飼料用米を利用した黒毛和種短期肥育におけるビタミンa剤 …...則. 2015....

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飼料用米を利用した黒毛和種短期肥育におけるビタミン A 剤の定期投与技術 河合紗織・間山潤二 (青森県産業技術センター畜産研究所) Periodic supplementation of Vitamin A in Japanese Black Steers fatting period shortening using feed unhulled rice Saori KAWAI and Junji MAYAMA (Livestock Research Institute, Aomori Prefectural Industrial Technology Research Center) 1 はじめに 黒毛和種の肥育では、ビタミン A の摂取制限によ り脂肪交雑が高まることが知られている。その制御 は、ビタミン A を極微量に含む濃厚飼料の給与と併 せて、欠乏兆候の見られる個体に適宜ビタミン A 剤を投与する方法が一般的である。また、生産費節 減のため飼料用米の給与や肥育期間を短縮する農 家も散見されるが、米はビタミン A をほとんど含ま ないため低下度合いが大きくなり、ビタミン A 欠乏 症を引き起こしやすくなることが懸念されている 1) 。そこで、飼料用米給与と肥育期間短縮を両立す る条件下においても欠乏症を起こさず簡便にビタ ミン Aを制御するためのビタミン A剤定期投与技術 を検討した。 2 試験方法 青森県産業技術センター畜産研究所において、資 質系の黒毛和種去勢牛9頭を供試し、10~27 か月齢 まで肥育を行った。肥育全期間において配合飼料の 原物重量比 30%(乾物約 25%)を籾米 SGS で代替し、 粗飼料は肥育前期までは乾草と稲わら、中期以降は 稲わらのみとした。ビタミン A 制御は、2水準のビ タミン A 剤定期投与プログラム(定期Ⅰ区、定期Ⅱ 区)を設定し、群内一律にビタミン ADE 剤(1ml あ たり VA:1万 IU、VD:1000IU、VE:50mg)を経口投 与した(表1) 2) 。肥育中期における血中ビタミン A 濃度の最低維持レベルは、定期Ⅰ区で 40IU/dl、定 期Ⅱ区で 50IU/dl とした。対照として、血中ビタミ ン A 値に応じて個別に最小限量の同剤を投与する検 査コントロール区を設け、各区3頭を配置した。ビ タミン ADE 剤投与日、1,2,3,7,14,21,28 日後に採血を実施し、血中ビタミン A 濃度を測定し た。体重は2週間隔で測定し、経済性は、枝肉価格 から素牛代、飼料費等(ビタミン ADE 剤代を含む) の生産費を差し引いた額を利益として算出した。 3 試験結果及び考察 定期投与区における肥育中期の血中ビタミン A 濃 度は、投与1日後がピークとなった後次回投与まで に元の水準まで低下する動態がみられ、各区とも設 定した投与量で概ね4週間は最低維持レベル以上に 維持できていた(図1、図2)。肥育中期における 平均血中ビタミン A 濃度は、検査コントロール区、 定期Ⅰ区、定期Ⅱ区の順に低く、投与したビタミン A 剤の量の差を反映していた(図3)。また、全区 において試験期間中にビタミン A 欠乏症状を示す個 体は見られなかった。 出荷時体重は全区ともに約 800kg、試験期間の日 増体量は、定期Ⅰ区、定期Ⅱ区、検査コントロール 区の順に大きかったが、いずれも有意差はなかった (表省略)。飼料摂取量は、検査コントロール区と 比較して定期Ⅰ区およびⅡ区でそれぞれ 8%、2%多 かった。これは、定期的なビタミン A 剤の補給によ り飼料の食い込みが安定していた影響であると推察 される。 枝肉成績における等級・BMS.No は、肥育中期の血 中ビタミン A 濃度の低い順と一致しており、最も優 れていたのは検査コントロール区、次いで定期Ⅰ区、 Ⅱ区の順であった(表2)。定期Ⅱ区の BMS.No は他 区よりも2ポイント程度低く脂肪交雑が少ない結果 であった。定期Ⅱ区における肥育中期のビタミン A 剤の投与量は 40 万 IU/月であり、平均血中ビタミン A 濃度は約 60IU で推移していた。このことから、脂 肪交雑を高めるためのビタミン A 制限には、定期Ⅱ 区の投与水準ではやや多いという可能性が示唆され た。 ビタミン A 制御に要したビタミン ADE 剤代は、検 査コントロール区と比較して定期Ⅰ区は 1.6 倍、定 期Ⅱ区では 1.9 倍必要であったが、採血や検査費用 がかからないため、総費用では定期Ⅰ区、Ⅱ区とも に検査コントロール区よりも 35 千円削減できた。 枝肉価格および収益性は、定期Ⅰ区は検査コント ロール区に遜色ない結果であったのに対し、定期Ⅱ 区では、枝肉単価が低く重量もやや小さかった影響 で、枝肉価格は検査コントロール区比で 14%(190 千円)安く、これに伴い利益は同比 20%にとどまった。 43 あいう 43 44 東北農業研究(Tohoku Agric. Res. )72, -  (2019)

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  • 飼料用米を利用した黒毛和種短期肥育におけるビタミン A 剤の定期投与技術

    河合紗織・間山潤二

    (青森県産業技術センター畜産研究所)

    Periodic supplementation of Vitamin A in Japanese Black Steers fatting period shortening using feed

    unhulled rice

    Saori KAWAI and Junji MAYAMA

    (Livestock Research Institute, Aomori Prefectural Industrial Technology Research Center)

    1 はじめに

    黒毛和種の肥育では、ビタミン A の摂取制限によ

    り脂肪交雑が高まることが知られている。その制御

    は、ビタミン A を極微量に含む濃厚飼料の給与と併

    せて、欠乏兆候の見られる個体に適宜ビタミン A

    剤を投与する方法が一般的である。また、生産費節

    減のため飼料用米の給与や肥育期間を短縮する農

    家も散見されるが、米はビタミン A をほとんど含ま

    ないため低下度合いが大きくなり、ビタミン A 欠乏

    症を引き起こしやすくなることが懸念されている1)。そこで、飼料用米給与と肥育期間短縮を両立す

    る条件下においても欠乏症を起こさず簡便にビタ

    ミンAを制御するためのビタミンA剤定期投与技術

    を検討した。

    2 試験方法

    青森県産業技術センター畜産研究所において、資

    質系の黒毛和種去勢牛9頭を供試し、10~27 か月齢

    まで肥育を行った。肥育全期間において配合飼料の

    原物重量比 30%(乾物約 25%)を籾米 SGS で代替し、

    粗飼料は肥育前期までは乾草と稲わら、中期以降は

    稲わらのみとした。ビタミン A 制御は、2水準のビ

    タミン A 剤定期投与プログラム(定期Ⅰ区、定期Ⅱ

    区)を設定し、群内一律にビタミン ADE 剤(1ml あ

    たり VA:1万 IU、VD:1000IU、VE:50mg)を経口投

    与した(表1)2)。肥育中期における血中ビタミン

    A 濃度の最低維持レベルは、定期Ⅰ区で 40IU/dl、定

    期Ⅱ区で 50IU/dl とした。対照として、血中ビタミ

    ン A 値に応じて個別に最小限量の同剤を投与する検

    査コントロール区を設け、各区3頭を配置した。ビ

    タミン ADE 剤投与日、1,2,3,7,14,21,28

    日後に採血を実施し、血中ビタミン A 濃度を測定し

    た。体重は2週間隔で測定し、経済性は、枝肉価格

    から素牛代、飼料費等(ビタミン ADE 剤代を含む)

    の生産費を差し引いた額を利益として算出した。

    3 試験結果及び考察

    定期投与区における肥育中期の血中ビタミン A 濃

    度は、投与1日後がピークとなった後次回投与まで

    に元の水準まで低下する動態がみられ、各区とも設

    定した投与量で概ね4週間は最低維持レベル以上に

    維持できていた(図1、図2)。肥育中期における

    平均血中ビタミン A 濃度は、検査コントロール区、

    定期Ⅰ区、定期Ⅱ区の順に低く、投与したビタミン

    A 剤の量の差を反映していた(図3)。また、全区

    において試験期間中にビタミン A 欠乏症状を示す個

    体は見られなかった。

    出荷時体重は全区ともに約 800kg、試験期間の日

    増体量は、定期Ⅰ区、定期Ⅱ区、検査コントロール

    区の順に大きかったが、いずれも有意差はなかった

    (表省略)。飼料摂取量は、検査コントロール区と

    比較して定期Ⅰ区およびⅡ区でそれぞれ 8%、2%多

    かった。これは、定期的なビタミン A 剤の補給によ

    り飼料の食い込みが安定していた影響であると推察

    される。

    枝肉成績における等級・BMS.No は、肥育中期の血

    中ビタミン A 濃度の低い順と一致しており、最も優

    れていたのは検査コントロール区、次いで定期Ⅰ区、

    Ⅱ区の順であった(表2)。定期Ⅱ区の BMS.No は他

    区よりも2ポイント程度低く脂肪交雑が少ない結果

    であった。定期Ⅱ区における肥育中期のビタミン A

    剤の投与量は 40 万 IU/月であり、平均血中ビタミン

    A 濃度は約 60IU で推移していた。このことから、脂

    肪交雑を高めるためのビタミン A 制限には、定期Ⅱ

    区の投与水準ではやや多いという可能性が示唆され

    た。

    ビタミン A 制御に要したビタミン ADE 剤代は、検

    査コントロール区と比較して定期Ⅰ区は 1.6 倍、定

    期Ⅱ区では 1.9 倍必要であったが、採血や検査費用

    がかからないため、総費用では定期Ⅰ区、Ⅱ区とも

    に検査コントロール区よりも 35 千円削減できた。

    枝肉価格および収益性は、定期Ⅰ区は検査コント

    ロール区に遜色ない結果であったのに対し、定期Ⅱ

    区では、枝肉単価が低く重量もやや小さかった影響

    で、枝肉価格は検査コントロール区比で 14%(190

    千円)安く、これに伴い利益は同比20%にとどまった。

    - 43 -

    あ い う43 44東北農業研究(Tohoku Agric. Res. )72,   -  (2019)

  • 4 まとめ

    肥育中期

    を投与する

    縮する飼養

    が可能で、

    投与を行っ

    られること

    図 1 肥

    図 3 肥

    期に群単位で毎

    ることで、飼料

    養体系において

    かつ、個別に

    った場合と遜色

    が明らかとな

    表 1 試験区分

    月齢(か月)

    定期投与Ⅰ区 (

    定期投与Ⅱ区 (

    検査コントロール区 (

    ※理想値(血中VA

    育中期のビタ

    肥育全期間にお

    毎月 30 万 IU の

    料用米を給与

    ても健康的な

    に必要最小限の

    色ない枝肉成績

    なった。

    分とビタミン A

    )10

    (導入時

    (3頭) 50万

    (3頭) 50万

    (3頭) 50万

    濃度)

    タミンA制御状況

    おけるビタミン

    のビタミン A

    し肥育期間を

    ビタミン A 制

    のビタミン A

    績・経済性が

    A 投与方法

    時)11-12 13

    ― 10万

    ― 10万

    ― ―

    95~90

    肥育前期

    況(定期Ⅰ区

    ンA制御状況

    を短

    制御

    が得

    1)

    2)

    14-15

    25万

    35万

    90~35

    40万

    血中VA濃理想値※に

    肥育中期

    16-

    30万

    ロバ

    B

    区)

    (全区)

    引用文献

    )福田孝彦, 井

    黒毛和種肥育

    試験場研究報

    )木下正徳,大

    勝則,内田雅

    A 投与量・投

    産試験場試験

    22

    50万

    50万

    35~30

    /月

    濃度の測定結果にに沿うように、不足

    21

    /月

    項目

    等級

    A-5 (頭)

    A-4 (頭)

    A-3 (頭)

    枝肉重量(kg)

    ロース芯面積(cバラの厚さ(cm)

    皮下脂肪厚(cm

    BMS No.

    すべて有意差なし

    図 2 肥育中

    表 2 枝肉成績

    井上学, 足立

    育牛への飼料米

    報告 39:24-30

    大竹孝一,藤

    雅春,佐々江洋

    投与時期の解明

    験報告書 28

    23 24 2

    ― 75万 50

    ― 75万 50

    45 6

    に応じて、月齢に応足した場合のみ適

    肥育後

    定期Ⅰ区

    1

    2

    0

    511.0±87

    cm2) 62.0±3.5

    7.7±1.2

    ) 1.9±0.1

    7.0±1.7

    中期のビタミン

    立広幸, 瀬尾哲

    米給与試験.

    0. 田達男,志賀

    洋太郎.1999

    明(第 4 報)

    :7-14.

    25 262

    (出荷

    0万 50万 30

    0万 50万 30

    30

    60 75 8

    単位

    応じた適宜補給

    後期

    定期Ⅱ区

    0

    2

    1

    7.0 499.3±20.

    5 62.7±3.2

    2 7.1±0.3

    2.2±0.6

    7 5.3±1.5

    ンA制御状況

    哲則. 2015.

    鳥取県畜産

    賀一穂,木本

    9.ビタミン

    .大分県畜

    27荷前)

    0万

    0万

    0万

    80

    位:IU

    検査コントロール区

    2

    1

    0

    2 505.0±48.8

    2 65.3±2.9

    7.6±0.4

    2.5±0.3

    8.0±1.0

    (定期Ⅱ区)

    8

    東 北 農 業 研 究  第 72 号 (2019)

    - 44 -

    えおあいうえお

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