ギリアデル脳内留置用剤 7.7 mg 第2部 ctdの概要 (サマリー...

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ギリアデル脳内留置用剤 7.7 mg 第2部 CTDの概要 (サマリー) 2.4 非臨床試験の概括評価 ノーベルファーマ株式会社

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ギリアデル脳内留置用剤 7.7 mg

第2部 CTDの概要 (サマリー)

2.4 非臨床試験の概括評価

ノーベルファーマ株式会社

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

1

略語一覧

ALP アルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)

AUC 血中薬物濃度時間曲線下面積 14C-BCNU 14C 標識カルムスチン(14C-カルムスチン) 3H-BCNU 3H 標識カルムスチン(3H-カルムスチン)

BCU 1,3-ビス(2-クロロエチル)尿素 (1,3-bis(2-chloroethyl)urea )

BSP ブロムサルファレイン(bromsulphalein)

BUN 血中尿素窒素(blood urea nitrogen)

Cmax 最高血漿中濃度

CPP 1,3-ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン (1,3-bis(p-carboxyphenoxy)propane)14C-CO2

14C 標識二酸化炭素 14C-CPP 14C 標識 1,3-ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン

CYP シトクロム P450

DNA デオキシリボ核酸

ED10 10%有効量

ED50 50%有効量

GLP 優良試験所規範(Good Laboratory Practice)

GLU 血糖

GOT グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(glutamic-oxaloacetic transaminase)

GPT グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(glutamic-pyruvic transaminase)

GSH グルタチオン(glutathione)

Km ミカエリス定数

LD10 10%致死量

LD50 50%致死量

NADPH nicotinamide adenine dinucleotide phosphate

NU ニトロソウレア

SA セバシン酸 (sebacic acid) 14C-SA 14C 標識セバシン酸

TK 毒性動力学

TNF 腫瘍壊死因子-α

XRT 放射線治療(external beam radiotherapy)

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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目次

2.4.1 非臨床試験計画概略 ......................................................3 2.4.2 薬理試験 ................................................................3

2.4.2.1 効力を裏付ける試験 ..................................................3 2.4.2.2 副次的薬理試験 ......................................................6 2.4.2.3 安全性薬理試験 ......................................................6 2.4.2.4 薬力学的薬物相互作用試験 ............................................7

2.4.3 薬物動態試験 ............................................................7 2.4.3.1 吸収 ................................................................7 2.4.3.2 分布 ................................................................7 2.4.3.3 代謝 ................................................................9 2.4.3.4 排泄 ...............................................................10 2.4.3.5 薬物相互作用 .......................................................10 2.4.3.6 その他の薬物動態試験(SA 及び CPP の体内動態).......................11

2.4.4 毒性試験 ...............................................................11 2.4.4.1 単回投与毒性試験 ...................................................11 2.4.4.2 反復投与毒性試験 ...................................................11 2.4.4.3 遺伝毒性試験 .......................................................13 2.4.4.4 がん原性試験 .......................................................13 2.4.4.5 生殖発生毒性試験 ...................................................13 2.4.4.6 局所刺激性試験 .....................................................14 2.4.4.7 その他の毒性試験 ...................................................14

2.4.5 考察及び結論 ...........................................................16

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

3

2.4.1 非臨床試験計画概略

カルムスチン脳内留置用剤は、脳腫瘍切除術後に残存した脳腫瘍細胞の殺傷を目的として、

有効成分であるニトロソウレア(NU)系のカルムスチン[Carmustine;1,3-ビス(2-クロロエチ

ル)-1-ニトロソ尿素]を含有する脳内留置用徐放性製剤である。本剤は、カルムスチンとその

基剤であるポリフェプロサン 20 [1,3-ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロパン:セバシン酸

(20:80)のランダム共重合体]をジクロロメタンに溶解し、スプレードライ法により粉末化し

た後、直径約 14.0 mm、厚さ約 1.3 mm、重量 200 mg の平らな円盤状に成形したウエハー(重合

体形成物)製剤であり、本剤 1枚中に、カルムスチンを 7.7 mg(3.85%)含み、微黄白色~微

黄色の外観をしている。本剤は、すでに米国において「再発の膠芽腫患者における手術との併

用」及び「初発の悪性神経膠腫患者における手術及び放射線療法との併用」の適応症で Eisai Inc.

が製造販売している製剤(米国商品名:グリアデルⓇウェハー)と同一である。

非臨床試験において、薬理試験では薬効を裏付ける試験として、in vivo におけるカルムス

チンの抗腫瘍作用を評価するとともに、カルムスチン及びカルムスチン脳内留置用剤に関して、

海外で申請に用いられた資料並びに文献検索をして得られた公表論文を用いてまとめ、安全性

薬理試験については安全性薬理試験ガイドラインに準拠し、コアバッテリーにつき GLP 対応に

て実施し、CTD 様式に編集した。

薬物動態試験については、主に、Eisai Inc.より提供を受けた米国における申請資料と、文

献検索により収集した論文の中から試験方法、使用された実験動物種などを考慮し選定したも

の並びに、国内で追加実施したカルムスチンの乳汁移行性を検討する試験(ラット)及びヒト

生体試料を用いた代謝試験を加えて CTD 様式に編集した。

毒性試験については、カルムスチンの安全性に関しては医学薬学上公知であると考えられる

ことから、カルムスチンの毒性試験は文献検索を実施し、公表論文(GLP 不適用)の中から評

価に資すると思われる論文を用いて CTD を構成し、新たな毒性試験を実施しなかった。がん原

性試験については、カルムスチンが抗悪性腫瘍剤であり、本邦ガイドラインで、進行性がんの

治療を目的とした抗悪性腫瘍剤などでは、通常、がん原性試験を必要としないとされているこ

とから、がん原性試験を実施しなかった。本剤に用いられている担体のポリフェプロサン 20(以

下ポリマーと記載)については、添加剤としては本邦において使用前例がないことからポリフ

ェプロサン 20の毒性試験並びにポリフェプロサン 20 のモノマーであるセバシン酸のラット

胚・胎児発生に関する試験を GLP に準拠して国内で実施している。また、類縁物質に関しては、

本剤に含まれる類縁物質のうち、1,3-ビス(2-クロロエチル)尿素(BCU)及び 2-クロロエチル

アミンの 2種類につき、急性毒性試験を GLP に準拠して国内で実施している。

2.4.2 薬理試験

2.4.2.1 効力を裏付ける試験

(添付資料 4.2.1.1-1 参、4.2.1.1-2、4.2.1.1-3~14 参)

(1) In vitro 細胞増殖抑制作用

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

4

カルムスチンはがん細胞の DNA をアルキル化して DNA 複製を阻害して細胞死をもたらす。こ

の作用は細胞周期に無関係に働き、G0期の細胞にも及び、増殖が盛んな細胞に対して強い作用

を示す。

カルムスチンはヒト神経膠芽腫細胞(EFC-2)のコロニー形成能を抑制し、その ED50値は 7.8

µg/mL であった。この値は、本邦で上市されている NU 系の薬剤であるニムスチンの ED50値(6.5

µg/mL)と同程度であった。

(2) In vivo 抗腫瘍効果

カルムスチンの in vivo 抗腫瘍効果については、ヒト神経膠芽腫細胞(U-87MG)をヌードマ

ウス頭蓋内に移植後、マウスの生存時間に対するカルムスチンの影響を検討した。カルムスチ

ンは 10 mg/kg を腫瘍移植後 1、5及び 10 日の計 3回、静脈内に投与した。比較薬剤として用い

たニムスチンも 10 mg/kg を同様に投与した。対照群は投与後 22日までにすべてのマウスが死

亡し、生存日数中央値は 20 日であったのに対し、カルムスチン投与群ではすべてのマウスの死

亡は投与後 29日までであり、生存日数中央値は 26日と有意な生存時間の延長が認められた。

ニムスチン投与群でも有意な生存時間延長の作用が観察され、すべてのマウスが死亡したのは

投与後 31日で、生存日数中央値は 28 日であった。両剤の生存時間の延長には差が認められな

かった。

次に、9L-ラット神経膠肉腫細胞(腫瘍倍加時間:40 時間)を脳白質内に移植したラットに

おけるカルムスチンの生存時間に対する影響を検討した。カルムスチン投与群として、腫瘍細

胞移植後 14 日に LD10値(13.3 mg/kg)のカルムスチンを腹腔内に単回投与した群、さらにそ

の後 5日、10日又は 14日に 2回目のカルムスチンを投与した群を設定した。カルムスチン非

投与群の生存日数中央値は 23日であった。それに対してカルムスチン単回投与群では 36日、2

回投与群では、いずれも 52 ないし 52.5 日となり生存時間の延長が認められた。

また、9L-ラット神経膠肉腫細胞をラット脳白質内に移植し、移植後 16 日にカルムスチン

(13.3 mg/kg)腹腔内投与と放射線治療(XRT)を併用したときの生存時間延長効果を検討した。

放射線は、カルムスチン投与前 6時間、投与直後、又は投与後 6時間に照射した。対照群の生

存日数中央値は 22日であった。それに対しカルムスチン単独群では 43日、XRT 単独群では 32.5

日であった。カルムスチン投与前 6時間に放射線を照射した群では 87.5 日、カルムスチンと放

射線の同時処置群では 78.5 日、カルムスチン投与後 6時間に放射線照射した群では 66 日とな

り、いずれも有意な併用効果が認められた(P<0.01)。

さらに外科的脳腫瘍切除とカルムスチン腹腔内投与を併用したときの生存時間についても検

討した。9L-ラット神経膠肉腫細胞をラット脳白質内に移植し、移植後 16日に腫瘍切除術を行

った。カルムスチンは切除術前 24、12、1 時間、同時、又は切除術後 1、12、24、72 時間に、

13.3 mg/kg を腹腔内投与した。対照群の生存日数中央値は 24.5 日であり、切除術群では 38 日

であった。それに対してカルムスチンと切除術併用群では、いずれも生存時間延長効果が確認

され、特に切除術前 1時間、切除術後 1時間あるいは 12 時間のカルムスチン投与がもっとも併

用効果が顕著(生存日数中央値 74~76 日)であった。

以上のように、カルムスチンは頭蓋内に腫瘍を移植した動物において、静脈内及び腹腔内投

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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与(全身投与)いずれにおいても抗脳腫瘍効果を示した。

(3) カルムスチン含有ポリマーの効力薬理試験

ポリフェプロサン 20(CPP:SA=20:80 の共重合体)に生体適合性が認められたことから、これ

にカルムスチンを含有させ脳内に局所投与したとき、カルムスチンが安定してコントロールリ

リースされるか否か検討した。

3H 標識したカルムスチンを 10%含有したポリマー12 mg(カルムスチンとして 1200 µg 含有)

をウサギ脳内に埋植し、埋植後 3、7、14、21 日に脳スライスを作成してカルムスチンの脳内分

布をオートラジオグラフにて測定した。埋植後 3日では全脳の 58.5%に、7日では 18%に、ま

た 14、21 日では 10%以下に放射活性が認められた。

ラット 9L-神経膠肉腫モデルを用いて、カルムスチンを腫瘍内に直接投与した群と、カルム

スチンを 20%含有したポリマーを埋植した群の生存時間の比較を検討した。即ち、ラット脳内

に腫瘍細胞を移植し、移植後5日にカルムスチンを1又は2 mgを脳内腫瘍部に直接投与した群、

ポリマー単独、又は 20%カルムスチン含有ポリマー10 mg(カルムスチンとして 2 mg)を埋植

した群を設定した。ポリマー単独投与群の生存日数中央値は 15.5 日であった。カルムスチンの

1 mg 及び 2 mg 直接投与群では、それぞれ 19 日及び 21日となり有意な生存時間の延長効果は

認められなかったが、20%カルムスチン含有ポリマーを埋植した群では 57.5 日となり、271%

の有意な生存時間延長効果が認められた(P<0.01)。

ヒト脳腫瘍は他臓器にできた腫瘍が脳に転移して生じる場合が多い。脳への転移率の高い腫

瘍として悪性黒色腫、肺がん、腎がん、結腸がんなどがある。特に悪性黒色腫では高い比率で

脳への転移が認められる。マウスを用いて、脳内に悪性黒色腫細胞、肺がん細胞、腎がん細胞、

結腸腺がん細胞をそれぞれ移植して、カルムスチン含有ポリマー単独、あるいは XRT 併用によ

る生存時間延長効果を検討した。移植したがん種と細胞数は、B16-F10 melanoma細胞 102cells、

Lewis lung carcinoma 細胞 104cells、Renal cell carcinoma 細胞 104cells、又は CT26(colon

adenocarcinoma)細胞 104cells であった。対照としてポリマーのみを埋植した場合の各担がん

動物の生存日数中央値はそれぞれ 21.5 日、21日、12 日、23.5 日であった。ポリマーに含有さ

せるカルムスチンの量は、ポリマー単独の場合は 20%、XRT 併用の場合は 10%とし、腫瘍細胞

移植後 5日に脳内に埋稙した。XRT との併用では移植後 7~9日に XRT 処置をした。Melanoma

細胞を移植したマウスでは、生存日数中央値はポリマーのみで 21.5 日、XRT のみで 28 日、20%

カルムスチン含有ポリマー単独で 26 日となり、それぞれ有意(P<0.05)な生存時間延長効果を

示したが、カルムスチン含有ポリマーと XRT 併用群では 35日となり有意(P<0.05)な併用効果

が認められた。他の腫瘍移植群でも同様な結果が得られた。

(4) 作用機序

DNA の二重らせん構造の中で、最も重要な遺伝情報を保持する部分は塩基対(base pair)と

呼ばれる。これは DNA における二つの相補的ヌクレオチドの結合で、塩基成分間の水素結合で

安定化されていて、アデニンはチミンと(A-T)、グアニンはシトシンと(G-C)対になっている。

カルムスチンは生体内で分解して、2-クロロエチルジアゾニウムイオンとイソシアネートを生

成する。2-クロロエチルジアゾニウムイオンは強力な電子吸引性を帯び、がん細胞の DNA 鎖の

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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グアニン(O6 位、N7位)、シトシン(N3 位)、アデニン(N1 位、N3位)などをアルキル化する

ことで DNA 二重鎖間の架橋(ミスマッチ)や異常塩基対(C-G に代わって T-G)を形成し、DNA

の複製及び RNA の転写を阻害している。このカルムスチンの作用により DNA は正しい二本鎖構

造をとることができず、この異常構造が細胞分裂の初期、細胞周期の特に G2/M 期のチェックポ

イントの時期において、細胞内のセンサーに認識されると、複数のアポトーシスシグナルが活

性化され腫瘍細胞死をもたらすものと考えられる。カルムスチンの作用は細胞周期に無関係に

働き、G0期の細胞にも及び、増殖が盛んな細胞に対して強い作用を示す。カルムスチンのアル

キル化作用はO6-アルキルグアニン-DNA-アルキルトランスフェラーゼ活性に依存しているがミ

スマッチ修復の影響をほとんど受けない。

2.4.2.2 副次的薬理試験

(添付資料 4.2.1.2-1)

(1) ポリマーの作用

カルムスチンは、種々の動物腫瘍モデルにおいて腹腔内投与で顕著な抗腫瘍作用を示す。カ

ルムスチンは脂溶性薬物であり血液脳関門を通りやすいが、ヒトで静脈内投与した場合、脳に

おいて腫瘍細胞を死に至らしめる濃度に達するには高用量を必要とする。さらにイヌにおいて

カルムスチンの血中半減期は約 15分と短いことからも、脳腫瘍部への局所投与が理想的な投与

形態と考えられた。これにより脳腫瘍細胞へ高濃度のカルムスチンの曝露と、骨髄抑制などの

全身的な副作用の回避が可能と考えられた。

1980 年代半ばより、米国マサチューセッツ工科大学でカルムスチンの担体として生分解性の

ポリマーが研究開発された。開発されたポリマーは、1,3-ビス(p-カルボキシフェノキシ)プロ

パン(CPP)とセバシン酸(SA)の共重合体であった。CPP は疎水性であり、逆に SAは親水性

である。この 2つの比率を変えて重合させる(CPP と SA のモル比を 20:80)ことにより、生分

解性を有するポリマー(ポリフェプロサン 20)を得ることができた。このポリマーをラット脳

内に埋植したとき生体適合性が認められ、埋植後 36 日で消失し、その間、全身性あるいは神経

学的な副作用は認められなかった。

2.4.2.3 安全性薬理試験

(添付資料 4.2.1.3-1~3)

安全性薬理ガイドラインに準拠し、カルムスチンのラット一般症状、イヌ循環器系及び呼吸

器系、in vitro での hERG チャンネルに対する影響を検討した。

ラット一般症状及び行動に対して、カルムスチン 3.33、6.65 及び 13.3 mg/kg を静脈内投与

したが何ら影響は認められなかった。無麻酔無拘束イヌの循環器系及び呼吸器系に対してもカ

ルムスチン 0.5、1及び 2 mg/kg を静脈内投与したとき、何ら影響は認められなかった。HEK293

細胞に発現させた hERG チャンネル電流に対して、カルムスチンの 0.2 及び 2 µM は何ら影響を

及ぼさなかったが、高用量の 20 µM においてもカルムスチンの hERG チャンネル電流阻害率は

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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8.2%と極めて弱いものであった。

以上の結果からカルムスチンを含む本剤を脳内に留置した場合、中枢、循環器及び呼吸器系

に対する影響は極めて少ないと考えられた。

2.4.2.4 薬力学的薬物相互作用試験

該当する試験を実施しなかった。

2.4.3 薬物動態試験

2.4.3.1 吸収

(添付資料 4.2.2.2-1~6参)

(1) 単回投与

ラット及びイヌにカルムスチンをそれぞれ 20 及び 10 mg/kg 静脈内投与したとき、血漿中カ

ルムスチンは消失半減期 16~18 分で速やかに減少した。また、ラットにおける見掛けの分布容

積は 0.55~0.71 L であり、未変化カルムスチンは投与後速やかに組織中へ移行するものと推察

された。

サルに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 静脈内投与したとき、血漿中放射能は、投与後速やか

に減少したのち、2~4時間にかけて上昇、その後、半減期 21~27 時間でゆっくりと消失した。

(2) ポリマーからの放出

カルムスチン含有ポリマーは、in vitro 及び in vivo いずれにおいても生分解性を示した。

カルムスチンは拡散及びカルムスチン含有ポリマーの崩壊を介してポリマーから放出された。

(3) 持続投与(脳内埋植)

ラットに 20% 3H-カルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したとき、埋植後 24 時間以内にカ

ルムスチンの約 50%、5日以内に 90%以上が放出され、またカルムスチン含有ポリマー/組織

接触面で、ヒト悪性神経膠腫腫瘍細胞培養株 U-251 及び SF-126 に対し殺腫瘍細胞性を示すこと

が報告されているカルムスチン濃度(14~15 µM)より 50~130 倍高い濃度のカルムスチンが認

められ、長期間持続した。ウサギに 10% 3H-カルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したとき、

脳内の曝露部位におけるカルムスチン曝露時間は、同量レベルでのカルムスチン直接脳内定位

注射よりも延長した。

2.4.3.2 分布

(添付資料 4.2.2.3-1~6参)

(1) 単回投与

マウスに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 腹腔内投与したとき、投与後 1時間において、小腸

に最も高い放射能濃度(投与量の 12.8%)が認められ、ついで肝臓(投与量の 8.0%)、大腸(投

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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与量の 2.4%)、腎臓(投与量の 2.1%)及び膀胱(投与量の 1.4%)に高い放射能濃度が検出

された。投与後 24時間では、組織内放射能濃度は低下したが、大腸及び肝臓に投与量の 1.4

及び 1.3%の放射能濃度が検出された。また、マウスに 14C-カルムスチンを 20 mg/kg 腹腔内投

与したとき、投与後 2時間において、腎臓及び肝臓に高い放射能が、次いで、肺、脾臓、心臓、

脳の順で血液中よりも高い放射能が認められた。組織内放射能は、その後 2~6時間で急激に減

少したが、投与後 48 時間のこれら組織中に放射能の残留が認められた。

サルに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 静脈内投与したとき、投与後 192 時間において最も高

い放射能濃度は、脾臓に認められ(投与量の 0.022%)、次いで肝臓(0.0096%)及び卵巣

(0.0076%)の順であり、いずれの組織中においても残留する放射能濃度は低値であった。

(2) 脳内埋植

ラットに 1.6% 14C-カルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したとき、埋植後 7日において、

脳、肝臓、脂肪及び血漿中に、それぞれ投与放射能の 0.97%、0.48%、0.17%及び 0.06%が認

められた。埋植後 7日に回収したポリマー中には投与放射能の 3.43%に相当するカルムスチン

が残存した。

(3) 脳脊髄液中濃度

イヌに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 静脈内投与したとき、放射能は、投与後速やかに脳脊

髄液中に検出され、投与後 1分で、血漿中濃度の 18%に達し、カルムスチンの速やかな脳への

移行が示唆された。血漿及び脳脊髄液中放射能濃度は、投与後 15 分以降ほぼ同等で推移した。

また、イヌで、一定の血漿中カルムスチン濃度を維持するため、カルムスチンを持続静脈内注

入したとき、血漿中カルムスチンが一定濃度に到達後の脳脊髄液中カルムスチン濃度は、血漿

中と同様に、ほぼ一定で推移し(血漿中カルムスチン濃度の約 48%)、カルムスチンの脳への

移行が血漿中カルムスチン濃度と関係することが示唆された。注入終了後は、血漿中と同様に

速やかに低下した。

また、サルに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 静脈内投与し、血漿及び脳脊髄液中の放射能濃

度を測定したところ、脳脊髄液中放射能濃度は、投与後 15分で血漿中放射能濃度の 73%に達

し、カルムスチンの速やかな脳への移行が示唆された。2時間後においても、血漿中放射能濃

度の 85~94%に相当する放射能濃度が脳脊髄液中に観察された。

(4) 胎盤通過性

カルムスチンは、動物において胎児毒性及び催奇形性が報告されており、カルムスチンの胎

児移行は明らかである。

(5) たん白質結合

ウサギに 10% 3H-カルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したとき、埋植後 3日において、ポ

リマーから放出された脳内放射能の 46%が組織と結合した。また、カルムスチンは、0℃で、

ヒト血漿たん白質と約 80%が結合した。

(6) ABC トランスポーター

神経膠種由来の U87MG 培養細胞及び U87CS 細胞(癌幹細胞)を用いてカルムスチンの ABC トラ

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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ンスポーターへの影響について検討した。ABC トランスポーMDR1 の発現は、U87CS 細胞で U87MG

細胞に比較し 8.51 倍増加し、BCNU 存在下における細胞生存率は、BCNU 濃度 125 μM 以下にお

いて U87CS 細胞のほうが U87MG 細胞よりも著しく高かった。これらのことから、カルムスチン

は ABC トランスポーターの 1つである MDR1 の基質となると考えられた。

2.4.3.3 代謝

(添付資料 4.2.2.4-1~12 参)

ラットにカルムスチンを 42.8 mg/kg 腹腔内投与したときの胆汁中に 2-chloroethyl

isocyanate のグルタチオン(GSH)抱合体(S-[N-(2-chloroethyl)-carbamoyl]glutathione)が

同定された。

カルムスチンは、ラット及びマウスの肝ミクロソーム NADPH 依存性酵素(P450)及び肝サイ

トソール GSH 依存性酵素(glutathione S-transferase)によって脱ニトロソ化及びグルタチオ

ン抱合を受け、主要代謝物として 1,3-bis(2-chloroethyl)urea(BCU)及び

1-chloroethyl-3-ethyl-glutathionylurea に代謝された。肝ミクロソーム NADPH 依存性のカル

ムスチン脱ニトロソ化には、P450 2B1 の関与が示唆された。

ウサギに 3H-カルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したとき、埋植後 3日の脳において、ポ

リマーから放出された脳内放射能の 26%が未変化カルムスチンで、24%が極性化合物であった。

また、ラットに 14C-カルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したとき、カルムスチンの一部は、

CO2に代謝され、埋植後 7日間の呼気中に投与放射能の 4.7%が 14C-CO2として排泄された。

カルムスチンはヒトにおいて、①主に NADPH 依存的なミクロソーム代謝による脱ニトロソ反

応によって BCU に代謝される、②化学的に 2-chloroethyl isocyanate を生成し、主に非酵素的

に GSH によって捕捉されて GSH 抱合体に代謝される、③化学的に 2-chloroethyl isocyanate

を生成し、生体高分子と複合体を形成する、④NADPH 依存的なミクロソーム代謝によって一部

が CO2に代謝される、と推察された。

2.4.3.4 排泄

(添付資料 4.2.2.5-1 参、4.2.2.5-2、4.2.2.5-3~4 参、4.2.2.5-5)

(1) 単回投与

マウスに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 腹腔内投与、皮下投与又は経口投与したとき、いず

れの投与経路においても投与後 24時間までの尿及び糞中に、投与放射能の 75~82%及び 1.4

~2.7%が、それぞれ排泄された。また、呼気中に、投与量の 7~10%の 14C-CO2が排泄された。

マウスにおけるカルムスチンの主排泄経路は、尿中であった。

サルに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 静脈内投与したとき、投与後 48時間までの尿及び糞中

に投与放射能の 63~71%及び 0.5~1.2%が、それぞれ排泄された。また、投与後 5時間までの

呼気中に、投与量の 2%以下の 14C-CO2が排泄された。サルにおけるカルムスチンの主排泄経路

も尿中であった。

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

10

なお、イヌに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 静脈内投与したとき、投与後 6時間までの尿中

に投与量の 28~30%が排泄された。

(2) 持続投与(脳内埋植)

ラット及びウサギに 1.6% 14C-カルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したとき、いずれの動

物種においても埋植後 7日間で投与放射能の約 60%が尿中に排泄された。糞中への排泄は、ラ

ットで約 5%、ウサギで約 2%であった。脳内埋植したときも、カルムスチンは、主に腎臓を介

して尿中に排泄されるものと考えられた。なお、ラットでは、投与量の約 5%が呼気中に排泄

された。

(3) 胆汁中排泄

ラットにカルムスチンを 42.8 mg/kg 腹腔内投与したとき、投与後 4時間までの胆汁中に、投

与量の 3.9%が 2-chloroethyl isocyanate のグルタチオン(GSH)抱合体

(S-[N-(2-chloroethyl)-carbamoyl]glutathione)として排泄された。

(4) 乳汁移行性

授乳ラットに 14C-カルムスチンを 6.65 mg/kg 単回静脈内投与し、乳汁及び血漿中放射能濃

度を測定した。乳汁中放射能濃度は、投与後 2時間を除いて血漿中放射能濃度を上回り(血漿

中放射能濃度の 0.98~2.21 倍)、乳汁中放射能濃度の Cmax及び AUC0-tは血漿中放射能濃度の Cmax

及び AUC0-tのそれぞれ 2.21 及び 1.28 倍であり、カルムスチン及び/又はその代謝物の乳汁中移

行性が示された。

2.4.3.5 薬物相互作用

(添付資料 4.2.2.6 参)

ラット及びマウスにカルムスチンを20及び30 mg/kg単回腹腔内投与したとき、ラットでは、

投与後 14日において肝ミクロソーム P-450 含量は約 18%、ethylmorphine N-demethylase 活性

は約 36%減少し、また、マウスでは、投与後 21日において肝ミクロソーム P450 含量及び総

ethylmorphine 代謝活性は著しく減少し、benzo(α)pyrene hydroxylase 活性は著しくに増加し

たことから、カルムスチンは動物において肝薬物代謝酵素を阻害又は誘導するものと推察され

た。

カルムスチンは aldehyde dehydrogenase 1 の活性を競合阻害(Ki = 1.95 μmol/L)するこ

とによって、シクロホスファミドの活性代謝物である 4-ヒドロキシシクロホスファミドの濃度

を維持しているものと推察される。また、カルムスチンは、グルタチオン還元酵素(glutathione

reductase )の活性を阻害することも報告されている。これらのことから、カルムスチンはヒ

トの薬物代謝酵素に対する阻害作用を示すものと推察される。

カルムスチンは、アルキル化剤であるシクロホスファミド及びイホスファミドの活性体生成

の Vmax値は変えずに Km値のみを数倍(3.8~8.3 倍)増加させ、これらのアルキル化剤の活性化

を拮抗阻害することが示唆された。また、フェノバルビタール、デキサメタゾンの前処置によ

ってカルムスチンの脱ニトロソ化代謝活性が最高 5倍まで増強した。

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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2.4.3.6 その他の薬物動態試験(SA 及び CPP の体内動態)

(添付資料 4.2.2.7-1、4.2.2.7-2 参、4.2.2.7-3~4参)

14C-SA 又は 14C-CPP を含む 1.6%カルムスチン含有ポリマーを調製し、ラット及びウサギの脳

内に埋植したときの、SA及び CPP 由来の放射能の組織内濃度及び排泄について検討した。

14C-SA 由来の放射能は、ラットでは、埋植後 7日間において、投与放射能の約 46%が 14C-CO2

として呼気中に排泄された。また、約 11%及び 1%が尿及び糞中にそれぞれ排泄され、組織中

には約 9%及び摘出回収されたポリマー中には 8.3%が残存した。また、ウサギにおいても、埋

植後 7日間の尿及び糞中に、約 9%及び 1.2%がそれぞれ排泄され、7日後の組織及び摘出回収

ポリマー中の残存量と合わせた総回収率は、投与放射能の約 29%であった。

14C-CPP 由来の放射能のラット及びウサギにおける埋植後 7日間の尿及び糞への総排泄率は、

投与放射能の約 4%であり、埋植後 7日にラットから摘出回収したポリマー中に約 97%が残存

した。ウサギで埋植後 21日までの排泄量を測定したところ、放射能の排泄は、埋植後 9日以降

に、急激に増加し、21日間では、投与放射能の 61.8%及び 1.7%が尿及び糞中にそれぞれ排泄

され、埋植後 21 日の回収ポリマー中残存放射能は 28.9%であった。

2.4.4 毒性試験

2.4.4.1 単回投与毒性試験

(添付資料 4.2.3.1-1~3参)

カルムスチンの静脈内投与による単回毒性試験をマウス、イヌ及びサルを用いて検討した。

マウスの LD50値は雄で 51 mg/kg、雌で 63 mg/kg であった。病理組織学的変化として肝臓では

肝細胞の空胞変性・壊死を伴う巨大肝細胞の出現あるいは過形成結節が認められ、多くの例で

門脈域の炎症及び浮腫を伴っていた。また、腎臓ではたん白様構造物を含む尿細管拡張及び尿

細管の退行変性、十二指腸では粘膜変性及び絨毛の短縮、脾臓及びリンパ節ではリンパ球の減

少及び肋骨骨髄の形成不全が認められた。

イヌの単回静脈内投与試験における概略致死量は 4 mg/kg であった。病理組織学的変化とし

ては、各種リンパ系器官におけるリンパ球の減少、骨髄形成不全及びこれらリンパ系器官の抑

制に伴う二次的変化として細菌感染によると考えられる炎症・うっ血が、肺、肝臓、リンパ節、

扁桃などに観察された。

サルの静脈内単回投与試験では 26.4 mg/kg の雄で投与後 7、8日に嘔吐、軟便及び体重減少

がみられ、投与後 8日に瀕死期屠殺した。致死量は 26.4 mg/kg 付近と考えられた。病理組織学

的変化では、26.4 mg/kg 投与後 7日で各種リンパ系器官でのリンパ球の減少及びヘモジデリン

沈着や骨髄形成不全などがみられた。

2.4.4.2 反復投与毒性試験

(添付資料 4.2.3.2-1~6参)

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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(1) カルムスチンの静脈内投与

イヌにカルムスチン(0、0.25、0.5、1、2 及び 4 mg/kg/日)を 5日間静脈内投与した結果、

0.5 mg/kg 以上から白血球数、好中球比、網状赤血球数の減少とリンパ球比の増加が認められ

た。カルムスチン 2 mg/kg の雄及び 4 mg/kg で GOT 及び GPT の増加が、また、1 mg/kg 以上の

一部の動物で BSP 滞留時間及び ALP の増加が認められた。病理組織学的変化では 1 mg/kg 以上

でリンパ系器官におけるリンパ球の減少、骨髄の形成不全、肝臓の胆管増生、壊死などが認め

られた。無毒性量は 0.25 mg/kg と考えられる。

サルにカルムスチン(0、0.83、1.67、3.3、6.6、13.2 mg/kg/日)を 5日間静脈内投与した

結果、6.6 mg/kg 以上で網状赤血球数の減少及び血小板数の減少傾向が認められた。3.3 mg/kg

以上より白血球数の減少、GOT 及び GPT の増加傾向が、6.6 mg/kg 以上より GLU 及び BSP 滞留時

間の増加が、そして 13.2 mg/kg で BUN、Na、Mg の増加が認められた。病理組織学的変化では

6.6 mg/kg 以上でリンパ系器官におけるリンパ球の減少、骨髄の形成不全などが認められた。

無毒性量は 0.83 mg/kg と考えられる。

(2) 脳内留置用剤を用いた毒性試験

ウサギの脳内にポリマー又は 3.85%カルムスチン含有脳内留置用剤(以下製剤と略す、カル

ムスチン投与量は 0.257 mg/kg 相当)を埋植後 4週間にわたって、症状、行動変化に対する影

響を検討するとともに、脳の剖検及び病理組織学的検査を実施した。ポリマー群及び製剤群い

ずれにおいても埋植周囲の脳組織で壊死が観察され、その程度は製剤群の方がやや強く認めら

れたが、投与後 4週間では両群ともに観察されなかった。その他、埋植周囲における単核細胞

浸潤、埋植部位の大脳皮質での出血及び異染性・退行性炎症細胞浸潤などが観察されたが、ポ

リマー群及び製剤群の間には差は認められなかった。

次に、ウサギを用いて 40週間の脳内埋植による毒性試験を実施した結果、症状及び異常行動

にはポリマー群と製剤との間に差は認められなかった。埋植後 4週の病理組織学的検査ではい

ずれの投与群にも脈絡叢の空胞化・うっ血及び埋植側の外包(レンズ核被膜)の空胞化が一様

にみられた。埋植部位の壊死に関しては製剤群で高頻度にみられた。しかし、これらの異常は

埋植後 40週では単核細胞浸潤を除きおおむね消退した。

また、製剤埋植における TK を検討する目的で、埋植後 1、3及び 5日に血液、脳脊髄液及び

脳組織を採取し、それぞれのカルムスチン濃度を測定した。その結果、埋植後 1、3、5日に採

取した血液、脳脊髄液及び脳組織からはカルムスチンは検出されなかった。

サルを用いて脳内にポリマー又は 20%カルムスチン含有脳内留置用剤(以下、20%製剤:カ

ルムスチン 8 mg/kg 相当)を埋植して 40週間の症状などの影響を検討するとともに、脳の剖検

及び病理組織学的検査を実施した。20%製剤群の 1例が 1週間にわたり衰弱したほかは、体重、

血液学的検査、血液生化学的検査、器官重量にはポリマー群と 20%製剤群との間に差は認めら

れなかった。病理組織学的検査では両群の埋植部位に出血性壊死がみられ、20%製剤群では投

与後 4週でも認められた。また、投与後 4~13 週以降では脳炎が主にみられたが、両群に差は

なかった。埋植部位以外の脳部位では髄膜動脈の内膜過形成、髄膜硬化などが観察されたが両

群の間には差は認められなかった。

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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2.4.4.3 遺伝毒性試験

(添付資料 4.2.3.3.1-1~2 参、4.2.3.3.2-1~2参)

カルムスチンは細菌を用いる復帰突然変異試験、肺線維芽細胞を用いる染色体異常試験、マ

ウス骨髄細胞を用いる in vivo 染色体異常試験及びマウス小核試験において、いずれも陽性を

示した。これらの作用はアルキル化剤に共通の遺伝毒性と考えられた。

2.4.4.4 がん原性試験

カルムスチンは明らかに遺伝毒性物質であり、がん原性試験においても、マウスでは肺腫瘍

及びリンパ肉腫などが、ラットでは胸部、肺及び皮下組織に腫瘍が認められており、カルムス

チンががん原性を有することは明らかである。本邦ガイドラインにおいて、進行性がんの治療

を目的とした抗悪性腫瘍剤などでは、通常がん原性試験を必要としないとされていることから、

がん原性試験を実施しなかった。

2.4.4.5 生殖発生毒性試験

(添付資料 4.2.3.5.1-1~2 参、4.2.3.5.2-1~2参、4.2.3.5.3-1 参)

ラットの受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験において、雄ラット投与試験ではカ

ルムスチン(1~8 mg/kg/週)を交配前 9週間から交配期間中まで、週 1回腹腔内投与した。投

与後 9週、無処置雌ラットと交配させ、雌ラットの妊娠 20日に剖検して胎児・胚の観察を行っ

た。カルムスチン 4 mg/kg/週以上で雄ラットでは体重及び摂餌量の低下、振戦及び下痢が観察

され、8 mg/kg/週では死亡又は瀕死期屠殺が 14/20 匹に認められた。4及び 8 mg/kg/週では、

雌ラットの妊娠率の減少傾向、着床数、黄体数及び同腹児数の減少が、また 4 mg/kg/週では吸

収胚数の増加も認められた。1 mg/kg/週では着床数及び同腹児数が減少し、さらに着床後胚死

亡率も用量に依存した増加傾向を示し、雄の生殖能への影響が示唆された。以上の結果から、

カルムスチンの雄ラットに対する一般毒性学的無毒性量は 1 mg/kg/週、生殖能及び胚・胎児に

対する無毒性量は 1 mg/kg/週未満であった。

また、雌ラットに交配前 2週間より交配期間中及び妊娠 20日までカルムスチン(0.25~1.5

mg/kg/日)を毎日腹腔内投与した試験においては、0.75 mg/kg/日以上で胚吸収率の増加、着床

数及び妊娠率の減少が認められ、母動物では体重増加量及び摂餌量の低下が認められた。以上

の結果から、母動物の一般毒性・生殖能に対する無毒性量は 0.25 mg/kg/日、胚・胎児に対す

る無毒性量は 0.25 mg/kg/日であった。

胚・胎児発生に対する影響を検討した試験では、雌ラットの妊娠 6~15 日間にわたってカル

ムスチン(1.5 mg/kg)を腹腔内投与する試験に加え、妊娠期間を妊娠 6~9日、9~12 日及び

12~15 日に区分して 1~4 mg/kg/日を投与した試験を実施した。妊娠 20日に剖検して胚・胎児

の生存数と体重測定、性比及び形態的観察を行った。胎児では、吸収胚数の増加、胎児体重の

低値及び奇形(異所性心、脳ヘルニア、胸腹部の閉鎖不全、眼及び中枢神経系の異常、臍ヘル

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

14

ニア、骨格の癒合・化骨不全など)が認められた。カルムスチンの臨界期は妊娠 6~9日にあた

ると推定され、奇形の発現は 1 mg/kg/日より認められた。母動物の一般毒性・生殖能及び胚・

胎児に対する無毒性量は 1 mg/kg/日未満であった。

ウサギを用いた試験ではカルムスチン(0.5~4 mg/kg/日)を妊娠6~18日に静脈内投与した。

4 mg/kg を投与された母動物では顕著な体重減少がみられ、死亡又は瀕死期屠殺が妊娠 25~28

日の間で 3/15 匹に認められた。その他流産なども認められ、生存胎児が得られた母動物は 1

匹のみであった。着床痕数、黄体数、吸収胚数及び同腹児数には異常はなかったが、カルムス

チン投与により胎児の体重低下(0.5mg/kg/日以上)、外形、骨格及び内臓奇形(水頭症、腎盂の

拡張、骨格変異)が認められた。カルムスチンのウサギの器官形成期投与における母動物の一

般毒性・生殖能に対する無毒性量は 2 mg/kg/日、胚・胎児に対する無毒性量は 0.5 mg/kg/日未

満であった。

出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に対する影響をラットで観察した結果、妊娠期間

はやや延長したものの、難産や分娩時間への影響などは認められなかった。新生児の生後 4日

までの体重増加率、離乳までの生存率に対しても影響は認められなかった。しかし、生後 21

日の体重は低値となった。カルムスチンの親動物に対する一般毒性及び生殖能に対する無毒性

量は 0.75 mg/kg/日、胚・出生児に対する無毒性量は 0.25 mg/kg/日であった。

2.4.4.6 局所刺激性試験

(添付資料 4.2.3.6-1 参)

3.85%カルムスチン含有脳内留置用製剤の 5種類のロットにつき、ウサギの傍脊椎筋の左右

に埋植して、埋植部位を 8日間観察し、肉眼観察及び病理組織学的検査を行った結果、埋植し

たすべての部位で肉芽組織による被包化が認められ、筋線維の変化/壊死、炎症性細胞の浸潤、

線維症/被包化、筋線維の再生像が認められた。これらの影響に対するロット間の差は認められ

なかった。

2.4.4.7 その他の毒性試験

2.4.4.7.1 添加物ポリマーの毒性試験

(添付資料 4.2.3.7-1、4.2.3.7-2~3 参、4.2.3.7-4~6、4.2.3.7-7~8)

(1) ラットの 2週間皮下埋植による毒性試験

ラットにポリマー(0、200、600、2000 mg/kg)の粉末を皮下に埋植し、2週間観察した結果、

一般状態、体重、摂餌量、眼科学的検査、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査、器官重

量に対してポリマーによる異常は認められなかった。剖検では、600 mg/kg から皮下の結節が

認められ、投与部位に単核細胞の細胞浸潤、肉芽組織、出血及び浮腫が認められた。これらの

変化は対照群の偽処置でも同様に観察され、他の検査項目に影響を及ぼさないことから無毒性

量は 2000 mg/kg 以上と考えられた。

(2) ラットの 8週間皮下埋植による毒性試験

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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ラットにポリマー成型体(1及び 3枚/ラット)を背部皮下組織に埋植(それぞれ 800 及び 2400

mg/kg に相当)し、8週間観察した結果、死亡が対照群の埋植後 3週に 1例、埋植後 5週に 2

例、800 mg/kg 群の埋植後 5週に 1例が認められ、過剰の出血によると考えられた。血液学的

検査では好中球及びリンパ球の軽微な変動が 800 及び 2400 mg/kg 群で認められた以外、他の検

査値にはいずれの観察時期でも異常は認められなかった。これらの変化は軽微であることから

ラットの皮下埋植によるポリマーの生体適合性は十分にあると考えられた。

(3) ウサギ 8週間脳内埋植による毒性試験

ポリマー成型体を 2×2×2 mm に裁断し、ウサギの片側の前頭葉に埋植し、反対側にはゼルフ

ォーム(滅菌吸収性ゼラチンスポンジ)を挿入した。神経行動検査、埋植後 1、3、7、21 及び 60

日に剖検、病理組織学的検査を実施した。神経行動には異常はみられなかった。脳の病理組織

学的所見ではポリマー及びゼルフォームともに埋植初期に浮腫、壊死、多形核白血球及び神経

膠細胞の増殖が認められた。埋植後 7日ではポリマーの方が壊死の程度がやや強くみられたが、

埋植後 21日では神経膠細胞の減少、ヘモジデリン沈着及びリンパ球などの浸潤の程度は両者で

差がなかった。その他の病理学的所見には大きな差は認められなかった。

(4) 細菌を用いる復帰突然変異試験

ポリマーの復帰突然変異誘発性につきネズミチフス菌株を用いて、S9 mix 非存在下及び存在

下で 1000~5000 µg/プレートで実施した結果、S9 mix の有無にかかわらず、いずれの試験菌株

においても菌の生育阻害は認められず、復帰変異コロニー数の増加はなかった。ポリマーは変

異原性を有さないと考えられた。

(5) ほ乳類培養細胞を用いた染色体異常試験

ポリマー(1000~5000 µg/mL)の染色体異常誘発性につき雌チャイニーズハムスター肺由来

の細胞株 CHL/IU を用いて、S9 mix 非存在下及び存在下において検討した結果、種々の処理条

件においても染色体異常細胞の出現頻度は 5%未満であり、ポリマーは染色体異常誘発性を有

さないと考えられた。

(6) ラット胚・胎児発生に関する試験

妊娠 7日の雌ラットにポリマーの 0、200、600 及び 2000 mg/kg を皮下埋植し、母動物の一般

状態を観察するとともに、妊娠 20 日に剖検して黄体数及び着床状態の観察と胎児の体重と形態

観察を実施した。ポリマーは母動物の一般状態、黄体数、着床数、着床率、着床前死亡数、着

床前死亡率及び胎児の体重や形態形成に対して影響を与えなかった。従って、母動物に対する

一般毒性及び生殖機能に対する無毒性量、胚・胎児発生に対する無毒性量は 2000 mg/kg 以上と

判断される。

また、雌ラットの妊娠 7~17日にポリマーの構成モノマーであるセバシン酸の 0、40、200

及び 1000 mg/kg を皮下投与した結果、母動物では、剖検所見として 200 mg/kg 以上で投与部位

の皮下脂肪組織の褐色化が認められた以外に、一般状態、体重及び摂餌量に影響は認められな

かった。胚・胎児では、黄体数、着床数、生存胎児数、胚死亡率及び胎児体重や形態形成に対

して影響は認められなかった。従って、母動物に対する一般毒性及び生殖能に対する無毒性量、

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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胚・胎児発生に対する無毒性量は 1000 mg/kg 以上と考えられる。

(7) ウサギの筋肉内埋植による局所刺激性試験

ウサギの傍脊椎筋にポリマーを埋植し、1週間後の埋植部位への刺激反応を検討した結果、

埋植した大部分の部位に肉芽組織による被包化及び紅斑が認められ、筋線維の変性/壊死、膿瘍、

出血、慢性炎症が認められた。

2.4.4.7.2 類縁物質の毒性試験

(添付資料4.2.3.7-9)

本剤の原薬及び製剤の類縁物質であるBCU及び2-クロロエチルアミンをラットに単回腹腔内

投与し、投与後 3 日間の毒性をカルムスチンと比較した。カルムスチンは最大臨床用量の

倍量に相当する 10 mg/kg を、BCU 及び 2-クロロエチルアミンはそれぞれの規格限度値の 倍

量に相当する 0.2 mg/kg 及び 0.02 mg/kg を投与した。血液学的検査において、カルムスチン投

与群では、骨髄の有核細胞数の減少及び M/E 比の低下、血中のリンパ球数、好中球数及び好酸

球数の減少を伴った白血球数の減少、及び胸腺重量の減少が認められた。BCU 投与群では、カ

ルムスチン投与群に比べて軽度な骨髄の有核細胞数の減少及び M/E 比の低下が認められたが、

その他に異常はなかった。2-クロロエチルアミン投与群では異常は認められなかった。その他、

一般状態、体重、血液生化学的検査、病理解剖検査及び病理組織学的検査では、カルムスチン

及び両類縁物質ともに異常は認められなかった。

以上の結果から、ラットにカルムスチンの類縁物質 BCU 及び 2-クロロエチルアミンをそれぞ

れの規格限度値の 倍量単回腹腔内投与したとき、BCU ではカルムスチンでみられた骨髄の有

核細胞数の減少及び M/E 比の低下が軽度ながら認められたものの、その他の毒性所見(白血球

数の減少)あるいは新たな毒性は認められないことから、本剤の類縁物質の安全性には問題が

ないと考えられる。

2.4.5 考察及び結論

(1) 薬理試験

カルムスチンはがん細胞の DNA をアルキル化することで DNA 二重鎖間の架橋や異常塩基対

(C-G に代わって T-G)を形成し、DNA の複製及び RNA の転写を阻害している。このカルムスチ

ンの作用により DNA は正しい二本鎖構造をとることができず、この異常構造が細胞分裂の初期、

細胞周期の特に G2/M 期のチェックポイントの時期において、細胞内のセンサーに認識されると、

複数のアポトーシスシグナルが活性化され腫瘍細胞死をもたらすものと考えられる。カルムス

チンの作用は細胞周期に無関係に働き、G0期の細胞にも及び、増殖が盛んな細胞に対して強い

作用を示す。カルムスチンのアルキル化作用は O6-アルキルグアニン-DNA アルキルトランスフ

ェラーゼ活性に依存しているがミスマッチ修復の影響をほとんど受けない。

In vitro 試験で、カルムスチンはヒト神経膠芽腫細胞(EFC-2)のコロニー形成能を 7.8 µg/mL

の ED50値で抑制する。この値は、本邦で上市されている NU系の薬剤であるニムスチンの ED50

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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値(6.5 µg/mL)と同程度であった。動物を用いた in vivo 試験でもカルムスチンの抗腫瘍作用

が確認されている。ヒト神経膠芽腫細胞(U-87 MG)を頭蓋内に移植したヌードマウス及び 9L-

ラット神経膠肉腫細胞を脳白質内に移植したラットを用いて検討した実験において、カルムス

チンの腹腔内投与は動物の生存日数を延長した。これらの結果から、カルムスチンの脳腫瘍に

対する抗腫瘍作用が明らかとなった。

また、XRT とカルムスチン投与との併用治療した実験では、9L-ラット神経膠肉腫細胞をラッ

ト脳白質内に移植後、カルムスチンの腹腔内投与と XRT を併用したとき、対照群の生存日数中

央値は 22.0 日であったのに対し、カルムスチン単独群では 43.0 日、XRT 単独群では 32.5 日、

カルムスチン投与後 6時間に放射線を照射した群では 66.0 日、カルムスチンと放射線の同時処

置群では 78.5 日、カルムスチン投与前 6時間に放射線を照射した群では 87.5 日となり、いず

れも有意な併用効果が認められた。

臨床的には外科手術により脳腫瘍を切除した後、カルムスチンが投与されることから、9L-

ラット神経膠肉腫細胞を脳白質内に移植したラットを用いて検討した。カルムスチンは切除術

前 24、12、1 時間、同時、又は切除術後 1、12、24、72 時間に、13.3 mg/kg を投与した。対照

群の生存日数中央値は 24.5 日であり、切除術群では 38日であった。それに対してカルムスチ

ンと切除術併用群では、いずれも生存日数延長効果が確認され、特に切除術前 1時間、切除術

後 1時間あるいは 12 時間のカルムスチン投与がもっとも併用効果が顕著(生存日数中央値 74

~76 日)であった。以上の結果から、カルムスチンの腹腔内投与と脳腫瘍切除術との併用によ

り、それぞれの単独群に比べて延命効果は増強されることが明らかとなった。

カルムスチンは脂溶性薬物で血液脳関門を通りやすいが、ヒトで静脈内投与した場合、脳に

おいて腫瘍細胞を死に至らしめる濃度に達するには高用量を必要とする。さらにイヌにおいて

カルムスチンの血中半減期は約 15分と短い。従って、脳腫瘍細胞への高濃度のカルムスチンの

曝露と、骨髄抑制などの全身的な副作用の回避が可能な脳腫瘍部位への局所投与が理想的な投

与形態と考えられる。1980 年代半ば、米国マサチューセッツ工科大学でカルムスチンの担体と

しての生分解性を有するポリマーが開発された。このポリマーは CPP と SA の共重合体で、CPP

は疎水性であり、逆に SAは親水性である。このポリマーをラット脳内に埋植したとき、生体適

合性が認められ、埋植後 36 日でほぼ消失し、その間、全身性あるいは神経学的な副作用は認め

られなかった。そこでポリマーにカルムスチンを含有させ、脳内に局所埋植したとき、カルム

スチンが安定してコントロールリリースされるかを検討した。3H 標識したカルムスチンを 10%

含有したポリマー(カルムスチンとして 1200 µg 含有)をウサギ脳内に埋植し、埋植後 3、7、

14、21 日に脳スライスを作成してカルムスチンの脳内分布をオートラジオグラフにて測定した

結果、埋植後 3日では全脳の 58.5%に、7日では 18%に、また 14、21 日では 10%以下に放射

活性が認められた。

カルムスチン含有ポリマーの延命作用をラット 9L-神経膠肉腫モデルを用いて検討した試験

において、ポリマー単独又は 20%カルムスチン含有ポリマー(カルムスチンとして 2 mg)を埋

植した群とカルムスチン 1及び 2 mg/kg を脳腫瘍部位へ直接投与した群を比較したとき、ポリ

マー単独投与群の生存日数中央値は 15.5 日、カルムスチンの 1 mg 及び 2 mg 直接投与群では、

それぞれ 19 日、21日となり有意な生存時間の延長効果は認められなかったが、20%カルムス

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

18

チン含有ポリマーを埋植した群では 57.5 日となり、有意な生存時間延長効果が認められた

(P<0.001)。

ヒト脳腫瘍は他臓器にできた腫瘍が脳に転移して生じる場合が多い。脳への転移率の高い腫

瘍として悪性黒色腫、肺がん、腎がん、結腸がんなどがある。特に悪性黒色腫では高い比率で

脳への転移が認められる。そこでマウスを用いて、脳内に悪性黒色腫細胞(B16-F10 melanoma

細胞)、肺がん細胞(Lewis lung carcinoma 細胞)、腎がん細胞(Renal cell carcinoma 細胞)、

結腸腺がん細胞(CT26(colon adenocarcinoma)細胞)をそれぞれ移植して、カルムスチン含

有ポリマー単独、あるいは XRT 併用による生存日数延長効果を検討した。対照としてポリマー

のみを腫瘍細胞移植後 5日に埋植した場合の各担がん動物の生存日数中央値はそれぞれ 21.5

日、21 日、12日、23.5 日であった。ポリマーに含有させたカルムスチン量は、ポリマー単独

の場合は 20%、XRT 併用の場合は 10%を用いた。悪性黒色腫細胞を移植したマウスでは、生存

日数中央値はポリマーのみでは 21.5 日であったのに対し、XRT のみで 28日、20%カルムスチ

ン含有ポリマー単独で 26日となり、それぞれ有意な生存日数延長効果を示し、さらに 10%カ

ルムスチン含有ポリマーと XRT 併用群では 35 日となり、より強い併用効果が認められた。他の

腫瘍移植群でも同様な結果が得られた。

安全性薬理試験では、ラットの一般症状や行動、イヌの呼吸器系及び循環器系、in vitro の

hERG チャンネルに対してカルムスチンはほとんど影響を与えなかった。従って、本剤を脳内に

留置した場合の中枢系、呼吸器系、循環器系への影響は極めて少ないと考えられた。

以上をまとめると、脳内留置用カルムスチン徐放製剤として、本剤を脳腫瘍の切除術時の切

除部に留置することにより、末梢組織を経由することなく脳腫瘍部位に選択的に適用できるこ

と、また、投与量も少ないことから、副作用の発現は抑えられ、残存した腫瘍細胞を殺傷し、

延命効果が期待できると考えられる。

(2) 薬物動態試験

本剤は、カルムスチンを 3.85%含んだ生分解性ポリマーであり、悪性神経膠腫の組織を外科

的に取り除いたあとに脳内留置し、患部におけるカルムスチン濃度を長期間維持することを目

的とした製剤であるため、カルムスチンの薬物動態を、全身循環系に投与したときと、カルム

スチン含有ポリマーを脳内埋植したときとで比較することは、本剤の有効性評価及び安全性評

価に有用と考える。

ラット及びイヌにカルムスチンを 20 及び 10 mg/kg 静脈内投与したとき、血漿中カルムスチ

ンは速やかに減少した(消失半減期:ラット 16~18 分、イヌ 15 分未満)。また、ラットにおけ

る見掛けの分布容積は 0.55~0.71 L であり、未変化カルムスチンは投与後速やかに組織中へ移

行するものと推察された。

一方、サルに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 静脈内投与したとき、血漿中放射能は、投与後速

やかに減少したのち、2~4 時間にかけて上昇、その後、半減期 21~27 時間でゆっくりと消失

した。これらのことから、カルムスチンは投与後速やかに組織中に移行し代謝を受け、生成し

た代謝物が再び血中に放出されゆっくりと消失したか又は腸肝循環が関与したものと推察され

た。血漿中放射能濃度の消失が緩やかであった理由・機序については以下のように考える。

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

19

カルムスチンのサルにおける主要排泄経路は尿中排泄であり(投与後 48 時間中に、尿:63~71%、

糞:0.5~1.2%)、投与後 4時間以降は、図 2.6.4.3-2 示すように血漿中放射能濃度とほぼ反比

例して尿中排泄量が増加していることから、血漿中放射能濃度の緩やか消失は、尿中排泄が律

速となっているものと推察された。

イヌ及びサルに 14C-カルムスチンをそれぞれ 10 mg/kg 静脈内投与し、血漿及び脳脊髄液中の

放射能濃度を測定したところ、脳脊髄液中放射能濃度は、投与後 1分及び 15 分で、それぞれ血

漿中濃度の 18%及び 73%に達し、カルムスチンの速やかな脳への移行が示唆された。また、イ

ヌで、一定の血漿中カルムスチン濃度を維持するため、カルムスチンを持続静脈内注入したと

き、血漿中カルムスチンが一定濃度に到達後の脳脊髄液中カルムスチン濃度は血漿中と同様に、

ほぼ一定で推移(血漿中カルムスチン濃度の約 48%)したことから、カルムスチンの脳への移

行は、血漿中カルムスチン濃度と関係することが示された。一方、ラットにカルムスチン含有

ポリマーを脳内埋植したとき、埋植後 24 時間以内にカルムスチンの約 50%、5日以内に 90%

以上が放出され、カルムスチン含有ポリマー/組織接触面で、ヒト悪性神経膠腫腫瘍細胞培養株

U-251 及び SF-126 に対し殺腫瘍細胞性を示すことが報告されているカルムスチン濃度(14~15

µM)より 50~130 倍高い濃度のカルムスチンが認められ、長期間持続した。また、ウサギにカ

ルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したとき、脳内の曝露部位におけるカルムスチン曝露時間

は、同量のカルムスチンを直接脳内定位注射したときよりも延長した。これらの結果は、脳内

カルムスチン濃度は、血漿中カルムスチン濃度に相関し、本剤の脳内埋植が、脳内カルムスチ

ン濃度の維持に有効な投与形態であることを示したものと考える。

マウスに 14C-カルムスチンを 10 又は 20 mg/kg 腹腔内投与したとき、投与後 1又は 2時間に

おいて、消化管以外では腎臓及び肝臓に高い放射能が、次いで、肺、脾臓、心臓、脳の順で高

い放射能が認められたが、組織内放射能は、その後、いずれも急激に減少し、投与後 48時間に

は、いずれの組織においても少量の放射能のみが検出され、カルムスチンの残留性は小さいも

のと推察された。また、サルに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 静脈内投与したとき、投与後 192

時間において脾臓、肝臓及び卵巣等組織内に放射能が認められたが、いずれの組織中において

も残留する放射能濃度は低値であり、カルムスチンが高い残留性を示す組織は認められなかっ

た。一方、ラットに 14C-カルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したとき、埋植後 7日において、

脳、肝臓、脂肪、血漿及び回収ポリマー中に、それぞれ投与放射能の 0.97%、0.48%、0.17%、

0.06%及び 3.43%が認められ、埋植後 7日目においても、ポリマーからのカルムスチンの放出

が持続していることが示され、本剤の脳内埋植が、脳内カルムスチン濃度の維持に有効な投与

形態であることが支持された。

血球への移行性については以下のように考察する。マウスに 14C-カルムスチン 20 mg/kg を腹

腔内投与したときの放射能の組織内分布(図 2.6.4.4-1)に示したように、組織中放射能が最も

高い投与後 2時間において、腎臓及び肝臓に高い放射能が、次いで、肺、脾臓、心臓、脳の順

で血液中よりも高い放射能が認められた。血液中の放射能がすべて血球由来と仮定しても血球

中放射能は心臓及び脳中に分布した放射能よりも低いと見積もられ、また、投与後 6~48時間

においても血球中放射能は心臓及び脳に分布した放射能濃度と同程度又は低値と見積もられる

ことから、カルムスチンの血球への移行性は分布量の低い心臓及び脳への移行性と比較しても

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

20

より低いか同程度と推察される。

カルムスチンは、動物において胎児毒性及び催奇形性が報告されていることから、カルムス

チンの胎児移行は明らかである。

授乳ラットに 14C-カルムスチンを 6.65 mg/kg 単回静脈内投与したとき、乳汁中放射能濃度

は、投与後 2時間を除いて血漿中放射能濃度を上回り(血漿中放射能濃度の 0.98~2.21 倍)、

乳汁中放射能濃度の Cmax及び AUC0-tは血漿中放射能濃度の Cmax及び AUC0-tのそれぞれ 2.21 及び

1.28 倍であり、カルムスチン及び/又はその代謝物の乳汁中移行性が示された。

神経膠種由来の U87MG 培養細胞及び U87MG 細胞(癌幹細胞)を用いてカルムスチンの ABC トラ

ンスポーターへの影響について検討した。ABC トランスポーターMDR1 の発現は、U87CS 細胞で

U87MG 細胞に比較し 8.51 倍増加し、BCNU 存在下における細胞生存率は、BCNU 濃度 125 μM 以

下において U87CS 細胞のほうが U87MG 細胞よりも著しく高かった。これらのことから、カルム

スチンは ABC トランスポーターの 1つである MDR1 の基質となると考えられた。また、U87CS 細

胞では、mRNA レベルで MDR1 発現量が増加したことから、カルムスチンの耐性発現が推察され

た。カルムスチンがトランスポーターに及ぼす影響及び組織内分布に関与するトランスポータ

ーについての知見は見出すことができなかったため不明であった。

カルムスチンは、ラット及びマウスの肝ミクロソーム NADPH 依存性酵素(P-450)及び肝サイ

トソール GSH 依存性酵素(glutathione S-transferase)によって脱ニトロソ化及びグルタチオ

ン抱合を受け、主要代謝物として 1,3-bis(2-chloroethyl)urea(BCU)及び 1-chloroethyl-

3-ethylglutathionylurea が生成した。肝ミクロソーム NADPH 依存性のカルムスチン脱ニト

ロソ化には、P450 2B1 の関与が示唆された。一方、ラットにカルムスチンを 42.8 mg/kg 腹腔

内投与したときの胆汁中に 2-chloroethyl isocyanate のグルタチオン(GSH)抱合体

(S-[N-(2-chloroethyl)-carbamoyl]glutathione)が同定された。この GSH 抱合体は、カルム

スチンが生体高分子の存在下化学的に分解され 2-chloroethyl isocyanate 及び

2-chloroethylcarbonium cation を生成し、生成した 2-chloroethyl isocyanate が GSH に捕捉

されて S-[N-(2-chloroethyl)-carbamoyl]glutathione が生成されたものと推察された。

また、マウス及びサルに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 腹腔内投与又は静脈内投与したとき、マ

ウスでは投与後 24時間中に投与放射能の 7~10%が、サルでは投与後 5時間中に投与放射能の

2%以下が、それぞれ 14C-CO2として呼気中に排泄された。また、ラットに 14C-カルムスチン含

有ポリマーを脳内埋植したとき、埋植後 7日間に投与放射能の約 5%が 14C-CO2として呼気中に

排泄された。これら in vivo 及び in vitro 代謝試験、及び排泄試験の結果から、カルムスチン

は動物において、①肝ミクロソーム NADPH 依存性酵素(P-450)及び肝サイトソール GSH 依存性

酵素(glutathione S-transferase)によって脱ニトロソ化及び GSH 抱合を受け、1,3-bis(2-

chloroethyl)urea(BCU)及び 1-chloroethyl-3-ethylglutathionylurea に代謝される、②生

体高分子の存在下化学的に分解され 2-chloroethyl isocyanate を生成し、生成した 2-chloro

ethyl isocyanateはGSHに捕捉されてS-[N-(2-chloroethyl)-carbamoyl]glutathione となる、

③化学的分解により生成した 2-chloroethyl isocyanate 及び 2-chloroethylcarbonium cation

が NADPH 依存的なミクロソーム代謝で CO2や他の低分子にまでに分解される、と推察された(図

2.4.5)。

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

21

Enzymatic

(microsome + NADPH)

図 2.4.5 カルムスチンの推定代謝経路

ラット及びマウスにカルムスチンを 20 及び 30 mg/kg 単回腹腔内投与したときの肝ミクロソ

ーム薬物代謝酵素への影響について検討した。ラットでは、投与後 14日において P-450 含量は

約 18%、ethylmorphine N-demethylase 活性は約 36%減少し、カルムスチンが肝薬物代謝酵素

を阻害することが示された。また、マウスでは、投与後 21 日において P450 含量及び総

ethylmorphine代謝活性が著しく減少し、ethylmorphine N-demethylase活性は減少傾向を示し、

また Benzo(α)pyrene hydroxylase 活性は有意に増加した。これらのことからカルムスチンは

動物において薬物代謝酵素を阻害又は誘導するものと考えられた。

14C-カルムスチン 10 mg/kg をマウス及びサルに静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、又は経

口投与したとき、また、ラット及びウサギに 14C-カルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したと

き、投与経路及び投与形態に関わらずに、投与放射能の大部分は尿中に排泄され、これらの動

物種におけるカルムスチンの主要な排泄経路は尿中であることが示された。また、マウス及び

ラットの呼気中に、投与放射能の 5~10%に相当する 14C-CO2が排泄され、呼気中排泄もカルム

スチンの重要な排泄経路の一つと考えられた。

カルムスチンの胆汁中排泄の有無については以下のように考察する。ラットの胆汁中に代謝

物 S-[N-(2-chloroethyl)-carbamoyl]glutathione が排泄された。図 2.6.4.3-2 示したように

14C-カルムスチンを静脈内投与したサルにおいてカルムスチンの体内動態への腸肝循環の関与

が示唆され、また、表 2.6.4.4-1 に示したように、マウスに 14C-カルムスチンを 10 mg/kg 腹腔

内投与したとき、小腸(内容物を含む)中の放射能は、大腸(内容物を含む)(2.4%)及び糞

中排泄量(1.4%~2.0%)より 5~7倍高く、小腸(内容物を含む)に分布した放射能の多くは

糞中には排泄されず、再吸収されたものと考えられ、マウスにおいてもカルムスチンの薬物動

態への腸肝循環の関与が推察された。これらのことから、カルムスチン及びその代謝物は胆汁

中に排泄されるものと考えられた。

授乳ラットに 14C-カルムスチンを 6.65 mg/kg 単回静脈内投与したとき、乳汁中放射能濃度

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

22

は、投与後 2時間を除いて血漿中放射能濃度を上回り(血漿中放射能濃度の 0.98~2.21 倍)、

乳汁中放射能濃度の Cmax及び AUC0-tは血漿中放射能濃度の Cmax及び AUC0-tのそれぞれ 2.21 及び

1.28 倍であり、カルムスチン及び/又はその代謝物の乳汁中移行性が示された。

カルムスチン含有ポリマーは、in vitro 及び in vivo いずれでも生分解性を示し、カルム

スチンは拡散及びポリマーの崩壊を介してポリマーから放出された。また、上述したように、

ラットにカルムスチン含有ポリマーを脳内埋植したとき、埋植後 24 時間及び 5日以内にカルム

スチンの約 50%及び 90%以上がそれぞれ放出され、また、ウサギにカルムスチン含有ポリマー

を脳内埋植したとき、脳内の曝露部位におけるカルムスチン曝露時間は、カルムスチンを直接

脳内定位注射した時よりも延長した。これらのことは、本剤が脳内留置型の徐放性製剤である

ことを裏付けたものと考える。

薬物相互作用としてカルムスチンは、ラット肝ミクロソームを用いたin vitro試験において、

他のアルキル化薬であるシクロホスファミド及びイホスファミドの活性化を拮抗阻害(カルム

スチン濃度:107~856 µg/mL)することが示唆された。一方、本剤の国内第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験に

おいて、初発の悪性神経膠腫及び再発の膠芽腫患者 6例に本剤留置後の血液中カルムスチン濃

度を測定した結果、血液中カルムスチン濃度は、本剤留置後 3~6時間で、最大 19.4 ng/mL 程

度であり、留置後 72 時間では、全症例で検出限界値(2 ng/mL)以下となった。この血液中カ

ルムスチン最高濃度は、上記 in vitro 試験で用いたカルムスチン濃度の約 1/5500 であり、さ

らにシクロホスファミド及びイホスファミドによる化学療法は本剤脳内留置術後の 1~2週間

から開始される事から考えて、シクロホスファミド及びイホスファミドの活性化に本剤投与が

影響する可能性は極めて低いものと推察される。また、上記したように、カルムスチンは動物

において CYP、ethylmorphine N-demethylase 活性、総 ethylmorphine 代謝活性及び

benzo(α)pyrene hydroxylase 活性らの薬物代謝酵素を阻害又は誘導するものと考えられたこ

とから、カルムスチンが、これらの薬物代謝酵素によって代謝される薬物の生理活性に影響を

あたえる可能性は否定できない。なお、カルムスチンのヒトの CYP 分子種に対する阻害作用及

び誘導作用に関する知見は報告されていないが、上記のラット及びマウスでの知見から、ヒト

においてもカルムスチンが CYP 活性に影響を及ぼす可能性は否定できない。

カルムスチン脳内留置用剤は、生分解性ポリマー [ポリフェプロサン 20、CPP:SA=20:80(モ

ル比)の共重合体] にカルムスチンを分散したものであり、体内動態を評価するには、薬効成分

であるカルムスチンとともに、ポリマーを構成する SA及び CPP の体内動態を調べることも重要

である。

14C-SA 又は 14C-CPP を含む 1.6%カルムスチン含有ポリマーを調製し、ラット及びウサギに脳

内埋植し、SA及び CPP 由来の放射能の組織内濃度及び排泄について検討したところ、14C-SA 由

来の放射能は、埋植後 7日間において、ラットでは、投与放射能の約 50%が 14C-CO2として呼

気中に排泄され、SA は、脂肪酸のβ酸化経路を経由して代謝されることが示唆された。また、

約 11%及び 1%が尿及び糞中にそれぞれ排泄され、組織中には約 9%及び回収されたポリマー

中には約 8%が残存した。また、ウサギにおいても、埋植後 7日間において投与した放射能の

約 29%のみが組織、尿、糞及び回収ポリマー中に回収され、ラットと同様に、投与放射能の多

くが 14C-CO2として呼気中に排泄されたと推察され、ポリマー中の SAは、埋植後脳内において

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

23

速やかに崩壊、分解し、全身血流に入り、代謝及び排泄されるものと推察された。一方、14C-CPP

由来の放射能は、ラット及びウサギにおいて、埋植後 7日間の尿及び糞への総排泄率は、投与

放射能の 4%未満で、7日目にラットから回収したポリマー中には約 97%が残存した。しかし、

ウサギにおいて排泄試験を継続したところ、埋植後 9日以降放射能の排泄は急激に増加し、21

日間では、投与放射能の 61.8%及び 1.6%がそれぞれ尿及び糞中に排泄され、21 日後の回収ポ

リマー中には投与放射能の 28.9%が残存した。このことから、ポリマー中 CPP の脳内における

崩壊又は分解は SAに比べ遅延するが、体内からは確実に消失するものと推察された。

(3) 毒性試験

1) カルムスチンの毒性試験

静脈内投与における単回投与毒性試験でのマウスの LD50値は 51~63 mg/kg で、カルムスチ

ン投与に関連した変化として、肝臓で肝細胞の空胞変性・壊死を伴う巨大肝細胞の出現あるい

は過形成結節が認められ、多くの例で門脈域の炎症及び浮腫を伴っていた。また、高用量では

腎臓の尿細管拡張及び尿細管の退行変性、十二指腸の粘膜変性、脾臓及びリンパ節におけるリ

ンパ球の減少、肋骨骨髄の形成不全が認められた。

イヌ及びサルでは、投与後 7、8 日に流涎、下痢、嘔吐、軟便などがみられ、両種ともリンパ

系器官におけるリンパ球の減少、壊死及びうっ血の他、骨髄の形成不全及び骨髄 M/E 比の減少

などがほぼ共通に認められた。イヌ及びサルの概略致死量は、それぞれ 4 mg/kg 及び 26.4 mg/kg

と推定された。死因は明らかではないが、肝臓及びリンパ系器官などの機能低下による全身状

態の悪化が主たる原因と推察され、同様な所見は他のアルキル化剤でも報告されている。イヌ

では致死量がマウス、サルに比べて低値となったが、アルキル化作用に対する感受性に種差の

あることが考えられる。

イヌ及びサルにおける 5日間静脈内反復投与毒性試験では、両種ともに白血球の減少、脾臓、

胸腺、扁桃、各種リンパ節でのリンパ球の減少、肋骨・大腿骨骨髄の形成不全がみられた他、

門脈の炎症などが認められた。カルムスチンの主要な標的器官は、イヌ及びサルともにリンパ

系器官、骨髄及び肝臓で、いずれも細胞増殖の活発な器官・組織に障害が認められ、アルキル

化剤に共通の毒性と考えられた。これらの障害は休薬後 40日頃には、いずれも回復あるいは回

復傾向が示された。毒性発現は概して遅発性で、動物の瀕死状態あるいは死亡はいずれも投与

終了後 8~16 日に発現した。概略の致死量は、イヌで 4 mg/kg、サルで 6.6 mg/kg であった。

死因はリンパ系器官、骨髄、肝臓の障害による全身状態の悪化が関連しているものと考えられ

る。イヌでは、肺での細菌感染を示す所見もみられており免疫能の低下などの二次的な影響も

考えられる。無毒性量はイヌで 0.25 mg/kg、サルで 0.83 mg/kg であった。

遺伝毒性試験では、細菌を用いる復帰突然変異試験、肺線維芽細胞を用いる in vitro 染色体

異常試験、マウス骨髄細胞を用いた in vivo 染色体異常試験、マウス小核試験のいずれも陽性

であった。カルムスチンは他のアルキル化剤と同様に遺伝毒性を有すると考えられる。

がん原性試験に関しては、本邦ガイドラインで、進行性がんの治療を目的とした抗悪性腫瘍

剤などでは、通常、がん原性試験を必要としないとされていることから、がん原性試験を実施

しなかった。なお、カルムスチンはマウス、ラットでリンパ組織、肺などにがん原性が認めら

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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れている。

生殖発生毒性試験における胚、胎児への影響については、0.5~1 mg/kg 以上より着床数の減

少、吸収胚の増加、胎児体重の低値及び奇形(胸腹部の閉鎖不全、眼及び中枢神経系の異常、

大動脈弓の異常、骨格の癒合・化骨不全など)がみられた。特にラットでは種々の器官に対し

て高頻度で奇形がみられ、その臨界期は主に妊娠 6~9日にあると推察された。また、ラット出

生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験における出生児についても発育遅延がみ

られた。ラットの受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験の雄ラット投与試験では、1

mg/kg より着床数及び同腹児数の減少がみられており、雄投与による受胎能への影響も否定で

きない。他のアルキル化剤と同様に、本剤についても胚・胎児致死作用及び催奇形作用が確認

された。

2) カルムスチン含有製剤を用いた毒性試験

ウサギの筋肉内(傍脊椎筋)に 3.85%カルムスチン含有脳内留置用剤を埋植した局所刺激性

試験では、埋植したすべての部位で肉芽組織、筋線維の変性/壊死、炎症性細胞の浸潤、線維症

/被包化、筋線維の再生像が認められた。

3.85%カルムスチン含有脳内留置用剤(製剤、カルムスチン投与量は 0.257 mg/kg 相当)を

ウサギの脳内に 4週間埋植すると、埋植周囲の脳組織に壊死が認められた。埋植後 5日までの

壊死の程度は製剤群がポリマー群(対照群)よりやや強く認められたが、両群の 4週目では壊死

は観察されなかった。さらに製剤をウサギの脳内に 40週間埋植した場合の 4週後では、対照群

を含む全投与群で脈絡叢の空胞化及びうっ血、外包(レンズ核被膜)の空胞化がみられた他、製

剤群では埋植部位の壊死が高頻度にみられた。埋植後 40週におけるポリマー群及び製剤群の障

害は、埋植部位の単核細胞浸潤を除きおおむね消退した。また、埋植された製剤の脳内での遺

残は 1 /17 例に認められた。神経行動検査の成績は、対照群(ポリマー群及び偽手術群)と比較

して大差なかった。製剤をウサギの脳内に埋植したときの製剤中でのカルムスチンの残存は、

埋植後 1日で 42%、3日で 43%、5 日で 14%であった。ウサギの血液、脳脊髄液及び脳組織中

のカルムスチン濃度は、埋植後 1、3、5日のいずれにおいても検出されなかった。

サルの脳内に 20%カルムスチン脳内留置用剤(カルムスチン 8 mg/kg 相当)を埋植した場合の、

血液・血液生化学的検査及び器官重量にはいずれも異常はなかった。埋植部位で出血性の壊死

がポリマー群及び製剤群ともにみられたが、それぞれ 4週後及び 13週後には消退した。13 週

以降における埋植部位では脳炎が、埋植部位以外では髄膜硬化、髄膜血管の内膜の過形成など

が認められたが、ポリマー群でも同様に認められた。障害の修復は製剤群がやや遅延傾向を示

したが、40 週後では両群の障害の程度に大差はなかった。以上のように、製剤を埋植した毒性

試験においては、埋植部位の障害性変化以外には特記すべき毒性変化は認められなかった。

3) ポリマー(ポリフェプロサン 20)の毒性試験

カルムスチン脳内留置用剤に用いられるポリマーの成型体あるいは粉末を生体内に埋植し、

その安全性を検討した。ポリマーの粉末を最大 2000 mg/kg ラットの皮下に 2週間埋植した毒性

試験では、投与部位に単核細胞の浸潤、肉芽組織、出血及び浮腫を伴う結節が認められた。こ

れらの変化を除き全身性の毒性変化は認められなかった。ポリマーの成型体 3枚(2400 mg/kg

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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相当)をラットの皮下に 8週間埋植した場合の血液学的検査及び血液生化学的検査では、好中球

及びリンパ球で軽微な変動がみられたが、他の検査項目には異常は認められなかった。

ウサギの脳内にポリマーの成型体を 8週間埋植した場合の障害性は、対照物質ゼルフォーム

(滅菌吸収性ゼラチンスポンジ)として比較して差はなく、ポリマーの生体適合性はあるものと

考えられた。また、ポリマーは復帰突然変異試験、染色体異常試験に対してはいずれも陰性を

示し、ラットを用いた器官形成期投与試験では最大 2000 mg/kg のポリマー粉末を皮下に埋植し

た場合も、胎児に対し異常はみられなかった。刺激性試験としてウサギの筋肉内にポリマー成

型体を 1週間埋植した場合では、肉芽組織、筋線維の変性/壊死、膿瘍、出血などがみられた。

ポリマーの構成モノマーである SA(セバシン酸)を、ラット及びウサギに腹腔内及び静脈内投

与したときの LD50値は、それぞれラットで 5500 mg/kg 及び 560 mg/kg、ウサギで 6000 mg/kg

及び 1440 mg/kg であった。死亡率に性差はなく、両種の死因は投与液の高浸透圧に基づく腹水

貯留又は脱水によると考えられ、SA は極めて毒性が弱いことが推察された。また、SA の最大

1000 mg/kg を皮下投与したラット器官形成期投与試験においても胎児に対し異常は認められな

かった。

ポリマーの薬物動態試験(2.4.3.6)によれば、ラットの脳内に製剤を埋植した場合、7日後

に SAは呼気中に約 46%、尿中に約 11%が排泄された。CPP の排泄は SAに比較して遅延し、7

日後までに尿糞中に約 4%が未変化体として排泄された。7日後脳内から回収されたポリマー中

には SA が 8.3%、CPP が約 97%残存した。

以上、ポリマーを埋植した場合、SA は加水分解により比較的速やかに排出されるが、分解の

遅い CPP は生体の異物反応により、肉芽組織に覆われ徐々に分解・排出されると推察される。

この過程において全身的な毒性作用は認められず、埋植部位の組織障害は修復されることから

生体適合性が認められ、ポリマーの安全性に対する懸念は少ないものと考えられる。

4) 類縁物質の毒性試験

カルムスチンの類縁物質であるBCU及び2-クロロエチルアミンをラットに単回腹腔内投与し

たとき、BCU で骨髄の造血機能低下がカルムスチンに比べ軽度ながら認められたものの、一般

状態、体重、器官重量、血液学的検査、血液生化学的検査、病理解剖検査及び病理組織学的検

査では、両類縁物質ともに異常は認められなかった。

5) カルムスチンの無毒性量と臨床用量について

カルムスチンの静脈内投与毒性試験での無毒性量はイヌで 0.25 mg/kg、サルで 0.83 mg/kg

であり、本剤の最大臨床用量である 61.6 mg(約 1 mg/kg)をやや下回った。しかし、本剤は脳

内に留置され、局所適用されることから、毒性試験での無毒性量を基準にヒトでの安全域を考

慮する必要性は低いと考えられる。サルの脳内に 20%カルムスチン含有脳内留置用剤(カルム

スチン 8 mg/kg 相当)を埋植した場合の血液・血液生化学的検査及び器官重量測定にはいずれも

異常はみられなかった。また、ウサギの脳内に 3.85%カルムスチン含有製剤(本剤)を埋植し

たときの血液、脳脊髄液及び脳組織中にはカルムスチンは検出されていない。このことから、

3.85%カルムスチン含有脳内留置用剤をヒトに留置した場合、脳腫瘍部位以外の全身生体曝露

量は極めて少ないものと推察され、全身性の副作用の懸念は少ないものと考えられる。また、

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カルムスチン脳内留置用剤 2.4 非臨床試験の概括評価

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添加物ポリマーの生体影響は、埋植部位における組織障害を除き、特記すべき変化は認められ

なかった。