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66 表 222-8 世界における我が国化学産業の位置付け(化学部門売上高基準) 資料:Chemical…&…Engineering…News 等から経済産業省作成 順位 社名(国・地域名) 売上高 (10 億ドル) 1 BASF(独) 31.3… 2 Du…Pont(米) 27.7… 3 Bayer(独) 20.2… 4 Dow…Chemical(米) 18.6… 5 ExxonMobil(米) 13.8… 6 ICI(英) 13.7… 7 Shell(英/蘭) 12.9… 8 AkzoNobel(蘭) 12.3… 9 Degussa(独) 10.1… 10 BP(英) 9.4… 11 Total(仏) 9.3… 12 Elf…Aquitaine(仏) 9.3… 13 住友化学(日) 8.1… 14 Huntsman(米) 8.0… 15 三井化学(日) 7.8… 16 Henkel(独) 7.3… 17 Aventis(仏) 7.1… 18 GE(米) 6.9… 19 Solvay(ベルギー) 6.8… 20 大日本インキ化学(日) 6.7… 32 SABIC(サウジアラビア5.3… 48 Lyondell(米) 3.7… 1999 年 順位 社名(国・地域名) 売上高 (10 億ドル) 1 Dow…Chemical(米) 40.2… 2 BASF(独) 38.2… 3 Du…Pont(米) 30.1… 4 RoyalDutchShell(英/蘭) 29.5… 5 ExxonMobil(米) 27.8… 6 Total(仏) 24.9… 7 BP(英) 21.2… 8 Bayer(独) 18.1… 9 Sinopec(中) 16.7… 10 三菱化学(日) 16.3… 11 SABIC(サウジアラビア15.9… 12 Degussa(独) 14.0… 13 Formosa(台) 12.6… 14 Akzo…Nobel(蘭) 11.8… 15 Huntsman(米) 11.4… 16 三井化学(日) 11.4… 17 Air…Liquide(仏) 10.7… 18 ICI(英) 10.3… 19 住友化学(日) 9.9… 20 東レ(日) 9.9… 32 Ineos…Group(英) 7.0… 45 LyondellChemical(米) 6.0… 2004 年 順位 社名(国・地域名) 売上高 (10 億ドル) 1 BASF(独) 70.5… 2 Dow…Chemical(米) 57.5… 3 Ineos…Group(英) 47.0… 4 Lyondell…Basell(蘭) 38.4… 5 ExxonMobil(米) 38.4… 6 SABIC(サウジアラビア34.4… 7 Sinopec(中) 33.8… 8 Du…Pont(米) 30.4… 9 Total(仏) 29.7… 10 Formosa(台) 27.5… 11 RoyalDutchShell (英/蘭) 26.3… 12 Bayer(独) 23.7… 13 Akzo…Nobel(蘭) 22.7… 14 三菱化学(日) 18.6… 15 Air…Liquide(仏) 17.7… 16 Evonik(独) 17.1… 17 Petro…China(中) 16.0… 18 Yara(ノルウェー) 15.8… 19 三井化学(日) 14.4… 20 Linde(独) 14.0… 2008 年 99 年、米・ Huntsman に 一部の石油化 学を売却。 01 年、英・ Ineos にシリ カ、塩素等の 事業を売却。 06年、米・Huntsman 欧州汎用品事業を買 収。 07年、米・GEプラス チック事業を買収。 05 年、 独・BASF と 英・BP の 石油化学事業をそれぞれ買収。 07 年、蘭・Basell (BASF と Shell のポリオレフィン 事業会社)を買収。 表 222-7 世界における我が国鉄鋼産業の位置付け(粗鋼生産量基準) 資料:Metal…Bulletin 資料等から経済産業省作成 順位 社名(国名) 生産量(100万トン) 1 新日本製鐵(日) 26.8… 2 POSCO(韓) 23.4… 3 British…Steel(英) 15.7… 4 Usinor…Sacilor(仏) 15.5… 5 Riva(伊) 14.4… 6 Arbed(ルクセンブルク12.1… 7 USX(米) 12.0… 8 NKK(日) 11.5… 9 川崎製鉄(日) 11.1… 10 住友金属工業(日) 10.7… 1995 年 順位 社名(国名) 生産量(100万トン) 1 Mittal…Steel(蘭) 63.0… 2 Arcelor(ルクセンブルク46.7… 3 新日本製鐵(日) 32.0… 4 POSCO(韓) 30.5… 5 JFE スチール(日) 29.9… 6 上海宝鋼(中) 22.7… 7 US…Steel(米) 19.3… 8 Nucor(米) 18.4… 9 Corus(英) 18.2… 10 Riva(伊) 17.5… 2005 年 順位 社名(国名) 生産量(100万トン) 1 Arcelor…Mittal (ルクセンブルク) 73.2 2 河北鋼鉄集団(中) 40.2 3 上海宝鋼(中) 38.9 4 POSCO(韓) 31.1 5 武鋼集団(中) 30.3 6 鞍本集団(中) 29.3 7 沙鋼集団(中) 26.4 8 新日本製鐵(日) 24.3 9 JFE スチール(日) 23.5 10 Tata…Steel(印) 21.9 2009 年 02 年 合併 02 年 合併 06 年合併 07 年 合併 ② 化学 化学産業は、欧米企業中心の業界であったが、過去 10 年程度の推移をみると、中国、サウジアラビア等の 新興国企業の成長が目覚ましく、化学企業上位 10 社(化 学部門売上高基準)に占める新興国企業数は、1999 年 にはゼロであったが、2008 年には3社と増加している (表222-8)。 化学業界では、無機化学や石油化学など汎用化学品分 野において、SABIC(サウジアラビア)や Sinopec(中) など新興国企業が、事業買収や設備増強等によって得た スケールメリットと廉価な原材料調達によってコスト競 争力を強め、売上シェアを伸ばしている。 これに対し、BASF(独)、Dow…Chemical(米)、Du… Pont(米)など欧米大手企業は、汎用化学品分野に関 する過剰設備の再編、売却あるいは撤退を進め、その分 野の比重を下げる一方、医薬や農薬など付加価値の高い 高機能化学分野に注力し、事業構造の組替えを進めてい る。また、高機能化学を志向する欧米企業の中において も、Ineos…Group(英)や Lyondell…Basell(蘭)などの 企業が、他企業が売却する石油化学事業を相次ぎ買収 し、規模を拡大させている。 ③ 電気機械 電気機械産業では、我が国企業が多数売上高上位を占 めているが、最近では、韓国・台湾企業の成長が著しく、 全体として順位を下げている(表 222-9)。

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表 222-8 世界における我が国化学産業の位置付け(化学部門売上高基準)

資料:Chemical…&…Engineering…News 等から経済産業省作成

順位 社名(国・地域名) 売上高(10億ドル)

1 BASF(独) 31.3…2 Du…Pont(米) 27.7…3 Bayer(独) 20.2…4 Dow…Chemical(米) 18.6…5 ExxonMobil(米) 13.8…6 ICI(英) 13.7…7 Shell(英/蘭) 12.9…8 AkzoNobel(蘭) 12.3…9 Degussa(独) 10.1…10 BP(英) 9.4…11 Total(仏) 9.3…12 Elf…Aquitaine(仏) 9.3…13 住友化学(日) 8.1…14 Huntsman(米) 8.0…15 三井化学(日) 7.8…16 Henkel(独) 7.3…17 Aventis(仏) 7.1…18 GE(米) 6.9…19 Solvay(ベルギー) 6.8…20 大日本インキ化学(日) 6.7…

32 SABIC(サウジアラビア) 5.3…

48 Lyondell(米) 3.7…

1999 年順位 社名(国・地域名) 売上高

(10億ドル)1 Dow…Chemical(米) 40.2…2 BASF(独) 38.2…3 Du…Pont(米) 30.1…4 RoyalDutchShell(英/蘭) 29.5…5 ExxonMobil(米) 27.8…6 Total(仏) 24.9…7 BP(英) 21.2…8 Bayer(独) 18.1…9 Sinopec(中) 16.7…10 三菱化学(日) 16.3…11 SABIC(サウジアラビア) 15.9…12 Degussa(独) 14.0…13 Formosa(台) 12.6…14 Akzo…Nobel(蘭) 11.8…15 Huntsman(米) 11.4…16 三井化学(日) 11.4…17 Air…Liquide(仏) 10.7…18 ICI(英) 10.3…19 住友化学(日) 9.9…20 東レ(日) 9.9…

32 Ineos…Group(英) 7.0…

45 LyondellChemical(米) 6.0…

2004 年順位 社名(国・地域名) 売上高

(10億ドル)1 BASF(独) 70.5…2 Dow…Chemical(米) 57.5…3 Ineos…Group(英) 47.0…4 Lyondell…Basell(蘭) 38.4…5 ExxonMobil(米) 38.4…6 SABIC(サウジアラビア) 34.4…7 Sinopec(中) 33.8…8 Du…Pont(米) 30.4…9 Total(仏) 29.7…10 Formosa(台) 27.5…11 RoyalDutchShell(英/蘭) 26.3…12 Bayer(独) 23.7…13 Akzo…Nobel(蘭) 22.7…14 三菱化学(日) 18.6…15 Air…Liquide(仏) 17.7…16 Evonik(独) 17.1…17 Petro…China(中) 16.0…18 Yara(ノルウェー) 15.8…19 三井化学(日) 14.4…20 Linde(独) 14.0…

2008 年

99年、米・Huntsman に一部の石油化学を売却。01年、英・Ineos にシリカ、塩素等の事業を売却。

06 年、米・Huntsman欧州汎用品事業を買収。07年、米・GEプラスチック事業を買収。

05 年、独・BASF と英・BP の石油化学事業をそれぞれ買収。

07年、蘭・Basell(BASF と Shellのポリオレフィン事業会社)を買収。

表 222-7 世界における我が国鉄鋼産業の位置付け(粗鋼生産量基準)

資料:Metal…Bulletin 資料等から経済産業省作成

順位 社名(国名) 生産量(100万トン)1 新日本製鐵(日) 26.8…2 POSCO(韓) 23.4…3 British…Steel(英) 15.7…4 Usinor…Sacilor(仏) 15.5…5 Riva(伊) 14.4…6 Arbed(ルクセンブルク) 12.1…7 USX(米) 12.0…8 NKK(日) 11.5…9 川崎製鉄(日) 11.1…10 住友金属工業(日) 10.7…

1995 年順位 社名(国名) 生産量(100万トン)1 Mittal…Steel(蘭) 63.0…2 Arcelor(ルクセンブルク) 46.7…3 新日本製鐵(日) 32.0…4 POSCO(韓) 30.5…5 JFE スチール(日) 29.9…6 上海宝鋼(中) 22.7…7 US…Steel(米) 19.3…8 Nucor(米) 18.4…9 Corus(英) 18.2…10 Riva(伊) 17.5…

2005 年順位 社名(国名) 生産量(100万トン)1 Arcelor…Mittal(ルクセンブルク) 73.22 河北鋼鉄集団(中) 40.23 上海宝鋼(中) 38.94 POSCO(韓) 31.15 武鋼集団(中) 30.36 鞍本集団(中) 29.37 沙鋼集団(中) 26.48 新日本製鐵(日) 24.39 JFE スチール(日) 23.510 Tata…Steel(印) 21.9

2009 年

02年合併

02年合併

06年合併

07年合併

② 化学化学産業は、欧米企業中心の業界であったが、過去

10 年程度の推移をみると、中国、サウジアラビア等の新興国企業の成長が目覚ましく、化学企業上位 10 社(化

学部門売上高基準)に占める新興国企業数は、1999 年にはゼロであったが、2008 年には3社と増加している(表 222-8)。

化学業界では、無機化学や石油化学など汎用化学品分野において、SABIC(サウジアラビア)や Sinopec(中)など新興国企業が、事業買収や設備増強等によって得たスケールメリットと廉価な原材料調達によってコスト競争力を強め、売上シェアを伸ばしている。これに対し、BASF(独)、Dow…Chemical(米)、Du…

Pont(米)など欧米大手企業は、汎用化学品分野に関する過剰設備の再編、売却あるいは撤退を進め、その分野の比重を下げる一方、医薬や農薬など付加価値の高い高機能化学分野に注力し、事業構造の組替えを進めている。また、高機能化学を志向する欧米企業の中において

も、Ineos…Group(英)や Lyondell…Basell(蘭)などの企業が、他企業が売却する石油化学事業を相次ぎ買収し、規模を拡大させている。

③ 電気機械電気機械産業では、我が国企業が多数売上高上位を占

めているが、最近では、韓国・台湾企業の成長が著しく、全体として順位を下げている(表 222-9)。

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第2章

第2節グローバル市場の変化に対する我が国ものづくり体制の再構築

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

表 222-9 世界における我が国電気機械産業の位置付け(売上高基準)

順位 社名(国・地域名) 売上高(10億ドル)1 General…Electric(米) 100.5…2 Siemens(独) 66.0…3 日立製作所(日) 62.4…4 松下電器産業(日) 58.8…5 ソニー(日) 53.2…6 東芝(日) 41.5…7 Royal…Philips…Electronics(蘭) 38.5…8 NEC(日) 37.2…9 ABB(スイス) 30.9…10 Lucent…Technologies(米) 30.1…11 三菱電機(日) 29.7…12 Motorola(米) 28.4…13 Intel(米) 26.3…14 L.M.Ericsson(スウェーデン) 23.2…15 Samsung…Electronics(韓) 18.4…16 Northern…Telecom(加) 17.6…17 Electrolux(スウェーデン) 14.8…18 三洋電機(日) 14.7…19 Nokia(フィンランド) 14.5…20 シャープ(日) 13.7…

1998 年順位 社名(国・地域名) 売上高(10億ドル)1 General…Electric(米)* 152.9…2 Siemens(独) 91.5…3 日立製作所(日) 84.0…4 松下電器産業(日) 81.1…5 Samsung…Electronics(韓) 71.6…6 ソニー(日) 66.6…7 東芝(日) 54.3…8 NEC(日)* 45.2…9 Tyco…International(米) 41.0…10 LG…Electronics(韓) 37.8…11 Royal…Philips…Electronics(蘭) 37.7…12 Nokia(フィンランド)* 36.4…13 Motorola(米)* 35.3…14 Intel(米)* 34.2…15 三菱電機(日) 31.7…16 シャープ(日) 23.6…17 三洋電機(日) 23.1…18 ABB(スイス)* 21.9…19 L.M.Ericsson(スウェーデン)* 18.0…20 Electrolux(スウェーデン) 16.4…

2005 年順位 社名(国・地域名) 売上高(10億ドル)1 General…Electric(米)* 183.2…2 Siemens(独) 123.6…3 Samsung…Electronics(韓) 110.4…4 日立製作所(日) 99.5…5 LG…Electronics(韓) 82.1…6 パナソニック(日) 77.3…7 ソニー(日) 76.9…8 Nokia(フィンランド)* 74.2…9 東芝(日) 66.2…10 Hon…Hai…Precision…Industry(台) 61.9…11 NEC(日)* 42.0…12 Royal…Philips…Electronics(蘭) 38.8…13 Intel(米)* 37.6…14 三菱電機(日) 36.5…15 ABB(スイス)* 34.9…16 L.M.Ericsson(スウェーデン)* 31.7…17 Motorola(米)* 30.1…18 シャープ(日) 28.3…19 Schneider…Electric(仏) 26.8…20 Emerson…Electric(米) 25.3…

2009 年

備考:1998 年のデータで「Electronics,…Electrical…Equipment」の業種に分類されている企業を対象として集計したもの。   *印の企業は、2005 年及び 2009 年の FORTUNE誌では他の業種として分類されている。資料:FORTUNE「FORTUNE…GLOBAL…500」から経済産業省作成

上位を堅持しているシーメンス(Siemens、独)についてみると、1990 年の東西ドイツ統一以降、旧東独地域の企業買収を行ったのに続き、1999 年の欧州電力自由化をにらみ、欧州域内における主導的地位の獲得のために、欧州他国企業を中心とした買収を進めた(表

222-10)。また、国際競争力を強化していくために、自社の中核事業を見極めながら、通信ネットワーク事業等の買収を進めている。一方で、半導体事業、携帯電話事業、自動車部品部門といった非中核事業の分離を行い、事業の選択と集中を進めている。

表 222-10 シーメンスによる買収事例

時期 対象(業種) 国名  内容1989 Controlmatic…Ibérica(電機) スペイン 買収

199010 月に東西ドイツが統一

Nixdorf(コンピュータ) 独 買収Volkseigener-Betrieb(旧東ドイツ国営企業。電機など) 独 11工場を買収(~ 1992 年)

1991Plessey(軍需エレクトロニクス) 英 買収Görlitz…Machine…Engineering(電機) 独 買収

19922 月に欧州連合条約調印、欧州共同体(EC)が誕生

Rolm(電機) 米 買収1997 Rolls…Royce(原動機) 英 蒸気タービン製造子会社を買収

1998Westinghouse(重電、電機) 米 化石燃料発電プラント部門を買収Elektrowatt(重電、機械) スイス 産業機械・建設機械部門を買収

1999

2 月に欧州連合内の電力自由化開始

Argon…Networks(通信) 米 買収Castle…Networks(通信) 米 買収Accelerated…Networks(通信) 米 資本参加(20%出資)

2000 Acuson…Corporation(医療) 米 買収

2001Atecs…Mannesmann(電機) 独 買収Framatome(原子炉) 仏 原子力部門を統合

2003 Alstom(重電) 仏 産業用タービンの2部門を買収

2004US…Trench…Electric…Holding…B.V.(重電) 蘭 買収Bonus…Energy(風力発電) デンマーク 買収US…Filter…Corporation(水処理) 米 買収

2005VA…Technologie(重電) オーストリア 買収Flender…Holding(電機) 独 買収

2006Bayer(医薬) 独 診断薬事業を買収Kopp…&…kausch(蒸気タービン) 独 買収Power…Machines(重電) 露 買収(25%出資)

2007UGS(自動制御ソフトウェア) 米 買収Dade…Behring(診断薬・機器) 米 買収

資料:同社公開資料等から経済産業省作成

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表 222-11 世界における我が国自動車産業の位置付け(販売台数基準)

順位 社名(国名) 販売台数(万台)シェア(%)1 GM(米) ① 1,395… 25.4%2 Ford(米) ② 821… 14.9%3 DaimlerChrysler(独) ③ 621… 11.3%4 トヨタ(日) ④ 540… 9.8%5 Volkswagen(独) 483… 8.8%6 Renault・日産(仏・日)…⑤ 477… 8.7%7 PSA(仏) 243… 4.4%8 ホンダ(日) 238… 4.3%9 現代自動車(韓) 191… 3.5%10 BMW(独) 73… 1.3%11 Lada(露) 73… 1.3%12 MG…Rover(英) 25… 0.5%13 Proton(マレーシア) 17… 0.3%14 Volvo(スウェーデン) 17… 0.3%15 Iveco/Iribus/Ikarus(伊) 14… 0.3%16 International(米) 13… 0.2%17 Paccar(米) 10… 0.2%18 双竜(韓) 6… 0.1%

その他MAN(独)、Porche(独)、Ferrari(伊)等

235… 4.3%

1999 年順位 社名(国名) 販売台数(万台)シェア(%)1 GM(米) ① 1,295… 22.1%2 Ford(米) ② 751… 12.8%3 トヨタ(日) ④ 677… 11.5%4 DaimlerChrysler(独) ③ 575… 9.8%5 Renault・日産(仏・日) ⑤ 525… 8.9%6 Volkswagen(独) 497… 8.5%7 PSA(仏) 315… 5.4%8 ホンダ(日) 290… 4.9%9 現代自動車(韓) 281… 4.8%10 BMW(独) 106… 1.8%11 Lada(露) 77… 1.3%12 Volvo(スウェーデン) 19… 0.3%13 Proton(マレーシア) 16… 0.3%14 Iveco/Iribus/Ikarus(伊) 15… 0.3%15 MG…Rover(英) 14… 0.2%16 双竜(韓) 13… 0.2%17 Paccar(米) 9… 0.2%18 International(米) 9… 0.1%

その他Porche(独)、MAN(独)Ferrari(伊)等

379… 6.5%

2003 年順位 社名(国名) 販売台数(万台)シェア(%)1 トヨタ(日) ④ 877… 12.9%2 GM(米) ⑥ 820… 12.1%3 Ford(米) ⑦ 686… 10.1%4 Volkswagen(独) 608… 8.9%5 Renault・日産(仏・日) ⑧ 575… 8.5%6 現代自動車(韓) 439… 6.5%7 ホンダ(日) 379… 5.6%8 PSA(仏) 331… 4.9%9 Fiat(伊) 249… 3.7%10 スズキ(日) 230… 3.4%11 Chrysler(米) 198… 2.9%12 Daimler(独) 192… 2.8%13 BMW(独) 137… 2.0%14 三菱自動車(日) 113… 1.7%15 Avto…VAZ(露) 85… 1.2%16 富士重(日) 56… 0.8%17 第一汽車(中) 55… 0.8%18 Tata(印) 52… 0.8%19 東風汽車(中) 48… 0.7%

その他いすゞ、Volvo、BYD等 667… 9.7%

2008 年

備考:上記は、FOURIN「世界自動車メーカー年鑑」のグループ分類に沿って作成している。   ① スズキ(日)、富士重工(日)、いすゞ(日)、Saab(スウェーデン)、Fiat(伊)等含む。    ② マツダ(日)、Volvo(乗用車、スウェーデン)、Jaguar(英)、Land…Rover(英)等含む。   ③ 三菱自動車(日)等含む。    ④ ダイハツ(日)、日野自動車(日)含む。    ⑤ 日産ディーゼル(日)等含む。    ⑥ Opel(独)、Saab(スウェーデン)等含む。   ⑦ Volvo(乗用車、スウェーデン)、マツダ(日)等含む。    ⑧ Samsung(韓)、Dacia(ルーマニア)含む。資料:FOURIN「世界自動車メーカー年鑑 2005」、「世界自動車調査月報 2009 年」から経済産業省作成

④ 自動車自動車産業における販売台数上位企業をみると、

1999 年から 2008 年にかけて日本企業のシェアは増加

し、販売台数上位 20 社のうち 6 社を占めるに至っている。一方、最近では、韓国、中国、インドといった新興国企業の台頭が目立つ(表 222-11)。

輸送用機械と電気機械について、資本回転率と売上高営業利益率を用いて主要な企業を比較してみる。輸送用機械について、トヨタ自動車(株)とフォルクスワーゲン(独)を比較すると、フォルクスワーゲン

では、2001 年から 2004 年にかけて営業利益率が低下するとともに資本回転率が大きく低下し、ROA は5%から2%付近まで低下した(図)。一方、2005 年以降は、資本回転率を大きく変化させることなく売上高を拡大させつつ、営業利益率も上昇させている。投資と販売戦略が功を奏していることがうかがえる。トヨタ自動車(株)では、2000 年以降 2007 年にかけて、資本回転率の低下を伴いつつ売上高を拡大させるとともに営業利益率も緩やかに上昇させており、継続的な投資を行いつつも、ROA は一貫してフォルクスワーゲンを上回る 10%程度を維持した。また、電気機械について、ソニー(株)とサムスン電子(韓)を比較すると、サムスン電子では、2002 年

以降、営業利益率を低下させつつも売上高を急速に拡大させていることがみてとれる。この間、資本回転率は上昇傾向にあるが、総資産は 2007 年まで増加を続けており、同時期、投資の水準を超える売上高の拡大を継続していたといえる。一方、ソニー(株)では、2000 年から 2007 年にかけて、資本回転率は低下させつつも、売上高は緩やかに増加し、営業利益率は安定的に推移している。この間、ROA はほぼ2%で安定的に推移している。2008 年の急激な業績悪化の影響を除けば、トヨタ自動車(株)やソニー(株)は、ROA、営業利益率ともに安定している一方で、フォルクスワーゲンにおける 2005 年以降の利益を確保する動きや、サムスン電子における売上高増大を目指す動きなど、各社における投資戦略や経営方針が相違していることがうかがえる。

財務データからうかがえる日本企業と海外企業の経営戦略

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第2章

第2節グローバル市場の変化に対する我が国ものづくり体制の再構築

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

【図 日本企業と海外企業の業績数値推移の比較】

備考:グラフ中の円の大きさは売上高を示している。   資本回転率=売上高 /総資産、ROA=営業利益/総資産とした。資料:ブルームバーグより経済産業省作成

〔輸送用機械〕(トヨタ自動車(株)とフォルクスワーゲンの比較)

〔電気機械〕(ソニー(株)とサムスン電子の比較)

前段のコラムで取り上げたサムスン電子(韓)について、同社の財務諸表をもとに、収益構造を確認する。売上高に占める海外比率が8割を超える同社の営業利益に占める海外比率は2割程度であり、国内において

収益基盤を確立していることがうかがえる(図1)。

サムスン電子の収益構造

【図1 サムスン電子の連結売上高・営業利益の国内・海外比率】

資料:同社財務諸表から経済産業省作成

〔売上高〕 〔営業利益〕

事業部門別に売上高と営業利益額をみると、売上高の構成は比較的バランスを保っているのに対し、営業利益面では半導体部門と液晶パネル部門が大きな収益源となってきたことが分かる(図2)。2007 年以降は、半導体市況の悪化等もあり、半導体部門の収益性が悪化するものの、液晶ディスプレイ部門の収益性は高まっ

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ており、これら装置産業的な部門における戦略的な投資等による競争力の確保が、国内における収益基盤の確保につながっていると推察される。一方で、薄型テレビが基幹商品となるデジタルメディア部門は、薄型テレビの殆どが海外で生産されてお

り、売上高を急拡大させつつも、営業利益額は他部門に比べて極めて小さく、シェアの獲得を優先していることがわかる。また、主力製品が携帯電話である情報通信部門については、プラットフォームの集約化や世界市場への販売戦略等も功を奏し、2007 年以降売上高、利益額ともに増大している。

【図2 サムスン電子の連結売上高・営業利益(事業部門別)】

備考:事業部門を合計した全社の数値は、部門間取引等控除後の数値となっている。資料:同社財務諸表から経済産業省作成

〔売上高〕 〔営業利益〕

さらに、従業員数についてみると、国内従業員数は8万人強であるものの、海外従業員数は新興国市場を重視する等により 2004 年の4万人強から 2008 年には約8万人と大幅に増加している。従業員一人当たりの営業利益額は、国内では半導体部門の収益性の悪化等から下落したが、国内が海外に比べて高い(図3)。以上のように、財務諸表データから、同社が、

国内で収益基盤を確保しつつ、海外で売上高を確保しようとする姿がうかがえる。

資料:同社財務諸表から経済産業省作成

新興国市場の獲得に向けて構築した製品戦略を実現させるため、我が国製造業において自社の経営資源のみならず、現地資源を活用する動きが進展している。現地市場のニーズの抽出、そのニーズを満たす製品開

発、市場の購買力に見合った製品を作るための生産、そして自社製品の魅力を十分に伝えると同時に顧客から新たなニーズを抽出する販売など、それらを実行する上で、現地の経営資源(人材、メーカー、販売業者な

ど)が持つ能力を活用するという視点が重要となる(表223-1)。

【 図3 サムスン電子の国内・海外従業員数と一人当たり営業利益額の推移 】

資料:同社財務諸表等から経済産業省作成

最適なものづくり体制構築に向けた現地資源の活用3

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第2章

第2節グローバル市場の変化に対する我が国ものづくり体制の再構築

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

表 223-1 新興国市場の獲得における各工程の役割と現地資源の活用

資料:経済産業省作成

(1)開発・設計業務の現地化と今後の方向新興国市場においては、我が国製造業が主要な市場と

してきた先進国市場とは異なる製品を開発し、投入していくことが重要な課題となっている。このような中、より現地の市場に根ざした開発を行うために、我が国製造業において開発活動や製品設計を現地で行う動きがみられ、一部の企業では現地企業や現地大学などとの共同研究開発も行われはじめている。

① 現地市場における開発・設計業務の変遷我が国製造業のアジア等新興国の現地拠点における開

発・設計業務内容をみると「製品開発」、「応用設計(現地市場向けカスタマイズなど)」の実施割合が高まっていく一方で、基礎研究や加工技術開発については、実施割合が減少する傾向にある(図 223-2)。我が国製造業は、現地拠点において、より製品化に近い工程の業務の現地化を進めていることが分かる。

図 223-2 新興国拠点における開発・設計業務の推移

備考:海外拠点において開発・設計活動を行っている企業の回答を集計したもの。資料:経済産業省調べ(10年1月)

<開発業務> <設計業務>

次に、現地で開発・設計を行う理由をみると、「コスト削減のため」が最も多く、続いて、「生産拠点に近い場所での設計が重要なため」、「市場/顧客に近い場所での設計が重要なため」が挙げられている(図 223-3)。しかし、回答企業のうち業績堅調な企業の回答をみる

と、上位3項目の順序が逆転しており、市場/顧客への近接性、生産拠点への近接性、そしてコスト削減の順となっている。業績が堅調な企業は、コスト削減も重視してはいるが、市場・顧客との近接性をより意識していることがうかがえる。

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図 223-3 新興国拠点において開発・設計を行う理由

資料:経済産業省調べ(10年1月)

② 新興国拠点における設計戦略の変遷我が国製造業において、設計機能を現地化する動きが

進められているが、現地において設計する製品の想定市場範囲には経年で変化がみられる。以前は、進出した「当該国のみ」を想定市場として設計する企業が約5割を超えていたが、現在では「近隣国を含む複数国」を、今後(5年後)については「全世界」を想定した製品設計を行うとする企業が最も多くなっている(図 223-4)。この動きは、進出国ごとのニーズを踏まえたきめ細か

な製品設計が重要ではあるものの、国ごとの対応では設計コストが上昇するため、全世界共通設計を行った上で各地向け応用設計を行うという方法を取ることで、設計コストを最小化しようとしていることが背景にあると考えられる。しかしながら、製品設計において、各国ごとのニー

ズに合わせてきめ細かく設計することで成功している企業が存在することも事実であり、我が国製造業においては、自社の製品特性、海外展開戦略、国内外に有する経営資源などの諸要素を勘案し、最適な設計戦略を追求していくことが重要となる。

本田技研工業(株)の二輪事業では、これまでは各国・地域のニーズを優先した製品開発を行ってきた。同社のタイ市場向けの製品は車体も全体がスリムな設計になっている一方で、ブラジル市場向けの製品は、現地消費者の体格にあわせて全般的にゆったりとしたものになっている。しかし、このように個別国市場への適合を進め過ぎた結果、他国に展開することが難しい製品も出てきた。

このため、「グローバルモデル化」を進め、機種を絞り込み、エンジンなどの中核となるプラットフォームは

製品における最適な設計範囲の追求 本田技研工業(株)

図 223-4 新興国拠点における設計の範囲

資料:経済産業省調べ(10年1月)

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第2章

第2節グローバル市場の変化に対する我が国ものづくり体制の再構築

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

共通化していく方針を打ち出している。その上で、外装部分などで個別市場のニーズに対応し、グローバル化とローカル化のバランスの最適解を追求しようとしている。基本設計やエンジン等の中核部品の設計は、なるべく共通化することでコストを低減しつつ、顧客とのイン

ターフェース(目に見える部分、手に触れる部分)は現地の法規や嗜好を良く踏まえ、きめ細かく設計している。

一部ではあるが、新興国の進出先において、共同研究開発を進める動きもみられ始めている。共同研究開発の相手については、現地地場企業が最も多く、次いで現地日系企業となっている(図1)。また、現地大学や現地研究機関とは、現状 20%に満たない水準ではあるが、今後は共同研究開発の相手として志向する割合が増加している。共同研究開発の実施内容をみると、「製品開発」

を行っている回答割合が最も多い(図2)。また、今後の意向については、「応用設計」、「試験検査」、「現地部品・素材の評価」を検討している割合が増加している。これは、価格競争力の高い製品を生産するために現地地場企業からの調達を増やす企業が増加しており、開発段階から現地地場企業と連携することで、現地調達を円滑にするねらいがあるものと考えられる。しかしながら、現地における共同研究開発を行う

目的と成果についてみると、目的として「現地市場・制度に合わせた技術の開発」を挙げる回答割合が最も高いが、それを成果として認識している割合は相対的に低い状況である(図3)。一方で、「現地企業との関係強化」については、目的として挙げられている回答割合に比べ、成果の回答割合が高く、現地企業との連携を図る側面では有効であることがうかがえるが、共同研究開発の成果を高めるための課題は多いと言える。例えば、現地地場企業等との共同研究開発を進め

る上での課題としては、「知的財産・ノウハウの管理」や「相手の研究のスピード感」などが大きな課題と認識されている(図4)。共同研究開発は、新たな技術や知識を手に入れることができるメリットがあると同時に、自社が持つ技術や知識を社外にさらすことで技術流出につながりうるデメリットもある。メリットを最大化し、デメリットを最小化するために、知的財産やノウハウの管理を進めていくことが重要である。

進出先における共同研究開発【図1 新興国における共同研究開発の実施相手】

資料:経済産業省調べ(10年1月)

【図2 現地地場企業等との共同研究開発の実施内容】

備考:…現地地場企業、現地大学、現地研究機関等との共同研究開発を行っている企業の回答と、今後それらの組織と共同研究開発を行いたいと回答した企業の回答を集計。

資料:経済産業省調べ(10年1月)

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海外における共同研究開発の具体例 オムロン(株)オムロン(株)は、2004 年から中国・上海にてセンシングやコントロール技術に関して中国の大学と共同

研究を行っている。上海交通大学、清華大学、浙江大学、西安交通大学の4つの大学に、日本の本社或いは各事業部から出された技術テーマについて各大学がその研究受託をする。これまで4大学合計で 200 件以上の技術開発を行ってきた。例えば、視覚センサにより画像を分析する際に生じる様々な不都合を調整するためのソフトウェアの開発などは、当社の製品に応用されている。同社は、日米中の世界三極体制に研究開発拠点を持ち、それぞれの国で大学と共同研究を行っている。日本

では京都大学、大阪大学などと「協創」(協働して創造する)や連携しており、アメリカでは新しい価値創造に向けて最先端研究の探索を行っており、スタンフォード大学やカリフォルニア州立大学バークレー校などと連携をしている。一方で、同社は既存の商品領域に対して、ユーザーの持つ改善や課題などのニーズを吸い上げている。この

商品課題から技術的課題を抽出し、その研究を行うのが中国である。土台となる技術は日本で開発しているが、応用部分の新技術を開発するのが中国での共同研究である。中国の大学では、米国などの最先端の論文を基にその応用などを研究している研究室が数多くあるが、必ずしも商業化のテーマとなる具体的なニーズを設定できていない。当社からの委託テーマは大学としても、非常に貴重な研究テーマの実践の場であり、Win-Win の関係を構築している。同社が中国で共同研究を行う主な理由としては、以下の項目が挙げられる。

① …中国のトップの大学には中国全土から優秀な学生が集まっているが、非常に優秀かつ真面目で、その数も多い。研究領域もものづくりに関する技術を多く対象としており、これらの優秀な学生はほぼ英語を駆使できる。

② …当社からの研究テーマに対してトップクラスの大学でも非常に機動的な対応をしてくれる。既に研究課題を持っている学生でも柔軟に対応してくれる。

③ …研究開発では、既存の論文を何千件と読み込んでの周辺技術の探索や、データベースの構築といった手間のかかる地道な作業も必要である。中国のトップクラスの学生たちは、こうした地道な作業でも真剣に取り組んでくれる。

(2)現地地場企業からの調達の状況と課題新興国市場を獲得するためには、その消費者層の購買

力に見合った製品を投入することが重要であり、我が国

製造業を取り巻く価格競争は今後ますます激化していくことが予想される。このような中、コスト競争力を高める等のために、現地における調達を拡大しようとしてい

【図3 新興国における共同研究開発の目的及び成果】

備考:選択肢回答数を最大3つまでとした。資料:経済産業省調べ(10年1月)

【図4 共同研究開発を進める上での課題(相手別)】

備考:「現地地場企業等」とは、現地地場企業、現地大学、現地研究機関を表す。資料:経済産業省調べ(10年1月)

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第2章

第2節グローバル市場の変化に対する我が国ものづくり体制の再構築

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

ることが分かる。過去(約5~ 10 年前)には現地地場企業からの調達を一切行わない企業が約3分の1を占めていたが、現在、今後(約5年後)については減少傾向にある(図 223-5)。一方で、現地地場企業から基幹部品の調達を行う企業やすべての部品を調達する企業の割合は増加している。

我が国製造業による現地調達が進む中、現地地場企業の品質を維持・向上させるための取組も行われている(図223-6)。「調達部品の検査・評価」を行う企業が最も多いが、「技術指導者の派遣」や「生産工程改善の指導」など、地場企業の育成に取り組む動きも多くみられる。

自動車部品メーカー大手のカルソニックカンセイ(株)は、主要取引先である日系自動車メーカーのアジアにおける生産拡大に対応するために、タイ拠点の事業を拡大し、現地調達を進めることで供給能力の向上を図ってきた。2005 年時点に約6割であった現地調達比率を、2009 年には約8割にまで引き上げることに成功している。同社は、現地調達を拡大していくために、以下のような取組を進めてきた。

① …全拠点共通の調達先の評価基準を整備し、それを厳格に運用していること。評価基準の中では、品質と納期を第一の評価基準とし、それを満たす企業の中で価格が優れている企業を調達先として認定するようにした。調達先の評価基準を明確化することによって、各拠点が良い企業と契約をするという流れができあがった。

② …調達先と契約した後においても、品質・納期・価格に問題が生じないように、毎月評価を行っている。また、同社の各調達担当者は、調達先の評価が高まるように、改善のための取組を共に考えていく。問題が生じた企業に対しては、同社はその企業と共に問題の原因を考え、個別に指導することとしている。

近年、現地調達に関する同社の課題は、一次調達先における現地調達率の向上であり、それによって調達の一層の低コスト化を図っていくことである。そのため、同社は、一次調達先の現地調達状況を調べ、その企業と共に現地調達率を上げるための取組を検討していくという。

現地調達の拡大を進めるための取組 カルソニックカンセイ(株)

次に、現地地場企業からの調達を行うための要件をみると、「コスト削減につながること」が最も高い回答割合となっており、現地地場企業からの調達が、更なる

コスト競争力の獲得を目的としていることが見てとれる(図 223-7)。また、調達を行う上での品質の要件についてみると、「自社の国内品質基準を満たすこと」が「自

図 223-5 新興国生産拠点における現地地場企業からの調達方針    � 

備考:「5~ 10年前」、「現在」、「5年後」のすべてに回答した企業のみ集計したもの。資料:経済産業省調べ(10年1月)

図 223-6 現地地場企業の品質維持・ 向上のための取組

資料:経済産業省調べ(10年1月)

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社の現地市場向け品質基準を満たすこと」を大きく上回っているものの、「自社の現地市場向け品質基準を満たすこと」を要件としている企業は約半数にのぼる。現地生産を進める上で、製品を構成するそれぞれの部

品について満たすべき品質水準をしっかりと見極め、供給される製品が、現地市場で求められる価格、機能・性能、信頼性等の品質の組合せを逸脱しないようにしていくことが課題となる。

(3)�現地販売パートナーとの連携等を通じた現地販売網の構築

我が国製造業による新興国市場への販売方法については、中小企業の約7割、大企業の約5割の企業が輸出のみ行っており、現地の消費者への販売まで自社で手掛けている企業は大企業では約3割、中小企業では2割弱となっている(図 223-8)。このように、消費者と直接接している企業は少数であり、大半の企業は製品販売の過程において、現地代理店や現地流通業者を介している状況にある。すなわち、自社製品の「価値」を消費者に十分に伝えるとともに、消費者のニーズをくみ取っていく上で、代理店などの販売パートナーとの連携を深めることが重要となる。.

我が国製造業の販売パートナーの活動成果を高めるために行っている取組をみると、「販売代理店への訓練」が 58.5%と最も高く、次いで「販売代理店の販売実績の迅速な把握」が 43.3%となっている(図 223-9)。また、業績堅調な企業についてみると、実施回答割合がすべての面において全体平均を上回っており、積極的に販売パートナーの活動成果を有効に機能させようとしていることが分かる。

資料:経済産業省調べ(10年1月)

図 223-7 現地地場企業からの調達を行うための要件          

図 223-9 現地販売パートナーを機能させるための取組�           

備考:総代理店制とは、特定の代理店に対し、独占的に商品の販売権を与える制度。資料:経済産業省調べ(10年1月)

図 223-8 新興国における販売方法

備考:販売が国内のみである企業の回答は除く。資料:経済産業省調べ(10年1月)

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第2章

第2節グローバル市場の変化に対する我が国ものづくり体制の再構築

我が国ものづくり産業が直面する課題と展望

次に、図 223-9 の取組ごとに実施効果をみると、実施割合の高い「③販売代理店への訓練」や「①販売代理店の販売実績の迅速な把握」については、その効果も高い(図 223-10)。また、実施割合の高さに応じて実施効果も高い傾向がみられる点に留意する必要があるが、代理店戦略については、「⑥総代理店制によるモチ

ベーション維持」の方が「⑦複数代理店制による代理店間の競争原理の導入」よりも効果に対する評価が高い。さらに、実施割合は高くはないが、業績堅調な企業ほど「④二次代理店(代理店の代理店)への訓練」や「②二次代理店の販売実績の迅速な把握」に対する効果を高く評価している。

図 223-10 現地販売パートナーを機能させるための取組とその効果

備考:縦軸については、各取組における効果を「特に効果あり」(5点)、「効果あり」(4点)、「どちらとも言えない」(3点)、「効果は少ない」(2点)、「効果は無い」(1点)で点数化し、平均点を算出したもの。資料:経済産業省調べ(10年1月)

また、新興国拠点においてアフターサービスやメンテナンスサービスを手掛ける動きも進められている。アフターサービスなどを実施することによる効果としては、「製品開発・改良への情報還元(フィードバック)」が 47.9%と最も高い結果となっており、業績堅調な企業においては、60.4%の企業がその効果を挙げている(図 223-11)。なお、アフターサービスなどを行う上での課題として

は、「サービス拠点や人材の不足」、「サービス業務に関する人材育成」、そして「費用負担の重さ」を挙げる企業が多い(図223-12)。しかし、先にみたように、アフターサービスなどによって、新たな製品開発に結びつく効果が期待できることを踏まえ、持続的に取り組んでいくことが重要であると考えられる。以上のように、販売・アフターサービス等の活動は

企業が顧客・消費者と最も接するところであり、そこか

図 223-11 アフターサービス、メンテナンスサービスの実施効果 

資料:経済産業省調べ(10年1月)

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ら得られた製品の改善点や、新製品開発のアイディアなどを社内の関係部門にフィードバックできるよう、販売パートナーとの間や社内において情報が循環する仕組みを確立することが重要である。

(4)�グローバル化するものづくりを支える現地のひとづくり

新興国市場の需要を取り込むために我が国製造業の現地における事業活動が進展する中、その事業を支える現地拠点人材の育成、そして育成した人材の定着が重要な課題となっている。現地人材の意欲を高める上で、要職への積極的な登用等により、意欲を引き出す人事制度の整備を進めていくことが重要である。

① 現地拠点人材の能力水準と課題我が国製造業による積極的な技術移転などによっ

て、現地拠点の人材の能力も向上している。生産部門人材については4割を超える企業が国内人材の能力水準と同等、あるいはそれを上回ると回答している(図223-13)。また、現地の生産部門人材の能力向上などによって、現地生産部門の国内拠点へのキャッチアップ(比肩する水準に達していること)も進んでおり、「製品品質の維持・向上」については半数の企業が国内拠点と同等であると回答している(図223-14)。しかしながら、「社員間で技術・技能を教え合う風土」についての回答割合は低い。現場におけるチームワークは我が国ものづくり産業の強みを支えていると言われているが、それを現地拠点に根付かせるためには、現地人材の育成とともに、育成した人材が定着し、社員間で中長期的な信頼関係を築いていけるような取組を進めることが求められる。

② 現地人材の定着に向けた取組現地人材を定着させるために、我が国製造業におい

て、制度整備、現地人材の登用、現地人材の育成等にわたる取組がなされている(図 223-15)。また、業績堅調な企業ほどその実施割合が全般的に高く、より人材の定着を意識していることがうかがえる。業績堅調な企業と全体回答を比較すると、制度面では「②同業企業の水準を考慮した給与水準の設定」、「③現地法人における昇進制度の明示」、「①透明性の高い人事評価制度の導入」について実施割合に大きな違いがみられる。登用面では「⑦現地法人への権限委譲を推進」や「⑧現地人材の現地幹部への積極的登用」、育成面では「⑩ OJT の充実」と「⑪ Off-JT の充実」ともに実施割合の差が大きい。次に、その取組に対する人材定着の効果について全体

回答(図 223-16 の▲印)の傾向をみると、「②同業企業の水準を考慮した給与水準の設定」や「⑤成果の高い現地人材に対する顕彰/褒賞」に関して効果が高くなっている。しかしながら、業績堅調企業のそれらの回答(図223-16 の●印)をみると、実施割合は高いがその効果

図 223-12 アフターサービス、メンテナンス サービスにおける課題

資料:経済産業省調べ(10年1月)

図 223-13 新興国拠点における現地人材の能力 水準(国内人材との比較)

資料:経済産業省調べ(10年1月)

図 223-14 生産部門の国内拠点へのキャッチアップ状況     

資料:経済産業省調べ(10年1月)

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第2章

第2節グローバル市場の変化に対する我が国ものづくり体制の再構築

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図 223-15 新興国拠点における現地人材の定着に向けた取組       

備考:「キャリアパス」とは、企業内での昇格・昇進を可能とする職務経歴のこと。資料:経済産業省調べ(10年1月)

図 223-16 新興国拠点における現地人材の定着に向けた取組とその効果

備考:①縦軸の「実施効果」とは、現地人材の定着に関する効果を表す。   ②…縦軸は、各取組における効果を「特に効果あり」(5点)、「効果あり」(4点)、「どちらとも言えない」(3点)、「効果は少ない」(2点)、「効果は無い」(1点)で点数化し、平均点

を算出したもの。資料:経済産業省調べ(10年1月)

は全体回答と差がほとんどない。一方で、「⑩日常業務の中での OJT の充実」、「⑧現地

人材の現地法人幹部への積極的登用」、「③現地法人における昇進制度の明示」などについては業績堅調な企業ほど取組に対する効果が相対的に高くなっており、現地人材がより肯定的にその企業に定着し、能力を高め、それが業績に好影響を与えていることがうかがえる。このように、金銭的な報酬体系のみならず、人材育成や経営層への積極的登用を進めることが重要である。なお、「④日本本社勤務や経営幹部へのキャリアパス

を明示」や「⑨現地人材の日本本社勤務や経営幹部への積極的登用」については、業績堅調な企業の効果に対する回答が全体回答を下回っている。これらは、いずれも実施割合が低く、効果について各社で十分把握されていない可能性があるが、少なくとも現時点では企業における意識が総じて低い状況にあることがうかがえる。