電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計 新...

6
〕  ( UDC 電磁流体解析による電磁コイル設計 電磁流体解析による電磁コイル設計 電磁流体解析による電磁コイル設計 電磁流体解析による電磁コイル設計 電磁流体解析による電磁コイル設計 Electromagnetic Coil Designed by Magneto-Hydro-Dynamic Simulation *(1) *(2) Ken YOKOTA Keisuke FUJISAKI 新日本製鐵では,スラブ表層品質の向上を目的に鋳型内電磁攪拌装置(In-Mold Electro-Magnetic Stirrer:M-EMS と称す)を連続鋳造設備に装備してきた。しかし,需要家からの永続的な品質向上ニーズを満足するためには,品 質と関わり合いの深い鋳型内の溶鋼流動現象を明らかにした上で,鋳造条件に適した流動制御を実施する必要が ある。そこで電磁流体解析技術を活用し,溶鋼流動現象を定量的に評価,解明した上で,制御する鋳造分野にお ける電磁プロセスソリューションに取組んできた。溶鋼流動制御の一環として,電磁攪拌装置を始めとする電磁 コイル設計に,電磁流体解析を適用した設計手法を確立したことを報告する。 Abstract Linear induction motor type In-Mold Electro-Magnetic Stirrer “M-EMS’’ is equipped in most of the slab continuous caster in Nippon Steel Corp. to improve slab surface quality by stirring the molten metal flow. To satisfy the steel customer’s permanent quality requirement, the molten metal flow patterns in the casting mold, which reflects on the steel quality deeply, must be made clearly and the flow control must be optimized against each casting conditions. Authors are carrying on “Electromagnetic process solution’’ in the casting field by applying Magneto-Hydro-Dynamic simulation to the molten metal flow process in order to estimate it numerically, to make it clearly and finally to control. In this paper, the established specification designing method using Magneto-Hydro-Dynamic simulation for M-EMS and other electromagnetic coils is shown. 1. ,スラブ (Continuous Caster:以 CC す) する して,移 (In Mold Electro Magnetic Stirrer:以 M EMS す)を し, した 。そ に第2 し,これらを りに CC けている M EMS を印 するこ ,スラブ シェル にわたり れを るこ している。そ して, つきを え, し,シェル らつきを さくする に, する たらす されて いる 。 しかし, から ニーズを するために わり らかにし, した を印 して する がある。 そこ を活 し, むノズルから による いった し, した する における プロセスソリューションに きた。 して,そ アクチュエータ るM EMSを する コイル に, した を確 したこ する。 2. 電磁攪拌装置(M-EMS)の概要 M EMS 図1 ように に対 するように された一対 リニアモータから される。 する ために,リニアモータ いに きに させる。 けた コイルに印 する きを する。 を打ち きに し, する きに する。 い,こ れら により,一 にローレンツ される。 された から くよう るが, により させている に大きく き,こ って する。 ・プロセス センター システム マネジャー TEL ・プロセス センター  員 

Upload: others

Post on 31-Dec-2019

13 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計 新 日 鉄 技 報 第 379 号 (2003) -60- 鋳型内の溶鋼流動は,主として浸漬ノズルからの吐出流とM-EMS

-59-

電磁流体解析による電磁コイル設計

新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

〔新 日 鉄 技 報 第 379 号〕  (2003)

UDC 621 . 318 . 4 : 537 . 84

電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計

Electromagnetic Coil Designed by Magneto-Hydro-Dynamic Simulation

横 田  健*(1) 藤 崎 敬 介*(2)

Ken YOKOTA Keisuke FUJISAKI

妙   録新日本製鐵では,スラブ表層品質の向上を目的に鋳型内電磁攪拌装置(In-Mold Electro-Magnetic Stirrer:M-EMS

と称す)を連続鋳造設備に装備してきた。しかし,需要家からの永続的な品質向上ニーズを満足するためには,品

質と関わり合いの深い鋳型内の溶鋼流動現象を明らかにした上で,鋳造条件に適した流動制御を実施する必要が

ある。そこで電磁流体解析技術を活用し,溶鋼流動現象を定量的に評価,解明した上で,制御する鋳造分野にお

ける電磁プロセスソリューションに取組んできた。溶鋼流動制御の一環として,電磁攪拌装置を始めとする電磁

コイル設計に,電磁流体解析を適用した設計手法を確立したことを報告する。

AbstractLinear induction motor type In-Mold Electro-Magnetic Stirrer “M-EMS’’ is equipped in most of the

slab continuous caster in Nippon Steel Corp. to improve slab surface quality by stirring the molten metalflow. To satisfy the steel customer’s permanent quality requirement, the molten metal flow patterns inthe casting mold, which reflects on the steel quality deeply, must be made clearly and the flow controlmust be optimized against each casting conditions. Authors are carrying on “Electromagnetic processsolution’’ in the casting field by applying Magneto-Hydro-Dynamic simulation to the molten metal flowprocess in order to estimate it numerically, to make it clearly and finally to control. In this paper, theestablished specification designing method using Magneto-Hydro-Dynamic simulation for M-EMS andother electromagnetic coils is shown.

1. 緒   言

 新日本製鐵では,スラブ表層品質の向上を目的に連続鋳造設備

(Continuous Caster:以下CCと称す)の鋳型内溶鋼流動を制御する装

置として,移動磁場方式の鋳型内電磁攪拌装置(In-Mold Electro-

Magnetic Stirrer:以下M-EMSと称す)を開発し,1980年に新日本製

鐵広畑製鐵所に初号機を設置した1-2)。その後1982年に新日本製鐵大

分製鐵所に第2号機を設置し,これらを皮切りに装置の改良と,新

日本製鐵社内の主要CCへの装備を続けている3-5)。

 M-EMSは,電磁力を印加することで,スラブ表層の凝固シェル前

面に幅方向全般にわたり空間的にも時間的にも均一な流れを付与す

ることを目的としている。その効果として,溶鋼の温度分布のばら

つきを抑え,凝固遅れの発生を低減し,シェル厚みのばらつきを小

さくするとともに,均一性を向上する結果をもたらすと報告されて

いる6)。

 しかし,需要家からの永続的な品質向上ニーズを満足するために

は,品質と関わり合いの深い鋳型内の溶鋼流動現象を明らかにし,

その上で鋳造条件に適した電磁力を印加して流動制御を実施する必

要がある。

 そこで著者らは,電磁流体解析技術を活用し,鋳型に溶鋼を流し

込むノズルからの吐出流や,電磁力による攪拌流といった鋳型内の

溶鋼流動現象を定量的に評価し,解明した上で,流動を制御する鋳

造分野における電磁プロセスソリューションに取組んできた。

 本報では,溶鋼流動制御の一環として,そのアクチュエータであ

るM-EMSを始めとする電磁コイル設計に,電磁流体解析を適用した

設計手法を確立したことを報告する。

2. 電磁攪拌装置(M-EMS)の概要

 M-EMSは,図1のように鋳型長辺背面上部に対向するように設置

された一対の誘導型リニアモータから構成される。溶鋼を攪拌する

ために,リニアモータはお互いに反対向きに磁場を進行させる。具

体的には,鉄心に取り付けた横並びの銅製コイルに印加する交流電

流の位相の向きを制御する。磁場進行方向の溶鋼中には,進行磁場

を打ち消す向きに別の磁場が発生し,進行方向反対側でも進行磁場

を保持する向きに磁場が発生する。磁場の発生は渦電流を伴い,こ

れら溶鋼中の磁場と渦電流により,一般的にローレンツ力と呼ばれ

る電磁力が誘起される。誘起された電磁力は溶鋼上部から見て輪を

描くような分布になるが,鋳型壁面近傍では印加電流により強制的

に発生させている進行磁場と同方向に大きく働き,この力でもって

溶鋼を攪拌する。

*(1) 環境・プロセス研究開発センター システム制御技術部 マネジャー

千葉県富津市新富20-1 〒293-8511  TEL:(0439)80-3196

*(2) 環境・プロセス研究開発センター 計測・制御研究開発部 主幹研究員 工博

Page 2: 電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計 新 日 鉄 技 報 第 379 号 (2003) -60- 鋳型内の溶鋼流動は,主として浸漬ノズルからの吐出流とM-EMS

電磁流体解析による電磁コイル設計

-60-新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

 鋳型内の溶鋼流動は,主として浸漬ノズルからの吐出流とM-EMS

の電磁力に支配されている。吐出流分布は,鋳造幅や鋳造速度等の

鋳造条件とノズル形状によって概ね定まる。しかし,現在の標準的

なCC操業においては,生産性を上げるために鋳造中も幅や速度を

変更している。そのため,必ずしも吐出孔の閉塞等の鋳造時間が経

つにつれて発生する傾向のある現象によらなくても,吐出流分布は

変化していると考えられる。

 従って,凝固シェル前面に安定的に流速を付与する可制御なアク

チュエータとして,M-EMSの果たす役割は大きく,そのリニアモー

タとしての特性や仕様設計が重要になってくる。

3. 電磁流体解析を適用したM-EMS設計手法

 本章では,電磁流体解析を構成する流体解析技術と電磁場解析技

術の概要を述べた上で,M-EMSの仕様設計フローを示す。なお,本

章で扱う記号の説明は一括して3.1.3項に掲載している。

3.1 電磁流体解析技術の概要

 M-EMSにより電磁力を印加した溶鋼中では,流動や伝熱による凝

固現象に電磁場も加わり,わずか約1mの鋳型内で複数の物理法則

が複雑に相互に影響を及ぼし合っている。数値解析をするにあたっ

て,厳密にこれらすべての物理現象を連成することは,計算機能力

が飛躍的に進歩している現在でも現実的ではなく,本報では鋳型内

溶鋼流動制御の観点から,溶鋼流動とそれに作用する電磁力のみを

連成した電磁流体解析技術を取り扱っている7)。

3.1.1 流体解析

 流体解析は,流れの連続式とNavier-Stokes方程式を基礎式とし

て,差分法を用いて解いている。

0 = ∇ ⋅ U (1)

∂U∂t + U ⋅ ∇U = − ∇P

ρ + g + Fρ + ∇ ⋅ ν∇U  (2)

 この時,溶鋼は非圧縮(密度一定)として扱い,M-EMSによって溶

鋼中に誘起される電磁力項を式(2)の右辺第3項に付加している。

また,主としてノズル吐出流の揺らぎを表現するために,時間変動

の早い非定常流れである乱流をより正確に表現可能なモデルとして

LES(Large Eddy Simulation)を採用した。式(1)と(2)を同時に解くこ

とで,M-EMSによる電磁力が作用した流れ場を求めることができ

る。

3.1.2 電磁場解析

 電磁場の基礎方程式はよく知られている通り,Maxwell方程式で

ある8)。本項では,Maxwell方程式を直接取り扱う代わりに,磁気ベ

クトルポテンシャルを用いたA-φ法によって変数を低減したMax-

well方程式と電磁力の算出式を示す。導出方法については,文献を

参照されたい9)。

∇ × 1µ ∇ × A + σ ∂A

∂t + ∇φ = Jo  (3)

F = σ ∂A∂t + φ × ∇ × A (4)

 式(3)を解くことで,鉄心や溶鋼中の磁束密度分布や,電磁誘導

された渦電流の分布から鋳型の発熱量を求めることができる。

また,式(3)及び(4)を解くにあたって必要とするモデルの導電率に

ついては,その温度特性とともに具体的な値を参照文献から引用し

ている10)。導電率は温度一定と仮定し,定常値として扱う。

 一方,透磁率については,鋳型を構成する銅板やステンレス鋼部

材,キューリー点をはるかに越える溶鋼の比透磁率は真空中と同

等,すなわち1と見てよいが,M-EMSの主要構成部品である鉄心は

回転型モータと同様に電磁鋼板を積層しており,磁化力に対して

非線形な特性を示す。

 実機M-EMSには,新日本製鐵製の無方向性電磁鋼板が鉄心部材に

使用されている。解析時にはその磁化特性を参照するロジックを組

み込んでおり,精度の高い解析結果が得られている。使用した磁化

曲線を図2に示す11)。

3.1.3 記号

 太字で示した記号は,空間的に3成分から構成されるベクトルで

ある。

AAAAA : 磁束密度に対するベクトルポテンシャル(Wb/m)

FFFFF : 電磁力(N/m3)

g : 重力加速度(m/s2)

JJJJJ0 : (外部もしくは強制)電流密度(A/m2)

PPPPP : 圧力(Pa)

t : 時間(s)

UUUUU : 流速(m/s)

μ : 透磁率(H/m)

ν : 動粘性係数(m2/s)

ρ : 密度(kg/m3)

σ : 導電率(S/m)

φ : 電位のスカラーポテンシャル(V)

3.2 M-EMS設計フロー

 図3にM-EMSの仕様設計フロー図を示す。鋳造条件と操業条件を

もとに仮決定したM-EMS仕様や,鋳型形状等の機械条件に各々の物

性値を設定して電磁場解析を実施する。

図1 電磁攪拌装置M-EMS概要図

図2 新日本製鐵製電磁鋼板(50H1300)の磁化曲線

長辺鋳型

溶鋼中の電磁力

電磁撹拌装置(M-EMS)

コイル鉄心

浸漬ノズル

進行磁場

0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

10 100 1 000 10 000 100 000磁化力H(A/m)

磁束密度B(T)

Page 3: 電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計 新 日 鉄 技 報 第 379 号 (2003) -60- 鋳型内の溶鋼流動は,主として浸漬ノズルからの吐出流とM-EMS

-61-

電磁流体解析による電磁コイル設計

新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

 その結果,図3(a)溶鋼中の電磁力分布や,その電磁力を鉄心前

面でのスラブ表層に相当する位置で積分した推力値,(b)鉄心の磁

気飽和の可否を判断するための磁束密度分布,そして(c)鉄心や鋳

型での電磁誘導による発熱量が求まる。

 M-EMS性能を評価するにあたっては,実測の場合は推力と磁束密

度分布を組み合わせて用いるが,解析では幅方向における電磁力分

布を直接求めることが可能である。また,鉄心の磁束密度分布や発

熱分布が算出可能となったことで,コンパクトな装置設計及び,鉄

心や鋳型での局所発熱を回避することができる。攪拌に寄与する電

磁力の幅方向での偏りや,磁気飽和,局所発熱が発生する場合は,

M-EMS仕様のみならず,機械条件も含めて再度仕様を検討し直す。

なお,鋳型銅板に関する機械条件については4.2節にて後述する。

 電磁場解析結果が諸条件を満たせば,前提としている鋳造条件と

操業条件を加味した非定常流体解析を行う。その結果として,図3

(d)凝固シェル前面に見立てたスラブ表層にあたる位置での幅方向

や下降方向の流速分布について,時間平均した流れ(定常流)とノズ

ル吐出流のゆらぎを主とする非定常流を評価する。評価した流速分

布が所定の攪拌流にならない時は,M-EMS仕様の再検討や,電流値

や周波数等の操業条件の変更を試行する場合もある。

 以上のように図3のフローに従い,理想とする幅方向均一な攪拌

流を生み出すM-EMS仕様を決定する。本フローを用いて数値解析の

特長を遺憾なく発揮することで,新たに設置するM-EMSについて,

あらゆる鋳造条件に応じた事前ケース検討が可能となり,オンライ

ン試作機製作等に代替するツールとなっている。また,既存のM-

EMS操業条件の見直しにも役立てている。

 M-EMSは,リニアモータとしては極数もスロット数も少ないた

め,三相の電流がアンバランスになる特徴があり,解析でそのばら

つき具合を求めることで,必要な駆動電源容量も確定可能である。

4. 電磁攪拌装置(M-EMS)設計例

 本章では,表1の鋳造条件を仮定して,図3のフローに沿った具

体的なM-EMS設計例を報告する。

4.1 M-EMS条件の設定

 M-EMSは図4のようにコイルを櫛歯形状の鉄心にはめ込むことに

よって任意の方向に磁場を作る。

 コイルに電流を印加すると,その周囲に発生した磁場が櫛歯の先

端(以下,ティースと称す)から鋳型銅板を通して溶鋼に達する。2

章で述べたように移動磁場により電磁力が誘起されるので,その力

はティース正面に集中する。そのため,鉄心の幅や厚などの形状

と,設置位置が溶鋼流動にとっては重要な要素となる。新日本製鐵

型M-EMSは鋳型上部設置が特徴であるので,鉄心幅や厚,ティース

幅等の寸法及び,極数やスロット数,極間ピッチを定めることがM-

EMS仕様を決定することになる。

4.1.1 鉄心幅

 M-EMSによって発生する電磁力は,先述のように鉄心ティース正

面に集中するので,鉄心幅は鋳造幅と同じ1.0mに設定した。

4.1.2 極数,極間ピッチ,スロット数

 一般的な極数として,2極及び4極を選定すると,概略の極間

ピッチはそれぞれ表2のようになる。極数を増やすと,溶鋼に対す

る磁場の浸透深さがスラブ表層に近づく一方,電磁力は弱くなる特

徴を有する。スロット数は,鉄心幅が1mと短いため,2極と4極

の最小公倍数となる12スロットを選定した。極数と各スロットの相

の関係を表3に示す。

図3 M-EMS仕様設計フロー図

表1 鋳造条件例

鋳造幅 1.0m

鋳造厚 0.24m

鋳造速度 1.8m/min

漬ノズル深さ 0.2m

図4 電磁攪拌(M-EMS)コイルモデル

鉄心幅 1.0m

極数 2極 4極

極間ピッチ 0.5m 0.25m

表2 極数と極間ピッチ

Yes

No

Yes

No

-

-

-

-

スロット数

コイル

ティース幅

鉄心幅

鉄心厚鉄心高さ

Page 4: 電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計 新 日 鉄 技 報 第 379 号 (2003) -60- 鋳型内の溶鋼流動は,主として浸漬ノズルからの吐出流とM-EMS

電磁流体解析による電磁コイル設計

-62-新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

4.1.3 鉄心厚

 凝固シェル前面を洗浄するのがM-EMSの役割であり,特にスラブ

表層での洗浄効果を踏まえ,鉄心厚を0.3mと設定した。

4.1.4 鉄心高さ,ティース幅

 図4の鉄心ティース幅が狭いと,磁気飽和状態になり,コイルに

通電する電流に比した磁場が溶鋼中に発生しなくなり効率が落ち

る。逆に,ティース幅を広げるとコイル通電部を通す溝が物理的に

狭くなり,コイル通電電流を上げる妨げとなる。そこで,ティース

幅とコイル電流値を変更した電磁場解析を数ケース行うことで,両

方の条件を満たすティース幅を選定する。

 鉄心高さに関しても同様のことがいえ,短いと磁気飽和し,長い

と鉄心が大きくなり重量もかさむので,電磁場解析にて適正な高さ

を決定する。

 図5に解析結果の一例として,鉄心の磁束密度分布を示す。電磁

鋼板の磁気飽和領域は図2のように2T程度と一般に言われており,

図5はティース部が磁気飽和していない結果を表している。

4.2 機械条件の選定

 M-EMS鋳型は,溶鋼を冷却する機能を持つ銅板と,鋳型としての

剛性を保つためのステンレス鋼部材から構成される。溶鋼に電磁力

を付与する視点に立つと,銅板は導電率が低く,かつ薄い方が好ま

しく,ステンレス鋼部材についても同様に薄い方が望ましい。これ

は,M-EMSの磁場により銅板やステンレス鋼中に渦電流が流れ,反

発する磁場が発生するため,結果的に溶鋼内の磁場が減衰するから

である。

 しかし,銅板が本来担う溶鋼を冷却する機能や,焼付きを減らし

て高寿命化を図る場合には,冷却効率を上げるために熱伝導率の高

い材質を選定すべきである。一般的に熱伝導率が高い材質は,導電

率も高いため,相反する性能が銅板材質には求められている。ま

た,銅板は冷却可能な範囲で初期厚みを厚くできれば,改削による

再使用回数を増やすことができ,ステンレス鋼部材は厚い方がより

高剛性になる。しかし,鋳型が厚くなることは,鉄心ティースと溶

鋼間の距離が広がるので,電磁力は減衰する。

表3 極数とスロットの相の関係

スロット番号とその電流相極数

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7 No.8 No.9 No.10 No.11 No.12

2極 +U -W +V -U +W -V

4極 +U -W +V -U +W -V +U -W +V -U +W -V

注 “+”と“-”はコイルの通電方向を表す。

2

1

0

[T]

図5 鉄心の磁束密度分布解析例

 以上の内容を図6にまとめる。新日本製鐵では,図6で表される

ような鋳型に要求されるトレードオフ条件を電磁場解析と伝熱解析

を併用することで,銅板材質や鋳型厚み,形状を決定している。伝

熱解析については文献を参照されたい5)。

4.3 電磁場解析

 2極及び4極のM-EMS仕様に対して,表4に示す条件で電磁場解

析した結果の一例を表5に示す。表5(a)及び(b)は,それぞれ2極

と4極のM-EMS鉄心厚み中央高さにおける溶鋼内の電磁力分布であ

る。表5(a)及び(b)の結果より,2極,4極ともに幅方向に大きな

電磁力を発生している。そこで,鉄心の磁気飽和や発熱量に問題無

いものと仮定して,流体解析を実施し,その結果を比較する。

4.4 流動解析

 電磁力を印加する前に,表1の鋳造条件で流体解析を行い,吐出

流単体の流れを表現した計算結果を予め求める。その後,電磁力を

外力として印加することで,実際のCC操業に近い形で解析を進め

る。電磁力印加後の流体解析結果を表5(c)~(f)に示す。表5(c)~

(f)は,メニスカス及び凝固シェル前面での60秒間の流れを時間平均

化した流速分布であり,矢印は流速ベクトルを表現している。

 以下に,その流速分布の評価と,評価の結果から表1で仮定した

鋳造条件に適したM-EMS仕様を示す。

4.4.1 流速分布での評価

 攪拌力はメニスカス断面では反時計廻りであり,凝固シェル前面

では左から右に向かって働いている。表5(e)の2極M-EMSでは,

攪拌流が1/4幅付近から潜り込んでおり,幅方向に一様な攪拌流に

なっていない。この現象は表5(c)のメニスカス流速分布において

もベクトルの反転で確認できる。これは潜り込んだ流れが短辺にあ

たった後,メニスカスへ突き上がり,攪拌方向とは反対向きの流れ

となり,攪拌を阻害しているからである。このような反転流ができ

ると,攪拌流とせめぎ合う位置で流速の無い澱んだ領域を作ること

になり,凝固中のシェルに非金属介在物や気泡が捕捉される原因と

なり得る。

図6 鋳型材質及び厚みと電磁力の関係

コイル電流 500A

周波数 3Hz

銅板材質 IACS40%

表4 電磁場解析条件

電磁力

電磁力

冷却性能

寿命

剛性

低高

低 高

小大

小大

短長

悪良

薄 厚導電率 厚み

Page 5: 電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計 新 日 鉄 技 報 第 379 号 (2003) -60- 鋳型内の溶鋼流動は,主として浸漬ノズルからの吐出流とM-EMS

-63-

電磁流体解析による電磁コイル設計

新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

項目 仕様

極数 4極

極間ピッチ 0.25m

鉄心幅 1.0m

鉄心厚 0.3m

電流値 500A

周波数 3.0Hz

銅板材質 IACS40%

 それに対して,表5(f) の4極M-EMSでは,M-EMSを設置した高

さにおいて,ほぼ幅方向均一な流速が付与されている。表5(d)で

も壁面に沿った攪拌流ができており,高い洗浄性が期待できる。

4.4.2 仮定鋳造条件に適したM-EMS仕様

 以上より,図3のフローにて設計検討をした結果,仮定した鋳造

条件に適したM-EMS仕様を表6にまとめて示す。

表6 仮定鋳造条件に適したM-EMS仕様

5. 均一電磁ブレーキ(LMF)設計手法

 M-EMS以外の電磁コイルとして,下降流動を制動し,スラブ内部

品質を向上させる効果を持つ均一電磁ブレーキ(Level DC Magnetic

Field:以下LMFと称す)の設計手法について述べる。

 LMFは図7のように鋳型を挟むように磁極が配置され,幅方向均

一な直流磁場を厚み方向に印加する。また,鋳型周囲の構造部材が

磁場の通り道であるヨークの役目も兼ねている。

 LMFは直流電磁石であり,静磁場では渦電流は誘導されないの

で,式(3)の左辺第2項を除去した次式を採用することで,図3の

M-EMS仕様設計フローをLMF及びそのプロセス設計にも適用可能

である。

 ∇ × 1µ ∇ × A = Jo (5)

 LMFとしての主な評価ポイントとしては,(1)溶鋼を制動するの

に必要とする磁束密度の大きさの見極め,(2)必要な磁束密度を発

生させるためのコイル電流とその捲き数の設計,(3)電磁石のヨー

クを兼ねる鋳型構造部材を磁気飽和させず,かつ,軽量化を図るこ

表5 解析結果(極数による比較)

2極 M-EMS 4極 M-EMS

[ :10.0kN/m3]

(a)鉄心厚み中心高さにおける電磁力分布(2極) (b)鉄心厚み中心高さにおける電磁力分布(4極)

[ :10.0kN/m3]

[ :1.0m/s]

(c)メニスカス平均流速分布(2極)

[ :1.0m/s]

(d)メニスカス平均流速分布(4極)

[ :1.0m/s]

(e)凝固シェル前面平均流速分布(2極)

[ :1.0m/s]

(f)凝固シェル前面平均流速分布(4極)

電磁場解析結果

  体

幅幅

幅(m) 幅(m)

幅(m)幅(m)

厚さ(m)

厚さ(m)

厚さ(m)

厚さ(m)

メニスカスからの距離

メニスカスからの距離

Page 6: 電磁流体解析による電磁コイル設計電磁流体解析による電磁コイル設計 新 日 鉄 技 報 第 379 号 (2003) -60- 鋳型内の溶鋼流動は,主として浸漬ノズルからの吐出流とM-EMS

電磁流体解析による電磁コイル設計

-64-新 日 鉄 技 報 第 379 号  (2003)

となどが挙げられる。

 LMFによる静磁場を考慮した流体解析手法に関しては文献を参照

されたい12)。

6. 結   言

 電磁流体解析技術をM-EMSやLMFの電磁コイル仕様設計に取り

入れた手法を確立し,CCの鋳型内溶鋼流動を評価,解明,制御す

る鋳造分野における電磁プロセスソリューションを紹介した。

 今後とも,新日本製鐵では製鐵所ごとの鋳造条件(主として鋳造

幅や速度)に応じた鋳型内溶鋼への効率的な電磁力適用に取組み,

品質の向上を目指していく所存である。

参照文献

1) 竹内栄一ほか:鉄と鋼.66,797(1980)

2) 竹内栄一ほか:鉄と鋼.67,833(1981)

3) 白井登喜也ほか:鉄と鋼.72,1014(1986)

4) 湯山英俊ほか:CAMP-ISIJ.1,1220(1988)

5) 橘高節生ほか:新日鉄技報.(376),63(2002)

6) 中島潤二ほか:新日鉄技報.(376),57(2002)

7) Fujisaki,K.:In-Mold Electromagnetic Stirring in Continuous Casting.IEEE Trans.

IAS.37(4) (July/August), 1098(2001)

8) Maxwell, J.C:A Treatise on Electricity and Magnetism. 3rd.ed. Vol.2. Chaps.IX,

XX,1954

9) 中田高義,高橋則雄:電気工学の有限要素法. 森北出版, 1982

10) 国立天文台編:理科年表. 丸善

11) 新日本製鐵:無方向性電磁鋼帯カタログ

12) 原田寛ほか:鉄と鋼. 86,76(2000)

磁場

ヨーク兼構造部材

鋳型

磁極(鉄心)

コイル

図7 均一電磁ブレーキ:LMF概要図