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プルモザイム 2.5 臨床に関する概括評価 Page 1 プルモザイム吸入液2.5 mg (ドルナーゼ アルファ) [嚢胞性線維症] 2部(モジュール2):CTD の概要(サマリー) 2.5 臨床に関する概括評価 中外製薬株式会社

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プルモザイム 2.5 臨床に関する概括評価 Page 1

プルモザイム吸入液2.5 mg (ドルナーゼ アルファ)

[嚢胞性線維症]

第2部(モジュール2):CTD の概要(サマリー)

2.5 臨床に関する概括評価

中外製薬株式会社

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略語一覧

略語 省略していない表記 AE adverse event/有害事象 BAL bronchoalveolar lavage/気管支肺胞洗浄 CF cystic fibrosis/嚢胞性線維症 CFTR cystic fibrosis transmembrane conductance regulator/嚢胞性線維症膜コンダク

タンス制御因子 COPD chronic obstructive pulmonary disease/慢性閉塞性肺疾患 DNA deoxyribonucleic acid/デオキシリボ核酸 DNase deoxyribonuclease/デオキシリボヌクレアーゼ ERCF Epidemiologic Registry of Cystic Fibrosis/CF の欧州市販後観察研究 EU European Union/欧州連合 FEV1 forced expiratory volume in 1 second/1秒量 FVC forced vital capacity/努力肺活量 PEIT Pulmozyme Early Intervention Trial/Z0713g 試験の簡略名 PSUR Periodic Safety Update Report/定期的安全性最新報告 QOL quality of life/生活の質 SAE serious adverse event/重篤な有害事象

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目次

2.5 臨床に関する概括評価 ................................................................................................................ 4

2.5.1 製品開発の根拠 ....................................................................................................................... 4 2.5.1.1 背景 ..................................................................................................................................... 4

2.5.1.1.1 目標適応症の病態及び疫学 .................................................................................... 4 2.5.1.1.2 目標適応症の診断・治療の現状 ............................................................................ 5

2.5.1.2 臨床開発計画 ..................................................................................................................... 7 2.5.1.2.1 海外での臨床開発の経緯及び計画 ........................................................................ 8 2.5.1.2.2 日本での臨床開発の経緯及び計画 ........................................................................ 9

2.5.1.3 臨床データパッケージ ................................................................................................... 10 2.5.1.3.1 海外初回申請に用いられた資料 .......................................................................... 10 2.5.1.3.2 海外一変申請(5 歳未満への適応拡大)に用いられた資料 ........................... 11 2.5.1.3.3 今回の国内承認申請における臨床データパッケージ ...................................... 11

2.5.1.4 医薬品の臨床試験実施に関する基準遵守 ................................................................... 13 2.5.2 生物薬剤学に関する概括評価 ............................................................................................. 13 2.5.3 臨床薬理に関する概括評価 ................................................................................................. 13 2.5.4 有効性の概括評価 ................................................................................................................. 14 2.5.5 安全性の概括評価 ................................................................................................................. 16 2.5.6 国内使用成績 ......................................................................................................................... 18 2.5.6.1 国内第 I 相臨床試験(単回投与) ............................................................................... 18 2.5.6.2 国内使用例の調査結果 ................................................................................................... 18

2.5.6.2.1 「 」からの報告 .................................................. 18 2.5.6.2.2 申請者が実施したレトロスペクティブな調査結果 .......................................... 19

2.5.7 ベネフィットとリスクに関する結論 ................................................................................. 20 2.5.8 参考文献 ................................................................................................................................. 22

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2.5 臨床に関する概括評価

2.5.1 製品開発の根拠 ドルナーゼ アルファ(遺伝子組換え)(以下,本剤)は,細胞外 DNA を切断する天然のヒ

トデオキシリボヌクレアーゼ I(DNase I)をもとに,遺伝子組換え技術を用いて作製された遺

伝子組換えヒト DNA 分解酵素製剤である。その臨床開発は,19 年から Genentech 社により

行われた。

各種臨床試験は米国を中心に実施され,ネブライザーによる本剤吸入療法は,嚢胞性線維症

患者における肺機能の改善と気道感染の相対リスクの低下をもたらすことが示された。本剤は

欧米4カ国(米国,英国,独国及び仏国)を含め,約70の国と地域で承認され,嚢胞性線維症

の標準的治療薬として,全世界で広く使用されている。

一方,本邦では嚢胞性線維症は極めて稀な疾患であり,これまで国内における開発は行われ

てこなかった。今回の開発にあたり,中外製薬株式会社(以下,申請者)は,医療上の必要性

の高い未承認薬・適応外薬検討会議(以下,検討会議)の枠組みで2010年5月に本剤の膵嚢胞

線維症に対する開発要請を受け,2010年 月に開発の意向ありとして,公知申請への該当性に

係る企業見解を提出した。その後,医薬品医療機器総合機構と協議を行い,承認申請データパ

ッケージについては,海外申請資料を中心に,国内使用例( )の調査結果を含めた形で

の申請とすることで受け入れ可能とされた。この対応については,最終的に2011年4月の検討

会議にて,公知申請に該当しないが,欧米での臨床試験データで申請することを検討すべき,

また,国内の使用症例の情報を可能な限り収集し活用すべきであるとの検討結果が示された。 以上を踏まえて,申請者は海外申請資料及び国内使用症例のレトロスペクティブ調査結果を

中心に,新有効成分含有医薬品として承認申請を行うこととした。

2.5.1.1 背景 2.5.1.1.1 目標適応症の病態及び疫学

嚢胞性線維症(同一の病態を膵嚢胞線維症と呼ぶこともあるが,本資料中では国際的名称で

ある「嚢胞性線維症」と記載する。以下,CF)は,塩素イオン(Cl– )の分泌にかかわる

cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(以下,CFTR)遺伝子の変異を原因として発

症する常染色体劣性遺伝性疾患である1)。 CF は主に新生児期,乳児期に発症し,イオンと水の輸送を調節している CFTR の変異によ

り全身の上皮膜細胞の外分泌機能が障害され,気道や消化管などの分泌物が粘稠となる。その

結果,咳嗽,痰喀出及び呼吸困難などの症状を認め,肺炎や気管支炎などの呼吸器感染を繰り

返す。また,膵外分泌異常による消化不良から消化吸収不良,栄養障害,脂肪便,腸閉塞など

を伴う。現在,本疾患に対する根治療法はなく,呼吸器症状,消化器症状に対しては対症療法

が施されているが,予後は極めて不良である。過去に平均7~8歳で死亡していた患者の生命予

後は,治療環境の進歩に伴い生存期間の延長を認めるが,平均寿命は30歳を超えず,ほとんど

の患者が呼吸不全や呼吸器感染症で死亡するに至っている1)。したがって,呼吸不全や呼吸器

感染症に対する治療は,CF 患者の生命予後を左右する重要な問題と考えられる。また,CF は

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業で「膵嚢胞線維症」として難病に指定され

ており,国内では新たな治療法の提供が喫緊の課題とされる疾患である。

CF の白人での発症率は2,500人に1人といわれているが,日本人では極めて稀であり,難治性

疾患克服研究事業「難治性膵疾患に関する調査研究班」が実施した2004年1年間及び過去10年間の全国調査の結果では,2004年単年度で13名,過去10年間でも38名程度の患者数と推定され

ている1)–3)。また,最新の全国調査の結果4)でも,2009年単年度で15名,過去10年間でも44名程

度の患者数と,これまでと同様の患者数であった。

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2.5.1.1.2 目標適応症の診断・治療の現状 CF の臨床病像は,難治性の下気道感染症と末期の呼吸不全を伴う呼吸器病変,膵外分泌機

能不全や胎便性イレウスなどの消化器病変が代表的なものであり,その他にも,胆管,汗腺,

生殖器など全身の外分泌腺臓器の障害がみられる。汗腺異常の把握は,CF の有用な診断の1つであり,海外ではピロカルピンイオン導入法(汗のクロールイオン濃度の測定)により診断さ

れる。CF は,汗中クロールイオン濃度が60 mEq/L 以上持続し,呼吸器病変や消化器病変が認

められると診断されるが,ピロカルピンイオン導入法は本邦では未承認のため,他の簡便法

(指先クロール試験等)で代用する必要がある。 CF 患者のほぼ全例に認められる呼吸器障害は,その原因の一つとして,外分泌障害に伴う

気道内の粘稠性の高い粘液,いわゆる痰の関与が指摘されている。CF 患者の痰中には,本邦,

欧米とも主に黄色ブドウ球菌,緑膿菌がみられ,感染の治療はこれらに対する抗菌剤が用いら

れる1)。また,痰の排泄を目的として,本邦では粘液修復薬に分類されるカルボシステインが

主に用いられているが,欧米では,本邦で未承認である膿性分泌物中の DNA を選択的に加水

分解し,喀痰として排泄しやすくする作用を有する本剤の吸入治療が中心であり,米国のガイ

ドライン5)では,推奨治療として5ランク中最も上位の A ランクに位置付けられている。

表 2.5.1.1.2-1に示すように,CF の治療は各症状に対する対症療法が主である。呼吸器病変

に対しては,肺理学療法,去痰剤,気管支拡張剤等の組み合わせにより喀痰の排出を促進させ,

呼吸器感染を早期に診断することが基本である。この中で,海外で広く使用されている新たな

DNA 分解酵素製剤(本剤)への期待は大きいと考える。また,十分な量の消化酵素製剤を服

用することにより,栄養状態を改善し標準的な体格に近づけることが必要である。

表 2.5.1.1.2-1 CF の臨床病像と治療法

臨床病像 症状 治療法

呼吸器病変

-呼吸器症状

・粘性の高い痰

・しつこい咳

・喘息のような呼吸困難

-慢性気道感染症

・細気管支炎

・反復性の感染症

・重症気道感染症

-肺機能低下

・肺活量低下

・無気肺

・呼吸困難の悪化

-気管支拡張剤,去痰剤,抗アレルギー

剤,ステロイド剤

-肺理学療法

-抗菌剤(吸入,経口,静注)

・吸入抗菌剤:アミノグリコシド系(トブ

ラマイシン*),ポリミキシン系

(Colistin*)

・経口抗菌剤:マクロライド系(アジスロ

マイシン)長期少量投与

・静注抗菌剤(βラクタム系等)

-DNA分解酵素製剤吸入

(ドルナーゼ アルファ*長期吸入)

-高張食塩水吸入

-在宅酸素療法

-肺移植

消化器病変

-膵外分泌腺機能不全

・消化不良による脂肪便

・栄養発育障害

-慢性膵炎

-インスリン依存性糖尿病

-消化酵素剤(パンクレリパーゼ)

-発育期の栄養管理

(高カロリー・高タンパク食,十分量のビ

タミン補充)

-栄養療法(静脈栄養,経腸栄養)

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臨床病像 症状 治療法

-胎便性イレウス(腸閉

塞)

-肝硬変

-胆嚢異常

-高浸透圧性造影剤

(胎便を溶かす又は手術)

-肝臓移植

-利胆剤,胆嚢切除

汗腺異常

-汗の塩素イオン濃度が異

常に高い

-発汗過多による脱水症状

-輸液による水分,電解質の補給

その他 -慢性副鼻腔炎

-ばち状指

-先天性両側精管欠損症

膵嚢胞線維症の診療の手引き並びにメルクマニュアル医学百科家庭版を参考に作成

* 2011年7月時点では国内未承認

本剤は CF の標準的治療として,海外の各種ガイドライン及び教科書に広く紹介されている。

以下に,本剤に関するガイドライン及び教科書での記載内容を示す。

(1) ガイドライン

1) 米国でのガイドライン(Cystic Fibrosis Pulmonary Guidelines 2007年)5) 米国では,Cystic Fibrosis Foundation により CF の肺疾患に関するガイドラインが作成されて

いる。この Cystic Fibrosis Pulmonary Guidelines では,CF の肺疾患に対する治療薬として,

「中等度~重度」又は「軽度」の二つに分類され本剤の推奨度が示されている。

「中等度~重度」の患者においては19試験の合計3,140名を評価した結果,6歳以上の CF 患

者に対する長期的治療として肺機能を改善し,肺増悪を減少させるとして「強く推奨する」と

し,Level of Evidence を Good,Net Benefit を Substantial,Grade of Recommendation を A と結論

づけている。

その一方,「軽度」の患者においては,4試験の合計520名を評価した結果,6歳以上の無症

状かつ軽度の CF に対する長期治療は Level of Evidence を Fair,Net Benefit を Moderate,Grade

of Recommendation を B と結論づけている。

2) WHO ガイドライン(Guidelines for the diagnosis and management of cystic fibrosis 1996年)6) WHO の CF に関するガイドライン中の肺症状の治療の項目には,1. Physiotherapy,2.

Exercise,3. Treatment of respiratory infection,4. Aerosol antibiotics に続いて,5. Other Respiratory Therapy として本剤が位置付けられている。Other Respiratory Therapy 中には,利尿剤のアミロ

ライド,本剤,気管支拡張剤,酸素吸入,肺移植が取り上げられている。利尿剤は効果を示す

期間が短い点が短所であること,気管支拡張剤は Physiotherapy 実施前に有用であること,酸

素吸入及び肺移植は疾患の後期又は終末期に重要と位置付けられている。本剤は肺からの膿性

分泌物中の好中球由来の DNA を切断することにより,痰の粘稠度を下げるとされるが,最大

の制限要因はコストが高いこととされている。

3) EU でのガイドライン(Guideline on the clinical development of medicinal products for the treatment of cystic fibrosis 2009年)7)

EMA の Committee for Medicinal Products for Human Use(CHMP)の CF 治療の新薬開発に関

するガイドライン中には,本剤は肺疾患に対する標準的治療の一つとして位置付けられている。

すなわち,1. 吸入及び全身性抗菌薬治療,2. 粘液排出治療としての高張食塩液及び本剤,3.

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気管支拡張剤,4. 抗炎症治療(吸入ステロイド,イブプロフェン,マクロライド),5. Physiotherapy となっており,2.に分類されている。

また,同じ CF に対する薬物治療の臨床開発に関するガイドライン(Concept paper on the need for a guideline on the development of new medicinal products intended for the management and

treatment of cystic fibrosis 2007年)には,気道換気を改善する薬剤の有効性を検討する臨床試験

の対照薬として,既に承認されている治療薬の1つに本剤が記載されている。

(2) 教科書

1) ハリソン内科学(Cystic Fibrosis Pulmonary Guidelines: Treatment of Pulmonary Exacerbations Update 5/11/2010)

CF 患者の肺疾患に対する治療の項目に,気道内の粘液の排出に関与する薬物治療の中で重

要なものとして,本剤が記載されている。本剤は CF 患者の痰中に高濃度で含まれる DNA を

分解することにより,短期間の投与で換気量を増加させるとともに,肺症状の増悪が起こる間

隔を延長させると記載されている。

2) ネルソン小児科学(Nelson Textbook of Pediatrics 18版 400章 2007年)

CF 患者の肺治療での吸入療法の項目中に,吸入療法は下気道へ薬物を届け,潤いを与える

治療法として位置付けられている。本剤は吸入抗菌剤とともに有効な治療法であり,本剤

(2.5 mg)は1日1回吸入することにより,CF 患者の肺機能を改善し,肺症状の増悪回数を減

少させる。それにより中等度で膿の排出を伴う CF 患者の日常の活動性を改善させる効果があ

り,1秒量が正常な CF 患者及び進行した肺疾患を有する患者に対しても有効であると記載さ

れている。また,継続投与することにより1年以上効果が持続すると記載されている。

3) セシル内科学(Cecil Medicine 23版 89章 2007年)

肺疾患の治療の項目中に有効な治療として記載されている。CF 患者では好中球より DNA が

放出され,これが長い線維を形成することにより,痰の粘度を上げており,ヒト組換え DNase

I(本剤)の吸入はこの DNA を切断することにより,痰の咳による排出を容易にするとともに

抗菌剤の静注が必要となる呼吸器増悪の頻度を減少させると記載されている。膿を含有する痰

や気道閉塞を有する患者では,本剤が考慮されるべきと記載されている。

2.5.1.2 臨床開発計画 [5.3.5.4-1 Page 16-18 参照]

CF でみられる急性及び慢性の呼吸器合併症のほとんどは,粘稠な感染性分泌物の蓄積によ

る気道の閉塞及び損傷によるものであり,その膿性喀痰の中には,非常に大量の DNA が含ま

れる。その DNA は感染に伴って気道に集積した好中球の変性又は死滅に由来するものである

ことが報告されている8)。

過去,in vitro で部分精製したウシ DNase I を感染性気道分泌物にかけたところ,粘稠度の顕

著な低下がみられたことから,ウシ膵から粗精製された DNase I の有効性が示唆され,慢性気

管支炎,気管支拡張症,CF などの治療薬として開発が進められた。しかしながら,気管支収

縮,アナフィラキシーショック等の重篤な副作用があることが判明し,これらの副作用は,異

種蛋白に対するアレルギー反応又は混入していたトリプシンやキモトリプシンなどの蛋白分解

酵素の刺激によるものと考えられたため,ウシ膵由来の DNase I の開発は中断された9),10)。

その後,分子クローニング技術の登場と組換えヒト蛋白の精製技術改良により,Genentech社は,ヒト DNase I 遺伝子をヒト膵 cDNA ライブラリーからクローニングし,CHO 細胞によ

る発現及びその後の精製に成功した。rhDNase は,アミノ酸260個で構成された37 kD の一本鎖

糖蛋白で,そのアミノ酸配列は,循環血液,膵分泌物及び唾液中にみられるヒト天然酵素と同

一である。rhDNase は,in vitro において少量で膿性喀痰中の細胞外 DNA を選択的に加水分解

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プルモザイム 2.5 臨床に関する概括評価 Page 8

し,CF 患者の喀痰の粘稠性を劇的に変化させ,数分以内に流動しないゲルから液体化させる。

定量的に評価した喀痰の粘稠性は,1 μg/mL という低濃度の rhDNase により低下した11)。

以上の知見に基づき,19 年から CF 患者を対象とした本剤の臨床開発が,米国を中心に進

められた。

2.5.1.2.1 海外での臨床開発の経緯及び計画 [5.3.5.4-1 Page 51-95, 106 参照]

海外での本剤の臨床開発は,以下の3点を主目的として進められた。

• 本剤の短期投与により肺機能が改善され,CF の関連症状が緩和されることを示すこと。 • 本剤の長期投与により上記の有効性が維持され,CF の肺疾患に合併する呼吸器系感染症発

現率の低下を示すこと。 • 本剤を長期的に使用した時の安全性を示すこと。

第 I 相臨床試験は,19 年から米国で健康成人を対象とした Z0195g 試験,CF 患者を対象と

した Z0196g 試験,健康成人及び CF 等を有する患者を対象とした Z0197g 試験が実施された。

これらの臨床試験では,ネブライザーを用いたエアロゾル吸入による本剤の安全性と全身吸収

量などを目的に検討され,Z0195g 試験と Z0196g 試験は投与期間や投与量,投与方法など同じ

内容で実施された。

第 II 相臨床試験は19 年から米国で実施された。Z0266g 試験では,CF 患者に対して本剤

0.6 mg,2.5 mg,10.0 mg をそれぞれ1日2回,10日間投与による臨床至適用量探索を含む短期

的有用性の検討を目的とした。 社は,Z0266g 試験に続き19 年から米国で,本剤2.5 mg1日1回又は1日2回の吸入

療法をそれぞれ24週間連日行う2つの第 III 相臨床試験(Z0342g 及び Z0343g 試験)を実施した。

Z0342g 試験と Z0343g 試験は同一の試験デザインであることから,両試験の結果は統合して評

価された(以降,Z0342g/Z0343g 試験と表記)。本試験は,5歳以上の CF 患者に対する大規模

なプラセボ対照二重盲検試験であり,登録された集団は CF 患者全体を代表する(米国 CF 患

者集団の約80%)ものである。両試験は,呼吸器系感染症発現率や肺機能の変化を長期的に評

価する目的で計画され,海外では本剤承認の根拠となった臨床試験である。

また,19 年からは,米国以外の医療機関(英国)で初めて第 II 相臨床試験が実施された。

Z0340g 試験は CF 患者に対して本剤2.5 mg を1日2回,10日間の投与であり,肺機能の変化や

安全性が検討された。米国及び英国で実施された2つの第 II 相臨床試験(Z0266g 試験及び

Z0340g 試験)は,いずれもプラセボ対照二重盲検試験である。

この他に,19 年から米国において,高用量の間欠投与(本剤10.0 mg を1日2回,14日間連

日投与と14日間の休薬を1サイクルとして6サイクル継続)の有効性及び安全性を検討する第 II

相臨床試験(Z0338g 試験;非盲検)が実施された。

これらの臨床試験成績等に基づき,米国では1993年12月,英国では1994年1月に,FVC が予

測値の40%以上の CF 患者に対する治療薬として承認された。なお,この承認時には5歳未満の

臨床データがなかったため,欧米ともに適応は5歳以上の CF 患者に限定された。 しかしながら,その後,CF の初期の病理学的所見に関する研究で,感染,炎症及びそれに

よる好中球集積が乳幼児の肺で既に起こっており,疾患の進行を遅らせるためには乳幼児に対

する積極的治療が必要との認識が広まったことから,19 年から欧米で5歳未満の乳幼児を含

む CF 患者を対象とした第 II 相臨床試験(Z0644g 試験;非盲検,国際共同治験)が実施され

た。フェイスマスク併用のネブライザーによる本剤2.5 mg を1日1回,14日間投与の試験結果等

に基づき,Genentech 社及び Roche 社は,本剤の適応から5歳という下限年齢を削除する一変

申請を行った。その結果,欧州では二重盲検試験の成績が必要との理由から承認が得られてい

ないが,米国では1998年に下限年齢が削除された。

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現在,本剤は欧米4カ国(米国,英国,独国及び仏国)を含めて約70の国と地域で承認され,

CF の標準的治療薬として全世界で広く使用されている。

2.5.1.2.2 日本での臨床開発の経緯及び計画 (1) CF を対象とした開発経緯

本邦では,CF は極めて稀な疾患で患者数は非常に少ないため,今まで CF 患者を対象とした

本剤の開発は行われてこなかった。 2010年5月,申請者は,医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議の枠組みで本剤

の CF に対する開発要請を受けた。上述のように,本邦では CF 患者が極めて少なく,臨床試

験の実施は非常に難しい状況ながらも,患者の生命予後を左右する本疾患の重篤性,及び海外

では標準治療として位置付けられるも本邦では有効な治療法として使用できない現況を考慮す

ると,一日も早い医療現場への製品供給こそが製薬企業としての責務と考え,2010年6月に開

発の意向ありとして,公知申請への該当性に係る企業見解を提出した。その後,医薬品医療機

器総合機構と承認申請データパッケージ等について協議を行い,承認申請データパッケージに

ついては,海外申請資料を中心に,国内使用例( )の調査結果を含めた形での申請とす

ることで受け入れ可能とされた(1.13.2-1項 参照)。この対応については,最終的に2011年4

月の検討会議にて,公知申請に該当しないが,欧米での臨床試験データで申請することを検討

すべき,また,国内の使用症例の情報を可能な限り収集し活用すべきであるとする検討結果が

示された。これを受け,国内での治験実施が困難であることを踏まえ,申請者は「第3回膵嚢

胞線維症全国疫学調査(個人調査票の解析)」3)で報告されている 本剤使用症

例 について,レトロスペクティブ調査を実施した。 20 年 月,申請者は本剤の開発権を持つ Roche 社との導入契約を締結し,海外申請資料及

び国内使用症例のレトロスペクティブ調査結果を中心に,新有効成分含有医薬品として承認申

請を行うこととした。

なお,国内における CF は極めて稀な疾患であり,患者数が非常に少ないことから,希少疾

病用医薬品指定申請を行い,本剤は2011年6月に指定を受けている。

(2) 国内外の医療環境の比較

CF に関する国内外の医療環境について以下のとおり検討し,本剤は民族的要因による影響

を受けにくいと考えられ,海外臨床試験成績を中心に有効性及び安全性を評価することは

適切であると判断した。本内容については 月 日に提出した企業見解にて示し,医薬品医

療機器総合機構との検討を経て,検討会議での確認に至っている。

1) 呼吸器異常に関する病態(生理機能と CFTR 遺伝子の変異)

• CF は CFTR の機能障害による全身の外分泌腺機能障害・不全であり,CF 患者では喀痰中

に変性又は死滅白血球由来 DNA が大量に含まれて痰の粘稠性が高くなり,排泄が困難に

なることによって大半の患者に呼吸器障害が生じる。重症度の個人差はあると考えるが,

生理機能として変性又は白血球死滅後の経過に民族差はないと考える。

• CF の原因遺伝子である CFTR は,これまでに千を超える遺伝子変異・多型が報告されて

いる。CFTR 遺伝子変異・多型の組み合わせにより,CFTR(Cl– チャネル)機能は様々な

レベルを示し,肺病変では,CFTR の機能異常により Cl– 分泌の減少と上皮性 Na+チャネ

ルの活性化,再吸収が促進される。CFTR 遺伝子の変異スペクトラムは,欧米人と日本人

で異なっていることが報告されているが,二次的な病態の形成(水分の減少,気道液粘性

の上昇及び慢性的な感染)に民族間の違いはないと考える。

2) 呼吸器異常に対する治療法

• 日米欧ともに,CF の呼吸器系症状に対する治療法は,肺理学療法,去痰剤及び気管支拡

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張剤等の組み合わせによる喀痰の排出促進,呼吸器感染に対する適切な抗菌剤の使用が基

本であり,治療法に大きな違いはないと考える。

3) 作用点

• 本剤は,吸入により気道内に存在する喀痰中の DNA を選択的に加水分解することでその

粘性を下げて喀痰排泄を容易にすることから,本剤の効果は民族とは無関係に発揮される

ものと考える。 • 喀痰,粘液中からの分離菌は,日米欧いずれでもほとんどが緑膿菌と黄色ブドウ球菌であ

り,欧米で報告されている本剤による喀痰排泄促進に伴う肺感染症の頻度減少効果は,日

本人に対しても期待できると考える。

• 体内への吸収がほとんどないため,体内の代謝・排泄過程は本剤の有効性に影響を与えな

いと考える。

(3) 慢性閉塞性肺疾患を対象とした開発中止の経緯

海外では,CF の適応取得に続いて慢性閉塞性肺疾患(以下,COPD)治療薬としての開発が

行われていたことから, 社(2002年に中外製薬と統合)は過去に COPD での開発

を計画した。具体的には,19 年より健康成人を対象とした単回投与試験を実施した。しかし,

単回投与試験が終了し,反復投与試験を開始する前に,先行する米国での第 III 相臨床試験の

中間解析で COPD に対する有効性が認められなかったことを理由として,欧米,本邦ともに

開発を中止した。

2.5.1.3 臨床データパッケージ 今回の開発要請に対する対応においては,国内の CF 患者は極めて少ないこと,国内外の医

療環境の違いはないと考えられることから,海外と同様の効能・効果及び用法・用量にて申請

することが妥当であると判断した。したがって,臨床データパッケージとしては,以下に示す

2つの海外申請資料の内容を中心に構築することとした。

• Clinical Expert Report(Part IV Clinical Documentation Vol.45):19 年の海外初回申請時資

料概要(5.3.5.4-1)

• Expert Report(Part I Summary of the Dossier の Expert Report on the Clinical Documentation for PULMOZYME Vol.1):20 年の海外一変申請時資料概要(5歳未満への適応拡大)

(5.3.5.4-2)

2.5.1.3.1 海外初回申請に用いられた資料 海外初回申請時資料は,以下に示す臨床試験で構成されており,本剤の有効性,安全性及び

薬物動態が評価された。

(1) 有効性

CF 患者に対する本剤の有効性は,主として短期投与試験と長期投与試験に分けて評価され

た。

1) 短期投与試験 本剤を10日間投与した Z0266g 試験及び Z0340g 試験(第 II 相臨床試験)

2) 長期投与試験 本剤を24週間連続投与した Z0342g 試験と Z0343g 試験*(第 III 相臨床試験)

本剤高用量を24週間間欠投与した Z0338g 試験(第 II 相臨床試験)

※Z0342g 試験と Z0343g 試験は,デザインが同一で,事前の計画通りに統合解析が実施されたため,

以降,「Z0342g/Z0343g 試験」と表記し,両試験の統合解析結果が報告された。

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プルモザイム 2.5 臨床に関する概括評価 Page 11

(2) 安全性

CF 患者に対する本剤の安全性は,短期投与試験と長期投与試験別の統合解析結果により評

価された。なお,短期投与試験としては,上記の有効性評価に用いた第 II 相臨床試験の他,

第 I 相臨床試験の CF 患者データも併せて評価された。 1) 短期投与試験

本剤を10日間投与した Z0196g 試験(第 I 相臨床試験),Z0266g 試験及び Z0340g 試験

(第 II 相臨床試験),並びに本剤を5~8日間投与した Z0197g 試験(第 I 相臨床試験)の

CF 患者データの統合解析結果 2) 長期投与試験

本剤を24週間連続投与した Z0342g/Z0343g 試験(第 III 相臨床試験),及び24週間間欠投

与した Z0338g 試験(第 II 相臨床試験)の統合解析結果

(3) 薬物動態

薬物動態の評価は以下の第 I 相及び第 III 相臨床試験を対象として,主に急性及び長期的な

本剤の吸収量(血清及び喀痰中の rhDNase 濃度)が評価された。

1) 第 I 相臨床試験 海外健康成人:Z0195g 試験(10日間投与)

海外成人 CF 患者:Z0196g 試験,Z0197g 試験(5~10日間投与) 2) 第 III 相臨床試験

海外成人 CF 患者:Z0342g/Z0343g 試験(24週間投与)

なお,上記の臨床試験に加えて,初回申請時では Z0400g 試験(FVC が予測値の40%未満の

重度 CF 患者に対する14日間投与試験)及び Z0341g 試験(慢性気管支炎患者に対する10日間

投与試験)の最終報告書が提出されている。 その他,Z0399g 試験[

],Z0401g 試験(急性増悪期の

CF 患者に対する14日間投与)の成績が示された。

なお,上記の他に6試験(Z0342g/Z0343g の継続試験,Z0507g,Z0339g,Z0554g,Z0555g 及

び Z0558g 試験)が進行・計画中であった(5.3.5.4-1の2項 Page 19 Table A 参照)。

以上,海外初回申請では,主として8試験(第 I 相臨床試験;Z0195g 試験,Z0196g 試験及び

Z0197g 試験,第 II 相臨床試験;Z0266g 試験,Z0338g 試験,Z0340g 試験及び Z0400g 試験,

第 III 相臨床試験;Z0342g/Z0343g 試験)が提出された。

2.5.1.3.2 海外一変申請(5歳未満への適応拡大)に用いられた資料 下限年齢(5歳以上)の削除に関する一変申請においては,5歳未満を含む CF 患者を対象と

した Z0644g 試験の成績が評価された。また,5歳未満の小児への投与の妥当性を裏付ける試

験として,6~10歳の軽度 CF 患者を対象とした Z0713g 試験の成績が示された。

• 海外小児 CF 患者:Z0644g 試験

14日間投与;生後3カ月~9歳までの臨床的に安定している CF 患者 • 海外小児 CF 患者:Z0713g 試験(試験簡略名:PEIT)

2年間投与;6~10歳で軽度(FVC が予測値の85%以上)の臨床的に安定している CF 患者

2.5.1.3.3 今回の国内承認申請における臨床データパッケージ 臨床データパッケージについて,海外初回申請時及び海外一変申請(5歳未満への適応拡大)

時の資料を中心に構成した(表 2.5.1.3.3-1)。

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なお,海外 Z0341g 試験は投与対象が慢性気管支炎患者であり,CF 患者を対象としていない

ことから,また,海外初回申請時に進行・計画中であった臨床試験等(Z0399g 試験,Z0401g

試験,Z0342g/Z0343g の継続試験,Z0507g,Z0339g,Z0554g,Z0555g 及び Z0558g 試験)につ

いては,先述の海外初回申請時に用いた主要な8試験の結果を補足するものであり,国内での

評価に大きな影響を及ぼさないと考えたことから,今回の申請には含めなかった。 日本人への本剤投与経験例としては,以下の成績を含めることとした。

• 国内健康成人:J3027-01試験 単回投与

• 国内 CF 患者:レトロスペクティブの調査結果 連続投与

表 2.5.1.3.3-1 今回の承認申請に用いた臨床データパッケージ

域 試験番号 相 (依頼者) 試験デザイン 対象 用法・用量 症例数 投与期間

Z0195g I

( )反復投与 用量漸増

健康成人

2.0 mg 1日3回 6.0 mg 1日3回 10.0 mg 1日3回

4 4 4

合計:12

最長10日間 (最終投与後21日目に単回投与)

Z0196g I

( )反復投与 用量漸増

CF 患者 (%FVC >

40%)

2.0 mg 1日3回 6.0 mg 1日3回 10.0 mg 1日3回

6 4 4

合計:14

最長10日間 (最終投与後21日目に単回投与)

Z0197g I

( )反復投与 用量漸増

健康成人

CF 患者等

(%FEV1 >50%)

プラセボ 2.0 mg 1日2回 10.0 mg 1日2回 10.0 mg 1日3回 20.0 mg 1日2回

16 2

21 7 5

合計:51

試験のフェーズ

に応じて5~8日

Z0266g II

( )

多施設共同 無作為化 二重盲検

プラセボ対照

CF 患者 (%FVC ≥

40%)

プラセボ 0.6 mg 1日2回 2.5 mg 1日2回 10.0 mg 1日2回

48 45 44 44

合計:181

10日間 (28日目に再度単

回投与)

Z0338g II

( )

多施設共同 反復間欠投与

非盲検

CF 患者 (%FVC ≥

40%)

10.0 mg 1日2回14日間投与後,14日間休

薬のサイクルを6回

184 合計:184

(160例で集計) 24週間

Z0340g II

( )

無作為化 二重盲検

プラセボ対照

CF 患者 (%FVC ≥

40%)

プラセボ 2.5 mg 1日2回

35 36

合計:71

10日間 (28日目に再度単

回投与)

Z0400g II

( )

多施設共同 無作為化 二重盲検

プラセボ対照

重度 CF患者

(%FVC <40%)

プラセボ 2.5 mg 1日2回

35 35

合計:70 14日間

Z0342g/ Z0343g

III ( )

多施設共同 無作為化 二重盲検

プラセボ対照

CF 患者 (%FVC ≥

40%)

プラセボ 2.5 mg 1日1回 2.5 mg 1日2回

325 322 321

合計:968

24週間 (169日)

Z0644g II

( )多施設共同

非盲検

5歳未満を

含む CF患者

2.5 mg 1日1回 98 14日間

Z0713g (PEIT)

III ( )

多施設共同 無作為化 二重盲検

プラセボ対照

6~10歳の

軽度 CF患者

(%FVC ≥ 85%)

プラセボ 2.5 mg 1日1回

235 239

合計:474

96週間 (2年間)

内 J3027-01

I ( )

無作為化 二重盲検

健康成人

プラセボ 2.5 mg 単回投与 5.0 mg 単回投与 7.5 mg 単回投与

6 6 6 6

計24

単回投与

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プルモザイム 2.5 臨床に関する概括評価 Page 13

域 試験番号 相 (依頼者) 試験デザイン 対象 用法・用量 症例数 投与期間

国内使用

例の調査

報告書

― (中外製薬)

レトロスペク

ティブ調査 CF 患者

2.5.1.4 医薬品の臨床試験実施に関する基準遵守 本剤の海外臨床試験は,すべてヘルシンキ宣言,並びに試験が実施される当該国の法律及び

規制に従って実施された。また,国内第 I 相臨床試験も,ヘルシンキ宣言(1964)-東京,ベ

ニス,香港改訂-の精神に基づき,かつ「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)」を

遵守して実施された。

2.5.2 生物薬剤学に関する概括評価 本申請では製剤及び生物学的同等性試験に関する資料はない。

ヒト血清中 rhDNase 濃度は,抗体捕獲によるバイオアッセイ法により測定された。その結果,

定量限界は1.6~2.0 ng/mL であった。また,喀痰中 rhDNase 濃度は,酵素免疫測定法により測

定された。その結果,定量限界は10 ng/mL であった(2.7.1.2項 参照)。

2.5.3 臨床薬理に関する概括評価 本剤の薬理作用は,肺の気道を閉塞させる粘稠な感染性分泌物中の高濃度の DNA を加水分

解することにより喀痰の粘稠性を低下させることであり,粘液線毛輸送には生物物理学的特性

が影響を及ぼすことが知られていることから,本剤の作用は喀痰に対する直接的な作用と考え

られる。海外での薬物動態は,主として健康成人及び CF 患者に対する短期及び長期投与中の

全身吸収量が評価された。また,国内では健康成人に対する忍容性が評価された。

国内外の臨床試験から,本剤単回吸入後の血清中 rhDNase 濃度に吸入量間で有意な差は認め

られず,また吸収量は極めて少ないことが示唆された(2.7.2.2.1及び2.7.2.2.2項 参照)。

内因性の DNase 濃度は,健康成人は5.4 ng/mL まで,CF 患者は6.1 ng/mL までの範囲であっ

た。反復投与後の血清中 rhDNase 濃度は経時的に上昇を示したが,用量にかかわらず投与前の

濃度から10 ng/mL を超える上昇を示す被験者はいなかった。したがって,本剤の体内への吸

収量は無視できる程度と考えられる(2.7.2.2.2,2.7.2.2.3及び2.7.2.2.4項 参照)。

吸入後の喀痰中 rhDNase 濃度,小児における BAL 中 rhDNase 濃度は,高値を示しているこ

とから,吸入後の血液への移行も極めて少ないことが示唆された。また,長期にわたる投与中

に rhDNase の蓄積を示す所見はなかった(2.7.2.2.5及び2.7.2.2.6項 参照)。 以上,本剤は投与量に比例して CF 患者の喀痰中にとどまるが,その後は喀痰から排泄され

ると考えられた。吸入投与時の rhDNase の吸収はわずかであり,本剤に長期に曝露される過程

で血清中 rhDNase 濃度の有意な上昇はみられなかった。

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2.5.4 有効性の概括評価 本剤の CF 患者に対する臨床試験は国内では実施しておらず,すべての臨床試験は海外で実

施された。海外初回申請における主な有効性の評価は,3つの第 II 相臨床試験(Z0266g 試験,

Z0340g 試験,Z0338g 試験)と大規模な第 III 相臨床試験(Z0342g/Z0343g 試験)で行われ,い

ずれの臨床試験においても,CF に対する標準治療(気管支拡張剤等の使用や肺理学療法等)

は継続可能として実施された。

FVC が予測値40%以上の CF 患者に,本剤を10日間投与した Z0266g 試験及び Z0340g 試験で

は,本剤群はプラセボ群に比較してベースライン時からの肺機能(FEV1の平均変化率)を統

計学的有意に改善した(図2.7.3.3.2.1.1-1)。 Z0266g 試験は,8歳以上の小児を含む CF 患者181例に対して,プラセボ,本剤0.6 mg,

2.5 mg 及び10.0 mg を1日2回10日間連日投与し,42日間の肺機能(FEV1,FVC)を観察した第

II 相臨床試験である。本剤群は,いずれの用量においても投与3日後からプラセボ群に比較し

て, FEV1及び FVC を有意に改善した。投与期間中の改善の割合は2.5 mg 及び10.0 mg 投与群

で高く,0.6 mg 投与群で改善が小さい傾向が認められた。また,2.5 mg 投与群では呼吸困難や

CF 関連症状等,QOL の有意な改善が確認されている(2.7.3.3.2.1項 参照)。 Z0340g 試験は,16歳以上の CF 患者71例に対して,プラセボ及び本剤2.5 mg を1日2回10日間

連日投与し,Z0266g 試験と同様に42日間の肺機能(FEV1,FVC)を観察した第 II 相臨床試験

である。本剤群は,プラセボ群に比較して,投与期間中 FEV1を有意に改善した。なお,FVC

は有意ではなかったものの改善がみられている。これらの改善は Z0266g 試験と同様に投与中

止後数日で消失した。また,本剤群では CF 関連症状で有意な改善が確認されている

(2.7.3.3.2.1項 参照)。 以上,有効性に関する短期的評価では,いずれの臨床試験においても,本剤は CF 患者

(FVC が予測値40%以上)の肺機能及び QOL の改善に有効であり,その用法・用量は,

2.5 mg の1日2回投与が妥当と考えられた。

本剤の CF 患者に対する長期的有効性は,24週間連日投与の大規模な第 III 相臨床試験(2試

験を統合した Z0342g/Z0343g 試験)と24週間の間欠投与(14日間の連日投与後に14日間の休薬

を1サイクルとし6サイクル実施)の第 II 相臨床試験(Z0338g 試験)で評価された。

Z0342g/Z0343g 試験は,5歳以上の小児を含む CF 患者(FVC が予測値40%以上)968例に対

して,24週間連日でプラセボ(325例),本剤2.5 mg を1日1回(322例)又は1日2回投与(321

例)し,主要評価項目として気道感染の発症と肺機能(FEV1)の変化を検討した第 III 相臨床

試験である。気道感染は,抗生物質の非経口投与を要する治験実施計画書で規定した12項目の

うち4つ以上の症候を示す場合に重症(急性増悪;治験実施計画書で定義された気道感染と表

記)と定義し,その発症回数と初発までの期間を検討した。また,肺機能検査や QOL は同一

の手順,方法で評価された(2.7.3.1.3.3項 参照)。 本試験に登録された集団は,CF 患者全体の集団を代表するもの(米国 CF 患者集団の約80%)

であり,FVC が予測値の40%未満の患者(米国 CF 患者集団の約6%)は除外されたが,ベー

スライン時の肺機能や健康状態は様々な患者が含まれた(2.7.3.3.1項 参照)。

以下,本試験で得られた気道感染発症率,肺機能検査値(FEV1の平均変化率)及びその他の

有効性に関する成績を記載する。

(1) 気道感染の発症率

抗生物質の非経口投与を要する重症な気道感染の発症率は,プラセボ投与群の27%に対し,

本剤1日1回投与群及び1日2回投与群でそれぞれ22%及び19%で,相対リスクはそれぞれ0.78(P

= 0.110)及び0.66(P = 0.012)といずれもリスクの低下が確認された。この結果は,年齢によ

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プルモザイム 2.5 臨床に関する概括評価 Page 15

る調整後も同様であり,結果の頑健性が認められた(表2.7.3.3.2.2.1-1,表2.7.3.3.2.2.1-2)。 また,重症気道感染を発症しなかった被験者の累積割合は,プラセボ群の72%に対し,本剤

1日1回投与群及び1日2回投与群でそれぞれ78%及び81%と高く,気道感染の相対リスクを低下

させた(図2.7.3.3.2.2.1-1)。なお,本試験において,本剤1日1回投与群と1日2回投与群の気道

感染の発症率に大きな差はなかったが,21歳以上の集団では2回投与群の発症率が低かった

(表2.7.3.3.2.2.1-3)。本剤による FEV1の初期改善がみられない場合でも感染の相対リスクは

低下することが確認された(表2.7.3.3.2.2.1-6)。

(2) 肺機能検査値(FEV1の平均変化率) ベースラインから24週までの FEV1の平均変化率は,プラセボ群では変化がなかったのに対

し,本剤1日1回及び1日2回投与群では,それぞれベースラインから5.8%及び5.6%上昇し,両

群ともプラセボ群に対し有意に高かった(それぞれ P < 0.001)。投与期間中の平均変化率は,

本剤1日1回投与群で4.3~8.2%,1日2回投与群で3.6~9.0%の増加であり,FEV1は投与8日目で

最も高い値に到達し,その後,わずかに低下したが,試験期間中は高値を維持した(図

2.7.3.3.2.2.2-1)。

(3) その他の有効性に関する項目の評価 FVC のベースラインからの平均変化率は,プラセボ群では変化がなかったのに対し,本剤1

日1回及び1日2回投与群では,それぞれ3.8%及び3.0%上昇し,両群ともプラセボ群に対し有意

に高かった(それぞれ P < 0.001)(図2.7.3.3.2.2.2-2)。また,QOL でも,本剤の投与により

呼吸困難,全般的健康状態,CF 関連症状の改善傾向が認められ,抗生物質非経口投与の累積

日数及び累積入院日数は,プラセボ群に比べ本剤1日1回及び1日2回投与群で有意に短かった。

CF 関連疾患のため在宅を余儀なくされた期間も,プラセボ群に比べて本剤1日1回投与群で有

意に短かった(P = 0.004,表2.7.3.3.2.2.2-1)。

以上,Z0342g/Z0343g 試験では,本剤2.5 mg の1日1回投与において有効であることが確認さ

れた。21歳以上では2回投与が有効であった。

Z0338g 試験は,先に行われた臨床試験(Z0196g 試験,Z0197g 試験,又は Z0266g 試験)に

て本剤を投与された8歳以上の CF 患者160例に対して,本剤10.0 mg の高用量を1日2回14日間

連日投与後に14日間の休薬期間を設け(24週間の長期間欠投与),肺機能検査(FEV1の平均

変化率)を有効性の評価項目とした第 II 相臨床試験である。本試験では,本剤を投与するご

とに FEV1が改善し,投与を中断するたびに低下することが示された。本結果は,Z0266g 試験

及び Z0340g 試験でみられた結果を支持するものである。また,本剤に対する抗体が15例に認

められたが,抗体陽性確認後も安全性を確認しながら試験治療が再開され,その効果は維持さ

れていることが示された(図2.7.3.3.2.3-1)。以上のことから,本剤の有効性は連続的投与に

よって認められることが確認された。

初回申請時には上述した臨床試験以外に,FVC が予測値の40%未満の重度 CF 患者に対する

臨床試験が提出された(Z0400g 試験;2.7.3.3.2.4.1項 参照)。本試験は,プラセボを対照に本

剤2.5 mg の1日2回,14日間投与で検討され,肺機能(FEV1及び FVC)の有意な改善は示され

なかったが,その後の McCoy K らの検討12)(2.5 mg 1日1回12週間投与)では,プラセボ群に

対して有意な改善を示したことが報告されている(2.7.3.3.4項 参照)。 海外一変申請(5歳未満への適応拡大)では,5歳未満の CF 患者における有効性の成績は示

されていないが,5歳未満の CF 患者でも rhDNase 濃度及び酵素活性が確認されたこと

(Z0644g 試験;2.7.6.9項 参照),また,低年齢(6~9歳)の患者に対しては肺機能の改善や

気道感染の相対リスクの低下が確認されたこと(Z0713g 試験;2.7.3.3.2.4.1項 参照)から,5

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プルモザイム 2.5 臨床に関する概括評価 Page 16

歳未満の CF 患者における有効性は十分に期待できるものと推察される。

2.5.5 安全性の概括評価 本項では,海外 CF 患者における短期(10日間)及び長期(24週間)安全性の評価に加えて,

5歳未満を含む10歳までの小児及び市販後の安全性情報について概括した。

有害事象は,投与後初めて発現した事象又は投与前のスクリーニング期間から増悪した事象

と定義した。

短期投与(Z0196g 試験,Z0197g 試験,Z0266g 試験及び Z0340g 試験)による検討では,プ

ラセボ群89%及び本剤群96%の被験者に有害事象が認められた(表2.7.4.2.1.1.1-1)。本剤群に

おける主な有害事象は,顔面浮腫,消化不良,喀痰の変化,咳嗽増加,発声障害,咽頭炎及び

鼻炎であり(表2.7.4.2.1.1.1-2),長期投与でみられる結果と異なるものではなかった(表

2.7.4.2.1.1.1-3)。また,死亡例は認められず,投与中止に至った有害事象及び重度又は生命を

脅かす有害事象発現率もプラセボ群と差がなかった(表2.7.4.2.1.2.1-1)。 本剤の吸入による気道感受性を評価した結果,本剤投与歴がある抗体陰性及び陽性のいずれ

の患者においても,薬物アレルギーやアナフィラキシーの徴候は認められず,本剤の投与によ

り臨床的に著明な気管支収縮を誘発するという所見は認められなかった(2.7.4.2.1.5.1項 参

照)。また,FVC が予測値の40%未満の CF 患者における忍容性は良好であり,本剤は重度の

CF 患者に対しても安全な薬剤であると考えられた(Z0400g 試験;2.7.6.7項 参照)。

長期投与の安全性は,Z0342g/Z0343g 試験(5歳以上の CF 患者968例)と同じ24週間の

Z0338g 試験(8歳以上の CF 患者160例)との統合解析結果(1,128例)について評価された。

Z0342g/Z0343g 試験と Z0338g 試験との統合解析において,有害事象はプラセボ群98%,本剤

群98%の被験者に認められ,両群ともに高頻度で認められた有害事象は呼吸器系の事象(プラ

セボ群92%,本剤群94%)であった。また,治験責任医師により治験薬との関連性が否定でき

ないと判断された有害事象は,プラセボ群48%,本剤群53%の被験者に認められ,本剤群にお

ける主な有害事象は咳嗽増加(68%),鼻炎(56%),咽頭炎(44%)であった(表

2.7.4.2.1.1.2-1,表2.7.4.2.1.1.2-2,表2.7.4.2.1.1.2-3)。 すべての有害事象を重症度及び本剤との関連性にかかわらず検討した結果,投与中の有害事

象の発現頻度は,投与前の副次的診断又は症状の頻度と差がないことが示された。一方,本剤

の長期投与により発声障害(プラセボ群7%,本剤群16%),喉頭炎(プラセボ群1%,本剤群

4%)及び咽頭炎(プラセボ群33%,本剤群44%)の発現率が上昇する可能性が示唆された。し

かしながら,これらの症状は一般的に十分忍容可能であった(表2.7.4.2.1.1.2-3)。

有害事象による死亡率は,プラセボ及び本剤の両群とも1%で群間差はなく,有害事象によ

る投与中止率もプラセボ群2%,本剤群3%と低かった。また,重度又は生命を脅かす有害事象

発現率は,プラセボ群,本剤群でそれぞれ54%及び49%,重篤な有害事象発現率はそれぞれ

43%及び34%で,それぞれの発現率は本剤群の方が低かった(表2.7.4.2.1.2.2-1)。本剤の投与

により臨床上問題となる臨床検査値異常所見が増加する傾向は認められなかった。 以上の結果から,本剤の長期投与で臨床上問題となるような有害事象は認められず,本剤の

安全性には特段の問題はないものと考えられた。

Z0644g 試験(3カ月以上5歳未満の CF 患者65例,及び5~9歳の CF 患者33例に本剤2.5 mg を

1日1回,14日間投与)では,本剤に特徴的にみられる有害事象(発声障害,咽頭炎,喉頭炎,

胸痛,結膜炎及び発疹),Z0644g 試験で10%を超える頻度で発現した事象,並びに5歳未満と

5歳以上の年齢群間で発現率の差が5%以上あった事象の発現率が評価された(表2.7.4.5.1.1-1)。

Z0644g 試験で高頻度に発現した有害事象は,両群とも咳嗽増加(5歳未満44.6%,5歳以上

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30.3%),感染(5歳未満43.1%,5歳以上30.3%),発熱(5歳未満41.5%,5歳以上24.2%)及び

鼻炎(5歳未満35.4%,5歳以上27.3%)で,その他,嘔吐(5歳未満16.9%,5歳以上27.3%),

発声障害(5歳未満16.9%,5歳以上12.1%)及び頭痛(5歳未満4.6%,5歳以上36.4%)等であっ

た。年齢群間で比較すると,感染,発熱,発声障害及び神経過敏(5歳未満13.8%,5歳以上

0.0%)の発現率は,5歳未満群の方が5歳以上の群よりも高かった。一方,5歳未満群では,咽

頭炎と頭痛の発現率が5歳以上の群よりも低かった。

5歳未満の CF 患者に本剤2.5 mg を1日1回,14日間投与した時の忍容性は良好で,フェイスマ

スク併用のネブライザーによる安全性にも特に問題はないと考えられた。本試験では,BAL

液の濃度を測定することにより,ドラッグデリバリー上の実際の影響について検討した。その

結果,被験者の年齢,体格及び投与器具(マウスピースかフェイスマスクか)にかかわらず,

BAL 液中で測定できる rhDNase 濃度の変動が大きかった。BAL 液中の rhDNase 濃度と被験者

の年齢や身長の間に関連性はなく,また,BAL 液中の DNA 濃度は年齢とともに上昇し,最も

年齢が低い被験者でも DNA 濃度は高かった。したがって,本結果は被験者の年齢に基づき本

剤の用量を調節する必要がないことを示唆しており,5歳未満の CF 患者にも本剤の投与を推

奨可能とする根拠と考える。 Z0713g 試験では,6~10歳の CF 患者470例を対象に本剤2.5 mg を1日1回,96週間投与した。

認められた有害事象は軽度であり,安全性にも問題はないと考えられた。 プラセボ群と比較して本剤群の発現頻度が3%以上上回った有害事象は発疹のみ(本剤群;

5.9%,プラセボ群;1.3%)で,咽頭炎,発声障害及び咳嗽増加等の発現率は,プラセボ群と

同程度であった(表2.7.4.5.1.2-2)。重篤な有害事象の発現頻度は,本剤群の方が低く,本剤

群で因果関係が否定されなかった重篤な有害事象は,肺障害(2例)と蕁麻疹(1例)の3例で

あった。なお,試験期間中に死亡例はなかった。以上のことから,6歳以上の低年齢の CF 患

者に対しても,安全に本剤を吸入することが可能であると考えられた。 以上,本剤のネブライザーによる吸入療法は,海外試験において小児を含む CF 患者に対し

て忍容であり,有害事象プロファイルはプラセボと同様で,5歳未満の CF 患者に対してもそ

れより年齢が上の患者と同様に,安全性に問題はない治療法であると評価された。

本剤は,海外では Pulmozyme®として販売されている。最新の過去2回の PSUR(2009年7月1

日から2011年6月30日まで)では,世界中から受理された有害事象症例報告及び/又はその他

のデータ(自発報告された副作用,公表された副作用症例経過,治験で報告された重篤な副作

用を含む)が要約されている(2.7.4.6.2項 参照)。PSUR の報告期間中,本件を含め,本剤の

プロファイルに影響を与える事象は認められておらず,医薬品市販承認の取り下げ,取り消し

又は停止,医薬品市販承認更新の取得不成功,販売の制限,用量又は処方変更,対象患者群又

は効能・効果の変更,安全性に関する緊急制限等は発生していない。

また,Roche 社がスポンサーとなった Epidemiologic Registry of Cystic Fibrosis(ERCF)の EUのデータベースに基づいた調査結果が2007年に報告されている13)(2.7.4.6.3項 参照)。報告で

は,1994年から2000年までに9カ国から登録された15,979例の CF 患者が対象とされ,本剤治療

例6,829例中,本剤との因果関係が否定されない重篤な有害事象(SAE)は26例(0.38%)と少

なく,死亡に至った SAE も認められなかった。5歳未満の CF 患者では,本剤治療例で発現し

た本剤との因果関係が否定されない SAE 発現率は0.4%と,全体の発現率と同様の結果であっ

た。 以上,市販後データを用いたレトロスペクティブな検討においても,本剤の投与は良好な忍

容性を示し,本剤の安全性に問題はないと考えられる。

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2.5.6 国内使用成績 国内の臨床試験成績として,健康成人を対象とした第 I 相臨床試験成績及び日本人の本剤使

用例 のレトロスペクティブ調査結果を示した。

2.5.6.1 国内第 I 相臨床試験(単回投与) 健康成人(24例)を対象に,本剤を投与した時の安全性及び薬物動態の検討を目的とした第

I 相単回投与試験(297PIS-1試験)が19 年に実施された。本試験では,ステップ1に2.5 mg,

ステップ2に5.0 mg,ステップ3に7.5 mg の本剤又はプラセボ(本剤6名,プラセボ2名)が投与

された。

試験の結果,安全性では,本剤との因果関係が否定されない有害事象を含め臨床上問題とな

る所見は認められず,忍容性も2.5~7.5 mg までの範囲内で良好であった。報告された自覚症

状及び他覚所見は,1例の感冒によると思われる咳と発熱のみであった。臨床検査値異常値は

生理的変動の範囲内でみられた。

また,血清中薬物濃度を測定した結果,血中への移行はほとんどなく,本剤吸入量と AUCの相関は乏しかった。この結果は,海外健康成人に対する第 I 相試験で得られた結果と同様で

あった(2.7.6.11項 参照)。

2.5.6.2 国内使用例の調査結果 申請者は,本邦での臨床使用実態を把握するため,「第3回膵嚢胞線維症全国疫学調査(個

人調査票の解析)」を調査した。

本調査では,2004年1年間並びに過去10年間の CF 患者に関する疫学調査内容が報告されてお

り, ことを確認した。また,

,その要約を2.5.6.2.1項

に示した。 本邦では CF 患者が極めて少なく,本剤を国内患者に長期間投与した時の臨床試験データは

存在しない。したがって,

レトロスペクティブ調査を実施した。その概要を2.5.6.2.2項

に,詳細を2.7.6.12項及び5.3.5.4-3に示した。

2.5.6.2.1 「 」からの報告

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2.5.6.2.2 申請者が実施したレトロスペクティブな調査結果

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2.5.7 ベネフィットとリスクに関する結論 (1) ベネフィット

CF は主に新生児期,乳児期に発症し,全身の上皮膜細胞の外分泌機能が障害されることに

より,気道や消化管などの分泌物が粘稠となる。その結果,肺炎や気管支炎などを繰り返し,

膵外分泌異常による脂肪便や腸閉塞などの障害を伴う。現在,様々な対症療法が施されるが,

予後は極めて不良である。 rhDNase のアミノ酸配列は,循環血液,膵分泌物及び唾液中にみられるヒト天然酵素と同一

であり,少量で膿性喀痰中の細胞外 DNA を選択的に加水分解し,CF 患者の喀痰の粘稠性を

劇的に変化させる。欧米では,喀痰として排泄しやすくする作用を有する本剤の吸入療法は,

CF 患者の標準的治療薬に位置付けられている。したがって,有効な治療法がない国内では,

迅速な医療現場への提供が求められている。

海外における臨床試験では,本剤24週間の吸入により,抗生物質の非経口投与を要する重症

な気道感染発症の相対リスクを,プラセボに対して,本剤2.5 mg の1日1回投与で22%及び2回

投与で34%抑制した(それぞれ P = 0.110及び P = 0.012)。FEV1のベースラインからの平均変

化率は,本剤2.5 mg の1日1回及び1日2回投与群では,それぞれ5.8%及び5.6%上昇し,両群と

もプラセボ群に対し有意に高かった(それぞれ P < 0.001)。また,FVC のベースラインから

の平均変化率は,本剤2.5 mg の1日1回及び1日2回投与群では,それぞれ3.8%及び3.0%上昇し,

両群ともプラセボ群に対し有意に高かった(それぞれ P < 0.001)。QOL の評価でも,本剤の

投与により呼吸困難,全般的健康状態,CF 関連症状の改善が確認されている。

また,本剤のネブライザーによる吸入療法は,小児を含む CF 患者に対して忍容性は良好で

あり,安全性にも問題はない治療法である。有害事象による中止率,死亡率はプラセボと同程

度であり,市販後の検討では重篤な有害事象の発現率も少なかった。 一方,国内のレトロスペクティブ調査では,

以上,本剤の吸入療法は,抗生物質の非経口投与を要する気道感染の発症を抑制し,肺機能

の改善,また CF の病的状態を軽減し QOL を向上するなど,科学的エビデンスに基づいた有

用な治療法であると考える。

(2) リスク 本剤の作用は喀痰に対する直接的なものと考えられ,全身への吸収はほとんどない。本剤は

投与量に比例して CF 患者の喀痰中にとどまるが,その後は喀痰から排泄される。また,吸入

投与時の rhDNase の吸収はわずかであり,本剤に長期間曝露される過程で,血清中 rhDNase

濃度の有意な上昇はみられない。 海外臨床試験では,本剤吸入による薬物アレルギーやアナフィラキシーの徴候は認められず,

本剤により臨床的に著明な気管支収縮を誘発するという所見は認められていない。 高頻度で認められた有害事象は呼吸器系の事象であり,本剤との関連性が否定できないと判

断された有害事象は,Z0342g/Z0343g 試験において53%の被験者に認められたが,同様の事象

はプラセボ群でも48%の被験者に認められた。本剤投与による主な有害事象は咳嗽増加,鼻炎,

咽頭炎であり,臨床的に特に問題となる事象ではないと考える。 一方,国内のレトロスペクティブ調査においても,

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以上,本剤の忍容性は良好であり,臨床的に問題となる有害事象は認められないことから,

小児を含め CF 患者における安全性に問題はないと考えられる。しかしながら,呼吸器系障害

(重篤でない有害事象の発現率が上昇することがある)には,注意を要する必要があると考え

る。

(3) 臨床的位置付け 本剤は,作用機序の観点から,本邦では同種同効薬のない新規の DNA 分解酵素製剤として

位置付けられる。本剤の吸入療法はこの作用機序により,呼吸器感染症の頻度を低減し,肺機

能を改善し,CF 患者の QOL を向上させる点において有効であり,かつ小児を含めた安全性に

問題はないことから,ベネフィットを上回るリスクがあるとは考えられず,国内供給の臨床的

意義は高いものと考える。

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2.5.8 参考文献 1) 膵嚢胞線維症の診療の手引き. 編集 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業

難治性膵疾患に関する調査研究班. 主任研究者 大槻眞,分担研究者 成瀬達. 2008年6月

2) Yamashiro Y, Shimizu T, Oguchi S, Shioya T, Nagata S, Ohtsuka Y. The estimated incidence of cystic fibrosis in Japan. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 1997 May;24(5):544-7.

3) 第3回膵嚢胞線維症全国疫学調査(個人調査票の解析). 厚生労働科学研究費補助金(難治

性疾患克服研究事業)分担研究報告書. 報告者:成瀬達,名古屋大学大学院消化器内科学

助教授. 4) 第4回膵嚢胞線維症全国疫学調査(一次調査の集計). 厚生労働科学研究費補助金(難治性

疾患克服研究事業)分担研究報告書. 報告者:成瀬達,みよし市民病院 院長.

5) Flume PA, O'Sullivan BP, Robinson KA, Goss CH, Mogayzel PJ, Jr., Willey-Courand DB, et al. Cystic fibrosis pulmonary guidelines: chronic medications for maintenance of lung health. Am J Respir Crit Care Med. 2007 Nov 15;176(10):957-69.

6) Guidelines for the diagnosis and management of cystic fibrosis 1996 http://www.cfww.org/who/article/198/Guidelines_for_the_diagnosis_and_management_of_Cystic_Fi

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7) Guideline on the clinical development of medicinal products for the treatment of cystic fibrosis 2009 http://www.ence-plan.eu/CF.11.0.html

8) Potter JL, Matthews LW, Lemm J, Spector S. The composition of pulmonary secretions from patients with and without cystic fibrosis. Am J Dis. Child 1960;100:493-5.

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10) Raskin P. Bronchospasm after inhalation of pancreatic dornase. Am Rev Respir Dis. 1968 Oct;98(4):697-8.

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13) McKenzie SG, Chowdhury S, Strandvik B, Hodson ME. Dornase alfa is well tolerated: data from the epidemiologic registry of cystic fibrosis. Pediatr Pulmonol. 2007 Oct;42(10):928-37.