スマートな農業を支援する nttグループの取り組み ·...
TRANSCRIPT
NTT技術ジャーナル 2016.332
NTTグループの農業分野での取り組み
は じ め に
多くの農作物は,屋外の圃場で生産されることから,農業はあらゆる産業の中でも気象,地理 ・ 地形,生息する生物などの自然環境と非常に関係の深い産業といえます.特に日本列島は南北に長く,起伏に富み,また四方を囲む海の海流の影響で,地域よって自然環境が大きく異なります.
今後,農業の競争力強化に向けては,農業従事者は各地域の自然環境の特色に応じた農業を実践していく必要があります.
本稿では,国際次世代農業EXPO(2015年10月14〜16日,幕張メッセ)に出展した自然環境(気象,地理 ・ 地形,鳥獣害被害)に対するNTTグループの取り組みを 3 点紹介します.
気象情報に関する取り組み
古くから農業はお天気次第といわれており,農業技術が進んだといわれている現代でも当てはまり,気候変動 ・天候変動により,作物の収量は毎年のように変動しています.近年,その気候変動による高温や大雨などの異常気
象が頻発化により,農業被害が深刻化しており,最近の事例では2015年 9月の関東 ・ 東北豪雨(台風第18号等による大雨)による農作物被害は,被害見込金額48億4000万円となっており,深刻度が高いことが分かります(1).
この課題に対して,NTTグループの株式会社ハレックスでは気象データ最適化処理システム「HalexDream !」により気象庁から提供される膨大な気象データを加工し,営農活動を支援する農業用気象情報に活用しています.「HalexDream !」は気象庁から発
表される実況観測データ,数値予報データなどあらゆるデータを取り込み,「“地域特性” を反映し,1 kmメッシュデータへの “面” 展開」「情報の“鮮度” を確保するための,実況情報を活用した実測補正処理」「扱いやすさを実現するため,ハンドリング “容易性” の確保」などの特徴的な独自処理を実施しています.
これらの処理により,1 kmメッシュ単位で,最大72時間先までの気象予測を国内どこでも提供することができます.
このシステムを活用した農業用気象
予測システムの開発および新たな営農管理の検討が,農林水産省の「農業界と経済界の連携による先端モデル農業確立実証事業」の一環として,愛媛県の「坂の上クラウドコンソーシアム
(ハレックスを含む 6 社から構成)」により実施されました.具体的には,農業用気象情報を活用することで,短期予報(72時間予報や週間予報等)を利用した気象災害の回避や,病害虫被害の軽減等の日常的な圃場管理を実施することができます.
また今後は,季節予報を利用して,作付け時期 ・ 出荷時期の調整,栽培品種の選定などの営農戦略の立案に活用することが期待されます(図 1 ).
地理 ・地形情報に関する取り組み
気象と並んで地理 ・ 地形は農業に大きな影響を与える要素の 1 つです.日本の国土は狭小なため,農地確保に向けて土地の開発や改良を重ねてきた結果,山林や荒地等を開拓してできた農地や,湖,沼などを干拓してできた農地など,地理 ・ 地形条件はさまざまです.
今後,日本の農業の競争力強化に向
気 象 地理・地形 鳥獣害被害
スマートな農業を支援するNTTグループの取り組み
農業の競争力強化に向けて,NTTグループでは,ICTを通じたスマートな農業の支援に取り組んでいます.本稿では,自然環境(気象,地理・地形,鳥獣害被害)に対するNTTグループの取り組み事例として,2015年10月14〜16日に幕張メッセで開催された「国際次世代農業EXPO」に出展した各社の成果を紹介します.
小お の ざ と
野里 剛つよし
/小こばやし
林 隆りゅういち
一
久く す み
住 嘉よしかず
和 /武た け い
井 伸のぶかつ
勝
庭に わ の
野 栄えいかず
一 /中なかむら
村 高た か お
雄
杉すぎもと
本 晋し ん じ
司
NTT研究企画部門
NTT技術ジャーナル 2016.3 33
特集
け,これらの地理 ・ 地形条件を把握し,営農活動に活用することが必要になります.
NTT空間情報では,地図情報や衛星画像を活用することで地理 ・ 地形条件の把握等を支援しています.
指定地域の最新画像を 4 機の衛星を利用し,最大30 cm/pixelの地上解像度で高精度な衛星画像としていち早く
撮影,提供することが可能です.これにより,例えば農地の境界などの詳細な状況の把握が可能となります.
また,膨大な画像アーカイブ(約20億km2,地球の全陸域の 8 回撮影分)を保有しているため,例えば多時期の同じ場所を撮影したデータ比較による特性の把握や,気象環境などを併せた農地状況を把握することも可能です.
さらに,これらの衛星画像のスペクトルを解析することで,小麦の生育予測や稲穂のタンパク含有量といった,農作物の生育状況の解析を行えます.これにより,例えば最適な収穫時期の視覚化や良食味の農作物の安定供給につなげることが可能となります(図 2 ).
図 1 農業用気象予報システムの開発および新たな営農管理の検討
季節予報(長期)
暖・寒候期予報……… 統計手法(ガイダンス) 数値予報(格子点データ:アンサンブル)
戦略情報 経営戦略の立案
短期予報
異常天候早期警戒情報……確率予報(気温)週間予報…………………… 3日から向こう1週間の天気予測府県予報……………………当日から翌日の天気予測
戦術情報 管理計画の立案
短時間予報
GPV予測情報………数値予測(天気,気温,温度,風,雲量)降水短時間予測…… 6時間以内の降水予測ナウキャスト予報… 1時間以内の降水予測
戦術情報 リスク回避
季節予報(中期)
3カ月予報……… 数値予報(格子点データ:アンサンブル) 統計手法(ガイダンス)統計資料
1カ月予報……… 数値予報(格子点データ:アンサンブル)
戦略情報 営農戦略の立案
データベースサーバ
Webサーバ
各種条件検索
ビッグデータ(テラバイト)検索
容易な操作性
グラフによる可視化
API化
農業気象コンサルティング
農業向けクラウドサービス
マスタデータベース
HalexDream!
気象統計データ
圃場の気象蓄積データ
地域特性に関するデータ
1 kmメッシュ平年値図降水量,気温,最深積雪,日照時間,全天日射
地上気象観測の統計値月平均現地気圧,月平均海面気圧,月平均気温,日平均気温の標準偏差,日最高気温の月平均値,日最低気温の月平均値,月平均蒸気圧,月降水量,降水量階級区分,日降水量 1 mm以上の日数,月間日照時間など
NTT技術ジャーナル 2016.334
NTTグループの農業分野での取り組み
鳥獣害被害に関する取り組み
気象,地理 ・ 地形のほかに,野生鳥獣による農作物被害も深刻です.被害額は近年,年間200億円前後で推移しています.特に,シカとイノシシによる被害額が多い状況です.
これらの状況に対し,鳥獣被害防止特措法に基づく被害防止計画が作成されるなどの体制強化により,地域ぐる
みで鳥獣捕獲等が実施されています(2).この鳥獣捕獲に対する課題としては,山間部に設置した罠の見回りに多大な労力を要することです.
この課題に対し,NTTPCコミュニケーションズでは,M2M(Machine to Machine)技術とネットワーク,クラウドを活用した罠監視装置「みまわり楽太郎」を使い高い成果を上げています.
仕組みとしては,山間部に設置した罠が作動すると監視装置が作動し,管理者にメールが送信されます.通常,このような罠は住宅地と山間部のはざまで利用されることが多く,監視装置用の電源を確保することが困難ですが,「みまわり楽太郎」は乾電池の給電方式(約 2 年間利用可能)を採用しているため,容易に設置することが可能です(図 ₃ ).
図 2 衛星画像を活用した生育状況管理
© DigitalGlobe Inc.
水稲のタンパク含有解析(例)
【画像データ】
【解析データ(画像ピクセル表示)】
【解析データ(圃場単位平均図)】
注) NDVI値により 5段階に色分けした画像 分量が少ない方が旨い米と判断される
©DigitalGlobe Inc./中日本航空
©DigitalGlobe Inc./中日本航空
NTT技術ジャーナル 2016.3 35
特集
また,カメラ付きタイプでは捕獲時の写真を送信できることから,錯誤捕獲があっても早期に対応できます.「みまわり楽太郎」は2011年 7 月の販売開始以来,全国40市町村で約300台が採用され,農作物被害の軽減に貢献しています.
今後の展開
本稿で紹介したソリューション以外にも,NTTグループでは農業のバリューチェーンに合わせ,生産から流通 ・ 販売に至るまで幅広く農業ソリューションを豊富にラインアップしています.
今後,段階的に各ソリューションを有機的に連携させ,バリューチェーン
全体を包含する統合型ソリューションの実現を目指し,さらなる付加価値の高いソリューションをお客さまに提供していきたいと考えています.
■参考文献(1) http://www.maff.go.jp/j/tokei/sokuhou/higai_
oukyu_15b/(2) http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h26/
index.html
図 3 M2M 技術とネットワーク,クラウドを活用した罠監視装置
①檻の扉が閉まる
②監視装置が作動,メールで通報
③管理者にメール
④対策実施電池は約 2年利用可能
監視装置データ
管理者画面イメージ
農家様 猟友会様 市町村様
Date 13/09/01 13:26Front [email protected]: 罠が作動しました
本文:装置番号:00100109罠が作動しました .檻の状態を確認してください .
(後列左から) 杉本 晋司/ 庭野 栄一/ 中村 高雄
(前列左から) 小林 隆一/ 久住 嘉和/ 小野里 剛/ 武井 伸勝
NTTグループが今後も皆さまから選ばれるバリューパートナーとなるべく,ICTを通じて農業分野の発展に貢献します.
◆問い合わせ先NTT研究企画部門 プロデュース担当E-mail agri-ml hco.ntt.co.jp