看護師特定行為研修について ~活動・支援~ ·...
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看護師特定行為研修について~活動・支援~
一般社団法人 南区医師会
南区医師会訪問看護ステーション
主任 池田 里美
本日の内容
1、訪問看護ステーションの特徴
2、看護師特定行為研修の受講動機
3、研修内容
4、活動の実際
5、看護師特定行為研修受講後の気づき
6、まとめ
7、今後の課題
南区医師会訪問看護ステーションの特徴
所在地: 神奈川県 横浜市 南区
1995年 訪問看護ステーション開設
利用者数約130名(うち介護保険81名、医療保険47名)
訪問件数約821件/年、看取り者数 約14名/年
医療依存度の高い利用者が多い。
人工呼吸器、吸引、在宅酸素、胃瘻、膀胱瘻、
人工肛門、腹膜透析、輸液など
連携する医師(医療機関) 60ヶ所
大学病院、200床以上の中規模病院、診療所、
クリニックなど訪問看護指示書の依頼を受ける。
横浜市
看護師特定行為研修の受講動機
受講動機: 訪問看護はひとりで訪問し、利用者の全身状態や介護体制などの状況判断を行い、看護実践を行っている。必要な情報を的確にアセスメントし、医師に報告するスキルが求められている。看護師特定行為研修は、手順書により診療の補助行為を行うため、自身のスキルアップと必要なケアをタイムリーに実践できるため、受講を決めました。
特定行為 5区分10行為
・呼吸器(気道確保に係るもの)関連
・呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連
・呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連
・ろう孔管理関連
・創傷管理関連 学校法人 自治医科大学
看護師特定行為研修センター 2019年3月修了
看護師特定行為研修の研修内容共通科目
e-ラーニングを中心とした講義を繰り返し学習
身体診察など技術習得のため動画を視聴
各科目ごとに筆記試験(学内)
実技試験(模擬患者やシミュレーターを用いて、典型的な疾患を持つ患者への医療面接や身体診察を行う)
病院実習(入院や外来患者に身体診察、医療面接(臨床推論))
区分別科目(選択した区分を学ぶ)
e-ラーニングを中心とした講義を繰り返し学習
区分別科目ごとに筆記試験(学内)
実技試験(演習室でシュミレーターを用い、手技習得のため繰り返し練習)
病院実習(身体診察、医療面接(臨床推論)を用い、特定行為の実施)
区分別科目 実習期間 目安呼吸器(気道確保に係るもの)関連
経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの位置の調整
呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連
侵襲的陽圧換気の設定の変更、非侵襲的陽圧換気の設定の変更、人工呼吸管理がなされている者に対する鎮静薬の投与量の調整、人工呼吸器からの離脱
呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連
気管カニューレの交換
ろう孔管理関連
胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換、膀胱ろうカテーテルの交換
創傷管理関連
褥じょく瘡そう又は慢性創傷の治療における血流のない壊死組織の除去、創傷に対する陰圧閉鎖療法
23時間講義 8時間(4回)+実習15時間(5日間)
63時間講義 39時間(20回)+実習24時間(10日間)
21時間講義5回+実習3日間
50時間講義20時間(10回)+実習30時間(10日間)
72時間講義27時間(14回)+実習45時間(10日間)
活動の実際看護師特定行為研修修了後
これまでと同様に訪問看護のスタッフとして訪問看護に従事している。日々の訪問や緊急対応など、研修で学んだ臨床推論やアセスメント力を生かして、予防や異常時の早期発見に努めている。
特定行為の実施 症例
1、膀胱瘻カテーテルの定期交換 2名
2、血流のない壊死組織の除去 1名(現在は治癒)
膀胱瘻カテーテル交換2019年10月から開始。1、膀胱瘻カテーテルの定期交換 2名
40代,女性,脊髄小脳変性症. 1回/4週交換70代,男性,脊髄小脳変性症. 1回/3週交換訪問診療を専門に行っているクリニックの主治医と連携報告方法は、i-padを用いて医師の診療録に記載している。
膀胱瘻カテーテルの交換
特定行為実施の写真
壊死組織の除去2019年12月~2020年1月特定行為実施
2、血流のない壊死組織の除去 1名(現在、治癒)
2019年11月末に右下腿の腫瘤の切除術を大学病院で施行。その後、創部の感
染を認めたため、必要時に特定行為を実施。往診医、大学病院の皮膚科医、大学病院の地域連携相談室の看護師と連携を行う。
報告方法は、往診医に壊死組織の除去前後の画像を添付し、状況報告を行う。タイムリーな壊死組織の除去や軟膏の変更時期など、医師と協議しながら治癒の促進につながり、感染が制御でき、早期治癒が可能になった。
特定行為実施前後 特定行為実施前後
16 日目
17 日目
28 日目
47 日目壊死組織除去
~特定行為実施~
特定行為研修受講前後の変化~心不全の事例より~
【心不全の急性憎悪のため胸水貯留し入院歴がある、90代、女性】
利用剤を内服し、軽快。在宅療養を行っていた。既往歴:高血圧症心房細動。主訴は両下肢浮腫の増大。徐々に浮腫が増悪するようになり、両下肢~腰部、顔面まで認められるようになった。浮腫の程度や体重の変化、呼吸音や自覚症状(倦怠感や息切れの有無)を評価し、医師に報告するが経過観察となっていた。通院時に検査は未実施。本人、家族から浮腫の増大について心配や不安の声が聞かれた。通院は1回/2週間である。
特定行為研修受講前~これまでの訪問看護~【訪問看護での観察・情報収集項目】
・バイタルサイン測定・頸動脈怒張の有無
・自覚症状(息切れや動悸)、軽労作時の変化
・他覚症状の有無(家族や他機関などから情報収集)
・浮腫の程度、皮膚観察、四肢冷感の有無、体重変動
・水分・食事摂取量、塩分過剰摂取の有無、排便状況
・尿量や回数や色調の変化、内服薬変更の有無 等
【療養指導】
・栄養指導(食事内容、減塩の工夫などを提案する)
・排便コントロール(緩下剤の考慮、活動量の確認)
・皮膚保護(清潔、損傷予防、靴下・靴の選定など)
・座位で行うリハビリの提案(転倒予防など)
・今後予測される症状について本人や家族に説明し、
連絡方法の確認や受診のタイミングなどを助言 等
何らかの要因により浮腫の増大を認め、心不全が悪化している可能性があり、早急な対処が必要だという判断にとどまっていた
特定行為研修受講後~身体診察・医療面接~
【臨床推論】浮腫は鑑別疾患が多岐にわたるため、身体診察・医療面接を行い、必要な情報を意図的に入手する。心不全の急性憎悪以外の要因はないか。
浮腫は、、、 誘因は、、、
全身性、局所性か? 過剰な水分摂取の有無
急激、徐々? 過剰な塩分摂取の有無
一過性、持続性? 薬の変更の有無
日内変動の有無
全身性:心臓性(うっ血性心不全)
バイタルサイン測定 腎臓性(急性、慢性腎不全)
圧痕性浮腫、非圧痕性浮腫? 肝臓性(慢性肝不全、肝硬変、低ALB)
体重増加の有無、程度 内分泌(甲状腺機能低下症、クッシング症候群
尿量、回数・色調の変化の有無 栄養失調、薬物性、特発性
動悸、呼吸困難、起坐呼吸 局所性:血管性浮腫、静脈性、リンパ性、炎症性
食欲不振、下痢、嘔吐 (リンパ性浮腫、下肢静脈瘤、蜂窩織炎、血管炎)
発熱、発汗、疼痛 等
医師がどのような思考プロセスで鑑別診断を行っているか理解することで、「浮腫が増大している」という報告にとどまらず、他の診察所見にも役立つ報告ができるようになり、全身状態を看る視点が広がり、看護実践に役立っている。
まとめ・創傷管理関連(血流のない壊死組織の除去)は、外科的処置を実施
することができるため、早期治療が可能になる。
・気管カニューレ、胃瘻、膀胱瘻などの継続的な医療サービスが必要な
利用者に対して、往診医の負担の軽減、早期対応に伴う利用者の重
症化予防も実践できるようになる。
・看護師特定行為研修は、「特定行為を実施する」ことではなく、特定行
為を実施するために必要な身体診察や医療面接を学ぶことができる。
・臨床推論の学びにより医学的知識を深められ、異常の早期発見や対
応により、チーム医療の推進、利用者に安心感を与えられ利用者や
家族が望む在宅療養の継続が可能になる。
・必要な情報を正確に伝え、どのような検査の必要性があるか治療の
方向性などを医師と協議する知識が身につくようになる。
今後の課題
1、看護師特定行為の周知活動
2、特定行為を行う協力医療機関の確保と協力依頼
3、安全を担保して確実な特定行為の実施
当該手順書に係る特定行為の対象となる患者の選定や
患者の病状の範囲を医師と協議していく
4、訪問看護事業所であり、病院とは異なる環境である
物品の貸し出しや保管方法など
5、特定行為研修修了生の地域におけるネットワーク作り
継続的教育の場の確保
※褥瘡の壊死組織の除去を行うために必要物品の確保
(鋭匙やCooper剪刀、眼科剪刀、攝子など)
ご清聴ありがとうございました。