生物ヹ生態系分野における 1.5˚c 目標についてdhm (degree heating month)...

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生物生態系分野におけ 1.5˚C 目標について 山野博哉 (国立環境研究所)

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Page 1: 生物ヹ生態系分野における 1.5˚C 目標についてDHM (Degree Heating Month) 平年値(1985-2000 年)より高い水温とその期間のかけ算(1˚C 高い期間が2ヴ月続

生物・生態系分野における1.5˚C 目標について

山野博哉

(国立環境研究所)

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温度直接影響:分布、代謝平均最高・最低偏差

×時間解像度繁殖・分散様式(分布拡大の場合)

温度間接影響:生物間相互作用食う〜食われる種間競争

温度降水量海洋酸性化気候変動以外の要因(土地利用など)

不確実性高い・地質記録との比較・実験的研究・野外観察

不確実性が大きい・・・生物データの集積(空間的、時間的)がまず必要

Butt et al. (2016) Biol. Cons.

指標作成統計解析

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3データ数:3200万

データベース

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水温は、すべての海洋生物の分類群の分布を説明する要因

Tittensor et al. (2010) Nature

多くの海洋生物は浮遊幼生期間を持つ→分散能力が高い→気候変動速度に追随できる

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サンゴの水温上昇影響に関する簡易指標

�最高水温・・・白化�最暖月の月平均水温

� 閾値(31.1˚Cあるいは30˚C)を超えると白化して斃死する(Guinotte et al., 2003;

Yara et al., 2012, 2016)

�最低水温・・・分布北上�最寒月の月平均水温

� 閾値(種によって異なる)を下回ると斃死する(Takao et al., 2015)

�偏差・・・白化� DHW (Degree Heating Week)・・・NOAAが公開、警報

� 平年値(1985-1993年; 1991,1992年はピナツボ火山噴火のため除く)より高い水温とその期間のかけ算(1˚C高い期間が2週間続くと1 x 2 = 2)

� DHW > 4で白化、DHW > 8で斃死をともなう深刻な白化(Lie et al., 2013)

� DHM (Degree Heating Month)� 平年値(1985-2000年)より高い水温とその期間のかけ算(1˚C高い期間が2ヶ月続くと1 x 2 = 2)

� DHM > 1で白化、DHM > 2で斃死をともなう深刻な白化(Donner, 2009)

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DHMを用いた将来予測

サンゴ礁の10%以上を保全

するためには、水温上昇を1.5˚C以下にすることが必要

Frieler et al. (2012) Nature Climate Change

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サンゴ白化情報の収集

市民参加型調査http://www.sangomap.jp

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月平均水温(2016/8)(気象庁)

DHW

(2016/9/1)

(NOAA)

サンゴ白化情報赤:全体白化黄:部分白化青:白化無し

(日本全国みんなでつくるサンゴマップ)

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1.5˚C上昇の影響は?

日本近海では、過去100年に冬期の水温が1.43度上昇した

(気象庁海洋の健康診断表)

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九州〜本州ではサンゴ分布が北上している

Yamano et al. (2011)

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四国南岸では熱帯性海藻フタエモクの分布が拡大している

Tanaka et al. (2012)

フタエモク

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平均海水温1.9˚C上昇

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臨海試験所などの沿岸に定点を定め、コドラートを設置して長期観察。北上して成長するサンゴの観察とともに、共生藻の変化を遺伝子レベルで決定。

館山伊豆

串本竜串天草

対馬壱岐

モニタリング海域

サンゴ分布北限

サンゴ分布北限

済州島(韓国と共同研究) 五島

1)大気・海洋モニタリング

温暖化影響評価のための海洋モニタリング

・サンゴと水温のモニタリングによるサンゴの分布変化、種毎の温度耐性データの蓄積・他の生物の研究者とのネットワーク構築→サンゴ分布変化の検出と予測の高度化に加え、沿岸生物多様性の変化の検出に貢献

気候モデル出力値を用い、水温の年々変動を考慮したサンゴ分布変化予測を高度化(Takao et al., 2015)

40サンゴ北上がもたらす多様性の変化の検出(サンゴガニ共生)(Yamano et al., 2012)

モニタリング海域の水温変化

エンタクミドリイシ:月平均水温14˚C以下で斃死

培養株の遺伝子との比較により、採取した共生藻の遺伝子タイプを検出

クレードC

クレードD 共生藻培養株(B,C,D,F

クレードの培養成功)

・共生藻の培養株の確立

・共生藻の遺伝子タイプ(クレード)の検出手法の開発→継続的な共生藻

モニタリングが可能に

14˚C

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現場データ(Yamano et al., 2011)

本研究(北上再現)

従来(10年平均値)(北上せず)

館山

伊豆

串本

土佐清水

種子島

分布北上

19

30

19

70

19

90

20

10

斃死する最寒月水温

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全国8海域でのサンゴのモニタリング(2010-継続中)

サンゴ斃死水温情報の蓄積

月単位での水温変動を予測できる気候モデルの出力結果と統合

ナンヨウミドリイシの北上

水温の年々変動を考慮したサンゴ分布北上予測の高度化

最寒月水温の年々変動とサンゴの斃死水温を考慮することでサンゴ種ごとの北上を再現 →将来予測の高度化(Takao et al., 2015, Coral Reefs)

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まとめ

•生物・生態系影響には、気候変動の直接・間接影響と、気候変動以外の要因が関わっている

•生物・生態系影響の面から1.5˚Cの根拠を打ち出すためには、観測やモニタリングの充実によりデータ数を増やし、適切な指標の作成や統計解析の実施を行い、影響予測の不確実性を下げる努力が必要

•観測された事実に基づくと、1.5˚Cでも温度上昇の影響は充分に大きいだろう。