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34 Ⅱ 症候編
1
症候から鑑別する
吐血は十二指腸より口側からの出血に限られるが,すべての消化管出血(鼻出血を含む)は下血になり得る。
診 断
◦まず,バイタルサインをチェックし,全身状態の安定を図りながら出血の状況や既往歴などを患者および家族に問診する。
◦状態によっては,静脈を確保した上で細胞外補充液の輸液を行ったり,全身状態が不安定(Shock Indexで重症度を判定)であれば集中治療が可能な施設への転送も考慮する。
表1 Shock Index
Shock Index 出血量0.5(正常)1.0(軽症) 1.0 l(23%)1.5(中等症) 1.5 l(33%)2.0(重症) 2.0 l(43%)
Shock Index =PR(脈拍数)/SBP(収縮期血圧)
病歴聴取
吐血は新鮮血か?コーヒー残渣様か?下血はタール便か?鮮血便か?
◦吐血の性状を確認する。新鮮血なら食道からの出血,コーヒー残渣様なら胃からの出血が推測できる。
◦下血の性状を確認する。上部消化管からの出血であればタール便,下部消化管からの出血であれば暗赤色便,鮮血便,粘血便となる。肛門に近いほど新鮮な血液となる。
◦出血の原因となる慢性肝疾患(特に肝硬変),血液疾患,胃・十二指腸潰瘍などの既往歴を確認する。
E 吐血・下血hematoemesis and melena
1 症候から鑑別する
� Ⅱ 症候編 35
E
吐血・下血
◦出血の原因となる NSAIDs,副腎皮質ステロイド,抗凝固薬,血小板凝集抑制薬,胃薬などの服薬歴を確認する。
◦大酒家(1日5合以上10年以上,)あるいは常習飲酒家(1日3合以上5年以上)か,などの飲酒歴の確認も必要である。
出血部位の推定
◦最初に非消化管出血(鼻出血や喀血)を否定し,次いで吐物や便を確認して出血部位を推定する。
◦吐物や便を確認できないときには,肛門指診を行って便の性状を確かめたり,胃管を挿入して胃液の性状を確認する,などを行う。
◦吐血がある,胃管より凝血塊が引ける,タール便である,ならば上部消化管出血を疑う。
◦吐血がなく,胃管より透明な胃液が引ける,暗赤色や鮮紅色の下血を認める,ならば下部消化管出血を疑う。
検 査
◦血液検査:血算,生化学,血糖,血液型,クロスマッチ用血液,動脈血ガス分析
◦胸腹部単純X線写真:free�airの有無,腸管ガスの偏在,腹水貯留
◦心電図:虚血性心疾患および不整脈の有無◦腹部超音波検査:肝硬変,腹水,腫瘍の有無◦腹部骨盤造影CT検査:出血部位の特定に極めて有用である。◦上部消化管出血では内視鏡検査が有用である。
鑑別診断
◦上部消化管出血を来す疾患は,頻度順に,消化性潰瘍,Mallory-Weiss症候群,食道胃静脈瘤破裂,出血性胃炎,胃癌などである。
◦下部消化管出血を来す疾患は,頻度順に,大腸憩室出血,感染性大腸炎,虚血性大腸炎,ポリープ出血,大腸癌,毛細血管拡張症,潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患などである。
◦吐・下血のエピソードがはっきりしないのにもかかわらず,
36 Ⅱ 症候編
1
症候から鑑別する
明らかな貧血の進行があり,血液疾患や他の出血性疾患が否定的なときには,専門診療が必要である。
◦出血源不明の場合,小腸腫瘍(消化管間葉腫瘍,腺癌,リンパ腫,ポリープ),小腸潰瘍(非特異的,Crohn病,Behçet病,小腸結核,アミロイドーシスなど),Meckel憩室,毛細血管拡張症などの小腸疾患も疑う。
必要な処置
◦食道胃静脈瘤破裂が強く疑われ,速やかに内視鏡治療が行えない場合は,S-B チューブを挿入して一次止血を試みる。
◦消化性潰瘍,Mallory-Weiss症候群,出血性胃炎では,内視鏡的止血術および薬物治療(プロトンポンプ阻害薬)が主体となる。
◦大腸内視鏡は,急性期の診断・止血処置ともに有用性が限られているため,待機的に十分な処置を行った後に実施するのが望ましい。
●血管確保2ライン確保する。検査用の採血はこのときに行う。1.通常輸液用
◦酢酸リンゲル液(ソルアセト FⓇ),ファモチジン(ガスターⓇ),オメプラゾールナトリウム(オメプラールⓇ)などが用いられる。
処方例
ソルアセト F 500mlガスター(20mg/2ml)1A側管より静注またはオメプラール20mg+生食100ml 12時間毎(単独ラインで
投与のこと)2.輸血やカテコールアミン製剤用
◦MAP(Hb<7.0g/dl),血小板輸血(Plt<5万)◦肝硬変症例では FFP,ビタミン K,アルブミン製剤の使
用を検討◦点滴速度は心機能,Shock Index により適宜調節
� Ⅱ 症候編 37
E
吐血・下血
●酸素投与,気道確保◦意識,呼吸状態に応じて行う。●胃管チューブ
◦14〜18Fr,挿入後左側臥位で生理食塩水1,000ml以上でゆっくり数回に分けて胃洗浄
◦血性排液が持続して,出血の持続が疑われるとき→緊急内視鏡止血
◦血性排液が徐々に薄くなり,持続出血が否定されたら→待機的内視鏡検査
●尿道カテーテル◦止血が確実でなく,大量の輸液・輸血を要するときに行う。
先輩からのアドバイス
意識障害がある患者の処置を行う場合は,気管挿管を行ったうえで実施しなければならない。
注 意
◦脳血管障害や虚血性心疾患に対する血栓予防に,抗凝固薬(ワーファリンⓇ)や血小板凝集抑制薬(アスピリンⓇ,パナルジンⓇ,プラビックスⓇ)などが用いられているが,高齢者においては合併症として消化管出血を呈することがある。このような場合には,当然,休薬が必要となる。ただし,明らかな血栓症の既往があったり,薬物溶出型冠動脈ステント留置例などでは,休薬による血栓症の危険を(発生率約1%)説明しなければならない。循環器専門医との連携が重要である。
94 Ⅲ 疾患編
1
消化管疾患
病態・分類
◦腸管内容の肛門側への通過が障害された状態である。◦通過障害の発生機序や部位により病態はさまざまであるが,
成因により機能的イレウス(麻痺性および痙攣性)と機械的イレウス(単純性と複雑性)に分類される。
図1 イレウスの分類
イレウス
痙攣性イレウス
機能的イレウス
鉛中毒薬物中毒腹部外傷
腸重積腸軸捻症
腸管の蠕動運動の低下 腸管の分節運動の過剰
麻痺性イレウス
単純性イレウス 絞扼性イレウス
術後の癒着炎症性瘢痕腫瘍異物腸管外からの圧迫
血行障害
機械的イレウス
急性腹膜炎腸間膜動脈閉塞症糖尿病開腹後Parkinson病などの 神経疾患
- +
G イレウス(腸閉塞)ileus(intestinal obstruction)
1 消化管疾患
� Ⅲ 疾患編 95
G
イレウス(腸閉塞)
診 断
筋性防御とBlumberg徴候がみられたら,絞扼性イレウスを疑う
鑑別診断
◦腹痛,悪心・嘔吐および腹部膨満感を呈する疾患(胃・十二指腸潰瘍,急性胃腸炎,胆石発作,膵炎,虫垂炎など)はすべて鑑別疾患である。
◦尿管結石の痛み,尿閉による腹部膨満,子宮外妊娠および卵巣囊腫茎捻転なども鑑別対象である。
◦絞扼性イレウスの場合は緊急手術の適応となるため,他のイレウスとの鑑別が重要である。
臨床症状と病歴聴取
◦上述したように,腹痛,悪心・嘔吐,腹部膨満感および排便・排ガスの停止を来す。
◦発症の時期と変化の有無(急激か緩徐か),腹痛の性状,腹部手術の既往,食事摂取歴などを聴取する。
身体所見
◦単純性イレウスでも腹膜刺激症状を呈することがあるが,高度の筋性防御や反跳痛(Blumberg徴候)を呈する患者では絞扼性イレウスを念頭に置く必要がある。
◦鼠径・大腿ヘルニアの嵌頓によるイレウスもしばしば経験するので,注意が必要である。
◦打診で鼓音を呈することが多いが,絞扼性イレウスなどでは無ガス性のイレウスのこともある。
◦単純性イレウスでは腸音の亢進が周期的に認められ,金属性の響いた腸音が聴取される。
◦直腸診は,直腸癌や癌性腹膜炎の有無の確認に役立つ。◦宿便性イレウスでは,摘便により速やかに症状が改善するこ
96 Ⅲ 疾患編
1
消化管疾患
とがある。
血液検査
◦単純性イレウスでは発症初期にはほとんど異常所見は認められないが,時間の経過とともに脱水による血液濃縮の所見や電解質バランスの異常,炎症反応の増加がみられる。
◦絞扼性イレウスでは,LDH や CPK の上昇のほか,代謝性アシドーシスが出現することもあるが,決定的な検査所見とはいえない。ただし,代謝性アシドーシスを呈していれば,緊急手術を考慮しなければならない。
腹部単純X線
◦立位および臥位の X線検査は必須の検査である。◦立位では腸管内に停滞した液体と気体の存在により,air-fluid
level(ニボーniveau)の形成が認められる。このニボーの存在部位により,小腸イレウスか大腸イレウスかを推察する。
◦前述したように,絞扼性イレウスの場合には,腸管内に気体の存在が少ない無ガス性イレウスを呈することもある。
超音波検査
◦腸液で充満した拡張腸管の描出によって単純性イレウスの確認ができる。
◦小腸の長軸像では,Kerckring皺襞による keyboard�signが確認できる。また,拡張腸管の内容物が腸蠕動により浮動するto-and-fro�movementが確認できる。ただし,絞扼性イレウスではこれらの所見は消失する。
◦腫瘍の描出(pseudokidney sign)や重積腸管の描出(target sign)がなされることもある。ただし,消化管のガスが邪魔して描出されないことも多い。
CT
◦経過や身体所見および単純X線検査により,単なる癒着性イレウスとして矛盾しない場合は必須ではないが,絞扼性イレウスや大腸癌イレウスあるいは血流障害を疑う場合には診断
� Ⅲ 疾患編 97
G
イレウス(腸閉塞)
に際して極めて有用である。◦特に近年の造影MDCT では,大腸癌などの腫瘍の描出,絞
扼性イレウスにおける closed� loop�obstructionの所見,腸管壁の造影不良あるいは欠如など手術を即決できる判断材料を得ることができる。
入院の適応
◦イレウスの診断がつけば,食事および水分摂取が不可能なので入院治療が必要である。
◦軽度の癒着性イレウスは外来での初期診療(輸液や鎮痙薬の投与)の最中に,宿便性イレウスでは摘便により,それぞれ速やかに症状や所見が軽快することもある。
治 療
◦機能的イレウスのほとんどは保存的治療で軽快する。機械的イレウスの治療は以下の通りである。
単純性イレウスには輸液,絞扼性イレウスには手術療法
保存的治療
◦癒着性イレウスと判断した場合には,まず,絶飲食,輸液および電解質補正と,ブチルスコポラミン臭化物(ブスコパンⓇ)やペンタゾシン(ソセゴンⓇ)などの鎮痙薬投与を行う。処方例
ブスコパン 1A 筋注または静注強い痛みのときはソセゴン 15mg 筋注または静注
◦嘔吐がある場合は,鼻管またはイレウスチューブによる減圧を試みる。
◦その他の単純性イレウスでは絶飲食の後,原疾患に対する治療を行う。
◦鎮痛薬の繰り返し投与が必要な場合は,外科的治療の適応と
98 Ⅲ 疾患編
1
消化管疾患
なるので,速やかに外科にコンサルトする。
外科的治療
◦腹膜刺激症状(筋性防御)を認めたときは手術適応となる。また,保存的治療で改善しない単純性イレウスおよび複雑性イレウス(特に絞扼性イレウス)に関しては手術適応となる。
◦絞扼性イレウスに関しては,絞扼腸管を救済できるかどうかは発症から手術までの時間によるので,速やかな診断と治療が重要である。したがって,絞扼性イレウスを疑った場合には速やかに外科にコンサルトする。
図2 イレウスの治療の流れ
腹痛,嘔吐,腹部膨満,排便・排ガスの停止など
単純性イレウス
緊急手術
イレウスチューブ(約1週間程度)
不変・増悪
改善
改善
絞扼性イレウス
絶飲食・補液・鼻管(数日)
保存的に軽快
増悪
不変・増悪
機械的イレウスの疑い
※癒着以外の原疾患が残存する場合には,原疾患に対する治療が必要である(大腸癌など)。
� Ⅲ 疾患編 99
G
イレウス(腸閉塞)
患者・家族への説明のポイント
◦過度に患者を不安がらせる必要はないが,軽度の癒着性イレウスなどでは,一見,軽度に見えても「すぐに治りますよ」とか「軽いですね」などと発言してはいけない。
先輩からのアドバイス
腸液を多量に嘔吐しているときは,まずは鼻管を挿入して胃内の減圧を図り,落ち着いた時点でゆっくり問診や身体所見をとることが有効な場合がある。また,本症では経口摂取が不可能なので,点滴ラインを確保することも必要である。
144 Ⅲ 疾患編
2
肝・胆・膵疾患
病 態
従来「劇症肝炎」と言われていた病態は,肝炎症状を伴わない肝障害と合せて「急性肝不全」に含まれることになった
◦急性肝不全とは“正常肝ないし肝機能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ,初発症状出現から8週以内に,高度の肝機能異常に基づいてプロトロンビン時間(PT)が40%以下ないしは INR値1.5以上を示すもの”と定義され,肝炎症状の有無,昏睡の有無は問わないことになった。
◦成因には,従来の劇症肝炎の成因であるウイルス性肝炎,自己免疫性肝炎,薬物性肝障害などに加え,除外されていた中毒性肝障害,循環不全に伴う急性肝障害,術後肝障害,妊娠脂肪肝(HELLP症候群)などを含める(p.145表1)。
◦アルコール性肝炎や先行する慢性肝障害が存在する acute on chronic症例は除外するが,B型無症候性キャリアからの発症例は従来通り急性肝不全(劇症肝炎)に含める。
◦脂肪性肝疾患などの生活習慣病に起因する慢性肝疾患が認められる症例でも,先行する肝疾患が進展していて肝機能の低下が認められない限り,急性肝不全から除外しない。
診 断
病型分類
◦肝性脳症が認められない,ないしは昏睡度がⅠ度までの「非昏睡型」と,昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症を呈する「昏睡型」に分類される。
◦昏睡型は,初発症状出現から昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症が出現するまでの期間が10日以内の「急性型」と,11日以降56日
B 急性肝不全acute hepatic failure
2 肝・胆・膵疾患
� Ⅲ 疾患編 145
B
急性肝不全
以内の「亜急性型」に区分される。◦従来,劇症肝炎の前駆病変とされていた急性肝炎重症型は「非昏睡型」に含まれることになった。
◦昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症を発症するまでの期間が8〜24週の症例を遅発性肝不全late onset hepatic failure(LOHF)として扱う。
◦従来用いられていた劇症化の予知式(p.146表2)は急性肝不
表1 急性肝不全の成因分類
Ⅰ.ウイルス性 Ⅰ-①A型 Ⅰ-②B型 Ⅰ-②-1.急性感染例 Ⅰ-②-2.キャリア例*
Ⅰ-②-2-i.無症候性キャリア例(誘因なし) Ⅰ-②-2-ii.無症候性キャリアの再活性化例 Ⅰ-②-2-iii.既往感染の再活性化例(de novo肝炎) Ⅰ-②-3.判定不能例 1-③C型 1-④E型 1-⑤その他Ⅱ.自己免疫性Ⅲ.薬物性 Ⅲ-①薬物アレルギー Ⅲ-②薬物中毒Ⅳ.循環障害Ⅴ.悪性腫瘍の肝浸潤Ⅵ.代謝性Ⅶ.術後肝不全Ⅷ.その他Ⅸ.成因不明Ⅹ.分類不能Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ-①およびⅨは「劇症肝炎」に相当する急性肝不全の成因である。一方,Ⅲ-②,Ⅳ〜Ⅷは肝臓に炎症を伴わない急性肝不全に相当する。なお,これら分類に際して用いる診断基準は別途定める。* 無症候性キャリアで免疫抑制・化学療法が誘因で発症した場合は
再活性化例として扱う。また,HBs抗原陰性の既往感染例も再活性化した場合はキャリア例として扱うが,その位置づけに関しては,今後検討することにする。
146 Ⅲ 疾患編
2
肝・胆・膵疾患
全の予知式としても有用であるが,肝炎症状を有する「劇症肝炎」を想定しているので,厳密な検証は今後の研究に委ねられている。
表2 劇症化の予知式
厚生省特定疾患難治性肝炎研究班による重症肝炎登録システムの予知式λ=logit(p) =−2.7469+0.0914×年齢+0.1255×T.Bil(mg/dl)−0.1534×PT(%)λ>0で劇症化,λ<0で非劇症化と判定する。 ※ 予知式を小児に適応することはできない。経時的に評価するのが望ま
しい。PT活性80%以下の急性肝炎に対する劇症化予知式λ=logit(p) = 0.692×log[(1+T.Bil(mg/dl)]−0.065×PT( %)+1.388× 年 齢*1
+0.868×成因*2−1.156λ>0で劇症化,λ<0で非劇症化と判定する。 *1 年齢:50歳未満=0点,50歳以上=1点 *2 成因:HAV,HCV,HEV,急性HBV,その他のウイルス,薬物
性=0点 HBV キャリア,自己免疫性肝炎,成因不明=1点
臨床症状
肝は縮小し,肝濁音界も縮小
◦自覚症状:全身倦怠感,食欲不振,悪心・嘔吐◦他覚症状:黄疸,肝性脳症,羽ばたき振戦,発熱,腹水,浮
腫,出血傾向,頻脈,肝臓の縮小に伴う肝濁音界の縮小
一般検査
◦肝機能検査:ASTやALTの急速な低下,総ビリルビン高値,Alb低下,ChE低下,総コレステロール低下,アンモニア高値
◦血液凝固検査:PT延長,HPT低下◦肝炎マーカー:HA-IgM抗体,HBs抗原,HBs抗体,HBc-IgM
抗体,HBc-IgG抗体,HBV-DNA,HCV抗体,HCV-RNA,ANA,AMA,IgG,IgA,IgM
� Ⅲ 疾患編 147
B
急性肝不全
◦血漿アミノ酸:Fischer比(BCAA/AAA モル比)低下,BTR(BCAA/Tyr モル比)低下
◦その他:腎機能障害,糖代謝障害,HGF高値,AFP高値,AKBR(動脈血中ケトン体比)低下
画像検査
◦腹部超音波検査:肝萎縮,腹水,胆囊壁肥厚,肝実質エコーの不均一化(地図状・斑状所見)
◦腹部CT:肝萎縮,腹水◦頭部CT:脳浮腫◦アシアロ肝シンチグラフィ:LHL15の低下,HH15の上昇
※LHL15=L15/(L15+H15),HH15=H15/H3(L15:投与後15分の肝の放射能,H15:投与後15分の心臓の放射能,H3:投与後3分の心臓の放射能)
◦脳波:徐波化,三相波の出現(脳症を反映する)
診断のポイント
◦初診時の AST/ALT の高さは予後を反映しない。◦自覚症状,特に全身倦怠感と食欲が改善することは,予後良好のサインである。
◦肝性脳症の診断は,肝移植の適応判断と密接にかかわる重要な所見であるため,“見た感じ”など主観的判断のみに頼らず,長谷川式スケール法や number connection test(NCT),タッチパネルを用いた診断ソフト(neuro-physiological tests:NPテスト,日本肝臓学会作成)など,客観的指標を用いて経時的に変化を記録するのが望ましい。
◦肝萎縮も経時的に進行するため,初期にみられなくても繰り返し画像検査を行い,右葉最大径などの計測値を評価する必要がある。
治 療
直ちに肝補助療法(血漿交換など)を開始する
148 Ⅲ 疾患編
2
肝・胆・膵疾患
肝不全の治療
◦肝補助治療:血漿交換(plasma exchange:PE),凍結血漿輸血,Alb補充などは,発症の早期から急性肝不全への移行が強く疑われる場合(予知式など)では,積極的に検討する。
◦全身管理:絶食,維持輸液,ビタミン剤,H2ブロッカーまたはプロトンポンプ阻害薬(PPI)
◦栄養管理:可能な限り経口摂食(25kcal/kg 30g低蛋白食)が良い。経口不能な場合には高カロリー輸液(ブドウ糖を中心とする),BCAA製剤(アミノ酸負荷に注意),血糖コントロールを行う。
◦原疾患治療:B型肝炎,C型肝炎,自己免疫性肝炎では各々の治療を行う。循環障害,悪性腫瘍,代謝性などでも原疾患の改善に努める。
◦免疫抑制薬:原疾患治療に用いる場合以外は原則として使用しない。腎不全および感染症合併時には注意を要する。
合併症治療
◦脳浮腫:発現時には血液濾過透析(HDF)など肝補助を行う。人工呼吸管理。
◦肝性脳症:ラクツロース投与(BCAA製剤はむしろ高アンモニア血症に注意する)
◦感染症:予防的治療は行わない。徴候があれば速やかに抗菌薬を投与する。免疫抑制薬使用時には面会制限・隔離やガウンテクニックを行う。
◦腎不全:尿量および心拡大に注意し,血漿交換時に透析を行う。
◦DIC:劇症肝炎では“DIC の診断基準は用いることができない”ことに注意する。
◦消化管出血:出血傾向,高ストレス状態,副腎皮質ステロイド使用などにより,出血を来すことがあるので,予防的に PPIを用いることが勧められる。
� Ⅲ 疾患編 149
B
急性肝不全
肝移植
◦急性肝不全発症の早期より,肝移植の選択肢を念頭に置き,劇症肝炎に対する肝移植適応ガイドライン(表3)などを参考に,そのタイミングを逃さないようにすることが重要である。
◦合併症のコントロール,脳死肝移植の場合には移植センターへの登録,生体肝移植の場合にはドナーの選定とスクリーニング等,行うべきことが多く,手間と時間を要する。
◦救命は一刻を争う場合もあり,できるだけ早期のうちに専門施設と連絡を取り対応を図ることが重要である。
表3 劇症肝炎に対する肝移植適応ガイドライン
Ⅰ.脳症発現時に次の5項目のうち2項目以上を満たす場合は死亡と予測して肝移植の登録を行う
1 年齢:45歳以上2 初発症状から脳症発現までの日数:11日以上(亜急性)3 PT(%):10%未満4 T.Bil:18.0mg/dl以上5 D.Bil/T.Bil比:0.67以上Ⅱ.治療開始(脳症発現)から5日後における予後の再予測1 脳症がⅠ度以内に覚醒,あるいはⅡ度以上の改善2 PT活性(%)が50%以上に改善以上の2項目のうちで認められる項目数が◦2項目とも満たす:生存と予測して移植の登録を取り消す◦0ないし1項目を満たす:死亡と再予測して肝移植の登録を継続する
(日本急性肝不全研究会,1996)
先輩からのアドバイス
従来の定義に従った「劇症肝炎」は,現在でも特定疾患として公費による医療費助成制度対象疾患に指定されている。したがって,確定診断に至った場合には速やかに手続きを進めるよう,家族など関係者に周知する必要がある。