」:「シェル」= チーム内での「雪かき」 の暗喩。これまでとは違うことの宣言
今 Q は、新規機能開発に注力したいよと宣言
これまでのノウハウを活かして率先して文化づくりを頑張るよという宣言
オリジナル項目
補足:「OKR」記述項目例• 必須
• OBJECTIVE、KEY RESULT
• その他、試してみている項目
• ALIGNMENT: OBJECTIVE が、プロダクトの OBJECTIVE にどう寄与するか
• PLEASE CALL ME: Q 目標を体現する呼び名。期待値をより認知してもらうのに有効。
• CHALLENGE: Q 目標とはしないけれど、チャレンジしようかなと思っていること
• なにかひとこと: 決意表明
なにが起きるか
どうなった?• 「チーム内の属人化リスク」でない「自己組織化の阻害要因」でない→ もちまえの献身性で、むしろこれらの問題を取り除く意欲と行動が現れる
• 成長実感を得ていて、自他ともに納得感のある評価がなされている→ OKR で、「言い訳せず進む覚悟」「チーム内に、それを支援する感情」が生まれ、過小な自己評価がなくなる
補足
実は前段で起こっていたこと
• ジレンマを抱えた別の「いい人」が、組織課題を解決すべく開発チームマネージャとなった。
• そして当問題を課題のひとつとして取り組んだ。(当発表は、複合的な課題へのアプローチを「いい人」にフォーカスして切り出しました)
• このアサインもひとつの「いい人」対策の選択肢。
「いい人」のひとつのキャリアについて
感じていたことが、Rebuild.fm #123 の 43:25 ~ 46:30 あたりで語られていました
• ひとつの価値ある確立されたロールとして、資質や経験、知識を発揮して意志をもったマネジメントをすべき
• 「旧来型マネジメント」がスポイルした「マネジメント」を払拭しないといけない
• 加えて、自動化、Bot、見える化まわりの技能もキャッチアップし、その面で支援できるのも相性が良いと思う
まとめ
ぜひチームを見渡してみてください
スクラムマスタ、開発チームメンバーの方へ
• 周りに隠れ「いい人」はいない?甘えていない?本人が実は疲弊していない?
• 群れて対応しないといけないことではないか自問
ぜひチームを見渡してみてください
マネージャの方へ
• 3ロール外のマネージャー(や「コーチ」)の存在と働きかけは重要
• 個人のモチベーション向上要素、育成計画をチーム開発に反映する仕掛けができている?
• OKR など。プロセスやツールを活用して、個人と対話を。
ぜひチームを見渡してみてください
マネージャの方へ
• ちなみに、見つけた「いい人」を簡単に kill する言葉
• 「成果でてないんじゃない?」
• 「なんでそんなことやってるの?」
• 「もっとフォーカスしたほうがいいよ?」
これ言ってる時間があったら、その人が成果が出せるための行動や対話に使いたい
ぜひチームを見渡してみてください
「いい人」へ
• 心の奥底で一抹の不満や不安を抱いていない?
• 合理化が働いて、無理やり納得していない?
• 真にチームのためになっている行動?
• スクラムマスタやマネージャに本気で相談しよう(割り込み率を計測してみるのも良いですね)
Life is too short to be tired.
Photo by zaimoku_woodpile
(今回は「いい人」にフォーカスしましたが) メンバー全員が幸せなチームが この世に増えますように
Photo by zaimoku_woodpile
ご清聴ありがとうございました