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電力中央研究所報告
電中研気象予測・解析システム NuWFAS の超高解像度化による暴風シミュレーション(その1)
-実気象場を対象とした再現性評価-
キーワード:送電用鉄塔,耐風設計,数値気象モデル,風洞実験, 報告書番号:N13001
ラージ・エディ・シミュレーション
背 景 送電設備に対する耐風設計の精緻化や暴風被害の分析に際しては,送電設備にかかる
時間平均風速のみならず,最大瞬間風速などの風の変動(乱流)成分の評価が必要とな
る場合がある.当所では,このような評価手法のひとつとして電中研気象予測・解析シ
ステム NuWFAS[1]の開発を進めており,通常の気象計算の解像度では乱流モデル(解像度以下の乱流成分の寄与を表現する物理モデル)として時間平均処理に基づく PBL(Planetary Boundary Layer)スキームが有効であることを確認している.一方,風の乱流成分を捉えうる解像度(超高解像度)では,PBL スキームが適用できないことや計算安定性の確保が困難という課題が残されていた[2], [3].
目 的
風の乱流を模擬した風洞実験を通じて超高解像度計算に適した乱流モデルを明らかに
するとともに,そのモデルを実気象場に適用した場合の風の乱流の再現性や計算安定性
を把握する.
主な成果
1. 超高解像度計算に適した乱流モデルの確認(図 1)
風に大規模な気象擾乱を付加した風洞実験[3]において,2 台のカメラを併用することで測定解像度を改善した可視化流速計測(PIV)技術を用いて,瞬時風速ベクトルを測定した.大規模な擾乱の干渉下でも,その瞬時風速ベクトルに空間フィルタを付加する
ことで,強い非一様性を有する組織構造が支配的となる大スケール成分と等方性を有す
る渦構造からなる小スケール成分とに分離できることを確認した.この結果より,乱流
モデルとして,超高解像度計算では,空間フィルタ処理に基づくもの(ラージ・エディ・
シミュレーション,LES モデル)が有効であることを明らかにした. 2. 実気象場を対象とした性能把握(図 2,3)
強風が長時間維持された気象場として,日本海で発達した低気圧が東進した事例を対
象に再現計算を行った.格子間隔を順次細かくする重畳計算領域の採用や時間ステップ
の適切な設定などの工夫を施すことで計算安定性を確保し,50m 水平格子解像度の超高解像度計算を可能とした.このような計算条件を用いて,PBL スキームと LES モデルを比較したところ,LES モデルが平均風速値や観測や風洞実験に見られる高風速の間欠的な発生など暴風現象の特性を適切に再現することを明らかにした.
今後の展開 応用事例の蓄積とともに,竜巻など様々な暴風事象に適用できるよう,改良を図る.
電 力 輸 送
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関連研究報告書
[1]N09024 「気象予測・解析システム(NuWFAS)の高度化と北海道を対象とした予測精度評価」(2010.5)
[2]N08014 「風洞実験による大気接地層の強風変動特性の把握」(2009.4) [3]N09010 「数値気象モデルの短周期変動風解析への適用性」(2010.3)
研究担当者 服部 康男(地球工学研究所 流体科学領域)
問い合わせ先
電力中央研究所 地球工学研究所 研究管理担当スタッフ Tel. 04-7182-1181(代) E-mail : [email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。
[非売品・無断転載を禁じる] ©2013 CRIEPI 平成25年5月発行 13-001
図 1 風洞実験による風の乱流現象の精査 左図に風洞実験の概要を示す.アクティブ乱流格子により気流性状を調整することで,測定部の中に,実際の大気を模擬した境界層流を得た.2 台のカメラを併用することで測定解像度を改善した可視化流速計測(PIV)技術により瞬時風速ベクトルを測定した.右図に,床面に平行な面で測定された瞬時風速ベクトルの空間フィルタによるスケール分離の結果を示す.赤色が高速域,青色が低速域となる.フィルタサイズより大きな成分には,低速域(図中青色)が風の流れ方向に伸長する組織構造(ストリーク構造)が存在するが,小さな成分では等方的な渦構造が支配的となる.
図 2 実気象場を対象とした超高解像度再現計算の設定 左図に計算領域を示す.領域 1 から領域 6 に至る 6 重の入れ子構造を用いることで,水平方向格子解像度を 50 m まで変化させた.乱流の生成機構を捉えうる格子解像度(150m,50m)の計算では時間ステップに通常より細かいものを与えることで安定性を確保した.乱流表現に LES を適用したものを通常の気象計算で使われる PBL スキームを適用したものと比較した.
図 3 実気象場を対象とした再現計算結果 領域 6(解像度 50m)の結果について,PBL を用いた計算と LES を用いた計算とを比較した.いずれの計算においても,瞬時風速の水平断面分布は,局所的な強弱を呈する.瞬時風速の時系列では,乱流表現の影響が顕著となる.LES は,低風速域が継続する中に高い風速が間欠的に表れる突風現象を再現するが,PBL は逆の傾向を与える.
領域 解像度 m 領域サイズ 時間ステップ 秒 乱流表現 領域 1 12150 1215km 四方 45 PBL
領域 2 4050 405km 四方 15 PBL
領域 3 1350 135km 四方 5 PBL
領域 4 450 67.5km 四方 5/3 PBL
領域 5 150 22.5 ㎞四方 1/16 PBL/LES
領域 6 50 7.5km 四方 1/48 PBL/LES
領域1
領域2
領域3
[m/s]
瞬時風速の表示位置
19 200
10
20
30
40 PBL LES
風速
[m
s-1]
時刻 [hr]
瞬時風速の水平断面分布(左:PBL,右:LES) 瞬時風速の時系列
風洞実験の概要 フィルタサイズより大きな成分 フィルタサイズより小さな成分
アクティブ乱流格子
風の流れ ダブルカメラ
レーザ光源 測定部床面
境界層流
風の流れ
高速域
低速域
http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/N09024.htmlhttp://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/N08014.htmlhttp://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/N09010.html