自律的に協力し学び合う学校組織づくりe1-03...

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E1-03 自律的に協力し学び合う学校組織づくり -サーバント・リーダーシップの考えを通して- 福岡市教育センター チームマネジメント研究室 平成 27 年度 研究紀要 (第 970 号) 近年の学校組織は様々な変化にさらされている。教職員の指導力を育成しなが ら,それらに柔軟に対応するためには,教職員同士の自律的な協力や学び合いは 必要不可欠である。 本研究は,主任等のミドルリーダーに焦点を当てる。そして,新たなリーダー シップとして,サーバント・リーダーシップに着目し,主任等のミドルリーダー によるサーバント・リーダーシップが教職員同士の自律的な協力や学び合いにど のような影響を及ぼすのかについて理論的かつ実証的に検討し,それに基づいた 提言を行うことが本研究の主たる目的である。 調査の結果,主任等のミドルリーダーのサーバント・リーダーシップは, 1)教職員の仕事の熱意を意味するワークエンゲイジメントや,校長や教頭に 対するフォロワーシップを引き出していた。(2)さらに教職員同士が建設的に 関わり合う協働的職場風土も醸成し,(3)ひいてはそれらが職員会議における 新しいアイディアの提案の多さにも結実していた。(4)これらはインタビュー 調査においても明確に裏付けられていた。これら一覧の知見をもとに,教職員同 士の自律的な協力や学び合いの形成に向けて,主任等のミドルリーダーの役割の 観点から提言を行った。

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Page 1: 自律的に協力し学び合う学校組織づくりE1-03 自律的に協力し学び合う学校組織づくり -サーバント・リーダーシップの考えを通して-

E1-03

自律的に協力し学び合う学校組織づくり

-サーバント・リーダーシップの考えを通して-

福岡市教育センター チームマネジメント研究室

平成 27年度

研究紀要

(第 970号)

近年の学校組織は様々な変化にさらされている。教職員の指導力を育成しなが

ら,それらに柔軟に対応するためには,教職員同士の自律的な協力や学び合いは

必要不可欠である。

本研究は,主任等のミドルリーダーに焦点を当てる。そして,新たなリーダー

シップとして,サーバント・リーダーシップに着目し,主任等のミドルリーダー

によるサーバント・リーダーシップが教職員同士の自律的な協力や学び合いにど

のような影響を及ぼすのかについて理論的かつ実証的に検討し,それに基づいた

提言を行うことが本研究の主たる目的である。

調査の結果,主任等のミドルリーダーのサーバント・リーダーシップは,

(1)教職員の仕事の熱意を意味するワークエンゲイジメントや,校長や教頭に

対するフォロワーシップを引き出していた。(2)さらに教職員同士が建設的に

関わり合う協働的職場風土も醸成し,(3)ひいてはそれらが職員会議における

新しいアイディアの提案の多さにも結実していた。(4)これらはインタビュー

調査においても明確に裏付けられていた。これら一覧の知見をもとに,教職員同

士の自律的な協力や学び合いの形成に向けて,主任等のミドルリーダーの役割の

観点から提言を行った。

Page 2: 自律的に協力し学び合う学校組織づくりE1-03 自律的に協力し学び合う学校組織づくり -サーバント・リーダーシップの考えを通して-

目 次

第Ⅰ章 研究の基本的な考え方

1 主題について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐1

(1) 主題設定の理由

(2) 主題及び副主題の意味

2 研究の目標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐4

3 研究の仮説 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐4

4 研究の構想 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐4

(1) 研究の内容

(2) 研究の方法

5 研究構想図 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐5

第Ⅱ章 研究の実際

1 サーバント・リーダーシップの理論研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐6

2 アンケート調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐9

3 インタビュー調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐20

4 アンケート,インタビュー調査を行うにあたって配慮したこと ・・・・・・・・・・・チ‐22

第Ⅲ章 研究のまとめ

1 成果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐23

2 自律的に協力し学び合う学校組織作りのために

ミドルリーダーが果たすことができる役割への提言 ・・・・・・・・・・・・チ‐25

3 課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐26

資料等 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チ‐27

Page 3: 自律的に協力し学び合う学校組織づくりE1-03 自律的に協力し学び合う学校組織づくり -サーバント・リーダーシップの考えを通して-

チ‐1

第Ⅰ章 研究の基本的な考え方

1 主題について

(1) 主題設定の理由

ア 教育を取り巻く現状から

現代の学校教育を取り巻く現状は,少子高齢化,情報化,国際化などが急速に進み,保護者の価

値観やライフスタイルの変化とともに教育に対する課題やニーズも多様化している。また,学校現

場は教職員の大量退職時代を迎え,同時に教職員の若年化も急速に進んでいる。こうした状況を踏

まえ,これからの学校組織は,保護者の信頼に応え,幅広い分野で指導力を発揮する教職員を育成

するために,目標達成に向けて機能的に学校運営を行う体制を新たに構築することが必要であると

考える。 しかし,新たな学校組織を構築するといっても,学校長,教頭以外の教職員が横一線に並ぶ,い

わゆる「なべぶた式」の組織では,目標達成に向けて機能的に学校運営を行う体制とはなり得ない

のも実際である。また,学校運営を支える主任等(ミドル・リーダー)の立場や役割となると,具

体的な方策がとれていないのが現実である。例えば一人の教職員を例にとれば,学習指導や生徒指

導といった「校務分掌組織」と,学級担任等の「学年組織」の両方を担当するため,業務が固定化

せず多方面にわたることが多く,これからの教育に対する課題やニーズの多様化への対応には到底

おぼつかず,自律的に協力し学び合うには至らないのが現状である。 よって,今後さらに教育を取り巻く環境が変化していく状況で,まず学校はその責任者である学

校長とそれを補佐する教頭,そして主任等(ミドル・リーダー)がそれぞれの立場でリーダーシッ

プを発揮することが求められる。それによって教職員一人一人が自らの指導力を向上させることで,

今後多様化する教育に対する課題やニーズに対して,機能的に学校運営を行い,学校全体で対応で

きる組織を構築できると考える。 ※主任等・・・・主幹教諭,教務主任,指導教諭,学年主任,生徒指導主任,テーマ主任など

※校長先生,教頭先生の「先生」という敬称を省略して記載させていただきます。 イ 福岡市の教育施策における学校・教職員の課題から

「新しい福岡の教育計画 後期実施計画(平成 26 年 1 月)」,「平成 27 年度福岡市の教育施策」

では,次の 3点が教職員の課題として取り上げられている。 ○ ベテラン教職員による中堅・若手教職員への教育観や指導技術の伝承 ○ 職場ミーティングの充実や所属を超えた職員間の対話等により,学校の使命を全職員が共有す

るとともに業務の改善によるワークライフバランスの確保や働きやすい職場づくり ○ 教職員の精神疾患への対応等のメンタルヘルス対策

以上,福岡市の教育施策において取り上げられている職場内のOJT研修等による教育観や指導 技術の継承,働きやすい職場の環境づくり等の課題解決に努めたいと考える。

ウ 今,求められる学校組織の構築という観点から

前述の通り,学校組織を取り巻く激しい環境の変化に適応するためには,これからの学校では,

これまで以上に教職員同士が自律的な立場で協力し合い,また互いに学び合う組織を構築する必要

がある。教職員の自律的な行動を引き出すためには,学校長ならびに教頭,主任等(ミドル・リー

ダー)が学校教育目標達成に向けて,教職員を支援するリーダーシップ論(考え方)が不可欠であ

る。

Page 4: 自律的に協力し学び合う学校組織づくりE1-03 自律的に協力し学び合う学校組織づくり -サーバント・リーダーシップの考えを通して-

チ‐2

本研究では,今日の状況に対応するために教職員が自律的に協力し学び合う学校組織づくりを目

指して,従来の学校長による指導体制の下に,主任等のミドル・リーダーの役割に焦点を当てて研

究を行う。そして,主任等のミドル・リーダーによるリーダーシップが,自律的に協力し学び合う

学校組織づくりにどのような役割を果たすことができるかを理論的かつ実証的に明らかにする。こ

のような実証的な根拠に基づいて,主任等のミドル・リーダーの観点から,自律的に協力し学び合

う学校組織づくりに向けた提案を行うことを目指していく。

(2)主題及び副主題の意味

ア 主題について ○ 自律的に協力し学び合う学校組織とは

現在の学校では,教育に対する課題やニーズは多様化し,同時に迅速な対応が要求されている。

このような現状では,本来教職員相互の協力や能動的な行動は不可欠であるが,ややもすると,

逐一リーダーの判断を仰ぎ受け身の行動をしたり,逆に独断で行動したりするなど場当たり的な

対応になりがちなのも実際である。

よってこれからの学校では,教職員の一人一人が同じ目的に向かって自ら考え,自律的に協力

し学び合う学校組織が必要である。この自律的に協力し学び合う学校組織を構築するためには,

学校長とそれを補佐する教頭,そして主任等(ミドル・リーダー)が自身の立場でリーダーシッ

プを発揮することが求められる。そのためには,互いに明確な目的の共有と,相互に支援し合う

関係が必要である。このような目的の共有や,相互に支援し合うことができる組織においては,

共有された目的に向けて,自律的でありながらかつ的確な協議を繰り返すなどの動きをすること

ができていると考える。また,そのことによって,教職員一人一人が自らの指導力を向上させる

ことができ,機能的な学校組織を構築できると考える。こうした組織が,自律的に

協力し学び合う学校組織である。

イ 副主題について

○ リーダーシップとは

リーダーシップとは,「集団の目標達成に向けてなされる集団の

諸活動に影響を与える過程」(池田 浩,2007)1であると定義され

ている。すなわち,メンバー自身が課題を明確化し役割を分担

し,時にはメンバーを鼓舞するなどの行動が含まれる。

目標を達成するには,集団を構成する複数のメンバーを導く

必要があることから,それを実現することは必ずしも容易ではない。集団を導く方法として,一

般的には,リーダーがメンバーを上から指示・命令したり,先頭に立って引っ張ったりすること

が多い。このようなスタイルこそがリーダーシップであると暗黙

に考えられてきた。これが一般的に考えられてきているリーダー

シップのイメージである。(図-1)

しかし,目標達成を実現するために,集団であるメンバーを導

く方法はこれだけではない。目標の達成に向けて,メンバーが活

躍しやすいように支援し,奉仕する導き方もある。このようなリ

ーダーシップが「サーバント・リーダーシップ」である。(図-2)

図-1 一般的に考えられている

リーダーシップのイメージ

図-2 サーバント・リーダーシップの

考え方のイメージ

・トップダウン

・上意下達

・指示・命令

・奉仕する

・下から支える

・尽くす

・自己犠牲

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チ‐3

表-1 サーバント・リーダーに求められる 10の特性

①傾聴 相手が望んでいることを聞き出すため

に,まずは話をしっかり聞き,どうすれ

ば役に立つか考える。

⑥概念化 個人や組織のあるべき姿(ビジョン)を具体

的に示し,伝えることができる。

②共感 相手の立場に立って相手の気持ちを理解

する。 ⑦先見力 過去の経験に学び,現実をよく見て,次に起

こりえることを予測できる。 ③癒し 相手の心を癒す言葉をかけ,本来の力を

取り戻させる。 ⑧奉仕 自分が利益を得ることよりも,相手に利益を

与えることに喜びを感じる。 ④気づき 先入観や偏見にとらわれず,気づきを得

ようとする。また,職員に気づきを与え

ることができる。

⑨成長への

関与 仲間の成長をもたらすことに深い関心をも

つ。それぞれのもつ価値や可能性に気づくこ

とができる。 ⑤説得 相手とコンセンサスを得ながら納得を促

すことができる。 ⑩コミュニ

ティづくり 人々が大きく成長できる協働の場を造り出せ

る。

○ サーバント・リーダーシップとは

アメリカのロバート・グリーンリーフ(1904~1990)が 1970 年に提唱した「リーダーである

人は,まず相手に奉仕し,その後,相手を導くものである。」というリーダーシップの考え方で

ある。この考え方では,リーダーはまずメンバーのために存在し,支援するという基本姿勢を重

視するものである。

本研究では,学校組織の中では学校長が教職員(メンバー)のために存在するという意味では

無く,学校長の学校経営目標具現化のために,主任等のミドル・リーダーは,自律的に協力し学

び合う学校組織づくりにどのような役割を果たすことができるかをサーバント・リーダーシップ

の考え方に立って研究を実証し,新たな提案を行っていくものである。(今回の研究では,学校

においてのサーバント・リーダーシップを『学校版サーバント・リーダーシップ』として解釈す

る。)

○ サーバント・リーダーシップの「10の特性」

サーバント・リーダーシップに求められる資質については,グリーンリーフ・センター・アメ

リカ本部の所長ラリー・スピアーズは,以下の 10の特性(表-1)をあげている。

さて,サーバント・リーダーシップは,従来のリーダーシップと比較してどのような効果をも

つのであろうか。これについては,日本で「サーバント・リーダーシップ」について先進的に取

り組んでいる NPO 法人 日本サーバント・リーダーシップ協会3が,支配型リーダーとサーバ

ント・リーダーとを対比させ,それぞれのリーダーの下でのメンバーの行動を下記の表-2 のよ

うに整理している。参考文献3

表-2 支配型リーダーとサーバント・リーダーのもとでのメンバーの行動

支配型リーダーのもとでのメンバーの行動 サーバント・リーダーのもとでのメンバーの行動

主に恐れや義務感で行動する

主に言われてから行動する

言われたとおりにしようとする

リーダーの機嫌をうかがう

役割や指示内容だけに集中する

リーダーに従っている感覚をもつ

リーダーをあまり信頼しない

自己中心的な姿勢を身に付けやすい

主にやりたい気持ちで行動する

主に言われる前に行動する

工夫できるところは工夫しようとする

やるべきことに集中する

リーダーの示すビジョンを意識する

リーダーと一緒に活動している感覚をもつ

リーダーを信頼する

周囲に役立とうとする姿勢を身に付けやすい

出典:NPO法人 サーバント・リーダーシップ協会(「気づき」の表記は,この協会の資料に従う)

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チ‐4

ここで引用した表は,前述のサーバント・リーダーシップ協会が考えた「サーバント・リーダ

ーの下でのメンバーの行動」であり,あくまで従来の日本の社会一般的に考えられてきた「支配

的なリーダーのもとでのメンバーの行動」との比較として作成されたものである。しかし学校組

織の中では,リーダーが「支配型のリーダー」であるとは言えないので,上記表-2 の右にある

「サーバント・リーダーのもとでのメンバー行動」については,学校の教職員のあるべき姿とし

て,自発的に取り組む姿,より自律的で積極的な姿,そして何よりもリーダーを信頼した姿など

を意識して研究を進めていく必要がある。よって本研究では,ミドル・リーダーの姿として,こ

のようなサーバント・リーダーの行動を目標に進めていくことが大切である。また,リーダーと

フォロワーの関係がさらに深まっていくと,フォロワーは,リーダーと理念と目標を共有するよ

うになる。このようなフォロワーに支えられている職場集団においては,それぞれのめざすべき

方向性が共通理解されているため,そこに向けて自分に何ができるのか,自分はチームの一員と

して何をすべきなのかを常に考えている。このため,チーム全体として望ましい方向に向かうた

めの情報収集や自発的な情報交換を行ったり,またさらに自然な形で勉強会を開いたりするなど

の姿が見られるようになる。

2 研究の目標

従来のリーダーシップの在り方を見直し,新たにサーバント・リーダーシップの意義と有効性に着目

することで学校組織におけるサーバント・リーダーシップの効果を実証的に明らかにすることで,教職

員が自律的に協力し学び合う学校組織づくりの在り方を究明する。 3 研究の仮説

自律的に協力して学び合う学校組織づくりの在り方を明らかにするために,p チ-8 のような効果が期

待される。サーバント・リーダーシップの考えをふまえると,次のような仮説を設定することができる。 仮説 1:サーバント・リーダーシップは教職員の自律性を促進するだろう。

仮説 2:サーバント・リーダーシップは協働的な職場風土を形成するだろう。 仮説 3:サーバント・リーダーシップは職場の創造性を引き出すだろう。

4 研究の構想

(1) 研究の内容

教職員が自律的に協力し,学び合う学校組織づくりを目指して,従来のリーダーシップの在り方

を見直し,新たなリーダーシップとしてサーバント・リーダーシップの考え方を提案するとともに,

その効果を量的かつ質的に検証する。 ○ 小・中学校の学校長,教頭,主任等(ミドル・リーダー)のリーダーシップの特徴やメンバー

の意識の検証として,これらのサーバント・リーダーシップの実態調査と効果の検討 ○ 学校におけるサーバント・リーダーシップに関わる理念と望ましい行動の提案

・ 教職員の自律性の促進 ・ 協働的な職場風土の形成 ・ 職場の創造性の醸成

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チ‐5

(2) 研究の方法

○ 小・中学校の教職員を対象にしたサーバント・リーダーシップについてのアンケートによる意

識調査および分析 ○ 学校におけるサーバント・リーダーシップの事例を収集することを目的としたインタビュー調

査の実施と分析

5 研究構想図

図-3 研究構想図

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チ‐6

表-1 サーバント・リーダーに求められる 10 の特性 ①傾聴 相手が望んでいることを聞き出すため

に,まずは話をしっかり聞き,どうすれ

ば役に立つか考える。

⑥概念化 個人や組織のあるべき姿(ビジョン)を具体

的に示し,伝えることができる。

②共感 相手の立場に立って相手の気持ちを理解

する。 ⑦先見力 過去の経験に学び,現実をよく見て,次に起

こりえることを予測できる。 ③癒し 相手の心を癒す言葉をかけ,本来の力を

取り戻させる。 ⑧奉仕 自分が利益を得ることよりも,相手に利益を

与えることに喜びを感じる。 ④気づき 先入観や偏見にとらわれず,気づきを得

ようとする。また,職員に気づきを与え

ることができる。

⑨成長への

関与 仲間の成長をもたらすことに深い関心をも

つ。それぞれのもつ価値や可能性に気づくこ

とができる。 ⑤ 説 得

(納得) 相手とコンセンサスを得ながら納得を促

すことができる。 ⑩コミュニ

ティづくり 人々が大きく成長できる協働の場を造り出

せる。

第Ⅱ章 研究の実際

本研究では,ミドル・リーダーの在り方の検証が最大の目標であり,それを方向付けるものとして,

「サーバント・リーダーシップ」の考え方が大きな位置を占めることになる。そのため研究のはじめに

「サーバント・リーダーシップ」について,学校版としてのサーバント・リーダーシップについて,そ

してサーバント・リーダーシップに関わる特性として 10 の特性や検証の尺度,及び効果について,本

研究メンバーで研究の理論について共通理解をした上で研究を進めていくことにした。 1 サーバント・リーダーシップの理論研究

(1) サーバント・リーダーシップについて

紀要 p チ-2,3 参照 (2) サーバント・リーダーシップの属性とその位置付け

ア サーバント・リーダーに求められる 10 の特性 前述のラリー・スピアーズ氏は,サーバント・リーダーシップの特性として,以下の 10 の特性

をあげている。(紀要 p チ-3 表-1と同じもの)

上記のサーバント・リーダーシップの 10 の特性を学校現場で各々を当てはめて考えると,リー

ダーの行動とフォロワーの意識の変化については,左下の研究構想図(紀要 p チ-5)に加えて,右

下の 図-4「サーバント・リーダーシップの成長段階」のような成長段階に応じた関係が予想でき

る。

<図-4 サーバント・リーダーシップ成長段階>

学校長からのビジョンの提示

第1段階・・・はじまりの段階 奉仕 傾聴 共感 癒し(気づき)

第2段階 互いに意見が言える関係になった段階 気づき 説得(納得) 概念化 先見力

第3段階 目標に基づいて一緒に行動する段階 先見力 奉仕 成長への関与 コミュニティづくり

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チ‐7

つまり一般的な集団においては,リーダーとメンバーの集団では,まず集団の関係は上下関係か

らスタートする。ここでは,最初にリーダーは,自分のことよりまず相手にとって役立ちたいとい

う気持ちをもっていることが大切である(奉仕)。その上でメンバーの話や考えに耳を傾ける(傾

聴),また相手の考えに共感するなどの対応(共感)の態度を示す。この段階を,本研究では,サ

ーバント・リーダーシップの成長段階での「はじまりの段階(第 1 段階)」とし,このときのメン

バーを「フォロワー」とする。 次にこの第1段階を経て,リーダーとフォロワーの関係は,更に互いの気付きや説得(又は納得),

時には先を見越しての提案や行動のような先見力,そして大きな目標で互いの概念を共有して捉え

るようになる。このような互いに意見等が言える関係になった段階が生まれてくる。こうした段階

を「互いに意見が言える関係になった段階(第 2 段階)」とする。 そして第 2 段階で概念化,すなわち学校長の学校経営目標等(それを踏まえた教職員の主張等)

や組織のあるべき姿(ビジョン)に向けて具体的なイメージに基づいて一緒に行動し始めた段階で,

新たに先見力や奉仕,そしてそれに加えて更に「人々の成長への関与」,新たな「コミュニテイづ

くり」等が目標となり第 3 段階を形成すると考える。この段階を,本研究では「大きな目標に基づ

いて一緒に行動する段階」とする。 本研究では,「サーバント・リーダーシップ」を学校版として考える際に,学校の中で必然的に

生じる「リーダーとメンバー等の関係」の変化を考えることになる。このような学校での場面を意

識することで,「サーバント・リーダーシップの 10 の特性」は,学校版としてその成長過程での位

置付けが明らかになり,前後の関係や軽重を明確に考えることができるのである。 (3) 学校版サーバント・リーダーシップを測定するための尺度

サーバント・リーダーシップに関わる特徴として 10 の特徴を上げたが,その特徴をもとに,す

でに Liden, Wayne, Zhao, & Henderson(2008)※が,サーバント・リーダーシップを測定する尺

度項目を作成している。Liden et al.(2008)は,先のサーバント・リーダーシップに関わる 10 の

特徴をもとにサーバント・リーダーシップを発揮している程度を測定するための尺度として 85 項 表-3 学校版サーバント・リーダーシップの尺度

サーバント・リーダー

シップを構成する次元 学校長(自己評価) 教頭(自己評価) 主任等(自己評価/他者評価)

概念化スキル

学校における魅力的な経営目標や

教育目標を掲げている。

学校長による経営目標や教育目標

を具体化している。

学校長による経営目標や教育目標

を個別の活動(教務や学年など)に

具体化している。

学校の教育目標の必要性や意義を

他の教職員に解いている。

学校の教育目標の必要性や意義を

教職員に解いている。

複雑なトラブルに直面しても,その原

因を突き止めることができている。

エンパワーメント

重要な決定は,学校長が行ってい

る。(逆転項目)

重要な決定は,学校長に判断を仰

いている。(逆転項目)

重要な決定は,学校長や教頭に判

断を仰いでいる。(逆転項目)

何かを決めるとき関係する教職員に

よる話し合いの結果を尊重している。

何かを決めるとき関係する教職員に

よる話し合いの結果を尊重している。

何かを決めるとき関係する教職員に

よる話し合いの結果を尊重している。

職員の成長と成功に

対する支援

教職員の成長につながるよう,有益

な指摘を提供している。

教職員の成長につながるよう,有益

な指摘を提供している。

教職員の成長につながるよう,有益

な指摘を提供している。

教職員が子ども達と十分な関わりが

できるよう配慮してくれている。

教職員が子ども達と十分な関わりが

できるよう配慮してくれている。

教職員が子ども達と十分な関わりが

できるよう配慮してくれている。

職員を優先的に考える

教職員が問題を抱えていたら,例え

ば忙しい時間を割いてでも,一緒に

問題解決に取り組んでいる。

教職員が問題を抱えていたら,例え

ば忙しい時間を割いてでも,一緒に

問題解決に取り組んでいる。

教職員が問題を抱えていたら,例え

ば忙しい時間を割いてでも,一緒に

問題解決に取り組んでいる。

保護者から教職員についての批判

が出たとき,教職員の立場にたって

説明している。

保護者から教職員についての批判

が出たとき,教職員の立場にたって

説明している。

保護者から教職員についての批判

が出たとき,教職員の立場にたって

説明している。

感情的癒し

職員が何か問題を抱えていると,親

身になって話を聞いてくれている。

職員が何か問題を抱えていると,親

身になって話を聞いてくれている。

職員が何か問題を抱えていると,親

身になって話を聞いてくれている。

大きな仕事の後には,個別にねぎら

いと感謝の言葉を伝えている。

大きな仕事の後には,個別にねぎら

いと感謝の言葉を伝えている。

大きな仕事の後には,個別にねぎら

いと感謝の言葉を伝えている。

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チ‐8

目を作成している。職業経験をもつ大学生を対象に調査を行った結果,28 項目からなる 7 因子(特

徴)からなる尺度を開発している。本研究では,Liden et al.の尺度を参考にするとともに,また学

校組織の中での学校長の役割,及び教頭,主任等に求められる役割を考慮しながら,学校における

サーバント・リーダーシップの尺度(前ページ表-3)を検討した。その内容をアンケート調査作

成の際に活用した。

※Liden, R.C., Wayne, S. J., Zhao, H. & Henderson, D. (2008). Servant leadership: Development of a multidimensional measures and multilevel assessment, Leadership Quarterly, 19, 161-177.

(4) サーバント・リーダーシップによってもたらされる効果について

先の 表-2(p チ‐3)に基づくと,学校組織においてサーバント・リーダーシップが発揮される

ことで次のような効果が期待される。本研究では,この効果を仮説とし,アンケート及びインタビ

ュー調査を通して実証していく。 ア 一般教職員の自律性の促進

学校長の指導体制の下,ミドル・リーダーが一般教職員を支援するサーバント・リーダーシップ

を発揮することで自律性を醸成する効果が期待される。すなわち,ミドル・リーダーが教職員の悩

みや考えを受け止め,そして教職員が力を発揮できるよう支援することによって,教職員は安心感

と自信が芽生え,自ら取り組むべき職務を遂行するようになると思われる。 なお,学校組織における教職員の自律性は,大きく職務に対して自発的かつ熱心に取り組むもの

と,ミドル・リーダーを始め学校長や教頭などのリーダーに対して積極的に関わるものと 2 つの側

面が存在することが考えられる。本研究では,この考え方に基づき,教職員の「自律性」を捉える

ために「ワークエンゲイジメント(仕事への熱意を意味する)」ならびに「フォロワーシップ(独

自の考え方,積極的関与)」を測定し,そしてサーバント・リーダーシップとの関連性を明らかに

する。 ※ ワークエンゲイジメント:心の健康度を示す概念で,仕事に関して肯定的で充実した感情お よび態度のこと。「熱意・没頭・活力」の 3 つが充実している心理状態。

※ フォロワーシップ:指導者を補佐する能力。また,職員としての地位・任務。

イ 教職員組織における協働的職場風土の醸成 ミドル・リーダーによるサーバント・リーダーシップは,教職員同士が自発的かつ能動的に協力・

連携を行うといった「協働的職場風土」を醸成する役割を果たす。一方的に同意したり,馴れ合い

で同意してしまったりする等「同調的な職場風土」の抑制にもつながると思われる。 また,サーバント・リーダーシップは,ミドル・リーダーが教職員を支援する行動であるが,そ

の受け手である教職員はリーダーの支援等のよさに影響され,他の教職員に対しても同じように支

援や配慮を行うようになると考えられる。教職員一人一人が,相互に支援や配慮を自発的に行うよ

うになると,それが結果として職場全体の風土として醸成されると考えられる。 本研究では,この効果を検証するために,職場風土として「協働的職場風土」および「同調的職

場風土」を測定し,検討することにする。 ウ 職場における創造的アイディアの創出

さらに,ミドル・リーダーによるサーバント・リーダーシップは協働的職場風土を引き出すだけ

でなく,学校組織の活力や活性化の源泉となる創造性をも引き出す効果をもつと考えられる。つま

Page 11: 自律的に協力し学び合う学校組織づくりE1-03 自律的に協力し学び合う学校組織づくり -サーバント・リーダーシップの考えを通して-

チ‐9

り,サーバント・リーダーシップによって,リーダーは教職員を支援することで,教職員はその配

慮に応えるべく,学校組織が取り組む課題をよりよく実現できるよう,従来とは異なるアイディア

を自発的に出すようになると思われるからである。 本研究では,一つの例として,職員会議において新規アイディアがどの程度出されているかをア

ンケート調査から測定し,それとサーバント・リーダーシップとの関連性を明らかにしていく。 2 アンケート調査

(1) アンケート調査の目的

本研究室では,学校組織の活性化は,職場等のチームによって実現されると考え,そのための効

果的なリーダーシップの在り方として学校におけるサーバント・リーダーシップやその場合の教職

員の意識や態度について研究を進めてきた。

そして,その中でも特に,学校長・教頭・主任等の先生方のそれぞれの立場でのリーダーシップ

や一般の教職員のフォロアーシップに焦点を当てることで,自律的に協力し学び合うような学校組

織づくりのためには,どのようなリーダーシップが効果的かを明らかにする基礎的データを得るた

めに本アンケート調査を実施した。

(2) アンケート調査の内容等

ア アンケート調査の内容 アンケート作成にあたっては,前述 表-3「学校版サーバント・リーダーシップの尺度」の観点

に基づいてアンケートの調査項目を作成した。その項目数は「校長先生用(全 38項目)」,「教頭先

生用(全 42項目)」,「主任・一般教職員用(全 56項目)」,各々のアンケートを作成するとともに,

共通の項目と学校における立場や役割の違いに応じて回答する項目を設定した。その職種ごとの概

要は以下の 表-4 の通りである。 表-4 職種ごとのアンケート調査の内容と項目数

校長先生(38) 教頭先生(42) 主任等(56)

1 職場風土 8 職場風土 8 職場風土 8

2 チーム力 6 チーム力 6 チーム力 6

3 新規アイディアの実現 3 新規アイディアの実現 3 新規アイディアの実現 3

4 フォロワーシップ 6 フォロワーシップ 12

5 リーダーの寛容さ 8

6 サーバント・リーダーシップ 12 サーバント・リーダーシップ 10 サーバント・リーダーシップ 10

7 学校が抱える問題 1 学校が抱える問題 1 学校が抱える問題 1

8 ワークエンゲイジメント 8 ワークエンゲイジメント 8 ワークエンゲイジメント 8

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チ‐10

① 職場風土/チーム力 問 1 あなたの職場の現状についてお尋ねします。(後略)

学 校 長 副校長/教頭 主任等(主幹教諭,主任等,一般教諭) 1 2 3 チーム力 4 5 6

1 2 3 チーム力 4 5 6

1 2 3 チーム力 4 5 6

7 8 協同的職場風土 9 10

7 8 協同的職場風土 9 10

7 8 協同的職場風土 9 10

11 12 同調的職場風土 13 14

11 12 同調的職場風土 13 14

11 12 同調的職場風土 13 14

② 新規アイディアの提案と実現 問 2 あなたの学校の職員会議において,運動会や主要な行事について話し合う場面を想像して,以下の 4 つの・・・ 問 2-1 「従来と違った新しいアイディア」はどの程度提案されるか ・・・・・・・・ 新規アイディアの提案と実現 問 2-2 職員会議ではどのようなやりとりがなされている ・・・・・・・・ 職員会議でのやりとり 問 2-3 提案したり議論したりする現在の雰囲気をどのように感じるか ・・・・・・・・ 職員会議での雰囲気 問 2-4 現在の職員会議のやり方についてどう思うか ・・・・・・・・ 満足度評価

③ サーバント・リーダーシップとフォロワーシップ 学 校 長

③サーバント・リーダーシップ 問 3 あなたの職場での様子 学校長としての下記の行動の程度

副校長/教頭 ③フォロワーシップ 問 3 あなたの職場での様子 学校長としての下記の行動の程度

主任等(主幹教諭,主任等,一般教諭) ③フォロワーシップ 問 3 あなたの職場での様子

学校長としての下記の行動の程度 1 2 3 チーム力 4 5 6

1 2 独自の考え方 3

1 2 独自の考え方 3

4 5 積極的関与 6

4 5 積極的関与 6

7 8 協同的職場風土 9 10

7 8 課題パフォーマンス 9

10 11 支援的パフォーマンス 12 11

12 同調的職場風土 13 14

④サーバント・リーダーシップ 問 4 あなたは教頭として教職員への 関わりについて・教頭としての行動

④リーダー(学校長)の寛容さ 問 4 あなたの職場のリーダー(学校長)の言動について

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

1 2 リーダー(学校長)の寛容さ 3 4 5 6 学校長のサーバント・ 7 リーダーシップに 8 対する評価 ⑤サーバント・リーダーシップ (主任は自己評価と一般評価は他社評価) 問 5 あなたの職場におけるリーダーシップについて

問 5-1 あなたは主任の役割を 問 5-2 「はい」と答えた人

1 ↓ 自身が主任 10

問 5-3 「いいえ」と答えた人 あなたの中でのリーダー

1 ↓ 関わりの強い主任等 10

④ 学校が抱える課題(立場によって捉え方に違いが出る。) 問 4 直面している課題(重要度の高い順) 問 5 直面している課題(重要度の高い順) 問 6 直面している課題(重要度の高い順) ⑤ ワークエンゲイジメント 問 5 仕事に関してどのように感じて・・・ 問 6 仕事に関してどのように感じて・・ 問 7 仕事に関してどのように感じて・・・ 1~8 ワークエンゲイジメント

モチベーション 心の健康度

図-5 アンケート調査の全体構成

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チ‐11

イ アンケート調査の実施期間 ○ 回答期間:平成 27年 8月 24~28日 ○提出期日:平成 27年 9月 5日 ウ 対象者 市内小学校 40 校,中学校 26 校の学校長・教頭を含む教職員約 1920 人を対象にアンケート調査

を実施した。(市内全小学校の 30%・中学校の 29%の学校で実施 有効回収率 77.4%) エ アンケート調査の分析方法 本調査の分析にあたっては,統計分析ソフト「HAD※」(清水・村山・大坊,2006)5を利用し,

記述分析,相関分析の手法で実施した。 ※ 清水裕士・村山綾・大坊郁夫 2006 集団コミュニケーションにおける相互依存性の分析(1)6コミュ

ニケーションデータへの階層的データ分析の適用 電子情報通信学会技術研究報告, 106(146), 1-6

(3) アンケート調査の分析結果 アンケート調査の構成および内容については,本研究の主題である「自律的に協力し学び合う学

校組織づくり」のために,学校長・教頭・主任等のサーバント・リーダーシップが教職員全体にど

のような影響を与えているのかアンケートの結果をもとに分析する。 ※ アンケートの評価は「5:常に行っている」から「1:全く行っていない」まで 5 段階

ア 役割ごとにみたサーバント・リーダーシップの測定項目の検討 アンケート調査の結果をもとに,学校長,教頭,そして主任等の三者の役割の特徴に応じてサー

バント・リーダーシップの尺度を作成した。これについて,それぞれのサーバント・リーダーシッ

プを測定した項目について検討する。 (ア) 学校長のサーバント・リーダーシップ

下記表-5 は,学校長の自己評価に基づくサーバント・リーダーシップの平均値を示している。

表-5 学校長(自己評価)によるサーバント・リーダーシップ尺度項目の平均値 サーバント・リーダーシ

ップの要素 項 目 平均値 標準偏差

概念的スキル

q3-1学校においては,魅力的な経営目標や教育目

標を掲げている。 3.92 0.77

q3-6学校の教育目標の必要性や意義をいろいろな

場面で教職員に説いている。 3.92 0.77

エンパワーメント

q3-2重要な決定は,学校長が行っている。(逆転

項目) 4.79 0.41

q3-7何かを決めるとき,関係する教職員による話

し合いの結果をできるだけ尊重している。 4.16 0.70

職員の成長と成功に

対する支援

q3-3教職員の成長につながるよう,常に考えた指

導・助言をしている。 4.10 0.67

q3-8教職員が児童・生徒と十分な関わりができる

よう配慮している。 3.98 0.73

職員を優先的に考える

q3-4教職員が問題を抱えていたら,常に一緒に問

題解決に取り組んでいる。 4.40 0.64

q3-9教職員が失敗したときには,二度とそういう

ことが起きないように,きびしく指導している。 3.13 1.07

感情的癒やし

q3-5大きな仕事の後には,担当や関係職員に対し

てねぎらいと感謝の言葉を伝えている。 4.49 0.59

q3-10保護者からある教職員についての批判が出

たときでも,まず,その教職員の意見にもきちんと

耳を傾けている。

4.60 0.58

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チ‐12

各項目の平均値を見ると,「q3-2 重要な決定は,学校長が行っている。」(平均値=4.79)「q3-10保護者からある教職員についての批判が出たときでも,まず,その教職員の意見にもきちんと耳を

傾けている。」(平均値=4.60)は非常に高い平均値を示している。 特に後者の平均値から,学校長は教職員にトラブルが起きた際は,まずその矢面に立っている教

職員の意見を丁寧に聞き,対応している姿勢がうかがえる。このことは,q3-7,q3-3,q3-4 の数値

が比較的に高いところからも分かる。※

Point 校長先生の職員への親身な対応が目立っている。 (イ) 教頭のサーバント・リーダーシップ

次に,表-6 に示す 教頭の自己評価に基づくサーバント・リーダーシップの平均値を見ると 「q4-3 重要な決定は,学校長に判断を仰いでいる。」(平均値=4.95),「q4-8 保護者からある教職員

についての批判が出たときでも,まずその教職員の意見にもきちんと耳を傾けている」(平均値

=4.63)「q4-10 大きな仕事の後には,担当や関係職員に対してねぎらいと感謝の言葉を伝えている。」

は,高い数値を示している。

表-6 教頭(自己評価)によるサーバント・リーダーシップの尺度項目の平均値 サーバント・リーダーシ

ップの要素 項 目 平均値 標準偏差

概念的スキル

q4-1学校長による経営目標や教育目標を具体化して

いる。 4.11 0.79

q4-2学校の教育目標の必要性や意義を教職員に説い

ている。 3.86 0.76

エンパワーメント

q4-3重要な決定は,学校長に判断を仰いでいる。(逆

転項目) 4.95 0.23

q4-4何かを決めるとき,関係する教職員による話し合

いの結果を,学校長の方針に応じて尊重している。 4.50 0.56

職員の成長と成功に対

する支援

q4-5教職員の成長につながるような,指導・助言をし

ている。 3.97 0.76

q4-6教職員が児童・生徒と十分な関わりができるよう

配慮している。 4.26 0.72

職員を優先的に考える

q4-7教職員が問題を抱えていたら,忙しい時間を割い

てでも,一緒に問題解決に取り組んでいる。 4.42 0.68

q4-8保護者からある教職員についての批判が出たと

きでも,まず,その教職員の意見にもきちんと耳を傾

けている。

4.63 0.54

感情的癒やし

q4-9教職員が何か問題を抱えていたら,親身になって

話を聞いている。 4.55 0.58

q4-10大きな仕事の後には,担当や関係職員に対して

ねぎらいと感謝の言葉を伝えている。 4.62 0.57

これは,教頭は管理職として指導をすることが多い立場ではあるが,まず学校長の意を受けて教

職員を優先的に考えている教頭の姿勢や,教職員の気持ちを踏まえた細やかでかつ幅広い対応(心

のケアを踏まえた対応)をしようとしている様子がうかがえる。 このようなことは,仕事に対する職員の積極さ,ワークエンゲイジメントに大きな影響を与えて

いると考える。

Point 教頭先生の職員への心のケアを含めた細やかな対応が目立っている。

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チ‐13

(ウ) 主任等のサーバント・リーダーシップ 最後に,主任等のサーバント・リーダーシップ について検討する。主任等については,主任等を 担っている本人による自己評価と一般の教職員に よる主任等に対する他者評価と 2 つの評価(右図 -6)を比較するために,それぞれの平均値を示し ている。(表-7)

ここでも,主任等の「q5-2-3 重要な決定は, 学校長や教頭に判断を仰いでいる」の平均値が一番高い。このことは,管理職の責任の重さとその

判断が大切にされている学校現場の実態が明らかになっている。 しかし,ここで上記二つの評価(自己評価と他者評価)について見比べるといくつかのポイント

が見えてくる。それは一般の教職員と関わりが大きい主任等のサーバント・リーダーシップの影響

力の高さは,一般の教職員による他者評価の q5-2-1,q5-2-2 の概念的スキルや q5-2-3,q5-2-4 の

エンパワーメントだけでなく,もっと身近と感じられる q5-2-5,q5-2-6 の「職員の成長と育成に対

する支援」や q5-2-7,q5-2-8 の「職員を優先的に考える」,そして q5-2-9 や q5-2-10 の「感情的癒

やし」など全てにわたって高い数値を示していることから分かる。

表-7 主任等(自己・他者評価)によるサーバント・リーダーシップ尺度項目の平均値

サーバント・リーダ

ーシップの要素

項 目

主任の自己評価 教員による主任評価

平均値 標準

偏差 平均値 標準

偏差

概念的スキル

q5_2_1学校長による経営目標や教育目標を自分の役割

において具体化している。 3.64 0.84 4.09 0.86

q5_2_2複雑なトラブルに直面しても,自分から進んで,

原因を突き止めることができている。 3.70 0.82 4.24 0.89

エンパワーメント

q5_2_3重要な決定は,学校長や教頭に判断を仰いでい

る。 4.61 0.71 4.43 0.76

q5_2_4何かを決めるとき,関係する教職員による話し合

いの結果を尊重している。 4.35 0.69 4.35 0.85

職員の成長と成功

に対する支援

q5_2_5教職員の成長につながるような,指導・助言をし

ている。 3.44 0.87 4.17 0.89

q5_2_6教職員が子ども達と十分な関わりができるよう

配慮している。 3.63 0.87 4.26 0.86

職員を優先的に考

える

q5_2_7教職員が問題を抱えていたら,忙しい時間を割い

てでも,一緒に問題解決に取り組んでいる。 3.84 0.84 4.30 0.91

q5_2_8保護者からある教職員についての批判が出たと

き,その教職員の立場に立って説明している。 3.90 0.97 4.34 0.86

感情的癒やし

q5_2_9他の教職員が何か問題を抱えていたら,親身にな

って話を聞いている。 3.92 0.84 4.32 0.91

q5_2_10大きな仕事の後には,自分の部に対して,個別

にねぎらいと感謝の言葉を伝えている。 3.96 0.86 4.28 0.90

この主任等の自己評価よりも,一般の教職員の主任等に対する他者評価の方が高いことは,主任

等の「成長や成長に対する支援」や「職員を優先的に考える態度」や「職員への感情的な癒し」は,

主任本人が思っている以上に一般の教職員に響き,ワークエンゲイジメントに影響を与えていると

考えられる。

図-6 主任等サーバント・リーダーシップの自己・

他者評価の関係

主任等のサーバント・リーダーシップ

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チ‐14

Point 主任等は,一般教職員と身近な関係である分だけ与える影響も大きく,校長先生の

学校経営への影響も併せもつて大きい。その意味で主任等の役割においてサーバント

・リーダーシップの活用には価値が大きい。

イ 学校長,教頭,主任等間のサーバント・リーダーシップとの関連

学校組織は,学校長,教頭といった管理職とその他の教職員が横一線に位置付けられる「なべぶ

た組織」と呼ばれがちである。教職員の中には,学年主任や教務主任等,校務分掌に基づいた「主

任」と呼ばれるミドル・リーダーも存在する。 こうした役割に基づく三者のリーダー間においては,上述したように学校経営全体の主たる学校

長が教職員への支援を細やかにする,いわゆるサーバント・リーダーシップを発揮しているほど,

教頭のそれ以上細やかなサーバント・リーダーシップを,そして主任等の身近な教職員への具体的

なサーバント・リーダーシップも発揮されると予想される。すなわち,学校長が教職員に奉仕する

姿勢や態度を見せることで,教職員相互でもより支え合う風土がうまれるのではないかと考えるか

らである。 こうした三者のサーバント・リーダーシップの関連性を検討するために,以下のような相関分析

を行った。

表-8 相関関係の有意性検定

なお,学校長と教頭のサーバント・リーダーシップは自己評価,そして主任については自己評価

と教職員による他者評価の 2 つを用いている。また,サーバント・リーダーシップと密接に関連す

る概念として,教職員が評価した「リーダー(学校長)の寛容さ」も分析に用いている。結果は,

表-9 に示すとおりである。

※ 相関分析とは,2 つの変数間の関連性を分析するものである。関係性の強さは-1(負

の関連性)から+1(正の関連性)の相関係数によって表される。正の関連性を意味す

る+1 に近いほど,ある変数が高いと別の変数も高くなる。一方,負の関連性である-1に近いほど,ある変数が高くなるにつれて,別の変数が低くなる。

負の相関 相関の強さの判定 正の相関

-1

+1 強い相関がある

-.7 +.7 中程度の相関がある

-.4 +.4 弱い相関がある

-.2 +.2 ほとんど相関がない

0 0

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チ‐15

表-9 役割ごとに見たサーバント・リーダーシップの関連性

サーバント・リーダーシップ リーダーの寛容さ

サーバント・リーダーシップ 学校長(自己評価) 学校長(他者評価)

教頭(自己評価) .027 .197 **

主任 自己評価 .067

.211 **

他者評価 -.018 .209 **

注:** p < .01, * p < .05, + p < .10

表-9 を見ると,学校長のサーバント・リーダーシップの得点と教頭および主任のサーバント・リ

ーダーシップとの得点にはあまり関連性がないことを示している。 一方,学校長の寛容さは,教頭(r=.197, p<.01)や主任(自己評価:r=.211, p<.01,他者評価:

r=.209, p<.01))と正の関連性を示し,トップのリーダーが寛容に関わるほど,教頭や主任のサー

バント・リーダーシップがより発揮されることを示している。

Point リーダーのサポートが細やかであり寛容に関わるほど,ミドル・リーダーの

サーバント・リーダーシップがより発揮される。

(4) サーバント・リーダーシップが教職員の自律性に与える効果(仮説 1より) ア サーバント・リーダーシップと教職員のワークエンゲイジメントとの関連

ワークエンゲイジメントとは,前述の通り「仕事への熱意」を表す心理的構成概念であり,近年,

ポジティブメンタルヘルスにおいて注目されているものである。本研究では,ワークエンゲイジメ

ントを表す8項目(アンケートより)によって測定した。その 8項目の平均値を算出したところ,仕

事への熱意について表-10 のような割合が示された。

表-10 主任等を含めた一般教職員のワークエンゲイジメントのアンケート項目

主任等を含めた一般教職員のワークエンゲイジメントのアンケート項目 平均値

1 職場では,元気が出て精力的になるように感じる。 3.8

2 仕事に熱心である。 4.2

3 朝に目が覚めると,『さあ仕事へ行こう』という気になる。 3.5

4 仕事に没頭しているとき,幸せだと感じる。 3.4

5 自分の仕事に誇りを感じる。 4.3

6 仕事をしていると,つい夢中になってしまう。 4.1

7 自分の学校の児童・生徒のことをいつも大切に思う。 4.9

8 自分の学校の保護者に対していつも感謝している。 4.3

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チ‐16

図-7 ワークエンゲイジメントの回答の割合 (※ 具体的な8項目は調査票を参照のこと)

仕事への熱意を「いつも感じる/毎日」教職員は 0.07%(1名)と限りなく少ない。次いで,「と

てもよく感じる/1週間に数回」は 15%(188名),そして「よく感じる/1週間に数回」が 35%(459

名)と最も多い。そして,「時々感じる/1ヶ月に数回」は 33%(424名)と大きな割合を示してい

る。

それに対して,「めったに感じない/1ヶ月に 1回以下」は 15%(195名)も存在し,「ほとんど感

じない/1年に 1回以下」2%(23名),「全く感じない」0.28%(4名)という結果だった。

こうした仕事への熱意を意味するワークエンゲイジメントは,リーダーシップとどのような関連

性をもつているのだろうか。学校長,教頭,そして主任によるサーバント・リーダーシップ,そし

て学校長によるリーダーの寛容とワークエンゲイジメントとの関連性を相関分析によって検討し

た。その結果が,表-11 である。

表-11 サーバント・リーダーシップとワークエンゲイジメントの関連性

ワークエンゲイジメント

サーバント・リーダーシップ

学校長 .021

教頭 .047

主任 .259 **

リーダー(学校長)の寛容さ .294 **

注:** p < .01, * p < .05, + p < .10

「主任等によるサーバント・リーダーシップ」および「リーダー(学校長)の寛容さ」はワーク

エンゲイジメントと統計的に有意な正の関連性を示していた(主任:r=.259, p<.01,リーダーの寛

容さ:r=.294, p<.01)。 学校長が教職員の立場を考えて接することや,一般の教職員と日常の仕事の中で関わりが深い主

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チ‐17

任等によるサーバント・リーダーシップが,教職員の「仕事に対する熱意・没頭・活力」と密接に

関わりがあることがうかがえる。

Point 校長先生の細やかなサポート,及び主任等の関わりの深さといったリーダーの

「サーバント・リーダーシップ」が,教職員の「仕事に対する熱意・没頭・活力」と

密接に関わりある。

イ サーバント・リーダーシップと一般教員のフォロワーシップとの関連

サーバント・リーダーシップの考え方では,「リーダーシップ」はリーダーがもっている特別資

質ではなく,フォロワーの中にあるもの,もしくは,リーダーとフォロワーとの間に生じる現象で

あると考えられている。 フォロワーシップに関する測定項目の平均値および標準偏差からその関係を見ていくと,平均値

が高いものは,「q3-1 学校長や教頭,主任の命令を待ち,言われたことをするのではなく,学校の

目標を達成するためには何が一番重要な活動なのか自分なりに判断している(独自の考え方)」や

「q3-6 学校長や教頭,主任が期待することや,目標・指示を適切に理解し,それに従うように一生

懸命努めている。(積極的関与)」の示す平均値が高いことが分かる。

表-12 フォロワーシップに関する測定項目の平均値および標準偏差

項 目 平 均 値 標準偏差

独自の考え方

q3_1 学校長や教頭,主任の命令を待ち,言われたことをするのではなく,

学校の目標を達成するためには何が一番重要な活動なのか,自分なりに

判断している。

3.67 0.89

q3_2 あなたは学校目標に貢献するアイディアを自主的に考え,提案して

いる。 2.89 0.98

q3_3 あなたは,学校長や教頭,主任と意見や考え方で衝突したとしても,

重要と思う問題について自分の考えを主張することがある。 2.81 1.05

積極的関与

q3_4 あなたの熱意や考えによって,他の教職員を元気付けている。 2.75 0.87

q3_5 あなたは,学校で与えられた役割や周りから寄せられる期待以上に

取り組んでいる。 2.83 0.83

q3_6 学校長や教頭,主任が期待することや,目標・指示を適切に理解し,

それに従うように一生懸命務めている。 3.66 0.89

注:** p < .01, * p < .05, + p < .10

また,フォロワーシップに関わる相関分析の結果から,フォロアーシップにとって大切な要素で

ある「積極的な関与」には,「学校長の寛容さ」,「協働的職場風土」の影響が大きく,このような

職場においては,ワークエンゲイジメント(仕事に対する情熱)も非常に高いことが分かる。 つまり,サーバント・リーダーシップをもったリーダーのもとでは,協働的な職場風土が醸成さ

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チ‐18

れ,そのような職場においては,教職員が仕事に対して情熱をもって働いている姿がうかがえる。

さらには,一人の意見に従うような建設的に意見が出にくい「同調的職場風土」からは,積極的な

関与が生まれにくいことも確かめることができた。 表-13 フォロワーシップに関わる相関分析結果

フォロワーシップ

独自の考え方 積極的関与

サーバント・リーダーシップ

学校長 -.007

.085 *

教頭 -.006

.029

主任 -.004

.084 *

学校長の寛容さ .097 ** .218 **

職場風土

協働的職場風土 .079 ** .226 **

同調的職場風土 -.029

-.082 **

教員の熱意

ワークエンゲイジメント .283 ** .425 **

注:** p < .01, * p < .05, + p < .10

(5) サーバント・リーダーシップが自律的な職場づくりに与える効果

ア サーバント・リーダーシップと職場風土との関連

サーバント・リーダーシップがもたらす職場風土との関連を表-14 から見ていくと,協働的職場

風土に関する「q1-7 教職員が協力してよりよい教育を目指しているので,各自が高い意欲をもつて

いる」,「q1-8 教職員一人一人の意欲が大切にされており,各自の特性を尊重し,発揮し合う形でよ

くまとまっている職場である。」,「q1-10 何か困ったときには,同僚から支援やアドバイスを得るこ

とができる。」の平均値が高く,同調的職場風土は協働的職場風土よりも平均値がどの項目も低い

ことから,サーバント・リーダーシップは,職場風土によい影響を与え活性化した職場をつくるこ

とができることが分かる。 この協働的職場風土の醸成については,学校長や教頭といった管理職よりも主任等の影響が高い

ことが表-14 からうかがえる。ミドル・リーダーと呼ばれる学年主任や教務主任等のサーバント・

リーダーシップが職場の活性化に大きな影響を与えることを如実に表している。 また,教職員と近い距離にいる教頭のサーバント・リーダーシップも「協働的職場風土」の醸成

に関連していることも注目すべきである。

Point サーバント・リーダーシップをもったリーダーのもとでは,協働的な職場風土が醸成

される。またそのような職場においては,教職員も仕事に対して情熱をもって働くこと

ができる。

逆に,「同調的職場風土」からは,積極的な関与は生まれにくい。

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チ‐19

表-14 サーバント・リーダーシップと職場風土との相関分析結果

職場風土

協働的職場風土 同調的職場風土

サーバント・リーダーシップ

学校長 .055

.044

教頭 .131 ** .031

主任 .317 ** -.243 **

リーダー(学校長)の寛容さ .097 ** .218 **

注:** p < .01, * p < .05, + p < .10

イ サーバント・リーダーシップは創造的な職場づくりに関与するか

職場の活性化には欠かせない創造的な職場づくりには,どのような要素が深く関わっているのだ

ろうか。職員会議における「新規アイディアの提案」に関する相関を次の表 15 から見ていくこと

にする。 表-15 新規アイディアの提案に関する相関分析

図-8 職員会議における「新規アイディア」の提案の頻度割合

その結果,新規アイディアの提案と協働的職場風土の相関が.287 と最も高く,次はリーダーの寛

容さで.203,そして,主任のサーバント・リーダーシップの.182 と続いた。 また,同調的職場風土との相関は-.188 となっていて,同調的職場風土からは,新規のアイディ

アが提案されにくいことが分かる。 また,新規アイディアが提案される職場においては,仕事に対する情熱を表すワークエンゲイジ

メントの相関も高く.101 となっている。 このように,リーダーがサーバント・リーダーシップを発揮している職場は活性化され,そこで

働く教職員も創造的に新しいことにチャレンジし,必要な支援やアドバイスを与え合い,情熱をも

つて仕事に取り組んでいる姿が浮かび上がる。

職員会議にお

ける新規アイ

ディア

サーバント・リーダーシップ

学校長 .053

教頭 -.016

主任 .182 **

リーダー(学校長)の寛容さ .203 **

職場風土

協働的職場風土 .287 **

同調的職場風土 -.188 **

教員の熱意 ワークエンゲイジメント .101 **

注:** p < .01, * p < .05, + p < .10

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Point リーダーの寛容さやミドル・リーダーのサーバント・リーダーシップが発揮されて

いる方が, 職場の活性化に欠かせない「新規アイディア」が提案されやすい。

3 インタビュー調査 ※インタビューの特性から,ここでは,校長先生・教頭先生と表記する。

(1) インタビュー調査の目的

今回,市内で抽出した学校で行ったアンケート調査から,校長先生及び,教頭先生及び主任等リ

ーダーのサーバント・リーダーシップ(他者評価)の傾向が比較的に高かった小学校 2校・中学校

1校において,インタビューによる個別聞き取り調査を行った。その目的は,下記の 2点である。

○ リーダー及びミドル・リーダーの具体的行動の調査 ○ サーバント・リーダーシップがフォロワーシップを醸成することの検証 (2) インタビュー調査の内容

各校のインタビュー調査の対象は,校長先生・学年主任・一般教職員の 3 名である。 校長先生へのインタビューでは,サーバント・リーダーの「メンバーに奉仕し,導く」姿勢の具

体的な事例をうかがった。 学年主任をインタビューの対象とするのは,主任のサーバント・リーダーシップが高い値を示し

ていたことと,アンケート調査の「最も関わりの強い主任」として,約 6 割の一般教職員が学年主

任をあげていたからである。学年主任には,校長先生の日頃の行動をうかがい,サーバント・リー

ダーの特徴を検証した。そして,学年主任自身のサーバント・リーダーの特徴も検証した。 一般教職員は,今回は教員経験年数 5 年以内の若手と限定して行った。現在の在職校において,

サーバント・リーダーに直接影響され,自身のフォロワーシップが醸成されると考えられるからで

ある。その中では,校長先生や学年主任の日頃の行動をうかがい,サーバント・リーダーの特徴を

検証した。また,本人の職場での様子をうかがい,フォロワーシップの醸成状況について検証した。 ア 学校長

「職員に見てほしい姿」 ・ 校長先生が,仕事を楽しみ,また積極的に仕事に取り組んでいる姿を職員に見てほしいと思っ

ている。 「職員の気持ちを束ねる」 ・ 校長先生が威張らず,職員とできるだけ同じ視点で話すように心がけている。時には,あえて

弱い部分を見せることもある。 ・ 毎日,全職員の調子(顔・様子・声)を見るようにしている。また,雰囲気を和ませるような

声かけを,できるだけ全員にするようにしている。職員からのサインを,確実にキャッチしよう

と心がけている。特に学年主任へは,日頃から特によく声をかけるようにしている。職員が一番

大事だと考えている。職員がいつも元気で,毎日学校に行きたいと思うことが大事。 ・ 保護者や地域から職員の頑張りを褒められたときは,教職員全体にその旨を具体的に伝えるよ

うにしている。ただし,褒めすぎないようにもしている。 「職員の力を引き出す」 ・ 仕事が忙しい時は,声かけを欠かさないようにしている。

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・ 保護者への対応の際は,常に状況を的確に把握し,適宜指示を行い,一人で抱え込まないでい

いような体制をつくっている。 ・ 職員が引き立つように心がけている。必要な場合においては積極的に関わるようにしている。

しかし,基本的には任せている。 ・ 職員がミスをした時も,あからさまに指摘はしない。よくなかった点をできるだけやんわりと

諭すようにしている。 ・ 教職員が互いに自分の授業を参観したり,ベテランの職員の声かけで勉強会を行ったりするこ

とのよさを伝えている。 イ 学年主任

「校長先生の姿」 ・ 常に職員に声をかけていただける。(体調や仕事の進捗等) ・ 教室によく訪問していただく。児童・生徒にも気軽に声をかけていただいている。時には,活

動にもいっしょに参加していただくことがある。 ・ 児童・生徒や保護者によく関わっていただけるし必要に応じて直接対応をしていただくことも

ある。 ・ 校長先生は,よく話を聞いてくださり,自分達職員に任せてくれることが多い。 ・ 校長先生・教頭先生・教務主任の連携がとてもよくとれていて,自分達も安心して仕事ができ

る。 ・ 学校経営の理念ははっきりお伝えになるが,細部は指示せず任せてくれる。 「学年主任として心がけていること」 ・ 健康面・家庭のことなど細かな面の配慮をするようにしている。例えば,あまり遅くまで残っ

て仕事をしないように声をかけている。 ・ 学年の全クラスの児童・生徒への声かけをするようにしている。学年全体で児童・生徒の共通

理解を深めている。 ・ 基本的には,学年で共通実践を心がけているが,各担任の持ち味を尊重して任せている。 ・ 日常的に学年で交流を行い,時には新しい企画の提案なども行っている。

ウ 一般教職員

「校長先生の姿」 ・ 校長先生が,学期ごとに児童・生徒へ分かりやすいめあてを具体的に提示していただき,また

それが児童・生徒によく浸透している。 ・ 校長先生からいつも配慮してもらえるので,自分達にとってとても安心感がある。いつも気さ

くにまた気軽に話ができるので,保護者対応の相談など困ったことやプライベートな相談も話し

やすい。職員会の最後には,必ず「何でも言ってください。」と言っていただけるので,自分達

はいつも守られている感じがする。また時々,悪い点もはっきり言ってくださる。 ・ 校長先生は,安心する言葉をいつもかけていただけるし,教頭先生・教務主任の先生から具体

的なアドバイスもある。 「学年主任の姿」 ・ 明るく楽しい雰囲気の職員室である。失敗しても,校長先生はじめ諸先輩方がフォローしてく

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れそうなので,挑戦できる。 ・ 生徒指導は学年主任,教科はもう一人の先生(先輩)と,明確にしているわけではないが,お

のずと学年で仕事分担ができてきた。朝,学校に着いたら資料をそろえておいてくださるので,

私も頑張らなきゃと思う。いつも安心して教師として仕事が出来る。 ・ ベテランの先生が主催する勉強会が,自然発生的に行われている。雰囲気がとてもいい。 「フォロワーシップの醸成」 ・ 自分がこの学校で育てられていることに感謝しつつ,後輩に対しては,こちらから進んで悩み

などを話しやすくなる人間関係をつくっていきたいと思う。 (3) インタビュー調査を終えての考察

校長先生の職員を大切にしていきたいという考えが明確で,日頃の声かけや観察といった職員と

の日常的な関わりが学校全体の雰囲気(職場風土)を醸成し,そこからまず教職員の安心感や信頼

感が生まれているようだ。そのことが,教職員の主体性ややる気へとつながり,日頃の活動への新

しいアイディアの提案や自分達での勉強会といった自律的な行動,相互協力,そして学び合いとい

ったよさにつながっているのではないかと考える。 また,学校長・教頭・教務主任の連携がとてもよくとれていることからも,学校全体のよい雰囲

気(職場風土)がつくられるようだ。その中で,学年主任が,ミドル・リーダーとして学年の教職

員に対してより細やかなサーバント・リーダーシップを発揮できるようになり,働きやすい職場を

作り上げていると考える。また同じように一般教職員のインタビューからも,リーダーの傾聴や奉

仕により,安心して仕事に取り組めている。若手であるのでまだ受動的な立場だが,相互協力の意

識はしっかり芽生えており,将来的には,次のリーダーへと育っていくと考えられる。 4 アンケート,インタビュー調査を行うにあたって配慮したこと

本研究は,学校現場における教職員集団のリーダーシップに視点を置いて,自律的に協力し学び合う

学校組織づくりの提案を目指している。そのため,学校現場のトップリーダーである学校長,それに続

く教頭先生のリーダーとしての考え方,そして一般教職員から見た校長先生をはじめとする教職員の様

子などを調査した。この調査は,主任等のミドル・リーダーのあるべき姿やそれを支えるフォロアーシ

ップの醸成の方法の発見が主眼であった。しかし,研究をスタートした時点では,アンケート等の調査

活動が校長先生自身の評価や学校自体の評価と考えられるのではないかというのが,本研究における大

きな不安であった。 そのため,特にアンケート・インタビュー調査を行うにあたっては,次のような配慮をした。 <アンケート調査> ・ 無記名である。 ・ アンケート記入が,他者の目に触れないように個別に封筒へ入れて回収する。

・ 集計の際は,どの学校のアンケートであるか分からない状態で行う。 しかし,実際に集計を行ってみると,次のような問題点が浮上してきた。 ・ 回答者が「性別」「年齢」「教員経験年数」を個人情報だと考え,未記入があった。 ・ ミドル・リーダーという位置付けを役職や立場で限定せず,回答者自身が主任等の“リーダー的

な役割”を選んで回答したため,主任等のリーダー的な役割が想定以上に幅広く,主任等と一般教

職員のデータ数のバランスが悪くなった。また,学校によっては,主任等の回答がまったくない学

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校もあった。 ・ 分析にあたっては,各項目の平均値を算出したが,これまで本研究のような調査がなかったので,

数値の取り扱いが難しかった。 <インタビュー調査> インタビュー調査の実施・分析においてもいくつかの配慮が必要であった。それは本研究の趣旨を十

分に理解していただいた上で,職場の様子を忌憚のなく話していただかなければならなかったことであ

る。初対面でありながら,校長先生をはじめとするリーダーに対する感想や考えを率直に質問するのは,

心苦しい部分もあった。また,より具体的か様子をうかがいながらも報告においては,インタビュー対

象校及び個人が特定されないようにしなければならなかった。そのために,実際のインタビューにあた

っては,対象者の生の声を聞くこと,そして批判的な話は引き出さない・聴取しないよう聞き取る内容

にも配慮して聴取を行った。 このような配慮を行い今回の調査を行ってきたが,その結果は第Ⅲ章に記載している。 しかし,今回のようにこのような配慮事項を研修員全員で出し合い,そして意見交換をすることで,

調査に向けての研究の方向性を決めていく過程を大切にしながら研究を進めることができた。

第Ⅲ章 研究のまとめ

本チームマネージメント研究室では,ミドル・リーダーの立場で,学校の自律的に協力し学び合う組

織づくりのために,サーバント・リーダーシップの考えを通して,効果的なリーダーシップの在り方や

教職員の価値観,態度について具体的にアンケート調査とインタビュー調査を通して検証を行ってきた。

以下のことが,その成果と課題としてあげられる。

1 成果

○ 仮説に対する考察から

仮説 1: サーバント・リーダーシップは教職員の自律性を促進するだろう。

本研究の結果から,学校全体のリーダーである学校長,そしてその補佐役である教頭が教職員の立場

を考えてとても丁寧に接していただいていること,また一般の教職員と日常の仕事の中で最も関わりが

深い主任等のサーバント・リーダーシップが,一般の教職員の日々の学校の仕事に対する熱意や活力と

いったワークエンゲイジメントにとても強く影響を与えていることが分かった。実際に一般教職員への

インタビュー調査に行ってみて,校長先生や教頭先生,及び主任等のサーバント・リーダーシップによ

り,“失敗しても,校長先生をはじめ諸先輩方がフォローしていただけそうなので,挑戦できる。”や“私

もがんばらなきゃと思う。”などといった自発的で能動的な姿勢を感じさせる発言も多く見られた。 以上の結果から,仮説 1 は支持されたと言える。特に,一般の教職員と関わりの深い主任等(特に今

回のアンケート調査では,6 割の先生方が学年主任を「最も関わりの強い主任」として挙げていた)の

ミドル・リーダーとしてのリーダーシップが,一般の教職員に与える影響は大変大きいことも合わせて

分かった。そして,主任等は一般教職員と身近な関係である分だけそれらに与える影響も大きく,学校

長の学校経営への影響も併せもって大きい。その意味でも主任等の役割においてサーバント・リーダー

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シップの活用には価値が大きいと感じた。 したがって相互に支援し合うことができる学校においては,共有された目的に向けて,自律的でかつ 的確な協議を積極的に繰り返すなど,他者との関わりを強くもって成長することができていると考える。

このような組織においては,「協働的職場風土」が醸成され,教職員が熱意や活気をもち自律的に取 り組むことができると考える。

仮説 2:サーバント・リーダーシップは協働的な職場風土を形成するだろう。

学校全体をチームとして考えると,学校長,教頭そして主任等の役割以外に,同じくメンバーである

フォロアーの役割も重要である。これはチームとしての職場風土は,リーダーシップ,フォロアーシッ

プの双方で形成するものであるからである。サーバント・リーダーシップや学校長の寛容さ(細やかな

サポート)は,学校組織や他の教職員に対する「積極的関与」にも同様に影響を与えていることも分か

った。また各々の役割に応じて互いに関わり合いながら成長していけるような職場は,協働的な職場風

土が十分に形成され,仕事に対する熱意や活気といったワークエンゲイジメントも高いことが分かった。 逆に,一人の意見に従ったり建設的な意見が出にくかったりなどの同調的職場風土からは,積極的関 与が生まれにくいことも確かめることができた。 また協働的な職場風土の形成には,日常的に関わりの深い主任等の影響が非常に高いことも分かった。 このことから学校長,教頭といった学校全体でのリーダーシップとミドル・リーダーである主任等のサ ーバント・リーダーシップが職場の活性化や協働的な職場風土の形成に大きな役割を果たしていると考 える。 他方,インタビュー調査からも,学校長・教頭そして主任等によるサーバント・リーダーシップが発

揮されている学校では,教職員の意識の中に,「活気のある雰囲気の職員室である。」や「ベテランの先

生が主催する勉強会が自然発生的に行われている。」など,相互に協力し合う雰囲気が形成され,それ

が働きやすい組織の形成につながっていることがうかがえた。 以上の結果から仮説 2 も支持されたと言える。 これらの結果は,校長先生をはじめ教頭先生,主任等がサーバント・リーダーシップを発揮し,一般 の教職員に対して日頃から細やかな支援を行うことで,それが自然発生的に波及し,同僚である他の教 職員への支援やサポートにつながり,ひいてはそれが協働的な職場風土の形成につながっていると考え られる。

仮説 3:サーバント・リーダーシップは職場の創造性を引き出すだろう。

職場の活性化に欠かせない創造的な職場づくりを「新規アイディアの提案」でみた場合,協働的な職

場風土やサーバント・リーダーシップと深い関わりのある校長先生の寛容さ(細やかなサポート),主

任等のサーバント・リーダーシップが大きく影響を与えていることが分かった。(仮説 3を支持)逆に,

同調的職場風土からは,新規アイディアは提案されにくいことも分かった。すなわち新規アイディアが

提案されるような職場においては,仕事に対する活気や熱意を表すワークエンゲイジメントも高く,ま

た職場がさらに活性化された職場になっていくことが考えられる。 このようなことから,校長先生,教頭先生やミドル・リーダーである主任等が各々の役割においてリ ーダーシップを発揮されている職場は活性化し,互いに必要な支援やアドバイスを与え合いながら協働

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的な職場風土を醸成している。そして,このような職場風土に支えられ,教職員は創造的に新しいこと にチャレンジしようとする意欲が引き出すことができていると考えられる。 つまり,従来の校長先生による指導体制を基に,校長先生,教頭先生,そしてミドル・リーダーとし

ての主任等が,各々の立場や役割に応じたサーバント・リーダーシップを発揮することで,学校は「教

職員の自律性の促進」,「協働的な職場風土の形成」,「職場の創造性の醸成」を実現できるのではないか

と考える。このような職場風土の中で,主任等ミドル・リーダーは,教職員一人一人の意識をしっかり

持ち自らの資質を向上させることで,今後多様化していくと考えられる学校現場での課題やニーズに対

して,校長先生の進める学校運営に対して自律的でかつ協力し学び合う関わりを強く組織を構築できる

と考える。

2 自律的に協力し学び合う学校組織作りのためにミドル・リーダーが果たすことができる役割への提言

自律的に協力し学び合う学校組織作りにむけてミドル・リーダーはどのような役割を果たすことがで

きるのだろうか。本研究で取り組んだ一連の研究で明らかになった事実をもとに,サーバント・リーダ

ーシップの観点からミドル・リーダーが果たす役割について,次の2つを提言として示す。

提言 1 ミドル・リーダーは,学校組織において,学校長・教頭と一般教職員との間の「橋渡し役」と

しての重要な役割を担っている。

サーバント・リーダーシップは,フォロワーを支援する行動に大きな特徴を持っているが,そこに

は目指すべきビジョンの存在が大前提である。学校組織におけるミドル・リーダーにおいては,学校

長が示すビジョンを理解し,それを具体化しながら,それを一般教職員に伝達する役割が求められて

いる。また,一方で,一般教職員からの意見や要望を学校長や教頭に伝える役割も同時になっている。

ミドル・リーダーが,こうした「橋渡し役」を担うことによって,学校組織が一丸となり,それが

「チーム学校」として機能していくだろう。

提言 2 ミドル・リーダーは,一般教職員と最も心理的距離が近い存在であるため,彼らを積極的に

支援することが期待されている。

学校組織の中核を担う学校長や教頭の存在が重要であることは指摘するまでもない。しかし,彼ら

が期待されている役割とは学校組織全体の方針や管理に関わることである。そのため,教職員一人一

人を丁寧かつ親身に支援することは物理的に難しく,必然的にその役割は一般教職員と心理的距離が

近い,ミドル・リーダーである主任に期待されている。

ミドル・リーダーは一般教職員との心理的距離が近いことから,これを生かして積極的に一般教職

員を支援することが期待される。それによって,一般教職員が自律的に仕事に取り組み,また協働的

職場風土の形成につながることは本研究の結果からも明確に裏付けられていた通りである。

今後,主任等を担うミドル・リーダーは,pチ-6以降に整理したようなサーバントリーダーに求め

られる特性や成長段階を参考に一般教職員への支援を行うことが求められる。

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3 課題

(1) 変容の検証ができなかったこと

研究の内容にも関わるが,本研究室の考えによる提案が,次の検証による変容の実証が今回でき

なかったことは残念だった。サーバント・リーダーシップが,職場を活性化していることは間違い

ないが,どのように変わっていくのかを再実践・再調査・再検証をどのようにしていくかが,課題

として残った。

(2) 概念化や先見性を今後どのように職場に定着させていくか

職場の活性化に大きな影響を与える,「新規のアイディア」が「協働的職場風土」から現れやす

いことが分かったが,その「新規のアイディア」が提案される頻度自体は,低かった。年齢構成が,

若い世代とベテランの世代が多い現場において,これまでのやり方になれているベテランについて

は,若手と同じ程度の「新規のアイディア」の提案の頻度しかなかった。

またサーバント・リーダーシップが発揮されている職場(協働的職場)においては,校長先生,

教頭先生,そして主任等が期待すること,目標・指示を適切に理解しそれに従うように一生懸命努

めていること,そして仕事に対する積極的な関与が高いことが分かっているので,今後,ミドル・

リーダーは,「実現したい目標・理念を明確にする(概念化)」と「達成のためのビジョンを描く(先

見性)」をどのように発揮していくかをさらに深めていく必要があると考える。

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資料等 引用文献 1 池田 浩 著「集団の目標達成に向けてなされる集団の諸活動に影響を与える過程」(2007) 2 Greenleaf「サーバント・リーダーシップ」(1977) 3 NPO 法人 日本サーバント・リーダーシップ協会著「サーバント・リーダーシップとは」 4 Liden et al. 著「サーバント・リーダーシップを測定する尺度項目等について」 5 清水裕士・村山綾・大坊郁夫「統計分析ソフト「HAD」」(2006) 6 清水裕士・村山綾・大坊郁夫「集団コミュニケーションにおける相互依存性の分析(1)」(2006)

7 電子情報通信学会技術研究報告「コミュニケーションデータへの階層的データ分析の適用」

8 山口裕幸・金井篤子(編著)「よくわかる産業・組織心理学 ミネルヴァ書房 Pp.120-139」)

参考文献 1 真田 茂人「サーバント・リーダーシップ入門」 2 文部科学省 HP「学校運営をめぐる現状と課題」 3 金井真弓 訳,金井壽宏監訳,「サーバント・リーダーシップ」英治出版 2008 年 研修員

樋 口 宏 志(壱岐南小学校主幹教諭) 南正覚 禎 哉(舞鶴小学校主幹教諭) 小 林 千 鶴(原中学校教諭) 深 田 僚 子(東住吉中学校教諭)

研究指導者 池 田 浩(福岡大学人文学部文化学科准教授) 草 島 哲 夫(福岡市教育センター研修指導員)