産業遺産の権威スチュアート・スミスとパネリストたちが語...

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スチュアート・B・スミス さん 国際産業遺産保存委員会事務局長。イギリス のアイアンブリッジ渓谷を世界遺産登録に導 いた実績をもつ、産業遺産の世界的権威。イ ギリス人。 調西19 沿宿調11 鹿貿鹿西西調西調産業遺産群の価値を専門家がPR −パネルディスカッション− 世界的権威が九州・山口の構想を分析 −スチュアート・スミス 基調講演− 20 12 産業遺産の権威スチュアート・スミスとパネリストたちが語る「産業遺産の価値」とは NAGAYOSHI MAMORU 永吉 守 さん NPO法人 大牟田・荒尾 炭鉱のまちファンクラブ 理事 ICHIHARA TAKESHI 市原猛志 さん 北九州COSMOS クラブ理事 TAMURA SYOUZOU 田村省三 さん 尚古集成館館長 SASAKI KATSUYUKI 佐々木克之 さん 鹿児島県企画部企画課長 ASO TATSUO 安 龍生 さん 田川市石炭・歴史 博物館館長

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  • スチュアート・B・スミスさん国際産業遺産保存委員会事務局長。イギリスのアイアンブリッジ渓谷を世界遺産登録に導いた実績をもつ、産業遺産の世界的権威。イギリス人。

    ❷❸

     

    世界初の鉄橋があるアイアンブ

    リッジ渓谷を世界遺産登録に導い

    た産業遺産の世界的権威、スチュ

    アート・スミスさんが、詰めかけ

    た約450人の聴衆を前に、基調

    講演を行いました。

     

    この日の講演では、広範囲に点

    在する産業遺産の一括登録を目指

    す「九州・山口の近代化産業遺産

    群」に類似している海外の事例を

    紹介。特に、2006年に世界遺

    産に登録されたイギリス南西部コ

    ーンウォール地方の産業遺産を詳

    細に解説しました。

     

    同地方は、19世紀、世界の銅の

    半分を産出した鉱山地帯。世界で

    初めて蒸気エンジンを導入して産

    出量を飛躍的に伸ばし、世界の銅

    マーケットを席巻。

     

    スミスさんは、この地方から蒸

    気エンジンをはじめとする数々の

    技術革新が世界各地に伝で

    んぱ播した

    ことが、「世界中の鉱山の景観を

    変えた」と述べ、その歴史的重要

    性を指摘。同地方に広く点在する

    採掘所や精錬施設、産業を支えた

    人々の生活や文化がわかる施設な

    どが、史実を伝える産業景観とし

    て評価され、世界遺産に一括登録

    されていることを紹介しました。

     

    また、日本に技術革新をもたら

    し、コーンウォールと同様に、広

    範囲に点在する九州・山口の産業

    遺産について「(世界遺産の登録)

    構想は非常に似ている」と分析。

    その一方で「九州・山口のコンセ

    プトに沿う遺産をどう選定してい

    くかが課題」と指摘しながら、「こ

    のコンセプトが、世界遺産に認め

    られれば、九州全体が恩恵を受け

    る」と構想の意義を語りました。

     

    最後は聴衆に向かって「皆さん

    の中に宿っている炭鉱のコミュニ

    ティーへの誇り、そして情熱があ

    れば、必ず成功すると思います」

    とエールを送りました。

     

    基調講演に続き、5人のパネリ

    ストが、九州・山口の産業遺産の

    価値や活用構想を語りました。

     

    6県11市の共同提案を呼びかけ

    た鹿児島県の企画課長・佐さ

    々木克かつ

    之ゆきさんは「九州・山口は古来より

    貿易の窓口だった。近代化の原

    動力になりえたのは、高い外来技

    術と、九州北部に豊富な石炭があ

    ったから」と近代化の背景を分析。

    世界遺産登録に向けては「課題を

    克服し、まずは暫定リスト入りを

    目指したい」と決意を語りました。

     

    鹿児島県の尚しょ

    うこ古集しゅ

    うせいかん

    成館館長・

    田たむら村省しょ

    うぞう三さんは、日本初の軍事コ

    ンビナートを建設した薩摩藩の集

    成館事業を紹介。西洋列強のアジ

    ア植民地化に対抗するため、軍艦

    の建造をはじめ、重・軽工業に西

    洋技術を取り入れ、日本の近代化

    を進めたことを強調。「黒船に対

    抗するため、同等の軍艦をつくら

    なければならなかったことが、近

    代化の最初の動機になった」と見

    解を披露しました。

     

    開催地田川からは、石炭・歴史

    博物館館長・安あ

    そ蘇龍たつ

    お生さんが、筑

    豊炭田が近代化に果たした役割や、

    「伊田竪坑櫓」「二本煙突」の価値

    をアピール。「櫓の深さは約36

    0m。煙突建造より、はるかに難

    しい技術を要した」と話し、西洋

    の高い技術を導入して建造された

    ことを説明。遺産の価値をPRし

    ていくことについては「これまで

    筑豊のなかで連携が図れていなか

    ったが、今後はネットワーク作り

    が求められる。九州・山口の構想

    も、お互いにどのくらい連携が図

    れるかが課題だ」と述べました。

     

    産業遺産の保存・活用に取り組

    む「大牟田・荒尾炭鉱のまちファ

    ンクラブ」理事の永なが

    よし吉守まも

    るさんは、

    活動状況などを報告。「大牟田は、

    市内を楕円状に囲む鉄道のまわり

    に、坑口や港、工場などがあり、

    石炭化学コンビナートを形成して

    いた。まち全体で産業景観をなし

    ていたのが特徴だ。『ファンクラ

    ブ』の活動で、まち全体を博物館

    にしたい」と夢を語りました。

     

    近代建築の記録・保存活動を通

    して、観光のまちづくりを進める

    「北九州Cこ

    OSMOSクラブ」理

    事の市いち

    はら原猛たけ

    し志さんは、官営八幡製

    鉄所が近代化に果たした役割を力

    説。「鉄道レールの国産化を実現

    し、近代における発展途上国のモ

    デルケースに位置づけられる」と

    述べました。また、九州・山口の

    世界遺産構想について「(近代化

    の)ストーリーのなかで、世界に

    どのようなインパクトを与えるこ

    とができたかを示すことが重要」

    と提案しました。

     

    5人の熱のこもった議論のあと、

    スミスさんが総括。「今回の提案

    は非常によくまとまっている。今

    後は、九州・山口のすべての遺産

    を徹底的に調査、議論して、(遺

    産群の)構成資産を絞り込むべき

    だ」とアドバイスを送りました。

    産業遺産群の価値を専門家がPR−パネルディスカッション−

    世界的権威が九州・山口の構想を分析−スチュアート・スミス 基調講演−

    2月3日、福岡県立大学で、筑豊炭田の象徴である「伊田竪たて

    こうやぐら

    坑櫓」と「二本煙突」

    の世界遺産登録を目指す「世界遺産田川シンポジウム」が開かれました。

    シンポジウムは、約20の市民団体と田川市で組織する同シンポジウム実行委員会

    が企画したもの。両産業遺産は、昨年12月、「九州・山口の近代化産業遺産群」の

    ひとつとして、世界遺産の国内暫定リストへの掲載が文化庁に提案されました。

    国際産業遺産保存委員会事務局長を務めるスチュアート・スミスさんと5人のパ

    ネリストが、近代化産業遺産をテーマに熱い議論を交わしました。

    産業遺産の権威スチュアート・スミスとパネリストたちが語る「産業遺産の価値」とは

    世界遺産田川シンポジウム

    NAGAYOSHI MAMORU

    永吉 守さんNPO法人 大牟田・荒尾炭鉱のまちファンクラブ理事

    ICHIHARA TAKESHI

    市原猛志さん北九州COSMOSクラブ理事

    TAMURA SYOUZOU

    田村省三さん尚古集成館館長

    SASAKI KATSUYUKI

    佐々木克之さん鹿児島県企画部企画課長

    ASO TATSUO

    安 龍生さん田川市石炭・歴史博物館館長

  • 安あそ蘇龍たつ

    お生

    さん

    田川市石炭・歴史博物館館長。高

    校教諭、校長を務め、平成12年に

    定年退職。平成18年4月から現職。

    田川郷土研究会副会長。

    昨年12月、九州・山口の6県

    11市が、22件の近代化産業

    遺産を世界遺産の候補として、日

    本の推薦リストに掲載するよう、

    文化庁に共同提案しました。

     

    提案された22件には、鉄の国産

    化を進めた旧八幡製鉄所の東田第

    一高炉跡が含まれています。同高

    炉は1901年に操業を開始しま

    したが、この近代的製鉄所が、当

    時の遠賀郡八幡村に建設された経

    緯には、石炭の供給源であった筑

    豊の存在が欠かせません。三井田

    川炭たん

    こう礦

    (※当時の三井の名称)は、

    八幡製鉄所の操業と同時期に、筑

    豊で最も優良な八尺炭層とその下

    部にある四尺炭層の採掘を進めて

    いました。その中核を担う炭坑と

    して開発されたのが、三井田川伊

    田竪坑です。

     

    ちょうどこの時期は、日本の工

    業が軽工業から本格的な重工業に

    移行していった産業革命期にあた

    ります。筑豊炭田は、大量の石炭

    を供給し、八幡製鉄所をはじめと

    する北九州の工業地帯の発展を支

    えました。石炭エネルギーの供給

    の拠点であった筑豊なくして、日

    本の近代化は語れません。 

     

    明治33(1900)年、三井が、

    田川採炭組を買収して、三井田川

    の歴史がはじまります。三井はす

    ぐに、竪坑開かい

    さく鑿

    による炭鉱の大規

    模開発に乗り出します。系列炭鉱

    であった三井三池炭鉱の関係者の

    協力を得て、イギリスやドイツの

    技術や機械などを積極的に導入し

    ていきます。その最先端技術の導

    入が、日本ではかつてない大事業

    であった地下約360mの竪坑開

    鑿事業を実現させたのです。

     

    ちなみに、現存する第一竪坑櫓

    の材料は、遠くスコットランドか

    ら輸入していますが、第二竪坑櫓

    (昭和46年に直方市に移築。平成

    4年に解体)は、三井三池製作所

    で製造した鋼材で建造されていま

    す。この事実は、1910年の段

    階で、西洋先進諸国の技術を習得

    し、既に鋼材を国産化する技術力

    を有していた事を示しています。

     

    また、高さ45・45mの二本煙突

    は、排煙用に建造されたものです

    が、レンガ造りとしては、国内最

    大級のものです。その高さは、竪

    坑櫓のケージ(石炭や労働者を運

    んだかご)の昇降に必要だった強

    力な蒸気力に見合う高さが求めら

    日本の近代化を証言する、

    世界に誇るべき産業遺産なのです。 れて

    造られた事を物語っています。

     

    また、伊田竪坑櫓と二本煙突は、

    国内はもちろん、今では海外でも

    「コールマインソング」として親

    しまれている「炭坑節」に歌われ、

    世界に誇る炭坑文化の象徴でもあ

    ります。

     

    筑豊の炭鉱関連施設の多くが姿

    を消したなか、伊田竪坑櫓と二本

    煙突は、明治期の炭鉱の技術革新

    を物語る貴重な遺産です。そして、

    九州・山口がリードした日本の近

    代化を証言する、世界に誇るべき

    産業遺産なのです。

    「伊田竪坑櫓」と「二本煙突」が果たした

    近代化への役割とは石炭・歴史博物館館長であり、歴史遺産の活用でまちおこしを目指す市民団体「田川地区近代化産業遺産を未来に伝える会」の副会長を務める安 龍生さんに、「伊田竪坑櫓」と「二本煙突」が日本の近代化に果たした役割について尋ねました。

    ▲伊田竪坑開か い さ く

    鑿工事

    ※ここでいう開鑿工事とは地中を掘削する工事のこと