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2005年 SSM 調査シリーズ 4 働き方とキャリア形成 Work Style and Career Formation 阿形 健司 編 2005年 SSM 調査研究会 科学研究費補助金 特別推進研究(16001001) 「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」成果報告書

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2005年 SSM 調査シリーズ 4

働き方とキャリア形成 Work Style and Career Formation

阿形 健司 編

2005年 SSM 調査研究会

科学研究費補助金 特別推進研究(16001001)

「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」成果報告書

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2005年 SSM調査シリーズ 4

働き方とキャリア形成 Work Style and Career Formation

阿形 健司 編

2005年 SSM調査研究会

科学研究費補助金 特別推進研究(16001001)

「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」成果報告書

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i

刊行のことば

本書は、文部科学省科学研究費補助金(特別推進研究)「現代日本階層システムの構造と

変動に関する総合的研究」の助成を得て行われた 2005 年社会階層と社会移動調査(SSM 調

査)の研究成果報告書『2005 年 SSM 調査シリーズ』(全 15巻)のうちの一冊である。

SSM 調査は 1955 年以来 10 年毎に行われている全国調査である。このような継続性を持っ

た社会階層と社会移動に関する調査は世界に類を見ない。もちろんそれぞれの年の SSM 調

査プロジェクトは独自の研究テーマを持っているが、親や本人の階層などの基本変数は継

続的に測定されているので、長期にわたるトレンド分析が可能になる。本シリーズの中に

も、このようなトレンド分析を行っている論文が多数収録されている。

この継続性は SSM 調査の貴重な財産である。2005 年 SSM 調査研究プロジェクトでは、こ

のことを踏まえた上で、新たな方向に踏み出した。それは本格的な国際比較と若年層調査

である。本プロジェクトの基本的なねらいは、次のような問題群に解答を与えることであ

った。グローバリゼーションと新自由主義の進行する中で、労働市場の流動性は高まって

いるのか、それともそうではないのか。また高まっているとすれば、それはどの階層を流

動的にしているのか。特定の階層は保護的制度に守られて流動化していないのではないか。

このような「流動化」と「階層の固定化」という一見すると相反する問題にアタックする

ことが、本プロジェクトの基本的なテーマであった。

このテーマを追求するために、国際比較と若年層調査は不可欠であった。グローバリゼ

ーションと新自由主義はいわば普遍的な変動要因である。ただしこれらは直接的に個々の

社会の社会階層・社会移動に影響を及ぼすのではなく、それぞれの社会のローカルな制度

との相互作用を通じて、社会階層・社会移動に影響を及ぼしたり、及ぼさなかったりする。

また新自由主義や労働市場の流動化に対する人々の評価(これは公共性問題といえよう)

も社会によって異なりうる。これらの問題に答えるためには、国際比較が必要になる。し

かしあまりに異なる社会と日本を比べることは意味をなさない。そこでわれわれは、同じ

儒教文化圏に属し、教育制度も類似しているが、日本よりも早くグローバリゼーションに

さらされている韓国と台湾を比較の対象とした。

労働市場の流動化は若年層にもっとも影響を及ぼすと考えられる。フリーターやニート

の問題をはじめとして、流動化の矛盾は若年層に集中しているといえよう。この問題に関

しては既に多くの研究がなされているが、本プロジェクトでは、SSM 調査の蓄積を活用して、

社会階層と社会移動という視点からこの問題にアプローチすることにした。たとえば、誰

でもフリーターになるわけではなく、出身階層や本人の学歴によってフリーターになる確

率は異なると考えられる。このような社会階層論・社会移動論の道具を用いることで、フ

リーター・ニート問題に新しい光を当てることができるだろう。

このような理論的関心に基づいて、国際比較と若年層調査を行った。国際比較では、韓

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国と台湾の階層研究者 6 名に研究プロジェクトメンバーとなってもらい、彼ら・彼女らの

全面的な協力の下に韓国と台湾で SSM 調査を実施した。調査票は日本調査とかなりの部分

を共通にして、日本・韓国・台湾で厳密な比較分析が行えるようにした。また産業や職業

の国際比較ができるように、それぞれの社会のデータに国際標準産業分類コードと国際標

準職業分類コードを割り当てた。日本側メンバーにも東アジアの専門家がいて、膨大な時

間を費やしてくれたが、これらの作業は困難を極めた。調査票設計段階の調整から始まり、

調査票の翻訳やバックトランスレーション、調査設計の調整、コーディングにおける無数

ともいえる細かい確認事項などの作業を経て、調査データが完成した。

若年層調査も多くの困難に直面した。大阪大学の太郎丸博氏をヘッドとする若年層調査

タスクグループが実査を担当したが、低い回収率の問題や、郵送調査・ウェブ調査ゆえの

データ・クリーニング、コーディングの難しさがあった。しかし太郎丸氏をはじめとする

タスクグループの献身的な努力により、若年層調査データも完成した。

本シリーズに収録されている論文は、このような調査データの分析に基づいたものであ

る。本プロジェクトでは、8つの研究会からなる研究体制をとって、それぞれの研究会でメ

ンバーが論文構想を報告して相互にコメントをしあい、より良い論文を執筆することをめ

ざしてきた。その成果が本シリーズに集められている。これらの論文を通じて、日本のみ

ならず、韓国と台湾の階層状況に対する理解が深まることを期待する。

本プロジェクトを推進するに当たり、実に多くの方々のお世話になった。あえて一人一

人のお名前をあげることはしないが、ここに感謝の意を表します。また調査にご協力いた

だいた対象者の方々にも心より御礼申し上げます。

2008年3月

2005年 SSM調査研究会

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付記1.本研究会による刊行物のリスト

『2005年 SSM日本調査 コード・ブック』 2007年 11月

『2005年 SSM日本調査 基礎集計表』 2007年 11月

2005年 SSM調査シリーズ(研究成果報告書集)(2008年 3月刊)

第1巻

第2巻

第3巻

第4巻

第5巻

第6巻

第7巻

第8巻

第9巻

第10巻

第 11巻

第12巻

第13巻

第14巻

第15巻

三輪 哲

小林 大祐

高田 洋

渡邊 勉

阿形 健司

米澤 彰純

中村 高康

土場 学

轟 亮

中井 美樹

杉野 勇

菅野 剛

太郎丸 博

前田 忠彦

有田 伸

石田 浩

佐藤 嘉倫

編 『2005年 SSM日本調査の基礎分析

―構造・趨勢・方法―』

編 『階層・階級構造と地位達成』

編 『世代間移動と世代内移動』

編 『働き方とキャリア形成』

編 『教育達成の構造』

編 『階層社会の中の教育現象』

編 『公共性と格差』

編 『階層意識の現在』

編 『ライフコース・ライフスタイルから見た社会階層』

編 『階層と生活格差』

編 『若年層の社会移動と階層化』

編 『社会調査における測定と分析をめぐる諸問題』

編 『東アジアの階層ダイナミクス』

編 『後発産業社会の社会階層と社会移動』

編 『流動性と格差の階層論』

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『2006年 SSM若年層郵送調査 コ-ド・ブック』 2008年 3月

『2006年 SSM若年層郵送調査 基礎集計表』 2008年 3月

『2005年 SSM韓国調査 コード・ブック』 2008年 3月

『2005年 SSM韓国調査 基礎集計表』 2008年 3月

“Taiwan Social Change Survey, 2005: Social Stratification and Social

Mobility in Three Countries, User Guide and Codebook” February, 2008

付記2.文部科学省科学研究費補助金研究組織等

研究課題「現代日本階層システムの構造と変動に関する総合的研究」(16001001)

研究種目 特別推進研究

研究組織

研究代表者:佐藤 嘉倫 (東北大学大学院文学研究科教授)

研究分担者:近藤 博之 (大阪大学大学院人間科学研究科教授)

研究分担者:尾嶋 史章 (同志社大学社会学部教授)

研究分担者:斎藤 友里子(法政大学社会学部教授)

研究分担者:三隅 一百 (九州大学大学院比較社会文化研究院教授)

研究分担者:石田 浩 (東京大学社会科学研究所教授)

研究分担者:中尾 啓子 (首都大学東京都市教養学部教授)

(研究協力者については、全リストを第 15巻に掲載した。)

研究経費(単位 千円)

直接経費 間接経費 総額

平成16年度 19,700 5,910 25,610

平成17年度 186,600 55,980 242,580

平成18年度 29,400 8,820 38,220

平成19年度 32,700 9,810 42,510

計 268,400 80,520 348,920

研究発表

全リストを第 15巻に掲載。

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はしがき

本巻は、「2005年 SSM 調査シリーズ」の第 4巻にあたり、人びとの働き方や職業経歴を

研究対象とした論文を収録している。日本社会においては高度経済成長期を中心に、男性

に限っていえば学卒後に就職した企業や官公庁に長期にわたって勤めて定年を迎えるとい

う働き方が模範あるいは規範とされてきた。もちろん、当時も女性や中小企業に属する従

業員にとってはそれは典型的な働き方ではなかったことは付け加えておかなければならな

い。ところが、1990年代以降、「バブル経済」の崩壊を一つの契機として日本社会のしくみ

が大きく変わりはじめ、グローバリゼーションという名の下での国際競争の激化、労働市

場の規制緩和、失業と企業倒産の増大など働く者にとっては厳しい状況が次々と生じてい

る。人びとの働き方の側面を取りだしてみれば、長期雇用慣行の崩壊や非正規雇用の増大

が指摘できよう。こうした傾向は一言で言えば「雇用の流動化」ということになろう。

このような状況を背景として、個人にとっての働き方やキャリア形成のしかたが問われ

ている。長期雇用や安定雇用が望めないとすれば、人びとはどのようにキャリア形成を展

開しようとするのか、転職を考えたときには何を梃子にそれを実現しようとするのか、職

場のさまざまな条件下で自らの働き方をどのように組み立てていこうとするのか、これら

の問いは周辺的労働者のみならず中心的労働者と目されてきた男性大企業従業者にとって

も座視し得ない問題であるといえよう。ここに収められた論文は、必ずしもこれらの問題

に直接取り組んでいるわけではないが、転職行動、職業資格、仕事や職場の質、キャリア・

アスピレーションの多様性などの問題を多角的に検討している。

ここで本巻に収められた論文を簡単に紹介しておこう。前半の5つは、転職や職歴移動

に関する論文が、後半の3つは、働き方の問題を扱った論文が集められている。

藤本昌代は、初職が正規雇用の男性を対象に、初職を基準として転職経験者と初職継続

者との比較を行っている。そこでは、初職が大企業である者には転職による企業規模、職

業威信の低下傾向が多く見られるが、初職が中小企業である者には、転職による企業規模、

所得、職業威信の上昇傾向が見いだされている。さらに、仕事における自律度は転職者の

方が高くなる場合があり、転職による企業規模縮小は必ずしも働きがいを低減させるもの

ではないことが明らかにされている。一方、石田光規は、現職を基準に、現職へ至る転職

の際のネットワーク効果を明らかにしている。先行研究では転職におけるネットワーク効

果は大きくないことが示されてきたが、石田は人間関係のあり方という文化的側面に着目

してネットワーク効果を検討した。その結果、先行研究と同様に、ネットワークの地位達

成機能は見いだされなかったが、転職に伴う不安を解消するためのサポート源としてネッ

トワークは有効に機能していることを見いだした。浦坂純子は、職を転々とする

Job-Hopper に着目し、誰が Job-Hopperになり、何が Job-Hopperになる要因として重要

かを検討している。また、Job-Hopping によって働き方や労働条件・生活水準がどう変化

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するのかを追究している。その結果、若年層、女性、非正規、中小規模、不本意な離職と

いう特徴をもつ人びとが Job-Hopper になる傾向が高いことや、Job-Hopping が労働条件

や生活水準の低下にもつながることが明らかにされている。神林博史は、高度経済成長期

以降の日本社会における転職・離職理由の変化を分析している。そこでは、男性に多い自

発的理由の内実が、「よい仕事が見つかった」から「職場への不満」へと変化してきたこと、

女性においては「家庭の理由」が減少してきていることが明らかにされている。また、若

いコーホートほど「よい仕事が見つかった」以外の理由で転職すると収入が減少する可能

性が高いことも示されている。転職に焦点をあてた以上の 4 つの論文とは異なり、阿形健

司は職業資格に焦点をあてて職歴との関連の分析を試みている。資格の取得時期に着目す

ると、専門職は初職就業時に、熟練職は職歴形成途上で資格を取得する傾向がみられる。

資格取得を通じて職業や従業先を移動をする者は少ない。また、取得資格の種類と仕事の

内容との関係が強いのは、相対的に学歴が低い者、初職が専門職・熟練職である者、初職

就業以後に資格を取得した者であることが明らかにされている。

後半の諸論文は、職場の特性や働き方に関わる意識に重点を置いて分析している。長松

奈美江は、仕事における自律性の有無が労働時間に与える影響を検討している。分析の結

果は男女で異なり、男性では自律性が低いほど労働時間が長くなる傾向があり、女性では

関連がみられなかった。さらに、男性において、自律性の程度は企業規模や職業・産業の

労働時間に対する効果を媒介しており、高い「仕事の自律性」は長時間労働を抑制し、低

い「働き方の自律性」は長時間労働を促進することが明らかにされている。筒井美紀は、

職場における負担格差感・承認感の規定要因について検討している。「仕事量は多すぎるが、

働きぶりは認められている」人を基準として、「仕事量は多すぎる上に、働きぶりも認めら

れていない」傾向をもつのは誰か。分析によると、「就職氷河期」以降に初職に就いた者、

小規模企業や非正社員が 6 割以上を占める職場で働く女性、無配偶の正社員として働く女

性にそうした傾向が強いことが明らかにされている。SATO Yoshimichi は、日本・韓国・

台湾という社会的・経済的条件の異なる地域を対象に、将来のキャリア・アスピレーショ

ンを規定する要因の国際比較を行っている。その結果、日本では、必ずしも長期雇用シス

テムに頼った働き方を選ばない傾向が見いだされる一方で、台湾では、必ずしも自営を選

ぼうとはしない傾向が見いだされた。これらは、両地域をめぐる雇用・労働条件の一般的

な見方とは対立する結果である。

雇用環境が大きく変化する状況のもとで、私たちはどのような働き方を選びとろうとす

るのかという困難な課題を突きつけられている。ここに収められた論稿がそうした課題に

対して少しでも示唆を与えることができれば幸いである。

2008年3月

阿形 健司

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vii

2005200520052005年年年年SSMSSMSSMSSM調査調査調査調査シリーズシリーズシリーズシリーズ 4444

働働働働きききき方方方方ととととキャリアキャリアキャリアキャリア形成形成形成形成////目次目次目次目次

刊行のことば

はしがき

1 転職者と初職継続者の職業達成の比較 藤本藤本藤本藤本    昌代昌代昌代昌代 1

2 入職経路としてのネットワークの効果 石田石田石田石田    光規光規光規光規 21

3 誰が雇用を流動化させるのか―Job-Hopperの実証分析― 浦坂浦坂浦坂浦坂    純子純子純子純子 37

4 転職・離職理由の時代的変化

  ―高度経済成長期から2005年までの素描― 神林神林神林神林    博史博史博史博史 67

5 職歴形成における職業資格利用者の分析 阿形阿形阿形阿形    健司健司健司健司 85

6 長時間労働と仕事における自律性

  ―「強いられたもの」としての長時間労働― 長松長松長松長松    奈美江奈美江奈美江奈美江 103

7 職場における負担格差感・承認感の規定要因

  ―「報われない」のは誰か― 筒井筒井筒井筒井    美紀美紀美紀美紀 127

8 Formation of Career Aspirations under Structural Constraints:

A Comparative Study of Career Aspirations in Japan, Korea, and Taiwan

SATO YoshimichiSATO YoshimichiSATO YoshimichiSATO Yoshimichi 143

既発表成果一覧 159

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viii

The 2005 SSM Research Series/ Volume 4

Work Style and Career Formation

Edited by Kenji AgataKenji AgataKenji AgataKenji Agata

CONTENTS

Preface to the 2005 SSM Research Series

Preface to Volume 4

1 Comparison of the Occupational Achievement among the People

who Changed their Jobs and who Continued with their First Jobs

Masayo FujimotoMasayo FujimotoMasayo FujimotoMasayo Fujimoto 1

2 The Effects of Social Networks in Job Hunting

Mitsunori IshidaMitsunori IshidaMitsunori IshidaMitsunori Ishida 21

3 Empirical Analysis of the Frequent Job-Turnover

Junko UrasakaJunko UrasakaJunko UrasakaJunko Urasaka 37

4 Longitudinal Change of Reasons for Job Changes and Job Quits in Japan:

A Description from 1956 to 2005

Hiroshi KanbayashiHiroshi KanbayashiHiroshi KanbayashiHiroshi Kanbayashi 67

5 An Analysis of Utilizing Vocational Qualification in Career Formation

Kenji AgataKenji AgataKenji AgataKenji Agata 85

6 Working Longer Hours and Autonomy on the Job

Forced to work longer hours

Namie NagamatsuNamie NagamatsuNamie NagamatsuNamie Nagamatsu 103

7 Factors on the employees’ sense of appreciation and burden-differentiation

in the workplace -- Who is “not recompensed” ? --

Miki TsutsuiMiki TsutsuiMiki TsutsuiMiki Tsutsui 127

8 Formation of Career Aspirations under Structural Constraints:

A Comparative Study of Career Aspirations in Japan, Korea, and Taiwan

Yoshimichi SatoYoshimichi SatoYoshimichi SatoYoshimichi Sato 143

Appendix 159

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転職者転職者転職者転職者とととと初職継続者初職継続者初職継続者初職継続者のののの職業達成職業達成職業達成職業達成のののの比較比較比較比較

藤本昌代藤本昌代藤本昌代藤本昌代

((((同志社大学同志社大学同志社大学同志社大学))))

【要旨】

本稿は初職において正規雇用者であった者の従業先の移動(本稿内で転職と定義)に着目し、

移動パターン、転職規定要因の分析および初職継続者と転職者の現職における比較を行うもので

ある。分析は 4 段階で行っており、1 番目は初職入職時期による流動性の違いを分析し、2 番目

はイベント・ヒストリー分析を行い、初職継続パターンを明らかにし、離職発生確率に影響を与

える要因の分析を行っている。分析の結果、転職は初職入職数年以内に多発しやすく、企業規模

が小さいほど、学歴が低いほど起こりやすく、専門職、事務職より販売職、製造職に起こりやす

いことが明らかになった。3 番目は転職者の内的世界の分析を行い、初職離職理由のうち「よい

仕事獲得」「職場への不満」について、それぞれで第 2 職での地位移動について比較した。「よい

仕事獲得」で転職した者は職業威信、企業規模、所得、正規雇用残存率が「職場への不満」にて

転職した者より高い傾向にあった。4 番目は初職から現職までの相対的な地位移動量を転職パタ

ーンにて比較を行った。転職パターンと現職達成度の関係は、総じて大企業入職者は転職すると

規模、威信の低下傾向が多く見られるが、中小企業入職者は転職しない者の方が転職者より規模、

所得、威信が低くなる場合があった。就業観の比較を行ったところ仕事における自律度は転職者

の方が高くなる場合があった。転職は企業規模の縮小が起こりやすいが、小規模企業でも自律度

が高く、必ずしも働きがいを低減させるものではないことが示された。

キーワード:転職パターン、イベント・ヒストリー分析、職業達成、自律度

1 はじめにはじめにはじめにはじめに

近年、初職入職後、早期に従業先を変える若者や年功序列を越えた人事の例を目にする中、

終身雇用慣行、年功序列の人事制度を残した企業も多い。また企業が非正規雇用の従業員で

雇用調整を行う今日において、正規雇用者の就業行動も変化しているかもしれない。長らく

同一企業に長期勤務した者にメリットが与えられる終身雇用制度の中、ことに大企業に雇用

される人々の就業行動は、長期間の勤務を選択する傾向があった。また現在、若年層の早期

退職が社会問題として取り上げられているが、約 40年前に出版された本にも「近年増加した

と言われる転職のケースをみると、その大部分が入社してまもない、たとえば二~三年内の

若年層に集中している。彼らの場合は、まだ社会的資本の蓄積が低く、転職による損失が少

ないためである」(中根 1967:56)と述べられており、まるで現代の状況を観察しているよう

な描写がなされている。

就業者の職歴移動の先行研究からは、就業に関する階層の影響が析出されており、従業先

1

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を移動する者は移動しない者に比べて事業所規模の縮小や昇進機会の減少が起こりやすく、

移動により不利な状況になる可能性が高いことが知られている。たとえば、佐藤嘉倫(2000)

によれば戦後の労働市場の二重構造は、大企業と中小企業とで分かれており、参入障壁は市

部出身者より郡部出身者に大きく立ちはだかる。濱中義隆・苅谷剛彦(2000)によれば、初職

における大企業への入職のしやすさには学歴、学校ランク、父階層などの影響があり、さら

にセカンドジョブの職業達成には初職が影響している。山口一男(2006)によれば、30 歳まで

に初職を離職する者は中小企業に多く、初職が専門職、事務職以外の職種に多い。山口は 1975

年、1985年、1995年の SSMデータを用いてクロスセクショナルな分析を行い、30歳までの

従業先の移動の変化と 30歳以降の従業先の移動の少なさに時代の変化がないこと、初職が専

門職でなかった者の転職において、専門職化が 1995年データに見られたことなどを明らかに

している。企業規模を越えた参入障壁の存在、セカンドジョブへの初職の影響、就業安定期

での行動など、これら先行研究の知見を踏まえ、本稿では転職者と初職継続者とを比べた場

合、現職達成にどのような違いが表れるのかということについて検討を行う。なお、本稿で

は初職において正規雇用であった者の定年を想定する時期よりも前(詳細は後述する)の従

業先の移動を「転職」と位置づける。

2 分析分析分析分析枠組枠組枠組枠組みみみみ

2.1 4 段階段階段階段階のののの分析手順分析手順分析手順分析手順

転職に対する検討は、次の 4 つの段階で行う。1 番目は、初職からの移動パターンを転職

回数別に検討する。「日本の大企業は 2 回以上の転職者を嫌う」と、ある職業斡旋者1が語っ

たが、企業の人事担当者2も新卒を想定した人事制度を多く語り、2001 年に行った専門職の

流動性に関するインタビュー調査3でも中途採用者は極めて少ないとのことであった。このよ

うに日本の社会では複数の従業先での就業経験は、経験豊富とは見なされず、腰の据わらな

いジョブホッパーと受け取られがちであった。しかし、この数年は団塊の世代の退職を予期

し、即戦力獲得のために中途採用者を例年より多く採用する企業も増えている4。そこでまず

始めに、社会的流動性の時代的特徴を把握するために、初職入職時期別に転職回数の分析を

行う。

1 番目には転職パターンとして回数に着目して分析するが、2 番目では転職時期、離職の起

こりやすさに着目する。同じ 1 回の転職であっても終身雇用制度で長期勤務の後、定年退職

1 高レベルスキルのホワイトカラー専門のヘッドハンター(50代男性)へのインタビューより(2002年) 2 大手家電メーカーの人事担当者(40代男性)へのインタビュー(1997年) 3 多くの研究所をもつ通信系の大企業の中央研究所の人事担当者(40代男性)(2001年)他 4 社も中央研究

所の人事担当者でいずれも 40代男性。 4精密計測機器メーカーの人事担当者(50代男性、2005年)、情報通信機器メーカーの人事担当者(40代男

性、2007年)へのインタビュー。

2

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した人が次の仕事に就く場合、初職入職後数年で転職する場合、初職で中堅のベテランとな

ってから転職する場合とでは、第 2 職の達成度が大きく異なるだろう。そこで、イベント・

ヒストリー分析を用いて時間の経過とともに、どのようなパターンで初職継続率が変化する

のか、またどのような属性の就業者に離職が起こりやすいかについて検討する(ここでは長

期無業になる者を含めて分析するため、無業者を含む分析の場合、離職と呼ぶ)。始めにカプ

ラン・マイヤー法により、生存率曲線を描き、離職の発生と時間の関係を属性別(企業規模、

職種、学歴、初職入職コーホート)に示し、その後、COX の連続変数ハザードモデルにより、

転職を規定する要因について分析を行う5。

転職回数、初職継続率の変化、離職発生確率の分析から転職が起こりやすい属性が明らか

になったところで、3 番目は転職者の内的世界に着目する。ここでは転職者の離職理由で最

も多い自発的転職の「よい仕事が見つかった」と「職場への不満」の両要素について分析を

行う。転職の動機が初職よりも第 2 職が「よい仕事」と考えられるのは、どのような要素が

移動する時であろうか。また「職場への不満」がある場合、ストレスからの解放のために何

が初職より下降するのか。そこで、それぞれの第 2 職の達成を経済的地位移動として所得の

変動、職業的地位の移動として職業威信スコア、所属組織の地位(大企業の成員であるとい

う地位)と就業先の安定性として企業規模、雇用の安定性として正規雇用率の 4 つの指標に

て比較を行う。離職理由とこれらの移動指標から、転職者が何を選択して職業移動を行った

のかを分析する。

4 番目は、転職で変動傾向にあった項目に着目し、初職から現職への達成が初職継続者と

転職者でどのような違いがあるかについて比較を行う。ここでは移動の相対性に着目して分

析を行う。それは地位の移動に対する満足度は、以前の自己や準拠集団との相対性の中で得

ると考えられるため、絶対的な地位より相対的な移動量の方が転職者にとって重要であると

想定したためである。最後に就業観に関わる項目を転職パターン別に比較し、初職継続者と

転職者の意識がどのように異なるのかを検討する。

本稿では、これら 4段階の転職に関する分析により、(1)初職入職時期による流動性の違い、

(2)初職からの離職が起こるパターンと離職が起こりやすい属性、(3)「よい仕事」と評価され

る第 2 職での地位移動の要素、(4)初職から現職への達成と転職パターンとの関係および転職

者の就業観について明らかにすることを目的とする。

2.2 分析分析分析分析データデータデータデータ

5 イベント・ヒストリー分析は生存分析とも呼ばれ、医学分野では患者の生存時間分析、工学では工業製品

の信頼性分析などで用いられている。死亡というリスクが発生する確率の予測法が、ハザード分析と呼ばれ

るゆえんであるが、この分析方法は社会科学でのライフイベントの発生確率の分析にも応用され、女性のラ

イフコース研究や転職に関するイベント・ヒストリー分析を用いた研究が行われている(山口 2001-2002, 2006;津谷 2001,2002; 平尾 2005;中井 2005)。

3

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本稿では 2005年 SSM日本調査の留置A票データ6を用い、分析の対象は次のように設定す

る。正規雇用の初職に就いた経験をもつ男性の 50歳未満の就業期間中の転職経験を対象とす

る。初職入職者の対象者年齢は 35歳未満とした7。就業観察期間を 50歳未満としたのは定年

を想定した転職と区別するためである。対象者年齢の上限については、1950年以降に初職に

入職した者とする8。またイベント・ヒストリー分析では、非時間依存変数(初職入職時点よ

り後に起こる事象を含む変数を加えない)として学歴を用いることから、初職入職年齢より

最終学歴の修業期間終了年齢が大きいサンプルは除外した9。本分析ではこのケースを除外し

たが、山口(2006)も分析しているように近年、欧米のように若年層の専門職化による職業

移動が見られ、初職入職後の再教育と就職の関係や退職後の生涯教育の状況など、最終学歴

と初職入職の関係を分析することで、より詳細に把握できると思われる。なお、女性の職歴

移動は就業上の男女格差、結婚、出産など男性より複雑な要因が多く含まれるため、別途詳

細な分析が必要であり、本稿では継続的な就業を典型とする男性票に限定した。

3 転職経験別転職経験別転職経験別転職経験別のののの属性比較属性比較属性比較属性比較

3.1 使用変数使用変数使用変数使用変数のののの説明説明説明説明

第 3 節では転職経験別の属性比較を行う。用いる変数は以下の通りである。初職入職コー

ホートは、生年に初職入職年齢を加えて入職年を作成した後、C1:1960年以前、C2:1961-1970

年、C3:1971-1980年、C4:1981-1990年、C5:1991年以降という 5 つのグループに分類し

た。転職回数は前職と従業先が異なる職歴移動があった場合に加算して作成されたものであ

るが、次のケースの場合、別処理を行った。無業期間は 1 年以内を転職として扱い、それを

越えた場合(たとえば退職してから長い無業期間を経て、再度職歴移動票が存在するような

場合)、「再就職」ととらえ、「転職」とは扱わない(太田 2002)。転職回数の加算は職歴移動

票のうち新しい従業先への移動年齢が 50 歳未満である場合に限り、50 歳を越えてからの転

職は加算していない。サンプルが 2005年調査時点で 50歳を越えていても 50歳までの就業に

おける転職情報のみに限定されたデータを構築した。属性比較用のデータとして、職業10は

専門職、事務職、販売職、製造職の 4 分類の変数を使用する。事業所規模は、1:1 人~29

6 データヴァージョン Ver.14.2(第 4 次配布 データ日付 2007年 11月 27日版) 7初職の正規雇用での入職年齢については、近年の若手研究者の就職難(いわゆるポスドク問題)を考慮に

入れ、35歳未満とした。本サンプルにおいて男性の初職・正規雇用者の初職入職最高年齢は 34歳である。 8 1946年以降の戦後体制下で就業した者(2005年調査時点で 74歳)を対象としたところ、本サンプルにお

いて正規雇用就業経験者の男性の最高年齢は 2005年調査時点で 70歳、すなわち 1950年初職入職者であっ

たため。 9 男性&初職正規雇用者&74 歳以下 2118名中 122名。したがって本分析で用いる最終的な対象者は 1996サンプルである。 10職業分類については、三輪哲氏(東京大学)の職業 8 分類作成シンタックスを使用させて頂き、さらに初

職で管理職、内職に就いた者を除き、半熟練、非熟練を製造職としてまとめ、専門、事務、販売、製造の 4分類とした。

4

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人、2:30 人~299人、3:300人~999人、4:1000人以上、5:官公庁の 5 分類の変数を使

用する。学歴は中学校・高校、高専・短大、大学・大学院の 3 分類の変数を使用する。

3.2 初職入職初職入職初職入職初職入職コーホートコーホートコーホートコーホート別転職経験別転職経験別転職経験別転職経験

以下の表 1 は、初職入職コーホート別に転職経験を示したものである。C1は転職経験者が

多く、50 歳まで初職に勤め続ける者は 28%のみであり、C2 以降の入職コーホートと傾向差

が顕著に表れている。C2の初職定着者は 43%であり、C3の 42%と類似している。C4は C2、

C3より初職定着者がやや少なく 39%である。転職を 1 回行った者の比率は、C1 が最も多く

33%であり、次いで C4 が 32%と多い。C1、C4 の定着者の少なさ、C2、C3 の定着者の多さ

から、C1 は戦後復興期の終身雇用慣行が形成されるまでの過渡期に入職したコーホート、

C2、C3は高度経済成長期に入職し、最も終身雇用慣行が定着したコーホート、C4はバブル

期の雇用拡大期に入職したコーホートという特徴が見て取れる。C5は初職継続者が 53%と最

も多いが、このサンプルの中には就業期間が 10 年以内の者が 47%含まれており、今後転職

する可能性が多く含まれているためと考えられる。

3.3 転職経験別初職就業期間転職経験別初職就業期間転職経験別初職就業期間転職経験別初職就業期間

本項では就業年数を転職経験別に概観する。表 2 に示

すのは初職就業期間の平均値である。転職経験のない者

は現在就業中や 50 歳まで転職していないサンプルも入

っていることから、修業期間が最も長い。転職 1 回、2

回、3 回以上と初職転職後の就業期間は全て 10年以内で

あり、転職回数が多くなるほど就業期間は短くなる傾向がある。

3.4 属性別転職経験属性別転職経験属性別転職経験属性別転職経験

本項では属性別に転職経験を示し、転職傾向の違いを概観する。学歴別で比較すると、中

学・高校卒者の初職への定着者が 35%と最も低く、次いで高専・短大卒者が 55%、大学・大

学院卒者が 58%と、学歴が上がるごとに初職定着者が増えている。専門性が高い高専卒者は

大学卒者に近い。また大学院卒者の 37%が就業 10年以内であり、大学・大学院卒者の初職

C1:1960年以前

C2:1961年-1970年

C3:1971年-1980年

C4:1981年-1990年

C5:1991年以降

転職なし 28.2 43.0 42.4 39.3 58.0 42.1転職1回 33.3 25.1 23.8 31.5 21.3 26.9転職2回 17.5 14.4 14.8 13.3 12.2 14.4転職3回以上 20.9 17.5 19.0 16.0 8.5 16.6合計 354 479 420 400 343 1996

100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

表1 初職入職コーホート別転職経験             (%)

転職回数初職入職コーホート

合計

平均(年) (N )転職なし 21.6 840転職1回 8.1 537転職2回 5.4 288転職3回以上 4.3 331合計 12.7 1996

表2 転職経験別初職就業期間

5

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継続率には就業年数の短さも影響していると考えられる。職業別に比較すると、専門職は 58%、

事務職は 62%と、初職定着者が多く、販売職は 37%、製造職は 31%と定着者が少ない。こと

に製造職は転職 2 回、3 回と複数回従業先を変更する者の比率が高い。事業所規模別に比較

すると、事業規模が大きくなるほど初職の定着者が多くなり、299 人以下と 300 人以上の企

業で定着率の差が見られる。官公庁の定着者は最も多く、75%の定着率である。初職におい

て 299人以下の中小企業に従事した者は、複数回転職を重ねる者が多く、転職 3 回以上の者

が 20%以上存在する。

4 初職初職初職初職のののの就業就業就業就業継続継続継続継続パターンパターンパターンパターンとととと離職発生確離職発生確離職発生確離職発生確率率率率

4.1 使用変数使用変数使用変数使用変数のののの説明説明説明説明

本節で行うイベント・ヒストリー分析は、イベント発生までの期間を連続した時間として

測定したものを従属変数に用いる「連続時間モデル(continuous-time model)」で行う(津谷

2001)。具体的には初職入職年齢を起点とし、転職するまでを算出した就業期間とする。分析

には従属変数の分布に特定のハザード関数を仮定しない COX の比例ハザードモデル(Cox

proportional hazard model)を用いて行う。イベント・ヒストリー分析は、あるイベントの発

生に影響を与える要因を分析するという点で重回帰分析と類似しているが、扱えるデータの

中にまだ転職を行っていない(今後行う可能性がある)サンプルを除外せずにセンサー・デ

ータ(censor data)として生存率の計算に含めることができる。センサー・データとは調査

時点でイベントが発生せず、継続している状態で調査が打ち切られたデータや調査期間内に

何らかの理由で追跡が不可能になったような場合の打切りデータを指す。これはイベントが

発生する可能性が始まってから時間軸に沿って右側に起こるセンサー・データを指すが、こ

転職なし 転職1回 転職2回 転職3回以上 合計 (N )最終学歴 中学・高校 34.9 28.0 16.3 20.8 100.0 (1359)

高専・短大 54.5 31.8 6.8 6.8 100.0 (44)大学・大学院 57.6 24.0 10.6 7.8 100.0 (592)学歴計 42.1 26.9 14.4 16.6 100.0 (1995)

職種 専門職 57.9 24.2 12.3 5.6 100.0 (252)事務職 62.0 21.0 9.0 8.1 100.0 (432)販売職 36.5 31.3 15.1 17.1 100.0 (304)製造職 31.2 28.8 16.9 23.0 100.0 (964)職種計 42.3 26.9 14.3 16.5 100.0 (1954)

事業所規模 1人~29人 16.8 36.3 21.0 25.9 100.0 (499)10人~299人 34.4 28.6 16.3 20.7 100.0 (521)300人~999人 50.0 25.7 12.3 11.9 100.0 (268)1000人以上 57.5 22.1 9.9 10.5 100.0 (475)官公庁 74.8 12.9 7.6 4.8 100.0 (210)規模計 41.9 26.9 14.5 16.7 100.0 (1973)

表3 最終学歴、初職(職種・事業所規模)別転職経験        (%)

6

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れには左側、つまりいつから始まったかわからないものもある。本分析では初職から転職が

起こるまでの就業継続時間を従属変数とするが、分析対象者のうち初職入職年齢がわからな

い者は存在しないため、左センサリングの処理が必要なサンプルはない。センサー変数は、

転職が発生した場合を 1、打ち切りであった場合を 0 とする。

16回分の職歴移動票中、初職からの従業先の移動、もしくは打ち切り対象となるまで転職

情報を検索し、第 2 職情報が存在した時点で転職情報の構築作業は終了し、その後は転職回

数の加算、転職継続のまま調査時点を迎えたサンプルの就業期間算出のみとした11。2005年

の調査時点まで一度も転職が発生しなかったサンプルも就業期間を算出した後、センサー・

データとした。1 年以内の無業期間があった場合、職歴移動票から離職理由、離職年齢だけ

を抽出し、前職の就業期間の算出を行い、前職情報は無業情報で上書きしないよう維持した

まま、次の従業先の前職情報として保持し、離職理由のみを更新した(無業の職歴移動票の

次の職歴移動票には離職理由がセットされていないため)。1 年を越える無業期間があった後、

次の従業先があった場合は、転職ではなく、再就職として扱い、前職の就業期間を算出した

後、センサー・データとした。たとえば初職入職後、長期の無業を経て、再就職したサンプ

ルの場合、転職回数はゼロとなり、センサー・データとなる。

転職時の入職年齢が不明なサンプルは、前職の就業期間および転職先での就業期間を計算

することが不可能となるため、サンプルから除外した。なお、以前、勤務経験のある従業先

に戻った場合、1 年以内の無業の場合は転職と見なさず、また異なる従業先で就業した後、

以前の従業先に戻った場合は転職として加算している。独立変数は全て非時間依存変数を用

い、初職入職の時点でどのような属性であった者に離職が発生しやすいかを分析する。初職

の事業所規模、職業、学歴、初職入職コーホートについてはダミー変数を作成した。

4.2 初職継続初職継続初職継続初職継続率率率率

ここでは初職の継続傾向をカプラン・

マイヤー法により離職発生ごとに計算さ

れた生存率をカテゴリー別に図示して視

覚化する。図 1 に示すのは、事業所規模

別初職継続率であり、5 年を越えた頃か

ら 29 人までの小企業に従事する者の転

職が増加するが、20年経過すると各企業

規模とも初職継続率は横ばいとなる。官

公庁への従事者は一貫して就業継続率は

11 実際には第 3 職情報も構築しており、第 2 職以降の分析も可能であるが、本分析には用いていない。

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34

図1 事業所規模別初職継続率

1人~29人 30人~299人 300~999人

1000人以上の大企業 官公庁

7

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最も高い。

図 2 に示すのは、職業別初職継続率で

あり、入職後の早い時期から製造職、販

売職の転職は起こりやすく、事務職、専

門職に初職継続傾向が見られる。徐々に

時間と共にその就業継続率の開きは大き

くなり、10年以上就業期間が経過すると

離職率は共に低くなり、平行したまま推

移する。

図 3 に示すのは学歴別就業継続率であ

り、中学・高校卒者には初職入職数年以

内に多くの転職が発生している。短大・

高専卒者の初期の傾向は大学・大学院卒

者と類似パターンを示すが、5 年、10 年

と経過する間にやや大学・大学院卒者よ

りも継続率が下がる。

図 4 に示すのは初職入職コーホート別

初職継続率であり、いずれのコーホート

においても入職 10 年以内は類似したパ

ターンを示している。近年の若年層のみ

ならず、他のコーホートでも転職は入職

数年の間に多発している。しかし、10年

を越えた頃から C1と C2の就業継続率は

より下がる傾向に、C3と C4はそれより

やや上回った就業継続率で定着する傾向

がある。C5 は就業 10 年以内の者を多く

含むため就業継続率が高めになっている

と考えられる。

4.3 離職発生確率離職発生確率離職発生確率離職発生確率をををを規定規定規定規定するするするする要因要因要因要因

前項では就業継続率の変化を概観した

が、本項でさらに離職が起こる発生確率

を規定する要因について、COX のハザー

ドモデルを利用して分析を行う。表 4 に

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34

図2 職種別初職継続率

専門 事務職 販売職 製造職

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34

図3 学歴別初職継続率

中学・高校 高専・短大卒者 大学・大学院卒者

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 23 25 27 29 31 33 35

図4 初職入職コーホート別初職継続率

C1:1960年以前 C2:1961年-1970年 C3:1971年-1980年

C4:1981年-1990年 C5:1991年以降

8

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示すのは分析に用いる独立変数の記述統計量であり、表 5 に示すのは推計結果である。以下、

表 5 から離職発生確率を検討する。学歴では大学・大学院卒者より中学・高校卒者に離職が

発生しやすい。企業規模では 299人以下の中小企業に離職が発生しやすく、大企業は発生し

にくい。職業では事務職に比べて専門職、販売職、製造職と離職が発生しやすくなる。これ

らの傾向から高学歴、大企業、ホワイトカラーの低流動性がうかがえる。初職入職コーホー

トでは C2 は離職しにくく、終身雇用慣行がこのコーホートで定着したことがわかる。初職

入職経路では家業を継ぐ者に離職が起こりにくいが、そのほかの入職経路の要因は離職発生

に有意な影響を及ぼさない。初職産業では、鉱業、運輸業、卸・小売業、新聞・広告業、法

律・会計サービス業に離職が発生しやすく、教育・研究サービス業には離職が起こりにくい。

離職が発生しやすい産業分野の特徴は、労働時間と所得の産業分布の中で平均より労働時間

が長く、平均より所得が低いところに位置することである(藤本 2007)。本稿では産業分野

との関係について詳細な分析を行っていないが、流動性との関係には産業分野も合わせて分

析する必要があろう。

平均値 (最小、最大) 平均値 (最小、最大)中学・高校卒 0.68 (0,1) 初職入職経路・民間の職業紹介所 0.01 (0,1)高専・短大卒 0.02 (0,1) 初職入職経路・直接応募 0.11 (0,1)大学・大学院卒※ 0.30 (0,1) 初職入職経路・家業 0.01 (0,1)初職1人~29人 0.24 (0,1) 初職入職経路・起業 0.01 (0,1)初職30人~299人 0.25 (0,1) 初職入職経路・従業先からの誘い 0.02 (0,1)初職300人~999人 0.13 (0,1) 初職・農業 0.01 (0,0)初職・1000人以上 0.24 (0,1) 初職・鉱業 0.00 (0,1)初職・官公庁※ 0.10 (0,1) 初職・建設業 0.10 (0,1)初職・専門職 0.13 (0,1) 初職・製造業 0.35 (0,1)初職・事務職※ 0.22 (0,1) 初職・電・ガ・水 0.01 (0,1)初職・販売職 0.15 (0,1) 初職・運輸業 0.05 (0,1)初職・製造職 0.48 (0,1) 初職・卸・小売業 0.14 (0,1)初職入職コーホート1(1960年以前) 0.18 (0,1) 初職・金融・保険業 0.03 (0,0)初職入職コーホート2(1961-1970年) 0.24 (0,1) 初職・不動産業 0.01 (0,1)初職入職コーホート3(1971-1980年) 0.21 (0,1) 初職・新聞・広告業 0.01 (0,1)初職入職コーホート4(1981-1990年) 0.20 (0,1) 初職・情報通信業 0.00 (0,1)初職入職コーホート5(1991年以降)※ 0.17 (0,1) 初職・郵便 0.00 (0,1)初職入職経路・家族紹介 0.14 (0,1) 初職・医療・福祉サービス業 0.01 (0,1)初職入職経路・知人紹介 0.13 (0,1) 初職・教育・研究サービス業 0.03 (0,1)初職入職経路・先輩紹介 0.03 (0,1) 初職・法律・会計サービス業 0.01 (0,1)初職入職経路・学校紹介 0.48 (0,1) 初職・その他サービス業 0.09 (0,1)初職入職経路・職業安定所 0.03 (0,1) 初職・公務※ 0.07 (0,1)レファレンスには※を付加 サンプル数 1724

表4 初職離職のイベント・ヒストリー分析モデルの独立変数の記述統計量

9

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5 転職経験別初職転職経験別初職転職経験別初職転職経験別初職からからからから現職現職現職現職へのへのへのへの変化変化変化変化のののの比較比較比較比較

5.1 使用変数使用変数使用変数使用変数のののの説明説明説明説明

本節では転職の有無によって現職の達成がどのような差となって表れるのかを検討する。

分析には初職から第 2 職への移動と初職から現職への移動について比較するため、職歴移動

票をもとに従業先の変更ごとに構築された変数群を用いる。初職で内部昇進した後、転職を

行った場合、初職入職時の情報ではなく、転職直前の職歴移動票の情報を保存し、前職と第

B 標準誤差 Exp (B)中学・高校卒 0.21 0.09 1.24 *高専・短大卒 0.07 0.24 1.07初職1人~29人 0.72 0.14 2.05 **初職30人~299人 0.33 0.14 1.39 *初職300人~999人 -0.11 0.15 0.90初職・1000人以上 -0.41 0.14 0.66 **初職・専門職 0.34 0.14 1.41 *初職・販売職 0.37 0.12 1.45 **初職・製造職 0.49 0.11 1.63 **初職入職コーホート1(1960年以前) -0.14 0.11 0.87初職入職コーホート2(1961-1970年) -0.19 0.11 0.83 #初職入職コーホート3(1971-1980年) -0.11 0.11 0.90初職入職コーホート4(1981年ー1990年) 0.07 0.11 1.07初職入職経路・家族紹介 -0.14 0.14 0.87初職入職経路・知人紹介 0.13 0.14 1.14初職入職経路・先輩紹介 -0.12 0.19 0.88初職入職経路・学校紹介 0.11 0.12 1.11初職入職経路・職業安定所 0.17 0.19 1.19初職入職経路・民間の職業紹介所 0.04 0.30 1.04初職入職経路・直接応募 0.04 0.15 1.04初職入職経路・家業 -3.11 1.01 0.04 **初職入職経路・起業 -0.18 0.40 0.84初職入職経路・従業先からの誘い -0.24 0.25 0.78初職・農林漁業 0.04 0.28 1.04初職・鉱業 0.81 0.41 2.24 *初職・建設業 0.11 0.15 1.12初職・製造業 0.18 0.14 1.20初職・電・ガ・水 -0.20 0.38 0.82初職・運輸業 0.33 0.18 1.40 #初職・卸・小売業 0.33 0.15 1.39 *初職・金融・保険業 0.37 0.23 1.45初職・不動産業 0.31 0.44 1.37初職・新聞・広告業 0.52 0.31 1.69 #初職・情報通信業 -8.20 67.99 0.00初職・医療・福祉サービス業 -0.08 0.32 0.93初職・教育・研究サービス業 -0.90 0.30 0.41 **初職・法律・会計サービス業 0.45 0.38 1.57 #初職・その他サービス業 0.16 0.15 1.17

# p<.10 * p<.05 **p<.01

表5 初職転職のイベントヒストリー分析

  -2LL  16145.25   A45χ2(自由度) 407.01(38)   サンプル数 1724

10

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2 職の比較に用いる。たとえば事業所規模は初職情報を使用するが、役職、従業上の地位、

所得に関しては、直前の職歴情報を構築し、第 2 職との比較が行えるようにした。初職から

第 2 職への達成の比較には、それぞれの職業威信スコア、従業上の地位、事業所規模(官公

庁を除く)、所得移動情報(1:増加した、2:減少した 3:変化なし)の変数を用いる。な

お、使用データは、これまで分析してきた 70歳以下のデータから 2005年調査時点で、定年

を想定した転職を行う世代、既に退職した世代を除き、49歳以下のデータに限定する。

5.2 初職初職初職初職離職理由別離職理由別離職理由別離職理由別第第第第 2 職職職職へのへのへのへの地位移動地位移動地位移動地位移動のののの比較比較比較比較

初職離職理由が明らかな 359人の対象サンプルのうち離職理由は、「定年、契約期間の終了」

0.8%、「倒産、廃業、人員整理」9.5%、「よい仕事獲得」34.8%、「結婚・育児」7.5%、「家業

を継ぐため」11.70%、「職場に対する不満」35.7%という構成であり、「よい仕事獲得」と「職

場に対する不満」がそれぞれ 3 分の 1 ずつを占める。そこで以下では「よい仕事」と「職場

不満」という理由で移動した第 2 職について初職からの変化を次の項目で比較する。「よい仕

事」と想定される要素の指標として、移動による職業地位達成として威信スコア、移動によ

る従業上の地位の維持として正規雇用残存率、移動による経済的効果として所得の変化(増

加、減少、変化なしのうち増加率を比較)、移動による就業継続の安定性の獲得として事業所

規模の 4 つの項目の比較を行ったものが表 6 である。

「よい仕事」と「職場不満」を比較すると、初職の職業威信スコア(T 値 2.0,p<.01)、第

2 職の職業威信スコア(T 値 3.2,p<.01)の両方で「よい仕事」の方が「職場不満」より有

意に高く、初職の職業威信の差は第 2 職への移動で、より拡大している。職業威信の高い者

は転職によって職業威信が上がり、低い者は転職によって職業威信が下がるということにな

る。従業上の地位では「よい仕事」で離職した者の正規雇用残存率が 88%であるのに対して

「職場不満」で離職した者は 77%とやや低い。所得の移動では「よい仕事」の方が「職場不

満」より増加した者が多い。事業所規模では「よい仕事」の方が「職場不満」に比べて初職

より大きな事業所に参入する比率が高い。

「よい仕事」を獲得した者は 4 つの全ての項目で「職場不満」で離職した者よりもよい状

況で転職していることが示された。これら「よい仕事」を獲得して転職した者と「職場不満」

よい仕事獲得 職場に対する不満職業威信スコア 初職 50.87 49.95

第2職 51.64 48.41従業上の地位 第2職正規雇用残存率 110(88%) 98(76.6%)所得 所得移動増加率 86(69.4%) 71(55.9%)規模 規模移動拡大率 31(36.0%) 24(26.4%)学歴 中学・高校卒者 77(33.9%) 89(39.2%)

大学・大学院卒者 35(43.8%) 18(22.5%)

表6 初職離職理由別第2職への移動内容

11

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で転職した者の学歴比率を確認すると、「よい仕事」を獲得している者の中に高学歴者が多く、

「職場不満」で離職した者の中に中学・高校卒者が多い。中途採用の労働市場にあっても学

歴格差が影響を及ぼしていることがわかる。

しかし、規模の拡大はいずれも高い比率ではなく、「よい仕事」のうち 52.3%、「職場不満」

のうち 61.5%が事業所規模の縮小となっている。これらのことから人々が転職の際に「よい

仕事」と考えるのは、企業規模の移動にかかわらず所得の増加や職業威信の上昇があった場

合ととらえることができる。前節までに分析してきた中で、転職者は初職より事業所規模が

縮小する傾向があり、離職発生確率規定要因としても事業所規模は大きな要素であったが、

事業所規模の縮小にかかわらず、所得や職業威信が向上する転職は、人々に「よい仕事獲得」

と受け止められている。そこで、以下では初職継続者と転職者の現職達成として職業威信、

所得事業所規模および就業観の比較を行い、果たして転職が就業者にどのような状況をもた

らすのかを分析する。

5.3 転職転職転職転職パターンパターンパターンパターン別現職達成別現職達成別現職達成別現職達成のののの差差差差

5.3.1 使用変数使用変数使用変数使用変数のののの説明説明説明説明

現職達成は、初職からの相対的な移動量を比較に用いる。従属変数として用いるのは初職

と現職の職業威信と事業所規模の差分である。独立変数の転職パターンは 3 つのグループ

(1:転職なし、2:10 年以上初職就業後転職、3:初職を 10 年以内に転職(就業経験 10 年

以上)。就業経験 10年未満の者は分析から除外した)により構成されている変数を用いる。

その他には初職職業、初職事業所規模、学歴を用いる。

5.3.2 事業所規模事業所規模事業所規模事業所規模のののの相対相対相対相対差差差差

表 7 は事業所規模の相対差を従属変数とした分散分析表である。転職パターンも初職事

業所規模も主効果があるが、交互作用があるため図 5に初職継続者と転職者の違いを示す。

転職者で事業所規模が相対的に上昇しているのは、29 人以下の小企業出身者のみである。

初職に 10 年以上従事した場合と 10 年以内に転職した場合との違いは、初職継続者との差

平方和 自由度 平均平方 F 値修正モデル 370.21 11 33.66 61.65 **切片 78.53 1 78.53 143.84 **転職パターン 62.78 2 31.39 57.49 **初職事業所規模 192.98 3 64.33 117.83 **転職パターン*初職事業所規模 139.59 6 23.26 42.61 **誤差 397.44 728 0.55総和 804 740修正総和 767.65 739** p < .01 R2乗 = .482 (調整済みR2乗 = .474)

表7 事業所規模の相対的達成の分散分析表

12

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よりも小さい。299人以下の中企業

は転職による影響がほとんどなく、

10 年以内に転職した場合、やや減

少するものの、10 年以上従事した

後の転職は、初職とほとんど同じ

レベルにある。そして、初職の事

業所規模は大きくなるほど、転職

による規模縮小比率は大きい(初

職に留まる期間にかかわらない)。したがって 299人までの中小企業従事者の転職は、事業

所規模の減少というデメリットは少なく、初職が 300 人以上の企業従業者の転職は事業所

規模の減少というデメリットがあるといえる。ただし、中小企業の転職者においても事業

所規模が著しく大きくなる傾向は見られず、微増であるため、中小企業と大企業の労働市

場の二重構造は現在も維持されていることが伺える。

5.3.3 職業威信職業威信職業威信職業威信のののの相対差相対差相対差相対差

初職の職業威信と現職の職業威信での相対的な差を比較したものが表 8 である。初職職業、

学歴、転職パターンと主効果があるが、3 要因の組み合わせに交互作用があるため、以下に

中学・高校卒者の傾向を図 6、大学・大学院卒者の傾向を図 7 に示す。図 6 に示すように中

学・高校卒者の事務職に転職の影響があり、初職継続者の方が、転職者よりも現職の職業威

信が高いことがわかる。専門職は 10年以上初職に従事した後、転職した者が、初職継続者よ

り高い職業威信に到達している。10年以上の従事という中期の転職は、中学・高校卒の専門

職の職業威信を高めることが示された。販売職、製造職の職業威信には転職による大きな違

いは見られない。いいかえれば、これらの初職に就いた者は、転職を行っても、より高い職

業威信の職業の獲得はできていない。

図 7 に示すように、大学・大学院卒者では転職の影響はそれぞれの職種に見られる。最も

-3.00

-2.00

-1.00

0.00

1.00

転職なし 初職10年以内 初職10年以上

図5 初職事業規模から現職事業所規模の相対的移動

1人~29人 30人~299人 300人~999人 1000人以上

平方和 自由度 平均平方 F 値修正モデル 7983.32 31 257.53 5.51 **切片 33.06 1 33.06 0.71初職職業 2603.01 3 867.67 18.56 **学歴 366.72 2 183.36 3.92 *転職パターン 720.53 2 360.26 7.71 **初職職業 * 転職パターン * 学歴 3845.01 24 160.21 3.43 **誤差 38933.54 833 46.74総和 48884.46 865修正総和 46916.85 864* p < .05 ** p < .01 R2乗 = .170 (調整済みR2乗 = .139)

表8 現職職業威信の相対的上昇の分散分析表

13

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外部労働市場で通用する知識や技能を

もつ職種といわれる専門職は、転職に

より職業威信が下がる傾向にある。10

年以内の早期転職者よりも、10年以上

初職に従事した後に転職する専門職の

方が威信の低下が著しい。反対に事務

職は 10 年以上初職に従事した後に転

職した者は、初職継続者、10年以内の

早期転職者よりも高い職業威信を達

成していることがわかる。さらに事

務職では、早期転職者と初職継続者

の職業威信に差はなく、初期の転職

は威信の低下を招いていない。販売

職は初職継続者より転職者の方が高

い職業威信に到達しており、早期の

転職者の方がより高い職業威信とな

っている。製造職は 10年以内に初職

から転職した者が最も高い職業威信

に到達しており、初職で 10年以上従事した後に転職した者の現職は、初職継続者よりも低い

職業威信となっている。図 7 からは最も転職に有利と考えられた専門職が職業威信において

最も威信低下のデメリットを受けていたことが示された。日本では、専門職の転職が他職に

比べて少ない傾向があるが、本分析では、早期転職、中期転職においても専門職の職業威信

が低下することが確認され、職業威信においては専門職の転職はデメリットが大きいことが

明らかになった。また組織人の典型とされる事務職の早期転職、中期転職による高威信の達

成など他の特徴的な点もいくつか示された。

5.3.4 現職所得現職所得現職所得現職所得のののの差差差差

表 9 は現職所得の差に関する分散分析表である。所得に関しては初職の収入が不明である

ため、相対差ではなく、現職での所得の比較を行っている。転職者と初職継続者の現職の所

得の分散には学歴の主効果があったが、転職パターンとの間に交互作用が認められたため、

図 8 にその関係を示す。中学・高校卒者は初職継続者の方が、転職者より所得が高い傾向が

ある。高専・短大卒者は 10年以内の早期に転職した者は初職継続者より所得が下がる傾向が

あるが、10 年以上初職に従事した後に転職した場合は、初職継続者よりも所得が高くなる。

大学・大学院卒者は転職者と初職継続者の差はほとんどないが、10年以上初職に従事した後

-12.00

-8.00

-4.00

0.00

4.00

8.00

12.00

転職なし 10年以内で転職 10年以上で転職

図7 大学・大学院卒者の現職の職業威信の転職による相対差

専門 事務 販売 製造

-4.00

-2.00

0.00

2.00

4.00

転職なし 10年以内で転職 10年以上で転職

図6 中学・高校卒者の現職の職業威信の転職による相対差

専門 事務 販売 製造

14

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に、転職した者の所得はやや高くなる傾向がある。いずれにしても大学・大学院卒者は転職

による所得の低下は少ない。

5.3.5 仕事仕事仕事仕事にににに対対対対するするするする自律自律自律自律度度度度

仕事に対する意識の中で自己裁量の確保、仕事の自律度は働きがい、就業上の魅力として

重要な要素と考えられるため、ここでは仕事に対する自律度を転職者と初職継続者で比較す

る。比較に用いるのは「自分の仕事の内容やペースを自分で決めることができる」という項

目であり、カテゴリーは 4:かなりあてはまる 3:ある程度あてはまる 2:あまりあては

まらない 1:あてはまらない の 4

件法の評定尺度である12。表 10に示す

のは仕事自律度に関する分散分析表で

ある。仕事の自律度に対しては転職パ

ターンと初職職業の両方に主効果が見

られた。転職パターンと初職職業の間

には交互作用もあるため、図 9 にその

関係を示す。転職パターンによる自律

度の違いは、専門職に表れており、転

12 調査票は 1 から「かなりあてはまる」が始まり、4 が「あてはまらない」となっているが、逆順で作成し

なおしている。

2.00

2.50

3.00

3.50

4.00

転職なし 10年以内に転職 10年以上後転職

図9 職業別、転職パターン別仕事自律度比較

専門 事務 販売 製造

平方和 自由度 平均平方 F 値修正モデル 63.41 8 7.93 11.10 **切片 747.59 1 747.59 1046.44 **転職パターン 2.17 2 1.08 1.52学歴 46.23 2 23.12 32.36 **転職パターン *学歴 8.16 4 2.04 2.85 *誤差 560.10 784 0.71総和 6095 793修正総和 623.51 792* p < .05 ** p < .01 R2乗 = .102 (調整済みR2乗 = .093)

表9 現職所得の分散分析表

平方和 自由度 平均平方 F 値修正モデル 25.36 11 2.31 2.39 **切片 3253.77 1 3253.77 3367.37 **転職パターン 5.96 2 2.98 3.08 *初職職業 14.73 3 4.91 5.08 **転職パターン *初職職業 11.04 6 1.84 1.90 #誤差 821.32 850 0.97総和 7501 862修正総和 846.68 861# p<.10 * <.05 ** p < .01 R2乗 = .030 (調整済みR2乗 = .017)

表10 現職仕事自律度の分散分析表

15

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職者の方が初職継続者より自律的だと感じており、ことに初職に 10年以上従事した後に転職

した専門職は、より自律度が高いと感じている。それに対して製造職は 10年以上初職に従事

した者が転職した場合、やや自律度が下がると感じている。専門職はより専門性が高まった

状態で移動することでその専門性が発揮されやすい環境に移動することが予測され、製造職

は 10年以上従事した職場での自律度に比べ、新しい職場では新参者として習得すべき技能が

必要となり、自律度が下がると予測される。事務職は早期に転職した者の自律度が下がる傾

向にあるが、中期に転職した者と初職継続者とは変わらない。販売職は転職者の方が初職継

続者よりもやや自律度が高まる傾向にあった。

6 まとめまとめまとめまとめ

本稿では転職に着目して 1950年以降に正規雇用された男性の 50歳までの転職の分析を行

ってきた。分析の結果、(1)「初職入職時期による流動性の違い」では戦後復興期の入職コー

ホートとバブル期の入職コーホートの初職定着率が低く、戦後復興期のコーホートには複数

回の転職も多く見られた。(2)「初職からの離職が起こるパターンと離職が起こりやすい属性」

については、事業所規模別比較では官公庁、1000人以上の大企業は、初職継続率が高く、事

業所規模が小さくなるほど初職継続率が低下する傾向があった。ことに 299人以下の中小企

業では、初職入職数年以内の早期転職が顕著に見られた。職業別では事務職、専門職の初職

継続率が高く、販売職、製造職の初職継続率が低いことが示された。販売職、製造職の転職

は、初職入職後数年以内に多く発生していた。学歴別では大学・大学院卒者、高専・短大卒

者の初職継続率が高く、中学・高校卒者の初職継続率の低さが示され、中学・高校卒者の転

職は初職入職後数年以内に多く発生していることが明らかになった。入職コーホート別では、

戦後復興期入職コーホートとバブル期入職コーホートの初職継続率が低いが、全てのコーホ

ートにおいて入職数年以内に転職が発生しやすい傾向があった。初職入職経路では家業を継

ぐ者以外は初職継続に効果があるものはなく、産業別では教育・研究サービス業が転職が起

こりにくい傾向があった。転職が起こりやすい産業は鉱業、運輸業、卸・小売業、法律・会

計サービス業、新聞・広告業であり、これらは労働時間が平均より長く、所得は平均より低

い。今後、流動性の分析については産業と就業者の関係も分析を行う予定である。

転職の起こりやすさに加え、転職がどのような理由で発生するのかに着目し、(3)「初職か

ら第 2 職への離職理由の分析」を行ったところ、「よい仕事獲得」と「職場に対する不満」が

それぞれ 3 分の1ずつ占めており、非自発的転職は約 10%であった。離職理由のうち「よい

仕事」と「職場不満」で第 2 職の達成の違いを比較すると「よい仕事」であった場合、「職場

不満」より、経済的地位の上昇、職業的地位の上昇、雇用の安定性を達成した者が多かった。

この「よい仕事」と「職場不満」の離職理由の学歴構成比率を確認すると「よい仕事」を獲

16

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得した方に高学歴者が多く、「職場不満」に低学歴者が多かった。初職での職業に学歴格差が

存在し、さらに第 2 職での労働市場でも前職より悪条件に移動せねばならないのは低学歴者

であった。しかしながら第 2 職への転職者で「よい仕事」とした者の半数以上が、転職によ

る事業所規模の減少を経験していることから、人々にとっての「よい仕事」は大企業の安定

性や名声だけを指すものではないと考えられる。

(4)「初職から現職への達成と転職パターンとの関係」について、初職から現職への達成を

経済的地位、職業的地位、雇用の安定性の観点から転職パターン別に相対的移動量の比較を

行ったところ、転職は事業所規模の縮小に影響を与えるが、299 人以下の中小企業では転職

による規模縮小の影響はなく、大企業からの転職者に大きな影響を与えることが明らかにな

った。また職業威信の達成では専門職以外の職種において、転職が職業威信の相対的向上に

寄与していた。専門職の職業威信の相対的上昇が見られなかったのは、初職で既に職業威信

が高いため、現職との相対的な差が微少になりがちであり、大幅な上昇は見込めないためと

考えられる。大学・大学院卒者の中で専門職は、転職により、企業規模と職業威信が下がる

傾向があるが、事務職は早期の退職では初職継続者と変わらぬ威信を達成し、10年以上初職

に従事した後、転職した場合は、初職継続者より威信が高まる傾向にある。大学・大学院卒

者の転職パターンの中では、専門職と事務職の傾向が特徴的であった。現在の日本の社会で

は、専門職の流動性をうながす要素は見あたらない。

就業者の仕事に対する自律度の項目を分析すると、専門職と販売職は転職者の方が初職継

続者より自律度が高い。転職は「よい仕事」を獲得しても初職より事業所規模が縮小する傾

向があるが、職業威信は相対的に上昇することが多く、転職は肯定的に受け止められている。

人々は組織の規模以上に職業の威信に動機づけられるのかもしれない。また他律的に労働が

強いられるのではなく、自律的に働けることは「労働」の中で重要な要素であり、それは高

学歴者、大企業従事者だけに存在するものではない。転職者の抱く自律感は、転職による事

業所規模の縮小によっても得る機会があると考えられる。それは規模の縮小は組織のヒエラ

ルヒーの縮小を意味し、大企業のような分業が困難となり、個人に期待される役割も多重な

ものとなる。そのために大きな歯車の 1 つに過ぎない作業から、多くを担う役割に手応えを

感じることができ、自律度が高まるのではないだろうか。300 人以上の企業より 299 人以下

の企業従事者(p<.01)が、また大学・大学院卒者より中学・高校卒者の方が自律度が高いと

回答している。大企業と中小企業の間には参入障壁が存在し、大企業への入職には高学歴者

に有利な状況がある。しかし、自己選択の転職を分析する中で見えてきた個人は、企業規模

の低減を承知した上で、場合によっては所得の減少が起こっても、より職業威信が高い職業

への就業や自律性を感じられる仕事を選択している。Richard Scott(2001)は、個人を社会

化されるだけの、あるいは制度の影響を一方的に受けるだけの受動的な存在ではなく、環境

からの影響と自ら合理的選択を行う部分を併せ持つ能動的な存在であるとしている。転職者

17

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の行動や意識からは、社会制度の影響を受けるだけの受動的な個人ではなく、拡大や上昇と

いう経済的合理性のパラダイムを時として選択しない能動的な個人の姿を読み取ることがで

きるのである。

【文献】

藤本昌代. 2007. 「産業・労働問題と世代論 ― 「豊かさ」の産業間格差 ―」『フォーラム現代社会学』

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スカッション・ペーパーシリーズ. 04-J-044.

Comparison of the Occupational Achievement among the People who Changed their

Jobs and who Continued with their First Jobs

Masayo Fujimoto

(Doshisha University)

This paper shows the analysis of the job change for those people who start their first jobs as

regular employers. Analysis was executed by four different viewpoints. At first, patterns of changing the

job were examined according to the year when they first entered the job. Second, with the event history

analysis, the continuing patterns of first job were made clear. Third, the reasons why they changed the

jobs were analyzed. Fourth, with the pattern of job changes from their first job to present job, how their

relative status changed were analyzed. With these analyses, following facts were found. The people who

change their job easily, are those who work for a short period, work in at a medium and small-sized

companies and work as blue-collar workers. The situation of the people who change a job are different by

18

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the case of “the people who found a good job” at the next job, or “the people who quit due to

unsatisfactory circumstances”. The people who were joined in a good job tended to join larger corporation

and increased their income. On the other hand, those people who quit from unsatisfactory jobs tend to

shift to smaller businesses and smaller income. In many cases, the change of job shifted their work to

smaller businesses. But they feel better autonomy than those people who didn't change the first job. We

recognized that those people who shifted to a smaller business did not lose a motive to work.

Keywords: pattern of change of the job, event history analysis, occupational achievement, autonomy

19

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入職経路入職経路入職経路入職経路としてのとしてのとしてのとしてのネットワークネットワークネットワークネットワークのののの効果効果効果効果

石田光規石田光規石田光規石田光規

((((大妻女子大学大妻女子大学大妻女子大学大妻女子大学))))

【要旨】

本論は入職経路としてのネットワークの機能の解明を目的としている。当該の研究は

Granovetterの論文を端緒に多数なされてきた。しかし、日本では、それほど思わしい結果が得ら

れておらず、むしろ、ネットワークは転職にあたり、ほとんど機能していないという結論のほう

が妥当である。だが、これまでの研究には 2 つの見落としがある。第一は、ネットワークの効果

の検討にあたり、諸個人のキャリアの状況を考慮してこなかったこと、第二は、ネットワークの

機能を地位達成という側面からのみ追究してきたこと、である。本論は、そうした欠点を見直す

ために、まず、第一の問題、第二の問題に焦点を当てた仮説、すなわち、コンティンジェンシー

仮説と文化的差異仮説を構築し、それからデータ分析を行った。

分析の結果、日本での転職においてネットワークは機能しないのではなく、不安を解消するた

めのサポート源として役立っていることが明らかになった。すなわち、倒産や解雇などの不足の

事態に直面した人々が、満足のいく仕事を見つけるために役立っているのである。そして、こう

した機能を持つゆえに、日本では血縁関係の役割が極めて重要になっていた。この効果は、人間

関係を、諸個人の道具的資源としてではなく、互恵的な仲間として捉える日本の文化的特質を表

しており、文化的差異仮説を支持するものである。

キーワード:ネットワーク、転職、入職経路

1 問題問題問題問題のののの所在所在所在所在

国際化、情報化、少子高齢化といった社会の変動は、日本企業の体質に変化を促している。

それに付随して、これまで日本企業の特質とされてきたシステム、すなわち終身雇用や年功

序列の揺らぎが指摘されるようになった。こうした事態の到来は、人々が企業に人生設計を

委ねるのではなく、自らの手で能力を磨き「キャリア」を開拓してゆく必要姓を示唆してい

る。近年、流行している「エンプロイヤビリティ」の議論などは、まさにその典型であろう1。

このような議論の中、転職の経路としてのネットワークへの注目が高まっている。すなわ

ち、人々に有用な職をもたらすと指摘される「弱い紐帯」への注目が高まっているのである2。

例えば、玄田(2004)は、「幸福な転職」の条件として、「会社の外にできるだけ多くの信頼

1 エンプロイヤビリティとは、企業が雇うに値するだけの個々人の能力を指す。こうした能力が強調される

ことは、すなわち、「雇用は経営者の責任ではない、個人側にその機会を獲得する責任がある」(川喜多 2006)と想定する時代の到来を示唆している。また、キャリア研究では、近年、諸個人が自らのキャリアを積極的

にデザインする「キャリアデザイン」の必要性が喧伝されている(高橋 2000; 金井 2002)。 2 弱い紐帯の研究の詳細については次節を参照されたい。

21

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できる友人・知人をもつこと」(玄田 2004: 79)をあげている。しかし、こうした言説とは

裏腹に、日本での転職に際するネットワークの効果を検討すると、「ネットワークの効果はあ

まり見られない」とする議論が多くを占める3。

この原因は、これまで転職とネットワークに関する実証研究が、①キャリアにおける様々

な状況を考慮してこなかったこと、②Granovetterの研究を端緒としたアメリカ産の仮説を専

ら射程に置いてきたこと、の二点から考えられる。そこで、本論では、まず、上記の二点を

検討し、転職とネットワークに関する仮説の再構築を行う。それから、日本での転職におい

て人的経路、すなわちネットワークがいかなる役割を果たしているのか実証的に検討してゆ

く。

2 先行研究先行研究先行研究先行研究のののの整理整理整理整理

2.1 転職時転職時転職時転職時におけるにおけるにおけるにおけるネットワークネットワークネットワークネットワークのののの効果効果効果効果にににに関関関関するするするする研究研究研究研究

転職手段としてのネットワークの働きに焦点を当てたのは、転職情報の経路としての「弱

い紐帯の強み」(The strength of weak ties)に着目した Granovetter(1973, [1974]1995=1998)

である。彼は、「行為者と接触頻度の少ない(弱い)関係にある他者(知人)は、行為者と異

なった社会圏で生活する可能性が高いゆえ、情報伝達の機能を果たす」という仮説を立て、

転職の事例を用いて実証的な検討を行った。その結果、転職を行う人々の大半はネットワー

クを通じて就職情報を得ており、その中で弱い紐帯が有用な機能を発揮していることが明ら

かになった。

Granovetterの研究が発表された後、転職とネットワークの研究は、彼が見出した知見の確

認という方向で進められた。すなわち、「弱い紐帯」は収入や地位の面で恵まれた転職をもた

らすのか、そもそも転職のさいのネットワークの活用は効果を持つのか、という方向で進め

られたのである。しかし、そのいずれの研究においても、ネットワークの効果はそれほど明

確でなく、また、一貫してもいない4。こうした状況は日本においても例外ではない。そこで

次項では、日本における転職とネットワークの研究の現状を振り返り、それから、そこに内

在する問題点および本論における研究仮説を議論していこう。

2.2 日本日本日本日本におけるにおけるにおけるにおける転職転職転職転職ととととネットワークネットワークネットワークネットワークにににに関関関関するするするする研究研究研究研究 3 日本での議論および研究の詳細については次節を参照されたい。 4 例えば、中国では、弱い紐帯でなく強い紐帯が効果的だと言われている(Bian 1997)。また、アメリカの

研究でも、弱い紐帯はそもそも効果を持たないという知見も存在する(Bridges & Villemez 1986)。さらに、

アメリカ、ドイツ、オランダに住む人々の初職と現職に対する入職経路の効果を検討した(ドイツは現職の

み)De Graaf & Flap(1988)の分析を見てみると、そもそもネットワークの利用自体が、威信の高い職業の

獲得に結びついていないことが明らにされている。彼らの分析では、オランダでの初職とドイツでの現職の

威信に対して、ネットワークの利用はマイナスの効果を示していた。これらの知見のばらつきは、転職に際

するネットワークの効果について、まだまだ検討すべき余地が残されていることを示している。

22

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日本における転職とネットワークに関する先駆的研究は、南関東に住む男性労働者を分析

した渡辺(1991)の研究である。この研究を通じて渡辺は、日本での転職においては、弱い

紐帯よりもむしろ強い紐帯が有効であることを明らかにした。彼はこの理由を日本とアメリ

カの間に潜む文化的差異から論じている。すなわち、「義理に基づいた相互の援助関係」(渡

辺 1991: 12)が支配的な日本では、同類的な関係のほうが効果をもちやすく、そのため、強

い紐帯が有効だと述べているのである。しかし、それ以降の研究を参照すると、日本におい

て、転職の際にネットワークを活用することの意味合いは大きい、と積極的に論じる根拠は

ほとんど見出せない。

例えば、佐藤(1998)は 1995年の SSM調査のデータを利用して、初職と現職の威信に対

する入職経路(学校関係、個人的紐帯、血縁関係、直接参入)の効果を分析した。その結果、

個人的紐帯や血縁関係を利用した就職は、初職の威信に対してマイナスの効果を持っており、

現職に対しても有効な効果を示さないことが明らかになった。東京都に住む正規雇用者を対

象として、入職経路の効果を検討した石田(2003)の研究においても、ネットワークを利用

した人は、求人・広告や公共施設などを通じて労働市場に「直接参入」した人に比べ、規模

の小さい企業に就職する傾向が確認されている。また、(財)連合総合生活開発研究所が実施

した「勤労者のキャリア形成の実態とアイデンティティに関する調査」の転職者 1875名のデ

ータを分析した蔡と守島(2002)の研究においても、人的経路の活用は望ましい転職をもた

らさないという結果が示されている。

例外的に、ネットワークの効果が見られた研究としては、日本労働研究機構(現、労働政

策研修・研究機構)が 2002年に東京都心から半径 50km以内に在住する 30~49 歳の人々に

対して実施した「転職意識に関する調査」の結果があげられる(日本労働研究機構 2003)。

この研究では、転職における人的ネットワークの活用が収入に対してプラスの効果をもつと

報告されている。しかし、その効果は統計的検定の有意水準を 10%としたときに見られるの

みである。したがって、この研究から、日本においてネットワークを通じた転職が、高地位

あるいは高収入をもたらすと積極的に論じることは難しい。

こうした知見を参照すると、転職時におけるネットワークは、少なくとも日本においてほ

とんど効果を持たないと結論づけられる。しかし、本当にそう言ってよいのだろうか。そこ

で、次項では、これまでの転職とネットワークの研究の問題点を指摘し、本論で検討してゆ

く仮説を提示する5。

2.3 これまでのこれまでのこれまでのこれまでのネッネッネッネットワークトワークトワークトワーク研究研究研究研究のののの問題点問題点問題点問題点

2.3.1 社会経済的地位社会経済的地位社会経済的地位社会経済的地位へのへのへのへの着目着目着目着目

5 以下で展開される仮説の土台は、2006年に『年報社会学論集』に掲載された論文(石田 2006)を参考に

している。

23

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内外を問わずこれまで行われたネットワーク研究は、収入、地位などの「恵まれた」職の

獲得という視線からネットワークの効果を検討するものが大半であった。すなわち、高威信

(Lin et al. 1981; De Graaf & Flap 1988; Wegener 1991; Bian 1997; 佐藤 1998)または高収入

(Granovetter [1974]1995=1998; Bridges & Villemez 1986; Meyerson 1994)の職業への転職、大

企業への転職(石田 2003)という文脈からネットワークの効果が議論されてきたのである。

言い換えると、社会経済的地位の達成という側面(以下、地位達成機能)からその効果が論

じられてきたのである。

しかし、転職をする人々の背景は様々であり、彼ら/彼女らのすべてが社会経済的地位達

成の資源としてネットワークを活用しているとは限らない。例えば、倒産や解雇により会社

を追われ、転職せざるを得ない人々のことを考えてみよう。彼ら/彼女らにとってみれば、

ネットワークを駆使して栄転を果たすよりも、現在のマイナス状況を打破することの方が重

要なはずである。こうした人々を対象にネットワークの地位達成機能を検討してもあまり意

味があるとは言えまい。そのように考えると、転職の際に効果を発揮するネットワークの機

能は、諸個人のキャリアの状況に応じて変化するという見方のほうが妥当である。

上述の観点を考慮に入れずに分析を行ってきたからこそ、日本において、転職時に活用さ

れるネットワークの地位達成機能を扱った研究は、あまり目立った知見を得られなかったの

である。本論では、ネットワークの地位達成機能について、諸個人のキャリアの状況を考慮

して検討するための仮説を、「コンティンジェンシー仮説」と名付けよう。具体的な作業仮説

は以下の通りである。

・求職者の個人的関係を通じて、彼ら/彼女らに地位や収入面で「恵まれた」職業をもた

らす、ネットワークの地位達成機能は、順調にキャリアを歩んで転職を果たす人々に強

く現れる

本論では、諸個人の離職理由を考慮して、ネットワークの地位達成機能を検討することで、

上述の仮説の検証を試みる。

2.3.2 日本的人間関係日本的人間関係日本的人間関係日本的人間関係へのへのへのへの着目着目着目着目

前項でも述べたように、ネットワークの地位達成機能は、企業間移動を通じてステップ・

アップを目論む人々を想定している。転職市場が充実しているアメリカでは、このような人

物像が適合的かもしれない。しかし、転職市場が整備途上にある日本では、企業間移動によ

るステップ・アップを目論む人々は未だに少ない6。また、人間関係の実像について論じた言

6 厚生労働省の賃金構造基本統計調査の結果を見ると、日本人の勤続年数は横ばいで変わっていない。また、

流動化に関する実証研究の結果も、その傾向を否定する議論が数多く見られる(島 1999; 平田 2002)

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説でも、日本では、自らのステップ・アップの道具として人々を「利用」する傾向は少なく、

互助的な援助関係が支配的であると言われている。

例えば、浜口(1982)は日本と欧米との対人関係の違いを「間人主義」という点から指摘

している。彼によれば、個人主義的な西欧では「ひとを利用する」という視点が人付き合い

の上で導入されるが、日本では「ひととの関係に生き」、協調的な関係が重視されているので

ある。また、日米の人間関係の相違を機会コスト低減の議論から論じた辻・針原(2002)に

よると、アメリカでは効率よく情報を整理するために多くの「知人」と結ばれ、日本では相

互にコミットメントの高い関係を維持している、とのことである。

こうした社会においてネットワークは、社会経済的地位上昇の資源として戦略的に活用さ

れるのではなく、困ったときに助け合うための資源として活用されていると考えられる。具

体的に言うと、倒産や解雇などの不測の事態により転職せざるを得なかった人のキャリアの

立て直しのために活用されていると推察されるのである。

このように、転職時において顕在化されるネットワークの機能を、各国の人間像、人間観

から演繹して導いた仮説を、「文化的差異仮説」としておこう。文化的差異仮説の作業仮説は

以下の通りである。

・倒産や解雇などの不測の事態に直面しても、親族などの血縁関係を用いて転職を果たし

た人々は、それ以外の経路を用いた人々に比べ、満足のいく仕事を入手している

この仮説の要点は 2 つある。それは、倒産や解雇などの不足の事態に直面した人々の中で、

①「親族などの血縁関係を用いて転職した人々」が、②「満足のいく」仕事を入手している、

ということである。

第一の血縁関係の箇所は、困ったときに活用される援助資源としてのネットワークの類型

に焦点を当てたものである。ソーシャルサポート研究でも明らかなように、緊急時や非常時

のサポートには親族が非常に有効である(野辺 2006)。したがって、倒産や解雇などの緊急

事態に対応する際には、血縁関係が力を発揮すると考えられる。

第二の「満足のいく」という箇所は、ネットワークの機能に焦点を当てたものである。転

職の際のネットワークの活用が、求職者のさまざまなニーズを満たすと仮定すれば、ネット

ワークを活用して転職した人々は、得られた仕事に満足していると考えられる。したがって、

倒産や解雇などのマイナスの理由で転職をした人が、血縁関係を通じて満足のいく仕事にた

どり着いていれば、ネットワークには不遇の事態に陥った人々のキャリアを立て直す救済的

な機能が存在すると言えよう。

3 使用使用使用使用するするするするデータデータデータデータとととと変数変数変数変数

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3.1 データデータデータデータ

コンティンジェンシー仮説、文化的差異仮説の検討にあたっては、2005年に実施された「社

会階層と社会移動日本調査」(2005年 SSM 日本調査 ver14.2)の回答を用いる。この調査は

20 歳から 69 歳の男女を対象として実施された全国調査である。有効サンプル数は 13031で

あり、有効回収数 5742票、回収率 44.06%である。

本論文は転職の際のネットワークの効果を追究するものであるため、分析対象を、現在職

に就いており、かつ転職経験を有する人に限定する。また、以下の分析では研究目的に応じ

て分析対象をさらに限定するが、それについては個別分析の際に解説してゆく。

3.2 使用使用使用使用するするするする変数変数変数変数

3.2.1 従属変数従属変数従属変数従属変数

コンティンジェンシー仮説を検討する際の従属変数は、現在の職業に転職した当時の職業

威信スコアである。職業威信スコアは、1995年の SSM調査で算出されたスコアを、SSM職

業小分類コードに対して割り当てたものである。

文化的差異仮説を検討する際には、職務満足を従属変数として用いる。その理由は以下の

通りである。文化的差異仮説は、転職時に活用されるネットワークが、倒産や人員整理など

の不遇な状況にある人々のキャリアの立て直しに寄与しうるか検討するものである。しかし、

一口に「キャリアの立て直し」と言っても、それを客観的に評価するのは難しい。そこで、

本論では、倒産や人員整理などの外部的理由で離職した人々が後に得た仕事に満足していれ

ば、その人のキャリアは立て直されたとみなすことにした7。

3.2.2 入職経路入職経路入職経路入職経路とととと転職転職転職転職のののの背景背景背景背景

本調査において入職経路は、12 の選択肢の中から多重選択方式で回答してもらっている。

これをそのまま用いると、カテゴリーが細かくなりすぎる。そこで、本論では、1995 年の

SSM調査を用いて入職経路の効果を分析した佐藤の方法に倣い、表 1 のように経路を分類し

た。

転職の背景は、離職理由の質問から操作化を行う。具体的な分類方法は表 2 の通りである8。

7 ただし、職務満足は、転職当時ではなく、現在の職務満足を尋ねた質問であることに留意されたい。その

ため、分析の際には現在の職務満足に影響する要因を統制する必要がある。ちなみに、現在の職務満足を分

析に用いることはそれほどマイナスにはならない。というのは、現在の状況を従属変数とすることにより、

その人のキャリアが立て直されているのか否かより明確に判断することができるからである。重要なのは、

そのさいに、現在の仕事に影響するであろう様々な要因を統制しても入職経路の効果が残るのか、というこ

とである。 8 この中で「定年・契約満了」の人々は、2 通りの扱い方をしている。まず、契約満了(転職)時の年齢が

60歳以上の人々は、長期勤続を経て転籍した人と考えられるため「その他」に含めた。一方、契約満了時

の年齢が 60歳未満の人々は、契約の都合上離職せざるを得なかった人々と考えられるため「外部的理由」

に含めた。

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このうち、肯定的理由で離職した人々が個人的関係を用いて転職し、職業威信スコアの高い

職に就いていれば、コンティンジェンシー仮説が支持されたことになる。また、外部的理由

で離職した人々が血縁関係を用いて就職し、満足のいく仕事を得ていれば、文化的差異仮説

が支持されることになる。

表1 入職経路の分類

分類 調査票項目個人的関係 友人・知人の紹介、現在の従業先から誘われた、前の従業先の紹介血縁関係 家族・親戚の紹介、家業を継いだ直接参入 職業安定所、民間の職業紹介機関、求人広告等、自分ではじめた学校関係 卒業学校の先輩、卒業学校または先生複数選択 複数の項目を選択した回答者その他 その他

表2 離職理由の分類

分類 調査票項目肯定的理由 良い仕事が見つかった否定的理由 職場への不満外部的理由 倒産、廃業、人員整理、定年・契約満了(60歳未満)家族的理由 家庭の理由、家業継承その他 その他、定年・契約満了(60歳以上)

3.2.3 そのそのそのその他他他他のののの変数変数変数変数

最後にその他の変数である。コンティンジェンシー仮説、文化的差異仮説、いずれの仮説

を検討するに当たっても、入職経路、離職理由以外の様々な要因を統制する必要がある。例

えば、地位達成には、それまでの職業経歴や学歴が大きく影響するため、それらの変数を統

制する必要がある。また、職務満足にも仕事に関する様々な要因が影響を与える。そこで、

本論文では、2 つの仮説を検討する際に、以下の変数を統制変数として用いた。

まず、コンティンジェンシー仮説を検討する際には、性別、現職入職年齢、教育年数、従

業上の地位、前職職業威信を統制変数として用いた。このうち性別は男性を 1、女性を 0 と

したダミー変数を用い、現職入職年齢は実測値、前職職業威信スコアは 1995年 SSM職業威

信スコアの得点を用いた。従業上の地位は、経営者・常時雇用を 1、それ以外を 0 としたダ

ミー変数を用いた。教育年数は、中学卒 9 年、高校卒 12年、短大・高専卒 14年、大学卒 16

年と年数に変換した変数を用いた。

文化的差異仮説の検討のさいには、性別、現職入職年齢、教育年数、従業上の地位、転職

時職業威信に加え、仕事状況に関する諸変数を統制した。すなわち、転職による収入の増減、

企業規模、労働時間、これまでの仕事経験の活用程度、自己能力発揮の程度に関する変数を

加えたのである。収入の増減は増加 1、それ以外 0 のダミー、企業規模は大企業(1000人以

上)・官公庁 1、それ以外 0 のダミー、労働時間は実測値である。経験の活用度と能力発揮の

程度は、5 点尺度でこれまでの仕事経験を活用できている人、自らの能力を発揮できている

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人ほど得点が高くなるように操作化した。

4 分析分析分析分析

4.1 離職理由離職理由離職理由離職理由とととと入職経路入職経路入職経路入職経路

まず、分析対象はどのような理由で離職した人が多く、いかなる経路で入職した人が多い

のか、また、離職理由と入職経路にはどのような関連があるのか確認してみよう。

表3 離職理由と入職経路のクロス表

個人的関係 血縁関係 直接参入 学校関係 複数選択 その他 n (%)肯定的理由 35.8 9.2 46.2 1.8 4.3 2.7 600 (20.5)否定的理由 31.7 8.9 53.1 1.1 3.1 2.2 360 (12.3)外部的理由 37.4 9.1 47.1 1.3 2.1 2.9 374 (12.8)家族的理由 21.4 37.6 31.3 1.2 2.6 6.1 940 (32.0)その他 27.5 11.4 48.1 3.6 4.6 4.9 659 (22.5)n 29.0 18.7 42.8 1.9 3.4 4.2 2933注1:かっこ内はタテ%、それ以外はヨコ%を表示

表 3 は離職理由と入職経路のクロス集計表である。まず、離職理由と入職経路の合計(n)

のところを見てみよう。離職理由で最も多いのが家族的理由である(32.0%)。この家族的理

由のうちの 80%以上(779 人)は結婚、育児等の家庭の理由による離職である。ここから、

日本における離職者の多くは、結婚、育児により退職する女性だと言えよう。このことは日

米における職業キャリアの違いを示唆している。その次に多いのがその他(22.5%)で、肯

定的理由も比較的多い(20.5%)。一方、倒産、解雇などの外部的理由は 12.8%とそれほど多

くない。

使用する経路を見ると、直接参入が圧倒的に多く、43%を占める。次に多いのが個人的関

係(29.0%)で、それから血縁関係(18.7%)と続く。転職者を対象としたせいか、学校関係

の利用者はほとんどいない(1.9%)。また、複数選択をしている人やその他経路を使ってい

る人も 5%以内にとどまる。つまり、日本での転職の経路は、直接参入、個人的関係、血縁

関係の概ね 3 つに限定されるのである。

離職理由と入職経路の関連を見ると、家族的理由の離職者はやはり血縁関係の利用傾向が

強い。これは、家族的理由のカテゴリーに「家業継承」が入っているせいでもある9。それ以

外では、いかなる理由で離職した人々も、その多くは直接参入により次の職を得ている。個

人的関係を用いる人は、外部的理由、肯定的理由で辞めた人に多少多く見られるが、それほ

ど強い傾向が示されているわけではない。また、外部的理由で離職した人々が血縁に頼る傾

向も見られない。したがって、肯定的理由で離職した人が個人的関係を使う傾向、外部的理

由で離職した人が血縁関係を使う傾向は、ともに見られないと言えよう。

9 離職理由で「家業を継ぐ」と回答した人々の 95%は、血縁関係を入職経路として利用している。

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4.2 コンティンジェンシーコンティンジェンシーコンティンジェンシーコンティンジェンシー仮説仮説仮説仮説のののの検討検討検討検討

それでは次に、コンティンジェンシー仮説と文化的差異仮説の本格的な検討に入ろう。な

お、以降の分析では、キャリアの背景としてやや特殊な家族的理由の人々、背景が明確では

ないその他理由の人々は分析対象外とする。同様に、入職経路については、利用人数の少な

い学校関係、複数選択、その他経路は分析対象外とする。

4.2.1 地位達成機能地位達成機能地位達成機能地位達成機能のののの検討検討検討検討――――――――従来従来従来従来のののの仮説仮説仮説仮説のののの再分析再分析再分析再分析

コンティンジェンシー仮説の検討に入る前に、先行研究において指摘されてきた個人的関

係の地位達成機能を確認しておこう。表 4 は、現職入職時の職業威信スコアを従属変数、性

別、現職入職年齢、教育年数、従業上の地位、前職職業威信、離職理由、入職経路を独立変

数とした重回帰分析の結果を表している。

表4 地位達成機能を検討した重回帰分析の結果(n=1229)

B S.E. β p(定数) 17.34 1.529 **統制変数

性別(男性=1) 0.216 0.402 0.013現職入職年齢 -0.025 0.018 -0.036教育年数 1.106 0.098 0.283 **従業地位(経営者・常雇=1) 1.145 0.422 0.070 **前職職業威信 0.457 0.027 0.414 **

 離職理由(ref:肯定的理由)否定的理由 -1.474 0.471 -0.083 **外部的理由 -1.698 0.449 -0.094 **

 入職経路(ref:直接参入)個人的関係 0.028 0.400 0.002血縁関係 0.168 0.653 0.006

R2 乗 0.363 **調整済み R2 乗 0.358注1:**: p<.01, *: p<.05

分析の結果、個人的関係と血縁関係は、職業威信に対して、有意な規定力を持たないこと

が明らかである。つまり、これまで日本で行われてきた研究と同様に、本研究においても、

ネットワークの地位達成機能は見られなかったのである。

離職理由については、肯定的理由の人と比べると、否定的理由、外部的理由で離職した人

は威信の低い職業に就いている。やはり、良い職を見つけて辞める人に比べ、職に不満を抱

いて辞める人、倒産・解雇、契約満了により辞めざるを得なかった人は、「キャリア・アップ」

を望めないようである。この結果自体は当然であるが、このことは、離職理由に応じて、ネ

ットワークの効果が異なることを想起させる。

その他の変数の効果を見ると、教育年数、従業上の地位、前職職業威信が有意な効果を持

っていた。すなわち、教育年数が長い人、経営者または常時雇用の人、前職も高い威信の職

業に就いていた人は、転職しても威信の高い職業に就いている。これらの結果は、先行研究

ですでに指摘されているものであり、それほど目新しいものではない。

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4.2.2 コンティンジェンシーコンティンジェンシーコンティンジェンシーコンティンジェンシー仮説仮説仮説仮説のののの検討検討検討検討

次に、「ネットワークの地位達成機能は、諸個人のキャリアの状況に応じて調整される」と

するコンティンジェンシー仮説を検討してみよう。表 5 は、前項で行われた地位達成機能に

関する分析を離職理由(肯定的理由、否定的理由、外部的理由)別に行った結果である。

表5 コンティンジェンシー仮説を検討した重回帰分析の結果

B S.E. β p B S.E. β p B S.E. β p(定数) 22.98 2.954 ** 13.89 2.336 ** 14.97 2.894 **統制変数

性別(男性=1) 0.808 0.765 0.052 0.298 0.662 0.017 -0.096 0.677 -0.007現職入職年齢 -0.053 0.031 -0.084 -0.019 0.031 -0.022 -0.012 0.029 -0.019教育年数 0.883 0.191 0.239 ** 1.302 0.153 0.312 ** 1.002 0.166 0.281 **従業地位(経営者・常雇=1) 0.860 0.779 0.056 1.039 0.691 0.057 1.575 0.711 0.111 *前職職業威信 0.363 0.051 0.350 ** 0.493 0.042 0.432 ** 0.483 0.049 0.446 **

 入職経路(ref:直接参入)個人的関係 1.096 0.768 0.070 -0.511 0.628 -0.028 -0.260 0.685 -0.018血縁関係 1.725 1.252 0.066 -0.652 1.040 -0.022 0.214 1.110 0.009

R2 乗 0.411 ** 0.368 ** 0.274 **調整済み R2 乗 0.403 0.354 0.259注1:**: p<.01, *: p<.05

肯定的理由(n=542) 否定的理由(n=337) 外部的理由(n=350)

分析結果を見ると、離職理由、すなわち転職の背景がいかなるものであろうとも、ネット

ワーク変数は有意な効果を持っていない。以上の結果から、日本で転職を行う際に、人的経

路が地位達成の道具として活用されている事実は見られない、と結論づけられよう。

その他の変数については、教育年数と前職職業威信は離職理由がいかなるものであろうと、

その後に就く職業の威信に影響を与えている。この結果は、それまでに自らが蓄積してきた

人的資本の影響力の強さを物語っている。従業上の地位は、外部的理由の分析においてのみ、

マイナスの効果を示していた。この結果は、図らずも離職せざるを得なかった人々が非正規

雇用に就いた場合の苦難を表している。

4.3 文化的差異仮説文化的差異仮説文化的差異仮説文化的差異仮説のののの検討検討検討検討

さて、これまでの分析から、日本での転職において、ネットワークは地位達成の道具とし

て利用されていないことが明らかになった。それでは、次に、転職時に活用されるネットワ

ークは、苦境に立つ人々のキャリアの復興に寄与する、と想定する文化的差異仮説を検討し

てみよう。

4.3.1 事前分析事前分析事前分析事前分析

表 6 は、文化的差異仮説の分析に先立ち、転職時に活用されるネットワークが、職務満足

に対して有意な効果を持つか否かを分析したロジスティック回帰分析の結果である。従属変

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数には職務満足10、独立変数には、性別、現職入職年齢、教育年数、従業上の地位、企業規

模、労働時間、能力発揮度、仕事経験の活用度、転職時職業威信、転職による収入の増減、

離職理由、入職経路を投入している。

表6 職務満足を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果(n=1103)

B S.E. Exp(B) p統制変数

性別(男性=1) -0.683 0.163 0.505 **現職入職年齢 0.012 0.007 1.012教育年数 0.046 0.038 1.048従業地位(経営者・常雇=1) -0.158 0.165 0.854規模(大企業・官公庁=1) 0.014 0.198 1.014労働時間 -0.044 0.036 0.957能力発揮 0.581 0.119 1.788 **仕事経験の活用 0.339 0.104 1.404 **転職時職業威信 0.013 0.010 1.013収入増減(増加=1) -0.042 0.154 0.959

 離職理由(Ref:肯定的理由)否定的理由 -0.229 0.179 0.795外部的理由 -0.307 0.176 0.735

 入職経路(Ref:直接参入)個人的関係 0.203 0.152 1.225血縁関係 0.863 0.237 2.370 **

定数 -4.380 0.698 0.013 **カイ二乗 144.3 **-2 対数尤度 1226.3Cox & Snell R 2 乗 0.123注1:**: p<.01, *: p<.05

入職経路の効果を見ると、血縁関係を利用して転職した人々は、直接参入の人に比して、

現在の職業に満足する傾向が見られる。この結果は、血縁関係が、不遇な状況にある人々だ

けでなく、様々な状況にある人々の多様なニーズを満たす機能があることを想起させる。そ

れと同時に日本における親族・血縁関係の多機能性を示している。これについては結論部分

でさらに考察することにして、その他の変数の効果も見てみよう。

性別については女性ほど仕事に満足している人が多い。また、仕事のさいに自らの能力を

十分に発揮できている人、これまでの仕事経験が活かせている人ほど、現在の仕事に満足し

ている。やはり、これまでの経験や能力が活かせているという感覚は、仕事への満足につな

がるようである。

4.3.2 文化的差異文化的差異文化的差異文化的差異仮説仮説仮説仮説のののの検討検討検討検討

様々な変数の効果を統制しても、血縁関係が職務満足にプラスの効果を持つことを確認し

たところで、次に、離職理由別に入職経路の効果を検討してみよう。表 7 は、前項で行われ

10 職務満足は、満足=1、それ以外=0 としている。この質問は 5 点尺度で職務満足を特定しているが、「満

足」、「やや満足」と回答した人の合計が 66%おり、分布が偏っている。そこで、本研究では「満足」して

いる人だけに注目するダミー変数を作成した。

31

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た分析を離職理由(肯定的理由、否定的理由、外部的理由)別に行った結果である。

表7 離職理由別に見た職務満足への影響

B S.E. Exp(B) p B S.E. Exp(B) p B S.E. Exp(B) p統制変数

性別(男性=1) -0.674 0.242 0.510 ** -0.465 0.366 0.628 -1.042 0.317 0.353 **現職入職年齢 0.008 0.011 1.008 0.015 0.016 1.015 0.017 0.013 1.017教育年数 0.078 0.055 1.081 -0.059 0.085 0.943 0.057 0.075 1.059従業地位(経営者・常雇=1) -0.064 0.244 0.938 -0.623 0.378 0.536 0.044 0.299 1.045規模(大企業・官公庁=1) 0.077 0.272 1.080 -0.125 0.468 0.882 0.014 0.403 1.015労働時間 -0.042 0.052 0.959 -0.185 0.106 0.831 0.031 0.057 1.032能力発揮 0.492 0.183 1.636 ** 0.966 0.280 2.628 ** 0.527 0.208 1.694 *仕事経験の活用 0.196 0.161 1.217 0.489 0.226 1.630 * 0.484 0.187 1.623 **転職時職業威信 0.014 0.013 1.014 0.041 0.023 1.042 -0.001 0.019 0.999収入増減(増加=1) -0.156 0.219 0.855 0.533 0.336 1.704 -0.283 0.316 0.753

 入職経路(Ref:直接参入)個人的関係 0.048 0.216 1.049 0.465 0.348 1.592 0.372 0.293 1.451血縁関係 1.083 0.348 2.953 ** 0.291 0.536 1.338 0.892 0.450 2.439 *

定数 -3.796 0.950 0.022 ** -5.879 1.715 0.003 ** -4.947 1.354 0.007 **カイ二乗 52.2 ** 66.6 ** 44.6 **-2 対数尤度 590.9 266.3 340.5Cox & Snell R 2 乗 0.100 0.202 0.133注1:**: p<.01, *: p<.05

肯定的理由(n=495) 否定的理由(n=296) 外部的理由(n=312)

まず、外部的理由で離職した人々の職務満足に対する入職経路の効果を見てみよう。血縁

関係は、職務満足に対しプラスの効果を示している。ここから、倒産や人員整理、契約満了

により前職を辞めざるを得なかった人々が血縁関係を用いて転職(復職)を果たした場合に、

満足のいく仕事を入手していることが明らかになった。この結果は、血縁関係の救済的機能

に着目した文化的差異仮説と合致する。

しかし、血縁関係の効果はそれだけに留まらない。血縁関係は、肯定的理由で離職した人々

の分析においても、プラスの効果を示している。つまり、血縁関係は、「良い仕事」を見つけ

て転職した人々にとっても、その後、満足のいく仕事を見つけるための経路として役立って

いるのである。ここから、血縁関係は、倒産や解雇などに直面し、キャリアを立て直す必要

がある人々だけでなく、もっと多くの人の様々なニーズを満たす機能があると考えられる。

この点は非常に重要なので、結論部分において再度議論することにして、その他の変数の効

果も見ておこう。

仕事能力の発揮は、離職理由を問わず、職務満足にプラスの影響を与えている。仕事を辞

める事情がどうあれ、自らの能力を発揮できるということは、満足を得るに当たり重要な要

素なのである。仕事経験の活用は否定的理由、外部的理由で辞めた人々の職務満足に影響し

ていた。前の職に不満を抱いて、あるいは、意図せずに前の職を辞めたひとにとって、前職

の経験を活かせるということは、嬉しい誤算であり、それが満足につながっているのであろ

う。

肯定的理由、外部的理由で辞めた人々の職務満足には性別も影響していた。すなわち、女

性ほど満足する傾向が見られるのである。表 6 の結果と合わせると、現在の日本では、男性

よりも女性の方が転職先の仕事に満足を得やすいと言える。

32

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以上の分析結果をもとに、次節では日本での転職における人的経路の役割について議論し

ていこう。

5 結論結論結論結論

本論は、日本での転職における人的経路の役割を検討するために、コンティンジェンシー

仮説と文化的差異仮説を構築し、分析を行った。まず、それぞれの分析結果についてまとめ

ていこう。

5.1 コンティンジェンシーコンティンジェンシーコンティンジェンシーコンティンジェンシー仮説仮説仮説仮説のののの検討検討検討検討

コンティンジェンシー仮説は、ネットワークの地位達成機能に関する仮説を諸個人のキャ

リアの状況を考慮して再構築したものである。その要諦は、ネットワークの地位達成機能は、

比較的順調にキャリアを歩んでいる人に現れやすい、というものである。本論では、諸個人

のキャリアの状況として離職理由に着目し、「肯定的理由で離職した人が個人的関係を用いて

転職を果たした場合に高い職業的地位に到達する」という作業仮説を検討した。

実際に分析をしてみると、個人的関係を含めた人的経路の活用は、諸個人の職業的地位に

有意な効果を及ぼさないことが明らかになった。つまり、諸個人のキャリアの背景を考慮し

ても、人的経路の活用は高い地位の獲得に結びつかなかったのである11。したがって、日本

において、転職の際に活用されるネットワークは、地位や収入の面で「恵まれた」職業を諸

個人にもたらす地位達成機能を持たないと結論づけられる。そして、その理由は、①そもそ

も日本では、転職市場が未熟なため、企業間移動によりステップ・アップを図るルートが少

ないという構造的理由と、②日本では人々を地位達成の道具のように「利用する」ことが少

ないという文化的理由から説明される。これについては後ほど議論しよう。

5.2 文化的差異仮説文化的差異仮説文化的差異仮説文化的差異仮説のののの検討検討検討検討

転職時に活用されるネットワークの機能を検討する際に、その国の人間観に着目したのが

文化的差異仮説である。日本人の人間関係について論じた先行研究は、日本で結ばれる人間

関係の互恵性を指摘している。ここから、転職の際に活用される人的経路も、地位達成の「道

具」ではなく、困ったときの援助資源、すなわち、倒産や解雇、契約満了により転職せざる

を得なかった人のキャリアの立て直しの資源としての役割を果たすと考えられる。そこで、

本論では、「倒産や解雇などの不測の事態に直面しても、親族などの血縁関係を用いて転職を

11 この傾向は「収入の増減」という点から検討してみても同様であった。すなわち、転職してからの収入

が前職より増えたか減ったかという変数を従属変数として同様の分析を行ってみても、やはり、人的経路は

効果を持たなかったのである。ここから、日本において転職の際に活用される人的経路は地位達成機能をも

たらさないと結論づけられる。

33

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果たした人々は、それ以外の経路を用いた人々に比べ、満足のいく仕事を入手している」と

いう作業仮説を立て、文化的差異仮説を検討した。

分析の結果、倒産や解雇、契約満了により離職せざるを得なかった人々の中でも、血縁関

係を用いて転職をした人々は、その後、満足のいく仕事を手に入れていることが明らかにな

った。つまり、血縁関係が、危機的状況に陥った人々の、キャリアの立て直しに寄与すると

考える文化的差異仮説を支持する結果が見られたのである。したがって、日本におけるネッ

トワークは、地位達成の道具というよりもむしろ、互助的な支援の源泉として活用されてい

ることが明らかになった。

しかし、血縁関係は、危機的状況に陥った人だけでなく、「良い仕事」が見つかって転職し

た人々の職務満足も高めていた。また、離職理由別に対象を分類しない分析でも、血縁関係

は職務満足にプラスの効果を及ぼしていた。ここから、転職の際に頼りにされる血縁関係は、

苦境に陥っている人々の救済よりもさらに幅広い機能を果たしていると推察される。そこで、

その点を踏まえながら、最後に、日本において、転職の際に活用されるネットワークがいか

なる役割を果たしているのか議論していこう。

5.3 日本日本日本日本におけるにおけるにおけるにおける転職時転職時転職時転職時ののののネットワークネットワークネットワークネットワークのののの効果効果効果効果

日本では、血縁関係を用いて転職した人々が、その後得られた仕事に満足するという結果

が得られた。そして、その効果は、倒産やリストラなどの危機的状況に遭遇した人々に限ら

なかった。すなわち、転職した人々全般にその効果が見られたのである。この結果は、文化

的差異仮説に修正を迫るものである。以下では、この結果について、日本の転職事情との関

連から検討していきたい。

もともと転職自体があまり頻繁に見られない日本では12、転職によるステップ・アップを

望むのは難しい。そうした事情を反映してか、日本において、転職はあまり好ましい事象だ

と受け止められてこなかった。長期雇用慣行の下では、転職は想定外のものであり、歓迎す

べき事態ではなかったのである。そうした社会における転職は、恐らく、強い不安を伴う。

それは、結果として「良い仕事が見つかった」人でも例外ではない。

このような社会で転職するに当たって求められるのは、有用な情報よりもむしろ不安を解

消する温かいサポートである。こうしたサポートを求められるゆえに、日本での転職には血

縁関係が重要な役割を果たすのである。したがって、日本での転職において、人的経路は、

①地位達成の道具としてでなく、不安解消のサポート源として機能している、そのため、②

血縁関係が重要な役割を果たす、とまとめられる。そして、こうした現象の背景として、転

職市場に関する構造的要因と、人間関係に関する文化的要因の存在があげられるのである。

この血縁関係の効果を、転職市場および人間関係特性から導いた理論を、本論では修正文化 12 これについては注 6 を参照されたい。

34

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的差異仮説と呼んでおこう。

さて、この修正文化的差異仮説には、まだまだ研究の余地が数多く残されている。例えば、

今回の分析では血縁関係の手厚いサポートが職務満足に寄与すると指摘したが、実際に、「手

厚いサポート」とはどのようなものであり、それがどのように満足に影響しているのかは明

らかになっていない。したがって、今後の研究で、上述の問題を解明してゆく必要がある。

そうした試みを通じて、日本での転職時におけるネットワークの役割はより一層明瞭になる

であろう。

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The Effects of Social Networks in Job Hunting

Mitsunori Ishida

(Otsuma Women’s University)

In this paper, I investigate the effects of social networks in job hunting. To analyze the effects of

social networks in job hunting, I set up two hypotheses: First, the effects of social networks in changing

jobs are contingent on job hunter’s situation (contingency hypothesis). Second, the effects of social

networks in changing jobs are contingent on national culture (culture differential hypothesis).

The results show that culture differential hypothesis is supported. In Japan, if job hunter gets job

information from kin, he (she) was brought a high level satisfaction.

Key words: Network, Changing job

36

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誰が雇用を流動化させるのか

―Job-Hopper の実証分析―

浦坂純子

(同志社大学)

【要旨】

職を転々と変える Job-Hopper に注目し、その実態に接近する。雇用の流動化の要素は、一度で

も転職を経験する者が増加するという側面と、一人当たりの転職回数が増加するという側面に分

解することができる。長期雇用が浸透した日本において、後者は一般的になり得るのか。誰が

Job-Hopper となり、職場、初職や前職、労働市場の状況とどのような関係にあるのか。Job-Hoppingの結果、働き方や労働条件、生活水準はどう変わったのかなどを明らかにすることを目的とし、

各従業先からの離職に関してイベントヒストリー分析を適用したところ、以下の知見を得た。 第一に、従来からのネガティブなイメージに違わず、若年層、女性、非正規、中小規模、不本

意な離職という要因が Job-Hopping につながり、労働条件や生活水準の低下にも見舞われている

ことが分かった。ただし、サブサンプルによる推定では、女性や若年層が他と異なる結果を示し

ていることが多く、現状を認識する助けとして有用である。第二に、Job-Hopper の典型例に該当

しない高学歴などの場合でも、「転職するか否か(転職を経験する壁)」あるいは「何度も転職す

るか否か(2 回以上転職する壁)」で様相が変わり得るということである。転職の質や意味合いが

異なる転換点を、より詳細に探る必要が示唆されたといえる。 キーワード:Job-Hopper、転職回数、勤続年数、イベントヒストリー分析

1 はじめに

本章は、2005 年SSM日本調査のデータ 1に基づき、職歴データに見る転職状況から、雇用

の流動化の実態を明らかにすることを目的としている。

「終身」とも称される長期雇用が浸透し、その特徴の最たるものであった日本の雇用、あ

るいは労働市場においても「流動化」が叫ばれるようになって久しい 2。では実際に、誰が、

どの程度流動化しているのか。その内実については、まだ十分に捉えられているわけではな

い。複雑な要因が絡み合う中で、それらの要因を統制すればするほど、全体像がぼやけると

いうジレンマもうかがえる。

雇用の流動化を端的に転職の増加と考えるならば、その要素は、従来一つの職場で定年ま

で勤め上げていたのに対して、一度でも転職を経験する者が増加するという側面と、一人当

1 面接票のみを利用する。 2 総務省統計局『労働力調査』によると、2006 年における転職者比率(転職者数/就業者数×100)は男性

4.5%、女性 6.8%であり、1990 年以降上昇傾向にあることが厚生労働白書などでも指摘されている。

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たりの転職回数が増加するという側面に分解することができる。ウェイトの違いはあれ、恐

らくは両者共に増加することを視野に入れる必要があるのだろうが、ここでは後者に注目し

たい。雇用の流動化に大きく寄与している「職を転々と変える」者たち、すなわち Job-Hopper

である。

「職を転々と変える」という表現や、ある種のレッテル貼りに近いような評価は、長期雇

用を前提とする社会では、決して良い意味を持ち得ない。ネガティブなイメージがつきまと

うだけでなく、長期雇用を前提とした人事制度下では、実際に不利な扱いを受けることにも

つながり、職を転々と変えながら良い状態を維持し続けることは、ヘッドハンティングなど

で転職するたびにステップアップするような、極めて高い能力を保持する例外的な労働者を

除いては、結果的にも困難だったと思われる。

しかし、右肩上がりの経済成長の終焉に伴い、長期雇用の維持が不可能となった企業がこ

ぞって手がけた近年の人事制度改革や非正規雇用への移行 3は、転職をこれまで以上に阻む性

質のものではないことは確かである。職を変えざるを得ないリスクと隣合せの不安定な労働

者が、否応なしに増加することを背景に、その不利さは緩和されつつあるのだろうか。

さらに踏み込むならば、緩和されなければならないのかとも思う。一つは、マクロの視点

から、格差を固定化しない社会の実現に向けて、職場間、職場内での移行はいうまでもなく、

創業、教育訓練(人的投資)、インターバル(無職)なども含めた様々なキャリアステージ間

の移行をいかに円滑にし、効率的な人的資源再配置(適材適所)を達成するかが問われてい

るからだ。もう一つ、ミクロの視点からも、労働者個人がそれぞれのワーク・ライフ・バラ

ンスを図りながら、何よりも自分自身が納得しながら、キャリアの中断に直面することなく、

持続的にキャリアを形成し続けることが切実に求められている。このことは、深刻になりつ

つある労働力人口の減少を見据える意味でも論を待たない。

ここでは、現状ではネガティブなイメージがつきまといがちな Job-Hopper を俎上に載せ、

その実態に可能な限り接近することによって、より円滑な転職(文字通りの流動化)のあり

方と、それを担保する環境整備を検討することを試みる。先に触れたように、同じ Job-Hopper

でも積極的に転職を繰り返し、そのことがステップアップをもたらしている場合、社会的に

大きな問題はないどころか、むしろ望ましい雇用の流動化の萌芽といえる。議論すべきは、

やはり本人の意思に関わらず Job-Hopping せざるを得ない状況に追い込まれ、結果として労

働条件や生活水準の低下、あるいは非労働力状態への移行などに帰着する場合だろう。

本章の構成は、以下の通りである。第 2 節で先行研究を引きながら問題関心を述べ、検証

すべき仮説を提示する。第 3 節で分析方法を紹介し、第 4 節で推定結果について考察する。

3 同じく総務省統計局『労働力調査』によると、2006 年における非正規の職員・従業員比率は 33.0%であ

り、1985 年 16.5%、1990 年 20.2%、1995 年 20.9%、2000 年 26.1%と着実に上昇している。

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2 問題関心

先に触れたように、本章では現時点における Job-Hopper の実態把握を通じ、政策的な観点

から、主として以下の四つの仮説を検証する。

第一に、誰が Job-Hopper になっているのかという点である。労働市場における弱者が職を

転々と変えた挙句、仕事にも生活に行き詰っているという従来からのネガティブなイメージ

を改めて確認することになるのか、あるいはステップアップ型の Job-Hopper が台頭し、それ

なりの存在感を示しつつあるのか。まず属性について挙げるならば、性別、学歴、出身階層、

また因果の特定は難しいが、婚姻状態や子供の有無などによる影響がある。例えば、男性、

高学歴、豊かな階層出身であることが労働市場でも優位性を発揮し、最初からよりよい職場

に恵まれる要因になれば、そのまま定着を想定するのが現状では自然である。また、配偶者

や子供を持つことが、安定志向を強めることも容易に予想されるので、定着に寄与するので

はないか。換言すれば、属性としては女性、低学歴、貧しい階層出身であることや、配偶者

や子供がいないことが、Job-Hopper への近道となっている可能性が高いということである。

第二に、職場の属性による影響がある。例えば従業上の地位や従業員数について、正規雇

用よりも非正規雇用、大規模よりも中小規模の職場のほうが不安定になりやすいことは自明

である。したがって、中小規模の職場で非正規雇用されることと Job-Hopper とは、やはり密

接に関係するのではないか。

第三に、前職あるいは初職との関係性による影響がある。むろん初職それ自体に「前職」

との関係性は存在し得ないが、どのような経路で初職に入職したかが定着を左右することを

想定し、その効果が様々な形で見出されている人的つながり 4に注目する。人的つながりで入

職した場合、人を介することで情報の非対称性が緩和され、良好なマッチングが達成された

り、紹介者に対する義理立てや気兼ねなどが定着につながったりする可能性がある。

初職後の従業先には、前職との関係性として、例えば前職からの移行に際して無職期間が

あるか否か(その年数)、前職の離職理由、前職と比べた収入変化が挙げられる。着実なキャ

リア形成を目指すならば、人的資本を減じる恐れがあり、復職に労力を要する類のブランク

はないにこしたことはなく、特に女性について、結婚や出産・育児、介護などでキャリアを

中断しない継続就業の重要性が叫ばれる所以である。無職期間が長引くほど、復職が困難に

なるのみならず、復職後の定着にも負の影響を及ぼすならば、そのような形で顕在化する

Job-Hopping に対して、復職時の支援体制の整備、特に適切な教育訓練による人的資本の蓄積

などが政策的な論点となり得るだろう。

また、政策的な議論には展開し難いが、積極的に転職したのではなく、解雇やそれに準じ

4 入職経路に関するデータは、初職と現職に限って入手可能である。したがって、ここでは初職に関する分

析のみに用いる。

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る不本意な理由で転職を余儀なくされた場合は、やはり復職が困難になるのみならず、復職

後の定着にも負の影響を及ぼすことが予想される。転職後、前職より収入が減った場合も、

その状況だけを鑑みればやはり長期勤続には至らないかもしれない。

なお、前職だけでなく、初職のあり方がその後の転職に影響を及ぼし続けるか否かも吟味

する。後述するが、主として補足的分析として取り上げる転職回数への回帰で、初職におけ

る従業上の地位、従業員数、入職経路、勤続年数などを説明変数として導入する。例えばど

の職場でも常に仕事が長続きしないという状態よりは、ある程度の長期勤続を一度でも経験

していることが良い影響を及ぼすことはあるのではないか。また、玄田(2001)が「新卒お

よびその直後での就職市場での選択が、生涯のキャリア形成を大きく左右することになる。」

と指摘しているように、その「一度きりのチャンス」で得た初職による格差が固定化するよ

うな形で、後々まで転職づくことになる可能性をも探りたい 5。

第四に、労働市場の状況による影響が考えられる。雇用の流動化を論じるにあたっては、

労働供給側だけでなく需要側の要因も無視できない。ここでは分析対象期間が 58 年間(1948

~2005 年)という長期にわたるため、その間の労働市場の需給バランスは一様に扱うべきも

のでは決してない。したがって、この点は完全失業率を用いて統制し、かつコホート効果や

入職年齢も考慮する。いずれも統制要因であるが、後者については、例えばミスマッチを解

消し、より良い職場を得るための若年層での転職か、リストラや第二の人生を見据えての中

高年層での転職かということでも様相は大きく異なることに配慮している。

3 分析方法

主として各従業先からの離職に関してイベントヒストリー分析 6を適用する。イベントヒス

トリー分析は、ある特定のイベント発生の有無を示す変数と、そのイベント発生までの時間

を表す変数との関係を分析する方法として、生物学、医学などの諸分野で開発され、発展し

てきたことが知られている。社会科学の諸分野でも、例えば結婚や出産に至るまでの期間や、

就職するまでの失業期間の分析などに利用されるようになった。山口(2001、2002、2004)

では、1995 年以前のSSM調査のデータを用いたこの種の分析が紹介されている。

イベントヒストリー分析の最大の利点は、センサー(打ち切り)を扱うことにある。すな

わち、ある従業先からの離職の有無と離職までの期間を分析するには、調査時点で離職に関

する情報を得ることになるが、その時点でまだ離職していないサンプルが含まれる場合、こ

5 労働市場の世代効果(年齢・性別・学歴が同一な世代の賃金や離職などの就業状況が学校卒業時点での労

働市場需給と世代人口の規模により持続的影響を受けること)に関しては、太田・玄田・近藤(2007)のサ

ーベイ論文に詳しい。 6 生存時間(サバイバル)分析、ハザード分析などとも称するが、ここではイベントヒストリー分析という

呼称で統一する。

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れらのサンプルの離職までの期間は知るすべがない。センサーとは、このような状況のこと

を示す。長期勤続を達成し、調査時点でセンサーされるサンプルも、早期離職が観察される

サンプルも、併せて分析できるのがイベントヒストリー分析である。詳細は、Cleves, Gould,

and Gutierrez(2004)を参照されたい。

3.1 各従業先からの離職に関するイベントヒストリー分析

まず職歴データの「従業先番号」の変化に注目し、その番号が変化する、すなわち従業先

が変わることを転職と捉える。SSM2005-Jでは、従業先番号の最大値が 16 である。つまり、

最多で 15 回転職したサンプルが含まれているわけであるが、ここでは転職回数 5 回まで(従

業先 6 まで)を分析対象とした 7。6 回以上の転職を経験しているのは 130 サンプル(2.3%)

に過ぎず、転職未経験者を含む平均転職回数は 1.6 回であるため、転職回数 5 回で十分に

Job-Hopperであり、かつ分析に耐えうるサンプル数の限界でもあると判断した。したがって、

イベントヒストリー分析における「生存時間」は、初職~従業先 6 それぞれの勤続年数であ

り、初職~従業先 6 それぞれからの離職が「イベント(エンド・ポイント)」となる。

この分析の枠組みによると、Job-Hopper になるためには、各従業先で比較的短期間で「イ

ベント(=離職)」が起こり続けなければならない。ゆえに、分析の要諦は、各従業先での「生

存時間(=勤続年数)」を短くする要因は何かを見出すことにある。同時に、それらの要因や

「生存時間(=勤続年数)」に与える効果は、転職を重ねるにつれて、すなわち Job-Hopper

になるにつれて何らかの変化を示すのかどうかを確認したい。

被説明変数である各従業先での勤続年数に対して、具体的な説明変数(共変量)の設定は、

以下の通りである。イベントヒストリー分析では、「時間に依存しない説明変数」と「時間に

依存する説明変数」の 2 種類を用いることができる。

時間に依存しない説明変数としては、まずコホートについて、調査時点(2005 年)での満

年齢 8が 35歳以下を 1とする若年層ダミーと、56歳以上を 1とする高年層ダミーを設定した。

基準となるのは、36~55 歳の中年層である。性別 9については、男性を 1 とする男性ダミー

を、学歴については、SSM学歴に基づいて大学、大学院を 1 とする高学歴ダミーを設定した。

出身階層を統制するために、父親の学歴に関しても教育年数に変換して用いている 10。以上

5 変数が、従業先に関わらず、全ての推定に共通する属性変数である。

7 リクルート・ワークス研究所(2006)から、首都圏で働く 18~59 歳の男女 6500 名のうち退職経験者が

61.1%で、退職経験者の退職回数は 1 回が 41.5%、2 回が 26.5%、3 回が 16.1%と 85%が 3 回以内であるこ

とが分かる。なお、退職経験者の平均退職回数は 2.2 回であった。 8 面接票の問 1(2)を使用。 9 面接票の問 1(1)を使用。 10 面接票の問 21(1)を使用。具体的には、旧制尋常小学校 6 年、旧制高等小学校 8 年、旧制中学校・高等

女学校 11 年、実業学校 11 年、師範学校 13 年、旧制高校・専門学校・高等師範学校 14 年、旧制大学 17 年、

新制中学校 9 年、新制高校 12 年、新制短大・高専 14 年、新制大学 16 年、新制大学院 18 年と変換する。

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従業先によって変わる属性変数としては、当該従業先への入職年齢 11と、従業上の地位 12、

従業員数 13に関する以下の 7 変数が挙げられる。従業上の地位については、経営者・役員を

1 とする経営者ダミー、臨時雇用・パート・アルバイト・派遣社員・契約社員・嘱託を 1 と

する非正規ダミー、自営業主・自由業者・家族従業者を 1 とする自営ダミーを設定した。基

準となるのは、常時雇用されている一般従業員である。また、従業員数については、1~29

人を 1 とする小規模ダミー、30~299 人を 1 とする中規模ダミー、300~999 人を 1 とする大

規模ダミー、官公庁を とする官公庁ダミーを設定した。基準となるのは、最大規模の 1000

人以上である。

1

初職の分析のみで使用する説明変数としては、初職への入職経路 14が挙げられる。家族・

親戚の紹介、友人・知人の紹介、卒業した学校の先輩の紹介、卒業した学校や先生の紹介(学

校推薦も含む)を 1 とする人的つながりダミーを設定した。基準となるのは、その他の入職

経路であり、職業安定所の紹介、民間の職業紹介機関の紹介、求人広告や雑誌などを見て直

接応募した、家業を継いだ(家業に入った)などが主だった経路である。

一方、従業先 2~6 の分析のみで使用する説明変数としては、当該従業先入職直前の無職年

数 15、初職勤続年数と、前職の離職理由 16、前職と比べた収入変化 17に関する以下の 5 変数が

挙げられる。前職の離職理由については、定年、契約期間の終了、倒産、廃業、人員整理な

どを 1 とする非自発的理由ダミー、職場に対する不満を 1 とする消極的理由ダミー、家庭の

理由(結婚、育児など)、家業を継ぐためを 1 とする家庭事情理由ダミーを設定した。基準と

なるのは、よい仕事がみつかったからという積極的理由などである。また、前職と比べた収

入変化に関しては、増えた場合を 1 とする収入増ダミー、減った場合を 1 とする収入減ダミ

ーを設定した。基準となるのは、ほとんど変わらなかった場合である。

一方、時間に依存する説明変数としては、結婚している場合 18を 1 とする配偶者ありダミ

ー、子供がいる場合 19を 1 とする子供ありダミーを設定した。加えて、労働市場の需給バラ

ンスを統制するための指標として完全失業率 20を導入する。これらの 3 変数は、いずれも各

従業先における生存時間中に変化する性質のものである。

以上のイベントヒストリー分析では、全サンプルを対象とした推定と共に、男性・女性お

11 面接票の問 8⑦を使用。 12 面接票の問 8④を使用。 13 面接票の問 8③を使用。 14 面接票の問 7d を使用。 15 当該従業先の直前に従業先番号 0(無職)が存在する場合、その年数を設定する。存在しない場合、無職

期間は 0 となる。 16 面接票の問 8①を使用。 17 面接票の問 8⑧を使用。 18 面接票の問 24 を使用。配偶者の年齢が認識できる場合を 1 としている。したがって、2 度以上結婚した

ことのある場合、離死別者(現在未婚)の場合は、最後の配偶者についての情報で変数を作成している。 19 面接票の問 28 を使用。第一子の年齢が認識できる場合を 1 としている。死亡した子供は含まれていない。 20 総務省統計局『労働力調査』より男女別の長期時系列データを適用。

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よび若年層(35 歳以下)・中年層(36~55 歳)・高年層(56 歳以上)の 5 通りのサブサンプ

ルによる推定も行い、結果を比較することにする。

3.2 補足的分析

各従業先からの離職に関するイベントヒストリー分析では、従業先 1~6 における勤続年数

に対して、各要因がどのような効果を与えるかを詳細に観察することを目的としているが、

そこで勤続年数を短くする、すなわち離職を促進する効果を与える要因が、その効果を継続

的に発揮すれば、最終的な転職回数は少なくなるはずである。そこで、ここでは補足的に、

最終的な転職回数に各要因を回帰させ、イベントヒストリー分析と整合的な結果が得られる

か否かを確認したい。

転職回数には、職歴データの「従業先番号」の最大値から 1 を引いた値を設定する。した

がって、調査時点まで初職に就業し続けているサンプルおよび初職離職後から無職のサンプ

ルは転職回数 0 となるため、推定方法としては OLS と Tobit を併用する。また、転職回数 1

以上の転職経験者に限定し、説明変数を若干追加した分析も同時に行う。

説明変数としては、調査時点での満年齢、男性ダミー、高学歴ダミー、父親教育年数、初

職における従業上の地位(経営者ダミー・非正規ダミー・自営ダミー)、初職における従業員

数(小規模ダミー・中規模ダミー・大規模ダミー・官公庁ダミー)、初職への入職経路(人的

つながりダミー)、初職勤続年数、配偶者ありダミー、子供の数の 15 変数を設定した。また、

転職経験者に限定した分析では、初職直後の無職年数と初職の離職理由(非自発的理由ダミ

ー・消極的理由ダミー・家庭事情理由ダミー)も取り入れる。

また、転職回数の多寡によって何がどう変わるのかという点も気になるところである。従

来からのネガティブなイメージ通り、今もなお「職を転々と変える」ことは、満足できる職

場をもたらすのではなく、労働条件や生活水準の低下に直結しているのだろうか。その点を

確認するために、現状を表す様々な変数に転職回数を含む各要因を回帰させ、イベントヒス

トリー分析の結果と照らし合わせながら考察したい。

被説明変数としては、現在の仕事の内容 21、現在の仕事による収入 22、生活全般 23について、

「1 満足している」から「5 不満である」までの 5 段階で尋ねた回答、社会全体を上から

順に 1 から 10 の層に分けた場合に自分自身が入ると思う層 24(10 段階)、および現在のくら

しむき 25について、「1 豊か」から「5 貧しい」までの 5 段階で尋ねた回答の 5 変数を設定

した。現在の仕事の内容と現在の仕事による収入については、就業者のみが回答している。

21 面接票の問 4a を使用。 22 面接票の問 4b を使用。 23 面接票の問 29 を使用。 24 面接票の問 30 を使用。 25 面接票の問 31 を使用。

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また、いずれの変数も数値が大きくなるほど評価が下がるという点では共通しており、順位

尺度であるため、推定方法としてはOrdered Probitを適用する。

説明変数としては、先の転職回数への回帰と同様、調査時点での満年齢、男性ダミー、高

学歴ダミー、父親教育年数、初職における従業上の地位(経営者ダミー・非正規ダミー・自

営ダミー)、初職における従業員数(小規模ダミー・中規模ダミー・大規模ダミー・官公庁ダ

ミー)、初職への入職経路(人的つながりダミー)、初職勤続年数、配偶者ありダミー、子供

の数の 15 変数に加えて、主たる説明変数として転職回数を設定した。

以上の補足的分析についても、イベントヒストリー分析と同様、全サンプルを対象とした

推定と共に、男性・女性および若年層(35 歳以下)・中年層(36~55 歳)・高年層(56 歳以

上)の 5 通りのサブサンプルによる推定を行う。

4 分析結果

4.1 離職を促進/抑制する要因

最初に、生存時間に特定の分布を仮定しないで説明変数のパラメータを推定するセミパラ

メトリック・モデルの代表的な手法であるコックス比例ハザードモデルを適用し、シェーン

フィールド残差を用いて比例ハザード性(ハザード比が時間によらず一定)を検討したとこ

ろ、シェーンフィールド残差が時間に依存しないという帰無仮説はカイ二乗検定により棄却

された。したがって、パラメトリック・モデルの適用に移行し、ベースライン・ハザードに

4 通りの分布(指数分布・対数ロジスティック分布・対数正規分布・ワイブル分布)を仮定

して、全サンプルおよびサブサンプルに対して 24 通りの推定を行った。得られた赤池情報量

規準(AIC)などを比較したところ、ワイブル分布を仮定したモデルが最良であると判断し、

加速ハザードモデル(AFT)による推定に至った。記述統計量を表 1~2、推定結果を表 3~8

で示している 26。

まず推定結果の全体的な傾向を概観し、その後いくつかの特徴的な差異について触れる。

なお、従業先 5~6 に関しては、サブサンプル数が少なくなり過ぎるため、若年層に限定した

推定は割愛した。

26 初職~従業先 4 について、若年層の最長生存時間を確認し、その年数に区切った推定も行った。初職は

21 年間、従業先 2 は 17 年間、従業先 3 は 14 年間、従業先 4 は 11 年間である。従業先 5~6 について、中

年層の最長分析期間を確認し、その期間に区切った推定も行った。従業先 5 は 28 年間、従業先 6 は 32 年間

である。推定結果は割愛するが、表 3~8 との整合性は欠いていない。なお、表 3~8 には掲載していないが、

シェイプパラメータ p は、初職から従業先 6(若年層のみ従業先 4)まで、全体(1.1727→1.6566)に加えて、

男性(1.0916→1.8025)、女性(1.2992→2.0594)、若年層(1.5533→2.1104)、中年層(1.1747→2.3713)、高年

層(1.1185→1.6915)の全てのサブサンプルにおける推定で 1 より大きく、かつ転職を重ねるにつれてほぼ

単調増加していた。これは、上記の年数に区切った推定でも同様である。このことから、各要因統制後の平

均値における評価では、生存時間(=勤続年数)が長くなるほど離職の危険が高まる正の時間依存が見られ、

転職を重ねるにつれて顕著になっていることが分かる。

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初職~従業先 6 まで共通して、概ね正の有意な結果が得られているのが、高年層、男性、

経営者、自営、官公庁、配偶者あり、子供あり、概ね負の有意な結果が得られているのが、

若年層、高学歴、父親教育年数、非正規であった。これらの要因は、従業先によって符号が

逆転している例も散見するものの有意ではなく、その意味で決定的な齟齬はない。したがっ

て、調査時点で 56 歳以上の高年層に該当し、男性であること、従業上の地位が経営者や自営

であること、官公庁に勤務していること、結婚し、子供を持つことが、各従業先での勤続年

数に対して正の効果を与える、すなわち離職を抑制する一方で、調査時点で 35 歳以下の若年

層に該当し、高学歴であること、父親の教育年数が長いこと、従業上の地位が非正規である

ことが、各従業先での勤続年数に対して負の効果を与える、すなわち離職を促進するといえ

る。ただし、高学歴は初職と従業先 5 以降、父親教育年数は初職~従業先 2 と従業先 6 では

非有意であり、かつこれらの要因が離職を促進するという結果の解釈にも注意が必要である。

後で慎重に検討したい。

入職年齢、従業員数、完全失業率に関しては、従業先によって結果が異なる。入職年齢は、

初職では正で有意、従業先 2 では非有意で、従業先 3 以降では負の有意な結果を得ている。

これは、転職を重ねるにつれて入職年齢の平均値が高くなり、分散を見ても、初職のみ小さ

く、従業先 2 以降はばらつきが著しく大きくなるため、当該従業先に入職した時点で既に高

齢であれば、その分勤続年数が短縮されるのは当然だろう。

従業員数に関しては、小規模は従業先 1~2 が負で有意かつ従業先 4 が正で有意、中規模は

初職が負で有意かつ従業先 4 と 6 が正で有意、大規模は従業先 4 と 6 のみ正で有意であった。

概ね転職を重ねるにつれて離職を抑制する傾向にあるといえる。最大規模の 1000 人以上を基

準としているため、初期の転職では、労働条件などが相対的に恵まれないと中小規模の職場

で離職が促進されるものの、その後はむしろ中小規模の職場への移行、定着を導くというこ

とになるだろう。現に小規模は、初職の 35%に対して従業先 2 以降は 50%以上を占めるよう

になり、中規模も初職の 25%から従業先 6 の 32%まで漸増している。転職は中小規模の職場

への移行が主流であることを、改めて認識できる結果である。

完全失業率は、基本的に負の有意な結果を得ているが、従業先 4~5 では非有意、従業先 6

では正の有意な結果を得ている。また、従業先に関わらず、若年層は(初期の転職では女性

も)概ね正の有意な結果を得ている。完全失業率が高いということは、それだけ失業者、す

なわち離職が多いことを示唆する。ゆえに、勤続年数と負の関係が見出されるのはもっとも

であるが、ここで想定している因果とは逆の関係に基づくものである。その中で、若年層に

限定した推定においてのみ完全失業率が離職を抑制するのは、本来の因果に基づき、労働市

場の逼迫に伴って手堅く職を確保する、職にしがみつくという行動が促進されているのでは

45

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ないか 27。加えて、完全失業率の長期趨勢を見ると、明らかに近年の水準のほうが高い。最

低で 1.1%、最高で 5.5%の幅があり、その平均値および分散は初職から一貫して上昇傾向に

ある。したがって、完全失業率が高水準、かつ比較的大きく変動している状況下での若年層

の転職が、その割には安定的に評価されるということはあり得るだろう。

なお、初職の分析のみで使用した説明変数である人的つながりは、女性と若年層のサブサ

ンプルで正の有意な結果を得ている。入職経路として人的つながりを利用している割合は 7

割を超えているが、女性と若年層という労働市場では評価が定まり難い側面を持つサブサン

プルにおいて、人的つながりによる入職が離職を抑制しているという結果は興味深い 28。人

を介することで良好なマッチングが達成されているためなのか、あるいは紹介者に対する義

理立てや気兼ねなどが離職の抑制に寄与しているのか、その原因については別途吟味する必

要がある。

さらに、従業先 2~6 の分析のみで使用した説明変数については、入職直前の無職年数が非

有意、初職勤続年数が従業先 2 のみ負で有意であった。離職の抑制という観点から、無職期

間をはさまず、それを徒に長引かせない、すなわちキャリアを中断せずに継続就業すること

や、長期勤続を経験することの重要性は、少なくともここでの結果からは見出せなかった。

前職の離職理由に関しては、非自発的理由、消極的理由が概ね負で有意、家庭事情理由が

従業先 2~3 のみ正で有意であった。基準としている積極的理由よりも、その意に反して離職

させられたり、不満を募らせて離職に至ったりした場合には、次の職場でも長続きしないと

いう解釈が可能である。また、これらの離職理由は転職を重ねるにつれて増加する反面、家

庭事情理由は初期の転職に多い理由であり、特に家業を継いだ場合は、そのことで定着がも

たらされていると見ることもできる。

前職と比べた収入変化に関しては、収入増が正の有意な結果を得ているのは理解しやすい

一方で、収入減についても従業先 4~5 で正の有意な結果を得ている。この点については、収

入の増減のみで、その絶対額が統制できていないこと、また収入減であっても仕事内容が適

していたり、役職などが向上したりすることの効果が、離職の抑制につながっている可能性

があることに留意したい。また、男性や中高年層に限定した推定でその傾向が強調され、女

性や若年層に限定した推定では非有意か負の有意な結果を得ていることから、収入が減った

ところで仕事を辞めるわけにはいかないという立場の反映がなきにしもあらずというところ

だろう。

4.2 転職回数およびその帰結

27 黒澤・玄田(2001)でも、比例ハザードモデルを適用した類似の分析で、同様の結果を得ている。 28 この点についても、やはり黒澤・玄田(2001)で得られている結果と整合的である。学校の先生、先輩、

親、知人などの薦めによる就職先の決定は就業継続期間を延長し、その効果は女性のみの推定で顕著である。

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補足的分析として、転職回数に各要因を回帰させた推定結果を表 9~10、現状を表す様々

な変数に転職回数を含む各要因を回帰させた推定結果を表 11~15 で示している。

転職回数に関しては、年齢、男性、初職非正規が正の有意な結果を、高学歴、父親教育年

数、初職経営者(Tobit のみ)、初職自営、初職官公庁、初職勤続年数、配偶者ありが負の有

意な結果を得ている。したがって、年齢が高いこと、男性であること、初職の従業上の地位

が非正規であることが転職回数を増加させるのに対して、高学歴であること、父親の教育年

数が長いこと、初職の従業上の地位が経営者や自営であること、官公庁に勤務していること、

初職の勤続年数が長いこと、結婚していることが転職回数を減少させることが分かる。

イベントヒストリー分析の結果と齟齬をきたしているのは、やはり高学歴と父親教育年数

であり、豊かな階層出身で、自身も十分な教育を受けた場合は、職場への定着が良好である

というこちらの結果のほうが解釈に無理がない。また男性についても転職回数を増加させる

という逆の結果を得ているが、転職経験者に限定した推定では負の有意な結果を得ており、

女性に転職未経験者(初職継続就業か初職離職後無職)、すなわち転職回数 0 が多いことに起

因すると考えられる。

その転職経験者に限定した推定 29では、新たに消極的理由が正の有意な結果を、初職小規

模、初職中規模、初職直後の無職年数、家庭事情理由が負の有意な結果を得ている。初職直

後の無職年数は、初職勤続年数と同じく因果の特定は困難だが、これらが長引くほど物理的

に多くの職場を経験できなくなるわけで、負の関係が見出されるのはもっともである。

現状を表す様々な変数に関しては、転職回数がいずれの推定でも正の有意な結果を得てい

ることを、まず指摘しなければならない。つまり、転職を重ねるほど現在の仕事内容や仕事

による収入、生活全般についての満足度が低下し、自分自身が入ると思う層も下方になり、

現在のくらしむきも貧しいという評価につながっている。これは、まさしく従来からのネガ

ティブなイメージ通りの結果であり、今もなお「職を転々と変える」ことは、満足できる職

場をもたらすのではなく、労働条件や生活水準の低下と直結していると判断せざるを得ない。

半数以上の被説明変数で共通して有意な結果を得た男性(正)、高学歴(負)、父親教育年

数(負)、初職中規模(正)のうち、男性以外は先のイベントヒストリー分析や転職回数に関

する回帰分析と矛盾する結果ではないと思われるが、男性が女性よりも現状評価が低く、満

足していないということも、要求水準の高さと現状の相対的な位置関係次第で、あり得るべ

きことだと考える。

4.3 議論およびインプリケーション

まず、高学歴と父親教育年数の効果について検討したい。イベントヒストリー分析では、

高学歴と父親教育年数に概ね離職を促進する効果が見出された。しかし、これらの要因には

29 推定結果の表は、紙幅の都合で割愛する。

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転職回数を減少させる効果も見出されている。この一見矛盾する状況を、どう整合的に解釈

するのか。

表 2 の記述統計量 2 によると、高学歴の場合は、初職勤続年数の平均値が 12.8 年であるの

に対して、従業先 2 ではそれが 9.5 年と約 3 年短縮され、その後も従業先 3 の 6.9 年、従業

先 4 の 5.8 年と短縮が続く。一方、高学歴でない場合は、初職勤続年数の平均値が 10.0 年で

あるのに対して、従業先 2 が 10.7 年、従業先 3 が 9.2 年、従業先 4 が 8.4 年と微減程度で推

移し、最終の従業先 6 でも 6.3 年と高学歴の場合の 4.7 年を上回る。また、高学歴比率(表 1

の記述統計量 1)は、初職の 18.4%から漸減し、従業先 6 では 7.6%を占めるに過ぎない。特

に、初職から従業先 2 にかけての減少が 4.6%ポイントと最も大きい。

これらの事実を含めて推測すると、高学歴の場合は初職勤続年数については優位であるが、

ひとたび転職を経験して従業先 2 以降になると、むしろ転職サイクルが速くなることがうか

がえる。したがって、各従業先からの離職に関してイベントヒストリー分析を適用すれば、

必然的に高学歴であることが離職を促進するという結果を導くことになる。しかし、そのよ

うなサンプルの絶対数は減少し、ウェイトは縮小していくので、最終的な転職回数への回帰

における影響は小さく、総じて高学歴であれば転職回数が少ないという一般的な感覚に見合

った結果がもたらされるのではないか。

裏を返せば、高学歴でない場合は、初職以外どの従業先でも平均してやや長めの勤続年数

が達成されているため、イベントヒストリー分析では離職を抑制するという結果を導くもの

の、従業先 6 まで経験するサンプルのウェイトが拡大していくので、最終的な転職回数への

回帰では正の結果を得ているものと考えられる。

父親教育年数についても、ほぼ同様の解釈が可能である。また、父親教育年数に換えて 15

歳の頃(中学 3 年生の時)のくらしむき 30を説明変数としても、特に若年層において豊かな

階層出身であるほど離職が促進される一方で、貧しい階層出身であるほど転職回数が増加す

るという類似の結果を得ている 31。前者については、豊かな階層出身であることが実家(親)

へのパラサイトの可能性を高め、離職に対する躊躇を打ち消しているという解釈もあり得る。

以上の検討をも含めると、次の 2 点が主な知見として挙げられよう。第一に、Job-Hopper

自体が未だ数少ない特殊な存在であり、やはり従来からのネガティブなイメージ通りに職を

転々と変えているというのが典型例であった。すなわち、若年層、女性、非正規、中小規模、

不本意な離職という要因が Job-Hopping につながり、その延長線上にさらなる非正規雇用や

中小規模の職場を導き、労働条件や生活水準の低下にも見舞われている。満足できる職場に

は程遠い。

30 面接票の問 12 を使用。 31 現状を表す様々な変数に関しては、15 歳の頃(中学 3 年生の時)のくらしむきと極めて強い正の関係が

見出された。これは、共に主観的評価を尋ねる設問であることの影響(似たような回答になる)も大きいだ

ろう。

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ただし、サブサンプルによる推定では、細かい点で特徴的な結果が得られている。女性や

若年層が他と異なる結果を示していることが多く、現状を認識する助けとなる一方で、前職

と比べた収入変化に関しては、データの扱い方次第で転職を重ねるほど収入増が優勢になっ

ているという見方もでき 32、ステップアップ型のJob-Hopperの台頭を見据えて、この辺りの

論点の深化が次なる課題になるだろう。

第二に、Job-Hopper の典型例に該当しない場合でも、「転職するか否か(転職を経験する壁)」

あるいは「何度も転職するか否か(2 回以上転職する壁)」で様相が変わり得るということで

ある。例えば、高学歴で恵まれた職場に新卒で就職し、その後の定着が良好であったとして

も、いったん転職をし始めると、逆にそのサイクルが他と比べて速くなることを指摘したが、

労働市場で優位性を持つだけに、まず転職するか否かで二分され、一方がさらに転職を重ね

始めても、それは恐らく典型的な Job-Hopper とは区別して捉えなければならない。転職回数

の平均値が 1~2 回という実態を鑑みても、一足飛びに Job-Hopper を扱うのではなく、初職

のみ、初職から従業先 2、従業先 2 から従業先 3 くらいまでの初期の転職をより丁寧に掘り

下げ、その質や意味合いが異なる転換点を探る必要があるだろう。ここに、一度でも転職を

経験する者が増加するという雇用の流動化のもう一つの側面を視野に入れることになる。

5 おわりに

最後に、残された課題についてまとめておきたい。本章では、Job-Hopper の実態把握とい

う点では一定の知見が得られたものの、政策的な観点からの貢献に乏しいのが最大の難点で

ある。問題関心として挙げたように、例えば前職からの移行に際して無職期間をはさむこと、

ある程度の長期勤続を一度でも経験していること、初職のあり方などの Job-Hopping への効

果が、直感的には十分に想定され得るにもかかわらず、ここでの分析だけでは見極めが難し

く、目的を達成するためにはもう一段の工夫と検討を要することは否めない。その際、無職

期間であっても人的投資をしている場合は識別して考慮するなど、より多くの情報を生かし

て精緻な分析を展開することを企図している。

【謝辞】

本稿の作成に際し、保田時男氏(大阪商業大学)によるパーソンイヤーデータ作成シンタックスを、

SSM2005-J(version13.7.sav)に対して適用させていただいた。また、梶谷真也氏(京都大学大学院経

済学研究科 COE 研究員)には、分析に関して多大な支援をいただいた。記して感謝の意を表したい。

32 面接票の問 8⑧を使用し、増えた場合を 1、減った場合を-1、ほとんど変わらなかった場合を 0 として当

該従業先まで合計したところ、転職を重ねても増えた場合が優勢であった。

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Series』04-J-044. 勇上和史. 2005. 「転職と賃金変化:失業者データによる実証分析」『JILPT Discussion Paper』05-004.

Empirical Analysis of the Frequent Job-Turnover

Junko Urasaka (Doshisha University)

This chapter investigates the realities of Job-Hopper in Japan who never stays in one job long and

is always moving from one job to another. Using the data of SSM2005-J, we obtained the following findings by Event History (Survival) Analysis.

First, Job-Hopping has been brought by the factor like young people, women, non-regular workers, small and medium-sized firms, and unwilling resignations. As a result of Job-Hopping, the working condition and the living standard have decreased. It is the same as the common view.

Second, in the case of non-typical Job-Hopper, like a higher educated person, the decision making whether change one's job is extremely important. It tends to keep changing one's job in a short term comparatively if it changes one's job once. However, it is necessary to distinguish them from typical Job-Hopper.

Keywords: Job-Hopper, Job-Turnover, Tenure, Event History (Survival) Analysis

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表 1 記述統計量 1

初職 従業先2 従業先3 従業先4 従業先5 従業先6勤続年数(年) 10.4927 10.5289 8.9538 8.1255 6.8316 6.1742若年層ダミー 0.2056 0.1646 0.1494 0.1313 0.1111 0.1061高年層ダミー 0.3818 0.4145 0.4186 0.4261 0.4253 0.4470男性ダミー 0.4675 0.4346 0.4172 0.4286 0.4618 0.5000高学歴ダミー 0.1839 0.1381 0.1124 0.0958 0.0816 0.0758父親教育年数(年) 9.8171 9.4870 9.2768 9.1198 9.0546 8.9894入職年齢(歳) 19.3840 27.8624 33.0863 36.5756 39.3125 40.0871経営者ダミー 0.0041 0.0366 0.0341 0.0371 0.0336 0.0234非正規ダミー 0.1059 0.2845 0.3783 0.3968 0.4382 0.3945自営ダミー 0.0790 0.1314 0.1071 0.1003 0.1060 0.0742小規模ダミー 0.3530 0.5299 0.5204 0.5246 0.5183 0.5066中規模ダミー 0.2527 0.2492 0.2934 0.2892 0.2852 0.3188大規模ダミー 0.1144 0.0720 0.0636 0.0657 0.0713 0.0611官公庁ダミー 0.0867 0.0509 0.0437 0.0319 0.0289 0.0349人的つながりダミー 0.7133入職直前の無職年数(年) 2.3580 1.7247 1.0991 0.7535 0.4545初職勤続年数(年) 6.7671 4.8811 4.1371 3.6007 3.1477非自発的理由ダミー 0.0913 0.1469 0.1651 0.2148 0.2032消極的理由ダミー 0.1471 0.1446 0.1582 0.1534 0.1713家庭事情理由ダミー 0.3661 0.2951 0.2261 0.1480 0.1474収入増ダミー 0.5138 0.5184 0.4764 0.4819 0.4567収入減ダミー 0.3098 0.2918 0.3185 0.3014 0.3031配偶者ありダミー 0.0406 0.3910 0.5352 0.5809 0.5789 0.5594子供有りダミー 0.0302 0.3457 0.5215 0.6359 0.6684 0.6908完全失業率(%) 2.1443 2.5320 2.9250 3.2327 3.4849 3.6152Obs(max) 5427 3925 2296 1211 576 264

注)値は平均値。Obsは各従業先における変数のうち最も欠損値の少ない変数のサンプル数。

表 2 記述統計量 2

初職 従業先2 従業先3 従業先4 従業先5 従業先6勤続年数(男性) 14.2330 12.3576 10.1169 9.1715 8.0714 7.1061

2537 1706 958 519 266 132勤続年数(女性) 7.2093 9.1230 8.1211 7.3410 5.7677 5.2424

2890 2219 1338 692 310 132勤続年数(若年層) 5.3118 4.1734 3.5802 3.0692 2.4688 2.4643

1116 646 343 159 64 28勤続年数(中年層) 10.0612 9.1138 7.6855 6.9086 5.9101 5.2203

2239 1652 992 536 267 118勤続年数(高年層) 13.7495 14.4892 12.1811 10.9477 8.9755 8.0085

2072 1627 961 516 245 118勤続年数(高学歴) 12.7565 9.4520 6.9496 5.8448 6.5319 4.7000

998 542 258 116 47 20勤続年数(それ以外) 9.9826 10.7015 9.2076 8.3671 6.8582 6.2951

4429 3383 2038 1095 529 244入職年齢(高学歴) 22.7335 31.6421 35.5078 39.0776 39.8723 42.1500

998 542 258 116 47 20入職年齢(それ以外) 18.6293 27.2567 32.7795 36.3105 39.2628 39.9180

4429 3382 2036 1095 529 244

注)上段の値は平均値、下段はサンプル数。

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表 3 初職からの離職に関するイベントヒストリー分析

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

若年層 -0.2019*** -0.2496*** -0.3683***[0.0475] [0.0739] [0.0596]

高年層 0.1030*** 0.0837 0.1264***[0.0370] [0.0558] [0.0484]

男性 0.5070*** 0.1216** 0.5165*** 0.6732***[0.0319] [0.0517] [0.0489] [0.0568]

高学歴 -0.0431 0.08 -0.0896 -0.0305 -0.0026 0.0209[0.0443] [0.0775] [0.0662] [0.0837] [0.0700] [0.0857]

父親教育年数 -0.0071 -0.007 -0.0069 -0.0209** -0.0033 -0.0127[0.0051] [0.0080] [0.0064] [0.0106] [0.0073] [0.0088]

入職年齢 0.0221*** 0.0011 0.0062 -0.0346* 0.0065 0.0278***[0.0049] [0.0131] [0.0052] [0.0178] [0.0097] [0.0066]

経営者 0.5251*** 0.6439** 0.4205 -0.5574 0.6803** 0.3087[0.1998] [0.2838] [0.2782] [0.6465] [0.3280] [0.2820]

非正規 -0.3245*** -0.7053*** -0.2542*** -0.4119*** -0.5222*** -0.1527[0.0562] [0.0991] [0.0650] [0.0736] [0.0940] [0.1100]

自営 0.6623*** 0.7430*** 0.6040*** 0.4540*** 0.6763*** 0.6436***[0.0638] [0.0945] [0.0852] [0.1399] [0.1138] [0.0993]

小規模 -0.3510*** -0.6188*** -0.1143** -0.2055*** -0.3297*** -0.3344***[0.0446] [0.0697] [0.0564] [0.0757] [0.0672] [0.0806]

中規模 -0.2190*** -0.4164*** -0.0396 -0.0927 -0.1633*** -0.3382***[0.0430] [0.0659] [0.0543] [0.0721] [0.0629] [0.0795]

大規模 -0.0344 -0.0841 0.0632 0.0188 0.0065 0.0025[0.0523] [0.0791] [0.0676] [0.0824] [0.0748] [0.1061]

官公庁 0.3100*** 0.1739** 0.4601*** 0.4449*** 0.3544*** 0.2806***[0.0568] [0.0810] [0.0789] [0.1021] [0.0859] [0.0985]

人的つながり 0.0125 -0.0423 0.0826* 0.1600*** -0.0378 -0.0389[0.0361] [0.0540] [0.0470] [0.0538] [0.0550] [0.0692]

配偶者あり 0.1856*** 0.3544*** 0.0612 0.1325* 0.0996 0.3288***[0.0454] [0.0733] [0.0551] [0.0777] [0.0692] [0.0803]

子供あり 0.4462*** 0.1370* 0.7026*** -0.1353 0.3077*** 0.8347***[0.0487] [0.0773] [0.0635] [0.0889] [0.0724] [0.0825]

完全失業率 -0.1270*** -0.2933*** 0.0997*** 0.1998*** -0.0643** -0.3731***[0.0170] [0.0262] [0.0232] [0.0269] [0.0262] [0.0305]

Constant 1.9134*** 3.5400*** 1.4358*** 1.7624*** 2.0782*** 2.1939***[0.1174] [0.2587] [0.1314] [0.3495] [0.2025] [0.1717]

Observations 39594 26201 13393 3852 15283 20459Subjects 3635 1773 1862 744 1514 1377注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

53

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表 4 従業先 2 からの離職に関するイベントヒストリー分析

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

若年層 -0.4624*** -0.6653*** -0.2978***[0.0629] [0.0842] [0.0881]

高年層 0.2218*** 0.2274*** 0.2424***[0.0439] [0.0586] [0.0631]

男性 0.3664*** -0.0211 0.3954*** 0.5436***[0.0434] [0.0722] [0.0649] [0.0821]

高学歴 -0.1453** -0.1924*** -0.0398 0.0285 -0.0729 -0.3010***[0.0573] [0.0709] [0.1032] [0.1343] [0.0848] [0.1119]

父親教育年数 -0.0032 -0.006 0.0011 -0.0084 -0.0187** 0.0212*[0.0064] [0.0086] [0.0089] [0.0156] [0.0093] [0.0113]

入職年齢 -0.002 0.0005 -0.0073 -0.1007*** 0.0012 0.0095[0.0070] [0.0105] [0.0092] [0.0279] [0.0123] [0.0103]

経営者 0.4772*** 0.3463*** 0.6540*** -0.2982 0.3220** 0.7792***[0.0868] [0.1001] [0.1483] [0.2661] [0.1344] [0.1355]

非正規 -0.2708*** -0.3048*** -0.2471*** -0.4499*** -0.3423*** -0.1577*[0.0486] [0.0883] [0.0595] [0.0818] [0.0789] [0.0878]

自営 0.5417*** 0.4452*** 0.5995*** 0.5068*** 0.4546*** 0.6817***[0.0608] [0.0785] [0.0883] [0.1410] [0.0943] [0.0993]

小規模 -0.1135* -0.2265*** 0.0354 -0.048 -0.0398 -0.2737**[0.0628] [0.0832] [0.0890] [0.1160] [0.0866] [0.1225]

中規模 0.0528 -0.0181 0.1931** 0.1126 0.1015 -0.0322[0.0646] [0.0855] [0.0916] [0.1185] [0.0908] [0.1247]

大規模 0.1082 -0.0093 0.2642** 0.1254 0.1062 0.0581[0.0814] [0.1047] [0.1187] [0.1442] [0.1182] [0.1537]

官公庁 0.3103*** 0.158 0.4842*** 0.3501* 0.3361*** 0.2532[0.0908] [0.1152] [0.1361] [0.1987] [0.1253] [0.1682]

入職直前の無職年数 -0.0112 0.0142 -0.0118 0.0642* -0.0125 -0.0156[0.0078] [0.0295] [0.0098] [0.0350] [0.0136] [0.0112]

初職勤続年数 -0.0209*** -0.0275*** 0.0049 0.0256 -0.0236* -0.0206**[0.0070] [0.0103] [0.0104] [0.0297] [0.0125] [0.0102]

非自発的理由 -0.1473** -0.1370* -0.112 -0.0654 -0.2706** -0.1151[0.0673] [0.0781] [0.1211] [0.1142] [0.1168] [0.1105]

消極的理由 -0.0698 -0.1118* 0.0313 -0.0762 -0.1186 0.021[0.0528] [0.0645] [0.0845] [0.0809] [0.0759] [0.1152]

家庭事情理由 0.1158** 0.0814 0.1445** -0.1464 0.1186 0.3020***[0.0501] [0.0759] [0.0670] [0.1056] [0.0745] [0.0859]

収入増 0.1486*** 0.1041 0.1852*** 0.0795 0.1690** 0.2087**[0.0481] [0.0639] [0.0683] [0.0865] [0.0717] [0.0873]

収入減 -0.0222 -0.0216 -0.0218 0.0356 0.005 -0.0451[0.0547] [0.0772] [0.0749] [0.0989] [0.0829] [0.1009]

配偶者あり 0.1628*** 0.2472*** 0.1022 -0.0834 0.1825** 0.2905***[0.0470] [0.0672] [0.0641] [0.0948] [0.0726] [0.0772]

子供あり 0.4268*** 0.2391*** 0.6620*** 0.1489 0.3622*** 0.6107***[0.0500] [0.0685] [0.0720] [0.1055] [0.0744] [0.0843]

完全失業率 -0.1225*** -0.1555*** -0.0463 0.2526*** -0.0598** -0.3314***[0.0199] [0.0264] [0.0283] [0.0414] [0.0282] [0.0379]

Constant 2.3087*** 3.0805*** 1.6650*** 2.7202*** 2.1523*** 2.2030***[0.1577] [0.2131] [0.2150] [0.5068] [0.2602] [0.2451]

Observations 25188 14208 10980 1412 9367 14409Subjects 2296 1082 1214 351 973 972注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

54

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表 5 従業先 3 からの離職に関するイベントヒストリー分析

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

若年層 -0.5821*** -0.5086*** -0.5690***[0.0848] [0.1255] [0.1174]

高年層 0.3806*** 0.3542*** 0.3784***[0.0567] [0.0861] [0.0766]

男性 0.1738*** 0.1364 0.1438* 0.2029**[0.0557] [0.1102] [0.0871] [0.0985]

高学歴 -0.1386* -0.1623* 0.0213 -0.2544** -0.0567 -0.2178[0.0731] [0.0888] [0.1329] [0.1287] [0.1059] [0.1469]

父親教育年数 -0.0254*** -0.0322** -0.0247** 0.0182 -0.0256** -0.0433***[0.0083] [0.0131] [0.0106] [0.0198] [0.0110] [0.0155]

入職年齢 -0.0215*** -0.0260*** -0.0140*** -0.0606*** -0.0172*** -0.0106*[0.0036] [0.0052] [0.0053] [0.0213] [0.0062] [0.0056]

経営者 0.1940* 0.1051 0.6255*** -0.4552 -0.0924 0.4698***[0.1154] [0.1365] [0.2396] [0.4642] [0.1850] [0.1730]

非正規 -0.2374*** -0.3009*** -0.2175*** -0.2771** -0.3298*** -0.1737*[0.0572] [0.1094] [0.0701] [0.1097] [0.0829] [0.1037]

自営 0.4515*** 0.3872*** 0.6207*** -0.0284 0.4030*** 0.6343***[0.0764] [0.1115] [0.1074] [0.2006] [0.1183] [0.1251]

小規模 -0.042 -0.1365 0.0082 -0.0371 0.07 -0.2181[0.0870] [0.1277] [0.1204] [0.1835] [0.1279] [0.1585]

中規模 0.0457 -0.0532 0.1345 0.0769 0.0205 -0.0597[0.0883] [0.1271] [0.1218] [0.1906] [0.1285] [0.1579]

大規模 0.0582 -0.0889 0.1704 -0.1216 0.0412 0.0484[0.1183] [0.1695] [0.1642] [0.2236] [0.1712] [0.2284]

官公庁 0.2186* 0.104 0.2464 0.3078 0.226 0.1148[0.1247] [0.1825] [0.1714] [0.2878] [0.1696] [0.2326]

入職直前の無職年数 -0.0063 -0.0025 -0.0138* -0.0809** -0.0081 -0.0067[0.0064] [0.0436] [0.0071] [0.0392] [0.0098] [0.0099]

初職勤続年数 -0.0045 -0.0008 -0.0035 -0.0456 -0.0033 -0.0036[0.0049] [0.0059] [0.0091] [0.0344] [0.0091] [0.0066]

非自発的理由 -0.1822*** -0.2220** -0.0851 -0.1224 -0.0211 -0.3486***[0.0687] [0.0941] [0.1072] [0.1803] [0.1044] [0.1166]

消極的理由 -0.1310* -0.0612 -0.2367** -0.4579*** -0.0944 -0.0124[0.0686] [0.0895] [0.1073] [0.1166] [0.1005] [0.1360]

家庭事情理由 0.1582** -0.05 0.2674*** 0.2247 0.2314** 0.2025*[0.0660] [0.1221] [0.0810] [0.1501] [0.0934] [0.1198]

収入増 0.2084*** 0.2570*** 0.1497* -0.0666 0.3238*** 0.1656[0.0599] [0.0891] [0.0817] [0.1268] [0.0858] [0.1091]

収入減 -0.0059 0.1725* -0.1576* -0.0795 -0.0345 0.0629[0.0663] [0.1011] [0.0885] [0.1415] [0.0950] [0.1218]

配偶者あり 0.1215** 0.1231 0.1216* -0.0338 0.3062*** 0.0922[0.0546] [0.0928] [0.0709] [0.1253] [0.0838] [0.0897]

子供あり 0.2117*** 0.2095** 0.2299*** 0.1246 0.0561 0.4368***[0.0611] [0.0972] [0.0847] [0.1351] [0.0895] [0.1031]

完全失業率 -0.0482* -0.0829** -0.0165 0.4363*** 0.007 -0.2270***[0.0249] [0.0364] [0.0334] [0.0699] [0.0345] [0.0453]

Constant 2.7902*** 3.3397*** 2.3267*** 1.0078* 2.3250*** 3.3481***[0.1643] [0.2207] [0.2283] [0.5461] [0.2445] [0.2713]

Observations 11834 5945 5889 633 4290 6911Subjects 1304 586 718 173 568 563注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

55

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表 6 従業先 4 からの離職に関するイベントヒストリー分析

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

若年層 -1.0319*** -1.1360*** -1.0533***[0.1078] [0.1595] [0.1501]

高年層 0.5557*** 0.4943*** 0.5813***[0.0717] [0.0998] [0.1024]

男性 -0.0131 -0.1776 -0.0391 0.0535[0.0676] [0.1525] [0.1106] [0.1095]

高学歴 -0.1647* -0.2756** -0.1043 -0.4272** -0.131 -0.0753[0.0969] [0.1159] [0.1806] [0.2116] [0.1492] [0.1808]

父親教育年数 -0.0165* -0.0089 -0.0159 -0.0164 -0.0265* -0.0172[0.0100] [0.0157] [0.0129] [0.0222] [0.0156] [0.0178]

入職年齢 -0.0405*** -0.0346*** -0.0464*** -0.0424* -0.0393*** -0.0394***[0.0043] [0.0059] [0.0061] [0.0235] [0.0078] [0.0059]

経営者 0.3040** 0.2015 0.4269 0.2194 0.3789 0.1926[0.1474] [0.1609] [0.2911] [0.3766] [0.2852] [0.1985]

非正規 -0.1979*** -0.4081*** -0.1537* -0.2368* -0.2030* -0.178[0.0719] [0.1288] [0.0919] [0.1332] [0.1161] [0.1202]

自営 0.1837** 0.1704 0.0967 -0.0824 0.2675* 0.0938[0.0936] [0.1208] [0.1481] [0.3454] [0.1568] [0.1342]

小規模 0.1899* 0.0095 0.3056** 0.2778 0.2071 -0.011[0.1093] [0.1673] [0.1450] [0.2698] [0.1541] [0.2092]

中規模 0.1848* -0.1857 0.3822*** 0.2357 0.3459** -0.1286[0.1101] [0.1695] [0.1465] [0.2783] [0.1559] [0.2109]

大規模 0.5315*** 0.1986 0.6911*** 0.263 0.6041*** 0.3671[0.1447] [0.2056] [0.1983] [0.2923] [0.2174] [0.2690]

官公庁 0.5749*** 0.2299 0.7114*** 0.5945 0.7985*** 0.2639[0.1825] [0.2870] [0.2349] [0.4493] [0.3017] [0.2929]

入職直前の無職年数 -0.0035 0.088 -0.0074 -0.0803 -0.0376* 0.012[0.0117] [0.0588] [0.0124] [0.0509] [0.0206] [0.0171]

初職勤続年数 0.0032 0.0024 0.0033 -0.0969* -0.0029 0.0108[0.0077] [0.0092] [0.0137] [0.0587] [0.0153] [0.0096]

非自発的理由 -0.2248*** -0.2551** -0.2128* -0.4565** -0.2314* -0.2299**[0.0774] [0.1092] [0.1120] [0.1859] [0.1387] [0.1165]

消極的理由 -0.097 -0.0386 -0.1664 -0.1946 -0.0263 -0.133[0.0831] [0.1028] [0.1296] [0.1439] [0.1361] [0.1514]

家庭事情理由 -0.0234 -0.1743 0.0139 -0.1776 -0.0167 0.0275[0.0861] [0.1837] [0.1030] [0.1936] [0.1306] [0.1435]

収入増 0.2491*** 0.3010*** 0.2467** 0.2364 0.2755** 0.2819**[0.0737] [0.1014] [0.1044] [0.1641] [0.1172] [0.1246]

収入減 0.1716** 0.2762** 0.1291 -0.0847 0.1872 0.2401*[0.0796] [0.1126] [0.1121] [0.1745] [0.1325] [0.1283]

配偶者あり 0.1198* 0.3557*** 0.0319 0.2857** 0.1435 0.0605[0.0663] [0.1077] [0.0865] [0.1392] [0.1101] [0.1045]

子供あり 0.1152 -0.0761 0.1973* -0.3157** 0.151 0.3142**[0.0793] [0.1112] [0.1176] [0.1369] [0.1181] [0.1439]

完全失業率 -0.0202 -0.0046 -0.0144 0.3018*** -0.0285 -0.0573[0.0307] [0.0396] [0.0460] [0.1013] [0.0487] [0.0486]

Constant 3.1946*** 3.0867*** 3.2211*** 1.3273 3.1659*** 3.8139***[0.2034] [0.2632] [0.2937] [0.8287] [0.3332] [0.3337]

Observations 5506 2769 2737 264 2071 3171Subjects 671 308 363 88 290 293注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

56

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表 7 従業先 5 からの離職に関するイベントヒストリー分析

全体 男性 女性 中年層 高年層

若年層 -1.0290*** -0.7404*** -1.2781***[0.1791] [0.2671] [0.2359]

高年層 0.6447*** 0.5860*** 0.8106***[0.1112] [0.1587] [0.1558]

男性 0.2400** 0.2612* 0.2047[0.0952] [0.1557] [0.1379]

高学歴 0.099 -0.0066 0.1799 0.0759 0.0283[0.1524] [0.1820] [0.2987] [0.2398] [0.2490]

父親教育年数 -0.0424*** -0.0326 -0.0465** -0.0638*** -0.0127[0.0139] [0.0201] [0.0212] [0.0205] [0.0212]

入職年齢 -0.0404*** -0.0324*** -0.0553*** -0.0470*** -0.0366***[0.0070] [0.0103] [0.0100] [0.0107] [0.0101]

経営者 -0.0551 -0.0811 -0.2343 0.223 0.1251[0.2139] [0.2464] [0.4528] [0.5088] [0.2733]

非正規 -0.2595** 0.0447 -0.4286*** -0.1645 -0.2245[0.1057] [0.1972] [0.1393] [0.1579] [0.1821]

自営 0.144 0.3062 -0.3285 0.2233 0.1312[0.1556] [0.2027] [0.2543] [0.2317] [0.2225]

小規模 -0.1504 -0.1152 -0.2418 0.0965 -0.3253[0.1504] [0.2064] [0.2228] [0.2368] [0.2093]

中規模 -0.0724 -0.0958 -0.0894 0.1818 -0.2196[0.1549] [0.2065] [0.2237] [0.2324] [0.2392]

大規模 -0.0294 -0.1076 -0.1498 0.2283 -0.2616[0.2056] [0.3325] [0.2692] [0.3292] [0.3106]

官公庁 0.1251 -0.0923 0.2587 0.562 -0.2779[0.2888] [0.4433] [0.3850] [0.3847] [0.4814]

入職直前の無職年数 0.0149 -0.2371* 0.0256 0.0763* -0.028[0.0231] [0.1433] [0.0245] [0.0421] [0.0300]

初職勤続年数 -0.0104 -0.0002 -0.0106 -0.0109 -0.0033[0.0115] [0.0144] [0.0258] [0.0244] [0.0143]

非自発的理由 -0.055 -0.2261 0.0489 0.0625 -0.1845[0.1184] [0.1749] [0.1640] [0.1883] [0.1805]

消極的理由 -0.2729** -0.2255 -0.2559 -0.193 -0.298[0.1298] [0.1786] [0.2004] [0.1881] [0.2339]

家庭事情理由 0.1147 0.2245 0.1342 0.0436 0.3623[0.1480] [0.2510] [0.1926] [0.1975] [0.2595]

収入増 0.2631** 0.2648* 0.1913 0.3952** 0.0533[0.1114] [0.1515] [0.1729] [0.1650] [0.1994]

収入減 0.2387* 0.2968* 0.0828 0.2325 0.2507[0.1235] [0.1717] [0.1840] [0.1870] [0.2155]

配偶者あり -0.0023 -0.1195 -0.0301 -0.1959 0.0607[0.0977] [0.1734] [0.1274] [0.1755] [0.1339]

子供あり 0.1149 0.2454 0.1859 0.2438 0.0682[0.1114] [0.1838] [0.1614] [0.1907] [0.1695]

完全失業率 0.02 -0.009 0.0669 -0.0387 0.0422[0.0478] [0.0682] [0.0669] [0.0725] [0.0725]

Constant 3.4275*** 3.3103*** 4.0169*** 3.7457*** 3.8225***[0.2994] [0.3948] [0.4306] [0.4882] [0.4741]

Observations 2166 1259 907 838 1259Subjects 297 148 149 134 138注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

57

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表 8 従業先 6 からの離職に関するイベントヒストリー分析

全体 男性 女性 中年層 高年層

若年層 -0.5485* 0.0957 -0.6818[0.3092] [0.4400] [0.4566]

高年層 0.8266*** 0.3938* 1.0739***[0.1480] [0.2084] [0.1709]

男性 -0.1008 -0.0206 -0.0544[0.1508] [0.1562] [0.2850]

高学歴 0.1289 0.3817 -0.4311 0.9372*** 0.0473[0.2135] [0.2757] [0.4544] [0.2960] [0.4507]

父親教育年数 -0.0303 -0.0328 -0.0466* -0.0595*** -0.0313[0.0205] [0.0279] [0.0277] [0.0216] [0.0365]

入職年齢 -0.0502*** -0.0258* -0.0578*** -0.018 -0.0360**[0.0099] [0.0153] [0.0145] [0.0134] [0.0162]

経営者 0.23 0.2587 0.0726 0.4154 0.5605[0.2769] [0.3559] [0.4907] [0.3875] [0.4486]

非正規 -0.214 -0.4237 -0.059 -0.3944** 0.0747[0.1554] [0.2668] [0.2432] [0.1830] [0.2802]

自営 0.8001*** 0.7235*** 1.5771*** 1.7670*** 0.6458*[0.2151] [0.2530] [0.5451] [0.2831] [0.3635]

小規模 0.4158 0.6891* 0.2706 0.7851** 0.2974[0.2662] [0.3626] [0.3948] [0.3688] [0.3668]

中規模 0.7559*** 1.1399*** 0.6112 1.3693*** 0.6908**[0.2571] [0.3641] [0.4100] [0.3722] [0.3432]

大規模 0.7941** 0.318 0.6016 0.9783** 1.6482**[0.3737] [0.7558] [0.4640] [0.4230] [0.7521]

官公庁 0.7163* 0.1423 1.3830** 1.4902*** 0.2043[0.3893] [0.5562] [0.5823] [0.5025] [0.7825]

入職直前の無職年数 0.0448 -0.1539*** 0.1059*** -0.1959*** 0.0464[0.0308] [0.0568] [0.0372] [0.0649] [0.0430]

初職勤続年数 0.0209 0.0016 0.0428 0.0495 -0.0085[0.0241] [0.0282] [0.0471] [0.0306] [0.0371]

非自発的理由 0.1823 0.133 -0.1181 0.1806 0.0214[0.1636] [0.2172] [0.2661] [0.2461] [0.2410]

消極的理由 -0.2838 -0.7572*** -0.151 -0.6493*** -0.6092**[0.1757] [0.2576] [0.2422] [0.2167] [0.2855]

家庭事情理由 -0.2578 -0.3183 -0.7584*** -0.2916 -0.346[0.1992] [0.3132] [0.2397] [0.2191] [0.3758]

収入増 0.3270** 0.5105** 0.4888** 0.3383 0.4341*[0.1575] [0.2171] [0.2414] [0.2116] [0.2375]

収入減 0.1313 0.3560* 0.2151 0.4109* 0.075[0.1680] [0.2156] [0.2479] [0.2143] [0.2761]

配偶者あり -0.1553 -0.3029 -0.0696 -1.1836*** -0.084[0.1573] [0.2150] [0.2047] [0.2640] [0.2567]

子供あり 0.3696* 0.374 0.4639* 0.9405*** 0.5040*[0.1922] [0.2534] [0.2606] [0.2409] [0.2926]

完全失業率 0.1274** 0.0546 0.1069 0.1622** 0.0735[0.0601] [0.0800] [0.0862] [0.0750] [0.0875]

Constant 2.2969*** 1.5525** 2.4846*** 0.7827 2.6397***[0.5324] [0.7876] [0.7707] [0.6399] [0.7772]

Observations 774 410 364 279 475Subjects 132 71 61 59 65注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

58

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表 9 転職回数に関する回帰分析(OLS)

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

年齢 0.0331*** 0.0485*** 0.0214*** 0.1662*** 0.0420*** 0.0029[0.0020] [0.0028] [0.0028] [0.0099] [0.0055] [0.0085]

男性 0.3150*** 0.1786** 0.2659*** 0.5818***[0.0440] [0.0707] [0.0669] [0.0772]

高学歴 -0.3321*** -0.3213*** -0.2951*** -0.5657*** -0.5046*** -0.0838[0.0564] [0.0664] [0.1018] [0.0866] [0.0797] [0.1151]

父親教育年数 -0.0241*** -0.0235** -0.0236** -0.0251* -0.0210** -0.0293**[0.0072] [0.0100] [0.0102] [0.0148] [0.0104] [0.0121]

初職経営者 -0.3579 -0.237 -0.4986 -0.8547 -0.3516 -0.2379[0.2977] [0.3709] [0.4724] [1.0184] [0.4610] [0.4114]

初職非正規 0.1295* 0.4854*** -0.0426 0.3071*** 0.0296 -0.0438[0.0704] [0.1115] [0.0916] [0.0968] [0.1161] [0.1319]

初職自営 -0.4492*** -0.4526*** -0.2944** -0.3127 -0.4711*** -0.0649[0.0915] [0.1201] [0.1396] [0.2096] [0.1583] [0.1368]

初職小規模 0.0104 -0.0698 0.059 0.1879* -0.077 0.0086[0.0625] [0.0871] [0.0890] [0.1049] [0.0903] [0.1129]

初職中規模 0.0013 -0.0381 0.0178 0.1152 0.1012 -0.1283[0.0608] [0.0836] [0.0872] [0.1008] [0.0851] [0.1135]

初職大規模 -0.076 -0.098 -0.0282 0.0743 -0.0745 -0.0791[0.0749] [0.0993] [0.1105] [0.1199] [0.1022] [0.1488]

初職官公庁 -0.2792*** -0.1735* -0.4036*** -0.1766 -0.2463** -0.1595[0.0810] [0.1026] [0.1278] [0.1477] [0.1157] [0.1402]

人的つながり -0.0732 -0.1076 -0.0183 -0.1687** -0.2512*** 0.2321**[0.0500] [0.0670] [0.0733] [0.0760] [0.0740] [0.0942]

初職勤続年数 -0.0642*** -0.0674*** -0.0670*** -0.2011*** -0.0881*** -0.0542***[0.0020] [0.0023] [0.0038] [0.0096] [0.0035] [0.0026]

配偶者あり -0.1477*** -0.3021*** -0.105 0.0027 -0.2701*** -0.4757***[0.0567] [0.0848] [0.0760] [0.0962] [0.0912] [0.1003]

子供数 -0.0149 0.0201 -0.0331 -0.1802*** -0.0663** -0.0331[0.0228] [0.0329] [0.0316] [0.0488] [0.0319] [0.0394]

Constant 0.9602*** 0.6391*** 1.4832*** -2.3101*** 1.2907*** 2.5651***[0.1487] [0.1984] [0.2115] [0.3418] [0.3220] [0.5631]

Observations 4129 1983 2146 913 1678 1538R-squared 0.29 0.4 0.19 0.44 0.37 0.29注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

59

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表 10 転職回数に関する回帰分析(Tobit)

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

年齢 0.0496*** 0.0741*** 0.0307*** 0.2576*** 0.0573*** 0.0082[0.0027] [0.0040] [0.0035] [0.0162] [0.0073] [0.0108]

男性 0.4506*** 0.1933* 0.3673*** 0.8060***[0.0596] [0.1156] [0.0873] [0.0970]

高学歴 -0.4839*** -0.4664*** -0.4641*** -0.8690*** -0.6884*** -0.0824[0.0792] [0.0976] [0.1355] [0.1453] [0.1086] [0.1492]

父親教育年数 -0.0322*** -0.0270* -0.0357*** -0.0445* -0.0279** -0.0410***[0.0099] [0.0146] [0.0132] [0.0242] [0.0139] [0.0152]

初職経営者 -0.8288* -0.6911 -0.8499 -8.7204 -0.7592 -0.6576[0.4706] [0.6119] [0.7152] [0.0000] [0.7251] [0.5939]

初職非正規 0.2048** 0.6653*** -0.0272 0.4982*** 0.0243 -0.1172[0.0929] [0.1503] [0.1177] [0.1493] [0.1460] [0.1631]

初職自営 -0.8114*** -0.9351*** -0.4219** -0.8916** -0.7888*** -0.1866[0.1309] [0.1839] [0.1853] [0.4180] [0.2326] [0.1756]

初職小規模 -0.0583 -0.1948 0.0463 0.275 -0.1322 -0.1599[0.0839] [0.1235] [0.1127] [0.1673] [0.1156] [0.1415]

初職中規模 -0.0304 -0.1192 0.0299 0.1609 0.1125 -0.2518*[0.0821] [0.1198] [0.1108] [0.1649] [0.1101] [0.1420]

初職大規模 -0.1686 -0.2899** -0.0083 0.0884 -0.1541 -0.1858[0.1029] [0.1469] [0.1414] [0.2011] [0.1356] [0.1883]

初職官公庁 -0.5514*** -0.3894** -0.7407*** -0.6017** -0.5963*** -0.2367[0.1175] [0.1566] [0.1758] [0.2790] [0.1686] [0.1820]

人的つながり -0.0864 -0.119 -0.0156 -0.2554** -0.2969*** 0.2986**[0.0684] [0.0973] [0.0948] [0.1227] [0.0986] [0.1194]

初職勤続年数 -0.1116*** -0.1121*** -0.1309*** -0.3846*** -0.1561*** -0.0890***[0.0032] [0.0038] [0.0065] [0.0197] [0.0058] [0.0037]

配偶者あり -0.1360* -0.3812*** -0.0737 0.0657 -0.3147*** -0.5554***[0.0758] [0.1205] [0.0966] [0.1543] [0.1169] [0.1233]

子供数 -0.0212 0.0154 -0.037 -0.2980*** -0.0966** -0.0496[0.0307] [0.0472] [0.0403] [0.0782] [0.0413] [0.0495]

Constant 0.3539* -0.2575 1.2866*** -4.4275*** 1.0653** 2.5584***[0.2033] [0.2886] [0.2739] [0.5545] [0.4270] [0.7104]

Observations 4129 1983 2146 913 1678 1538注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

60

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表 11 現在の仕事の内容に関する回帰分析

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

転職回数 0.0529*** 0.0647*** 0.0452** 0.1136*** 0.0147 0.0690**[0.0158] [0.0225] [0.0227] [0.0410] [0.0244] [0.0281]

年齢 -0.0069*** -0.0108*** -0.002 -0.0196 -0.0073 0.0042[0.0022] [0.0032] [0.0032] [0.0137] [0.0056] [0.0094]

男性 0.1714*** 0.2932*** 0.1742*** 0.116[0.0425] [0.0816] [0.0641] [0.0840]

高学歴 -0.1928*** -0.1467** -0.2675*** -0.2082** -0.2866*** -0.0308[0.0534] [0.0637] [0.1020] [0.1031] [0.0770] [0.1202]

父親教育年数 -0.0109 -0.0107 -0.0125 0.003 -0.0168* -0.009[0.0073] [0.0100] [0.0108] [0.0175] [0.0102] [0.0136]

初職経営者 -0.1067 -0.7099* 0.6898 -0.1643 -0.1277[0.2703] [0.3713] [0.4293] [0.4211] [0.3585]

初職非正規 -0.0088 0.0664 -0.0643 0.0996 -0.0579 -0.1608[0.0690] [0.1071] [0.0920] [0.1123] [0.1148] [0.1483]

初職自営 0.045 0.2127* -0.3242** -0.4818* 0.0487 0.0832[0.0905] [0.1172] [0.1484] [0.2506] [0.1501] [0.1481]

初職小規模 -0.1367** -0.0602 -0.2432*** -0.2668** -0.2188** 0.1546[0.0609] [0.0842] [0.0899] [0.1247] [0.0879] [0.1216]

初職中規模 0.0424 0.1413* -0.0822 -0.0333 0.0118 0.2246*[0.0587] [0.0798] [0.0880] [0.1183] [0.0821] [0.1232]

初職大規模 0.1034 0.1638* 0.0059 0.0912 0.11 0.087[0.0715] [0.0942] [0.1106] [0.1392] [0.0996] [0.1583]

初職官公庁 -0.0834 -0.0302 -0.1344 -0.1272 -0.0157 -0.0927[0.0788] [0.0993] [0.1323] [0.1685] [0.1105] [0.1577]

人的つながり -0.0149 0.0405 -0.1201 -0.0932 -0.0101 0.0731[0.0488] [0.0643] [0.0760] [0.0893] [0.0709] [0.1087]

初職勤続年数 0.0006 0.0019 0.003 0.0174 -0.0047 0.0032[0.0022] [0.0029] [0.0042] [0.0139] [0.0039] [0.0031]

配偶者あり -0.0533 -0.1156 -0.0048 -0.0766 0.001 -0.1893*[0.0549] [0.0817] [0.0749] [0.1134] [0.0878] [0.1091]

子供数 -0.0028 0.0261 -0.0346 0.0238 -0.0397 0.026[0.0224] [0.0318] [0.0323] [0.0583] [0.0311] [0.0419]

Observations 3104 1682 1422 766 1427 911注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

61

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表 12 現在の仕事による収入に関する回帰分析

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

転職回数 0.0690*** 0.0701*** 0.0748*** 0.0535 0.0644*** 0.0702**[0.0155] [0.0223] [0.0220] [0.0401] [0.0239] [0.0277]

年齢 -0.0013 -0.0047 0.0034 -0.0019 -0.0023 0.0095[0.0022] [0.0031] [0.0031] [0.0133] [0.0055] [0.0091]

男性 0.2005*** 0.2491*** 0.2941*** 0.0425[0.0414] [0.0793] [0.0627] [0.0808]

高学歴 -0.1986*** -0.2329*** -0.1378 -0.2333** -0.2814*** -0.0443[0.0517] [0.0620] [0.0980] [0.0998] [0.0749] [0.1150]

父親教育年数 -0.0138* -0.0073 -0.0210** -0.0134 -0.0122 -0.014[0.0071] [0.0097] [0.0104] [0.0170] [0.0099] [0.0130]

初職経営者 0.2351 0.3551 -0.0002 0.2699 0.1897[0.2616] [0.3310] [0.4297] [0.4000] [0.3528]

初職非正規 -0.0206 -0.0261 -0.0446 0.1225 -0.0921 -0.1244[0.0669] [0.1047] [0.0889] [0.1100] [0.1108] [0.1405]

初職自営 0.1824** 0.2488** 0.0024 -0.1564 0.3004** 0.1689[0.0874] [0.1142] [0.1402] [0.2314] [0.1463] [0.1423]

初職小規模 -0.0808 -0.0717 -0.0829 -0.1473 -0.101 0.0359[0.0591] [0.0819] [0.0870] [0.1217] [0.0854] [0.1155]

初職中規模 0.0713 0.0521 0.102 0.0654 0.0779 0.1037[0.0573] [0.0780] [0.0858] [0.1159] [0.0805] [0.1182]

初職大規模 0.1322* 0.2293** 0.0088 0.1045 0.1035 0.2288[0.0698] [0.0920] [0.1080] [0.1365] [0.0978] [0.1508]

初職官公庁 -0.1548** -0.2367** -0.0058 -0.1186 -0.2130** -0.0457[0.0767] [0.0967] [0.1287] [0.1647] [0.1082] [0.1494]

人的つながり -0.0195 -0.0292 -0.0314 -0.0851 0.0055 0.0371[0.0475] [0.0627] [0.0737] [0.0872] [0.0693] [0.1039]

初職勤続年数 -0.0022 -0.0009 -0.0031 -0.0099 -0.0023 -0.0009[0.0022] [0.0028] [0.0041] [0.0135] [0.0038] [0.0030]

配偶者あり -0.0346 -0.0506 -0.027 0.0431 0.0078 -0.2210**[0.0535] [0.0801] [0.0723] [0.1101] [0.0858] [0.1054]

子供数 -0.0131 0.0145 -0.047 0.01 -0.0479 0.0048[0.0218] [0.0310] [0.0312] [0.0564] [0.0304] [0.0405]

Observations 3094 1674 1420 764 1421 909注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

62

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表 13 生活全般に関する回帰分析

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

転職回数 0.0929*** 0.0856*** 0.1010*** 0.0721** 0.1115*** 0.0752***[0.0130] [0.0197] [0.0176] [0.0354] [0.0217] [0.0205]

年齢 -0.001 0.0002 -0.0014 -0.0045 -0.0011 -0.0119*[0.0017] [0.0026] [0.0023] [0.0121] [0.0050] [0.0069]

男性 0.3179*** 0.3120*** 0.3730*** 0.2882***[0.0371] [0.0763] [0.0599] [0.0634]

高学歴 -0.1362*** -0.1221** -0.1710** -0.0797 -0.2580*** -0.0571[0.0476] [0.0590] [0.0846] [0.0953] [0.0721] [0.0929]

父親教育年数 -0.0110* -0.0076 -0.0136 0.0006 -0.0082 -0.0105[0.0061] [0.0089] [0.0084] [0.0159] [0.0093] [0.0098]

初職経営者 -0.171 -0.0637 -0.338 0.1931 -0.6517 -0.0033[0.2584] [0.3371] [0.4069] [1.0632] [0.4389] [0.3419]

初職非正規 0.1217** 0.0815 0.1494** 0.2701*** 0.1472 0.0194[0.0586] [0.0979] [0.0744] [0.1034] [0.1025] [0.1062]

初職自営 0.1044 0.1729 0.0034 -0.0963 0.1052 0.124[0.0767] [0.1057] [0.1148] [0.2261] [0.1402] [0.1102]

初職小規模 0.0636 0.0728 0.0504 0.0468 -0.0401 0.2450***[0.0525] [0.0767] [0.0731] [0.1123] [0.0804] [0.0915]

初職中規模 0.1246** 0.0656 0.1672** 0.1258 0.0986 0.2060**[0.0509] [0.0736] [0.0714] [0.1079] [0.0755] [0.0920]

初職大規模 0.0056 0.0687 -0.0647 -0.049 -0.0138 0.0958[0.0629] [0.0875] [0.0912] [0.1292] [0.0910] [0.1204]

初職官公庁 -0.0814 -0.1064 -0.0393 -0.0478 -0.0887 -0.05[0.0684] [0.0912] [0.1055] [0.1586] [0.1034] [0.1146]

人的つながり 0.0477 0.0524 0.0342 0.0807 0.0012 0.0792[0.0420] [0.0591] [0.0602] [0.0817] [0.0660] [0.0766]

初職勤続年数 0.0011 -0.0001 0.0036 0.0013 0.0039 0.0001[0.0019] [0.0024] [0.0033] [0.0126] [0.0036] [0.0024]

配偶者あり -0.3293*** -0.4611*** -0.2345*** -0.5441*** -0.4034*** -0.2335***[0.0473] [0.0748] [0.0618] [0.1042] [0.0806] [0.0811]

子供数 0.0039 0.0103 0.0077 0.0960* 0.0149 -0.0494[0.0191] [0.0290] [0.0258] [0.0532] [0.0283] [0.0317]

Observations 4123 1980 2143 910 1676 1537注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

63

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表 14 自分自身が入ると思う層に関する回帰分析

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

転職回数 0.0870*** 0.1011*** 0.0816*** 0.1010*** 0.1119*** 0.0637***[0.0126] [0.0193] [0.0170] [0.0343] [0.0211] [0.0199]

年齢 -0.0044*** -0.0074*** -0.0023 -0.0334*** -0.0101** -0.0024[0.0017] [0.0026] [0.0022] [0.0117] [0.0048] [0.0067]

男性 0.2821*** 0.3566*** 0.3726*** 0.1481**[0.0360] [0.0732] [0.0582] [0.0617]

高学歴 -0.3798*** -0.4032*** -0.3513*** -0.2610*** -0.5240*** -0.2417***[0.0460] [0.0576] [0.0802] [0.0906] [0.0703] [0.0895]

父親教育年数 -0.0135** -0.0099 -0.0170** 0.0031 -0.0282*** -0.0039[0.0059] [0.0087] [0.0081] [0.0152] [0.0090] [0.0095]

初職経営者 -0.5464** -0.5230* -0.573 -0.9546 -0.7136* -0.4128[0.2448] [0.3149] [0.3903] [1.0191] [0.3972] [0.3302]

初職非正規 0.0182 0.0296 0.0036 0.073 -0.0333 0.0232[0.0571] [0.0957] [0.0724] [0.0999] [0.0997] [0.1040]

初職自営 0.0813 0.1412 0.0047 0.1343 -0.0548 0.1832*[0.0744] [0.1035] [0.1098] [0.2155] [0.1378] [0.1071]

初職小規模 0.1548*** 0.1089 0.1867*** 0.1389 0.1648** 0.1655*[0.0507] [0.0747] [0.0701] [0.1079] [0.0776] [0.0885]

初職中規模 0.1755*** 0.2094*** 0.1503** 0.1122 0.1988*** 0.1980**[0.0491] [0.0716] [0.0683] [0.1037] [0.0729] [0.0886]

初職大規模 0.015 0.0538 -0.031 -0.0401 0.1048 -0.1132[0.0605] [0.0851] [0.0865] [0.1229] [0.0876] [0.1166]

初職官公庁 -0.0053 -0.0004 -0.0115 0.0678 -0.024 0.0176[0.0657] [0.0879] [0.1008] [0.1514] [0.0999] [0.1093]

人的つながり -0.0096 -0.0153 -0.0021 -0.012 -0.0557 0.1004[0.0405] [0.0574] [0.0577] [0.0785] [0.0636] [0.0740]

初職勤続年数 -0.0035* -0.0026 -0.0015 -0.0003 -0.002 -0.0031[0.0018] [0.0024] [0.0032] [0.0120] [0.0035] [0.0023]

配偶者あり -0.3300*** -0.3823*** -0.2919*** -0.2342** -0.4248*** -0.3220***[0.0461] [0.0735] [0.0599] [0.0987] [0.0790] [0.0793]

子供数 0.0143 0.0304 0.0069 0.0808 0.0197 -0.01[0.0185] [0.0282] [0.0248] [0.0506] [0.0274] [0.0309]

Observations 4036 1933 2103 893 1643 1500注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

64

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表 15 現在のくらしむきに関する回帰分析

全体 男性 女性 若年層 中年層 高年層

転職回数 0.0984*** 0.0888*** 0.1115*** 0.0074 0.1276*** 0.0920***[0.0138] [0.0210] [0.0188] [0.0381] [0.0232] [0.0217]

年齢 0.0015 0.0024 0.001 0.0241* 0.0002 -0.0055[0.0018] [0.0028] [0.0024] [0.0131] [0.0053] [0.0073]

男性 0.2500*** 0.2818*** 0.3046*** 0.2298***[0.0397] [0.0821] [0.0643] [0.0673]

高学歴 -0.3621*** -0.3779*** -0.3350*** -0.1688* -0.5025*** -0.3910***[0.0506] [0.0633] [0.0879] [0.1014] [0.0774] [0.0980]

父親教育年数 -0.0141** -0.0114 -0.0170* -0.0181 -0.0182* -0.0048[0.0065] [0.0094] [0.0089] [0.0170] [0.0099] [0.0103]

初職経営者 -0.5463** -0.4692 -0.6722* -1.5479 -1.0648** -0.1342[0.2629] [0.3493] [0.3989] [1.0393] [0.4342] [0.3511]

初職非正規 0.0026 -0.0808 0.0475 0.0189 0.0587 0.1217[0.0632] [0.1049] [0.0809] [0.1123] [0.1110] [0.1139]

初職自営 -0.0397 -0.0059 -0.1076 -0.2249 -0.1027 0.0696[0.0818] [0.1129] [0.1214] [0.2383] [0.1493] [0.1174]

初職小規模 -0.0069 -0.0305 -0.0013 0.0872 -0.0185 -0.0091[0.0558] [0.0819] [0.0775] [0.1207] [0.0860] [0.0963]

初職中規模 0.1276** 0.1262 0.1197 0.1004 0.0975 0.2208**[0.0543] [0.0785] [0.0760] [0.1158] [0.0809] [0.0971]

初職大規模 0.0519 0.0614 0.025 0.0136 0.0075 0.1398[0.0669] [0.0932] [0.0965] [0.1372] [0.0975] [0.1272]

初職官公庁 -0.0147 -0.0701 0.0306 0.1817 -0.0388 -0.0628[0.0727] [0.0969] [0.1118] [0.1696] [0.1108] [0.1204]

人的つながり -0.0122 -0.0494 0.0213 0.0718 -0.0423 -0.0227[0.0446] [0.0629] [0.0640] [0.0876] [0.0701] [0.0812]

初職勤続年数 -0.001 -0.004 0.0062* -0.0173 0.0041 -0.0011[0.0020] [0.0026] [0.0035] [0.0135] [0.0039] [0.0025]

配偶者あり -0.2239*** -0.2223*** -0.2220*** -0.2505** -0.3613*** -0.2912***[0.0504] [0.0795] [0.0661] [0.1101] [0.0865] [0.0861]

子供数 0.0098 0.0014 0.0229 0.1394** 0.014 -0.0636*[0.0203] [0.0308] [0.0275] [0.0565] [0.0302] [0.0338]

Observations 4107 1971 2136 909 1665 1533注)[ ]は標準誤差。有意水準*10%、**5%、***1%。

65

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転職転職転職転職・・・・離職理由離職理由離職理由離職理由のののの時代的変化時代的変化時代的変化時代的変化

----高度経済成長期高度経済成長期高度経済成長期高度経済成長期からからからから 2005 年年年年までまでまでまでのののの素描素描素描素描----

神林博史神林博史神林博史神林博史

((((東北学院大学東北学院大学東北学院大学東北学院大学))))

【要旨】

「雇用の流動化」に関しては、2 つの相反する見解がある。1 つは、雇用の流動化によって、

人々は積極的転職行動にコミットし、よりよい職を得ているという肯定的な見解。もう 1 つは、

雇用の流動化によって、非正規雇用にとどまらざるをえないキャリアパターンや、労働市場の需

要と供給のミスマッチによる若年層の早期離職が増加しているといった否定的な見解である。雇

用の流動化は、人々に何をもたらしたのだろうか。

2005年 SSMデータでは、職歴で転職・離職理由を質問しており、高度経済成長期から現在ま

での転職・離職理由の時代的変化を分析可能である。本稿では、転職および離職理由の時代的な

特徴、コーホート別の傾向、ジェンダー差、実際の移動パターンと転職理由の関係などについて

分析し、高度経済成長期から現在までの趨勢を検討した。

分析の結果、主に以下の 3 点が明らかになった。(1)男性における自発的理由の変化(「よい

仕事が見つかった」の減少と「不満」の増加)、(2)女性における性別役割分業の弱体化(「家庭

の理由」の減少)、(3)「よい仕事」以外の理由での転職では、収入が減少する可能性が若いコー

ホートほど高くなる。これらの結果は、雇用の流動化が必ずしも望ましい結果のみをもたらした

わけではないという近年の議論を支持するものである。

キーワード:離職、転職、理由、ジェンダー、コーホート分析

1 問題問題問題問題のののの所在所在所在所在

1990年代以降、「雇用の流動化」ということが盛んに言われるようになった。雇用の流動

化とは、労働市場における流動性が高まること、すなわち人々がより頻繁に転職するように

なることである。雇用の流動性が高まる要因は、大まかに自発的要因と構造的要因の 2 つが

ある。自発的要因とは、人々の自発的な意思に基づくものである。転職情報誌や転職情報サ

イトの広告でお馴染みの、より良い仕事を求めて、1つの会社や職業に縛られずに自由に働

くというイメージの転職がそうである。もちろん、こういったポジティブな理由だけでなく、

「就職したが希望していた仕事と違った」、「仕事が面白くない」、「職場に不満がある」とい

ったネガティブな理由による転職も、ここに含まれる。一方、構造的要因とは、企業の倒産、

人員整理、契約期間の終了といったような、働く人の意思に関わらず発生する外的な要因で

ある。バブル崩壊以降の労働市場に関わる様々な言葉、「リストラ」、「終身雇用制の崩壊」、

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「非正規雇用の増加」などは、この側面に関わっている。

雇用の流動性が高まることは、基本的には望ましいことであると考えられてきた。なぜな

ら、転職を通じてキャリアと経験を積み、「よい」仕事(例えば、能力をよりよく発揮できる

仕事、やりがいのある仕事、収入の高い仕事、高い満足の得られる仕事、等)に就くことは、

個人の幸福にとって望ましいだけでなく、適材適所という意味で社会の効率性をも高めるか

らである。これは、社会階層論に底通する基本的な発想(いわゆる「近代化論」、「産業化論」)

でもあるし、転職研究の古典として名高い Granovetter(1974)もこのようなイメージを基底

にしていると思われる。しかし、現実には、バブル崩壊後の不況と競争の激化によって引き

起こされた構造的な変化、とりわけ非正規雇用の増大は、雇用の流動性にまつわる負の側面、

例えば不安定で低賃金な職を転々とせざるを得ない人々や、職を変えることが、キャリアや

経験の蓄積につながらない状況を作り出した(例えば、風間 2007、小林 2007)。このことは、

近年しばしば指摘されるようになった、社会における「希望」の問題とも関係している。「希

望格差社会」(山田 2004)、「下流社会」(三浦 2006)等、先行き不透明な日本社会の現状を

反映したディストピア的なヴィジョンを提示する評論が話題になったが、これらのストーリ

ーは、フリーターに代表されるような若者の非正規雇用の深刻な状況と密接に関わっている。

このような状況と対比されるのが、明るく、希望に満ちた時代としての高度経済成長期で

ある。この、高度経済成長期における「希望」、あるいは時代精神については、佐藤嘉倫が興

味深い分析を行っている。戦後日本社会の世代間移動の構造の不平等度は、戦後復興期から

現在(2000年)まで大きく変化していなかった。にもかかわらず、高度経済成長期に、人々

が「明日は今日よりも良くなる」という希望を抱いていたのはなぜか。それは、高度経済成

長期に、自発的理由による転職が増加したために、転職することへの希望が持ちやすかった

ためであると、佐藤は分析している(佐藤 2000)。つまり、単に転職するだけでなく、その

理由が人々にとって重要な意味を持っていたのである。

では、「希望」に満ちた(とされている)高度経済成長期から、「雇用の流動化」の現在ま

で、人々はどのような理由で転職を行ってきたのだろうか。このことは、転職に関する人々

の主観的な意味を理解するために重要なだけでなく、世代内移動研究の基本的な問題(なぜ、

どのように世代内移動が生じるのか)を考える上でも重要である。

本稿では、2005年 SSM日本調査データ1を用い、転職および離職理由の時代的変化を分析

する。なお、以下で行う分析はクロス表分析を主体としたシンプルなものである。高度な多

変量解析は、多くの変数間の複雑な関係をときほぐすのには便利であるが、それゆえにしば

しば素材の生の手触りを損ねてしまうことがある。本稿では、高度な分析に先立つ準備作業

として、転職・離職行動の時代的変化についての素描を行いたい。

1 Version 14.2データを使用した。

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2 離職理由離職理由離職理由離職理由のののの基本的性質基本的性質基本的性質基本的性質

離職理由は、職歴に関する質問の一環として測定されており、基本的に初職以外の全ての

職業経歴において質問される2。離職理由は「定年、契約期間の終了など」、「倒産、廃業、人

員整理など」、「よい仕事がみつかったから」、「家庭の理由(結婚、育児など)」、「家業を継ぐ

ため」、「職場に対する不満」、「その他」の 7 項目からなる。「その他」については、7 項目に

アフターコードされる。離職理由の総度数、すなわち全職業経歴における離職理由の度数の

合計およびその構成比率は、表 1 のようになる。

表 1 離職理由の度数分布表(全職歴の合計)

度数 %

定年・契約終了 849 8.5

倒産・廃業・人員整理 927 9.2

よい仕事が見つかった 2186 21.8

家庭の理由 3150 31.4

家業を継ぐ 225 2.2

調査

票項

職場に対する不満 1712 17.1

自己都合(学校関連・入) 80 .8

会社都合 137 1.4

自己都合(職以外の消極的理由) 422 4.2

自己都合(職以外の積極的理由) 245 2.4

自己都合(学校関連・出) 12 .1

紹介 91 .9 アフ

ター

コー

ド項

(「

その

他」

の内

訳)

その他 1 .0

合計 10037 100.0

当然のことながら、表 1 の離職理由の分布には、様々な要因の影響が混在している。最低

限コントロールすべきと考えられるのは、(1)性別、(2)年齢、(3)離職の時期(離職年)、

(4)転職・離職の区別、の 4 つの変数である。本稿では、これらを以下のように操作化する。

(1)性別:(特に変わったことはしない)

(2)年齢:出生コーホートとして扱う。1935-1945年コーホート、1946-1955年コーホート、

2 リード文は「前の従業先をやめた理由を 1 つ選んでください」。従業先が変化した場合、あるいは無職・

学生になった場合に測定される。なお、無職状態(無職・学生)から再就職する場合は測定されない。

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1956-1965年コーホート、1966-1975年コーホート、1976-1985年コーホートの 5 カテゴリ

ー。

(3)離職の時期:今回のデータでは、最も早い職歴開始年は 1950年である。ここでは 1950

‐1955 年、1956‐1965 年、1966‐1975 年、1976‐1985 年、1986‐1995 年、1996‐2005

年の 6 カテゴリーに分類する。ただし、1950‐55年の離職理由数は少ないので、実際の分

析には使用しない。あまり厳密ではないが、1956‐1965年が「高度経済成長期前期」、1966

‐1975年が「高度経済成長期後期」、1976‐1985年が「低成長期」、1986‐1995年が「バ

ブル経済期」、1996‐2005年が「バブル崩壊後」に対応することになる。

(4)転職・離職の区別:以下のように定義する3。

「転職」=前の従業先を辞め、すぐに次の仕事に就くこと4。

「離職」=前の従業先を辞め、無職もしくは学生になること。

なお、以降の分析では、1 つの職歴を 1 ケースとするデータを作成し、それを分析に用い

ている。したがって、データの単位は 1 回の転職イベントもしくは離職イベントであって、

個人ではないことに注意が必要である。例えば、ある人が 3 回の転職をし、その転職理由が

すべて「職場に対する不満」であった場合、「不満」による転職が 3 ケース存在するという扱

いになる。

3 分析分析分析分析ⅠⅠⅠⅠ::::転職転職転職転職・・・・離職理由離職理由離職理由離職理由のののの時代的変化時代的変化時代的変化時代的変化

3.1 出生出生出生出生コーホートコーホートコーホートコーホートとととと転職回数転職回数転職回数転職回数

以下では転職および離職理由の時代的変化を男女別に見ていくが、その前に確認しておく

べきことがある。それは、各出生コーホートのサイズである。今回の 2005年 SSM日本調査

データでは、若年層の回収率が悪く、他のコーホートの半分程度の標本数しかない(表 2)。

以下の分析では、各コーホート別の転職・離職理由数を示すが、この値は各コーホートの

サンプルサイズを反映している。例えば、1935‐1945年コーホートの 20代時の転職理由数

が 300で、1976‐1985年コーホートの 20代時の転職理由数が 200だったとしても、1935‐

1945年コーホートの方が転職が活発だったということにはならないので注意が必要である。

実際に各コーホートの転職・離職経験はどの程度なのかも、表 1 に併せて示してある。中央

列の「平均職歴段数」は、それぞれのコーホートの初職から現職に至る職業経歴の平均数を

3 無職・学生からの再就職の場合、離職理由は測定されないので分析対象とならない。

4 もちろん、これはデータ上の話である。SSM2005年日本調査では、職歴における無職期間が概ね 3 ヶ月

を超えると、その期間を「無職」として扱うことになっている。したがって、3 ヶ月以内の無職期間は、デ

ータ上は存在しない。例えば、前の仕事を辞め、1 ヶ月の無職期間を経て再就職した場合、データ上は前の

仕事から次の仕事にすぐに移ったことになる。

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示している。当然、この値は年齢の影響を受けるので、平均職歴段数を年齢で割ったものが、

「1 年あたり平均職歴段数」で、この値が各コーホートの離転職の活発さを示すものである。

基本的に、コーホートが若くなるほど 1 年あたり平均職歴段数が多くなることがわかる。た

だし、最も若い 1976-1985年コーホートは値が小さい。このコーホートに含まれる回答者は

まだそれほど転職を経験していないか、転職を多くする層が調査で捕捉できなかったかのい

ずれかであろう。

表 2 出生コーホートのサンプルサイズと職歴段数

サンプルサイズ 平均職歴段数 1 年あたり平均職歴段数

出生 C 男性 女性 男性 女性 男性 女性

1935-1945c 727 796 3.2 2.9 .049 .045

1946-1955c 631 787 2.7 3.3 .050 .061

1956-1965c 523 594 2.3 2.9 .051 .065

1966-1975c 490 559 1.8 2.4 .052 .069

1976-1985c 289 346 0.7 1.2 .028 .046

計 2660 3082 2.4 2.7 .048 .058

3.2 男性男性男性男性のののの転職理由転職理由転職理由転職理由およびおよびおよびおよび離職理由離職理由離職理由離職理由

それでは分析に入ろう。まず、男性の転職理由をコーホート及び転職時期ごとにまとめた

ものを表 3 に示す(以下、転職する場合の理由を「転職理由」、離職する場合の理由を「離職

理由」と呼ぶ)。なお、「その他」は細分せずにそのまままとめてある。

男性の転職理由の特徴は、おおよそ以下のようにまとめることができる。

まず、事業者側要因(「定年・契約終了」と「倒産・廃業・人員整理」)の時代的な変化は

あまりない。1935-1945年コーホートの 50代、60代にあたる時期(1985年から 2005年)に

この比率が増大するが、これは定年に関係するものと見るのが常識的だろう。それ以外では、

コーホート間で特に顕著な差異はない。また、家庭要因(「家庭の理由」+「家業を継ぐ」)

も時代的変化はあまりない。

一方で、自発的な理由、すなわち「よい仕事」と「職場に対する不満」に関しては、やや

変化が見られる。自発的な理由全体での構成比は、6 から 7 割前後でそれほど大きな違いは

ない。「よい仕事」はどのコーホートでも最も主要な離職理由であるが、若いコーホートほど

「よい仕事」による転職が減少していく傾向がある。例えば、1935-1945年コーホートと

1946-1955年コーホートの 20代時の「よい仕事」比率は 40%台だが、これ以降のコーホート

では 30%台に落ち込んでおり、最も若い 1976-1985年コーホートでは約 32%となっている。

71

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一方、「不満」による転職はコーホート間で着実に増加しており、近年の労働市場の厳しさと、

職業意識の変化を反映していると思われる。

表 3 男性の転職理由

転職理由(%)

出生

コーホート

転職

時期

定年・契

約終了

倒産・

廃業

よい

仕事

家庭の

理由

家業を

継ぐ

職場

不満 その他

%の

基数

1935-45c 1956-65 3.2 7.5 47.6 4.6 4.6 23.1 9.5 347

1966-75 1.8 9.9 49.1 9.2 3.3 20.9 5.9 273

1976-85 0.7 22.1 35.2 6.2 4.1 14.5 17.2 145

1986-95 18.4 20.4 28.2 3.9 1.9 10.7 16.5 103

1995-05 57.8 17.1 9.0 1.5 3.0 3.5 8.0 199

1946-55c 1966-75 1.1 9.2 42.8 5.3 7.8 26.1 7.8 283

1976-85 1.2 9.8 41.5 13.0 6.9 17.5 10.2 246

1986-95 0.6 14.4 43.1 2.9 3.4 20.1 15.5 174

1996‐05 6.9 26.6 25.4 1.2 2.3 20.8 16.8 173

1956-65c 1976-85 3.3 6.5 35.8 8.4 4.7 32.1 9.3 215

1986-95 2.0 12.2 39.0 7.1 9.1 21.3 9.4 254

1996-05 6.2 22.6 25.3 5.5 4.1 27.4 8.9 146

1966-75c 1986-95 0.0 5.8 36.2 6.7 7.1 33.9 10.3 224

1996-05 2.1 9.6 41.6 6.8 3.6 29.2 7.1 281

1976-85c 1996-05 8.0 6.7 31.9 3.7 4.3 38.0 7.4 163

※各出生コーホートが 10代の時期(例えば 1935-45コーホートの 1950年から 1955年)の転職数は少ないた

め、分析から除外した。(以下、表 6 まで同様)

次に、男性の離職理由をまとめたものを、表 4 に示した。

まず注目すべきは、離職理由数自体の少なさである。各コーホート、各時期において男性

の離職は 30 前後がほとんどである。唯一の例外は、1935-1945年コーホートの 1995年から

2005年にかけての離職で、これは定年退職がほとんどであろう。

この部分を除くと、「倒産・廃業・人員整理」、「職場に対する不満」、「その他」の 3 つが主

な離職理由となっている。既に指摘したように、離職理由数そのものが少ないので、比率の

多寡を論じてもあまり意味はないが、あえて言えば転職の場合と同様、若いコーホートにな

るほど「不満」による離職が増える傾向があることがわかる。

72

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表 4 男性の離職理由

離職理由(%)

出生

コーホート

転職

時期

定年・契

約終了

倒産・

廃業

よい

仕事

家庭の

理由

家業を

継ぐ

職場

不満 その他

%の

基数

1935-45c 1956-65 3.3 20.0 16.7 0.0 3.3 26.7 30.0 30

1966-75 0.0 24.0 8.0 8.0 0.0 32.0 28.0 25

1976-85 0.0 27.8 5.6 0.0 5.6 22.2 38.9 18

1986-95 20.0 14.3 5.7 2.9 0.0 14.3 42.9 35

1995-05 77.5 6.2 0.3 2.6 0.0 2.0 11.4 307

1946-55c 1966-75 4.8 9.5 4.8 14.3 0.0 42.9 23.8 21

1976-85 0.0 21.4 3.6 10.7 3.6 42.9 17.9 28

1986-95 3.4 24.1 0.0 10.3 0.0 34.5 27.6 29

1996‐05 18.6 38.6 0.0 4.3 1.4 14.3 22.9 70

1956-65c 1976-85 3.0 9.1 6.1 6.1 0.0 36.4 39.4 33

1986-95 3.2 6.5 0.0 6.5 3.2 51.6 29.0 31

1996-05 4.2 33.3 12.5 8.3 0.0 25.0 16.7 24

1966-75c 1986-95 0.0 17.6 8.8 0.0 0.0 61.8 11.8 34

1996-05 7.0 10.5 7.0 5.3 0.0 50.9 19.3 57

1976-85c 1996-05 20.6 5.9 8.8 0.0 0.0 38.2 26.5 34

3.3 女性女性女性女性のののの転職理由転職理由転職理由転職理由とととと離職理由離職理由離職理由離職理由

続いて、女性の分析に移ろう。女性の転職理由をまとめたものを、表 5 に示す。

女性で目立つのは「家庭の理由」による転職である。ただし、例えば 1935-1945年コーホ

ートが 20 代、30 代の頃は、女性の転職のほぼ半分近くが「家庭の理由」によるものである

ことがわかる。しかし、「家庭の理由」による転職はコーホートが若くなるに従って減少する

傾向にあり、性別役割分業規範の弱体化を読み取ることができる。ただし、若いコーホート

で「家庭の理由」による転職が少ないことには、未婚化・晩婚化が影響していることも考え

られる。「家庭の理由」は多くの場合、既婚女性に発生する理由である。言い換えると、未婚

者には「家庭の理由」自体が生じにくいために、それが転職理由にならないのである。もち

ろん、未婚化・晩婚化自体が性別役割分業規範の弱体化であるとみなすこともできるが。

その他の理由では、「よい仕事」と「不満」の変化が興味深い。男性の場合、「よい仕事」

による転職はコーホートが若くなるにつれて低下する傾向があったが、女性は必ずしもそう

ではない。ただし、「よい仕事」の比率そのものが男性の半分程度であることにも留意する必

73

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要がある。一方、「不満」については男性と同様、若いコーホートほど増加する傾向が見られ、

この比率は男性と大差がない。

表 5 女性の転職理由

転職理由(%)

出生

コーホート

転職

時期

定年・契

約終了

倒産・

廃業

よい

仕事

家庭の

理由

家業を

継ぐ

職場

不満 その他

%の

基数

1935-45c 1956-65 2.6 2.6 21.1 46.5 4.4 15.8 7.0 228

1966-75 2.9 4.3 35.7 41.4 4.3 8.6 2.9 140

1976-85 3.3 16.7 34.2 20.8 1.7 12.5 10.8 120

1986-95 3.3 24.8 38.8 15.7 0.8 12.4 4.1 121

1995-05 33.7 20.9 12.8 9.3 2.3 10.5 10.5 86

1946-55c 1966-75 2.0 2.7 31.9 38.9 1.3 16.3 7.0 301

1976-85 2.4 7.1 31.0 34.3 2.4 15.7 7.1 210

1986-95 0.6 12.3 40.6 20.6 2.6 18.1 5.2 155

1996‐05 5.7 20.6 33.7 12.0 1.7 17.1 9.1 175

1956-65c 1976-85 3.4 1.1 24.4 29.0 0.6 31.3 10.2 176

1986-95 3.2 7.9 28.0 34.9 0.0 18.0 7.9 189

1996-05 7.7 11.2 35.7 16.3 0.5 19.4 9.2 196

1966-75c 1986-95 3.4 5.4 30.3 19.2 1.1 31.0 9.6 261

1996-05 8.0 7.2 33.7 17.8 1.4 23.9 8.0 276

1976-85c 1996-05 8.5 5.2 27.4 13.2 1.9 34.4 9.4 212

女性の離職理由をまとめたものが、表 6 である。一見してわかるように、「家庭の理由」に

よる離職が圧倒的に多い。ただし、コーホート間で比較すると、若いコーホートほどその比

率が低下する傾向にある。これは、転職理由の場合と同じく、性別役割分業規範の弱体化が

大きいと思われるが、一方で未婚化・晩婚化の影響も無視できないだろう。「定年・契約終了」

については、男性と同じく 1935-1945コーホートが 50 代、60 代になると増えるが、それ以

外のコーホートでは大きな差はない。また、表 3 から表 5 までと同様、「不満」の比率が若い

コーホートほど高くなる傾向がここでも見られる。

74

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表 6 女性の離職理由

離職理由(%)

出生

コーホート

転職

時期

定年・契

約終了

倒産・

廃業

よい

仕事

家庭の

理由

家業を

継ぐ

職場

不満 その他

%の

基数

1935-45c 1956-65 0.7 0.7 1.1 88.6 0.0 4.6 4.3 280

1966-75 0.5 3.2 0.5 92.2 0.5 0.9 2.3 217

1976-85 4.8 17.5 0.0 54.0 0.0 7.9 15.9 63

1986-95 18.7 13.0 0.0 43.9 0.0 2.4 22.0 123

1995-05 46.1 14.8 0.4 22.6 0.0 2.1 14.0 243

1946-55c 1966-75 0.6 1.1 0.6 88.2 0.0 3.9 5.8 363

1976-85 2.4 2.8 0.8 85.1 0.0 2.4 6.5 248

1986-95 5.3 11.4 0.0 56.1 0.9 13.2 13.2 114

1996‐05 8.8 24.9 0.6 33.1 0.0 10.5 22.1 181

1956-65c 1976-85 0.0 0.0 1.3 89.5 0.0 5.1 4.2 237

1986-95 2.9 1.2 0.4 86.0 0.0 5.0 4.5 242

1996-05 6.4 10.0 1.8 51.8 0.0 10.0 20.0 110

1966-75c 1986-95 2.4 1.2 3.0 77.7 0.0 11.4 4.2 166

1996-05 2.6 5.2 0.0 78.7 0.0 7.5 6.0 268

1976-85c 1996-05 7.3 1.5 0.0 67.2 0.0 17.5 6.6 137

以上が、転職・離職理由の時代的変化の概要である。ここまでの知見を、簡単にまとめて

おこう。男性の転職理由については、事業者側要因はそれほど変化していないが、自発的要

因、とりわけ「職場に対する不満」による転職が増加傾向にある。同じことが離職理由につ

いても言える。女性については、転職・離職理由とも「家庭の理由」が主要な理由であった

が、徐々に減少しつつある。また、男性と同様、不満による転職・離職が増加傾向にある。

4 分析分析分析分析ⅡⅡⅡⅡ::::移動移動移動移動パターンパターンパターンパターンとととと転職理由転職理由転職理由転職理由のののの関係関係関係関係

4.1 分析分析分析分析のののの枠組枠組枠組枠組

次に、さらに踏み込んだ離職理由の分析を行ってみよう。分析のアプローチは多様に考え

られるが、ここでは職業と転職・離職理由の対応関係を考えてみたい。職業と離職理由につ

いては、(1)転職前(離職元)の職業と離職理由の間にはいかなる関係があるのか、(2)離

職理由と転職先の職業の間の関係にはいかなる関係があるのか、の 2 つの問いを立てること

75

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ができる。移動前の職業と移動後の職業の対応関係の分析は世代内移動の標準的な分析法で

あるが、それに離職理由を媒介させることで、新たな発見があるかもしれない。ここでは、

その準備作業として、(1)転職前職業と転職理由の関係(転職前職業×離職理由のクロス表

分析)、(2)離職理由と転職先職業の関係(離職理由×転職後職業)、を分析してみたい。

この分析枠組みは非常にシンプルなものであるが、これによって、例えば不満による離職

が起きやすい職業は何か、「よい仕事」とは具体的にどのような職業のことなのか、といった

ことが把握できる。なお、前節のように各コーホートの働いてきた時期をすべてカバーする

分析を行うことは煩雑なので、各コーホートの 20代と 30代の時期に分析を限定する。転職

行動が比較的生じやすい若い時代に、それぞれのコーホートがどのようなパターンの転職を

行ってきたのかを通じて、転職理由と職業の関係の時代的変化を見ることができる。各コー

ホートと転職時期の関係を、表 7 にまとめた。なお、20 代と 30 代の時期を統合して扱う関

係上、最も若い 1976-1985年コーホートは分析の対象としない。

表 7 分析する出生コーホートと転職時期の対応関係

転職時期

出生 C 1950-1955 1956-1965 1966-1975 1976-1985 1986-1995 1996-2005

1935-1945c 10代 20 代代代代 30 代代代代 40代 50代 60代

1946-1955c 10代 20 代代代代 30 代代代代 40代 50代

1956-1965c 10代 20 代代代代 30 代代代代 40代

1966-1975c 10代 20 代代代代 30 代代代代

※黒白反転したセルが分析する部分

4.2 転職理由転職理由転職理由転職理由とととと職業職業職業職業のののの関係関係関係関係((((男性男性男性男性))))

表 8 は、男性の転職前職業と離職理由の関係をまとめたものである。職業ごとにすべての

離職理由を表示するのは煩雑なので、ここでは各職業カテゴリーの離職理由の第 1 位および

第 2 位のみを表示した。なお、職業分類は SSM総合 8 分類を用いた。

基本的には、「よい仕事」と「不満」が 2 大転職理由と言える。ただし、自営ブルーや農業

に関しては、古いコーホートで「倒産・廃業」がやや目立つ。若いコーホートでも、「よい仕

事」と「不満」が多いが、「不満」が理由第 1 位となることが増える傾向にある。

76

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表 8 転職前職業別離職理由(男性)

1935-1945c 1946-1955c

職業 理由 1 位 理由 2 位 基数 理由 1 位 理由 2 位 基数

専門 よい仕事(45.5) 不満、その他(18.2)1 22 よい仕事(35.5) 倒産・廃業(22.6) 31

大 W よい仕事(38.5) 不満(28.8) 52 倒産・廃業、よい仕事、不満(21.6)2 37

小 W よい仕事(48.0) 不満(25.3) 75 よい仕事(44.7) 不満(22.4) 76

大 B よい仕事(33.9) 不満(26.8) 56 不満(27.98) よい仕事(22.2) 72

小 B よい仕事(50.1) 不満(23.0) 335 よい仕事(50.2) 不満(24.1) 257

自 B よい仕事(52.6) 倒産・廃業(21.1) 19 倒産・廃業(33.3) よい仕事(22.2) 18

農業 よい仕事(60.0) 倒産・廃業(12.0) 50 よい仕事(60.0) 倒産・廃業(16.0) 25

1956-1965c 1966-1975c

職業 理由 1 位 理由 2 位 基数 理由 1 位 理由 2 位 基数

専門 よい仕事(53.7) その他(22.0) 41 不満(33.3) よい仕事(29.8) 57

大 W 不満(36.0) よい仕事(16.0) 50 よい仕事(40.7) 不満(22.2) 54

小 W よい仕事(41.0) 不満(28.0) 100 よい仕事、不満(35.7)2 115

大 B 不満(38.5) よい仕事(23.1) 39 不満(38.2) よい仕事(30.9) 55

小 B よい仕事(41.4) 不満(26.2) 210 よい仕事(43.3) 不満(30.5) 203

1)同率 2 位、2)同率 1 位。転職理由の度数が 10以下の職業カテゴリー(1935-1945cと 1946-1955cの自営

ホワイト、1956-1965cと 1966-1975cの自営ホワイト、自営ブルー、農業)は省略した。

表 9 は、男性の転職理由と転職後の職業の関係をまとめたものである。理由と職業の対応

関係が最もはっきりしているのは「家業を継ぐ」で、これが理由になっている場合、当然と

言えば当然なのだが、どのコーホートでも自営ホワイト、自営ブルー、農業のいずれかに移

動する確率が高い(ただし、農業への転職は農業層の減少傾向もあってか、若いコーホート

ほど低くなる傾向にある)。

それ以外の理由については、あまり明確な差は見られない。どのような理由であっても、

多くの場合、中小ブルーもしくは中小ホワイトに移動する傾向があるが、これはよく指摘さ

れる大企業と中小企業間の障壁のためであろう。

77

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表 9 離職理由と転職後の職業(男性)

転職後職業

転職理由 専門 大 W 小 W 自 W 大 B 小 B 自 B 農業 基数

定年・終了 12.5 6.3 31.3 37.5 12.5 16

倒産・廃業 1.9 5.7 9.4 5.7 11.3 56.6 9.4 53

よい仕事 3.7 7.0 9.4 6.7 12.0 45.2 14.4 1.7 299

家庭の理由 4.9 22.0 7.3 9.8 48.8 7.3 41

家業を継ぐ 12.0 24.0 12.0 24.0 28.0 25

職場に不満 2.9 10.9 14.6 4.4 12.4 46.7 5.1 2.9 137

19

35

-19

45

c

その他 6.1 10.2 10.2 4.1 10.2 59.2 49

倒産・廃業 12.0 6.0 18.0 6.0 52.0 4.0 2.0 50

よい仕事 6.3 10.4 10.9 5.4 10.9 42.5 13.1 .5 221

家庭の理由 2.1 10.6 10.6 6.4 10.6 42.6 8.5 8.5 47

家業を継ぐ 2.6 12.8 35.9 10.3 17.9 20.5 39

職場に不満 3.4 4.3 19.8 2.6 12.1 53.4 2.6 1.7 116

19

46

-19

55

c

その他 12.8 8.5 19.1 10.6 40.4 4.3 4.3 47

定年・終了 25.0 16.7 8.3 41.7 8.3 12

倒産・廃業 11.4 20.5 4.5 4.5 50.0 6.8 2.3 44

よい仕事 17.0 9.1 14.8 4.5 6.8 35.2 10.2 2.3 176

家庭の理由 2.8 16.7 8.3 5.6 55.6 11.1 36

家業を継ぐ 6.1 3.0 6.1 33.3 6.1 24.2 21.2 33

職場に不満 4.1 10.6 23.6 1.6 4.9 51.2 4.1 123

19

56

-19

65

c

その他 22.7 4.5 22.7 2.3 9.1 36.4 2.3 44

倒産・廃業 15.0 10.0 17.5 2.5 5.0 45.0 2.5 2.5 40

よい仕事 10.4 8.8 17.6 2.1 10.9 42.0 6.7 1.6 193

家庭の理由 5.9 5.9 29.4 11.8 41.2 2.9 2.9 34

家業を継ぐ 11.5 3.8 38.5 7.7 26.9 11.5 26

職場に不満 12.7 3.8 27.2 1.3 8.2 44.3 2.5 158

19

66

-19

75

c

その他 23.3 18.6 20.9 4.7 27.9 4.7 43

度数が 10以下の離職理由(1946-1955cと 1966-1975cの「定年・契約終了」)は省略した。

4.3 転職理由転職理由転職理由転職理由とととと職業職業職業職業のののの関係関係関係関係((((女性女性女性女性))))

女性の場合はどうであろうか。表 10は、女性の転職前職業と転職理由の関係をまとめたも

のである。

3.3 の分析でも明白であったが、どの職業においても「家庭の理由」が圧倒的に多い。特

に、1935-1945年コーホートは、すべての職業カテゴリーにおいて第 1 位の理由が「家庭」

78

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である。しかし、コーホートが若くなるにつれて「家庭」が減少し、男性の場合と同様、「よ

い仕事」と「不満」が目立つようになる。すでに述べたように、これは性別役割分業の弱体

化と未婚化・晩婚化(「家庭の理由」が発生しない)によるものと考えられる。

表 10 転職前職業別離職理由(女性)

1935-1945c 1946-1955c

職業 理由 1 位 理由 2 位 基数 理由 1 位 理由 2 位 基数

専門 家庭(43.8) よい仕事(18.8) 16 家庭(35.8) よい仕事(34.3) 67

大 W 家庭(50.0) 不満(27.3) 22 家庭(42.2) よい仕事(21.9) 64

小 W 家庭(33.3) よい仕事(32.5) 114 家庭、よい仕事(35.5)1 200

自 W 家庭(43.8) よい仕事(31.3) 16

大 B 家庭(68.2) 不満(13.6) 22 家庭(37.1) よい仕事(20.0) 35

小 B 家庭(43.5) よい仕事(26.6) 124 家庭(35.6) よい仕事(30.5) 118

自 B 家庭(50.0) よい仕事(35.7) 14

農業 家庭(64.1) よい仕事(25.6) 39 よい仕事(58.3) 家庭(41.7) 12

1956-1965c 1966-1975c

職業 理由 1 位 理由 2 位 基数 理由 1 位 理由 2 位 基数

専門 家庭(49.2) よい仕事(18.6) 59 よい仕事(40.9) 家庭(21.6) 88

大 W よい仕事(32.1) 家庭(28.6) 56 不満(31.7) よい仕事(24.4) 82

小 W 不満(30.4) よい仕事(29.1) 148 よい仕事(33.5) 不満(30.3) 251

大 B よい仕事、家庭(23.8)1 21 よい仕事、家庭、その他(23.1) 13

小 B 家庭(30.1) よい仕事(24.7) 73 不満(31.1) よい仕事(28.9) 90

1)同率 1 位。転職理由の度数が 10 以下の職業カテゴリー(1946-1955cの自営ホワイト、自営ブルー、

1956-1965cと 1966-1975cの自営ホワイト、自営ブルー、農業)は省略した。

表 11は、女性における転職理由と転職後の職業の対応関係をまとめたものである。ここで

見られる傾向は、男性とは若干異なる。まず、「家業を継ぐ」という理由がほとんどない。

1935-1945年コーホート以外のコーホートでは、その数が 10 に満たない(そのため、表 11

からは削除した)。1935-1945年コーホートにおける「家業を継ぐ」の場合の移動先は男性と

同様、自営ホワイト、自営ブルー、農業のいずれかである。

それ以外の理由で転職理由と職業の対応関係があまり明確でない点は男性と同様である。

ただし、男性では中小ブルーへの移動が多かったのに対し、女性の場合は中小ホワイトへの

移動が中小ブルーと同程度か、それを上回っている。この女性がホワイトカラーに多い傾向

79

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も、よく指摘されることではあるが。

表 11 転職理由と転職後の職業(女性)

転職後職業

転職理由 専門 大 W 小 W 自 W 大 B 小 B 自 B 農業 基数

倒産・廃業 8.3 8.3 33.3 50.0 12

よい仕事 3.1 3.1 38.8 6.1 7.1 31.6 7.1 3.1 98

家庭の理由 2.5 2.5 19.6 14.7 4.3 20.2 11.0 25.2 163

家業を継ぐ 37.5 43.8 18.8 16

職場に不満 2.1 12.5 50.0 4.2 2.1 29.2 48

19

35

-19

45

c

その他 10.0 10.0 25.0 10.0 30.0 15.0 20

定年・終了 18.2 18.2 45.5 18.2 11

倒産・廃業 21.7 30.4 4.3 4.3 34.8 4.3 23

よい仕事 18.1 11.9 39.4 4.4 3.8 18.8 3.1 .6 160

家庭の理由 8.5 5.9 26.6 14.9 5.9 20.7 5.3 12.2 188

職場に不満 11.1 14.8 40.7 4.9 28.4 81

19

46

-19

55

c

その他 22.2 8.3 41.7 5.6 2.8 13.9 5.6 36

定年・終了 8.3 25.0 33.3 16.7 8.3 8.3 12

倒産・廃業 5.9 5.9 41.2 5.9 41.2 17

よい仕事 18.9 15.8 40.0 1.1 4.2 17.9 2.1 95

家庭の理由 14.5 7.7 29.1 18.8 2.6 17.1 3.4 6.8 117

職場に不満 12.4 13.5 49.4 3.4 20.2 1.1 89

19

56

-19

65

c

その他 15.2 12.1 48.5 3.0 21.2 33

定年・終了 16.1 16.1 58.1 9.7 31

倒産・廃業 5.9 20.6 58.8 2.9 8.8 2.9 34

よい仕事 22.7 14.0 40.1 2.3 2.9 18.0 172

家庭の理由 19.2 14.1 34.3 8.1 3.0 17.2 4.0 99

職場に不満 7.5 16.4 53.4 1.4 4.1 17.1 146

19

66

-19

75

c

その他 15.2 13.0 39.1 8.7 21.7 2.2 46

度数が 10 以下の離職理由(1935-1945cの「定年・契約終了」、1946-1955c、1956-1965c、1966-1975cの

「家業を継ぐ」)は省略した。

以上の分析結果をまとめると、(1)転職前職業と転職理由の間の関係については明確な職

業差はない、(2)転職理由と転職後職業の間の関係については、「家業を継ぐ」については明

確な関係が見られるものの、それ以外についてはあまり差がない。(3)以上のように、転職

前職-転職理由、転職理由-転職後職業の間にはそれほど明確な関係は見られないが、一方

80

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で男女差は明瞭である(ただし、若いコーホートほど差異がなくなる傾向がある)、というこ

とになる。

なお、ここでは職業と転職理由の関係のみを分析したが、従業上の地位と転職理由との関

係も重要である。特に女性の場合、職業・従業上の地位・転職理由の相互関係は複雑だが、

女性のキャリアパターンを考える上で非常に興味深い。この点については今後の課題とした

い。

5 分析分析分析分析ⅢⅢⅢⅢ::::転職理由転職理由転職理由転職理由のののの収入変化収入変化収入変化収入変化のののの関係関係関係関係

第 1 節で触れたように、現在の日本社会においては、自発的・積極的に転職することは基

本的に良いこと、望ましいことであるとされている。やや大げさな言い方をすれば、それは

近代資本主義システムを支える基本的な理念の 1 つでもある。

転職理由で言えば、そのような転職は「よい仕事が見つかったから」に相当する。前節の

分析では「家業を継ぐ」以外の転職理由と、転職後の職業の間には目立った関係は見出せな

かったわけだが、では「よい仕事」とは具体的にどういう仕事のことであろうか。

仕事が「よい」ことの条件は人によってそれぞれであろうが、ひとつ重要と考えられるの

は収入である。現在の仕事よりも、より多い収入が得られる可能性が高い仕事があれば、そ

れに魅力を感じる人は多いはずである。今回の 2005年 SSM日本調査では、職歴の測定の際

に「前の仕事との収入の変化」を尋ねている(「増えた」、「減った」、「ほとんど変わらなかっ

た」の 3 値)。この収入変化と、転職理由の関係を分析してみよう。

分析の枠組みは前節とほぼ同じである。具体的には、各コーホートが 20代の時期を取り出

し、離職理由と収入変化の関係を分析する。今回の分析では、前節では除外された 1976-1985

コーホートも分析に含まれる。男性の分析結果を表 12に示す。これは、各離職理由別に収入

変化で「増えた」と回答した者の比率をまとめたものである。なお、ここでは「退職・契約

終了」と「倒産・廃業」を統合して「事業者側」要因、「家庭の理由」と「家業を継ぐ」を統

合して「家庭」要因としている。

収入が「増えた」率が最も高いのは、どのコーホートでも基本的には「良い仕事が見つか

ったから」による転職であることがわかる(ただし、1956-1965コーホートのみ「不満」の

方が高い)。コーホート間で多少の増減はあるものの、「よい仕事」の場合、6 割から 7 割の

ケースで収入が増加する。表 12で注目すべきもう 1 つの傾向は、コーホートが若くなってい

くほど、「よい仕事」以外の理由による収入増加の割合が低下してくことである。最も若い

1976-1985年コーホートでは、「よい仕事」以外での収入増加率は、「よい仕事」の半分以下

になる。このことは、近年になるにつれて、転職することによる収入低下のリスクが高まっ

ていることを意味する。

81

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表 12 各コーホート 20代時の離職理由別収入「増えた」比率(男性)

数値:%

1936-45c 1946-1955c 1956-1965c 1966-1975c 1976-1985c

理由 増えた %の基数 増えた %の基数 増えた %の基数 増えた %の基数 増えた %の基数

事業者側 66.7 36 53.6 28 57.9 19 46.2 13 25.0 24

よい仕事 75.3 166 75.6 119 63.2 76 62.5 80 71.2 52

不満 68.4 76 53.4 73 67.2 67 61.3 75 43.5 62

家庭関連 66.7 30 60.0 35 53.6 28 48.4 31 38.5 13

その他 75.0 32 40.9 22 45.0 20 50.0 22 36.4 11

表 13は女性の分析結果である。「よい仕事」が収入増加をもたらすという傾向は男性と同

様である。ただし、男性に見られた「若いコーホートほど、『よい仕事』以外の理由での転職

で収入増加比率が低下する」という傾向は、それほど明確ではない。

表 13 各コーホート 20代時の離職理由別収入「増えた」比率(女性)

数値:%

1936-45c 1946-1955c 1956-1965c 1966-1975c 1976-1985c

理由 増えた %の基数 増えた %の基数 増えた %の基数 増えた %の基数 増えた %の基数

事業者側 54.5 11 35.7 14 25.0 8 45.5 22 48.3 29

よい仕事 73.9 46 68.1 94 69.2 39 58.2 79 67.9 56

不満 43.2 37 50.0 48 50.0 52 47.3 74 33.3 72

家庭関連 52.7 91 46.7 107 27.7 47 34.0 50 25.0 32

その他 14.3 14 52.6 19 17.6 17 41.7 24 35.0 20

ところで、表 12で得られた知見は、佐藤(2000)の「高度経済成長期に、人々が未来への

期待を抱いていたのはなぜか?」という問いに対する新たな回答の可能性を示している。表

12が示しているのは、高度経済成長期(1936‐45コーホートの 20代)には、「どのような理

由による転職であれ、収入が上昇する可能性が高かった」ということである。つまり、高度

経済成長期に転職を経験した多くの人は、収入に関して上昇移動を経験したことになる。高

度経済成長期の「希望」の源として佐藤が指摘したのは自発的理由による転職の増加であっ

たが、それだけではなく、表 12が示すような労働市場全体での好況(どのような理由で転職

をしても、経済的に「報われる」確率が高い状況)が高度経済成長期における「希望」の源

82

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の 1 つだったのかもしれない。

6 考察考察考察考察

本稿では、転職・離職理由の基本的な性質について概観した。本稿の知見をまとめておこ

う。

(1)男性の場合、転職理由は自発的理由によるものが多い。2005 年に近づくにつれて、積

極的な理由(「よい仕事」)よりは、消極的な理由(「不満」)の方が多くなる。

(2)女性の場合、転職理由、離職理由とも、「家庭の理由」が圧倒的に多い。ただし、若い

コーホートほど「家庭の理由」の比率が減少しており、性別役割分業の弱体化もしくは未

婚化・晩婚化の影響が伺える。

(3)転職前の職業と離職理由の関係は、男女とも目立った特徴はない。

(4)転職理由と転職後の職業の関係は、「家業を継ぐ」と自営業の結びつきを除けば、男女

とも目立った特徴はなく、基本的に中小企業への転職が多い。

(5)「よい仕事」を理由とする転職では、収入が増加する率が高い。かつては、それ以外の

理由による転職でも収入が増加する可能性は高かったが、近年になるにつれて、「よい仕事」

以外での収入増加が難しくなっている。

まとめると、雇用の流動化は必ずしも良い結果のみをもたらしたわけではない(特に男性)

という、近年よく指摘される論点と重なるもので、とりたてて新味はないかもしれない。本

稿の分析は、そういった知見を転職・離職理由という変数によって側面支援していることに

なる。

もちろん、本稿の分析は非常に単純なものに過ぎず、他にも考慮すべき要因は多い。例え

ば、教育の効果、従業上の地位との関係、キャリアのどの時点での転職か、などはいずれも

転職を考える上で重要である。また、今回は扱わなかったが、2005年 SSM 台湾調査でも転

職・離職理由が測定されており、日本との比較も興味深いだろう。

【文献】

Granovetter, Mark. 1974. Getting a Job: A Study of Contacts and Careers. =1998. 渡辺深(訳)『転職-ネッ

トワークとキャリアの研究』ミネルヴァ書房.

風間直樹. 2007. 『雇用融解 これが「日本型雇用」なのか」東洋経済新報社.

小林美希. 2007. 『ルポ 正社員になりたい 娘・息子の悲惨な職場』影書房.

三浦展. 2006. 『下流社会』光文社新書.

佐藤嘉倫. 2000. 「高度成長期の光と影」原純輔(編)『近代化と社会階層 現代日本の階層システム 1』

83

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東京大学出版会:137-60.

山田昌弘. 2004. 『希望格差社会 -「負け組」の絶望感が日本を引き裂く-』筑摩書房.

Longitudinal Change of Reasons for Job Changes and Job Quits in Japan:

A Description from 1956 to 2005

Hiroshi Kanbayashi

(Tohoku Gakuin University)

There are two contradictory arguments on the “fluidization of labor market” in Japan. From a

positive viewpoint, some scholars say that people are changing their job spontaneously and getting a

better job. On the other, recent researches on Japanese labor market point out that the fluidization has

made some negative consequences such as unstable carrier patterns and lower economic status of

part-time workers , and a job quit of young workers in short term due to a miss match in the labor market.

On 2005 SSM survey in Japan, resignation reasons (reasons for job change or job quit) in

respondent’s job history are asked. Using this item, I analyze long term changes of reasons for job change

and job quit from 1956 to 2005. Features of reasons in each time period, characteristics of birth cohorts,

gender differences of reasons, and a relationship between a mobility pattern and a reason are examined.

Results are as follows; (1) On men’s job change, a positive spontaneous reason (“found a good

job”) has been decreasing and a negative spontaneous reason (“dissatisfaction with the workplace”) has

been increasing, (2) On women’s job change and job quit, a gender-roll related reason (“family reasons”)

has been weakened, (3) In younger cohort, job change decreases their wage, except a job change by

“found a good job”. These results support recent arguments on dark side of the fluidization of labor

market in Japan.

Keywords: Resignation Reasons, Job Change, Job Quit, Cohort Analysis, Gender

84

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職歴形成職歴形成職歴形成職歴形成におけるにおけるにおけるにおける職業資格職業資格職業資格職業資格利用者利用者利用者利用者のののの分析分析分析分析

阿形健司阿形健司阿形健司阿形健司

((((同志社大学同志社大学同志社大学同志社大学))))

【要旨】

本稿は、個人の職歴形成と職業資格の取得とがどのような関連をもつのかを検討することを目

的とする。「雇用の流動化」や「高学歴化」という状況の下で、個人のキャリア形成において職

業資格は有効性をもつのだろうか。職歴形成の過程で誰がいつ資格をとり、取得した資格をどの

ように活用しているのかを追究することによって、今後職業資格が有効に機能するかどうかを判

断するひとつの手がかりを提供する。

1995 年 SSM 調査の結果と 2005 年 SSM 日本調査の結果とを比較して職業資格の概況を確認し

たところ、回答率・回答の分布とも大きな違いはみられなかった。資格名称の分布も取得者の多

い資格は両調査間でかなりの一致をみた。資格取得時期に着目すると、初職就業時に資格を取得

する専門職と、職歴形成途上で資格を取得する熟練職という対比が浮かび上がる。初職就業後に

資格を取得したケースの、職業移動や従業先の移動の有無を検討すると、移動のない者が多数派

を占める。資格の種類が仕事の内容と関係がある場合に資格を「活用」していると定義して「活

用度」を検討した結果、資格は「活用」されている割合が高い。資格「活用」の規定要因を分析

すると、中学校学歴の者は資格を活用する確率が高く、初職が専門職、熟練職である者も活用す

る確率が高い。さらに初職就業以後に資格を取得した者は、就業以前または同時に取得した者よ

りも活用する確率が高い。これらの知見は先行研究と合致するところが多い。先行研究が明示し

ていないこととして、相対的に不利な学歴の者が、資格取得を通じてキャリアアップする可能性

が示唆された。

キーワード:資格取得時期、学歴、職業移動、資格の活用

1 問題問題問題問題のののの所在所在所在所在

近年、日本社会において終身雇用や新規学卒一斉採用などの従来一般的とされてきた雇用

慣行がしだいに変化してきている。そのため、個人の職業生活は一つの企業に丸抱えで依存

することが困難になりつつある。労働者は主体的にキャリア形成を遂行することを期待され

(谷内 2007)、資格取得はその手段の一つと考えられている(今野・下田 1995)。また、若

年層において、正規従業員にならない「フリーター」や、職業にも就かず、教育や職業訓練

も受けない「ニート」といった、従来の雇用や労働の慣習から「逸脱」したケースが増えて

きているとされ、それらが社会問題として受け止められている。他方、日本社会の高学歴化

が進み、若年層においては同年齢の半数近くが大学に進学するようになり、大学学歴のみで

職業機会に恵まれる訳ではなくなってきている。本章は、そうした「雇用の流動化」や「高

学歴化」という状況を念頭におきながら、個人の職業経歴形成と職業資格の取得とがどのよ

85

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うな関連をもつのかを検討し、記述することを目的とする。

人びとがどのようにキャリアを形成していくのかは、どの社会においても重要な問題であ

る。諸外国の例をみるなら、たとえばドイツでは、大卒者にとって教育資格と国家試験を通

じて取得される職業資格が、労働市場参入への前提であった(望田 1995、吉川 1998 など)。

また、高等教育を経ずに労働市場へ参入する場合は、デュアルシステムと呼ばれる職業訓練

システムを経て資格を取得する必要があった(坂野 2006)。このように、ドイツでは、中等

教育・高等教育いずれのルートを経て労働市場に参入する場合も、職業資格が重要な鍵を握

っている。一方、イギリスでは、歴史的には民間主導でさまざまな資格が設立されてきたが、

1980 年代以降、NVQ や GNVQ という国家レベルで標準化された職業資格を導入しつつある

(柳田 2004)。このように、職業への参入において資格が重要な位置を占めている国々とは

違い、日本では一部の職業を除けば職業参入において必ずしも資格を必要としない。そのひ

とつの理由は、日本社会では、これまで教育制度と企業との整合的な結びつきによって労働

市場への円滑な参入が当然視されてきたからである。ところが、そうした条件は失われつつ

あり、若年層の労働世界への参入が次第に困難になってきている(宮本 2002、本田 2005 な

ど)。では、これからの日本社会では、個人のキャリア形成において職業資格は有効性をもつ

ようになるのだろうか。

本章では、職歴形成の過程で誰がいつ資格をとり、取得した資格をどのように活用してい

るのか、あるいは活用していないのかを追究する。それによって、雇用をめぐる情勢が変化

しつつある日本社会において、今後職業資格が有効に機能するかどうかを判断するひとつの

手がかりを提供できるだろう。

2 先行研究先行研究先行研究先行研究のののの検討検討検討検討

日本における職業資格は膨大な数にのぼるが、その多様性のあまり全体の状況を把握する

ことは困難である。辻(2000)は、国家資格に限定してその歴史的・制度的発展を検討して

いる。そこでは、各種職業資格の制度化過程が丹念に跡づけられており、国家資格と学歴と

の結びつきが強化されるプロセスが明らかにされている。一方、個別の職業資格が歴史的に

整備される過程を明らかにした研究が存在する。橋本(1992)は医師を、新谷(1996)は技術

者を対象にしてそれらの資格の制度化過程を歴史的に跡づけている。辻(2000)は国家資格

の制度化過程を明らかにしているが、資格を取得した個人のふるまいには焦点を当てていな

いので、個人が資格を取得することの職歴形成における意義は明らかにできない。橋本(1992)

や新谷(1996)はパーソナルデータを扱ってはいるが、明治期に資格が発展する過程を描い

ており資格の現代的意義を直接知ることはできない。

阿形(1998a; 1998b; 2000)は、1995 年 SSM 調査データを用いて個人レベルにおける職業資格

86

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の効果を明らかにしようとした。それによれば、職業資格がもたらす職業上の有利さは、有

職者全体を対象にすると見いだせないが、特定の学歴集団や職業集団に限定すれば見いだす

ことが可能であった。具体的には、新制高校卒の女性に限定すると、「資格取得のために中卒

後、専修学校等の卒業を必要とする資格」や、それらの資格と一部重複するが「美容師・看

護師・調理師グループ」の資格をもっていると収入増に寄与した(阿形 1998a; 1998b)。また、

現職がブルーカラー職である人に限定すると、「美容師・看護師・調理師グループ」の資格は

収入増をもたらし、「ボイラー技士や危険物取扱者、自動車整備士などを含むグループ」の資

格は、「常雇い」や「大企業」というより安定した雇用の獲得をもたらしていた(阿形 2000)。

しかし、1995 年 SSM 調査では資格の取得時期を尋ねていないので、厳密な意味で職業経

歴に対する資格の「効果」を測定したことにはならない。したがって資格の取得時期をも明

らかにできる調査の登場が待たれていた。

去る 2003 年、2005 年 SSM 日本調査に先立ち、ライフヒストリーカレンダー形式の調査票

を用いた予備的調査(以下、2003 年 LHC 調査)が行われた。2003 年 LHC 調査では、資格名

とともに取得した年齢を尋ねており、筆者は職歴との関連について探索的な分析を試みた(阿

形 2005)。しかし、この調査で出現した具体的な資格は非常に多様な種類に及び、資格の種

類を考慮した分析は困難であった。続く 2005 年 SSM 日本調査では、調査方法や質問形式の

違いにより、資格の多様性の程度は 2003 年 LHC 調査ほど多岐にはわたっていない(質問形

式に関して、2003 年 LHC 調査では、取得したすべての資格を回答してもらったが、2005 年

SSM 日本調査では、「仕事に役立つ」と思う順に 3 つまで、と限定して答えてもらっている)。

また、2005 年 SSM 日本調査では、2003 年 LHC 調査と同様に取得資格の種類と取得年齢を尋

ねている。したがって、ある程度資格の種類を考慮して資格取得のタイミングを職歴に位置

づけて考察することが可能である。本稿の課題である、個人の職業経歴と職業資格との関連

を検討するには十分なデータであるといえよう。以下、3 節では 1995 年 SSM 調査の結果と

比較しながら資格の概況を検討し、4 節では資格取得時期に着目して職歴と資格取得との関

連を検討する。5 節で全体をまとめ、今後の課題を提示する。

3 資格資格資格資格のののの概況概況概況概況

3.1 回答率回答率回答率回答率のののの比較比較比較比較

詳細な分析に入る前に、1995 年 SSM 調査(以下、95 年調査)との比較を中心に、2005 年

SSM 日本調査(以下、05 年調査)における資格の質問結果を概観しておこう。なお、05 年調査

は ver14.2(2007 年 11 月配布)のデータを用いている1。

1 職業資格の質問は留置調査票 B のみに含まれるので、分析に用いるのは留置 B 票のサンプルである。

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人数 % 人数 % 人数 % 人数 % 人数 %持っている 1134 42.7 1163 39.9 記述あり 1136 39.0 568 19.5 270 9.3持っていない 1473 55.5 1687 57.9 記述なし 27 0.9 4 0.1 1 0.0無回答 46 1.7 65 2.2 非該当 1752 60.1 2343 80.4 2644 90.7全体 2653 100.0 2915 100.0 全体 2915 100.0 2915 100.0 2915 100.0

3番目の資格

表1 職業資格の保持・不保持

 1995年  2005年

表4 資格取得年齢の記述(2005年)

1番目の資格 2番目の資格

人数 % 人数 % 人数 % 人数 % 人数 %記述あり 1120 42.2 341 12.9 記述あり 1144 39.2 571 19.6 270 9.3記述なし 14 0.5 5 0.2 記述なし 19 0.7 1 0.0 1 0.0非該当 1519 57.3 2307 87.0 非該当 1752 60.1 2343 80.4 2644 90.7全体 2653 100.0 2653 100.0 全体 2915 100.0 2915 100.0 2915 100.0

表3 資格名の記述(2005年)

1番目の資格 2番目の資格 3番目の資格1番目の資格 2番目の資格

表2 資格名の記述(1995年)

95 年調査と 05 年調査とでは調査法や質問文が異なる。前者は面接調査法(他記式)で、

後者は留置調査法(自記式)で実施されている。また、前者は二つまで資格名を尋ねており、

後者は「仕事に役立つ」と思う順に三つまで資格名を尋ねている。表1は、職業資格を持っ

ているかどうかを尋ねた結果である。調査法や質問文の違いにもかかわらず、資格保持率は

大きく変わらない(3 ポイントの差)。では、具体的な資格名についてはどうだろうか。表2

は 95 年調査の、表3は 05 年調査の回答結果である。資格を「持っている」人のうち、資格

名を答えた人の割合は、一番目の資格については、95 年調査は 98.8%、05 年調査は 98.4%

である。二番目の資格については、95 年調査は 98.6%、05 年調査は 99.8%である。資格の

名称を答えるためには記憶をたどる必要があるが、調査法の違いにかかわらず記憶の再生に

は差がみられなかった。

では、資格を取得した年齢の回答率(05 年調査のみ)はどうだろうか(表4)。資格取得

年齢についても、その場で答えるのではなく、資料を確かめて回答する余地がある留置法が

功を奏したのか、無回答率(資格保持者に対する取得年齢の記述がない者の割合)は 2%以

下にとどまった。

以上のように、回答率から判断すると、2005 年 SSM 日本調査の資格に関する質問からは、

分析に耐えうる十分なデータが得られたと考えられる。

3.2 属性別属性別属性別属性別のののの比較比較比較比較

表5~表7は、二つの調査の間で属性別に資格保持者の比率をくらべたものである。05 年

調査の方が、性別では男性の保持率が 7 ポイントほど低く、年齢別では 20 歳~30 歳代の保

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持率が 4~6 ポイント低くな

っている(表5)2。学歴別に

みると、どの学歴層でも一貫

して 05 年調査の方が低く、そ

の差は 4~6 ポイントである。

ただし、専修学校・各種学校

経験者を取り出してみると、

05 年調査の方が 5 ポイント高

くなっている(表6)。職業別

にみると、一貫した傾向はな

く、事務職・半熟練職で 7~9

ポイント、管理職・販売職・

農林職で 4~5 ポイント低く、

非熟練職で 9 ポイント高くな

っている。以上、対象者全体

では 3 ポイントの差であるこ

とを考慮すれば、属性別の比

較においてはそれほど大きな

違いがあると考えなくてもよ

いだろう。

3.3 資格名称資格名称資格名称資格名称のののの比較比較比較比較

次に、具体的な資格名称に

ついて検討しておこう。95 年

調査では、一番目と二番目の

資格を合算して分析を行った

ので、05 年調査についても一

番目と二番目の資格を合算し

て検討する。表8は、大分類

レベルで資格名称を比較した

ものである。「医療・保健・社

2 コーホートで比較すると、1995 年の 40 歳代が 2005 年になると 11 ポイント減少している。これは他のコ

ーホートより突出している。一つ上のコーホートは 7 ポイント減少しているだけなので加齢による忘却が理

由とは思えない。なぜこのコーホートで突出しているのかは検討を要する課題である。

人数 % 人数 %男性 600 48.1 542 41.2 -6.9女性 534 38.0 621 38.9 0.9

20歳代 171 47.0 128 41.4 -5.630歳代 248 51.5 257 47.9 -3.640歳代 334 48.1 262 47.9 -0.250歳代 213 37.8 273 36.9 -0.960歳以上 168 30.6 243 31.0 0.4全体 1134 42.7 1163 39.9 -2.8

人数 % 人数 %旧制学歴 98 28.2新制中学 133 30.6 119 24.6 -6.0新制高校 585 46.7 674 41.0 -5.7短大・高専 105 58.7 125 54.8 -3.9新制大学 197 48.9 233 44.2 -4.7新制大学院 16 47.1 11 42.3 -4.8全体 1134 42.7 1163 39.9 -2.8専修・各種学校経験者

255 60.7 255 65.7 5.0

人数 % 人数 %専門職 174 73.4 220 70.1 -3.3管理職 78 43.6 54 39.7 -3.9事務職 201 45.8 167 36.7 -9.1販売職 118 40.5 103 36.4 -4.1熟練職 170 54.5 194 54.8 0.3半熟練職 103 40.1 95 32.8 -7.3非熟練職 29 31.9 63 40.9 9.0農林職 27 22.9 22 18.3 -4.6無職 224 32.6 237 30.9 -1.7学生 8 23.5 6 16.2 -7.3全体 1134 42.7 1163 39.9 -2.8

%の差

%の差

1995年 2005年

資格資格資格資格をををを持持持持っているとっているとっているとっていると答答答答えたえたえたえた人人人人1995年 2005年

資格資格資格資格をををを持持持持っているとっているとっているとっていると答答答答えたえたえたえた人人人人1995年 2005年

表5 性・年齢別資格保持率の比較

表6 学歴別資格保持率の比較

表7 職業別資格保持率の比較

注1)「旧制学歴」とは「旧制尋常小学校」、「旧制高等小学校」「旧制中学校・高等女学校」「実業学校」「師範学校」「旧制高校・専門学校・高等師範学校」「旧制大学」を一括したカテゴリーである。

注2)「専修・各種学校経験者」とは、上記の学校とは別に「専修学校」「各種学校」に通った経験がある者のことをさす。

%の差

資格資格資格資格をををを持持持持っているとっているとっているとっていると答答答答えたえたえたえた人人人人

89

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表8 資格名称の比較(大分類)

人数 比率A 比率B 人数 比率A 比率B教育関係 134 9.1 9.2 122 7.0 7.2医療・保健・社会福祉関係 118 8.0 8.1 271 15.6 15.9食品・衛生・農畜産関係 127 8.6 8.7 159 9.2 9.3司法・警備・消防関係 18 1.2 1.2 15 0.9 0.9運輸・通信関係 155 10.5 10.6 147 8.5 8.6経理・事務・労務関係 369 24.9 25.3 390 22.5 22.9コンピュータ・情報処理関係 22 1.5 1.5 53 3.1 3.1工業・技術・労働安全衛生関係 334 22.6 22.9 332 19.1 19.5土木・建築関係 91 6.1 6.3 134 7.7 7.9語学・スポーツ・生活・教養 88 5.9 6.0 81 4.7 4.8分類不能 5 0.3 11 0.6 無回答 19 1.3 20 1.2全体 1480 100.0 100.0 1735 100.0 100.0注)両調査間の比較のため、2005年SSM日本調査のデータは1番目と2番目の資格を合算している。

資格名の大分類2005年1995年

表9 取得者数が上位を占める資格名称の比較

資格名(総称) 人数 順位全体に対する比率

上位18種に対する比率

人数 順位全体に対する比率

上位18種に対する比率

簿記 198 1111 13.4 21.5 199 1111 11.5 20.4教員免許 127 2222 8.6 13.8 114 2222 6.6 11.7珠算 98 3333 6.6 10.6 80 3333 4.6 8.2看護師 44 7777 3.0 4.8 77 4444 4.4 7.9調理師 54 5555 3.6 5.9 62 5555 3.6 6.4危険物取扱者 69 4444 4.7 7.5 59 6666 3.4 6.1訪問介護員(ホームヘルパー) 1 97979797 0.1 55 7777 3.2 5.6保育士 30 10101010 2.0 3.3 45 8888 2.6 4.6技能士 26 12121212 1.8 2.8 35 9999 2.0 3.6美容師・管理美容師 23 14141414 1.6 2.5 34 10101010 2.0 3.5フォークリフト運転者 19 19191919 1.3 33 11111111 1.9 3.4土木施工管理技士 25 13131313 1.7 2.7 31 12121212 1.8 3.2自動車整備士 36 8888 2.4 3.9 30 13131313 1.7 3.1ボイラー関連資格 31 9999 2.1 3.4 27 14141414 1.6 2.8電気工事士 20 16161616 1.4 2.2 25 15151515 1.4 2.6栄養士 17 21212121 1.1 25 15151515 1.4 2.6クレーン関連資格 49 6666 3.3 5.3 23 17171717 1.3 2.4溶接関連資格(ガス溶接技能者を除く) 18 20202020 1.2 21 18181818 1.2 2.2小計 885 59.8 975 56.2英語 30 10 2.0 3.3 18 20 1.0宅地建物取引主任者試験 20 16 1.4 2.2 17 21 1.0タイプ 20 16 1.4 2.2 7 41 0.4ガス溶接技能者 22 15 1.5 2.4 3 85 0.2… … …無回答 19 1.3 20 1.2合計 1480 100.0 1735 100.0注)両調査間の比較のため、2005年SSM日本調査のデータは1番目と2番目の資格を合算している。

  2005年SSM日本調査で急増した「訪問介護員(ホームヘルパー)」を網掛けで強調している。

2005年1995年

会福祉関係」と「コンピュータ・情報処理関係」で比率が二倍近くに増えたことを除けば分

布は非常によく似ている。次に、個別の資格のうち取得者数が多いものを比較しておこう。

表9によれば、取得者の多い資格について二時点間で大きな変動はみられない。とくに、上

位 3 位までは順位が全く一致している。また、05 年調査の上位 18 位(取得者数 20 人以上を

90

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基準に 18 位で区切った)までのうち 17 種は 95 年調査においても上位を占めている。ただし、

95 年調査に比べて 05 年調査では取得者数が非常に増えた資格もみられる。それは、「訪問介

護員(ホームヘルパー)」である。先ほどの表8で、「医療・保健・社会福祉関係」の比率が

高くなったのは、この「訪問介護員(ホームヘルパー)」が急増したことが一つの原因である。

以上、3 節で明らかになったことをまとめておこう。95 年調査と 05 年調査とでは、職業資

格に関する質問は、調査法や質問文の違いがあった。しかし、回答結果を比べてみる限り、

そうした違いがあるにもかかわらず、二時点間でよく似た結果が得られた。取得者数の多い

個別の資格名称を比較しても、二時点の間で同じ種類の資格が上位を占める傾向がみられた。

これらのことは、少なくともこの 10 年の間に職業資格をめぐる状況は大きく変化していない

ということを示しているだろう。

ただし、大分類における「コンピュータ・情報処理関係」や個別資格における「訪問介護

員(ホームヘルパー)」が大きく増加していることは社会制度の変化を反映していると考えら

れる。05 年調査で、「訪問介護員(ホームヘルパー)」の資格取得年を調べると、介護福祉士

が制度化された 1987 年(第一回国家試験は 1989 年に実施)以降にしか現れない。さらに介

護保険制度が導入された 2000 年以降に取得した者が 7 割以上を占めている。「訪問介護員(ホ

ームヘルパー)」取得者が急増したのはこうした社会福祉制度の変遷が原因だと考えられる。

4 職業資格職業資格職業資格職業資格とととと職歴職歴職歴職歴とのとのとのとの関連関連関連関連

4 節では、95 年調査では質問していない資格の取得年齢を手がかりに分析を進める。職業

資格と職歴との関係を詳細に検討するためには、職歴の系列中に資格取得年齢の情報を埋め

込んだデータが必要になる。このこと自体はさほど厄介ではないが、資格の意味を考察する

には、その資格の種類(名称)と取得前後の仕事とを対照させて相互の関係を検討する必要

がある。その際、仕事は職業のみならず、産業や企業規模、従業上の地位、場合によっては

学歴(通学した時期)まで視野に入れて検討しなければならない。そうした複雑なデータ処

理をするためには、機械的な扱いは困難でケースごとの検討が必要となる。したがって、今

回の分析では、第一資格のみを検討の対象とする。こうした限定は、「仕事に役立つ」と思う

順に資格名を挙げてもらっているので、一定の妥当性は確保できると考える。

次に、個別の資格を分析対象にするためには何らかの方法で資格をグループ化する必要が

ある。分析の都合を優先すれば、取得人数の多い資格を対象にすることができる。他方、一

定の基準に基づいて資格を類型化する方法もある。本稿では、後者の方法を採用する。具体

的には阿形(1998a; 2000)で用いた類型(「代表的資格類型」)を流用することにする。その

根拠は、表9で確認したとおり、取得者数の多い上位資格は 95 年調査と 05 年調査との間で

共通する資格が多いこと、表10に示すとおり、「代表的資格類型」のプロフィールが「無職

91

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表10 「代表的資格類型」のプロフィール

  資格類型 人数 無職率 男性比率 平均年齢 義務教育 中等教育 高等教育平均威信

スコア年収

中央値(人) (%) (%) (歳) (%) (%) (%) (点) (万円)

伝統型 121 22.5 21.5 45.0 24.8 69.4 5.8 51.5 300女性専門職型 157 30.6 24.2 41.2 1.3 15.3 83.4 56.9 400建設ホワイト型 45 4.4 91.1 44.5 2.2 51.1 46.7 55.2 600男性工業型 253 7.1 97.2 46.4 24.5 60.1 15.4 50.6 500全体 576 16.6 60.9 44.6 16.5 49.1 34.4 52.6 400

伝統型 148 18.9 15.5 46.3 26.4 68.9 4.7 52.3 225女性専門職型 119 25.6 21.0 45.6 0.0 7.6 92.4 55.7 325建設ホワイト型 36 19.4 80.6 48.8 13.9 47.2 38.9 56.0 500男性工業型 134 12.7 94.8 50.3 13.4 75.4 11.2 49.6 425全体 437 18.9 46.7 47.5 14.2 52.5 33.3 52.6 325注)1995年SSM調査の結果は、阿形(2000:130)の表7-1を修正して作成した。

  2005年SSM日本調査の結果は、第一番目の資格のみを対象にしている。

対象者全体 有職者

1995年

2005年

率」や「男性比率」を除いて 95 年調査とそれほど大きく異ならないことである(それぞれの

類型に含まれる個別の資格は注 3 を参照のこと)。

4.1 データデータデータデータ

詳しい分析に入る前に、「第一資格」全体について、資格取得のタイミングの分布をみてお

こう。ただし、一度も職業に就いたことがない 17 人は除外される。タイプ1:「資格取得が

初職就業前」は 96 人(8.6%)、タイプ2:「資格取得が初職就業と同時」は 442 人(39.5%)、

タイプ3:「初職就業以後に資格取得」は 581 人(51.9%)となる。表は省略するが、年齢別

にみると若年層でタイプ1とタイプ2が多い。初職別にみると、「専門職」は資格をもってい

る比率がほかより高く、また取得タイミングは初職就業と同時(タイプ2)が多い。資格取

得者が次に多いのは「熟練職」で、取得タイミングは初職就業後(タイプ3)が多い。現職

との関係も初職との関係とほぼ同様である。最後に学歴別にみると、「専門学校」は資格取得

者が多く、取得タイミングは初職就職と同時(タイプ2)が多い。次に資格取得者が多いの

は「高専・短大」で、やはり初職就業と同時(タイプ2)が多い。

これらのことから、資格取得が職業参入に必要な専門職と、職歴形成途上で資格を取得す

ることになる熟練職という対比が浮かび上がる。また、短期高等教育や専門学校は資格取得

との結びつきが強いことがわかる。ただしここで明らかになったことは、業務独占資格から

趣味的側面の強い資格までを含んだ資格全体の様相である。職歴との関連をより明瞭に描く

ためには、性格の明らかな資格に限定した分析が必要になる。以下では、「代表的資格類型」

に焦点づけて分析を進める。

「代表的資格類型」とは、取得者が多く、性格の明らかな 14 種類の国家資格を四つにカテ

92

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ゴライズしたものである。本研究は、「代表的資格類型」3をもつ者のうち、それらの資格を

一番目に挙げた者(「第一資格」)に限定して分析を行う。こうした限定の結果、437 名が以

下の分析対象となる。分析対象者の概要をこの 4 カテゴリーごとに表したのが表10の下半

分である。

この 4 カテゴリーの資格をもつ者について、資格取得年齢を基準に、その前後の仕事(職

業・産業・従業上の地位)を参照して次のような手順でコード化を行った4。すなわち、

①資格を取得したのは初職就業前か、就業時か、就業後か

②初職就業後に取得した場合、取得前後の職業が同じか異なるか

③当該資格に関連した仕事に就いたか否か

という三つの基準を組み合わせて対象者を分類した。また初職就業を含む職歴移動年齢と資

格取得年齢とは前後一歳のズレを許容して同時に起こった事象と判断した。

4.2 分析分析分析分析

4.2.1 取得取得取得取得タイミングタイミングタイミングタイミングとととと職業移動職業移動職業移動職業移動

初めに「代表的資格類型」の 4 カテゴリーごとに、資格取得のタイミングを確認する(表

11)。これによると、資格全体でみられた傾向がより顕著に現れており、「教員免許」と「保

育士」からなる「女性専門職型」資格では 8 割が資格取得と同時に初職に就業している。一

方、工業系の資格からなる「男性工業型」資格では、8 割が初職就業後に資格を取得してい

る。またホワイトカラー向けの「宅地建物取引主任者」と「土木施工管理技士」からなる「建

設ホワイト型」資格は、ケースが少ないのだが、すべて初職就業後に資格を取得している。

特徴的なのは、「美容師」「看護師」「調理師」からなる「伝統型」資格である。半数が初職就

業と同時に、半数が初職就業後に資格を取得している。

表は省略するが、年齢別にみると、40 歳代以下では取得タイミングは初職就職と同時(タ

イプ2)が過半数を占める。50 歳代以上では取得タイミングは初職就業後(タイプ3)が 6

割以上を占める。

学校教員や保育士は資格職業であり、就業には資格の取得が前提となっている(ただし、

保育士の場合は無資格でも業務に就くことは可能であるが、現実には有資格者でなければ就

職はむずかしいと考えられる)。したがって、資格取得と就業のタイミングが一致することは

3 類型化の詳細な手順は、阿形(1998a)を参照のこと。それぞれの類型に含まれる個別の資格カテゴリー

は次の通り。 1「伝統型」資格:美容師(管理美容師を含む)・看護師(准看護師を含む)・調理師 2「女性専門職型」資格:保育士・教員免許 3「建設ホワイト型」資格:宅地建物取引主任者・土木施工管理技士 4「男性工業型」資格:ガス溶接技能者・自動車整備士・電気工事士・クレーン運転士等、クレーン関連

資格・ボイラー技士等、ボイラー関連資格・技能士・危険物取扱者 4 仕事の情報だけでは判断がむずかしい場合は、学校へ通った年齢を参照した。

93

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表11「代表的資格類型」別 資格取得のタイミング ( )内は人数

タイプ1 タイプ2 タイプ3資格→初職 資格=初職 初職→資格 合計

伝統型 3.4( 5) 50.3( 73) 46.2( 67) 100.0(145)女性専門職型 7.8( 9) 83.5( 96) 8.7( 10) 100.0(115)建設ホワイト型 0.0( 0) 0.0( 0) 100.0( 36) 100.0( 36)男性工業型 0.8( 1) 21.4( 28) 77.9(102) 100.0(131)全体 3.5( 15) 46.1(197) 50.4(215) 100.0(427)

常識的理解と矛盾しない。「男性工業型」資格には、就業に必要というよりも業務遂行の過程

で必要に迫られて取得するものが多い。したがって初職就業後に取得する者が多いと考えら

れる。ゆえに、資格取得による企業間移動はそれほど多くないと予想される(後述)。それに

対して、「伝統型」資格は、「看護師」を除いて一定の業務経験を積むことによっても取得可

能な資格である。個別のケースの職歴を詳細にたどってみると、全く異なる職業からの参入

も比較的多くみられる。さらに、「美容師」と「調理師」に要求される学歴水準は、かつては

相対的に低かったために、高い学歴をもたない人でも職歴の途上で実務経験を積んで資格を

取得することが可能である5。

次に、初職就業後に資格を取得した者について、取得による職業移動の有無を区別して検

討しよう。表12は、タイプ3「初職就業以後に資格取得」をさらに細かく分けて、資格取

得の前後で職業移動があったかどうかをみたものである。注意すべきは、ここでいう職業移

動とは大分類レベルの移動ではなく、職業小分類レベルでの移動である点である。したがっ

て、「移動なし」とは、資格取得の前後でまったく同一の職業に従事している人である。「移

動あり」とは、資格取得後、別の職業からその資格に関連する職業に転職した人のことであ

る。また、「取得後無職」というのは、「就業経験があって一旦無職になった時期があり、そ

の間に資格を取得したが、取得後職業に就いた経験がない」者のことである。

表12も特徴的で、「伝統型」「建設ホワイト型」「男性工業型」資格の三つは、取得前後で

職業移動が多くは起きていない。言いかえれば、同じ仕事をしながら資格取得した人が大部

分であるということになる。他方、「女性専門職型」資格は 10 人中 7 人が「移動あり」であ

る。これらの人びとは別の仕事をしていたが、仕事を継続しながら、若しくは一旦退職して

表12「代表的資格類型」別 職業移動の有無 ( )内は人数

移動なし 移動あり 取得後無職 合計伝統型 83.6( 56) 16.4( 11) 0.0( 0) 100.0( 67)女性専門職型 20.0( 2) 70.0( 7) 10.0( 1) 100.0( 10)建設ホワイト型 86.1( 31) 11.1( 4) 2.8( 1) 100.0( 36)男性工業型 90.2( 92) 8.8( 9) 1.0( 1) 100.0(102)全体 84.2(181) 14.4( 31) 1.4( 3) 100.0(215)

5 表10からも明らかなように「伝統型」資格保持者の学歴水準は他と比べて低い。

94

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学校に通い資格を取得し、関連職業に転職している。「女性専門職型」資格は、初職入職時に

取得される場合が 8 割を占めていたが、別職業からの転入もある程度みられることが明らか

になった。

4.2.2 企業間移動企業間移動企業間移動企業間移動

4.2.1 では、資格取得と小分類レベルでの職業移動との関連をみたが、同一職業に就いてい

ても資格取得を契機として企業間移動が生じるかもしれない。反対に、職業は異なるが従業

先は変わらない場合もありうる。次に企業間移動の有無を検討しよう。4.2.1 と同様にタイプ

3「初職就業以後に資格取得」を細分することになる。タイプ3「初職就業以後に資格取得」

に相当するのは 215 名であるが、資格取得の前後で企業間移動をした人は 38 名(17.7%)で

あった。これらを「代表的資格類型」カテゴリー別にみたものが表13である。表13の「小

計」の欄が企業間移動の有無を表している。ここだけをみれば、「代表的資格類型」のカテゴ

リーと職業移動との関係とよく似ている。企業間移動が多いのは「女性専門職型」資格と「伝

統型」資格である。他方「男性工業型」資格は企業間移動が少ない。さらに、職業移動の有

無を組み込んで三重クロス表でみると、資格カテゴリーの特徴がより明らかになる。「男性工

業型」資格と「建設ホワイト型」資格は職業移動も企業間移動もない者がほとんどを占める。

言いかえれば、これらの資格は、少なくとも資格取得前後で「移動」を伴わない、職務遂行

上必要に駆られて取得する資格である。他方、「女性専門職型」資格は、職業移動も企業間移

動もない者と両者の移動を伴う者に二分される。「伝統型」資格はその中間に位置し、大半は

職業移動も企業間移動もない者で占められるが、企業間移動をする者も相当存在する。それ

らは職業が変わる者と変わらない者が相半ばしている。

表13「代表的資格類型」別 企業間移動の有無 ( )内は人数

なし あり 小計小計小計小計 なし あり 小計小計小計小計伝統型 74.6( 50) 1.5( 1) 76.176.176.176.1 13.4( 9) 10.4( 7) 23.923.923.923.9 100.0( 67)女性専門職型 30.0( 3) 0.0( 0) 30.030.030.030.0 0.0( 0) 70.0( 7) 70.070.070.070.0 100.0( 10)建設ホワイト型 80.6( 29) 2.8( 1) 83.383.383.383.3 8.3( 3) 8.3( 3) 16.716.716.716.7 100.0( 36)男性工業型 87.3( 89) 3.9( 4) 91.291.291.291.2 3.9( 4) 4.9( 5) 8.88.88.88.8 100.0(102)全体 79.5(171) 2.8( 6) 82.382.382.382.3 7.4( 16) 10.2( 22) 17.717.717.717.7 100.0(215)

企業間移動なし 企業間移動あり合計職業移動 職業移動

企業間移動をした者 38 名について企業規模の変化をみると、変化がない者が最も多く 14

名である。規模が大きくなった者(官公庁へ移動した 2 名を含む)は 9 名、小さくなった者

は 13 名であった(残り 2 名は移動元もしくは移動先の規模が不明)。

4.2.3 従業上従業上従業上従業上のののの地位地位地位地位のののの変化変化変化変化

95

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表14 「代表的資格類型」別 従業上の地位の変化 (単位:人)

常雇不変 常雇へ 臨時雇へ 臨時不変 自営へ 自営不変 合計伝統型 8 1 3 0 4 1 17女性専門職型 4 2 0 1 0 0 7建設ホワイト型 5 0 0 0 2 0 7男性工業型 9 0 0 0 4 0 13全体 26 3 3 1 10 1 44

自営業は一つの到達階層とみなされてきた。その到達に資格がどう関わっているのかを次

に検討しよう。対象者は職業または企業間の移動をした者 44 名だが、そのうち最も多いのは

「常雇い不変」の 26 名(59.1%)である。次に「自営へ変化」6の 10 名(22.7%)が多い。

この両カテゴリーで 82%を占める。残りは「常雇いへ変化」「臨時雇いへ変化」がそれぞれ 3

名、「臨時雇い不変」「自営不変」がそれぞれ 1 名である。これらを「代表的資格類型」カテ

ゴリー別にみたものが表14である。人数の制約のため明確に述べるのは困難だが、「男性工

業型」資格は意外にも「自営へ変化」した者が相当存在する。

4.2.4 資格資格資格資格のののの活用活用活用活用

ここまでは移動という側面に焦点を当てて検討してきた。次に、取得した資格が職業と関

連があるのかないのかについて検討する。以下「活用」とは、当該資格と小分類レベルでの

職業が関連する場合のことである。たとえば「調理師」資格を取得して「料理人」や「飲食

店主」として就業したり、「小学校教員免許」を取得して「その他の教員」や「個人教師」と

して従事しているケースである。「非活用」とは、たとえば「中学校教員免許」を取得して「会

計事務員」として就業したり、「電気工事士」資格を取得して「自動車運転者」として就職し

たりしたケースである。「判定不能」とは学歴、産業、企業規模、職業を勘案しても資格と職

業が結びついているかどうか判断しがたいケースである。

まず、資格取得が初職就業前もしくは就業と同時の場合を検討する。表11でみたように

「建設ホワイト型」資格はすべて初職就業後に取得しているので、他の三つを比較すること

になる(表15)。この表によれば、「伝統型」は9割と非常に高い比率で資格を「活用」し

ている。「女性専門職型」資格は、8割が資格を「活用」している。「男性工業型」資格は「判

定不能」が多いために読み取りがむずかしいが、少なくとも3分の2が資格を「活用」して

いる。

では、初職就業後に資格を取得する場合はどうだろうか。ここでは職業移動や企業間移動

の有無を区別せずに、既に就いている、あるいはこれから就こうとしている職業と当該の資

格が関連をもつかどうかという視点で検討しよう(表16)。初職就業時までに資格を取得し

た場合に比べて、「伝統型」資格ではやや活用度が下がっている。一方「男性工業型」資格は 6 ここでいう「自営」には「家族従業者」3 名を含む。

96

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表15 初職入職以前に取得した資格の活用 ( )内は人数

非活用 活用 判定不能 合計伝統型 2.6( 2) 93.6( 73) 3.8( 3) 100.0( 78)女性専門職型 19.0( 20) 79.0( 83) 1.9( 2) 100.0(105)男性工業型 17.2( 5) 65.5( 19) 17.2( 5) 100.0( 29)全体 12.7( 27) 82.5(175) 4.7( 10) 100.0(212)

表16 初職入職以後に取得した資格の活用 ( )内は人数

非活用 活用 判定不能 合計伝統型 7.5( 5) 86.6( 58) 6.0( 4) 100.0( 67)女性専門職型 20.0( 2) 80.0( 8) 0.0( 0) 100.0( 10)建設ホワイト型 5.6( 2) 80.6( 29) 13.9( 5) 100.0( 36)男性工業型 5.9( 6) 71.6( 73) 22.5( 23) 100.0(102)全体 7.0( 15) 78.1(168) 14.9( 32) 100.0(215)

表17 取得した資格の活用(全体) ( )内は人数

非活用 活用 判定不能 合計伝統型 4.8( 7) 90.3(131) 4.8( 7) 100.0(145)女性専門職型 19.1( 22) 79.1( 91) 1.7( 2) 100.0(115)建設ホワイト型 5.6( 2) 80.6( 29) 13.9( 5) 100.0( 36)男性工業型 8.4( 11) 70.2( 92) 21.4( 28) 100.0(131)全体 9.8( 42) 80.3(343) 9.8( 42) 100.0(427)

活用度がやや上がっている。「女性専門職型」資格には違いがみられない。

表15と表16を重ね合わせたのが表17である。一見して「女性専門職型」資格の「非

活用」が多いことが明らかである。これは「教員免許」資格が死蔵される可能性が高いとい

う指摘(阿形 1998a: 62)と整合的な結果である。

資格活用という視点でそれぞれの資格類型ごとに検討してみると、取得した資格と結びつ

いた職業に就業したケースが大半である。しかしながら「女性専門職型」資格のように資格

と職業が結びつかないケースが多いものも存在する。

4.2.5 資格活用資格活用資格活用資格活用のののの規定要因規定要因規定要因規定要因

最後に、資格活用を規定する要因を検討する。これまでの分析から資格類型によって資格

の活用度が異なることが明らかになったが、種々の属性を同時に考慮して分析するとどのよ

うな結果が得られるだろうか。「判定不能」と「非活用」をひとまとめにした「非活用群」を

0、「活用群」を1とする二値変数を従属変数としてロジスティック回帰分析を行って検討し

た(表18)。

独立変数は次の通り。性別は男性を1とするダミー変数。学歴は、最も「活用」が少ない

「大学・大学院」を基準カテゴリーとするダミー変数。初職は、最も「活用」が少ない「販

97

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表18 職歴形成における資格活用を従属変数とするロジスティック回帰分析(N=415)

B S.E. Exp(B) p B S.E. Exp(B) p B S.E. Exp(B) p性別 -0.609 0.356 0.544 -0.685 0.362 0.504 -0.567 0.468 0.567年齢 -0.003 0.014 0.997 -0.012 0.014 0.988 -0.011 0.014 0.989学歴 中学校 2.126 0.632 8.381 *** 1.858 0.638 6.410 ** 1.862 0.720 6.436 ** 高校 1.100 0.432 3.004 * 0.804 0.451 2.233 0.849 0.530 2.337 高専・短大 0.421 0.542 1.524 0.555 0.565 1.742 0.793 0.595 2.211 専門学校 1.083 0.581 2.954 1.185 0.602 3.272 * 1.086 0.723 2.963初職 専門職 3.755 0.568 42.717 *** 4.224 0.618 68.302 *** 4.360 0.666 78.261 *** 事務職 0.717 0.506 2.048 0.663 0.521 1.940 0.630 0.530 1.878 熟練職 2.611 0.498 13.609 *** 2.774 0.512 16.022 *** 2.701 0.516 14.896 *** 半・非熟練職 1.101 0.520 3.008 * 1.006 0.528 2.733 0.873 0.537 2.395資格取得時期 1.156 0.407 3.179 ** 0.911 0.439 2.486 *資格類型 「伝統型」資格 0.406 0.520 1.500 「女性専門職型」資格 -0.228 0.732 0.796 「建設ホワイト型」資格 1.058 0.571 2.881定数 -1.055 0.902 0.348 -1.237 0.916 0.290 -1.386 1.083 0.250-2Log Likelihood 305.723 297.176 291.788

Cox & Snell Pseudo R2 0.232 0.248 0.257注) ***: p<.001, **:p<.01, *:p<.05

   初職が農林職のサンプル(9名)は除く。

   基準カテゴリーは次の通り。

     性別:女性、学歴:大学・大学院、初職:販売職、資格取得時期:初職就業以前または同時、資格類型:「男性工業型」資格。

モデル1 モデル2 モデル3

売職」を基準カテゴリーとするダミー変数である。ただし、初職が「管理職」である者は「代

表的資格類型」に相当する資格をもっておらず、初職が「農林職」である者(9 名)はすべ

て「活用群」に含まれるため、初職がこれら二つの職業の者は分析から除外される。資格取

得時期は、「初職就業前」または「初職就業と同時」を基準カテゴリーとするダミー変数で、

「初職就業以後」に取得することの効果を測定する。資格類型は、最も「活用」が少ない「男

性工業型」資格を基準カテゴリーとするダミー変数である。

表18のモデル 1 より学歴の効果が認められる。「中学校」「高校」学歴の人は取得した資

格を活用して職に就く確率が「大学・大学院」学歴に比べて高いことを示している。また、

初職が専門職またはマニュアル職の場合も資格を活用する確率が高いことがわかる。

先行研究では、性・年齢や学歴を統制して職業資格の効果を測ると、ほとんどないに等し

かった。言いかえれば、収入や職業威信・就業機会に対して、性・年齢や学歴の方が資格よ

りもはるかに強い規定力をもっていた。このことを表18の結果とつき合わせるとどのよう

な解釈が可能だろうか。相対的に低い学歴が有意であることは、次のようなことを示してい

ると考えられる。すなわち、高学歴者は資格に頼らずとも学歴の効用を活用してより良好な

就業機会を得る可能性が高いのに対して、低学歴者は学歴に頼ることはできないので資格取

得を通じて職歴形成を果たそうとする者が多い。資格取得時期を統制したモデル 2 で「中学

校」「専門学校」学歴の効果が有意になることはそうした解釈を支持する。なぜなら、高校卒

業後、一定の就業経験を経てから専門学校で資格を取得して、仕事に活用するケースが「専

門学校」学歴 88 人のうち 10 人(11.4%)あるのに対して、一定の就業経験を経てから「高

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専・短大」「大学・大学院」に進学した 7 人のうち、資格を取得して以後の仕事に活かしてい

るのは「短大」と「大学」のそれぞれ 1 人ずつ、合わせて 2 人(「高専・短大」「大学・大学

院」学歴の者に対する比率は 1.4%)にすぎないからである。相対的に学歴が低い者は職歴

形成の途上で資格を取得してより望ましい職へと移動していくのである。

他方、職業に着目すると専門職とマニュアル職という対照的な職業でそれぞれ有意な効果

を示していた。これには「女性専門職型」資格と「男性工業型」資格の特性が関わっている

と考えるとわかりやすい。前者は「教員免許」「保育士」を含み、後者は「自動車整備士」や

「電気工事士」「危険物取扱者」などを含む。専門職で有意な効果をもつのは、初職時点で教

員や保育士など資格職業(これらは専門職に分類される)に参入する者が多いことを反映し

ている。それは「女性専門職型」資格取得者 115 人中 83 人(72.2%)が初職就業以前か就業

と同時に取得してかつ活用していることから判断される。それとは反対に「男性工業型」資

格取得者 131 人中 73 人(55.7%)が職歴形成の途上で取得してかつ活用している。

ところがモデル 2 によると、資格取得時期を統制してもなお専門職と熟練職の効果は存続

する。実は、初職が専門職のうち 5 割は「女性専門職型」資格を取得しているが、4 割は「伝

統型」資格を取得している。他方、初職が熟練職のうち 5 割は「男性工業型」資格を取得し

ているが、4 割は「伝統型」資格を取得している。これらのことから初職と資格類型、取得

時期には交互作用があることがわかる。初職が専門職で「女性専門職型」資格を活用する場

合は初職と同時に取得する場合が多く、「伝統型」資格を活用する場合は職歴形成途上で取得

する場合が多い。逆に、初職が熟練職で「男性工業型」資格を活用する場合は職歴形成途上

で取得する場合が多く、「伝統型」資格を活用する場合は初職と同時に取得する場合が多いの

である。したがってモデル 2 において資格取得時期を統制してもなお専門職と熟練職の効果

は存続するのである。このように、同じように資格を活用するといっても、資格類型によっ

て職歴形成と資格活用の関連のしかたは異なっている。ただし、モデル 3 によれば、資格類

型に固有の効果はみられない。したがって、どのような学歴をもち、どのような職業に初期

参入するかということと関係しながら資格の効用が現れるのだといえよう。

5 まとめとまとめとまとめとまとめと今後今後今後今後のののの課題課題課題課題

本章では、職業資格の種類(名称)と資格取得時期に焦点を当て、誰がいつ資格を取得し、

活用するかを検討してきた。最後に明らかになった点をまとめた上で、今後の課題を提示し

ておきたい。

まず、1995 年 SSM 調査の結果と 2005 年 SSM 日本調査の結果とを比較しながら職業資格

の概況を確認した。95 年調査と 05 年調査とでは調査法や質問形式が異なるにもかかわらず、

回答率・回答の分布とも大きな違いはみられなかった。資格名称の分布も取得者の多いもの

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は両調査間でかなりの一致をみた。ただし、社会制度の変化を反映してこの 10 年で急増した

資格も存在した。

資格取得時期に着目すると、資格取得が職業参入に必要な専門職と、職歴形成途上で資格

を取得することになる熟練職という対比が浮かび上がる。性格の明らかな資格に限定して分

析を行った結果、次のことがわかった。「保育士」「教員免許」からなる「女性専門職型」資

格では 8 割が資格取得と同時に初職に就業している。一方、「ガス溶接技能者」「自動車整備

士」「電気工事士」「クレーン関連資格」「ボイラー関連資格」「技能士」「危険物取扱者」から

なる「男性工業型」資格では、8 割が初職就業後に資格を取得している。「美容師」「看護師」

「調理師」からなる「伝統型」資格では、半数が初職就業と同時に、半数が初職就業後に資

格を取得している。初職就業後に資格を取得したケースの、職業小分類レベルでの移動の有

無を検討すると、移動のない者が 8 割を占める。すなわち、職業資格を通じて転職する人は

多数派ではない。では資格取得に伴う従業先の移動はどうかというと、これも 8 割は移動し

ていない。職業移動と企業間移動を組み合わせてみると、「男性工業型」資格と「宅地建物取

引主任者」「土木施工管理技士」からなる「建設ホワイト型」資格は、職業移動も企業間移動

もない者がほとんどを占める。言いかえれば、これらの資格は、少なくとも資格取得前後で

「移動」を伴わない、職務遂行上必要に駆られて取得する資格である。他方、「女性専門職型」

資格は、職業移動も企業間移動もない者と両者の移動を伴う者に二分される。「伝統型」資格

はその中間に位置し、大半は職業移動も企業間移動もない者で占められるが、企業間移動を

する者も相当存在する。それらは職業が変わらない者と変わる者が相半ばしている。

資格の種類が職業(仕事の内容)と関係がある場合に資格を「活用」していると定義して、

資格類型ごとの「活用度」を検討した。その結果、全体の 8 割で「活用」されているが、「女

性専門職型」資格では 2 割が「非活用」であり死蔵率が高いことが改めて示された。資格活

用の規定要因を探ったところ、学歴と初職、資格取得時期が有意な効果をもった。すなわち、

「中学校」学歴の者は「大学・大学院」学歴の者に比べて資格を活用する確率が高く、初職

が専門職、熟練職である者は、販売職である者に比べて活用する確率が高い。さらに初職就

業以後に資格取得した者は、就業以前または同時に取得した者よりも活用する確率が高いこ

とがわかった。職歴形成において資格を活用するのは、学歴が低い者と初職が専門職または

熟練職である者、さらには初職就業時ではなく職歴形成の途上で資格取得する者であること

が明らかになった。

先行研究では、事務系・営業系のサラリーマンは職業資格の有効性を認識していないと考

えられること(労働政策研究・研修機構 2005)や、職歴形成における職業資格の限定的な効

果(堀 2006)が明らかにされている。本稿の分析でえられた、事務職・販売職では資格を活

用しているとはいえないという結果や、職業資格を通じた(職業/企業間)移動は多くはな

いという結果は、先行研究と合致する。ただし、先行研究が明示していない、相対的に不利

100

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な学歴の者が資格取得を通じてキャリアアップしていく可能性が見いだされたことは明記し

てよいと思われる。

本章の分析は、職歴形成と職業資格との関わりを追究するための序論にすぎない。たとえ

ば資格活用の測定では、資格取得前後の限られた時間を射程に入れているだけで、資格取得

と現職に至る職歴形成との関連までは明らかにできなかった7。また扱った資格も取得者の多

い 14 種類の資格に限られており、多くの資格を分析対象にすることができなかった。これら

の問題を追究するためには、職歴形成において資格をもつことの効用を測定する際、どれだ

けの時間差を許容するかということや、雑多な資格をいかなる基準で分類するかという理論

的検討を必要としている。今後の課題としたい。

【謝辞】

SSM 職業大分類の作成および職業威信スコアの算出については、三輪哲氏(東京大学)作成のシン

タックスを参考にさせていただいた。記して感謝の意を表したい。

【文献】

阿形健司. 1998a. 「日本の職業資格―その現状と効果―」苅谷剛彦(編)『教育と職業―構造と意識の分

析 1995 年 SSM 調査シリーズ 11』(科学研究費補助金研究成果報告書)1995 年 SSM 調査研究

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阿形健司. 1998b. 「職業資格の効果分析の試み」『教育社会学研究』63: 177-97.

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会学的研究』(科学研究費補助金研究成果報告書): 115-27.

橋本鉱市. 1992. 「近代日本における専門職と資格試験制度―医術開業試験を中心として―」『教育社

会学研究』51: 136-53.

本田由紀. 2005. 『若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて』東京大学出版会.

堀有喜衣. 2006. 「職業資格、研修、自己啓発などの職場を離れた活動とキャリア」労働政策研究・研

修機構(編)『現代日本人の視点別キャリア分析―日本社会の劇的な変化と労働者の生き方―』

(労働政策研究報告書 No.51): 73-124.

今野浩一郎・下田健人. 1995. 『資格の経済学―ホワイトカラーの再生シナリオ』中央公論社.

宮本みち子. 2002. 『若者が《社会的弱者》に転落する』洋泉社.

望田幸男(編). 1995. 『近代ドイツ=「資格社会」の制度と機能』名古屋大学出版会.

労働政策研究・研修機構(編). 2005. 『個人のキャリアと職業能力形成―「進路追跡調査」 35 年間

の軌跡―』(労働政策研究報告書 No.27).

坂野慎二. 2006. 「ドイツのキャリア教育と就業支援」小杉礼子・堀有喜衣(編)『キャリア教育と就業

支援―フリーター・ニート対策の国際比較』勁草書房: 99-141.

新谷康浩. 1996. 「近代日本における資格制度と工業化―電気事業主任技術者検定制度の導入過程に着

7試みに、現職威信スコアを従属変数とする重回帰分析を行ったところ、初職就業以後に資格を取得するこ

とは威信スコアを増大させる効果をもつことがわかっている。

101

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目して―」『教育社会学研究』58: 65-85.

辻功. 2000. 『日本の公的職業資格制度の研究―歴史・現状・未来―』日本図書センター.

谷内篤博. 2007. 『働く意味とキャリア形成』勁草書房.

柳田雅明. 2004. 『イギリスにおける「資格制度」の研究』多賀出版.

吉川裕美子. 1998. 『ドイツ資格社会における教育と職業』教育開発研究所.

An Analysis of Utilizing Vocational Qualification in Career Formation

Kenji Agata

(Doshisha University)

This paper investigated the relationship between career formation process and getting the

vocational qualification. Under the changing situations of fluidity of employment and popularization of

higher education in Japanese society, will vocational qualification (VQ) have more efficacies in career

formation of people than educational credentials? To get a clue to this question, we focused on the

timing of getting the VQ to examine when and who gets the VQ in the career formation process and

whether they utilize it for executing their work or not.

At first, we found that professionals tended to get the VQ at the beginning of the career formation

process and skilled workers tended to get it after getting their first jobs. Secondly, as for the occupational

mobility, it was a minority of those who changed their jobs or workplaces when they got the VQ. Thirdly,

those who were more likely to utilize the VQ in the career formation process were as follows: those with

lower educational credentials, those whose first jobs were professions or skilled work, and those who got

the VQ after their first jobs.

Keywords: timing of getting the vocational qualification, educational credentials, occupational mobility,

utilizing vocational qualification

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長時間労働と仕事における自律性

―「強いられたもの」としての長時間労働―

長松奈美江

(大阪大学)

【要旨】

本稿の目的は、被雇用者の仕事における自律性のなさが長時間労働をもたらしているかどうか

を検証することによって、長時間労働が「強いられたもの」であるのか、あるいは、仕事内容や

ペース、働き方に対する自律性を一定程度もっている者が、みずから「進んで行っているもの」

であるのかを明らかにすることである。 個人の属性、企業規模、産業、職業、仕事における自律性(仕事の自律性・働き方の自律性)

を独立変数として、労働時間を従属変数とした重回帰分析を行った結果、以下の三つの知見が得

られた。 第一に、男性では、若年、中小企業勤務、専門職、管理職、販売職、建設業、運輸業、小売・

卸売・飲食店業であるほど労働時間が長いことがわかった。女性では、若年、中卒、中小企業勤

務、熟練職、半熟練職であるほど労働時間が長いことがわかった。 第二に、男性では、仕事、および働き方の自律性が低いほど労働時間が長いことがわかった。 第三に、男性では、仕事における自律性は、企業規模、職業、産業の労働時間への効果を媒介

していた。企業規模が大きくなく、専門職、管理職、販売職であるほど長く働く傾向にある。し

かし、逆に、かれらの仕事の自律性の高さは、長時間労働を抑制していた。一方で、産業が運輸

業、卸売・小売・飲食店業であるほど働き方の自律性が低く、それが労働時間を長期化させてい

たことがわかった。

キーワード:仕事の自律性、働き方の自律性、労働時間の増大

1 問題の所在

近年、被雇用者の業務量の増大や労働強化、労働時間の増大が指摘されている(森岡 2005,

熊沢 1997)。かつて、年間総労働時間 1800 時間をめざしてさまざまな労働時間短縮策が推進

された。たとえば 1988 年、労働基準法の週 40 時間制が施行されたことにより、以後 1990

年代半ばまで急速に時短が進展した。しかし、近年の経済のグローバル化や不況による企業

間競争の激化、あるいは労働法改正や規制緩和などにより、労働時間が増大したことがさま

ざまな論者から指摘されている。小倉一哉(2007b: 2-4)によると、「週に 60 時間以上働いた」

と回答した被雇用者の割合が、1990 年代半ばから近年にかけて高まっている。2004 年では、

週に 60 時間以上働いた人の割合は、男性の 20 歳代後半から 40 歳代前半で軒並み 2 割を超え

ている。女性でも 1993 年から 2004 年までの長期の動向では、20~30 歳代で長時間労働者の

103

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比率が若干高くなっているという。さらに、労働時間の二極分化も指摘されている。生活に

支障をきたすほど長く働かざるをえない正社員がいる一方で、低賃金で短時間でしか働けな

い非正社員が増加している。

このような状況のもと、過労死や過労自殺といった長時間労働によるさまざまな負の影響

が指摘されている。しかし一方で、長時間労働は、労働者が自ら進んで行うものであるとい

う見解もなかったわけではない。田中洋子(2006)は、長時間労働をめぐる議論における重

要な論点のひとつに、日本人が歴史的にみて、長時間働くことを自ら受け入れてきたという

点があると指摘する。日本における正社員像は、「賃金と労働時間が分離し」、「時間的貢献が

包括的に求められる」というものであった(久本 2006)。つまり、自分の属する集団のなか

で、少しでも長く働く方向での圧力を受け、自らそれを受け入れてきたという側面が、日本

の長時間労働をめぐる論点のひとつとしてあったといえよう。

以上から、長時間労働に関しては、労働者が「進んで長く働く」という見解と、「長時間働

かざるをえない」という二つの異なる見解が存在するといえる。

では、被雇用者は実際に、長時間労働を「強いられている」のであろうか。長時間労働の

規定要因を検討した先行研究は、被雇用者の長時間労働の背景には仕事量の増大があること

を指摘する(山崎 1992; 小倉・藤本 2007; 労働政策研究・研修機構 2005 など)。このよう

な研究からは、業務量が増大し労働が強化されるなか、労働者が自らの仕事のやり方や内容

についての自律性を失っており、それが長時間労働を招いているということが推測される。

本稿の目的は、被雇用者の仕事にかんする自律性のなさが長時間労働をもたらしているか

どうかを検証することによって、長時間労働が「強いられたもの」であるのか、あるいは、

仕事内容やペース、働き方に対する自律性を一定程度もっている者が、みずから「進んで行

っているもの」であるのかを明らかにすることである。

本稿の構成は以下の通りである。2 節では、長時間労働を規定する要因と、長時間労働と

仕事における自律性との関係を述べる。3 節では分析の目的を述べ、4 節ではデータと変数の

説明を行う。5 節で分析を行い、6 節では結果をまとめ、得られた結果をもとに考察を行う。

2 先行研究

2.1 労働時間を規定する要因

労働時間を規定する要因としては、性別や年齢などの個人の属性、家族やライフスタイル

にかんする要因、役職や企業規模、産業や職業の特性などが指摘されてきた。そこでは、個

人による選択や調整といった労働供給側の要因を指摘する見解と、組織や職業の特性といっ

た労働需要側の要因を指摘する二つの見解がある。

まず、労働供給側の要因として、家族要因や性別の効果を指摘する研究がある。西川(2002)

104

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は、18 歳以下の子どもの人数が増えるに従い、夫はその労働時間を増加させ、逆に妻は労働

時間を減少させるなど、妻が夫や家族の事情に合わせて労働供給を調整する傾向があること

を明らかにしている。前田(2002)は、妻が専業主婦であることは夫の労働時間を長くして

いることから、夫の長時間労働は、妻の就業状態によるところが大きいと述べている。ただ

し、男性は子どもがいても労働時間が長く、労働時間と家庭生活との調整にかんしては、ジ

ェンダー・バイアスが存在することを指摘している。

さらに、労働時間の規定要因として、人びとの仕事に対する意識を指摘する研究がある。

清水(2005)は、就業継続志向を独立変数として労働時間の規定要因の検討を行った結果、

他の職業変数や個人変数を統制しても、就業継続志向が労働時間を高める傾向をもつことを

明らかにしている。

労働時間に影響を与えるものとしては、性別や家族、個人の意識といった要因に加えて、

組織や職業、産業の特性といった労働需要側の要因が指摘されている。前田(2002)は、首

都圏に居住する 30 歳代を対象とした調査データをもちいた分析を行い、男性の労働時間は職

業と企業属性によって大きく影響されていることを明らかにした。前田によると、高学歴・

大企業・管理職(勤続年数が長い)・高収入といった要因が長時間労働と結びついており、年

功制をベースとした日本的雇用慣行が男性労働者の長時間労働と密接に結びついているとい

う。

他の研究として、小倉・藤本(2007: 10-11)は、労働政策研究・研修機構が 2004 年に実施

した、正社員を対象とした調査データを分析し、労働時間が長い労働者の特性を明らかにし

ている。それによると、男性、30~40 歳代、管理職、職種では「輸送・運転」「現場管理・

監督」「営業・販売」、業種では「運輸業」や「卸売・小売業」などで、比較的総労働時間が

長いという。

労働時間そのものの長さだけでなく、超過労働時間や、不払い労働時間などの規定要因を

探求する研究もある。労働政策研究・研修機構(2005)は、週 50 時間以上を超過した超過労

働時間を従属変数とした重回帰分析を行っている。その結果、若年、大卒、専門職(女性は

医療・教育関係、男性は研究開発・設計・SE などの技術系)であるほど超過労働時間が長い

ことを明らかにしている。また小倉(2002)は、「不払い労働時間」が長い労働者の特性とし

て、男性、中高年、高学歴、大企業勤務、通常の勤務時間制で、恒常的に残業時間が長く、

意識面では最近の労働時間が長いと感じているということを指摘している。

2.2 長時間労働の背景―業務量の多さと雇用主―被雇用者間の非対称な関係性

以上みてきたように、労働時間の規定要因としては、個人の意識や属性といった個人要因、

家族に関する要因、企業や職業に関する要因といった職業要因が指摘されている。それに加

えて、業務量の多さといった、職場における要因も指摘されている。

105

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山崎喜比古(1992)は、長時間の過密労働は、過重な職務要請と巻き込み圧力に対する呼

応、あるいは巻き込まれの結果として生じているとしている。よって、仕事のやりがい感、

面白さや同僚とのつきあいが超長時間労働を説明できるとは思われないと述べている。労働

政策研究・研修機構(2005)は、法定労働時間を超過して働く理由としては、「所定労働時間

内では片付かない仕事だから」が統計的に有意な効果をもち、「自分の仕事をきちんと仕上げ

たい」は有意ではないことを示している。小倉(2007b)は、「自分の都合」で残業する人は、

会社や仕事の都合で残業する人よりもかなり少ないと指摘している。さらに、熊沢(2003)

は、長時間労働の原因は、新規採用の抑制や能力主義の進展によって一人あたりの仕事量や

ノルマが増えていることであると指摘している。

では、これらの研究が指摘するように、業務量の多さや職務要請の強さが長時間労働をも

たらしているのであれば、その背景にあるものは何であろうか。その背景にあるものとして、

被雇用者と雇用主の関係性の性質やその変化を指摘することができる。

Schor(1991=1993)は、アメリカにおける長時間労働の要因を考察し、働きすぎの原因は,

雇用主の長時間労働への圧力と労働時間の短縮への抵抗、労働者の余暇時間のためにたたか

ってこなかった弱い労働組合に求められると述べている。つまり、雇用主と被雇用者には、

労働時間の長さをめぐって利害の対立がある。雇用主―被雇用者の力関係が、雇用主側の交

渉力を強めるように変化したことが、長時間労働の原因であるという。労働側の交渉力の強

さと労働時間との関係を明らかにした研究もある。橘木・野田(1993)は、連合総研の行な

った調査データを用いた分析を行い、労働組合が労働側の発言力(交渉力)を高めることで

所定内労働時間の減少と、有給取得日数に効果をもつことを明らかにしている。

つまり、業務量が増大し職務要請が強まり、それにより、より多くの労働者が長時間労働

に駆り立てられている背景には、増大する仕事量やノルマに対して拒否することができない

という、被雇用者の立場の弱さが存在しているのではないかと考えられる。長松(2006)は、

1970 年の後半から 2000 年にかけて、男性被雇用者の仕事の自律性が低下していることを明

らかにした。被雇用者の自律性が低下した背景にあるのは、企業間競争が激化するなかで、

被雇用者をますます多く働かせようという雇用主の圧力が強まったことだと考えられる。

このように長時間労働の背景をみるのであれば、長時間労働は、労働者が自ら調整し、進

んで行っているのではないと考えることができる。むしろ、仕事や働き方に対する自律性が

ないなかで、より多くの被雇用者が、長時間労働を「強いられている」のではないかと推測

される。では実際に、このような被雇用者と雇用主の関係性における変化を背景にして、長

時間労働は生じているのであろうか。そこで本稿では、仕事にかんする自律性に注目し、自

律性のなさが長時間労働をもたらしているかどうかを検証する。次に、自律性とはいかなる

特性であるのかを検討する。

106

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2.3 仕事における自律性への注目

本稿では、労働時間に影響をあたえるものとして、仕事における二つの自律性に注目する。

一つは「仕事の自律性」であり、これは、仕事内容やペースなどにかんする統制力を表す。

もう一つは、「働き方の自律性」であり、これは、時間管理や休暇の取得などの働き方にかん

する統制力を表す。

では、仕事における自律性とは、どのような特性であろうか。その特性として、二点をあ

げることができる。第一に、被雇用者の仕事における自律性は、被雇用者と雇用主との意思

決定権の非対称性を表している 1。被雇用者の自律性が高いことは、雇用主との関係において、

被雇用者がより大きな決定権や交渉力をもっていることを意味する。一方、被雇用者の自律

性が低いことは、被雇用者の仕事内容や働き方の決定に関して、雇用主の決定権や交渉力が

より強いことを意味する。

第二に、仕事における自律性は、被雇用者間で不平等に分布している。仕事の自律性は、

仕事の性質や組織の構造、個人の属性によって影響を受けることが指摘されている(Wright

1978=1986; Evans 1992; 村尾 1998, 2003; 平田 1998 など)。Goldthorpe(2000)は、労働の量

と質を測定するのが難しく、監視の困難な仕事をする被雇用者には、一定の仕事の自律性が

存在すると述べている。また、仕事の自律性に対する企業規模の効果も指摘されている。規

模が大きい組織では職務が細分化、標準化されており、被雇用者は決まった職務を果たすだ

けであり、業務内容にかんする自律性がないという(Grand, Szulkin and Tahlin 1994; Kalleberg

and Van Buren 1996)。一方、働き方の自律性に対しても、個人の属性が影響を与えることが

指摘されている。Swanberg et al.(2005)は、労働時間の管理やコントロール、休みの取りや

すさといった柔軟なワークスケジュールへのアクセスが、被雇用者間でどのように異なるか

を検討している。その結果、賃金が低いこと、学歴が低いこと、時間給の仕事であることな

どが、柔軟な働き方への限られたアクセスに結びつくことを明らかにしている。

以上から考えられるのは、個人の属性や、職業や組織の特性といった要因が仕事における

自律性に影響を与え、それが労働時間に影響を与えるというメカニズムである。被雇用者が

「行うタスクの内容やスピードを決定できないこと」(仕事の自律性の低さ)や「働き方を決

定できないこと」(働き方の自律性の低さ)は、どちらも長時間労働をもたらす可能性がある。

職業要因、家族要因、個人要因と仕事における自律性、労働時間の関係は、図 1 のように表

すことができるだろう。

1雇用主(employer)とは、被雇用者を雇う者あるいは組織を意味する。被雇用者の業務内容に対する管理

のあり方は、おもに個々の上司―部下関係にあらわれるが、それは、役職のある者が個人的、恣意的に行う

ものではないと考える。組織において、被雇用者がどれほど仕事における自律性をもつかは、特定の経済的・

社会的状況のなかで行われる雇用主による経営戦略や方針によって決まり、それが被雇用者と管理者との関

係に影響を与えていると考える。

107

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職業要因

労働時間 家族要因

仕事における自律性

・ 仕事の自律性

・ 働き方の自律性

個人要因

図 1 労働時間に影響を与える要因

3 分析の目的

以上の考察より、本稿では以下の三つの問いを探求する。

第一に、いかなる要因が労働時間に影響を与えているのかということである。労働時間に

影響を与える要因として、学歴や年齢、性別などの個人要因、配偶者の就業形態や子どもの

有無などの家族要因、組織や産業、職業の特性などの職業要因を考慮する。

第二に、仕事における自律性は、労働時間に影響を与えているのかということである。仕

事の自律性と働き方の自律性のなさが、長時間労働に結びついているかどうかを検討する。

第三に、仕事における自律性は、個人要因や職業要因、家族要因が労働時間に与える影響

を、どのように媒介しているのかということである。以下では、本稿でもちいるデータと変

数の説明を行う。

4 データと変数

本稿でもちいるデータは、2005 年に全国の成人男女を対象に実施された「2005 年社会階層

と社会移動日本調査(2005 年SSM日本調査)」(第4次配布版)である。分析対象者は、常時

雇用されている一般従業者、派遣社員、契約社員、嘱託とする 2。男性が 1287 ケース、女性

が 662 ケースである。農林漁業従事者は除外した。男性では、常時雇用者が 94.5%、派遣社

員が 1.3%、契約社員、嘱託が 4.2%である。女性では、常時雇用者が 88.3%、派遣社員が 4.9%、

2パート・アルバイトでも、長時間働く者がいないわけではない。パート・アルバイトのうち 16.4%が 40~

44 時間、9.0%が 45 時間以上働いている。しかし、パート・アルバイトの労働時間は、常時雇用者などと比

較すると短く、労働時間の規定構造も異なる。パート・アルバイトの週当たりの平均労働時間は 28.8 時間

であり(男性では 34.7 時間、女性では 27.6 時間)、週 60 時間以上働く者は、パート・アルバイトでは 1.3%に過ぎない。

108

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契約社員、嘱託が 6.8%である。

従属変数である労働時間は、面接票の問 2 をもちいる。調査では、仕事をしている人に対

して、その主な仕事の 1 日平均の労働時間と、週、あるいは月に何日働いているかを尋ねて

いる。この質問項目をもちいて、1 週間当たりの労働時間を計算したものを、従属変数とし

てもちいる。

1 週間当たりの労働時間の目安は、1 日 8 時間×5 日として 40 時間になる。この 40 時間は、

法定労働時間として定められたものであり、ほぼ残業がない労働時間として考えることがで

きる。なお、労働時間が極端に短い、あるいは長いと考えられるケースは除外した。具体的

には、週 20 時間未満、週 101 時間以上の者を除外している。常時雇用者、派遣労働者、契約

労働者、嘱託のうち、分析から除外したケースは 27 ケースであった。実際には派遣、契約、

嘱託などの雇用形態で短時間労働である者や、常時雇用者で極端に長く働いている者も存在

している。しかし、極端な数値は誤記入の可能性がある。また極端なはずれ値は、分析結果

に大きな影響を与える。よって本稿で対象とするのは、週 5 日労働しているとして 1 日 4 時

間以上働いている者で、極端な長時間労働ではない者に限定される。なお、先行研究におい

て、長時間労働かどうかを判断する基準として、1 週間当たり 60 時間以上という基準が取り

あげられてきた。本稿でも、週 60 時間以上を長時間労働の一つの基準として考慮することに

する。

労働時間に影響を与える独立変数としては、年齢、学歴、配偶者の就業形態、未就学子の

有無、企業規模、職業、産業、仕事における自律性を考慮する。学歴は、中卒、高卒、短大・

高専・専修学校卒、大学・大学院卒の 4 カテゴリである。配偶者の就業形態は、配偶者なし、

自営・経営者・家族従業者、常雇・契約・派遣・嘱託、パート・アルバイト、無職を区別す

る。未就学子の有無は、5 歳以下の子どもがある者を 1、ない者を 0 とした。未婚者や子ども

がない者は 0 とした。企業規模は、30 人未満、30~299 人、300~999 人、1000 人以上、官公

庁の 5 カテゴリである。職業は、SSM 職業 8 分類をもちいる。なお管理職は、原則的に規模

30 人以上の企業に勤める課長相当職以上と定義するが、それに該当しない者でも、管理的な

仕事をもっぱら行っている者は管理職に分類している。産業は、以下の 13 個のカテゴリをも

ちいる。建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業、運輸業、卸売・小売・飲食店業、

金融・保険・不動産業、新聞・放送・出版・広告・映画制作業、情報・通信サービス業、医

療・福祉サービス業、教育・研究サービス業、その他のサービス業、公務である。ただし、

該当するサンプル数が少なくなるときには、カテゴリを統合するなどしてもちいている。

仕事の自律性、および働き方の自律性は、面接票の問 5 をもちいる。質問文は、「自分の仕

事の内容やペースを自分で決めることができる」(仕事の自律性)、「個人的な理由で休みをと

ったり早退したりすることができる」(働き方の自律性)であり、どちらも選択肢は、「かな

りあてはまる」、「ある程度あてはまる」、「あまりあてはまらない」、「あてはまらない」であ

109

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る。「かなりあてはまる」、「ある程度あてはまる」を「自律性あり」とし、「あまりあてはま

らない」、「あてはまらない」を「自律性なし」として、二値変数としてもちいる。なお、仕

事の自律性が「ある」と答えている人は、男性では 67.6%、女性では 63.0%である。働き方

の自律性が「ある」と答えている人は、男性では 76.4%、女性では 76.3%である。

分析の手順は以下の通りである。まず、労働時間の分布を確認したあと、各独立変数と労

働時間との関係をクロス表分析で確認する。次に、属性、職業などの変数と仕事における自

律性との関係を、ロジスティック回帰分析で確認する。最後に、これらの結果をふまえて、

労働時間を従属変数とした重回帰分析を行い、個人要因、職業要因、家族要因、仕事におけ

る自律性と労働時間との関係を明らかにする。

5 分析

5.1 労働時間の分布

まず、対象者がどれほど長い時間働いているかを確認しよう。図 2 に、男女別の労働時間

の分布を示した。労働時間は、40 時間未満、40~44 時間、45~49 時間、50~54 時間、55~

59 時間、60 時間以上の 6 つのカテゴリに区別した。なお、労働時間の平均値(標準偏差)は、

男性では 48.83(11.29)時間、女性では 42.73(7.77)時間である。

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

40時間未満 40~44時間 45~49時間 50~54時間 55~59時間 60時間以上

%

男性 女性

図 2 男女別の週労働時間(常雇・派遣・契約・嘱託のみ、男性 N= 1287、女性 N= 662)

図 2 によると、週の労働時間が 40~44 時間である者が最も多く、男性の 34.5%、女性の

50.8%を占めている。次に多いのは 45~49 時間(男性 21.4%、女性 20.3%)である。週に 60

時間以上働いている者は、男性では 19.2%、女性では 4.2%を占めており、特に男性で、長時

110

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間労働者の割合が高いことがわかる。なお、総務省が実施する「労働力調査」によると、2005

年で雇用者(非農林)に占める 60 時間以上労働する者の割合は、男性で 17.1%、女性で 3.6%

である。労働力調査では、企業ではなく、働いている者に直接労働時間を尋ねている。

SSM 調査の結果でも、これと同様の傾向が読み取れることがわかる。

5.2 労働時間と各独立変数とのクロス表分析

では、どのような人が長時間働いているのだろうか。次に、個人要因、家族要因、職業要

因、仕事における自律性と労働時間の間の関係をみてみよう。なお、労働時間の長さは男女

で大きく異なるため、以下では男女別に結果を提示する。表 1(男性)と表 2(女性)に、年

齢、学歴、配偶者の就業形態、未就学子の有無、企業規模、職業、産業、自律性と労働時間

のクロス表分析の結果を示す。なお、χ2 乗検定で、10%水準で有意でなく、かつ労働時間

との明確な関連がみられなかったものは表には示していない。調整済標準化残差が 2 以上の

ものを太字に、-2 以下のものを斜体にしている。

まず、男性の結果を確認しよう(表 1)。年齢と労働時間との関係をみてみると、20 代と

30 代が長い時間働いていることがわかる。週に 60 時間以上働くのは、20 代では 30.8%、30

代では 24.4%、40 代では 21.1%である。年をとるごとに労働時間が短くなっている。先行研

究が示すとおり、20 代、30 代という働き盛りの男性に、長時間労働である者が多いといえよ

う。

次に学歴と労働時間の関係をみてみよう。学歴は、年齢ほど労働時間と明瞭な関係を示さ

ない。ただし、週 60 時間以上に注目してみると、学歴が高くなるほど労働時間が長くなる傾

向がよみとれる。大学・大学院卒では、1 週間に 60 時間以上働いている者の割合は 20.8%で

ある。

家族要因と労働時間との関係では、配偶者の就業形態と労働時間との関係はχ2 乗検定で

10%水準で有意ではなく、明確な関連を示さなかったため掲示していない。一方、未就学子

の有無と労働時間の間には関連がみられた。5 歳以下の子どもがいるほど、長時間労働であ

る。小さい子どもがいることは長時間労働を抑制する効果をもたず、むしろ小さな子どもが

いる男性の働き盛りで、長時間労働が多いといえよう。

企業規模に関しては、官公庁ほど労働時間が短いことがわかる。企業規模が小さいほど週

60 時間以上働く者が多く、週当たりの労働時間がほぼ所定内労働時間の 40~44 時間におさ

まる人は、官公庁であるほど、企業規模が大きいほど多い。

次に職業では、販売職であるほど長時間働いていることが分かる。週に 60 時間以上働く者

は、販売職の 36.9%を占める。専門職や、熟練職、半熟練職もやや労働時間が長い。専門職

では、週労働時間が 50~54 時間である者が 22.2%と、他の職業に比較してやや多い。労働

時間の平均値でみてみると、労働時間が長い順に、販売職 53.88 時間、半熟練職 50.28 時間、

111

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専門職 48.76 時間、熟練職 48.60 時間、管理職 48.20 時間であった。

表 1 個人、家族、職業要因、自律性と労働時間のクロス表分析(男性)

1 週間当たりの労働時間(%)

40 時間

未満 40~

44 時間

45~ 49 時間

50~ 54 時間

55~ 59 時間

60 時間

以上 N

χ2 乗値 (d.f.)

20 代 2.1 28.8 21.2 11.0 6.2 30.8 146 30 代 2.0 30.2 21.0 18.1 4.3 24.4 348 40 代 3.3 33.8 18.7 17.8 5.3 21.1 337 50 代 5.2 40.8 24.8 16.0 2.6 10.8 343

年齢

60 代 19.5 39.8 19.5 8.8 3.5 8.8 113

120.12(20)

**

中卒 6.3 26.3 32.5 15.6 3.8 15.6 160 高卒 6.4 35.2 21.7 13.5 4.0 19.1 576 短大・高専 3.1 32.3 18.9 18.1 7.9 19.7 127

学歴

大学・大学院 2.1 37.7 17.2 18.4 3.8 20.8 424

39.01(15)

**

なし 5.4 34.9 21.7 16.1 4.4 17.5 1047 17.77 **未就 学子 あり 1.7 30.8 20.3 15.6 3.8 27.8 237 (5)

30 人未満 4.5 20.0 34.8 13.8 4.5 22.4 290 30~299 人 4.3 29.9 24.0 15.7 4.0 22.1 375 300~999 人 6.1 36.5 14.7 16.8 5.1 20.8 197 1000 人以上 5.0 39.3 14.1 19.5 5.3 16.8 262

企業 規模

官公庁 3.7 62.0 10.4 12.9 1.8 9.2 163

124.40(20)

**

専門 4.0 35.9 15.2 22.2 4.0 18.7 198 管理 3.1 41.7 14.1 19.3 3.6 18.2 192 事務 5.9 47.7 15.0 12.7 5.5 13.2 220 販売 3.6 17.1 20.7 15.3 6.3 36.9 111 熟練 10.8 24.3 10.8 13.5 5.4 35.1 37 半熟練 4.0 17.0 27.0 13.0 4.0 35.0 100

職業

非熟練 4.9 39.5 27.6 13.5 3.2 11.4 185

178.14(50)

**

建設業 1.2 19.8 38.9 17.3 1.9 21.0 162 製造業 4.8 36.0 21.6 18.9 6.7 12.0 375 電気・ガス・水道 0.0 62.5 18.8 0.0 12.5 6.3 16 運輸業 6.2 12.4 24.7 14.4 4.1 38.1 97 卸売・小売、飲食 1.4 19.9 19.9 18.5 5.5 34.9 146 金融保険・不動産 8.8 29.4 17.6 8.8 5.9 29.4 34 新聞・放送・広告 14.3 21.4 7.1 35.7 0.0 21.4 14 情報・通信 6.9 46.6 15.5 20.7 0.0 10.3 58 医療・福祉 9.1 47.7 15.9 9.1 0.0 18.2 44 教育・研究 0.0 47.3 9.1 21.8 1.8 20.0 55 その他サービス 8.6 38.3 19.4 10.3 4.6 18.9 175

産業

公務 3.6 66.7 10.8 9.0 1.8 8.1 111

237.96 (55)

**

なし 3.8 32.9 22.1 13.7 4.3 23.3 418 仕事 自律性 あり 5.1 35.5 20.9 16.9 4.3 17.4 870

9.61(5)

n.s

なし 3.9 25.0 20.1 17.4 5.6 28.0 304 働き方

自律性 あり 4.9 37.6 21.7 15.4 3.9 16.6 982 29.27

(5)**

注)調整済標準化残差が 2 以上は太字、-2 以下は斜体.**p < .01、*p < .05、+p < .10

112

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産業では、運輸業、小売・卸売・飲食店業の労働時間が長い。週に 60 時間以上働く者は、

運輸業では 38.1%、小売・卸売・飲食店業では 34.9%である。建設業、金融・保険・不動産

業、新聞・放送・出版・広告・映画制作業の労働時間もやや長い。

最後に、仕事における自律性と労働時間との関係をみてみよう。自律性は、労働時間とそ

れほど大きな関連を示さない。しかし週 60 時間以上に注目してみると、仕事や働き方に対し

て自律性がないと答えているほど、長時間労働であることがわかる。

表 2 個人、職業要因と労働時間のクロス表分析(女性)

1 週間当たりの労働時間(%)

40時間

未満 40~

44時間

45~ 49 時間

50~ 54時間

55 時間

以上 N

χ2 乗値 (d.f.)

中卒 10.6 42.6 31.9 6.4 8.5 47 高卒 17.5 53.4 15.9 7.6 5.6 251 短大・高専 8.6 51.2 25.8 9.0 5.5 256

学歴

大学・大学院 11.1 47.2 12.0 17.6 12.0 108

37.24(12)

**

専門 8.2 49.8 21.3 12.6 8.2 207 管理 42.9 0.0 28.6 14.3 14.3 7 事務 11.8 58.4 17.6 6.9 5.3 245 販売 29.1 38.2 12.7 9.1 10.9 55 熟練 7.5 37.7 28.3 17.0 9.4 53 半熟練 5.4 50.0 30.4 10.7 3.6 56

職業

非熟練 28.2 53.8 15.4 0.0 2.6 39

65.43 (24)

**

建設業 17.6 47.1 23.5 5.9 5.9 17 製造業 5.7 57.4 23.0 9.8 4.1 122 電気・ガス・水道 50.0 50.0 0.0 0.0 0.0 4 運輸業 16.7 50.0 25.0 8.3 0.0 12 卸売・小売、飲食 18.8 43.5 20.0 10.6 7.1 85 金融保険・不動産 24.4 51.2 9.8 9.8 4.9 41 新聞・放送・広告 0.0 0.0 80.0 0.0 20.0 5 情報・通信 37.5 50.0 12.5 0.0 0.0 8 医療・福祉 9.9 54.7 23.8 9.3 2.3 172 教育・研究 5.8 46.4 13.0 18.8 15.9 69 その他サービス 17.3 42.3 21.2 6.7 12.5 104

産業

公務 4 78.3 4.3 4.3 8.7 23

89.42 (44)

**

注)調整済標準化残差が 2 以上は太字、-2 以下は斜体.**p < .01、*p < .05、+p < .10

次に女性における分析結果を確認してみよう(表 2)。女性では、週に 60 時間以上働く者

が少数であるため、カテゴリを 40 時間未満、40~44 時間、45~49 時間、50~54 時間、55

時間以上の 5 カテゴリに分けて示した。

女性では、クロス表分析では、年齢と企業規模は労働時間との明確な関連がみられず、χ2

乗検定の結果も 10%水準で統計的に有意ではないため、掲示していない。さらに、配偶者の

113

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就業形態と未就学子の有無も、常時雇用、派遣、契約、嘱託として働いている女性の労働時

間と関連を持っていなかった。むしろ女性が労働供給の調整を行うのは、パートかどうかと

いった雇用形態の選択を通してであるといえる 3。また、女性においては、仕事の自律性と働

き方の自律性は、労働時間と関連をもっていなかった。

女性の労働時間と関連をもっていた変数は、学歴、職業、産業である。学歴に関しては、

大卒・大学院卒であるほど、週 55 時間以上働いている者が多いことがわかる。ただし、平均

値でみると、中卒者の労働時間は 44.7 時間であり、大卒・大学院卒者の 44.2 時間と同程度

である。職業では、熟練職、半熟練職の労働時間が長い。男性とは異なり、販売職の労働時

間はそれほど長くはない。産業では、教育・研究サービス業、その他のサービス業の労働

時間が長い。

5.3 自律性を従属変数としたロジスティック回帰分析

以上より、個人要因、家族要因、職業要因と労働時間の間には、関連があることがわかっ

た。また男性では、仕事や働き方に対する自律性がないほど、長時間労働であることがわか

った。では、自律性はいかなる要因によって影響を受けているのであろうか。属性、職業な

どの変数が労働時間にどれほど影響を与えているのか、その効果をどれほど自律性が媒介し

ているかをみる前に、自律性と各独立変数との関係を、ロジスティック回帰分析により確認

しておこう。

仕事の自律性、働き方の自律性を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果を、表 3

(男性)と表 4(女性)に示す。なお、男女とも、配偶者の就業形態と未就学子の有無は、

二つの自律性に対して 10%水準で統計的に有意な効果をもっていなかった。また次項で確認

するように、労働時間にも有意な効果をもっていなかったため、分析には投入していない。

まず男性の分析結果をみてみよう(表 3)。仕事の自律性に対して 1%水準で統計的に有意

な効果をもつのは、年齢、官公庁(企業規模 30 人未満を基準)、管理職(非熟練を基準)で

あった。5%水準で有意な効果をもつのは、企業規模 30~299 人、300~999 人、専門職、販

売職、運輸業、新聞・放送・広告業であった。10%水準で有意な効果をもつのは事務職であ

った。年齢が高いほど仕事の自律性は高い。企業規模では、従業員数が 30 人未満の企業と比

較して、官公庁や 30~999 人という中規模の企業であるほど仕事の自律性が低い。企業規模

1000 人以上の効果は、10%水準で統計的に有意ではなかったが、その係数の大きさは自律性

が低いことを示している。30 人未満という小規模の企業であるほど、仕事の自律性が高いと

いえるだろう。職業では、非熟練と比較して、管理職、専門職、販売職、事務職であるほど

3 被雇用者全体を対象に分析を行うと、女性では、配偶者の就業形態と労働時間には関連がみられた(χ2乗検定で 1%水準で有意)。配偶者がフルタイムで働いているほど女性の労働時間は短く、未婚であるほど

長い。

114

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仕事の自律性が高い。産業では、製造業と比較して運輸業、新聞・放送・出版・広告・映画

制作業であるほど仕事の自律性が低いことがわかった。

表 3 仕事における自律性を従属変数としたロジスティック回帰分析(男性、N=1287)

仕事の自律性 働き方の自律性 Exp(B) Exp(B) 定数 0.992 2.445 + 年齢 1.017 ** 1.016 * 高卒 0.806 0.845 短大・高専 0.836 0.820 大学・大学院 0.844 0.823 30~299 人 0.699 * 0.759 300~999 人 0.602 * 1.101 1000 人以上 0.812 0.959 官公庁 0.361 ** 0.862 専門 2.190 * 1.201 管理 4.633 ** 1.013 事務 1.688 + 0.857 販売 2.192 * 0.601 熟練 1.424 1.103 半熟練 1.326 1.244 建設業 0.797 1.126 電気・ガス・水道 0.802 1.061 運輸業 0.576 * 0.521 * 卸売・小売・飲食 1.146 0.626 * 金融保険・不動産 1.804 0.324 * 新聞・放送・広告 0.276 * 0.672 情報・通信 0.857 2.061 医療・福祉 0.796 0.852 教育・研究 1.726 0.719 その他サービス 1.017 0.740 公務 1.133 1.482 -2LL 1540.742 1350.071 Cox & Snell R2 乗 0.061 0.043

注)**p < .01、*p < .05、+p < .10.基準カテゴリ:中卒(学歴)、30 人 未満(企業規模)、非熟練(職業)、製造業(産業)

では次に、働き方の自律性を従属変数とした分析の結果をみてみよう。働き方の自律性に

対して 5%水準で統計的に有意な効果をもつ変数は、年齢、運輸業、卸売・小売・飲食店業、

金融・保険・不動産業(製造業を基準)であった。年齢が高いほど働き方の自律性が高い。

製造業と比較して、運輸業、小売・卸売・飲食店業、金融・保険・不動産業であるほど働き

方の自律性が低いことがわかった。

次に女性の結果を確認してみよう(表 4)。なお女性では、産業が電気・ガス・熱供給・水

115

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道業、運輸業、新聞・放送・出版・広告・映画制作業、情報・通信サービス業であるものが

少数である。サンプルサイズが確保され、労働時間に影響を与える産業であることを考慮し

て、卸売・小売・飲食店業、金融・保険・不動産業、医療・福祉サービス業、教育・研究サ

ービス業、その他のサービス業、公務を考慮することにした。

表 4 仕事における自律性を従属変数としたロジスティック回帰分析(女性、N=662)

仕事の自律性 働き方の自律性 Exp(B) Exp(B) 定数 0.392 2.691 年齢 1.024 ** 1.014 高卒 1.620 0.771 短大・高専 1.799 0.586 大学・大学院 1.422 0.703 30~299 人 0.658 + 0.994 300~999 人 0.531 * 0.910 1000 人以上 0.649 1.527 官公庁 0.672 0.841 専門・管理 1.505 1.500 事務 2.023 + 1.964 販売 2.176 0.928 熟練 0.655 0.693 半熟練 0.665 1.237 卸売・小売・飲食 1.481 0.600 金融保険・不動産 1.051 0.783 医療・福祉 0.939 0.495 + 教育・研究 0.976 0.609 その他サービス 1.057 0.776 公務 0.460 1.348 -2LL 825.192 694.042 Cox & Snell R2 乗 0.069 0.046 注)**p < .01、*p < .05、+p < .10.基準カテゴリ:中卒(学歴)、 30 人未満(企業規模)、非熟練(職業)、製造業、電気・ガス・ 水道、運輸業、新聞・放送・広告、情報・通信サービス(産業)

では、分析結果をみてみよう。女性では、属性や職業変数は、仕事、および働き方の自律

性へほとんど影響を与えない。仕事の自律性に対して 1%水準で統計的に有意な効果をもつ

変数は年齢であった。5%水準で有意な効果をもつ変数は企業規模 300~999 人(30 人未満を

基準)、10%水準で有意な効果をもつ変数は、30~299 人と事務職であった。年齢が高いほど

仕事の自律性が高い。規模が 30 人未満の企業と比較して、30~999 人という中規模の企業で

あるほど仕事の自律性は低い。また事務職であるほど仕事の自律性が高い。年齢と企業規模

に関しては、男性と同様の傾向が女性でもみられた。なお働き方の自律性に関しては、モデ

ルの説明力は小さく、医療・福祉サービス業しか、10%水準で統計的に有意な効果をもつ変

116

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数はなかった。

5.4 労働時間を従属変数とした重回帰分析

では、個人の属性や職業などのいかなる要因が労働時間に影響を与えており、その効果は、

仕事の自律性、および働き方の自律性によってどれほど媒介されているのであろうか。労働

時間を従属変数とした重回帰分析を男女別に行った。表 5(男性)と表 6(女性)に結果を示

す。モデル 1 は自律性以外の独立変数を投入したモデル、モデル 2 はモデル 1 に仕事の自律

性を、モデル 3 はモデル 1 に働き方の自律性を、モデル 4 はモデル 1 に仕事の自律性と働き

方の自律性の両方を投入したモデルである。なお、男女とも、配偶者の就業形態と未就学子

の有無はモデル 1~4 に投入しても 10%水準で統計的に有意な効果をもたなかったため、投

入していない。

まず男性の結果を確認しよう(表 5)。モデル 1 の結果から、労働時間に対して 1%水準で

統計的に有意な効果をもつ変数は、年齢、企業規模 1000 人以上(30 人未満を基準)、専門職、

管理職、販売職(非熟練職を基準)、建設業、運輸業、小売・卸売・飲食店業(製造業を基準)

であることがわかる。10%水準で有意な効果をもつ変数は、官公庁、事務職、熟練職、半熟

練職、医療・福祉サービス業であった。年齢が若いほど長時間労働である。企業規模は、30

人未満と比較して、1000 人以上、官公庁であるほど労働時間が短い。非熟練職と比較すると

他の職業では労働時間が長く、特に、専門職、管理職、販売職の労働時間が長い。産業では、

製造業と比較して、建設業、運輸業、小売・卸売・飲食店業ほど長時間労働であることがわ

かる 4。

では、このような傾向は仕事の自律性、および働き方の自律性を投入するとどのように変

化するのであろうか。モデル 2~4 の結果をみてみよう。

モデル 2 によると、仕事の自律性の労働時間への効果は 1%水準で統計的に有意であり、

仕事の自律性が高いほど、労働時間が短いことがわかる。仕事の自律性がないと答えている

人は、あると答えた人に比べて、週の労働時間が 1.8 時間ほど長い。

では、他の変数はどう変化したのであろうか。モデル 1 と比較して、各変数の効果の

大きさにはあまり変化はない。ただし、企業規模や職業の労働時間への効果が若干増加

した傾向がよみとれる。企業規模 30 人未満と比較した 30~299 人、300~999 人の効果

が 10%水準で有意となり、企業規模 30 人未満とその他の企業規模との労働時間の違いが

より明確になった。また、専門職の非標準偏回帰係数は、4.914 から 5.226 に、管理職で

4以上の結果は、クロス表分析の結果でみられた傾向とほぼ同じであるが、職業の効果だけが異なっている。

クロス表分析では、熟練職や半熟練職のほうが、専門職や管理職よりも長時間働いている傾向がよみとれた。

重回帰分析で、熟練職や半熟練職が労働時間に対する強い効果をもたないのは、熟練職、半熟練職ほど運輸

業や建設業が多く、これら職業の効果は、産業の効果としてあらわれるためである。職業のみを独立変数と

したモデルと、職業と産業を独立変数としたモデルを比較すると、産業を投入することによって熟練職と半

熟練職の労働時間への効果が低下する。

117

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は 5.115 から 5.650 にやや増加した。また、年齢と運輸業の労働時間に与える効果がやや

減少した。これは、年齢が若いほど、運輸業であるほど仕事の自律性が低く、長時間労

働であるということをあらわしている。

表 5 労働時間を従属変数とした重回帰分析(男性、N=1287)

モデル 1 モデル 2 モデル 3 モデル 4 定数 55.176 ** 56.082 ** 57.298 ** 57.782 ** 年齢 -0.201 ** -0.195 ** -0.193 ** -0.189 ** 高卒 -0.826 -0.912 -0.901 -0.958 短大・高専 -1.516 -1.587 -1.610 -1.654 大学・大学院 -0.542 -0.611 -0.631 -0.674 30~299 人 -1.338 -1.474 + -1.489 + -1.577 + 300~999 人 -1.606 -1.794 + -1.563 -1.706 1000 人以上 -3.186 ** -3.264 ** -3.212 ** -3.268 ** 官公庁 -3.531 + -3.906 * -3.592 + -3.866 * 専門 4.914 ** 5.226 ** 5.006 ** 5.231 ** 管理 5.115 ** 5.650 ** 5.123 ** 5.521 ** 事務 3.097 + 3.305 * 3.022 + 3.184 * 販売 5.603 ** 5.915 ** 5.276 ** 5.538 ** 熟練 2.390 + 2.537 + 2.440 + 2.546 + 半熟練 2.756 + 2.874 + 2.869 + 2.946 + 建設業 3.205 ** 3.122 ** 3.256 ** 3.189 ** 電気・ガス -1.788 -1.871 -1.767 -1.831 運輸業 9.886 ** 9.668 ** 9.534 ** 9.403 ** 卸売・小売・飲食 4.509 ** 4.556 ** 4.229 ** 4.289 ** 金融保険・不動産 1.845 2.005 1.119 1.304 新聞・放送・広告 0.899 0.399 0.686 0.333 情報・通信 -2.410 -2.471 -2.118 -2.189 医療・福祉 -3.057 + -3.141 + -3.135 + -3.191 + 教育・研究 2.625 2.812 2.445 2.601 その他サービス 0.135 0.142 -0.025 -0.005 公務 -2.076 -2.035 -1.909 -1.893 仕事の自律性 -1.788 ** -1.331 * 働き方の自律性 -2.987 ** -2.719 ** 調整済 R2 乗 0.133 ** 0.138 ** 0.145 ** 0.147 **

注)**p < .01、*p < .05、+p < .10.数値は非標準偏回帰係数 基準カテゴリ:中卒(学歴)、30 人未満(企業規模)、非熟練(職業)、製造業(産業)

次に、モデル 1 に働き方の自律性を投入したモデル 3 の結果をみてみよう。働き方の

自律性が労働時間に与える効果は、1%水準で統計的に有意であった。その効果の大きさ

は、モデル 2 における仕事の自律性の効果よりも大きい。働き方の自律性がないと答え

ている人は、あると答えている人と比較して、週の労働時間が 3 時間ほど長い。なお、

モデル 1 と比較して、年齢、運輸業、卸売・小売・飲食店業の労働時間への効果は若干

118

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低下した。前項でみたように、年齢が若いほど、製造業と比較して、運輸業や卸売・小

売・飲食店業であるほど、働き方の自律性が低かった。よって、労働時間を長期化させ

る年齢や産業の効果の一部は、働き方の自律性の労働時間への効果によって媒介されて

いたと考えることができる。

最後にモデル 4 によると、仕事の自律性、働き方の自律性は、それぞれ労働時間を短

くさせる効果をもっていることがわかった。

では次に、女性の分析結果を確認しよう(表 6)。女性では、男性に比較してモデルの説明

力が低い。さらに、女性では、仕事の自律性と働き方の自律性は労働時間に対して統計的に

有意な効果をもっていない。仕事の自律性と働き方の自律性を、それぞれ別々にモデル 1 に

投入しても、10%水準で統計的に有意な効果をもたなかったので、モデル 2 とモデル 3 は表

6 には示していない。

表 6 労働時間を従属変数とした重回帰分析(女性、N=662)

モデル 1 モデル 4 定数 43.826 ** 44.276 ** 年齢 -0.055 * -0.053 + 高卒 -3.363 ** -3.374 ** 短大・高専 -2.466 + -2.502 + 大学・大学院 -1.991 -2.011 30~299 人 -1.359 + -1.367 + 300~999 人 -1.803 + -1.825 + 1000 人以上 -1.149 -1.118 官公庁 -1.890 -1.917 専門・管理 4.674 ** 4.725 ** 事務 3.908 ** 3.992 ** 販売 4.865 ** 4.876 ** 熟練 7.567 ** 7.515 ** 半熟練 6.117 ** 6.132 ** 卸売・小売・飲食 -0.023 -0.063 金融保険・不動産 -1.274 -1.291 医療・福祉 0.397 0.324 教育・研究 2.972 + 2.927 + その他サービス 1.423 1.403 公務 1.474 1.485 仕事の自律性 -0.102 働き方の自律性 -0.597 調整済 R2 乗 0.055 ** 0.053 **

注)**p < .01、*p < .05、+p < .10.数値は非標準偏回帰係数 基準カテゴリ:中卒(学歴)、30 人未満(企業規模)、非熟練(職業)、製造業、 電気・ガス・水道、運輸業、新聞・放送・広告、情報・通信サービス(産業)

女性では、労働時間に対して 1%水準で統計的に有意な効果をもつのは、高卒(中卒を基

119

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準)、専門・管理職、事務職、販売職、熟練職、半熟練職(非熟練職を基準)である。5%水

準で有意な効果をもつのは年齢、10%水準では短大・高専・専修学校卒、企業規模 30~299

人、300~999 人(30 人未満を基準)、教育・研究サービス業である。男性と同様に、年齢が

若いほど長時間働いていることがわかる。中卒と比較して、高卒、短大・高専・専修学校卒

であるほど労働時間が短い。規模が 30 人未満である企業と比較して、30~999 人という中規

模であるほど労働時間が短い。効果の大きさは統計的に有意ではないが、企業規模 1000 人以

上と官公庁の偏回帰係数がマイナスである。男性ほど効果は大きくはないが、30 人未満の企

業規模であるほど長時間働いているといえる。職業では、非熟練職以外の職業であるほど労

働時間が長い。特に、熟練職と半熟練職の労働時間が長い。産業の効果は男性ほど大きいも

のではないが、教育・研究サービス業であるほど長時間労働であることがわかった。

6 考察

6.1 「強いられたもの」としての長時間労働

本稿の目的は、被雇用者の仕事にかんする自律性のなさが長時間労働をもたらしているか

どうかを検証することによって、長時間労働が「強いられたもの」であるのか、あるいは、

仕事内容やペース、働き方に対する自律性を一定程度もっている者が、みずから「進んで行

っているもの」であるのかを明らかにすることであった。仕事の自律性と働き方の自律性と

いう、仕事における二つの自律性に加えて、個人要因、家族要因、職業要因を考慮し、労働

時間の規定構造を探求した。本稿での分析結果は、以下の三点にまとめることができる。

第一に、労働時間が長いのは、男性では若年者、中小企業勤務、専門職、管理職、販売職、

建設業、運輸業、小売・卸売・飲食店業で働く者であることがわかった。女性では、若年者、

中卒者、中小企業勤務、熟練職、半熟練職ほど労働時間が長い。男性では、職業と産業の労

働時間への効果が大きく、特に販売職や、運輸業、卸売・小売・飲食店業で働く者の労働時

間が長い。販売職、運輸業、卸売・小売・飲食店業である者のうち、3~4 割の者が、週に 60

時間以上もの長時間労働をしていることがわかった。

第二に、仕事における自律性と労働時間との関係を検証した結果、男性においてのみ、仕

事の自律性や働き方の自律性がないほど、労働時間が長いことが分かった。女性では、仕事

における自律性と労働時間との関連はみられなかった。この分析結果は、長時間労働に対す

る評価としては、仕事内容や働き方に対する自律性をもつ者がみずから「進んで長く働いて

いる」のではなく、仕事や働き方に対する自律性を失っている者が、「長く働かざるをえない」

という認識のほうがより妥当であることを示唆している。男性のみでそのような傾向がみら

れたということは、男性ほど、職場における職務要請や労働負荷の増大に直面していること

を反映していると考えることができる。

120

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第三に、男性において、仕事の自律性、働き方の自律性は、企業規模、職業、産業による

労働時間への効果の一部を媒介していた。ただし、自律性の媒介効果には二つの意味がある

ことがわかった。第一に、仕事における自律性を投入すると、企業規模と職業の労働時間へ

の直接効果が増大した。これはどういうことを意味するのであろうか。企業規模が大きくな

く、管理職、専門職、販売職であるほど長く働く傾向にある。しかし一方では、企業規模が

大きくなく、管理職、専門職、販売職であるほど仕事の自律性が高く、仕事の自律性が高い

ほど、労働時間は短い。よって、仕事の自律性を分析に投入すると、管理職、専門職、販売

職の労働時間への直接的な影響力は増大したのである。これは、組織や職業の特性により長

時間労働を要求されている者のなかで、仕事における自律性がない者は、さらに長時間労働

にさらされているということを意味している。つまり、企業規模や職業の労働時間を長期化

させる効果は、仕事の自律性をもつことにより相殺されるのである。

職業要因と労働時間との関連を自律性が媒介する第二の効果として、仕事の自律性や働き

方の自律性が、年齢や産業による労働時間の効果を媒介していたことがわかった。年齢が若

いほど仕事の自律性や働き方の自律性が低く、それが長時間労働に結びついていた。運輸業、

卸売・小売・飲食店業であるほど働き方の自律性が低く、そして働き方の自律性が低いほど、

長時間労働であることがわかった。以上のような自律性の媒介効果は、図 3 のようにまとめ

ることができる。

専門、管理、販売

長時間労働

図 3 年齢、職業、産業、企業規模、自律性、労働時間の関係図(男性)

6.2 問題点と今後の課題

最後に、本稿の問題点と今後の課題について述べよう。主要な問題点としては、以下の四

- 卸売・小売・ 飲食

高い仕事の自律性が

店、運輸

働き方の自律性

- 低い働き方の自律性が

長時間労働と結びつく

長時間労働を抑制

若年者 -

+ 仕事の自律性

企業規模が小さい +

121

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点をあげることができる。

第一に、本稿でもちいた仕事における自律性の、尺度としての限定性の問題である。特に、

働き方の自律性は、休みの取りやすさということに加えて、労働時間管理のあり方という点

からも捉えられることが多い 5。労働政策研究・研修機構(2007)は、働き方の自律性を構成

する尺度として就業時刻自律性(仕事の始業・終業の時刻に対する自律性)を取りあげ、就

業時刻を自分で決めている人のほうが、そうでない人よりも労働時間が長いことを明らかに

している。小倉(2007b); 小倉・藤本(2007)は、管理・監督者や、時間管理がないか、あ

るいは裁量労働制・みなし労働などである「時間管理の緩やかな労働者」の労働時間が長い

ことを明らかにしている。つまり、働き方の自律性を、労働時間管理に対する自律性という

側面から捉えれば、働き方の自律性と労働時間の関連性に対する結果は、反対のものになる

可能性がある。

このことには、尺度の問題だけでなく、仕事や働き方に対する自律性をどのようなものと

して捉えるかという問題が関係してくる。自律性が何をあらわしているのかを考慮すること

なしに、自律性と労働時間との関係を解釈することは危険である。職務要請の増大や労働強

化を背景に長時間労働が生じているならば、たとえ労働時間管理に対する自律性が高いほど

長時間働いているということが明らかになったとしても、労働者がみずから進んで長く働い

ているとはいえないからである 6。雇用主や管理者と被雇用者との力関係や、それによって生

じる職場の特性をとらえるためには、実際に権利があるだけでなく、それを行使することが

できるかを捉える必要がある。そのためにも、仕事における自律性を捉えるより包括的な指

標が必要となるだろう。

第二に、属性や職業の労働時間への効果を媒介する自律性の役割は小さく、自律性が何に

よって決まっているかが明確ではないという点である。特に働き方の自律性は、属性や職業

変数によってほとんど説明されない。このことは、自律性は組織や雇用主、仕事の特性によ

って決まるだけでなく、職場の偶然的な要因や雰囲気によっても決まっていることを示唆し

ている。もしそうであれば、どのようにして被雇用者の自律性を高め、労働時間を抑制すれ

ばよいかが明確ではなくなる。あるいは、運輸業や卸売・小売・飲食店業で働き方の自律性

が低いということから、働き方の自律性が、単に産業における業務量の多さをあらわしてい

る可能性が考えられる。もしそうであるならば、先行研究に対して、仕事における自律性を

投入した分析の意義が薄まるだろう。 5 Swanberg et al.(2005)は、標準的に定められている仕事の開始と終了の時間を訂正できるかどうか、フ

レックスタイム制かどうか、個人または家族のために休みをとれるか、仕事の時間に対する統制力をもつか

どうかを測定した 4 つの尺度から、柔軟なワークスケジュールであるかどうかを把握している。 6本稿でもちいた「休みを取ることができるか」という働き方の自律性の尺度には、「休みを取る制度上の権

利がある」ということと、職場での雰囲気や企業の暗黙の方針に左右されて決定される「実際に休みを取れ

る可能性がある」ということの両方が現れていると考えることができる。もちろん、誰でも、個人的な理由

で休みをとる制度上の権利をもっている。しかし実態としては、管理者の志向や職場の雰囲気によって、「休

みを取ることができない」と感じている者が多くいるだろう。

122

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第三の問題点として、本稿では、労働時間の規定要因として考慮されてきた、労働組合の

有無や業務量の多さ、労働時間管理の方法などを分析に投入することができなかったことが

あげられる。これらの変数と仕事における自律性の関係を明らかにしなければならない。

第四に、短時間労働者であるパートの存在をどのように考慮するかという問題がある。パ

ートの労働時間は短く、また労働時間の規定要因が異なると考えられるため、本稿では分析

対象としなかった。しかし、常時雇用者の長時間労働とパートの短時間労働は関連している。

たとえば、常時雇用者が長時間労働である小売業、飲食店などの産業では、パートが被雇用

者の多くを占めている。職場における他者に短時間労働者が多いということが、常時雇用者

の長時間労働を招いていると考えることができる。

以上のように、さまざまな問題や課題があるにせよ、本稿の分析結果は、長時間労働は仕

事や働き方を決定できる人が「自発的」に行っているのではないということを示唆している。

どのような方法をとるにせよ、被雇用者の仕事における自律性を高めることが,長時間労働

を抑制するひとつの方法となる可能性を示すことができたといえるだろう。

【文献】

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村尾祐美子. 2003. 『労働市場とジェンダー―雇用労働における男女不公平の解消に向けて―』東洋館

出版社.

123

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究報告書 No.22. 労働政策研究・研修機構. 2007. 『働き方の多様化とセーフティネット』労働政策研究報告書 No.75. Schor, Juliet B. 1991. The Overworked American: The Unexpected Decline of Leisure, New York: Basic Books.

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中央大学出版部. 山崎喜比古. 1992. 「ホワイトカラーにみる就労・ストレスの増大とライフスタイル」『日本労働研究

雑誌』389: 2-19.

Working Longer Hours and Autonomy on the Job

Forced to work longer hours

Namie Nagamatsu (Osaka University)

This paper investigated the low level of autonomy on the job resulted in working longer hours. We

conducted multiple regression analysis to estimate the effect of personal attribute, occupation, industry, firm size, and autonomy on the job on working hours in a week, and got three findings.

At first, we found that for male worker, workers working longer hours are those who are young, professionals, managers, sales workers, or work in smaller firm or industry of construction transportation, retail, wholesale, or restaurant. For female workers, we found that workers working longer hours are those who are young, or low educated, skilled or semi-skilled workers, or work in smaller firm. Secondly, we found that male workers who do not have high autonomy on the job were working longer hours.

124

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Thirdly, we found for male workers, autonomy on the job mediated the relationship between firm size, occupation, or industry and working hours.

Keywords and phrases: job autonomy, autonomy on the work schedule, increase of working hours

125

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職場における負担格差感・承認感の規定要因

―「報われない」のは誰か―

筒井美紀

(京都女子大学)

【要旨】

本章は、職場における負担格差感・承認感の規定要因について解明する。この 20 年間の経済・

雇用の大きな変化は、納得して・自負を持って働くことを困難にしている。ここには「希望格差」

(山田 2004)状況があるのではないか。納得や自負を左右するものは、ひとつには職場における

仕事の負担・分担の公平性、いまひとつには働きぶりについての職場での承認である。これらを

得ている/いないのは誰か。本章は、経営学や人的資源管理論も扱うこの課題を、社会学的に引

き受ける試みである。別言すれば、Tomaskovic-Devey(1993)や村尾(2003)が重要性を主張す

る労働過程論的な「中間財的社会的資源」に、職場における負担と承認を加えるのである。 被雇用者を対象に、負担格差感の有無×承認感の有無=4 タイプを従属変数、個人諸属性や職

業、仕事の諸文脈などを独立変数とした多項ロジット分析を試みる。「負担 YES 承認 YES」より

も「負担 YES 承認 NO」になりやすいのは誰かに焦点化して知見を整理すると、次の 4 点にまと

められる。①「就職氷河期」以降に初職に就いた者。②女性被雇用者において、30-99 人、100-299人といった小規模企業で働く者。③女性被雇用者において、非正社員割合が 6-10 割の職場で働く

者。④女性被雇用者において、無配偶の正社員。 理論的含意は、知見③から得られる。すなわち、方法論的個人主義的リベラルな研究は、「個

人の主体性を無視・否定した研究スタンスはとっていない」という姿勢の提示にとどまっており、

社会的な次元の存在を等閑視している。だがデュルケムが力説したように、構造の人口的・物理

的側面は重要な観点である。政策的含意は、知見②④から得られる。とりわけ小企業が女性に関

する処遇制度の整備に向かうよう、税制上の優遇や補助金などによってプッシュすることだ。人

手不足ゆえ、企業が労働者の性別にこだわっている場合ではないときこそ、政策的な好機である。

また、余裕の無い人員配置の中で展開される「ファミリー・フレンドリー」政策や「ワーク・ラ

イフ・バランス」政策は、「シングル・アンフレンドリー」になりかねない。政策はこの点に留

意して、企業を指導すべきである。

キーワード:負担格差、承認、構造の人口的・物理的側面、方法論的個人主義的リベラルな研究

1 問題の所在と先行研究の検討

本章は、職場における負担格差感・承認感の規定要因について解明する。この 20 年間、経

済・雇用の領域においては、様々なことが生じてきた。プラザ合意(1985 年)後の円高不況

と前後して、雇用機会均等法と労働者派遣法が制定・施行された。その後、バブル経済が到

来し、1991 年には崩壊した。そして、平成不況とグローバル競争。「就職氷河期」と前後し

127

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て日経連の『新時代の「日本的経営」』が出され(1995 年)、新自由主義的な雇用管理は「お

墨付き」を与えられた 1。新世紀に入ると、非正社員が急増した。正社員が非正社員に置き換

えられ、被雇用者数が増加した。また、労働者派遣法をはじめとする労働諸法が「規制緩和」

される中で、「労働ダンピング」が横行している(中野 2006)。非正規雇用が商取引化し(=

労働法に基づく権利を保障する必要が無い)、正規雇用と競合関係に立ったときから、後者に

おいても「値崩れ」が始まる(同書:7)。「切磋琢磨」ではないこうした競合関係は、不安・

不信の温床であろう。

こうした状況の中では、納得して、あるいは自負を持って働くという、労働者のアイデン

ティティにとって大切なことが、難しくなっていると考えられる。労働者が、納得や自負の

「持てる者」と「持てざる者」に分かれているとしたら、これはひとつの「希望格差」(山田

2004)状況だと言える。改められて然るべき現実ではなかろうか。

さて、納得や自負を左右するものとして、次の 2 つが考えられる。ひとつは、職場におけ

る仕事の負担・分担が公平か否かである。例えば、筆者がインタビューした精密機械部品製

造業の L 社の社長が力説するように、一般に労働者は、仕事の負担・分担に敏感だ。「1 日の

仕事に対しての負荷が多少のばらつきがあっても、ほとんど同じになるようなそういうシス

テムをやっぱり構築することが一番大切。あいつのところは楽だとか、こっちは大変だとか、

そういう環境にすると絶対駄目です」(筒井 2006:69-70)。

いまひとつは、働きぶりについての職場での承認である。「人間にとって名誉や承認はきわ

めて大切であり…それらの欲求がたいへんな力で人間を動かしてい」る(太田 2007:6)。「社

会的格差の拡大にしても、根底にある名誉や尊敬の格差にメスを入れず、単に経済的格差だ

けを論じても、ほんとうの解決にはつながらない」(同書:30-40)と言えるほどに、働きぶ

りが認められているかどうかという職場での承認は、労働者の納得や自負にとって重要なフ

ァクターである 2。

それでは、誰が――どのような属性を持った人が/どのような状況にある人が――職場に

おける負担格差感や承認感を抱いていたり抱いていなかったりするのだろうか。本章は、経

営学や人的資源管理論において論じられることの多い、職場における負担格差感や承認感と

いう課題を、社会学的に引き受ける試みである。

1 元日経連賃金部長の小柳正二郎氏は、氏が中心的に関わった『新時代の「日本的経営」』の発行前夜につ

いて、次のように述べている。「報告書を出す前のアンケートでは、[会員]企業の意見は長期蓄積能力活用

型の比率は 8 割ぐらい、高度専門能力活用型が 7 パーセントぐらいで、雇用柔軟型が大体 11,2 パーセント

ぐらいと」。「日本は横並び意識が強く、雇用が流動化しだすとある程度進む…正直なところ、こんな非正社

員が多くなるとは思っていませんでした」(「日本の教育システム」研究ループ「人材形成の失敗」サブグル

ープ 2007:145)。 2 太田(2007)は、ある大企業で数年前に若手社員が大量離職したエピソードを挙げている。この会社は、

業績の好調さに比して給料はさほど高くないため、他社から高給で引き抜かれていたと当初は考えていたが、

離職者に理由を尋ねたところ、上司や先輩が仕事ぶりを認めてくれなかったことが最大の理由であった(同

書:44)。

128

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経営学や人的資源管理論では、労働者が「持ち運んで来る」性別や学歴、婚姻状態などの

個人的諸属性や、本人が「自己選択した」従業上の地位、市場における各企業の地位や威信、

さらには景気循環や競争のグローバル化などは、与件として処理されるある種の「外部」と

なっている。言い換えれば、現状を所与として経営内でできることは何か(職場における負

担格差感をなくするにはどうすればよいか、多くの労働者が承認感を抱くためにはどうすれ

ばよいか)と問う発想である。

その枠組みにおいては、社会政策の理念やその具体的内容は、近しいものとして論じられ

にくい。例えば、「ロスト・ジェネレーション」の不安定雇用については、経営学や人的資源

管理論であれば次のような理屈を立てる。すなわち、「就職氷河期後の極端な採用手控えとい

う企業行動が原因であったとしても、不況期の採用抑制という経済合理性に従っただけであ

り、彼らの不安定雇用について責任を果たすのなら、それは政府の役割である」と。

しかしだからと言って、職場で生起する何らかの課題・問題が、経営学や人的資源管理論

の「専決事項」であるということには必ずしもならない。本章が課題とする、職場における

負担格差感や承認感にしてもそうである。なぜなら繰り返せば、これらは労働者の納得や自

負に密接に関係しており、納得や自負の「希望格差」があるとすれば、それは社会的に望ま

しくないからであり、だとすれば、以下の分析で得られるであろう知見から、社会政策の理

念やその具体的内容について、含意や示唆が引き出されてよいからである。

ところで言うまでもなく、階層・階級研究は、社会的な望ましさ――社会的公平性――と

いう問題関心を持ち続けてきた。社会的諸資源の分布と配分において、階層・階級や性別、

学歴などによって、不平等や不公平が、なぜ・どのように存在しているのか、研究を蓄積し

てきたのである。労働報酬である社会的資源として、その規定要因が分析されてきたのは、

主として賃金、役職地位や職業 occupation であった。

こうした研究動向に対して村尾(2003)は、「中間財的社会的資源」、とりわけ労働市場過

程で配分されるそれ、を対象とすることの重要性を主張した。「『中間財』とは、他の財の生

産過程に原材料として投入される財のことを指す言葉」であり、「具体的には、仕事に対する

統制力、長期安定雇用、幹部候補生のポスト、より上の職位に就く可能性を与えるような教

育や訓練、それによって獲得される技能、「内的報酬」などが考えられる」(同書:23)。ここ

に挙げられたもののうち、同書で分析の対象とされているのは、仕事に対する統制力の一部

=「仕事の場における事柄決定力」である(第 4 章、第 5 章)。

因みに、村尾が依拠するTomaskovic-Deveyは、「仕事の望ましさは、労働者によって、創造

性、自律性、権能、意思決定権限、昇進機会、の観点から、しばしば表明されている」

(Tomaskovic-Devey 1993:91)と述べている。仕事の場における事柄決定力は、これらの項

目のうち「自律性」「意志マ マ

決定権限」を含み、「監督的権限」を加えた概念である(村尾 2003:

99)。

129

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本章は、Tomaskovic-Devey が指摘する仕事の性質の重要性や、村尾が主張する仕事の場に

おける事柄決定力の重要性に首肯する。これに加えたいのは次のことである。すなわち、公

平に配分されるべき「中間財的社会的資源」は、上記のものに加えて、職場における負担と

承認である、と。

以下の分析では、負担格差感の有無と承認感の有無をクロスさせ、「負担 NO 承認 NO」「負

担 NO 承認 YES」「負担 YES 承認 NO」「負担 YES 承認 YES」という 4 つのタイプを作る。

被雇用者を対象に、従属変数をこれら 4 タイプ、独立変数を個人諸属性や職業、労働の諸文

脈などとした多項ロジット分析を試みる。

2 データと記述統計による概観

2.1 データ

用いるのは、2005 年SSM日本調査のデータ(version 14.2)である。負担格差感と承認感に

ついては、留置調査票Bの問 18 が問うている。質問文はそれぞれ、「他の人とくらべて自分

の仕事の量が多すぎる」「職場では自分の働きぶりが認められている」である。回答は、「そ

う思う」「ややそう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」「わからない」となってい

る。「そう思う」「ややそう思う」を「思う(YES)」、「ややそう思う」「あまりそう思わない」

を「思わない(NO)」にリコードし(「わからない」はシステム欠損値)、2×2=負担格差感・

承認感の 4 タイプを作成する。被雇用者を対象にこの作業を行うと、表 1 のような分布とな

る 3。①「負担NO承認NO」14.4%、②「負担NO承認YES」44.9%、③「負担YES承認NO」7.4%、

④「負担YES承認YES」33.2%、である。

表1 「職場では自分の働きぶりが認められている」 と「他の人とくらべて自分の仕事の量が多すぎる」のクロス表(被雇用者)

[全体%]  他の人とくらべて自分 合計

  の仕事の量が多すぎる思わない 思う

職場では自分の 思わない ①   194 ③   100 294働きぶりが 14.40% 7.40% 21.90%

認められている 思う ②   604 ④   446 105044.90% 33.20% 78.10%

合計 798 546 134459.40% 40.60% 100.00%

2.2 負担格差感・承認感の 4 タイプについての概観

続いては、これら 4 タイプについて、記述統計によって大まかに見ておこう。以下では、

性別、配偶者の有無、従業上の地位、職業、初職を得た時代とのクロス表を確認しておく。

3 「他の人とくらべて自分の仕事の量が多すぎる」and/or「職場では自分の働きぶりが認められている」が

DK, NA だったものは 220 である。

130

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表 2 は、性別とのクロス表である。ここからは、男女ともに、「負担 NO 承認 YES」が最

も多く、だが女性の方が 11 パーセント・ポイント大きいことがわかる。採用区分や雇用管理

コースがジェンダー化されていることを反映しているのだろう。また、男性の方が「負担 YES

承認 YES」と「負担 YES 承認 NO」で、女性より高い割合を示している。

表2 負格担差感・承認感の4タイプ と性別 のクロス表(被雇用者)[列%]

性   別 合計男性 女性

負担NO承認NO 99 95 19414.30% 14.60% 14.40%

負格担差感 負担NO承認YES 274 330 604・承認感の 39.50% 50.70% 44.90%4タイプ 負担YES承認NO 67 33 100

9.70% 5.10% 7.40%負担YES承認YES 253 193 446

36.50% 29.60% 33.20%合計 693 651 1344

100.00% 100.00% 100.00%

有意確率=0.000

表 3 は、学歴とのクロス表である。「負担 YES 承認 YES」について大卒・院卒が他を大き

く上回ることや、「負担 NO 承認 YES」について中卒、短大・高専卒の割合が比較的大きい

ことが確認される。ただし、カイ 2 乗検定は有意ではない。

表3 負格担差感・承認感の4タイプ と 学歴 のクロス表(被雇用者)[列%]

学歴 合計中卒 高卒 専門卒 短大・高専卒 大卒・院卒

負担NO承認NO 15 83 31 15 4411.70% 14.20% 17.50% 13.50% 14.10% 14.30%

負格担差感 負担NO承認YES 68 263 82 56 121 590・承認感の 53.10% 44.90% 46.30% 50.50% 38.90% 44.90%4タイプ 負担YES承認NO 8 48 13 10 19 98

6.30% 8.20% 7.30% 9.00% 6.10% 7.50%負担YES承認YES 37 192 51 30 127 437

28.90% 32.80% 28.80% 27.00% 40.80% 33.30%合計 128 586 177 111 311 1313

100.00% 100.00% 100.00% 100.00% 100.00% 100.00%

有意確率=0.133

188

表 4 は、配偶者の有無*従業上の地位とのクロス表である 4。いずれのカテゴリにおいても

「負担NO承認YES」がマジョリティであり、その中で「有配偶・非正規」が 58.4%と最大で

ある。ここには、主婦パートや、再雇用制度による定年延長被雇用者の多くが含まれている

だろう。他にも確認されることは、「無配偶・非正規」の「負担NO承認NO」が 21.7%と相対

4 配偶者の有無とのクロス表、従業上の地位とのクロス表と別々にするよりも、このカテゴリを使う方がよ

り捉えやすいと判断した。

131

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的に大きいこと、「無配偶・正規」の「負担YES承認NO」が 10.5%と相対的に大きいこと、

である。

  表4 負格担差感・承認感の4タイプ と 配偶者*従業上地位4タイプ のクロス表(被雇用者)[列%]

  配偶者*従業上地位4タイプ 合計無配偶・非正規 有配偶・非正規 無配偶・正規 有配偶・正規

負担NO承認NO 26 48 43 7721.70% 14.10% 16.20% 12.50% 14.40%

負格担差感 負担NO承認YES 58 199 97 250 604・承認感の 48.30% 58.40% 36.50% 40.50% 44.90%4タイプ 負担YES承認NO 8 14 28 50 100

6.70% 4.10% 10.50% 8.10% 7.40%負担YES承認YES 28 80 98 240 446

23.30% 23.50% 36.80% 38.90% 33.20%合計 120 341 266 617 1344

100.00% 100.00% 100.00% 100.00% 100.00%

有意確率=0.000

194

続く表 5 は、職業とのクロスである。ここからわかることは 4 点ある。第 1 に、「負担 NO

承認 NO」については、事務的職業や販売的職業、半熟練的職業が、それぞれ 18.0%、17.3%、

15.9%と、残りの職業よりも高くなっている。第 2 に、「負担 NO 承認 YES」については、非

熟練的職業・単純労働者が 57.7%と、他を大きく上回っている。第 3 に、「負担 YES 承認 NO」

については、熟練的職業と半熟練的職業が他より高い割合を示している。第 4 に、「負担 YES

承認 YES」については、半熟練的職業と非熟練的職業・単純労働者が他より低い割合を示し

ている。

   表5 負格担差感・承認感の4タイプ と 職業のクロス表

[列%] 職   業 合計

専門・管理的 事務的職業 販売的 熟練的 半熟練的 非熟練的職業職業 職業 職業 職業 ・単純労働者

負担NO承認NO 32 59 27 23 33 13 18710.10% 18.00% 17.30% 12.50% 15.90% 12.50% 14.50%

負格担差感 負担NO承認YES 142 139 62 79 92 60 574・承認感の 44.90% 42.50% 39.70% 42.90% 44.40% 57.70% 44.40%4タイプ 負担YES承認NO 20 22 10 19 23 4 98

6.30% 6.70% 6.40% 10.30% 11.10% 3.80% 7.60%負担YES承認YES 122 107 57 63 59 27 435

38.60% 32.70% 36.50% 34.20% 28.50% 26.00% 33.60%合計 316 327 156 184 207 104 1294

100.00% 100.00% 100.00% 100.00% 100.00% 100.00% 100.00%

有意確率=0.030注)「農林的職業」は僅少なので欠損値とした。

最後に表 6 は、初職に就いた時代とのクロス表である。注目すべきことは 2 点ある。第 1

に、「負担 NO 承認 NO」については、「就職氷河期後」が 21.9%と、「均等法後氷河期前」13.5%

と「均等法以前」12.1%を、8~10 パーセント・ポイント上回っている。第 2 に、「負担 YES

承認 YES」については、「均等法後氷河期前」が 41.3%と、「就職氷河期後」29.9%と「均等

132

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法以前」31.7%を、約 10 パーセント・ポイント上回っている。これら 2 つは、「雇用のポー

トフォリオ」の浸透と労働強化の進展をうかがわせるものである。

   表6 負格担差感・承認感の4タイプ と 初職に就いた時代 のクロス表(被雇用者)[列%]

初職に就いた時代 合計「就職氷河期」後 均等法後氷河期前 均等法以前

負担NO承認NO 61 35 98 19421.90% 13.50% 12.10% 14.40%

負格担差感 負担NO承認YES 110 95 399 604・承認感の 39.60% 36.70% 49.40% 44.90%4タイプ 負担YES承認NO 24 22 54 100

8.60% 8.50% 6.70% 7.40%負担YES承認YES 83 107 256 446

29.90% 41.30% 31.70% 33.20%合計 278 259 807 1344

100.00% 100.00% 100.00% 100.00%

有意確率=0.000

3 分析

3.1 諸独立変数

さて、負担格差感・承認感に影響を与えるのは、以上確認してきた性別、学歴、配偶者の

有無、従業上の地位、職業、初職を得た西暦、といった基本的属性ばかりではない。「仕事の

コンテクスト work contexts」が重要である。

①役職の有無:これはほとんど説明するまでもないだろう。一般に、役職者は非役職者より

も、仕事の負担・責任は大きいので、その格差感と承認感は大きくなると考えられる。

②昇進の見通し:これについてもほとんど説明は不要だろう。昇進の見通しがあると期待で

きることは、すなわち「働きぶりが認められている」と思えることにつながるからである。

③能力発揮のあり方:職場において「自分の能力が発揮できる」か否かは、実体論的にでは

なく関係論的に考えれば、「本人がどのくらい能力を持っているか」であるよりはむしろ、「ど

のような能力発揮の機会が与えられているか」である。この意味で、能力発揮のあり方は、

仕事のコンテクストの 1 つである。もちろん、本人の観点から見れば、能力発揮ができてい

るから、承認されているのだ、という理屈が成り立つ。

④労働時間:労働時間が長いほど、負担格差感は大きくなると考えられる。本章では週労働

時間を用いる。

⑤職場における女性割合・非正規社員割合:周知の通り、仕事の分担にあたっては一般に、

対象者が女性であるか否か、非正社員であるか否かに、少なからぬ留意がなされる(cf. 小

笠原 1998)。それゆえ、女性や非正規社員のしめる割合が職場においてどのくらいなのかは、

負担格差感を左右すると考えられる。このような、個人の属性には還元できない、構造の人

133

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口的・物理的側面は変数として重要である(Durkheim 1893)。

⑥従業員規模(企業規模):熊沢(2007:53)が指摘するように、「この頃の格差社会論は、

非正規雇用や成果主義と比べると企業間格差という要因をわりあい等閑視する傾向があ」る

ものの、「勤め先が大企業か中小企業かは、労働者の生活の明暗にとってなお、きわめて規定

的なこと」である。賃金のみならず、人員配置のゆとりや職務分担、処遇――女性の雇用管

理のあり方も含めて――は、企業規模による違いが大きい。

以上考察してきた諸独立変数を、「負担 YES 承認 YES」を参照カテゴリとした、多項ロジ

スティック回帰分析の式に投入する。表 7 に、変数の一覧を示した。

表7 変数一覧

従属変数 負担格差感・承認感の4タイプ 「負担NO承認NO」、「負担NO承認YES」、「負担YES承認NO」、

「負担YES承認YES」(=参照カテゴリ)

独立変数 性別 男性、女性(=基準値)

学歴 中卒、専門・高専・短大卒、大卒・院卒、高卒(=基準値)

配偶者有無*従業上の地位 配偶者無・非正規、配偶者有・非正規、

配偶者無・正規、配偶者有・正規(=基準値)

初職に就いた時代 就職氷河期以後、均等法後氷河期以前、均等法以前(=基準値)

職業 専門・管理、販売、熟練、半熟練、非熟練・単純、事務(=基準値)

役職の有無 役職有り、役職無し(=基準値)

昇進の見通し 見通し無し、見通し有り(=基準値)

能力発揮のあり方 能力発揮無し、能力発揮有り(=基準値)

労働時間 週労働時間

職場の女性割合 6-10割、5割、0-4割(=基準値)

職場の非正社員割合 6-10割、5割、0-4割(=基準値)

従業員規模 5-29人、30-99人、100-999人、1000人以上&官公庁(=基準値)

注)サンプル・サイズの都合上、合算した変数は以下の通りである:

「専門学校卒」「高専卒」「短大卒」→「専門・高専・短大卒」、「大卒」「院卒」→「大卒・院卒」

「専門」「管理」→「専門・管理」。なお、農林的職業は僅少のため欠損値とした。

職場の女性割合と非正社員割合:「0-1割」「2-4割」→「0-4割」、「6-8割」「9-10割」→「6-10割」

3.2 分析結果

3.2.1 被雇用者全体(男女計)

表 8 に分析結果を示す。まず全体(男女計)を見ると、7 つのことがわかる。第 1 に、性

別や学歴といった個人の属性に関する変数は有意ではない。

第 2 に、有配偶の非正規社員であることは、有配偶の正規社員とは有意に異なって、「負担

YES 承認 YES」よりも「負担 NO 承認 YES」に 1.893 倍なりやすい。有配偶者の非正規社員

が、主婦パートや、再雇用制度による定年延長被雇用者によってしめられていることを考え

れば、これは首肯される。

134

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表8 負担格差感・承認感4タイプの多項ロジスティック回帰分析の結果

全 体 男 性 女 性 B S.E. Exp(B) B S.E. Exp(B) B S.E. Exp(B)

負担NO 切片 -1.683 * 0.689 -1.210 0.894 -2.797 * 1.163 承認NO [性別=女] 0.612 0.377 1.845

[性別=男] 0(b) . . .[中卒] -0.698 0.651 0.498 -0.654 0.750 0.520 -19.574 . 0.000 0.000

[専門・高専・短大卒] -0.299 0.405 0.741 -1.579 * 0.806 0.206 0.238 0.532 1.268[大卒・院卒] -0.458 0.402 0.632 -1.148 * 0.587 0.317 0.480 0.683 1.616

[高卒] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[配偶者無・非正規] 0.332 0.565 1.394 -0.262 1.154 0.769 0.461 0.726 1.585[配偶者有・非正規] 0.312 0.423 1.366 0.852 0.805 2.344 0.188 0.589 1.207

[配偶者無・正規] 0.046 0.375 1.047 -0.184 0.508 0.832 0.344 0.636 1.410[配偶者有・正規] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[初職就職氷河期以後] 0.64 0.392 1.897 1.470 * 0.598 4.348 0.393 0.615 1.481[均等法後氷河期以前] 0 0.372 1.000 -0.059 0.560 0.942 0.289 0.566 1.335

[均等法以前初職] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[専門・管理] -0.245 0.442 0.782 -1.594 * 0.728 0.203 0.679 0.646 1.972

[販売] -0.244 0.435 0.783 -0.943 0.675 0.389 0.288 0.665 1.334[熟練] -0.292 0.486 0.747 -0.834 0.614 0.434 0.153 0.925 1.166

[半熟練] -0.926 * 0.460 0.396 -0.889 0.671 0.411 -1.376 0.734 0.253[非熟練・単純] -0.397 0.636 0.672 -1.261 0.965 0.283 -0.406 1.029 0.666

[事務] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[役職有り] -1.291 ** 0.427 0.275 -0.704 0.497 0.495 -20.095 . 0.000 0.000[役職無し] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[昇進見通し無し] 1.362 *** 0.350 3.904 1.461 ** 0.490 4.311 1.681 ** 0.621 5.372[昇進見通し有り] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[能力発揮無し] 1.757 *** 0.315 5.796 1.713 *** 0.485 5.544 2.012 *** 0.482 7.479[能力発揮有り] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

週労働時間 0.003 0.009 1.003 0.012 0.013 1.012 -0.002 0.015 0.998[職場女性6-10割] -0.273 0.391 0.761 0.510 0.670 1.665 -0.478 0.558 0.620

[職場女性5割] 0.571 0.409 1.770 0.278 0.643 1.321 1.186 0.649 3.274[職場女性0-4割] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[職場非正社員6-10割] -0.345 0.419 0.708 -0.558 0.696 0.572 0.035 0.605 1.035[職場非正社員5割] -0.868 0.511 0.420 -1.047 0.947 0.351 -0.647 0.731 0.524

[職場非正社員0-4割] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[29人以下] -0.758 0.398 0.468 -0.391 0.613 0.677 -0.540 0.587 0.583[30-99人] -0.503 0.435 0.605 -0.568 0.638 0.567 0.080 0.696 1.084

[100-299人] -0.595 0.457 0.551 -0.472 0.654 0.623 -0.171 0.740 0.843[300-999人] -0.172 0.413 0.842 0.177 0.570 1.194 0.289 0.703 1.335

[1000人以上・官公庁] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .負担NO 切片 0.929 * 0.456 0.968 0.577 0.595 0.706 承認YES [性別=女] 0.009 0.263 1.009

[性別=男] 0(b) . . .[中卒] 0.558 0.357 1.747 0.253 0.488 1.288 0.819 0.596 2.268

[専門・高専・短大卒] 0.47 0.268 1.600 -0.176 0.489 0.839 0.757 * 0.352 2.132[大卒・院卒] -0.107 0.280 0.899 -0.054 0.374 0.947 -0.080 0.521 0.923

[高卒] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[配偶者無・非正規] 0.237 0.421 1.268 0.169 0.938 1.184 0.017 0.516 1.017[配偶者有・非正規] 0.638 * 0.296 1.893 0.998 0.634 2.712 0.523 0.375 1.687

[配偶者無・正規] 0.061 0.248 1.062 0.253 0.327 1.289 -0.347 0.414 0.707[配偶者有・正規] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[初職就職氷河期以後] -0.047 0.277 0.954 -0.249 0.405 0.780 0.448 0.424 1.565[均等法後氷河期以前] -0.612 * 0.253 0.542 -0.776 * 0.358 0.460 -0.367 0.391 0.693

[均等法以前初職] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[専門・管理] 0.023 0.271 1.023 -0.039 0.396 0.962 -0.036 0.412 0.965

[販売] -0.232 0.313 0.793 -0.566 0.471 0.568 0.020 0.473 1.020[熟練] 0.151 0.341 1.163 0.021 0.456 1.021 0.238 0.594 1.269

[半熟練] -0.1 0.316 0.905 0.338 0.494 1.403 -0.493 0.438 0.611[非熟練・単純] -0.022 0.438 0.978 -0.351 0.718 0.704 0.247 0.606 1.281

[事務] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[役職有り] -0.487 * 0.246 0.614 -0.417 0.310 0.659 -0.734 0.495 0.480[役職無し] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[昇進見通し無し] 0.54 * 0.220 1.715 0.560 0.307 1.750 0.503 0.348 1.654[昇進見通し有り] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[能力発揮無し] -0.037 0.279 0.964 -0.078 0.435 0.925 -0.082 0.382 0.921[能力発揮有り] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

週労働時間 -0.015 * 0.006 0.985 -0.014 0.009 0.986 -0.016 0.010 0.984[職場女性6-10割] -0.187 0.254 0.829 -0.551 0.445 0.576 0.034 0.359 1.035

[職場女性5割] -0.08 0.318 0.923 -0.079 0.441 0.924 0.215 0.499 1.240[職場女性0-4割] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[職場非正社員6-10割] -0.128 0.275 0.880 0.154 0.442 1.166 -0.193 0.374 0.825[職場非正社員5割] -0.424 0.333 0.654 0.039 0.554 1.040 -0.761 0.441 0.467

[職場非正社員0-4割] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[29人以下] -0.408 0.264 0.665 -0.216 0.400 0.806 -0.214 0.405 0.807[30-99人] -0.338 0.291 0.713 -0.565 0.405 0.568 0.255 0.476 1.291

[100-299人] -0.451 0.295 0.637 -0.362 0.397 0.696 -0.307 0.484 0.735[300-999人] -0.69 * 0.313 0.501 -0.742 0.416 0.476 -0.276 0.525 0.759

[1000人以上・官公庁] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

135

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全 体 男 性 女 性 B S.E. Exp(B) B S.E. Exp(B) B S.E. Exp(B)

負担YES 切片 -3.367 *** 0.803 -1.908 * 0.876 -5.489 ** 1.824 承認NO [性別=女] 0.746 0.450 2.109

[性別=男] 0(b) . . .[中卒] -0.45 0.658 0.638 -0.847 0.852 0.429 -0.328 1.376 0.720

[専門・高専・短大卒] 0.406 0.456 1.500 0.717 0.679 2.048 0.427 0.746 1.532[大卒・院卒] -0.77 0.471 0.463 -0.495 0.568 0.610 -1.859 1.330 0.156

[高卒] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[配偶者無・非正規] 0.076 0.677 1.078 1.037 1.199 2.821 0.243 1.007 1.276[配偶者有・非正規] -0.191 0.562 0.827 -0.381 1.021 0.683 0.255 0.900 1.290

[配偶者無・正規] 0.646 0.391 1.907 0.263 0.505 1.300 1.703 * 0.837 5.488[配偶者有・正規] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[初職就職氷河期以後] 0.482 0.442 1.619 -0.729 0.687 0.483 1.788 * 0.826 5.980[均等法後氷河期以前] -0.425 0.440 0.654 -0.303 0.512 0.738 -1.562 1.201 0.210

[均等法以前初職] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[専門・管理] 0.147 0.486 1.158 -0.256 0.643 0.774 0.803 0.869 2.232

[販売] -0.324 0.546 0.723 0.088 0.708 1.092 -0.919 1.325 0.399[熟練] 0.507 0.505 1.660 0.748 0.628 2.114 0.559 1.411 1.748

[半熟練] -0.2 0.517 0.819 -0.661 0.773 0.516 -0.026 0.853 0.974[非熟練・単純] -1.041 1.142 0.353 -20.237 . 0.000 0.000 -0.809 1.481 0.445

[事務] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[役職有り] 0.226 0.401 1.254 -0.376 0.470 0.687 1.045 0.947 2.843[役職無し] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[昇進見通し無し] 1.342 *** 0.365 3.827 1.301 ** 0.451 3.674 1.923 * 0.831 6.844[昇進見通し有り] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[能力発揮無し] 1.744 *** 0.354 5.718 1.968 *** 0.477 7.154 1.607 * 0.656 4.987[能力発揮有り] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

週労働時間 0.009 0.010 1.009 0.015 0.013 1.016 -0.016 0.023 0.984[職場女性6-10割] -0.413 0.448 0.662 0.169 0.640 1.184 -1.357 0.798 0.257

[職場女性5割] -0.112 0.530 0.894 -0.708 0.786 0.492 -0.229 0.951 0.795[職場女性0-4割] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .

[職場非正社員6-10割] 0.344 0.448 1.411 -0.416 0.661 0.660 1.737 * 0.817 5.679[職場非正社員5割] -0.158 0.548 0.854 0.024 0.745 1.024 -0.207 1.095 0.813

[職場非正社員0-4割] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .[29人以下] -0.824 0.503 0.439 -1.491 * 0.729 0.225 0.958 1.228 2.606[30-99人] 0.13 0.450 1.138 -0.550 0.566 0.577 2.515 * 1.253 12.368

[100-299人] 0.054 0.486 1.056 -0.751 0.649 0.472 2.321 * 1.300 10.183[300-999人] 0.007 0.468 1.007 -0.549 0.575 0.577 2.314 1.329 10.119

[1000人以上・官公庁] 0(b) . . . 0(b) . . . 0(b) . . .-2対数尤度 1498.922 775.764 638.196擬似R2乗 Cox & Snell 0.275 0.324 0.360N 720 379 341

注)*は5%水準で有意。**は1%水準で有意。***は0.1%水準で有意。

第 3 に、初職に就いた時代に関して見てみると、「均等法以後氷河期以前」は、「均等法以

前」とは有意に異なって、「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 NO 承認 YES」に 0.542 倍な

りやすい――言い換えれば、「負担 NO 承認 YES」よりも「負担 YES 承認 YES」に約 1.8 倍

(=0.542 の逆数)なりやすい。恐らく「均等法以後氷河期以前」に初職に就いた者は、年

齢的には 30 代末~40 代半ばという職場の中堅層であることが、この理由として考えられる。

第 4 に、職業において「半熟練」は、「事務」とは有意に異なって、「負担 NO 承認 NO」

よりも「負担 YES 承認 YES」に約 2.5 倍(=0.396 の逆数)なりやすい。

第 5 に、仕事のコンテクストに関する幾つかの変数が有意な効果を示している。すなわち、

役職者であることは、非役職者と有意に異なって、「負担 NO 承認 NO」ではなく「負担 YES

承認 YES」に 3.6 倍(=0.275 の逆数)、「負担 NO 承認 YES」ではなく「負担 YES 承認 YES」

1.6 倍(=0.614 の逆数)、なりやすい。また、昇進見通しが無いことは、昇進見通しが有る

ことと有意に異なって、「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 NO 承認 NO」に 3.904 倍、「負

担 NO 承認 YES」に 1.715 倍、「負担 YES 承認 NO」に 3.827 倍、なりやすい。逆に言えば、

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昇進見通しが有ることは、「他の人よりも仕事の量が多すぎるけれども(or 多すぎるがゆえ

に)、働きぶりは認められてもいる」という意識と、密接に関係しているということである。

それから、能力発揮ができていないことは、能力発揮ができていることと有意に異なって、

「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 NO 承認 NO」に 5.796 倍、「負担 YES 承認 NO」に 5.718

倍、なりやすい。当たり前だが、能力発揮ができているか否かは、周囲からの承認を左右す

る。実体論ではなく関係論的な観点に立てば、適切な能力発揮の機会が与えられているかど

うかが重要である。

第 6 に、週労働時間が増えると、「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 NO 承認 YES」にな

りにくい。例えば、週労働時間が 20 時間増えると、0.985 の 20 乗=0.74、その逆数=1.35 と

なる。つまり、「負担 NO 承認 YES」よりも「負担 YES 承認 YES」に 1.35 倍なりやすい。こ

のように、労働時間それ自体は、他の変数と比べれば、負担格差感・承認感を大きく左右す

るものではない。

第 7 に、仕事のコンテクストの中で人口的側面に関する変数を見ると、300-999 人規模は、

1000 人以上&官公庁とは有意に異なって、「負担 NO 承認 YES」よりも「負担 YES 承認 YES」

に 2 倍(=0.501 の逆数)なりやすい。なぜだろうか。推測に過ぎないが、この規模の企業

では分社化などダウンサイジングがなされたところが多く、こうした結果になったのではな

かろうか。

3.2.2 男性被雇用者

男性被雇用者の結果を見てみると、5 つのことがわかる。第 1 に、専門・高専・短大卒と

大卒・院卒は、高卒と有意に異なって、「負担 NO 承認 NO」よりも「負担 YES 承認 YES」

に約 5 倍(=0.206 の逆数)、約 3 倍(=0.317 の逆数)なりやすい。高学歴者の方が、「他の

人よりも仕事の量が多すぎるけれども(それゆえに)、働きぶりは認められてもいる」状況に

なりやすいのである。こうした学歴の効果は、女性被雇用者には見られない。

第 2 に、初職に就いた時代についてみると、「氷河期以降」は「均等法以前」と有意に異な

って、「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 NO 承認 NO」に 4.348 倍なりやすい。また、「均

等法以後氷河期以前」は、「均等法以前」とは有意に異なって、「負担 NO 承認 YES」よりも

「負担 YES 承認 YES」に約 2 倍(=0.460 の逆数)なりやすい。これは女性被雇用者には見

られない。だが先取りして言えば、女性被雇用者で有意に異なるのは、「負担 YES 承認 NO」

であり(5.980 倍なりやすい)、これは男性被雇用者では確認されない。初職に就いた時代が

負担格差感・承認感にもたらす影響が、男女によってこのような対照性を示すことは、興味

深いと言える。

第 3 に、「専門・管理」は「事務」と有意に異なって、「負担 NO 承認 NO」よりも「負担

YES 承認 YES」に 5 倍(=0.203 の逆数)なりやすい。

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第 4 に、能力発揮ができていないことは、被雇用者全体の分析と同様に、能力発揮ができ

ていることと有意に異なって、「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 NO 承認 NO」に 5.544 倍、

「負担 YES 承認 NO」に 7.154 倍、なりやすい。このことは、女性被雇用者を対象とした場

合でも同様である。

第 5 に、「29 人以下規模」は、「1000 人以上&官公庁」とは有意に異なって、「負担 YES 承

認 NO」よりも「負担 YES 承認 YES」に約 4.4 倍(=0.225 の逆数)なりやすい。これは、負

担格差が大きいという点では同じでも、企業規模が、労働者の承認感の有無を左右している

ということだ。「小さいところの方が、やりがいが大きい、認めてもらえる」という、一般に

流布している言説が、裏付けられている形である。だが、これは男性被雇用者においてであ

って、女性被雇用者においては、確認されない。後述するように、むしろ逆と言えそうな結

果が確認される。

3.2.3 女性被雇用者

それでは、女性被雇用者の結果に進もう。5 つのことがわかる。第 1 に、「専門・高専・短

大卒」は、「高卒」とは有意に異なって、「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 NO 承認 YES」

に 2.132 倍、なりやすい。

第 2 に、「無配偶の正社員」は、「有配偶の正社員」と有意に異なって、「負担 YES 承認 YES」

よりも「負担 YES 承認 NO」に 5.488 倍なりやすい。

第 3 に、前述したように、「氷河期以降」は「均等法以前」と有意に異なって、「負担 YES

承認 YES」よりも「負担 YES 承認 NO」に 5.980 倍なりやすい(繰り返せば、これは被雇用

者全体と男性被雇用者を対象とした場合には確認されない)。恐らくこの一因は、就職氷河期

以降、より小さな規模の企業――女性に関する処遇制度が相対的に整備されていない――で

職を得ることが増えたためだと考えられる。

第 4 に、「職場非正社員 6-10 割」は、「職場非正社員 0-4 割」と有意に異なって、「負担 YES

承認 YES」よりも「負担 YES 承認 NO」に 5.679 倍なりやすい。非正社員が極めて多い職場

とは、「他の人より大きな負担をしているのに認めてもらえない」になりやすい職場である。

第 5 に、「30-99 人規模」「100-299 人規模」は、「1000 人以上&官公庁」とは有意に異なっ

て、「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 YES 承認 NO」に、それぞれ 12.368 倍、10.183 倍、

なりやすい。「小さいところの方が、やりがいが大きい、認めてもらえる」という、一般に流

布している言説は、女性被雇用者に関しては当てはまらないのだ。前述したように、企業規

模が小さくなるほど、女性に関する処遇制度が相対的に整備されていないことが関係してい

ると推察される。

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4 結論

以上、本章は、職場における負担格差感・承認感について、これを 4 タイプに分け、「負担

YES 承認 YES(他の人と比べて自分の仕事量は多すぎるが、働きぶりは認められている)」

を参照カテゴリとした多項ロジット分析によって、その規定要因を探ってきた。関心の焦点

は「負担 YES 承認 NO(他の人と比べて自分の仕事量は多すぎる上に、働きぶりも認められ

ていない)」という、「報われない」者は誰なのか、という点にあった。納得して、あるいは

自負を持って働くことができているか否か。ここに格差があるとしたら、それは改められて

然るべきである。

上述の焦点に沿って、「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 YES 承認 NO」になりやすいの

は誰か(何か)というかたちで知見を整理すると、次の 4 点にまとめられる。第 1 に、「就職

氷河期」以降に初職に就いた者(基準値は「均等法以前」)。第 2 に、女性被雇用者集団にお

いて、30-99 人、100-299 人といった小規模企業で働く者(基準値は 1000 人以上&官公庁)。

第 3 に、女性被雇用者集団において、非正社員割合が 6-10 割の職場で働く者(基準値は 0-4

割)。第 4 に、女性被雇用者集団において、無配偶の正社員(基準値は有配偶の正社員)。

以上の 4 点から導き出される理論的含意について 2 点、政策的示唆について 2 点、指摘し

ておきたい。

第 1 点は、「就職氷河期以降」に初職に就いた者が、「均等法以前」に初職に就いた者と有

意に異なって、「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 YES 承認 NO」になりやすいという知見

を、2004~2005 年頃からの労働需要増加(「売り手市場」化)とを合わせたときに何が言え

るか、である。1990 年代半ば以降、企業が採用を絞り込んできた結果、例えば「10 年選手」

になっても部下や後輩ができず、いつまで経っても下っ端、という状況が多くの企業で続い

てきた。昨今の採用増加によって「“雑用”を振れる部下や後輩」ができて、この状況が改善

される、という事態は進む(負担 NO に向かう)だろうか。楽観はできない。なぜなら、教

育訓練者 1 人あたりの被教育訓練者数が大きくなること、すなわち指導する者の教育訓練負

担が増えることが考えられるからだ。職場の構造の人口的・物理的側面は重要な観点である。

第 2 点は、女性被雇用者において、非正社員割合が 6-10 割の職場で働く者が、0-4 割と有

意に異なって、「負担 YES 承認 YES」よりも「負担 YES 承認 NO」になりやすいという知見

が持つ、方法論的個人主義的リベラルな研究に対して持つ含意である。『不安定雇用という虚

像』なる、インパクトの強いタイトルを付けた書籍において佐藤・小泉(2007)は、「非正社

員の働き方を外在的に評価するのではなく、働いている人々の視点からその実像を明らかに

する」分析の重要性を強調する(v 頁)。この主張は、単純化を恐れずに言えば、「非正社員

の誰もが正社員になりたいわけではない、処遇や職場に不満があるわけではない、概して自

らの選択によって非正社員として働いている」という事実を、データは雄弁に物語っている

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のだ、ということだ。

それはある意味当然である。外在的評価ではなく、個人内在的視点に立てば、「主体の自由

な選択」なるものが析出されるものだ。だが、こうした方法論的個人主義的リベラルな研究

は、「個人の主体性を無視・否定した研究スタンスはとっていない」という姿勢を打ち出すこ

とにとどまっており、村尾(2003:134)が鋭く指摘するように「他者が存在していること」

すなわち、社会的な次元の存在(個人に還元できない実在)を等閑視している。働く場所が、

非正社員割合 6-10 割の職場であることが、「他の人と比べて自分の仕事量は多すぎる上に、

働きぶりも認められていない」になりやすいのである。上記第 1 点の結論を繰り返せば、構

造の人口的・物理的側面は重要な観点であり、これはデュルケムが『社会分業論』において

力説したことに他ならない。

第 3 点は、女性被雇用者集団において、30-99 人、100-299 人といった中小規模企業で働く

者が「負担 YES 承認 NO」になりやすいことから得られる政策的示唆である。それは、女性

に関する処遇制度の整備に向かうよう、税制上の優遇や補助金などによってプッシュすべき

だ、ということだ。一般に、企業規模が小さくなるほど、女性に関する処遇制度が相対的に

整備されていない。例えば、厚生労働省『女性雇用管理基本調査』平成 18 年度版によれば、

コース別雇用管理制度のある企業の割合は、30-99 人規模で 6.3%、100-299 人規模で 17.0%に

すぎない(300-999 人規模では 30.0%、1000-4999 人では 43.6%、5000 人以上では 55.0%)。ま

た、コース別雇用管理制度があったとしても、コース転換制度のない企業の割合は、規模が

小さくなるほど大きくなっている。この状況を改善するとすれば、人手不足の現在をおいて

無い。労働者の性別にこだわっている場合ではない、と企業が思うときこそ、政策的な好機

である。これを逃すべきではない。

最後に第 4 点は、女性被雇用者において、無配偶の正社員が、有配偶の正社員と有意に異

なって、「負担YES承認YES」よりも「負担YES承認NO」になりやすいという知見から導き

出される、政策的示唆である。それは、余裕の無い・きつきつの人員配置をそのままにして

「ファミリー・フレンドリーfamily friendly」政策や「ワーク・ライフ・バランスwork life

balance」政策を展開するならば 5、それは「シングル・アンフレンドリーsingle unfriendly」に

なりかねない、ということだ。厚生労働省が次世代育成支援対策推進法等によって国が少子

化対策に取り組むこと 6、各企業がその指導の下に可能な範囲で行動することは、基本的に望

ましいことだろう。しかしながら忘れてはならないのは、労働時間から解放された時間に関

して、育児や介護に充てられる時間が、他の諸活動の時間よりも「価値が高い」わけではな

5 本来的に「ワーク・ライフ・バランス」は、「ファミリー・フレンドリー」のような家族的責任を前提と

しない理念ではあるものの(cf. 90 年代のアメリカ)、少子化ストップが喫緊の課題とされている日本の文

脈では、家族的責任を暗黙の前提として引き摺りがちである。 6 例えば厚生労働省は、仕事と育児の両立支援に関する行動計画の策定を義務付ける対象を現行の従業員

301 人以上から、300 人以下に拡大する方針を固めた(2007/12/26 社会保障審議会の部会にて)。

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い、ということだ。余裕の無い人員配置の中で、この原則が無視されれば、無配偶の正規労

働者の納得は下がり、自負も持てなくなりかねない。余裕を持たせた人員配置の方が結果的

にペイするのであり、基本的人権も護られる。政府はこの点に留意して企業を指導すべきで

ある。なおまた、採用や配置基準は一般に、使用者が経営主体としての責任を持って判断・

処理すべき事柄とされているけれども、企業内の労使協議制というインフォーマルなシステ

ムにおいて、余裕を持たせた人員配置の「メリット」を説く余地はあるのではないか 7。

以上、本章は、労働者としての納得や自負、職場のあり方・構造という、労働社会学的な

関心(変数)を階層・階級研究に接合する試みであった。分析されるべき点はまだまだ多い。

他日を期したい。これら 2 つの研究は「役割分業」すべきではない、と考えるからである。

【文献】

Durkheim, Emile. 1893. De la division du travail social = 1989. 井伊玄太郎(訳)『社会分業論』講談社. 厚生労働省. 『女性雇用管理基本調査』各年度版. 熊沢誠. 2007. 『格差社会ニッポンで働くということ』岩波書店. 村尾祐美子. 2003. 『労働市場とジェンダー―雇用労働における男女不公平の解消に向けて―』東洋館

出版社. 中野麻美. 2006. 『労働ダンピング――雇用の多様化の果てに』岩波書店. 「日本の教育システム」研究ループ「人材形成の失敗」サブグループ. 2007. 『日本の人材形成におけ

る「成功」/「失敗」とは?―学者、教師、専門家をゲストスピーカーに迎えた研究会の記録

―』 日本経営者団体連盟. 1995. 『新時代の「日本的経営」―挑戦すべき方向とその具体策―』. 小笠原祐子. 1998. 『OL たちの〈レジスタンス〉―サラリーマンと OL のパワーゲーム―』中央公論

社. 太田肇. 2007. 『お金より名誉のモチベーション論』東洋経済新報社. 労働省. 1999. 『労使コミュニケーション調査報告』. 佐藤博樹・小泉静子. 2007. 『不安定雇用という虚像』勁草書房. Tomaskovic-Devey, Donald. 1993. Gender & Racial Inequality at Work: The Sources and Consequences of Job

Segregation, ILR Press. 筒井美紀. 2006. 『高卒労働市場の変貌と高校進路指導・就職斡旋における構造と認識の不一致―高卒

就職を切り開く―』東洋館出版社. 山田昌弘. 2004. 『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く』筑摩書房.

Factors on the employees’ sense of appreciation and burden-differentiation

in the workplace

-- Who is “not recompensed” ? --

Miki Tsutsui (Kyoto Women’s University)

7 労働省(1999)によれば、労使協議機関がある事業所のうち、採用・配置基準が付議事項である割合は約

6 割、さらにそのうち「意見聴取」「協議」「同意」という取り扱いをする事業所は約 5 割である。

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The purpose of this chapter is to examine factors on the employees’ sense of appreciation and burden-differentiation in the workplace. Changes in the economy and employment for these twenty years have made it difficult for employees to work with satisfaction and pride. Employees’ satisfaction and pride are influenced by the fairness of burden sharing and by their coworkers’ appreciation for it. Who feels his/her workplace to be unfair and who does not? Who feels him/herself appreciated and who does not? This chapter tries to answer these questions sociologically, which are often treated in human resource management theory. In other words, it adds burden sharing and appreciation to labor process theory.

This chapter uses multi-nominal logistic regression: the dependent variable is four types of the employees’ sense of burden-differentiation and appreciation, and the independent variables are personal attributes, occupation, and work contexts. Who are more likely to be “Burden YES, Appreciation NO” compared to “Burden YES, Appreciation YES” ? Main four findings are: 1) those who got their first job after “the Ice Age,” 2) female employees who work in small and medium sized (30-99, 100-299 persons) companies, 3) female employees who work in the workplaces where sixty percents and the more are atypical, 4) female employees who are single typical workers.

The third finding leads to a theoretical implication: some research with liberal attitude and methodological individualism shows only that its stance does not deny individual subjectivities and ignores societal existence. As Durkheim emphasized, the demographic and physical aspects of the structure are important points. The second and fourth findings lead to policy suggestion. The government should encourage companies (especially small sized ones) to improve their treatment of female employees by taxation and subsidies. It is when the labor markets are tight that is a good timing of this policy implementation. If a company develops “family friendly” or “work life balance” policies with skeleton-staffing, it will bring about “single unfriendly” situations. Therefore, the government should direct companies with care of this point.

Keywords: a sense of burden-differentiation, a sense of appreciation, the demographic and physical aspects of the structure, research with liberal attitude and methodological individualism

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Formation of Career Aspirations under Structural Constraints: A Comparative Study of Career Aspirations in Japan, Korea, and Taiwan*

Yoshimichi Sato (Tohoku University)

Abstract We study the effect of institutions in the labor market on workers’ choice of survival strategies in it. We assume that workers try to maximize their utilities under the constraints of institutions. The constraints function at two levels: Societal level and individual level. The economic structure, for example, is a constraint at the societal level. The long-term employment system in Japan would prevent workers from changing jobs frequently, while social networks of small firms in Taiwan would encourage workers to become self-employed. Meanwhile, the location of a worker in the labor market is a constraint at the individual level. For example, female workers in Japan, who have been pushed to the periphery of the labor market, would choose to be part-time workers because they do not expect a high probability of becoming full-time workers. We focus on career aspirations for the future as a proxy for survival strategies. Thus we use career aspirations as the dependent variable in our model. Independent variables are variables that reflect workers’ location in the labor market such as age, gender, employment status, firm size, and industry. Then we compare the difference in the effect of independent variables on the dependent variable between Japan, Korea, and Taiwan in order to see the different effects of local institutions. Data used in the paper were collected in the 2005 Social Stratification and Social Mobility Survey in Japan, Korea, and Taiwan. Results show that the Japanese do not necessarily choose to work under the long-term employment system, while Taiwanese do not necessarily choose to be self-employed. Detailed analysis of the interaction between local institutions and the location of workers in the labor market would be a fruitful direction for the future study. Key words: Career aspiration, labor market, and local institutions

1. Local Institutions, Status Attainment, and Career Aspiration

It seems that many Japanese have begun to think about their future career, rather than

their occupation. When the long-term employment system functioned well in Japanese

large companies, workers at the companies did not need to think about their career

development. This is because, once they got an entry-level job at a company with the

* Earlier versions of the paper were presented at a seminar at the University of Texas, Austin, March 22, 2007 and at International Conference on East Asian Comparative Research at National Taiwan University, November 24-25, 2007. I thank the audiences at these meetings for their productive comments. Academic support from the Center for the Study of Social Stratification and Inequality of Tohoku University is gratefully appreciated.

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system, they were able to expect their promotion in the company. Of course, some of

them reached the top of the company’s hierarchy, while some of them ended up at the

middle of the hierarchy. However, working for the same company and competing with

their coworkers for higher positions in the hierarchy were a better survival strategy in a

comparatively stable labor market than changing jobs. Thus working under the umbrella

of the long-term employment system has been an ideal to most of the Japanese workers,

although the system has covered a small part of workers in the labor market—mainly,

male workers at large companies and in the public sector (Brinton 1993; Nomura 1994).

Globalization and neo-liberal policies, however, have made the strategy less

promising. These factors have increased the fluidity in the labor market and thus

weakened the long-term employment system. We could point out many reasons for that,

but mentioning the imbalance between transaction costs and opportunity costs would be

sufficient to understand the weakening of the system. The system inspires the loyalty of

employees to their company. If they shirk and their untrustworthy behavior is detected by

the company, they will be fired. If other companies did not employ the system, they

could find a job with a wage and a benefit package similar to those of the previous job.

However, other companies that would offer such wage and benefit package also have

adopted the system. Thus it is almost impossible for the fired employees to find such a

nice job. Being afraid of this, employees should be loyal to their company. This means

that a company with the system reduces transaction costs related to employment. This is

because, as it employs workers loyal to it for many years, it does not frequently need to

find prospective employees to fill up the vacancies of leaving employees. The

prospective employees might be trustworthy, but might be untrustworthy. Thus judging

the characteristics of prospective employees is always accompanied by transaction costs.

Companies with the long-term employment system, on the other hand, incur high

opportunity costs. A company with the system misses opportunities to find better workers

at a lower wage in the external labor market. The company would lose its reputation if it

replaced a loyal worker who has worked for it for many years with a worker coming

outside it. Thus it has to keep its employees to attract new graduates to it. However, this

commitment to the employees deprives it of the opportunity to hire better workers at

lower wages, which increases opportunity costs incurred by it.

When Japan enjoyed high economic growth in the 1960s, companies with the

long-term employment system were able to compensate for opportunity costs because

they enjoyed high profits. However, globalization has destroyed the balance between

144

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opportunity costs and transaction costs. In the borderless economy companies are able to

search the world for high-quality labor force at lower wages, and companies themselves

are involved in harsh competitions with companies in other countries that enjoy

comparatively cheaper labor force. In other words, opportunity costs have become so

large that companies with the long-term employment system cannot afford to maintain it

any longer. Therefore many Japanese companies that once established the system have

begun to abandon it or revise it making a mixed system with the long-term employment

system and the performance-based wage system.

This change in the employment practice in Japan means that workers at a large

firm with the system cannot expect promotion along the firm’s career ladder any longer.

They may be laid off or fired in their mid-career; they can no longer rely on their

company till retirement. Then they may become more concerned about their career rather

than their occupation. This is a reason the study of career aspiration has become

important. As will be explained below, we use career aspiration as a proxy for survival

strategy of workers in the labor market. When the long-term employment system was

stable, occupational aspiration was a good proxy for survival strategy. People chose

occupational aspirations calculating the cost and the benefit related to occupations.

Having an aspiration to become a banker, for example, reflects one’s plan about his/her

occupational life. However, as the probability of being laid off becomes higher thanks to

Japan’s increasing exposure to globalization, he/she would be likely to think about what

career he/she should develop. This is because the life of a banker working for the same

bank till retirement is different from that of a banker working for various banks.

The study of career aspiration is theoretically important for the analysis of

intra-generational mobility, too1. We argue that career aspiration for the future as a proxy

for survival strategy is affected by two factors: Institutions in the labor market and career

aspiration at first job. Suppose that a person had a particular type of career aspiration

when he/she got the first job, say, becoming self-employed—becoming the owner of a

flower shop. Even so, if the entry cost to the self-employment sector such as a deposit on

the shop is very high, he/she would choose another career aspiration. Then suppose that

the entry cost to the self-employment sector is low. He/she had an aspiration to become

the owner of a flower shop when getting the first job, and the entry cost is low. The

situation is conducive to his/her career development. However, if he/she has not

1 See Hayashi (2002) for an analysis of career aspiration in the perspective of intergenerational mobility.

145

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accumulated human capital via his/her actual career that is necessary to become the

owner, he/she would have another career aspiration for the future.

This argument leads us to two theoretical assumptions. The first assumption is

that career aspiration for the future is affected by actual career including first job and

current job and career aspiration at first job. These factors affect career aspiration for the

future via local institutions, as explained above. Thus the second assumption is that the

effect of these factors on career aspiration for the future varies from society to society.

This is because each society has its own local institutions in the labor market.

Then what local institutions should we focus on in Japan, Korea, and Taiwan? It

is impossible and unproductive to mention all local institutions in the three societies.

Rather we focus on local institutions that we assume have impact on the choice of career

aspiration for the future. As for Japan, from this theoretical perspective, we pick up the

long-term employment system. It is true that not all the Japanese workers have been

under the umbrella of the system; its main recipients are male full-time employees at

large firms. However, the system became an ideal employment practice during the

post-war recovery period, when the unemployment rate was high and the labor market

was unstable. Korea, on the contrary, is a “frictionless” society. People smoothly move in

the labor market. This is because protective institutions such as the long-term

employment system do not exist or are weak, if any. Thus Korea is a reference point in

this paper. Taiwan also seems to be a frictionless society. However, compared to Japan

and Korea, the society is rich in networks of small firms2. These networks make the

Taiwanese economy advantageous to rapid changes in the global economy. However, it is

pointed out that large companies are emerging3, which might change the choice process

of career aspiration among Taiwanese workers.

Then what is a good strategy for workers to survive in the labor market in each

society? In this paper we assume four possible strategies: being in the long-term

employment system (henceforth, LTE), being a specialist (henceforth, specialization),

being self-employed or independent (henceforth, independence), and having a flexible

work pattern (henceforth, flexibility). The last strategy needs more clarification. Two

examples of it would make it more comprehensible. The first is a part-time worker

working for various companies and doing various jobs. He/she is in the periphery of the

labor market, but Japanese married women with small children would choose this

2 Refer to chapters on Taiwan in Brinton (2001) for detailed descriptions of the networks. 3 I thank Momoko Kawakami for information on this change. See also Sato and Kawakami (2001).

146

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strategy to keep the balance between work and family. The second example is an income

maximizing person, who moves from company to company and from job to job pursuing

better opportunities to increase his/her income. Unfortunately, as will be shown, the 2005

SSM Survey cannot distinguish these two types of “flexible workers.”

We assume that workers in a society choose one of the above strategies under the

constraints of local structure in the labor market. Then Japanese workers would adhere to

the long-term employment system. However, the system has been weakened thanks to

Japan’s increasing exposure to globalization. Then some of the Japanese workers would

change their career aspiration from LTE to other types of aspiration. An option would be

developing specialized skills that sell well in the labor market. Workers protected by the

long-term employment system are expected to develop firm-specific skills. If

globalization increases inter-firm mobility, however, workers in the system may begin to

think about the possibility of being fired in their mid-career and try to develop

specialized skills to avoid the risk. This is because being a specialist with skills that sell

in the market is much better than floating in the periphery of the market without

accumulating skills. The other option would be to become self-employed or independent.

Being independent is an ultimate job security as long as his/her business goes well.

However, the entry cost to the self-employment sector is higher in Japan than in Korea

and Taiwan. Thus unless they inherit business from their parents, workers would choose

specialization rather than independence.

Korean workers would choose specialization. This is because, as pointed out

above, they cannot rely on protective institutions in the labor market. In addition to

becoming specialists, choosing independence would be another option. The entry cost to

the self-employment sector is lower in Korea than in Japan, so self-employment is an

attractive option as long as the possibility of success in the business is high.

Taiwanese workers would prefer independence to other strategies. The entry cost

is relatively low, and there are abundant “role models” of the self-employed because of a

large number of small firms.

These arguments can be summarized as a hypothesis as follows:

Hypothesis 1: On average, the Japanese choose LTE rather than specialization and

independence and choose specialization rather than independence;

Koreans choose specialization and independence rather than LTE; and

Taiwanese choose independence rather than LTE and specialization.

147

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2. Hypotheses for Each Society

The above-mentioned choice mechanism should be broken down to some

sub-mechanisms based on the location of workers in the labor market. The above

hypothesis compares survival strategies chosen in the three societies. Within each society,

however, we observe heterogeneity among workers. For example, female workers in

general have been excluded from the long-term employment system in Japan, even

though the system has been a symbol of the Japanese labor market. Then, even if the

Japanese are likely to choose LTE on average, Japanese female workers would tend to

choose other career aspirations because of their location in the labor market. In this paper

we use age, gender, employment status, firm size, and industry as components of the

location of workers4.

We use specialization as the reference category of career aspiration to create

hypotheses. This is because specialization is the most efficient strategy in the labor

market without any structural constraints. Then a deviation from specialization is

assumed to be affected by local institutions. The second type of flexibility, which was

described in the previous section, seems to be a more efficient strategy in an unstructured

labor market. Pursuing higher income by changing firms and jobs would lead to success.

However, a tiny portion of workers would be such lucky people. Thus we assume that

workers with specialized skills, on average, succeed in an unstructured labor market.

We do not create hypotheses about all the possible values of the components,

because that would obscure our analysis. Rather, we focus on hypotheses on interactions

between local institutions and the location of workers in the labor market.

Let us start with hypotheses about age. Age reflects two factors that would affect

career aspirations. The first factor is the degree of experience in the labor

market—human capital, and the second is seniority. Thus older workers in Japan, who

have invested in the long-term employment system for a considerable number of years,

would prefer LTE than specialization. However, we would not see such age effect in

Korea and Taiwan. Rather, the first factor of age, human capital, would affect choices of

workers in the two societies. In conjunction with Hypothesis 1, we expect that older

Korean workers are more likely to choose specialization and independence than their

younger counterparts and that Taiwanese workers are more likely to choose

4 Although we include education in the multinomial logit models in the next section, we do not propose hypotheses on education in this paper.

148

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independence than young Taiwanese workers.

As for gender, Japanese female workers would choose flexibility rather than

specialization, even though specialization would be the second best choice based on

Hypothesis 1. This is because, as pointed out, they are likely to stay in the periphery of

the labor market where they have few opportunities to acquire particular skills. In

contract, we do not expect such a gender difference in Korea and Taiwan.

Employment status such as regular workers, self-employed, and non-regular

workers also indicates workers’ location in the labor market. Japanese regular workers

would choose LTE because they have been the main recipient of the long-term

employment system. Japanese non-regular workers, in contrast, would choose flexibility

because they do not expect to get a regular job thanks to a great divide between regular

and non-regular workers in the labor market in Japan. The self-employed would naturally

choose independence.

Korean regular workers as well as non-regular workers would choose

specialization rather than LTE. This is because Korean firms have not well developed the

long-term employment system, which would make the mobility between regular and

non-regular workers frequent. The self-employed would choose independence as in

Japan.

Taiwanese regular workers, in contrast, would choose independence because

“being your own boss” is an important social value in the Taiwanese society. Non-regular

workers would choose flexibility, because they have not accumulated human, economic,

and social capital necessary to become independent. The self-employed would choose

independence as in Japan and Korea.

Firm size is also an important factor in explaining behavior of workers in the

labor market. Japanese workers at large firms would naturally choose LTE because they

have enjoyed the protection by the Japanese employment practice. Their Korean

counterparts, in contrast, would not do that. Rather, firm size would not affect choices of

Korean workers. Taiwanese workers at large firms, on the contrary, would choose LTE

because working for large firms means high job security in Taiwan.

Industry is divided into primary, secondary, and tertiary industries. Tertiary

industry seems to be affected by globalization more deeply than primary and secondary

industries. Thus workers in this industry would choose specialization rather than LTE in

all the three societies.

In addition to these variables that reflect the location of workers in the labor

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market, we use career aspiration when people got the first job as an independent variable.

This would have a strong effect on career aspiration for the future. Once he/she has had a

particular mind-set, a person would adhere to it because of psychological inertia. We are

not interested in the effect of this aspiration, but we include it in our analysis to see the

effect of the above-mentioned factors after controlling for it.

The above-mentioned hypotheses are summarized in Table 1. As will be

explained in the next section, we use multinomial logit models to test them.

Table 1 Hypotheses for the Three Societies

H2: Age H3: Gender H4: Employment status

Japan

H2-J: Older workers choose LTE rather than specialization.

H3-J: Female workers choose flexibility rather than specialization.

H4-J: Regular workers choose LTE. The self-employed choose independence.

Korea

H2-K: Older workers choose specialization and independence rather than LTE.

H3-K: No gender difference.

H4-K: Regular and non-regular workers choose specialization rather than LTE. The self-employed choose independence.

Taiwan

H2-T: Older workers choose independence.

H3-T: No gender difference.

H4-T: Regular and the self-employed choose independence. Non-regular workers choose flexibility.

H5: Firm size H6: Industry H7: Career aspiration at first job

Japan

H5-J: Large firm workers choose LTE.

H6-J: Workers in tertiary industry choose specialization rather than LTE.

H7-J: Strong effect on the same type of aspiration.

Korea

H5-K: No firm-size difference.

H6-K: Workers in tertiary industry choose specialization rather than LTE.

H7-K: Strong effect on the same type of aspiration.

Taiwan

H5-T: Large firm workers choose LTE.

H6-T: Workers in tertiary industry choose specialization rather than LTE.

H7-T: Strong effect on the same type of aspiration.

150

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3. Data and Methods

The data we use in this paper were obtained in the 2005 Social Stratification and Social

Mobility (henceforth: the 2005 SSM) Survey conducted in Japan, Korea, and Taiwan5.

The designed sample size, the number of respondents, and the response rate in each

society are summarized in Table 2.

Table 2 Designed Sample, Number of Respondents, and Response Rate

Society Designed sample # of respondents Response rate Japan 13035 5746 44.1 % Korea 5200 2080 40.0 % Taiwan 10394 5379 51.7 %

We analyze the data by multinomial logit models with career aspiration for the

future as the dependent variable to test the hypotheses proposed in the previous section.

The independent variables are age, sex, education, career aspiration at first job,

employment status at first job and at current job, firm size at first job and at current job,

and industry at first job and at current job. The remaining of this section is devoted to the

description of the variables.

The 2005 SSM Survey asked respondents four items related to career aspirations

when they got the first job and the same items for the future, and we use three of them to

construct the following categories of career aspiration as in Table 3: Independence, LTE,

specialization, and flexibility. As mentioned above, we use specialization as the reference

category in the following analysis.

Age is categorized into six brackets with twenties as the reference category. Sex

is a discrete variable with the values of 0 for male and 1 for female. Education consists of

three categories: Junior high school, high school, and college and above. We use junior

high school as the reference category. Employment status consists of three categories:

Regular workers, non-regular workers, and the self-employed6. We use non-regular

workers as the reference category. Firm size is categorized as follows: Small firms (The

number of employees is 1-4.); small mid-sized firms (5-29), large mid-sized firms

5 Use of the data has been approved by the 2005 SSM Research Committee. The data of the 2005 SSM Survey are based on the third version for Japan, the third version for Korea, and the first version for Taiwan (distributed on July 12, 2007). 6 The category of “managers” is dropped from the analysis because the number of managers in the Korean data is very small.

151

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(30-299), and large firms (300 and over) and the public sector. We use small firms as the

reference category. Industry consists of primary, secondary, and tertiary industries with

secondary industry as the reference category.

Table 3 The Categorization Scheme of Career Aspirations

Working for the same company?

Continuing the same job?

Becoming independent?

Career Aspiration

Yes Yes No No

Yes No Yes No

Yes Yes Yes Yes

Independence

Yes No No Long-term employment (LTE)

Yes No

Yes Yes

No No

Specialization

No No No Flexibility

4. Descriptive Statistics The descriptive statistics of the variables used in this paper is summarized in Table 4.

This table reveals some interesting facts. First, the share of the self-employed in Korea is

much larger than that in Japan and Taiwan. The share of small firms in Korea is also

much larger than that in Japan and Taiwan. These facts mean that the self-employment

sector is quite large in Korea.

The distributions of career aspirations at first job and for the future are graphed

in Figures 1-a and 1-b. The first glance of them shows that the large shares of

independence at the first job and for the future in Korea reflect the above-mentioned

large share of self-employment. On the other hand, as expected, the share of LTE is

larger in Japan than in Korea and Taiwan. However, the share declines from Figure 1-a to

Figure 1-b. This reflects the weakening of the long-term employment system in Japan.

Then let us check the empirical validity of Hypothesis 1 by looking at Figure 1-b

carefully. The figure shows that Japanese workers choose specialization first,

independence second, and LTE third. Thus the Japanese part in the hypothesis is partly

rejected and partly supported. As for Korea more than 60 % of the workers choose

independence, which is contradictory to the hypothesis. Taiwanese workers also choose

independence first, but the percentage of specialization is almost the same as that of

independence. Thus the Taiwanese part of the hypothesis is weakly supported.

152

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Table 4 Descriptive Statistics (%)

Japan Korea TaiwanAge 20-29 11.03 16.44 22.18 30-39 18.31 24.13 20.75 40-49 19.30 22.64 24.00 50-59 24.78 16.68 19.97 60 and over 26.58 20.10 13.11Sex Male 46.33 38.22 50.83 Female 53.67 61.78 49.17Education Junior high school 16.73 33.99 36.02 High school 55.96 36.35 26.93 College 27.31 29.66 37.05Employment status at first job Regular workers 80.82 60.18 83.67 Self-employed 7.75 23.25 11.24 Non-regular workers 11.42 16.57 5.09Firm size at first job 1-4 11.81 35.00 24.69 5-29 23.75 24.57 29.47 30-299 25.41 20.30 22.34 300 and over 39.03 20.13 23.50Industry at first job Primary 5.89 15.91 8.57 Secondary 40.80 37.69 46.86 Tertiary 53.31 46.40 44.57Career aspiration at first job LTE 24.41 13.01 11.43 Specialization 41.99 28.37 36.15 Independence 21.62 48.64 40.2 Flexibility 11.98 9.97 12.22Employment status at current job Regular workers 51.72 24.69 67.73 Self-employed 19.38 47.78 25.67 Non-regular workers 28.89 27.53 6.60Firm size at current job 1-4 22.88 53.79 34.70 5-29 24.02 19.13 23.47 30-299 23.74 12.48 17.78 300 and over 29.36 14.60 24.05Industry at current job Primary 7.19 21.52 7.19 Secondary 35.74 22.51 34.52 Tertiary 57.08 55.97 58.28Career aspiration at current job LTE 14.63 9.27 8.3 Specialization 43.41 22.26 40.17 Independence 28.97 60.83 44.65 Flexibility 12.98 7.65 6.88

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0%

10%

20%

30%

40%

50%

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Japan Korea Taiwan

Flexibility Specialization LTE Independence

Figure 1-a Career Aspiration at First Job

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10%

20%

30%

40%

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60%

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80%

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100%

Japan Korea Taiwan

Flexibility Specialization LTE Independence

Figure 1-b Career Aspiration at Current Job

5. Results of Multinomial Logit Model Analysis The results of multinomial logit model analysis are summarized in Table 5. Comparing

LTE and specialization of career aspiration for the future, we see that older people in

Japan are more likely to choose specialization rather than LTE. This does not support

154

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H2-J. This implies that age is a proxy for human capital rather than seniority in Japan. In

contrast, we see that in Korea the coefficients for forties and sixties are negative and

statistically significant, which means that workers in these age categories are more likely

to choose specialization rather than LTE. The pattern of those in sixties comes from their

higher human capital as in Japan, but we would guess that the pattern of those in forties

indicates that they are concerned about early retirement. As for independence in Korea,

older workers are more likely to choose specialization rather than it. However, if we

compare independence and LTE, we do not see a clear pattern. (The result is not shown).

These results mean that H2-K is rejected. In Taiwan, older workers are more likely to

choose specialization rather than independence. In addition, comparison between

independence and LTE does not show a clear pattern. (The result is not shown.) Thus

H2-T is also rejected.

The coefficients of female are not statistically significant except for that in Japan

when flexibility is compared to specialization. The value of the coefficient is 0.461,

which means that Japanese women are more likely to choose flexibility rather than

specialization. This supports H3-J, H3-K, and H3-T.

The difference between regular and non-regular workers at current job in Japan

does not affect the choice between LTE and specialization and that between

independence and specialization. However, the self-employed are more likely to choose

independence rather than specialization than regular and non-regular workers. Thus we

could say that H4-J is partly supported. In Korea both of regular and non-regular workers

tend to choose specialization rather than LTE, compared to the self-employed. In

addition, as in Japan, the self-employed tend to choose independence rather than

specialization. Thus H4-K is supported. The self-employed show another interesting

pattern. They tend to choose LTE rather than specialization. This suggests that the

self-employed prefer job security. In Taiwan, the self-employed tend to choose

independence rather than specialization, but there is no difference between regular and

non-regular workers in the choice between independence and specialization and between

flexibility and specialization. Thus H4-T is partly supported.

Firm size shows some interesting patterns. Contrasting independence with

specialization, Japanese workers at larger firms are more likely to choose specialization

rather than independence, but there is no difference in their choice between LTE and

specialization. This rejects H5-J; workers at larger firms may pursue specialized skills in

the same firm. In Korea workers at larger firms obviously choose LTE rather than

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specialization. They may seek job stability, and this rejects H5-K. Taiwanese workers at

larger firms tend to choose specialization rather than independence as their Japanese

counterparts do. However, they do not show a difference in the choice between LTE and

specialization. In addition they tend to choose specialization rather than flexibility. These

results reject H5-T. Taiwanese workers seem to pursue specialized skills to survive in the

labor market.

The type of industry has effect only in Japan, as predicted by H6-J. Workers in

the tertiary sector tend to choose specialization rather than LTE. However, we do not see

this pattern in Korea and Taiwan, which rejects H6-K and H6-T.

Career aspiration at first job has expected effect on career aspiration for the

future. Those who had one type of career aspiration at first job are more likely to have

the same type of career aspiration for the future than those who had other types of career

aspiration at first job. Thus H7-J, H7-K, and H7-T are supported.

6. Conclusions We explored the effect of local institutions on strategies people have in order to survive

in the labor market. A few hypotheses are supported by the multinomial logit model

analysis. Especially, the location of female workers in Japan and that of middle-aged

workers in Korea became clearer. Other hypotheses are not supported, but we have made

some interesting findings. For example, the Korean self-employed prefer LTE to

specialization. This reflects the unstable position of the self-employed in the labor

market (Arita 2007). Their Japanese and Taiwanese counterparts, in contrast, do not show

such preference. This difference, we would argue, comes from the difference in the

structure in the labor market between the three societies. Deeper exploration of this type

of analysis would uncover more subtle interactions between survival strategies, local

institutions, and locations in the labor market.

References

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既発表成果一覧

1.論文・著書

長松奈美江. 2006.「仕事の自律性からみた雇用関係の変化」.『社会学評論』57(3): 476-92.

Sato, Yoshimichi. 2007. “Deterioration in Japanese Employment Practice and Career Images: An

Analysis of Career Images Focusing on the Japanese Labor Market.” Yoshimichi Sato (ed.).

Deciphering Stratification and Inequality: Japan and Beyond, Trans Pacific Press, 127-39.

2.学会等報告

阿形健司. 2007 年 9 月.「職歴形成における職業資格の役割―ホームヘルパーの事例―」.日本

教育社会学会第 59 回大会(茨城大学).

神林博史. 2007 年 9 月.「転職・離職理由の時代的変化:2005 年 SSM データを用いた分析」.

第 44 回数理社会学会大会(広島修道大学).

Sato, Yoshimichi. June, 2004. “Postmodernity and Social Mobility in Japan,” International Workshop

on Modernity, Post-modernity and Globalization in Europe and Japan, King’s College,

University of Cambridge, U.K.

Sato, Yoshimichi. August, 2005. “Deterioration in the Japanese Employment Practice and Career

Images: An Analysis of Career Images Focusing on the Japanese Labor Market.” The 100th

Annual Meeting of the American Sociological Association, Philadelphia.

Sato, Yoshimichi. August, 2005. “Deterioration in the Japanese Employment Practice and Career

Images: An Analysis of Career Images Focusing on the Japanese Labor Market.” Zentrum

für Umfragen, Methoden und Analysen, Mannheim, Germany.

Sato, Yoshimichi. November, 2005. “Deterioration in the Japanese Employment Practice and Career

Images: An Analysis of Career Images Focusing on the Japanese Labor Market.” Poster

Presentation, The 2nd Japanese-German Frontiers of Science Symposium, Shonan

International Village.

Sato, Yoshimichi. April, 2006. “Deterioration in the Japanese Employment Practice and Career

Images: An Analysis of Career Images Focusing on the Japanese Labor Market.” New

Directions in Inequality and Stratification, Princeton University.

Sato, Yoshimichi. February, 2007. “A Comparative Study of Career Aspirations in Japan and Korea:

A Preliminary Analysis of the 2005 Social Stratification and Social Mobility Data.”

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International Symposium on Social Stratification, Social Mobility, and Inequality in East

Asia, Sendai Excel Hotel Tokyu.

Sato, Yoshimichi. March, 2007. “A Comparative Study of Career Aspirations in Japan and Korea: A

Preliminary Analysis of the 2005 Social Stratification and Social Mobility Survey Data.”

University of Texas, Austin.

Sato, Yoshimichi. May-June, 2007. “Deterioration in the Japanese Employment Practice and Career

Images: An Analysis of Career Images Focusing on the Japanese Labor Market.” The 13th

Brazilian Sociological Congress, Recife, Brazil.

Sato, Yoshimichi. November, 2007. “A Comparative Study of Career Aspirations in Japan, Korea,

and Taiwan: A Preliminary Analysis of the 2005 Social Stratification and Social Mobility

Data.” International Conference on East Asian Comparative Research, International

Conference on East Asian Comparative Research, National Taiwan University, Taipei.

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2005年 SSM 調査シリーズ 4

働き方とキャリア形成 阿形 健司 編

2008年3月10日発行

発行

2005年 SSM 調査研究会

〒602-8580 京都市上京区今出川通り烏丸東入

同志社大学社会学部社会学科尾嶋研究室(発行担当)

〒980-8576 仙台市青葉区川内 27-1 東北大学大学院文学研究科行動科学研究室内

2005 年社会階層と社会移動調査研究会事務局(事務局)

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