輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー...

41
輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 20147

Upload: others

Post on 13-Jan-2020

3 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー

香川県赤十字血液センター所長

本田豊彦

2014年7月

Page 2: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

感染症との戦い 肝炎

輸血後肝炎の第1例報告は、1943年のBeesonの報告で、梅毒やマラリアに比べて意外とおそかった。

輸血梅毒は、1915年に第1例目の報告があり、。WW2後までに世界で数百例の報告があった。

マラリアは、梅毒より早く、1911年に第1例が報告されている。

Page 3: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

輸血後肝炎診断基準

輸血後2週間以降6ヶ月の間に

ALTが100 IU/L以上の肝機能異常が初発し、継続的に2週以上に及んだ場合、

輸血後肝炎と診断する。

1996 厚生省肝炎研究連絡協議会

Page 4: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

輸血後肝炎分類

• 輸血後B型肝炎

輸血後にHBs抗原が陽転するか、HBV-DNAが陽性化したもの

• 輸血後C型肝炎

HCV抗体が持続陽転するかHCV-RNAが陽性化したもの

• その他の輸血後肝炎症例は非B非C型肝炎として扱う

Page 5: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

除外される肝障害

• 輸血後に発生した肝機能障害であっても、原疾患に起因するGPTの上昇、手術による術後肝障害、薬剤に起因する肝障害、脂肪肝、肝機能障害を呈することが知られている肝炎ウイルス以外の既知のウイルス疾患等は除外する。

• また、当該輸血以外の経路による肝炎ウイルス感染が考慮される症例も除外する。

Page 6: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の
Page 7: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

ライシャワー事件

• 1964年3月にアメリカ駐日大使ライシャ

ワー氏が、大使館門前で暴漢にナイフで刺され重傷を負った。

• この時に輸血を受け、この輸血が元で肝炎に罹り、当時主流であった売血問題がクローズアップされた。

• そして、その後日本において輸血用血液は献血により調達されることになった。

Page 8: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

献血制度への移行

• 1968年に売血から献血に完全に移行した

• 輸血後急性肝炎は

売血時の 50.9 % から

16.2 % に減少した

Page 9: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の
Page 10: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

HBV HCV HIV感染防止対策

• 1972 HBs抗原検査 14.3%

• 1989 HBc抗体検査 および

HCV抗体検査(第一世代) 2.1%

• 1992 HCV抗体検査(第二世代) 0.48%

• 1997 500プールNAT(原料血漿)

• 1999 500プールNAT

• 2000 50プールNAT 0.001%

• 2004 20プールNAT

• 2008 新NATシステム導入(20プールNAT)

• 2012 HBc抗体価の基準強化

Page 11: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の
Page 12: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

なぜHBV感染が防げないのか

• Window期の存在

• 低濃度キャリアの存在

Page 13: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

検査法によるWindow期の相違

HBV

ウイルス 検査法 window期

HBV RPHA HBsAg 79日

HBV EIA HBsAg 59(37-87)日

HBV CLIA HBsAg 52日

HBV NAT(HBV DNA) 34日

Page 14: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

検査法によるWindow期の相違

HCV

ウイルス 検査法 window期 HCV EIA,PHA 82(54-192)日

HCV NAT(HCV RNA) 23日

Page 15: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

検査法によるWindow期の相違

HIV

ウイルス 検査法 window期 HIV EIA, PA 22(6-38)日

HIV NAT(HIV DNA) 16日

HIV NAT(HIV RNA) 11日

Page 16: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の
Page 17: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

検査の進歩でウインドウ期からの感染は減少

0

2

4

6

8

10

12

50P-NAT 20P-NAT 20P-NAT(改良)

ウインドウ期(個別NAT陰性)

ウインドウ期(個別NAT陽性)

感染既往(個別NAT陰性)

感染既往(個別NAT陽性)

1.7

2.9

1年あたりのHBV感染例数

0.6

0.6

Page 18: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

個別NAT検査

2014年8月1日開始予定

Page 19: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

個別NAT機器(中四国ブロックセンター)

Page 20: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

個別NAT機器(中四国ブロックセンター)

Page 21: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

なぜHBV感染が防げないのか

• Window期の存在

• 低濃度キャリアの存在

Page 22: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

定義

Occult HBV carrier では、

HBs抗原陰性かつHBV-DNA陽性であり、そのウイルス量は200 IU/mL以下の低濃度である。

“occult”とは、HBs抗原陰性を指す。

Page 23: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

Occult HBV carrier

HBc 抗体陽性のみの事例

Page 24: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

患者検査結果

輸血前 37日後 199日後 213日後

AST(IU/L) 23 25 113 823

ALT(IU/L) 17 14 73 677

HBV-DNA 陰性 6.8 logcopy/mL

HBs抗体 陰性 陰性

HBc抗体(IgM) 陰性 陽性

HBe抗原 陰性 陽性

HBe抗体 陰性 陰性

Page 25: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

遡及調査結果

献血日 個別NAT RCC FFP 原料血漿 HBc抗体 HBs抗体

190日前 陰性 使用済 送付済 1.3 9.5

当該献血 陽性 使用済 当該製品 1.4 4.7

106日後 陰性 使用済 送付済 9.6 7.9

202日後 陰性 使用済 送付済 8.1 4.6

500日後 陰性 PCR実施 5.6 2.0

Page 26: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

既感染例からの感染が続く

0

2

4

6

8

10

12

50P-NAT 20P-NAT 20P-NAT(改良)

ウインドウ期(個別NAT陰性)

ウインドウ期(個別NAT陽性)

感染既往(個別NAT陰性)

感染既往(個別NAT陽性)

1.7

2.9

1年あたりのHBV感染例数

0.6

0.6

Page 27: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

HBc抗体価の基準強化

HBV既感染者からの感染を防ぐ

Page 28: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

2012年8月からHBc抗体の基準を厳しくし、 HBc抗体価1.0(C.O.I)以上かつ HBs抗体価200mIU/mL未満のHBV感染既往献血者の血液を排除することとした。

Page 29: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

年代別頻度

Page 30: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

NAT陽性率

Page 31: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

遡及調査の実施

Page 32: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の
Page 33: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の
Page 34: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の
Page 35: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

輸血後感染症全数調査

岩手、大阪、愛媛、北海道、福岡の医療機関において、2003年11月から2006年12月までの期間に輸血を受けた全患者を対象に調査した。

Page 36: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の
Page 37: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

2003.11~2006.12

5道府県にて実施

NAT結果(輸血後)

HBV-DNA陽性者 73/2139(3.4%)のうち

陽転は1例のみで、

残り72例はHBVキャリアであった。

Page 38: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

輸血後感染症全数調査結果 岩手 大阪 愛媛 北海道 福岡

2003.11~2006.12

NAT結果(輸血後3か月)

HCV-RNA陽性者 150/2139(7.2%)

全例輸血前からの感染であった。

Page 39: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

輸血後感染症全数調査結果 岩手 大阪 愛媛 北海道 福岡

2003.11~2006.12

NAT結果(輸血後3か月)

HIV-RNA陽性者 なし

Page 40: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の

輸血後の検査

• 輸血副作用の内、HBV・HCV・HIV感染の有無の確認には、輸血後(3か月くらい)の血液検査が必要です。

• 輸血を受けた患者全員の検査ができるシステムが必要です。

Page 41: 輸血後肝炎対策...輸血後肝炎対策 ーその歴史と現状ー 香川県赤十字血液センター所長 本田豊彦 2014年7月 感染症との戦い 肝炎 輸血後肝炎の第1例報告は、1943年の