大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究...

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本研究の目的は,第1にスピーチ場面不安尺度を作成すること,第2にスピーチ場面に関する否定 的見積もりがスピーチ場面不安に影響するプロセスについて検証することであった。研究lではスピー チ場面不安尺度を作成し,「認知・感情」「行動」「生理」の3因子26項目が得られた。また,作成さ れたスピーチ場面不安尺度の信頼性・基準関連妥当性が得られた。研究2では作成したスピーチ場面 不安尺度を用いて,スピーチ場面に関する否定的見積もり(SES)がスピーチ場面不安に影響するプ ロセスについて検証した。本モデルにおいて,適合度指標の高い値が得られた。否定的評価への恐れ (FNE)と公的自意識はスピーチ場面の認知・感情的不安に直接影響することが検証された。また, FNEと公的自意識はSESを介せばスピーチ場面の認知・感情的不安,行動的不安,生理的不安のす べてに影響することが検証された。 糠著’ キーワード:スピーチ場面不安,SES,公的自意識,FNE 大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における 見積もりモデルに関する研究 伊藤香織')。山本直利子2) 』白 KurumeUniversity PsychologicalResearch2014,No.13,11-18 における否定的見積もり尺度(SES;SpeechEsti‐ mationScale)を作成した。また,否定的見積もり が社会不安に影響するプロセスを検討し,否定的な評 価への恐れが社会不安に直接結びつくだけでなく,否 定的な評価への恐れが否定的見積もりを介し社会不安 に至るという2つのプロセスが検証された。さらに, Cheek&Buss(1981)により社会不安傾向と自意識 (公的自意識・私的自意識)との関連が検証されたが, 自意識が否定的見積もりを介した社会不安への影響に ついて検証されていない。 Buss(1986大洲訳,1991)は「スピーチ不安尺度」 を作成しており,この尺度はスピーチ中の不安や自意 識,あるいはスピーチを前にした不安を測定するもの で,公的な席でスピーチをしている時の反応を予測す るために利用されてきた。しかしこの尺度は全6項目 で,スピーチ場面における不安の細部について問うも のではない。宮前(2000)も「スピーチ不安傾向尺度」 を作成した。これは認知・行動・情動の3側面の不安 について表した尺度であり,情動の側面においては, 生理的な不安の要素も含まれていて,感情と生理の各 問題と目的 人前で話をする,他者と交流するなどの対人場面で 生じる不安は社会不安(socialanxiety)と言われ, その心理学的な理解は,Clark&Wells(1995)と Rapee&Heimberg(1997)のモデルを中心に発展 してきた。これらのモデルにおいては,認知的反応, 行動的反応,感情的反応,生理的反応(またはその認 知)の要素に区分され,社会不安の理解が進んできた。 また,社会不安は,その下位概念として,「シャイネ ス」や「対面不安」,「スピーチ不安」,「コミュニケー ション不安」を含んでいる。 特にスピーチ場面は、最も不安を喚起する社会的状 況として報告されている(Stein,Walker,&Forde, 1996)。そこには,スピーチに関する“否定的見積も り”が存在するが,これはスピーチ場面での自己のパ フォーマンスについて肯定的な社会的頻度を低く見積 もるのみならず,否定的な社会的状況の生起頻度を高 く見積もるということである(Lucock&Salkovskis, 1988)。城月・笹川・野村(2009)は,スピーチ場面 1)久留米大学大学院心理学研究科 2)久留米大学文学部心理学科 -11-

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Page 1: 大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究

本研究の目的は,第1にスピーチ場面不安尺度を作成すること,第2にスピーチ場面に関する否定

的見積もりがスピーチ場面不安に影響するプロセスについて検証することであった。研究lではスピー

チ場面不安尺度を作成し,「認知・感情」「行動」「生理」の3因子26項目が得られた。また,作成さ

れたスピーチ場面不安尺度の信頼性・基準関連妥当性が得られた。研究2では作成したスピーチ場面

不安尺度を用いて,スピーチ場面に関する否定的見積もり(SES)がスピーチ場面不安に影響するプ

ロセスについて検証した。本モデルにおいて,適合度指標の高い値が得られた。否定的評価への恐れ

(FNE)と公的自意識はスピーチ場面の認知・感情的不安に直接影響することが検証された。また,

FNEと公的自意識はSESを介せばスピーチ場面の認知・感情的不安,行動的不安,生理的不安のす

べてに影響することが検証された。

糠著’

キーワード:スピーチ場面不安,SES,公的自意識,FNE

大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における

見積もりモデルに関する研究

伊藤香織')。山本直利子2)

』白要

KurumeUniversityPsychologicalResearch2014,No.13,11-18

における否定的見積もり尺度(SES;SpeechEsti‐

mationScale)を作成した。また,否定的見積もり

が社会不安に影響するプロセスを検討し,否定的な評

価への恐れが社会不安に直接結びつくだけでなく,否

定的な評価への恐れが否定的見積もりを介し社会不安

に至るという2つのプロセスが検証された。さらに,

Cheek&Buss(1981)により社会不安傾向と自意識

(公的自意識・私的自意識)との関連が検証されたが,

自意識が否定的見積もりを介した社会不安への影響に

ついて検証されていない。

Buss(1986大洲訳,1991)は「スピーチ不安尺度」

を作成しており,この尺度はスピーチ中の不安や自意

識,あるいはスピーチを前にした不安を測定するもの

で,公的な席でスピーチをしている時の反応を予測す

るために利用されてきた。しかしこの尺度は全6項目

で,スピーチ場面における不安の細部について問うも

のではない。宮前(2000)も「スピーチ不安傾向尺度」

を作成した。これは認知・行動・情動の3側面の不安

について表した尺度であり,情動の側面においては,

生理的な不安の要素も含まれていて,感情と生理の各

問題と目的

人前で話をする,他者と交流するなどの対人場面で

生じる不安は社会不安(socialanxiety)と言われ,

その心理学的な理解は,Clark&Wells(1995)と

Rapee&Heimberg(1997)のモデルを中心に発展

してきた。これらのモデルにおいては,認知的反応,

行動的反応,感情的反応,生理的反応(またはその認

知)の要素に区分され,社会不安の理解が進んできた。

また,社会不安は,その下位概念として,「シャイネ

ス」や「対面不安」,「スピーチ不安」,「コミュニケー

ション不安」を含んでいる。

特にスピーチ場面は、最も不安を喚起する社会的状

況として報告されている(Stein,Walker,&Forde,

1996)。そこには,スピーチに関する“否定的見積も

り”が存在するが,これはスピーチ場面での自己のパ

フォーマンスについて肯定的な社会的頻度を低く見積

もるのみならず,否定的な社会的状況の生起頻度を高

く見積もるということである(Lucock&Salkovskis,

1988)。城月・笹川・野村(2009)は,スピーチ場面

1)久留米大学大学院心理学研究科

2)久留米大学文学部心理学科

-11-

Page 2: 大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究

大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究

要素間で違いが不明確である。

本研究では,スピーチ場面における社会不安の4要

素(認知,行動,感'情,生理)に着目したスピーチ場

面不安尺度を作成する。また,否定的評価に対する恐

れだけでなく公的・私的自意識が否定的見積もりを介

しスピーチ場面不安にどのように関連しているかを明

らかにするための研究を行う。

研究1

目 的

大学生版スピーチ場面不安尺度を作成する。

(1)予備調査

スピーチ場面の不安についての項目の収集を目的と

する。

方法

調査協力者

本研究の趣旨を説明し,同意を得られた大学生35名

(男性17名,女性18名,平均年齢19.1歳,SD=1.14)

を対象とした。

調査期間

2013年7月。

手続き

調査は無記名・複数回答ありの自由記述による質問

紙法で行った。まず,スピーチ場面における不安を挙

げてもらうために,調査協力者自身が経験したスピー

チ場面を1つ想起し,次の質問に回答してもらった。

①「スピーチ場面で『不安』と感じましたか。」(『は

い』・『いいえ』のいずれかに○)。これより先は①で

『はい』に○をつけた者が回答した。②「スピーチを

行うという事前情報はありましたか。」(『はい』・『い

いえ』のいずれかに○),③「事前情報はスピーチ当

日よりどれくらい前に得ましたか。」,④「スピーチの

種類はどのようなものでしたか。」(『授業などでの発

表』・『自己紹介」・『その他』のいずれかに○),⑤

「発表した時間はどれくらいでしたか。」⑥「発表した

ことに関して点数をつけられたり,評価されたりしま

したか。」(『はい』・『いいえ』のいずれかに○),⑦

「その他,補足事項があればお書きください。」

次に,想起したスピーチ場面における不安について

次の質問に回答してもらった。①「スピーチ最中に生

じた,認知はどのようなものでしたか。」(例:うまく

話せるかな,失敗するかもしれない),②「スピーチ

最中の,行動はどのようなものでしたか。」(例:声が

小さくなった,聴衆の顔を見ることができなかった),

③「スピーチ最中に,どのような感情になりましたか。」

(例:イライラした,緊張した),④「スピーチ最中に

生じた,生理現象はどのようなものでしたか。」(例:

汗をかいた,口が渇いた)。

収集したスピーチ場面における不安についての回答

を,大学院生5名でKJ法を用いて分類し,43項目か

らなるスピーチ場面不安尺度を作成した。

(2)本調査

予備調査で作成したスピーチ場面不安尺度について,

因子構造の検討および信頼性・構成概念妥当性の検討

を目的とする。

方法

調査協力者

本研究の趣旨を説明し,同意を得られた大学生201

名(男性76名,女性125名,平均年齢20.1歳,SD=

2.85)を対象とした。

調査期間

2013年7月~9月。

手続き

予備調査で作成した尺度43項目を用い,「以下の項

目は,スピーチ場面でのあなたにどの程度あてはまる

でしょうか。」という教示を用いた。回答にあたって

は,5件法(l:「まったくあてはまらない」,2:「あ

まりあてはまらない」,3:「少しあてはまる」,4:「ぴっ

たりあてはまる」)を採用した。なお,これ以降の調

査でも同様の教示文および回答法を採用している。

また,作成した尺度の構成概念妥当性を検討するた

めに,以下の尺度も使用した。

①FNE;FearofNegativeEvaluationscale

FNEの日本語版(石川・佐々木・福井,1992)を

使用した。.この尺度は他者からの否定的評価に対する

恐れを測るものであり,1因子の30項目からなる。

「この質問紙には,あなたが普段の生活の中で,自分

に対するまわりの人の評価をどのように受け止めてい

るかに関する30個の文章がならんでいます。どちらが

自分の感じをよくあらわしているかを考えて,いずれ

かに○をつけてください。」という教示のもと,「はい」

と「いいえ」の2件法で評定を求めた。なお,分析の

際には,「はい」を1点,「いいえ」を0点と得点化し

た。

②自意識尺度

菅原(1984)によって作成された尺度で,2因子21

項目(公的自意識11項目,私的自意識10項目)からな

る。「以下の項目は,あなたにどの程度あてはまるで

しょうか。」という教示のもと,「1:全くあてはまら

-12-

Page 3: 大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究

Tablelスピーチ場面不安尺度の因子分析結果

ない」から「7:非常にあてはまる」の7件法で評定

を求めた。

倫理的配慮

調査対象者に対し,調査への協力依頼文書を配布し

て本研究の概要について説明を行った。その際,調査

は匿名で行うこと,回答結果は統計的に処理するため

個人情報が漏洩することは決してないこと,結果は研

究目的以外には使用しないことを目的とした。

結果

(1)因子分析

分析には,IBMSPSSStatistics21を用いた。作

成した大学生版スピーチ場面不安尺度の因子を調べる

ため,最尤法プロマックス回転で因子分析を行った。

いずれの因子にも0.40以上の因子負荷量をもたない,

あるいは2重負荷を示した項目を削除し,再度因子分

析を繰り返した。その結果,Tablelのとおり3因子

26項目が得られた。第1因子は12項目で,スピーチ場

面での認知,感情の側面における不安が挙がった。し

たがって,第1因子は「認知・感』情」因子とした。第

2因子は8項目で,スピーチ場面での行動の側面にお

ける不安が挙がった。したがって,第2因子は「行動」

因子とした。第3因子は6項目で,スピーチ場面での

生理の側面における不安が挙がった。したがって,第

3因子は「生理」因子とした。

(2)信頼性の検討

大学生版スピーチ場面不安尺度の因子ごとに

Cronbachのα係数を算出した。その結果Table2の

とおり,各因子および尺度全体において0.73以上の高

い値が得られた。

TabIe2各因子の信頼性統計量

-13-

Cronbachのアルファ

第3因子

生理

、129

.009

.188

.097

.302

.027

.019

.029

.217

.075

.241

.047

.029

.102

.193

.121

.071

.239

.263

.170

第1因子:認知"感情 0.858

第2因子:行動

第3因子:生理

0.737

0.744

項目

不安になる

失敗しそうだと思う

この場から逃げたくなる

うまく話せるか自信がない

緊張する

発表したくないと思う

周囲の反応が気になる

早く終わってほしいと思う

早く楽になりたいと思う

話している内容があっているか気になる

ひやひやする

焦る

姿勢が落ち着かない

顔がこわばる

声が一本調子になる

早口になる

言葉につまる

声が小さくなる

前(正面)が見れない

他人の顔が見れない

寒気がする

吐きそうになる

体がかゆくなる

お腹が痛くなる

呼吸が落ち着かない

トイレが近くなる

尺度全体 0.850

因子寄与率

久留米大学心理学研究第13号2014

第2因子

行動

、263

.020

.104

.108

.020

.120

.033

.176

.222

.051

.219

.064

、146

.037

.142

.028

.102

.022

.123

-206

第1因子

認知・罵情

91759150958404856704316562

33738922765882512440207600

性44443334322233222233443332

通辻〈

、686

.520

.488

.458

.422

.377

.367

.355

、749

.645

.628

.598

.558

.556

.553

.542

.539

.530

.528

.499

邸、舛四Ⅲ旭叫幅況““4-孔86旭皿犯釧鍋一個恥9泌旧5

.005

.056

.122

.059

.150

.044

.074

.012

.064

.163

.076

.172

、662

.630

.612

.558

.491

.367

8.1695.6335.8858.860

Page 4: 大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究

FNE(否定的評価に対する恐れ)

び筆者が作成したスピーチ場面不安尺度を用いて,ス

ピーチに関する否定的見積もりがスピーチ場面不安に

影響を及ぼすプロセスについて検討する。また,この

プロセスにFNE(否定的評価に対する恐れ)や自意

識(公的自意識・私的自意識)がどのように関わって

いるかについても検証し,スピーチに関する見積もり

モデルを構成する。

構成するモデル

本研究では,Figurelのような経路を予想した。

(3)基準関連妥当性の検討

大学生スピーチ場面不安尺度および各因子の得点と,

FNE,自意識尺度の各因子の得点を用い,相関係数

を算出した。その結果Table3のとおりで,スピー

チ場面不安尺度の各因子とFNE,公的・私的自意識

との間に有意な相関がみられた。

研究2

目 的

SES(スピーチに関する否定的見積もり尺度)およ

Table3大学生版スピーチ場面不安尺度と各尺度得点との相関係数

公的自意識

スピー チF隙駕諏公的自意識私的自意識不安傾向

0.559**

因子1台認知。感情 0.431** 0.420** 0.452**0.315**

因子2:行動 0.349** 0.300** 0.268**0.224**

因子3:生理 0.193**0.383** 0.146*0.156*

スピーチ場面不安 0.393** 0.369**0.249**

大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見祇もりモデルに関する研究

0.642**0.377**

FNE;否定的評価に対する恐れ

(FearofNegativeEvaluation)

へ亥

-14-

**p<、01,*p<、05

Figurelスピーチ場面の見積もりモデル

自意識

スピーチ場面不安

Ⅱ。、一〆

認知・感情

行 動

生 理公的自意識

私的自意識

SES:スピーチにおける否定的見積もり

(SpcGchEstimationScale〕

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久留米大学心理学研究第13号2014

方法

調査協力者

本研究の趣旨を説明し,同意を得られた大学生194

名(男性71名,女性123名,平均年齢20.6歳,SD=

2.84)を対象とした。

調査期間

2013年10月~11月。

手続き

質問紙法により,以下の尺度を材料とした。

①FNE・自意識尺度

研究1と同じ尺度を使用した。

②SES;スピーチに関する否定的見積もり尺度

(SpeechEstimationScale)

城月・笹川・野村(2009)によって作成された尺度

で,1因子の20項目からなる。教示において「以下の

項目は,人前でのスピーチに関連した質問です。スピー

チを行うにあたって,あなたにもっともあてはまる番

号に,各項目に一つずつ○をつけて下さい」という表

現に変えた。回答にあたっては,5件法(「1:まった

くないと思う」,「2:あまりないと思う」,「3:ややあ

ると思う」,「4:よくあると思う」,「5:とてもあると

思う」)で評定を求めた。

③スピーチ場面不安尺度

研究1で作成された尺度で,3因子26項目(認知・

感情因子12項目,行動因子8項目,生理因子6項目)

からなる。回答にあたっては,研究1と同様5件法で

評定を求めた。

倫理的配慮

調査対象者に対し,調査への協力依頼文書を配布し

て本研究の概要について説明を行った。その際,調査

は匿名で行うこと,回答結果は統計的に処理するため

個人情報が漏洩することは決してないこと,結果は研

究目的以外には使用しないことを目的とした。

分析方法

分析にはIBMSPSSStatistics21を用いた。また,

構成したモデルの分析には,IBMSPSSAmos21を

用いた。本モデルの検討は,パス解析により行った。適

合度指標としては,GFI(GoodnessofFitlndex),

AGFI(AdjustedGoodnessofFitlndex),CFI

(ComparativeFitlndex),RMSEA(RootMean

SquareErrorofApproximation),AIC(Akaike's

lnformationCriterion)を参照した。

結果

(1)各項目の記述統計量および相関係数

分析により得られた各尺度の記述統計量および相関

係数を,Table4,5に示した。

(2)SESの主成分分析

Table6は,SESについて教示文や一部の項目の表

現を変えて調査したことで,城月ら(2009)の研究で

得られた因子構造が得られるかどうかを検討した結果

である。項目「5.話す内容をきちんと伝えられると

思う」,「10.話すことは苦にならないと思う」は逆転

項目として処理を行った。主成分分析を行ったところ,

先行研究と同様の1因子構造が得られた。なお,寄与

率は61.82%,各項目の負荷量は.24以上であり,α係

数は82と高い値を示した。

Table4各尺度の記述統計量

自意識

スピーチ

場面不安

FNE

公的自意識

私的自意識全体

SES

認知・感情

行動生理

全体

平均SD

0.590.19

4.70

4.65

4.67

0.90

0.87

0.77

3.200.59

2.98

2.72

2.26

2.73

0,60

0.59

0.67

0.48

TabIe5各尺度間の相関係数

公的自意識

私的自意識SES

認知。感情行動生理

FNE公的自意識私的自意識SES

0.528**

0.310**

0.352**

0.416**

0.287**

0.148*

0.522**

0.440**

0.483**

0.317**

0.146*

-15-

0.240**

0.322**

0.174*

0.139*

0.593**

0.548**

0.444**

**p<,01,*p<、05

Page 6: 大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究

e3

Table6SESの主成分分析結果

23**

成分

、660

.636

.623

.594

.567

.554

.551

.551

.545

.516

.512

.495

.484

.476

.473

.380

.375

.284

.275

.248

9.800

共通性

、523

.486

.465

.423

.385

.368

.365

.364

.357

.320

.315

.294

.281

.272

.269

.173

.169

.141

.109

.103

6.182

4.冷たい視線を感じると思う

14.自分の欠点に注目されると思う

3°落ち着いて話すことが出来ないと思う

12.どう話を始めていいかわからないと思う

1.焦って失敗すると思う

8.つまらない話だと思われると思う

11,話をした結果,自分の評価を下げると思う

13.うまく舌が回らないと思う

19,途中で話したいことを忘れると思う

15.早く時間が過ぎてほしいと思う

2.体が震えると思う

7,出来るだけ早く話を終えたいと思う

16.汗が出てくると思う

18.適切な話のテーマがわからないと思う

9.相手の顔を見て話すことが出来ないと思う

6.顔が赤くなると思う

20.話をする前は不安になると思う

17.相手を楽しませなければならないと思う

5.話す内容をきちんと伝えられると思う

10.話すことは苦にならないと思う

寄与率

41*

ヨ2**

①÷一一芸

スピーチ場面不安認知・感情

FNE(否定的評価

への恐れ)、ラ、ラ、庁

**35

52*・13**

ツ、55**

、36**

スピーチ場面不安

行動

/二、

SES(スピーチの否

定的見積もり)公的自意識、31**

大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究

63**

意識からSES,SESからスピーチ場面不安の認知.

感情因子,SESからスピーチ場面不安の行動因子,

SESからスピーチ場面不安の生理因子のそれぞれの

パス係数が1%水準で有意であることが示された。し

かし,FNEからスピーチ場面不安の行動および生理

因子,公的自意識からスピーチ場面不安の行動および

生理因子,私的自意識からSESおよびスピーチ場面

不安の各因子それぞれのパス係数が有意でなかった。

31**

スピーチ場面不安

生理

私的自意識 e4国

(3)スピーチ場面に関する見積もりモデル

スピーチ場面に関する見積もりモデルについて検討

するために,パス解析を行った。その結果Figure2

に示す通り,本モデルはGFI=、99,AGFI=、97,CFI

=1.00,RMSEA=、000,AIC=47.94と高い値が得ら

れた。また,各変数から他のパス係数については,

FNEからスピーチ場面不安の認知・感情因子,FNE

からSESのそれぞれのパス係数が5%水準,公的自

意識からスピーチ場面不安の認知・感情因子,公的自

-16-

○ GFI

AGR

99

97

CFI

RMSEA

AIC

**p<,01,

1.00

0.00

47.94

*p<、05

Figure2スピーチ場面の見積もりモデル

Page 7: 大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究

久留米大学心理学研究第13号2014

考察

1.スピーチ場面不安尺度の作成

研究1の目的は,スピーチ場面における不安を測定

する尺度を作成することであった。因子分析の結果,

最終的に3因子26項目からなるスピーチ場面不安尺度

が構成された。また,スピーチ場面不安尺度は高い内

的整合性を有することが示された。さらに,このスピー

チ場面不安の各因子とFNE,自意識との間に有意な

相関関係が認められ,基準関連妥当性が確認された。

作成した尺度については,「認知」「行動」「感情」

「生理」の4因子が構成されると仮定していたが,実

際に分析を行うと「認知・感情」「行動」「生理」の3

因子が構成される結果となった。宮前(2000)は「認

知的側面」「行動的側面」「'情動的側面」のスピーチ不

安傾向尺度を作成したが,「情動的側面」の項目にお

いて「感情」と「生理」の各要素が含まれ,それらの

違いが不明確であった。しかし,本研究で筆者が作成

したスピーチ場面不安尺度では,スピーチ不安傾向尺

度における「情動的側面」がスピーチ場面不安の「生

理」因子として現れた。また「感情」は「認知」と同

じ因子に入る結果となった。

2.スピーチ場面の見積もりモデル

FNEからスピーチ場面不安へ

研究2の目的は,スピーチ場面に関する見積もりモ

デルについて検討を行うことであった。本モデルの分

析の結果,FNEからスピーチ場面における認知・感

情の不安へのパス係数が有意であった。また,FNE

からSESを介しスピーチ場面におけるいずれの不安

へのパス係数も有意であった。これらは城月ら(2009)

のスピーチに関する見積もりモデルとほぼ一致してい

る。

公的自意識からスピーチ場面不安へ

公的自意識とは菅原(1984)が示すように自己の外

見や他者に対する言動など,他者が観察しうる自己の

側面に注意を向ける程度,つまり「自分が他人にどう

思われているか気になる」「人の目に映る自分の姿に

気を配る」などと考えることである。公的自意識から

スピーチ場面不安へ直接向かうプロセスについては,

認知・感'情因子へのパス係数のみが有意であった。

また,公的自意識とスピーチ場面不安との間に

SESを介すと,スピーチ場面におけるすべての不安

へのパス係数が有意であった。公的自意識はスピーチ

場面に限定しない社会的状況で生じる認知である。

SESは社会的状況の中のスピーチ場面に限定した否

定的見積もりを指すため,スピーチ場面特有の否定的

見積もりが活性化されるとスピーチ場面の認知。感'情

のみならず行動や生理現象における不安が生じてしま

うのである。

以上のことから,スピーチ場面の見積もりモデルに

おいて,FNEおよび公的自意識からSESを介せばス

ピーチ場面のすべての不安が生じることがわかった。

よって,SESはスピーチ場面不安を強めるものであ

ることが改めて検証された。

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Page 8: 大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究

大学生版スピーチ場面不安尺度の作成とスピーチ場面における見積もりモデルに関する研究

菅原健介(1984).自意識尺度(self-consciousness

scale)日本語版作成の試み心理学研究55(3),

184-188.

謝辞

本研究ならびに本論文の作成にあたって,温かいご

指導とご助言,そして激励のお言葉をいただいた山本

賃利子先生,および諸先生方に心から感謝いたします。

また,調査に協力していただいた久留米大学のみな

さまに心から感謝いたします。

そして,多くの苦楽を共にした,心理学研究科の同

輩達,先輩方,後輩達に心から感謝いたします。

本当にありがとうございました。

Studyofcreationofaspeechanxietyscaleforuniversitystudentsandestimation

modelonspeech

KAoRIITo(G、血ateSchooZQ/PSycノカoZogy,K”z"7zeU7z加”si妙)

MARIKoYAMAMoTo(Depa7tm“tQ/PSyc加Zogy,FacuZ妙Q/Z,此era”2,K”umeU>ziUe滝ij妙)

Abstract

Theobjectivesofthisresearchwerefirsttocreateaspeechanxietyscale,andsecondtoinvestigatethe

processbywhichnegativeestimationregardingspeechsettingsSES(SpeechEstimationScale)affectsspeech

anxiety・InStudyl,wecreatedaspeechanxietyscale,andobtained26itemsclassifiedintothefollowingthree

factors:“cognitionandemotion",“behavior",and“physiology".Thereliabilityandvalidityofthisscalewere

alsoverifiedlnStudy2,weusedthescalecreatedinStudyltoverifytheprocessbywhichSESaffectsspeech

anxiety-Manyofthepathcoefficientsinthepresentmodelweresignificant,andhighlevelsofgoodnessoffit

wereobtained,FNE(FearofNegativeEvaluations)andpublicself-consclousnesswerefoundtodirectlyaffect

cognitiveandemotionalanxietymspeechsettings・Inaddition,FNEandpublicself-consciousnesswerefound

toaffectallofthefollowingthroughSES:cogmtiveandemotionalanxiety,behavioralanxiety,andphysiologi-

calanxietyinspeechsettings.

Keywords:speechanxiety,SES,publicself-consclousness,FNE

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