実践事例2(中学校音楽科における事例)--37...

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37 実践事例2(中学校音楽科における事例) ルーブリックを生かした形成的評価とその活用に関する研究 表現活動における課題解決的な学習に生かすルーブリックの活用 1 事例の概要 この事例は,音楽科の表現学習において,生徒の主体的な学習と課題解決の過程の学びを深めるた めの評価の手だてとして,教師と生徒が共有できるルーブリックを作成し,個々の学習の指導・支援 に役立てようと実践したものである。 2 事例の基本的な考え方 音楽科における評価は 「音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育て,音楽活動の基礎的な能 力を培い,豊かな情操を養う」という音楽科の目標の実現に向けて,内容のまとまりごとに評価規準 を設定し,それらがどの程度実現しているかについて計画的,継続的に行われるものである。 音楽科の指導内容から見ていくと,知識や技能面の,いわゆる「見える学力」の部分は,客観的な 評価が可能な部分である。しかし 「関心・意欲・態度」という情意的な側面や 「音楽的な感受」 という感性的な側面は,まさに「見えにくい学力」であり,客観的な評価が難しい面がある。音楽科 の学力は この見えやすい 知識・技能 それを支えている 見えにくい 音楽的な感受 楽への関心・意欲・態度」を一体として捉え,より客観性・信頼性のある評価を目指していかなけれ ばならない そのために 様々な評価方法 行動観察 演奏 学習ノート 自己評価 相互評価など を考え組み合わせながら,一人一人の実態を十分考慮し,より多面的,継続的に生徒の学習状況を把 握していく必要がある。 今回の研究では,教師側の評価だけでなく,生徒自身の自己評価にも視点をあてた。音楽科の評価 の4つの観点( 音楽への関心・意欲・態度 「音楽的な感受や表現の工夫 「表現の技能 「鑑賞の 能力 )にかかわって,生徒が自己の学習状況を確認し,自己の課題を明らかにしながら次の学習に 意欲的に取り組み,個々の能力を培っていく評価が必要であると考えた。この評価を確かなものにす るために,学習目標や具体的な評価規準をさらに具体化しためやすとして,教師と個々の生徒が共有 していくルーブリックを作成した。生徒は自分の学習を振り返る時,このルーブリックによってより 具体的な課題を明らかにし,自らの学び方を見つけ,次の目標に向かって主体的な学習をすすめてい く。教師は,ルーブリックによって個々の学習状況をより具体的に的確に把握し,個に応じたきめ細 かな指導の充実と授業の改善・工夫をはかる。 このルーブリック活用によって,生徒一人一人のよさや可能性を伸ばしていくための指導に生きる 評価を目指した。 3 事例の内容 (1) 題材の指導計画事例 題材名「日本の伝統楽器の新たな音との出会いを楽しもう 」 題材の目標 箏や三味線の独特な音色や特徴,表現の豊かさを感じ取り,その音を味わいながら楽しく聴

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実践事例2(中学校音楽科における事例)

ルーブリックを生かした形成的評価とその活用に関する研究

表現活動における課題解決的な学習に生かすルーブリックの活用

1 事例の概要この事例は,音楽科の表現学習において,生徒の主体的な学習と課題解決の過程の学びを深めるた

めの評価の手だてとして,教師と生徒が共有できるルーブリックを作成し,個々の学習の指導・支援

に役立てようと実践したものである。

2 事例の基本的な考え方音楽科における評価は 「音楽を愛好する心情と音楽に対する感性を育て,音楽活動の基礎的な能,

力を培い,豊かな情操を養う」という音楽科の目標の実現に向けて,内容のまとまりごとに評価規準

を設定し,それらがどの程度実現しているかについて計画的,継続的に行われるものである。

音楽科の指導内容から見ていくと,知識や技能面の,いわゆる「見える学力」の部分は,客観的な

評価が可能な部分である。しかし 「関心・意欲・態度」という情意的な側面や 「音楽的な感受」, ,

という感性的な側面は,まさに「見えにくい学力」であり,客観的な評価が難しい面がある。音楽科

の学力は この見えやすい 知識・技能 と それを支えている 見えにくい 音楽的な感受 と 音, 「 」 , , 「 」 「

楽への関心・意欲・態度」を一体として捉え,より客観性・信頼性のある評価を目指していかなけれ

。 , ( , , , , )ばならない そのために 様々な評価方法 行動観察 演奏 学習ノート 自己評価 相互評価など

を考え組み合わせながら,一人一人の実態を十分考慮し,より多面的,継続的に生徒の学習状況を把

握していく必要がある。

今回の研究では,教師側の評価だけでなく,生徒自身の自己評価にも視点をあてた。音楽科の評価

の4つの観点( 音楽への関心・意欲・態度 「音楽的な感受や表現の工夫 「表現の技能 「鑑賞の「 」 」 」

能力 )にかかわって,生徒が自己の学習状況を確認し,自己の課題を明らかにしながら次の学習に」

意欲的に取り組み,個々の能力を培っていく評価が必要であると考えた。この評価を確かなものにす

るために,学習目標や具体的な評価規準をさらに具体化しためやすとして,教師と個々の生徒が共有

していくルーブリックを作成した。生徒は自分の学習を振り返る時,このルーブリックによってより

具体的な課題を明らかにし,自らの学び方を見つけ,次の目標に向かって主体的な学習をすすめてい

く。教師は,ルーブリックによって個々の学習状況をより具体的に的確に把握し,個に応じたきめ細

かな指導の充実と授業の改善・工夫をはかる。

このルーブリック活用によって,生徒一人一人のよさや可能性を伸ばしていくための指導に生きる

評価を目指した。

3 事例の内容

(1) 題材の指導計画事例

① 題材名「日本の伝統楽器の新たな音との出会いを楽しもう 」。

② 題材の目標

箏や三味線の独特な音色や特徴,表現の豊かさを感じ取り,その音を味わいながら楽しく聴

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いたり演奏したりすることができる。

・箏や三味線の基礎的な奏法や美しい音色,響き,表現に関心を持って聴いたり演奏したりすることができる。

(音楽への関心・意欲・態度)

, 。( )・箏や三味線の美しい音色 響きを感じ取りながら表現を工夫することができる 音楽的な感受や表現の工夫

・箏や三味線の基本的な扱い方や基礎的な奏法,それぞれの楽器の美しい音色に気を付けて演奏することができ

る (表現の技能)。

・箏や三味線の美しい音色,響き,豊かな表現を感じながら,日本の音楽のよさを味わって聴くことができる。

(鑑賞の能力)

③ 題材について

, , 「 」 ,本題材では まず 1学期の鑑賞で学習したヴィヴァルディ作曲の 春 を思いおこしながら

同じ「春」を情景描写して表現している箏と三味線の曲を聴くことから,日本の伝統楽器の音や

表現に関心を持たせたいと考えた。そこからそれぞれの楽器の特徴を知り,実際に演奏すること

を通して箏や三味線の音を楽しみ,我が国の音楽のよさや美しさを感じて,自分たちの身近な音

楽としてこれからもかかわっていこうとする生徒の育成を目指したい。

④ 教材及び教材について

<共通曲>

「春」 ヴィヴァルディ作曲

「春の幻想」 雨宮洋子作曲

「山笑ふ~春~」 作曲 福居一大・典美編曲BUNCOわらべうた 「たこたこあがれ 「かごめかごめ」」

<選択曲>

「さくらさくら」 日本古謡

鑑賞曲として 「春 「春の幻想 「山笑ふ~春~」を扱う。既習曲である「春」から弦楽器で, 」 」

表現された音楽のイメージを思いおこしながら 箏による 春の幻想 また津軽三味線による 山, 「 」 「

笑ふ~春~」を聴き,それぞれの楽器の表現の豊かさに触れることで,日本の音楽への新たな興

味・関心を持つことにつながると考える。

実際に箏や三味線の基礎的な奏法に触れる段階では,構成音が少なく,生徒がよく知っている

わらべうたを扱うことにより,より興味を持って容易に演奏を体験できると考える。

また,日本的な雰囲気を持ったポピュラーな曲として「さくらさくら」を取り上げ,特徴的な

奏法を少しずつ加え段階を追って学習できるように編曲したものを選択曲として提示することと

した。これによって生徒一人一人の興味・関心により意欲的な学習を引き出し,個々の課題を解

決しながら楽しく箏や三味線に触れ,それぞれの楽器の音色や響きのよさ,美しさを感じること

ができると考える。

⑤ 題材の評価規準及び学習活動における具体の評価規準

ア 音楽への関心・意欲 イ 音楽的な感受や表現の ウ 表現の技能 エ 鑑賞の能力

・態度 工夫

歌唱

器楽 ○ ○ ○

創作

鑑賞 ○ ○ ○

箏や三味線の基礎的な奏 箏や三味線の美しい音色, 箏や三味線の基本的 箏や三味線の美しい題

法や美しい音色,響き, 響きを感じ取りながら表現 な扱い方や基礎的な 音色,響き,豊かな材

表現に関心を持ち,聴い を工夫している。 奏法,それぞれの楽 表現を感じながら,の

たり表現することに意欲 器の美しい音色に気 日本の音楽のよさを評

的である。 を付けて演奏してい 味わって聴いてい価

る。 る。規

学 ①箏や三味線の音色,響 ①箏や三味線の美しい音色 ①箏や三味線の基本 ①箏や三味線の音,

習 き,表現に関心を持ち, 響き,豊かな表現を感じ取 的な扱い方や基礎的 色,響き,表現を感

活 その違いを感じながら意 っている。 な奏法を理解し,一 じながら聴いてい

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具動 欲的に聴いている。 ②個々に選択した曲の雰囲 音ずつ確かめながら る。

体に ②箏や三味線の音色や響 気をイメージしながら,演 丁寧に弾いている。 ②箏や三味線の美し

のお きの特徴を感じながら, 奏の仕方を工夫している。 ②それぞれの楽器の い音色,響き,豊か

評け 意欲的に演奏に取り組も 奏法に気を付け,音 な表現を感じ取りな

価る うとしている。 色や響きを感じなが がら,日本の音楽の

規 ら演奏している。 よさを味わって聴い

準 ている。

⑥ 評価規準及び評価の実際

題材の評価規準 具体の評価規準 Aと判断する B規準到達への働きかけ 評価

キーワード 方法

ア 箏や三味線の基礎的 ①箏や三味線の音色,響 ○演奏している ・それぞれの楽器の音の 行動

音 な奏法や美しい音 き,表現に関心を持ち, 楽器のイメージ 違いに注目して聴かせる 観察。

関楽 色,響き,表現に関 その違いを感じながら意 と実際に出てい

心へ 心を持ち,聴いたり 欲的に聴いている。 る音を関連させ

・の 表現することに意欲 た聴取

意 的である。 ○具体的な特徴

欲 の聴取

・ ②箏や三味線の音色や響 ○集中した練習 ・1小節ずつ音と奏法を 練習

態 きの特徴を感じながら, 姿勢 確認して練習させる。 観察

度 意欲的に演奏に取り組も ○仲間へのアド

うとしている。 バイス

イ 箏や三味線の美しい ①箏や三味線の美しい音 ○音の変化,曲 ・ 春」から思い浮かぶ風 学 習「

音 音色,響きを感じ取 色,響き,豊かな表現を の変化による体 景や色,気持ちを想像さ カ ー

楽 りながら表現を工夫 感じ取っている。 の揺れや表情の せる。 ド ・

表的 している。 変化 行動

現な 観察

の感 ②個々に選択した曲の雰 ○曲想を考えた ・曲の山場に気付かせ, 演奏

工受 囲気をイメージしなが 演奏 その部分を意識して少し 聴取

夫や ら,演奏の仕方を工夫し 強調できるように演奏さ

ている。 せる。

ウ 箏や三味線の基本的 ①箏や三味線の基本的な ○正しい姿勢と ・箏に対する体の位置や 練習

表 な扱い方や基礎的な 扱い方や基礎的な奏法を 奏法の意識 向き,弦の爪のあて方, 観察

現 奏法,それぞれの楽 理解し,一音ずつ確かめ ○なめらかな音 三味線の構え方,ばちの

の 器の美しい音色に気 ながら丁寧に弾いてい の流れ 持ち方や弦へのあて方を

技 を付けて演奏してい る。 一つ一つ確認させる。

能 る。 ②それぞれの楽器の奏法 ○よりよい音の ・自分で自信を持って弾 演奏

に気を付け,音色や響き 追求 けるところから部分的に 聴取

を感じながら演奏してい ○旋律の流れを 練習させる。 ・ 学

る。 大事にした演奏 習 カ

ード

エ 箏や三味線の美しい ①箏や三味線の音色,響 ○箏と三味線の ・同じ楽器で演奏した時 発表

鑑 音色,響き,豊かな き,表現を感じながら聴 組み合わせのよ と楽器を組み合わせて演 観察

賞 表現を感じながら, いている。 さや独奏と合奏 奏した時の音の違いに気 ・ 学

の 日本の音楽のよさを の構成のよさの 付かせる。 習 カ

能 味わって聴いてい 聴取 ード

力 る。 ②箏や三味線の美しい音 ○箏,三味線そ ・耳からだけでなく視覚 行動

色,響き,豊かな表現を れぞれの美しさ からも鑑賞させ,箏,三 観察

感じ取りながら,日本の や豊かな表現の 味線それぞれにいろいろ ・ 学

音楽のよさを味わって聴 違いの聴取 な奏法があることに気付 習 カ

いている。 かせる。 ード

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⑦ 題材の指導及び評価計画(5時間扱い)

次 学習のねらいと主な学習活動 学習活動における 評価方法等

具体の評価規準

第 ねらい 「春」をテーマとした情景や心情を表現した演奏を聴き比べ,箏や三味線の美しい音色や響き,豊

一 かな表現に関心を持つ。

次 1 ○弦楽合奏,箏,三味線によるそれぞれの演奏 ア-① ・鑑賞時の表情の観察

を聴き比べる。

ふ ・自分なりに春のイメージを持って聴く。

れ ○それぞれの演奏から音,響き,表現の違いに イ-① ・学習カードの利用

る 気付く。 ・発言や態度の観察

・それぞれの楽器の演奏を聴いた感想や新たな

1 発見を発表しあう。

時 ○箏や三味線の特徴を知る。

間 ・実際に箏や三味線に触れ,構造や扱い方,音

の出し方を知る。

第 ねらい 箏や三味線の基礎的な奏法を知り,関心を持って楽しくわらべうたの演奏に取り組む。

次 2 ○箏や三味線の基礎的な奏法を知り,簡単な曲 ア-② ・個々の練習の観察

に挑戦する。 ・グループ練習の観察

体 ・箏や三味線の独特な楽譜の読み方を知る。 ウ-① ・個々の練習の観察

感 ・正しい姿勢,音の出し方を確認しながらわら

す べうたを演奏する。

る ○箏と三味線のグループに分かれて発表しあい

それぞれの音色や響きを味わう。

1 ・個々に興味を持った楽器を選択し,楽器ごと

時 に演奏する。

間 ○箏と三味線でわらべうたを合わせ,合奏の響

きを楽しむ。

・箏と三味線で合わせて演奏する。

第 ねらい 箏や三味線の基礎的な奏法に気を付け,その音色や響きを味わいながら,自分の選択した曲を楽し

三 く演奏する。

次 3 ○箏や三味線の基礎的な奏法に気を付けながら ア-② ・個々の練習の観察,

~ 自分の選択した楽器で曲の演奏を楽しむ。 ウ-② ・演奏の聴取

深 4 ・個々に演奏したい楽器,曲を選び,楽譜を見 ・学習カードの利用

め ながら自分の力で演奏にチャレンジする。 イ-② ・演奏の聴取

る ・学習カードの利用

5 ○曲ごとに分かれ,独奏や合奏を楽しむ。 イ-② ・演奏の聴取

3 ・3曲それぞれのグループの中で,楽器の組み

時 合わせや独奏の部分や合奏の部分の構成を考

間 えて演奏する。

○お互いの演奏を発表し合い,箏や三味線によ エ-① ・発表の観察

るいろいろな形の表現を味わう。 ・学習カードの利用

・それぞれの曲ごとにグループ発表する。

・演奏を聴いた感想を発表し合う。

○箏と三味線の実演を聴き,日本の音楽への関 エ-② ・鑑賞時の表情の観察

心を高める。 ・学習カードの利用

・1時間目に聴いた箏による「春の幻想」と,

津軽三味線による「津軽じょんがら節」の生

演奏を聴く。

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(2) 指導案例(ルーブリックを活用した第2時間目から第4時間目を掲載)

<第二次 第1時>

① ねらい 箏や三味線の基礎的な奏法を知り,関心を持って楽しくわらべうたの演奏に取り組む。

② 授業の観点

[関心・意欲・態度]箏や三味線の音色や響きの特徴を感じながら,意欲的に演奏に取り組もうと

している。

[表現の技能]箏や三味線の基本的な扱い方や基礎的な奏法を理解し,一音ずつ確かめながら丁寧

に弾いている。

③ 展開

学習内容と主な学習活動 ○教師の働きかけ ◆学習活動における具体の評価規準

1,前時の復習をする。 ○箏や三味線の扱い方の注意を確認させる。

・開放弦の音出しの練習をする。 ○箏の場合,親指・人差し指・中指の爪のあて方,三味線の

場合,3本の弦のばちのあて方の感覚をつかませる。

2,学習課題を知る。

箏や三味線の基礎的な奏法や独特な楽譜の読み

方を知って,音を出してみよう。

3,箏や三味線の基礎的な奏法を知り,簡単なわら ○正しい姿勢をつねに意識させ,一音一音を確かめながら弾

べうたに挑戦する。 かせる。

・ たこたこあがれ」から箏や三味線の独特な楽 ○楽譜上,弦の表し方,音の長さや休符の表し方,また,左「

譜の読み方を知る。 手の奏法がどのような記号で示されているか確認させる。

・正しい姿勢,音の出し方を確認しながら「かご ○ワンフレーズずつゆっくり練習させる。

めかごめ」を演奏する。 ○楽譜に沿って個々にできるところまでを練習させる。

○巡視しながら,個々に支援・助言し,同時に調弦もする。

◆箏や三味線の音色や響きの特徴を感じながら,意欲

的に演奏に取り組もうとしている。

【 , 】ア-②:個々の練習の観察 グループ練習の観察

◆箏や三味線の基本的な扱い方や基礎的な奏法を理解

し,一音ずつ確かめながら丁寧に弾いている。

【 】ウ-①:個々の練習の観察

4,箏と三味線のグループに分かれて発表しあい, ○それぞれの楽器の音色や響きの違いを感じ取らせ,それぞ

それぞれの音色や響きを味わう。 れのよさを味わわせる。

・個々に興味を持った楽器を選択し,楽器ごとに ○個々のできる範囲で演奏させる。

演奏する。

5,箏と三味線でわらべうたを合わせ,合奏の響き ○箏と三味線のそれぞれの音色や響きを味わいながら演奏さ

を楽しむ。 せる。

・箏と三味線で合わせて演奏する。 ○個々のできる範囲で合奏に加わらせ,みんなで合わせるこ

とでできる1曲の演奏を味わわせる。

6,学習カードにまとめる。 ○箏と三味線のそれぞれの独特な奏法を知り,自分の力でわ

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らべうたを演奏した感想を書かせる。

7,次時の確認をし,ルーブリックを作成する。 ○演奏したい楽器,曲を個々に選択し,独奏や合奏に挑戦す

ることを告げ,箏や三味線への興味・関心を高めさせる。

○個々の課題を明らかにし,ルーブリックを考えさせる。

<第三次 第1時,第2時>

① ねらい 箏や三味線の基礎的な奏法に気を付け,その音色や響きを味わいながら,自分の選択し

た曲を楽しく演奏する。

② 授業の観点

[関心・意欲・態度]箏や三味線の音色や響きの特徴を感じながら,個々に選択した楽器の演奏に

意欲的に取り組もうとしている。

[ ] , 。感受や表現の工夫 個々に選択した曲の雰囲気をイメージしながら 演奏の仕方を工夫している

[表現の技能]それぞれの楽器の奏法や音色,響きに気を付けて演奏している。

③ 展開

学習内容と主な学習活動 ○教師の働きかけ ◆学習活動における具体の評価規準

1,前時に学習した「かごめかごめ」を個々に選択 ○箏,三味線それぞれの基礎的な奏法や楽譜の読み方を確認

した楽器で復習する。 しながら復習させる。

2,学習課題を知る。

個々に選択した楽器でいろいろな曲に挑戦しよ

う。

3,箏や三味線の基礎的な奏法に気を付けながら, ○それぞれの楽譜から一音ずつ演奏の仕方を確認して音を出

自分の選択した楽器で曲の演奏を楽しむ。 させる。

・個々に演奏したい楽器,曲を選び,楽譜を見な ○正しい姿勢をつねに意識させる。

がら自分の力で演奏にチャレンジする。 ○同じ楽器,同じ曲でグループを作り,お互いにわからない

ところを聞き合ったり,アドバイスしながら練習させる。

○巡視しながら個々のつまずきに支援・助言する。

○一曲を通して弾けるようになった生徒には,その曲のイメ

ージに合った表現を自分なりに工夫して演奏させる。

◆箏や三味線の音色や響きの特徴を感じながら,個々

に選択した楽器の演奏に意欲的に取り組もうとしてい

る 【ア-②:個々の練習の観察】。

◆それぞれの楽器の奏法や音色,響きに気を付けて演

奏している。

【 , 】ウ-②:演奏の聴取 学習カードの利用

◆個々に選択した曲の雰囲気をイメージしながら,演

奏の仕方を工夫している。

【 , 】イ-②:演奏の聴取 学習カードの利用

4,途中経過を発表する。 ○個々の練習やグループでの練習でできるようになったとこ

・3曲をメドレーにして発表する。 ろまでを発表させる。

, ,・演奏した感想を発表する。 ○演奏しての感想や課題を発表させ 教師からも努力した点

よかった点,表現を工夫した点など必ずコメントする。

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5,学習カードにまとめる。 ○自分の選択した曲を楽譜の読みからすべて自分の力で演奏

した感想を書かせる。

○楽譜の理解,奏法について自己評価させる。

6,次時の確認をし,ルーブリックを作成する。 ○各自選択した曲を自分のイメージ通りに弾けるように,時

, 。間をかけて練習することを知らせ さらに意欲を持たせる

○個々の課題を明らかにし,ルーブリックを考えさせる。

(3) ルーブリック活用の実際

① ルーブリックを取り入れた学習カードの作成

本題材では,第2時間目から第4時間目の計3時間の学習においてルーブリックを取り入れた。

第1時間目の箏や三味線の特徴や基本的な扱い方(準備の仕方から片づけまで)について学んだ知

識をもとに,2時間目からは実際に楽器に触れ自分の力で演奏していく学習へと進んでいく。その学

習の中で教師側がねらう観点ごとの評価基準を具体的に示した。表1が第2時間目,表2が第3時間

(表1)目と第4時間目に示したものである。

♪先生が考えている評価

目 標 A 十分に達成できた B 達成できた C もうひといき 評価

箏や三味線の特徴を感じなが 箏や三味線の音色の特徴 わらべうたが弾けるように なかなか思うように音が出

ら、意欲的に演奏に取り組んで や基礎的な奏法がわかっ 一生懸命練習に取り組ん せず、途中であきらめてしま

いる。 て、集中してわらべうたの練 だ。 った。

(音楽への関心・意欲・態度) 習に取り組むことができた。

箏や三味線の基本的な扱い方 正しい姿勢と奏法で、わら 正しい姿勢と奏法に気を 正しい姿勢と奏法は理解で

や基礎的な奏法を理解し、一つ べうたを通して一音一音正 つけながら、少し間違えな きるが、なかなかその通りに

一つの音を正確に弾くことがで 確に弾くことができた。 がらでもわらべうたを弾く できず、わらべうたも途中ま

きる。 ことができた。 でしか弾くことができなかっ

(表現の技能) た。

( 表 2 )

♪先生が考えている評価

目 標 A 十分に達成できた B 達成できた C もうひといき 評価

箏や三味線の特徴を感じなが 箏や三味線の音色の特徴 1曲が弾けるように一生懸 わらべうたの復習はできた

ら、意欲的に演奏に取り組んで や基礎的な奏法が十分わ 命練習に取り組んだ。 が、新しい曲はなかなか思

いる。 かって、集中して練習に取り うように音が出せず、途中で

(音楽への関心・意欲・態度) 組むことができた。 あきらめてしまった。

箏や三味線の奏法に気をつ ①正しい姿勢と奏法で、き ①正しい姿勢と奏法に気 ①正しい姿勢や奏法がわか

け、それぞれの音色や響きを れいに響く音を意識しなが をつけ、一つ一つの音をよ っていてもなかなかその通り

感じながら工夫して演奏でき ら、1曲を通して一音一音正 く聴きながら、間違えなが にできず、1小節しか弾くこ

る。 確に弾くことができた。 らでも何とか部分的に弾く とができなかった。

(音楽的な感受や表現の工夫、 ②曲にあった雰囲気を出し ことができた。 ②一音一音は出せるように

表現の技能) て演奏できた。 ②旋律の流れを感じなが なったが、まだ曲にはなって

らスムーズに演奏できた。 いない。

これをもとにして生徒一人一人が自分の学習に合った評価基準を考えていく。その基準を入れた学

習カードが図1,図2である。

第3時間目と第4時間目は,各自が選択した楽器で,それぞれの興味・関心と自らの学習状況を把

握した上で選択した曲を演奏できるようにしていく学習になる。そこで,その学習の過程において,

ルーブリックによって個々の課題を明らかにし,さらにその時間の学習目標をしっかり持って学習が

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(図1) (図2)

進められるように,図3

に示すチェックカードを

用意した。これは,箏や

三味線の演奏に必要な基

礎・基本(正しい姿勢・

奏法・楽譜の読み方)を

随時確認できるようにそ

れぞれのポイントを具体

。的に説明したものである

これによって個々の課題

,をより具体的なものにし

そこから評価基準作成に

つなげていった。 (図3)

② ルーブリックを通しての個々の生徒とのかかわり

ルーブリック実施の手順については次の通りである。まず授業の最後に次時の学習内容について確

認する中で教師が考える評価基準を具体的に示す。生徒は,その場で,あるいは休み時間や放課後等

の時間を利用して自分にあった評価基準を考え(まず「B基準=おおむね満足」から考える)学習カ

ードに記入し提出する。教師は,それぞれ考えた評価基準について,個々の学習状況から判断して,

「適当でない (この場合,基準のハードルをもっと上げた方がよいと思われるもの,逆に現在の学」

習状況からかけ離れて学習に困難が生じると予想されるもの,または,教師の基準とほとんど同一で

自分自身の学習としてまだとらえられていないもの,さらに,学習したいことは理解できるが具体的

に分かりやすい言葉で表現できていないものの4つが考えられる)とした生徒については,個々にそ

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の基準を考えた過程を聞きながら教師からのアドバイスも加え,生徒と教師で評価を共有して基準を

決定していく。図4は,評価基準をより分かりやすい言葉で表現し直したA君の例である。

A君は[音楽的な感受や表現の工夫,表現の技能]

のA基準を「音を気にしながらひけた」と考えた(図

4の① 。これは,教師側からA基準として示した「き)

れいに響く音を意識しながら ・・・ (表2の波線), 」

の部分をA君なりに重点にしたいところと考えたもの

である。その気持ちを生かすために具体的にどんな音

が出せるようにしたいか問いかけることでA君のイメ

ージから「いい音」という表現になった。

このようにして決定した基準は,授業のはじめに確

認して学習を進めていく。学習の過程で,生徒自身の

気付きから,あるいは個別指導の中で教師側から,基

準の変更を求める場合も出てくる。どちらの場合も一

方的なものでなく,その生徒と教師のかかわりの中で

。 ( )基準を共有し変更していく 図4

この基準により授業の最後に自己評価することで新たな課題を見出し,その課題解決の学習方法を

考えることで次の学習の基準が自ずから設定されていく。生徒の自己評価に対し,共有した基準によ

る教師の評価を示すことで(図4の② ,その時間の学習についての自己評価が適切であったかもう)

一度個々に学習を振り返るきっかけをつくることができる。

ここで実際のルーブリックを通しての生徒とのやりとりを一部紹介する。

○生徒とのやりとり

~歌唱表現学習から(本題材前の学習におけるルーブリックの実践から)~

N君「先生,ぼくは授業中いつもふざけているので真面目に歌うでもいいですか 」。

T「その目標を達成できそうだったらその目標でいいですよ 」。

H君「ぼくは,指揮者なんだけれどどうしたらいい?」

T「指揮者にとって大切なことは何かな?」

H君「みんなにわかりやすい指揮をすることや指揮で表現をすること 」。

T「そうだね,そのことを目標に書いてみたらどうだろう 」。

Mさん「私は,歌う時に音程が下がってしまうのですがきちんとした音程で歌うという目標でもよい

ですか 」。

T「自分の課題を見つけていますね 」。

~箏・三味線学習から(本題材の学習におけるルーブリックの実践から)~

S君「ぼくは,どのように書いていいかわかりません 」。

T「先生の評価を一緒に読んでみよう 」。

(読んでから)T「先生は,この授業でみんなにここに書いてあるように上手くなって欲し

いのだけれど・・・自分が出来そうな評価を考えてみよう 」。

その後S君は,少し時間はかかったが,自分で評価を考えてきた。

*3時間目と4時間目の評価が同じ生徒への指導

T「3時間目と4時間目が同じ評価になっているけれどどうして?」

F君「3時間目に考えた評価をきちんと達成することが出来なくて,もう一度同じ目標できちんと

やってみたいからです 」。

T「3時間目よりしっかり出来るように頑張ってください 」。

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4 事例の結果と考察

(1) 生徒の学習意欲の状況

本事例では,題材の指導計画5時間の内,生徒自身が個々に課題を持ち,さらに学習内容を選択し

て学習を進めていく3時間の学習においてルーブリックを活用した。図5は[音楽への関心・意欲・

態度]の自己評価の状況を示したものである。2時間目

から4時間目に向けて学習への取り組みが意欲的になっ

ていることは明らかである。協力校の授業者は,生徒の

変容について次のように述べている 「今までもまじめに。

取り組みをする生徒たちであったが,ルーブリックを導

入することにより,自分の考えた評価を達成するために

授業時間を大切にするようになった。また,具体的な評

価のために授業中に何をどのようにしたらよいかという

ことがはっきりしていたので授業を受けやすかったよう

である。一人一人が自分の評価達成のために努力をして

。 , ( )いる姿があった 今までの授業よりも より一層集中して授 図5

業を受けていた 」また,生徒の感想には次のようなことが書かれている 「自分で決めた目標など。 。

を達成しようと努力できた 「自分で考えた評価だからがんばろうと思った 「自分に合った評価。」 。」

ができたのですごくやりやすかった 「考える評価を決めたことで,決めないときよりも,真剣に,。」

ちゃんと授業を受けようという気をおこさせたのでよかった 」。

さらに,今回のルーブリックの取り組みを,高校の三味線の学習において実践した協力員の感想の

中には次のことが述べられていた 「昨年のルーブリックを実践しなかった授業時に比べると,今回。

普段の練習においても自分自身で設定した目標に少しでも近づこうとする生徒の自発的な態度が見ら

れ,授業に参加する生徒に積極性が見られるようになった 」。

以上のことから,ルーブリックを通して生徒自身が何を学習していくかが具体的に明らかになり,

学ぶ意欲が十分高められ,主体的な学習活動が展開できたと言える。

(2) 目標の達成状況

本題材の主たる学習内容は表現活動である。はじめて触れる箏や三味線の基礎的な奏法を知り,実

際に自分が興味・関心を持った楽器を選んで演奏できるようにすることが目標である。目標達成のた

めの評価基準は,第2観点[音楽的な感受や表現の工夫]と第3観点[表現の技能]で設定している。次

に示す図6~8は,第2時間目から第4時間目の第3観点の自己評価の状況である。

( ) ( ) ( )図6 図7 図8

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

関心・意欲・態度(2時間目)

関心・意欲・態度(3時間目)

関心・意欲・態度(4時間目)

【音楽への関心・意欲・態度】の変化

もうひといき

達成できた

十分に達成できた

【表現の技能(2時間目)】

40%

30%

30%

十分に達成できた

達成できた

もうひといき

【表現の技能(3時間目)】

40%

52%

8%

十分に達成できた

達成できた

もうひといき

【表現の技能(4時間目)】

30%

70%

0%

十分に達成できた

達成できた

もうひといき

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この図から見ると学習が進むにつれてA基準「十分に達成できた」とB基準「達成できた」の割合

が大きくなり,目標の達成感を感じていることは明らかである。また,毎時間の学習カードの感想・

反省欄の記述から見ると 「前奏はできたが,2つの弦を時々弾いてしまうことがある (三味線 」, 。 )

「箏は親指をしっかり使えた。でも中指と人差し指は使えなかった 「わらべうたはすごく簡単だ。」

った。でももっとキレイな音が出るとよかったと思う 「さくらのすくいバチができるようになっ。」

た 「左手で九の弦を押すところがふにゃふにゃになってしまった (箏 「間違えながらも楽譜ど。」 。 )」

おりに弾けた 」など,できたことやできなかったことがより具体的に書かれていることから,各自。

が学習活動を具体的に振り返って自己評価をしていることが分かる。さらに,第4時間目の課題につ

いて見ていくと 「弦を変える時をスムーズにする 「右手の移動はもっとはやくする 「すくいば, 。」 。」

ちのさくらを弾けるようにする 「さくらⅡを弾けるようにする (箏 「よいところは4時間目も。」 。 )」

続け,キレイな音で弾く 「さくらさくらの伴奏付きに挑戦する (三味線 」など,よりよい演奏。」 。 )

をめざした具体的な課題を見出していることが分かる。

以上のことから,ルーブリックによって何をどのように学習していけばよいのか,個々の生徒にと

って学習課題をより具体的で明確なものにできたことが,目標の達成感・成就感につながっていった

と考えられる。

(3) ルーブリックによる教師の評価状況

図9は,ルーブリックによる生徒の自己評価と教師の評価を比較したものである。3時間の評価を

観点ごとに見たとき,全体の約 %の割合で生徒の自己評価と教師の評価の一致を見ることができ83

た。このことは,ルーブリックの活用によって教師と個々の生徒が具体的に評価基準を共有すること

ができたことの表れであり,評価の客観性を高めようとする本研究がまさに目指すところである。

しかし,教師の評価の方が上である約 %の部分と,わずかではあるが教師の評価が下がってい12

る約5%の部分を見逃すことはできない。この結果から考えられることの一つは,ともすると生徒自

身の見方の方が厳しさがあるのではないかということ

である。教師側の評価の甘さ,逆に生徒自身の自己評

価の甘さということにも目を向けなければならない。

生徒の反省の中には次のようなことも書かれていた。

「レベルに合った目標が考えられてよかった。でも,

自分には簡単に達成できそうなことを目標にしてしま

うこともあったので,加減がむずかしかった 「自分。」

で評価を考えたから,自分にあった評価を考えること

ができたと思う。しっかりそのことを頭において取り

組むことができてよかった。でも,もう少し厳しい評

価を考えた方がよかったかもしれない。自分で考えた

事だからしっかりやろうと思えた 」。

また,本事例においては,自己評価の後,教師の評

価も学習カードの中で生徒に示している。図 は第10

2時間目のB君の評価である。B君の場合,第3観点

[表現の技能]の自己評価を「C」としているのに対 (図9)

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して教師は「B」と判断している。ここに表

れた評価の違いは,まさに生徒自身の厳しさ

からでたものであることが,その後のB君と

のかかわりの中で明らかとなった。

このように,教師の評価を示すことでお互

いに評価について理解することができ,その

ことが次の評価基準の共有に大きくつながっ

ていったことは確かである。B君は反省の中

で次のように書いている 「自分の評価を初。

めて考えたときの授業では簡単だったのに自

分としてはあまりよくない評価だったので次

,『 』 ( )の時間では厳しくして 真面目にやるぞ と自 図 10

分に言い聞かせた 」。

評価する側にとっても,評価される側にとっても,誰が見ても納得できる適切な評価力を追究して

いかなければならない。

(4) 個に応じた学習指導の工夫・改善の状況

本題材の第2時間目から第4時間目の課題解決の学習においては,個々に興味・関心を持った楽器

を選択することと,演奏できるようにしたい曲を選択することで,課題も個々それぞれ様々なものと

なる。生徒が持つこの様々な課題や学習活動に対して,教師がそれを確実に把握し,個に応じた適切

な指導を行っていく上で,生徒と教師が共有するルーブリックは大変有効であったことは明らかであ

る。今回この課題把握において,生徒自身も,また,教師から見ても具体的に課題をつかむために,

図 に示すチェックカードを取り入れた。10

このカードは,毎時間,楽器

の基本的な扱い方や基礎的な奏

法について,個々に確認しなが

ら学習が進められるように,ま

た,そこから課題を見つけやす

くするように,一つ一つのポイ

ントをより具体的にわかりやす

く表現して示したものである。

これによって,個々の課題に応

じた具体的な評価基準の設定と

よりきめ細かな指導・支援につ

なげることができた。

本題材の中で,このチェック

カードを取り入れながらルーブ

リックを活用したことは,限ら

れた時間の中での学習成果から見 (図 )10

ても有効であったと言える。そのことは,本事例の第4時間目のまとめの合奏から明らかに分かる。

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5 研究の成果と今後の課題

「自分がどんなふうに授業に取り組んだかふりかえることができた。自分で自分の評価を考えたり

することで,自分のできることがわかったり,できないことをできるようにしようと取り組むことが

できた 「自分ができる範囲の評価を考えたから,授業の反省がしっかりできたし,次の課題をも。」

てることができました 」。

これは,ルーブリックを取り入れた学習について書いた生徒の感想の一部である。

自分で評価基準を考えることは,容易なことではなかったようである。難しさを感じながらも自分

なりに考えていくことで,生徒自身の主体的な学びを深めることができたことはたいへん意義があっ

たと考える。何よりも教師にとってルーブリックは,生徒一人一人の学習状況を確実に把握し,より

理解を深めるためにたいへん有効であり,個に応じたより適切な指導・支援の実現を可能にしたと言

えるであろう。協力校の授業者は,自身の指導・支援の変化を次のように語っている。

「生徒に教師が考えている評価を示すことにより,授業のどの場面で評価するのかが,より一層は

っきりしたような気がする。また,生徒が記入した学習カードに目を通すことにより,生徒たちがど

こが理解できていないか,どこができないかなどを把握することができた。それを授業内の指導に十

分生かすことができたと思う。学習カードを点検することは非常に大変な作業ではあるが,ルーブリ

ックを通して生徒とのかかわりを深め,生徒たち一人一人を正確に把握し,適切な評価をしていくた

めにも必要なものと感じた。これからもこのルーブリックを表現学習だけでなく,3学期の鑑賞学習

においても活用して学習を深めていく工夫をしてみたい 」。

しかし,課題もかかえている。学校規模によっては音楽教師は一人で全校生徒を指導するところも

少なくない現状である。本事例で実践したルーブリックは,個々の生徒と教師が共有していくもので

あった。生徒一人一人とのかかわりがあればあるほどよりよい成果が上がることは言うまでもない。

しかし,毎時間すべてをルーブリックによる授業にすることは不可能である。題材の中のどの場面が

ルーブリックの活用で学習を深めることができるかを吟味し,計画的に取り入れていくことが望まれ

る。本事例で実践した表現活動においては,たいへん有効であることがわかった。その表現活動にお

いても具体的な目標や課題が見出せる場面での活用を考えていきたい。

参考文献 研究協力員

・新しい音楽科の指導と評価 阿部 勢津子 八田中学校教諭

川池 聰著 教育芸術社 保坂 和彦 白根御勅使中学校教諭

・新・音楽授業の評価 ここがポイント 仲田 太年 甲府東高等学校教諭

山本文茂,佐野靖監修 音楽之友社 渡邉 玲子 白根高等学校教諭

・中学校音楽科の指導と評価

西園芳信監修 暁教育図書

・日本の伝統文化を生かした音楽の指導

峯岸 創監修・編 暁教育図書

・和楽器・日本の音楽を楽しもう 平成15年度 山梨県総合教育センター

研究協力校 執 筆 者 研修主事 大久保 久美

八田中学校 校長 石川 壽

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