農村女性の起業活動における行政の役割 - jica ·...

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………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 開発途上国において主要産業である農業は、女性の労働によって支えられている割合が高い。農村 女性は、農作業の他に家事や育児などの多様な家内労働を担っているが、多くの場合、その労働に対 する金銭的報酬が支払われることはない。しかし、近年、農村への貨幣経済の浸透が進むにつれて、 少しでも現金収入を得て生計に役立てることを目指して、手工芸品の製造・販売や農産物の加工・販 売を行う農村女性が増加している。また、日本の農村でも、自分の技術・能力を生かして地域社会に 貢献したいという志から、農産物加工による特産品開発、地域で生産される新鮮野菜を利用したレス トランの経営など、多くの女性が行政(特に地方政府)からの支援を効果的に活用しながら起業活動 を開始するようになっている。このような日本の農村女性による起業活動は、組織の設立過程や運営 において、開発途上国における農村女性の起業活動に示唆するところが多いのではないかと考えられ る。 本調査は、1)開発途上国の農村女性の起業活動における現状と課題を整理し、農村女性の起業活 動支援における地方政府の役割を明確にすること、2)日本の農村女性の起業活動において行政が果 たしてきた役割を明確にすること、3)今後、国際開発援助機関が開発途上国の農村女性による起業 活動を支援する際に、可能な支援分野・支援方法を提言すること、の3つを目的として実施した。 本調査の結果、地方政府が可能な支援として、1)人材育成、2)機材の提供、3)融資システム の構築、4)マーケティング支援、5)施設建設、をあげている。さらに、本稿では、開発途上国の 地方政府がこれらの支援を効果的かつ持続的に実施できるような「仕組み作り」に対して、国際開発 援助機関が借款や技術協力などで支援することを提言している。 Abstract In developing countries, agriculture, which is one of major industries, is in the large part sup- ported by women’ s labor. Although, besides agricultural work, rural women are loaded with vari- ous household chores including childcare, the women’ s work is not paid in most cases. Recently, however, due to the spread of monetary economy into the rural areas, with an aim to improve their livelihood, an increasing number of rural women are starting incomegenerating activities, such as handicraftmanufacturingsale and agriculturalfood processingsale. Similarly, in Japan, many rural women, with a view to contributing to the regional society by utilizing their technical skill and ability, have started incomegenerating activities. For example, development of special- ties by agriculturalfood processing, and management of restaurants, where they use fresh vegeta- bles grown in the region, effectively utilizing support from local governments. It can be surmised 農村女性の起業活動における行政の役割 *1 グローバル・リンク・マネージメント株式会社 *2 於勢 泰子 *1 本稿作成にあたり、鹿児島県牧園町の「村おこし塾」および地域開発に携わった関係者の方々、また、「WaiWaiあとりえ」、 「もんぺおばさん」、大分県天瀬町の「あぜ道」、青森県名川町の「名川チェリーセンター」の関係者の方々、インドネシアの ジョグジャカルタ特別州にて現地調査に随行して下さったガジャマダ大学女性研究センターのスタッフおよび州政府職員の 方々には、ご多忙にも拘わらず快く本調査にご協力いただいた。この場を借りて深謝申し上げます。 *2 調査時の所属は、国際協力銀行開発金融研究所開発政策支援班。 2003年6月 第16号 67

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要 約

開発途上国において主要産業である農業は、女性の労働によって支えられている割合が高い。農村

女性は、農作業の他に家事や育児などの多様な家内労働を担っているが、多くの場合、その労働に対

する金銭的報酬が支払われることはない。しかし、近年、農村への貨幣経済の浸透が進むにつれて、

少しでも現金収入を得て生計に役立てることを目指して、手工芸品の製造・販売や農産物の加工・販

売を行う農村女性が増加している。また、日本の農村でも、自分の技術・能力を生かして地域社会に

貢献したいという志から、農産物加工による特産品開発、地域で生産される新鮮野菜を利用したレス

トランの経営など、多くの女性が行政(特に地方政府)からの支援を効果的に活用しながら起業活動

を開始するようになっている。このような日本の農村女性による起業活動は、組織の設立過程や運営

において、開発途上国における農村女性の起業活動に示唆するところが多いのではないかと考えられ

る。

本調査は、1)開発途上国の農村女性の起業活動における現状と課題を整理し、農村女性の起業活

動支援における地方政府の役割を明確にすること、2)日本の農村女性の起業活動において行政が果

たしてきた役割を明確にすること、3)今後、国際開発援助機関が開発途上国の農村女性による起業

活動を支援する際に、可能な支援分野・支援方法を提言すること、の3つを目的として実施した。

本調査の結果、地方政府が可能な支援として、1)人材育成、2)機材の提供、3)融資システム

の構築、4)マーケティング支援、5)施設建設、をあげている。さらに、本稿では、開発途上国の

地方政府がこれらの支援を効果的かつ持続的に実施できるような「仕組み作り」に対して、国際開発

援助機関が借款や技術協力などで支援することを提言している。

Abstract

In developing countries, agriculture, which is one of major industries, is in the large part sup-

ported by women’s labor. Although, besides agricultural work, rural women are loaded with vari-

ous household chores including childcare, the women’s work is not paid in most cases. Recently,

however, due to the spread of monetary economy into the rural areas, with an aim to improve

their livelihood, an increasing number of rural women are starting income―generating activities,

such as handicraft―manufacturing/sale and agricultural―food processing/sale. Similarly, in Japan,

many rural women, with a view to contributing to the regional society by utilizing their technical

skill and ability, have started income―generating activities. For example, development of special-

ties by agricultural―food processing, and management of restaurants, where they use fresh vegeta-

bles grown in the region, effectively utilizing support from local governments. It can be surmised

農村女性の起業活動における行政の役割*1

グローバル・リンク・マネージメント株式会社*2 於勢 泰子

*1 本稿作成にあたり、鹿児島県牧園町の「村おこし塾」および地域開発に携わった関係者の方々、また、「Wai Waiあとりえ」、

「もんぺおばさん」、大分県天瀬町の「あぜ道」、青森県名川町の「名川チェリーセンター」の関係者の方々、インドネシアの

ジョグジャカルタ特別州にて現地調査に随行して下さったガジャマダ大学女性研究センターのスタッフおよび州政府職員の

方々には、ご多忙にも拘わらず快く本調査にご協力いただいた。この場を借りて深謝申し上げます。

*2 調査時の所属は、国際協力銀行開発金融研究所開発政策支援班。

2003年6月 第16号 67

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第1章 はじめに

開発途上国における主要産業は依然として農業

であり、農村では農業に従事している女性の割合

が高い。アフリカでは農業従事者10人中8人が女

性であり、アジアでは10人中6人が女性であ

る*3。農村女性が担っている「労働(農作業、家

事、育児など)」は仕事として認められず金銭的

対価が支払われることはほとんどない。また、農

村女性は、社会・文化的慣習により、土地、融資

システム、農具、機械などの生産要素へのアクセ

スが制限されている場合が多く、都市住民や農村

男性と比較して、長時間多重労働および貧困に陥

りやすい状況にある。

しかし、近年、農村への貨幣経済の浸透により

現金収入の必要性が高まるにつれ、生活水準の向

上を目指して、農村女性が農産物加工や手工芸品

の販売を通じて現金収入を得る機会を求めるよう

になってきている。農産物加工や手工芸品の製造

は、家事・育児と両立できるように、家庭あるい

は近隣宅にて行われている場合が多い。また、農

産物加工も手工芸品の製造も、身近に手に入る自

然素材を利用して、家庭内で培ってきた調理技術

や裁縫技術を生かして行えるため、巨額の初期投

資を必要としないで開始できる。女性が起業活動

を通じて得た現金収入は、単に家計所得の向上に

寄与するだけでなく、教育や保健医療などのため

に使用されることが多く、家族の福利向上にも寄

与する可能性を有している。

近年、日本の農村においても、女性の起業活動

が活発化している。従来から日本の農村では、

「男性優位、家中心」の考え方が根強く存在して

おり、この考え方が農村女性の様々な場面への社

会参画を阻害してきた。このような伝統的な家族

観と家父長制度が残存する農村社会では、女性が

現金収入を得ることは卑しいと考える風潮が強

く、女性が経済力を持つことは困難であった。し

かし、近年、農村女性が、家庭内で発揮してきた

調理技術を生かして農産物を加工し、その加工食

品を自らが運営する直売所で販売したり、地域で

生産される新鮮野菜を使用してレストランを経営

するなど、起業活動を行うまでに至っている。

2000年現在、全国で6,218件もの農村女性による

起業活動が存在している*4。このような農村女性

の起業活動は、家計所得への貢献だけに留まら

ず、地域農業の再生や地域経済の活性化にも寄与

that these income―generating activities by Japanese rural women provide many useful implica-

tions for rural women in developing countries who will start or have already started income―

generating activities.

This study was conducted with the following three objectives: 1)to understand the current

situation and issues of income―generating activities by rural women in developing countries, and

to clarify roles of local governments in supporting those activities; 2)to clarify and examine the

roles of the Japanese local governments in supporting income―generating activities by Japanese

rural women, and 3)to propose for international donors, possible aid approaches and fields in

income―generating activities by rural women.

As possible assistance by local governments, this study proposes 1)human resource

development, 2)provision of equipment, 3)establishment of micro―credit systems, 4) mar-

keting support, and 5)construction of facilities. In addition, the study recommends that

international donors should provide loans and consultation which help the local governments of

developing countries establish an institutional framework in which the aforementioned aid

approaches can effectively and sustainably operate.

*3 世界食料計画(WFP)ウェブサイト(http://www.wfp.org/aboutwfp/introduction/women.html)参照。*4 本稿では、女性が活動の中心となって事業方針を決定し、現金収入を得ている事業を「女性起業活動」と定義する。

68 開発金融研究所報

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しており、開発途上国の農村における貧困削減に

示唆するところが多いのではないかと考えられ

る。

日本の農村女性が起業するにあたり、1)少し

でも現金収入を得たい、2)自分たちの技術・能

力を社会で発揮したい、などの強い動機付けが起

業活動発展の要素の一つであったことは確かであ

る。しかし、起業活動を軌道に乗せることを後押

しした要素として、農村女性の起業活動を支援す

る行政の枠組みが存在していたことを看過するこ

とはできない。

本調査は、日本の農村女性の起業活動に対する

行政の支援のあり方を開発途上国の農村女性の起

業活動にどのように適用することが可能であるか

を検討するという視点から実施した。本稿では、

開発途上国の事例として、地方分権化が開始さ

れ、今後の地域開発における地方政府の役割が増

大することが見込まれるインドネシアの事例を取

り上げた。本調査は、1)開発途上国の農村女性

の起業活動における現状と課題を整理し、農村女

性の起業活動支援における地方政府の役割を明確

にすること、2)日本の農村女性の起業活動にお

いて行政が果たした役割を明確にすること、3)

今後、国際開発援助機関が開発途上国の農村女性

による起業活動を支援する際に、可能な支援分

野・支援方法を提言すること、の3つを目的とし

て実施した。本稿で取り上げる農村女性の起業活

動の事例(日本とインドネシア)は、すべて現地

調査を行い、女性起業者と従業員にインタビュー

調査を行った。

第2章 開発途上国における農村女性の起業活動

1.開発途上国における農村女性の現状

(1)農村における貧困

�所得貧困

低所得国*6では都市人口が増加しているものの

(2000年現在32%)*7、依然として農村人口が大

きな割合を占めている。開発途上国では、貧困者

の約70%が農村地帯に居住している*8。例えば、

アジアの低所得国5カ国における都市・農村別貧

困ライン以下人口の割合は圧倒的に農村の方が高

く、所得貧困に陥っている(図表1参照)。

�農村女性の人間貧困

農村女性は、所得貧困に陥っているだけでな

く、教育や保健医療に関する社会指標が示すよう

に、人間貧困にも陥りやすい状況にある。家事労

働の手伝いの必要性や文化・慣習的な理由から、

男性と比較して女性が教育を受ける機会が奪われ

ることが多いため、女性の識字率が低くなってい

る(図表2参照)。

また、貧困層では、合計特殊出生率(以下、出

生率)や乳幼児死亡率が高くなっている(図表3

参照)。図表3は、各国の所得上位20%(富裕層)

と下位20%(貧困層)の出生率と乳幼児死亡率

を示している。いずれの指標においても、富裕層

と貧困層の間には大きな相違があり、貧困層では

*6 低所得国とは、一人当たりGNI(Gross National Income)が$755以下の国を指す。

*7 World Bank(2002)World Development Indicators

*8 World Bank(2002)World Bank Rural Development Strategy: Reaching the Rural Poor

*9 調査データは、バングラデシュが1995―96年、カンボジアが1997年、インドが1994年、ネパールが1995―96年、ベトナムが

1993年に行った調査結果に基づく。

図表1 都市・農村別貧困ライン以下人口の割合*9

都 市 農 村

バングラデシュ 14.3% 39.8%

カンボジア 21.1% 40.1%

インド 30.5% 36.7%

ネパール 23.0% 44.0%

ベトナム 25.9% 57.2%

出所)World Bank(2002)World Development Indicators

2003年6月 第16号 69

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出生率が高いために、乳幼児に十分な栄養が行き

渡らないなどの理由から乳幼児死亡率も高くなっ

ている。

(2)農村女性による労働の特色

農村女性が担っている労働は、農作業、家事、

育児、さらに国や地域によっては薪集めや水くみ

など多岐に渡る。これらの農村女性による労働の

特色は、以下のようにまとめられる。

�長時間過重労働

先進国や開発途上国の都市と比較して、農村で

は女性の労働を軽減する近代的な道具やサービス

へのアクセスが不在あるいは困難な状況にある。

便利な農具や機械は高価であるため低所得家庭が

購入することは難しい。仮に世帯として農具や機

械を所有していたとしても、国や地域によっては

伝統的慣習などから、近代的な道具や機械を男性

のみが利用している場合も多い。したがって、多

くの農村女性は近代的な機械やサービスを利用で

きない場合が多く、農作業だけでなく粉引きなど

の食事の下準備もすべて手作業で行っているた

め、農村男性や都市住民と比較して長時間過重労

働になっている。

�労働の複合性

多種の労働を1日の限られた時間内で終えるた

めに、農村女性は複数の労働を同時進行でこなし

ている。例えば、子供を背中に背負いながら食事

の準備や道端で農産物販売を行うなど、農村女性

の労働には複合性がある(図表4参照)。

�無報酬

女性が家庭や地域社会で行っている「仕事」の

大半は、労働市場に組み込まれておらず、対価が

支払われていない。全世界的に見て、女性の収入

は、平均で男性の約50%に過ぎない*11。SNA(国

連国民経済計算方式)*12では、家庭内で生産され

消費されたもののうち市場価格に換算しているも

のもあるが、女性の仕事の大半が無報酬となって

いる。図表5は、女性の仕事の大半が非SNA労

働である一方で、男性の仕事の大半は経済的報酬

のあるSNA労働に分類されていることを示して

いる。

(3)貧困の女性化

既述の通り、農村女性は多種多様な重労働を

担っているにもかかわらず、経済的報酬を得てい

る割合は男性と比較して極めて低い。多くの開発

途上国では、国や地域の法律および伝統が女性の

土地所有権を認めていない。例えば、南アジアと

東南アジアでは、女性労働力の60%以上が食料

生産に従事しているが、インド、ネパール、タイ

では、土地を所有している農村女性は10%未満

である。一般に、金融機関から融資を得る際に

は、担保として土地や財産が使用されることが多

いが、農村女性には土地所有権や財産権が付与さ

*10 調査データは、インドネシアが1997年、ケニアが1998年、ネパールが1996年、フィリピンが1998年に行った調査結果に基づく。

*11 国際連合広報センター(2000)「WOMEN2000:女性2000年会議」参照。

*12 SNAは、System of National Accountsの略。SNAは、経済活動を取引としてとらえ、その取引全体について取引の両面を複

式記入方式による「勘定」に整理している。経済取引は、モノ(財貨・サービス)の取引とカネ(所得・金融)の取引に分け

られ、双方で一つの経済循環となっている。

図表3 所得の差異による社会指標の比較*10

(単位:人)

インドネシア ケニア ネパール フィリピン

上位20%

下位20%

上位20%

下位20%

上位20%

下位20%

上位20%

下位20%

合計特殊出生率/女性1人

2.0 3.3 3.0 6.6 2.9 6.2 2.1 6.5

乳幼児死亡 率 /1,000人

23 78 50 103 64 96 21 49

出所)World Bank (2002) World Development Indicators

図表2 低所得国における男女(15才以上)別非識字率(2000年)

女性(15歳以上) 男性(15歳以上)

インド 55% 32%

インドネシア 18% 8%

ネパール 76% 40%

ラオス 67% 36%

ケニア 24% 11%

低所得国平均(全世界) 47% 28%

出所)World Bank(2002)World Development Indicators

70 開発金融研究所報

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裁縫�

水くみ� 夫の世話�

洗濯�

農産物販売�

調理(cooking)�

薬草摘み�

事務作業�

薪集め�農作業�

掃除�

育児� 調理(pounding)�調理(grinding)�

識字学習�

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れておらず、融資システムを利用することが困難

になっている。したがって、現金収入を獲得でき

る仕事、土地、クレジットなどの生産要素へのア

クセスが困難な農村女性は、貧困に陥りやすい傾

向にあり、「貧困の女性化」と称されている。1

日1ドル以下で生活している15億人の大半は女性

となっており*13、女性は資源や生産要素へのア

クセスに制限があるため、一度貧困に陥ると脱却

することが困難になっている。

また、アフリカの一夫多妻制社会では、女性が

自分自身と自分の子供たちの生活をある程度まで

は女性自身の力で支えなければならないこともあ

る。また、男性が仕事を求めて都市へ移住する地

域では、女性が農場や世帯の筆頭者になっている

割合が急速に増加していることも、「農業の女性

化」・「貧困の女性化」と呼ばれる一因でもある。

現在、世界で約3分の1の世帯が女性世帯主世帯

と推定されている*14。インドネシアのある村に

おける最近の研究によると、世帯を4種類の社会

経済グループに分類したところ、最富裕世帯グ

ループには女性世帯主世帯は存在しなかったが、

最貧困世帯グループの約4分の1世帯は女性世帯

主世帯であったことが報告されている*15。

(4)貧困削減への貢献

従来、農村女性は、農作業などの過酷な労働を

*13 国際連合広報センター(2000)「WOMEN2000:女性2000年会議」参照。

*14 世界食料計画(WFP)ウェブサイト(http://www.wfp.org/aboutwfp/introduction/women.html)参照。*15 国際食糧農業協会「世界の農林水産」2003年1月号

図表5 報酬の有無による女性の労働時間配分(開発途上国9カ国平均)

SNA労働 非SNA労働

女 性 34% 66%

男 性 76% 24%

出所)UNDP Human Development Report 1995「ジェンダーと人間開発」

図表4 農村女性労働の複合性

出所)各種資料より筆者作成

2003年6月 第16号 71

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行っているにもかかわらず経済的報酬を得ること

がほとんどなかったが、最近では生活水準を少し

でも向上させることを目指して、農産物や手工芸

品の販売など現金収入を獲得できる仕事を行うよ

うになってきている。これまで農村女性は、夫の

農作業の補助や家事・育児など家庭内での労働を

中心に担ってきたが、農産物の収穫後処理、家族

の食事作り、裁縫など家庭内で培ってきた技術を

家庭外で発揮することにより、現金収入を得る手

段に転換している。

女性は、農産物と手工芸品を販売して稼いだほ

とんどすべての収入を家庭の必要を満たすため

(例:教育費、保健医療費)に使用している一方

で、男性は、その所得の少なくとも25%を他の

目的(例:射倖など)のために使っているという

調査結果がある*16。女性が得た現金所得は、確

実に家族の福利向上のために使用されており、女

性は所得貧困と人間貧困の双方の削減に寄与する

可能性を有していると言える。

2.農村女性による起業活動の事例:インドネシア(ジョグジャカルタ特別州)

都市住民や農村男性と比較して、農村女性が貧

困に陥りやすい状況にあることは既述の通りであ

る。このような状況の中、少しでも生計に役立て

ようと、これまで家庭内で培ってきた技術や身近

に入手可能な自然資源を利用して、現金収入を獲

得できる事業を開始する農村女性が増加してい

る。本節では、インドネシアのジョグジャカルタ

特別州(以下、ジョ州)の農村女性による起業活

動の事例(4件)を紹介し、その特色と今後起業

活動を開始しようとする農村女性に示唆となる点

(教訓)について整理する。

(1)事例A:植物素材使用の手工芸品製造業

(バントゥル県)

�事業開始の背景・事業概要

本事業の経営者は、1973年から数年間、洋裁

や皮細工を行っていたが、洋裁は非常に細かい作

業であり、また、皮革の価格が上昇したこともあ

り、植物性素材の手工芸品(バッグ、バスケット

など)の製造業に切り替えた。現在は、60名(う

ち女性35名)の従業員を擁し、従業員は材料を同

経営者宅から持ち帰り、自宅で作業を行ってい

る。

�資金・機材の調達

99年以来、ガジャマダ大学から会計処理やマー

ケティングに関するコンサルティングサービスを

受けている。2000年には、ガジャマダ大学から

のアドバイスにより、BRI*17から3,500万ルピア

(年利10%)のローンを受け、電話、FAX、ミ

シンを購入している。

最大の取引先であるオーストラリア企業*18か

ら注文を受けると、材料調達のための資金とし

て、同オーストラリア企業は注文分の契約金額の

30%を頭金として前払いしている。 同経営者は、

その前払い金を利用して材料を購入している*19。

�マーケティング

現在の取引先は、外国企業3社(オーストラリ

ア、メキシコ、オランダ)とインドネシア企業2

図表6 農村女性の特徴のまとめ

農村男性 農村女性 結 果

資源・生産要素へのアクセス 大 小

女性の長時間過重労働および貧困の女性化

家庭内労働(家事・育児など) 小 大

現金収入を得ることができる労働 大 小

都市への出稼ぎ 大 小

現金収入の使途生活費(食費など)

→家族の福利の向上射倖など 教育・保健

医療など

出所)UNDP「ジェンダーと人間開発」(1995)などをもとに筆者作成

*16 国際食糧農業協会「世界の農林水産」2003年1月号、国際協力事業団「農村生活改善のための女性の技術向上基礎調査報告

書」(フィリピン)(1994)

*17 BRI(Bank Rakyat Indonesia)はインドネシア庶民銀行と訳されており、農業生産拡大を目的に創設された政府系銀行であ

る。現在では、有力なマイクロファイナンス機関に数えられている。

*18 オーストラリア系企業の職員が、手工芸品の製造者をバントゥル県に探しに来ていたところ、偶然に、同経営者に出会ったこ

とから取引が開始されている。

72 開発金融研究所報

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社である。毎年、インドネシアのSWAという雑

誌が、中小企業の売上高伸び率の上位50社を掲載

している。同雑誌の中で、本事業が1999年には

47位、2000年には39位、2001年には15位にラン

キングされており、現在、取引のある企業の中に

は、同雑誌に掲載されたことがきっかけで取引を

開始した企業もある。

また、同事業者は新たな取引先を求めて、バン

トゥル県政府がシンガポールで開催した展示会に

参加したが、価格交渉で苦労したようであり、特

に新規販路開拓には至らなかったようである。

�問題点・今後の課題

本事業を開始した頃は、従業員が少なかったの

で生産できる個数が限られており、納期や支払期

日の厳守などに関して材料業者との信頼関係を築

くのに苦労した。現在では、取引先から注文金額

の30%を前払いで受領するなど信頼関係が構築

されている。ビジネスを行うにあたって、取引先

との信頼関係は重要であり、納品期日・支払期日

の厳守の積み重ねが、取引先との信頼関係に結び

つくと考えられる。

現在、本事業の経営者は、作業の効率化のため

に、大型カッターなどの道具を購入したいと考え

ており、資金援助を行ってくれる機関を探してい

る。

(2)事例B:植物素材使用の手工芸品製造業

(スレマン県)

�事業開始の背景・事業概要

本事業経営者の母親は、多くの観光客が訪れる

ボロブドゥール遺跡の周辺で手工芸品を売り歩い

ており、同経営者は幼少の頃から手工芸品に興味

を持っていた。同経営者には夫がいないので、自

分自身と子供の生活費を得るために自分でできる

ことから開始しようと考えて、身近な素材(植物

の葉など)を利用してバッグを編み始めた*20。

まず自分でデザインを考え出し、その編み方を近

所の女性に教えていくうちに、一緒に作業する仲

間が増えていった。

現在は、82名の近所の女性で1ケ月に約5,000

個の商品を製作している。82名の女性は、材料を

経営者宅から持ち帰り、全員自宅で作業を行って

いる。女性たちは、家事・育児と両立させながら

働きたいと考えているので、自宅で作業できる仕

事を有難く感じている*21。

植物素材を使用したバッグの他に、サンダルも

編んでおり、サンダルの底には、使い古されたタ

イヤを利用するなど身近に入手できる材料を有効

活用している。また、古新聞を縁って紐状にし、

その紐でバッグを編むなど、材料を安く調達する

手段も工夫している。

�資金・機材の調達

材料となる植物素材の調達に関しては、東ジャ

ワからジョ州に旅行に来ていた植物素材業者と本

事業者との偶然の出会いにより取引が開始されて

いる。同事業者は、3年前から国営の肥料会社か

ら年利6%の利率で融資を受けており*22、その

資金で手工芸品の素材を購入している。融資を受

けると返済の義務があるので心理的な負担が大き

くなるが、その心理的負担よりも素材購入面での

利点の方が大きいと感じている。

�マーケティング

事業開始後、最初の7年間は、ボロブドゥール

で商品を販売していたが、商品が売れずに苦労し

た。現在は、2つのインドネシアの貿易会社と取

引を行っている。一つは、数年前、本事業者が家

を売る広告を出していた時に、貿易会社の経営者

が家を見学に来たところ、偶然にも、当宅で手工

芸品を製造していることを知り、その後、同貿易

会社と取引が始まった。もう一つは、別の貿易会

社がスレマン県に手工芸品の製造業者を探しに来

ていたところ、偶然に本事業者を見つけた。特に

製造者側から積極的な販路開拓の努力をしたわけ

ではなく、両社との取引は、偶然の出会いから開

*19 週3回、経営者自らが東ジャワに赴き、植物性素材の材料を購入している。

*20 ここで言う「編む」とは、鈎針や棒針を使用する編物ではなく、ひも状に縁られた植物の葉を1本ずつ交互に格子のように交

差させる作業の繰り返しを指す。

*21 実際に数名の女性に「もし工場があったとしたら、そこで働きたいですか」と尋ねたところ、「子供たちの世話をしなければ

ならないので工場では働きたくない」という回答があった。

*22 同企業は、後述するジャカルタでの展示会に本事業者が参加する際に、交通費や宿泊費を負担している。

2003年6月 第16号 73

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始されている。

最近では、本事業者は、あちこちの展示会に参

加するようになり、先日ジャカルタで開催された

展示会では、新たな買い手(2つの中国企業)を

見つけ、今後の新しい販路となることを期待して

いる。

�問題点・今後の課題

取引先である2つの貿易会社のスタッフは、1

ケ月に2~3度しか買取に訪れない状況にあり、

現金収入が定期的に入ってこないので、従業員の

賃金の支払いに困ることがある*23。取引先との

確実な定期取引システムの確立が今後の課題の一

つとなっている。

さらに、本事業の経営者は、資金的余裕ができ

れば、販路拡大や事業の効率化を目指して、ジョ

グジャカルタ市内にショールームを設置すること

や、電話やFAXなどの通信機器および商品運搬

のためのトラックなどを購入することも考えてい

る。同事業にとっては、そのための融資機関への

アクセスが今後の課題と言える。

(3)事例C:エンピン*24製造業(バントゥル県)

�事業開始の背景・事業概要

本事業者は、1960年代の後半から、家計に少

しでも貢献するために、ムリンジョ豆を鉄のパン

チャーでつぶしてチップ(「エンピン」と呼ばれ

る)を製造する事業を自宅の一角を利用して開始

した。本事業開始にあたって、夫や姑からの反対

は全くなく、家計に貢献できるということで協力

的であった。現在、6名の女性が同事業経営者宅

でエンピンを製造し、他に6家族(1家族あたり

3人)が材料を持ち帰って自宅で作業を行ってい

る。色々な食品加工業のうちエンピン製造を選ん

だ理由としては、1)開始にあたって多くの投資

(資金、器具)を必要としないこと、2)エンピ

ンの需要が大きかったこと、3)バントゥル県に

はムリンジョの木が多く材料を手に入れやすかっ

たこと、などがあげられている。

従業員の1日の労働時間は、7:00~15:00で

ある。従業員1人は、1日に約5キロのエンピン

を製造可能であり、1,000ルピア/キロの出来高

制になっている(1人あたりの収入は約5,000ル

ピア/日)。

�資金・機材の調達

豆のパンチング用の道具は、各自が家庭から持

ち寄っている。新しい道具を購入するためにロー

ンを得ることができればと考えているが、これま

でにローンを利用したことはない。

�マーケティング

事業開始後しばらくの間は、ジョグジャカルタ

市内にある中央市場でエンピンを販売していた。

現在は、クラテン県*25の2つの小売店と、東

ジャワとスラバヤのレストランと取引を行ってい

る。製造者側から積極的なPR活動を行ったわけ

ではないが、バントゥル県はエンピンの製造で有

名であったため、業者側(小売店等)が同地域に

エンピンの製造業者を探しに来ていたところ、偶

然の出会いから取引が始まった。価格は、業者と

の交渉により決定されている。

�問題点・今後の課題

取引先であるレストランの仕入れスタッフは、

月に3度ほどしか買い取りに来ないので、在庫過

*23 従業員には、出来高に応じて週給制で賃金を支払っている。平均賃金は、100,000ルピア/週で、ジョ州での平均水準を上回っているとのことである。

*24 ムリンジョ豆をパンチャーでつぶして円形にし、天日干しして揚げたチップを「エンピン」と呼ぶ。

*25 ジョ州にある県の一つ。

図1 植物素材を使用してバッグを製造する女性たち(事例B)

出所)現地調査にて筆者撮影

74 開発金融研究所報

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剰になり困っている*26。頻繁に買い取りに来て

もらわなければ現金収入が入らないので、従業員

たちへの給与の支払いに困ることになるため、確

実で定期的な販路の確立が今後の課題の一つとし

てあげられる。

また、バントゥル県にはムリンジョの木が豊富

なことから同業者が多いため、販売競争が激し

い。したがって、本事業者は、収益性を高めるた

めにも、県外の新しい販路を開拓したいと考えて

いる。

(4)事例D:Batik Painting*27(バントゥル県)

�事業開始の背景・事業概要

有名なBatik Paintingアーティストである80歳

の女性を中心として、ジョグジャカルタ市内の

Batik製品販売店から無地の布を購入し、手描き

でろうけつ染の模様を描いていく作業(Batik

Painting)を行っている。同アーティストは、幼

い頃から母と祖母から教わりながらBatik Paint-

ingを始め、王宮の壁画も描くなど、ジョグジャ

カルタ市では著名な存在である。本事業は、家族

代々に受け継がれてきた技術を生かした「ファミ

リービジネス」であり、現在は、2人の娘と自宅

の一角を作業場としてBatik Paintingを行ってい

る。

�資金・機材の調達

必要な材料や器具は、すべて自己資金で調達

し、特に、外部から技術指導や資金援助を受けた

ことはない。

�マーケティング

ジョグジャカルタ市内にあるBatik商品の販売

店に出入りしていた繊維業者が、同販売店に本事

業者である80歳の有名なBatik Paintingアーティ

ストを紹介したことが契機となり、同販売店が同

アーティスト一家にPaintingを委託するように

なった。Paintingを終えた布には2つの販路があ

り、一つは同販売店、もう一つは本事業者がMa-

lam*28を購入している店である。

�問題点・今後の課題

現在の事業において、特に改善したい点はない

が、しいて言えば作業台などの道具を買いかえる

ことができればと考えている。

Batik Paintingでは、商品は、すべて手描きな

ので1日に大量生産することは不可能である。し

かし、同家族は現在の収入に満足しており、特に

経営の拡大や新規市場の開拓などは考えていな

い*29。本事業の家族は、生計を立てていくため

に不自由しない収入が得られている限りは、あえ

て多額の投資をしてまで事業を拡大しようとはせ

ず、身の丈にあった事業規模を維持していくこと

を選択している。

3.特色・教訓

以上の4つの事例から得られる農村女性の起業

活動の特色および今後の起業活動への示唆となる

点(教訓)は、以下のようにまとめられる。

(1)身近な材料・技術の活用

既述の4つの事例では、事業者は身近に入手で

きる材料や身近な技術を活用して事業を開始して

いる。具体的には、自らが考え出した技術(例:

植物素材によるバスケット編み)、家庭内で培っ

てきた食品加工技術(例:エンピンの製造)、当

該家庭に伝承されている技術(例:Batik Paint-

ing)などがあげられる。身近な場所・材料・技

術を利用すると多額の初期投資を必要としないの

で、女性が手軽に開始できるというメリットがあ

る。

(2)身近な場所の活用

既述の事例では、すべて自宅を作業場としてお

*26 エンピンは、製造後、約3ケ月は保存可能である。

*27 Batikは日本語で「ろうけつ染」を意味し、Batik Paintingとは、布地全体を染色する前に手描きで図柄を描く作業を指す。な

お、Batik製品の中には、手描きではなく一定の図柄を型押して作成しているものもある。

*28 Batik Painting(ろうけつ染)の際に使用する「ろう」。

*29 同事業者は、1日当たり、小さな布(テーブルセンターくらいの大きさ)5枚(1枚当たり3,000ルピア)、2人の娘は大き

めの布(テーブルクロスくらいの大きさ)1枚(1枚当たり50,000ルピア・75,000ルピア)のBatik Paintingを完成させるこ

とができる。

2003年6月 第16号 75

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り、従業員は、近隣の女性に限られている。事業

者宅で作業を行う従業員もいるが、植物素材を使

用した手工芸品の製造業(事例A・B)やエンピ

ン製造業(事例C)では、材料を経営者宅から持

ちかえり、自宅で作業をしている従業員もおり、

家事・育児と両立できる労働形態が維持されてい

る。

(3)口コミか偶然性によるマーケティング

4つの事例において、最初の販路は、口コミか

偶然の出会いによるものであり、女性グループ自

らが積極的に営業活動を行ったわけではない。手

工芸品製造業とエンピン製造業では、業者側(貿

易会社やレストラン)から、当該地域に製造者を

探し求めに来ていたところ、偶然の出会いから取

引が開始されている。事例DのBatik Paintingで

は、家族代々に伝承される特殊な技術を受け継い

でいるBatikアーティストが地域で有名であった

ことから、口コミによって販路が確立されてい

る。このように、事業開始時に口コミか偶然性に

よる販路開拓に拠っているということは、当該地

域にマーケティング情報が不足しており、また、

フォーマルな流通形態が存在していないものと推

測される。

事業開始から年月が経過するつれて、事業拡大

のために新たな販路を求めて展示会に参加するな

ど、女性事業者が新規市場開拓の努力をするよう

になっている。すなわち、マーケティングに関す

る情報にアクセスできれば、女性事業者は積極的

にマーケティングに取り組む意欲があると言える

であろう。

(4)融資システムの利用

いずれの事例においても、起業時に金融機関か

ら融資を受けていない。しかし、事業が軌道に乗

り始めると事業拡大のために融資システムを利用

するようになる。その理由としては、1)起業時

には融資に関する情報を持っていない、2)起業

時には、事業の収益性が予測できないので、返済

不能になることを恐れている、などが考えられ

る。事業AではBRIから年利10%で、事業Bでは

国営肥料会社から年利6%で融資を受けている。

事業A・Bともに、販路が確立されているので、

融資を得ることによって生じる返済義務に対する

心理的負担よりも、融資を受けることで得られる

利益増大のメリットの方が大きいと判断してい

る。

事例Aでは、融資を受けた資金で電話・FAX、

ミシンなどの必要機材を購入しているが、商品の

素材購入のためには、取引先から注文金額の

30%を前払いしてもらい、その前払い金で素材

を購入している。融資を受けることを心理的負担

と考える事業者にとっては、返済義務による心理

的負担を生じさせない注文時一部前払い制度は、

大量受注時には有益ではないだろうか。

事例C(エンピン製造業)の女性たちは、これ

までに金融機関の融資システムを利用したことは

ないが、新しい道具を購入するために融資システ

ムを利用できればと考えている。しかし、融資シ

ステムに関する情報を入手していないのが現状で

ある。

(5)外部支援

事例Aでは、ガジャマダ大学から会計処理や

マーケティングに関するコンサルティングサービ

スを受けており、同大学からのアドバイスにより

BRIから融資を受け、事業に必要な資機材購入が

可能となっている。

事例Aで述べたように、バントゥル県は展示会

を開催することで地元小規模事業者にマーケティ

ング支援を行っている。事例Aの事業者は、同展

示会に参加して販路開拓の努力をしている。

その他の事例では、資金・機材の調達、マーケ

ティング、人材育成などの面において、大学や行

政などから一切支援を受けていない。すなわち、

女性事業者自身が、資金の工面や技術面において

創意工夫をこらしている。

第3章 日本の農村女性の起業活動

1.日本の農村女性の現状

(1)農業における女性の位置付け

1960年から約40年間で、日本の農業就業人口

は、約4分の1にまで減少している。しかし、女

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性が農業就業人口に占める割合(約60%)は、

過去40年間でほとんど変化していない(図表8参

照)。同データは、日本の農業が、女性労働に大

きく支えられてきたこを表している。

農業所得は、農産物の出荷・販売団体である農

業協同組合(以下、農協)を通じて、世帯主に支

払われる仕組みとなっている。農協は、一戸一組

合員という世帯主義を採用しており、明治以来の

家父長制のもとでは、ほとんどの家庭の世帯主は

男性であり、農協から世帯主を通じて所得を得て

いる。女性など家族の農業従事者に所得の一部が

分配されることがあったとしても、多くの場合、

「おこづかい」にしか過ぎず、農業労働に対する

報酬として支払われているわけではない。このよ

うに、農村女性は、労働の対価として現金収入を

得ることが困難な環境に置かれていた。

(2)女性起業活動の開始

これまで夫の補助的な役割として農業生産に従

事し、現金収入を得ることがほとんどなかった農

村女性に、近年、目覚しい変革が起こっている。

農村女性はグループを結成し、家庭内のみで発揮

してきた調理技術を家庭外で生かすことによっ

て、起業活動を開始するようになっている。

女性が起業活動を開始する動機は様々である

が、大きく分けると「ビジネス志向」と「こころ

ざし志向」に分かれる。前者は現金収入を得るこ

と(家計所得に貢献すること)、後者は技術・能

力を発揮して社会に役立ちたいという志の実現を

目的とする。日本の農村女性による起業活動の場

合、両者の動機が調和して開始されたものが多い

ようである。

しかしながら、日本の農村の事例では、女性に

よる起業活動では、利潤を追求する傾向はそれほ

ど強くない。女性たち自身の所得が非常に低い場

合でも事業活動を続けようとする傾向があり*30、

自己実現による社会貢献を目指す「こころざし志

向」の女性たちによって支えられている点が、日

本の農村女性による起業活動の大きな特色であ

る*31。

近年、多種多様な起業活動が生まれており、そ

の数も急増している。農村女性による多種多様な

起業活動のうち、2000年現在、食品加工が最も

大きな割合(約70%)を占め、続いてレストラ

ンや直売所経営などの流通・販売が45%となっ

ている(図表9参照)。市場規格外農産物の有効

利用のために行う農産物加工や農産物直売は、初

期投資が少なく身近な技術を利用して開始するこ

とができるので、急激に増加したと推測される。

2.農村女性による起業活動の事例

既述のような背景を踏まえ、日本全国で活発に

なっている農村女性による起業活動の事例(3件)

を以下に紹介する。

(1)有限会社「Wai Waiあとりえ」(鹿児島県

姶良郡牧園町)

�事業概要

有限会社「Wai Waiあとりえ」では、新鮮で旬

*30 日本の農村女性による起業活動においては、自分たちの賃金を削減(場合によっては一定期間無給)してまでも、経営危機を

乗り越えて事業を維持していこうとしているケースも存在する(例:奈良県北葛城郡當麻町の農産物直売所兼レストラン「當

麻の家」)

*31 岩崎由美子他「成功する農村女性起業」家の光協会(2001年)

図表8 農業就業人口に占める女性の割合の推移

(単位:千人、%)

1960年 1970年 1980年 1990年 1995年 1998年 1999年

農業就業人口 14,542 10,352 6,973 5,653 4,140 3,892 3,845

うち女性 8,546 6,337 4,300 3,403 2,372 2,204 2,176

女性の割合 58.8 61.2 61.7 60.2 57.3 56.6 56.6

出所)農林水産省「農林業センサス」「農業構造動態調査」

2003年6月 第16号 77

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の食材を使った安心・安全な食料や、自然素材の

着心地の良い部屋着などの提供を通じて、「生活

提案」をすることを目的に、加工食品の販売、衣

料・雑貨*32の販売、レストランの経営を行って

いる*33。加工食品やレストランで使用する食材

は、すべて近郊の農家から購入している。毎日

行っている1,500円のランチバイキングには、町

内外から多数の客が訪れる。

�事業開始の背景

� 「村おこし塾」への参加

1980年代後半、大分県の「一村一品」運動を

はじめ、全国各地で地域振興や村おこしが注目を

集めていた頃、牧園町は、住民が地域活性化につ

いて学ぶ場として1988年に「村おこし塾」*34を設

立した*35。牧園町は、同塾講師への謝礼金など

最小限の必要経費を負担したが、同塾の運営は、

すべて町民に任された。同町の温泉旅館の経営者

が塾長となり、塾生約40名(うち女性4名)が旅

館に集まって、地域活性化についての勉強会を開

催した。

後に「Wai Waiあとりえ」を起業した女性は同

塾の卒業生であり、当時、牧園町観光課の職員で

あった夫と一緒に同塾に参加し、「料理と農業」・

「イベント」・「霧島国際音楽祭」*36という3つの

テーマを選択した。

� 「村おこし塾」からの発見

*32 衣料品は、すべて社員の手作りであるが、陶器類などの雑貨は、他地域から購入している。

*33 現在の売上は年間7,000万円で、内訳は、加工食品:レストラン:衣料・雑貨=4.5:4.5:1となっている。

*34「村おこし塾」は2年のプログラムであり、1年目は、地域開発の理論と事例に関する講義、2年目は、9つのテーマ別に分

かれたグループで、各テーマについて牧園町の現状を調査するというカリキュラムになっていた。

*35 1980年代後半、牧園町は、鹿児島県96市町村のうち町民所得は76番目であり、霧島という観光地を抱えているにもかかわら

ず、町民所得は低かった。

*36 毎年、国内外から140~150名の音楽関係者が牧園町に集まり、2週間に渡って開催される大規模な音楽祭。

図表9 農村女性の起業活動数の推移(事業内容別)

(単位:件、%)

1993年 1997年 1999年 2000年 具体的な事業内容の例

農業生産150 541 601 514

農作業受託、新規作物の共同経営など(12.0) (13.4) (10.0) (8.3)

食品加工770 2,467 3,738 4,266

農産物加工、特産品開発など(61.4) (61.1) (61.9) (68.6)

食品以外の加工90 204 250 279 ハーブ、フラワーアレンジメント、染物、織

物などの製作(7.2) (5.0) (4.1) (4.5)

流通・販売463 1,398 2,394 2,811

レストランや直売所の経営(36.9) (34.6) (39.6) (45.2)

都市との交流76 168 428 479

農家民宿、体験農場、観光農園などの経営(6.1) (4.2) (7.1) (7.7)

サービス業16 12 39 48 教育・文化・福祉サービスの提供(保育サー

ビス、学校給食など)(1.3) (0.3) (0.6) (0.8)

全 体1,2551) 4,0402) 6,0393) 6,2184)

(100.0) (100.0) (100.0) (100.0)

注)複数の類型にまたがる事例があるため、各類型の合計は全体の女性起業数を上回る。1)類型別不明14件を含む。2)その他17件、不明1件を含む。3)その他7件を含む。4)その他20件を含む。

出所)岩崎由美子・宮城道子編「成功する農村女性起業」P.11 家の光協会(2001年)(農林水産省婦人・生活課実施の調査結果のまとめ)

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「村おこし塾」発足時の牧園町の町民所得が低

い理由を塾生たちが調べたところ、1)牧園町内

のホテルや旅館の本社機能は鹿児島市内にあるた

め、観光客が牧園町のホテルや旅館に宿泊しても

牧園町の経済活性化にあまり貢献していないこ

と、2)牧園町内のホテルや旅館で使用されてい

る食材には、地域内で生産された食材が使用され

ていないこと、3)町の大規模なイベントである

「霧島国際音楽祭」を町があまり支援していない

こと、などが発見された。

� 地域イベントへの参加

既述のような「村おこし塾」の発見から、塾生

による行政への批判が起こった。しかし、後に

「Wai Waiあとりえ」を起業することになる女性

は、まず自分が地域にできることから始めてみよ

うと思い、友人・知人に呼びかけて、「霧島国際

音楽祭」の開催期間中、会場のホテルの芝生での

ランチビュッフェ(主婦の家庭料理によるもてな

し)を企画した。同ランチビュッフェが好評であ

り、その後、同女性グループが地域の他のイベン

トにも家庭料理や手作り菓子の提供を繰り返すう

ちに、地域の人々から評価を得るようになり、

「Wai Waiあとりえ」の設立に至った。

�資金の調達

「Wai Waiあとりえ」の立ち上げ準備として、

主婦7人が5万円を出し合って、電話とミシンを

購入し、賃借した町営住宅(家賃3,000円/月)

を拠点に活動を開始した。町営住宅には食品加工

施設がなかったので、町の加工所を利用して食品

加工を行った。しかし、町の加工施設は営利目的

の使用を禁止しており、1991年11月に自分たち

の加工施設を設置し、同時に「Wai Waiあとりえ」

を法人化した。有限会社設立にあたり、主婦5人

が、ひとり50万円を出資し、町から200万円、民

間金融機関から450万円の融資を受けた。牧園町

には、「村おこし資金貸付制度(5年間無利子、

据置期間2年)」が存在し、「Wai Waiあとりえ」

は同制度から上記200万円の融資を受けた。

�マーケティング

特に、積極的な営業活動は行ったわけではない

が、1991年に法人化した際に、女性による法人

の設立が牧園町で初めてであったため、地元のテ

レビ局や新聞社からの取材が殺到し、マスコミに

よる集客効果が大きかった。「Wai Waiあとり

え」の経営者は、会社経営に携わる一方で、多数

の地域活動に関わっていたため*37、町内の人的

ネットワークが広く、町内でイベントがある時に

は、昼食の準備を引き受け、ランチサービスの繰

り返しが「Wai Waiあとりえ」のPRにもなった。

現在は、牧園町特産品協会の販売所*38をはじ

め、加工食品を宮崎県生協、大阪・広島・福岡の

百貨店の自然食品売場にも出荷している。他県に

積極的にPRを行ったわけではないが、地域固有

のものをバイヤーが求めているという社会の時流

にのったことも販路開拓を助けたと言えるだろ

う。

�女性起業活動の障害要因

女性の起業活動における最大の障害は、家族

(特に夫や姑)の理解を得ることの難しさであっ

た。出資者の女性たちには経済力がなかったの

で、夫に出資金を工面してもらうよう説得する際

に、「格闘」を繰り返さなければならなかった。

女性が家庭外労働に従事する時、仕事と家庭の

問題は切り離せない。現在、「Wai Waiあとりえ」

では、週に一度、「心のミーティング」を持ち、

各自が抱えている家庭の問題を皆で話し合ってい

る。「Wai Waiあとりえ」は、仕事をしながら家

庭の中にある問題の対処方法を学ぶという「女の

学校」としての役割も果たしている。

(2)「名川チェリーセンター」(青森県三戸郡名

川町)*39

�事業概要

「名川チェリーセンター」(以下、「チェリーセ

ンター」)は、農産物と加工食品の直売施設であ

り、会員は、一人当たりコンテナ4個ずつ(2個

*37 牧園町の小・中学校でのバドミントン指導、特産品協会の事務局長、音楽友の会の副会長、霧島国際音楽祭「風の中の交流会」

の会長など、牧園町内で複数の役割を同時に担っていた。

*38「村おこし塾」の女性たちの発案により設立された。

*39 青森県名川町は、梅、さくらんぼ、りんご、柿、桃、梨などの果実の栽培が盛んな地域である。しかし、豊作年には価格が暴

落して「豊作貧乏」になるという問題があり、農家所得の安定を図るための対策が求められていた。

2003年6月 第16号 79

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を店内、2個を店外)出荷できるようになってい

る。会員は、午前5時頃に商品を出荷し、自分で

価格を決めバーコードシールを貼り付ける。売れ

残りは、会員各自が持ち帰ることになっている。

会員は、売上の9%を手数料として「チェリー

センター」に納めている。

�事業開始の背景

� 女性による特産品グループの結成

1986年、加工によって農産物に付加価値をつ

け農家所得の向上・安定を目指そうと、農家女性

30人が立ち上がり、町の支援を受けて名川町特産

品グループを結成した*40。特産品グループの女

性たちは、町が設立した加工施設で、ジュースや

ジャムなどの加工食品を製造し、町内外のイベン

ト(百貨店の物産展など)で名川町の特産品とし

て販売していたが、売上が出張販売経費に見合わ

ず、「経費負け」するという問題に直面していた。

� 視察ツアー

その頃、他町村の女性グループとの交流を目的

に、町が特産品グループの女性たちを岩手県平泉

町に連れて行った帰路に、ある産直センターに立

ち寄ったところ、名川町にも産直施設がほしいと

いう意見が持ち上がった。そこで、町内にある5

つの特産品グループ(女性グループ)が、直売所

建設を町に申請し、「名川チェリーセンター」の

設立に至った。

�資金の調達

町費と陸奥小川原地域・産業振興財団(以下、

産業振興財団)からの補助金で直売所建設が開始

された*41。名川町と産業振興財団によって直売

施設である「チェリーセンター」が完成したが、

同施設の事業内容や運営方針の決定は女性グルー

プがイニシアティブをとって行っている*42。

「チェリーセンター」開始時に、一人当たり3万

円の出資金を条件に会員を募集し、86名の応募が

あり、1991年、86名の女性で「チェリーセンター」

をスタートした*43。

�マーケティング

「チェリーセンター」や名川町が、積極的なPR

活動を行ったことはないが、同センターは名川町

初の直売所であったため、マスコミに取り上げら

れたことが町内外へのPRとなった。同センター

は国道4号線沿いに位置しており、上り坂で車の

スピードを落としたドライバーにとって、目にと

まりやすいという立地も、集客には好条件であっ

たようである。

また、青森県三戸郡にある5町村の7つの直売

所で「産直ネットワーク」を構築し、研修やイベ

ントを通じて情報交換を行っている。年に1回実

施する販売イベントは、各直売所のPRになって

いる。

�施設の拡充

「チェリーセンター」開設後、しだいに顧客数

が増え、新たな設備が必要となり、トイレや大型

冷蔵庫などの設置、駐車場の拡大、周辺道路の整

備を町に申請し、実現している。「チェリーセン

ター」の運営に関しては、名川町は一切関与して

いないが、大型機材の提供や周辺インフラの整備

など、「チェリーセンター」からの申請に基づい

て支援を施している。

(3)農事組合法人「あぜ道」グループ食品加工組

合(大分県日田郡天瀬町)

�事業概要

農事組合法人「あぜ道」食品加工組合(以下、

「あぜ道」)では、地域で生産されるよもぎや小

麦粉をを使用してカリントウ*44の製造・販売を

行っている。かぼちゃ味など新商品の研究を重

ね、現在は、風味の種類も豊富になっている。

�事業開始の背景

1979年に大分県で「一村一品」運動*45が始ま

り、地域のために役立つことをしたいと感じてい

*40 現在、名川町には、19の特産品グループがあり、そのうち9グループは、「名川チェリーセンター」の会員である。

*41 総工費は1,300万円

*42 直売所の運営を始めるにあたり、東京にある�農村開発リサーチよりアドバイスを受けた。

*43「チェリーセンター」開設時に、100人を目標に会員が募集された。「チェリーセンター」の運営を任された女性グループが、

さらに発展するようにという気持ちを込めて、100に1を加えて、「101人会」と命名した。その後、「チェリーセンター」が売

上を伸ばすにつれて、入会希望者が増え、1993年には、会員数100名を達成している。

*44 カリントウとは駄菓子の一種で、小麦粉に水あめを加えて堅く練り、干してから油で揚げて砂糖でくるんだもの。

80 開発金融研究所報

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た女性たちが数名で、県の農業祭(1980年)で

山菜おこわと栗おこわを販売したところ、参加者

から好評を得た。それが契機となって、当時の女

性グループで加工所を持つことが夢となり、

1983年、農林水産省による農村地域農業構造改

善事業の導入により補助金を得て、加工所を設立

したのが「あぜ道」の始まりである*46。

�労働条件

勤務時間は、従業員の自己申告制をとってお

り、出社・退社時刻を自由に選択できるように

なっており、また、家庭の事情に応じて勤務時間

中でも途中で自由に帰宅できる。時給は全員600

円に決められており、これ以上昇給しないことに

従業員が合意している。売上を伸ばすために大量

生産をして忙しくなると、従業員が、家庭と仕事

を両立できなくなるので、事業規模は現状維持を

考えている。

�マーケティング

販売ルートは、卸売取引によるものと、直接取

引によるものがある。前者の取引先としては、

「一村一品」株式会社*47、農協、大分県経済連

の3つがあり、後者の取引先としは、旅館、ホテ

ル、ハチミツ業者*48などがある。

また、町が空き店舗対策事業を実施し、JR天

瀬駅前の空き店舗を地域の特産品販売所(名称:

「一番列車」)に改装した*49。改装の際に、「一番

列車」の会員を募り、天瀬町にある5つの女性グ

ループから17人が会員になった。「あぜ道」も「一

番列車」に出荷している(手数料は15%)。

�人材育成

県が実施している女性起業支援の一環で、講師

を招いて、カリントウの袋やラベルのデザインを

改善している。また、「あぜ道」の職員は、県が

実施している研修コースを週2回(2年間)受講

し、簿記を学んでいる。

�施設の拡充

「あぜ道」創設から2年後(1985年)、5年間無

利子の大分県中核農業後継者育成資金(婦人資金)

を利用して、フライヤーやミキサーなどの大型機

械を購入している。さらに、1990年には、地域

農業確立総合対策事業により、大分県と天瀬町よ

り融資を受け、加工所を増築している。ただし、

大型機械の購入や増築の際には、行政からの資金

援助に100%依存するのではなく、自己資金(「あ

ぜ道」の利益の一部)も投入している。

3.特色・教訓

以上の3つの事例から日本の農村女性による起

業活動の特色と、開発途上国の農村女性の起業活

動に参考となりうる点(教訓)をまとめると、大

きく分けて以下の3つ(11細目)に整理できる。

(1)家庭・地域との密接な関係

�地域資源の活用

女性の起業活動に必要な材料は身近に存在する

ものが多く、ほとんど地域内で調達されている。

「Wai Waiあとりえ」のレストランでの食材は、

すべて地元農家が生産したものを使用している。

このような「地産地消」*50による地元農家とのネッ

トワークが「Wai Waiあとりえ」に集客効果をも

たらすだけでなく、地元農家の所得安定にも寄与

している。また、「チェリーセンター」で販売さ

れているジュースや缶詰などの加工食品や、「あ

ぜ道」で製造されているカリントウにも、地域で

生産される農産物が使用されており、地元農家と

*45 大分県知事(平松守彦氏)が地域経済の活性化を目指して1979年に開始した「一村一品」運動は、外部資源に依存するので

はなく地域固有の資源を活用することによって住民自らが地域の特産品(=「一村一品」)を選定・育成し、地域経済を活性

させる運動である。

*46 総事業費4,750万円の内訳は、国:農協:自己資金=5:4:1。自己資金475万円の内訳は、一人3万円ずつを6人が出

資、残りは農業祭に出展した際の売上など。

*47 一村一品株式会社は、既存の流通体系にのりにくい産品の市場開拓・販売促進を目的に、100%民間会社(資本金1億2千万

円)として1988年に設立された。同社が取り扱っている商品は約300品目で、2000年度の売上額は10億円、販売ルートは百貨

店が63%、卸売業者が30%となっている。

*48 カリントウの材料であるハチミツを購入しているハチミツ屋に、「あぜ道」で製造したカリントウの販売を委託している。

*49 改装費用は、県、町、会員(県・町:会員=2:1)の共同出資であった。

*50「地産地消」とは、「地域で生産したものを地域で消費する」・「地域で消費するものを地域で生産する」という考え方を指す。

2003年6月 第16号 81

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のネットワーク形成による地域資源の有効活用が

地域の活性化にもつながっている。

�身の丈の技術の活用

農村女性による起業活動の特徴の一つとして、

家庭内で培った技術を生かしていることがあげら

れる。食品加工やレストラン経営などは、日常、

家庭で発揮している調理技術を生かして開始する

ことができるので、農村女性にとって特殊な技術

を必要とせず、手軽に取りかかることができる。

また、家庭内では、同技術を生かした「労働」で

も対価を得ることができないが、家庭外では同技

術を生かして起業活動に従事することで対価を得

ることができるので、女性の労働意欲は高まり、

能力開発や生きがいの発見にもつながっている。

�家事・育児と両立できる勤務体制の採用

女性グループによる起業活動では、「あぜ道」

の柔軟な勤務形態に見られるように、女性が、家

事・育児と両立できるような配慮が必要である。

「あぜ道」の事業規模を拡大しない方針の背景に

は、仕事の負担が過大になると、家事・育児に負

荷がかかることへの懸念がある。

また、「女の学校」とも呼ばれる「Wai Waiあ

とりえ」では、週に一度、心のミーティングを行

い、女性従業員の各家庭の問題(嫁姑問題、子育

てなど)について話し合い、各家庭の問題を従業

員同士で共有し、皆で解決策を話し合っている。

これら2つの事例は、女性が仕事をする場合、勤

務時間や精神的サポートの両面において、仕事と

家庭を両立できる勤務体制が必要なことを表して

いる。

�家族(特に夫や姑)の理解を得ることの難しさ

女性が家庭外労働に従事する時の大きな障害

は、夫や姑の強い反対である。「Wai Waiあとり

え」の経営者の夫は、最初から理解を示して協力

的であったようだが、従業員の中には、夫や姑か

ら理解を得ることに苦労した女性も多い。夫や姑

から理解を得ることができずに、反対を振り切っ

て「Wai Waiあとりえ」で働き始めた女性もいる。

しかし、最初は、妻・嫁が家庭外で働くことに大

反対であった夫や姑も、事業が軌道に乗り始め、

妻・嫁の収入が家計に貢献するようになると生活

にゆとりが生まれることを実感するようになり、

夫や姑がしだいに協力的になっていったようであ

る。

(2)女性の自主・自立性

�自己資金の投入

女性が起業活動を開始する際の起業資金の調達

方法としては、1)行政からの融資、2)行政か

らの補助金、3)民間からの融資、4)民間(財

団法人を含む)からの補助金、5)自己資金によ

る出資、の5つの方法の複数の組み合わせが考え

られる。「Wai Waiあとりえ」は、法人化の際に、

牧園町の「村おこし資金貸付制度」を利用してい

る。同町では、他の女性グループ(例:「もんぺ

おばさん」)*51も起業時に同制度を利用している

が、「Wai Waiあとりえ」や「もんぺおばさん」

の経営者には、融資によって生じる返済義務が精

神的負担になるというマイナスの発想は全くな

かった。むしろ、債務を返済するために事業収益

をあげなければならないという強い責任感と労働

意欲が生まれている。

「Wai Waiあとりえ」、「チェリーセンター」、

「あぜ道」では、起業時に、起業する女性グルー

プが自己資金を投入している。自己資金の投入額

の多少よりも、女性たちが「出資した」という事

実の方が重要である。なぜなら、起業活動に従事

する女性たちが、「自分たちも出資して開始した

事業である」という認識を持つことにより、事業

開始後の苦境を乗り越えるエネルギーが生まれて

いるからである。

�活動内容・運営方針の決定

既述の3つの事例では、事業内容や経営方針

は、行政からの押し付けではなく、すべて女性グ

ループが決定している。「Wai Waiあとりえ」で

は、「村おこし塾」での発見から、「自分たちが地

域のためにできることは何か」を女性たち自身が

考え、地域イベントでの手料理のもてなしなど、

*51「もんぺおばさん」は、味噌、醤油、漬物などの加工食品を製造・販売する団体であり、1987年に女性3人によって発足され

た。発足時には、3人が80万円ずつ出資し、国民金融公庫から200万円(7年返済、金利5%)、牧園町の「村おこし資金貸

付制度」を利用して200万円(5年返済、無利子)を利用して加工所を建設し、大型機材を購入した。1990年には、1)健全

な経営状況を維持していくこと、2)従業員の責任を明確にすること、などを目的に「もんぺおばさん」を法人化した。

82 開発金融研究所報

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自らのアイディアで行動を起こしている。大分県

の「あぜ道」の場合も、「一村一品」運動という

県の地域おこし運動が起業の契機となったもの

の、「地域のために何をするか」という事業内容

や運営方針は、女性たち自身で決定している。

「チェリーセンター」の場合も、加工所や直売所

の施設建設は行政が担っているが、同施設で行う

活動内容・運営方針などは、すべて女性グループ

が決定し、その後の運営も、すべて女性グループ

に委ねられている。このように、いずれの女性グ

ループも、施設建設や起業時の融資などの面で行

政からの支援を受けてはいるものの、事業内容や

運営方針は女性グループ自身が決定し、行政から

独立して運営を行っており、女性の自主・自立性

が起業活動を支えていることがうかがえる。

�自助努力による販路開拓

「Wai Waiあとりえ」や「もんぺおばさん」の

ある牧園町は、特に地域の女性グループのPR活

動を行っておらず、各女性グループが自助努力に

より販路を開拓している。「Wai Waiあとりえ」

や「もんぺおばさん」も、牧園町特産品協会の販

売所に出荷する他、自らの足で地域内外の小売点

などに営業活動を行うことにより販路を開拓して

いる。

両グループが販路確保に成功している理由とし

ては、自助努力の他に、1)マスコミの報道に

よって有名になったこと、2)バイヤーが地域固

有の商品および安全・安心な食品を求めるという

社会の時流に乗ったこと、などがあげられる。

(3)行政による支援の枠組みを利用(図表10参照)

�資金援助

日本の農村女性による起業活動の事例では、起

業者が起業時や事業拡充時に、行政からの資金や

施設建設の面で援助を受けている。国・県・町の

各レベルにおいて、農業振興や農村開発・地域開

発に関連した資金援助の枠組みが設けられてお

り、起業活動を開始する女性(あるいは、既に従

事している女性)が、補助金や融資のいずれかの

形で、行政からの資金援助を利用できる仕組みが

存在している。「Wai Waiあとりえ」と「あぜ道」

は、行政による融資制度を利用している。

�施設・インフラ整備

「チェリーセンター」のある名川町は、町費で

施設建設と大型機材の提供を行うことにより、女

性グループの起業を支援している。名川町や牧園

町の場合、「チェリーセンター」、「Wai Waiあと

りえ」、「もんぺおばさん」などが設立される以前

に、既に町内に町営の加工所が存在していた。女

性グループが同加工所を利用して農産物加工や特

産品開発を行い続けた後に、「チェリーセン

ター」、「Wai Waiあとりえ」、「もんぺおばさん」

図表10 行政からの支援

「Wai Waiあとりえ」 「チェリーセンター」 「あぜ道」

人材育成むらおこし塾(牧園町)

他町女性グループへの視察ツアーを実施(名川町)

・ステップアップ事業研修(大分県)・簿記研修(大分県)

起業時資金調達むらおこし資金貸付制度(牧園町)

新農業構造改善事業による補助金(国)

マーケティング

特産品協会販売所(牧園町)

郡内5町村で「産直ネットワーク」を構築し、販売イベントを開催(名川町)

・「一村一品」運動(大分県)・農業祭(大分県)・空き店舗対策事業(天瀬町)・(一村一品株式会社)

起業時施設・インフラ

整備

・加工所建設(名川町)・直売所建設(名川町)

事業拡充

大型機材の提供、駐車場の拡大、周辺道路の整備(名川町)

・中核農業後継者育成資金(婦人資金)による融資で大型機械を購入。(大分県)・地域農業確立総合対策事業により増築(大分県)

出所)現地調査ヒアリングに基づき筆者作成

2003年6月 第16号 83

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などが起業されている。このように、行政による

加工施設の提供が、女性グループの起業準備の間

接的支援となっている。

「チェリーセンター」は、町費によって建設さ

れているが、「Wai Waiあとりえ」、「もんぺおば

さん」、「あぜ道」は、行政からの融資制度や補助

金の利用および自己資金の投入によって施設建設

費が調達されている。「チェリーセンター」に関

しては、事業開始数年後に、名川町が駐車場や周

辺道路の整備も行っている。

�マーケティング支援

既述の3つの事例では、販路の確保は女性たち

の自助努力に拠るところが大きい。しかし、大分

県の「あぜ道」のように、行政に存在するマーケ

ティング支援の枠組みも、重要な役割を果たして

いる。「あぜ道」で製造されるカリントウは、県

に「一村一品」運動という枠組みが存在していた

からこそ、天瀬町のカリントウが「一村一品」に

認定され、一村一品株式会社を通じての販売が可

能になったのである。

「チェリーセンター」は、名川町で唯一の直売

所であり、国道沿いに立地しているため、町外か

らのドライバーが立ち寄ることも多い。名川町

が、三戸郡の5町村7直売所で「産直ネットワー

ク」を構築し、年1回、5町村7直売所で開催し

ている販売イベントは、近隣町村からの集客に寄

与している。

牧園町には、「村おこし塾」の塾生からのアイ

ディアにより特産品協会が設立され、町が所有す

る空き地を利用して同協会の販売所が設置されて

いる。同販売所の運営は、同協会の会員(女性グ

ループを含む)に委任されているが、「村おこし

塾」の開催や空き地提供などの行政による間接的

な支援の結果生まれた販売所である。

町内の女性が地域の食材を利用して加工食品・

特産品を製造(開発)しても、販売する場所がな

ければ事業を続けることは困難である。既述の事

例のように、販売する場所や機会を行政が提供す

ることで、女性の起業活動による商品の販売場所

が確保され売上増加に寄与し、さらに女性の製造

(開発)意欲は高まるという好循環が生じる。ま

た、「あぜ道」のカリントウが大分県天瀬町の「一

村一品」に認定されたように、行政のマーケティ

ング戦略に乗ることにより、商品が「地域ブラン

ド」を獲得することができ商品に付加価値が生ま

れている。

�人材育成

「Wai Waiあとりえ」のある牧園町は、地域開

発について住民自らが考える場として「村おこし

塾」を設置している。同塾の運営や学習成果の活

用方法は、すべて塾生に委ねられている。同塾の

卒業生であり、「Wai Waiあとりえ」の経営者で

もある女性は、「住民の学びのプロセスから生ま

れたアイディアこそが地域振興に役立つ」と考え

ている。

名川町では、女性グループを他町の女性グルー

プの視察ツアーに連れて行ったことが契機となっ

て「チェリーセンター」設立のアイディアが生ま

れている。地域コミュニティ内に閉ざされがちな

女性のために、他地域で事業を行う女性との交流

機会を設けることも、行政による人材育成の手段

の一つであろう。

「あぜ道」で働く女性は、大分県が実施する簿

記やラベルのデザイン改善に関する研修を受けて

いる。このように、事業開始後の課題に対処する

ための人材育成事業も、行政に求められる役割で

あろう。

第4章 提言

これまでの日本とジョ州における農村女性の起

業活動の特色および事例から得られた教訓を踏ま

えて、本章では、まず農村女性の起業活動に関し

て行政に求められる支援を整理する。次に、その

ような支援を中央・地方政府が効果的・効率的に

実施するために必要な仕組みを述べ、その仕組み

を機能させるために必要な国際開発援助機関から

の支援のあり方について提言を行う。

1.農村女性の起業活動に関して行政に求められる支援

(1)人材育成

�「きっかけ作り」の場の提供

日本の3つの事例では、いずれも行政による人

材育成の支援を受けている。「Wai Waiあとりえ」

84 開発金融研究所報

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は、牧園町が設置した「村おこし塾」での発見が

きっかけとなり、同塾の卒業生が起業している。

名川町の「チェリーセンター」は、同町が企画し

た女性グループの視察ツアーが契機となって、女

性グループから直売所建設の申請が行われてい

る。このように、行政が人材育成の枠組み(例:

「村おこし塾」)や、新しいアイディアに触れる

機会(例:名川町女性グループの他町への視察ツ

アー)を提供したことが、女性起業のきっかけ作

りになっている。地域について学習し、情報交換

を行い、新しいアイディアを得る場を行政が提供

することにより、ジョ州の女性たちの起業活動活

性化に寄与するものと考えられる。

�識字学級・職業訓練の提供

大分県の「あぜ道」では、従業員が事業開始後

に、県が設置した研修コース(簿記、ラベルなど

のデザイン研究など)を受講している。このよう

に、事業開始後もステップアップを目的として

様々な研修を実施することは、行政が可能な支援

の一つであろう。

インドネシアをはじめとする開発途上国の農村

の場合、女性の識字率は低く、読み・書き・四足

計算が困難な女性も多い。したがって、行政が女

性起業支援を行う際には、識字学級や職業訓練な

どのトレーニングの提供が不可欠であろう。

(2)機材の調達

ジョ州の農村女性の起業活動では、事業規模が

小さいこともあり、エンピン製造業などでは、女

性たちが各自で道具を持ち寄って事業を行ってい

る。事例DのBatik Paintingは、家族代々に伝承

された技術を利用したファミリービジネスである

ため、既に所有していた道具を利用しており、新

しく道具を購入する必要はなかった。しかし、い

ずれの事例においても資金さえあれば、新しい道

具を購入したいと考えている。

機材調達の支援方法としては、1)行政からの

現物支給、2)融資を通じて自分たちで購入、の

2つが考えられる。前者に関しては、機材支給の

ための条件を設定し、プロポーザルの応募を求め

るなど、女性たちの自主性を促進するような「コ

ンテスト」方式の採用も考えられる。後者の融資

を通じての機材購入に関しては、次項�に示す

が、行政が機材無料貸与システムを導入すること

も一案であろう。近代的な機材の使用に不慣れな

農村女性が、実際に機材を購入する前に、一定期

間、機材を試験的に利用することにより、適切な

機材を選定することが可能になるであろう。

(3)融資システムの構築

�マイクロクレジット

牧園町の「村おこし資金貸付制度」は、行政が

実施しているマイクロクレジットの一例である。

一般に、開発途上国において、女性が金融機関か

ら融資を受ける際に障害となりうる要因として、

1)土地や財産所有権の欠如に起因した担保能力

の無さ、2)男性家族の保証が必要となっている

こと、3)家事・育児を担いながら女性が事業に

おいて安定した収益をあげる見通しが不確実であ

ること、4)借入後、即座に生じる返済義務は、

既に返済額に相当する収入を持つ女性や世帯に対

象者を絞り込んでしまうこと*52、などがあげら

れている。

牧園町の「村おこし資金貸付制度」は、上記の

障害を克服している。まず、貸付対象者を牧園町

に居住する団体とし、団体による連帯保証を担保

代わりとし、土地や現金の担保を必要としていな

い。さらに、償還開始までに2年間の据置期間を

設けており、事業が軌道に乗り収益をあげるまで

の猶予期間を確保している。5年間無利子という

ことで、借り手の負担も軽減されている。このよ

うに、これまで開発途上国の女性たちがマイクロ

クレジットにアクセスするために障害となってき

た主な要因を克服している牧園町の融資制度は、

開発途上国の行政が資金支援の枠組みを構築する

際の一つのモデルとなりうるのではないだろう

か。

行政の融資制度は、単に施設整備などの初期投

資を可能にするだけでなく、債務者である女性の

労働意欲を維持することにも寄与する。「Wai

Waiあとりえ」や「もんぺおばさん」の経営者が

力説しているように、債務を負っているからこそ

*52 岡本真理子他「マイクロファイナンス読本」明石書店(1999)

2003年6月 第16号 85

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苦境を乗り越えていくエネルギーが湧き、それが

事業収益の増大に寄与するからである。

�補助金(+マイクロクレジット)

牧園町の「村おこし塾」の塾長は、補助金は住

民の行政依存につながるとの見方を示している

が、補助金の供与が女性の起業活動に必ずしも不

適切というわけではない。大分県の「あぜ道」の

場合、巨額の費用を要する加工所の整備のために

は、農林水産省からの補助金を得ている。しか

し、「あぜ道」の場合も、同補助金だけに依存す

るのではなく、少額ではあるが自分たちも出資し

ている。このように、行政からの補助金を利用す

る場合でも、初期投資の一部額を自己資金で賄う

ことにより、事業開始後に苦境に直面したとして

も、労働への高い志気を維持することが可能とな

るであろう。

開発途上国の場合、少しでも生計に役立てたい

という理由から経済活動を開始する農村女性に

とって、仮に少額であっても起業時に自己資金を

投入することは困難であると推測される。しか

し、現金を出資することが不可能な場合でも、小

道具は自分たちの家庭から持ち寄ることができる

はずである。資金面・機材面のすべてにおいて行

政に依存することは、女性の起業活動の自立発展

性を妨げるので回避すべきである。女性グループ

が持ち寄った道具あるいは自分たちで工夫して調

達した道具の対価分として行政が補助金を供与

し、同補助金をリボリングファンドのシードマ

ネーとして使用することも有効であろう。

(4)マーケティング支援

�展示会の開催・ショールームの設置

ジョ州の中でも、既に展示会を開催している県

もある。また、ジョ州政府庁舎の敷地内には、同

州内で製造される手工芸品のショールームが設置

されている。このように、手工芸品や加工食品の

展示会開催やショールームの設置は、製造者の販

路開拓に寄与するものと考えられる。

事例Bの手工芸品製造業の経営者は、ジョグ

ジャカルタ市内に独自のショールームを持ちたい

という意向であるが、個人のショールーム設置の

ために、既述(3)のような融資制度を利用するこ

とも可能である。ただし、個人でショールームを

設置した場合にも、行政がPRなどの面で支援で

きる仕組みがあると効果的である。

�マーケティングに関するコンサルティングサー

ビス

ジョ州の女性起業では、材料の調達元や商品の

販売先など、マーケティング・ネットワークを口

コミや偶然の出会いに拠るところが大きい。事例

DのBatik Paintingのように、口コミや偶然の出

会いによって、確実な取引が維持されている場合

は、安定した収益につながっている。しかし、起

業直後の女性や、これから起業を考えている女性

にとって、材料の調達先や製品の販売先を独自で

確保することは容易ではない。したがって、材料

供給業者や製品のバイヤー(小売店や卸売業者な

ど)に関する情報を地方政府が統括して管理し、

必要に応じてマーケティングに関するコンサル

ティングサービスを行うことも行政が可能な支援

方法の一つであろう。

�他地域とのネットワークの構築

名川町の「チェリーセンター」の例にあるよう

に、三戸郡の5町村内にある7つの直売所で「産

直ネットワーク」を構築して、販売イベントを実

施するほか、製造や販売に関する情報交換も行っ

ている。このような販売促進を目的とした他地域

とのネットワークの構築の際に、行政にはコー

ディネーターとしての役割が求められる。

特に、開発途上国の農村では、1)インフラ整

備が十分ではない、2)低所得者は他地域・都市

への交通手段を有しない、などの理由から、大量

消費地である都市とのマーケティング・チャネル

が構築されていない場合が多い。したがって、

ジョ州の例にあるように、農村女性が自ら都市に

出向いて商品を販売するのではなく、他地域から

訪れる業者に偶然に出会うことで販売先を確保し

ている。このような受身的なマーケティングで

は、買い手に出会えるまで販売先が得られず、収

益もあがらないという状況に陥る可能性がある。

このようなリスクを回避するためにも、行政には

積極的に都市と農村のマーケティング・チャネル

を構築することが期待される。

(5)施設建設

日本の事例の場合、牧園町や名川町には、

86 開発金融研究所報

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「Wai Waiあとりえ」や「チェリーセンター」が

創業する以前に、既に町が建設した加工所で、女

性グループが農産物加工を行っていた。名川町

は、後に女性グループから申請を受けて「チェ

リーセンター」を建設している。このように、加

工所や直売所の建設は、行政に期待される役割の

一つであるが、ジョ州でのインタビュー結果にも

あったように、女性は家事・育児と両立するため

に自宅で作業することを好む傾向があるため、必

ずしも農産物加工所や手工芸品製造センターのよ

うな施設が不可欠というわけではない。行政が施

設建設を行う際には、規模や立地などに関して、

コミュニティの女性と慎重な協議を行う必要があ

る。仕事と育児の両立を考慮に入れた託児所付き

の加工所建設も一案であろう。

2.地方政府の役割と現状

前節では、日本の3つの事例において、国、

県、町が農村女性の起業活動に対して行っている

支援と、ジョ州の女性起業活動の現状と今後の

ニーズを踏まえながら、農村女性の起業活動に関

して行政が可能な支援分野について述べた。中央

政府と比較して、地方政府は住民にとってより身

近な存在であり、住民のニーズや地域の特色をよ

り詳細に把握することができるので、既述の支援

は中央政府ではなく地方政府主導で行うことが望

ましいと考えられる。

例えばインドネシアでは、1999年に、地方行

政法および中央地方財政均衡法の制定により、地

方分権化が開始され、開発に関する権限が中央政

府から県・市(Kabupaten)政府に委譲されてい

る*53。しかし、これまで30年間にわたって中央

集権体制が継続されてきたため、県・市政府は委

譲された自治権の行使方法に関して模索を続けて

いるのが現状である。また、委譲された行政責任

に見合うだけの財政を調達できる仕組みになって

おらず、多くの県・市政府が混乱に陥っている。

他にも地方分権化を進めている開発途上国は多

い。

このような状況の中で、開発途上国の地方政府

が農村女性の起業活動を支援するためには、中央

政府や国際機関とのパートナーシップが不可欠と

なるであろう。

3.国際開発援助機関への提言

地方分権化が開始されたことにより、財政や人

材面で問題に直面している地方政府が、地域の女

性による起業活動に対して前述のような支援を行

うことができるようになるためには、持続可能な

行政上の枠組みが必要である。そのような枠組み

作りを国際開発援助機関が支援することを本節で

は提言する。

(1)中央・地方政府の連携による枠組み設立へ

の支援

地域開発を支援する行政の枠組みとして、国際

協力銀行が2001年度に実施した「地域主導型経

済開発戦略」調査では、「地域開発パートナーシッ

プ」と「地域開発基金」*54という2つの組織の設

立を提言している。本節では、この2つの組織の

機能および女性起業活動への具体的な支援のあり

方について述べる*55。

�「地域開発パートナーシップ」の設立

地域開発パートナーシップとは、大学、NGO、

協同組合、女性グループ、民間企業など地域経済

振興のポテンシャルを有する機関が連携すること

によって、地方レベルに設置される組織である。

同組織に期待される役割としては、本章の1.

で述べた1)人材育成、2)機材の調達、3)融

資システムの構築、4)マーケティング支援、5)

施設建設、などがあげられる。

同組織の本部は上位の地方政府(例えば、日本

では県、インドネシアでは州)に設置されるが、

地方分権化によってより多くの行政権限が基礎的

*53 インドネシアの地方分権化に関しては、『地域主導型経済開発戦略』(2003)。

*54 本稿で述べる「地域開発パートナーシップ」および「地域開発基金」に関する詳細については、国際協力銀行開発金融研究所

(2003)『地域主導型経済開発戦略』。

*55 本稿では、日本、インドネシア、フィリピンなどを参考に、地方政府が二階層になっている場合を想定して説明している。例

えば、日本では上位の地方政府は県、基礎的地方政府は市町村。インドネシアでは、前者は州、後者は県市である。

2003年6月 第16号 87

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Malam 業者� 繊維業者�

Batik Painting�アーティスト�

Batik�商品販売店�

小売店� 小売店� 小売店�

衣類・洋裁業者�

Painting 済�の布を納品�

Malam を販売� ①�

②�

③�

④�

⑤�

⑥� ⑥�

Painting を委託�

無地の生地を販売�

Painting 済み布の縫製の委託�

縫製済み商品の納品�

Batik 商品の販売�

Painting 済み布の納品�

地方政府(例えば、日本では市町村、インドネシ

アでは県市)に委譲されている場合には、支部機

能を基礎的地方政府に設置することが必要である

と考えられる。地元の女性グループが、各基礎的

地方政府の「地域開発パートナーシップ」に登録

することにより、材料調達業者やバイヤー(小売

店や卸売業者)の紹介を受けることができるよう

な仕組みを構築することで、女性起業者たちの

マーケティング支援を行うことができる。例え

ば、第3章の事例DにあるBatik関連事業者の

マーケティング活動は、図表11のようになる。

基礎的地方政府には、「地域開発パートナー

シップ」支部会と協議を重ねながら、住民にとっ

て必要な行政の支援枠組み(例:「村おこし塾」、

「5年間無利子の融資制度」など)を決定してい

くことが期待される。基礎的地方政府および「地

域開発パートナーシップ」支部会は、上位の地方

政府および「地域開発パートナーシップ」本部と

連携をとりながら情報交換を行い、必要に応じ

て、上位の地方政府規模の支援(例:4県1市合

同展示会や直売会など)を行っていくことも可能

である。具体的な支援内容を検討し、実施に移す

ことが「地域開発パートナーシップ」と地方政府

に求められる役割である(図表12参照)。このよ

うな役割を担う「地域開発パートナーシップ」の

設立に向けてのコンサルティングサービスは、国

際開発援助機関が支援できる分野の一つであろ

う。

�地域開発基金の設立

地方分権が開始されても財源の委譲が伴わない

ため、地方政府では予算(特に開発予算)の不足

が深刻な問題となる場合が多い。そこで、中央政

府内に、地域開発予算を管理・運用する組織とし

て「地域開発基金」を設置する。同基金は、国際

開発援助機関からの融資受け入れ窓口としての機

能も果たし、必要に応じて上位の地方政府にソフ

トローンを提供する仕組みを確立する。同基金か

ら融資を受けた資金を利用して、上位の地方政府

は基礎的地方政府に融資を行う。その際に、「地

域開発パートナーシップ」が同基金の受け皿とな

る。

地域開発が持続性を保つためには、地域の自助

努力が不可欠である。女性の起業活動において、

債務を負うことによって行政への依存心が消滅

し、事業者に自立心が芽生えていることは、既に

第3章の事例で述べた通りである。この事実は、

マクロレベルの援助政策にも当てはまることでは

ないだろうか。

図表11 Batik商品の生産・販売のパートナーシップ

出所)現地調査をもとに筆者作成

88 開発金融研究所報

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JBIC 等�

融資�

4県1市合同�直売会�

識字学級�

ジェンダー教育・�家族計画�プログラム�

村おこし塾�

土産物�製造者は?�

登録・情報提供�

 バイヤー�(例:ホテル、� レストラン、� 貿易会社)�

融資制度�

融資�登録・�情報提供�

新しい道具�買いたい!�

エンピン�買う人?�

無地の布�売ります!�

女性起業グループ�(例:エンピン製造業者、手工芸品�製造者、Batik 製品販売者等)�

資材供給業者�(例:繊維業者)�

売買者紹介�

資機材貸与�

視察ツアー�

中央政府�(地域開発基金)�

融資�

融資� 情報交換・�定期的協議�

基礎的地方政府�(例:日本では市町村、インドネシアでは県市)�

(地域開発パートナーシップ支部)�

上位の地方政府�(例:日本では県、インドネシアでは州)�(地域開発パートナーシップ本部)�

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

(2)施設・大型機材の提供+人材育成プロジェ

クトの実施

第3章の「チェリーセンター」の事例では、名

川町が施設建設や大型機材の提供を行い、町内の

女性グループが同施設運営を任されている。この

アプローチを開発途上国への支援に当てはめてみ

ると、国際開発援助機関が開発途上国の農村女性

グループに対する施設建設と大型機材を支援し、

同施設の運営を女性グループが行うということに

なる。しかし、開発途上国の農村女性の場合、十

分な教育を受けていない女性も多く、自らで運営

方針の決定や販路開拓を開始することは困難であ

ると推測される。したがって、JICA(国際協力

事業団)が実施しているプロジェクト方式技術協

力*56(以下、プロ技)のように、施設建設と大

型機材の提供だけではなく、人材育成(運営指導

や識字教育など)やマーケティング支援も含めた

プロジェクトを実施することが効果的であると考

えられる。

しかし、プロジェクト終了後、成果の縮小や活

動の停止などの問題が生じる可能性がある。農村

女性の起業活動に自立発展性を与えるためには、

被援助国側に農村女性グループを自立的・持続的

に管理していく仕組みと行政能力が不可欠であ

る。したがって、本章で提案した地域主導型開発

の枠組み(図表12)の中でプロ技を実施すること

が望ましいのではないだろうか。JICAがプロ技

を実施する際には、地方政府に設置された地域開

発パートナーシップが同プロジェクトの統括機関

になりうるであろう。例えば日本の場合、JBIC

の円借款によって地域開発の枠組み(図表12)を

構築した後に、無償資金協力によるプロ技を

*56「プロジェクト方式技術協力」とは、専門家派遣、研修員受け入れ、機材供与をプロジェクトとして統合して実施する協力を

指す。

図表12 開発援助資金の流れと被援助国の中央・地方政府の役割

出所)国際協力銀行開発金融研究所(2003)『地域主導型経済開発戦略』などをもとに筆者作成

2003年6月 第16号 89

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JICAが実施することで、援助の相乗効果が期待

できるのではないだろうか。

(3)地方政府職員の人材育成支援

既述のような地域開発の枠組みを持続的に健全

に機能させるためには、地方政府職員の行政能力

が鍵となる。しかし、例えばインドネシアでは、

これまで30年間、原則的に中央政府から与えられ

る指示・指針に従ってきた地方政府職員は、独自

の行政を運営していく術を模索しているのが現状

である。現在は、県・市政府職員の行政能力の向

上が喫緊の課題となっている。したがって、中

央・上位の地方政府職員だけではなく、基礎的地

方政府職員に対象を絞り込んだ人材育成を支援す

ることも、国際開発援助機関に求められる支援の

一つであろう。

前項で述べた地域開発の枠組み支援や同枠組み

内でのハードとソフトの統合プロジェクト(プロ

技)の実施をJBICとJICAで役割分担を明確にし

ながら連携をとって実施することが可能であると

すれば、地方政府職員の人材育成支援もJBICと

JICAのパートナーシップのもとに実施すること

が望ましいであろう。

2003年2月には、既にJBICとJICAの連携のも

とで、ASEAN諸国から地域開発事業の計画立

案・実施に携わっている人材を招聘して、東京に

て「地域主導型地域開発セミナー」が開催されて

いる。同セミナーでは、参加者から自国の地域開

発事例が発表されただけでなく、日本側からも日

本の地方自治制度や地域開発の事例を紹介してい

る。このように、地方分権化が進む開発途上国の

地方政府職員の人材育成においては、日本の地域

開発の経験を活用することも有効であり、そのた

めには、JIBCとJICAだけではなく、日本国内の

様々な組織(地方政府、大学、研究機関、農村団

体、NGOなど)とのパートナーシップの形成が

不可欠となるであろう。

第5章 終わりに

「女は家」という伝統的な価値観のもとで、夫

の農作業の補助および家事・育児という家庭内労

働のみを担ってきた日本の農村女性たちが、家庭

内で培った技術を生かして起業するようになり、

日本の農村に新しい風が吹くようになった。起業

活動開始にあたっての女性たちのアイディアは、

ごく身近にある技術や発想から生まれたものばか

りである。家庭や地域社会との密接な関係性など

の点で、日本の農村女性による起業活動の事例

は、開発途上国の農村女性に対して多くの示唆に

富むのではないだろうか。

本稿では、インドネシアの農村女性の起業活動

を事例としてとりあげたが、日本の事例と最も大

きく異なる点は、「少しでも現金収入を得て暮ら

しに役立てたい」とい「サバイバル志向」から起

業する女性(起業せざるをえない女性)がほとん

どであるという点である。日本の農村女性は、現

金収入を第一義とした「ビジネス志向」よりも、

「自分たちの技術や能力を生かして社会の役に立

ちたい」という「こころざし志向」で起業活動を

開始することが多い。また、日本の農村女性が行

政の支援を効果的に利用している点も、インドネ

シアの農村女性とは異なる。ジョ州の農村女性

は、人材育成、機材調達、資金、マーケティン

グ、施設建設などいずれの部門においても行政や

国際開発援助機関から支援を受けずに事業を営ん

でいる。本稿で提言した行政による支援の枠組み

が、「サバイバル志向」から起業活動に携わる女

性たちの生活水準向上に少しでも寄与することを

期待して、本稿の結びとしたい。

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