密度流拡散装置1997/08/26  ·...

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密度流拡散装置 技術資料 2005ナカシマプロペラ株式会社 MK0003

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密度流拡散装置

技術資料

2005年

ナカシマプロペラ株式会社

# MK0003

Page 2: 密度流拡散装置1997/08/26  · 密度により成層した液体に、ある密度の液体をゆっくり流し込んでやると、その液体は自分と同じ密度の 層に入り込み、その層に沿って水平に遠方まで流れていく性質があります。この流れは密度流と云われ古く

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目 次

1.閉鎖性水域の状態と水質改善方法 ····················································· 2

(1)閉鎖性水域の状態······························································· 2

(2)閉鎖性水域の水質改善··························································· 2

(3)従来機器による上下の循環方法での問題点 ········································· 3

(4)問題点を解決する原理··························································· 4

(5)密度流拡散装置の原理··························································· 6

(6)特徴と効果····································································· 8

2.密度流拡散装置の構造 ······························································· 9

3.実施例 ············································································· 11

Ⅰ海域 ··········································································· 11

(1)装置概要 ······································································ 11

(2)実施結果 ······································································ 12

Ⅱダム湖 ··········································································· 14

(1)装置概要 ······································································ 14

(2)実験のねらい ·································································· 14

(3)設置場所 ······································································ 14

(4)実施前の状況 ·································································· 15

(5)装置設置・稼動後の状況 ························································ 16

4.納入実績 ··········································································· 21

5.付録 ··········································································· 22

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1.閉鎖性水域の状態と水質改善方法

(1)閉鎖性水域の状態 湖沼や内湾などの閉鎖性水域は水が停滞しやすい条件に有ります。そういった水域は、表層の水が太陽光

によって温められ、温められた水は密度が小さいため、底層の冷たく密度が大きい水と混合しない状態とな

ります。このような状態を成層状態と呼びます。 こうした閉鎖性水域の内、プランクトンの栄養となる窒素、リンを多く含んだ水域では、表層では太陽光

の強い影響を受けプランクトンが異常増殖しやすく、赤潮、アオコ、水の華が発生します。底層では沈降し

たプランクトンや有機物がバクテリアによる分解で酸素が消費されます。しかし、成層状態となっているた

め表層からの酸素供給が行われず、底層は貧酸素状態となります。 貧酸素状態となると、硫酸還元菌などが発生し、プランクトン等の死骸や有機物を分解して硫化水素の発

生やリンの溶出を生じます。また、この分解は酸素が有る状態での分解よりも、はるかに遅いスピードで行

われるので、分解されなかったプランクトンや有機物がヘドロとなって堆積します。

O2 O2 O2 O2 O2 O2

O2

O2

O2

H2S 栄養塩

硫化水素の発生 栄養塩の溶出

貧酸素化(嫌気化) 酸素の消費

ヘドロ堆積

酸化分解 窒素、リン プランクトン死骸 魚介類死骸、有機物

沈殿

酸素の発生

O2赤潮 水の華 淡水赤潮

沈降

光合成

嫌気分解

増殖 植物プランクトン

図1 水質悪化状態 (2)閉鎖性水域の水質改善方法 成層化して且つ富栄養な水域の浄化には、上下に水を循環させることが有効であると考えられます。循環

させることで、表層で赤潮、アオコ、水の華を形成しているプランクトンは、光の届かない層へ運ばれるこ

とで増殖速度が抑えられ、底層の貧酸素状態は表層のプランクトンの光合成によって生成された酸素が送ら

れることによって改善されます。

酸素

図2 改善方法

冷たい水

温かい水

2

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(3)従来機器による上下の循環方法での問題点 上下に水を循環させるために、底層から表層へ鉛直方向に向かう流れを人工的に起こす試みはこれまで

種々行われてきました。しかし、単純に底層水をポンプ等で汲み上げて表層付近で吐出させるだけでは、密

度の重い底層水は若干は表層水と混合されるものの大部分はそのまま沈んでいくので、いわゆるショートサ

ーキットとなってしまい、極めて狭い範囲しか攪拌できませんでした。

冷たい水

温かい水

図3 ショートサーキットの例

その実例を写真 1に示します。アオコが発生している湖に従来型曝気循環装置が設置されています。写真から装置周辺でアオコの発生が抑えられただけで極狭い範囲しか効果がないように観察されます。先に述べ

たショートサーキットが生じているからです。

3

従来型曝気循環装置

写真 1 従来曝気装置の例

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密度により成層した液体に、ある密度の液体をゆっくり流し込んでやると、その液体は自分と同じ密度の

層に入り込み、その層に沿って水平に遠方まで流れていく性質があります。この流れは密度流と云われ古く

から知られています。 例えば、川から比較的冷たい水が湖に入っていくとき、川水は湖の中でしばらくは沈降していきますが、

自分と同じ密度層に達すると、その層に沿って水平に向きを変えて流れる現象が確認されています。また、

川が海へ出る河口付近では、上げ潮時は海から川の下層部に密度の高い海水が差し込んでいき、逆に下げ潮

時は密度の低い淡水が海の表面に広がっていきます。この現象も密度流によるものであり、密度流は自然界

のあらゆるところで見ることができます。 密度流の模式図を図 4に示します。ここで、ある密度の液体は自分の密度と同じ層に入り込みクサビ状になり、後方からの液体の供給があれば、このクサビは上下の密度の大きい液体と小さい液体をかき分けるよ

うにしてどんどん前進していき密度流を形成します。このように、密度流は上下の液体の密度差によって起

こされるものであり、重力がエネルギー源であるため、エネルギーコストを必要としない活用すべき現象で

す。

中密度

MIDDLE

表 面

低密度

LOW DENSITY Y

表 面

中密度

MIDDLE

表 面

低密度

LOW

中密度

MIDDLE DENSITY

高密度

HIGH DENSITY

底 B

高密度

HIGH DENSITY

底 BOTTOM 底 BOTTOMOTTOM

図4 密度流模式

4

低密度

LOW DENSIT

高密度

HIGH DENSITY

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実際の密度流の可視化実験結果を写真 2~4に示します。 写真 2 は均一密度の水槽中に同じ密度水を中層に放流した結果です。放流すると直ぐに周囲に散乱し、狭い範囲しか流れの発生が観られません。 写真 3は密度成層中で吐出口深さの密度と同じ密度水を放流した結果です。放流水は自分と同じ密度層をクサビ状に遠方に移流します。これが密度流です。 写真 4は写真 3と同じ条件で放流吐出深さを浅くし軽い密度層から中間層の密度水を放流した結果です。吐き出された水は周辺より重いため沈降し自分と同じ密度層で水平にクサビ状に遠方に移流します。これ

も密度流で、どのような位置から放流しても密度流が発生することを示しています。

中密度水 放流位置

写真 2 均一密度(成層していない)中へ同密度水を放流した場合

中密度水 放流位置

写真 3 密度成層中に中層密度水を放流した場合(放流深さの密度=放流水密度

中密度水 放流位置

写真 4 密度成層中に中層密度水を放流した場合(放流深さの密度<放流水密度

「マリノフォーラム 21深層水活用型漁場造成技術開

5

低密度 中密度 高密度

低密度 中密度 高密度

均一密度

発委員会」より

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(5)密度流拡散装置の原理 密度流拡散装置は、表層と低層に取水口があり、中間にポンプを設け表低層水を同時に吸い込み、混

合し吐き出します。夏場の温度成層(密度成層)した状態で密度流拡散装置を稼動すると、表層の温か

い水(密度の軽い水)と低層の冷たい水(密度の重い水)を混合し、中間的な水温(密度)を持つ混合

水を作り吐き出します。この中間温度(密度)水は、表層水と底層水の間を重力の力によって広範囲に

拡散させるためショートサーキットを形成することなく広く拡散していきます(図 5参照)。 継続的に装置を稼動することで、温かい水と冷たい水が徐々に除去され中間温度(密度)水の層が厚

くなり水温(密度)が鉛直方向に一様化し温度躍層が無くなります。 実際の水域では、太陽光により表面は熱せられることから水温鉛直分布が完全に一様化できないが、

温度躍層発生を抑制し、成層を緩和することができます。

密度流

冷たい水

温かい水

図 5 密度流拡散装置

6

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密度成層させた水槽内に密度流拡散装置のモデルを設置し運転させたときの水槽内の時系列変化を写真 5に示します。水槽は、上層水(茶色)と下層水(透明)に分けられ、密度境界面は吐出し口の上方位置です。

上下水が混合すると青色となり、上層水と下層水の間に入り込み新しい層を形成していることが分かります。

時間が経つに連れ上層水は無くなり青と透明の 2層(20分後)となり、さらに透明な水が無くなり水槽は水色(60分後)のみとなり、全体が混合したことを意味しています。

開始時 5分後

15秒後 20分後

1分後 60分後

=混合水の厚みを示す

写真 5 密度流拡散装置による水槽内の混合状態

7

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8

(6)特徴と効果 密度流拡散装置は、吐出水を水平方向へ広く拡散できることが、従来の曝気循環装置と大きく異なります。 これにより曝気循環装置の効果に加え、新たな特徴と効果を期待することができます。

① 低ランニングコスト、省エネルギー ・重力により駆動する密度流を利用するので横方向へ機械的なエネルギーを加える必要が有りません。 ・横方向へ拡散するので、同じ電力でも、従来曝気循環装置より広範囲な水域をカバーできます。 ・太陽電池パネル(オプション)を使用することが可能で、晴天の日中であれば、電力供給を必要としません。 また、風力、潮位差発電などのエネルギーを利用することも可能です。 ・殺藻剤、凝集剤などの浄水薬品代を必要としません。

②安全性 ・殺藻剤、凝集剤などの浄水薬品を使用しないので安全です。 ・酸化分解を主とする自然浄化能力を促進させる方法なので安全です。 ③浄化効果 ・プランクトン増殖抑制、拡散効果により、赤潮、アオコの発生を防止します。 ・低酸素水に酸素を供給し、底層無酸素化を防止します。それにより好気性バクテリア、魚介類が 快適に生息できる環境を提供します。また、栄養塩の溶出を防止します。 ・ヘドロ堆積、養殖場自家汚染を酸化分解促進及び拡散効果により防止します。

④経済効果 ・漁場、養殖場の生産性が向上します。 ・浄水薬品使用費用を低減します。 ・レジャー、レクレーション環境を創出します。 ・他の浄化装置に比し投入エネルギー(消費電力)が遙かに小さい

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2. 密度流拡散装置の構造

密度流拡散装置は、成層した水域で表層水と底層水をそれぞれ上部、下部のベルマウス及びパイプを通し

て吸い込み混合し、中段のリングノズルより水平面全周に吐き出すものである。吐きだした混合水は、密度

流となって遠くまで無動力で拡散します。吸い込み・吐き出しはリングノズル付ケーシング内部にあって上

下面に羽根を有するインペラを電動機により回転させることにより行います。 図 6は密度流拡散装置の海洋における実施例です。装置は上部構造と下部構造に分かれています。上部構造は、摺動パイプ、リングノズル付きケーシング、インペラ、電動機、軸及び上部ベルマウス等から構成さ

れ、これを4点係留された台船からワイヤーで吊って固定します。下部構造は、下部ベルマウス、パイプ及

びパイプ上端の水中浮体等から構成され、これを底部に十分な重量のアンカーを取り付けることにより水底

に固定します。上部構造物の摺動パイプは、下部構造の水中浮体付パイプの上部に挿入され、上下部構造が

一体化すると共に、パイプの摺動により潮位差(水位差)を吸収します。 風や潮流等により台船が移動して装置が傾斜すると、摺動部にモーメントが発生し摩擦力を生じますが、

これに打ち勝つ十分な浮力と重量を水中浮体及び上部構造に持たせ、常に摺動可能な状態を保持します。

フェンス

室 Machine Room

Motor

下部

Low

浮力体 Pontoon

インペラ Impeller

摺動パイ

Sliding

Density C

図 6密度流拡散装置

9

上部ベルマウス

Upper Bellmouth

電動

機械

密度流 urrent

ベルマウス er Bellmouth

リングノズル プ

Pipe

Sea Bottom

Sea

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図 7は、ダム湖における実施例を示します。 ダムはその性質上、大きな水位変動を生じることがあります。 その変動に追従するには大きな伸縮量が求められ、下部パイプをテレスコピックパイプとしたものです。 その伸縮は、重力式と人為制御式があります。

Density C

密度流 urrent

図 7 密度流拡散装置(ダム湖実証機-重力式)

10

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3.実施例

Ⅰ:海域

(1)装置概要 三重県の五ヶ所湾(図 8参照)で 1997年 6月より、密度流拡散装置を稼働させています。 本装置の主要目を表 1に示します。装置は水深約 15mの内湾に設置され、陸上電力と太陽光発電の電力

(最大約 12kW)のハイブリッド型制御で電動モーターがインペラを回転させるしくみとなっています。装置の混合水吐き出し量は、最大約 17万[m3/日](120[m3/分])です。但し、夜間には太陽電池は発電しないので陸上電源に切り替えてインペラを駆動し、最低約 12万[m3/日]の吐出量を保っています。

密度流拡散装置設置場

図 8密度流拡散装置の設置場所

五カ所湾

表 1 装置主要目

主要目

対象水域水量(迫間浦) 約 1,200[万m3]

設置水深 15.0[m] 全高 16.4[m] 最大径 2.3[m] 上部パイプ径 0.8[m] 下部パイプ径 0.5[m] 空中重量(上部構造) 4.9[ton] 空中重量(下部構造) 2.9[ton] 空中重量(アンカー) 5.7[ton] 吐出流量(最大) 17[万m3/日]

吐出流量(常用) 12[万m3/日]

上下吸い込み流量比 4/1 電動機回転速度(常用) 50[rpm] 電動機出力(常用) 5[kW] 太陽電池発電量(最大) 12[kW]

写真6 密度流拡散装置上部

11

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(2)実施結果 本実証機を 1997年 6月 20日より稼働させました。 図 9に密度流拡散装置の停止時と運転時の溶存酸素横断断面図を示します。 図 9より、装置運転時に底層の溶存酸素量が増加するという調査結果が得られました。

吐出水深

] 海底地形 海底地形

0

2

4

30 31 32 33 34 35

塩分

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30

水温[℃]

水深[m]

図 9 溶存酸素横断断面図 実証機を運転した時としない時の水域の水質について計測を行うために 8月 19日から 23日まで 4日間装置を停止させ、8月 23日から運転を再開しました。測定は、装置不稼働時については 8月 23日に、稼働時については 8月 26日に行いました。その時の装置から 300m離れた場所での水温、塩分の鉛直分布グラフを図 10に示します。グラフより、水温、塩分の成層状態が弱まったことが確認できます。 また、今回の測定では 4日間装置を停止した後、3日間稼働されて、不稼働時と稼働時の違いを測定するだけにでしたが、成層形成前から連続運転することで、より不稼働時と稼働時の違いは明確になると予測さ

れます。

停止

6

]

水温鉛

運転

12

塩分鉛直分

8

10

12

14

16

18

水深[m

1997/8/23

1997/8/26

直分布

1997/8/23

1997/8/26

図 10 装置運転後の水温、塩分変化

停止時

運転

3[m

7月 31日 装置運転前

8月 1日 装置稼働 6時間後 装置位
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また、水質以外の効果では、例年夏場に湾奥部に発生していた赤潮が発生せず、底面の酸素消費も例年より

少なくなったというデータも得られています。更に放流しても集荷量が十分に得られなかったアサリが装置

稼働後大幅に増加しました。 図 11に五ヶ所湾迫間浦漁協でのアサリ放流量と集荷量のグラフを示します。

0

2

4

6

8

10

12

14

H6

H7

H8

H9

H10

H11

H12

ton

集荷量

放流量

平成9年6月設置

図 11 迫間浦漁協のアサリ放流量と集荷量(自家消費を除く)

13

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Ⅱ:ダム湖

(1)装置概要 平成 13年 8月に NEDO(新エネルギー・新産業技術開発機構)の助成事業として採択され、岡山県にあるSダムの一部を借り受けて実証機の稼働を開始しました。装置は 5月~10月を標準運転期とし、商用電源で駆動します。

装置の設置状態を写真 7に、主要目を表 2に示します。ポンツーンは 3箇所の陸上アンカーから係留されています。装置はポンツーンに吊り下げられています。ダムの渇水を考慮して、装置の全長は 19~42mに伸縮して水位に追従する構造となっている。

設置水深

全長(伸縮

最大径

吐出流量(

上下吸い込

電動機出力

写真 7 装置の設置状態 (2)実験のねらい

密度流拡散装置を稼動することで、以下の効果を期待しています。 <一次効果> ・夏場の水温躍層の破壊・抑制 ・低層の貧酸素水塊の除去 ・表層の水温の低下 <二次効果> ・アオコ発生の抑制

・透明度の改善

(3)設置場所 図 12 に装置の設置場所を示します。設置場所は入り江になっており滞留

源となっています。

14

表 2 装置主要目

主要目

約 50m

可能) 約 19~42m

3.2m

常用) 30 万㌧

み流量比 1/1

(常用) 10kW

し易く、例年アオコの発生

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本流

500m

1000m 支流側

★:装置設置場所

ダム堰堤 本流

図 12 Sダムおよび装置の設置場所

(4)実施前の状況 装置設置前の試験エリア周辺を写真 8に示します。例年、支流側でアオコが発生しており本流側に流出しないように仕切フェンスが設置されています。写真から仕切フェンスを境に支流の試験エリアでア

オコが発生していることが分かります。

支流、試験エリア

本流 仕切フェンス

写真 8 試験実施前(平成 13年 9月 6日)

15

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(5)装置設置・稼動後の状況 ①水温躍層の抑制 平成 14,15年の 8月の水温鉛直構造を図 13、14に示します。横軸は密度流拡散装置からの距離(+

方向が本流側の下流、-方向が支流側の上流)、縦軸は水深を示します。装置から本流側に約 100m地点にアオコ流出防止フェンスが設置されています。フェンスを境に本流側と装置の設置している支

流側で比較すると、表層水温は支流側の方が 2~4℃程低くなっていることが分かります。また、支流側は水温躍層が緩和されていることが分かります。

本流側下流 支流側上流

16

-500 0 500 1000 1500 2000 2500 3000

40

35

30

25

20

15

10

5

02625

2423

2221

20

-500 0 500 1000 1500 2000 2500 3000

40

35

30

25

20

15

10

5

0

装置からの距離(m)

水深(m)

161718192021222324252627282930

フェンス

(℃)

図 13水温分布(平成 14年 8月 6日)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

水温(℃)

水深(m)

本流500m

支流500m

図 14水温分布(平成 15年 8月 20日)

-500 0 500 1000 1500 2000 2500 3000

40

35

30

25

20

15

10

5

023

22

21

20

19

24 2526

装置からの距離(m)

40

35

30

25

20

15

10

5

0

水深(m)

161718192021222324252627282930

(℃)

フェンス 支流側上流 本流側下流

-500 0 500 1000 1500 2000 2500 3000

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

水温(℃)

水深(m)

本流500m

支流500m

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装置停止中と稼動中の湖面色および透明度 状態および透明度を写真 9、10に示します。写真 9が

盛夏期に装置を停止、再稼動したときの湖面

置を停止して 8日後(平成 15年 7月 23日)、写真 10が再稼動後 17日(平成 15年 8月 18日)です。これらに併せて、図 15および 16に装置を中心として各位置での透明度を示します。横軸に装置からの距離(+方向が本流側の下流、-方向が本流側および支流側の上流)、縦軸に透明度を示す。

装置を停止していると支流側の湖面色および透明度が、本流側に比べ悪化していることが分かります。

ところが、装置を再稼動してから支流側の湖面色および透明度は改善され本流側よりも良くなってい

ることが分かります。

仕切フェンス

本流

支流

写真 9 装置 停止 8日後(平成 15年 7月 23日)

仕切フェンス本流

支流

写真 10 装置 再稼動 17日後(平成 15年 8月 18日)

Page 19: 密度流拡散装置1997/08/26  · 密度により成層した液体に、ある密度の液体をゆっくり流し込んでやると、その液体は自分と同じ密度の 層に入り込み、その層に沿って水平に遠方まで流れていく性質があります。この流れは密度流と云われ古く

透明度(平成15年7月23日)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

-2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500

装置からの距離(m)

透明度(m)

支流

本流

透明度(平成15年8月18日)

0

0.5

1

1.5

2

2.5

3

-2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500

装置からの距離(m)

透明度(m)

支流

本流

図 15透明度(平成 15年 7月 23日) 図 16透明度(平成 15年 8月 18日)

さらに 4日後の平成 15年 8月 22日の透明度と湖面状態を写真 11に示します。透明度は本流側で1m未満であったが、支流側は 2m 以上の透明度があった。これに関連して湖面状態も支流側の方が

良好であることが分かります。

500m

装置位置

本流 支流

アオコ流出防止フェンス

下流

0m

透明度

1m

2m

3m

⑤ ③

② ①

写真 11 装置周辺の透明度(平成 15年 8月 22日)

③表層水温の低下とクロロフィルの低下 写真 11に対応して、MSS(Multi Spectrum Scanner)装置を飛行機に搭載し、貯水池の調査を行っ

た。そのときの表面の水温分布を図 17、クロロフィル a分布を図 18に示します。

18

Page 20: 密度流拡散装置1997/08/26  · 密度により成層した液体に、ある密度の液体をゆっくり流し込んでやると、その液体は自分と同じ密度の 層に入り込み、その層に沿って水平に遠方まで流れていく性質があります。この流れは密度流と云われ古く

フェンスで仕切られた装置のある支流側の水温が本流側に比べ低くなっていることが分かります。

また、クロロフィル aも支流側の方が低くなっています。この計測結果から表層水温の低下にともないクロロフィル aも低くなっていることが分かります。 写真 11の湖面状態および透明度と、MSSのクロロフィル a計測結果は良い一致を示していること

も分かります。

19

1000m

500m

1500m

仕切フェンス

図 17 MSSによる水温分布(平成 15年 8月 22日)

仕切フェンス 500m

1000m

1500m

図 18 MSSによるクロロフィル a分布(平成 15年 8月 22日)

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④密度流の流況 蛍光物質を密度流拡散装置の表層取水口から注入し生成した密度流を追跡しました。その結果を図

19 に示します。横軸が装置からの距離、縦軸が水深で図中には水温分布と密度流の軌跡を示します。密度流はフェンスの下をくぐり抜けて僅か 0.5℃の狭い温度層に入り込んで本流の下流側、上流側ともに流れていることが確認できました。2日間の計測で密度流は上流側 1.0km,下流側 2..7kmを移流していることが分かりました(図 20参照)。

500 1000 1500 2000 2500 3000

10

8

6

4

2

0

装置からの距離(m)

水深(m) 19.5

20.020.521.021.522.022.523.023.524.024.525.025.526.026.5

支流奥 本流下流フェンス

図 19 水温鉛直分布と密度流の軌跡(平成 15年 8月 16,17日)

0 500 1000

500m

1000m

堰堤

2000m

下流側

2500m

上流側 1500m

100m

図 20 密度流の移流範囲(平成 15年 8月 16,17日)

20

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(6)その他 夏期に毎年張られるフェンス(あおこの流出防止用)があることで、実験エリア内とエリア外の

差異が非常によく解る場所であったため、解りやすい対比が出来た。 全湖をカバーするには、同等能力の装置が複数台必要であるが、入り江部のみの結果と言えども

その距離 1km に及ぶ実験エリア内を僅か 15kw の電力で改善が進んだことは、従来の機器に比し大幅な低ランニングコストで水質改善が可能な機器であるといえる。またランニングコスト

(電力料)は、運転期間5月下旬~10月上旬で90万円弱であった。 4.納入実績

. 水域名称 設置水深

[m]

台数

[台]

吐出水量

[万㎥/日]

電動機

[kw] 設置目的

浮力

体 電源 設置年

1 三重県五ヶ所湾

迫間浦 15 1 12 5

低層DO改善

赤潮防止

漁獲量増加

有 商用電源

太陽発電 1997

2 茨城県霞ヶ浦

高浜 4 1 30 15

低層DO改善

ヘドロ浄化

漁獲量増加

無 商用電源 2001

3 岡山県

S ダム

常時満水時

58 1 30 15 水質改善 有 商用電源 2002

4 神奈川県

相模湾

200mより

深層水取水 1 30 30

深層水活用

漁場創生 無 自家発電 2003

21

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自然エネルギー活用型水質改善システム

“密度流拡散装置”による改善効果例

設置前

設置後

H15.8.18

H13.9.6