複素積分 - 東京大学coral.t.u-tokyo.ac.jp/fujiwara/mathematics-2/ch5.pdfs j = n x j =1 f (...

30
複素積分 展望: する するこ あった。 して に大 ある。 コーシー ある。 、す ころ 学んだこ あるが、或る まる くそ い。 を学 、た えら れれ が一意 ってしまうこ が、 される。こ よう それぞれ あるから、 易に きる。 しい いうこ を意 するから ある。 がガ スに まるように、 あった。しかしガ それを せず、 コーシー( によって され され た。コーシー だって多 くに わった。 学に する アイデア あるに かかわらずコーシー いえるカトリック かつブルボン あった いう。 ぬま して にし けたため、学 において をし くて かったそう ある。 オイラー、ラグランジュ、ラプラス、フーリエ、ガ ス、コーシー ちょ ごろから から れて

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Page 1: 複素積分 - 東京大学coral.t.u-tokyo.ac.jp/fujiwara/Mathematics-2/Ch5.pdfS j = N X j =1 f ( )(z 1) (5.2) を考える(図 5.2)。定義 30 複素積分: 分割 の分点を無限に多くしかつ

第 5章

複素積分

展望:

複素関数の微分に関する性質は、関数の局所的な性質を議論することで

あった。関数の性質として同時に大局的な性質も重要である。本章の中心的

話題はコーシーの積分定理と留数定理である。

複素関数は、すでに微分のところでも学んだことであるが、或る点 zでの

関数の値が 1 点でのみ決まるのではなくその大局的な性質と無縁ではない。

積分の性質を学ぶと、たとえば正則関数の関数値が広い領域の境界で与えら

れればその内の全ての点での関数値が一意的に決ってしまうことなどが、もっ

と明瞭に示される。このような性質を本章では学ぶ。正則関数の実部、虚部

はそれぞれ調和関数であるから、実はこのことは容易に理解できる。�u = 0

は u(x; y)が周りの平均と等しいということを意味するからである。

近代数学のほとんど全ての芽がガウスに始まるように、複素積分の最初

の発見者はガウスであった。しかしガウスはそれを 1827年まで公にはせず、

A.L.コーシー(Cauchy)(1789-1857)によって再発見され 1814年に発表され

た。コーシーは複素関数論に先だって多面体論や有限群論(とくに置換群)の

構成に携わった。数学に関する限りは革命的なアイデアの持ち主であるにも

かかわらずコーシーは、狂信的ともいえるカトリック信者でかつブルボン王

家の崇拝者であったという。死ぬまで自身の王党派としての政治的立場を明

瞭にし続けたため、学問の世界においても政治的には相当の苦労をしなくて

はならなかったそうである。

オイラー、ラグランジュ、ラプラス、フーリエ、ガウス、コーシー等はちょ

うど 1700年ごろから 1850年代までの約 150年間に次から次へと現れては大

75

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76 第 5章 複素積分

図 5.1 (a)単連結領域. (b)単連結でない領域(多重連結領域).

きな仕事を成し遂げていった。それらの新しい科学思想の発展は、絶対主義

王制(プロシアのフリードリッヒ大王、ロシアのエカテリーナ女帝)の時代

からフランス革命を経て近代国家形成期に至る政治的近代化の時期と重なっ

ている。数学を勉強しながらその時代に思いをいたすと一段と数学が楽しめ

るではないか。1

5.1 ジョルダン閉曲線と正則領域の形

複素 z平面上で、実変数 tをパラメターとして点 z = z(t)が連続に動き、

1 つの曲線を描く場合を考えよう。a � t � bとして z(a)を始点、z(b)を終点

という。 z(a) = z(b)のとき、この曲線を閉曲線と呼ぶ。端点を除いて t1 6= t2

であるとき z(t1) 6= z(t2)である、すなわち自分自身と交わらない場合この曲

線をジョルダン(Jordan)曲線という。z(a) = z(b)であるジョルダン曲線を

ジョルダン閉曲線という。

ジョルダン閉曲線により複素 z平面は 2つの部分に分けられる。有界な領

域を 内部、有界でない他方を外部という。またジョルダン閉曲線上を、内部

を左側に見て進む方向を正の向き、その反対の向きを負の向きという。領域

D内の任意のジョルダン閉曲線を連続に変形して一点に収縮することができ

る場合、この領域Dは単連結であるという。単連結でない領域を多重連結と

1「数学をつくった人びと」E.T.ベル著(東京図書)は数学者の生身の人間としての物語、彼らが相互にどういうように影響しあったか、またその時代の歴史的背景を教えてくれる。

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5.2 複素積分 77

図 5.2 曲線 Cの分割�.

いう (図 5.1)。今後、混乱のない場合、ジョルダン閉曲線を単に閉曲線という。

5.2 複素積分

5.2.1 複素積分の定義

複素平面内の曲線に沿った複素関数の積分(複素積分)を定義しよう。

領域D内で連続な複素関数 f(z)が定義され、またこの領域内に連続曲線

C がある。連続曲線 Cは滑らかな曲線またはそれの有限個の接合であるとす

る。このような曲線を区分的に滑らかな曲線という。以下では積分路はすべ

て区分的に滑らかであるとする。

Cの始点を z0、終点を zとする。Cの上で z0と zの間に順に分点 z1; z2, � � �, zN�1をとり、この分割を

� = fz0; z1; z2; � � � ; zN�1; zN = zg (5.1)

と表す。分割�に対して zj�1と zjとの間の任意の点を�jとし、

S� =NXj=1

f (�j)(zj � zj�1) (5.2)

を考える(図 5.2)。

定義 30 複素積分 : 分割�の分点を無限に多くしかつ zjzj�1の間隔を無限に

小さくしたとき、連続関数 f(z) に対して、和 S�の極限値は有限に確定する。

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78 第 5章 複素積分

このとき f(z)は複素積分可能であるといい、この値を複素積分といい

ZCf(z)dz = lim

�!0; N!1

NXj=1

f(�j)(zj � zj�1) (5.3)

と書く(� = max jzj � zj�1j)。向きまで(始点および終点)を含めて曲線 C

を積分路 Cという。積分路 Cがジョルダン閉曲線であるとき、曲線の向きに

したがって、積分の向きも正の向き、負の向きという。積分路 Cがジョルダ

ン閉曲線を正の向きに動く閉じた積分路であるとき、これをICf(z)dz (5.4)

と書く。

複素関数 f(z)が連続であるならば、和 S�の極限値が有限に確定すること

を示しておく。zj; �jおよび f (�j)の実部、虚部を

zj = xj + iyj ; �j = �j + i�j ; f(�j) = uj + ivj

と書こう。S�を書き直して

S� =NXj=1

f(�j)(zj � zj�1)

=NXj=1

[fuj(xj � xj�1)� vj(yj � yj�1)g

+ifvj(xj � xj�1) + uj(yj � yj�1)g](5.5)

を得る。パラメータ sを用いて、曲線 Cを

C : x = x(s); y = y(s) ;a � s � b (5.6)

と表す。

zj � zj�1 = z(sj)� z(sj�1) � dz

ds(sj � sj�1)

xj � xj�1 = x(sj)� x(sj�1) � dx

ds(sj � sj�1)

yj � yj�1 = y(sj)� y(sj�1) � dy

ds(sj � sj�1)

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5.2 複素積分 79

図 5.3 積分路 C1; C2; C3.

であるから、上の和は

S� =Xj

(ujdx

ds� vj

dy

ds)(sj � sj�1) + i

Xj

(vjdx

ds+ uj

dy

ds)(sj � sj�1) (5.7)

と書き直される。

u(x(s); y(s))dx

ds� v(x(s); y(s))

dy

ds

v(x(s); y(s))dx

ds+ u(x(s); y(s))

dy

ds(5.8)

は区分的に sの連続関数であるから、(5.7)の S� は分割の方法によらず極限

N !1, jsj � sj�1j ! 0 で有限値に確定する (1変数の「リーマン積分の定

理」参照)。これを

limS� =Z b

a(u

dx

ds� v

dy

ds)ds+ i

Z b

a(vdx

ds+ u

dy

ds)ds (5.9)

と書き、曲線 Cに沿う線積分という。またこれを

limS� =ZC(udx� �dy) + i

ZC(�dx+ udy) =

ZCf (z)dz (5.10)

と書く。これが複素平面上の積分路 Cに沿った複素積分である。

例 29 始点を z = 0、終点を z = 1 + iとする以下のいくつかの積分路(図

5.3)に沿って、関数 f(z) = zを定義に従って積分してみよう。

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80 第 5章 複素積分

(1) C1 : 0! 1! 1 + i

(2) C2 : 0! 1 + i

(3) C3 : 0!p2円弧�! 1 + i

C1上では、 0! 1の部分では z = x だから dz = dx, 1! 1+iでは z = 1+iy

だから dz = idy。

C2上では z = (1 + i)sと書いて dz = (1 + i)dsとなる。

C3上では 0 ! p2 の部分では z = x だから dz = dx,

p2 ! 1 + i の円弧上

では z =p2ei� と書いて dz = i

p2ei�d� である。

(1)ZC1

zdz =Z 1

0xdx+ i

Z 1

0(1 + iy)dy =

1

2+ i(1 + i

1

2) = i

(2)ZC2

zdz =Z 1

0(1 + i)s(1 + i)ds = (1 + i)2

1

2= i

(3)ZC3

zdz =Z p

2

0xdx+

Z �4

0

p2ei�i

p2ei�d� = 1 + (i� 1) = i

いずれの積分路についても答は iとなり、積分は積分路によらず、始点と終

点で決まっている(らしい)。

もう 1つ別の例を考えよう。

例 30 始点を z = 1、終点を z = 1として単位円周上を正の向きに 1周積分

する積分路で f(z) = 1=zを積分する(図 5.4)。単位円周上では z = ei�とお

いて、dz = iei�d�であるからIjzj=1

1

zdz =

Z 2�

0

1

ei�iei�d� = i

Z 2�

0d� = 2�i (5.11)

となる。ここでは積分の道すじが閉曲線であることを示してHという記号を用

いている。複素平面上で極 (z = 0)を内側に見た 1周積分の値がゼロでない

値を与えていることに注意しておこう。

次に z = ei�0から出発して z = ei�1 (または e�i(2���1))まで単位円周上を

正(または負)の向きにまわる (ei�1 = e�i(2���1))。z = ei�, dz = izd� である

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5.2 複素積分 81

図 5.4 単位円周上の積分.

からZ �=�1

�=�0

1

zdz = i

Z �1

�0d� = i(�1 � �0) ; (5.12)

Z �=�(2���1)

�=�0

1

zdz = i

Z �2�+�1

�0d� = i(�1 � �0 � 2�) : (5.13)

この例では z平面上で始点も終点も同じであるが積分路は違い、積分の値も

異なる。極 z = 0を廻る単位円周を考えると、第 1の積分はその上を正の向

きに、第 2の積分は負の向きにまわっている。第 1の積分路を廻り、その後

第 2の積分路を反対に廻れば、結果的に単位円周上を一回りすることになる。Z �=�1

�=�0

1

zdz �

Z �=�(2���1)

�=�0

1

zdz =

I 1

zdz (5.14)

例 29のように、z平面上 Aから Bまでの複素積分が積分路によらず、点

A, Bのみによって決まっている場合を考えよう。AからBへ至る交わらない

2つの積分路 C1と C2を考える(図 5.5)。Z B

A(C1)f (z)dz =

Z B

A(C2)f(z)dz (5.15)

であるからZ B

A(C1)f(z)dz �

Z B

A(C2)f (z)dz = (

Z B

A(C1)+Z A

B(�C2))f(z)dz = 0 (5.16)

となる。ここで C2を逆にたどる Bから Aへの道すじを�C2と書いた。積分

の定義 (5.3)により積分路を逆にするとマイナスが付く。これは 5.2.2の性質

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82 第 5章 複素積分

図 5.5 点Aから点Bに至る2つの積分路 C1、C2.

(2)に述べる。式(5.16)を書き直すと、Aから Bに C1を通り、さらに Bか

ら Aに (�C2)をたどってもどる道すじを Cと書くと、Cは閉曲線でICf(z)dz = 0 (5.17)

となる。上の議論から次の結論が得られる。

定理 21 ある領域内での複素積分が積分路によらず始点と終点のみで決まる

ということは、その領域内の任意のジョルダン閉曲線を積分路とした一周積

分が 0ということである。

5.2.2 複素積分の性質

複素積分の基本的性質を以下にまとめておく。ただし関数 f(z)、g(z) は

連続関数、積分路は区分的に滑らかであるとする。

(1) aを複素定数としてZC(f(z) + g(z))dz =

ZCf (z)dz +

ZCg(z)dz (5.18)Z

Caf(z)dz = a

ZCf (z)dz: (5.19)

(2)点 Aから点 Bに至る積分路を C、同じ曲線上を Bより Aに至る積分路

を�Cと書くとZ�C

f(z)dz = �ZCf (z)dz: (5.20)

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5.3 コーシーの積分定理 83

(3)滑らかな積分路 Cはパラメータ sを用いて z = z(s), (a � s � b) と書か

れるとする

jZCf(z)dzj �

Z b

ajf (z(s))jjz0(s)jds �

ZCjf(z)jjdzj: (5.21)

ここでは 3番目の不等式のみ証明しよう。(1)、(2)は簡単に定義から示す

ことができる。(5.21)の不等式の左辺は

j limXj

f(z(tj))dz(tj)

ds(sj � sj�1)j; (5.22)

右辺は

limXj

jf(z(tj))jjdz(tj)ds

j(sj � sj�1) (5.23)

である。ただし sj�1 < tj < sj。一般に成立する複素数 ajの不等式((1.19)

の一般化)

jXj

ajj �Xj

jajj

を(5.22)と(5.23)に当てはめれば、式(5.21)の不等式を得る。(証明お

わり)

5.3 コーシーの積分定理

複素関数の基本的性質の根幹をなすのがこれから説明するコーシー(Cauchy

)の定理である。コーシーの定理は、f(z)の一価正則性すなわち fの微分可

能性(f = u + ivの ux; uy; vx; vy の存在)のみから導かれる。議論を簡単に

行なうために最初に ux; uy; vx; vyの連続性も仮定して証明する。ただし、後で

コーシーの定理から f (z)の無限回連続微分可能性をいうのだが、ux等の連続

性を仮定してしまうと循環論法になってしまう。それを避けるために、この

節の後半で、ux; uy; vx; vyの存在のみを仮定し連続性は仮定しない証明も示す

ことにする。

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84 第 5章 複素積分

図 5.6 グリーンの定理.

5.3.1 コーシーの積分定理

定理 22 コーシーの積分定理: 単連結領域 Dにおいて f(z) は一価正則であ

り、ジョルダン閉曲線 Cは D内にある。このときICf(z)dz = 0 (5.24)

が成立する。

f(z) = u+ ivの正則性(微分可能性)とともに、微分係数 ux; uy; vx; vyの

連続性を仮定する。こうすると、グリーンの定理を用いて上の定理を証明す

ることができる(コーシー自身による証明)。2

式 (5:10)にグリーンの定理を用いてIf(z)dz =

I(udx� vdy) + i

I(vdx+ udy)

2グリーンの定理: f(x; y)および fx; fyが 2次元領域内で連続であるとする。このとき領域内を正の向きに一周する積分路を C、その内部をDとするとZ Z

D

fy(x; y)dxdy = �

IC

f(x; y)dxZ ZD

fx(x; y)dxdy =

IC

f(x; y)dy

である。C が y = y1(x); a � x � b �および y = y2(x); a � x � b �で、常に y1(x) � y2(x)(図 5.6)であれば第 1式の証明は容易である。そうでないときには、領域Dを上の条件を満たす小領域に分割する。上の条件から積分はZ ZD

fydxdy =

Z b

a

dx

Z y2

y1

fydy =

Z b

a

dxff(x; y2(x)) � f(x; y1(x))g = �

IC

f(x; y)dx

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5.3 コーシーの積分定理 85

=ZD(�vx � uy)dxdy + i

ZD(ux � vy)dxdy : (5.25)

ここでコーシー・リーマンの関係式 ux = vy, vx = �uy (式 (2.10))を用いる

と、(5.25)の最後の式は積分の中が恒等的に 0となる。よってIf(z)dz = 0

を得る。(グリーンの定理を用いた証明終わり)

ux等の連続性を仮定せずにコーシーの積分定理を証明しよう。簡単のため

積分路 Cは閉じた 3角形とする。一般の曲線の場合は小さな 3角形に分割す

ればよい。正則関数 f (z)は微分可能であるから、領域内で

f(z) = f(z0) + f 0(z0)(z � z0) + (5.26)

と書かれる。 は (z � z0) ! 0としたとき、それより速く 0になる複素数で

ある。したがって任意の正数 " に対して 適当な�を選んで jz � z0j < �である

全ての zに対して

jf (z)� ff(z0) + f 0(z0)(z � z0)gj < "jz � z0j (5.27)

かつ、jZ � Z0j ! 0のとき " ! 0とすることができる。複素積分の性質 (3)

(式(5.21))により、領域内の z0を含む小さな領域をかこむジョルダン閉曲

線 C 0に沿って���IC0

dz[f(z)� ff (z0) + f 0(z0)(z � z0)g]���< "

IC 0

jdzjjz � z0j (5.28)

である。例 29で示したように一次式の積分は積分路によらないから、左辺 fg内を一周積分した結果はI

C0

ff(z0) + f 0(z0)(z � z0)gdz = 0

となる。ここで符号に注意してほしい。また 積分路 C が x = x1(y); c � y � d およびx = x2(y); c � y � d かつ x1(y) � x2(y)であれば、同様に次の第 2式が示される。Z Z

D

fxdxdy =

Z d

c

dyff (x2(y); y)� f (x1(y); y)g =

IC

f(x; y)dy:

以上 2つの式から Z ZD

(@g

@x�

@f

@y)dxdy =

IC

(fdx+ gdy)

を得る。これがグリーンの定理である。

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86 第 5章 複素積分

図 5.7 3角形積分路 Cの分割.

となる。これから ���IC0

f(z)dz���< "

ZC0

jz � z0jjdzj (5.29)

を得る。微少領域をかこむ曲線 C 0の長さを lとすると jz � z0j < lであるから

jIC 0

f(z)dzj < "l2 (5.30)

である。

3角形積分路 Cをその各辺を 2等分する点を結び 4つの等しい面積の 3角

形 (C 01; C

001 ; C

0001 ; C

00001 )に分ける (図 5.7)。Cに沿う積分は 4つの 3角形それぞ

れの周に沿う積分の和となる。IC=IC0

1

+IC00

1

+IC 000

1

+IC0000

1

(5.31)

積分の絶対値が最大値をとる 3角形を C 01とすると

jICf (z)dzj �X

j

jIC(j)1

f (z)dzj � 4jIC0

1

f (z)dzj (5.32)

である。この手続きを N回すすめると

jICf(z)dzj � 4N j

IC 0

N

f(z)dzj (5.33)

となる。先の小さな 3角形 C 0を C 0Nとして式(5.30)を考える。このとき C

の周の長さを L とすれば l = 2�NL であるから

jICf(z)dzj � 4N・"4�NL2 = "L2 (5.34)

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5.3 コーシーの積分定理 87

図 5.8 2重連結領域 Dと積分路 C1; C2

となる。N !1とすることで"! 0とできるから、これで j HC f(z)dzj ! 0

すなわちHf(z)dz = 0を得る。以上の説明では、関数の連続性と微分可能性、

積分路の分割以外使っていない。(ux等の連続性を仮定しない証明終わり)

コーシーの積分定理では、正則領域は単連結であるとした。図 5:8のよう

な 2重連結領域では図に示したような正則でない領域 D0 を内側に含む 2つ

の閉曲線 C1; C2を考える。また C1と C2をつなぐ道すじ C0および、それを逆

にたどる C 00(�C0)を考える。内側の道すじ C2を逆にたどる道を�C2と書

く。C1; C0;�C2; C00をつないだ道すじは正則領域のみを正の方向にまわる閉

曲線で、しかも内部も一価正則である。したがって�Z

C1

+ZC0

+Z�C2

+ZC0

0

�f(z)dz =

If (z)dz = 0 (5.35)

となる。f(z) は積分路上で一価正則であるから C0上の f(z)と C 00上の f (z)

は等しい。また C0と C 00では積分の向きは逆であるからZC0

f(z)dz +ZC 0

0

f (z)dz = 0 (5.36)

となる。また(5.20)によりZ�C2

f(z)dz = �ZC2

f (z)dz (5.37)

である。よって ZC1

f (z)dz =ZC2

f(z)dz (5.38)

となる。以上をまとめると次の定理を得る。

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88 第 5章 複素積分

図 5.9 多重連結領域 Dと積分路 Cj.

定理 23 f(z) は領域 D内で正則であり、Dの内側に f(z)が正則でない領域

D0が存在するとする(すなわち Dは 2重連結領域)。D0を内側に含む 2つの

ジョルダン閉曲線 C1, C2をとる(図 5.8)。C1を領域 D内で連続的に変形し

て C2に変えることができる。このときIC1

f (z)dz =IC2

f(z)dz (5.39)

が成り立つ。

f(z)の一価正則領域は多重連結であるとする (図 5.9)。このとき定理は一

般化されて次の様になる。

定理 24 f(z)の 1価正則領域Dは多重連結で、その内側にある正則でない部

分をD1;D2; � � �とする (図 5.9)。Djを内側に見て、他の非正則領域を内側に含

まない正の方向にまわる閉じた積分路をそれぞれ Cjとする。また C1; C2; � � �すべてを内に見て正の方向に進む積分路を Cとする。このとき

ICf (z)dz =

Xj

ICjf(z)dz (5.40)

である。

(証明) 図 5:9のように積分路 CとCjの間に往復の道すじC 0jを付け加える。

Cjを逆方向に進む道すじを�Cjと書くと、Cと�Cj ; Cjおよび C 0j;�C0

jにより

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5.3 コーシーの積分定理 89

非正則領域を内側に含まない閉じた積分路ができる。これに対してコーシー

の積分定理を適用すれば

fIC+Xj

(I�Cj

+ZC0

j

+Z�C0

j

)gf(z)dz = 0 :

C 0j上と�C 0

j上で f(z)は等しくしたがって

(ZC0

j

+Z�C0

j

)f(z)dz = 0

である。よってICf(z)dz = �X

j

I�Cj

f(z)dz =Xj

ICjf(z)dz

を得る。(証明終わり)

5.3.2 不定積分とその正則性

以上の議論から単連結正則領域では積分R za f(�)d� は a! zの道すじに依

存せず、したがって

F (z) =Z z

af(�)d� (5.41)

と書くことができる。このことから不定積分を定義することができる。

定義 31 不定積分: f(z)が単連結領域で正則であるならばその領域内で定義

される積分 Z z

af (�)d� (5.42)

は積分の始点 a、終点 zのみに依存し、a; z間の積分路には依存しない。この

とき一意的に決まる関数

F (z) =Z z

af(�)d� (5.43)

を f(z)の原始関数、不定積分という。

原始関数 F (z)は zを変化させると連続的に変化する。変化量は zの無限小

の変化に対してその積分路の長さ程度の大きさである。したがって F (z)は連

続で微分可能、すなわち正則である。このことをもう少し厳密に表現しよう。

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90 第 5章 複素積分

定理 25 f(z)が単連結領域D内で正則であるとき、その不定積分 F (z)は正

則で

dF (z)

dz= f(z) (5.44)

である。

(証明)この証明は以下のように考えればよい。z+�zをD内の点(f (z)

の正則点)とすると

F (z +�z)� F (z) =Z z+�z

zf(�)d�

= f (z)�z +Z z+�z

z(f (�)� f(z))d� (5.45)

である。f(z)は連続であるから、任意の正数"に対して適当に�を選ぶと、j��zj < �である全ての�に対して jf(�) � f(z)j < "とすることができる。した

がって

jF (z +�z)� F (z)

�z� f(z)j = j 1

�z

Z z+�z

z(f(�)� f(z))d�j

� "

j�zj jZ z+�z

zd�j = " (5.46)

となる。�z ! 0( � ! 0)とすると f(z) の連続性から"! 0となる。

lim�z!0

F (z +�z)� F (z)

�z= f(z) : (5.47)

よって F (z)は微分可能、正則であり(5.44)が成り立つ。(証明終わり) 。

5.3.3 対数関数の多価性と 1=zの積分

f(z) = 1=zは z = 0 を極とする。z = 0 を含む領域を考えると f (z) は

z = 0を除く 2重連結領域で一価正則である。始点を z0 (0 � arg z0 � 2�)、

終点を z(0 � arg z � 2�)とする積分路 C0は、z0, zと同じく、偏角が 0と 2�

の間で動くとする (図 5.10(a))。C0上は 1=zの単連結一価正則領域内にあるか

ら、不定積分

F (z) =Z z

z0

1

�d� (5.48)

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5.3 コーシーの積分定理 91

図 5.10 1/zの積分路.

が一意的に定まる。したがって

F 0(z) =1

z(5.49)

であるから、(d=dz) log z = 1=zと比較して

F (z) = log z + a(複素定数) (5.50)

である。一価正則領域内で始点と終点を固定したまま積分路を変更しても積

分の値は変わらないから、図 5:10(a)のようにまず半径 jz0jの円周上を偏角 0

まで戻り(積分路 C1)実軸上を jz0jより jzjまで動き、さらに半径 jzjの円周上を正の向きにまわって zに至る道(積分路 C2)を考え、そこで積分しよ

う。この積分路を L0とする。すると

F (z) =Z z

z0(L0)

1

�d� =

ZC1

1

�d� +

Z jzj

jz0j1

xdx+

ZC2

1

�d�

である。それぞれの積分はZC1

1

�d� = �i arg z0 (0 � arg z0 � 2�);

Z jzj

jz0j1

xdx = ln jzj � ln jz0j;Z

C2

1

�d� = i arg z (0 � arg z � 2�);

したがって Z z

z0(L0)

1

�d� = fln jzj+ i arg zg � fln jz0j+ i arg z0g

; 0 � arg z � 2� (5.51)

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92 第 5章 複素積分

となる。これが 1=zの原始関数である。ここで積分路をきちんと定義して積

分を行なったことに注意しなくてはいけない。

次に同じく z0から zに至る道を考えるが今度は原点を 1 回正の向きにま

わったあとで zにむかうことにしよう (図 5.10(b))。この道を L1とする。この

積分路で 始点は 0 � arg z0 � 2�であり終点は 2� � arg z � 4�である。Z z

z0(L1)

1

�d� =

Z arg �=2�

arg �=arg z0

1

�d� +

Z jzj

jz0j1

xdx+

Z arg �=arg z

arg �=2�

1

�d�

= i(2� � arg z0) + ln jzj � ln jz0j+ i(arg z � 2�)

= fln jzj+ i arg zg � fln jz0j+ i arg z0g: 2� � arg z � 4� (5.52)

である。原点を正の方向に n回まわった道を Lnとする。Ln上の積分もZ z

z0(Ln)

1

�d� = fln jzj+ i arg zg � fln jz0j+ i arg z0g

; 2n� � arg z � 2(n+ 1)� (5.53)

である。以上の計算で ln jzj + i arg z (2n� � arg z � 2(n + 1)z) の部分が

log z (0 � arg z � 2�)の多価性に対応している。つまり 1=�を z0から zまで

積分するとき、積分路が原点を何回まわるかという道すじと対数関数 log zの

多価性が対応している。

5.4 留数定理

5.4.1 留数定理

複素平面上のジョルダン閉曲線 Cがあり、その内部に極が 1個だけ存在す

る場合を考える。このとき Cを正の方向に 1周した積分路に沿った積分はゼ

ロでない値を与えることがある。

例 31 z = 0を(2位の)極とした 1=z2を考える。これを円周 jzj = rを積分

路として積分する。z = rei�;dz = irei�d�であるからIjzj=r

1

z2dz =

Z 2�

0

irei�

r2ei2�d� =

i

r

Z 2�

0e�i�d� = �e�i�

r

���2�0= 0: (5.54)

この場合はゼロとなる。

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5.4 留数定理 93

例 32 z = 0を(1位の)極とする 1=zを考えて同じ積分をしよう。Ijzj=r

dz

z=Z 2�

0

irei�

rei�d� = i

Z 2�

0d� = 2�i: (5.55)

積分結果は半径 rによらず、ゼロでない値 2�iを与える。

例 33

f (z) =z

(z � 1)(z � 2)= � 1

z � 1+

2

z � 2: (5.56)

z = 1、および z = 2が 1位の極である。3つの積分路を考えよう。

C1:z = 1を中心として半径 0:5の円周。内側には z = 1のみを極として含む。

C2:z = 2を中心として半径 0:5の円周。内側には z = 2のみを極として含む。

C3:z = 0を中心として半径 3の円周。内側には z = 1; 2を極として含む。

積分路 C1 : 内側に z = 1のみを極として含む。2=(z � 2)については C1内部

は正則域だから積分は 0になる。z � 1 = 0:5ei�であるからIC1

f(z)dz = �Z 2�

0

i0:5ei�

0:5ei�d� +

IC1

2

z � 2dz = �i

Z 2�

0d� + 0 = �2�i :

積分路C2:1=(z�1)についてはC2内部は正則域だから積分は 0である。z�2 =

0:5ei�としてIC2

f(z)dz = �IC2

dz

z � 1+ 2

Z 2�

0

i0:5ei�

0:5ei�d� = 0 + 2i

Z 2�

0d� = 4�i :

積分路 C3:定理 24によりIC3

f(z)dz =IC1

f (z)dz +IC2

f(z)dz = 2�i (5.57)

を得る。

ついでに次のいくつかの例を見てみよう。

例 34 半径 rの円周上で zの偏角を 0から 2�まで z1=2を積分してみよう。z1=2

は 2価関数であるから、リーマン面上でこの積分路は閉じていない。z1=2の

偏角を定めておかないといけない。積分を arg z = 0から arg z = 2�まで円周

jzj = r上の積分とする。z = rei�であるからZCz1=2dz = ir3=2

Z 2�

0ei�=2ei�d� = ir3=2

1

3i=2ei3�=2

���2��=0

=2r3=2

3(�1� 1) = �4

3r3=2: (5.58)

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94 第 5章 複素積分

例 35 f(z) = exp(1=z)を円周 jzj = 1上で正の向きに 1周積分しよう。

exp�1z

�= 1 +

1

1!

1

z+

1

2!

1

z2+ � � �+ 1

n!

1

zn+ � � � (5.59)

を項別に積分して

Ijzj=1

dz

zn=

(0 : n 6= 1

2�i : n = 1

であるからIjzj=1

exp�1z

�dz = 2�i (5.60)

を得る。z = 0は真正特異点であることに注意しよう。

以上から、孤立特異点のまわりを 1周積分するとゼロでない値を得る場合

のあることが分かる。これを定理の形で述べておこう。

定義 32 留数: ジョルダン閉曲線 Cの内部に孤立特異点が1つだけあり、そ

れを除くと Cとその内部では f (z)は正則であるとする。孤立特異点 z = z0

を 1つだけ内部に見て正の向きに Cをまわる積分路に沿う積分

1

2�i

ICf (z)dz = A(z0) (5.61)

を f (z) の z = z0 における留数(residue)という。留数を Resf(z)jz=z0 ,Resf(z0), Res(z0)などと書く。留数は関数 f(z)と点 z0のみによって決まる。

定理 26 孤立特異点 z0において極限値

limz!z0

(z � z0)f(z) = A (5.62)

が有限に確定するならば、Aは z = z0における f(z)の留数である。

(証明)limz!z0(z � z0)f(z) = Aが有限確定とする。任意の正数"につい

て、jz � z0j < �となる�を適当にとれば

j(z � z0)f (z)� Aj < " (5.63)

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5.4 留数定理 95

である。z = z0を 1周する積分路 Cを、その内部に f (z) の孤立特異点を z0

しか含まないようにとる。積分路 Cを変形して

z � z0 = �ei� (5.64)

とする。これは f(z)の正則領域での閉曲線の連続的な変更であるから積分の

値は変わらず ICf(z)dz =

Ijz�z0j=�

f (z)dz (5.65)

である。さらに dz = i�ei�d� = i(z � z0)d�であるから

jIjz�z0j=�

f (z)dz � 2�iAj = jiZ 2�

0(z � z0)f (z)d� � 2�iAj

= jZ 2�

0f(z � z0)f (z)� Agd�j �

Z 2�

0j(z � z0)f (z)� Ajd�

< "Z 2�

0d� = 2�" (5.66)

である。"! 0として ICf(z)dz = 2�iA (5.67)

を得る。したがって Aは z = z0における留数である。(証明終わり)

いつでも留数が定理 26の方法で求まるわけではない。いくつかの例を考

えてみよう。

例 36 f(z)が z = z0の近傍で c�1 6= 0として

f(z) =c�1

z � z0+ c0 + c1(z � z0) + c2(z � z0)

2 + � � � (5.68)

と書けるする。このとき

limz!z0

(z � z0)f(z) = c�1 (5.69)

であるから f(z)の z = z0における留数は c�1である(1位の極)。

例 37 f(z)が z = z0の近傍で c�k 6= 0, k � 2として

f (z) =c�k

(z � z0)k+ � � �+ c�1

(z � z0)+ c0 + c1(z � z0) � � � (5.70)

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96 第 5章 複素積分

と展開されるとする(k位の極)。このとき

(z � z0)f(z)!1 (z ! z0) (5.71)

となり定理 26の方法では留数は求められない。

z = z0が f(z)の除去し得る孤立特異点の場合には

limz!z0

f (z) = f0(有限確定) (5.72)

であるから

limz!z0

(z � z0)f(z) = 0 (5.73)

となる。したがって z = z0のまわりを 1回まわる積分路 Cについて定理 26

の証明と同様にしてICf(z)dz = 0 (5.74)

である。

孤立特異点が真性(孤立)特異点の場合には limz!z0(z � z0)f(z)は有限

確定ではない。以上から定理 26で limz!z0(z� z0)f(z)が有限確定になるのは

z = z0が 1位の極の場合である。

孤立特異点が k位の極である場合、留数が一般にゼロまたは無限大等にな

るのではない。Hjzj=1(1=z

n)dz = 0 (n 6= 1)であることから直接の積分により

1

2�i

Ijz�z0j=�

f(z)dz = c�1 (5.75)

となる。これが留数である。つまり孤立特異点 z = z0が k位の極の場合にも

z = z0での留数は c�1である。

公式 10 k位の極の留数:z = aが k位の極であるならば

Resf (a) = c�1 = limz!a

1

(k � 1)!

dk�1

dzk�1f(z � a)kf(z)g (5.76)

である。これは展開(5.70)の具体的な形から直接示すことができる。

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5.4 留数定理 97

図 5.11 特異点が分布している場合.

例 38

f (z) =z

(z � 1)(z � 2)(5.77)

の極は z = 1; 2である。留数はそれぞれ

limz!1

(z � 1)f(z) = �1limz!2

(z � 2)f(z) = 2 (5.78)

となる。これが例 33で考えたことであった。

定理 27 留数定理: 正の向きにまわる閉じた積分路 Cの内側に f(z)のN個

の極 zk (k = 1; 2; � � �N)が存在し、それらを除いて積分路 Cおよびその内側

の領域で f(x)が 1価正則であれば

ICf (z)dz = 2�i

NXk=1

Res(zk) (5.79)

である(図 5.11)。

(証明の概略)積分路 Cをそれぞれの特異点 zkをまわる積分路 Ckとそれ

らをつなぐ積分路に分けて考えればよい。

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98 第 5章 複素積分

5.4.2 無限遠点の留数

これまでは原点から有限の距離だけ離れた孤立特異点のまわりでの留数を

問題としてきた。無限遠点 z = 1も一般の zと同様に扱うことにしたから、

その留数も定義しよう。

定義 33 無限遠点の留数:f (z)が R < jzj < +1 で正則であるとき、すなわち無限遠点を除いて複素平面上で半径 Rの円の外側に特異点が存在しない

とき、

� 1

2�i

Ijzj=�>R

f(z)dz (5.80)

を f(z)の z =1における留数といい、Resf(z) jz=1;Resf(1);Res(1)など

とあらわす。ただし積分路は jzj = �の円周上を正の向きにまわる。

jzj = �の円周上を原点から見て正の向きにまわるときには、無限遠点を常

に右手に見ている。したがって無限遠点を中心に考えれば負の向きにまわっ

ていることになる。そのため上の定義では係数にマイナスが付いている。

定理 28 f(z)が R < jzj <1で正則であるとき limz!1 zf (z) が有限確定で

あるなら

Resf (1) = � limz!1 zf(z): (5.81)

(証明)z = 1=�と変数変換し、半径� (> R)の円周を考えると

Res(1) = � 1

2�i

Ijzj=�

f(z)dz =1

2�i

Ij�j= 1

f�1�

��1�2

d�: (5.82)

ここで jzj = � の円周上を正の向きにまわる道筋は j�j = 1=� の円周上を負の

向きにまわる道筋に射影される。最後の式ではその積分路を j�j = 1=� の円

周上で正の向きにまわる積分路に書き換え、符号 (�1) をかけている。f(1=�) は � = 0 を除いて 0 < j�j < 1=R で正則であるから、F (�) �

�f(1=�)(1=�2) の特異点は存在するとするとそれは� = 0である。つまり

1

2�i

Ij� j=1

f (1

�)�1�2

d� =1

2�i

Ij� j=1

F (�)d� = ResF (0) (5.83)

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5.4 留数定理 99

図 5.12 閉曲線 Cと特異点.

は、lim�!0 �F (�)が有限確定であれば

ResF (0) = lim�!0

�F (�) (5.84)

である。故に

ResF (0) = lim�!0

�F (�) = � limz!1

1

zf (z)z2 = � lim

z!1 zf(z): (5.85)

(証明終わり)

f(z)が R � jzj � 1で

f(z) =1X

n=�1cnz

n (5.86)

と展開されるとする。

Ijzj=�>0

zndz =

(0 n 6= �12�i n = �1 (5.87)

であることを考えると

Resf(1) = �c�1 (5.88)

である。このことから、z =1が f(z)の正則点であっても留数 Res(1)は 0

とは限らないことが分かる。このことには注意せねばならない。

定理 29 ジョルダン閉曲線Cは f (z)の原点から有限の距離にある特異点を全

て内側に含むとする。Cの内側にある f(z)の特異点を fzkg、そこでの留数を

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100 第 5章 複素積分

各々Ak、無限遠点の留数をB1とする。これらの特異点を除き f(z)は正則で

あるとする。このとき

Xk

Ak +B1 = 0: (5.89)

(証明)閉曲線 Cをまわる複素積分はICf(z)dz = 2�i

Xk

Ak (5.90)

一方これはまた定義 (5.80)式により1の留数も与える。ICf(z)dz = �2�iB1: (5.91)

故にPAk +B1 = 0である。(証明終わり)

これが z = 1 が正則点である場合も、一般には B1 6= 0 であることの

意味である。逆に f(z)の特異点が z = 1であっても他に特異点がなければB1 = 0である。

例 39

f(z) = ez (5.92)

は z =1を除いて全 z平面上で正則である(z =1は真性特異点)。上の定理から z =1の留数は 0である。f(z)を zのべき級数で展開すると

ez = 1 +1

1!z +

1

2!z2 + � � �+ 1

n!zn + � � � (5.93)

である。z�1の項は現われないから z =1での留数はたしかに 0である。

5.4.3 有理型関数と偏角の原理

留数の応用として重要な事項のいくつかを述べる。第 3章で有理関数

f(z) =a0z

n + a1zn�1 + � � �+ an�1 + an

b0zm + b1zm�1 + � � �+ bm�1z + bm(5.94)

について述べた。z =1を含む全 z平面で高々極以外の特異点を持たない(真

性特異点を持たない)複素関数は、実は有理関数に限られる。

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5.4 留数定理 101

定義 34 有理型: ある領域で高々極以外の特異点を持たない複素関数を、そ

の領域で有理型 (meromorphic)であるという。

定理 30 偏角の原理: 関数 f(z)は単連結領域Dで有理型、D内のジョルダン

閉曲線 C 上には f(z)の零点も極もないとする。Cの内部にある f(z)の零点

と極およびその位数をそれぞれ零点 a1; a2; � � �: 位数 h1; h2; � � �、極 b1; b2; � � �:位数 k1; k2; � � � とすると

1

2�i

IC

f 0(z)f(z)

dz =1

2�

ICd(argf(z)) =

Xj

hj �Xl

kl: (5.95)

(証明)z = aが f(z)の零点または極であれば、z = aは f 0(z)=f(z)の 1

位の極である。まずこのことを示そう。z = aが h位の零点であれば

f(z) = (z � a)hg1(z) (5.96)

と書ける。ただし z = aは g1(z)の零点ではない正則点である。故に

f 0(z)f(z)

=h

z � a+

g01(z)g1(z)

(5.97)

となり、z = aは g01=g1の正則点である。z = bが k位の極なら

f(z) = (z � b)�kg2(z) (5.98)

と書け、z = bは g2(z)の零点ではない正則点である。よって

f 0(z)f(z)

= � k

z � b+

g02(z)g2(z)

(5.99)

となり、z = b は g02=g2の正則点である。これらの式(5.97)(5.99)から直

ちにIC

f 0(z)f(z)

dz = 2�iXj

hj � 2�iXl

kl (5.100)

が導かれる。

定理 30の式 (5.95)の左辺にある f 0(z)=f(z)は次の様に変形できる。

f 0(z)f (z)

dz = d(log f (z)) = d ln jf(z)j+ id(arg f(z)) (5.101)

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102 第 5章 複素積分

これから

1

2�i

IC

f 0(z)f(z)

dz =1

2�i

ICd(ln jf (z)j) + 1

2�

ICd(arg f(z)) (5.102)

である。右辺第一項は ln jf(z)jが 1価関数であるから 1周積分で 0となる。

よって

1

2�i

IC

f 0(z)f (z)

dz =1

2�

ICd(arg f(z)): (5.103)

これにより、1周積分の積分路に沿った f(z)の偏角の変化と積分路内の零点

および極の位数とが関係づけられた。(証明終り)

定理 31 ルーシェ(Rouche)の定理: f(z); g(z)の単連結な正則領域D内にジョ

ルダン閉曲線 Cを考える。C上で

jf(z)j > jg(z)j (5.104)

であるならば、f(z)と f (z) + g(z) とは、Cの内部に位数だけ重複して数え

て、同数の零点を持つ。

(証明) Cの内部にある f (z)と f (z) + g(z)の零点の数の差は(極はない

から)

1

2�

ICd(arg(f (z) + g(z))� 1

2�

ICd(arg f(z))

=1

2�

ICd arg(1 +

g(z)

f(z)) (5.105)

である。3 jf(z)j > jg(z)jであるから h(z) = 1 + g(z)=f(z)による Cの像は右

半平面上 (jh(z)� 1j < 1つまり h = 1を中心とし半径 1の円の内側)にある。

すなわち 1 + g(z)=f(z)の像は原点 0の周りをまわらない。故に

ICd arg

�1 +

g(z)

f(z)

�= 0 (5.106)

である。これにより f(z)と f(z) + g(z)の零点の数は(位数を重複して考え

れば)同じである。3h(z) = 1 + g(z)=f(z); w(z) = f (z) + g(z) = f(z)h(z) とする。argw(z) = arg f (z) +

argh(z)であるから arg(f + g)� arg f = arg(1 + g=f ).

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5.5 第 5章問題 103

5.5 第 5章問題

問 1. 次の積分を行え。

(1)Z i

1sin zdz(積分路は直線) (2)

Z 1

0e�x sinxdx (3)

Z 1+i

0ezdz

問 2. 次の積分を計算せよ。

(1)Ijzj=2

e2z

(z � 1)2dz (2)

Ijzj=1

dz

z2(z � 2)(3)

Ijzj=1

jz + 1jjdzj (4)Ijzj=1

coshz

z2dz

問 3.次の積分を行え。

(1)Z 1

0

dx

1 + x6(2)

Z �=2

0

d�

a+ sin2 �(a > 0)

(3)Z 2�

0

d�

a2 cos2 � + b2 sin2 �(a; b > 0) (4)

Z 1

0

cos ax

x2 + b2dx (a; b > 0)

問 4.次の積分を行え。

(1)Z 1

0

sin2 x

x2dx (2) Pv

1

2�i

Z 1

�1eitx

xdx

問 5. 次の関数の無限遠点における留数を求めよ。

(1)1

z(2)z (3)

z

z2 + 1(4)

z3

z2 + 1

問 6. ルーシェの定理を用いて sin z � 2z = 0の解は jzj � 1内には z = 0の

みであることを示せ。

問 7.円 jzj � 1内で、z5 + 8z + 10 = 0の解の数はいくつあるか。

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104 第 5章 複素積分