第82回秋田県文化財保護審議会概要 ·...
TRANSCRIPT
- 1 -
第82回秋田県文化財保護審議会概要
日時:平成27年1月29日(木)
13:30~16:00
場所:秋田県庁第二庁舎 高機能会議室
1 秋田県文化財保護審議会委員
小笠原 光 元秋田県立近代美術館副館長
小 川 浩 義 秋田魁新報社文化部長
佐 藤 康 子 元秋田県立図書館副館長
嶋 田 忠 一(副会長) 元秋田県立博物館副館長
高 橋 一 郎 元大潟村教育長
高 橋 秀 晴 秋田県立大学総合科学教育研究センター教授
土 田 久美子 秋田市建築紛争調停委員
冨 樫 泰 時(会 長) 元秋田県立博物館館長
林 信太郎 秋田大学教育文化学部教授
蒔 田 明 史 秋田県立大学生物資源科学部教授
2 次 第
(1)秋田県教育委員会教育長あいさつ
(2)秋田県文化財保護審議会会長あいさつ
(3)秋田県文化財保護審議会副会長選出
○秋田県文化財保護条例第四十六条第2項の規定により、委員の互選によって、
嶋田委員を副会長に選出。
(4)審 議【公開】
秋田県の区域内に存する文化財の指定の適否について
①天然記念物(地質鉱物)
八森椿海岸柱状節理群
②有形文化財(絵 画)
佐竹曙山筆 湖山風景図
佐竹曙山筆 竹に文鳥図
佐竹曙山筆 燕子花にナイフ図
佐竹曙山筆 紅蓮図
小田野直武筆 笹に白兎図
小田野直武筆 児童愛犬図
(5)報 告
- 2 -
3 審議の主な内容
(1)天然記念物(地質鉱物)
「八森椿海岸柱状節理群」について、事務局から説明後、審議に入った。
【冨樫会長】
・昨年現地を視察した案件である。
・林委員から何か補足はあるか。
【林委員】
・この柱状節理群は、おそらく500~600万年前に海底でできたと推測され、古い
溶岩の流れ方が分かるという点が貴重である。
【冨樫会長】
・その内容を説明文に入れることは可能か?
【林委員】
・年代は入れにくい。素波里安山岩の形成年代は300~1000万年前の幅があり、
限定的に説明するにはまだ調査が足りない。
【佐藤委員】
・現地を見た際に、大変良い案件だと思った。柱状節理は、行きにくい場所にあること
が多いように思う。八森椿海岸柱状節理群は、一般の方や子どもでも容易に行ける場
所にあり、学習の場として最適である。
【嶋田副会長】
・下北地方では材木石として、施設の部材に使う事がある。八峰町では、自宅の部材に
使うようなことはあるか?
【林委員】
・私が回った範囲では確認できなかった。なお、指定対象地は防波堤の役割を果たして
おり、抜き取られるようなことは無いと考える。
【嶋田副会長】
・八森椿海岸柱状節理群が重要なのは、溶岩の流れを確認できるということか?
【林委員】
・通常、柱状節理は2次元的にしか見ることができないが、ここは3次元的に見ること
ができるのが特長。
【林委員】
・全国には指定されている柱状節理は多いが、ビジュアル的に優れているか、学術的に
優れているかの二つに分かれる。八森椿海岸柱状節理群は後者である。
【冨樫会長】
・八森椿海岸柱状節理群の天然記念物指定について異論は無いようなので、文化財保護
審議会からは、指定が適当であることを答申する。
- 3 -
(2)有形文化財(絵画)
「佐竹曙山筆 湖山風景図」、「佐竹曙山筆 竹に文鳥図」、「佐竹曙山筆 燕子花にナ
イフ図」、「佐竹曙山筆 紅蓮図」、「小田野直武筆 笹に白兎図」、「小田野直武筆 児童
愛犬図」の6件について事務局から説明後、審議に入った。
【小笠原委員】
・秋田蘭画は美術史上一つの時代を画したということで評価が定まっている。今回諮問
された作品群は代表的な作品で、戦前から評価が定まっている作品である。
【土田委員】
・曙山の落款が2種類あるが、描いた年代によって落款は違うものなのか。
【事務局】
・曙山の作品は制作期間が短いということもあり、いつ描いているのか記録が残ってい
ない。湖山風景図は珍しく年号が書かれているもの。どの印章を、いつ使ったのかわ
かっていないのが現状である。
【林委員】
・重要美術品に認定された際の作品名は「笹に兎図」であるが、今回諮問された作品名
と違うのはなぜか。
【事務局】
・箱には作品名が書かれていない。大正14年に秋田市役所屋上で開催された秋田の洋
画展では、作品名は「兎」である。昭和5年に平福百穂が「日本洋画曙光」を出版し
た時には、作品名は「白兎図」である。昭和9年に報知新聞社主催の徳川時代初期日
本洋画展覧会では「笹に兎」である。そうした変遷をたどってきたが、千秋美術館の
作品名「笹に白兎図」を採用した。
【冨樫委員長】
・県教育委員会から諮問を受けた秋田蘭画6件は、県指定が適当であることを答申しま
す。
○第82回秋田県文化財保護審議会が答申した上記の7件の秋田県指定候補
文化財は、平成27年3月13日の秋田県教育委員会会議で県指定が決定
されました。同月20日の秋田県公報の告示により、正式に秋田県指定文
化財となります。
- 4 -
秋田蘭画と曙山、直武しょざん なおたけ
秋田蘭画は、18世紀後半に佐竹曙山や小田野直武らを中心に描かれた洋風画の総称であ
る。安永2年(1773)に、阿仁銅山の増産のため秋田藩に招聘された平賀源内が、画才に
秀でた小田野直武を見出し、西洋画の写実技法を教示したことが、その誕生の契機とされ
る。
曙山は、第8代秋田藩主である佐竹義敦の号で、自ら博物学や西洋画法に高い関心を持よしあつ
ち、直武を通じて本格的に西洋画を学んだ。安永7年には、我が国初の西洋画論となる
「画法綱領」と「画図理解」を著している。が ほうこうりよう が と り かい
直武は、秋田藩士小田野直賢の第4子として角館に生まれた。安永2年12月から同6年なおかた
12月まで曙山の命によって江戸へ上り、西洋画法を学んだ。下向した後、安永7年4月か
らは御側御小姓並として曙山につかえ、曙山にも直にその技術を指南したとされる。お そば お こ しようなみ
秋田蘭画は、東洋的な花鳥図を主題に、その伝統的技術を基本としながら、西洋画の陰
影法や遠近法を積極的に取り入れた点が特徴である。近景を極端に大きくかつ細密に描き、
遠景には銅版画に似た細線で描写した風景図を加える、近大遠小構図はその典型例とされ
る。角館出身の日本画家である平福百穂が昭和5年(1930)に刊行した『日本洋画曙光』
により、世に広く知られるようになった。
今回対象とする作品は、佐竹曙山、小田野直武という秋田蘭画の中心作家の代表的作品
であり、いずれもその特徴をよく表す。直武は安永9年に30歳で、曙山も天明5年(1785)
に36歳で亡くなっており、洋風画制作に取り組んだ期間が短いため、残された作品は少な
い。これらの作品は、江戸時代の絵画の中でも異彩を放つ秋田蘭画の様相を知る上で欠か
せないものである。
参考文献
成瀬不二雄「平賀源内と秋田蘭画」『南蛮美術と洋風画』原色日本の美術第25巻 小学館 198-209頁
昭和45年(1970)6月20日
三輪英夫編『小田野直武と秋田蘭画』日本の美術第327号 至文堂 平成5年(1993)8月15日
武塙林太郎「秋田蘭画」『秋田市史』第15巻美術・工芸編 秋田市 257-299頁 平成12年(2000)
3月31日
安村敏信編『秋田蘭画~憧憬の阿蘭陀~』江戸文化シリーズ第16回特別展図録 板橋区立美術館 平
成12年(2000)12月2日
成瀬不二雄『佐竹曙山-画ノ用タルヤ似タルヲ貴フ-』ミネルヴァ書房 平成16年(2004)1月10日
秋田市立千秋美術館『秋田蘭画とその時代展』 平成19年(2007)9月
今橋理子『秋田蘭画の近代 小田野直武「不忍池図」を読む』東京大学出版会 平成21年(2009)4
月23日
- 5 -
佐竹曙山筆 湖山風景図さ たけしょざんひつ こ ざんふうけい ず
1 種 別 有形文化財(絵画)
2 名称及び員数 佐竹曙山筆 湖山風景図 1幅
3 形 状 紙本著色 軸装
4 寸 法 縦16.0㎝、横24.5㎝
5 制 作 者 佐竹曙山
6 制 作 年 代 江戸時代後期
7 所 在 地 秋田市中通二丁目3番8号 秋田市立千秋美術館
8 所 有 者 秋田市
9 説 明
実景によるものとみえるが、小田野直武が所持していた西洋風景の銅版画に同一構図の
作品があり、これをもとに日本の風景に置き換えて描いたものと考えられる。近景に松、
中景に街道と人物、遠景には湖の向こうに連なる山々が配される。陰影も細線を重ねる手
法で描かれており、これは銅版画に学んだものとみられる。手本としたと考えられる作品
はあるが、遠近法、陰影法を取り入れ、独自の作画を試みた意欲的な作品である。
制作時期については、軸木に「安永七年戊戌七月/出羽秋田久保田御張付師山本五兵衛
拵之」と墨書されていたことから、安永7年頃である可能性が高い。
落款は画面右上に大きく「曙山画」の墨署と、朱文円印「Segutter vol Beminnen」の
蘭語印が押されている。
参考
重要美術品認定「紙本著色湖山風景圖 佐竹曙山筆」 昭和11年(1936)9月12日
- 6 -
佐竹曙山筆 竹に文鳥図さ たけしょざんひつ たけ ぶんちょう ず
1 種 別 有形文化財(絵画)
2 名称及び員数 佐竹曙山筆 竹に文鳥図 1幅
3 形 状 絹本著色 軸装
4 寸 法 縦136.0㎝、横40.0㎝
5 制 作 者 佐竹曙山
6 制 作 年 代 江戸時代後期
7 所 在 地 秋田市中通二丁目3番8号 秋田市立千秋美術館
8 所 有 者 秋田市
9 説 明
曙山の作品には博物図譜等の動植物を基に画面を構成し
たものがあり、本作は代表的な作品の一つである。画面左
に大きく竹の一部を配し、枝や葉などの位置も効果的で竹
の力強い生命力と画品の高さを感じさせる美しい構図であ
る。モチーフは曙山の「写生帖」に収められている、竹と
2羽の文鳥で、竹はやや下から、文鳥は横や上から描かれ、
視点は一つではない。
本作では東洋画の伝統的な裏彩色の手法がとられており、
緑青や藍といった日本画の顔料と舶来のプルシャンブルー
とを組み合わせることで、竹の緑にみずみずしい透明感を
生み出した。また、背景にごく薄い胡粉をひくことで、竹
の緑が一層際立ち、節に施された薄墨による陰影表現も自
然で美しく、写実的描写への工夫が凝らされている。
落款は、画面中央右側に「源義敦画」の墨署と、朱文鼎
印「Siozan Schildereij」、朱文円印「Segutter vol
Beminnen」の2つの蘭語印が押されている。
参考
重要美術品認定「絹本著色竹ニ文鳥圖 佐竹曙山筆」 昭和11年
(1936)9月12日
- 7 -
佐竹曙山筆 燕子花にナイフ図さ たけしょざんひつ かきつばた ず
1 種 別 有形文化財(絵画)
2 名称及び員数 佐竹曙山筆 燕子花にナイフ図 1幅
3 形 状 絹本著色 軸装
4 寸 法 縦112.5㎝、横40.0㎝
5 制 作 者 佐竹曙山
6 制 作 年 代 江戸時代後期
7 所 在 地 秋田市中通二丁目3番8号 秋田市立千秋美術館
8 所 有 者 秋田市
9 説 明
燕子花の花や葉を、色彩の濃淡と細線によって精密
に写し、花器に陰影を施すなど西洋画的な写実的精神
がうかがわれる。舶載の西洋ナイフを配することで、
従来の伝統的な絵画にはなかった静物画を描こうとい
う試みにも作画への意気込みが感じられる。
燕子花の花弁の紫は舶来の顔料であるプルシャンブ
ルーと染料系の赤い絵の具を使うことで柔らかな透明
感を描き出した。花器とナイフの刃には、銀の裏箔がうらはく
用いられており、鈍い輝きをもった金属の質感を感じ
させる。背景にひかれたプルシャンブルーも空間表現
に極めて効果的である。
落款は、画面右上に「源義敦画」の墨署と、朱文円
印「Zwaar wit」の蘭語印が押されている。
神戸市立博物館に類似作品の「燕子花にハサミ図」
が所蔵される。
参考
重要美術品認定「絹本著色燕子花ニナイフ圖 佐竹曙山筆」
昭和11年(1936)9月12日
- 8 -
佐竹曙山筆 紅蓮図さ たけしょざんひつ ぐ れん ず
1 種 別 有形文化財(絵画)
2 名称及び員数 佐竹曙山筆 紅蓮図 1幅
3 形 状 絹本著色 軸装
4 寸 法 縦87.0㎝、横30.5㎝
5 制 作 者 佐竹曙山
6 制 作 年 代 江戸時代後期
7 所 在 地 秋田市中通二丁目3番8号 秋田市立千秋美術館
8 所 有 者 秋田市
9 説 明
群生する蓮池の一情景を大胆な構図で切り取っている。
画面の中央に蓮の花を配し、花托は高く上に伸びている。か たく
花や葉には陰影が施され、水面に映る茎を線描によって
表現するなど、西洋の陰影法が取り入れられている。
小田野直武にも同一構図の作品があり、これを範とし
て描いたものと考えられ、曙山が直武から蘭画を学んだ
ことがうかがえる。直武の作品は背景に銅版画風の遠景
を配しているのに対し、本作では葉の色の深みや質感を
再現するための色彩表現に力点がおかれ、背景は描かれ
ていない。
落款は、画面の左上に「曙山画」の墨署と、朱文円印
「Zwaar wit」と朱文鼎印「Siozan Schildereij」の2つ
の蘭語印が押されている。
参考
秋田市指定有形文化財(絵画)「絹本着色 紅蓮図 佐竹曙山筆」
平成9年(1997)3月4日
- 9 -
小田野直武筆 笹に白兎図お だ の なおたけひつ ささ しろうさぎ ず
1 種 別 有形文化財(絵画)
2 名称及び員数 小田野直武筆 笹に白兎図 1幅
3 形 状 絹本著色 軸装
4 寸 法 縦100.5㎝、横32.5㎝
5 制 作 者 小田野直武
6 制 作 年 代 江戸時代後期
7 所 在 地 秋田市中通二丁目3番8号 秋田市立千秋美術館
8 所 有 者 秋田市
9 説 明
東洋画の構図をとり熊笹の下に白兎を配している。兎
は毛の一本一本が丹念に描かれ、耳や背中、後脚などは
より白く、目の下や四肢には隈をつけるという東洋的な
立体表現がみられる。しかし、兎の背中には熊笹の影が、
地面には兎の影が描かれ、ここでの表現は陰影法が意識
されている。背景のごく薄い藍は、兎の白さとやわらか
な質感表現に効果的な役割を果たし、空間に品のいい奥
行きを演出している。
落款は、画面左側に「小田野直武畫」の墨署と、白文
方印「羽陽之印」と朱文方印「字曰子有」が押されている。
参考
重要美術品認定「絹本著色笹ニ兎圖 小田野直武筆」 昭和11年
(1936)9月12日
- 10 -
小田野直武筆 児童愛犬図お だ の なおたけひつ じ どうあいけん ず
1 種 別 有形文化財(絵画)
2 名称及び員数 小田野直武筆 児童愛犬図 1幅
3 形 状 絹本著色 軸装
4 寸 法 縦41.5㎝、横64.0㎝
5 制 作 者 小田野直武
6 制 作 年 代 江戸時代後期
7 所 在 地 秋田市中通二丁目3番8号 秋田市立千秋美術館
8 所 有 者 秋田市
9 説 明
円窓の中に2人の唐子と洋犬という画題は、中国及び西洋の絵画に想を得て描いたもの
と考えられる。ほの暗い屋内には、台や器、脇には建具が描かれ、遠近法、陰影法を用い
ることで画面の奥行きが生まれている。窓辺の光の中の2人の唐子と窓に前足をかけた洋
犬は、東洋画の伝統的な技法である裏彩色により、一部にプルシャンブルーという西洋の
絵具を用いるなどして、それぞれの質感と立体感を描き出している。直武の熟達した技法
と、西洋画の写実的な表現に迫ろうとする意欲的な探究心を見ることができる作品である。
落款は、画面右下に「小田野直武畫」の墨署と、白文方印「羽陽之印」、朱文方印「字
曰子有」が押されている。
参考
重要美術品認定「絹本著色兒童愛犬圖 小田野直武筆」 昭和11年(1936)9月12日
- 11 -
八森椿海岸柱状節理群はちもりつばきかいがんちゅうじょうせつ り ぐん
1 種 別 天然記念物(地質鉱物)
2 名 称 八森椿海岸柱状節理群
3 面 積 991.74㎡
4 所 在 地 山本郡八峰町八森字椿196-1先
5 所 有 者 国(農林水産省)
6 説 明
八森椿海岸柱状節理群は、八峰町八森にある椿漁港の北西部に隣接する岩体に発達した
柱状節理群である。岩体は、長さ約94m、幅約16mの細長い地形で半島状に海に突き出て
いる。火山岩の一種である安山岩からなり、溶岩が流れた様子をとどめている。ここで見あん ざん がん
られる安山岩は藤里町から八峰町にかけて分布している素波里安山岩である。す ば り あん ざん がん
柱状節理とは岩体に規則的な柱状の割れ目が生じた状態をいい、六角柱状や五角柱状の
ものが多いが四角柱状、三角柱状のものも見られる。溶岩が冷却固結する際に体積が収縮
して形成されたもので、溶岩の冷却面と垂直に発達している。
八森椿海岸柱状節理群は大部分が海に接しており、柱状節理が露出した状態で見られ、
大きな亀裂による断面や側面など様々な角度から柱状節理を観察することができる。この
ように柱状節理の立体構造が観察できる岩体は、県内では他に見ることができず、学術上
きわめて貴重である。
参考
八峰町指定天然記念物「椿海岸柱状節理」 平成24年(2012)11月8日
日本ジオパーク認定「八峰白神ジオパーク」 平成24年(2012)9月24日