第3章 グローバル化の新たな課題と構造改革 - cabinet office · 2018. 11. 20. ·...

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36 第3章 グローバル化の新たな課題と構造改革 第1節 日本経済とグローバル化 1 グローバル化の意味 ・ グローバル化とは経済の統合が進むこと(資本・労働力の国境を越えた移動、貿易・海 外投資の活発化) ・ そのメリットは分業による利益拡大(長期的には各国の消費者に利益 →生活水準の向 上) ・ グローバル化の文脈でも構造改革が重要(経済・技術の変化に対応し、グローバル化の メリットを享受するための制度改革が必要) 2 90年代以降を中心とする特徴 4つの特徴 (為替レートの変化) (備考) 1.日本銀行により作成。 2.東京インターバンク市場における月末のスポット・レート。 第3-1-1図 円ドルレートの推移 80年代後半に円は対米ドルで大きく増価 0 50 100 150 200 250 300 350 1973 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 (年) (円/USドル) 252 円/USドル (1973.3~1985.8 平均) 121 円/USドル (1987.3~2004.4 平均) 円高・ドル安

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第3章 グローバル化の新たな課題と構造改革

第1節 日本経済とグローバル化

1 グローバル化の意味

・ グローバル化とは経済の統合が進むこと(資本・労働力の国境を越えた移動、貿易・海

外投資の活発化)

・ そのメリットは分業による利益拡大(長期的には各国の消費者に利益 →生活水準の向

上)

・ グローバル化の文脈でも構造改革が重要(経済・技術の変化に対応し、グローバル化の

メリットを享受するための制度改革が必要)

2 90年代以降を中心とする特徴

・ 4つの特徴

(為替レートの変化)

(備考) 1.日本銀行により作成。2.東京インターバンク市場における月末のスポット・レート。

第3-1-1図 円ドルレートの推移

80年代後半に円は対米ドルで大きく増価

0

50

100

150

200

250

300

350

1973 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 03(年)

(円/USドル)

252 円/USドル(1973.3~1985.8 平均)

121 円/USドル(1987.3~2004.4 平均)

円高・ドル安

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(貿易・投資面での東アジアの重要性の高まり)

 (備考) 1.財務省「貿易統計」により作成。2.NIEs3は、韓国、台湾、香港。3.ASEANは、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ブルネイ、ベトナム、  ラオス、カンボジア中加盟当時国。4.シェアは4年間の年平均。

第3-1-2図 地域別輸出入割合の変化

高まるアジアからの輸出入比率

0

20

40

60

80

100

80-83

84-87

88-91

92-95

96-99

00-03 (年)

アメリカ

その他

NIEs3

中国

ASEAN

(%)

0

20

40

60

80

100

80-83

84-87

88-91

92-95

96-99

00-03

(1)輸出シェア (2)輸入シェア

アメリ

その他

NIEs3

中国

ASEAN

(年)

(%)

45.5%

43.7%

(備考) 1.財務省「対外及び対内直接投資状況」により作成。

2.計数は報告・届出ベース。

3.金額は単位未満四捨五入。

4.金額は平均値。

対内・対外直接投資ともに機械関連、金融保険が増加

第3-1-5図 対外・対内外直接投資の動向

0

1

2

3

4

5

6

93-97 98-020

1

2

3

4

5

6

93-97 98-02

非製造業

その他

製造業

運輸

金融保険

商業

輸送機

電気機械

その他

非製造業

その他

製造業

サービス

金融保険

通信商事・貿易

電気機械

その他

(1)対外直接投資金額(兆円) (2)対内直接投資金額(兆円)

(年度)(年度)

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(我が国の国際的な金融・資本取引の低迷)

・ 株式市場を除いて活発化しなかった理由は、経済活動が長く停滞し、低金利が続いたた

め →持続的な成長軌道に乗せることが重要

(備考) 1.全国証券取引所「株式分布状況調査」、Department of the Treasury”Report on   Foreign Holdings of U.S. Securities, Jan 2004”により作成。

2.アメリカのデータの 2000年は3月、02年は6月の調査。

第3-1-6図 日米株式市場における外国人投資家比率

日本の外国人投資家比率は90年代に上昇、アメリカを上回る

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1970 75 80 85 90 95 2000

事業法人等

政府・地方公共団体

外国人

金融機関

個人

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1974 78 84 89 94 2000 02

外国人保有

米国人保有

(年度) (年)

(1)日本 (2)アメリカ

(欧米諸国と比べて緩やかな日本経済の国際化)

(備考) 1.IMF(国際通貨基金)"International Financial Statistics"により作成。2.貿易開放度=(財の輸出金額+財の輸入金額)/名目GDP3.投資促進度=(対外証券投資累積額+対外直接投資累積額)/名目GDP4.ヨーロッパは、オーストリア、 ベルギー、デンマーク、 フィンランド、 フランス、 ドイツ、   ギリシャ、 アイスランド、 アイルランド、 イタリア、ルクセンブルグ、 オランダ、   ニュージーランド、 ノルウェー、 ポルトガル、 スペイン、 スウェーデン、 スイス、  イギリスの19カ国。

第3-1-7図 日米欧の貿易開放度、対外投資促進度

アメリカ、ヨーロッパ諸国より低い日本の貿易開放度、対外投資促進度

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

1977 81 85 89 93 97 2001

ヨーロッパ

アメリカ

日本

貿易開放度

0%

20%

40%

60%

80%

100%

120%

140%

1977 81 85 89 93 97 2001

ヨーロッパ

アメリカ

日本

対外投資促進度

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第2節 グローバル化による経済的影響

1 為替レートのマクロ経済への影響

(80年代との比較)

・ 円高時の黒字削減効果は上昇

海外市場での競争が強まり輸出は大きく減少

国内消費者は価格低下に敏感

・ 海外需要増による輸出増加効果は低下、国内需要増による輸入増大効果は上昇

(備考) 1.内閣府「国民経済計算」、日本銀行「企業物価指数」、米商務省「Survey of Current   Business」により作成。2.為替レート効果、所得効果は、「2003年」の実質輸出入、輸出入デフレータを基準とした  ときに、為替ート効果は名目実効為替レートが円高時10%上昇、円安時10%下落したとき  の輸出入数量への影響、所得効果は、日本と米国を中心とした海外の実質経済成長率がそ  れぞれ2%上昇したときの輸出入数量への影響を示す。3.実質純輸出と貿易・サービス収支の変化率の差は、2003年の輸出デフレータが輸入デフレ  ータよりも小さいため、名目純輸出の変化率が大きくなることによる。4.推計方法等は、付注3-1を参照。

第3-2-7図 貿易・サービス収支への影響

80年代と比較して為替レート効果は上昇、所得効果は輸入数量を増大

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

1983-1993 1994-2003

実質輸出増減

実質輸入増減

実質純輸出増減

(兆円) 円高時の為替レート効果

(年)-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

1983-1993 1994-2003

実質輸出増減

実質輸入増減

実質純輸出増減

(兆円) 所得効果

(年)年の構造 年の構造 年の構造 年の構造

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・ 経常収支の黒字拡大の背景

① 貿易収支の黒字の拡大

② 対外純資産の増大を背景とした所得収支の黒字の拡大

・ 持続的な経済成長を図るとともに、為替レートの影響を注視することが必要

(備考) 1.内閣府「国民経済計算」、財務省「国際収支統計」、「本邦対外資産負債残高」により作成。2.国際収支統計は原数値、4四半期移動平均。3.1995年以前の経常収支には、所得収支の中に再投資収益が計上されていないなど厳密に言え  ば連続性がないことに留意。4.対外純資産残高は1990年末以降、毎年末の値。5.GNIは国民総所得であり、GNPと同じ。

第3-2-8図 経常収支黒字増大の背景

貿易黒字の寄与は低下する一方、所得収支の寄与が上昇

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

1986 91 96 2001 (年)

経常収支貿易収支

貿易・サービス収支

(対GDP比)

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

1986 91 96 2001

50

75

100

125

150

175

200(年)

実質実効レート6四半期先行(逆目盛右)

貿易収支

(1973.3=100)(対GDP比)

円安

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

1986 91 96 2001 (年)

所得収支

(対GDP比)

貿易・サービス収支

経常収支

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

1986 91 96 2001

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

220

(年)

対外純資産残高(目盛右)

(兆円)(兆円)

海外からの要素所得の純受取GNI-GDP

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2 企業行動への影響

(円高の輸出企業の収益への影響)

・ 海外生産比率・円建輸出比率の上昇等によりマイナスの影響を回避

( 備 考 ) 1 . 財務 省 「 法 人 企 業 統 計 季 報 」 、 「 貿 易 統 計 」 、日 本 銀 行 「 企 業 物 価 指 数 」 、 経 済 産 業 省    「産 業 連 関 表 」 、 「 海 外 事 業 活 動 基 本 調 査 」 、米 商 務 省 「 Survey of Current Business」    によ り 作 成 。2 . 収益 弾 性 値 の 推 定 方 法 は 付 注 3 - 2 を 参 照 。3 . 輸出 比 率 は 、 1990年 、 1995年 、 2000年 。4 . 海外 生 産 比 率 ( 国 内 全 法 人 ベ ー ス ) = 現 地 法 人( 製 造 業 ) 売 上 高 / 国 内 法 人 ( 製 造 業 )    売上 高 × 1005 . 「電 気 機 械 」 に は 「 情 報 通 信 機 械 」 を 含 む 。6 . 円建 比 率 は 1994年 末 以 降 。7 . アジ ア は 、 N I E s 4 カ 国 ・ 地 域 ( 韓 国 、 台 湾、 香 港 、 シ ン ガ ポ ー ル ) 、 A S E A N 10    カ国 ( タ イ 、 フ ィ リ ピ ン 、 イ ン ド ネ シ ア 、 マ レー シ ア 、 シ ン ガ ポ ー ル 、 ブ ル ネ イ 、 ベ ト ナ    ム、 ラ オ ス 、 ミ ャ ン マ ー 、 カ ン ボ ジ ア ) 。8 . アジ ア か ら 米 国 へ の 輸 出 金 額 の 円 換 算 レ ー ト は、 銀 行 間 取 引 の 平 均 レ ー ト を 使 用 。

第 3 - 2 - 10図   為 替 レ ー ト の 企 業 収 益 へ の 影 響

輸 送 用 機 械 、 電 気 機 械 の 為 替 変 動 リ ス ク は 軽 減

-8.0

-7.5

-7.0

-6.5

-6.0

-5.5

1990 95 2000

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

50%

輸 送 用 機 械

輸 出 比 率( 目 盛 右 )

収 益 弾 性 値

( 年 度 )

為 替 変 動リ ス ク 低 下

-5.5

-5.0

-4.5

-4.0

-3.5

-3.0

1990 95 2000

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

50%

電 気 機 械

輸 出 比 率( 目 盛 右 )

収 益 弾 性 値

( 年 度 )

-3.0

-2.5

-2.0

-1.5

-1.0

-0.5

1990 95 2000

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

50%

一 般 機 械

輸 出 比 率( 目 盛 右 )

収 益 弾 性 値

( 年 度 )

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

50%

1990 95 2000

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

海 外 生 産 比 率

( 年 度 )

円 建 比 率 ( 目 盛 右 )

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

50%

1990 95 2000

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

海 外 生 産 比 率

( 年 度 )

円 建 比 率 ( 目 盛 右 )

0%

5%

10%

15%

20%

25%

30%

35%

40%

45%

50%

1990 95 2000

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

海 外 生 産 比 率

( 年 度 )

円 建 比 率 ( 目 盛 右 )

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

1990 95 2000

ア ジ ア → 米 国

日 本 →ア ジ ア

日 本 → 米 国

( 兆 円 ) 輸 出 金 額

( 年 )0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

1990 95 2000

ア ジ ア → 米 国

日 本 →ア ジ ア

日 本 → 米 国

( 兆 円 ) 輸 出 金 額

( 年 )

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

1990 95 2000

ア ジ ア → 米 国

日 本 →ア ジ ア

日 本 → 米 国

( 兆 円 ) 輸 出 金 額

( 年 )

【 左 軸 の 収 益 弾 性 値 ( 為 替 変 動 リ ス ク の 代 替 指 標 ) は 各 グ ラ フ の 水 準 の 差 に 注 意 。 】

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(アジアを中心とした海外事業展開)

i) 90年代半ばまで海外生産拠点確立・現地販売・日本向け輸出

ii) 90年代後半以降、生産拠点分散、現地販売比率の低下、輸出入ネットワークを通じた分

業体制の構築

(備考) 1.経済産業省「第33回海外事業活動調査」(2003年7月調査)により作成。

第3-2-11図 海外進出・撤退企業の地域別動向

進出先・撤退地の多くがアジア地域

0

100

200

300

400

500

600

700

800

1994 96 98 2000 02(年度)

(件数)地域別進出企業数の推移

アジア

ヨーロッパ

北米

0

100

200

300

400

500

600

700

800

1994 96 98 2000 02

地域別撤退企業数の推移

(年度)

(件数)

アジア

ヨーロッパ

北米

(備考) 1.経済産業省「海外事業活動基本調査」個票データおよび「第33回海外事業活動調査」  (2003年7月調査)により作成。2.業種別の現地販売比率は各業種に属する企業ごとの現地販売比率の中位値。地域別の  現地販売比率、現地販売と域内販売の合計は、製造業現地法人の金額の積み上げによ  る比率。3.「現地」とは、我が国の進出企業の立地する進出先国等であり、「域内」とはこれら  企業の立地する国等が属する地域から進出先国等を除いた地域。

第3-2-12図 現地販売比率の低下傾向

アジア地域では低い現地・域内販売比率

業種別の現地販売比率

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1996 99 2002

輸送用機械

一般機械

電気機械

現地販売と域内販売の合計

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1992 2002

北米

アジア

ヨーロッパ

地域別の現地販売比率(製造業)

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1992 2002

北米

アジア

ヨーロッパ

(年度) (年度) (年度)

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(工程間分業の進展)

・ アジア地域における工程間分業

アジアNIEsはさらに付加価値の高い製品を生産

中国、ASEAN諸国、アジアNIEsの間で同一産業内における垂直型の分業が進展

・ 「国境を越えた企業」の活動によって我が国が受ける影響

地域経済連携や国際経済的な面とも整合的な構造改革が重要

(備考) 1.財務省「貿易指数」、日本銀行「企業物価指数」により作成。2.縦軸は付加価値の程度を示す指標であり、品質変化を織り込まない財務省の輸出入価格  指数を、品質変化を考慮した日本銀行の輸出入物価指数で除したもの。1996年=100と  し、月次データを合計して年度値とした。3.日本銀行「企業物価指数」については、1999年以前の部分は「卸売物価指数」により  作成。

第3-2-13図 輸出入品の付加価値の状況

輸出入品の付加価値状況は国際的な垂直分業の進展を示唆

1996 99 02

輸入

輸出

一般機器

1996 99 02

輸入

輸出

電気機器

50

70

90

110

130

150

170

1996 99 02

輸入

輸出

輸送用機器

高付加価値

(年度)

(1996=100)

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44

3 家計への影響

(グローバル化のメリットは「広く薄く」、デメリットは「一部に集中」)

・ 中国などから安価な輸入品が増加。輸入浸透度が上昇した品目では国内価格が下落(特

に、食料や衣料)。

― 家計は、生活必需品への支出を軽減できた(所得に余裕ができた分は他の消費に振

り向けることが可能に)。

― 食料と衣料について、内外価格差の大きさを2000年時点で試算すると、それぞれ

10.8兆円、6.5兆円。こうした内外価格差が残っていることに留意していく必要。

第3-2-16図 輸入浸透度と購入価格指数

(備考)1.総務省「家計調査(二人以上の世帯(農林漁家世帯を除く))」、農林水産省「食料需給表」、

      経済産業省「総供給表」により作成。

    2.購入価格指数の推計方法は、付注3-5参照。

    3.輸入浸透度=輸入数量/(国内生産量+輸入数量)。

    4.表中( )内の値はt値。

y = -0.1689x - 3.9071

-30

-25

-20

-15

-10

-5

0

0 20 40 60 80 100 120 140

(2)食料

(輸入浸透度(1991→2002)、%)

(購入価格指数(1991→2002)、%)

魚介類

海藻類

肉類乳製品

野菜

きのこ類

いも類

果実

輸入品が増加した品目ほど価格の下落が大きい

(-5.00) (-1.76)

R2=0.8065

70

75

80

85

90

95

100

105

110

1991 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 01 02

0

5

10

15

20

25

30

35

(年)

(購入価格指数、1991=100)(1)衣料

購入価格指数

輸入浸透度(目盛右)

(輸入浸透度、%)

輸入品が増加するにつれて衣料の価格は下落

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45

・ グローバル化に伴う“産業空洞化”への懸念。その裏には、輸出入を通じた雇用減(▲

196万人と推計)。一部の産業に影響が集中(食料、衣服など)。

・ 賃金についても、食料品や衣服の分野で賃金抑制圧力が強まっている。

第3-2-20表 就業者数の増減(1985年~2000年)

実際の就業者数増減(万人)

輸出入を通じる影響(万人)

食料品・たばこ 16.3 -21.6

繊維工業製品 -57.4 -10.3

衣服・その他の繊維製品 -24.9 -31.8

金属製品 -17.6 -10.4

電気機器 -14.3 -36.5

輸送用機器 2.4 -22.5

製造業計 -163.5 -195.9

(備考) 1. 実際の就業者数増減は、総務省「国勢調査」により作成。

2. 輸出入を通じる影響は、総務省「昭和60-平成2-7年接続産業連関表」「国勢調査」、

経済産業省「平成12年簡易延長産業連関表」から内閣府経済財政分析担当参事官付で試算。

3. 輸出入を通じる影響とは、我が国から海外への輸出が減少して輸出比率(輸出額/

国内需要額)が低下したり、海外から我が国への輸入が増加して輸入比率(輸入額

/国内需要額)が上昇することによって、国内生産が減少する影響のことで、

ここではそれが就業者数の減少に与えた影響のことを指す。

4. 輸出入を通じる影響の推計方法、上記以外の業種別結果と85年就業者数に対する

比率は付注3-7を参照。 第3-2-22図 業種別賃金格差

食料品や繊維・衣服では、賃金の抑制圧力が強まる

-25%

-20%

-15%

-10%

-5%

0%

5%

10%

食料品・飲料

・たばこ

繊維・衣服

その他製造

1995年

2002年1990年

1985年

(備考) 1. 厚生労働省「賃金構造基本調査」を用いて、内閣府経済財政分析担当参事官付で推計。

推計方法は付注3-8を参照。

2. 従業員規模10人以上の事業所で一般労働者のみを対象(パートタイム労働者を除く)。

3. それぞれの賃金格差は、すべて輸送用機械を基準としたときの格差を示す。

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46

(日本人はグローバル化に対して慎重)

・ グローバル化についての世論調査(世界経済フォーラム)によれば、雇用増加への期待

が高い国ほど、経済改善への期待が高い。

・ 対外開放度(GDPに対する輸出比率、輸入比率)が高い国ほど雇用増加への期待が高

い(輸出比率が高い→生産・雇用増。輸入比率が高い→輸入財産業での雇用機会増など)。

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

経済改善の期待(%)

雇用増加の期待(%)

y = 0.350 + 0.739 x (0.040) (4.939)

R2= 0.515

雇用増加の期待が高いと経済改善の期待も高い

日本

フランス

スペイン

第 3- 2- 23図  グ ロ ー バ ル 化 の 影 響 に 関 す る 意 識 の 国 際 比 較

アルゼンチン

トルコカタール

(備考)1.世界経済フォーラム「グローバル化に関する世界世論調査」より作成。    2.同調査は、25カ国(1国あたり1,000人、 2001年秋実施)を対象としている。      うち、OECD加盟国は13カ国。    3.縦軸、横軸とも回答者の割合。    4.グローバル化とは、国家間でのモノ・サービスや投資の取引が増加することと      定義されている。

ドイツ南アフリカ

オーストラリアロシアインドネシア

ブラジルチリ

メキシコ 中国インド

アメリカ

韓国イギリス

ナイジェリア オランダ

カザフスタン

ベネズエラ

イタリア

カナダ

(構造改革の必要性)

・ 食料などの分野で残る潜在的なメリットに留意。雇用・賃金などの面でのデメリットに

は、産業の再構築や労働移動の円滑化などで対処。

・ グローバル化の便益をより一層実感できるよう、構造改革の取組を進めることが重要。

4 地域経済とグローバル化

・ 外資系企業の進出に伴い、地方でも雇用が着実に増加。

― 外資系企業の技術・ノウハウは地域の経済活性化にもつながる。

・ 観光や農産物では、顧客を海外にも拡げることでグローバル化のメリットを享受。

・ 構造改革特区や直接投資受入れでもグローバル化を意識した地域独自の積極的な取組。

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47

第3節 経済連携の推進

1 経済連携の取組み

(1990年代以降、FTAが顕著に増加)

・ FTAは、地域を限定した自由化=最恵国待遇の例外

関税等を撤廃する意味で自由化推進という性格

・ WTOでは、FTA締結に際し、①実質的に全分野の自由化、②自由化は10年以内、等

を条件とする。

・ 90年代以降、顕著に増加。最近は途上国、地域横断的なものが増加

第3-3-1図 世界のFTA年代別・地域別発効件数

90年代以降、FTAが顕著に増加

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

1955~59 60~64 65~69 70~74 75~79 80~84 85~89 90~94 95~99 2000~(年)

(件)

地域横断

アジア大洋州

米州

欧州・中東・アフリカ

(WTOの拡大・進化と停滞)

・ WTOの交渉には、近年、若干の停滞。カンクンWTO閣僚会議(2003年9月)決裂。

・ 停滞の要因は、①加盟国数の拡大、特に途上国の増加。②自由化対象の拡大(財⇒サー

ビスや投資)。これらを踏まえた対応が必要

(FTAを通じた自由化の拡大・深化)

・ FTAは手放しで良いものではない。最大のポイントは、WTO理念維持

・ 最近の新しい流れは、投資、競争政策、政府調達、人の移動の円滑化、電子商取引、環

境、労働関連制度の調和等の分野にまで対象拡大=経済連携協定(EPA)

・ マイナス面:異なる原産地規則が絡み合えば(スパゲッティボウル現象)、行政コスト大

・ FTAを進める場合には、WTOを通じた多角的自由化推進に十分配慮が重要

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48

2 経済連携の経済効果

(緊密さを増している東アジア経済)

・ 現在検討されているFTAは、アジア諸国が中心:地理的な近接、経済関係の緊密向上

・ FTAにより、①経済的に大きなプラス効果、②これまでの貿易の流れを変更しない

・ 輸出のアジア向けシェア増加、90年3割程度→2003年4割

・ アジア諸国の関税率は概して先進諸国と比較して高水準

(貿易自由化による経済効果)

・ 静態効果:関税を撤廃することで加盟国間の貿易を創出、安価・良質な輸入品による消

費者メリット、高生産性産業への資源のシフト

静態効果の試算:①全世界との経済効果が最大、②アジア諸国とのFTAでもプラス効

果=緊密な貿易構造を反映、③日本がFTAに参画しない場合はマイナス効果

・ 動態効果:①規模の経済効果、②競争促進・技術伝播、③国内制度改革効果、による生

産性上昇

第3-3-2図 関税の撤廃が日本経済に与える効果

(備考)1.GTAPモデルおよび内閣府「国民経済計算」より作成。

    2.消費者余剰には、等価変分(価格の変化に伴う消費者の厚生変化を、変化前の価格で測った変分)を用いた。

    3.GTAPモデルや試算の前提等は、付注3-9を参照。

-0.1

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

全世界での自由化

貿易自由化の利益は全世界による場合が最大、日・アジアのFTAもプラスの効果が期待

(%、消費者余剰増加の対名目GDP比)

日・中・韓・ASEANによるFTA

中・韓・ASEANによるFTA(日本不参加)

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第4節 グローバル化の便益を引き出す構造改革

グローバル化の便益は受動的に得られるわけではなく、経済主体の積極的な対応が必要。世

界的な視野に立った構造改革を通じて国際化の便益を引き出すような環境整備が求められる。

1 求められる農業の構造改革

・ 90年代以降には、WTO、FTAを通じた世界的自由化が進展、農産物の貿易拡大

・ グローバル化の便益は、①比較優位に応じた安価な輸入品を消費者が購入、②競争原

理が働くことにより、停滞している国内農業の生産性を上昇

(先進国と比較した日本農業の特徴) ・ 日本農業は、①大幅な労働力の減少、②農地の減少と土地生産性の停滞、に直面

第3-4-1図 土地生産性の伸びが停滞した日本の農業(90年代)

(2)土地生産性

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

8

-4 -2 0 2 4土地生産性上昇率(90年代平均)

土地

変化

率(90年

代)

日本

ドイツ

フランス

オーストラリア

イギリス

アメリカ

カナダ

ノルウェー

ポルトガル ベルギー

ギリシャフィンランド

(1)労働生産性

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

0 2 4 6 8労働生産性上昇率(90年代平均)

労働力

変化

率(90年

代)

日本

ドイツフランス

オーストラリア

イギリス

アメリカ

カナダ

ニュージーランド

スペイン

(高齢化により労働力と土地が減少)

・ 労働力は、農業就業人口の高齢化が進行、後継者不足→大幅な労働力の減少 ・ 労働力と土地が切り離しがたい→高齢化は、土地利用の面にも影響 ・ 耕作放棄地は 2000 年に全国で 34 万 ha(耕地面積の約7%)、2003 年も琵琶湖の 1/5 相

当が新たに耕作放棄地に。

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50

(土地利用型農業にみられる生産性の低下傾向)

・ 土地利用型農業の代表例の稲作についてみると、稲作比率が高い地域では、土地生産性

と全要素生産性(TFP)が低下する傾向

(意欲ある担い手の育成、農地の有効利用が必要)

・ 意欲ある担い手の育成、農地の集約化が課題 ・ 構造改革特区において、株式会社などが農地を借り、農業を行うことが可能に。特区で

認められた措置を、特に問題がない場合は、全国展開に移行する必要。 (高付加価値化による日本農業の可能性)

・ 高付加価値の取組み:農薬の使用減少、トレーサビリティ導入など。 ・ 近年では、日本の農産物が、割高であっても、海外に輸出

第3-4-5図 相対輸出単価と輸出数量の伸び

(備考)1.財務省「貿易統計」により作成。    2.相対輸出単価=輸出単価/輸入単価。

0

0.5

1

1.5

2

相対輸出単価 輸出数量 相対輸出単価 輸出数量

りんご いちご

0

100

200

300

400

500

600

700

800(輸出数量の伸び率(2001→2003)、%)(相対輸出単価(2003))

相対輸出単価が高いものでも輸出は可能

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51

2 更なる取組が必要な対内直接投資

(対内直接投資は低水準)

・ 海外資本の流入は、資金のみならず、新たな技術や経営ノウハウの導入を通じて、我が

国の経済や社会生活を豊かにする。

→ 海外資本を有効活用できるような投資環境を整備する必要。

・ 我が国への対内直接投資は近年増加しつつあるものの依然として低水準(他の先進諸国

は、過去20年間に著増)。

(備考)1.UNCTAD(2003)“World Investment Report 2003”より作成。

     2.アイルランドは次のとおり。155.6%(80年)、72.3%(90年)、124.4%(2000年)、

      133.9%(01年)、129.1%(02年)。

第3-4-6図 対内直接投資残高の国際比較

アメリカ

ドイツ

イギリス

フランス

ニュージーランドスウェーデン

オランダ

日本0

10

20

30

40

50

60

70

80

1980年 90年 2000年 01年 02年

(対GDP比,%)日本は極めて低い

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52

(規制が強い国ほど対内直接投資残高が低い傾向)

・ 我が国では近年まで規制緩和の進捗が遅かった。他のOECD諸国では過去20年の間に

規制緩和が進展。

・ 規制が強い国ほど対内直接投資残高が低い傾向。

・ 「対日投資促進プログラム」などに着実に取り組み、2008 年までに投資残高の倍増に努

める。

( 備 考 ) 1 . Steph e n S . G o l u b( 2003) “ Measu r e s o f r e s tr i c t i o n s o n i n w a r d f o r e i g n d i r e c t

    inv e s t m e n t f o r O E C D c o u n t r i e s” OECD E c o n o mi c s D e p a r t m e n t W o r k i n g P a p e r s , P a r i s

            よ り 作 成 。

      2 . 規 制 は 、 投 資 受 入 国 が 外 国 資 本 の 流 入 に 対 し て 課 し て い る 規 制 に つ い て の 数 値 。 対 内

            投 資 が 不 可 能 な 場 合 は 1 に な る 。

第 3 - 4 - 7 図   対 内 直 接 投 資 に 関 す る 規 制 の 強 さ ( 国 際 比 較 )                          日 本 の 規 制 緩 和 は 遅 い

日 本

フ ラ ン ス

ド イ ツイ ギ リ ス

ア メ リ カ

OECD23カ 国平 均

オ ラ ン ダ

ス ウ ェ ー デ ンニ ュ ー ジ ー ラ ン ド

ア イ ル ラ ン ド

0

0.1

0. 2

0 . 3

0 . 4

0 . 5

0 . 6

19 8 0年 90年 2000年

対 内 直 投 規 制 の度 合 い

(備考)1.対内直接投資残高の対GDP比率の出所は第3-4-6図と、対内直接投資の規制

      の度合いについては第3-4-7図と同じ。 

    2.表中()内の数値はt値。

第3-4-8図 対内直接投資残高と規制の関係             規制が強いと投資残高は少ない

y = -126.64x + 55.749 (-2.154) (4.720)

Adj-R2 = 0.148

0

20

40

60

80

100

120

140

0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4 0.45

対内直投の規制度合い

対内直投残高(対GDP比,%)

アイルランド

オランダ

イギリスウェーデン

ニュージーランド

ドイツ フランス

アメリカ 日本

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53

3 外国人労働力の活用と課題

(世界と日本における外国人労働者)

・ 先進諸国は国境を越えた労働力を有効に受け入れる工夫:①専門的技術的労働者の受入

れ制度(サービス貿易自由化、知識集約化、少子・高齢化など先進国共通の変化へ対応)、

②移民などについて、受入れにあたり、一定の言語能力を前提

・ 日本の外国人労働者受入れ:90年の入管法改正で就労目的の入国者の条件を拡充・整理、

日系人を「定住者」として受け入れ、など

・ 日本では、受入れ人数枠や期限など特に設定なし、言語能力に関する条件の設定なし

第3-4-10図 就労目的別新規入国者数・在留者数の推移

(a) 新規入国者数 (b) 在留者数

(備考) 1.法務省入国管理局資料より作成。

    2.(a)のその他は、付表3-4の3~16のうち「興行」以外の在留資格を指す。

    3.(b)のその他は、付表3-4の3~16のうち「興行」、「人文知識、国際業務」、「技術」、「技能」以外

    の資格を指す。なお、技術は機械工学等の技術、技能は外国料理の調理等をさす。

2.6 2.7 2.2

6.7

10.312.3

0

2

4

6

8

10

12

14

16

1997 2000 2002

(万人)

14.5

9.4

13.0

その他

興行

(年)

「興行」以外の資格でも増加

2.2

5.4 5.83.0

3.54.4

1.3

1.7

2.1

1.0

1.1

1.3

3.3

3.8

4.4

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

1997 2000 2002

(万人)

(年)

技能

技術

人文知識・国際業務

興行

その他

10.7

15.5

18.0

「興行」の資格で入国する外国人が増加

(専門的・技術的労働者の現状)

・ 就労目的入国者数(フローベース)は2002年 14万人程度、5年前に比べ約5割増。在

留資格別では「興行」が8割以上と偏り。これを除くと過去5年間、2万人台と横ばい。

・ 在留者者(ストックベース)では、2002年 18万人、過去5年間でほぼ倍増。在留資格の更

新をする人が増加。国別では、フィリピン、中国などの近距離国、米英など先進国。

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54

(日系人等の外国人労働者の現状)

・ ①日系人、②技術実習生、③留学生、等、就労目的入国者以外の外国人が専門的・技術

的労働者以上に増加

・ 業種別・国籍別の分布:静岡県、群馬県等において、産業別では製造業、国籍別ではブ

ラジルやペルーが多い。「定住者」として入国した日系人が、請負・派遣により製造業で

就労。

(増加に伴い問題が現れつつある)

・ 企業面では、「文化・慣習の違い」等、異文化コミュニケーションが課題。

・ 経済面では、国内労働市場への影響の可能性。先進諸国全体では、OECD各国の外国

人労働者比率と失業率は相関なし←国内への影響を勘案した受入れがなされている。

・ 社会面では、①日本語ができない労働者の就労、②児童の教育、③社会保障制度への加

入、④地域住民との間での文化・慣習面の摩擦。

・ 外国人問題は、ひろく地域で対応が求められる課題。 第3-4-11図 OECD諸国における外国人比率と失業率の関係

(備考) 1.OECD「TRENDS IN INTERNATIONAL MIGRATION」、ILO資料より作成。 2.フランス、ポーランドは1999年の値。それ以外の国は2001年の値。

外国人比率と失業率の間に明確な関係はみられない

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

人口に占める外国人比率

失業率

(%)

(%)

スペイン

オランダ

韓国

日本

イタリア

フランス

ポーランド

スロバキア

ドイツ

オーストリア

スイス

(前向きに総合的な検討を)

・ 現下の課題は、これら外国人労働者が、いかに社会と統合し生活を営めるか

・ 日本は、入国管理、労働、子弟の教育、地域生活など各機関が連携し共同で諸問題を解

決する体制にないとの指摘→総合的に検討することが必要。

・ 今後の課題は、労働者であるだけでなく、生活する者であることを念頭に、受入れの具

体的な制度・施策のあり方について検討を進める必要。

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55

4 労働コストの上昇と競争力低下の懸念

・ 年金・医療制度の見直しに伴い、社会保険料の上昇が見込まれる。

→ 労働コストが上昇し、国際競争力が低下する懸念。

・ 特に、非賃金費用である「税・社会保険料のくさび」(総労働コストに占める、所得税+

社会保険料の割合)が高過ぎると、労働意欲の低下、企業の収益圧迫、雇用手控え、企

業立地断念などが懸念。 ・ 我が国のくさびは OECD 諸国の中でこれまでのところはまだ低い方。競争力に及ぼした

影響も小さい。 第3-4-12図 税・社会保険料のくさびの国際比較

(備考) 1.OECD Database OLISより作成。

2.税・社会保険料のくさびは、所得税+社会保険料雇用者負担分+社会保険料事業主

負担分の総労働コスト(課税前賃金+社会保険料事業主負担分)に対する比率。

3.社会保険料雇用者負担は、政府現金扶助を減算。

4.既婚者子供2人で所得水準が生産部門雇用者平均に位置する雇用者を基準とした。

(1)日本は他国と比べて低水準

-20

-10

0

10

20

30

40

50

スウェーデン

ベルギー

フランス

フィンランド

ギリシャ

イタリア

ドイツ

スペイン

デンマーク

オーストリア

ノルウェー

オランダ

ポルトガル

カナダ

日本

ニュージーラン

イギリス

スイス

アメリカ

オーストラリア

アイルランド

アイスランド

(%)

社会保険料(雇用者負担)所得税

社会保険料(事業主負担)

税・社会保険料のくさび(折れ線)

(2002年)

(2)日本はこのところ増加している

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

スウェーデン

ベルギー

フランス

フィンランド

ギリシャ

イタリア

ドイツ

スペイン

デンマーク

オーストリア

ノルウェー

オランダ

ポルトガル

カナダ

日本

ニュージーラン

イギリス

スイス

アメリカ

オーストラリア

アイルランド

アイスランド

(1995年~2002年の変化幅、%ポイント)

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56

・ くさびの増加と構造的な失業の増加との間には正の相関。

→ 少子高齢化が急速に進んでいる我が国でも、今後、くさびの増加が見込まれるため、

構造改革に取り組んで経済活性化を進める必要。 第3-4-15図 構造的失業と税・社会保険料のくさびの関係(1991年~2001年の増減)

(備考)1.構造的失業率については、OECD推計のNAIRUを利用(OECD Employment

      Outlook 2003より)。

    2.税・社会保険料のくさびは、所得税+社会保険料雇用者負担分+社会保険料事業主

     負担分の総労働コスト(課税前賃金+社会保険料事業主負担分)に対する比率。OECD

      Database OLISより作成。

税・社会保険料のくさびの増減と構造的失業の増減の間には、正の相関関係がみられる

アイルランド

ベルギー

オーストラリア

スイス

オランダ

イギリスデンマーク

スペインカナダ

ニュージーランドノルウェーポルトガル

アメリカ

イタリア オーストリア

ドイツ

ギリシア

日本アイスランド

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

-20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20税・社会保険料のくさびの増減

構造的失業率の増減

フィンランド

(%)

(%)

5 グローバル化と競争政策

・ 競争政策は、競争を制限するような規制の撤廃・緩和と競争を制限するような企業活動

を阻止するための独占禁止法の運用、により構成。

・ 世界的な経済自由化の流れの結果として、競争条件の整備を行う競争政策の充実、強化

の重要性が高まる。

・ 企業の国際的な活動の活発化などから、競争政策の各国間での協調が必要となる。

→ 国際的な執行体制構築の動き

・ 日本国内においても、グローバル化、構造改革の進展に対応して、競争政策の重要性が

高まっている。

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57 57

むすび

●進む改革、強まる景気回復

景気が2002年初に底を打ってから30か月が経過した。これまでの平均成長率は年率3%

程度に達し、民需の寄与度が2%強を占め、民間需要主導の景気拡張期が続いている。2003

年秋以降は設備投資の増加や消費の持ち直しによって5%超の高い成長率が実現し、G7

の中で日本経済の力強い回復が際立った。

今回の景気回復は、3つの力が働いている。第一は、アメリカや中国等への輸出増加で

ある。とりわけ回復初期は外需が牽引役であった。第二は、金融・規制・税制・歳出を中

心とする構造改革が日本経済の重しの除去に成果をあげ、民需増加に貢献していることで

ある。第三は、バブル崩壊後10年を要したバランスシート調整が相当進捗し、ほぼバブル

崩壊前の水準に企業の体質改善が進んだことによる前向きの力である。

90年代の過去2回の景気回復と比較すると、今回は次のような違いがある。まずは、成

長に占める政府支出の寄与がマイナスであり、民需主導となっていることである。そして、

不良債権処理の進展、過剰債務の削減、収益率の上昇などを反映して、銀行、不動産、建

設、卸小売という不良債権関連業の株価の上昇傾向が続いていることである。さらに、雇

用の過剰感が縮小し、企業部門において雇用創出への動きが生まれつつあり、景気回復と

ともに失業率が低下していることである。

経済成長を支える景気循環的要因と構造的要因がともに前向きに働いていることが成長

率の力強さをもたらしている。

●継続する回復の力

このような予想外の力強さに対して、日本経済の回復は外需主導であり、アメリカや中

国経済の変調によって早晩頓挫するのではないかという冷めた見解がある。しかし、2003

年度の経済成長のうち外需の寄与は3割を下回っている。過去と比較して今回は民需の寄

与が大きいのが特徴であり、外需主導と呼ぶのは適切ではない。

さらに、民間需要については回復の力が強いと考えられる。一つの例として、増加して

いるデジタル家電消費の効果を取り上げてみよう。これは単に消費の伸びを支えていると

いうだけではなく、投資の牽引役となっている。薄型テレビ等の高付加価値製品は国内生

産される傾向にあり、国内関連業種に裾野を広げて需要が波及することが考えられる。つ

まり、消費と投資の好循環が働いている。こうした動きは、企業の国内立地が3年ぶりに

増加するという事実にも反映している。これは2000年の景気回復がパソコン等のIT部門

が中心であり、需要増加が海外に流れたことと対照的である。回復の持続性を確実にする

ために、今後は雇用の改善が家計所得の増加につながることが必要であり、それによって

消費が安定的に増加することが期待される。

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構造改革についてはこれからも着実に取組が進められ、その効果は徐々に現れ続ける。

公共投資に依存した従来の景気対策は需要追加型の一時的な回避策であった。それに対し、

構造改革は経済構造の基礎体力をじっくりと強化するものである。不良債権処理は金融再

生プログラムどおり 2005 年3月末に主要行の不良債権比率半減の目標を達成する動きが

進んでいる。規制改革の取組は、構造改革特区が着実に成果を挙げるなど、体力を強化さ

せている。

●しかし、回復の波及が課題

このように、景気回復は持続するものと考えられるが、幾つかの留意点もある。

第一は、地域経済の回復動向にばらつきがあることと、中小企業は依然厳しい環境に置

かれていることである。財政出動なしの景気回復のため、北海道・東北・四国等の景気回

復は、好調な東海・中国等に比べて遅れている。また、海外からの安い輸入品との競争や

原油・鉄鋼等の素材価格上昇というコスト高に直面する中小企業の環境は厳しい。マクロ

経済全体としての景気回復を遅れている分野に波及させていくことが課題となっている。

そのためには、地域の特性に応じた経済活性化策の推進が必要である。

第二は、海外経済の減速がマイナスの影響を及ぼすリスクである。日本経済の現局面は、

在庫水準は低く、資本ストックの大きな積上がりはない状況である。しかし、アメリカや

中国経済の減速が仮に発生するようなことがあれば、輸出の鈍化を通じて在庫調整や設備

のストック調整メカニズムが働く可能性を考慮する必要がある。民需主導の景気回復であ

っても、生産のサポート役である外需の変調は無視できない波及効果をもつ。

第三は、デフレの克服である。資産デフレについては、株価は2003年春以降上昇傾向に

あり、地価は大都市中心に下げ止まるなど変化の兆しがみられる。しかし、消費者物価上

昇率はゼロを下回っており、緩やかなデフレが続いている。消費者物価上昇率が安定的に

ゼロを上回るためには、GDPギャップの更なる改善やマネーサプライの持続的増加など

が必要である。政府は2006年度以降名目2%程度あるいはそれ以上の成長を見込んでいる。

政府と日本銀行が一体となったデフレ克服の努力が引き続き必要である。

●金利上昇懸念への対処

民需主導の景気回復にとって、もう一つの懸念材料が金利の動きである。仮に、景気回

復に伴い金利が大幅に上昇すれば、投資にとってのコスト増、債券保有に伴う損失拡大、

利払い費増による財政負担の増加等を通じて経済に悪影響を与えかねない。

アメリカの金融情勢は利上げ局面に入り、力強い景気回復の下で長期金利の上昇が見込

まれている。他方、日本について本年中は、消費者物価の緩やかな下落が続くというのが

民間の平均的な見方となっており、我が国の量的緩和政策は消費者物価指数の前年比上昇

率が安定的にゼロ%以上となるまで継続される。したがって、金利面からの景気下押し圧

力が近い将来働く可能性は低いと考えられよう。

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他方、これまでの経験からいえることは、好況(ブーム)と金融緩和が長期に続くと、

それはバブルを招きかねないということである。80年代後半の我が国では資産バブルが発

生した。IT投資の拡大は90年代末に世界的なバブルに転じた。これらは、金融引締めに

よって崩壊(バスト)した。したがって、ブームとバストの極端な変動を回避し景気回復

を持続可能なものとするためには、金融政策の役割が期待される。デフレ克服に対する市

場の信認を深め、金融政策の透明性を高めることが重要である。デフレ脱却後も、どの程

度緩和的な金融環境がどの時点まで継続されるかについて方針を提示し、市場との対話を

通じて市場の予想(期待)の安定化につなげることが重要な金融政策上の課題である。こ

うした課題については、「物価が一定の上昇率あるいは物価水準に達するまで」という条件

を示すこと等様々な議論がみられるが、いずれにせよ、幅広い検討が必要であろう。

●少子高齢化に備えた財政構造改革の持続

2002 年初から始まった景気回復期は、財政出動に支えられていないという特徴がある。

高度経済成長が終焉した以降の時期では、稀なケースである。しかし、公共投資が経済成

長を押し上げていないということであり、研究開発・設備投資減税等の15年度税制改革は

景気の回復を下支えしている。欧米主要国ではこのような財政政策の姿は近年普通のこと

になっている。つまり、税制改革の中で経済社会の活性化を図ることはあっても、公共投

資という直接的な需要追加策が景気対策に位置付けられることはまずない。

少子高齢化に対応して歳出歳入面が持続可能な安定性を確保していくことが極めて重要

である。国と地方を合わせた基礎的財政収支赤字は、2004 年も改善の動きが進んでいる。

社会保障制度、国と地方、税制と歳出など財政改革に取り組む切り口は多様であるが、現

在の危機的な財政状況を脱却していくために、「改革と展望」に示された基礎的財政収支黒

字化の方針に沿って、2006年度までに、徹底した歳出削減努力を積み重ねつつ、必要な税

制上の措置を判断するなど、着実な改革が必要である。

●アジアへ重心が移りつつある日本経済のグローバル化

日本経済は、財、サービス、金融、労働のどの観点からみてもグローバル化が進んでい

る。コンピュータ利用に代表されるITの活用がこの動きを一層加速している。

過去を振り返ると、日本を中心とした国際経済の動きはアメリカ中心からアジアへ広が

る展開であると特徴づけられる。例えば、財の貿易については、アジアとの取引が88年に

アメリカを上回った。しかし、サービスや金融の流れについては、アメリカとの関係が依

然として最も重要である。この背景には、製造業がアジアとの間で工程間分業と呼ばれる

新しい関係を構築していることや、90年代のバブル崩壊の影響もあり、世界の金融センタ

ーとしての東京の位置付けが低下したこと等がある。

グローバル化のメリットは、広く薄くじわじわと経済に浸透する。したがって、瞬時に

は実感することが少ない。他方、デメリットは、例えば突然会社が倒産し失業するという

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ように、一部の分野に急速かつ集中的に発生することがある。世界的にみて日本人はグロ

ーバル化に対する意識が慎重である。悪いことには、デメリットのうち何が真の原因なの

かを明らかにできない点である。所得格差の拡大は、グローバル化が原因というよりは、

技術革新への対応不足が引き起こした雇用問題である場合が多い。

●グローバル化のメリットを活かすには構造改革が必要

自由貿易が便益をもたらすためには、構造改革によって便益発現の障害を取り除き、価

格メカニズムの十分な機能によって市場経済が最大の効果を上げることが必要である。

日本経済はこれまでグローバル化の流れに挑戦し、多くの便益を引き出してきた。しか

し、まだまだ潜在的には残された便益が多い。例えば、内外価格差の存在、少ない対内直

接投資、高度な外国人労働者の受け入れ余地等である。

これらの分野における構造改革の取組をみると、やはり90年代に改革は大きな遅れを伴

ったと判断できる。国内企業の海外移転に伴う空洞化の懸念も、裏返せば構造改革の遅れ

に起因する雇用創出の停滞である。規制、税制、雇用等の分野で一層の構造改革に取り組

んで、手付かずの便益を引き出すことが重要である。構造改革の取組を伴えば、FTA(自

由貿易協定)を含めアジアとの経済連携はより実り多いものとなるであろう。

少子高齢化社会における「税・社会保険料のくさび」の増加が経済活力をそぐのではな

いかとの懸念が指摘されている。労働コストが国際競争力を低下させる効果はこれまでは

小さかった。しかし、今後は、くさびの増加が見込まれるため、受益と負担の関係につい

て検討し、持続可能な財政・社会保障制度の確立を図るとともに、経済活性化を進めるた

めの構造改革に取り組んでいくことが重要である。

グローバル化を通じて観光の活性化も可能になる。それは、ただ単に観光客の誘致に成

功すればよいというものではない。外国人がその地を訪問してみたくなるような魅力を高

めることが必要である。経済の分野のみならず、社会や文化の領域まで含め、日本人でも

住みたい地域、訪れたい場所に変えていくことが大切である。地域経済がそれぞれの特性

を見出し地域主導の活性化に取り組むことが重要であり、その動きは始まりつつある。

●日本経済の孤立はあり得ない選択

グローバル化はより多くの国がその流れに包摂されることによって、参加国の便益を増

加させるものである。これは、市場経済における取引のメリットの基本である。したがっ

て、日本経済は今後も構造改革に取り組むことによって、多くの便益を引き出していくこ

とが必要である。日本経済の世界における孤立はあり得ない選択である。世界経済は包摂

の流れが加速的に深まっていくものであり、日本だけが乗り遅れるという事態は回避する

必要がある。そのためには、政策における迅速な決断が求められている。

グローバル化は、その到達地における経済活動を普遍化し、世界的に共通なものに洗い

変えていく。それによって、労働や資本という生産要素、財やサービスという生産物は標

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準化し、世界の中で代替することが可能となる。経済活動は効率化し、世界の所得水準は

着実に上昇してきた。

他方、このような流れはあくまで工業化を是とする価値観が支えているため、より知的

な価値を尊重し評価の多様性を求める流れとは相いれない内容を含むことになる。特に少

子高齢社会においては、教育、介護や医療などは、標準化されたサービスだけでは十分満

足が得られない分野となっている。また、産業分野においては、より知恵が評価されると

同時に、高度知的技能に一層磨きをかけることが日本の比較優位を研ぎ澄ますことにつな

がる。したがって、便益を引き出す改革を行うと同時に、このような時代の求めに対応す

る豊かな人間を育成していくことが避けられない時点に我々は立っている。

●外へ出るグローバル化から内へ迎え入れるグローバル化へ

グローバル化は波に例えられる。国の富を侵食し、流し去る可能性を心配する声がある。

他方、それとともに幸を運んでくる期待が大きい。どちらに転ぶか分けるのは、それを受

け入れる国内経済構造である。旧態依然とした体制のままで、波に乗れない場合には、時

間とともに富が侵食されるであろう。そうではなく、波に乗るような構造改革を進めるこ

とによって、積極的に便益を刈取って行くことが望ましい対応である。

日本経済は、どちらかというとこれまで外に出向くことによって便益を持ち帰ってきた

が、これからは内へ迎え入れることによって便益を引き出す姿勢を強めることが望まれる。

そのためには、新しい課題に対応する経済構造を構築し、アジアの先進国にふさわしいリ

ーダーシップを発揮することが必要である。グローバル化の視点の重要性は80年代から既

に指摘されていた。しかし、内へ迎え入れる動きはほとんど進捗しなかった。積極的な取

組みがないと実現しない課題である。

●芽が出た改革を更に大きく育てる

当府企業行動アンケート調査(2004 年)によると、「日本企業全体については、より一

層リストラを行う必要がある」との回答が5割を超えている。過半の企業が更なるリスト

ラを目指す意識を掲げていることは、今後の構造改革にとって明るい材料である。

構造改革の芽が現れ始め、景気回復が続く今こそが将来の分かれ目にあると認識するこ

とが必要である。団塊の世代が2007年から引退を開始する。更なる改革を進め、経済の体

質を一層筋肉質にすることが重要である。また、現在、デフレ克服は「道半ば」であり、

政府・日銀が一体となって政策努力を行うことが必要である。デフレ克服後においても、

資本、労働等の生産要素が生産性の高い分野に移動し、物価安定の下で家計、企業、公的

部門が持続可能な経済関係に入る努力を続け、持続的な成長経路につなげていくことが求

められている。本報告では、地域経済の再生とグローバル化の便益享受の二つの視点から

分析を行ってきた。日本経済の持続的成長にとって大きな鍵は、構造改革の取組を強化し、

地域とグローバル化の両面から成果を一つずつ積み重ねていくことにある。