統計熱力学講義 第10回 担当:西野信博 a3-012号室...

23
1 統計熱力学講義 10担当:西野信博 A3-012号室 [email protected] プラズマ実験装置NSTX(プリンストン大学、米国)

Upload: others

Post on 25-Apr-2020

4 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

1

統計熱力学講義  第10回

担当:西野信博

A3-012号室[email protected]

プラズマ実験装置NSTX(プリンストン大学、米国)

2

本日の予定

• 前回、演習の答え

• 第10章 相転移– 相の定義と蒸気圧方程式– ファンデルワールスの方程式

3

演習

• N粒子のBose-Einstein分布において絶対零度に近い低温における化学ポテンシャルの表式を求めよ。

• 但し、以下の分布関数で基底状態のエネルギーを0とし、温度が零度に近づいた時には、すべての粒子は基底状態にあると仮定せよ。

[ ]1( )

exp ( ) / 1B

fk T

εε µ

=− −

4

解答例

• 低温において、すべての粒子は基底状態にあるのだから、基底状態のf(ε)=Nである。

• また、基底状態のエネルギーを0としたから、

• この式より、[ ]

1(0)exp / 1B

f Nk Tµ

= =− −

1 1exp 1 , ln 1BB

k Tk T N Nµ µ

− = + = − +

1N >> ≈の時、ln(1+1/N) 1/N Bk TN

µ ≈ −

5

第10章 相転移

• 相とは?– 成分が一様な系の一部分を言う

• 二つの相はその間にはっきりとした境界を持って,共存することがありうる.– 例:気体と液体の共存、液体と固体の共存

• ここでは、蒸気圧の方程式と代表的な実在気体のモデルであるファン・デル・ワールス方程式について説明できるようにする.

6

2相共存に関する熱力学的条件

• いくつかの平衡条件の中で、等温・等圧過程の系の平衡を扱うには、ギブスの自由エネルギーが便利な量であった。

• 相間の平衡はどのように記述されるか?

同温,同圧におかれた系I, II系I

N1,μ1系II

N2,μ2ギブスの自由エネルギーG=G1+G2

G2=N2μ2G1=N1μ1相I+IIが孤立系なら、dN1=ーdN2

dG=μ1dN1+μ2dN2  =(μ1-μ2)dN1 dG=0   μ1=μ2

7

全体の系の温度と圧力を変化させた時,化学ポテンシャルは温度T,圧力pの関数としてどう表せるか?

• 二つの相で,化学ポテンシャルが等しいから•   μ1(T,p)=μ2(T,p)•   T→T+dT、p→p+dpになると、•   μ1( T+dT, p+dp )=μ2( T+dT, p+dp )•   dT, dpでテイラー展開すると• 左辺は

• 右辺も同様。

1 11 1( , ) ( , )

p T

T dT p dp T p dT dpT pµ µµ µ

∂ ∂ + + = + + + ∂ ∂

8

共存曲線の導出

•よって、dT,dpの2次以上を無視すると

1 1 2 2

p pT T

dT dp dT dpT p T pµ µ µ µ ∂ ∂ ∂ ∂ + = + ∂ ∂ ∂ ∂

• 式を変形して,

• となる。相の平衡は,ある平衡点(p0、T0) から上式に従って,pT図上を動く線となる.

2 1

1 2

p p

T T

T TdpdT

p p

µ µ

µ µ

∂ ∂ − ∂ ∂ =

∂ ∂ − ∂ ∂ 水蒸気

(p0,T0)

水の状態図

9

化学ポテンシャル表示からエントロピー表示へ

• に       を代入すると

• ここに,s,vは粒子一個あたりのエントロピーと体積である

• 分母のs1-s2は相1から相2へ変化した時の1粒子のエントロピーの変化であり、その時、粒子あたりの体積はv1-v2へと変化することを表している.

G Nµ=

,p p

N S sT Tµ µ∂ ∂ = − = − ∂ ∂

,T T

N V vp pµ µ ∂ ∂

= = ∂ ∂

1 2

1 2

s sdp sdT v v v

−= =

p

G ST∂ = − ∂ T

G Vp

∂= ∂

10

潜熱と蒸気圧方程式

• エントロピーの変化とこれに必要な熱の関係は平衡時の可逆性により,

• そこで、       なる熱量を使い

• と書く• この時のLを潜熱(この場合は粒子一個当りのLである)という.

• これを蒸気圧方程式(クラジウスークラペイロンの式)と言う.

dQ T s=

L T s=dp LdT T v

=

11

液相(あるいは固相)と気相での近似

• 気体と液体あるいは固体では体積比が大きいので,相変化による液体もしくは固体の体積変動は無視できる

• 気相は理想気体を仮定する

• すると,蒸気圧方程式は

• 今,潜熱Lが温度の関数として与えられるとこの方程式を積分して,共存曲線が得られる

/g g gv v V N≅ =

g g BpV N k T=

2B

dp L pdT k T

= 2

ln

B

d p LdT k T

=液体

気体

または

12

例 L=一定の場合

• L=L0として、積分の外に出す

• よって、

• モルあたりの潜熱を使用すると,

• 横軸1/Tで,縦軸に圧力の対数を取ると直線となる.

0 2B

dp dTLp k T=∫ ∫

0 0( ) exp( / )Bp T p L k T= −

0( ) exp( / )molp T p L RT= −

13

潜熱とエンタルピー

• 潜熱は、二つの相の間のエンタルピー差に等しいH=U+pVであるからdH=dU+pdV+Vdp

• もし,共存曲線を横切ると拡張された熱力学の恒等式からTdS=dU+pdV-(μg-μl)dN

• 共存曲線上では、μg=μlであるからL=TΔS=ΔU+pΔV=ΔH

• 水など良く使用される物質では、Hは数表で与えられている.

• であるから

pp p p p

S U V HC T pT T T T∂ ∂ ∂ ∂ = = + = ∂ ∂ ∂ ∂

pH C dT= ∫

14

固気平衡モデル  その1

• 振動数ωで調和振動しているN個の原子でできている固体を考える

• 基底状態における各原子の結合エネルギーはε0である

• ひとつの振動子のエネルギーは        である。ここに、nは正整数か0

• よって、各量子状態のエネルギーεは

0nε ω ε= −

0n ω ε−

束縛なし0

0n ω ε−

0ω ε−02 ω ε−03 ω ε−

ーε0束縛原子の基底状態

15

固気平衡モデル  その2

• ボルツマン因子は,

• すると、1次元の振動の分配関数ZSは

• 自由エネルギーFSは

[ ]0exp ( ) /S BZ n k Tω ε= − −∑0

0exp( / )exp( / ) exp( / )

1 exp( / )B

B BB

k Tk T n k Tk T

εε ωω

= − =− −∑

lnS S S B SF U TS k T Z= − = −

exp( / )Bk Tε−

16

固気平衡モデル  その3

• 固体では圧力による仕事は無視できる場合が多いので固体内の原子1個あたりのギブスの自由エネルギーGSはFSとほぼ等しい

• ∴ 固体の絶対活動度λSは

S S S S S S S SG U TS pV U TS Fµ= = − + ≈ − =

exp( / )exp( / ) exp( ln )

S S B

S B S

k TF k T Z

λ µ=

≈ = −

[ ]01 exp( / ) 1 exp( / )B B

S

k T k TZ

ε ω= = − − −

17

固気平衡時の圧力の表式

• 気相は理想気体で近似して,6章の結果を使用すると、

• 固気平衡ならλg=λSであるから、

22g

Q B Q B B

n p pn k Tn k T Mk T

πλ

= = =

[ ]0exp( / ) 1 exp( / )B Q B Bp k Tn k T k Tε ω= − − −

固体

気体

[ ]3/ 2

5/ 202 ( ) exp( / ) 1 exp( / )

2 B B BMp k T k T k Tε ωπ

= − − −

18

ファン・デル・ワールスの状態方程式

• 現実の原子は、有限の体積を持ち、分子間相互作用がある.それらの効果を考慮した気体の状態方程式のモデルが以下のファン・デル・ワールスの状態方程式である。

• 以下でこの方程式を導き、簡単に液体ー気体相転移を説明する.

2 2( / )( ) Bp N a V V Nb Nk T+ − =

19

自由エネルギーの表式の体積変化による補正

• 理想気体のヘルムホルツの自由エネルギーの表式

• 粒子の体積(あるいは反発力の領域)の補正は、1粒子あたりの体積をbとした時、N粒子ならNbであるから

•   V V-Nb

• よって、体積の補正は n=N/V n=N/(V-Nb)となるはず

ln / 1 ln / 1B Q B QF Nk T n n Nk T N Vn = − = −

ln /( ) 1B QF Nk T N V Nb n = − −

20

分子間相互作用   平均場の方法

• 粒子間の弱い長距離力を考慮する– 距離rだけ離れている2つの分子間の相互作用のポテンシャルエネルギーをφ(r)とする

– 気体濃度(数密度)nのとき、r=0にある原子に対する他のすべての原子の相互作用の総和はおよそ

– この時、濃度nが空間に寄らず一定として、その積分値を-2aとした。すなわち、nは空間の平均値(平均場の方法)である。

( ) ( ) 2b b

n r dV n r dV naϕ ϕ∞ ∞

= = −∫ ∫

21

自由エネルギーの表式の相互作用による補正

• 体積V内のN個の分子からなる気体のエネルギーは単一分子の理想気体より、

• N個の粒子では、単純にN倍すると相互作用を倍数えることになるので、係数1/2がある。

• 自由エネルギーも

21 (2 ) /2

U Nna N a V∆ ≈ − ≈ −

21 (2 ) /2

F Nna N a V∴ ∆ ≈ − ≈ −

22

ファン・デル・ワールスの状態方程式の導出

• 自由エネルギーの表式は、二つの補正により

• すると圧力は、

• よって、

{ } 2ln / ( ) 1 /B QF Nk T N n V Nb N a V = − − −

2

2,

B

T N

Nk TF N apV V Nb V∂ = − = − ∂ −

2 2( / )( ) Bp N a V V Nb Nk T+ − =

23

演習

• 液体状態を表せない理想気体の式

• 液体状態への相転移を記述しうるファンデルワールスの式

• これらの式で,最も大きな相違はどこの部分と思われるか?

BpV Nk T=

2 2( / )( ) Bp N a V V Nb Nk T+ − =