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信号システム解析
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11 z変換とシステム特性 線形因果的時不変離散システムの重要なシステム特性、すなわち安定性と周波数特性につ
いて解析する。 11.1 離散時間システムの安定性 システムの伝達関数が、
MN,aza....zazbzb....zbzb
)z(A)z(B)z(H
011N
1NN
011M
1MM
M ≥++++
++++== −
−
−− (11.1)
で与えられるとき、システムの振る舞いはラプラス変換と同様に、極の位置により決まる。 すなわち、
実の単極: ( )npcp → (11.2a)
複素極: ( ) ( )θΩσΩσ +→∠±→± ncosc,jba n (11.2b)
多重極:
( ) ( )( ) ( ) ( ) ( )θΩσ +++++→ ncosin.....1ncn,pin.....1ncnp nni (11.2c)
となるので、
安定: [ ] N....,,2,1i,1p),n(0nh i =<⇒∞→→ (11.3a)
準安定: 1p:,1p:n0,c]n[h <≤⇒∞<≤≤ 多重極単極 (11.3b)
不安定: ( ) 1p:,1pn,]n[h ≥>⇒∞→∞→ 多重極 が少なくとも1つの単極 (11.3c)
となり、複素面上の単位円( 1z = )の内部、境界上、外部に極があるかどうかにより安定、準安定、不安定が決まる。これはラプラス平面では虚数軸の左側、軸上、右側で判定され
ていたものと良い対比をなしている。 例1:
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(1)式で 012 azaz)z(A ++= と与えられたきこのシステムが安定である必要十分条件
は、 1a,a1a 001 <+< である。根の公式より、2
a4aap 0
211 −±−
= となり、実根
)a4a( 021 > の場合には 2a4aa 0
211 <−±− より 01 a1a +< が得られ、
複素根の場合には 2aa4ja 2101 <−±− より、 1a0 < が得られるので、これ
らより与式が得られる。 図1に伝達関数の極の位置とインパルス応答の関係を示す。
11.2 周波数応答 システムの伝達関数 H(z)が与えられたとき、この周波数特性は zを
( )Tjexpz ω⇒
図1 伝達関数の極の位置とインパルス応答の関係
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と置き換えることで得られる。ここで、T:標本化間隔、ω:角周波数である。 10.4で述べたように、系の入出力が畳み込み演算で記述されている場合は
∑∞
=
=−=∗=0i
,.....2,1,0n],in[x]i[h]n[x]n[h]n[y
である。したがって入力信号として複素正弦関数を入力したとすると、
( )nTjexp]n[x ω= (11.4)
( )( ) ( ) ( )∑∑∞
=
∞
=
−⋅=−⋅=1i0i
iTjexp]i[hnTjexpTinjexp]i[h]n[y ωωω (11.5)
となる。ここで、 ( ) ( )Tj
1i
eHiTjexp]i[h ωω =−⋅∑∞
= (11.6)
と定義すると、式(11.5)は ( ) ( )TjeHnTjexp]n[y ωω ⋅= (11.7)
となる。 ( )nTjexp ω は入力信号であるので、 ( )TjeH ωは入出力の関係を表すもの
だと言える。式(11.6)において ( ) zTjexp ⇒ω の置き換えを行うと、
∑∞
=
−⋅=0i
iz]i[h)z(H (11.8)
となり、この式はインパルス応答の z変換、つまり伝達関数そのものであるので、伝達関数
において ( )Tjexpz ω= いう置き換えを行えば周波数応答が求められる。
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例2: 図2のような離散システムを考える。
)z(X)a1()z(Yaz)z(Y 1 −+= − (11.9)
より、 1az1a1)z(H −−
−= (11.10)
この系の周波数特性を求める。 ( )Tjexpz ω= とおいて、
( )Tjexpa1a1)e(H Tj
ωω
−−−= (11.11)
これを極形式で表すと、
( ) ( )( )ωθωω jexpH)e(H Tj = (11.12)
となる。 ( )ωH は振幅特性を、 )(ωθ は位相特性を表す。式(11.12)は
図2 離散システム(積分回路)
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Tcosa2a1
a1)(H
2 ωω
−+
−= (11.13a)
Tcosa1Tsinaarctan)(ω
ωωθ−
−= (11.13b)
となる。 図 3 に振幅と位相特性を示し、比較のためアナログ積分器の特性を併せて示す。当然のことであるが、離散システムでは fs(=1/T)を周期として同じ特性を繰り返す。 したがって、扱う信号の周波数範囲は 0~fs/2の範囲で有効である。これは標本化定理を反映している。図3よりこのシステムは低域通過フィルタとして働くことが分かる。
11.3 簡単なデジタルフィルタとその周波数特性 図2に示した離散的システムは低域通過フィルタとして働くことが分かった。以下ではそ
の他の簡単なデジタルフィルタを紹介する。 例3:移動平均フィルタ 図4に示す回路は入力信号を遅延させて加算させていくもので移動平均フィルタと呼ばれ
るものである。 伝達関数は、
図 3 離散積分回路の振幅と位相特性
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∑=
−
+=
M
0m
mz1M
1)z(H (11.14)
となる。従って周波数特性は、 ( )Tjexpz ω= と置いて振幅特性を求めると、
( )
2Tsin
2T1Msin
1M1)(H ω
ω
ω
+
⋅+
= (11.15)
図4 移動平均フィルタ
図5 移動平均フィルタの周波数特性
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となる。M=1,6に対する振幅特性を図5に示す。 高い周波数ほど減衰し、特定の周波数は完全に遮断される。 例4:差分回路 図6に差分回路を示す。これは高域通過フィルタの働きをするデジタルフィルタになる。 伝達関数と振幅特性は、
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛=
−= −
2Tsin2)(H
z1)z(H 1
ωω (11.16)
となる。これは図7に示すように高域通過フィルタになる。
例5:共振器
図6 差分回路
図7 差分回路の周波数特性
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図8に示した回路は離散型共振器を表わす。 伝達関数は、
22
11
21
zaza1aa1)z(H −− −−
−−= (11.17)
となり、このシステムが共振器になるのは伝達関数が複素共役極を持つときに限られる。 その条件は、
0a4a 221 <+ (11.18)
このときの振幅特性は、
( ) T2cosa2Tcos1aa2aa1
aa1)(H221
22
21
21
ωωω
−−+++
−−= (11.19)
この式において a2が1に近くかつ、a2<1 の場合、a1, a2を共振周波数 F0、共振の帯域幅
B0を用いて表すと、
( )( )TB2expa
TF2cosTBexp2a
02
001
πππ
−−=−=
(11.20)
図8 離散型共振回路
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となる。 図9に F0=1/(10T)として B0を変えたときの振幅特性を示す。
11.4 伝達関数の極零点配置と周波数特性 離散時間システムの伝達関数は、
MN,aza....zazbzb....zbzb
)z(A)z(B)z(H
011N
1NN
011M
1MM
M ≥++++
++++== −
−
−−
(11.1)
のように与えられたとき。B(z)=0 になる zを零点、A(z)=0になる zを極と呼ぶ。 これはラプラス変換と全く同じである。式(11.1)はポールとゼロを用いて以下のように表す。
( )( ) ( )( )( ) ( )pN2p1p
zM2z1z
zz..............zzzzzz..............zzzz
K)z(H−−−−−−
⋅= (11.21)
ここで、 )M,,.........2,1,0i(z zi = は零点(zero)、
)N.....,2,1,0i(z pi = は極(pole)、Kは任意の実定数である。周波数特性 H(ω)
図9 離散型共振回路の周波数特性
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は ( )Tjexpz ω= とおいて、
( )( ) ( )( )( ) ( )pN
Tj2p
Tj1p
TjzM
Tj2z
Tj1z
Tj
ze..............zezeze..............zeze
K)(H−−−−−−
⋅= ωωω
ωωω
ω (11.21)
となるので、図 10に示したように単位円を動く点を Pとし、零点までの距離をそれぞれ u1, u2, u3、極までの距離をそれぞれ、v1, v2, v3とすると、振幅特性は、
321
321
vvvuuu
)(H⋅⋅⋅⋅
=ω (11.22)
で与えられる。dB表示では、
( )321321 vlogvlogvlogulogulogulog20)(Hlog20 −−−++=ω (11.23)
となる。 位相は点 Pと零点を結ぶ直線と実軸の正の方向とのなす角を 321 ,, φφφ 、点 Pと極を結ぶ直線と実軸の正の方向とのなす角を 321 ,, θθθ とするとき、
( ) 321321 θθθφφφωθ −−−++= (11.24)
で与えられる。周波数の有効範囲は 0=ω から標本化定理により決定される、Tπω = まで
である。
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11.5 ΣΔ変調 量子化器を離散時間フィードバック回路中に配することで、高精度化を図る方法がΣΔ変
調技術である。この技術はデジタルオーディオ用や携帯電話の A/D・D/A 変換器だけでなく高精度な周波数を発生する周波数シンセサイザーなど、機器の高精度化の基本技術とな
っている。基本原理は 1960 年ころに東大の猪瀬教授により発明され、1980 年ころに現在は広島大学教授の岩田らの NTTグループにより実用的な A/D変換方式が発明・開発され本格的なデジタルオーディオ時代を迎えた。
図 10 伝達関数の極ゼロ配置と周波数特性
量子化器
1−z
入力信号Xin
出力信号Yout
1−z
-
nQ
DAC
低域フィルター
-
フィルター出力信号
Yout_FL
量子化ノイズ
量子化器
1−z 1−z
入力信号Xin
出力信号Yout
1−z 1−z
-
nQ
DAC
低域フィルター
-
フィルター出力信号
Yout_FL
量子化ノイズ
積分器
図 11 ΣΔ型 A/D変換器
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図 11に1次のΣΔ型 A/D変換器の回路を示す。量子化器で量子化ノイズ Qnを発生することを考慮すると、以下が成り立つ。
( )( ) n
1inout
out1
in1nout
Qz1XY
YzXz11QY
−
−−
−+=∴
−−
+= (11.25)
つまり出力信号 Youtは入力信号 Xinに比例し、量子化ノイズ Qnは微分されている。 このように雑音のみの周波数伝達特性を変化させることをノイズシェーピングと呼ぶ。 この効果を求める。ノイズに対する伝達関数を Hn(z)とし、振幅特性を求める。
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛=−=⎟
⎟
⎠
⎞
⎜⎜
⎝
⎛=∴
−= −
s
ff2j
ff2j
n
1n
ffsin2e1eH)z(H
z1)z(H
ss πππ (11.26)
そこでこの出力信号Youtをデジタル低域フィルターに入力して fbまで通過させるときのノイズ電力 PNを求める。
3223
s
b22
N
3
s
b
sbs
2fb
fb s
2
s
2fb
fb
2n
s
2
N
OSR312f
f2312
P
6xxxsin
2ff2
sinff
f3df)
ff
(sin4f12
df)f(Hf12
P
−
−−
⋅⋅=⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛⋅⋅=
−≈
⎟⎟⎟⎟⎟
⎠
⎞
⎜⎜⎜⎜⎜
⎝
⎛⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛
−=== ∫∫
πΔπΔ
π
πΔπΔΔ
を用いて近似すると、ここで (11.27)
となる。ここでΔは量子化サイズ、OSR は信号帯域に対するナイキスト周波数の比で、オーバーサンプリングレシオと呼ばれる。OSR を上げることで量子化ノイズが減少し、より高精度な A/D 変換が可能となる。図12にノイズシェーピングされた量子化ノイズのス
2cf
0cf周波数
ノイズのパワースペクトラム密度
bf
帯域内ノイズ
図12 量子化ノイズのパワースペクトラム
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ペクトラムを示す。ノイズシェーピングされたノイズは高域になるほどパワーが大きく、
低周波成分は小さい。 実際のΣΔ型 A/D 変換器は積分器を数段従属に接続したものが用いられる。高次のもの
ほどノイズシェーピング効果が大きく、低いオーバーサンプリングレシオで低い量子化ノ
イズ(=高い SNR)が得られる。図13に1ビット量子化器を用いた n 段のΣΔ型 A/D 変換器の SNRを示す。
例えば 3次の系で OSR=50とすれば 100dB(16bit相当)程度の高い SNRが得られる。 オーディオの信号帯域を 20kHzとすれば 2MHzの変換周波数でこの程度の SNRが得られる。ただし、実際は系の次数が高いと発振しやすくなり、安定性の確保のためポールの位
置などを調整するため、これよりも低い値となる。 ところで、図11では A/D 変換器と説明したが、入力信号をデジタル信号、量子化器をデジタル量子化器、フィルターをアナログローパスフィルターとすれば D/A変換器になる。 以上ではΣΔ型と説明したが、ΔΣ型とも言う。
図13 1ビット量子化器を用いた n段のΣΔ型 A/D変換器の SNR
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宿題 2005年7月 11日出題 学籍番号 氏名
問1 以下の系の安定性を評価せよ。
]1n[x]2n[x]n[y]1n[y]2n[y +−+=++−+
問2 以下の系の周波数特性の概略を示せ。
(1) 2
]1n[x]n[x]n[y
−+=
(2) 1z8.011)z(H
−−=
問3 右のフィードバック回路について以下
の問いに答えよ。ただしシステムの伝達関数
F(z)は以下で与えられ、Kは係数とする。
( )( )5.0z2z
Kz45
)z(F−−
=
(1) フィードバックシステムの伝達関数をもとめよ。 (2) 定数 Kが 1と 4の場合についてフィードバックシステムの安定性を判定せよ。
F(z)+
-
Y(z)X(z)
フィードバック回路