代数学特論1代数学的アイデア ax+by = cが整数解を持つ,c2\ax+by (a;b2z)...
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代数学特論1火曜 2 限 (10:40∼12:10) K310
担当教員 : 加塩 朋和 研究室 : 4号館3階E-mail : kashio [email protected]
概 要
整数論で扱う問題と概念を広く扱う. 前期では初等整数論, 代数的整数論, 解析的整数論の初歩を学ぶ. 後期ではフェルマーの最終定理を題材に, 保型形式, 楕円曲線,そしてそれらの “関係” について学ぶ.
1 導入
1.1 aX + bY = c の整数解
例えば
• 2X + 3Y = 1
• 4X + 2Y = 5
• 210X + 3100Y = 1
などは整数解を持つか? もし整数解をもつなら, それを求める方法は?
総当たり法
X, Y に整数を代入して表にする.
2X + 3Y
@@
@@Y
X. . . -2 -1 0 1 2 . . .
......
......
......
-2 . . . -10 -8 -6 -4 -2 . . .
-1 . . . -7 -5 -3 -1 1 . . .
0 . . . -4 -2 0 2 4 . . .
1 . . . -1 1 3 5 7 . . .
2 . . . 2 4 6 8 10 . . ....
......
......
...
, 4X + 2Y
@@
@@Y
X. . . -2 -1 0 1 2 . . .
......
......
......
-2 . . . -12 -8 -4 0 4 . . .
-1 . . . -10 -6 -2 2 6 . . .
0 . . . -8 -4 0 4 8 . . .
1 . . . -6 -2 2 6 10 . . .
2 . . . -4 0 4 8 12 . . ....
......
......
...
これで分かること:
• 2X + 3Y = 1 は整数解 (2,−1), (−1, 1), . . . を持つ.
• 4X + 2Y = 5 は整数解を “持たなさそう.”
• 210X + 3100Y = 1 は無理.
1
追記:藤崎 源二郎, 山本芳彦, 森田康夫著, 数論への出発(日本評論社)等を参考にしました。
代数学的アイデア
aX + bY = c が整数解を持つ ⇔ c ∈ “aX + bY (a, b ∈ Z) の形の数全体の集合”
イデアル (§2)
1.2 aX2 + bY 2 = c の整数解
数の概念を拡張して考える!
“数を減らす”
X2 − 3Y 2 = 2 は整数解を持たないことの証明:
• 数が三つしかない世界 Z/3Z := 0, 1, 2 を考える. 演算も定義される.
• X2 − 3Y 2 = 2 が Z で解を持つ ⇒ X2 = 2 が Z/3Z で解を持つ.
• Z/3Z の世界で総当たり法: X2|X=0 = 0, X2|X=1 = 1, X2|X=2 = 1. よって X2 = 2
は Z/3Z の世界で解無し.
• よって X2 − 3Y 2 = 2 は Z の世界で解なし.
剰余環 (§3), 平方剰余記号 (§4)
“数を増やす”
X2 + Y 2 = c 整数解を持つための条件を考える. 下表から何か法則を見つけられるか?
X2 + Y 2
@@@@Y
X1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 . . .
1 2 5 10 17 26 37 50 65 82 101 . . .
2 5 8 13 20 29 40 53 68 85 104 . . .
3 10 13 18 25 34 45 58 73 90 109 . . .
4 17 20 25 32 41 52 65 80 97 116 . . .
5 26 29 34 41 50 61 74 89 106 125 . . .
6 37 40 45 52 61 72 85 100 117 136 . . .
7 50 53 58 65 74 85 98 113 130 149 . . .
8 65 68 73 80 89 100 113 128 145 164 . . .
9 82 85 90 97 106 117 130 145 162 181 . . .
10 101 104 109 116 125 136 149 164 181 200 . . ....
......
......
......
......
......
2
数学者は以下のように考え直した:
“Z での 2 次式” X2 + Y 2 = c ⇔ “Z[√−1] での因数分解” (X + Y
√−1)(X − Y
√−1) = c
二次体の整数論 (§5, §6)
1.3 Xn + Y n = Zn の整数解
注意. Xn + Y n = Zn の整数解 ⇔ Xn + Y n = 1 の有理数解
n = 2 の場合 (円) と直線, n = 3 の場合と楕円曲線
K を任意の体とする. 自明な解 P := (−1, 1) ∈ (X,Y ) ∈ K2 | X2 + Y 2 = 1 を使って
K ↔ (X, Y ) ∈ K2 | X2 + Y 2 = 1 − (−1, 1)t 7→ (1−t
2
1+t2, 2t1+t2
) (P を通る傾き t の直線と円の交点),y
x+1(P, (x, y) を通る直線の傾き) 7→ (x, y).
よって (例えば K = R とすれば) “X2 + Y 2 = 1 の K での解全体” と “直線 K” は (代数幾何, 数論幾何的に) 大差がなく, 簡単. 実際に任意の解が求まる. 同じように
(S, T ) ∈ K2 | T 2 = S3 − 432 ⟨· · · · · · ⟩ (X, Y ) ∈ K2 | X3 + Y 3 = 1(s, t) 7→ (6
s+ t
6s, 6s− t
6s),
( 12x+y
, 36(x−y)x+y
) 7→ (x, y).
“Fermat 曲線 X3 + Y 3 = 1” と “楕円曲線 Y 2 = X3 − 432” は大差がない. ただし
• (X, Y ) ∈ K2 | Xn + Y n = 1 を (n 番目の) Fermat 曲線と呼ぶ.
• f(X) = X3 + aX2 + bX + c が重根を持たないとき (X, Y ) ∈ K2 | Y 2 = f(X) を楕円曲線と呼ぶ.
楕円曲線論 (後期)
n が正則素数の場合と円分体 Q(ζn)
(公式. ζn = e2π
√−1
n とおくと, Zn − Y n =∏n−1
i=0 (Z − ζ inY ).)
“Z での n 次式 Xn + Y n = Zn ” ⇔ “Z[ζn] で因数分解 Xn =∏n−1
i=0 (Z − ζ inY )”
円分体の整数論 (§8)
3
一般の n の場合
Fermat 予想 “n ≥ 3 に対して Xn + Y n = Zn は自然数解を持たない” の証明のあらすじ:
• n = p (奇素数) の場合に示せば十分. Xp + Y p = Zp が自然数解 (a, b, c) を持ったとして矛盾を導く.
• 自然数解 (a, b, c) の存在 ⇒ 楕円曲線 Ea,b,c : Y2 = X(X − ap)(x+ bp) の存在 ♠⇒ “対
応する” 保型形式 fa,b,c の存在
• 実は “保型形式全体のなす集合”は調べやすく, fa,b,c の非存在が言える. よって矛盾.
実は ♠ “楕円曲線と保型形式が対応する” ことの証明が最難関であった.
楕円曲線論, 保型形式論 (後期)
1.4 解析的整数論
素数の個数とリーマンゼータ関数
1 +1
2+
1
3+
1
4+
1
5+ . . . =∞,
1 +1
22+
1
32+
1
42+
1
52+ . . . =
π2
6,
1 +1
24+
1
34+
1
44+
1
54+ . . . =
π4
90,
...
ζ(s) :=∞∑n=1
n−s リーマンゼータ関数
⇒ ζ(2n) = π2n ×有理数 (n ∈ N)
ζ(1) =∞ も “意味” を持つ ⇒ 素数は無限個ある
ゼータ関数論 (§11)
4
2 初等整数論 (1)
定義 1. N ⊂ Z ⊂ Q ⊂ R ⊂ C.
補題 2. 任意の ∅ = A ⊂ N は最小元 m := mina ∈ A をもつ. すなわち
∃m ∈ A s.t. ∀a ∈ A, m ≤ a.
定義 3. R を可換環とし (例えば R = Z), a, b, ai ∈ R とする.
1. (a) := ax | x ∈ R (a で 生成される単項イデアル).
2. (a1, a2, . . . , an) := a1x1 + a2x2 + · · ·+ anxn | xi ∈ R (a1, a2, . . . , an で 生成されるイデアル).
3. b|a ⇔ ∃x ∈ R s.t. a = bx ⇔ a ∈ (b) ⇔ (a) ⊂ (b)
練習問題 1. a|b, b|c ⇒ a|c が成り立つ. これを示せ.
補題 4. 0 ≤ a ∈ Z, b ∈ N に対して
a = bq + r, 0 ≤ q, 0 ≤ r ≤ b− 1
を満たす整数 q, r がただ一つ存在する. q と r は, それぞれ a を b で割った 商 と 余 などと呼ばれる.
証明. (q, r の存在) A := “a より大きい b の倍数全体” = bn | a < bn, n ∈ N に上の補題を使い, A の最小限を考える. A の定義よりこれは b(q + 1) の形. 最小性よりbq ≤ a < b(q + 1), すなわち 0 ≤ a− bq < b. r := a− bq とおけば題意を満たす.
(q, r の一意性) a = bqi + ri, 0 ≤ qi, 0 ≤ ri ≤ b − 1 (i = 1, 2) とする. 差をとるとr1− r2 = b(q2− q1). 0 ≤ ri ≤ b− 1 より左辺の絶対値は b− 1 以下. 一方右辺は b の倍数.
よって左辺 = 右辺 = 0. よって r1 = r2, q1 = q2.
定理 5. Z は単項イデアル整域 (PID).
証明. 任意のイデアル I ⊂ Z が単項イデアルであることを示せばよい. もし I = 0 なら自明. I = 0 の場合 g := mini ∈ I | 0 < i ∈ N が取れる. このとき I = (g) であることを示す.
(I ⊃ (g)) イデアルの性質より自明.
(I ⊂ (g)) i ∈ I ⇒ i ∈ (g)を示す. |i|を g で割った商,余を r, q とおく. つまり |i| = gq+r,
0 ≤ q, 0 ≤ r ≤ g− 1. とくに r = (±1)i+ (−q)gi,g∈I∈ I, 0 ≤ r ≤ g− 1. よって g の最小性
より r = 0 である. すなわち i = (±q)g ∈ (g). よって題意を得た。
定理 6. a, b, c ∈ Z とする. このとき
aX + bY = c が整数解をもつ ⇔ c ∈ (a, b) ⇔ gcd(a, b)|c.
5
ただし gcd は最大公約数の略.
少し準備をしたのち, この定理の証明を行う.
命題 7. 0 ≤ a ∈ Z, b ∈ N に対し, a を b で割った商 q と余 r を考える. このとき
gcd(a, b) = gcd(b, r)
が成り立つ. 特に r = 0 のときgcd(a, b) = b
となることに注意.
証明. c|a, b ⇔ c|b, r を言えばよい. 実際
c|a, b⇔ ∃a0, b0 s.t. a = ca0, b = cb0r=a−bq⇒ b = cb0, r = c(a0 − b0q)⇒ c|b, r
で ⇒ が従う. 逆も同様.
補題 8 (ユークリッドの互除法). a, b ∈ N の最大公約数は以下の手順で求まる:
• a1 := a, a2 := b.
• an−1, an が定まっているとき an+1 := “an−1 を an で割った余”.
• ある N に対し aN+1 = 0 となり, このとき gcd(a, b) = aN .
証明. an+1 = “an−1 を an で割った余” < an だから an は単調減少. よっていつか 0
となる. aN = 0 とすれば上の命題より gcd(a, b) = gcd(a1, a2) = gcd(a2, a3) = · · · =gcd(aN−1, aN) = aN .
注意 9. 例えば a = 1000, b = 64 なら
• a1 = 1000, a2 = 64.
• 1000 = 64 ∗ 15 + 40 より a3 = 40.
• 64 = 40 ∗ 1 + 24 より a4 = 24.
• 40 = 24 ∗ 1 + 16 より a5 = 16.
• 24 = 16 ∗ 1 + 8 より a6 = 8.
• 16 = 8 ∗ 2 + 0 より a7 = 0.
よって gcd(1000, 64) = 8.
6
定理の証明. “aX + bY = c が整数解をもつ⇔ c ∈ (a, b)” は (a, b) := ax+ by | x, y ∈ Zより自明. “c ∈ (a, b) ⇔ gcd(a, b)|c” を示す.
(⇒) d := gcd(a, b) とおけば ∃a0, b0 s.t. a = a0d, b = b0d. よって c ∈ (a, b) ⇒ ∃x, y s.t.
c = ax+ by = d(a0x+ b0y) ⇒ d|c.(⇐) “d := gcd(a, b) ⇒ d ∈ (a, b)” を示せば十分. なぜなら gcd(a, b)|c ⇒ d|c ⇒ ∃c0 s.t.
c = dc0d∈(a,b)∈ (a, b) となり, 題意が従う. 以下 “d := gcd(a, b) ⇒ d ∈ (a, b)” を示す. ユー
クリッドの互除法より ∃a1, a2, . . . , q1, q2, . . . s.t.
a1 = a, a2 = b,
a1 = a2q1 + a3,
a2 = a3q2 + a4,
...
aN−2 = aN−1qN−2 + aN ,
aN−1 = aNqN−1,
aN = d.
これらの式より ak ∈ (a, b) (1 ≤ k ≤ N) が言える. 実際 a1 = a, a2 = b ∈ (a, b). またak, ak+1 ∈ (a, b) なら ak+2 = ak − ak+1qk ∈ (a, b). よって帰納法より全ての ak ∈ (a, b). とくに d = aN ∈ (a, b). よって題意を得た.
課題問題 1. 以下を示せ.
1. b|a1, a2, . . . , an ⇔ a1, . . . , an ∈ (b) ⇔ (a1, a2, . . . , an) ⊂ (b).
2. b1, b2, . . . bn|a ⇔ a ∈ (b1) ∩ (b2) ∩ · · · ∩ (bn) ⇔ (a) ⊂ (b1) ∩ (b2) ∩ · · · ∩ (bn)
3. (gcd(a1, a2, . . . , an)) = (a1, a2, . . . , an).
4. (lcm(a1, a2, . . . , an)) = (a1) ∩ (a2) ∩ · · · ∩ (an). (lcm は最小公倍数の略.)
5. a1X1 + a2X2 + · · ·+ anXn = b が整数解をもつ ⇔ gcd(a1, a2, . . . , an)|b.
定義 10. a, b 互いに素 ⇔ (a, b) = (1) = Z ⇔ gcd(a, b) = 1
課題問題 2. 以下を示せ.
1. gcd(a, b) = 1, a|bc ⇒ a|c.
2. gcd(a, b) = 1, gcd(a, c) = 1 ⇒ gcd(a, bc) = 1.
略解. 1. gcd(a, b) = 1⇒ ∃x, y s.t. ax+ by = 1 — (♠), a|bc⇒ ∃z s.t. bc = az — (). (♠)の両辺に c をかけて c = acx+ bcy. これに () を代入して c = acx+ azy = a(cx+ zy).
2. d := gcd(a, bc) とおく. とくに d|a. よって gcd(a, b) = 1 より gcd(d, b) = 1. また d|bcでもある. よって 1 より d|c. 結局 d|a, c なので gcd(a, c) = 1 より d = 1.
7
定義 11. 1 < p ∈ N が 素数 ⇔ p は ±1,±p しか約数を持たない. なお, 素数と 1 以外の自然数は 合成数 と呼ばれる.
練習問題 2. p が素数なら gcd(p, a) =
1 (p ∤ a)p (p|a)
となる. これを示せ.
補題 12. p|ab ⇒ p|a または p|b.
証明. 場合分けして考える.
(gcd(p, a) = 1 のとき) 上の問題より gcd(p, a) = p, すなわち p|a. よって題意を得た.
(gcd(p, a) = 1 のとき) gcd(p, a) = 1, p|ab ⇒ p|b. よって題意を得た.
定理 13 (初等整数論の基本定理). 任意の自然数 a > 1は有限個の素数の積 a = p1p2 . . . pn(pi は素数) の形で書き表される. またこの表し方は順序を除いて一意的である.
注意 14. 同じ素数をまとめて a =∏
p pνp(a) の形で表すこともある. ただし p は素数全体
を動き無限積に見えるが, 有限個の p を除いて νp(a) = 0 であるので, 実質的には有限積である. このような表示を 素因数分解 などと呼び, νp(a) > 0 となる p を a の 素因数 と呼ぶ.
証明. (素数の積で書けることの証明) 帰納法で示す. a が素数なら自明. 合成数ならa = a1a2, a1, a2 > 1 の形で書ける. とくに a > a1, a2. 帰納法の仮定よりそれぞれ素数の積で書け, a もそれらの積である.
(一意性の証明) a = p1p2 . . . pn = q1q2 . . . qm と二通りにかけたとする. このとき m = n
で, 番号を付け替えれば pi = qi となることを示せばよい. 帰納法で示す. 上の補題より p1|a = q1q2 . . . qm ⇒ ∃qi s.t. p1|qi. ここで素数 qi の約数は 1 か自分自身のみ. よって p1 = qi. 番号を付け替えれば p1 = q1 となる. 等式 p1p2 . . . pn = q1q2 . . . qm の両辺をp1 = q1 で割れば a/p1 < a に関する式となり, 帰納法により題意を得る.
課題問題 3. 以下を示せ.
1. b|a ⇔ ∀p, νp(b) ≤ νp(a).
2. lcm(a, b) =∏
p pmaxνp(a),νp(b).
3. gcd(a, b) =∏
p pminνp(a),νp(b).
4. lcm(a, b)gcd(a, b) = ab.
8
3 初等整数論 (2)
3.1 剰余環 Z/mZ とその乗法群 (Z/mZ)×
定義 15. m ∈ N とする. 整数環 Z のイデアル (m) による剰余環を Z/mZ で表す. また自然な写像 Z→ Z/mZ による a の像を a で表す. すなわち
a := a+ (m) = a+mt | t ∈ Z ∈ Z/mZ.
a は, a の属する m を法とする剰余類 などと呼ばれる. 剰余環 Z/mZ には演算 a+ b :=
a+ b, ab := ab が定まっていることに注意.
定義 16. a ≡ b mod m定義⇔ a− b ∈ (m) ⇔ a = b.
練習問題 3. Z 上の関係 ∼ を a ∼ b ⇔ a ≡ b mod m で定める. これが同値関係であることを示せ. また商集合 Z/ ∼ はどのような集合になるか説明せよ.
練習問題 4. 自然な写像 Z→ Z/2Z を考える. “a が偶数 ⇔ a = 0”, “a が奇数 ⇔ a = 1”
に注目し, “偶数足す偶数は偶数”, “偶数足す奇数は奇数”, “奇数足す奇数は偶数” を示せ.
課題問題 4. X2 + 3Y = 2 は整数解を持たないことを以下の手順で示せ.
1. 自然な写像 Z→ Z/3Z が環の準同型であることに注目し, 命題 “X2 + 3Y = 2 が整数解を持つ ⇒ X2 = 2 が Z/3Z で解を持つ” を示せ.
2. X2 = 2 が Z/3Z で解を持たないことを, 総当たり法で示せ.
3. 1, 2 より “X2 + 3Y = 2 は整数解を持たない” ことを導け.
補題 17. 一般に, 環 R に対して R× := x ∈ R | ∃y ∈ R s.t. xy = yx = 1 を R の 乗法群 と呼び, R× の元を R の 可逆元, 単元, または 正則元 などと呼ぶ. R× は環 R の乗法に関して群をなす. R = Z/mZ の場合は
(Z/mZ)× = a | gcd(a,m) = 1
が成り立ち, (Z/mZ)× の元は m を法とする既約剰余類, (Z/mZ)× は m を法とする既約剰余類群 などと呼ばれる.
証明. “乗法群が群”であることは,定義に従って示せる. 以下 (Z/mZ)× = a | gcd(a,m) =
1 を示す.
(⊂) a ∈ (Z/mZ)×⇔∃b s.t. ab = 1⇒∃t s.t. ab = 1+mtgcd(a,m)|a,m⇒ gcd(a,m)|(ab−tm) = 1
⇒ gcd(a,m) = 1.
(⊃) gcd(a,m) = 1 ⇒ ∃x, y s.t. ax+my = 1 ⇒ ax = 1 ⇒ a ∈ (Z/mZ)×.
補題 18. Z/mZ が体 ⇔ m は素数.
証明. Z/mZ が体 ⇔ (Z/mZ)× = a ∈ Z/mZ | a = 0 上の補題⇔ a | gcd(a,m) = 1 = a ∈Z/mZ | a = 0 ⇔ “gcd(a,m) = 1 ⇔ m ∤ a” ⇔ “gcd(a,m) > 1 ⇔ m|a” ⇔ m は素数.
注意 19. 素数 p に対し Z/pZ が体であることを強調するために Fp := Z/pZ で表す.
9
3.2 平方剰余記号
x2 −my2 (x, y ∈ N) の形で表せる整数には法則がある. 例えば m = −1 のとき x2 + y2
の形で表せる整数 (p 2 の表) を因数分解した形に直すと以下のようになる.
X2 + Y 2 の因数分解@@@@Y
X1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 . . .
1 2 5 2 ∗ 5 17 2 ∗ 13 37 2 ∗ 52 5 ∗ 13 2 ∗ 41 101 . . .
2 5 23 13 22 ∗ 5 29 23 ∗ 5 53 22 ∗ 17 5 ∗ 17 23 ∗ 13 . . .
3 2 ∗ 5 13 2 ∗ 32 52 2 ∗ 17 32 ∗ 5 2 ∗ 29 73 2 ∗ 32 ∗ 5 109 . . .
4 17 22 ∗ 5 52 25 41 22 ∗ 13 5 ∗ 13 24 ∗ 5 97 22 ∗ 29 . . .
5 2 ∗ 13 29 2 ∗ 17 41 2 ∗ 52 61 2 ∗ 37 89 2 ∗ 53 53 . . .
6 37 23 ∗ 5 32 ∗ 5 22 ∗ 13 61 23 ∗ 32 5 ∗ 17 22 ∗ 52 32 ∗ 13 23 ∗ 17 . . .
7 2 ∗ 52 53 2 ∗ 29 5 ∗ 13 2 ∗ 37 5 ∗ 17 2 ∗ 72 113 2 ∗ 5 ∗ 13 149 . . .
8 5 ∗ 13 22 ∗ 17 73 24 ∗ 5 89 22 ∗ 52 113 27 5 ∗ 29 22 ∗ 41 . . .
9 2 ∗ 41 5 ∗ 17 2 ∗ 32 ∗ 5 97 2 ∗ 53 32 ∗ 13 2 ∗ 5 ∗ 13 5 ∗ 29 2 ∗ 34 181 . . .
10 101 23 ∗ 13 109 22 ∗ 29 53 23 ∗ 17 149 22 ∗ 41 181 23 ∗ 52 . . ....
......
......
......
......
......
網かけ の部分は gcd(X,Y ) = 1 となるマスで, 自明な素因数 p|gcd(X, Y ) が表れている. 自明でない素因数を小さい方から並べると
2, 5, 13, 17, 29, 37, 41, 53, 61, 73, 89, 97, 101, 109, 113, 149, 181, . . .
など. これらは p = 2 を例外として, 全て p ≡ 1 mod 4 を満たす. 実際以下が示せる.
定理 20. 素数 p に対して以下は同値.
1. ∃x, y ∈ N s.t. gcd(x, y) = 1, p|(x2 + y2).
2. p = 2 または p ≡ 1 mod 4.
練習問題 5. 定理の 2 を満たす素数は, 上記以外に 137, 157, 173, 193, 197, . . . などが存在する. これらも定理の 1 を満たしていることを確かめよ.
補題 21. 一般の m ∈ Z に対して以下は同値.
1. ∃x, y ∈ N s.t. gcd(x, y) = 1, p|(x2 −my2).
2. ∃a ∈ Fp s.t. a2 = m.
証明. (2 ⇒ 1) a2 = m とする. すなわち p|(a2 −m). もし a ∈ N なら x = a, y = 1 が 1
を満たす. a ≤ 0 でも a に p を何回か足して p|(a2 −m), a ∈ N とできる.
(1 ⇒ 2) gcd(x, y) = 1, p|(x2 −my2) とする. このとき p ∤ y が言える. 実際, もし p|y なら p|(x2 − y2) + y2 = x2. よって p|x. これは gcd(x, y) = 1 に矛盾. よって Fp の世界で
x2 = my2, y = 0
である. Fp は体なので y = 0 の逆元 y−1 ∈ Fp が存在し a := xy−1 が 2 を満たす.
注意 22. 上記補題より, 次は同値.
p が x2 −my2 の形で書ける整数の非自明な素因数 ⇔ Fp において m が “平方数.”
10
体 Fp での平方数
F2:a 0 1
a2 0 1. よって平方数は 0, 1.
F3:a 0 1 2
a2 0 1 1. よって平方数は 0, 1.
F5:a 0 1 2 3 4
a2 0 1 4 4 1. よって平方数は 0, 1, 4.
F7:a 0 1 2 3 4 5 6
a2 0 1 4 2 2 4 1. よって平方数は 0, 1, 2, 4.
F11:a 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
a2 0 1 4 9 5 3 3 5 9 4 1. よって平方数は 0, 1, 3, 4, 5, 9.
練習問題 6. p を素数とする.
1. Fp ∋ 0 は常に平方数であることを示せ.
2. (F×p )2 := a2 | a ∈ F×p とおく. (F×p )2 は F×p の部分群となることを示せ.
p を素数とする. 群論と体論を使って F×p は位数 p − 1 の巡回群であることが示せる.
つまり群の同型写像 F×p ∼= Z/(p− 1)Z が存在する. 言い換えると
∃r ∈ F×p s.t. F×p = rn | n = 0, 1, . . . , p− 2
と書ける. もし p = 2 なら p− 1 は偶数であり, 次の全射準同型写像が定まる.
ϕ : F×p ∼= Z/(p− 1)Z → ±1,rn 7→ n mod p− 1 7→ (−1)n.
定義 23. F×p = rn | n = 0, 1, . . . , p− 2 となる r を法 p に関する原始根 と呼ぶ. 法 2 に関する原始根は 1, 法 3 に関する原始根は 2, 法 5 に関する原始根は 2, 3 などがある.
命題 24. p を奇素数, r を法 p に関する原始根とし, 準同型写像 ψ : F×p → ±1, ψ(rn) =(−1)n を考える. このとき
kerψ = (F×p )2
が成り立つ. とくに
|(F×p )2| =p− 1
2
が成り立つ.
証明. (kerψ ⊂ (F×p )2) rn ∈ kerψ ⇔ 2|n ⇒ rn ∈ (F×p )2.
(kerψ ⊃ (F×p )2) a ∈ (F×p )2 ⇔ ∃b s.t. a = b2 ∃m s.t. b=rm⇒ a = r2m ⇒ ψ(a) = (−1)2m = 1.
最後に準同型定理より F×p /(F×p )2 ∼= ±1 が導かれ, 後半が従う.
11
平方剰余記号
“ある数が Fp で平方数か” を “計算” するのに, 次の平方剰余記号が便利である.
定義 25. p を素数, a を整数とする. このとき
(a
p
):=
1 a ∈ (F×p )2 のとき−1 a ∈ F×p − (F×p )2 のとき0 a = 0 ∈ Fp のとき
と定め, 平方剰余記号, または ルジャンドル記号 と呼ぶ. 例えば(35
)= −1,
(511
)= 1,(
63
)= 0である. また
(ap
)= 1のとき aは pを法として平方剰余であると言い,
(ap
)= −1
のとき a は p を法として平方非剰余である と言う.
練習問題 7.(a2
):=
1 (2 ∤ a)0 (2|a)
を示せ.
課題問題 5. 奇素数 p, 整数 a, b に対し以下が成り立つことを確かめよ.
1. a ≡ b mod p ⇒(
ap
)=(
bp
).
2. r を p を法とする原始根とするとき(
rn
p
)= (−1)n.
3.(
ap
)(bp
)=(
abp
).
これらより F×p → ±1, a 7→(
ap
)は群の準同型であることが分かる.
略解. 1. 定義より自明.
2.(
rn
p
)= 1
上の議論⇔ n が偶数 ⇔ (−1)n = 1.
3. a ≡ rm mod p, b ≡ rn mod p なら ab ≡ rm+n mod p. この関係と 1,2 より.
注意 26. 写像 F×p → ±1, a 7→(
ap
)と上の写像 ψ : F×p → ±1 は同じものである.
12
4 初等整数論 (3)
m ∈ Z とする. 前 §では x2−my2 の形に書ける整数の性質を調べた. とくに x2−my2
の非自明な素因数に関して以下の同値を示した.
∃x, y ∈ N s.t. gcd(x, y) = 1, p|(x2 −my2). ⇔ ∃a ∈ Fp s.t. a2 = m. ⇔(
mp
)= 0, 1.
4.1 平方剰余記号の計算方法
オイラーの規準
命題 27 (オイラーの規準). 奇素数 p, 整数 a に対し ap−12 ∈ Fp は 0,±1 のどれかと一致
する. さらに以下が成り立つ. (a
p
)≡ a
p−12 mod p.
証明. p|aなら ap−12 = 0となり題意を満たす. 以下 p ∤ aとする. このとき a ∈ F×p , |F×p | =
p−1. よってラグランジュの定理より ap−1 = 1. とくに ap−12 はX2−1 = (X+1)(X−1) = 0
の Fp での根. よって ap−12 = ±1. 次に r を p を法とする原始根とすると r
p−12 = −1 で
ある. 実際, もし rp−12 = 1 なら rn | n = 0, 1, . . . , p− 2 の中に同じ元 r0 = 1 = r
p−12 が
存在することになり, |rn | n = 0, 1, . . . , p − 2| < p − 1 = |F×p | となって原始根の定義rn | n = 0, 1, . . . , p− 2 = F×p に矛盾する. 次に a = rn とする. 前 §の問題も使って(
a
p
)= (−1)n ≡ (r
p−12 )n = (rn)
p−12 ≡ a
p−12 mod p
が言える. よって題意を得た.
課題問題 6. オイラーの規準を使って(37
),(
511
),(
213
)を求めよ.
略解.(37
)≡ 33 = 27 ≡ −1 mod 7 より
(37
)= −1. 他も同様.
平方剰余の相互法則
定理 28. p, q を相異なる奇素数とする. 以下が成り立つ.
相互法則.
(p
q
)(q
p
)= (−1) p−1
2q−12 =
−1 (p ≡ q ≡ 3 mod 4)
1 それ以外.
第一補充法則.
(−1p
)= (−1) p−1
2 =
1 (p ≡ 1 mod 4)
−1 (p ≡ 3 mod 4).
第二補充法則.
(2
p
)= (−1) p2−1
8 =
1 (p ≡ 1, 7 mod 8)
−1 (p ≡ 3, 5 mod 8).
13
練習問題 8.(
54199
)を求めよ.
略解.(
54199
) 54=2∗33=
(2
199
) (3
199
)3 (ap)=±1 より (a
p)2=1
=(
2199
) (3
199
) 第一補充法則=
(3
199
) 相互法則= −
(1993
)199≡1 mod 3
= −(13
)= −1.
4.2 平方剰余記号の応用
定理 20 の証明. 示すべきは “(−1p
)= 0, 1 ⇔ p = 2 または p ≡ 1 mod 4”. p = 2 なら両
辺成立 (∵(−1
2
)= 1) するので “
(−1p
)= 1 ⇔ p ≡ 1 mod 4” を示せばよい. これは平方剰
余記号の第一補充法則より従う.
課題問題 7. 以下の同値を示せ.
1. ∃x, y ∈ N s.t. gcd(x, y) = 1, p|(x2 + 3y2) ⇔ p = 2, 3 または p ≡ 1 mod 3.
2. ∃x, y ∈ N s.t. gcd(x, y) = 1, p|(x2 + 5y2) ⇔ p = 2, 5 または p ≡ 1, 3, 7, 9 mod 20.
課題問題 8. 以下の同値を示せ.
1. ∃x, y ∈ N s.t. gcd(x, y) = 1, p|(x2 − 3y2) ⇔ p = 2, 3 または p ≡ 1, 11 mod 12.
2. ∃x, y ∈ N s.t. gcd(x, y) = 1, p|(x2 − 5y2) ⇔ p = 2, 5 または p ≡ 1, 4 mod 5.
注意 29. 二次体の整数論 を使うと “x2 −my2 の形で表せる素数はどんな素数か?” という問題を議論できる. 一般には “素数 pが x2−my2 の非自明な素因数として現れる”のは“x2−my2 = p と書ける” ことの必要条件であり, 十分条件ではないことに注意. (m = −1の場合はたまたま必要十分になっていた.) たとえば m = −5 なら
X2 + 5Y 2 の因数分解@@@@Y
X1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 . . .
1 2 ∗ 3 32 2 ∗ 7 3 ∗ 7 2 ∗ 3 ∗ 5 41 2 ∗ 33 3 ∗ 23 2 ∗ 43 3 ∗ 5 ∗ 7 . . .
2 3 ∗ 7 23 ∗ 3 29 22 ∗ 32 32 ∗ 5 23 ∗ 7 3 ∗ 23 22 ∗ 3 ∗ 7 101 23 ∗ 3 ∗ 5 . . .
3 2 ∗ 23 72 2 ∗ 33 61 2 ∗ 5 ∗ 7 34 2 ∗ 47 109 2 ∗ 32 ∗ 7 5 ∗ 29 . . .
4 34 22 ∗ 3 ∗ 7 89 25 ∗ 3 3 ∗ 5 ∗ 7 22 ∗ 29 3 ∗ 43 24 ∗ 32 7 ∗ 23 22 ∗ 32 ∗ 5 . . .
5 2 ∗ 32 ∗ 7 3 ∗ 43 2 ∗ 67 3 ∗ 47 2 ∗ 3 ∗ 52 7 ∗ 23 2 ∗ 3 ∗ 29 33 ∗ 7 2 ∗ 103 32 ∗ 52 . . .
6 181 23 ∗ 23 33 ∗ 7 22 ∗ 72 5 ∗ 41 23 ∗ 33 229 22 ∗ 61 32 ∗ 29 23 ∗ 5 ∗ 7 . . .
7 2 ∗ 3 ∗ 41 3 ∗ 83 2 ∗ 127 32 ∗ 29 2 ∗ 33 ∗ 5 281 2 ∗ 3 ∗ 72 3 ∗ 103 2 ∗ 163 3 ∗ 5 ∗ 23 . . .
8 3 ∗ 107 22 ∗ 34 7 ∗ 47 24 ∗ 3 ∗ 7 3 ∗ 5 ∗ 23 22 ∗ 89 32 ∗ 41 27 ∗ 3 401 22 ∗ 3 ∗ 5 ∗ 7 . . .
9 2 ∗ 7 ∗ 29 409 2 ∗ 32 ∗ 23 421 2 ∗ 5 ∗ 43 32 ∗ 72 2 ∗ 227 7 ∗ 67 2 ∗ 35 5 ∗ 101 . . .
10 3 ∗ 167 23 ∗ 32 ∗ 7 509 22 ∗ 3 ∗ 43 3 ∗ 52 ∗ 7 23 ∗ 67 32 ∗ 61 22 ∗ 3 ∗ 47 7 ∗ 83 23 ∗ 3 ∗ 52 . . ....
......
......
......
......
......
x2 + 5y2 の非自明な素因数: 2, 3, 5, 7, 23, 29, 41, 43, 47, 61, 67, 83, 89, 101, 103, . . .
x2 + 5y2 の形の素数: 29, 41, 61, 89, 101, 109, 181, 229, 281, 401, 409, 421, 509, . . .
他にも 122 ∗ 5 ∗ 12 = 149, 122 ∗ 5 ∗ 52 = 269, 132 ∗ 5 ∗ 62 = 349, 122 ∗ 5 ∗ 72 = 389,
182 ∗ 5 ∗ 152 = 449, 212 ∗ 5 ∗ 22 = 461, . . . .
14
4.3 平方剰余の相互法則の略証
第一補充法則はオイラーの規準より従う. 残りの証明には 有限体 (体 K で |K| < ∞となるもの. 例えば Fp やその有限次拡大) の理論を使う.
補題 30. p を素数とし, 体 Fp の代数閉包 Fp を一つ固定して考える. 特に Fp は Fp の代数拡大であり, 任意の多項式 f(X) ∈ Fp[X] に対し f(X) = 0 の根が Fp に必ず存在する.
以下, 代数閉包 Fp を固定して考える.
1. Xn = 1 の (Fp での) 根を 1 の n 乗根 と呼ぶ. p ∤ n なら 1 の n 乗根 は n 個存在する. (p|n なら 1 の n 乗根 は n 個未満である. 例えば 1 の p 乗根, すなわち
Xp − 1p=0= (X − 1)p の根は 1 のみである.)
2. 1 の n 乗根 ζ で, n 未満の自然数 m に対して ζm = 1 となるものは 1 の原始 n 乗根 と呼ばれる. p ∤ n なら 1 の原始 n 乗根は φ(n) := |(Z/nZ)×| 個存在する. さらに 1 の原始 n 乗根 ζ を一つとると
“1 の n 乗根全体” = ζa | a ∈ Z/nZ,“1 の原始 n 乗根全体” = ζa | a ∈ (Z/nZ)×
と書ける. なお φ(n) は オイラー関数 と呼ばれる. (p|n なら 1 の原始 n 乗根は存在しない.)
3. 任意の n ∈ N に対し, Fp/Fp の中間体 K で [K : Fp] = n となるものがただ一つ存在する. この体 K を Fpn で表す. Fpn は pn 個の元からなる体で
Fpn = x ∈ Fp | xpn − x = 0 = x ∈ Fp | xp
n−1 − 1 = 0 ∪ 0
となる. (すなわち F×pn = “1 の pn − 1 乗根全体” である.) また
Fp =∪n∈N
Fpn
と書ける.
4. 写像 σp : Fpn → Fpn , x 7→ xp は体の自己同型であり, Fp 上恒等写像である. (さらに体の拡大 Fpn/Fp は有限次ガロア拡大であり
Gal(Fpn/Fp) = σip | i = 0, 1, 2, . . . , n− 1 ∼= Z/nZ
となる.)
5. x ∈ Fp に対しx ∈ Fpn ⇔ σn
p (x) = x.
6. (任意の有限体 K に対し ∃n, p s.t. K ∼= Fpn となる.)
15
命題 31. 奇素数 p と a ∈ F×p に対し, X2 − a = 0 の Fp での根√a を取る. このとき
σp(√a) =
(a
p
)√a.
証明. σp(√a)2
σp は準同型= σp(
√a2) = σp(a)
補題-5= a より σp(
√a) = ±
√a. よって示すべきは
σp(√a) =
√a⇔
(ap
)= 1. 実際 σp(
√a) =
√a補題-5⇔
√a ∈ Fp
平方剰余記号の定義⇔(
ap
)= 1.
第二補充法則の証明. p を奇素数とする. 最初に第二補充法則を有限体の言葉に言い換える. 第一補充法則より, 第二補充法則は(
−2p
)=
1 (p ≡ 1, 3 mod 8)
−1 (p ≡ 5, 7 mod 8)
と同値である. よって上の命題より√−2 ∈ Fp に対し
σp(√−2) =
√−2⇔ p ≡ 1, 3 mod 8
を言えばよい. 次に元√−2 ∈ Fp と 1 の原始 8 乗根の関係を見ていく. p = 2 より 1 の
原始 8 乗根 ζ ∈ Fp が存在する. このとき (ζ + ζ3)2 = −2 が分かり√−2 := ζ + ζ3 ∈ Fp
としてよい. 実際 ζ ∈ X8 − 1 = (X4 − 1)(X4 + 1) = 0 の根全体 で ζ4 = 1 だから
ζ4 = −1. よって (ζ + ζ3)2 = ζ6 + 2ζ4 + ζ2ζ4=−1= −ζ2 − 2 + ζ2 = −2 を得る. さらに
ζ5 + ζ7ζ4=−1= −
√−2 =
√−2
も従う. これらを使って σp(√−2) が計算できる. すなわち
σp(√−2)
√−2=ζ+ζ3
= σp(ζ + ζ3)σp は準同型
= σp(ζ) + σp(ζ3)
σp の定義= ζp + ζ3p
ζ8=1=
ζ + ζ3 =
√−2 (p ≡ 1, 3 mod 8)
ζ5 + ζ7 = −√−2 (p ≡ 5, 7 mod 8)
.
よって題意を得た.
平方剰余の相互法則の略解. 相異なる奇素数 p, q と 1 の原始 q 乗根 η ∈ Fp に対し
1. G :=∑
a∈F×q
(aq
)ηa ∈ Fp が well-defined.
2. G2 =
q (q ≡ 1 mod 4)
−q (q ≡ 3 mod 4)
mod p≡
(−1q
)q =: q′. (∵ 直接計算より .)
3. Gp =(
q′
p
)G. (∵ 2 と命題より.)
4. Gp =(
pq
)G. (∵ 直接計算より .)
3,4 と G = 0 より(
pq
)=(
q′
p
)を得る. あとは場合分けにより題意を導ける.
16
5 代数的整数論 (1)
注意 29 で見たように(m
p
)= 0, 1 ⇔ “素数 p が x2 −my2 の非自明な素因数として現れる”
⇐ “素数 p が x2 −my2 = p の形に書ける”
であり, 逆は必ずしも成り立たない. 例えば
定理 32. 素数 p に対して以下が成り立つ.
1. ∃x, y ∈ Z s.t. p = x2 + y2 ⇔ p = 2 または p ≡ 1 mod 4.
(c.f. ∃x, y ∈ Z s.t. gcd(x, y) = 1, p|(x2 + y2) ⇔ p = 2 または p ≡ 1 mod 4.)
2. ∃x, y ∈ Z s.t. p = x2 + 5y2 ⇔ p = 5 または p ≡ 1, 9 mod 20.
(c.f. ∃x, y ∈ Z s.t. gcd(x, y) = 1, p|(x2+5y2)⇔ p = 2, 5または p ≡ 1, 3, 7, 9 mod 20.)
以下, より一般に “x2 −my2 の形で表せる素数はどんな素数か?” という問題を 二次体の整数論 を使って議論していく. 基本となるアイデアは
x2 −my2 = p を “分解” して (x+ y√m)(x− y
√m) = p とみなす
(すなわち, 環 Z での計算から環 Z[√m] での計算へ移行する)
ことである.
5.1 二次体
命題 33. m は 0, 1 以外の整数で, 平方因子を持たない (つまり ∀n > 1, n2 ∤ m) とする.
1. F := Q(√m) := x+ y
√m ∈ C | x, y ∈ Q は Q 上二次の拡大体で 二次体 と呼ば
れる. とくに m > 0 のとき 実二次体, m < 0 のとき 虚二次体, と呼ばれる.
2. ρ : F → F , x+ y√m 7→ x− y
√m は体の同型写像を与える. さらに F/Q は有限次
ガロア拡大でありGal(F/Q) = id, ρ ∼= Z/2Z
となる.
3. ω =
1+√m
2(m ≡ 1 mod 4)
√m (m ≡ 2, 3 mod 4)
とおく. このとき OF := Z[ω] = x+yω | x, y ∈ Z
は F の部分環になり, 二次体 F の 整数環 と呼ばれる.
課題問題 9. 二次体 F を考える. a ∈ F に対しノルム N(a) := a · ρ(a), トレースTr(a) := a+ ρ(a) を定める. このとき以下を示せ.
17
1. 任意の a ∈ F に対し N(a), T r(a) ∈ Q. すなわちノルムとトレースは, それぞれ写像 N : F → Q, Tr : F → Q を与える.
2. 任意の a, b ∈ F に対し N(ab) = N(a)N(b), Tr(a+ b) = Tr(a) + Tr(b).
3. 任意の a ∈ OF に対し N(a), T r(a) ∈ Z. すなわちノルムとトレースは, それぞれ写像 N : OF → Z, Tr : OF → Z を与える.
4. a ∈ OF に対し N(a) = ±1 ⇔ a ∈ O×F .
略解. 1,2 は F = Q(√m), a = x+ y
√m 等とおいて具体的に計算すると示せる. 3,4 に関
しては場合分けが必要.
m ≡ 2, 3 mod 4 のとき. 任意の a := x+yω ∈ OF (x, y ∈ Z)に対して ρ(a) = x−yω ∈ OF
に注意する.
3. N(a) = (x+ yω)(x− yω) = x2 −my2 ∈ Z, Tr(a) = (x+ yω) + (x− yω) = 2x ∈ Z.4, ⇒. N(a) = ±1 ⇒ a · ±ρ(a) = 1 ⇒ a ∈ O×F .4, ⇐. a ∈ O×F ⇒ ∃b ∈ OF s.t. ab = 1 ⇒ N(a)N(b) = N(ab) = N(1) = 1 ⇒ N(a) = ±1.m ≡ 1 mod 4 のとき. ρ(ω) = ρ(1+
√m
2) = 1−
√m
2= 1 − ω より, 任意の a := x + yω ∈ OF
(x, y ∈ Z) に対して ρ(a) = x+ y(1− ω) = x+ y − yω ∈ OF に注意する.
3. N(a) = (x + yω)(x + y − yω) = (x2 + xy) − y2m−14
m≡1 mod 4∈ Z, Tr(a) = (x + yω) +
(x+ y − yω) = 2x+ y ∈ Z.4. m ≡ 2, 3 mod 4 のときと同様.
命題 34. 可換環 R とそのイデアル A,B に対し, A,B の積を
AB := n∑
i=1
aibi | n ∈ N, ai ∈ A, bi ∈ B
で定める. このとき AB も R のイデアルとなる. なお, あるイデアル C がイデアルの積C = AB の形に表せるとき, C は A,B の 倍イデアル, A,B は C の 約イデアル と呼ばれ, 記号ではA|C, B|C などと表される.
練習問題 9. 二次体 F の整数環 OF と, そのイデアル A,B に対し以下を示せ.
1. OρF := ρ(OF ) とおく. このとき Oρ
F = OF .
2. A の 共役イデアル を Aρ := ρ(a) | a ∈ A で定める. Aρ もイデアルになる.
3. (AB)ρ = AρBρ.
定理 35 (整数環における素イデアル分解の一意性.). 整数環 OF は デデキント環 であり,
任意のイデアルは素イデアルの積に (積の順序を除いて) 一意的に表される. すなわち
1. ∀ イデアル 0 = a ⊂ OF , ∃ 素イデアル p1, . . . , pn s.t. a = p1 · · · pn.
18
2. イデアル 0 = a ⊂ OF が素イデアル p1, . . . , pn, q1, . . . , qm を使って I = p1 · · · pn =
q1 · · · qm と二通りに表されたなら, m = n かつ番号を付け替えれば pi = qi となる.
注意 36. 一般に, 整域 R に対して, 零イデアル 0 も素イデアルとなる. これは 自明な素イデアル などと呼ばれる. 以下特に断らない限り, 素イデアルと言えば非自明な (つまり 0 でない) 素イデアルを表すこととする. なお (1) = R は素イデアルでなく, 素イデアル分解においては “0 個の素イデアルの積” だとみなす.
注意 37. 整数環は, 必ずしも一意分解整域にはならない. すなわち, “素因数分解” は一意的でない. 例えば Z[
√−5] において
6 = 2 · 3 = (1 +√−5) · (1−
√−5)
と二通りに分解でき, 2, 3, (1 +√−5), (1−
√−5) は既約元であることが分かる. 一般の整
数環では素因数分解が使えないので, 替わりに素イデアル分解を使う.
課題問題 10. 2, 3, (1 +√−5), (1−
√−5) は Z[
√−5] の既約元であることを示せ.
略解. 整域 R に対し, 元 a ∈ R が既約元⇔
a = 0
a /∈ R×
a = bc⇒ b ∈ R× または c ∈ R×である.
2 が Z[√−5] の既約元であるのは
• 2 = 0 (自明).
• 2 が単元とすると ∃x, y ∈ Z s.t. 2(x + y√−5) = 2x + 2y
√−5 = 1. これは整数解
x, y を持たないので矛盾.
• 2 = ab (a, b ∈ OF ) ⇒ 4 = N(2) = N(ab) = N(a)N(b)N(a),N(b)∈Z⇒ (N(a), N(b)) =
(±1,±4), (±2,±2), (±4,±1). x2 + 5y2 = 2 や x2 + 5y2 < 0 は整数解を持たないので N(a) = 1 または N(b) = 1. よって a, b のどちらかが単元.
と示せる. 残りも同様.
5.2 X2 −mY 2 = p となる条件
簡単のため
• m ≡ 2, 3 mod 4 (すなわち二次体 F := Q(√m) の整数環は OF = Z[
√m]) と仮定し,
• ∃x, y ∈ Z s.t. x2 −my2 = ±p となるための必要十分条件
を考える. この場合, 以下のような議論が成り立つ.
19
x2 −my2 = ±p (a)⇒ OF のイデアルとして (p) = (x+ y√m)(x− y
√m)
(b)⇒ (p) の OF での素イデアル分解は, 二つの単項素イデアルの積(c)⇒ x2 −my2 = ±p.
よって
1. 素数 p ∈ Z は整数環 OF において, どのように素イデアル分解するか?
2. 整数環 OF のイデアルが単項イデアルになる条件は?
という二つの問題に帰着される.
練習問題 10. 上記の (a) は簡単に示せる. 実際, 以下の命題を示せ.
(a) ∃x, y ∈ Z s.t. x2 −my2 = ±p ⇒ OF のイデアルとして (p) = (x+ y√m)(x− y
√m).
課題問題 11. 上記の (c) は, 以下の性質をもつ イデアルのノルム を使った議論で示せる.
1. 整数環 OF のイデアル A に対し A のノルム は NA := |OF/A| で定まる.
2. イデアル A に対し NA ∈ N であり “NA = 1 ⇔ A = OF” が成り立つ.
3. 単項イデアル (α) に対して N(α) = |Nα| が成り立つ. ただし左辺は単項イデアル(α) のイデアルとしてのノルムであり, 右辺は元 α のノルムの絶対値である.
4. イデアル A,B に対し N(AB) = NA ·NB が成り立つ.
5. (NA) = AAρ (この問題では使わないが大事な性質).
これらの性質を使って, 実際に以下の命題を示せ. ただし m ≡ 2, 3 mod 4 とする.
(c) 素イデアル p, q が単項イデアルで (p) = pq を満たせば ∃x, y ∈ Z s.t. x2 −my2 = ±p.
略解. (p) = pq の両辺のノルムを考えると p23= N(p) = N(pq)
4= Np ·Nq. よって 2 より
Np = Nq = ±p,または p = OF ,または q = OF である. 最初以外は素イデアルの定義に矛盾. よって Np = Nq = ±pを得る. さらに pが単項イデアルより ∃x, y s.t. p = (x+y
√m).
よって±p = Np = N(x+ y√m)
3= |(x+ y
√m)(x− y
√m)| = ±(x2 −my2).
注意 38. 条件 m ≡ 2, 3 mod 4 が無い場合は議論がさらに複雑になる. 主な原因は m ≡1 mod 4 の場合整数環 OF = Z[1+
√m
2] はデデキント環だが, その部分環 Z[
√m] は必ずし
もデデキント環にはならないことにある.
課題問題 12. Z[√−3] がデデキント環でないことを, 以下の手順で示せ. ただし p :=
(2, 1 +√−3) := 2x+ (1 +
√−3)y | x, y ∈ Z[
√−3] とおく.
1. p は素イデアルであることを示せ.
2. p ⊋ (2) ⊋ p2 を示せ.
3. 上記の結果より (2) が素イデアルの積として書けないことを導け. ただし以下の命題を使ってよい.
命題 39. デデキント環 R のイデアル A,B に対し, 以下の同値が成り立つ.
A|B ⇔ A ⊃ B.
20
6 代数的整数論 (2)
6.1 二次体における素数の分解法則
m は平方因子を持たない整数で, m = 0, 1 とする.
定義 40. 二次体 F = Q(√m) の 判別式 を
DF :=
m (m ≡ 1 mod 4),
4m (m ≡ 2, 3 mod 4)
で定める. また クロネッカー記号 を以下で定める.
(DF
p
)=
平方剰余記号(DF
p
)(p = 2),
1 (p = 2, DF ≡ 1 mod 8),
−1 (p = 2, DF ≡ 5 mod 8),
0 (p = 2, 2|DF ).
定理 41. 二次体 F = Q(√m) の整数環 OF における素数 p の分解は以下のようになる.
1.
(DF
p
)= 1 ⇔ ∃ 素イデアル p s.t. (p) = ppρ, p = pρ, Np = Npρ = p.
またこのとき, 素イデアル p は
(2r + 1)2 ≡ m mod p (p = 2, m ≡ 1 mod 4)
r2 ≡ m mod p (p = 2, m ≡ 2, 3 mod 4)
r := 0 (p = 2)
を満たす整数 r を用いて p = (p, r + ω) で得られる.
2.
(DF
p
)= −1 ⇔ (p) は素イデアル.
3.
(DF
p
)= 0 (つまり p|DF ) ⇔ ∃ 素イデアル p s.t. (p) = p2, Np = p.
またこのとき, 素イデアル p は
r := p−1
2(p = 2, m ≡ 1 mod 4)
r := 0 (p = 2, m ≡ 2, 3 mod 4)
r ≡ m mod 2 (p = 2)
を満たす
整数 r を用いて p = (p, r + ω) で得られる.
なお 1, 2, 3 に応じて, p は二次体 F で 完全分解する, 惰性する, 分岐する, などと言う.
前回の (b). “(p) = (x+ y√m)(x− y
√m) ⇒ ∃ 単項素イデアル p, q s.t. (p) = pq” の証明.
(x+y√m)の素イデアル分解が r個の素イデアルの積だとすると (x−y
√m) = (x+y
√m)ρ
も r 個の素イデアルの積. よって素イデアル分解の一意性より (p) = (x+y√m)(x−y
√m)
は 2r個の素イデアルの積になる. ここで上記定理より 2r = 1, 2のどちらか. よって r = 1,
すなわち (x±y√m)は素イデアル. これらは明らかに単項イデアルなので,題意を得る.
21
前回の結果と二次体における素数の分解法則により, 以下が言えた.
命題 42. m は平方因子を持たない整数で m ≡ 2, 3 mod 4 とする. このとき
∃x, y ∈ Z s.t. x2 −my2 = ±p
の必要十分条件は, 以下の 1 または 2 が成り立つことである.
1. 二次体 F = Q(√m) において素数 p は単項素イデアルの積に完全分解.
つまり(DF
p
)= 1 かつ素イデアル p|(p) は単項イデアル.
2. 二次体 F = Q(√m) において素数 p が単項素イデアルの二乗に分岐.
つまり(DF
p
)= 0 かつ素イデアル p|(p) は単項イデアル.
ただし DF = 4m であり, 素イデアル p は次で与えられる.
p = (p, r +√m),
r2 ≡ m mod p (p = 2,(
DF
p
)= 1),
r = 0 (p = 2,(
DF
p
)= 1),
r = 0 (p = 2,(
DF
p
)= 0),
r ≡ m mod 2 (p = 2,(
DF
p
)= 0).
定理 32-1 の証明. “∃x, y ∈ Z s.t. p = x2 + y2 ⇔ p = 2 または p ≡ 1 mod 4” を示す. 上の命題の m = −1 の場合を考える. ただし m = −1 < 0 より x2 −my2 = x2 + y2 ≥ 0, および OF = Z[
√−1] が単項イデアル整域であることに注意すると
∃x, y ∈ Z s.t. p = x2 + y2 ⇔(−4p
)= 1, 0
を得る. 後はクロネッカー記号の計算をして, 右辺の成立条件を求めればよい. 実際
• p = 2 なら(−42
)= 0 より成立.
• p = 2 ならクロネッカー記号と平方剰余記号は一致するので(−4p
)=(−1p
)(2p
)2=(
−1p
)第一補充法則
=
1 (p ≡ 1 mod 4)
−1 (p ≡ 3 mod 4). よって p ≡ 1 mod 4 のとき成立.
以上より右辺の成立条件は p = 2 または p ≡ 1 mod 4.
同様に定理 32-2: “∃x, y ∈ Z s.t. p = x2 +5y2 ⇔ p = 5 または p ≡ 1, 9 mod 20” を証明しようとすると
∃x, y ∈ Z s.t. p = x2 + 5y2 ⇔
(−20p
)= 1 かつ (p, r +
√m) は単項イデアル, または(
−20p
)= 0 かつ (p, r +
√m) は単項イデアル
22
が言える. さらに (−20p
)= 0⇔ p = 2, 5
であり, また p = 2, 5 のとき
(−20p
)=
(−1p
)(5
p
)(2
p
)2
=
(5
p
)相互法則=
(p5
)(p ≡ 1 mod 4),
−(5
p
)相互法則= −
(p5
)(p ≡ 3 mod 4)
である. さらに p 11 の表より(15
)=(45
)= 1,
(25
)=(35
)= −1 だから(
−20p
)= 1⇔ p = 1, 3, 7, 9 mod 20
である. よって示すべきは
1. p ≡ 1, 9 mod 20 のとき p = (p, r +√−5) (r2 ≡ −5 mod p) は単項イデアル.
2. p ≡ 3, 7 mod 20 のとき p = (p, r +√−5) (r2 ≡ −5 mod p) は単項イデアルでない.
3. p = 2 のとき p = (p, r +√−5) = (2, 1 +
√−5) は単項イデアルでない.
4. p = 5 のとき p = (p, r +√−5) = (5,
√−5) は単項イデアル.
具体的な p に対する証明は, 以下のように初等的に行える. 一般の場合は イデアル類群の計算や 類体論 から従う.
課題問題 13. 整数環 Z[√−5] において以下を示せ.
1. (29, 13 +√−5) は単項イデアル.
2. (3, 1 +√−5) は単項イデアルでない.
3. (2, 1 +√−5) は単項イデアルでない.
4. (5,√−5) は単項イデアル.
略解. 1. (29, 13 +√−5) = (a + b
√−5) となる a, b ∈ Z を見つければよい. とくに
29 = N(29, 13 +√−5) = N(a + b
√−5) = a2 + 5b2 が必要. よって (a, b) = (±3,±2). こ
れらのうち (29, 13 +√−5) = (3− 2
√−5) であることを示す.
((29, 13 +√−5) ⊂ (3 − 2
√−5)) 29, 13 +
√−5 ∈ (3 − 2
√−5) を示せばよい. 前者は
29 = 32 + 5 · 22 = (3 − 2√−5)(3 + 2
√−5) より成立. 後者 13 +
√−5 ∈ (3 − 2
√−5) ⇔
29 + 29√−5 = (13 +
√−5)(3 + 2
√−5) ∈ (3− 2
√−5)(3 + 2
√−5) = (29) より成立.
((29, 13 +√−5) ⊃ (3 − 2
√−5)) (29, 13 +
√−5) ∋ 3 − 2
√−5 を示せばよい. すなわ
ち α29 + β(13 +√−5) = 3 − 2
√−5 となる α, β ∈ Z[
√−5] を見つければよい. 例えば
29− 2(13 +√−5) = 3− 2
√−5.
2. (3, 1 +√−5) = (a + b
√−5) となる a, b ∈ Z が存在しないことを示せばよい. とくに
3 = N(3, 1 +√−5) = N(a+ b
√−5) = a2 + 5b2 が必要. これは解無し.
23
6.2 定理 41 の略証
素数 p に対し素イデアル分解 (p) = p1 · · · pr を考える. 両辺のノルムを取ると p2 =
N(p) = Np1 · · ·Npr. pi = OF より Npi > 1 なので
• r = 1, すなわち (p) = p, Np = p2.
• r = 2, すなわち (p) = p1p2, Np1 = Np2 = p.
のどちらか. 以下 p = 2, m ≡ 2, 3 mod 4 として議論する. (他も同様の議論で示せる.)(mp
)= 1 ⇒ r = 2, p1 = p2, pi = (p, r ±
√m) (r2 ≡ m mod p) の証明. 平方剰余記号の定
義より(
mp
)= 1 ⇒ ∃r s.t. r2 − m ∈ pZ. とくに (p, 2r)
gcd(p,2r)=1= (1). このとき
p1 := (p, r +√m), p2 := (p, r −
√m) は p1p2 = pOF を満たすことが分かる. 実際
• 直接計算より p1p2 = (p, r+√m)(p, r−
√m) = (p2, p(r+
√m), p(r−
√m), r2−m).
• p2, p(r +√m), p(r −
√m), r2 −m ∈ pOF より p1p2 ⊂ pOF .
• p1p2 ⊃ (p2, p(r +√m) + p(r −
√m)) = (p)(p, 2r) = (p) ∋ p より p1p2 ⊃ pOF .
ここで p1 が k 個の素イデアルの積だとすると p2 も k 個の積 (∵ p2 = pρ1) で pOF = p1p2は 2k 個の積. よって 2k = r = 1, 2 より k = 1, r = 2. とくに pOF = p1p2 =
(p, r +√m)(p, r −
√m) は素イデアル分解. 最後に p1 = p2 を背理法で示す. p1 = p2 ⇒
p1 = p1 + p2 = (p, r +√m, r −
√m) ⊃ (p, r +
√m+ r −
√m) = (p, 2r) = (1). これは p1
が素イデアルに矛盾.(mp
)= −1 ⇒ r = 1 の証明. pOF が素イデアル, すなわち “αβ ∈ pOF ⇒ α ∈ pOF また
は β ∈ OF” を示す. 実際
1. αβ ∈ pOF ⇒ p|Nα または p|Nβ.∵ NαNβ = N(αβ) = (αβ)ρ(αβ) ∈ pOF ·ρ(pOF ) = p2OF . よって NαNβ+0
√m ∈
p2OF = x + y√m | x, y ∈ p2Z だから NαNβ ∈ p2Z ⊂ pZ. ここで pZ は素イデ
アルより Nα ∈ pZ または Nβ ∈ pZ.
2. ∃x, y ∈ Z s.t. x2 −my2 ∈ pZ.∵ 1 より. (Nα ∈ pZ なら α := x+ y
√m, Nβ ∈ pZ なら β := x+ y
√m.)
3. 2 の y に関して p|y.∵ 2 より x2 −my2 = 0 ∈ Fp. y = 0 なら m = (x · y−1)2 となり
(mp
)= −1 に矛盾.
4. 2 の x に関して p|x.∵ y = 0 を 2 の式に代入して x2 = 0, すなわち x = 0 を得る.
よって 3,4 より p|x, y, すなわち x+ y√m ∈ pOF .(
mp
)= 0 ⇒ r = 2, p1 = p2, pi = (p,
√m) の証明.
(mp
)= 1 の場合と同様. (m = pn,
gcd(p, n) = 1 と書けることに注意して (p,√m)2 = (p) を示す.)
24
7 代数的整数論 (3)
7.1 イデアル類群を使った定理 32-2 の証明
命題 “∃x, y ∈ Z s.t. p = x2 + 5y2 ⇔ p = 5 または p ≡ 1, 9 mod 20” の証明を完成させる. 前回, 以下を示せば十分であることをみた.
1. p ≡ 1, 9 mod 20 のとき, 素イデアル p|(p) は単項イデアル.
2. p ≡ 3, 7 mod 20 のとき, 素イデアル p|(p) は単項イデアルでない.
3. 素イデアル p|(2) は単項イデアルでない. なお p = (2, 1 +√−5) と書ける.
4. 素イデアル p|(5) は単項イデアル. なお p = (5,√−5) と書ける.
3, 4 は問題 13 より従う. とくに以下が言えている.
命題 43. 二次体 F = Q(√−5) の整数環 Z[
√−5] は単項イデアル整域でない.
証明. 単項イデアルでないイデアル ((3, 1 +√−5), (2, 1 +
√−5) など) の存在より.
“どれくらい単項イデアルとかけ離れているか”を示すものとしてイデアル類群がある.
命題 44. 1. Q の有限次拡大体 F は 代数体 と呼ばれる. とくに n := [F : Q] のときn 次代数体 と言う. なお代数体は複素数体 C の部分体とだとみなせる. 有理数体Q は 1 次代数体, 二次体は 2 次代数体である.
2. 代数体 F の 整数環 を OF := x ∈ F | ∃f(X) =∑n
i=0 aiXn s.t. n ∈ N, ai ∈
Z, an = 1, f(x) = 0 で定める. 整数環は F の部分環になる. 有理数体 Q の整数環は有理整数環 Z, 二次体の整数環は命題 33 で定義したものになる.
3. 代数体 F の部分集合 a ⊂ F で “∃α ∈ F× s.t. αa = αβ | β ∈ a は OF のイデアル” を満たすものを F の 分数イデアル と呼ぶ. 整数環の通常のイデアルも分数イデアルの一種であり, とくに 整イデアル と呼ばれる.
4. 代数体 F の 0 以外の分数イデアル全体 IF はイデアルの積を演算として, OF を単位元, 素イデアル全体を生成元に持つ自由アーベル群になる. さらに以下が成立.
(a) a ∈ IF の逆元は a−1 := x ∈ F | xa ⊂ OF で与えられる.
(b) a ∈ IF は素イデアルのベキ積 a = pm11 pm2
2 . . . pmnn の形に一意的に表される (素
イデアル分解の一意性). また a が整イデアル ⇔ a ⊂ OF ⇔ ∀i, mi ≥ 0.
5. 代数体 F の 0 以外の単項分数イデアル全体 PF := (α) := αOF | α ∈ F× は IFの部分群になる. またこれらの剰余群ClF := IF/PF は F の イデアル類群, 各剰余類を イデアル類, hF := |ClF | を 類数 と呼ぶ. 一般に hF < ∞ が示せる. とくにOF が単項イデアル整域 ⇔ hF = 1 である.
25
定理 45. 二次体 F = Q(√−5) のイデアル類群 ClF , 類数 hF に関して
ClF =(1), p2
(∼= Z/2Z), hF = 2
が成り立つ. ただし p2 := (2, 1 +√5) とおき, イデアル a の属するイデアル類を a で表
した.
系 46. 二次体 F = Q(√−5) の任意の分数イデアル a = 0 に対して
a が単項分数イデアル ⇔ ap2 が単項イデアルでない,
a が単項分数イデアルでない ⇔ ap2 が単項イデアル,
が成り立つ.
この系を使って定理 32-2 の証明を完成させよう. この小節の最初の議論より, 以下を示せば十分.
命題 47. p は p ≡ 1, 3, 7, 9 mod 20 を満たす素数とする. すなわち, 二次体 F = Q(√−5)
で完全分解している. 整数環 OF = Z[√−5] での素イデアル分解を (p) = ppp
ρp で表すとき
• p ≡ 1, 9 mod 20 ⇔ pp は単項イデアル.
• p ≡ 3, 7 mod 20 ⇔ pp は単項イデアルでない.
が成り立つ.
証明. 以下を示せばよい.
1. pp が単項イデアル ⇒ p ≡ 1, 9 mod 20.
2. pp が単項イデアルでない ⇒ p ≡ 3, 7 mod 20.
なぜなら 2 の対偶と 1 より命題の一つ目が従い, さらに対偶を考えれば命題の二つ目が従う. (もともと二つの命題は同値.) 実際は以下を示す.
• pp が単項イデアル(a)⇒ ∃a, b ∈ Z s.t. p = a2 + 5b2
(b)⇒ p ≡ 1, 9 mod 20.
• pp が単項イデアルでない(c)⇒ ∃a, b ∈ Z s.t. 2p = a2 + 5b2
(d)⇒ p ≡ 3, 7 mod 20.
(a) pp が単項イデアル ⇔ ∃a, b s.t. pp = (a + b√−5) ⇒ p
定理 40= Npp = N(a + b
√−5) =
|N a+ b√−5| = a2 + 5b2.
(b) p 11 の表より, 任意の整数 x に対し x2 ≡ 0, 1, 4 mod 5⇒ p = a2+5b2 ≡ 0, 1, 4 mod 5
⇒ p ≡ 0, 1, 4, 5, 6, 9, 10, 11, 14, 15, 16, 19 mod 20もともと p ≡ 1, 3, 7, 9 mod 20⇒ p ≡ 1, 9 mod 20.
(c) pp が単項イデアルでない上の系⇔ ppp2 が単項イデアル⇔ ∃a, b s.t. ppp2 = (a + b
√−5)
⇒ 2p定理 40= NppNp2 = N(ppp2) = N(a+ b
√−5) = |N a+ b
√−5| = a2 + 5b2.
(d) (b) と同様に 2p = a2 + 5b2 ≡ 0, 1, 4 mod 5両辺に 3 をかける⇒ p ≡ 6p ≡ 0, 2, 3 mod 5 ⇒
p ≡ 0, 2, 3, 5, 7, 8, 10, 12, 13, 15, 17, 18 mod 20もともと p ≡ 1, 3, 7, 9 mod 20⇒ p ≡ 3, 7 mod 20.
注意 48. 代数体の類数に関しては, いくつかの定理, 公式や予想があり, それ自体非常に興味深いテーマである. たとえば二次体 Q(
√−5) の類数は ミンコフスキーの定数 または
ディリクレの類数公式 を使って計算でき, 定理 45 が従う.
26
7.2 補足: 代数体の拡大における素イデアル分解
K,L は代数体で K ⊂ L となるものとし, p を K の素イデアルとする. このとき
pOL :=
n∑
i=1
πiλi | n ∈ N, πi ∈ p, λi ∈ OL
は OL の整イデアルである. OL の素イデアル P が pOL の素イデアル分解に現れるときP は p の上にある などと言い, 記号 P|p で表す. また pOL の素イデアル分解を
pOL =∏P|p
PeP/p (0 ≤ eP/p ∈ Z)
で表す. eP/p は 分岐指数 と呼ばれる. 次にデデキント環の一般論 (デデキント環の素イデアルは極大イデアル)から, OK/p,OL/Pは体になり, P|pなら自然な写像 OK/p→ OL/P
は単射で, 体の拡大を与える. よって剰余次数 を
fP/p := [OL/P : OK/p] = logNp logNP (0 ≤ fP/p ∈ Z)
で定める. このとき ∑P|p
eP/pfP/p = [L : K]
が成り立つ. なお有限体の一般論 (有限体の拡大は常に巡回拡大) より
GP/p := Gal((OL/P)/(OK/p))
が定義でき, その生成元は Np 乗フロベニウス写像
σP/p : OL/P→ OL/P, x 7→ xNp
で与えられる. とくに
GP/p =σiP/p | 0 ≤ i ≤ fP/p − 1
, |GP/p| = fP/p
と書ける.
7.3 補足: 代数体のガロア拡大における素イデアル分解とガロア群の構造
代数体の拡大 L/K, 素イデアル p を固定して考える. rp := |P|p| とおく. 以下, L/K
はガロア拡大とし G := Gal(L/K) とおく. このとき
1. eP/p, fP/p は P|p によらない. よってそれぞれ ep, fp で表す. とくに, 前小節の式は
ep · fp · rp = [L : K]
となる.
27
2. 各素イデアル P|p の 分解群, 惰性群 をそれぞれ
DP/p := σ ∈ G | Pσ = P,IP/p := σ ∈ G | ∀λ ∈ OL, σ(λ) ≡ λ mod P
で定める. このとき DP/p は G の部分群, IP/p は DP/p の正規部分群になる. さらに写像 DP/p → GP/p, σ 7→ σ が
σ(λ mod P) := σ(λ) mod P
で定まり, IP/p を核とする全射準同型になる. とくに
DP/p/IP/p∼= GP/p (σIP/p 7→ σ), |DP/p/IP/p| = fP/p
である. DP/p の元で GP/p の生成元 σP/p に対応するものをP のフロベニウス自己同型 と呼び FrP/p で表す. すなわち
FrP/p := σP/p, DP/p = ⟨FrP/p⟩IP/p
と書ける. なお IP/p = 1 のとき P|p は 不分岐 であると言い, このときに限りフロベニウス自己同型 FrP/p は一意的に定まる.
3. 群 G は集合 P|p に 推移的に作用 する. すなわち P0|p を一つ固定すると
P|p = (P0)σ | σ ∈ G
と書ける. とくに右辺は同じ素イデアルが |DP0/p| 個ずつ現れているので
rp = |G/DP0/p|
が得られる.
4. 前小節と 1,2,3 の式を合わせて, 以下が言えている.
ep = |IP/p|, fp = |GP/p| = |DP/p/IP/p|, rp = |G/DP/p|, epfprp = [L : K].
さらに L/K がアーベル拡大 (すなわち G がアーベル群) なら, 上記の DP/p, IP/p,FrP/p
は P|p の取り方によらないことが分かる. この場合, 記号 Dp, Ip,Frp で表し, とくに Frpは p のフロベニウス自己同型 と呼ばれる.
注意 49. 以上より, 代数体のガロア拡大 L/K において素イデアルの分解法則を知るためには, ガロア群 G = Gal(L/K) の “構造” (分解群, 惰性群, フロベニウス自己同型など)
を探ればよいことが分かる. とくに
• 不分岐 (つまり, 惰性群 IP/p = 1) となるための条件は?
• フロベニウス自己同型 FrP/p はどのような元か?
が “計算可能” なら非常に便利である. 例えば不分岐 (IP/p = 1, ep = 1) の条件下で
FrP/p = 1DP/p=⟨FrP/p⟩IP/p⇔ DP/p = 1
DP/p/IP/p∼=GP/p⇔ GP/p = 1
fp=|GP/p|⇔ fp = 1epfprp=[L:K]⇔ rp = [L : K] ⇔ p は完全分解 (pOL が最大個数の素イデアルの積に分解).
28
8 代数的整数論 (4)
8.1 補足: 類体論の初歩と定理 32-2 の “類体論的説明”
定義 50. 代数体 F とその整イデアル f = 0 に対し
I(F, f) := 分数イデアルで f と互いに素なもの全体 ,P (F, f) := 単項イデアル (x) (x ∈ F×) で x ≡ 1 mod ∗f, x≫ 0 を満たす ,Cl(F, f) := I(F, a)/P (F, f)
と定める. ただし
• 分数イデアルが互いに素とは, 素イデアル分解に共通な素イデアルが現れないこと.
• x ≡ 1 mod ∗f ⇔ ∀p|f, (x− 1) の素イデアル分解に p の正ベキが現れること.
• x≫ 0 ⇔ ∀ 体の準同型 ρ : F → R, ρ(x) > 0.
である. Cl(F, f) は modf でのイデアル類群 などと呼ばれる.
定理 51. 代数体のアーベル拡大 L/K に対し, K の整イデアル f が存在し以下を満たす.
1. p ∤ f ⇔ p は不分岐.
2. 写像(
L/K∗
): I(K, f) → Gal(L/K) を
(L/K∏pmii
)=∏
Frmipiで定めると全射準同型に
なり, 核は P (K, f) を含む. とくに NL/K ⊂ Cl(K, f) を(
L/Ka
)= 1 となるイデアル
a の類全体のなす部分群とするとCl(K, f)/NL/K∼= Gal(L/K).
なお 1,2 を満たすイデアル f のうち, 最大のもの (すなわち, 素イデアル分解したとき各素イデアルの指数が最小になるもの) が存在し アーベル拡大 L/K の法 などと呼ばれる.
また 2 の記号(
L/K∗
), 準同型写像はそれぞれ Artin 記号, Artin 写像 などと呼ばれる.
定理 52. 代数体のアーベル拡大 L/K とその中間体 L′ を考えると L′/K もアーベル拡大になり, 自然な写像 Gal(L/K)→ Gal(L′/K), σ 7→ σ|L′ は全射である. さらに以下が成立.
1. L/K の法を f, L′/K の法を f′ とおくと f′|f. とくに I(K, f) ⊂ I(K, f′).
2. 任意の a ∈ I(K, f) に対し(
L/Ka
)|L′ =
(L′/K
a
).
命題 53. 二次体 F に対して以下が成り立つ. L/Q はアーベル拡大であり, 上の定理が適応できる. さらに以下が成り立つ.
1. アーベル拡大 F/Qの法は,判別式 DF で生成された単項イデアル (DF )と一致する.
2. Gal(F/Q) ∼= ±1 を同一視したとき, Artin 記号と平方剰余記号は以下の関係にあ
る: 素数 p ∤ DF に対し(
F/Q(p)
)=(
DF
p
).
29
命題 54. 体 L := Q(√−1,√−5), F := Q(
√−5) を考える. L/F , L/Q は共にアーベル拡
大であり, 上記の定理が適応できる. さらに以下が成り立つ.
1. L/Q の法は (20) (= (DF )) である.
2. L/F の法は OF であり NL/F = 1 である. とくに ClF = Cl(F,OF ) ∼= Gal(L/F ).
類体論を使った定理 32-2 の証明. p ≡ 1, 3, 7, 9 mod 20 の条件下で “p ≡ 1, 9 mod 20 ⇔pp ∈ PQ(
√−5)を言えばよい. ただし Q(
√−5)の素イデアルで (p)を割るものを pp, Q(
√−5)
の単項イデアル全体のなす群を PQ(√−5) で表した. L = Q(
√−1,√−5) とおく. このとき
p ≡ 1, 3, 7, 9 mod 20p 23⇔ 1 =
(DQ(
√−1)
p
)=
(Q(√−5)/Q(p)
)=
(L/Q(p)
)|Q(√−5),
p ≡ 1 mod 4第一補充法則, DQ(
√−1)=−4⇔ 1 =
(DQ(
√−1)
p
)=
(Q(√−1)/Q(p)
)=
(L/Q(p)
)|Q(√−1)
が言える. 合わせて, 任意の p ∤ 20 に対し(L/Q(p)
)= 1⇔
(L/Q(p)
)|Q(√−1) = 1,
(L/Q(p)
)|Q(√−5) = 1
⇔ p ≡ 1, 3, 7, 9 mod 20, p ≡ 1 mod 4
⇔ p ≡ 1, 9 mod 20
を得る. さらに注意 49 “不分岐な p に対し, p が L/K で完全分解 ⇔(
L/Kp
)= Frp = 1”
を使うとp ≡ 1, 9 mod 20⇔ (p) が L/Q で完全分解
となる. 一般に “拡大 L/K/F と F の素イデアル p に対し, p が L/F で完全分解 ⇔ p
が K/F で完全分解かつK の素イデアル P|p が全て L/K で完全分解” が成り立つから,
p ≡ 1, 3, 7, 9 mod 20 (すなわち (p) が Q(√−5)/Q で完全分解) の条件下で
(p) が L/Q で完全分解⇔ pp が L/Q(√−5) で完全分解
となる. 最後に
pp が L/Q(√−5) で完全分解⇔
(L/Q(
√−5)
pp
)= Frpp = 1⇔ pp ∈ PQ(
√−5)
だから, 合わせて題意を得る.
注意 55. F := Q(√−5), L := Q(
√−1,√−5) とする. 上記証明のポイントは
1. クロネッカーの青春の夢 より虚二次体 F の ヒルベルト類体 は L. すなわち F の素イデアル p が L で完全分解⇔
(L/Fp
)= 1.
2. 二次体の整数論 (平方剰余記号の計算) より, p ∤ 20 に対して(
L/Qp
)= 1 ⇔ p ≡
1, 9 mod 20.
が言えることである. 後者は F,L が Q(ζ20) (ζ20 := e2π
√−1
20 ) の部分体であることに着目して, 円分体の整数論 (次の小節) を使って証明することもできる.
30
8.2 円分体とフェルマー予想
8.2.1 円分体の類体論
定義 56. n ∈ N に対し ζn := e2π
√−1
n ∈ C を考える. このとき C/Q の中間体
Kn := Q(e2π
√−1
n ) = a0 + a1ζn + a2ζ2n + · · ·+ amζ
mn | m ∈ N, ai ∈ Q
を 円分体 と呼ぶ.
練習問題 11. K3 = Q(√−3), K4 = Q(
√−1) を確かめよ.
課題問題 14. 以下の手順で K5 ⊃ Q(√5), K20 ⊃ Q(
√−1,√5) を確かめよ.
1. ζ5 は X5 − 1 = 0 の根であり, かつ X − 1 = 0 の根でないことを確かめよ.
2. (X5 − 1)/(X − 1) = X4 +X3 +X2 +X + 1 を確かめよ.
3. ζ5 は X4 +X3 +X2 +X + 1 = 0 の根であることを 1,2 より導け.
4. α := ζ5 + ζ45 は X2 +X − 1 = 0 の根 (従って α = −1±√5
2) であることを 3 より導け.
5. K5 ⊃ Q(√5) を 4 より導け.
6. n = am なら ζan = ζm であることを示せ.
7. n = am なら Kn ⊃ Km であることを 6 より導け.
8. K20 ⊃ Q(√−1,√5) を 5,7 と上の練習より導け.
命題 57. n ≥ 3 とする. このとき円分体 Kn は Q のアーベル拡大であり, さらに以下が成り立つ.
1. アーベル拡大 Kn/Q の法は (n) であり, Artin 写像の核 NKn/Q = 1. よって
(a) 素数 p に対し “(p) が Kn で不分岐 ⇔ p ∤ n”.
(b) Cl(Q, (n)) ∼= Gal(Kn/Q), (a)P (Q, (n)) 7→(
Kn/Q(a)
). ただし a の素因数分解を
a =∏
p pνp(a) とおくと
(Kn/Q(a)
)=∏
p
(Kn/Q(p)
)νp(a)=∏
p Frνp(a)
(p) .
2. Cl(Q, (n)) ∼= (Z/nZ)×, (a)P (Q, (n)) 7→ a mod n.
3. 素数 p ∤ n に対し Fr(p) : ζn 7→ ζpn.
課題問題 15. 上記命題より, 同型
(Z/nZ)× ∼= Gal(Kn/Q)
を導け. また, この同型で a mod n に対応する元 σa ∈ Gal(Kn/Q) に対し以下を示せ.
σa(a0 + a1ζn + a2ζ2n + · · ·+ amζ
mn ) = a0 + a1ζ
an + a2ζ
2an + · · ·+ amζ
man m ∈ N, ai ∈ Q.
31
(Q(√−1,√−5)/Q
p
)= 1 ⇔ p ≡ 1, 9 mod 20 の別証. p ∤ 20 とする. L := Q(
√−1,√−5) =
Q(√−1,√5) に注意すれば上記問題より L ⊂ K20. より具体的に
√−1 = ζ4 = ζ520,√5 = 1 + 2α + 1 = 1 + 2ζ5 + 2ζ45 = 1 + 2ζ420 + 2ζ1620
と書ける. よって σp ∈ Gal(K20/Q), σp(ζ20) := ζp20 を考えると
σp|L =
(L/Q(p)
)であり, さらに
σp|L = 1⇔ σp(√−1) =
√−1, σp(
√5) =
√5.
ここでσp(√−1) =
√−1⇔ ζ5p20 = ζ520 ⇔ 5p ≡ 5 mod 20⇔ p ≡ 1 mod 4,
σp(√5) =
√5⇔ 1 + 2ζ4p20 + 2ζ16p20 = 1 + 2ζ420 + 2ζ1620
⇔
4p ≡ 4, 16p ≡ 16 mod 20,
または 4p ≡ 16, 16p ≡ 4 mod 20⇔
p ≡ 1 mod 5,
または p ≡ 4 mod 5
を使うと題意を得る.
8.2.2 n が正則素数の場合のフェルマー予想の概略
定理 58. 素数 p が 正則素数 であるとは, 円分体 Kp の類数 hp := hKp に対して p ∤ hp を満たすことである. このとき, 正則素数 p に対して Xp + Y p = Zp は自然数解を持たない.
証明の前半の概略. 背理法を使う. すなわち ∃x, y, z ∈ N s.t. xp+ yp = zp として矛盾を言う. 簡単な議論より x, y, z は互いに素としてよい. 円分体 Kn の整数環 OKn の定義よりζn ∈ OKn が分かる (実際は OKn = Z[ζn]). よって円分体 Kp の整イデアルとしての分解
(x)p =
p−1∏i=0
(z − ζ ipy)
を得る. 左辺の各イデアルが互いに素であることを示すことで, 左辺が p 乗の形であることから, 右辺の各イデアルも p 乗の形をしていることが導ける. とくに
∃正イデアル a s.t. ap = (z − ζpy).
今 p ∤ hp としているから, イデアル類群には位数が p となる元は存在しない. つまり, 単項イデアルでないイデアルで p 乗して単項イデアルになるものは存在しない. よって a
は単項イデアル. すなわち
∃a ∈ OKp s.t. (ap) = (z − ζpy). とくに (a−p(z − ζpy)) = OKp
これは a−p(z − ζpy) が可逆元 a−p(z − ζpy) ∈ O×Kpであることを言う. あとは単数群 O×Kp
の計算に帰着される.
32
代数学特論1火曜 2 限 (10:40∼12:10) K310
担当教員 : 加塩 朋和 研究室 : 4号館3階E-mail : kashio [email protected]
前期レポート課題• 配ったプリントの 課題問題 を 10 問以上 解いて提出して下さい.
• 提出期間・提出先:7/24~7/30・数学事務室.
(それ以前に提出したい場合は加塩まで直接渡してください.)
• 他人のレポート, 板書, プリントの略解の丸写しは認めません.
33
課題の裏
34
9 解析的整数論への導入“解析的に” 整数の性質を調べる
以下で定める “リーマンゼータ関数” は, 定義からして整数と深く関連しており, その解析的性質から素数のいくつかの性質を導くことができる.
定義 59. 複素数 s ∈ C を s = x+ y√−1 (x, y ∈ R) の形に表したとき, x, y をそれぞれ s
の 実部, 虚部 と呼び, 記号 Re(s), Im(s), で表す. 複素数 s が Re(s) > 1 を満たすとき
ζ(s) :=∞∑n=1
n−s
とおき リーマンゼータ関数 と呼ぶ.
課題問題 16. 以下の手順で “素数が無限個ある” ことを示せ.
1. リーマンゼータ関数は次の オイラー積 表示を持つことを示せ. ただし右辺の無限積において p は素数全体を走る.
ζ(s) =∏p
(1− p−s)−1.
2. リーマンゼータ関数に s = 1 を代入すると発散すること, つまり次式を示せ.
ζ(1) :=∞∑n=1
n−1 =∞.
3. 性質 ζ(1) =∞ から “素数が無限個ある” ことを導け.
略証. 1. 等比級数の和の公式: (1− p−s)−1 = 1 + p−s + (p2)−s + (p3)−s + · · · と素因数分解 n = pe11 p
e22 . . . pemm の一意性より
ζ(s) =∞∑n=1
n−s =∑
m,pi,ei
(pe11 pe22 . . . pemm )−s =
∏p
(1+ p−s+(p2)−s+(p3)−s) =∏p
(1− p−s)−1.
2. 11+ 1
2+ 1
3+ 1
4+ 1
5+ 1
6+ 1
7+ 1
8+ 1
9+ · · · > 1
2+ 1
4+ 1
4+ 1
8+ 1
8+ 1
8+ 1
8+ 1
16+ · · ·
= 12+ 2 ∗ 1
4+ 4 ∗ 1
8+ · · · = 1
2+ 1
2+ 1
2+ · · · =∞.
3. 背理法を使う. もし素数が有限個なら ζ(s) =∏
p(1 − p−s)−1 は有限積. よって両辺の極限 s→ 1 を考えれば ζ(1) =
∏p(1− p−1)−1 <∞. これは ζ(1) =∞ に矛盾.
注意 60. 以上のように, 解析的整数論のテクニックは以下の流れになる.
1. 代数的な対象 (Z など) の性質を “反映する” 解析的関数 (ζ(s) など) を定義する.
2. その解析的関数の “解析的性質” (ζ(1) =∞ など) を示す.
35
3. “解析的性質” を “数論的性質” (素数が無限個ある, など) に言い換える.
さらに詳しく “リーマンゼータ関数の解析的性質” を調べることで以下が示される.
定理 61 (素数定理.). x 以下の素数の数を π(x) で表す. x → ∞ のとき π(x) は x/ log x
で “近似” できる. 式で書くと
π(x)
x/ log x→ 1 (x→∞).
例えば
x 2 3 4 10 102 103 104 105 106
π(x) 1 2 2 4 25 168 1229 9592 78498x
log x 2.8... 2.7... 2.8... 4.3... 21.7... 144.7... 1085.7... 8685.8... 72382.4...π(x)
xlog x
0.34... 0.73... 0.69... 0.92... 1.15... 1.16... 1.13... 1.10... 1.08...
.
また, 未解決問題 リーマン予想 を解けば, この素数定理の精密化を与えることできる.
ディリクレの類数公式
代数体の整数環の性質を “反映する” 関数として Hecke の L 関数 と呼ばれるものがある. その特別な場合を以下で見てみる.
定義 62. 乗法群 (Z/nZ)×, C× を考える.
1. 群の準同型 χ : (Z/nZ)× → C× を modn のディリクレ指標 と呼ぶ.
2. modn のディリクレ指標 χ は次のルールで Z 上の写像 χ : Z→ C だと見なせる.
χ(a) :=
χ(a mod n) (gcd(a, n) = 1),
0 (gcd(a, n) > 1).
3. ディリクレ指標 χ に付随する ディリクレの L 関数 を次式で定める.
L(s, χ) :=∞∑a=1
χ(a)a−s =∏p
(1− χ(p)p−s)−1.
最後の “オイラー積表示” は素因数分解の一意性と χ が準同型であることより従う.
練習問題 12. (Z/2Z)× = 1 mod 2 であることに注意して以下を確かめよ.
1. mod2 のディリクレ指標は χ2 : (Z/2Z)× → C, 1 mod 2 7→ 1 しかない.
2. mod2 のディリクレ指標 χ2 を Z 上の関数とみなすと χ2(a) =
1 (2 ∤ a),0 (2|a).
36
3. χ2 に付随する L 関数と ζ(s) には L(s, χ2) = (1− 2−s)ζ(s) の関係がある.
略解. 3. L(s, χ2) =11s+ 1
3s+ 1
5s+ · · · = ( 1
1s+ 1
2s+ 1
3s+ 1
4s+ · · · )− ( 1
2s+ 1
4s+ 1
6s+ 1
8s+ · · · ) =
( 11s
+ 12s
+ 13s
+ 14s
+ · · · )− 12s( 11s
+ 12s
+ 13s
+ 14s
+ · · · ).
課題問題 17. mod4 のディリクレ指標は 2 種類あることを示し, それぞれ具体的に書け.
さらにそれぞれのディリクレ指標に付随するディリクレの L 関数を具体的に書き表せ.
略解. 二つの L 関数は 11s
+ 13s
+ 15s
+ 17s
+ 19s· · · と 1
1s− 1
3s+ 1
5s− 1
7s+ 1
9s· · · .
定義 63. 平方因子を持たない整数 m = 0, 1 に対し二次体 F = Q(√m), 及びその判別式
DF を考える. このとき mod|DF | のディリクレ指標 χF で
χF (p mod |DF |) :=(DF
p
)(p ∤ DF )
を満たすものがただ一つ存在する. これを 二次体 F に付随するディリクレ指標 と呼ぶ.
とくに二次体における素数 p の分解法則は以下のように言い換えられる:
χF (p) = 1 ⇔ p は F で完全分解,
χF (p) = −1 ⇔ p は F で惰性する,
χF (p) = 0 ⇔ p は F で分岐する.
注意 64. a ∈ N (gcd(a,DF ) = 1) の素因数分解を a =∏
p pνp(a) とおくとき χF (a mod
|DF |) :=∏
p
(DF
p
)νp(a)と定義すれば明らかに上記性質を満たす. 問題は well-defined か,
つまり
a mod |DF | = b mod |DF | ∈ (Z/|DF |Z)× ⇒∏p
(DF
p
)νp(a)
=∏p
(DF
p
)νp(b)
が成り立つかである. これは平方剰余の相互法則などを使って示される.
課題問題 18. m = −1 のとき, χQ(√−1) は mod4 のディリクレ指標となる. 上の問題で求
めた 2 種類の mod4 のディリクレ指標のうち, どちらと一致するか調べよ.
略解. DQ(√−1) = −4 なので χQ(
√−1)(p) =
(−4p
)=
1 (p ≡ 1 mod 4)
−1 (p ≡ 3 mod 4)
0 (p = 2)
. これと上で求
めた L 関数中の ± 1p−s を見比べればよい.
定理 65 (ディリクレの類数公式). 二次体 F = Q(√m), 及びその類数 hF , 判別式 DF ,
ディリクレ指標 χF , L 関数 L(s, χF ) を考える.
m < 0 のとき. ωF :=
4 (F = Q(
√−1))
6 (F = Q(√−3))
2 (それ以外)
とおく. このとき
hF =L(1, χF )ωF
√|DF |
2π=L(0, χF )ωF
2.
37
m > 0 のとき. この場合, ある元 ε > 1 を使って O×F = ±εn | n ∈ Z と表せる. この元は 基本単数 と呼ばれる. 基本単数を εF とおくとき
hF =L(1, χF )
√|DF |
2 log εF=L′(0, χF )
log εF.
課題問題 19. ディリクレの類数公式を使って F := Q(√−5) の類数 hF = 2 を示せ.
略解. 類数 hF は整数なので, L 関数の値 L(1, χF ) を近似計算して
1 <L(1, χF )ωF
√|DF |
2π< 3
を言えばよい. さらに DF = −20, ωF = 2 より, 上記の不等式は
0.70 · · · = 2π
ωF
√|DF |
< L(1, χF ) < 32π
ωF
√|DF |
= 2.10 . . .
と変形できる. なお L(1, χF ) の近似計算に関して
• χF の定義より
L(1, χF ) =∞∑n=1
χF (n)
n=
1
1+1
3+1
7+1
9− 1
11− 1
13− 1
17− 1
19+
1
21+
1
23+
1
27+
1
29+. . . .
• 級数の周期性より N = 20t+ a (1 ≤ t, 0 ≤ a ≤ 19) なら
20∑n=1
χF (n)
n≤
40∑n=1
χF (n)
n≤ · · · ≤
20(t−1)∑n=1
χF (n)
n≤
20t∑n=1
χF (n)
n≤
N∑n=1
χF (n)
n
≤20t+10∑n=1
χF (n)
n≤
20(t−1)+10∑n=1
χF (n)
n≤ · · · ≤
30∑n=1
χF (n)
n≤
10∑n=1
χF (n)
n.
• 頑張って計算すると10∑n=1
χF (n)
n= 1.587 . . . ,
20∑n=1
χF (n)
n= 1.308 . . . ,
30∑n=1
χF (n)
n= 1.470 . . . .
などが使える.
注意 66. ちなみに計算機を使って計算してみると10∑n=1
χF (n)
nωF
√|DF |
2π= 2.259 . . . ,
100∑n=1
χF (n)
nωF
√|DF |
2π= 1.971 . . . ,
1000∑n=1
χF (n)
nωF
√|DF |
2π= 1.997 . . . ,
1000∑n=1
χF (n)
nωF
√|DF |
2π= 1.999 . . .
となっている.
38
10 ゼータ関数 (1)
10.1 準備
定義 67. ベルヌーイ数 Bn ∈ Q (n = 0, 1, 2, . . . ) を次式で定める.
∞∑n=0
Bn
n!xn :=
x
ex − 1=
xx1
1!+ x2
2!+ x3
3!+ · · ·
= 1− 1
2x+
1
12x2 + 0x3 + · · · .
練習問題 13. B0, B1, B2, B3, B4, B5 を求めよ.
定義 68. 領域 Ω ⊂ C 上定義された正則関数 f(s) が 複素平面全体上に (有理型に) 解析接続される とは, 有理型関数 F (s) (すなわち, 任意の s ∈ C において正則か, または極をもつ関数) が存在して F |Ω = f となること. 解析接続は, もし存在すれば一意的に定まる(一致の定理). 解析接続した関数 F (s) と, もとの関数 f(s) はしばしば同一視される.
練習問題 14. f(s) := 1 + s+ s2 + s3 + · · · (|s| < 1) を複素平面全体上に解析接続せよ.
略解. F (s) := 11−s .
課題問題 20. ガンマ関数 Γ(s) :=∫∞0e−tts dt
t(Re(s) > 0) を考える.
1. t > 0, s = x+ y√−1 (x, y ∈ R) に対し |ts| = tx が成り立つことを示せ.
2. 積分∫∞0e−tts dt
tが Re(s) > 0 で収束することを示せ.
3. ガンマ関数を複素平面全体上に解析接続せよ.
4. 等式 Γ(s+ n+ 1) = s(s+ 1) · · · (s+ n)Γ(s) (n = 0, 1, 2, . . . ) を示せ.
5. 等式 Γ(n) = (n− 1)! (n = 1, 2, . . . ) を示せ
略解. 1. ts := es log t = ex log tey log t√−1 と |eθ
√−1| = 1 (∀θ ∈ R) より |ts| = |ex log t| = tx.
2. 1 の評価を使う.
3. s = 0 とする. 部分積分により∫∞0e−tts−1dt = [1
se−tts]∞0 + 1
s
∫∞0e−ttsdt. 右辺の第一項
は 0 で, 第二項 = 1sΓ(s + 1) は Re(s + 1) > 0 で収束する. よって左辺 = Γ(s) の定義域
を Re(s) > −1 まで拡張できた. これを繰り返せばよい.
4. 3 において n = 0 の場合が示されている. これを繰り返し使えば n の場合を得る.
5. 4 と Γ(1) =∫∞0e−tdt = 1 より.
10.2 リーマンゼータ関数の定義と性質
命題 69. 1. 級数∑∞
n=1 n−s は Re(s) > 1 で広義一様絶対収束し, s に関する正則関数
となる.
39
2. 1 の級数は複素平面全体上に有理型に解析接続される. この関数を ζ(s) で表し リーマンゼータ関数 と呼ぶ.
3. ζ(s) は s = 1 に唯一の極を持つ.
4. ζ(s) := π−s/2Γ(s/2)ζ(s) とおくと ζ(s) = ζ(1− s) (リーマンゼータ関数の関数等式).
略証. 1. s = x + y√−1 (x, y ∈ R, x > 1) とおくと |n−s| = | exp(−x log n)| = n−x. これ
と評価式 n−x =∫ n
n−1 n−xdt ≤
∫ n
n−1 t−xdt (n ≥ 2) より
∞∑n=1
|n−s| = 1 +∞∑n=2
|n−s| ≤ 1 +∞∑n=2
∫ n
n−1t−xdt = 1 +
∫ ∞1
t−xdt = 1 +1
x− 1<∞
となり, 級数∑∞
n=1 n−s は Re(s) > 1 で広義一様絶対収束している. また “正則関数の列
fn が関数 f に一様収束するとき, f も正則関数” だから, 収束域では正則関数である.
2. 級数表示を “より良い表示” に取り替えて, 収束域を延ばす. 例えば
Γ(s)∞∑n=1
n−s =
∫ ∞0
∞∑n=1
e−t(t
n
)sdt
t=
∫ ∞0
∞∑n=1
e−nuusdu
u=
∫ ∞0
e−u
1− e−uusdu
u
と変形できる (積分と極限の順序交換, 変数変換 u = tn, 等比級数の和の公式を使った). さ
らに f(s, u) := e−u
1−e−uus−1 とおくと Γ(s)
∑∞n=1 n
−s =∫ 1
0f(s, u)du +
∫∞1f(s, u)du と書け
る. 第二項は明らかに広義一様収束し (微分と積分の順序交換ができるので) s に関して正則関数となる. 一方でベルヌーイ数を用いて
f(s, u) =e−u
1− e−uus−1 =
u
eu − 1us−2 =
[∞∑n=0
Bn
n!xn
]x=u
us−2 =∞∑n=0
Bn
n!us+n−2
と表せ,∫ 1
0f(s, u)du =
∑∞n=0
Bn
n!1
s+n−1 となる. これは極 (s = 1, 0,−1, . . . ) 以外で広義一様収束し, 正則関数になる. まとめると
∞∑n=1
n−s = Γ(s)−1
(∫ ∞1
f(s, u)du+∞∑n=0
Bn
n!
1
s+ n− 1
).
Γ(s) は (∴ Γ(s)−1 も) 有理型関数なので, 上式の右辺が解析接続を与えている.
3. 2 の解析接続の式とガンマ関数の性質: “ Γ(s) は零点を持たず, s = 0,−1,−2, . . . において一位の極を持つ” より.
4. 2 とは別の積分表示 ζ(s) =∫∞0ψ(t)ts/2−1dt (ψ(t) :=
∑∞n=1 e
−πn2t) を使う. 実際, 積分を∫∞0
=∫ 1
0+∫∞1と分けて, 第一項に変数変換 x 7→ 1/x を行うと
ζ(s) =
∫ ∞1
ψ(1/t)t−s/2−1dt+
∫ ∞1
ψ(t)ts/2−1dt
と書ける. ここで Jacobi の変換公式: 2ψ(1/t) + 1 = t1/2(2ψ(t) + 1) を使えば
ζ(s) =
∫ ∞1
ψ(t)(ts2 + t
1−s2
) dtt+
1
s(s− 1)
となり, 題意を得る.
40
課題問題 21. 以下の手順で ζ(2r) ∈ π2r ·Q (r = 1, 2, 3, . . . ) を示せ.
1. Γ(s) は s = 0,−1,−2, . . . において一位の極を持つことを示せ. また lims→1−n(s +
n− 1)Γ(s) = (−1)n−1
(n−1)! (n = 0,−1,−2, . . . ) を示せ.
2. ζ(1− n) = −Bn
n(n = 0, 1, 2, . . . ) を示せ.
3. ζ(2r) = (−1)r+1B2r(2π)2r
2(2r)!(r = 1, 2, 3, . . . ) を示せ.
略解. 1. 問題 20-4,5 より.
2. 1 と, 上の命題の 2 の証明中に得た積分表示 ζ(s) =∫∞1 f(s,u)du+
∑∞n=0
Bnn!
1s+n−1
Γ(s)より.
3. 2 とリーマンゼータ関数の関数等式, および問題 20-5 より.
注意 70. リーマンゼータ関数の特殊値は, 次の クンマーの判定法 などに応用される.
p が正則素数でのあること, すなわち p ∤ hQ(ζp) となることと, 全ての負の奇数 m に対しp が ζ(m) の分子を割らないことは同値である.
これは 岩澤理論 と呼ばれる分野と関係している.
10.3 素数定理
定義 71. f(x), g(x) を R 上の関数とし, a ∈ R ∪ ∞ を考える. 簡単のため a 付近でg(x) = 0 とする. このとき
1. 記号 f(x) = o(g(x)) (x → a) を limx→a
∣∣∣f(x)g(x)
∣∣∣ = 0 で定める. またこのとき “x = a
付近で f(x) は g(x) に比べて無視できる” などと言う.
2. 記号 f(x) = O(g(x)) (x→ a) を limx→a
∣∣∣f(x)g(x)
∣∣∣ <∞ で定める. またこのとき “x = a
付近で f(x) は g(x) で押さえられる” などと言う.
3. 記号 f(x) ∼ g(x) (x→ a) を limx→af(x)g(x)
= 1 で定める.
なお関数 f1(x), f2(x), g(x) に対して
f1(x) = f2(x) +O(g(x)) (x→ a) ⇔ f1(x)− f2(x) = O(g(x)) (x→ a)
などのように定める.
練習問題 15. 以下を示せ.
1. f(x) := 3x2 +2x+1 とおくとき f(x) = o(x3), f(x) = O(x2), f(x) ∼ 3x2 (x→∞).
2.√1 + x = 1 + 1
2x+O(x2) (x→ 0).
41
定理 72 (素数定理). π(x) で x 以下の素数の個数を表すとき
π(x) ∼ x
log x(x→∞).
証明. あきらかにθ(x) :=
∑p≤x
log p ≤∑p≤x
log x = π(x) · log x
が成り立つ. すなわちθ(x)
x≤ π(x) · log x
x.
一方で任意の ε > 0 に対して
θ(x) =∑p≤x
log p ≥∑
x1−ε<p≤x
log p ≥∑
x1−ε<p≤x
log x1−ε = (1− ε) log x ·(π(x)− π(x1−ε)
)が成り立つ. すなわち
log x · π(x)x
≤ 1
1− εθ(x)
x+
log x · π(x1−ε)x
.
よって自明な評価 log x · π(x1−ε) ≤ log x · x1−ε = o(x) (x→∞) に注意すれば
θ(x) ∼ x (x→∞) — (⋆)
が言えれば題意が従うことが分かる. 評価式 (⋆) は関係式
−ζ′(s)
ζ(s)= s
∫ ∞0
e−stθ(et)dt+∑p
log p
ps(ps − 1)
を使って, リーマンゼータ関数 ζ(s) の性質に帰着させて示す (次節).
10.4 リーマン予想
以下の “リーマンの明示公式”により,リーマン予想は “素数定理の精密化”と結びつく.
定理 73 (リーマンの明示公式). x > 1 に対して以下が成り立つ.∞∑
m=1
1
mπ(x1/m) = li(x)−
∑ρ
li(xρ) +
∫ ∞x
dt
t(t2 − 1) log t− log 2.
ただし li(x) は 対数積分 と呼ばれる関数で li(x) :=∫ x
0dt
log t(コーシーの主値積分) で定義
される. また ρ は ζ(s) の 非自明な零点 (つまり ζ(ρ) = 0 かつ 0 < Re(ρ) < 1 を満たすρ) 全体を走る. なお非自明な零点は ρ と 1− ρ が組で現れ, それらを先に足して和を取る.
予想 74 (リーマン予想). リーマンゼータ関数の非自明な零点は全て Re(ρ) = 12を満たす.
定理 75. 以下は同値.
1. リーマン予想が成立する.
2. π(x) = li(x) +O(x1/2 log x) (x→∞).
3. 任意の ε > 0 に対して π(x) = li(x) +O(x1/2+ε) (x→∞).
42
11 ゼータ関数 (2)
11.1 素数定理のための評価式 θ(x) :=∑
p≤x log p ∼ x (x→∞)
いくつか証明方法があるが, ここでは Zagier, D., Newman’s short proof of the prime
number theorem, Amer. Math. Monthly 104 no. 8, 705-708 (1997) に従い証明の概略を述べる. (私の文章より同論文の方が読みやすく, 証明も細部まで正確に書かれている. また歴史的な背景等も書いてあるので是非読んでみてほしい.)
補題 76. 1. ress=1ζ(s) = 1. とくに ζ(s)− 1s−1 は複素平面全体で正則である.
2. θ(x) :=∑
p≤x log p とおくとき θ(x) = O(x) (x→∞). ただし p は x 以下の素数全体を動く.
3. Re(s) > 1 に対して ζ(s) = 0.
4. Φ(s) :=∑
plog pps
(Re(s) > 1) とおくと, これは Re(s) > 1/2 の範囲に解析接続される. ただし p は素数全体を動く.
5. Re(s) = 1 の範囲で ζ(s) = 0.
6. Re(s) ≥ 1 の範囲で Φ(s)− 1s−1 は正則.
7.∫∞1
θ(x)−xx2 dx は収束する.
8. θ(x) ∼ x (x→∞).
略証. 1. ζ(s) − 1s−1 =
∑∞n=1
∫ n+1
n
(1ns − 1
xs
)dx と書け, これは
∣∣∣∫ n+1
n
(1ns − 1
xs
)dx∣∣∣ =∣∣∣s ∫ n+1
n
∫ x
ndu
us+1dx∣∣∣ ≤ maxn≤u≤n+1
∣∣ sus+1
∣∣ = |s|nRe(s)+1 より Re(s) > 0 で広義一様収束する
ことが分かる. よって同範囲で正則.
2. eθ(2n)−θ(n) =∏
n<p≤2n, p は素数
p ≤∏
n<k≤2n, k は整数
k =
(2n
n
)≤
2n∑k=0
(2n
k
)= 22n ≤ e2n より
∃C > 0 s.t. θ(2x) − θ(x) ≤ Cx. よって θ(x) = (θ(x) − θ(x/2)) + (θ(x/2) − θ(x/22)) +(θ(x/22)− θ(x/23)) + · · · ≤ C(x/2 + x/22 + x/23 + · · · ) ≤ Cx.
3. オイラー積表示 ζ(s) =∏
p(1− p−s)−1 (Re(s) > 1)より.
4. 簡単な評価により級数 Φ(s) =∑
plog ppsは Re(s) > 1 で広義一様収束し, 従って同範囲
で正則な関数になることが分かる. さらにオイラー積表示 ζ(s) =∏
p(1− p−s)−1 より, 関
係式 − ζ′(s)ζ(s)
=∑
plog pps−1 = Φ(s)+
∑p
log pps(ps−1) が得られる. ζ ′(s), ζ(s)はすでに全平面に解析
接続されている.∑
plog p
ps(ps−1) も簡単な評価で Re(s) > 1/2 の範囲で広義一様収束し, 従って同範囲で正則になることが示せる. 合わせて関数 Φ(s) の解析接続を得る. すなわち
Φ(s) = −ζ′(s)
ζ(s)−∑p
log p
ps(ps − 1)(Re(s) > 1/2).
43
5. ζ(1 + iα) = 0 (0 = α ∈ R) を示す. このため ζ(s) が s = 1 + iα で µ 位の零,
s = 1 + 2iα で ν 位の零を持つ (0 ≤ µ, ν ∈ Z) とする. (正則関数の性質より s = 1 − iαでも µ 位の零, s = 1− 2iα でも ν 位の零を持つことに注意.) 4 で得た解析接続の式よりlimϵ0
ϵΦ(1+ϵ±iα) = −µ, limϵ0
ϵΦ(1+ϵ±2iα) = −ν を得る. また ζ(s)が s = 1で 1位の極を
持つことより limϵ0
ϵΦ(1+ ϵ) = 1 を得る. ここで自明な関係式∑2
r=−2(
42+r
)Φ(1+ ϵ+ riα) =∑
plog pp1+ϵ (p
iα/2+ p−iα/2)4 を考える. 右辺は 0 以上なので, 両辺に ϵ をかけて極限 limϵ0 を考えれば 6− 8µ− 2ν ≥ 0 を得る. よって µ = 0.
6. 4 で得た解析接続の式より, Φ(s) の極は ζ(s) の極と零点にしかないことが分かる.
Re(s) ≥ 1 の範囲には ζ(s) の零点は無く, 極は s = 1 だけであることを示した. さらにこの補題の 1 より, ress=1Φ(s) = 1 が分かる.
7. Φ(s) =∑
plog pps
=∫∞1
dθ(x)xs s = s
∫∞1
θ(x)dxxs+1 = s
∫∞0e−stθ(et)dt と変形できる. とく
に積分∫∞0e−st(θ(et)e−t − 1)dt は Re(s) > 0 で収束し, Re(s) ≥ 0 で正則な解析接続∫∞
0e−st(θ(et)e−t − 1)dt = Φ(s+1)
s+1− 1
sを持つことが分かる. さらに “解析的な定理 (下の注
意)” を使うことで∫∞1
θ(x)−xx2 dx =
∫∞0(θ(et)e−t− 1)dt =
[Φ(s+1)s+1
− 1s
]s=0が言え, とくにこ
の積分は収束している.
8. θ(x) ∼ x (x → ∞) でないと仮定すると, “ある λ > 1 が存在して任意の L > 0
に対して x > L かつ θ(x) ≥ λx を満たす” または “ある λ < 1 が存在して, 任意の L > 0 に対して x > L かつ θ(x) ≤ λx を満たす” が成り立つ. 前者だとすると∫ λx
xθ(t)−t
t2dt ≥
∫ λx
xλx−tt2dt =
∫ λ
1λ−tt2dt と変形でき (θ(x) が単調増加であることに注意), 最
後は xによらない正の定数なので 7と矛盾である. 次に後者だとすると,同様に∫ x
λxθ(t)−t
t2dt
が負の定数で上から押さえられるので, やはり 7 と矛盾である.
注意 77 (解析的な定理). 関数 f(t) (t ≥ 0) は有界かつ局所可積分関数とし, g(z) :=∫∞0f(t)e−ztdt (Re(z) > 0) が Re(z) ≥ 0 の範囲まで正則な関数として解析接続されると
する. このとき∫∞0f(t)dt は収束して g(0) と一致する.
11.2 フルヴィッツゼータ関数とディリクレの L 関数
リーマンゼータ関数について, その特殊値はベルヌーイ数で表せ (問題 21), その解析的性質は素数の分布と深く関係 (素数定理, リーマン予想) していた. これらの類似がディリクレの L 関数についても成り立つ.
ディリクレの L 関数の特殊値
定義 78. n = 0, 1, 2, . . . に対し ベルヌーイ多項式 Bn(X) ∈ Q[X] を
Bn(X) :=n∑
i=0
(n
i
)BiX
n−i
で定める. ここで Bi はベルヌーイ数である.
44
練習問題 16. B0(X) = 1, B1(X) = X − 12, B2(X) = X2 −X + 1
6となることを確かめよ.
定義 79. フルヴィッツゼータ関数 ζ(s, x) (x > 0) を次式で定める.
ζ(s, x) :=∞∑n=0
(x+ n)−s (Re(s) > 1).
練習問題 17. ζ(s, 1) = ζ(s) を確かめよ.
リーマンゼータ関数のときと同様の手法で以下の性質が示せる.
命題 80. 1. フルヴィッツゼータ関数 ζ(s, x) =∑∞
n=0(x + n)−s は Re(s) > 1 で広義一様絶対収束し, 従って同範囲で正則になる. さらに全平面に有理型に解析接続され,
s = 1 に唯一の極をもち, ress=1ζ(s, x) = 1 である.
2. 任意の n ∈ N に対し ζ(1− n, x) = − 1nBn(x) が成り立つ.
課題問題 22. 以下の手順で二次体 F := Q(√−5) の類数 hF = 2 を示せ.
1. ディリクレの L 関数 L(s, χ) :=∑∞
a=1 χ(a)a−s (χ は modN のディリクレ指標,
1 < N ∈ N) に対し次式を示せ.
L(s, χ) = N−s∑
1≤a<N, gcd(a,N)=1
χ(a)ζ(s,a
N)
2. さらに命題 80-2 と問題 16 を使って次の公式を導け.
L(0, χ) = −∑
1≤a<N, gcd(a,N)=1(a−N2)χ(a)
N.
3. χF を二次体 F に付随するディリクレ指標とする. すなわち mod20のディリクレ指標で χF (1) = χF (3) = χF (7) = χF (9) = 1, χF (11) = χF (13) = χF (17) = χF (19) =
−1 を満たす. ディリクレの類数公式と 2 で得た公式を使って hF を計算せよ.
略解. 1. L(s, χ) =∞∑a=1
χ(a)a−sgcd(a,N)>1⇒χ(a)=0
=∞∑
a∈N, gcd(a,N)=1
χ(a)a−sa0 := a を N で割った余り
=
∑1≤a0<N, gcd(a0,N)=1
∞∑n=1
χ(nN +a0)(nN +a0)−s =
∑1≤a0<N, gcd(a0,N)=1
∞∑n=1
χ(a0)N−s(n+
a0N)−s
と変形できる.∑∞
n=1(n+ a0N)−s の部分が ζ(s, a0
N) と一致する.
ディリクレの L 関数の解析的性質
次の命題もリーマンゼータ関数のときと同様の手法で示せる. なお 1 に関しては問題22-1, 命題 80-1 を使っても導ける.
45
命題 81. modN のディリクレ指標 χ と, 付随するディリクレ L 関数 L(s, χ) を考える.
1. 級数 L(s, χ) :=∑∞
a=1 χ(a)a−s は Re(s) > 1 で広義一様絶対収束し, 従ってその範囲
で正則になる. また全平面に有理型に解析接続される.
2. modN のディリクレ指標 χ が 原始的 であるとは, 自然数 M < N と modM の
ディリクレ指標 φ が存在して χ(a) =
φ(a) a,N が互いに素
0 a,N が互いに素でないと書けない
ことである. ディリクレ指標 χ が原始的であるとき, 次の関数等式を満たす:
L(1− s, χ) = ikN1/2
G(χ)L(s, χ).
ただし k :=
0 χ(−1) = 1
1 χ(−1) = −1, G(χ) :=
∑Nn=1 χ(n)e
2πinN , χ(a) := χ(a)−1, L(s, χ) :=(
πN
)−(s+k)/2Γ(s+k2
)L(s, χ) とおいた.
課題問題 23. mod nのディリクレ指標 χ : (Z/nZ)× → C× は,全ての a ∈ N, gcd(a, n) =1 に対して χ(a) = 1 を満たすとき 単位指標 と呼ばれる. 単位指標 χ に対し L(s, χ) =
ζ(s)∏
p|n(1− p−s) となることを示せ.
略解. nの素因数全体のなす集合を Qとおくと “gcd(a, n) = 1⇔ aの素因数分解に Qの元が現れない” となる. よって L(s, χ) =
∑gcd(a,n)=1 a
−s =∑
m≥0, pi /∈Q, ei∈N(pe11 . . . pemm )−s =∏
p/∈Q(1− p−s)−1 = ζ(s)∏
p∈Q(1− p−s).
命題 82. 1. χ が単位指標のとき, L(s, χ) は s = 1 に唯一の極を持つ.
2. χ が単位指標でないとき, L(s, χ) は全平面で正則である.
略証. 1. 問題 23 より L(s, χ) の極は ζ(s) の極と一致する.
2. 問題 22-1 とフルヴィッツゼータ関数の性質より L(s, χ) は s = 1 以外では正則. また∑1≤a≤n χ(a) =
∑a∈(Z/nZ)× χ(a) = 0 となる. (∵ ∀b ∈ (Z/nZ)×, χ(b)
∑a∈(Z/nZ)× χ(a) =∑
a∈(Z/nZ)× χ(ab)c:=ab=∑
c∈(Z/nZ)× χ(c). すなわち (χ(b)−1)∑
a∈(Z/nZ)× χ(a) = 0. 単位指標
でないので χ(b) = 1となる bが存在する.) よって ress=1L(s, χ) =∑
1≤a≤n χ(a)ress=1ζ(s,aN)
N=∑
1≤a≤n χ(a)
N= 0.
実は “χ が単位指標でないとき L(1, χ) = 0” が示せ, この事実から次が導ける.
定理 83 (ディリクレの素数定理). k,m ∈ N, gcd(m, k) = 1 とする. このとき初項 m, 公差 k の算術級数 (等差級数) m,m+ k,m+ 2k,m+ 3k, . . . は無限個の素数を含んでいる.
課題問題 24. ディリクレの素数定理と定理 20 を組み合わせて
x2 + y2 (x, y ∈ N) の形で表せる素数が無限個ある
ことを説明せよ.
46
12 ゼータ関数 (3)
リーマンゼータ関数 ζ(s) や, ディリクレの L 関数 L(s, χF ) は, 定義こそ解析的であるが, 整数論への応用があった (χF は二次体 F に付随するディリクレ指標). 例えば
• リーマンゼータ関数 ζ(s) の零点や極の情報から “素数分布” を表す式を導ける (素数定理, リーマン予想).
• L 関数の特殊値 L(0, χF ), L(1, χF ) や微分値 L′(0, χF ) を計算することで二次体の整数環 OF の “類数” が求まる (ディリクレの類数公式).
実はこれらは “デデキントゼータ関数” や “ヘッケの L 関数” の理論の特別な場合である.
以下, これらの関数の定義とその性質を概説する. (これらには, 一般の代数体の整数環の“素イデアルの分布” や “類数の計算” などへの応用があるが, ここでは扱わない.)
12.1 デデキントゼータ関数
定義 84. 代数体 F の整数環 OF を考える. 任意のイデアル a ⊂ OF に対してそのノルムNa := |O/a| ∈ N が定まる. これらを用いて 代数体 F のデデキントゼータ関数 を
ζF (s) :=∑a⊂OF
Na−s
で定める. ここで a は 0 でない整イデアル全体を走る.
課題問題 25. F = Q のとき, デデキントゼータ関数はリーマンゼータ関数と一致することを確かめよ.
略解. a ⊂ Z | a は 0 でない整イデアル = nZ | n ∈ N となることと, イデアル nZのノルム = N(nZ) := |Z/nZ| = n となることを使う. これらを F = Q のときのデデキントゼータ関数の定義 ζQ(s) :=
∑a⊂ZNa−s に代入すればよい.
リーマンゼータ関数のオイラー積表示は, 素因数分解の一意性から導かれた. 同様に, 素イデアル分解の一意性, すなわち任意の整イデアル a ⊂ OF は素イデアルのベキ積
a = pe11 pe22 . . . perr (pi は素イデアル, ei ∈ N)
の形に (積の順序を除いて) 一意的に表せることを使うと, デデキントゼータ関数も以下のオイラー積を持つことが分かる.
ζF (s) :=∏p
(1−Np−s)−1.
ここで p は整数環の素イデアル全体を走る. また以下の解析的な結果もリーマンゼータ関数のときと “同様” の手法で導かれる. (ただし, 初手となる “デデキントゼータ関数の積分表示” には, 何らかの新しい道具が必要になる.)
47
命題 85. 1. デデキントゼータ関数 ζF (s) は Re(s) > 1 の範囲で収束し, 同範囲で正則な関数になる. また全平面に有理型に解析接続され s = 1 に唯一の極を持つ.
2. デデキントゼータ関数 ζF (s) は s↔ 1− s の間で関数等式を持つ. いくつかの用語を用いて詳しく書くと, 体 F の 判別式 d, 実素点 の数 r1, 複素素点 の数 r2, 次数 n
を用いて
ζF (s) :=
(|d|1/2
2r2πn/2
)s
Γ(s2
)r1Γ(s)r2ζF (s)
と定義するときζF (s) = ζF (1− s)
が成り立つ.
課題問題 26. 二次体 F に付随するディリクレ指標 χF に対しディリクレの L関数 L(s, χF )
を考える. このとき関係式ζ(s)L(s, χF ) = ζF (s)
が成り立つことを, 以下の手順で示せ.
1. 関係式の両辺 (の逆数) のオイラー積表示を比べて∏p
(1− p−s)(1− χF (p)p−s) =
∏p
(1−Np−s)
と変形する.
2. OF の任意の素イデアル pに対し, ただ一つ素数 pが定まり pは (p)の上にある (記号で書くと p|(p)) ことが示せる. このことを使って, 任意の素数 p に対して
(1− p−s)(1− χF (p)p−s) =
∏p|(p)
(1−Np−s)
を示せば十分であることを確かめよ.
3. 定理 41 と, 素数の分解法則と指標 χF の関係 (定義 63 中での言い換え) を使って 2
の式を示せ.
略解. 1,2 は書いてある通り. 3 は場合分け (p が完全分解するとき, 惰性するとき, 分岐するとき) して考える. たとえば p が完全分解するなら χF (p) = 1 (∵ 定義 63), (p) = ppρ,
Np = Npρ = p (∵ 定理 41) より
(1− p−s)(1− χF (p)p−s) = (1− p−s)2,∏
q|(p)
(1−Nq−s) = (1−Np−s)(1−Npρ−s) = (1− p−s)2
と変形でき, 一致する. 他も同様.
48
12.2 ヘッケ の L 関数
整数を使って定義されたリーマンゼータ関数を, 一般の代数体 F の整数環 OF を使ったものへ拡張したものがデデキントゼータ関数であった. 同じように, ディリクレの L 関数を拡張したものはヘッケの L 関数と呼ばれる. 大まかに説明すると, 次の図のようになる.
ζ(s) =∑n∈N
n−sディリクレ指標 χ で “ねじる”−−−−−−−−−−−−−−−−→ L(s, χ) =
∑n∈N
χ(n)n−s
リーマンゼータ関数 ディリクレの L 関数
一般化
−−−→ 一般化
−−−→
ζF (s) =∑a⊂OF
Na−snew! → ヘッケの類指標 χ で “ねじる”−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−→ L(s, χ) =
∑a⊂OF
χ(a)Na−s
デデキントゼータ関数 ヘッケの L 関数 ← new!
定義 86. 代数体 F の整数環 OF , 及びその整イデアル f を考える. イデアル類群 Cl(F, f)
(定義 50) を定義域とする準同型
χ : Cl(F, f)→ C×
のことを modf で定義された ヘッケの類指標 と呼ぶ.
注意 87. イデアル類群は有限群であることが示せるので, ヘッケの類指標の像は 1 の冪根全体のなす群 µ := x ∈ C× | ∃n ∈ N s.t. xn = 1 に含まれる.
課題問題 27. 代数体 F の有限次アーベル拡大体 L と, そのガロア群 Gal(L/F ) を定義域とする準同型
ρ : Gal(L/F )→ C×
を考える. 定理 51 は, この準同型 ρ を使って, あるヘッケの類指標が定義できること言っている. 実際にこのヘッケの類指標を定義せよ. (実際はこの逆も言える. すなわち任意のヘッケの類指標に対し, 有限次アーベル拡大体 L が存在して準同型 Gal(L/F ) → C× が定義される.)
略解. 定理 51 で定義した Artin 記号, または Artin 写像を使って定義できる.
定義 88. modf で定義されたヘッケの類指標 χ は, 以下のように 0 以外の分数イデアル全体のなす集合 IF 上の関数だとみなせる.
χ : IF → C,
χ(a) :=
χ(aP (F, f)) a と f が互いに素のとき,
0 a と f が互いに素でないとき.
49
ただし aP (F, f) は a の Cl(F, f) = I(F, f)/P (F, f) での類を表す. このときヘッケの類指標 χ に付随する ヘッケの L 関数 を
L(s, χ) =∑a⊂OF
χ(a)Na−s
で定める. ここで a は 0 でない整イデアル全体を走る.
これまでと同様に, ヘッケの L 関数も以下の性質を持つ.
命題 89. 1. ヘッケの L 関数 L(s, χ) =∑
a⊂OFχ(a)Na−s は Re(s) > 1 で広義一様絶
対収束し, 従って同範囲で正則になる.
2. ヘッケの L 関数 L(s, χ) は, さらに全平面に有理型に解析接続される.
3. ヘッケの L 関数 L(s, χ) は “関数等式” をみたす. すなわち L(1−s,χ)L(s,χ)
が “簡単な” 関数で表示できる.
課題問題 28. ヘッケの L 関数の特別な場合がディリクレの L 関数であることを説明せよ. すなわち, 任意のディリクレ指標 χ に対しあるヘッケ指標 χ が存在し, それぞれに付随する L 関数が一致する:
L(s, χ) = L(s, χ)
ことを示せ. ただし命題 57-2: F = Q, f = (n) のとき
写像 ϕ : Cl(Q, (n))→ (Z/nZ)×, ϕ((a)P (Q, (n))) := a mod n は同型となる
ことを使ってよい.
略解. ディリクレ指標 χ : (Z/nZ)× → C× を F = Q, f = (n) のときに考える. 新しく写像
χ := χ ϕ−1 : (Z/nZ)× → C×
を考える. これがディリクレ指標の定義を満たしていることを確かめて, さらに
L(s, χ) = L(s, χ)
を言えばよい.
まとめ課題問題 29. 授業で扱った内容の中から, 自身が興味を持ったものを一つ選び, 自由に説明せよ. また興味を持った理由も書け.
50
代数学特論1(後期), 代数学特論3火曜 2 限 (10:40∼12:10) K310
担当教員 : 加塩 朋和 研究室 : 4号館3階E-mail : kashio [email protected]
概 要
整数論で扱う問題と概念を広く扱う. 前期では初等整数論, 代数的整数論, 解析的整数論の初歩を学んだ. 後期はフェルマーの最終定理を題材に, 保型形式, 楕円曲線,そしてそれらの “関係” について学ぶ.
参考文献• 数論への出発 (日本評論社) 藤崎源二郎・森田康夫・山本芳彦 著
• 数論 I (岩波書店) 加藤和也・黒川信重・斎藤毅 著
• 数論 II (岩波書店) 黒川信重・栗原将人・斎藤毅 著
• 数論入門 (現代数学への入門) (岩波書店) 山本芳彦 著
• 楕円曲線と保型形式 (シュプリンガー・ジャパン) N.コブリッツ 著 (上田勝・浜畑芳紀 訳)
後期レポート課題• 配ったプリントの 課題問題 を 7 問以上 解いて提出して下さい.
• 提出期間・提出先:1/22~1/28 (17 時まで)・数学事務室.
(それ以前に提出したい場合は加塩まで直接渡してください.)
• 他人のレポート, 板書, プリントの略解の丸写しは認めません.
1
課題の裏
2
1 導入
1.1 “特別なベキ級数” と “特別な多項式” の対応
最初の例として
g1(q) := q∞∏
m=1
(1− q4m)2(1− q8m)2,
h1(x, y) := y2 − x3 + x
を考える. これらは以下の意味で “対応” している.
• “方程式 h1(x, y) = 0 の有限体 Fp (p = 2, 3, 5, 7, 11, . . . ) での解の個数” を数える.
– p = 2 のとき. h1(x, y) に F22 の元を代入すると
h1(0, 0) = 0, h1(0, 1) = 1,
h1(1, 0) = 0, h1(1, 1) = 1
となり, h1(x, y) = 0 の F2 での解は (0, 0), (1, 0) の 2 個.
– p = 3 のとき. h1(x, y) に F23 の元を代入すると
h1(0, 0) = 0, h1(0, 1) = 1, h1(0, 2) = 1,
h1(1, 0) = 0, h1(1, 1) = 1, h1(1, 2) = 1,
h1(2, 0) = 0, h1(2, 1) = 1, h1(2, 2) = 1
となり, h1(x, y) = 0 の F3 での解は (0, 0), (1, 0), (2, 0) の 3 個.
– p = 5 のとき. h1(x, y) に F25 の元を代入すると
h1(0, 0) = 0, h1(0, 1) = 1, h1(0, 2) = 4, h1(0, 3) = 4, h1(0, 4) = 1,
h1(1, 0) = 0, h1(1, 1) = 1, h1(1, 2) = 4, h1(1, 3) = 4, h1(1, 4) = 1,
h1(2, 0) = 4, h1(2, 1) = 0, h1(2, 2) = 3, h1(2, 3) = 3, h1(2, 4) = 0,
h1(3, 0) = 1, h1(3, 1) = 2, h1(3, 2) = 0, h1(3, 3) = 0, h1(3, 4) = 2,
h1(4, 0) = 0, h1(4, 1) = 1, h1(4, 2) = 4, h1(4, 3) = 4, h1(4, 4) = 1
となり, h1(x, y) = 0 の F5 での解は 7 個.
– p = 7 のとき. h1(x, y) に F27 の元を代入すると
h1(0, 0) = 0, h1(0, 1) = 1, h1(0, 2) = 4, h1(0, 3) = 2, h1(0, 4) = 2, h1(0, 5) = 4, h1(0, 6) = 1,
h1(1, 0) = 0, h1(1, 1) = 1, h1(1, 2) = 4, h1(1, 3) = 2, h1(1, 4) = 2, h1(1, 5) = 4, h1(1, 6) = 1,
h1(2, 0) = 1, h1(2, 1) = 2, h1(2, 2) = 5, h1(2, 3) = 3, h1(2, 4) = 3, h1(2, 5) = 5, h1(2, 6) = 2,
h1(3, 0) = 4, h1(3, 1) = 5, h1(3, 2) = 1, h1(3, 3) = 6, h1(3, 4) = 6, h1(3, 5) = 1, h1(3, 6) = 5,
h1(4, 0) = 3, h1(4, 1) = 4, h1(4, 2) = 0, h1(4, 3) = 5, h1(4, 4) = 5, h1(4, 5) = 0, h1(4, 6) = 4,
h1(5, 0) = 6, h1(5, 1) = 0, h1(5, 2) = 3, h1(5, 3) = 1, h1(5, 4) = 1, h1(5, 5) = 3, h1(5, 6) = 0,
h1(6, 0) = 0, h1(6, 1) = 1, h1(6, 2) = 4, h1(6, 3) = 2, h1(6, 4) = 2, h1(6, 5) = 4, h1(6, 6) = 1
3
となり, h1(x, y) = 0 の F7 での解は 7 個.
同様に数えていくと
p = 2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37 41 43 47
|(x, y) ∈ F2p | h1(x, y) = 0| = 2 3 7 7 11 7 15 19 23 39 31 39 31 43 47
• ベキ級数 g1(q) の qp の係数を計算する.
– 順次展開していくと
g1(q) = q ∗ (1− q4)2 ∗ (1− q8)2 ∗ (1− q8)2 ∗ (1− q16)2 ∗ (1− q12)2 ∗ · · ·= (q − 2q5 + q9) ∗ (1− q8)2 ∗ (1− q8)2 ∗ (1− q16)2 ∗ (1− q12)2 ∗ · · ·= (q − 2q5 − q9 + 4q13 − q17 − 2q21 + q25) ∗ (1− q8)2 ∗ (1− q16)2 ∗ (1− q12)2 ∗ · · ·= (q − 2q5 − 3q9 + 8q13 + 2q17 − 12q21 + 2q25 + 8q29 − 3q33 − 2q37 + q41)
∗ (1− q16)2 ∗ (1− q12)2 ∗ (1− q24)2 ∗ (1− q16)2 ∗ (1− q32)2 ∗ · · ·
ここで最後の式の (1− q16)2 ∗ (1− q12)2 ∗ · · · の部分は 1+ “12 次以上” となるから, g1(q) の展開は q − 2q5 − 3q9 の部分まで確定する.
– 同様に q∏12
m=1(1− q4m)2(1− q8m)2 まで展開していくと
g1(q) = q−2q5−3q9+6q13+2q17− q25−10q29−2q37+10q41+6q45−7q49+ · · ·
よって
p = 2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37 41 43 47
g1(q) の qp の係数 = 0 0 -2 0 0 6 2 0 0 -10 0 -2 10 0 0
以上より “ベキ級数” g1(q) = q∏∞
m=1(1−q4m)2(1−q8m)2と “多項式” h1(x, y) := y2−x3+xは, 47 以下の素数 p に対し
“g1(q) の qp の係数” +|(x, y) ∈ F2p | h1(x, y) = 0| = p — (♠)
の関係を満たしていることがわかる. 実は, 任意の素数 p に対して関係 (♠) を満たしていることが示せる.
同様の “対応” が無数に知られている. たとえば
g2(q) := q∞∏
m=1
(1− qm)2(1− q11m)2,
h2(x, y) := y2 − 4x3 + 4x2 + 40x+ 79
に対して同様の計算を行えば
p = 2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37 41 43 47
|(x, y) ∈ F2p | h2(x, y) = 0| = 2 4 4 9 10 9 19 19 24 29 24 34 49 49 39
g2(q) の qp の係数 = -2 -1 1 -2 1 4 -2 0 -1 0 7 3 -8 -6 8
4
となり, p = 2 で関係 (♠) を満たしている. また
g3(q) := q∞∏
m=1
(1− q2m)2(1− q10m)2,
h3(x, y) := y2 − x3 − x2 − 4x− 4
に関しては
p = 2 3 5 7 11 13 17 19 23 29 31 37 41 43 47
|(x, y) ∈ F2p | h3(x, y) = 0| = 2 5 6 5 11 11 23 23 17 23 35 35 35 53 53
g3(q) の qp の係数 = 0 -2 -1 2 0 2 -6 -4 6 6 -4 2 6 -10 -6
が分かり, 全ての p で関係 (♠) を満たしている.
実は, g1, g2, g3 などの “ベキ級数” の正体は 保型形式 という概念の特別な場合であり,
h1, h2, h3 などの “多項式” の正体は 楕円曲線 という概念の特別な場合である. これらの概念は, 整数論への多くの応用をもち, また, さまざまな数学的対象の基本的な例ともなっている. この授業では, これらの概念をもう少し詳しく学ぶことになる.
1.2 フェルマーの最終定理
詳しい定義の前に, 保型形式と楕円曲線の応用の一つである “フェルマーの最終定理”
を紹介する. この授業では以下を学ぶ.
• 保型形式の特別な場合である “重さ 2 の楕円カスプ形式’’全体のなす空間 S が定義される. 上記の例に出てきた g1, g2, g3 などは S の元だとみなせる.
• “Q 上定義された楕円曲線” 全体のなす空間 E が定義される. 上記の例に出てきたh1, h2, h3 などは E の元だとみなせる.
以下の定理は “保型性定理” の一種であり, 志村-谷山予想, または志村-谷山-Weil 予想などと呼ばれている. Wiles, Taylor-Wiles, Breuil-Conrad, Diamond-Taylor らにより証明された. 残念ながらこの授業で詳しくは扱えない.
定理 1. 自然な写像Φ: E → S
が定義でき, さらに
E ∈ E の “楕円曲線としての性質” から Φ(E) ∈ S の “保型形式としての性質” — ()
を知ることができる.
実は上記の例の hi, gi は, この自然な写像 Φ に関して Φ(hi) = gi (i = 1, 2, 3) の関係にある. () の例としては
• E の Fp での解の個数関係式 (♠)⇒ Φ(E) のベキ級数展開の qp の係数.
5
• E の “極小 Weierstrass モデルの判別式” ⇒ Φ(E) の “レベル” — ()
などがある. 新しく出てきた言葉 (極小Weierstrassモデル, 判別式, レベル)の定義は後々説明するが, ここでは触れないことにする.
定理 2 (フェルマーの最終定理). n を 3 以上の整数とする. このとき
xn + yn = zn
は自然数解 (x, y, z) を持たない.
証明の概略. この定理は多くの数学者による理論構築の上に, 最終的にはWiles, Taylor-
Wiles により証明された. 以下がその概略である.
• 簡単な議論により n が 5 以上の素数で, x が奇数, y が偶数, x, y, z は互いに素, の場合に示せば十分であることがわかる. 以下 p を 5 以上の素数とし ap + bp = cp
(a, b, c ∈ N), a が奇数, b が偶数, a, b, c は互いに素, として矛盾を導く.
• “楕円曲線” E(a,b,c) ∈ E を多項式y2 − x(x− bp)(x− cp) (a ≡ 3 mod 4 のとき),
y2 − x(x− bp)(x+ ap) (a ≡ 1 mod 4 のとき)
によって定義する.
• 上記の定理より Φ(E(a,b,c)) ∈ S が得られる.
• E(a,b,c) の極小 Weierstrass モデルの判別式が簡単に計算でき (abc)2p
28となる.
• 対応 () (と Ribet の定理) より Φ(E(a,b,c)) のレベルは 2 であることがわかる.
• 以上より, Φ(E(a,b,c)) は重さ 2, レベル 2 のカスプ形式である. しかし空間 S の構造はよくわかっており, そのような保型形式は存在しないことが知られている. よって矛盾.
6
2 保型形式 (1)
2.1 レベル 1 の保型形式
慣例に従い以下の記号を用いる.
• H := z ∈ C | Im z > 0 とおき 上半平面 と呼ぶ.
• GL+2 (R) = γ = ( a b
c d ) | a, b, c, d ∈ R, det γ = ad− bd > 0.
• Γ := SL2(Z). これは GL+2 (R) の部分群になることに注意.
補題 3. γ = ( a bc d ) ∈ GL
+2 (R), z ∈ H に対し
γ(z) :=az + b
cz + d
とおく. γ は H から H への全単射な正則関数を与えている. より詳しく
GL+2 (R) → Symhol(H) := f : H→ H | f は全単射, 正則 ,
γ = ( a bc d ) 7→ [z 7→ γ(z) = az+b
cz+d]
は群の準同型を与えている.
課題問題 1. 上の補題により, 以下の二つは H から H への写像とみなせる. それぞれどのような写像となるか, 簡単に説明せよ.
1. ( 1 10 1 ).
2. ( 0 −11 0 ).
注意 4. f を H 上の正則関数とすると, 明らかに f γ (γ ∈ SL+(Z)) も H 上の正則関数となる. 保型形式 を大まかに説明すると, 変換 f 7→ f γ で “形が保たれる” 正則関数f : H→ C のことである.
注意 5. 保型形式とは別の “保型性” を持つ関数の例として, 以下の例を挙げておく. R 上定義された関数 f が f(z + 1) = f(z) を満たすとする. このとき f は R/Z 上の関数だとみなせる. さらに写像
R/Z→ S1 := (x, y) ∈ R2 | x2 + y2 = 1, θ 7→ (cos 2πθ, sin 2πθ)
による同一視によって, 関数 f は円周 S1 上の関数だとみなせ “円の幾何学” と結び付けられる. 実際, 三角関数: cos 2πz, sin 2πz はこの性質を満たす関数である.
定義 6. 慣例に従い以下の記号を用いる.
• γ = ( a bc d ), z ∈ H に対し j(γ, z) := cz + d.
7
• z ∈ H に対し q := e2πiz. z = x+ yi, y > 0 より |q| = e−2yπ < 1 となることに注意.
0 ≤ k ∈ Z とする. このとき 重さ k, レベル 1 の (楕円) 保型形式 とは, フーリエ展開f(z) =
∑∞n=0 anq
n できる正則関数 f : H→ C で, 保型性
f(γ(z)) = j(γ, z)kf(z) (∀γ ∈ Γ)
を満たすものである. また, 重さ k, レベル 1 の保型形式全体のなす空間を
Mk(Γ) :=
f(z) =
∞∑n=0
anqn : H→ C | f(γ(z)) = j(γ, z)kf(z) (∀γ ∈ Γ)
で表す. さらに a0 = 0 のとき 重さ k, レベル 1 の (楕円) カスプ形式 と呼び,
Sk(Γ) :=
f(z) =
∞∑n=1
anqn : H→ C | f(γ(z)) = j(γ, z)kf(z) (∀γ ∈ Γ)
とおく.
注意 7. 上記の保型形式の定義は “天下り的” で不自然なものになっている. 例えば f(z)
が正則であることは, f(z) がテーラー展開できることに含まれている. 多くの専門書にあるように “保型性の幾何学的解釈” に従った定義の方が自然である.
課題問題 2. 1. γ :=( −1 0
0 −1)∈ Γ を考える. j(γ, z) = −1 であることに注意して
M2k+1(Γ) = S2k+1(Γ) = 0
となることを示せ.
2. c ∈ C, f, f ′ ∈Mk(Γ), g ∈Ml(Γ) なら cf, f + f ′ ∈Mk(Γ), fg ∈Mk+l(Γ) となることを示せ. とくに
M∗(Γ) :=⊕
0≤k∈Z
Mk(Γ)
は C 上の可換環になることがわかる.
“保型形式全体のなす空間” の構造は, 以下のように明記できる. この事実 (を一般のレベルへ拡張したもの) が, フェルマーの最終定理の証明でも使われている.
定理 8. 1. 4 以上の偶数 k に対して
Ek(z) :=1
2
∑c,d∈Z(c,d)=1
1
(cz + d)k
とおくと, z ∈ H で収束し Ek := Ek(z) ∈ Mk(Γ) となる. この関数は (正則)
Eisenstein 級数 と呼ばれる. また
Ek(z) = 1− 2k
Bk
∞∑n=1
σk−1(n)qn
を満たす. ただし Bk は ベルヌーイ数 と呼ばれる有理数で σk(n) :=∑
0<d|n dk.
8
2. ラマヌジャンの ∆ は以下を満たす.
∆(z) :=E4(z)
3 − E6(z)2
1728= q
∞∏n=1
(1− qn)24 ∈ S12(Γ)
3. 0 以上の偶数 k に対してMk(Γ) =
⊕4a+6b=ka,b≥0
CEa4E
b6
となる. とくに, C 上の可換環として
M∗(Γ) = C[E4, E6].
4. 0 以上の偶数 k に対してMk(Γ) = CEk ⊕ Sk(Γ).
5. 0 以上の偶数 k に対して
dimCMk(Γ) =
[k12
]+ 1 k ≡ 2 mod 12 のとき,[
k12
]k ≡ 2 mod 12 のとき,
dimC Sk(Γ) =
0 k = 0, 2 のとき,[
k12
]4 ≤ k ≡ 2 mod 12 のとき,[
k12
]− 1 4 ≤ k ≡ 2 mod 12 のとき.
ただし [α] は α を超えない最大の整数を表す.
略証. 1. 直接計算によりフーリエ展開できることが示せる. 従って正則性も従う. 以下“Eisenstein 級数の保型性”, すなわち Ek(γ(z)) = j(γ, z)kEk(z) (∀γ ∈ Γ) を示す. 任意のγ = ( s t
u v ) ∈ Γ に対して
Ek(γ(z)) :=1
2
∑c,d∈Z(c,d)=1
1
(c sz+tuz+v
+ d)k= j(γ, z)k
1
2
∑c,d∈Z(c,d)=1
1
((cs+ du)z + (ct+ dv))k
となる. ここで
(c, d) ∈ Z2 | (c, d) = 1 → (c, d) ∈ Z2 | (c, d) = 1,(c, d) 7→ (c, d)γ = (cs+ du, ct+ dv)
が全単射である (∵ 逆写像は (c, d) 7→ (c, d)γ−1) から 12
∑c,d∈Z(c,d)=1
1((cs+du)z+(ct+dv))k
= Ek(z)
を得る.
2. ∆ ∈ M12(Γ) であることは問題 2-2, 定理 8-1 より従う. カスプ形式であることを言うには E4, E6 のフーリエ展開の式 (定理 8-1) を代入して, 定数項が消えていることを確か
9
めれば良い. 途中の等号の証明は非自明であるが, 例えば複素関数論を使って示せる.
3. まず Ea4E
b6 | 4a + 6b = k, a, b ≥ 0 が一次独立であることを示す. 直接計算により
E4(i) = 0, E6(i) = 0 が示せる. 以下∑0≤b≤[ k6 ]k−6b
4∈Z
cbEk−6b
44 Eb
6 = 0 (cb ∈ C), ∃cb = 0
と仮定して矛盾を導く. cb = 0 となる最少の b を b0 とおく. 式∑
0≤b≤[ k6 ]k−6b
4∈Z
cbEk−6b
44 Eb
6 = 0
はH 上の関数としての関係式であるから, 両辺を Eb06 で割ることができる. すなわち∑
b0≤b≤[ k6 ]k−6b
4∈Z
cbE4(z)k−6b
4 E6(z)b−b0 = 0
を得る. この両辺に z = i を代入すると, b > b0 なら E6(i)b−b0 = 0 だから
cb0E4(i)k−6b
4 = 0
となり cb0 , E4(i) = 0 に矛盾である. 次に Mk(Γ) =⊕
4a+6b=ka,b≥0
CEa4E
b6 であるが, 問題 2-2,
定理 8-1 より (⊃) が従う. (⊂) と 4,5 に関しては Ek,∆ の性質と複素関数論を使った議論を行う必要がある. (省略).
課題問題 3. 自分の学籍番号を k とせよ. このとき dimC Sk(Γ) を求めよ.
10
3 保型形式 (2)
定義 9. X を集合, G を群とする.
1. 集合 X の 対称群 を
Sym(X) := f : X → X | f は全単射
で定める. これは写像の合成を演算として群となる (単位元は恒等写像で, 逆元は逆写像). たとえば Sym(1, 2, . . . , n) = Sn.
2. 準同型写像ρ : G→ Sym(X)
のことを 群 G の集合 X への左作用 と呼ぶ. 誤解のないときは g · x := g(x) :=
ρ(g)(x) (g ∈ G, x ∈ X) と略記する. たとえば GL+2 (R) → Sym(H), γ = ( a b
c d ) 7→[z 7→ az+b
cz+d] は, GL+
2 (R) の H への作用であった. 同様に 右作用 を
写像 ρ : G→ Sym(X) で ρ(hg) = ρ(g)ρ(h) を満たすもの
として定め, x · g := ρ(g)(x) と略記する.
左作用なら (gh) · x = g · (h · x), 右作用なら x · (gh) = (x · g) · h
が成り立つことに注意.
3. 正則関数 f(z) : H→ C, k ∈ Z, γ ∈ GL+2 (R) に対して
f |[γ]k(z) := det γk2 j(γ, z)−kf(γ(z)) : H→ C
とおく. これは群 GL+2 (R) の集合 f : H→ C | 正則 への右作用となる.
4. 群 G の集合 X への左作用 (または右作用) ρ が定まっているとき, x ∈ X の 固定部分群 を
Gx := g ∈ G | ρ(g)(x) = x
で定める. これは G の部分群になる.
補題 10. 1. 群として Γ = SL2(Z) は 2 元 ( 1 10 1 ) , (
0 −11 0 ) で生成されている.
2. フーリエ展開 f(z) =∑∞
n=0 anqn を持つ H 上の正則関数 f に対して以下は同値.
f ∈Mk(Γ)⇔ f(−1z) = zkf(z).
略証. 1 はよく知られているので省略. 2 に関して, まず f ∈Mk(Γ) ⇔ (左作用 |[γ]k に関する) 固定部分群 Γf = Γ
1⇔ ( 1 10 1 ) , (
1 10 1 ) ∈ Γf と変形できる. ここで
( 1 10 1 ) (z) = z + 1, j(( 1 1
0 1 ) , z) = 1, ( 0 −11 0 ) (z) =
−1z, j(( 0 −1
1 0 ) , z) = z
だから, 前者は f(z + 1) = f(z) を言い, これはフーリエ展開 f(z) =∑∞
n=0 anqn の存在と
e2πi(z+1) = e2πiz から常に成り立つ. 一方で後者は f(−1z) = zkf(z) を言っている.
11
3.1 一般のレベルの保型形式
定義 11. N ∈ N に対し レベル N の主合同部分群 Γ(N) を
Γ(N) := ( a bc d ) ∈ Γ | ( a b
c d ) ≡ E2 mod N
で定める. ただし Γ = SL2(Z) であり, ( a bc d ) ≡ E2 mod N は a ≡ 1, b ≡ 0, c ≡ 0, d ≡
1 mod N を意味する. Γ(N) は Γ の指数有限な正規部分群となる. とくに Γ(1) = Γ.
定義 12. 重さ k, レベル N の保型形式 とは, 以下を満たす正則関数 f(z) : H → C のことである.
• 各 γ ∈ Γ に対して f |[γ]k(z) が次の形のフーリエ展開を持つ.
f |[γ]k(z) =∞∑n=0
anqnN (ただし q
nN := e
2πinN ).
• 各 γ ∈ Γ(N) に対して f(z) が次の形の保型性を持つ.
f |[γ]k(z) = f(z).
さらに, 上記の全てのフーリエ展開の定数項が 0 となるとき 重さ k, レベル N のカスプ形式 と呼ぶ. 重さ k, レベル N の保型形式全体のなす空間, カスプ形式全体のなす空間を, それぞれ
Mk(Γ(N)), Sk(Γ(N))
で表す.
注意 13. ここで簡単に “保型性の幾何学的解釈” を説明しておく. N ∈ N とする.
• H 上の同値関係 ∼ を z ∼ z′ ⇔ ∃γ ∈ Γ(N) s.t. z′ = γ(z) で定め, 商空間
Y (N) := Γ(N)\H := H/∼
を考える. これは モジュラー曲線 などと呼ばれる. これは代数多様体, もしくは複素多様体として一次元なので “曲線” と呼ばれているが, 実多様体として考えれば“(リーマン) 曲面” である. 例として N = 1 のときを考える. E3
4 ,∆ ∈ M12(Γ) であり ∆(z) = 0 (z ∈ H) となることに注意すると, 関数
j(z) :=E4(z)
3
∆(z): H→ C
はj(γ(z)) = j(z) (∀γ ∈ Γ)
を満たすことがわかり, j は Y (1) 上の正則関数だとみなせる. さらにこの写像は,
複素多様体としての同型j : Y (1) ∼= C
を与えることが示せ, これらを同一視できる.
12
• よって H 上の関数 f が
“重さ 0 の保型性: f |[γ]0(z) := f(γ(z)) = f(z) (∀γ ∈ Γ(N)) を満たす”
ことは, f が
“Y (N) = Γ(N)\H 上の関数だとみなせる”
ことを意味している. 実は, 一般の k に対して, H 上の正則関数 f が
“重さ k の保型性を満たす” ことは “Y (N) 上の k2次正則微分形式だとみなせる”
ことを意味している.
• Y (N) は “自然なコンパクト化 X(N)” を持つ. すなわち, 有限個の点 ∞1, . . . ,∞r
(と自然な位相構造と複素構造) が存在して
X(N) := Y (N) ⊔ ∞1, . . . ,∞r
がコンパクトな一次元複素多様体 (よって, コンパクトなリーマン曲面) になる. 付け加えられる点 ∞1, . . . ,∞r のことは カスプ, または 尖点 などと呼ばれる. 例えばN = 1 のとき, 上記の同一視
j : Y (1) ∼= C
を思い出そう. C は平面なので, 無限遠点 ∞ を付け加えることにより一点コンパクト化でき, 球面 S2 となる. C の無限遠点 ∞ と対応する Y (1) の尖点は (感覚的に説明すると)
limt→∞|j(it)| =∞
より, 虚軸方向の無限遠点 i∞ となる. すなわち
X(1) := Y (1) ⊔ i∞.
一般のレベルの場合, X(N) は以下のように構成できる. まず
H∗ := H ⊔Q ⊔ i∞
とおき, 写像 γ : H→ H (γ = ( a bc d ) ∈ Γ) を拡張して
γ : H∗ → H∗,
z ∈ H 7→ az+bcz+d
,
z ∈ Q 7→
az+bcz+d
cz + d = 0 のとき
i∞ cz + d = 0 のとき,
z = i∞ 7→
ac
c = 0 のとき
i∞ c = 0 のとき
13
とする. ここで先と同じように商空間
X(N) := Γ(N)\H∗ := H∗/∼ (z ∼ z′ ⇔ ∃γ ∈ Γ(N) s.t. z′ = γ(z))
を取ればよい. 明らかにY (N) ⊊ X(N)
である. 付け加えられた尖点 (∈ X(N)− Y (N)) に関しても以下が示せる:
Γ∞ := γ ∈ Γ | γ(i∞) = i∞ = ( ±1 n
0 ±1)∈ Γ | n ∈ Z
となることに注意すれば, 両側剰余類 Γ(N)\Γ/Γ∞ の完全代表系 γ1, . . . , γr を使って
X(N) = Y (N) ⊔ γ1(i∞), . . . , γr(i∞)
とかける. またカスプ γ(i∞) 付近の付近の複素構造を定める局所パラメーターは
z 7→ e2πiγ−1(z)
N
で与えられる.
• よって H 上の関数 f が
“f |[γ]k(z) =∑∞
n=0 anqnN (∀γ ∈ Γ) の形のフーリエ展開をもつ”
ことは
“X(N) = Y (N) ⊔ カスプ 上の微分形式として, 各カスプで正則である”
ことを意味している. より精密にいうと f |[γ]k(z) =∑∞
n=0 anqnN はカスプ γ(i∞) で
のフーリエ展開を与えている. 例えば N = 1 のときカスプは i∞ のみであり, フー
リエ展開 f |[γ]k(z)保型性= f(z) =
∑∞n=0 anq
n はこのカスプ (z = i∞↔ q = 0) での正則性を与えている.
• “保型性の幾何学的解釈” の恩恵がいくつもある. 例えば 次元公式 と呼ばれる
dimCMk(Γ(N)), dimC Sk(Γ(N))
の明示式が与えられる. これはリーマン曲面の被覆の分岐指数に関する議論とリーマン・ロッホの定理 の帰結である. (なお次元公式には, Hilbert 空間上での跡公式を使った別証もある.)
注意 14. Y (N) のコンパクト化のために付け加えられる点を “カスプ (尖点)” と呼ぶ理由は, “群作用 Γ(N) H∗ の基本領域” を描画したとき, カスプに対応する点 γ(i∞) 付近
が “とが
尖って” いるからである.
定義 15. 楕円曲線との関係を調べる場合には, とくに重さ 2のカスプ形式全体のなす空間∪N∈N
S2(Γ(N))
を考える. これが前々節で考えた空間 S の厳密な定義である. g1, g2, g3 は, それぞれこの空間の元のフーリエ展開であることが示せる.
14
4 保型形式 (3)
保型形式 ∆ = q∏
n=1(1−qn)24 ∈ S12(Γ(1))のフーリエ展開の qn の係数を τ(n)とおく.
τ(1) = 1, τ(2) = −24, τ(3) = 252, τ(4) = −1472, τ(5) = 4830, τ(6) = −6048,τ(7) = −16744, τ(8) = 84480, τ(9) = −113643, τ(10) = −115920, τ(11) = 534612,
τ(12) = −370944, τ(13) = −577738, τ(14) = 401856, τ(15) = 1217160,
τ(16) = 987136, τ(17) = −6905934, τ(18) = 2727432, τ(19) = 10661420,
τ(20) = −7109760, τ(21) = −4219488, τ(22) = −12830688, τ(23) = 18643272,
τ(24) = 21288960, τ(25) = −25499225, τ(26) = 13865712, τ(27) = −73279080,τ(28) = 24647168, τ(29) = 128406630, τ(30) = −29211840, τ(31) = −52843168,τ(32) = −196706304, τ(33) = 134722224, τ(34) = 165742416, τ(35) = −80873520,τ(36) = 167282496, τ(37) = −182213314, τ(38) = −255874080, τ(39) = −145589976,τ(40) = 408038400, τ(41) = 308120442, τ(42) = 101267712, τ(43) = −17125708,τ(44) = −786948864, τ(45) = −548895690, τ(46) = −447438528, τ(47) = 2687348496,
τ(48) = 248758272, τ(49) = −1696965207, τ(50) = 611981400, . . .
となる.
課題問題 4. 実際に ∆ = q∏
n=1(1− qn)24 を展開することにより, τ(n) (n = 1, 2, 3, 4, 5, 6)
を求めよ.
実は τ(n) は, 次の性質を満たしている.
τ(mn) = τ(m)τ(n) m,n ∈ N, (m,n) = 1 のとき,
τ(pl)τ(p) = τ(pl+1) + p11τ(pl−1) p が素数, l ∈ N のとき.
例えば
τ(6) = −6048 = (−24) ∗ 252 = τ(2)τ(3),
τ(22)τ(2) = (−1472) ∗ (−24) = 35328 = 84480 + 2048 ∗ (−24) = τ(23) + 211τ(21).
この節では, 上記の性質を導くことのできる “Hecke 理論” を紹介する.
4.1 Hecke 作用素, Hecke 固有形式
以下, レベル 1 の場合を考える (一般の場合にも同様の議論ができる). すなわち
• Γ = Γ(1) = SL2(Z) とし C-線形空間 Mk(Γ) を考える.
• EndC(Mk(Γ)) := ψ : Mk(Γ) → Mk(Γ), 線形写像 とおく. これは写像の和 (ψ +
ϕ)(f) := ψ(f) + ϕ(f) と合成 ψϕ := ψ ϕ に関して環となり, 行列環 Md×d(C)(d := dimCMk(Γ)) と同一視できる.
15
定義 16. ヘッケ作用素 Tk(n) ∈ EndC(Mk(Γ)) (0 ≤ k ∈ Z, n ∈ N) を以下で定める.
(Tk(n)(f))(z) := nk−1∑
0≤a,b,d∈Zad=n, b<d
d−kf(az + b
d).
また C 上 Tk(n) (n ∈ N) で生成される EndC(Mk(Γ)) の部分環
Hk := C[Tk(n) | n ∈ N] ⊂ EndC(Mk(Γ))
を ヘッケ環 と呼ぶ. ヘッケ環は可換環になる.
実際に Tk(n) ∈ EndC(Mk(Γ)) であることや, ヘッケ環が可換環であることは, それほど自明ではない. 以下 “両側剰余類” を使った古典的な証明の概略を書く.
1. ∆ := α ∈M2×2(Z) | detα > 0 とおき, 両側剰余類全体のなす集合
Γ\∆/Γ := ΓαΓ | α ∈ ∆, (ΓαΓ = γ1αγ2 | γ1, γ2 ∈ Γ)
を考える (集合として ΓαΓ = ΓβΓ なら, これらは同じ元だとみなす).
2. 両側剰余類 ΓαΓ (α ∈ ∆) の左剰余分解
ΓαΓ =⊔i
Γαi (αi ∈ ΓαΓ, 有限和となることが示せる)
の完全代表系 αi を用いて, f ∈Mk(Γ) に対して
f |[ΓαΓ]k := detαk2−1∑i
f |[αi]k
と定める.
3. 2 で与えた定義は, αi の取り方によらない (∵ f ∈Mk(Γ), γ ∈ Γ⇒ f |[γ]k = f).
4. f ∈ Mk(Γ) ⇒ f |[ΓαΓ]k ∈ Mk(Γ) (∵ γ ∈ Γ とし, αi を上記の完全代表系とする.
ΓαΓ =⊔
i Γαi ⇒ ΓαΓ = ΓαΓγ =⊔
i Γαiγ. すなわち αiγも完全代表系である. よって f |[ΓαΓ]k|[γ]k = (detα
k2−1∑
i f |[αi]k)|[γ]k = detαk2−1∑
i f |[αiγ]k = f |[ΓαΓ]k).
5. 集合として ⊔ΓαΓ∈Γ\∆/Γ
detα=n
ΓαΓ = α ∈ ∆ | detα = n =⊔
0≤a,b,d∈Zad=n, b<d
Γ ( a b0 d )
となる. よってヘッケ作用素 Tk(n) は
Tk(n)(f) =∑
ΓαΓ∈Γ\∆/Γdetα=n
f |[ΓαΓ]k
を満たす. とくに, 4 と合わせて f ∈Mk(Γ)⇒ Tk(n)(f) ∈Mk(Γ) を得る.
16
6. 両側剰余類 ΓαΓ (α ∈ ∆) の形式線形和全体のなす C-線形空間
C[ΓαΓ | α ∈ ∆] :=⊕
ΓαΓ∈Γ\∆/Γ
C · ΓαΓ =
r∑
i=1
ciΓαiΓ | ci ∈ C, αi ∈ ∆, 0 ≤ r ∈ Z
を考える. ここに積をΓαΓ · ΓβΓ =
∑ΓγΓ∈Γ\∆/ΓΓγΓ⊂ΓαΓβΓ
cγΓγΓ
の形で定義し, 環 (多元環) とみなす. ただし ΓαΓ = ⊔iΓαi, ΓβΓ = ⊔jΓβj として
cγ := |(i, j) | Γαiβj = Γγ|
とおいた. これは可換環であることが示せる. このとき写像
νk : C[ΓαΓ | α ∈ ∆]→ EndC(Mk(Γ)),r∑
i=1
ciΓαiΓ 7→
[f 7→
r∑i=1
cif |[ΓαiΓ]k
]
は環準同型となる. 例えば
Tn :=∑
ΓαΓ∈Γ\∆/Γdetα=n
1 · ΓαΓ ∈ C[ΓαΓ | α ∈ ∆]
とおけば νk(Tn) = Tk(n) である. ヘッケ環は, この νk の像と一致する. すなわち
Hk = νk(C[ΓαΓ | α ∈ ∆])
ヘッケ環 Hk と比較して, C[ΓαΓ | α ∈ ∆] のことを 抽象的ヘッケ環 などと呼ぶ.
7. Ta,d := 1 · Γ ( a 00 d ) Γ ∈ C[ΓαΓ | α ∈ ∆], Tk(a, d) := νk(Ta,d) ∈ Hk とおく.
課題問題 5. 0 = a ∈ Z とする. 以下を示せ.
1. 集合として Γ ( a 00 a ) Γ = Γ ( a 0
0 a )
2. Tk(a, a) = ak−2. すなわち f ∈Mk(Γ) に対し Tk(a, a)f = ak−2f .
(保型形式に付随する L 関数の構成へ向けての) ヘッケ環の理論において, 次の補題が本質的である.
補題 17. l,m, n ∈ N とし, p は素数とする.
1. (m,n) = 1⇒ Tmn = TmTn.
2. TplTp = Tpl+1 + pTpl−1Tp,p,∑∞
l=0 TplXl = 1
1−TpX+pTp,pX2 .
3.∑
n∈N Tnn−s =
∏p
11−Tpp−s+Tp,pp1−2s .
17
4. 上記の関係式は T∗ を Tk(∗) に置き換えても成立する.
証明の概略. 1と 2の前半の証明は, それほど難しくはないが (自明でもない), 抽象的ヘッケ環の環構造を別の言葉で言い換える必要があり, ここでは扱わないことにする.
(2 の後半)∑∞
l=0 TplXl = 1
1−TpX+pTp,pX2 ⇔ 1 =∑∞
l=0 TplXl(1− TpX + pTp,pX
2). これは
∞∑l=0
TplXl(1− TpX + pTp,pX
2) =∞∑l=0
TplXl −
∞∑l=0
TpTplXl+1 +
∞∑l=0
pTp,pTplXl+2
= T1X0 + (Tp − TpT1)X1 +
∞∑l=2
(Tpl − TpTpl−1 + pTp,pTpl−2)X l
に注意すれば, 2 の前半より従う.
(3)∑
n∈N Tnn−s 1 と素因数分解の一意性
=∏
p
∑∞l=0 Tpl(p
l)s 2 の X に p−s を代入
=∏
p1
1−Tpp−s+Tp,pp1−2s .
(4) νk が環準同型であることと 1 ∼ 3 より従う.
定義 18. 零でない保型形式 f ∈Mk(Γ) が ヘッケ固有形式 であるとは
任意のヘッケ作用素 Tk(n) に対し, 定数 λn ∈ C が存在し Tk(n)f = λnf を満たす
ことである. この λn のことを (ヘッケ固有形式 f の Tk(n) での) ヘッケ固有値 と呼ぶ.
注意 19. 保型形式のなす空間には自然に内積が定義でき,有限次元ヒルベルト空間になる.
この内積に関してヘッケ作用素は自己共役的であることが示せる. さらに Tk(n) (n ∈ N)は可換でもあったので, 同時対角化可能である. すなわち
Mk(Γ) および Sk(Γ) は, それぞれヘッケ固有形式からなる基底をもつ
ことがわかる.
注意 20. 一般の場合の Hecke 作用素も, 同様に
“両側剰余類の形式線形和全体のなす環の作用”
として定義できる. 他にも
“保型形式をモジュライ空間上の微分形式とみなしたときの代数的対応”
または
“保型形式をアデール群上の関数とみなしたときの畳み込み積 (convolution product)”
として定義する方法がある.
18
5 保型形式 (4)
5.1 保型形式の L 関数とオイラー積
補題 21. ヘッケ固有形式 f のフーリエ係数を an, ヘッケ固有値を λn で表す. このときλna1 = an が成り立つ. とくに a1 = 1 なら λn = an. また写像
νf : Hk → C, T 7→ Tf
f
が定まり, これは νf (Tk(n)) = λn = ana1を満たす環準同型を与えている (ヘッケ環を抽象
ヘッケ環にかえても同様のことが言える).
証明. ヘッケ作用素の定義をフーリエ展開の式に代入して
Tk(m)f(z) = mk−1∞∑n=0
∑0≤a,d∈Zad=m
d−ke2nπiazd
∑0≤b<d
e2nπibd
an
を得る. ここで∑
0≤b<d e2nπi b
d =
d (d|n)0 (d ∤ n)
に注意すれば
Tk(m)f(z) = mk−1∞∑n=0
∑0≤a,d∈Z
ad=m, d|n
d1−ke2andπiz
an =∞∑l=0
∑0<a|gcd(m,l)
ak−1a lma2
e2lπiz
とかける. これと λmf(z) =∑∞
n=0 (λman) e2nπiz が等しいから,とくに e2πiz の係数を比較し
て題意の前半を得る. 後半に関して,写像が well-definedなのは Tf ∈ C·f (∵ f がヘッケ固有形式)より. 環の準同型になるのは,加法に関しては νf (T1+T2) :=
(T1+T2)ff
= T1ff+ T2f
f=
νf (T1)+νf (T2)と示せる. 乗法に関しては νf (T1T2) :=(T1T2)f
f= T1(T2f)
T2fT2ff
= T1(T2f)T2f
νf (T2)
と変形でき, νf (T2) = 0 なら νf (T1T2) = 0 = νf (Ti)νf (T2) で成立. νf (T2) = c = 0 ならT1(T2f)T2f
= cT1fcf
= T1ff
= νf (T1) でやはり成立している.
注意 22. 上記の証明中の計算で, Tk(m)f のフーリエ展開の定数項が∑
0<a|m ak−1a0 とな
ることが言えた. この式から T ∈ Hk, f ∈ Sk(Γ)⇒ Tf ∈ Sk(Γ) が言えている.
補題 23. f(z) =∑∞
n=0 anqn ∈Mk(Γ) がヘッケ固有形式で, a1 = 1 であれば以下を満たす.
1. m,n ∈ N, (m,n) = 1⇒ amn = aman.
2. 素数 p と l ∈ N に対し aplap = apl+1 + pk−1apl−1 .
略証. 補題 17 より, ヘッケ作用素が同様の関係式を満たす. この式を補題 21 の準同型 νfで移せば題意を得る (問題 5-2 より νf (Tk(p, p)) = pk−2 となることに注意).
19
定理 24. 保型形式 f(z) =∑∞
n=0 anqn ∈Mk(Γ) の L 関数 を
L(s, f) :=(2π)s
Γ(s)
∫ ∞0
(f(iy)− a0)ys−1dy
で定めると, 適当な領域で収束し, 有理型に解析接続され, ディリクレ級数 表示
L(s, f) =∑n∈N
ann−s
を持つ. また L(s, f) := Γ(s)(2π)s
L(s, f) =∫∞0(f(iy)− a0)ys−1dy は関数等式
L(k − s, f) = (−1)k2 L(s, f)
を満たす. さらに f がヘッケ固有形式で a1 = 1 であれば次の オイラー積 表示を持つ.
L(s, f) =∏p
1
1− app−s + pk−1−2s.
略証. ディリクレ級数表示からオイラー積表示への変形は, 上の補題と同様に補題 17, 21
から導ける. 以下, 簡単のため f はカスプ形式 (すなわち a0 = 0) として略証を与える.
ディリクレ級数表示.∫∞0f(iy)ys−1dy =
∑∞n=1 an
∫∞0e−2πnyys−1dy. ここで
Γ(s) =
∫ ∞0
e−tts−1dtt=2πny=
∫ ∞0
e−2πny(2πny)s−1(2πn)dy = (2πn)s∫ ∞0
e−2πnyys−1dy
を代入すれば題意を得る.
解析接続. 積分を二つ:∫∞0
=∫ 1
0+∫∞1に分ける. このとき前者は∫ 1
0
f(iy)ys−1dyy=1/y′
=
∫ ∞1
f(i/y′)y′−s−1dy′保型性=
∫ ∞1
(iy′)kf(iy′)y′−s−1dy′
となるから, 新しい積分表示
L(s, f) =
∫ ∞1
f(iy)(ys−1 + ikyk−s−1)dy
を得る. f はカスプ形式だと仮定したから f(iy) は y →∞ のとき “急減少” している (∵|f(iy)| ≤
∑∞n=1 |an|e−2πny = O(e−2πy)). よって任意の s ∈ C に対して積分が収束する.
関数等式. MK(Γ) ∋ f = 0 であるから k が偶数であることに注意. とくに ik = ±1 だから ik × ik = 1. よって, 上で得た積分表示から
L(k − s, f) =∫ ∞1
f(iy)(yk−s−1 + ikys−1)dy =
∫ ∞1
f(iy)(ikys−1 + yk−s−1)dy = ikL(s, f)
となる.
注意 25. f の “保型性” の言い換えが, L(s, f) の “関数等式” となっている.
課題問題 6. 次元公式より dimC S12(Γ) = 1 が言える. このことと, 注意 22, 補題 23 を使って, ラマヌジャンの ∆ のフーリエ係数 τ(n) が
τ(mn) = τ(m)τ(n) m,n ∈ N, (m,n) = 1 のとき,
τ(pl)τ(p) = τ(pl+1) + p11τ(pl−1) p が素数, l ∈ N のとき.
を満たすことを説明せよ.
20
5.2 保型関数の特殊値
定義 26. H 上の有理型関数 f が レベル N ∈ N の保型関数 であるとは
• f が各カスプで有理型である. すなわち, 各 γ ∈ Γ に対して次の形のフーリエ展開を持つ:
f |[γ]k(z) =∞∑
n=n0
anqnN (ただし q
nN := e
2πinN , n0 ∈ Z).
• 各 γ ∈ Γ(N) に対して f(z) が重さ 0 の保型性を持つ. すなわち
f |[γ]0(z) = f(z).
レベル N の保型関数全体のなす空間を
A(Γ(N))
で表す. これは
一次元複素多様体 X(N) = Γ(N)\H∗ 上の有理型関数全体のなす体
だとみなせる.
補題 27. 1. f, g ∈ Mk(Γ(N)), g = 0⇒ fg∈ A(Γ(N)). 逆に任意の保型関数は保型形式
の商として表せる. すなわち
A(Γ(N)) =
f
g| 0 ≤ k ∈ Z, f, g ∈Mk(Γ(N)), g = 0
.
2. j :=E3
4
∆=
1728E34
E34−E6−2 ∈ A(Γ(1)). 逆にレベル 1 の任意の保型関数は j の有理式の形で
表せる. すなわちA(Γ(1)) = C(j).
3. レベル N の保型関数全体のなす体は, j と以下に定める関数 fa (a = (a1, a2) ∈1NZ2 − Z2) で生成される. すなわち
A(Γ(N)) = C(j, fa | a ∈
1
NZ2 − Z2
).
ただし ワイエルシュトラスの ℘-関数:
℘(z;ω1, ω2) :=1
z2+
∑0 =l∈Z·ω1⊕Z·ω2
(1
(z − l)2− 1
l2
)(z, ω1/ω2 ∈ H)
を使って
fa(z) :=E4(z)E6(z)
∆(z)℘(a1z + a2; z, 1)
とおいた.
21
4. A(Γ(N))/A(Γ(1))は有限次ガロア拡大であり,そのガロア群は Γ(1)/Γ(N)·± ( 1 00 1 )
と同型である. より具体的に
Γ(1)/Γ(N) · ± ( 1 00 1 ) ∼= Gal(A(Γ(N))/A(Γ(1))), γΓ(N) · ± ( 1 0
0 1 ) 7→ [fa 7→ faγ]
となる.
5. 4 は係数体を Q に取り換えても, ほぼ同様のこことが成り立つ. すなわち
Q(j, fa | a ∈ 1
NZ2 − Z2
)/Q(j) は有限次ガロア拡大
であり, 同型
GL2(Z/NZ)/± ( 1 00 1 ) ∼= Gal(Q
(j, fa | a ∈ 1
NZ2 − Z2
)/Q(j)),
±γ 7→ [fa 7→ faγ]
が存在する.
証明. まず, 基本となる関係式
fa γ = faγ (γ ∈ Γ(1))
が直接計算により示せる. これに加え, リーマン・ロッホの定理など代数幾何的考察, ℘-関数の解析的性質, そして次節以降で扱う楕円曲線の性質などを使って証明される.
上の定理と (無限次) ガロア理論より, 下の定理が導ける.
定理 28. 体 FN := Q(j, fa | a ∈ 1
NZ2 − Z2
)(N ∈ N) 全ての合成体を F で表す. このとき
F :=∪N∈N
FN = Q(j, fa | a ∈ Q2 − Z2
)であり, F/Q(j) は無限次ガロア拡大となる. さらにそのガロア群は, 次のように明示的な形で表せる:
Gal(F/Q(j)) ∼=
(∏p
GL2(Zp)
)/± ( 1 0
0 1 )
注意 29. 上記の体 F の導入は画期的であった. 各 FN は代数曲線 X(N) = Γ(N)\H∗ のQ 上の関数体だとみなせるので
体 F は “lim←N
X(N) の関数体”
のようなものだとみなせる.
定理 30 (“クロネッカーの青春の夢”). K を虚二次体とする (すなわち ∃0 > d ∈ Z s.t.
K = Q(√d)). また Kab で K の最大アーベル拡大体を表す. このとき
f ∈ F, z ∈ K で f(z) <∞ であれば f(z) ∈ Kab
を満たす. さらにガロア群の作用:
σ ∈ Gal(Kab/K) に対して f(z) 7→ σ(f(z))
を明示的に表す 相互律 と呼ばれる式がある.
22
6 楕円曲線 (1)
6.1 定義体, 有理点
“代数幾何” 的な議論になれるために “円 S1” と “直線 ℓ” の関係を見てみる. “円” は
(x, y) ∈ R2 | x2 + y2 = 1
という形で実現できる. すなわち
“円の定義方程式 f(x, y) := x2 + y2 − 1 ∈ Q[x, y] に対し, f(x, y) = 0 の R での解全体”
を考えている. ここで円の 定義体 (定義方程式の係数体) は Q であるが, その拡大体 Rで解を考えていることに注意. より一般に, S1 の定義体 Q の拡大体 L に対し, S1 の L-
有理点S1(L) = (x, y) ∈ L2 | x2 + y2 = 1
が考えられる. 通常の “円” は S1(R) である. 同様に “直線 ℓ” を考える: ℓ の L-有理点を
ℓ(L) = (x, y) ∈ L2 | x = y
で定めれば, ℓ(R) が “直線” となっている (定義方程式は一次式でさえあればよい). 以下,
直線 ℓ と円 S1 の “代数幾何的な関係” を調べる. これには (有理) 写像
ℓ ↔ S1
ϕ : (x, y) 7→ (1−x2
1+x2 ,2x
1+x2 )
( yx+1
, yx+1
) ← (x, y) :ψ
を考えると便利である. 実は, 写像 ϕ は R 上では次のように解釈できる:
R2 において, 点 (−1, 0) を通り, 傾き x の直線 lx を考える.
このとき lx と S1(R) の (−1, 0) 以外の交点が ϕ(x, y) = (1−x2
1+x2 ,2x
1+x2 ) となる.
この “幾何的解釈” から『ϕ : ℓ(R)→ S1(R)− (−1, 0) が全単射になる』ことが導ける.
しかし, これはあくまで R 上だけでの議論になる. 実は “代数的な議論” により, 一般の体 L でも直線 ℓ(L) と円 S1(L) を関係付けられる. まず ψ, ϕ は互いに “おおよそ” 逆写像になっており, “おおよそ” 全単射である (双有理写像と呼ばれる) ことを確かめる:
• ψ : S1 → ℓ は x+ 1 = 0 であれば well-defined.
• ϕ : ℓ→ S1 は 1 + x2 = 0 であれば Well-defined. ∵ (1−x2
1+x2 )2 + ( 2x
1+x2 )2 = 1.
• ψϕは (定義される領域上で)恒等写像. ∵ ψϕ(x, x) =(
2x1+x2
1−x2
1+x2+1,
2x1+x2
1−x2
1+x2+1
)= (x, x).
• ϕ ψ は (定義される領域上で) 恒等写像. ∵ ϕ ψ(x, y) =(
1−( yx+1
)2
1+( yx+1
)2,
2( yx+1
)
1+( yx+1
)2
)=(
x2+2x+1−y2x2+2x+1+y2
, 2y(x+1)x2+2x+1+y2
)S1 上では x2+y2=1
=(
2x2+2x2x+2
, 2y(x+1)2x+2
)= (x, y).
23
証明はすべて代数的に行われていることに注意. さらに
有理写像 ϕ, ψ は Q 上定義されている:
すなわち ϕ, ψ を定める有理式は Q 係数 (1−x2
1+x2 ,2x
1+x2 ∈ Q(x), yx+1∈ Q(x, y)) である.
以上により, 以下の性質を導くことができる:
命題 31. ℓ, S1, ϕ, ψ の定義体 Q の任意の拡大体 L に対し
• (x, x) ∈ ℓ(L), x = ±√−1 に対し ϕ(x, x) ∈ S1(L).
• 逆に S1(L) の (−1, 0) 以外の任意の点 P は ϕ(Q) (Q ∈ ℓ(L)) の形で与えられる.
課題問題 7. 命題 31 に厳密な証明をつけよ.
例えば, 命題 31 の L = Q の場合により, 方程式 x2 + y2 = 1 の有理数解全体 S1(Q) が具体的に与えられる:
S1(Q) = ϕ(ℓ(Q)) ∪ (−1, 0) = (1− x2
1 + x2,
2x
1 + x2) | x ∈ Q ∪ (−1, 0).
このように代数幾何では, 研究対象 (曲線や写像など) がどの体で定義されているか, そしてその対象をどの体上で考えているかが重要になる.
6.2 射影空間
L を任意の体とする. 『有理数解と整数解の関係』『関数の極を代数的に扱う』『多様体のコンパクト化』などの議論をするときに 射影空間 や 斉次化 の概念が便利である.
定義 32. n 変数多項式 f(x1, x2, . . . , xn) ∈ L[x1, x2, . . . , xn] の 斉次化 とは, n+ 1 変数斉次多項式 f(X1/Xn+1, X2/Xn+1, . . . , Xn/Xn+1)X
deg fn+1 ∈ L[X1, X2, . . . , Xn, Xn+1] のことで
ある. たとえば f(x, y) := x2 + y2 − 1 の次数は deg f = 2 であり, その斉次化は
f(X/Z, Y/Z)Z2 :=((X/Z)2 + (Y/Z)2 − 1
)Z2 = X2 + Y 2 − Z2
で与えられる.
課題問題 8. f(x, y) := x2 + y2 − 1 とその斉次化 F (X,Y, Z) := X2 + Y 2 − Z2 を考える.
1. f(x, y) = 0の有理数解 (すなわち x, y ∈ Q, f(x, y) = 0を満たすもの)が存在することと, F (X, Y, Z) = 0の非自明な整数解 (すなわち X,Y, Z ∈ Z, (X, Y, Z) = (0, 0, 0),
F (X,Y, Z) = 0 を満たすもの) が存在することが同値であることを示せ.
2. F (X,Y, Z) = 0 の非自明な整数解を 10 個挙げよ.
24
定義 33. n 次元射影空間 を, 商空間
P n(L) := (x1, x2, . . . , xn+1) ∈ Ln+1 | (x1, x2, . . . , xn+1) = (0, 0, . . . , 0)/∼(x1, . . . , xn+1) ∼ (y1, . . . , yn+1)⇔ ∃λ ∈ L× s.t. (x1, . . . , xn+1) = λ(y1, . . . , yn+1)
で定め, (x1, x2, . . . , xn+1) ∈ Ln+1−(0, 0, . . . , 0)の同値類 ∈ P n(L)を [x1 : x2 : · · · : xn+1]
で表す. とくに
• n = 1 のとき P 1(L) は 射影直線 と呼ばれ, 直線 A1(L) := L に無限遠点を付け加えたものだとみなせる:
P 1(L) = (x1, x2) ∈ L2 | (x1, x2) = (0, 0)/∼
= (x1, x2) ∈ L2 | x2 = 0/∼⊔
(x1, x2) ∈ L2 | x2 = 0, x1 = 0/∼,
(x1, x2) ∈ L2 | x2 = 0/∼= [x1 : 1] | x1 ∈ L = x1 ∈ L = A1(L),
(x1, x2) ∈ L2 | x2 = 0, x1 = 0/∼= [0, 1] = “無限遠点”.
• n = 2 のとき P 2(L) は 射影平面 と呼ばれ, 平面 A2(L) := L2 の周りに射影直線P 1(L) を張り付けたものだとみなせる:
P 2(L) = (x1, x2, x3) ∈ L3 | (x1, x2, x3) = (0, 0, 0)/∼
= [x1 : x2 : 1] | x1, x2 ∈ L⊔
[x1 : x2 : 0] | (x1, x2) = (0, 0),
[x1 : x2 : 1] | x1, x2 ∈ L = (x1, x2) | x1, x2 ∈ L = A2(L),
[x1 : x2 : 0] | (x1, x2) = (0, 0) = [x1 : x2] | (x1, x2) = (0, 0) = P 1(L)
• 一般の n でも, 同様に分解 P n(L) = An(L)⊔P n−1(L) (An(L) := Ln) が考えられる.
例えば一変数の有理式 f(x) := xx−1 を考える. これを A1(C) = C 上で考えれば
C→ C, x 7→ xx−1 は x = 1 で極をもつ
ので, 厳密な意味で写像とは言えない (x = 1 で定義されていない). そこで値域を拡張(C = A1(C) ⊂ P 1(C)) すれば
C→ P 1(C), x 7→ [x : x− 1] は ∀x ∈ C で well-defined.
とくに x 7→ [x : x− 1] =
[ xx−1 : 1] = f(x) ∈ C ⊂ P 1(C) (x = 1)
[1 : 0] = “無限遠点” (x = 1)
とできる. 解析的な定義の “極” や “発散” が, “無限遠点に値をとる” ことに置き換わり,
代数的な扱いがしやすくなるのである.
射影空間には “位相的な利点” もある. 例えば L = R としたとき An(R) = Rn はコンパクトでない. 一方で P n(R) は, 局所座標系 Ui := [x1 : · · · : xn+1] ∈ P n(R) |xi = 0, φi : Ui → Rn, [x1 : · · · : xn+1] 7→ (x1/xi, . . . , xn+1/xi) (i = 1, . . . , n + 1) によ
25
りコンパクトな可微分多様体となる. 以下, ヤコビ行列が常に最大階数をもつ斉次多項式F (X1, . . . , Xn+1) ∈ R[X1, . . . , Xn+1] を考える. このとき
V (F ) := [x1 : · · · : xn+1] ∈ P n(R) | F (x1, . . . , xn+1) = 0
は well-defined であり, コンパクトな (∵ コンパクト空間 P n(R) の閉部分集合) 可微分多様体 (∵ 陰関数定理 ) になる. さらに多項式 f(x1, . . . , xn) ∈ R[x1, . . . , xn] の斉次化がF (X1, . . . , Xn+1) ∈ R[X1, . . . , Xn+1] であるとする. このとき f の An(R) = Rn でのグラフ
V (f) := (x1, . . . , xn) ∈ Rn | f(x1, . . . , xn) = 0
は必ずしもコンパクトでない. しかし分解 P n(R) = An(R) ⊔ P n−1(R) に関して
V (F ) ∩ An(R) = V (f)
が成り立ち, V (F ) は V (f) のコンパクト化を与えている.
課題問題 9. f(x, y) := xy − 1 とおく.
1. R2 = A2(R) の部分集合 V1 := (x, y) ∈ R2 | f(x, y) = 0 の概形をかけ.
2. f(x, y)の斉次化を F (X,Y, Z)とおき, P 2(R)の部分集合 V2 := [x : y : z] ∈ P 2(R) |F (x, y, z) = 0 を考える. A2(R) ⊂ P 2(R) とみなすとき, V2 − V1 を求めよ.
3. V2 ⊂ P 2(R) の概形を書け.
補題 34. 素数 p に対し, 有限体 Fp := Z/pZ, 写像 modp : Z → Fp, n 7→ n mod p を考える. このとき自然な写像
modp : P n(Q)→ P n(Fp)
が以下のように定まる: 任意の [x1 : · · · : xn+1] ∈ P n(Q) は, 分母を払うことによりx1, . . . , xn+1 ∈ Z とできる. さらに最大公約数で割って gcd(x1, . . . , xn) = 1 と仮定してよい. このとき [x1 : · · · : xn+1] mod p := [x1 mod p : · · · : xn+1 mod p] ∈ P n(Fp). 例えばn = 1 のとき
Q→ Fp,a
b7→ a mod p
b mod p(a, b ∈ Z, gcd(a, b) = 1)
は well-defined ではないが
P 1(Q)→ P 1(Fp), [a : b] 7→ [a mod p : b mod p] (a, b ∈ Z, gcd(a, b) = 1)
は well-defined である.
課題問題 10. r := [1 : 0], s := [1024 : 64], t := [56: 310] ∈ P 1(Q) とおく.
1. r mod 2, s mod 2, t mod 2 ∈ P 1(F2) を求めよ.
2. r mod 3, s mod 3, t mod 3 ∈ P 1(F3) を求めよ.
3. r mod 5, s mod 5, t mod 5 ∈ P 1(F5) を求めよ.
26
7 楕円曲線 (2)
7.1 一般の体上の楕円曲線 (ただし標数 = 2)
簡単のため K は標数が 2 でない体とする (この授業では K = Q,R,C, または K =
F3,F5,F7,F11, . . . だと思ってよい).
定義 35. 重根を持たない 3次多項式 f(x) = ax3+bx2+cx+d ∈ K[x]を使って y2 = f(x)
で表される (代数)曲線 E を, 体 K 上定義された楕円曲線と呼ぶ. このとき K の拡大体Lに対し,楕円曲線 E の L-有理点全体のなす集合 E(L)を以下のように定める: y2−f(x)の斉次化
F (X,Y, Z) = (Y/Z)2Z3 − f(X/Z)Z3 = Y 2Z − aX3 − bX2Z − cXZ2 − dZ3
を用いてE(L) = [X : Y : Z] ∈ P 2(L) | F (X,Y, Z) = 0
とおく. なお, 分解 P 2(L) = A2(L) ⊔ P 1(L) を使って考えると
E(L) ∩ A2(L) = [X : Y : Z] ∈ P 2(L) | F (X,Y, Z) = 0, Z = 0= [X : Y : 1] ∈ P 2(L) | F (X, Y, 1) = Y 2 − f(X) = 0= (x, y) ∈ L2 | y2 − f(x) = 0,
E(L) ∩ P 1(L) = [X : Y : Z] ∈ P 2(L) | F (X,Y, Z) = 0, Z = 0= [X : Y : 0] ∈ P 2(L) | F (X, Y, 0) = aX3 = 0= [0 : 1 : 0]
となり
E(L) は “y2 = f(x) の L2 でのグラフ” と “無限遠点 [0 : 1 : 0]” の和集合
であることがわかる.
課題問題 11. 1. Q 上定義された楕円曲線 E : y2 = x3 − 1 に対し E(R) の概形を書け.
2. Q 上定義された楕円曲線 E : y2 = x3 − x に対し E(Q) の元を 4 つ書け.
3. F3 上定義された楕円曲線 E : y2 = x3−x に対し E(F3) に含まれる元をすべて書け.
楕円曲線の定義多項式の条件: “3 次多項式 f(x) が重根を持たない” は
“定義多項式 y2 − f(x) のヤコビ行列が常に最大階数をもつ”
ことと同値であり, これは (代数) 曲線として非退化であることを言っている. (よって, とくに L = R または C なら E(L) が可微分多様体, または複素多様体となる).
27
証明. • (x, y) ∈ A2(L) での y2 − f(x) のヤコビ行列を計算すると
(∂(y2 − f(x))
∂x,∂(y2 − f(x))
∂y) = (−df(x)
dx, 2y).
これが E(L) ∩ A2(L) 上で階数 < 1 となる条件は
∃x, y ∈ L s.t. y2 = f(x), (−df(x)dx
, 2y) = (0, 0).
これは ∃x ∈ L s.t. f(x) = f ′(x) = 0 と同値 (♣) であり, よって f(x) が重根を持つことと同値である.
• 無限遠点 [0 : 1 : 0] ∈ P 2(L) 付近での振る舞いを調べるには, 局所座標
φ : U := [X : Y : Z] ∈ P 2(L) | Y = 0 → L2, [X : Y : Z]→ (X
Y,Z
Y)
を使って y2 − f(x) (の斉次化) を表現すればよい. すなわち
– f(x) = ax3 + bx2 + cx+ d とおく. A2 上で y2 − f(x) = 0 で表される曲線 (の射影化) は, P 2 上で F (X, Y, Z) := Y 2Z − aX3 − bX2Z − cXZ2 − dZ3 = 0 で表される.
– P 2 上で F (X, Y, Z) = 0で表される曲線を U 上に制限し, 局所座標 φ−1(s, t) =
[s : 1 : t]を使って表すと F (X, Y, Z)|X=s,Y=1,Z=t = t−as3−bs2t−cst2−dt3 = 0
である. すなわち
E(L) ∩ Uφ∼= (s, t) ∈ L2 | g(s, t) := t− as3 − bs2t− cst2 − dt3 = 0
となる.
– (s, t) ∈ L2 での g(s, t) のヤコビ行列は
(∂g(s, t)
∂s,∂g(s, t)
∂t) := (3as2 − 2bst− ct2, 1− 3dt2)
である. 無限遠点 [0 : 1 : 0] ∈ E(L) は局所座標 φ で原点 (0, 0) ∈ L2 に来ていることに注意すれば, 楕円曲線の定義多項式のヤコビ行列は, 無限遠点において
(3as2 − 2bst− ct2, 1− 3dt2)|(s,t)=(0,0) = (0, 1)
であり, 常に最大階数となっていることが分かる.
以上より “3 次多項式 f(x) が重根を持たない” ⇔ “y2 − f(x) のヤコビ行列が最大階数をもつ” が言えた.
注意 36. 上記の議論 (♣) で 2 = 0 を使っている. この点から, 標数 2 の体上の楕円曲線の定義は, 少し修正する必要がある.
28
注意 37. 一般に “多項式が重根を持つ ⇔ 判別式 = 0” が成り立つ. 3 次式に関しては
a3x3 + a2x
2 + a1x+ a0 の判別式 D =−4a3a31 + a22a
21 − 4a32a0 + 18a3a2a1a0 − 27a23a
20
a43
が成り立つ. よってとくに
x3 + ax+ b の判別式 D = −(a3 + 27b2)
である. 例えば x3 − 1 の判別式は D = −(03 + 27 ∗ (−1)2) = −27 であり
• x3 − 1 ∈ Q[x] と見れば Q ∋ D = 0 で, 実際 x3 − 1 = (X − 1)(X − −1+√−3
2)(X −
−1−√−3
2) = 0 は重根を持たない.
• x3 − 1 ∈ F3[x] と見れば F3 ∋ D = 0 で, 実際 x3 − 1 = (X − 1)3 = 0 は重根を持つ.
7.2 楕円曲線の群構造
この小節では, 任意の楕円曲線 E の有理点全体のなす集合 E(L) は “自然に” 群だとみなせることを紹介する. 群演算が “代数的” に定義され “幾何的” な解釈をもつ点は非常に興味深い.
定義 38. 体 K 上定義された楕円曲線 E : y2 = ax3 + bx2 + cx+ d (a, b, c, d ∈ K, 重根を持たない) と, K の拡大体 L に対し, 集合 E(L) に以下のルールで演算 + を定義する.
1. 無限遠点 O := [0 : 1 : 0] ∈ E(L)を単位元とする: ∀P ∈ E(L), P +O = O+P := P .
2. 2 点 P = [x1 : y1 : 1], Q = [x2 : y2 : 1] ∈ E(L) ∩ A2(L) が x1 = x2 をみたすとき,
P +Q := [x3 : y3 : 1], x3 :=1a( y2−y1x2−x1
)2 − ba− x1 − x2, y3 := − y2−y1
x2−x1x3 +
y2x1−y1x2
x2−x1.
3. 2 点 P = [x1 : y1 : 1], Q = [x2 : y2 : 1] ∈ E(L) ∩ A2(L) が x1 = x2, P = Q (つまりy2 = −y1 = 0) をみたすとき, P +Q := O.
4. 点 P = [x : y : 1] ∈ E(L) ∩ A2(L) が y = 0 をみたすとき P + P := O.
5. 点 P = [x : y : 1] ∈ E(L) ∩ A2(L) が y = 0 をみたすとき P + P := [x′ : y′ : 1],
x′ := 14ay2
(a2x4 − 2acx2 − 8adx + c2 − 4bd), y′ := 18ay3
(a3x6 + 2a2bx5 + 5a2cx4 +
20a2dx3 + (20abd− 5ac2)x2 + (8b2d− 2bc2 − 4acd)x+ (4bcd− 8ad2 − c3)).
このとき E(L) は演算 + に関して可換群 (非自明. 結合法則の証明が難) になる.
注意 39. 演算 + の定義は以下の幾何的解釈を持つ: O := [0 : 1 : 0] を単位元とする. L
上定義された直線 ℓ : px+ qy + r = 0 (p, q, r ∈ L, (p, q) = (0, 0)) に対し
交点 ℓ(L) ∩ E(L) が重複を込めて 3 点 P,Q,R となるとき P +Q+R = O.
29
直線 ℓ の射影化は ℓ(L) = [X : Y : Z] ∈ P 2(L) | pX + qY + rZ = 0. よって “垂直”,
すなわち q = 0 のとき ℓ(L) = [X : Y : Z] ∈ P 2(L) | pX + rZ = 0 ∋ [0 : 1 : 0] = O.
これから定義 38-3,4 が導ける. とくに −[x : y : 1] = [x : −y : 1]. よって P = [x1 : y1 :
1], Q = [x2 : y2 : 1], R = [x3 : −y3 : 1] とおいて連立方程式を解けば定義 38-2 が導け,
P = Q = [x : y : 1], R = [x′ : −y′ : 1] とすれば定義 38-5 が導ける.
課題問題 12. Q 上定義された楕円曲線 E : y2 = x3 + 8 を考える. E(Q) ∋ P := [1 : 3 :
1], Q := [2 : 4 : 1] を確かめよ. また P +Q, 2P := P + P を計算せよ.
図 1: E : y2 = x3 − 15x+ 50 の “R2 でのグラフ” = E(R) ∩ A2(R)
30
8 楕円曲線 (3)
8.1 楕円曲線の C-有理点
この小節では, 楕円関数論の基礎を簡単に見た後に
(C の部分体上定義された任意の) 楕円曲線 E に関して, E(C) の概形は “ドーナツ型”
であることを紹介する.
定義 40. 1. 部分集合 L ⊂ C で
∃ω1, ω2 ∈ C, Im(ω2/ω1) > 0 s.t. L = n1ω1 + n2ω2 ∈ C | n1, n2 ∈ Z
とかけるものを (ω1, ω2 で生成される) 格子 と呼び, L の元を 格子点 と呼ぶ. たとえば L := Z[
√−1] = Z⊕ Z ·
√−1 は 1,
√−1 で生成される格子である. またこのと
き, 領域Λ := Λω1,ω2 := x1ω1 + x2ω2 ∈ C | x1, x2 ∈ [0, 1]
を (ω1, ω2 で生成される格子の) 基本平行四辺形 と呼ぶ. 格子 L が与えれると, その基本平行四辺形 Λ の平行移動 Λ + l := λ+ l | λ ∈ Λ による分割
C =∪l∈L
(Λ + l)
が与えらえる.
2. (格子 L に付随する) ワイエルシュトラスのぺー関数 を
℘(z;L) :=1
z2+∑0 =l∈L
(1
(z − l)2− 1
l2
)
で定める. これは全平面 z ∈ C 上で有理型となる. またこの級数は項別微分可能で
℘′(z;L) := −2∑l∈L
1
(z − l)3
となる.
補題 41. L を格子とする.
1. L ⊂ C は (加法群として) 部分群であり, その剰余群 C/L には自然な複素多様体の構造が入る.
2. 有理型関数 f(z) が f(z + l) = f(z) (∀l ∈ L) を満たすとき, f は (格子 L に関する)
楕円関数, または 二重周期関数 などと呼ばれる. ℘(z;L), ℘′(z;L) はともに格子 L
に関する楕円関数である.
31
3. ℘(z;L) は, 各格子点 z ∈ L でのみ 2 位の極をもつ. また z = 0 でのローラン展開は
℘(z;L) = z−2 +∞∑n=1
((2n+ 1)
∑0 =l∈L
l−2n−2
)z2n
で与えらえる.
4. ℘′(z;L) は, 各格子点 z ∈ L でのみ 3 位の極をもつ. また z = 0 でのローラン展開は
℘′(z;L) = −2z−3 +∞∑n=1
(2n(2n+ 1)
∑0=l∈L
l−2n−2
)z2n−1
で与えらえる.
5. 格子 L にのみよる定数 g2(L) := 60(∑
0=l∈L l−4), g3(L) := 140
(∑0 =l∈L l
−6)を考
える. このとき関数等式
℘′(z;L)2 = 4℘(z;L)3 − g2(L)℘(z;L)− g3(L)
が成り立つ.
略証. 1. C/L は, 集合としては以下の二通りに解釈できる:
• 商集合 C/∼, z ∼ z′ ⇔ z − z′ ∈ L.
• 基本平行四辺形 Λ において, 平行な 2 辺 (x1ω1 | x1 ∈ [0, 1] と x1ω1 + ω2 | x1 ∈[0, 1], および x2ω2 | x2 ∈ [0, 1] と ω1 + x2ω2 | x2 ∈ [0, 1]) を, それぞれ同じ向きに張り合わせたもの.
とくにこの概形はドーナツの表面のようになっている. 複素多様体としての構造は自然な射影 C→ C/L から定まる.
2. l0 ∈ L を取る. L は加法に関して群になるので L− l0 := l− l0 | l ∈ L = L が成り立つ. よって
℘′(z + l0;L) = −2∑l∈L
1
((z + l0)− l)3= −2
∑l∈L−l0
1
(z − l)3= −2
∑l∈L
1
(z − l)3= ℘′(z;L)
となり, 楕円関数である. とくに l = ω1 ∈ L を取れば ℘′(z+ω1;L)−℘′(z;L) = 0 を得る.
これを積分すれば℘(z + ω1;L)− ℘(z;L) = z によらない定数
がわかる. あとは適当な値を z に代入して, この定数 = 0 を確かめればよい. 実際−L := −l | l ∈ L = L に注目すれば ℘(z;L) は偶関数
℘(−z;L) = 1
(−z)2+∑0=l∈L
(1
(−z − l)2− 1
l2
)=
1
z2+∑
0 =l∈−L
(1
(z − l)2− 1
l2
)L=−L= ℘(z;L)
32
だと分かるので, z = −ω1
2を代入すれば
℘(ω1
2;L)− ℘(−ω1
2;L)
℘ は偶関数= 0
を得る.
3,4. 直接計算より求まる.
5. それぞれのローラン展開を代入すると
℘′(z;L)2 −(4℘(z;L)3 − g2(L)℘(z;L)− g3(L)
)=定数項が 0 の正則関数
となる. とくにこの関数は基本平行四辺形 Λ 上で正則で, 従って同じ範囲で有界である.
左辺の形から楕円関数でもあるので, Λ + l (l ∈ L) でも同じ値をとり C = ∪l∈L(Λ + l) 全体で有界な正則関数になる. これは定数関数しかない. 一方でこの関数の定数項は 0 だったので, = 0 を得る.
定理 42. L を格子とし, 上の補題の定数 g2(L), g3(L) ∈ C を取り, Q(g2(L), g3(L)) 上定義される楕円曲線
EL : y2 = 4x3 − g2(L)x− g3(L)
を考える. このとき
Φ: C/L→ EL(C), z + L 7→
[℘(z;L) : ℘′(z;L) : 1] (z /∈ L)[0 : 1 : 0] (z ∈ L)
は複素多様体としての同型を与える.
略証. 写像が well-defined なのは自明であろう. また正則写像になっていることも ℘-関数の正則性から導かれる. 全単射性を言うには, もう少し詳しい ℘-関数の解析的性質が必要であり, ここでは省略する.
注意 43. 例えば L = Z[√−1] = Z · 1 ⊕ Z ·
√−1 とおくと, g2(Z[
√−1]) =
(Γ( 1
4)2
2√π
)4=
189.0727201 . . . , g3(Z[√−1]) = 0 となり
EZ[√−1] : y
2 = 4x3 − g2x (g2 :=(
Γ( 14)2
2√π
)4) に対してC/Z[
√−1] ∼= EZ[
√−1](C)
である.
注意 44. 上記の定理は, 方程式 y2 = 4x3 − g2(L)x − g3(L) で与えられる “特別な” 楕円曲線 (ワイエルシュトラス型の楕円曲線と呼ばれる) は C/L と同型で, 従って “ドーナツの表面” の概形を持つことを言っている. 実際は, 任意の (C の部分体上定義された) 楕円曲線は, ある格子 L に付随するワイエルシュトラス型の楕円曲線と (C 上で) 同型になることが知られている. 例えば Q 上定義された楕円曲線
E : y2 = x3 − x
33
に対して, 格子 Z[√−1] に付随するワイエルシュトラス型の楕円曲線 EZ[
√−1] : y
2 = 4x3−
g2x (g2 :=(
Γ( 14)2
2√π
)4) を取れば
EZ[√−1] : y
2 = 4x3 − g2x→ E : y2 = x3 − x, (x, y) 7→ (2√g2x,
√2
4√g32y)
が “代数曲線としての同型” を与えている. よって合成して
C/Z[√−1] → E(C),
z + Z[√−1] 7→
[ 2√g2℘(z;L) :
√2
4√
g32℘′(z;L) : 1] (z /∈ Z[
√−1])
[0 : 1 : 0] (z ∈ Z[√−1])
が複素多様体としての同型を与えている.
楕円関数論 (とくに ℘-関数の解析的性質) から導かれる定理を, 証明なしで二つ紹介しておく.
定理 45. 格子 L に付随する楕円関数全体のなす集合は, C 上 ℘(z;L), ℘′(z;L) で生成される体 C(℘(z;L), ℘′(z;L)) となる. また, 格子 L に付随する楕円関数 f(z) は, 複素多様体 C/L 上の有理関数 f(z + L) := f(z) だとみなせ, さらに定理 42 の同型 Φ で C/L とEL(C) を同一視することにより, 複素多様体 EL(C) 上の有理関数 f Φ−1 だと思えるので, 同型
C(℘(z;L), ℘′(z;L)) ∼= C[x, y]/(y2 − 4x3 + g2(L)x+ g3(L))
℘(z;L) ↔ x
℘′(z;L) ↔ y
が成り立つ. なお,右辺は 2変数多項式環 C[x, y]の単項イデアル (y2−4x4+g2(L)x+g3(L))による剰余環で, 代数曲線 EL : y
2 = 4x3 − g2(L)x − g3(L) の, C 上の代数関数体 C(EL)
である.
定理 46. 定理 42 の同型 Φ: C/L ∼= EL(C) は群としての同型写像でもある. すなわち
Φ(z + z′ + L) = Φ(z + L) + Φ(z′ + L) ∈ EL(C)
が成り立つ.
34
9 楕円曲線 (4)
9.1 Q 上定義された楕円曲線の還元
9.1.1 Q 上定義された楕円曲線から, Z 係数の一般 Weierstrass 方程式へ
以下では標数 2 の体上での楕円曲線も考えるため, より厳密な定義から始める. K を一般の体とする. 体 K 上定義された楕円曲線とは
K 上定義された代数曲線で, 非退化, 射影的, 種数 = 1, かつ基点 O が定まっているもの
のことである. (“K 上定義される ⇔ K 係数多項式で定義される”, “非退化 ⇔ 定義多項式のヤコビ行列が常に最大階数”, “射影的 ⇔ P n の閉部分多様体”, “種数 = 1 ⇔ 直線の次に難しい図形”, “基点が定まる ⇔ 特別視する点 (無限遠点など) を固定する”, くらいの意味である.) このままでは抽象的すぎるので, 以下の結果を証明なしに使う.
補題 47. a1, a2, a3, a4, a6 ∈ K を用いて
y2 + a1xy + a3y = x3 + a2x2 + a4x+ a6
の形で表される方程式は 一般 Weierstrass 方程式 と呼ばれる. この方程式 (の斉次化)
で定まる代数曲線 E を考える. すなわち L ⊃ K に対し
E(L)
= [X : Y : Z] ∈ P 2(L) | Y 2Z + a1XY Z + a3Y Z2 = X3 + a2X
2Z + a4XZ2 + a6Z
3= (x, y) ∈ L2 | y2 + a1xy + a3y = x3 + a2x
2 + a4x+ a6 ⊔ [0 : 1 : 0]
である. この代数曲線 E の 判別式 ∆(E) = ∆ を
∆ := −b22b8 − 8b34 − 27b26 + 9b2b4b6
で定める. ただし
b2 := a21 + 4a2, b4 := 2a4 + a1a3, b6 = a23 + 4a6, b8 := a21a6 + 4a2a6 − a1a3a4 + a2a23 − a24
とおいた. このとき代数曲線 E が楕円曲線であることと ∆(E) = 0 が同値になる. また,
K 上定義された任意の楕円曲線 E ′ に対して, 一般 Weierstrass 方程式で定義される楕円曲線 E とK 上の同型写像 ϕ : E ′ → E で, 基点 O ∈ E ′ を [0 : 1 : 0] ∈ E へ移すものが存在する.
以上により, 任意の楕円曲線を考える代わりに, 任意の一般 Weierstrass 方程式で定義される楕円曲線を考えればよいことになった. なお, 代数曲線間の写像で, 各成分が有理式で表示されるものを “代数曲線の準同型写像” と呼び, 全単射準同型で逆写像も準同型となるものを “代数曲線の同型写像” と呼ぶ. 正確な定義はここでは与えないが, ここでは以下の結果を紹介しておく.
35
補題 48. 一般 Weierstrass 方程式で定義される楕円曲線が同型になるのは, 変数変換
x′ = u2x+ r, y′ = u3y + u2sx+ t (u, r, s, t ∈ K, u = 0)
で対応するときのみである. すなわち E : y2+a1xy+a3y = x3+a2x2+a4x+a6, E
′ : y2+
a′1xy + a′3y = x3 + a′2x2 + a′4x+ a′6 が K 上同型 ⇔ ∃u, r, s, t ∈ K s.t. u = 0 かつ
y2+a′1xy+a′3y−x3−a′2x2−a′4x−a′6 = u−6[y2+a1xy+a3y−x3−a2x2−a4x−a6] x:=u2x+r
y:=u3y+u2sx+t
.
またこのとき同型写像は
E ′ → E, (x, y) 7→ (u2x+ r, u3y + u2sx+ t)
で与えられる. とくに r = s = t = 0, u = α−1 (α ∈ K×) の場合を考えれば, 楕円曲線 E : y2 + a1xy + a3y = x3 + a2x
2 + a4x + a6 は, 楕円曲線 E ′ : y2 + αa1xy + α3a3y =
x3 + α2a2x2 + α4a4x+ α6a6 と K 上同型になる.
上の補題の最後のコメントは “各係数の分母をいくらでも払える” ことを保証している.
以上を合わせると
Q 上定義される任意の楕円曲線は, Z 係数の一般 Weierstrass 方程式で定義される楕円曲線 E : y2 + a1xy + a3y = x3 + a2x
2 + a4x+ a6 (ai ∈ Z, ∆ = 0) と Q 上同型
であることが分かった.
注意 49. 上の二つの補題を使うと, 体 K の標数が 2 以外であれば
K 上定義された任意の楕円曲線は定義 35 の形の楕円曲線と同型になる
ことも示せる.
9.1.2 Z 係数多項式で定義される楕円曲線の還元
考えている素数 p が明らかなとき, a ∈ Z に対し a := a mod p ∈ Fp と表記する.
定義 50. Z 係数の一般 Weierstrass 方程式で定義される楕円曲線 E : y2 + a1xy + a3y =
x3 + a2x2 + a4x+ a6 (ai ∈ Z, ∆(E) = 0) を考える. E の素数 p での還元 とは, Fp 上定義
される代数曲線E : y2 + a1xy + a3y = x3 + a2x
2 + a4x+ a6
のことである. このとき E の判別式 ∆(E) は ∆(E) = ∆(E) となるから, 判別式の性質より
E が楕円曲線 ⇔ ∆(E) = 0 ⇔ p ∤ ∆(E)
が成り立つ. (ai ∈ Z より ∆(E) ∈ Z であることに注意.) E が楕円曲線のとき, E は p で良い還元を持つ といい, そうでないとき 悪い還元を持つ という.
36
よって, Z 係数の (一般 Weierstrass) 方程式で定義される楕円曲線に関して, その判別式が小さければ小さいほど (正確には素因数分解に現れる素数が少ないほど), 多くの p に関して良い還元を持つことが分かる. そして, 楕円曲線がより多くの p に関して良い還元をもつということは, その楕円曲線の “数論的データ” をより多く取り出せることを意味する.
定義 51. Q上定義された楕円曲線 E の極小Weierstrass モデルとは, E と Q上同型なZ係数の一般Weierstrass方程式で定義される楕円曲線 E ′ 全体のなかで,もっとも |∆(E ′)|が小さくなるもののことである. また, 楕円曲線 E 自身が E の極小 Weierstrass モデルであるとき (すなわち, これ以上 |∆(E)| を小さくできないとき), E は極小Weierstrass モデルである, などの言い方もする.
課題問題 13. Q 上定義された楕円曲線 E : y2 = x3 − x, E ′ : y2 = x3 − 81x を考える.
1. E と E ′ は Q 上同型であることを示せ.
2. 判別式 ∆(E), ∆(E ′) を求めよ.
3. E が悪い還元を持つ素数 p をすべて求めよ. また, E ′ が悪い還元を持つ素数 p をすべて求めよ.
(実は, E は極小 Weierstrass モデルになっていることも示せる.)
9.2 楕円曲線の L 関数
定義 52. 簡単のため E は極小 Weierstrass モデルとする. とくに E : y2 + a1xy + a3y =
x3 + a2x2 + a4x+ a6 (ai ∈ Z, ∆ = 0) の形である. このとき, 各素数 p に対し, 整数 ap を
ap := p+ 1− |E(Fp)|
で定める. ただし E の素数 p での還元を E で表した (とくに p ∤ ∆ のとき ap は フロベニウスのトレース と呼ばれる). このとき 楕円曲線 E に付随する L 関数 が
L(s, E) :=∏p
(1− app−s + 1∆(p)p1−2s)−1
で定義される. ただし mod∆ の自明指標を 1∆ で表した. すなわち
1∆(p) :=
1 (p ∤ ∆)
0 (p|∆).
定理 53. 楕円曲線の L 関数 L(s, E) は適当な領域で収束し, その範囲で正則になる. また
L(s, E) =∑n∈N
ann−s
の形にかける.
37
略証. ディリクレ級数の一般論と, 素因数分解の一意性より従う. なお各 an は a1 := 1, apはもともとの ap として, 以降帰納的に
ape := apape−1 − 1∆(p)pape−2 (e ≥ 2),
amn := aman (gcd(m,n) = 1)
で定まる.
注意 54. 楕円曲線の性質から直接的には “解析接続” と “関数等式” は (おそらく) 導けない.
課題問題 14. 上で定義した ap は, E が p でよい還元をもつ場合 (すなわち E が楕円曲線の場合) には
|ap| ≤ 2√p
の範囲を “程よく” 動くことが知られている (超難問). これに比べて E が楕円曲線にならない場合は “単純な” 値になることが知られている. 例えば E : y2 = x3 とおき p = 3, 5, 7
に対してap = p+ 1− |E(Fp)|
を計算し, 一般の p に対してどうなるか予想せよ. そして, もし可能ならその予想を証明せよ.
略解. 例えば p = 3 なら
E(F3) = (x, y) ∈ F23 | y2 = x3 ∪ [0 : 1 : 0] = (0, 0), (1, 1), (1, 2) ∪ [0 : 1 : 0]
なので a3 = 3 + 1− 4 = 0 である. p = 5, 7 も同様に調べればよい.
課題問題 15. 上の問題では “三重根” をもつ場合を考えた. 同様に “二重根” をもつ場合:
E : y2 = x3 + x2 に, p = 3, 5, 7 に対して
ap = p+ 1− |E(Fp)|
を計算し, 一般の p に対してどうなるか予想せよ. そして, もし可能ならその予想を証明せよ.
課題問題 16. E : y2 = x3 − x2 とする. p = 3, 5, 7, 11, 13, 17 に対して
ap = p+ 1− |E(Fp)|
を計算し, 一般の p に対してどうなるか予想せよ (注意: 場合分けが必要). そして, もし可能ならその予想を証明せよ.
注意 55. 問題 14 は 加法的還元 と呼ばれる場合, 問題 15 は 分裂乗法的還元 と呼ばれる場合, 問題 16 は分裂乗法的還元と 非分裂乗法的還元 がミックスされている場合を考えている.
38
10 保型形式と楕円曲線の対応 (1)
10.1 定式化
定理 56. (簡単のため) 楕円曲線 E は極小 Weierstrass モデルであるとする. とくに
• 各素数 p に対して ap(E) := p+ 1− |E(Fp)| ∈ Z が定まっている.
• (この授業では定義していないが) 楕円曲線 E の 導手 と呼ばれる自然数 NE ∈ N が定まる. なお, 導手 NE と判別式 ∆(E) は深く関係する.
このとき, 重み 2, レベル NE のカスプ形式 f ∈ S2(Γ(NE)) が存在して次を満たす:
• f は (実際は Γ(NE) より大きい群 Γ0(NE) での保型性を満たしており) f(z) =∑∞n=1 an(f)q
n (q = e2πiz) の形のフーリエ展開を持つ.
• f はヘッケ固有形式であり a1(f) = 1を満たす. とくにヘッケ作用素 Tk(m) (m ∤ NE)
に関するヘッケ固有値は am(f) となる.
• 任意の素数 p に対し ap(E) = ap(f) を満たす.
なお, 以上の条件を L 関数の言葉で書くと
L(s, E) = L(s, f)
である.
10.2 Galois 表現
上記の定理は, ここで証明の概略を与えることさえ難しい. そのかわり, 議論の舞台となる ガロア表現 について少しだけ説明する.
定義 57. G を群, K を体とする.
1. 有限次元 K-線形空間 V の 自己同型群 を
GL(V ) := ϕ : V → V | ϕ は同型写像
で定める. GL(V ) は写像の合成 を演算として群になる. なお V の基底を止めてϕ の表現行列を Aϕ で表すとき
GL(V )→ GLn(K) := A ∈Mn×n(K) | detA = 0, ϕ 7→ Aϕ
は群の同型を与えており, GL(V ), GLn(K) はしばしば同一視される.
39
2. G の K 係数の表現 とは, 群準同型 ρ : G→ GL(V ) (V は有限次元 K-線形空間) のことである. すなわち, 各 g ∈ G に対し K-線形同型写像 ρ(g) : V → V が定まり
ρ(g) ρ(h) = ρ(gh) (g, h ∈ G)
が成り立っていることである. なお, 表現行列を考えることにより, 群準同型 G →GLn(K) と同一視できる.
3. ここでは少し拡張して以下のものも考える: 体 K の代わりに単位元をもつ可換環R を考える. 階数 n の R 自由加群 V ∼= Rn に対し, R-同型写像 ϕ : V → V 全体のなす集合を GL(V ) で表すこととする. この場合も基底をとると同一視 GL(V ) ∼=GLn(R) := A ∈Mn×n(R) | detA ∈ R× ができる. このとき群準同型
ρ : G→ GL(V ) または GLn(R)
のことを G の R 係数の表現 と呼ぶことにする.
課題問題 17. 群 G, および単位元をもつ可換環 R,R′ を考える. G の R 係数の表現ρ : G→ GL2(R)と環の準同型 ν : R→ R′ で単位元を単位元に移すものが与えられたとき
写像 ν ρ : G→ GL2(R′) が ( a b
c d ) := ρ(g) とおいたとき (ν ρ)(g) :=(
ν(a) ν(b)ν(c) ν(d)
)で定まり, G の R′ 係数の表現を与えていることを示せ.
定義 58. Q := x ∈ C | ∃f [X] ∈ Q[X], = 0 s.t. f(x) = 0 の元のことを 代数的数 と呼ぶ. このとき Q は体になり, Q/Q は (無限次) ガロア拡大になる. このガロア群
Gal(Q/Q) = σ : Q→ Q | σ は体の同型写像
のことを (Q の) 絶対ガロア群 と呼び GQ で表す.
課題問題 18. n ∈ N とする.
1. µn := x ∈ C | xn = 1 = e 2πkin | k = 0, 1, 2, . . . , n− 1 とおく. µn ⊂ Q を示せ.
2. 任意の σ ∈ GQ, x ∈ µn に対し σ(x) ∈ µn となることを示せ.
定義 59. 絶対ガロア群 GQ の表現を, 単に (Q 上の) ガロア表現 と呼ぶ.
課題問題 19. n ∈ N とする. 上の問題より, 各 σ ∈ GQ に対して整数 aσ ∈ Z が存在してσ(e
2πin ) = e
2πaσin となる. このとき写像
ρ : GQ → GL1(Z/nZ) = (Z/nZ)×, σ 7→ aσ mod n
が定まり Z/nZ 係数のガロア表現となっていることを示せ.
40
10.3 絶対ガロア群のフロベニウス
各素数 p に対し フロベニウス と呼ばれる元 Frobp ∈ GQ が定まる. だいたい
Frobp ≈ p 乗写像
である. 実際
p ∤ n なら Frobp(e2πin ) = e
2πpin
が成り立つ. 厳密な定義は以下の通り.
定義 60. 1. Z := x ∈ C | ∃f(X) ∈ Z[X], = 0 s.t. f の最高次の係数は 1 で f(x) = 0とおくと Q の部分環になる. Z の元は 代数的整数 と呼ばれる.
2. Z の素イデアル P が p ∈ P を満たすとする. このとき Frobp ∈ GQ が
∀x ∈ Z, Frobp(x) ≡ xp mod P
を満たすとき, p の フロベニウス と呼ばれる. ただしフロベニウスは一意的には定まらない. なお, このフロベニウス写像を剰余体 Fp := Z/P 上で考えると
Fp → Fp, x mod P 7→ Frobp(x) mod P = (x mod P)p
となり, 本当に p 乗写像となる. こちらは p-乗フロベニウス写像 などと呼ばれる.
Frobp の存在の証明の概略. (無限次) ガロア理論より
Q =∪
Q⊂K⊂QK/Q: 有限次ガロア拡大
K
が成り立つので, 任意の有限次ガロア拡大 K/Q とその整数環 OK = K ∩Z の素イデアルPK ∋ p に対し, 同様の命題
∃FrobK,p ∈ Gal(K/Q) s.t. Frobp(x) ≡ xp mod PK (∀x ∈ OK)
を示し, FrobK,p を “うまく繋ぎ合せて” Frobp を作ればよい. 実際, 以下が成り立つ:
1. k := OK/PK とおくと Fp = Z/pZ の有限次拡大である. よって有限体の理論より
σp : k → k, σ(x) := xp とおくと σp ∈ Gal(k/Fp)
が成り立つ. σp は 有限体 k のフロベニウス と呼ばれる.
2. DPK:= σ ∈ Gal(K/Q) | σ(PK) = PK, IPK
:= σ ∈ Gal(K/Q) | σ(x) ≡x mod PK (∀x ∈ OK) とおくとこれらは Gal(K/Q) の部分群となる. それぞれ素イデアル PK に付随する 分解群, 惰性群 と呼ばれる. また自然な準同型
ϕ : DPK→ Gal(k/Fp), σ 7→ [x mod PK 7→ σ(x) mod PK ]
が定まり全射準同型となる. またその核は IPKである.
以上より σp の ϕ での逆像から FrobK,p をとれば題意を満たす.
41
10.4 楕円曲線の等分点
全小節で扱った元 e2πkin ∈ µn は, 複素平面内で考えた場合 “円の n 等分点” と呼ぶべき
点である. また群として µn∼= Z/nZ が成り立つ. この類似を楕円曲線で考えてみる.
補題 61. Q 上定義された楕円曲線 E : y2 = f(x) (f は Q 係数の 3 次式) を考える. またn ∈ N とする. E(C) の n 等分点 とは n 倍して O になる元 P ∈ E(C) のこと. すなわち
P ∈ E(C), nP := P + P + · · ·+ P (n 個の P の和) = O
を満たす元のことである. n 等分点全体のなす集合を E[n](C) で表す. このとき以下が成り立つ.
1. 群として E[n](C) ∼= (Z/nZ)2 である.
2. O = [0 : 1 : 0] ∈ E[n](C) である. また O = P ∈ E[n](C) の座標を P = [X : Y : 1]
とおくと X,Y ∈ Q となる.
3. σ ∈ GQ, P = [X : Y : 1] ∈ E[n](C) − O に対し σ(P ) := [σ(X) : σ(Y ) : 1] ∈E[n](C).
略証. 1. ある格子 Lが存在して,群として C/L ∼= E(C)となるのであった. C/Lの n等分点のなす集合は,明らかに 1
nL/L ⊂ C/L ( 1
nL := z ∈ C | nz ∈ L)となる. L = Zω1⊕Zω2
とおけば 1nL = 1
nZω1 ⊕ 1
nZω2 が言えるので, 結局 1
nL/L ∼= (Z/nZ)2 である. 群として同
型 C/L ∼= E(C) なので, それぞれの n 等分点のなす集合も対応
(Z/nZ)2 ∼=1
nL/L ∼= E[n](C)
する.
2. O = [0 : 1 : 0] ∈ E[n](C) は自明. E(C) の演算 + は, 座標の Q 係数有理式で定義されていた. よって n 倍写像も Q 係数有理式で書くことができる. n 等分点の座標は, この有理式 (の分母に来る多項式)の “解”として定義されるので, とくに座標は代数的数になる.
3. ある多項式 fn(X) ∈ Q[X] が存在して P = [x : y : 1] ∈ E(C) に対し fn(x) =
0 ⇔ P ∈ E[n](C) が成り立つ. よって σ ∈ GQ に対して P = [x : y : 1] ∈ E[n](C)⇔ y2 = f(x), fn(x) = 0
f, fn は Q 係数で σ は体の準同型⇒ σ(y)2 = f(σ(x)), fn(σ(x)) = 0 ⇔σ(P ) = [σ(x) : σ(y) : 1] ∈ E[n](C).
42
11 保型形式と楕円曲線の対応 (2)
11.1 楕円曲線に付随する Z/nZ 係数のガロア表現
前節で『σ ∈ GQ, P ∈ E[n](C)⇒ σ(P ) ∈ E[n](C)』を定めた. (σ(O) := O とする).
補題 62. P 7→ σ(P ) は群としての同型 E[n](C) ∼= E[n](C) を与える. とくに写像
ρE, mod n : GQ → GL(E[n](C)) ∼= GL2(Z/nZ), σ 7→ [P 7→ σ(P )]
が定まり Z/nZ 係数のガロア表現を与えている.
略証. 以下の順番で示す: 1 P 7→ σ(P )は群の準同型, 2 P 7→ σ(P )は群の同型, 3 P 7→ σ(P )
が Z/nZ‐同型 , 4 σ 7→ ρE, mod n(σ) := [P 7→ σ(P )] が Z/nZ 係数のガロア表現.
1. σ(P +Q) = σ(P ) + σ(Q) (P,Q ∈ E[n](C)) を場合分けして確かめればよい. たとえばP,Q = O で P = [x1 : y1 : 1], Q = [x2 : y2 : 1], x1 = x2 のときを考える. E は Q 上定義されているので E : y2 = ax3 + bx2 + cx+ d (a, b, c, d ∈ Q) としてよい. このとき
P +Q := [x3 : y3 : 1], x3 :=1a( y2−y1x2−x1
)2 − ba− x1 − x2, y3 := − y2−y1
x2−x1x3 +
y2x1−y1x2
x2−x1
であった. よって σ(P +Q) = [σ(x3) : σ(y3) : 1],
σ(x3) =1a( σ(y2)−σ(y1)σ(x2)−σ(x1)
)2− ba−σ(x1)−σ(x2), σ(y3) = − σ(y2)−σ(y1)
σ(x2)−σ(x1)σ(x3)+
σ(y2)σ(x1)−σ(y1)σ(x2)σ(x2)−σ(x1)
が分かる (∵ a, b, c, d ∈ Q, σ ∈ GQ). これは σ(P ) = [σ(x1) : σ(y1) : 1], σ(Q) = [σ(x2) :
σ(y2) : 1] の和 σ(P ) + σ(Q) の定義と一致する. 残りの場合も同様に示せる.
2. P 7→ σ(P ) が全単射を言えばよい.実際 P 7→ σ−1(P ) が逆写像となっている.
3. 一般に Z/nZ-加群 R, R′ に対し “写像 ϕ : R→ R′ が群準同型 ⇒ ϕ が Z/nZ-準同型”.
4. ρE, mod n(στ) = ρE, mod n(σ) ρE, mod n(τ) を示せばよい. これは定義より自明.
次の定理はガロア表現 ρE, mod n を使って, フロベニウスのトレース ap が特徴づけられることを言っている. L 関数が ap を用いて定義されていたことを考えれば, この結果は
楕円曲線 E に付随するガロア表現を用いて L 関数 L(s, E) が定義できる
ことを示唆している. (実際は ρE, mod n は, 必ずしも整域でない環 Z/nZ 係数で考えているため, 扱いにくい. 少し修正し, 次小節の ρE,l を考える方が見通しがよい.)
定理 63. Q 上定義された楕円曲線 E が p でよい還元を持つとする. E の素数 p での還元を E で表したときフロベニウスのトレース ap は
ap := p+ 1− |E(Fp)|
で定義されていた. この値は次の性質をもつ.
ap mod n ≡ trace ρE, mod n(Frobp) (p ∤ ∀n ∈ N).
ただし ρE, mod n(Frobp) ∈ GL2(Z/nZ)をサイズ 2の行列とみなし,その行列の対角成分の和を trace ρE, mod n(Frobp) で表した. なお行列式に関しては p mod n ≡ det ρE, mod n(Frobp)
(p ∤ ∀n ∈ N) が成り立つ.
証明について. 数論幾何的な議論が必要になるのでここでは扱わない.
43
11.2 楕円曲線に付随する p 進整数環 Zp 係数のガロア表現
p 進数への導入として実数の小数展開を思い出しておく.
• 実数全体のなす集合 R には, その数の大きさを表す絶対値 |x| (x ∈ R) が定義されており, 関係式 |xy| = |x||y| を満たしている.
• たとえば 110は “小さい”数であることと上の関係式から limn→∞(
110)n = 0が導ける.
• 小数展開 a0.a1a2a3 . . . (a0 ∈ Z, a1, a2, . . . ∈ 0, 1, 2, . . . , 9) は級数∑∞
n=0 an(110)n の
ことである. この級数が収束している (コーシー列である)ことも上と同様に導ける.
定義 64. 素数 p に対し, 形式的な級数のなす集合 Zp := ∑∞
n=0 anpn | an ∈ 0, 1, . . . , p−
1 を考え p 進整数環 と呼ぶ. Zp には以下の構造が入っている.
1. p は “小さい” 数だとみなし |p|p := 1pとおく. さらに α :=
∑∞n=0 anp
n ∈ Zp に対し
νp(α) := minn | an = 0, |α|p := (1p)νp(α) (ただし νp(0) =∞, |0|p = 0 と解釈)
と定めると, 関係式 |αβ|p = |α|p|β|p を満たす. このとき Zp 上の距離関数がdp(α, β) := |α−β|pでさだまり,この距離に関して Zpは完備である. なお νp(·) : Zp →Z ∪ ∞ を p 進付値, | · |p : Zp → R≥0 を p 進絶対値, dp(·, ·) : Zp × Zp → R≥0 を p
進距離, dp により定まる Zp 上の距離位相を p 進位相 と呼ぶ.
2. 環準同型 ϕn : Z/pnZ→ Z/pn−1Z, x mod pn 7→ x mod pn−1に関する逆極限 lim←n
Z/pnZ
:=
(xn mod pn)n ∈
∞∏n=0
Z/pnZ | ϕn(xn mod pn) = xn−1 mod pn−1 (∀n ∈ N)
を考えると, 直積環
∏∞n=0 Z/pnZ の部分環で整域となる. このとき写像
Zp → lim←n
Z/pnZ,∞∑
m=0
ampm 7→ (
n−1∑m=0
ampm mod pn)n
は全単射であり, この写像で同一視することにより Zp にも整域の構造が入る. 整域Zp の商体を Qp で表し p 進数体 と呼ぶ. さらに Zp や Qp 上の演算は p 進位相に関して連続になり, それぞれ 位相環, 位相体 となる.
3. 整数の p 進展開により環の単射準同型 Z→ Zp が定まる. これを拡張して体の超越拡大 Q ⊂ Qp を得る. Zp の元は p 進整数, Qp の元は p 進数 と呼ばれる.
4. 形式的に定めていた級数∑∞
n=0 anpn は, p 進位相に関して実際に Zp の元に収束す
ることが分かる. すなわち a0, a1, a2, . . . ∈ 0, 1, . . . , p− 1 に対して
limN→∞
N∑n=0
anpn 7→
∞∑n=0
anpn.
とくに Z は Zp の中で稠密であり, Zp は Z の p 進距離に関する完備化である.
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課題問題 20. αN :=∑N
n=0 2 ·3n = 2 ·30+2 ·31+ · · ·+2 ·3N ∈ Z ⊂ Z3, α :=∑∞
n=0 2 ·3n =
2 · 30 + 2 · 31 + 2 · 32 · · · ∈ Z3 を考える.
1. αN + 1 (N = 1, 2, 3, 4, 5) を計算し, 因数分解せよ.
2. α がどのような数か答えよ (ヒント: limN→∞(αN +1) = (limN→∞ αN)+ 1 = α+1).
3.∑∞
n=0 1 · 3n はどのような数か答えよ.
補題 65. Q 上定義された楕円曲線 E, および素数 l を考える. このとき以下が成り立つ.
1. l 倍写像 ψn : E[ln](C)→ E[ln−1](C), P 7→ lP は群の全射準同型となる.
2. 逆極限 lim←n
E[ln](C) :=
(Pn)n ∈
∞∏n=0
E[ln](C) | ψn(Pn) = Pn−1 (∀n ∈ N)
を楕円曲
線 E の l 進 Tate 加群 と呼び, 記号 Tl(E) で表す. これは階数 2 の自由 Zl-加群となる. すなわち Tl(E) ∼= Z2
l .
3. 次の ρE,l は Zl 係数ガロア表現となり 楕円曲線 E に付随する l 進表現 と呼ばれる.
ρE,l : GQ → GL(Tl(E)) ∼= GL2(Zl), ρE,l(σ)((Pn)n) := (σ(Pn))n.
証明. 1,2 は E[ln](C) ∼= Z/lnZ より従う. ただし Tl(E) の Zl-加群としての構造は
(xn mod ln)n ∈ Zl, (Pn)n ∈ Tl(E)⇒ (xn mod ln)n · (Pn)n := (xnPn)n ∈ Tl(E)
で定まる. 3 も P 7→ σ(P ) が群準同型であり, とくに σ(P +Q) = σ(P ) + σ(Q), σ(lP ) =
lσ(P ) が成り立つことに注意すれば示せる.
定理 66. Q 上定義された楕円曲線 E を考える. 各素数 p に対し, Z の素イデアル P ∋ pと, p と異なる素数 l を選んでおく. また P の惰性群を IP := σ ∈ GP | σ(x) ≡x mod P (∀x ∈ Z)で定義し, Tl(E)の不分岐部分を Tl(E)
IP := x ∈ Tl(E) | ρE,l(σ)(x) =
x (∀σ ∈ IP) で定める. これは Tl(E) の部分自由 Zl-加群になる. 以下が成り立つ.
• p で良い還元を持てば Tl(E)IP = Tl(E) であり ρE,l(Frobp) ∈ GL(Tl(E)) は以下を
満たす.
trace ρE,l(Frobp) = ap, det ρE,l(Frobp) = p.
• p で悪い還元を持てば Tl(E)IP ⊊ Tl(E) であり, ρE,l(Frobp)|Tl(E)
IP は以下を満たす.
ρE,l(Frobp)|Tl(E)IP = ap 倍写像.
ただし ap := p+1−|E(Fp)|. よって楕円曲線 E に付随する L関数は次のようにも書ける:
L(s, E) =∏p
(det(1− p−sρE,l(Frobp)|Tl(E)
IP
))−1.
課題問題 21. 2 次の正方行列 A が traceA = t, detA = d を満たしているとする. このとき形式的に計算すると
det(1− p−sA) = 1− tp−s + dp−2s
となることを示せ.
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11.3 保型形式に付随するガロア表現
定理 67. 重さ 2, レベル N の固有カスプ形式 f ∈ S2(Γ(N)) を考える. (実際は Γ(N)
より大きい群 Γ0(N) での保型性を満たしていると仮定して) f(z) =∑∞
n=1 anqn (a1 = 1,
an ∈ Q) の形のフーリエ展開を持つとする. このとき次を満たすガロア表現が存在する.
ρf,l : GQ → GL2(Ql), trace ρf,l(Frobp) = ap, det ρf,l(Frobp) = p (∀p ∤ N).
このガロア表現を 固有カスプ形式 f に付随する l 進ガロア表現 と呼ぶ.
証明について. 重さ 2, レベル N の保型形式 f は, モジュラー曲線のコンパクト化 X(N)
上の 1次正則微分形式だとみなせる. この関係を使って,保型形式 f のヘッケ作用素 Tk(n),
固有値 an を曲線 X(N) の幾何的な言葉に言い換えることができる. 先ほど楕円曲線の例で見たように “幾何的なもの” からはガロア表現を作りやすく, 求めるものが構成できる.
実際の議論には各種コホモロジー論を使う.
11.4 R = T へ
ここまでの議論で保型形式 f と楕円曲線 E の対応は, おおよそ以下のように言い換えられている.
f のフーリエ展開の係数と E の Fp-有理点の個数との関係 (定理 1)
⇔ L 関数の一致 L(s, E) = L(s, f) (定理 56)
⇔ 付随するガロア表現の “同値” ρf,l ≃ ρE,l.
最後のガロア表現に関し, おおよそ以下のようなことが分かる.
• “とても大きな” 可換環 R と, その R 係数のガロア表現 ρR : GQ → GL(R) が存在し “多くの” 楕円曲線 E に付随するガロア表現は次の形をしている. 楕円曲線 E に付随する準同型 νE : R→ Ql が存在し ρE,l ≃ νE ρR となる.
• “とても大きな” 可換環 T と, その T 係数のガロア表現 ρT : GQ → GL(T ) が存在し “多くの” 保型形式 f に付随するガロア表現は次の形をしている. 保型形式 f に付随する準同型 νf : T → Ql が存在し ρf,l ≃ νf ρT となる.
これらより, 保型形式と楕円曲線の対応は環としての同型 R ∼= T に帰着される. そしてこの同型は Wiles, Taylor-Wiles により (部分的に) 示された. (正確には, フェルマーの最終定理の解決に必要な場合には Wiles, Taylor-Wiles によって示された. またその後の多数の数学者の研究により, 定理 56 は一般の場合に証明されている.)
まとめ課題問題 22. 授業で扱った内容の中から, 自身が興味を持ったものを一つ選び, 自由に説明せよ. また興味を持った理由も書け.
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