レポート キャリア教育を基軸に 人間力と学力、「志」を涵養 · 2015. 3....

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2015 / 5 学研・進学情報 -14- -15- 2015 / 5 学研・進学情報 調10 調キャリア教育を基軸に 人間力と学力、 「志」を涵養 三重県立津高校のケース 高校でのキャリア教育④ 特別レポート 三重県立津高校 林仁大 先生 平賀美津雄 先生 資料① 津高校のキャリア教育の構成 1.全員対象の取り組み キャリア講演会・SS 探究活動Ⅰ・人権学習 etc。 ・大学模擬授業(1年)・オープンキャンパス参 加(2年) ・表現力育成・学年・クラスの活動 2.生徒が主体的に選択 ・大学セミナー・難関大ガイダンス・東大キャ ンパスツアー ・キャリアプロジェクト・『自分探し』(インター ンシップ、ジョブシャドウ)等イベント etc ・SSH 研修 その他 3.普段の学校生活(日常型キャリア教育) ・授業=主体的な学習(AL等)・プレゼンなど ・学校、学年、クラスの活動⇒各々が自覚・責 任を持って ●特別レポート 高校でのキャリア教育④ 調調調4 2 2 76 調資料② 進路ストーリー:生徒用例の抜粋(1年生) 4月 5月 6月 7月 8月 9月 真の‘津高 生 ’ になれ 中学校との 違いを知 り、自ら動 け! 自宅での学 習習慣を確 立せよ! 将来を思い 描き夢実現 のスタート を! 「これをや った」と言 える夏、ま ずは弱点克 服! 行事に参 加、考査に 集中! 凡事徹底! 生活と学習習慣づくり! ・学年集会 ・学習ガイ ダンス ・縦割りデ ィスカッ ション ・学年集会 ・面談週間 ・学習時間 科目別調査 ・探求ガイ ダンス ・キャリア 講演会 ・学年集会 ・表現力育 成① ・補習学習 ・個人面談 ・学年集会 (進路参加) ・学年集会 (夏休み計 画) ・難関大ガ イダンス ・保護者会 ・東大キャ ンパスツ アー(希) ・夏期課外 Ⅰ期・Ⅱ期 ・学年集会 (切り替え) ・難関大座 談会 ・学部学科 研究① ・凡事徹底 ・予習―授業―復習の「サイクル確 立」 ・津高手帳を活用した学習計画づく ・家庭学習は平日 3 時間・休日 5 時 間を目標に ・夏季課外を有効に活用 する。 ・7 月までの授業の総復 習をする。 ・具体的計画を立て、計 画どおりに学習する。 ・苦手科目・分野を克服 する。 ・自分探し行事の各種体 験やイベントに参加す る。 ・行事と学 習のメリハ リをつけ る。 ・文理選択 について熟 考する。

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Page 1: レポート キャリア教育を基軸に 人間力と学力、「志」を涵養 · 2015. 3. 31. · -15- 2015/5 学研・進学情報 2015/5 学研・進学情報 -14- させることが、大きな課題となベーションを上げて学力を向上

2015 / 5 学研・進学情報 -14--15- 2015 / 5 学研・進学情報

ベーションを上げて学力を向上

させることが、大きな課題とな

っていました」と話す。また進

路指導部の平賀美津雄先生(英

語)は「生徒は出来ないことが

あるとすぐに打ち砕かれる。そ

こを突き抜けるには自分の『核』

が必要だと考えました」と語る。

 

そこでキャリア教育を軸に、

「何のために津高校に来たのか」

「将来、何をやりたいのか」の

「志」を育て、学力向上と進路

実現を図る取り組みが模索され

てきた。ここには「不戦敗をさ

せない」との思いがある。「『セ

カンド志向』と言われるように、

自分の『核』を育てるために

 

近年、地方の公立進学校の中

でも、キャリア教育の実践が蓄

積されるようになってきた。

 

三重県立津高等学校(小野芳

孝校長)も「高い知性と教養を

持ったリーダーの育成」を基本

理念に、「すべての教育活動が

キャリア教育」と位置付ける。

現在は文科省の「高等学校普通

科におけるキャリア教育の実践

に関する調査研究」の研究指定

校にもなっている。

 

津高校でキャリア教育が始め

られたのは約10年前。当時赴任

した、進路指導主事の林仁大先

生(地理)は、「生徒減で多様

な生徒が入学してくる中、モチ

今の生徒は安全志向に陥りがち

です。しかし、努力もしないの

に諦めるのではなく、やれるこ

とはなるべくやる、そういう生

徒を育てたいと私たちは考えて

います」と林先生は強調する。

 

学力には、知識・技能など「見

える学力」と、それを水面下で

支える「見えにくい学力」(知識・

技能の獲得と活用のための能力

や思考力)、「見えない学力」(関

心・意欲・態度・感性・自己肯

定感・座力)がある。「見える

学力」を伸ばすには「見えにく

い学力」と「見えない学力」を

大きく育むことが大切になる。

 

津高校ではこの3つの学力を

包括し、「基礎学力・人間力・キャ

リア教育」の三兎を追うことを

キャリア教育を基軸に人間力と学力、「志」を涵養  三重県立津高校のケース

高校でのキャリア教育④特別レポート

 生徒の学力向上と進路実現に向け

てのキャリア教育が注目されている。

三重県立津高校では、すべての教育

活動を「キャリア教育」と捉え、人

間力を高め、将来へのキャリア意識

を育てるとともに、授業改善を行う

など、多彩な教育活動を行ってきた。

その模様をレポートした。

三重県立津高校林仁大 先生 平賀美津雄 先生

資料① 津高校のキャリア教育の構成1.全員対象の取り組み・キャリア講演会・SS 探究活動Ⅰ・人権学習 etc。・大学模擬授業(1 年)・オープンキャンパス参加(2 年)・表現力育成・学年・クラスの活動2.生徒が主体的に選択・大学セミナー・難関大ガイダンス・東大キャンパスツアー・キャリアプロジェクト・『自分探し』(インターンシップ、ジョブシャドウ)等イベント etc・SSH 研修 その他3.普段の学校生活(日常型キャリア教育)・授業=主体的な学習(AL 等)・プレゼンなど・学校、学年、クラスの活動⇒各々が自覚・責任を持って

●特別レポート 高校でのキャリア教育④

目指す。授業を基本に学力を身

につけ、部活動などで人間力を

高め、キャリア教育で「将来へ

のビジョン」を描き、「志」を

高めるという試みだ。

●「進路ストーリー」で見通す

 

資料①にあるように、津高校

のキャリア教育は「全員対象の

取り組み」「生徒が主体的に選

択するイベント型の取り組み」

「日常型キャリア教育」の3分

野から成る。中心は各学年団。

「『生徒の主体性を高めるにはど

うすればいいか』を模索する中、

いいアイデアが出て賛同する人

が増え、自然発生的に様々な試

みが行われてきました」と平賀

先生は振り返る。

 

近年は進路指導部を中心に、

各取り組みの方向性を調整する

「ベクトル合わせ」を行ってき

た。「先生方はみな、『学力をつ

けたい』『生徒に喜んでもらい

たい』と思っています。より効

果的になるよう、実施時期や対

象学年を調整しています」(林

先生)。例えばキャリア教育や

学校行事は、「総合的な学習の

時間」と「LHR」を活用して

計画的に実施。また進路関連の

自主参加イベントは、極力、部

活動以外の日程とするなど、調

整する。

 

そして生徒や先生方に高校生

活の見通しを示すものとして作

成しているのが、「進路ストー

リー」。昨年度全体を見直し、

この4月より改訂したもので実

践する。「将来へのビジョンを

組み立てるには、タイムマネジ

メントが必要です」(林先生)

とのことで、学年ごとに学校行

事や進路意識、学習などの関連

づけが図られた。

 

資料②は1年生の生徒用進路

ストーリーの抜粋である。例え

ば4月は「真の“津高生”になれ

!」という月間標語が掲げられ、

「進路行事」では「学年集会・

学習ガイダンス・縦割りディス

カッション」などが組まれてい

る。また「学習への意識」とし

ては「凡事徹底」「予習―授業

―復習の『サイクル確立』」な

どを明記。教科ごとの「具体的

行動」もあり、先を見通して学

校生活を送ることができるよう

に、関係づけている。

●幅広い全員対象プログラム

 

次にキャリア教育を見てみよ

う。まず「全員を対象としたキャ

リア教育」。定番の「大学模擬

授業」「オープンキャンパス参

加」などに加え、特徴的なのが

1年次の「探究活動」である。

これはSSH(スーパーサイエ

ンスハイスクール)の一環で、

全員が約2か月半かけて文系・

理系の興味・関心のあるテーマ

でグループ研究を行い、「ポス

ターセッション」で発表すると

いうもの。「キャリア教育の視

点から『探究心』や『プレゼン

テーション能力』を育てるもの

です」と林先生。2年次の文理

選択を控え、自分の興味・関心

に気づく場だ。

 

今年も資料③にあるように、

76グループが発表した。テーマ

も「熱気球の飛行実験」(物理)、

「アナと雪の女王が大ヒットし

た理由を調べよう!」(英語)、

などから、大学とのタイアップ

の「抗体のふしぎ」(三重大医学

部)、課外活動を発表する「マ

レーシア研修」(マレーシアの

資料② 進路ストーリー:生徒用例の抜粋(1年生)4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月

標語

真の ‘ 津高生 ’ になれ !

中学校との違 い を 知り、自ら動け!

自宅での学習習慣を確立せよ!

将来を思い描き夢実現のスタートを!

「これをや った」と言える夏、まずは弱点克服!

行 事 に 参加、考査に集中!

津高生

テーマ

凡事徹底! 生活と学習習慣づくり!

進路行事

・学年集会・学習ガイダンス・縦割りデ ィ ス カ ッション・学年集会・面談週間

・学習時間科目別調査・探求ガイダンス・キャリア講演会・学年集会・表現力育成①

・補習学習・個人面談・学年集会(進路参加)

・学年集会(夏休み計画)・難関大ガイダンス・保護者会・東大キャン パ ス ツアー(希)・夏期課外Ⅰ期・Ⅱ期

・学年集会(切り替え)・難関大座談会

・学部学科研究①

学習への意識

・凡事徹底・予習―授業―復習の「サイクル確立」・津高手帳を活用した学習計画づくり・家庭学習は平日 3 時間・休日 5 時間を目標に

・夏季課外を有効に活用する。・7 月までの授業の総復習をする。・具体的計画を立て、計画どおりに学習する。・苦手科目・分野を克服する。・自分探し行事の各種体験やイベントに参加する。

・行事と学習のメリハリ を つ ける。・文理選択について熟考する。

Page 2: レポート キャリア教育を基軸に 人間力と学力、「志」を涵養 · 2015. 3. 31. · -15- 2015/5 学研・進学情報 2015/5 学研・進学情報 -14- させることが、大きな課題となベーションを上げて学力を向上

2015 / 5 学研・進学情報 -16--17- 2015 / 5 学研・進学情報

生活)など、実に多彩な内容だ。

 

そして今回、体系化させたの

が「表現力育成」である。1年

次はプレゼンテーション力を高

めるとともに、「課題図書」を指

定して「読むこと」を継続する

ようにする。また2年次は「小

論文指導」を行い、文章力を高

めるという構成である。

●「主体性」発揮へ仕掛け

 

津高校の校訓は「自主・自律」

である。そこで生徒の主体性を

育てるべく、様々なイベント(行

事)を設け、紹介し、参加を促

している。生徒は希望するイベ

ントには何回でも参加できる。

 

資料①には一例をまとめてあ

る。例えば「東大キャンパスツ

アー」には例年約40~50人、N

POに依頼して行う「ジョブ

シャドウ」には約20人が参加。

ただし「主体性」に力点を置く

ので、参加の強制はしない。

 

また、難関大志望者に呼びか

け、生徒自身が自主的な勉強会

を行うための「グルーピング」

などの、ユニークな企画もある。

その中の医療系志望者には大学

や医療機関の「仕事セミナー」

などの情報提供も行い、医療を

リアルに見ることを働きかける。

 

そして特筆すべきが、「津高

校キャリアプロジェクト」(西

村ゼミ)である。三重大学副学

長(社会連携担当)/大学院医

学系研究科の西村訓弘教授によ

るゼミナールで、全5回かけて

行われる。募集は1・2年生が

対象。例年約20人前後が参加。

1年次に参加し、継続して2年

生でも参加する生徒もいて、「ゼ

ミを引っ張っていってくれま

す」(平賀先生)。

 

西村教授は大学院で社会人ゼ

ミを持つとともに、行政や企業

をつなぎ、地域連携に力を入れ

てきた。さらに地元の企業人や

行政担当者が自分の仕事を高校

生に伝える「地域が応援する高

校生セミナー」を開催。「三重

は非常にポテンシャルが高い。

面白い人がたくさんいて、話を

聞くと地域観が一変します。他

地域と三重を対等に比較できる

目を持ち、将来、自分の力をど

こで発揮するのかを考えてもら

えればと思いました」と語る。

 

林先生はセミナーへの参加が

縁で、大学院の西村ゼミを聴講。

「ぜひ高校生版を!」と実現し

たのが、津高校キャリアプロ

ジェクト(西村ゼミ)だ。「近年、

教育にグローバル人材の育成を

求める声が多いですが、子供た

ちにとって社会と言えば、地元

の地域。地域社会で問題解決の

イメージがないのに、一足飛び

にグローバルな課題解決は難し

い。むしろ地域を考えることが

グローバルへとつながります」

と語る。西村教授も「三重の中

小企業の中には、自動車部品製

造の技術を用いて台湾の企業と

組み、アメリカの航空機産業に

売り込みをかけるなど、すでに

グローバルに展開している企業

も多い。また中小企業ならば、

企画・経営から人事管理・営業・

販売まで一手に行います。大都

市の大企業ではある種のダイナ

ミズムは感じ取れますが、逆に

組織が大きすぎ、社員は限られ

た分野の専門家に留まってしま

います。地方の企業人に話を聞

く意味は仕事を考える上で非常

に大きいのです」と力を込める。

 

西村ゼミでは、生徒に身近な

「地域」をテーマに、「自主的に

考える力」「考えを表現する力」

を養うことを目指す。まず西村

教授が「今の時代を生きる高校

生に向けて」と題して問題提起。

その後、グループで課題解決案

を練り、「発表」→「質疑応答」

→「再検討」を3回繰り返して

掘り下げる。途中、行政担当者

資料③ 1年「SS探究活動Ⅰ」 グループテーマ例テーマ 探究グループ 題名

ss 家庭探究 減らそう! 「食品ロス」-もったいない!

ss ス ポ ー ツサイエンス

バトミントンで勝つためにはハンドスプリング

物理 熱気球の飛行実験

化学 発射! ぼくらの野菜ロケット

生物 プラナリアの再生実験地学 変更星白鳥座χ数学 モンティ・ホール問題

国語 意外と知らない !? 三重の方言

社会 アイヌの文化について

英語 「アナと雪の女王」の大ヒットした理由を調べよう!

三重大工学部 シクロヘキサノンオキシムの合成三重大医学部 抗体のふしぎ三重大勢水丸環境  動く海洋調査研究室

名古屋大学菅島研究所 動く海洋調査研究室

三重県立博物館人文社会 注連縄文化の多様性

東大研修 インド哲学マレーシア研修 マレーシアの生活

ssc 物理:ロボット製作津高校キャリアプロジェクト 西村ゼミ~三重県の未来を考える

●特別レポート 高校でのキャリア教育④

や企業人などにも発表を聞いて

もらい、内容についての課題や

問題点・着眼点などについて意

見を求めるとともに、仕事の話

も聞く。今年は「三重県信用保

証協会」を訪問した。

 「同じテーマを複数回考える

ことで、違う角度から理解が深

まる。これが大事です」と西村

教授は語っている(18ページに

報告会の様子を別掲)。

●教科、科目ごとに授業公開

 

そして授業改善である。津高

校では「論理的思考力、発信力

育成」のため、通常の授業で、

知識・情報の「活用」や問題解

決型学習などのアクティブラー

ニング(資料④)が広まってき

ている。「学力向上には、主体

的かつ、本質的に学ぶことが大

切です」と林先生は力を込める。

 

外部の研修に加え、校内での

教員研修でも「津高の理想の授

業とは何か」「生徒が主体的に

学ぶ授業とは?」をテーマに

ワークショップを行うなど、研

究を重ねてきた。「やれるところ

からやりましょう、と言ってい

ます。知識をしっかり教える時

間も必要ですから」と平賀先生。

 

昨年度からは教務部が主体と

なり、「授業公開」を実施。教科・

科目ごとに、同校の先生方に向

けた公開授業を行っている。「家

庭科や体育など実技系の授業は

非常に勉強になります」と林先

生。平賀先生も「例えば数学で

は、得意な生徒が演習問題の解

き方を板書し、口頭で説明する

などの授業を行っています。こ

れは数学の苦手な生徒には刺激

になり、非常に効果的です。苦

手な生徒には予想がつきにくい

ような考え方を知ることができ

るため、とても参考になるよう

です」と話す。

 

アクティブラーニングを取り

入れることで、逆に講義型の授

業も見直されてきた。「特に発

問の仕方は大事だと思います」

と林先生。生徒に受け身で話を

聞かせるのではなく、いかに能

動的に頭を働かすのかに向け、

先生方は知恵を絞っている。

志実現の鍵は、「担任力」

 

以上、多岐に及ぶ実践の中、

生徒の変化も見えてきた。

 

まず一つは、「志」が育って

きたこと。浪人も辞さず、志望

校を下げない生徒が増えてきた。

「大学入試センター試験につい

ては、今年は理科で得点調整が

ありましたが、その程度では志

望校を曲げませんでした」と林

先生は言う。二つめは生徒の表

現力や論理的思考力への手応え

が出てきたこと。「国公立大学の

個別学力試験の英語は自由英作

文の配点が高くなっていますが、

『書けた』という声が聞かれる

ようになりました」(平賀先生)。

 

だが課題もある。その一つが

実践の「体系化」。「様々なイベ

ントも、学力との相関からどの

時点で刺激を与えるのか、教員

自身の見る目を養っていかなけ

れば」と林先生。なお、個々の

取り組みについては2年次の生

徒アンケートでも検証している。

 

次いで「主体性が発揮できに

くい生徒」の問題。先述したよ

うに、例えば各イベントへの参

加は生徒の積極性によるため、

受け身の生徒が参加するには、

ややハードルが高いとも思われ

る。「本人が自主的にやった、

と思わせるような仕組みがない

と、A

ll or nothing

になります」

と林先生も懸念を示す。

 

その鍵を握るのが「担任力」

だ。担任の先生方が生徒の生活

状況と学力の関係や、伸びしろ

も見た上で、個々に適切なアド

バイスをする。「生徒の意見を

尊重しつつ『こうしたらええん

ちゃう?』と方向づけるのが大

事だと思います」と平賀先生。

コーチングの発想である。

 

同時に、先生方自身が指導の

見通しを持つことも重要。先の

「進路ストーリー」には、「教師

用」もあり、「担任」や「学年」

に向け、時期ごとに留意すべき

Page 3: レポート キャリア教育を基軸に 人間力と学力、「志」を涵養 · 2015. 3. 31. · -15- 2015/5 学研・進学情報 2015/5 学研・進学情報 -14- させることが、大きな課題となベーションを上げて学力を向上

2015 / 5 学研・進学情報 -18--19- 2015 / 5 学研・進学情報

指導のポイントが詳細に示され、

参考になる。さらに生徒の日常

に働きかけるため、「津高手帳」

を配布。家庭学習の時間を記録

して毎週プリントに写し、担任

がチェック。また学期に一回の

頻度で一週間の「教科別学習時

間」を調査してアドバイスの参

考にするなど、緻密なタイムマ

ネジメントを心がけている。

     

 「目の前の入試を考えると、

キャリア教育は難しい」。こん

な話を進学校の先生方からよく

聞く。だが、これまで見た津高

校の取り組みは、キャリア教育

が将来のリーダーとしての人間

力を育て、学力向上にもつなが

る、本質的かつ根本的なもので

あることが示唆されている。

 

その根本にあるのは、生徒た

ちを「社会へとつなぐ」意識だ。

「学校は地域社会と生徒をつな

ぐプラットホーム。私たち教員

がファシリテーターになること

が大事です」。林先生のこの言

葉には、今の高校教育に切実に

求められるものが、凝縮されて

いよう。 (取材・文/福永文子)

 

夕暮れが迫った津高校の地理

教室から灯りが漏れる。今日は

報告会。緊張した面持ちの生徒

12人が慌ただしく機材を準備し

ていた。今年のテーマは「三重

県の地域創生」。三重の南北問

題(北部は製造業や企業が集積

し人口も多いのに対し、農林水

産業主体の南部は過疎化で地域

格差が生じていること)を踏ま

え、地域創生を考えてきた。

 

そして南部の農業活性化に向

けて「発電」「流通」「文化」の

異なる側面から提案がなされた

(資料⑤)。発表は約15分。調査

データや実施例から裏付けされ

ているのに加え、高校生ならで

はのセンスも随所に。会場では

各学年の先生方と共に、紀北町

の行政担当者やNPO関係者も

参加し、熱心に耳を傾けた。

 

質疑応答は白熱した。例えば

2班の「三重県愛!」。全国から

芸術家を集め、耕作放棄地や廃

校を利用し半農半創作活動を行

う「アーティストアパート」を

考え出した。アーティスト農民

と地元レストランによる絶品メ

ニューや、農作物とアート作品

販売での観光客誘致を目指す。

 

質疑応答は白熱。Aさんは「普

通の農家でも農作業や経営は大

変。アーティスト農民は農作業

がメインになってしまうので

は?」と意見。Bさんも「素人

同然の人の野菜を誰が買うのだ

ろう? 

わざわざ時間をかけて

買いに来る?」と突っ込む。

 

2班が答えに詰まると、「ブ

ログを作ってPRしては? 

リックアートを描いてもらい観

光客を集めてはどう?」(Cさ

ん)「コミケ(コミックマーケッ

ト)のようにアートを販売する

場づくりは?」(Dさん)など

建設的な声も。西村教授も「事

業全体を指揮する人が必要で

は?」「どんな分野の芸術家を

呼ぶのか、構成も大事だよ」と、

事業に方向性を持たせる大切さ

を説いた。

 

2年生3人は昨年から継続。

「以前は全く考えなかったのに、

今は農業のことがとても気にな

るようになった」「問題解決は楽

しい。大学でも勉強がしたい」。

 

最後に西村教授が「ゼミでは

青天井で考えよう、曖昧さをご

まかさない、外の世界とどうつ

ながるかを考えようと、言って

きました。その習慣をずっと続

けると、成長でき、活躍する場

も見えます。皆さんは自信を

持っていい」と太鼓判を押した。

 

発表を終えた生徒らの満足そ

うな笑顔が、眩しかった。

西村ゼミ

どうやる? 三重県の地域創生

▲三重県内での「地域内流通の仕組みづくり」に質問。(3班)

訪問!

資料⑤ 三重県の地域創生 発表テーマ(15年)●1班=「南北問題の解決~農業の活性化」(小型バイオガス発電と小水力発電を用いたコジェネレーションシステムで、省エネと売電事業、温室で希少作物栽培)

●2班=「三重県愛!」(耕作放棄地や廃校を利用し、芸術家を呼んで、アーティストアパートを建設。半農半創作活動を奨励。地域への芸術普及活動や観光客誘致も)

●3班=「みえの‘なか’をプロデュースする~地域内流通をめざして」(県内での地域内流通促進に向け、生産者と消費者の橋渡し役の「支部」を作る。県内産の生産物を使った飲食店紹介のアプリ「みえなび」を開発)