a report from the results of trial osce for nursing … words:nursing practice, osce, learning...

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順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 35 Ⅰ.はじめに 近年、医療系教育機関では OSCEObjective Struc- tured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)を 導入する動きがみられ、医歯学教育においては、2005 年から臨床実習開始前の「共用試験」として正式に採 用されている 1) OSCE が、すでに定着している医学 教育の文献には「OSCE は、認知領域(知識)だけ でなく、精神運動領域(技能)と情意領域(態度)の 評価が可能であり、なかでも精神運動領域の評価方法 として画期的な方法である」と述べられている 2) また看護学教育においても、「看護学士課程におけ OSCE 活用の現状と課題に関する文献検討」では、 OSCE を試みた研究論文の年次推移は、2003 年以 降に数件ずつ散見されるようになり、2005 年以降増 加し、今後も増加すると予測される」と、近年 OSCE を実施する教育機関が増加傾向にあることが報告され ている 3) 。さらに、OSCE 導入の先駆的取り組みをし 近年、医療系教育機関では OSCEObjective Structured Clinical Examination客観的臨床 能力試験)を導入する動きがみられ、医歯学教育においては、2005年から臨床実習開始前の「共 用試験」として正式に採用されている。OSCE は、認知領域(知識)だけでなく、精神運動領域(技 能)と情意領域(態度)を含めた総合的評価が可能であり、看護学教育においても2005 年以降、 OSCE を導入する大学が増加傾向にある。本学部(順天堂大学保健看護学部)は 2010 年に開 学し、その教育目標に【心身を癒す看護実践能力の修得】を掲げ、1・2 回生を社会に送り出した。 開学から 5 年を経た今年(2015 年)度、【心身を癒す看護実践能力の修得】を評価する手法と して、3 年次の臨地実習直前に OSCE をトライアルで実施した。その結果、開催時期および実 施課題、評価基準の再考等、今後への課題はあるものの、受験学生の看護実践能力の評価と臨 地実習に向けた学習促進効果は大きく、その継続の必要性が示唆された。今後は、OSCE で自 覚した学生自身の課題を復習できるよう開催時期の検討と、実施課題および評価基準を全教員 参加で作成する等、今回のトライアル OSCE をベースとして、更なるブラッシュアップが必要 と思われる。 索 引 用 語:臨地実習、OSCE、学習効果 Key wordsNursing Practice, OSCE, learning effect 学内活動報告 * 順天堂大学保健看護学部 Juntendo University Faculty of Health Sciences and Nursing (Nov. 13, 2015 原稿受付)(Jan. 22, 2016 原稿受領) 順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 4 P.35 - 41 (2016臨地実習に向けたトライアル OSCE 実施報告 A Report from the Results of Trial OSCE for Nursing Practice FUJIO Yuko TAKEI Yasushi 佐々木 SASAKI Shino HAYASHI Ryo ISHIZUKA Junko OKADA Takao

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順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 35

Ⅰ.はじめに

 近年、医療系教育機関では OSCE(Objective Struc-

tured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)を

導入する動きがみられ、医歯学教育においては、2005

年から臨床実習開始前の「共用試験」として正式に採

用されている1)。OSCE が、すでに定着している医学

教育の文献には「OSCE は、認知領域(知識)だけ

でなく、精神運動領域(技能)と情意領域(態度)の

評価が可能であり、なかでも精神運動領域の評価方法

として画期的な方法である」と述べられている2)。

 また看護学教育においても、「看護学士課程におけ

る OSCE 活用の現状と課題に関する文献検討」では、

「OSCE を試みた研究論文の年次推移は、2003 年以

降に数件ずつ散見されるようになり、2005 年以降増

加し、今後も増加すると予測される」と、近年 OSCE

を実施する教育機関が増加傾向にあることが報告され

ている3)。さらに、OSCE 導入の先駆的取り組みをし

要 旨

 近年、医療系教育機関では OSCE(Objective Structured Clinical Examination:客観的臨床

能力試験)を導入する動きがみられ、医歯学教育においては、2005 年から臨床実習開始前の「共

用試験」として正式に採用されている。OSCE は、認知領域(知識)だけでなく、精神運動領域(技

能)と情意領域(態度)を含めた総合的評価が可能であり、看護学教育においても 2005 年以降、

OSCE を導入する大学が増加傾向にある。本学部(順天堂大学保健看護学部)は 2010 年に開

学し、その教育目標に【心身を癒す看護実践能力の修得】を掲げ、1・2 回生を社会に送り出した。

開学から 5 年を経た今年(2015 年)度、【心身を癒す看護実践能力の修得】を評価する手法と

して、3 年次の臨地実習直前に OSCE をトライアルで実施した。その結果、開催時期および実

施課題、評価基準の再考等、今後への課題はあるものの、受験学生の看護実践能力の評価と臨

地実習に向けた学習促進効果は大きく、その継続の必要性が示唆された。今後は、OSCE で自

覚した学生自身の課題を復習できるよう開催時期の検討と、実施課題および評価基準を全教員

参加で作成する等、今回のトライアル OSCE をベースとして、更なるブラッシュアップが必要

と思われる。

  索 引 用 語:臨地実習、OSCE、学習効果

  Key words:Nursing Practice, OSCE, learning effect

学内活動報告

* 順天堂大学保健看護学部

* Juntendo University Faculty of Health Sciences and Nursing  (Nov. 13, 2015 原稿受付)(Jan. 22, 2016 原稿受領)

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 4

P.35- 41 (2016)

臨地実習に向けたトライアルOSCE実施報告

A Report from the Results of Trial OSCE for Nursing Practice

藤 尾 祐 子FUJIO Yuko

*  武 井   泰TAKEI Yasushi

*  佐々木 史 乃SASAKI Shino

林     亮HAYASHI Ryo

*  石 塚 淳 子ISHIZUKA Junko

*  岡 田 隆 夫OKADA Takao

藤尾祐子:臨地実習に向けたトライアル OSCE 実施報告36

ている看護系大学においては、精神運動領域(技能)

について看護実践としての動きや滑らかさなどと認知

領域(知識)、情意領域(態度)を含めた総合的評価

として OSCE を活用している1)。この取り組みは「質

の高い大学教育推進プログラム(教育 GP)」採択事

業において報告されている4)。このような看護系大学

の OSCE 実施の広がりは、文部科学省による 2002

年度の「大学における看護実践能力の育成の充実に向

けて(看護学教育のあり方に関する検討報告会)」と、

2004 年「看護実践能力育成の充実に向けた大学卒業

時の到達目標」において「学士課程で育成される看護

実践能力」の詳細が示された5)ことに依拠すると思わ

れる。

 このような看護学教育の背景下、本学部(順天堂大

学保健看護学部)は 2010 年に開学し、その教育目標

に【心身を癒す看護実践能力の修得】を掲げ、1・2

回生を社会に送り出した。開学から 5 年を経た今年

(2015 年)度、【心身を癒す看護実践能力の修得】を

評価する手法として、3 年次の臨地実習直前に OSCE

をトライアルで実施することとなった。3 年次の臨地

実習直前に行われる OSCE は、状況設定のある看護

技術を課題としていることで看護技術の習得のみでな

く、対象理解を含め様々な状況を理解し、そのうえで

実践できる能力を測定できる6)ことや、今後の臨地実

習に向けて学生が自己の課題を自覚したり、教育の改

善に結びつけられる形成的評価としての意義をもつも

のである。

 本学部における 3 年次 OSCE 実施の目的は、「臨地

実習に臨むにあたり、看護学生としてふさわしい態度

・到達すべき看護技術を身につけているか否かを明ら

かにする」ことである。副次的には、学生は OSCE

に備えて看護技術の復習を行うため、技術レベルの向

上を図ることが期待できる。試験結果を学生にフィー

ドバックすることにより、学生に不得手部分を自覚さ

せることができ、学生の自己学習を促すことができる。

学生の成績の傾向を把握することにより、教育の改善

を図ることができる。極端な成績不振の学生に対して

補習を実施し、臨地実習での不慮の事故を未然に防ぐ

ことができる。などの効果を期待するものである。本

稿では、実施後のアンケートから臨地実習に向けて実

施したトライアル OSCE について、受験学生への学

習効果と全般的な評価から今後の課題について報告す

る。

Ⅱ.トライアル OSCE 実施について

1. 実施対象者:順天堂大学保健看護学部 3 年次学生

 119 名

2. 実施日時:2015 年 9 月 29 日(火)9:00 ~ 16:00

3. 実施目的:臨地実習に臨むにあたり、看護学生とし

 てふさわしい態度・到達すべき看護技術を身につけ

 ているか否かを明らかにする。

4. 到達目標:患者さんにどのような態度で接するべき

 か、何をしなくてはならなく、何をすべきか知って

 おり、そして実行できる。

5. 実施に向けての準備:2015 年 4 月より OSCE ワー

 キンググループ(5 名)が発足し、9 月実施に向け

 て準備をスタートさせた。準備としては、実施課題

 および評価基準、OSCE 実施マニュアル、模擬患

 者シナリオ、受験学生ガイダンス資料、実施後のア

 ンケート、評価入力ファイルの作成。地域のコミュ

 ニティへ模擬患者依頼、本学部教員および臨地実習

 施設である順天堂大学医学部附属静岡病院 臨地実

 習指導者への評価者依頼、4 年生 学生ボランティ

 ア募集、必要物品の選定および購入等、ワーキング

 グループおよび事務スタッフで役割分担して準備を

 進めた。

6. 実施方法:状況設定のある看護技術課題を 5 課題

 設定し、1 グループ 5 名の学生が 5 ステーション

 を移動、並行して 4 レーン同時に実施することで 1

 クール 20 名の学生が受験できるスタイルとし、午

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 37

 前 60 名、午後 59 名が受験した。各課題 5 分また

 は 7 分の時間構成とした。午前の部、午後の部と

 もに 3 クール実施し、5 課題とも午前と午後は別

 の状況設定とした。受験学生には 2 か月前(2015

 年 7 月 31 日)の実習オリエンテーションにおいて、

 OSCE の実施目的および到達目標、実施方法に加

 えて事前学習課題を提示した。OSCE 当日の進行

 表を表 1 に示す。

7. 実施課題:課題は、今後の臨地実習において遭遇す

 るであろう状況を設定した。

 各課題のテーマは以下の通りである。

 【課題 1:コミュニケーション】【課題 2:呼吸音の

 聴取】【課題 3:成人の輸液管理】【課題 4:小児の

 オムツ交換】【課題 5:片麻痺患者の移乗介助】

8. 模擬患者:状況および対象理解を深めるためにシナ

 リオを作成し、模擬患者役は一般市民に依頼した。

 よりリアルな患者役を演じるための模擬患者説明会

 を 2 回開催し、シミュレーション練習を行った。

 OSCE 当日には、地域のコミュニティより午前の

 部と午後の部を合わせて、延べ 49 名の協力を得た。

9. 運営:受験会場設営、使用物品の準備、受験学生、

 模擬患者、評価者の誘導、スケジュールアナウンス、

 実施後の後片付けは 4 年生 学生ボランティアが役

 割を担った。受験会場は本学部の実習室 1、実習室

 2 に各 2 レーン 5 ステーションを設営した。また

 受験学生の試験前後の待機室を別々に設け、受験学

 生間での課題についての情報交換を避けた。進行に

 あたっては、タイムテーブルを基に受験学生、模擬

 患者、評価者は、すべて 4 年生 学生ボランティア

 のアナウンスにより誘導した。

10. 評価:評価者は本学部教員および臨地実習指導者

 とし、課題ごとに共通の評価項目、評価基準により

 各課題ともに2名で評価した。各課題が終了した時

 点で、評価者より受験学生に 1 分間のフィードバッ

 クを行った。評価入力は、1 クール終了するごとに

 2 名の事務スタッフが行った。

11. 評価結果:各課題 50 点満点で設定し、評価得点

 の算出方法は、各課題とも評価者 2 名の点数を平

 均して得点とした。結果は、【課題 1】【課題 2】【課

 題 5】の得点率は 60 ~ 80% であったが、【課題 3】【課

 題 4】は 60% を下回り、【課題 3(午後)】【課題 4

表1 進行表   進行内容(課題読み 1 分、実践 5 分または 7 分、フィードバック1分、移動 1 分

表2 OSCE 評価得点結果(n=119)

藤尾祐子:臨地実習に向けたトライアル OSCE 実施報告38

 (午後)】は 50% 以下であった。課題別での午前・

 午後の得点差は、【課題 4】が 8.4 点と大きかった。

 その他の課題は 0.1 ~ 3 点程度であった。また、【課

 題 3】【課題 4】は標準偏差が大きく得点のばらつ

 きを認めた。評価結果を表 2 に示す。

 このように午前、午後の得点に格差を認めたため、

 受験学生への評価結果の提示は 5 課題の総合得点

 ではなく、課題別の得点とした。各課題の評価項目

 別得点・各課題総合得点および学年平均点の一覧表

 とレーダーチャートで評価を表示し評価表とした。

12. 評価返却:受験学生への評価返却日は臨地実習が

 スタートする直前(2015 年 10 月 2 日)とした。

 評価表を受験学生に返却した後、各課題を担当した

 教員より「設定した課題の意図するところ」「評価

 項目および評価のポイント」「平均点の低い評価項

 目」について、各課題 15 分程度の解説をした。評

 価結果の返却にあたっては、臨地実習参加の可否を

 振り分けるものではなく、自己の課題を明確にし、

 臨地実習での学習を促進するためのものであること

 を説明した。学生の反応としては、OSCE 実施直

 後には落ち込む学生の姿も見受けられたが、数日を

 経て評価返却時には冷静に解説を聞き、しっかりメ

 モを取る姿が多く見られた。また、翌週からの臨地

 実習に向けて、週末も実習室で練習する学生もいた。

13. アンケート:受験学生、模擬患者、評価者、4 年

 生 学生ボランティアに OSCE 実施後にアンケート

 を行った。受験学生には、OSCE に向けた自己学

 習に関する内容と、OSCE による臨地実習に向け

 ての学習効果を検証できる質問紙とし、質問内容に

 は、John M. Keller による「ARCS 動機づけモデル」

 を採用した。アンケート実施にあたっては、本学部

 の研究等倫理審査会の承認を得て実施した。受験学

 生には無記名自記式によるアンケートであり個人を

 特定できないこと、学業成績とは関係ないことを説

 明し調査協力依頼をした。模擬患者、評価者、4 年

 生 学生ボランティアには、倫理的配慮として無記

 名自記式によるアンケートであり個人を特定できな

 いことを明記し、OSCE の企画、運営、評価に関

 する質問内容とした。

14. OSCE ワーキンググループの活動の全体像を表 3

 に示す。

表3 OSCE ワーキンググループの活動内容

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 39

Ⅲ.OSCE アンケート結果より

1. 受験学生のアンケート結果

 受験学生に対して、OSCE に向けた自己学習に関

する内容として 1) OSCE に備えて看護技術の復習を

行いましたか 2) OSCE により技術レベルの向上は図

れましたか 3) OSCE により自らの学習課題を自覚で

きましたか、学習効果に関する内容として John M.

Keller 「ARCS 動機づけモデル」を改変して 4) 領域

実習のイメージができましたか 5) 領域実習への興味

はわきましたか 6) 領域実習は面白そうだと思いまし

たか 7) OSCE は新鮮でしたか 8)OSCE を何度でも

やってみたいと思いましたか 9) 領域実習に対して親

近感が持てましたか 10) OSCE の準備は自主的に行

えましたか 11) 自分の得意な方法で OSCE の学習が

できましたか 12) 事前学習を工夫したり納得できる

まで繰り返しましたか 13) OSCE により知識と実技

の関連性に気づきましたか 14) OSCE により学習目

標が明確になりましたか 15) OSCE により着実に学習

を積み重ねられましたか 16) OSCE により学習した

ことに自信がもてましたか 17) OSCE はやりがいがあ

りましたか 18) OSCE は学習意欲を向上させました

か 19) OSCE により学習内容が身につきましたか 20)

OSCE による学習方法は楽しめましたか 21) OSCE

は領域実習の事前準備を促進しましたか 22) OSCE

でうまくできなかった項目を復習したいと思いますか

23) OSCE により主体的学習姿勢が養われましたか、

について likert scale 4 件法(1. とてもそう思う 2. ま

あそう思う 3. あまりそう思わない 4. 全くそう思わな

い)で回答を求めた。

 アンケートは受験学生全員 119 名から回答が得ら

れ、回収率は 100% であった。回答結果を図 1 に示す。

図 1 は 横 軸 を 回 答 率、 縦 軸 を 質 問 番 号 と し た。

1) 3) 7) 10) 13) 14) 18) 22) 23) は、80% 以上の受験学生が 1. とても

そう思う 2. まあそう思うと回答した。6) 8) 16) 20)は、60%

以上の受験学生が 3. あまりそう思わない 4. 全くそう

思わないと回答した。「学習動機づけ」の視点で、さ

らに詳細に分析する予定である。

2. 評価者・模擬患者・4 年生 学生ボランティアのア

 ンケート結果

 評価者を対象としたアンケートでは、38 名の回答

(回収率 90.4%)が得られた。OSCE の目的・開催時

期の周知方法については、23 名 59% が適当であると

回答した。課題数・内容については 24 名 67% が適

当である、学生配置、試験時間など課題進行について

は 29 名 76% が適当である、役割分担、内容につい

ては 28 名 72% が適当である、評価票、コメントな

ど評価については 12 名 32% が問題なしと回答した。

自由記載から今後の課題は、開催時期に関して【復習

期間の確保のためにもう少し早い時期に実施する】【予

習期間の確保のためにもう少し早く周知する】が指摘

された。実施課題に関して【5課題を一気に行うこと

で学生自身・自己評価がしにくいのではないか】【課

図1 OSCE 受験学生アンケート結果(n=119)

藤尾祐子:臨地実習に向けたトライアル OSCE 実施報告40

題の提示が不十分であり学生に意図が伝わっていな

い】【評価内容および評価尺度がマッチしていない】【評

価項目のポイントが不明確】【午前と午後で問題の公

平性を担保できているか】が指摘された。評価・フィー

ドバックに関して【評価票項目の順序性が学生の行動

の流れとリンクしていない】【評価は主観的な要素が

大きい】【評価項目が不足している】【評価の指標が必

要である】【フィードバックの時間が少ない】が指摘

された。模擬患者に関して【適切であった】【学生に

気遣いをしてくださる方が多かった】といった意見が

ある反面、【ヒントを与えてしまう人やコメントが多

く学生の動きに影響が出てしまうケースがあった】【ど

こまで動かして良いのか迷っていた】等の課題も指摘

された。

 模擬患者を対象としたアンケートでは、47 名の回

答(回収率 96.0%)が得られた。模擬患者を担当して

感じた問題点について、42 名 89% が「なし」と回答

した。シナリオについて困ったこと、改善点では 37

名 79% が「なし」と回答した。自由記載から今後の

課題は、【学生の質問が多様でシナリオ通りに答えて

良いか迷う事があった】【シナリオ通りに演技する事

が難しかった】【患者役からの視点でのフィードバッ

クも必要なのではないか】が指摘された。

 4年生 学生ボランティアを対象としたアンケート

では、18 名から回答(回収率 94.7%)が得られた。

OSCE の目的・開催時期、協力依頼などの周知方法

については 17 名 94% が適切であると回答した。ボ

ランティアの人数や配置については 12 名 67% が適

当である、集合時間、拘束時間については 14 名 78%

が適当である、協力・ボランティア内容については

16 名 89% が適当であると回答した。自由記述から今

後の課題は、【終了後の片付けの人員増】が指摘された。

Ⅳ.考 察

 受験学生のアンケート結果から、「1. とてもそう思

う 2. まあそう思う」を合わせた回答率が 8 割を超え

た項目は、【   に備えて看護技術の復習をしたか】

【OSCE に よ り 自 ら の 学 習 課 題 が 自 覚 で き た か 】

【OSCE は新鮮であったか】【OSCE の準備は自主的

に行えたか】【OSCE により知識と実技の関連性に気

づいたか】【OSCE により学習課題が明確になったか】

【OSCE は学習意欲を向上させたか】【OSCE で上手

くできなかった項目を復習したいか】【OSCE により

主体的学習姿勢が養われたか】であり、この結果から、

OSCE を臨地実習直前の 3 年次に実施したことによ

り、臨地実習に向けて学習を促進する効果が得られた

のではないかと考える。また、他の看護系大学におけ

る OSCE 実施の先行研究においても、OSCE を受け

た学生の 8 割が「OSCE は臨地実践力を身につける

ために役立つ」「自己の技術力向上に相互学習や自己

学習が役立った」と主体的な学習や技術練習が有意義

であること6)、「学生の苦手とする技術の確認ができ、

臨地実習での留意点が明確になった」という報告7)、

「評価のフィードバックによる教育効果および患者役

での対象理解と援助を受ける立場での技術評価ができ

た」という報告8)等があり、本学部が実施したトライ

アル OSCE においても同様の結果を得ることができ

たと思われる。このように、受験学生への学習効果の

視点で今回実施したトライアル OSCE を評価してみ

ると、臨地実習に向けた学習を促進する効果は大きく、

その継続の必要性が示唆された。さらに、臨地実習直

前に実施する OSCE の目的である「臨地実習に臨む

にあたり、看護学生としてふさわしい態度・到達すべ

き看護技術を身につけているか否かを明らかにする」

に対して、【心身を癒す看護実践能力の修得】を評価

する機会となり得たのではないかと考える。

 しかし一方では、OSCE の開催時期や実施課題、評

価基準、フィードバック等の再考についても示唆され、

今後への課題も明確化した。特に評価の信頼性につい

ては、先行研究においても指摘されているところであ

OSCE

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 41

る。今後の開催時期については、OSCE で自覚した学

生自身の課題を復習して臨地実習に臨むことができる

よう配慮すること、実施課題および評価基準について

は、全領域を対象として全教員参加によりコンセンサ

スを得ながら作成していくこと、模擬患者参加による

フィードバックの検討等、今回のトライアル OSCE

をベースとして、更なるブラッシュアップが必要と思

われる。

謝 辞

 トライアル OSCE を実施するにあたり、模擬患者

役としてお世話になりました静岡県三島市富士ビレッ

ジ自治会、大宮町自治会、NTT 退職者の会、新老人会、

遊水匠の会の皆様、評価者としてお世話になりました

順天堂大学医学部附属静岡病院の皆様、本学部特任教

授、客員教授、専任教員の先生方、事務スタッフの皆

様、4 年生 学生ボランティアの皆様に心より感謝申

し上げます。

Ⅴ.引用文献

1) 中村惠子:看護 OSCE. メヂカルフレンド社 .2014.

2)伴信太郎:客観的臨床能力試験-臨床能力の新し

  い評価法- . 医学教育 . 2003. 26 (3). 157-162.

3)梶原理絵、中西純子:看護学士課程における

  OSCE 活用の現状と課題に関する文献検討 . 愛媛

  県立医療技術大学紀要 . 2011. 8 (1). 35-41.

4)中村惠子:平成 20-22 年度「質の高い大学教育

  推進プログラム(教育 GP)」採択事業 . 学年別

  OSCE の到達度評価と教育方法の検討 . 最終報

  告 .2011.

5)文部科学省:大学における看護系人材育成のあり

  方に関する検討会最終報告 . 2011. 3.11.

6)高橋由紀 他:全領域の教員参加による OSCE 実

  施の評価-看護系大学生の認識から見た OSCE の

  意義- . 茨城県立医療大学紀要 . 2009 (14) . 1-10.

7)内田倫子 他:成人看護学における OSCE の試み .

  南九州看護研究誌 (1348-1894). (6)1. 2008. 55-

  61.

8)多賀昌江 他:学生から見た客観的臨床能力評価

  (OSCE) トライアルの意義 . SCU Journal of De-

  sign & Nursing(1881-9427).(3)1.27-34.

辻川比呂斗:看護系大学新入生キャンプにおけるセラピューティックレクリエーションプログラムの試み42

Ⅰ.はじめに

1. 本邦における初年次教育の経緯

 我が国において新入生を対象とした新入生研修や教

養ゼミナールなどは、初年時教育の一環として取り組

まれている1)。この初年次教育は 1970 年代後半から

80 年代前半にかけて、アメリカの多くの高等教育機

関で導入され、学生の中退率抑制などに有効な教育プ

ログラムであることが評価され、現在では世界 20 カ

国以上に広がっている。その背景として、本邦では深

刻な少子化問題と共に、高等教育のユニバーサル化の

進行に伴い、多様な学生が高等教育に進学するように

なる一方で、卒業時の質的保証が求められるようにな

り、入学した学生を大学教育に適応させ、中退などの

要 旨

 順天堂大学において医学部、医療看護学部、保健看護学部(以下本学部とする)および国際

教養学部にて初年次教育としての新入生研修会を実施している。本学部では 2014 年度よりア

メリカで開発されたセラピューティックレクリエーションを参考としたプログラムを導入して

おり、本稿においてはその実践内容について報告する。具体的には、「機能回復、向上(Functional Intervention)段階」、「余暇学習・教育(Leisure Education)段階」、そして「社会参加(Recreation Participation)段階」というステップを踏む。初期となる第1段階においては、指導者ないしファ

シリテーター等スタッフの支援度・介入度は高く、第2・第3段階と進むに連れ、スタッフの

支援度・介入度が下がり、参加者(学生)の自立度が高くなるプログラムとなる。また並行して、

「個」から「全体」へ思考や活動が広がり繋がるようにプログラムを設定した。初日・2日目に

第1段階から第3段階のプロセスを繰り返す独自のプログラム構成によって、新入生同士の希

薄な関係性がより密となる場の提供が可能となり、学生生活をスタートする時期の有意義なイ

ベントとなったといえる。

  索 引 用 語:初年次教育、新入生キャンプ、セラピューティックレクリエーション、

        課題解決型ゲーム(ASE)、創作活動

  Key words:First-Year Experience, Freshman’s Camp, Therapeutic Recreation,        Action Socialization Experience (ASE), Creative Activities

学内活動報告

* 順天堂大学保健看護学部

* Juntendo University Faculty of Health Sciences and Nursing  (Nov. 13, 2015 原稿受付)(Jan. 22, 2016 原稿受領)

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 4

P.42- 48 (2016)

看護系大学新入生キャンプにおけるセラピューティックレクリエーションプログラムの試み

The Trial of Therapeutic Recreation Program on Freshman’s Campin The Faculty of Nursining

辻 川 比呂斗TSUJIKAWA Hiroto

*  江 川   潤EGAWA Jun

*  林     亮HAYASHI Ryo

*  遠 藤 り らENDO Rira

長 沼   淳NGANUMA Atsushi

*  美ノ谷 新 子MINOTANI Shinko

*  豊 田 淑 恵TOYODA Toshie

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 43

挫折を防ぎ、成功に水路づける上で初年次教育が効果

的であるという期待や評価が高まっているからである

2)。

2. 順天堂大学における初年次教育の歴史

 順天堂大学においてスポーツ健康科学部を除いた医

学部、医療看護学部、保健看護学部および国際教養学

部にて初年次教育としての新入生キャンプ(以下 FC

とする)を実施している。スポーツ健康科学部におい

ては、初年次教育として総合講座と呼ばれるグループ

ディスカッションを実施しているが、宿泊形式または

デイキャンプ形式の FC は、他の4学部で実施されて

いる。

 医学部においては、昭和 58 年から 30 年以上の歴

史を持つ新入生研修会としてフレッシュパーソンキャ

ンプが行われており、「1. 新入生を始めとする参加者

相互の交流と理解を図る。」「2. 相互理解のための話

し方、聞き方を体験・習得する。」「3. これからの学

生生活や将来像を描き、語り合う。」ことを目的とし

ている。初日は卒業生および医師によるパネルディス

カッション形式の講演会の後、昼食を挟んでロゲイニ

ングなどの野外におけるグループ活動を実施している。

2日目はスモールグループディスカッションを実施し、

テーマごとの分科会で発表を行い、全体での発表とい

うプログラム構成である3)。このような新入生を対象

とした研修会は、その後の学生生活のスタートダッ

シュの一助となっている。

 また、医療看護学部において、かつては定員 120

名程度の頃は医学部同様に宿泊形式で実施していたが、

200 名に定員増をして以来、日帰りプログラムとし

て「フレッシャーズデイキャンプ」が4月中旬に実施

されている。具体的には、午前中はキャンパス近隣の

総合体育館でのレクリエーションスポーツを教員・学

生間で実施し親睦を図っている。大型アミューズメン

トパークに併設されている宿泊施設内のレストランに

移動して昼食を取り、午後は卒業生や教員による海外

研修・留学経験などの講演を聞き、最後に自身へ4年

後の自分に向けての手紙を書くというプログラム構成

になっている。

3. 本学部における新入生キャンプのプログラムの変遷

 本学部における FC は、「新入生同士、さらに新入

生と諸先輩および教職員との交流をはかり、学生生活

を円滑にスタートさせることができるようにすること、

またレクリエーションスポーツ、グループディスカッ

ションを通して、自己を表現するとともに、他者を思

いやり、理解することができるようにすること」を目

的としている。

 2010 年の学部新設時から 2013 年までは医学部の

プログラム構成を参考に、初日の午前中は先輩ナース

の講演会、昼食を挟んで午後はレクリエーションプロ

グラムを実施し、2日目はスモールグループディス

カッションによりテーマを話し合い、そのテーマに

沿った内容を全体発表するという流れで実施していた。

2014 年からはアメリカで開発されたセラピュー

ティックレクリエーションを参考としたプログラムを

意図的に導入している。そこで、本稿においては、そ

の意図と共に実践内容および評価について報告する。

Ⅱ.セラピューティックレクリエーションを用

  いた研修プログラム

1. セラピューティックレクリエーションプログラム

 本学部における FC のプログラムは、セラピュー

ティックレクリエーション(以下 TR とする)と呼ば

れるアメリカで開発された手法を元に構築している。

TR とは、医療やリハビリテーション現場で疾病や障

害、その他の問題を有する人々の健康、機能、能力、

自立性、生活の質を向上させる個人のレジャー活動を

活用するための手助けとなる治療方法、教育、レクリ

エーション活動の機会を提供することである4)。

 TR を取り入れてプログラム作成する際に、

Ability Model(図1)を参考にプログラムを作成した。

Leisure

辻川比呂斗:看護系大学新入生キャンプにおけるセラピューティックレクリエーションプログラムの試み44

具体的には、          は、第1段階とし

て「機能回復、向上(Functional Intervention)段階」、

第2段階として「余暇学習・教育 (Leisure Education)

段階」、そして第3段階として「社会参加(Recreation

Participation)段階」というステップを踏む。第1段

階では指導者ないしはファシリテーター等スタッフの

支援度・介入度が高く、第2・第3段階と進むに連れ、

スタッフの支援度・介入度が下がり,参加者(学生)

の自立度が高くなるプログラムとなる.

Leisure Ability Model 2. プログラム構成および内容

 本学部 FC のプログラムの流れについては、図2の

ように初日に身体的活動を中心としたプログラム、2

日目は個別の創作活動から班内の発表、そして全体会

でのグループ発表といった流れで構成した。2015 年

度より上級生との関係性をより高めることを目的とし

て、1日目夜は、上級生がリードして交流会を開催し

ている。2日目のグループ活動の際はファシリテー

ター役として各班2名ずつ配置し、上級生 32 名が参

加した。

1日目

 TR における第1段階とされる「機能回復、向上

(Functional Intervention)」に位置付けられるものは、

全体の構成の中における初日午前プログラムのアイス

ブレーキングである。入学して間もない関係性が希薄

な状況の学生達に、身体活動を通して徐々に他人との

コミュニケーションを増やし、グループとしての安心

感・安堵感を得られるところまでを目指している。

 アイスブレーキングでは「数かぞえ」、「鼻耳の入れ

替え」などをおこない、他者とは交わらず自分自身と

対峙し緊張を和らげていった。その後、2人組で出来

る「手の甲叩き」、「背中タッチ」、「膝肘タッチ」など

のアクティビティ、5~ 6人で実施する「キャッチ」、図1 Leisure Ability Model(Stumbo&Perterson1998.)

図2 FC 研修スケジュール

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 45

「イハイハドーン」などのアクティビティ、ペアから

始まって最終的には 10 人前後になる「エブリバディ

アップ」を実施した。指導者は「その時の自分の緊張

状態はどう?」、「他者と協力するアクティビティを

行っていく際、自分の意見を伝えられる?」、「自分以

外のグループメンバーみんなの気持ち、考えはどうだ

ろう?」といったように第2段階、第3段階を意識し

た言葉掛けをおこなった。アイスブレーキングの最後

は大グループで「言うこと一緒、やること一緒」を取

り組み、第2段階の野外炊飯につなげていった。

 第2段階は「余暇教育(Leisure Education)」と呼

ばれ、運営側がアクティビティを準備し、そこに新入

生が参加(インプット半分アウトプット)している状

況である。本  においては、グループ活動の一環と

して昼食に「野外炊飯」を実施している。この段階は

イベントやレジャー活動、自発的な行動に移っていく

ように援助、教育、指導していく段階であり、学生自

身が各々の役割を把握しつつ、課題である食事の準備

から片付けまでを行うこととなる。11 時半から 13

時半までの約2時間で、火起こし、下ごしらえ、調理、

片付けと分担して実施した。メニューは難易度や時間

配分に配慮して「焼きそば・BBQ」を選択した。

 第3段階は「レクリエーション参加(Recreation

Participation)」と呼ばれている。本 FC においては,

課題解決型ゲーム(以下 ASE とする)と呼ばれるグ

ループごとに施設内にあらかじめ配置されたステー

ションを周回しながら、課題を解決してゴールを目指

すというプログラムを設定している。どのステーショ

ンをどういった順序で回るか、ステーションにおける

課題をどうやって解決していくかなど、グループ内で

の意思疎通を十分に図ることが求められる。この段階

におけるレクリエーション参加は、自ら参加出来るイ

ベントやレクリエーションの中で自分の能力を発揮で

きる側面を見つけて参加するようになり、結果として

プログラム参加者の自立度が進んでいくものである。

FC

ASE では『私の木』、『All Catch』,『トラストラン』、『日

本列島』、『クモの巣』、『ラインナップ』といった6つ

のステーション(図3)を設置して、各グループでス

テーションを回ってその課題を取り組んでから、キー

ワードを獲得して問題を解くという「ロゲイニング+

(ぷらす)」と名付けたプログラムを実施した。以下は

各6つのステーション課題であるが、各種目において

言語的なコミュニケーションによって達成した場合は、

目隠し(ブラインド)や非言語(サイレント)という

上位課題を設定して実施した。

①『私の木』 

 思いやる心、他者理解を目的として、2人組になり、

ひとりは補助役、もうひとりは目隠しをして木の肌触

りなどを記憶して、その木を見つけ出すという課題が

与えられる。

②『     』 

 グループの協調性、コミュニケーションを目的とし

て、同時に様々なサイズのボールや木の実などを投げ

合って受け取るという課題である。

③『トラストラン』

 信頼関係の構築を目的として、チャレンジャーを一

人決め、他のメンバーは対面に整列し合い、腕を伸ば

しているところにチャレンジャーが歩くもしくは軽く

走り、メンバーが腕をチャレンジャーに当たらないよ

うに振り上げる中を突き進むという課題である。

④『日本列島』

 グループ内のコミュニケーションを目的として、ブ

All Catch

図3 ASE の各ステーションでの課題   上段 : 左「私の木」、中「Al l Catch」、右「トラストラン」

   下段 : 左「日本列島」、中「クモの巣」、右「ラインナップ」

辻川比呂斗:看護系大学新入生キャンプにおけるセラピューティックレクリエーションプログラムの試み46

ルーシートにメンバー全員が乗って 10 秒カウントす

るという課題で、達成した場合、シートを畳んでサイ

ズを小さくした状態で同じ課題を行う。小さなサイズ

にしたシートに如何にして全員が乗れるかが達成課題

となる。

⑤『クモの巣』

 グループ内のコミュニケーションと協力を達成内容

として、あらかじめ用意されたクモの巣状の隙間を糸

に当たらないように反対側に通過させ、全員が移動し

切るという課題である。

⑥『ラインナップ』

 グループの協調性を目的として、足の幅の板の上を

落ちないように与えられた内容(例:身長順、誕生日

順など)に沿って移動するという課題である。

 TR を参考とした第1段階~第3段階までの1回目の

プログラムは ASE までである。ASE の直後にセッ

ションの振り返りとして各課題における意図やグルー

プの活動について、それぞれのステーション担当者か

ら報告する機会を設け、学生自身がリフレクション(振

り返ること)の出来る時間を確保した。

 全体での連絡事項を終えてから、各自が部屋に戻り、

部屋ごとに食事、入浴を済ませた後、上級生による自

治会イベント等についての「学生インフォメーション」

を実施した。学生インフォメーションの後は、各宿泊

棟に戻り、上級生との交流会(懇親会)を約1時間実

施した。

2日目

 第1段階に対応するプログラムとして「初日のプロ

グラムの中で印象に残った事柄について、絵や詩など

で表現する」課題を行った。なお、このプログラムに

は上級生をファシリテーターとして各班に配置した。

各自が4つ切りサイズの厚紙に作品を完成させ、その

後に持ち時間3分で発表した。この作業は、従来のグ

ループワークディスカッションにおける特定の人物が

イニシアチブを掴んでしまうという問題点を回避し、

各自が同等に自己表現できる機会とした。このことに

より、同じ時間を過ごした中でも班員同士が別々の事

柄を印象に残しているということや、同じ事柄でも表

現や感じ方が違うということを受容し、共感できるこ

とを狙っている。

 第2段階に対応するプログラムとして、上記で作成

した絵・詩を元に紙芝居形式の物語をグループで作成

する課題を与えた。必ずしも FC のプログラムに沿っ

た時間経過を踏襲する流れでなくても良いというルー

ルで、グループワークを実施した。各自の印象に残っ

た思い出が重複したり、他の創作品とは異質の作品が

あっても、学生達は一つのストーリー制作を目標に、

知恵を出し合い協力して、一つの発表作品に創り上げ

ていく。個別の作品を活かしつつ全部の作品でストー

リーを制作するには、ある程度グループのまとまりが

求められる。メンバーは、多様な意見や考えを交換し、

全員で制作に取り組むことが求められる。この活動で

は第1段階に引き続き、個別には自己表現と他者受容

を、グループには協調性と統合力を狙っていた。ファ

シリテーターは、グループへのサポート量を第 1 段

階よりも減らしていた。

 昼食を経て第3段階の全体発表となるが、持ち時間

は5分でグループは全員の前で発表を行う。学生一人

一人はどのように表現をすればグループの活動を他者

に分かりやすく伝えることができるかという点におい

て発想を凝らし、個人活動を全体発表の中に統合する

工夫をしていたと考えられる。この段階では、ファシ

リテーターの役割は無くなり、新入生のみが課題への

参加となるため、グループメンバーが協力して主体的

に発表した。

Ⅲ.アンケート結果

 例年、FC に関するアンケートを取り、次年度以降

の運営に対するフィードバックを実施している。本年

度も、開催時期、内容、自身に対する目標の達成につ

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 47

いての回答を得た(新入生 127 人中 124 人の回答 

回収率 97.6%)。

1. 開催時期・場所

 開催時期に関する回答は全参加者 124 名中 95%に

あたる 118 名が「良い」と回答した(図4―1)。4

月中旬の御殿場の気温は低く、野外活動には不向きで

あるが、本 FC では新入生分の学章の入ったウィンド

ブレーカーを購入し防寒対策を施しているため、否定

的な意見が少なかったと考えられる。

 1泊2日という期間についても 86%にあたる 107

名が「良い」としており、要変更とした回答のうち、「日

帰り」2名、「3日間」10 名、「4日以上」4名と意

見がバラついたため、概ね4月開催で1泊2日という

プログラムは受け入れられていると考えられる(図4

―2)。

 開催場所である国立青少年交流の家についての回答

は、96%に当たる 119 名が「良い」との結果を得た(図

4―3)。研修室の多さや運動施設の充実度、またキャ

ンパスからの移動時間を考慮しても当該施設は利用し

やすい環境と言える。

2. プログラム内容

1日目 「アイスブレーキング・野外炊飯・課題解

決型ゲーム(ASE)・上級生との交流」

 アイスブレーキングについての回答は、「良い」が

123 名(99%)の回答であった(図5―1)。引き続

いて実施した野外炊飯についても 96%が「良い」と

回答しており(図5―2)、「仲良くなる良い機会となっ

た。協力出来た。(26 名)」、「達成感があった。」など

ポジティブな意見が多く見られた。「時間的な余裕が

無かった。」という回答は、 71 名(57%)から挙げら

れたが、プログラム上狙い通りであり、その後の課題

解決型ゲーム(ASE)でのグループでの協力を促す

ための下地としていたため、時間配分も特に大きな問

題ではなかったかと思われる。ASE では 123 名(99

%)学生から好評を得た(図5―3)。

 夕食後の上級生との交流(懇親会)は、96%の学

生から「良い」という回答が得られた。しかしながら、

アイスブレーキング、野外炊飯、ASE と身体活動が

多かったため、「早く就寝したかった。(4名)」、「夜

は自分たちでゆっくりしたい。(1名)」という回答も

見られた。一方で、もう少し長く懇親の時間が欲しい

といった回答も 10 名から挙がっていた。

2日目 「創作活動、グループワーク、全体発表」

 創作活動および発表の段階まででは、各グループ大

きな違いもなく積極的に活動していたが、その後のグ

ループワークとしてのストーリー制作では、各グルー

プの差が大きく、時間ギリギリまで積極的に演出に工

夫を凝らすグループもいれば、早々と発表内容を決定

して時間を持て余すグループもあった。アンケートの

回答からは、93%の学生から良かったとの回答であっ

たが(図6―1)、全体発表まで徐々に集中力が低下し

た可能性があり、88%まで値が低下していた(図6―

図 4―1

開催時期について

図 4―2

開催期間について

図 4―3

開催場所について

図 5―1

アイスブレーキングについて

図 5―2

野外炊飯について

図 5―3

ASE について

辻川比呂斗:看護系大学新入生キャンプにおけるセラピューティックレクリエーションプログラムの試み48

2)。自由回答の中では、「もう少し早く帰りたい、体

力的に持たない」、「別の機会での発表が望ましい」な

どのネガティブな回答もあったが、次年度以降の全体

発表の実施については 86%の学生が「継続」と回答

していた。

 図6―3には「FC 全体を通して自身が目的を達

成しましたか」という問の結果である。よく出来た

(47%)、出来た(47%)が全体の 94%を占め、本プ

ログラムによる参加者の達成感が十分であった事が伺

えた。

Ⅳ. まとめ

 本学部の FC における、Leisure Ability Model の各

段階を意識した TR プログラムの試みは、学生が有意

義に学生生活をスタートする上で必要性の高いことが

示唆された。個から全体へのプロセスを段階的に踏む

ことで、新入生にとって学生生活を円滑に進めるため

の人間関係を密にする「場」作りが提供できたと言え

る。アンケートに述べられていた課題等については、

次年度以降改善していく。

 今後、フレッシュマンキャンプにおいて TR プログ

ラムを組み入れ、学生の心理面や社会性などへの影響

についても検討し、看護学生により効果的な FC にお

ける取り組みを実証的に検証していく予定である。

謝 辞

 新入生キャンプ運営に携わっていただきました歴代

の学生部委員ならびに全教職員スタッフ、上級生ス

タッフならびに学外スタッフの皆さまにおきまして、

多大なご協力を頂きましたことに御礼申し上げます。

参考文献

1)山田礼子:初年次教育の歴史と理論 . 大学と学生

  5, 16-23 2008.

2)初年次教育学会:初年次教育学会 設立趣意書  

  2008. http://www.jafye.org/index2.html

3)第 32 回新入生キャンプ - Freshperson Camp:Jin

  (仁)Seminar - 実施要項 . 2014.

4)Stumbo NJ, & Peterson CA. The Leisure Ability

  Model Therapeutic Recreation Journal 32(2), 82

  1998.

図 6―1

創作活動・グループワークについて

図 6―2

全体発表について

図 6―3

自身の達成感について

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 49

Ⅰ.はじめに

 平成22年の「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ(日

常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困

難さが多少見られても、誰かが注意すれば自立できる

状態)以上の高齢者数は 280 万人で、要介護認定高

齢者の 9.5% だった1)。今年、2015 年の認知症高齢

者の予測数は 345 万人(10.2%)、東京オリンピック

の 2020 年には 410 万人 (11.3%)、いわゆる団塊の世

代が全員 75 歳以上の後期高齢者になる 2025 年には

470 万人(12.8%)と現在の 1.4 倍に増える見込みで

ある1)。

 少子高齢化の中で、国はそのような認知症高齢者の

急増に備える「支え手」として平成 21 年から「認知

症サポーター等養成事業」2)実施している。認知症サ

ポーター等養成事業は認知症に関する正しい知識を持

ち、地域や職域において認知症の人や家族を支援する

認知症サポーター等を養成することにより、認知症の

人や家族が安心して暮らし続けることのできる地域づ

くりを推進することを目的としており3)、実施主体は

都道府県、指定都市、市区町村か、全国的組織を持つ

職域団体及び企業である。認知症サポーター等養成事

業には認知症対策等総合支援事業の「認知症対策普及

・相談・支援事業」と地域支援事業の任意事業を活用

できることになっていて実施予算の裏付けとなってい

る4)。

 本学部の所在地である静岡県三島市は平成 26 年の

人口が 11 万 4,000 万人あまり、高齢化率 25.8%と

人口の 4 人に 1 人が高齢者になった5)。 静岡県では、

2015 年までに「認知症サポーター」を 12 万人養成

要 旨

 2015 年 8 月 3 日、順天堂大学三島キャンパスにおいて、「キャラバン・メイト養成研修」が

開催され、およそ 100 名が参加した。これは、認知症サポーター養成講座の講師役となる「キャ

ラバン・メイト」を養成することを目的として、三島駅に近く収容人数も多い順天堂大学保健

看護学部で行われた。本学と三島市のキャラバンメイト養成講座は県内自治体で初めての試み

であったが参加希望者は定員を超え、研修の満足度も高かった。今後の継続研修内容では認知

症の医学知識やケアの方法などの要望が多く、講座の改善や工夫とともに応えて行きたいと考

えている。

  索 引 用 語:認知症サポーター養成講座、キャラバン・メイト養成研修

  Key words:Caravan-mate, dementia Supporters, University

学内活動報告

* 順天堂大学保健看護学部

* Juntendo University Faculty of Health Sciences and Nursing  (Nov. 13, 2015 原稿受付)(Jan. 22, 2016 原稿受領)

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 4

P.49- 53 (2016)

自治体との共催による認知症サポーター養成講座キャラバン・メイト養成研修の試み

An attempted to train dementia Supporters Caravan-mate in University

阿 部 詠 子ABE Eiko

*  黒 川 佳 子KUROKAWA Yoshiko

*  佐 野 知 世SANO Tomoyo

*  仁 科 聖 子NISHINA Seiko

阿部詠子:自治体との共催による認知症サポーター養成講座 キャラバン・メイト養成研修の試み50

することを目標としており、三島市でも養成の結果、

平成 26 年 2 月までに 5,057 人の「認知症サポーター」

が誕生している5)。しかし、約 2,000 人いると報告さ

れている「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」

Ⅱ以上の高齢者を支えるには十分とは言い難い状況で

ある。

Ⅱ.キャラバン・メイト養成研修のきっかけ

 本学部は 1 学年定員 120 名の平成 22 年4月に開

校した新しい学部で、現在 2 期生まで卒業している。

高齢者に関する学習は大学1年次の高齢者看護概論、

2年次の高齢者保健活動論、高齢者看護方法論Ⅰ、高

齢者看護実習Ⅰ、3年次の高齢者看護方法論Ⅱと3年

次から4年次にかけての高齢者看護実習Ⅱで行われて

いる。高齢者看護領域の4人の教員でその全ての科目

に関わっているが、講義、実習どちらについても学生

の反応は今一つ芳しくない。教員の自分の力量もある

が、個々の学生に聞いたり、講義の感想を書くリアク

ションペーパーの内容でわかったことは、土地柄とし

て3世代、4世代同居家庭出身者が多いにも関わらず、

高齢者に筆者が思ったほど関心を示さないということ

である。特に高齢者看護の講義が行われる2年次の初

めには、「自分の祖父母が認知症になってしまうかと

思うととても悲しいが向き合っていきたい」「認知症

になっても自分の家で家族に囲まれて好きなことをで

きることは幸せと思う」といった意見がある一方、「高

齢者は弱くて(虚弱で)動けない」「基礎実習でほと

んどしゃべってもらえなかった」「いつも寝ている弱

者」「認知症で言っていることがわからない」といっ

たマイナスイメージが強い感想もある。全体的にでは

あるが、普段、高齢者にふれあう機会が少ない学生で

は、高齢者への関心が薄く、コミュニケーションも苦

手と感じる傾向が強いように感じられた。その傾向は

同居していたとしても同様で、コミュニケーションが

少ない祖父母の生活状況を「ほとんど知らない」と答

えた学生もいた。このような傾向は2年次前期の実習

において公共施設の元気な高齢者の活動に加わって交

流することでイメージが変わり、高齢者への関心も出

てくるのだが、もっと早い時期に触れ合う機会が少な

く、特にマイナスイメージになりがちな認知症高齢者

に関心を持つような工夫はできないだろうかと考えた。

Ⅲ.キャラバン・メイト養成研修の開催過程

1.開催準備

 厚生労働省が 2004 年から立ち上げた「認知症サ

ポーター養成講座」があったことを思い出し調べたと

ころ、最近では養成講座が小学校や中学校でも実施さ

れるようになっていた。サポーター養成講座終了時に

付与される「オレンジリング」はサポーターの証であ

り、学生たちの連帯感や責任感が芽生えるきっかけに

格好の機会になると思われた。しかし、認知症サポー

ター養成講座は講座の講師資格である「キャラバン・

メイト」の資格がなければ開催はできない。三島市の

長寿介護課に問い合わせたところ、キャラバン・メイ

ト研修は年1回だけ県内で開催されているが、毎年定

員以上に受講希望者が多く、場所も必ずしも交通の便

が良い所とは限らない。いつ受講できるのかわから

ないということだった。「それならば、三島駅に近く、

広い講義室がある大学で開催し、自らも受講してはど

うか」ということになった。三島市から県の担当者に

打診してもらったところ、三島市との共催ならば可能

との回答を得て、共催する運びとなった。自治体と大

学との共催は、静岡県東部地域で初めての試みとなっ

た。自分は本学に赴任して 2 か月余りの頃であった

が、岡田隆夫学部長はまだ顔と名前になじみがない者

の提案を快く承認して下さった。三島市の長寿介護課

の担当者である大石佳央保健師も移動して来たばかり

だったが、快く協力していただき、問い合わせや講師

の交渉、申し込み受付もして下さることになった。開

催日時はキャンパスの授業関係から8月3日の 10 時

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 51

から12時と決まった。それから臨床実習の合間を縫っ

て5・6回打ち合わせを行った。しかし、サポーター

養成講座とは異なって準備はわからないことばかりで、

最初の作業は各方面に開催条件や申請方法の問い合わ

せを行うところから始まった。この作業の大半は自治

体窓口である大石佳央保健師がして下さった。

 キャラバン・メイトはサポーター養成講座の講師に

あたるため、受講資格もある程度医療・介護・福祉、

認知症相談ボランティアなどの専門職に限定され、講

義の講師も専門職(ほぼ医師)が必要である(表 1)。

また、キャラバン・メイト養成研修の内容も、認知症

の基礎知識と、どうやってサポーター講座を開催する

かグループワークで学ぶことを一定の基準に則って実

施しなくてはならない。規定のプログラムは休み時

間もほとんどなく6時間もかかるものだった(表2)。

開催は自治体が運営の中心となって行い、50 人以上

の参加者と研修終了後は所属する自治体に登録しなけ

ればキャラバン・メイトと認定されないなど、細々と

した制約があった。最も心配だったのは受講者が少な

いと、開催が認められないことだった。受講資格を満

たすような専門職が 50 人以上も集まるだろうか。準

備期間中、ずっと気にかかっていた。しかし、そのよ

うな心配は申込が始まると一気に解消され、三島市内

だけでなく、函南町、伊豆の国市、沼津市、裾野市と

いった近隣市から申込みがあり、当初の定員 60 名の

ところを最終的に 100 人で打ち切った。

2.開催当日

 この講座の開催は三島市長の耳に入り、当日は報道

陣と共に豊岡武士三島市長が来場し、岡田学部長と開

講の挨拶を行うことになった。大学は夏季休暇中だっ

たが、事務局の配慮で受講生のために臨時で食堂を開

け、有料で弁当を提供することになった。そのような

準備を経て当日となった。連日 38℃となる酷暑が続

いていたが、開始 1 時間以上前から受講生が集まっ

てきた。キャラバンメイト養成研修は豊岡市長と岡田

学部長の挨拶から始まった。

 認知症についての講義は、地元で「認知症の先生」

と慕われている広小路クリニックの木野紀(おさむ)

先生が行い、グループワークは普段、地域包括支援セ

ンターで相談員を務めているキャラバン・メイトの湯

山藤枝さんと細谷孝一さんが、大石保健師と共に講師

を務めた。受講生は3人がけの机でギッシリと座り、

冷房もままならない中、熱気が充満した教室で講義が

始まった。木野先生の経験を踏まえた認知症の深い知

見のご講義に受講生はみな学生に戻ったように聞き

入っていた。予想外だったのは午後のグループワーク

で、規定時間通りに進行するのが大変だった。

 グループワークは認知症の人を地域で支えるために、

どの機関に連携したらよいか地域の資源を考えたり、

その資源から地域ケアシステムを組むことを 30 分で

行ったり、サポーター養成講座の規格・運営ポイント

としてキャラバン・メイトの講師の実体験を踏まえた

講義を含め、150 分で公民館やスーパーマーケット

などの講座の開催先を考え、カリキュラムを作って発

表しなければならない(表2)。講師も受講生も比較

的このような研修に慣れた人たちだったが、次第にグ

ループ内での討論に熱が入り、「もっと認知症の施策

を充実させるべきだ!」と気勢が挙がり、時間内に収

まらなくなってくる。急いで仕上げて発表したり、討

論したり、参加者は皆生き生きと学んでいた。最後に、

修了証とオレンジリングが授与され、所属自治体別に

表1 キャラバン・メイト受講対象者

阿部詠子:自治体との共催による認知症サポーター養成講座 キャラバン・メイト養成研修の試み52

表2 キャラバン・メイト養成研修カリキュラム

表3 受講者の資格内訳(n= 93、アンケート回収率 93%)

ふつう8%

わかった53%

よくわかった39%

ふつう8%

わかった56%

無回答1%

よくわかった

35%

図 1 認知症サポーター

キャラバンの概要、しくみは把握できましたか n= 93

図2認知症サポーターの

役割、活動内容がよくわかりましたか n= 93

ふつう12%

よくわかった35%

わかった53%

ふつう25%

よくわかった23%

わかった44%

ややわかりにくかった

7%

無回答1%

図3認知症サポーターの

役割、サポーターは何をすればよいかわかりましたか n= 93

図4サポーター養成講座

で、どのように認知症について教えればよいかわかりましたか n= 93

図5今日のメイト養成研

修の内容全般についてご満足いただけましたか          n= 93

図6今回の研修は受講し

て良かったと思いますか         n= 93

やや不満足1%

満足46%

やや満足53%

ふつう3%

とてもよかった43%

よかった54%

どちらでもない12%

希望する52%

希望しない1%

とても希望する33%

あまり希望しない2%

どちらでもない12%

希望する51%

希望しない1%

とても希望する36%

図7今後この大学でこの

養成研修の持続研修を受けたいですか n= 93

図8今後大学で認知症に

関する公開講座を希望しますか n= 93

相談3%

施策・行政11%

ケアの方法47%

ケアプラン1%

医学知識38%

0%

図9今後大学の公開講座

として希望する内容n= 93

順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第4巻(2016) 53

分かれて担当者からキャラバン・メイト登録と今後の

活動の説明を受け、キャラバン・メイト 100 名が誕

生して解散となった。大変忙しい1日だった。まだま

だ講座の運営には改善の余地があるものの、皆で取り

組んだ充実感があった。

3. 終了後のアンケート結果

 研修終了後に回収したアンケートを集計した結果は

次の通りだった(表3、図1~9)。

 参加者で最も多かった資格は介護従事者(ケアマネ

ジャー、施設職員、在宅介護支援センター職員等)で

26.4% だった。次に、医療従事者(14.5%)、地域包

括支援センター職員(10.0%)の順となっていた。キャ

ラバン・メイト養成研修の内容では認知症サポーター

の役割や活動内容、行うことについてはどの項目も

9割が「わかった」と回答していた。しかし、「認知症

をどう教えるか」については約7割が「よくわかった」

「わかった」と答えていた反面、「ややわかりにくかっ

た」が7% いるなど、格差が見られ、どうすれば全員

が理解しやすくなるか工夫が必要である。ただ、研修

に対しては「満足」あるいは「良かった」、がともに

9割以上となっており、研修自体は満足度が高いもの

であった。また、今後もこのような研修を大学で行う

ことにしても約9割が継続を希望していた。継続した

場合に希望する内容としては「医学知識」「認知症ケ

アの方法」「認知症に関する施策や行政」「相談」「ケ

アプラン」があげられていた。これらの結果から、改

めて教育研究機関としての大学の使命を実感し、今後

地域の要望に応えて行きたいと考えている。

Ⅳ.今後に向けての課題

 講座修了後すぐに市内のクリニック看護師が院内で

講座を開いたという報告を聞いた。また、本学部では

2016 年3月5日に市民講座として高校生や若い人を

主な対象とする認知症サポーター養成講座を実施予定

である。三島市は学校が多い所で、たくさんの学生が

通学していることから、この講座では若者層を中心に

計画している。若い人に少しでも認知症の高齢者を理

解してもらい、支援者となってくれることを期待して

市民講座担当の先生方のご助言とご協力を受けながら

準備を進めている。キャラバン・メイト養成研修は小

さな試みだが、近隣で様々な認知症サポーターの輪が

大きく広がり育ってくれることを期待している。また、

今後の課題として受講者により理解しやすい工夫や追

加教材を開発したい。

謝 辞

 キャラバンメイト養成研修開催にあたり、多大なご

協力およびご助言をいただきました広小路クリニック

木野 紀先生、三島市長寿介護課 大石保健師、キャ

ラバンメイトの湯山藤枝さん、細谷孝一さんに心から

感謝し、御礼申し上げます。

引用文献

1) 認知症高齢者の現状(平成 22 年). 厚生労働省 .

2)厚生労働省 . 認知症サポーターキャラバン . ( オ

  ンライン )

3) 全国キャラバンメイト連絡協議会 . 認知症サポー

  ター養成講座基準 .

4) 厚生労働省 . 認知症サポーター等養成事業の実施

  について.出版地不明:老健局計画課長,平成21年.

5) 三島市 . 第7次三島市高齢者保健福祉計画・第6

  期三島市介護保険事業計画(平成 27 年度~平成

  29 年度). 平成 27 年 .