感染型ルーチングにおける適正な通信距離とスケーリング関係式 ·...

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Research Abstracts on Spatial Information Science CSIS DAYS 2016 - 46 - D03 感染型ルーチングにおける適正な通信距離とスケーリング関係式 藤原 明広 福井工業大学 環境情報学部 経営情報学科 Email: < [email protected] > Web: < https://sites.google.com/site/akihirofujihara/ > (1) 動機: 近年,モノのインターネット( Internet of ThingsIoT))に関する技術が社会で注目を集めて いる.それと同時に Bluetooth Low EnergyWiGigWi-Fi AwareLTE-IoT Wi-SUN 等のように,モノ 同士をインターネット接続する為の様々な無線通 信技術が提案されるようになった.既存の通信技 術は広帯域・低遅延であることを前提条件としてい たが,最近注目されているキーワードとして Narrow BandNB-IoT Low Power Wide AreaLPWAがあるように,IoT デバイス同士が自律的ではある が,相互にゆっくり情報転送を行う概念も提案され ている.一方,これらの無線通信技術における通 信距離は数メートルから数キロメートルまで多様で ある.この多様性はアプリケーションの多様性から 来ているが,アプリケーションに応じて適正な通信 距離を持った無線通信技術を選択することが必要 な時代になりつつある.例えば,都市圏全体に蓄 積搬送型転送による情報配信を行う場合,通信距 離がどのくらいあるのが適正だろうか? (2) アプローチ: そこで株式会社ナイトレイが公開して いる日本の主要都市圏(関東,中部,関西)の擬似 人流データを利用して,都市圏の人や車を移動ノ ードと見立てて感染型ルーチングによる情報配信 を行う場合,一日で都市圏のほぼ全ノードに情報 配信を行う為に必要な通信距離を数値実験によっ て見積もる研究を行った.ここで感染型ルーチング とは,無線通信可能距離範囲内に存在するノード に情報のコピーを転送することで,情報転送を行う 通信方式のことである.初期に一つのノードをラン ダムに選択してメッセージを保持させ,それが一日 経過後にどれだけのノードに広がるかについて, 通信距離を変化させながら最終感染サイズを指標 にして調査した(図 1 を参照).また,その結果をロ ジスティック曲線で回帰分析を行い,その変曲点を 適正な通信として推定した.また,擬似人流データ のノード数と適正な通信距離の間に潜む関係性に ついても調べた. (3) 結果: この問題は通信距離を浸透確率とみなした パーコレーション問題と捉えることができる.その証 拠として,ある通信距離を境に急激に最終感染サ イズが増加する.ロジスティック曲線で回帰分析を 行うことで,最も急激に変化をする通信距離を推定 することができた.また,このようにして推定した通 信距離 D と移動ノード数 N の関係をグラフに描画し た結果,非線形なスケーリング関係式 DN -α α0.41 はスケール・パラメータ)を示唆する結果を得 た.このことから,アプリケーションを情報配信に固 定すれば,想定する移動ノード数から適正な通信 距離をある程度の精度で見積もることが可能である ことが分かった. (4) 謝辞: 本研究を実施するにあたり,擬似人流デー タ(http://nightley.jp/archives/1954)を利用した. (5) 関連文献: 藤原明広 2016)擬似人流データを利用した感染 型ルーチングにおける適正な通信距離の推定. 「信学技報」,115484), IN2015-124, pp. 95-100. Akihiro Fujihara (2016), Estimating proper communication distance for epidemic routing in Japanese urban areas using SNS-based people flow dataINCoS2016, pp. 1-8. 1: 首都圏における感染型ルーチングによる情報配信の結果.一日経過後の最終感染サイズは赤点の数に対応 する(黒点は非感染ノード,緑点は感染型ルーチングが起きた場所).通信距離は左図で 1km,右図で 30m とした. 10km 10km

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Page 1: 感染型ルーチングにおける適正な通信距離とスケーリング関係式 · 2019-01-15 · 術は広帯域・低遅延であることを前提条件としてい たが,最近注目されているキーワードとしてNarrow

Research Abstracts on Spatial Information Science CSIS DAYS 2016

- 46 -

D03

感染型ルーチングにおける適正な通信距離とスケーリング関係式

藤原 明広

福井工業大学 環境情報学部 経営情報学科 Email: < [email protected] > Web: < https://sites.google.com/site/akihirofujihara/ >

(1) 動機: 近年,モノのインターネット( Internet of Things(IoT))に関する技術が社会で注目を集めて

いる.それと同時に Bluetooth Low Energy,WiGig,

Wi-Fi Aware,LTE-IoT や Wi-SUN 等のように,モノ

同士をインターネット接続する為の様々な無線通

信技術が提案されるようになった.既存の通信技

術は広帯域・低遅延であることを前提条件としてい

たが,最近注目されているキーワードとして Narrow Band(NB)-IoT や Low Power Wide Area(LPWA) があるように,IoT デバイス同士が自律的ではある

が,相互にゆっくり情報転送を行う概念も提案され

ている.一方,これらの無線通信技術における通

信距離は数メートルから数キロメートルまで多様で

ある.この多様性はアプリケーションの多様性から

来ているが,アプリケーションに応じて適正な通信

距離を持った無線通信技術を選択することが必要

な時代になりつつある.例えば,都市圏全体に蓄

積搬送型転送による情報配信を行う場合,通信距

離がどのくらいあるのが適正だろうか? (2) アプローチ: そこで株式会社ナイトレイが公開して

いる日本の主要都市圏(関東,中部,関西)の擬似

人流データを利用して,都市圏の人や車を移動ノ

ードと見立てて感染型ルーチングによる情報配信

を行う場合,一日で都市圏のほぼ全ノードに情報

配信を行う為に必要な通信距離を数値実験によっ

て見積もる研究を行った.ここで感染型ルーチング

とは,無線通信可能距離範囲内に存在するノード

に情報のコピーを転送することで,情報転送を行う

通信方式のことである.初期に一つのノードをラン

ダムに選択してメッセージを保持させ,それが一日

経過後にどれだけのノードに広がるかについて,

通信距離を変化させながら最終感染サイズを指標

にして調査した(図 1 を参照).また,その結果をロ

ジスティック曲線で回帰分析を行い,その変曲点を

適正な通信として推定した.また,擬似人流データ

のノード数と適正な通信距離の間に潜む関係性に

ついても調べた. (3) 結果: この問題は通信距離を浸透確率とみなした

パーコレーション問題と捉えることができる.その証

拠として,ある通信距離を境に急激に最終感染サ

イズが増加する.ロジスティック曲線で回帰分析を

行うことで,最も急激に変化をする通信距離を推定

することができた.また,このようにして推定した通

信距離Dと移動ノード数Nの関係をグラフに描画し

た結果,非線形なスケーリング関係式 D∝N-α(α~0.41 はスケール・パラメータ)を示唆する結果を得

た.このことから,アプリケーションを情報配信に固

定すれば,想定する移動ノード数から適正な通信

距離をある程度の精度で見積もることが可能である

ことが分かった. (4) 謝辞: 本研究を実施するにあたり,擬似人流デー

タ(http://nightley.jp/archives/1954)を利用した. (5) 関連文献:

藤原明広 (2016)擬似人流データを利用した感染

型ルーチングにおける適正な通信距離の推定.

「信学技報」,115(484), IN2015-124, pp. 95-100. Akihiro Fujihara (2016), Estimating proper communication distance for epidemic routing in Japanese urban areas using SNS-based people flow data.INCoS2016, pp. 1-8.

図 1: 首都圏における感染型ルーチングによる情報配信の結果.一日経過後の最終感染サイズは赤点の数に対応

する(黒点は非感染ノード,緑点は感染型ルーチングが起きた場所).通信距離は左図で 1km,右図で 30m とした.

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