大学入門レベルの教科書に現れる接続詞について ·...

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Journal CAJLE, Vol. 12 (2011) 96 大学入門レベルの教科書に現れる接続詞について 佐藤 尚子 千葉大学 要 旨 本稿では、日本の大学の諸分野の基礎科目で使用される日本人大学生用 の入門レベルの教科書(以下、「大学入門レベルの教科書」とする)6 にどのような接続詞が現れるか、その頻度を、石黒(2008)の分類を用い て調査した。その結果、大学入門レベルの教科書には、「したがって」 「そこで」「しかし」「また」「つまり」「すなわち」「例えば」「特に」 「ただし」などの出現頻度が高かった。また、大学入門レベルの教科書に 現れる接続詞が初級、中級、上級の日本語教科書でどのように取り上げら れているかをみたところ、大学入門レベルの教科書に現れる接続詞を学習 するのには十分ではない状況が明らかになった。大学での学習を円滑に行 うためにも、専門日本語への橋渡し教育の中で、大学入門レベルの教科書 に現れる接続詞の総合的な学習が必要であろう。 1. はじめに 近年、大学など日本の高等教育機関(以下、「大学」とする)で学ぶ外 国人留学生(以下、「留学生」とする)が大幅に増加している (1) 。留学生 に求められる日本語力は上級以上であるが、留学生が入学する前に受けて きている日本語教育は、日本留学試験対策などが主であり、大学での専門 分野の学習に対応できるように日本語を学習してきたかというと疑問であ る。 特に、大学に入学してから、留学生が大学の授業で接する日本語の文章 は、講義や論文など、学術的なタイプの文章が多い。一方、留学生が大学 入学までに受けてきた日本語教育では、学術的なタイプの文章に接する機 会は少なく (2) 、また、日本語教育で教えられている文型の機能・用法や文

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  • Journal CAJLE, Vol. 12 (2011)

    96

    大学入門レベルの教科書に現れる接続詞について

    佐藤 尚子

    千葉大学

    要 旨

    本稿では、日本の大学の諸分野の基礎科目で使用される日本人大学生用

    の入門レベルの教科書(以下、「大学入門レベルの教科書」とする)6 冊

    にどのような接続詞が現れるか、その頻度を、石黒(2008)の分類を用い

    て調査した。その結果、大学入門レベルの教科書には、「したがって」

    「そこで」「しかし」「また」「つまり」「すなわち」「例えば」「特に」

    「ただし」などの出現頻度が高かった。また、大学入門レベルの教科書に

    現れる接続詞が初級、中級、上級の日本語教科書でどのように取り上げら

    れているかをみたところ、大学入門レベルの教科書に現れる接続詞を学習

    するのには十分ではない状況が明らかになった。大学での学習を円滑に行

    うためにも、専門日本語への橋渡し教育の中で、大学入門レベルの教科書

    に現れる接続詞の総合的な学習が必要であろう。

    1. はじめに

    近年、大学など日本の高等教育機関(以下、「大学」とする)で学ぶ外

    国人留学生(以下、「留学生」とする)が大幅に増加している(1)。留学生

    に求められる日本語力は上級以上であるが、留学生が入学する前に受けて

    きている日本語教育は、日本留学試験対策などが主であり、大学での専門

    分野の学習に対応できるように日本語を学習してきたかというと疑問であ

    る。

    特に、大学に入学してから、留学生が大学の授業で接する日本語の文章

    は、講義や論文など、学術的なタイプの文章が多い。一方、留学生が大学

    入学までに受けてきた日本語教育では、学術的なタイプの文章に接する機

    会は少なく(2)、また、日本語教育で教えられている文型の機能・用法や文

  • Journal CAJLE, Vol. 12 (2011)

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    法の説明は、小説などの物語文を分析対象とした研究から得られた知見を

    もとにしている場合も多く、学術的なタイプの文章を理解するのに十分な

    文型の機能・用法や文法を習得した上で大学に入学してきているとはいえ

    ないのではないだろうか。

    本稿では、接続詞を分析対象とし、まず、日本の大学に入学後すぐに接

    することになる日本人学生用のそれぞれの専門分野の入門レベルで使用さ

    れる教科書(以下、「大学入門レベルの教科書」とする)に現れる接続詞

    の頻度を調査する。次に、初級、中級・上級の教科書でどの接続詞が取り

    上げられているかを示し、留学生が大学で基礎的な専門教育を受ける際に、

    事前にどのような接続詞について学んでおくべきかについて提言を行う。

    2. 大学入門レベルの教科書を分析対象とする理由

    2.1 学術的なタイプの文章と大学入門レベルの教科書について

    本稿では、大学や大学院での教育や、研究など学術的な目的のために書

    かれた文章を学術的なタイプの文章と呼ぶ。

    学術的なタイプの文章について、ボウグランド・ドレスナー(1984:

    243)は「学術的テクスト」と呼び、「観察や記録に導かれた証拠を提示

    し、検討することによって、社会が保持しているある特別な領域について

    の<事実>に関する知識の蓄積を追及し、拡大し、また明示化することを

    めざしたものである」と述べている。

    また、藤井(2005: 34) は論文・報告・説明・随想など「現実世界に存

    在する事実に基づく叙述」によって構成されている文章を「論文的な文章」

    と呼び、学術的なタイプの文章もそこに位置づけられる。学術的なタイプ

    の文章の特徴として、視点の観点から、「論文的な文章」においては、表

    現者の視点と他者の視点が同化しないことが要求されるが、学術的なタイ

    プの文章では、誰が見てもそうである普遍的な判断を述べることから、表

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    現者の視点が他の無数の他者の視点と同化している場合があり、その点が、

    他の「論文的な文章」とは異なる点であることを指摘している。

    本稿で分析対象とする大学入門レベルの教科書とは、留学生が大学に入

    学して、それぞれの分野での学習の初期に触れる「○○学入門」「基礎○

    ○学」「○○学ガイド」などのタイトルを持つ教科書である。これらの教

    科書も、学術的なタイプの文章によって構成されている。ボウグランド・

    ドレスナー(1984: 243-244)は、教科書を「教訓的テクスト」と呼び、

    「社会が現在蓄積している知識以上のことに触れることはなく、すでに確

    立した知識を素人、あるいはまた向学に燃えた一般の聴衆というテクスト

    受容者に分配するのみである。この目的のためには、学術的テクストの場

    合に比べはるかに多くの、そして明確な予備知識を提示してやることが必

    要である」としている。

    2.2 本稿で大学入門レベルの教科書を取り上げる理由

    専門分野によっては一般の日本語とは異なった用法が使われる場合があ

    る(3)。大学において、論文など、専門分野特有の表現が必要な日本語の指

    導は、その分野の専門の教員が行うべきものであり、一方、日本語教育の

    教員は専門分野の入門レベルで使用される日本語が理解できるレベルに達

    するまでの日本語教育を担い、専門分野の日本語が理解できるように橋渡

    しをすることが重要な役割であると考える。専門分野では、入門レベルの

    教科書といえども、専門性を有することから、その専門分野特有の表現が

    教科書に現れることは当然であるが、入門レベルの教科書という性質上、

    知識のない読者のために配慮されて書かれているなどから、そこに現れる

    文型や文法や表現については、専門分野の日本語への橋渡しとして事前に

    教育を行うべきであろう。

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    以上の点から、大学での専門教育への橋渡しとしての日本語教育を行う

    際に、大学入門レベルの教科書の分析が有効と考え、そのデータの採取を

    行うこととした。

    3. 本稿での接続詞の定義

    石黒(2008: 27)では接続詞(4)を、「独立した先行文脈の内容を受け直

    し、後続文脈の展開の方向性を示す表現である」としている。本稿は、石

    黒の定義に従い、文と文をつなぐもの、「A および B」「A ないし B」の

    「および」「ないし」など専ら名詞と名詞を接続させるもの、「さて」

    「このように」「こうして」など段落の先頭に置かれて、先行して述べら

    れた段落と後続の段落との関係を表すものもすべて接続詞とし、分析対象

    とした。また、石黒(2008)では「第一に」「第二に」「第三に」、「ひ

    とつめ」「ふたつめ」「みっつめ」は、普通、序列を表す副詞とされてい

    るものも接続詞に含めている。これらの語は、段落内で概要を示す主題文

    ( topic sentence) (5)を受け、その内容を詳細に表す支持文(supporting

    sentence)で使われる。概要が先行することが前提であるため、これらの

    語を接続詞に含めるのは妥当であると考え、分析対象とした。

    4. 分析方法および分析対象

    4.1 分析方法

    本稿では、石黒(2008)の接続詞の分類を用いた。この分類は、まず、

    接続詞を「論理の接続詞」「整理の接続詞」「理解の接続詞」「展開の接

    続詞」に分け、それらを 2 ないし 3 に分け、さらにそれらを 2 ないし 3 に

    分け、計 22 に分類している。表 1 にその分類をまとめた。表 1 の記号は

    筆者が付したものである

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    100

    表 1 石黒(2008)をもとにした接続詞の分類(筆者の抄録による)

    接続詞の種類 代表的な接続詞 はたらき

    1.論理の接

    続詞

    ①順接の

    接続詞

    だから a.原因―結果の橋渡しをする

    それなり b.仮定をもとにして考える

    ②逆接の

    接続詞

    しかし c.前提に反することを予測する

    ところが d.強い意外感を表す

    2.整理の接

    続詞

    ③並列の

    接続詞

    そして e.複数の事態をつなげる

    それに f.既に示したものに重ねて示す

    かつ g.二つの事態を満たす

    ④対比の

    接続詞

    一方 h.対立を表す

    または i.選択を表す

    ⑤列挙の

    接続詞

    第一に j.箇条書きのように列挙する

    最初 k.順序を重視して列挙する

    まず l.箇条書きと順序の要素を持つ

    3.理解の接

    続詞

    ⑥換言の

    接続詞

    つまり m.置換を行う

    むしろ n.先行文脈を否定的に受け、後続文脈を

    肯定的につなぐ

    ⑦例示の

    接続詞

    たとえば o.具体的な例を挙げる

    とくに p.よく当てはまる例を挙げる

    ⑧補足の

    接続詞

    なぜなら q.理由の予告を行う

    ただし r.関連情報を補う

    4.展開の接

    続詞

    ⑨転換の

    接続詞

    さて s.話題や場面の切り替えを予告する

    では t.話の本題に入ることを予告する

    ⑩結論の

    接続詞

    このように u.それまで述べてきたこと内容を踏まえ

    て結論に持ち込む

    とにかく v.多様な議論にとりあえず決着をつける

    表 2 分析対象とした教科書および総ページ数、総文数 教科書名 総ページ数 総文数 1

    小出昭一郎(1997)『物理学[三訂版]』裳華房(以

    下、物理教科書とする)

    366

    3,570

    2 木田茂夫(1989)『無機化学(改訂版)』裳華房(千葉

    大学理学部教科書)(以下、化学教科書とする)

    225 2,347

    3

    西尾道徳ほか(2000)『農学セミナー 作物の生育と環

    境』(社)農山漁村文化協会(千葉大学園芸学部指定参

    考書)(以下、農学教科書とする)

    230 2,687

    4 上村保子・須藤昇(2002)『心理学ガイド』相川書房

    (千葉大学文学部教科書)(以下、心理学教科書とす

    る)

    214 2,348

    5

    清水康行(1997)『日本語表現法』(放送大学教材)

    (以下、表現法教科書とする)

    166 1,525

    6 田中成明(2000)『法学入門―法と現代社会―』(放送

    大学教材)(以下、法学教科書とする)

    239

    1,843

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    4.2 分析対象

    本稿では、次の 6 冊の大学入門レベルの教科書に現れる接続詞を分析対

    象とした。表 2 に教科書名と分析対象としたページ数、総文数を示した。

    5. 大学入門レベルの教科書に現れる接続詞

    6 冊の教科書に現れる接続詞の出現頻度を、以下の表 3~6 のように、

    「論理の接続詞」「整理の接続詞」「理解の接続詞」「展開の接続詞」の

    順にまとめて示した。出現頻度は、段落の最初に現れる場合、文頭に現れ

    る場合、文中に現れる場合、名詞と名詞を結ぶ場合、いずれも接続詞とし

    てのはたらきをしているものを 1 回と数え、その合計を記した。また、石

    黒(2008)の分類を表 1 の記号で示した。そして、出現頻度の高い接続詞

    を見るために、便宜的に出現頻度 10 以上の場合には数字に網掛けを行っ

    た。

    5.1 論理の接続詞

    表 3 に「論理の接続詞」の出現頻度をまとめた。教科書によって違いは

    あるが、「①順接の接続詞」では「そのため」「したがって」「そこで」

    の出現頻度が高かった。「そのため」は客観的に原因を表し、「したがっ

    て」は「論理関係を順に追って結論を導く過程」(市川 2010: 203)を示

    すが、これらは、ある客観的なデータを用い、結論に至るまで論を展開す

    る学術的なタイプの文章には必要度が高いと言えよう。また、「そこで」

    は「前文でのことがらに対して、後文である行為がなされるかという『状

    況から行為・行動への移行』を表す」(市川 2010: 251)接続詞である。

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    表 3 大学入門レベルの教科書に現れる「論理の接続詞」

    石黒

    による

    分類

    接続詞

    教科書

    物理学

    教科書

    化学教

    科書

    農学

    教科

    心理

    学教

    科書

    表現

    法教

    科書

    法学教

    科書

    a.

    このため 2 18 18 4 0 0

    そのため 0 18 23 4 2 15

    したがって 130 42 27 5 4 0

    それ故 0 0 0 4 0 20

    故に 10 0 0 0 0 0

    そこで 52 46 12 10 19 3

    この結果 1 2 0 0 0 0

    その結果 1 7 1 15 1 1

    だから 0 0 0 6 11 0

    b. すると 1 0 1 2 1 0

    c.

    しかし 31 87 59 73 52 89

    が 0 0 0 0 8 0

    だが 1 0 0 1 12 59

    けれども 0 0 0 0 4 17

    とはいえ 0 0 0 0 0 3

    しかしながら 0 0 0 0 0 1

    それでも 0 2 0 0 3 2

    d. ところが 31 1 2 7 8 2

    にもかかわらず 0 0 0 0 1 5

    下記の(1)の例では、ボーアの考えに問題があるという状況に対して、自

    然法則の探索がなされたということが書かれている。ある問題に対してど

    のような行為がなされたかということは、学術的なタイプの文章では取り

    上げられやすいことがらであるため、「そこで」も出現しやすいと考えら

    れる。

    (1)ボーアの考えは、水素原子以外の原子に拡張することが困難であっ

    たし、いろいろ都合の悪いこともわかってきた。そこで、量子条件

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    の背後にひそむ自然法則がいろいろな人たちによって探索された。

    (物理学教科書 p.339)(下線は筆者による)

    「②逆接の接続詞」では、すべての教科書において「しかし」の出現

    頻度が高かった。市川(1978: 70-80)は、接続語句には、省略されても文

    意が通る補助的用法を持つものと省略されにくい必須的用法を持つもの

    があり、「ところが」「しかし」は必須的用法としての傾向が強いと述

    べている。甲田(2001: 99)は文章読解における理解について次のように

    述べている。

    読み手は、文を読み進めながら理解する際に、互いに連続しているよ

    うに解釈するという偏りがある。これが生じると、読解は相対的に容

    易になる。連続性は転嫁や因果の接続詞を通して容易にもたらされや

    すい。読み手が不連続を示唆するマーカーなしに、不連続な事態に直

    面すると、読解はより難しくなる。逆接は読解の処理負担が高いので、

    接続詞の効果は高い。それに対して、因果や添加は、処理負担がそれ

    ほど高くないので、接続詞の効果は低くなる。

    「逆接の接続詞」や後述する「対立の接続詞」が使われる場合、既に読

    み終えている文と後から出てくる文が不連続な事態を表しているため、省

    略されると文意が通じなくなり、読み手の理解が難しくなる場合が多い。

    このため、逆接を表す「しかし」は文意が通じるようにするためには必須

    の接続詞であり、出現頻度が高くなると考えられる。また、この 6 冊の教

    科書の出現頻度を見る限り、「だが」「けれども」は文系の教科書 2 冊に

    は多く見られたが、心理学を含む理系の教科書では 0 ないし 1 であった。

    5.2 整理の接続詞

    表 4 に「整理の接続詞」の出現頻度をまとめた。「③並列の接続詞」

    では、「また」の出現頻度がどの教科書においても高く、「そして」の使

    用については差があった。

  • Journal CAJLE, Vol. 12 (2011)

    104

    表 4 大学入門レベルの教科書に現れる「整理の接続詞」

    石黒に

    よる分

    接続詞

    教科書

    物理

    学教

    科書

    化学教

    科書

    農学教

    科書

    心理学

    教科書

    表現法

    教科書

    法学教

    科書

    e. また 37 75 104 75 64 84

    そして 18 11 15 21 18 76

    f. しかも 7 9 9 3 5 17

    そのうえ 0 0 1 2 0 1

    それどころか 0 0 0 0 0 1

    のみならず 0 0 0 0 0 1

    g. かつ 1 0 1 1 3 1

    および 9 9 1 4 1 0

    h.

    それに対し

    (て)

    0 0 1 2 1 17

    これに対し

    (て)

    12 20 3 11 2 1

    一方 7 30 12 6 14 0

    他方 2 0 0 2 0 15

    i.

    または 5 13 3 3 1 0

    あるいは 13 14 2 25 16 5

    それとも 0 0 0 1 0 1

    ないし 2 2 0 0 0 2

    j. 第一に 0 1 2 0 8 2

    第二に 0 0 0 0 1 5

    第三に 0 0 0 0 0 2

    k. 最初に 0 0 0 0 0 1

    最後に 3 0 0 2 0 5

    はじめに 1 0 0 0 1 0

    ついで 0 1 2 2 0 3

    l. まず 10 2 5 8 16 42

    次に 14 6 0 4 6 8

    さらに 0 8 15 10 14 33

    「④対立を表す接続詞」は、教科書によって違いが見られた。5.1 で述

    べたように、「対立の接続詞」が使われる場合は、文と文の表す事態が不

  • Journal CAJLE, Vol. 12 (2011)

    105

    連続であるため、「逆接の接続詞」と同様、省略されると文意が通じなく

    なってしまう可能性が高い、必須的な用法を持つ接続詞と言えよう。また、

    「⑤列挙を表す接続詞」は、今回、調査した教科書では全体的に出現頻

    度が低かった。他の教科書に比べ法学教科書では「まず」の頻度が高かっ

    た。

    5.3 理解の接続詞

    表 5 に「理解の接続詞」の出現頻度をまとめた。

    「⑥換言の接続詞」の「つまり」「すなわち」、「⑦例示の接続詞」

    の「例えば」「とくに」、「⑧補足の接続詞」の「ただし」は、多くの

    教科書において出現頻度が高い。また、関連情報を補う接続詞も出現頻度

    が高い。山本(2005: 123)は次のように述べている。

    講義では一般に日常的に耳慣れない漢語系語彙やカタカナ語彙のキ

    ーワード的な専門用語は教員自身が難解だと強く認識しているため、

    そのまま使ったのでは日本人学生にも理解されないだろうという配慮

    が働く。その結果、必ずと言っていいほど板書したりレジュメに記載

    したり、あるいはその用語を簡単に説明したり言い換えたりするなど

    のメタ言語を使用して理解させようとする傾向が見られる。

    山本(2005)は講義でのメタ言語の使用による理解の促進について述べ

    ているが、教科書の場合も同様の傾向があるだろう。専門分野の入門レベ

    ルの教科書は、その分野の知識のない読み手にとって未知の専門用語や状

    況が多く出現するため、それを理解させるために換言、例示、補足という

    手段を用いて、読み手に具体的な例や身近な例を示して理解を促進しよう

    とする。そのため、それらを示す接続詞が多く現れると考えられる。

  • Journal CAJLE, Vol. 12 (2011)

    106

    表 5 大学入門レベルの教科書に現れる「理解の接続詞」

    石黒に

    よる分

    接続詞

    教科書

    物理

    学教

    科書

    化学教

    科書

    農学教

    科書

    心理学

    教科書

    表現

    法教

    科書

    法学教

    科書

    m.

    つまり 104 32 11 25 15 7

    すなわち 3 45 2 24 7 3

    要するに 0 1 0 0 3 3

    いいかえれば 0 1 1 0 0 0

    いいかえると 0 1 0 0 0 0

    いわば 0 0 0 0 5 0

    n. むしろ 2 7 1 0 14 11

    o. 例えば 36 91 46 98 77 43

    p. 特に 12 13 13 12 17 21

    とりわけ 0 0 1 0 0 4

    なかでも 0 3 0 0 1

    q. というのは 0 0 0 0 4 17

    なぜなら 1 0 0 4 0 3

    r.

    ただし 38 14 11 7 28 1

    ただ 2 7 1 0 5 5

    なお 17 1 8 1 19 4

    ちなみに 1 0 0 1 3 1

    そのほか 0 0 7 0 0 4

    このほか 0 0 1 0 2 0

    5.4 展開の接続詞

    表 6 に「展開の接続詞」の出現頻度をまとめた。

    それまでに述べてきた内容を踏まえて結論を示すことは学術的なタイプ

    の文章には必須である。そのため、結論の接続詞「このように」「以上」

    は、学術的なタイプの文章には必須の接続詞と言え、出現頻度が高いと考

    えられる。

  • Journal CAJLE, Vol. 12 (2011)

    107

    表 6 大学入門レベルの教科書に現れる「展開の接続詞」

    石黒に

    よる分

    接続詞

    教科書

    物理

    学教

    科書

    化学

    教科

    農学教

    科書

    心理学

    教科書

    表現

    法教

    科書

    法学教

    科書

    ⑨ s. さて 15 4 0 3 4 0

    ところで 18 1 0 4 3 1

    t. それでは 1 1 0 4 3 1

    u. このように 11 0 0 21 0 20

    以上 2 46 12 0 19 3

    以上のように 0 2 0 1 0 0

    以上より 1 0 0 0 0 0

    こうして 4 7 1 5 1 1

    結局 8 0 0 1 11 0

    というわけで 0 0 0 0 0 1

    v. いずれにしろ 0 0 0 0 0 3

    いずれにしても 0 2 0 0 0 0

    ともかく 0 1 0 0 2 0

    また、「多様な議論にとりあえず決着をつける」はたらきをする接続詞

    である「いずれにしろ」「いずれにしても」「ともかく」が少数ではある

    が、使われていた。これらの接続詞が使われるのは、大学入門レベルの教

    科書では、当該の分野に対して知識のない読み手を対象としているため、

    初心者レベルでは不必要と考えられる内容については深入りせずに、議論

    に決着をつけ、先に進もうとするからだと考えられる。以下の(2)の例

    では、確認されていない理由を述べることなく、次へ進んでいる。

    (2)SO2 を水に溶かすと H2SO3(筆者注:亜硫酸)ができるといわれて

    きたが、実際には H2SO3 が水の中に溶存していることは未だ確認さ

    れていない。いずれにしても、純亜硫酸は単離することはできない。

    (化学教科書 p.152)(下線は筆者による)

  • Journal CAJLE, Vol. 12 (2011)

    108

    一方、「多様な議論にとりあえず決着をつける」はたらきをする接続詞

    は、同じ学術的なタイプの文章であっても、その分野の専門家を読み手と

    し、書き手の主張を結論に至るまでの過程を重要視して展開していく構成

    になっている論文には出てきにくい接続詞であろう。論文は多様な議論に

    とりあえず決着をつけることは許されず、丁寧な説明が求められるからで

    ある。

    大学入門レベルの教科書は、多くの場合、留学生が最初に触れる学術的

    なタイプの文章である。いずれ書くことになるレポートや論文で用いられ

    る学術的なタイプの文章のモデル形成の最初の一歩となるものとも言える。

    大学入門レベルの教科書に現れる接続詞の多くは、論文やレポートでも使

    える接続詞である(8)。ただし、その分野の基本的な知識の伝授を目的とし

    ている教科書には、論文やレポートには現れにくい「多様な議論における

    とりあえずの決着」を表す「いずれにしろ」などの接続詞も現れる。同じ

    学術的なタイプの文章であっても、教科書と論文、レポートはその目的や

    読み手が異なっているため、接続詞の使用について違いがあることを知っ

    ておくべきであろう。

    5.5 複数の分野に共通して出現する頻度が高い接続詞

    ここまで、「論理の接続詞」「整理の接続詞」「理解の接続詞」「展開

    の接続詞」に分けて、大学入門レベルの教科書におけるそれぞれの接続詞

    の出現頻度について示した。これらの出現頻度の調査において、複数の分

    野を通して、出現頻度の高い接続詞が見られた。2 冊以上の教科書におい

    て出現頻度が 10 以上だった接続詞を表 7 にまとめた。これらの接続詞は、

    どのような分野を学ぶ場合にも出現する頻度の高い接続詞で、大学入門レ

    ベルの教科書を理解するために、まず学習しておく必要がある接続詞と言

    えよう。

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    109

    表 7 複数の分野に共通して出現する頻度が高い接続詞

    接続詞の種類 出現する頻度が高い接続詞

    1.論理の接続詞 ①順接の接続詞 このため、そのため、したがって、そこで

    ②逆接の接続詞 しかし、だが

    2.整理の接続詞 ③並列の接続詞 また、そして

    ④対比の接続詞 これに対し(て)、一方、あるいは

    ⑤列挙の接続詞 まず、さらに

    3.理解の接続詞 ⑥換言の接続詞 つまり、すなわち、むしろ

    ⑦例示の接続詞 例えば、特に

    ⑧補足の接続詞 ただし、なお

    4.展開の接続詞 ⑨転換の接続詞 (該当する接続詞なし)

    ⑩結論の接続詞 このように、以上

    6. 初級(初中級)、中級・上級の教科書で取り上げられている接続詞

    ここまで、大学入門レベルの教科書に現れる接続詞を示した。では、日

    本語学習者はこれらの接続詞をどの程度学習してきているのだろうか。こ

    こでは、初級(初中級)の日本語教科書 7 種類(6)、中級・上級の日本語教

    科書 9 種類(7)を対象とし、大学入門レベルの教科書に現れる接続詞が何種

    類の日本語教科書に学習項目、新出語彙として取り上げられているかを調

    べた(8)。表 3 の「論理の接続詞」19 のうち、日本語教科書で取り上げられ

    ているものが 13、表 4 の「整理の接続詞」26 のうち、取り上げられてい

    るものが 23 だった。また、表 5 の「理解の接続詞」19 のうち、取り上げ

    られているものが 15、表 6 の「展開の接続詞」13 のうち、取り上げられ

    ているものが 9 だった。接続詞が取り上げられている教科書のレベルおよ

    び何種類の教科書に取り上げられているかを表 8 にまとめた。複数の分野

    に共通して出現する頻度が高い接続詞として表 7 にあげた接続詞と、それ

    ぞれのレベルで半数以上の教科書の取り上げられているもの(初級(初中

    級)においては 4 冊、中級・上級においては 5 冊以上)に網掛けを行った。

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    110

    表 8 初級(初中級)、中級・上級の教科書で取り上げられている接続詞

    接続詞 初級(初中

    級)教科書

    (N=7)

    中級・上

    級教科書

    (N=9)

    接続詞 初級(初

    中級)教

    科書

    (N=7)

    中級・上級

    教科書

    (N=9)

    1.論理の接続詞 最後に 3 0

    そのため 2 3 はじめに 2 0

    したがって 0 2 ついで 3 0

    それ故 0 2 まず 4 3

    そこで 0 6 次に 1 0

    その結果 0 2 さらに 0 4

    だから 2 4 3. 理解の接続詞

    しかし 6 2 つまり 0 5

    だが 0 2 すなわち 0 3

    けれども 1 1 いいかえれば 0 2

    とはいえ 0 2 いいかえると 0 1

    それでも 0 2 いわば 0 1

    ところが 0 4 むしろ 1 1

    にもかかわ

    らず

    0 2 例えば 4 2

    2. 整理の接続詞 特に 3 0

    また 2 6 なかでも 0 1

    そして 6 2 なぜなら 0 2

    しかも 0 4 ただし 0 4

    そのうえ 1 4 ただ 0 2

    それどころ

    0 1 なお 0 1

    および 0 1 ちなみに 1 0

    それに対し

    (て)

    0 1 そのほか 0 3

    これに対し

    (て)

    0 4 4. 展開の接続詞

    一方 1 2 さて 2 4

    または 0 3 ところで 2 5

    あるいは 0 4 それでは 0 3

    それとも 0 3 このように 0 2

    ないし 0 1 以上 0 1

    第一に 0 2 こうして 0 4

    第二に 0 2 結局 2 5

    第三に 0 2 いずれにして

    0 1

    最初に 3 0 ともかく 0 1

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    大学入門レベルの教科書でも出現頻度の高い、「そこで」「しかし」

    「また」「そして」「まず」「つまり」「たとえば」は多くの教科書で学

    習項目として取り上げられている。しかし、出現頻度の高い、「このため」

    は取り上げられておらず、「したがって」「だが」「すなわち」「とくに」

    「なお」「このように」「以上」などは取り上げているものが少ない。大

    学入門レベルの教科書に現れる接続詞について学習者は部分的にしか学習

    しないで入学してきている可能性が高いことが考えられる。倉持・鈴木

    (2007:225)は、留学生の接続詞の習得状況を調査した上で、接続詞の誤

    用が多い原因として、初級の教科書での接続詞の扱いの軽さ、中級以降の

    教科書においてはいわゆる「機能語」の習得に力が注がれ、接続詞の習得

    への配慮が不足していること、取り上げる接続詞が教科書によってばらつ

    きがあることを指摘している。

    大学入門レベルの教科書に出現する接続詞と初級から上級までの教科書

    での扱いの比較においても、教科書によって取り上げられている接続詞に

    違いがあり、大学での学習に必要な接続詞を網羅的に学習するのが難しい

    状況であることが明らかになった。

    また、大学入門レベルの教科書に多く出現し、学習項目として取り上げ

    られている接続詞においても、例えば、「したがって」と「だから」「そ

    れで」、「そこで」と「それで」の混同などが起きやすいことが指摘され

    ている(市川 2010)。混同が起きないように意味・機能の丁寧な指導が

    必要であるが、どのようなジャンルの文章に出現しやすいか(9)、文と文が

    どのように連接しているかなど、実際の文、文章に触れて、どのような接

    続詞が文脈にふさわしいかを意識的に学べるような教材開発が必要であろ

    う。

  • Journal CAJLE, Vol. 12 (2011)

    112

    7. まとめ

    以上の点から、大学入門レベルの教科書に現れる接続詞と日本語教科書

    での扱いを通して、次のことが言えよう。

    1)大学入門レベルの教科書において、接続詞「したがって」「そこで」

    「しかし」「また」「例えば」「特に」「つまり」「すなわち」「た

    だし」などの出現頻度が高い。

    2)初級、中級・上級の日本語教科書において、大学入門レベルの教科書

    で出現頻度が高い接続詞が体系的に取り上げられているわけではない。

    日本語教育において、これらの接続詞の扱いは十分とは言えず、現状

    では、大学入門レベルの教科書に現れる接続詞の習得は難しい。

    3)大学での学習を円滑に進めるためにも、専門日本語への橋渡し教育の

    中でそれらを総合的に学習する必要がある。

    8. 今後の課題

    遠藤(2006)は、日本語教育で使用されている初級の教科書の文型の使

    用場面や用法、練習が極めて限られているため、学習者が当該の文型の他

    の用法に目を向けることができず、正確な理解が阻害されることを指摘し、

    教師が当該の文型の様々な用法に対して、広い知見を持ち、また、日本語

    学習を、初級・中級・上級の長いスパンで捉えることを提唱している。接

    続詞については、初級だけではなく、初級から上級までを通じて、十分な

    指導が行えていないと言えよう。学術的なタイプの文章のように学習者が

    必要とする上級レベルの接続詞を明らかにすることによって、逆にどのよ

    うな接続詞を体系的に学習したらよいか明らかになるのではないだろうか。

    本稿では、大学入門レベルの教科書の出現頻度を計量的に示すことを行

    ったため、大学入門レベルの教科書に現れる接続詞の用法について明らか

    にすることができなかった。今後は、大学入門レベルの教科書、および、

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    113

    学術的なタイプの文章に使用される接続詞のそれぞれの用法について明ら

    かにしていきたい。

    接続詞について、糸井(2003:284-285)は「文と文の関係を明示化す

    る」が、一方で、「二つの文が意味的につながっていることが理解される

    のに、必ずしも接続詞がなくてもよい」と述べている。また、塚本(2007:

    104)が「接続詞・接文語句を多用すると、文章が上滑りして、理解度が

    低下する」という指摘をしているように、接続詞は多用すればよいという

    ものではない。接続詞の意味・機能を習得しただけでは、文を産出する際

    の接続詞の適切な使用には不十分である。適切な使用を決めるのは、何で

    あるのかについても、今後、研究していく必要がある。

    * 本稿は 2009 年 8 月 15 日 CAJLE2009(カナダ日本語教育振興会による 2009

    年の年次大会)において行った口頭発表「論説文に現れる接続表現につい

    て―大学入門期の教科書を分析対象として―」の内容に補足・修正を加え

    たものである。

    1. 日本学生支援機構の平成 20 年度外国人留学生在籍状況調査によれば、平成

    20 年(2008 年)5 月 1 日現在の外国人留学生の総数は、123,829 人(前年比

    4.5%増)である。http://www.jasso.go.jp/statistics/intl_student/data08.html

    (20101206参照)

    2. 二通(2005)は、留学生対象の日本語クラスで多く使用されている中級以上

    の教科書 8冊を選び、どのようなタイプのテキストが採用されているかを分

    析している。8 冊のうち、大学や大学院に在籍している学生を対象にした

    『大学・大学院留学生の日本語①読解編』(アルク)以外で、生の学術的

    なタイプの文章を採用しているものは『中級からの日本語 読解中心』1 冊

    だけである。現状では、大学入学等以前に、学術的なタイプの文章に触れる

    機会は非常に少ないと言えるだろう。

    3. 山崎・富田・平林・羽田野(2002: 223)には、「~ていく」と「~てくる」

    の一般の日本語と科学技術日本語での表現の違いについて、次のような例が

    あげられている。

    一般の日本語では、「~ていく」は、ある時点以後の事態を問題にし、

    「~てくる」は、ある時点までの事態を問題にする表現である。しかし、

    科学技術日本語では、「~ていく」は書き手が望まない状態に変化した

    ときに使われ、「~てくる」は書き手が望んでいる状態に変化した時に

    使われる表現である。

    4. 石黒・阿保・佐川・中村・劉(2009)では、接続詞というのは品詞論上の

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    114

    概念であり、「とくに」や「さらに」など厳密には副詞と言われるものが

    含まれるなどの点から、本稿で接続詞として取り上げた語彙は接続表現と

    呼ぶのが妥当であると述べている。しかしながら、本稿では、石黒(2008)

    が接続詞という名称を用いていることから、それに従った。

    5. 「中心文」ともいう。これらについては田島・佐藤・小林(2008)に詳し

    い。

    6. 調査対象とした初級(初中級)の教科書: Situational Functional Japanese

    Vol.1 (1991)・Vol.2(1992)・Vol.3(1992)凡人社/進学する人のための

    日本語初級(1994) 国際学友会/みんなの日本語Ⅰ・Ⅱ(1998)スリー

    エーネットワーク/実力日本語(上)(1999)・実力日本語(下)(2000)

    アルク/新文化初級日本語Ⅰ・Ⅱ(2000)凡人社/中級へ行こう 日本語

    の文型と表現 59(2004)スリーエーネットワーク/J.Bridge for Beginners

    Vol.1(2007)・Vol.2(2008)凡人社

    7. 調査対象とした中級・上級の教科書:文化中級日本語Ⅰ(1994)・Ⅱ

    (1997)凡人社/日本語中級 J301(1995)スリーエーネットワーク/日本

    語中級 J501(1999)スリーエーネットワーク/進学する人のための日本語

    中級(2000)国際学友会/新日本語の中級(2000)スリーエーネットワーク

    /大学で学ぶためのアカデミック・ジャパニーズ(2001)ジャパン・タイム

    ズ/テーマ別中級から学ぶ日本語(改訂版)(2009)研究社/テーマ別上級

    で学ぶ日本語(改訂版)(2009)研究社/J.Bridge(新装版)(2009)凡人

    8. 学習項目として取り上げられているものと新出語彙として語彙表等で取り上

    げられているものを 1と数えた。文章中に特別の扱いがなく現れているもの

    は数えなかった。

    9. 石黒・阿保・佐川・中村・劉(2009)には、ジャンル別(社説・コラム・

    論文)の接続表現の出現頻度(上位 30 位)が示されている。本稿で調査対

    象とした接続詞とは違いがあるため、直接比較することはできないが、論

    文に出現する接続表現 30 位までのうち、23 は大学入門レベルの教科書にも

    見られた。

    参考文献

    石黒圭(2008)『文章は接続詞で決まる』光文社新書

    石黒圭・阿保きみ枝・佐川祥予・中村紗弥子・劉洋(2009)「接続表現の

    ジャンル別出現頻度について」『一橋大学留学生センター紀要』12、

    73-85

    市川孝(1978)『国語教育のための文章論概説』教育出版

    市川保子(2010)『日本語誤用辞典 外国人学習者の誤用から学ぶ日本語

    の意味用法と指導のポイント』スリーエーネットワーク

  • Journal CAJLE, Vol. 12 (2011)

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    糸井通浩(2003)「文章・談話研究の歴史と展望」佐久間まゆみ(編著)

    『朝倉日本語講座7文章・談話』275-297 朝倉書店

    遠藤直子(2006)「『初級文型の硬直化』を防ぐために―~テモイイ文型

    を例として―」『日本語文法』6-1, 72-87 日本語文法学会

    倉持益子・鈴木秀明(2007)「日本語学習者における接続詞の習得―留学

    生の接続詞使用状況―」『神田外語大学紀要』19, 211-234 神田外語大

    甲田直美(2001)『談話・テクストの展開のメカニズム―接続表現と談話

    標識の認知的考察』風間書房

    田島ますみ・佐藤尚子・小林佳代子(2008)「日本語文章指導に使用され

    る『中心文』という用語の問題点」『人間・自然論叢』26, 107-119 中

    央学院大学

    塚本真也(2007)『知的な科学・技術文章の徹底演習』コロナ社

    二通信子(2005)「日本語の教科書ではどのような『読み』が求められて

    いるのか―読解教材における質問の分析から―」門倉正美(代表研究

    者)科学研究費報告書『日本留学試験とアカデミック・ジャパニーズ

    (2)』127-144

    藤井俊博(2005)「物語テキストの視点と文末表現」『日本語学』24-1,

    34-49 明治書院

    山崎信寿・富田豊・平林義彰・羽田野洋子(2002)『科学技術日本語案内

    新訂版』 慶應義塾大学出版会

    山本富美子(2005)「アカデミック・ジャパニーズに求められる語彙知識

    とは ―2-4 級語彙・文法事項の重要性―」門倉正美(代表研究者)

    科学研究費報告書『日本留学試験とアカデミック・ジャパニーズ

    (2)』110-126

    R. deボウグランド・W. ドレスナー 池上嘉彦・三宮郁子・川村喜久男・

    伊藤たかね(訳)(1984)『テクスト言語学入門』紀伊國屋書店