mqmasスペクトルの静磁場強度b 、rf磁場強度b

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J EOL アプリケーションノート Appl ic ati on Not e NM0 5000 1(1) MQMAS スペクトルの静磁場強度 B 0 、RF 磁場強度 B 1 依存性 近年の磁石の高磁場化とプローブの改良によって、従来測定が困難であった四極子 結合のある半整数スピン核の測定が可能になってきました。四極子相互作用による スペクトルの広がりは四極子結合定数 e 2 qQ/h の自乗に比例し、また静磁場強度 B 0 に反比例します。このため低磁場の下ではスペクトルが広がりすぎて、共鳴線が雑音 に隠されてしまうことがしばしば見受けられます。しかしながらそのようなサンプルに 対しても、高磁場で実験することでS/N良いスペクトルが測定される可能性があります。 MQMAS 測定は(1)対象の四極子結合定数、(2)静磁場強度、(3)R F 磁場強度によってスペクトル の質が決定されます。このことを示すために、ここでは四極子結合定数 e 2 qQ /hの異なる3つの サンプル、R bNO 3 および N a 4 P 2 O 7 、Na 2 HPO 4 に対して、 87 Rbおよび 23 Na MQM A Sスペクトルを 測定しました。これらのサンプルは複数のサイトに対する共鳴線を示しますが、それぞれの サンプルが呈する最大の四極子結合定数はそれぞれ、e 2 qQ/h =1.9 4、3.22、 3.70MH zとなっています。 また 3つの異なる静磁場強度 B 0 =2 1.9、14 .1、9.4 T( 1 H 共鳴周波数は930、600、 40MHz) の下で、 測定を行ないました。上記のように四極子パターンの広がりは(e 2 qQ /h) 2 /B 0 に比例するため、 相対的な広がりは 3つのサンプルに対して異なってきます。また感度は静磁場強度の 3/2乗に比例して感度が増大するのでこのことを考慮すると、3つのサンプルと静磁場の 組み合わせに対する rece ptiv ity は 9. 4Tで測定した Na 2 HPO 4 を1に規格化すると、以下のように なります。 Rb NO 3 Na 4 P 2 O 7 Na 2 HPO 4 21.9 T 28.8 10.9 8.26 14.1T 9.62 3.64 2.75 9.4 T 3.64 1.32 1 上記の数値が大きいほど四極子パターンの広がりは小さく、信号の高さで表した感度は高く なります。つまり、最も感度の低い実験は N a 2 HPO 4 に対して9.4Tで行なったものであり、最も 感度の高い実験は R bNO 3 に対して 21.9 T で行なったものであると言えます。 MQMAS実験でもうひとつ注目すべき点は、RF磁場強度B 1 の大きさです。B 1 が大きいほど信号を 大きく励起するため、感度の点では有利となります。ここでは大きな B 1 が出力できる平衡 共振回路を用いた M QMASプローブ(B 1 =150~250kHz )と弊社の標準ブロードバンドプローブ である C P M ASプローブ(B 1 =50~ 150 kHz)を用いて、14.1T での実験を比べてみました。 * なお21.9 T( 1 H 93 0MHz) 超高磁場の実験では物質材料研究機構強磁場研究センターの の清水禎氏の協力により測定いたしました。 http ://w ww.je ol. co.j p Copyright c 200 5 J EOL Ltd. 日本電子

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Page 1: MQMASスペクトルの静磁場強度B 、RF磁場強度B

JEOL アプリケーションノート Application Note NM050001(1)

MQMAS スペクトルの静磁場強度 B0、RF 磁場強度 B1 依存性

近年の磁石の高磁場化とプローブの改良によって、従来測定が困難であった四極子

結合のある半整数スピン核の測定が可能になってきました。四極子相互作用による

スペクトルの広がりは四極子結合定数 e2qQ/h の自乗に比例し、また静磁場強度 B0

に反比例します。このため低磁場の下ではスペクトルが広がりすぎて、共鳴線が雑音

に隠されてしまうことがしばしば見受けられます。しかしながらそのようなサンプルに

対しても、高磁場で実験することでS/N良いスペクトルが測定される可能性があります。

MQMAS 測定は(1)対象の四極子結合定数、(2)静磁場強度、(3)RF 磁場強度によってスペクトル

の質が決定されます。このことを示すために、ここでは四極子結合定数 e2qQ/h の異なる3つの

サンプル、RbNO3 および Na4P2O7、Na2HPO4 に対して、87Rb および 23Na MQMAS スペクトルを

測定しました。これらのサンプルは複数のサイトに対する共鳴線を示しますが、それぞれの

サンプルが呈する最大の四極子結合定数はそれぞれ、e2qQ/h=1.94、3.22、3.70MHzとなっています。

また 3 つの異なる静磁場強度 B0=21.9、14.1、9.4T(1H 共鳴周波数は 930、600、400MHz)の下で、

測定を行ないました。上記のように四極子パターンの広がりは(e2qQ/h)2/B0 に比例するため、

相対的な広がりは 3 つのサンプルに対して異なってきます。また感度は静磁場強度の

3/2 乗に比例して感度が増大するのでこのことを考慮すると、3 つのサンプルと静磁場の

組み合わせに対する receptivity は 9.4T で測定した Na2HPO4 を1に規格化すると、以下のように

なります。

RbNO3 Na4P2O7 Na2HPO4

21.9T 28.8 10.9 8.26

14.1T 9.62 3.64 2.75

9.4T 3.64 1.32 1

上記の数値が大きいほど四極子パターンの広がりは小さく、信号の高さで表した感度は高く

なります。つまり、最も感度の低い実験は Na2HPO4 に対して 9.4T で行なったものであり、最も

感度の高い実験は RbNO3 に対して 21.9T で行なったものであると言えます。

MQMAS 実験でもうひとつ注目すべき点は、RF 磁場強度 B1 の大きさです。B1 が大きいほど信号を

大きく励起するため、感度の点では有利となります。ここでは大きな B1 が出力できる平衡

共振回路を用いた MQMAS プローブ(B1=150~250kHz)と弊社の標準ブロードバンドプローブ

である CPMAS プローブ(B1=50~150kHz)を用いて、14.1T での実験を比べてみました。

* なお 21.9T(1H 930MHz)超高磁場の実験では物質材料研究機構強磁場研究センターの

の清水禎氏の協力により測定いたしました。

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JEOL アプリケーションノート       Application Note NM-050001(2)

B0=21.9T(ECA930)B1=227kHz(MQMAS probe)積算時間 68hours

B0=14.1T(ECA600)B1=192kHz(MQMAS probe)積算時間 96hours

B0=14.1T(ECA600)B1=83kHz(CPMAS probe)積算時間 96hours

B0=9.4T(ECX400)B1=100kHz(CPMAS probe)積算時間 195hours

Na2HPO4は大きな四極子結合定数(最大3.70MHz)をもち、高い磁場・強いRF磁場(長い積算時間)の下でのみ、感度の良いMQMASスペクトルを測定することができます。

8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 -5.0 -6.0 -7.0 -8.0 -9.0 -10.0 -11.0-12.0

10.0 0 -10.0 -20.0

15.0

14.0

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12.0

11.0

10.0

9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

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10.0 0 -10.0 -20.0 -30.0

14.0

13.0

12.0

11.0

10.0

9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

10.0 0 -10.0 -20.0 -30.0 -40.0 -50.0 -60.0 -70.0 -80.0

27.0

26.0

25.0

24.0

23.0

22.0

21.0

20.0

19.0

18.0

17.0

16.0

15.0

14.0

13.0

12.0

11.0

10.0

9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

4.0

3.0

8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 -5.0 -6.0 -7.0 -8.0 -9.0 -10.0 -11.0-12.0

9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

4.0

3.0

2.0

*21.9Tと14.1T、9.4Tでの等方シフトスペクトル(縦軸プロジェクション)において3つのサイトの共鳴線の順番が入れ替わっていますが、これは等方シフトにB0に依存する四極子シフトの寄与が入っているためです。

サイトAB

C ←

サイトB

A

B

A

C ←

BA

C ←

C ← 3.77MHz

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NM-050001(3)

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JEOL アプリケーションノート         Application Note

B0=21.9T(ECA930)B1=227kHz(MQMAS probe)積算時間   17hours

B0=14.1T(ECA600)B1=192kHz(MQMAS probe)積算時間 34hours

B0=14.1T(ECA600)B1=83kHz(CPMAS probe)積算時間 34hours

B0=9.4T(ECX400)B1=114kHz(CPMAS probe)積算時間 68hours

Na4P2O7では大きな四極子結合定数(最大3.22MHz)のために、感度良くMQMASスペクトルを測定するためには高い磁場・強いRF磁場(長い積算時間)が必要です。

12.0 11.0 10.0 9.0 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 -5.0 -6.0 -7.0 -8.0

14.0

13.0

12.0

11.0

10.0

9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

4.0

3.0

2.0

1.0

0

12.0 11.0 10.0 9.0 8.0 7.0 6.0 5.0 4.0 3.0 2.0 1.0 0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 -5.0 -6.0 -7.0 -8.0

10.0 0 -10.0 -20.0

18.0

17.0

16.0

15.0

14.0

13.0

12.0

11.0

10.0

9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

4.0

0 -10.0 -20.0 -30.0 -40.0

25.0

24.0

23.0

22.0

21.0

20.0

19.0

18.0

17.0

16.0

15.0

14.0

13.0

12.0

11.0

10.0

9.0

8.0

7.0

6.0

20.0 10.0 0

34.0

33.0

32.0

31.0

30.0

29.0

28.0

27.0

26.0

25.0

24.0

23.0

22.0

21.0

20.0

19.0

18.0

17.0

16.0

A

AA

A

B

BB

B

C ← 3.22MHz

C ← C ←

C,D

 ←

D

DD

Page 4: MQMASスペクトルの静磁場強度B 、RF磁場強度B

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JEOL アプリケーションノート       Application Note NM-050001(4)

-31.0 -32.0 -33.0 -34.0 -35.0 -36.0 -37.0 -38.0 -39.0

-30.

0-3

1.0

-32.

0-3

3.0

-34.

0-3

5.0

-36.

0-3

7.0

-38.

0-3

9.0

-129.0 -130.0 -131.0 -132.0 -133.0 -134.0 -135.0 -136.0 -137.0 -138.0 -139.0 -140.0 -141.0 -142.0

-127

.0-1

28.0

-129

.0-1

30.0

-131

.0-1

32.0

-133

.0-1

34.0

-135

.0-1

36.0

-137

.0

-31.0 -33.0 -35.0 -37.0 -39.0 -41.0 -43.0 -45.0 -47.0 -49.0 -51.0 -53.0 -55.0

-28.

0-2

9.0

-30.

0-3

1.0

-32.

0-3

3.0

-34.

0-3

5.0

-36.

0-3

7.0

-38.

0

-31.0 -33.0 -35.0 -37.0 -39.0 -41.0 -43.0 -45.0 -47.0 -49.0 -51.0 -53.0 -55.0

-31.0 -32.0 -33.0 -34.0 -35.0 -36.0 -37.0 -38.0 -39.0

B0=21.9T(ECA930)B1=156kHz(MQMAS probe)2hour

B0=14.1T(ECA600)B1=167kHz(MQMAS probe)2hour

B0=14.1T(ECA600)B1=68kHz(CPMAS probe)2hour

B0=9.4T(ECX400)B1=109kHz(CPMAS probe)2hour

RbNO3のように四極子結合定数が2MHz以下の場合、低磁場・弱いRF磁場でも比較的良好なMQMASスペクトルが得られます。

-30.0 -31.0 -32.0 -33.0 -34.0 -35.0 -36.0 -37.0 -38.0 -39.0 -40.0 -41.0 -42.0 -43.0 -44.0 -45.0

-30.

0-3

1.0

-32.

0-3

3.0

-34.

0-3

5.0

-36.

0-3

7.0

-38.

0

A

A A

A

B

B B

B

C

CC

C

Page 5: MQMASスペクトルの静磁場強度B 、RF磁場強度B

JEOL アプリケーションノート Application Note NM-050001(5)

Na2HPO4 の 23Na MQMAS スペクトルの結果から明らかに、このサンプルに対しては 21.9T という

超高磁場で強い RF 磁場を用いてはじめて S/N の大きなスペクトルが得られます。しかしより

安価な 14.1T の静磁場でも強い RF 磁場を用いれば、少し長い積算を行なうことによって、適度な

S/N のスペクトルが得られることが分かりました。これに対して同じ 14.1T の静磁場強度でも弱い

RF 磁場であったり、より低い静磁場の 9.4T ではほとんど信号がノイズに隠れてしまいます。

同様の議論が Na4P2O7 の 23Na MQMAS スペクトルについても言えます。静磁場 21.9T および 14.1T

と強い RF 磁場の組み合わせでのみ、良好な結果が得られています。14.1T でも弱い RF 磁場では

共鳴線がノイズに埋もれています。

これに対して RbNO3 の 87Rb MQMAS スペクトルはどの静磁場・RF 磁場条件でも良好な共鳴線が

得られています。注目すべき点は、21.9T で測定した場合、異方性のパターンが極めて縮小され、

パターンから四極子結合定数の詳細(非対称パラメータなど)が得られないということです。したが

って四極子結合定数が小さい試料の場合は、超高磁場では情報が損失するということになります。

結論

感度(S/N)の点では、少しでも高い静磁場・RF 磁場の組み合わせが良好な

スペクトルを与えます。しかし、価格等を考えると現実的な装置の組み合わせは

1H 周波数にして 600MHz~700MHzの静磁場に、200kHz 程度の RF 磁場の出力

できるミドルパワーアンプと MQMAS プローブであると言えましょう。

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