サービスのブランド価値が...

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サービスのブランド価値が 従業員に及ぼす影響に関する考察 ~ブランド価値を駆動因として形成される 市場と組織を結ぶ好循環の可能性について~ はじめに 製品(モノおよびサービス)の顧客価値 ! は価値源泉の創造過程と価値実現過 程という2つの過程を経て生み出される(藤村,2010)。価値源泉の創造過程 とは,顧客が選択・消費する以前に提供を意図する価値の基本型をデザイン し,それを効果的かつ効率的に生み出す能力を備えたハードおよび/あるいは ソフトとして構築することである。モノの場合には,消費によって享受するこ とが期待される顧客価値を物的特性として内蔵する過程が価値源泉の創造過程 であり,消費者がそのモノを使用することで価値を享受する過程が価値の実現 過程である。サービスの場合には,顧客がデリバリー・プロセスに参加するた めに,顧客とサービス組織(特に,フロント・ステージの従業員)が協働して サービスを生成しながら同時に消費する過程が価値の実現過程であり,デリバ リー・プロセスが開始される以前に,提供を意図する価値の基本型をデザイン し,それを実現させるための機能や能力をサービス・デリバリー・システムの 構成要素に組み込む過程が価値源泉の創造過程である。なお,サービス・デリ (1) 顧客価値の定義は研究者によって異なっているが,一般的には,知覚便益(品質)と 知覚コスト(犠牲)から構成される概念として捉えられている。また,その定式化につ いても2つの異なる見解,すなわち「顧客価値=知覚便益-知覚コスト」という引き算 型の定式化と「顧客価値=知覚便益/知覚コスト」という分数型の定式化が存在してい る。 香川大学経済論叢 第83巻第4号2011年3月 29-92

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サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察

~ブランド価値を駆動因として形成される

市場と組織を結ぶ好循環の可能性について~

藤 村 和 宏

は じ め に

製品(モノおよびサービス)の顧客価値�は価値源泉の創造過程と価値実現過

程という2つの過程を経て生み出される(藤村,2010)。価値源泉の創造過程

とは,顧客が選択・消費する以前に提供を意図する価値の基本型をデザイン

し,それを効果的かつ効率的に生み出す能力を備えたハードおよび/あるいは

ソフトとして構築することである。モノの場合には,消費によって享受するこ

とが期待される顧客価値を物的特性として内蔵する過程が価値源泉の創造過程

であり,消費者がそのモノを使用することで価値を享受する過程が価値の実現

過程である。サービスの場合には,顧客がデリバリー・プロセスに参加するた

めに,顧客とサービス組織(特に,フロント・ステージの従業員)が協働して

サービスを生成しながら同時に消費する過程が価値の実現過程であり,デリバ

リー・プロセスが開始される以前に,提供を意図する価値の基本型をデザイン

し,それを実現させるための機能や能力をサービス・デリバリー・システムの

構成要素に組み込む過程が価値源泉の創造過程である。なお,サービス・デリ

(1) 顧客価値の定義は研究者によって異なっているが,一般的には,知覚便益(品質)と知覚コスト(犠牲)から構成される概念として捉えられている。また,その定式化についても2つの異なる見解,すなわち「顧客価値=知覚便益-知覚コスト」という引き算型の定式化と「顧客価値=知覚便益/知覚コスト」という分数型の定式化が存在している。

香 川 大 学 経 済 論 叢

第83巻 第4号2011年3月 29-92

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バリー・プロセスに参加する従業員にサービスやそのデリバリー・プロセスに

関する知識や技能を習得させる人材育成も,価値源泉の創造過程の一部分であ

る。

顧客価値の提供をこのような2つの過程に区分して考える必要があるのは,

各過程において重要な役割を果たす主体が異なるからである。すなわち,モノ

の場合には,価値源泉の創造過程において中心的な役割を果たすのは製造企業

であるが,価値の実現過程では顧客自身が中心的な役割を果たす。サービスの

場合には,価値源泉の創造過程ではサービス組織が中心的な役割を果たすが,

価値の実現過程では従業員と顧客の協働が重要な役割を果たす(藤村,2010)。

そして,このように顧客価値の提供が行われると捉えるならば,顧客に提供さ

れる価値は製造企業やサービス組織の展開する価値源泉の創造活動に依存する

だけでなく,顧客自身の保有する消費資源�やそれらを用いての価値の実現過程

への参加の仕方にも大きく依存していることになる。つまり,製造企業やサー

ビス組織が同じ価値源泉の創造過程および価値の実現過程を展開したとして

も,顧客の保有する消費資源やその利用の仕方が異なれば,顧客によって享受

できる価値は異なったものになるということである。このようなことから,価

値の実現過程において顧客が期待する価値を享受できるようにするには,顧客

の中にそれを可能にする能力,およびその能力を積極的かつ適切に活用しよう

とする意欲の向上,すなわち「顧客力」の向上が必要とされることになる(藤

村,2009)。

顧客力の向上と同時に,製造企業やサービス組織では「従業員力」の向上も

必要とされる。従業員力とは,製造企業の場合には,価値源泉の創造過程にお

いて新たな差別的価値を創造したり,消費においてその実現を可能にする機能

を物理的特性としてモノに内蔵したり,あるいは消費によって顧客自身が望む

価値を享受できるように顧客力を育成したりする能力,およびその能力を積極

(2) 消費資源とは,顧客がモノやサービスを消費するために投入しなければならない資源であり,金銭,時間,肉体的エネルギー(労力),精神的エネルギー,知識・技能,補完物,空間などが含まれる(藤村,2005)。

-30- 香川大学経済論叢 382

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的かつ適切に活用しようとする職務意欲から構成される概念である。また,サ

ービス組織の場合には,価値源泉の創造過程において新たな差別的価値を創造

したり,それを効果的かつ効率的に生み出す能力を備えたハードおよび/ある

いはソフトを構築したり,サービス・デリバリー・プロセスにおける顧客と協

働する過程で顧客が望む価値を実現できるように支援したり,あるいは顧客力

の向上を促すことを可能にしたりする能力,およびその能力を積極的かつ適切

に活用しようとする職務意欲から構成される概念である。なお,このように顧

客力および従業員力を能力と意欲という2つの概念で捉えるのは,Porter and

Lawler(1968)が「成果=f(能力×モチベーション)」と記述しているように,

どれほど能力のある人であっても,やる気がなければ良い成果は期待できない

し,逆に,能力はそれほど高くなくとも強く動機づけられていれば,予想以上

の成果を上げるかもしれないからである。

顧客力および従業員力における能力の側面については,情報提供や様々な教

育によって向上が期待されるが,意欲の側面については,顧客と従業員とでは

異なる施策が必要とされるであろう。従業員力に限れば,職務意欲を向上させ

る要因としては,報酬�,職務満足,組織コミットメント,および職務関与など

が重要な役割を果たすことが指摘されている。このような要因の向上にはイン

ターナル・マーケティングが大きく関わっているが,エクスターナル・マーケ

ティングもブランド価値の向上を通じて,インターナル・マーケティングを補

完するかたちで職務意欲の向上に貢献することが考えられる。すなわちエクス

ターナル・マーケティングの展開によって構築されるブランド価値は市場にお

ける顧客の選択・消費行動に影響を及ぼすだけでなく,従業員の組織コミット

メントに影響を及ぼすことを通じて職務意欲の向上に貢献する,あるいは直接

的に職務意欲の向上に貢献することが考えられる。そして,職務意欲の向上が

職務成果の向上を導き,さらにこれがブランド価値の向上を導くことになるこ

(3) 報酬には「外的報酬」と「内的報酬」があり,前者は昇給や昇進などの目に見える,与えられタイプの報酬であり,後者は達成感や自己成長感などの自ら見いだす,精神的報酬である。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察383 -31-

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とから,ブランド価値を駆動因とした市場と組織を結ぶ好循環が形成されるこ

とが期待される。

そこで本稿では,サービス組織におけるブランド価値の従業員に対する影響

を理論的および実証的に明らかにしたい。そのために,まず第�章では,イン

ターナル・マーケティングが直接的に目標とする職務意欲の向上に関わる組織

コミットメントと職務関与という2つの概念について概説し,第�章では,サ

ービスのブランド価値概念について検討するとともに,ブランド価値の組織コ

ミットメントおよび職務意欲の向上に対する効果について考察したい。そし

て,第�章では,3つのホテル・グループの従業員を対象として実施した量的

調査の結果を用いて,従業員の所属するホテルのブランド価値に対する知覚が

彼らの組織コミットメントや職務意欲に及ぼす影響を実証的に考察したい。

�.インターナル・マーケティングによる従業員の職務意欲の向上

1.インターナル・マーケティングの概要

どのような組織も組織人,すなわち組織の枠組みに自らの考えや行動を準拠

させ,組織のために働く人たちによって成り立っており,彼らが最高の努力を

行うことによって組織は高い成果を得ることができる。サービス組織において

は特に,従業員のパフォーマンス自体がサービスの品質あるいは価値の重要な

部分を構成していることが多いために,彼らのパフォーマンス水準が組織の成

果に大きくかかわっている。しかし,彼らはどれだけの努力をするのかについ

てかなりの自由裁量が認められている自発的な労働者であるために,最高の努

力を行わせるようなモチベーションの提供が必要とされる。そのため,サービ

ス組織は従業員を有能な組織人として育成するとともに,彼らの職務意欲を高

めるようにモチベーション管理�を行う必要がある。

この従業員のモチベーション管理をマーケティングの視点から行うものにイ

ンターナル・マーケティングがある。インターナル・マーケティングはサービ

ス・マーケティングの中で生まれた概念であり,従業員という組織の内部市場

-32- 香川大学経済論叢 384

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に対して,顧客という外部市場のために構築されてきたエクスターナル・マー

ケティングの知識や技術を適用するものである。この背景には,サービス品質

や顧客満足,さらには生産性の向上において従業員が重大な役割を果たすこと

から,彼らの組織や職務に対するコミットメントを維持・向上しなければなら

ないということがあった。

インターナル・マーケティングは,2つの目的達成を通じて組織の内部基盤

を確立し,エクスターナル・マーケティングの効果的かつ効率的な展開を支援

するものである(藤村,2004)。その第1の目的は,職務を内部サービス,従

業員を組織の市場活動に必要な職務の内部顧客と見なし,外部顧客を満足させ

るという組織目標と取り組みながら,内部顧客のニーズやウォンツを満足させ

ることである(Berry,1984)。これは,従業員が彼らの内部サービスに満足し

ていなければ,顧客に対して満足できるサービスを提供することはできないと

いう認識に基づくものである。第2の目的は,組織のミッション,目標,中核

的価値,エクスターナル・マーケティングを通じて外部顧客に提供を約束する

もの,その実現に必要な役割および方法,などに関する情報を組織のすべての

階層の従業員に伝え,理解と共有を促すことである。このような情報の共有が

行われていなければ,外部顧客に対して約束したことを従業員が実現すること

はできないからである。したがって,インターナル・マーケティングとは,従

業員の組織および職務に対するコミットメントを向上させることを通じて職務

意欲を高めるとともに,組織のミッション,目標,中核的価値などの共有を図

ることでその職務意欲を発揮させる方向の適切化および調和を図ることで,エ

(4) モチベーションに関する理論は,焦点の向け方によって大きく2つに分けることができる。一つは,人は何によって働くことを動機づけられるのかに関心を向けるもので,欲求説(あるいは内容説)と呼ばれている。この代表的なものは,Maslow(1943,1954)の自己実現モデル,Alderfer(1969)のMaslowの欲求階層モデルを修正した ERGモデル,Herzberg, Mausner, and Snyderman(1959)の二要因説,Mclleland(1961)の達成動機説などである。もう一つは,人はどのように動機づけられるのか,というその過程に関心を向けるもので,過程説(あるいは文脈説,選択説)と呼ばれている。この代表的なものは,Goodman and Friedman(1971)の衡平説,Vroom(1964)や Lawer(1971)の期待説である。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察385 -33-

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クスターナル・マーケティングの展開によるサービス品質や顧客満足の向上,

さらにはブランド構築を組織内部から支援しようとするものである。

では,インターナル・マーケティングの展開によって向上させようとする従

業員の組織および職務に対するコミットメントはどのような概念であり,それ

はどのような要因によって高められ,さらにどのような効果をサービス組織に

もたらすことが期待されるのであろうか。以下では,モチベーション理論の観

点でこれらについて概観することで,ブランド価値が従業員に及ぶ影響を考察

するための基礎としたい。

2.組織コミットメントの向上と効果

� 組織コミットメント概念

サービス組織はその事業の目的と方向性の観点から公式に目標を設定し,組

織内でその共有を図ろうとするが,従業員も私的(個人的)な目標を持ってお

り,それらが一致しないこともある。このようなサービス組織と従業員間にお

ける目標の不一致は組織内に混乱を生み出すだけでなく,短期的にはサービス

品質や顧客満足の低下を招き,長期的にはブランド価値の低下を導くことにな

る。この公式の組織目標と私的な目標の相違を少なくするもの,あるいは溝と

も言えるものを埋めるものが組織コミットメント(organizational commitment)

であり,従業員が「組織に自我を関与させ,組織のために一生懸命働こうとす

ること」�と捉えられている。したがって,従業員が所属するサービス組織の目

標や価値に関与するほど,公式の組織目標と私的な目標の相違が少なくなり,

組織に対するロイヤルティが強く,一生懸命に働こうとするので,サービス品

質や顧客満足,生産性などが向上することが期待される。ただし,組織コミッ

トメント概念に関しては議論も多く,必ずしも一致した見解が得られていない

ので,以下ではこれまでの代表的な捉え方を概観しておきたい。

(5) 田尾雅夫編著(1997),『会社人間の研究』,京都大学学術出版会,9頁。また,田尾(1997)は,組織コミットメントは「組織と個人の,いわば心理的な距離

を測るために非常に使い勝手の良い概念」であると指摘している(5頁)。

-34- 香川大学経済論叢 386

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初期の研究において最も代表的な定義は,Mowday, Steers and Porter(1979)

の「特定の組織に対する同一化(identification)と関与(involvement)」�という

もので,「組織の目標や価値に対する信頼」,「組織のために努力しようとする

意欲」,および「組織の一員として留まりたいとする願望」という3つの要素

から構成されている。この概念の特徴は,組織に所属する個人の組織に対する

情緒的な側面が強調されている点にある。

Mowday, Steers and Porter(1979)のように,初期の組織コミットメント研

究においては,組織コミットメントは組織に対して愛着をもつことという情緒

的側面によって捉えられる傾向があったが,Becker(1960)は,組織コミット

メントを交換的な立場から捉え,組織コミットメントの功利的側面を取り上げ

ている。彼によれば,組織コミットメントは,サイドベット理論によって説明

される心理的メカニズムであるとされる。サイドベット理論にしたがえば,組

織コミットメントは,組織から個人が離脱するとそれまで蓄積した価値が大き

な損失を被ることから,組織から離脱せずに組織に残るという理由から生まれ

る心理的側面であるということになる。つまり,個人が組織に貢献を続けると

いう,いわば投資(サイドベット)の蓄積が,組織を離脱するときにコストと

して知覚されるようになり,回収不能のコストが大きくなるほどコミットメン

トは高まることになることから,このコミットメントは受動的意味合いの強い

ものである。なお,サイドベットには,給与や年金といった金銭的報酬以外

に,組織内での人間関係や役職,組織特有のスキルなども含まれるとされてい

る。またWallace(1997)は,サイドベット理論では,転職の機会が限られる

場合には,コミットメントは高まると指摘している。

この Becker(1960)のサイドベット理論はその後の組織コミットメント研

究に大きな影響を及ぼし,多くの研究者は組織コミットメントを情緒的側面と

(6) Mowday, R. T., Steers, R. M., and Porter, L. W.(1979)“The measurement of Organiza-tional Commitment,”Journal of Vocational Behavior, Vol.14, p.226.また,彼らはこの定義に基づき OCQ(Organizational Commitment Questionnaire)と呼

ばれる組織コミットメントの測定尺度を開発しており,この尺度の信頼性および妥当性は高いものであることから,広く利用されている。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察387 -35-

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功利的側面の2次元で捉えるようになっており,前者は情緒的コミットメン

ト,後者は存続的コミットメントと呼ばれている。

その後の組織コミットメントに関する研究の中で,Allen and Meyer(1990,

1996)は,3つの次元,すなわち「情緒的コミットメント(affective commit-

ment)」,「存続的コミットメント(continuance commitment)」,および「規範的

コミットメント(normative commitment)」の3つの次元から組織コミットメン

トのあり方を捉え直すべきである,と論じている。これは,Becker(1960)の

指摘した功利的側面とMowday, Steers and Porter(1979)が提唱した情緒的側

面に付加するかたちで,規範的側面を組織コミットメントの構成次元として取

り入れたものである。規範的コミットメントは,組織へのコミットメントを義

務的なものとして捉えた概念であり,Allen and Meyer(1990)は「組織に留ま

り,適応しなければならないという義務感」�と定義している。つまり,「理屈

抜きに組織にはコミットすべきであるといった,忠誠心(loyalty)を意味して

いる。そこでは愛着,損得等とは無関係に,とにかくコミットメントすべきだ

からコミットするという発想」�である。なお,情緒的コミットメントについて

は「情緒的コミットメントの強い従業員は彼らがそうしたいから組織に残る」�

と指摘しており,組織への感情的な愛着や同一化であり,組織に対する積極的

な関わりを望んでいることを表す概念とされている。したがって,情緒的コ

ミットメントは組織に残りたいから残るという積極的な関与を示すのに対し

て,存続的コミットメントは残る必要があるから残るという受動的な態度�を表

すものである。また,存続的コミットメントは前述の Becker(1960)のサイ

ドベット理論を基盤とするもので,組織を離脱することに結びついて知覚され

たコストとしてのコミットメントを表す概念とされている。

(7) Allen, N. J, and Meyer, J. P.(1990),“The Measurement and Antecedents of Affective,Continuance and Normative Commitment to the Organization,”Journal of OccupationalPsychology, Vol.63, p.1.

(8) 田尾雅夫編著(1997),前掲書,26頁。(9) Allen, N. J, and Meyer, J. P.(1990), op. cit., p.3.(10) 存続的コミットメントについて,高木(2003)は,組織に対するポジティブな影響は

期待しにくく,その抑制策の探求が重要であると指摘している。

-36- 香川大学経済論叢 388

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現在の組織コミットメント研究の多くでは,組織コミットメントはMeyer

and Allenが提案したこの3つの次元,すなわち情緒的コミットメント,存続

的コミットメント,および規範的コミットメントの3次元から構成される概念

として捉えられ,実証的にその効果や先行要因に関する考察が行われている。

� 組織コミットメントの効果

組織コミットメントの効果については,逃避的行動,役割外行動,および職

務成果への影響として研究されており,Aranya, Kushnir, and Valency(1986)

は,組織コミットメントは従業員の業績や離転職などを予測する有力な指標で

あると指摘している。

逃避的行動とは遅刻や欠勤,離職のような行動であり,サービス組織にとっ

ては,逃避的行動の増加はサービス品質や顧客満足の低下,さらには生産性の

低下をもたらすために,抑制すべき行動である。これまでの実証的研究では,

組織コミットメントは逃避行動を減少させることが明らかにされている。具体

的には,組織コミットメントは遅刻を減少させることに貢献することが明らか

にされているが(Angle and Perry,1981; Mathieu and Zajac,1990a),その影

響度については異なる結果となっている。欠勤については,組織コミットメン

トは主要な原因とならない(他の多くの要因の中の一つにすぎない)という研

究結果が多く(Farrell and Stamm,1988; Steers and Rhodes,1978),関係が見

られる場合でも,関係は弱くなっている。また,離職に対して組織コミットメ

ントはネガティブな影響を及ぼす,すなわち組織コミットメントが高くなるほ

ど離職は少なくなる,あるいは組織コミットメントが低下すると離職しやすく

なることが明らかにされている(Porter, Steers, Mowday, and Boulian,1974;

Porter, Crampon, and Smith,1976 ; Krackhardt, McKenna, Porter, and Steers,

1981; Mathieu and Zajac,1990a)。

役割外行動に対しても組織コミットは影響を及ぼすことが明らかにされてい

る。役割外行動とは,職務上の正式な役割ではないが,自分の職場の人を援助

する,協働する,好意的に接する,そして仕事をできるだけ無駄なく進めると

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察389 -37-

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いった行動などであり,「組織市民行動(organizational citizenship behavior)」

とも呼ばれている。従業員によるこのような行動の遂行は組織の潤滑油として

機能し,サービス品質や顧客満足,さらには生産性の向上をもたらすと考えら

れる。組織コミットメントはこのような役割外行動(組織市民行動)に対して

ポジティブな影響を及ぼす,すなわち,このような行動を促すことが明らかに

されている(Katz and Kahn,1966; O’Reilly and Chatman,1986; Gregersen,

1993; Morrison,1994)。

また,職務成果に対する組織コミットメントの影響については,多くの研究

で弱い関係しか見いだされていない(Steers,1977; Wiener and Vardi,1980;

Mathieu and Zajac,1990a)。研究者を対象とした研究でも,組織コミットメン

トは業績にはほとんど影響を及ぼさないという結果が得られているが(守島,

1996;石川,1998),一方で,やはり研究者を対象とする研究では,組織コ

ミットメントの低い基礎研究者ほど,多様な研究業績をあげているという結果

も得られている(義村,1999)。ただし,両者の間に有意な関係が認められる

場合には,組織コミットメントが高いほど職務成果も高くなるという結果が得

られている(Lee,1971; Mowday, Porter, and Dubin,1974; Mowday, Steers, and

Porter,1979)。たとえばMeyer, Paunone, Gellatly, Goffin, and Jackson(1989)

は,食品会社の管理職の組織コミットメントと人事評価の間の関係について分

析し,情緒的コミットメントの高い管理職は人事評価の結果も高いが,反対

に,存続的コミットメントの高い管理職は人事評価の結果が低いことを明らか

にしている。このことは,組織との間の情緒的つながりは管理職の職務成果を

向上させるが,損得勘定によるつながりは,反対に職務成果を阻害してしまう

ことを示していると考えられる(金井・高橋,2004)。また八代(1998)は,

日本における終身雇用・年功賃金・年功序列等に代表される,いわゆる日本的

経営システムは従業員の中に極めて強力な組織コミットメントの形成を促し,

これが日本経済の高度成長を支えてきたと指摘している。

なお,組織コミットメントと成果との間に明確で有意な関係が見られない理

由としては,職務成果の測定が困難であるということもあるが(田尾,1997),

-38- 香川大学経済論叢 390

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組織コミットメントは直接的に職務成果を高めるのではなく,職務意欲やその

意欲を発揮する方向性に影響を及ぼすことで,それらを通じて間接的に職務成

果に影響を及ぼすにすぎないということも考えられる。さらに,職務成果は従

業員の職務意欲だけでなく,職務遂行能力にも影響されることから,組織コ

ミットメントの職務成果に対する効果を評価することが困難になっていると考

えられる。

� 組織コミットメントの先行要因

組織コミットメントの先行要因として重要な役割を果たすものとして,職務

満足を挙げることができる。March and Simon(1958)は,人が他者や集団と

自己とを同一視することでその目標を内在化し,なんらの外的報酬なしにその

達成を強く動機づけられるという現象は組織においてしばしば生ずることを指

摘しているが,西田(1976)は,職務満足が職務意欲を引き出すシステムとし

てこの内在化や同一化(組織コミットメント)過程の重要性を主張している。

組織目標の内在化は自分にとって有意義な所属集団と自己とを同一視し,その

目標を取り入れることによって生じ,さらに内在化された目標はアイデンティ

ティの主要な構成要素となり,その達成自体が自己評価や自尊心に対し直接に

関係してくるため,特別な報酬を伴わずとも強い動機づけが行われるようにな

る。つまり,組織が成員の個人的な欲求の充足をもたらす度合いが強く(すな

わち組織が成員の満足を高めることができ),成員間の相互作用が密で,集団

活動そのものに興味があるほど,成員の内在化や同一化(組織コミットメント)

は強まるということである。したがって,職務満足は成員の組織目標の内在化

をもたらし,組織への同一化(組織コミットメント)を通じて強い職務意欲を

引き出す効果をもつと考えられる。

城戸(1980)や境(1981)は,職務満足を外的満足,対人的満足,および内

的満足といった3次元で捉え,いずれの次元(特に内的満足)も組織同一化(組

織コミットメント)を強めることを明らかにしている。Decotiis and Summers

(1987)も,職務満足は組織や職務に対する心理的コミットメントを引き起こ

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察391 -39-

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し,いっそうの努力や自発的貢献を促す効果があることを明らかにしている。

このように職務満足の各次元と組織コミットメントとの間に関係が存在して

いることは明らかにされているが,Meyer and Allen(1991)は,前述のように

組織コミットメントを3次元に分類した場合に両者の関係はどのようになるか

については不透明な部分もあることを指摘している。このことに関して,高橋

(2002)は,情緒的コミットメントと規範的コミットメントについては職務満

足との間で中程度の相関が見られるが,存続的コミットメントと職務満足との

間には統計的に有意な関係は見られないという結果を得ている。また開本

(2006)も,情緒的コミットメントを田尾等(1997)の考察に基づいて「愛着

的要素」と「内在化要素」という2次元から構成されるものと捉え,また職務

満足は「全体的職務満足」と「個別的職務満足」という2つの側面から構成さ

れ,さらに個別的職務満足は「キャリアへの満足」,「対人関係への満足」,お

よび「能力発揮への満足」という3次元から構成されるものとして捉えること

で,組織コミットメントの愛着的要素に対しては全体的職務満足と対人関係へ

の満足が,内在的要素に対しては全体的職務満足のみが統計的に有意なポジ

ティブな影響を及ぼすことを明らかにしている。

職務満足以外の組織コミットメントの先行要因については,Mathieu and

Zajac(1990b)は個人特性,組織特性,役割の状態などに分類している。たと

えばMeyer, Stanley, Herscovitch and Topolnysky(2002)は,年齢,性別,教育

といった人口統計的な変数は一般的に組織コミットメントとの相関は低いが,

北米以外では存続的コミットメントと年齢には強い相関が見られることを明ら

かにしている。また,先行要因の中で強い影響力をもっているのは組織からの

支援,リーダーシップ,公正な扱いなどであり,これらは組織コミットメン

ト,特に情緒的コミットメントとの間に強い相関関係があることを明らかにし

ている。また,義村(1999)の基礎研究者および開発研究者を対象とする研究

では,組織コミットメントと職務関与の間にはポジティブな相関関係があるこ

とを明らかにしている。すなわち,職務関与が高いほど組織コミットメントも

高くなり,さらに,基礎研究者よりも開発研究者の方がこの傾向が強いことを

-40- 香川大学経済論叢 392

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明らかにしている。

3.職務関与の向上と効果

� 職務関与概念

組織コミットメントが高くても,従業員が彼らの担当している職務を面白い

と感じ,その職務を自分で責任を持って考え,なんとかやり遂げることに価値

を見いださなければ,サービス組織はサービス品質や顧客満足,さらに生産性

の向上などを期待することはできない。このような従業員の現在の職務や仕事

に対する関与の程度は職務関与(job involvement)として概念化されている

(Kanungo,1982a ; Blau,1985)。

職務関与の構造については,単一の構成概念と捉える研究者もいれば

(Kanungo,1982b),多次元の構成概念と捉える研究もいる(Lodahl and kejner,

1965; Saleh and Hosek,1976; 片柳,1992; 義村,1996a)。たとえば義村(1996

a)は,職務関与を職務と個人と心理的距離を表す概念として捉え,さらに「情

緒的職務関与(職務への興味や愛着)」,「認知的職務関与(職務の重要さと参

加意欲)」,および「行動的職務関与(自発的な職務行動志向)」の3次元で捉

えている。

また,職務関与と組織コミットメントの概念上の違いについては,組織コ

ミットメントと職務関与はともにそれぞれの準拠対象と個人との関係を多面的

に捉えようとする点では共通しているが,組織コミットメントの準拠対象は所

属する組織であるのに対して,職務関与の準拠対象は仕事そのものである,と

いう明確な違いが存在していることが指摘されている(Mowday, Steers and

Porter,1979: Blau,1986)。実証研究でも,因子分析によって組織コミットメ

ントと職務関与は異なる因子として抽出されている(Blau and Boal,1989; 片

柳・守島,1991)。Blau and Boal(1989)は,組織コミットメントと職務関与

の強さの程度により従業員を4つのタイプに分類し,組織コミットメントと職

務関与は独立した概念であり,両立可能であると主張している。また,Gouldner

(1957)はコミットメントの対象により職業人をローカルとコスモポリタンに

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察393 -41-

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分類し,ローカルは所属組織へのロイヤルティは強いが専門的技術へのコミッ

トメントは弱く,所属組織に対してより強く一体化する職業人であるが,コス

モポリタンは逆に専門的技術へのコミットメントは強いが所属組織へのロイヤ

ルティは低く,自分の専門に対して一体化する職業人であると指摘している。

そしてローカルとコスモポリタンの比較研究の結果,組織コミットメントと職

務関与は対立概念であると主張している。このことに関係して,太田(1994)

は,今日における従業員の態度や行動,意識の中では,組織よりも仕事に一体

化するプロフェッショナル的な傾向が強まっており,個人の価値意識の変化の

中で,これまでの組織コミットメントから職務関与を重視すべきであると主張

している。

しかしながら,組織コミットメントと職務関与の間に統計的に有意な高い相

関関係が存在することを明らかにした研究(Blue and Boal,1987; Brooke,

Russell, and Price,1988; Blau and Boal,1989; Rabinowitz and Hall,1981;

Brown,1996)もあることから,両者は関連した概念であることも指摘されて

いる。

このように組織コミットメントと職務関与の関係については議論もあるが,

本稿では両者は概念的に異なるものとして捉えたい。なぜならば,本稿での実

証的考察において調査対象としたホテル・サービスの場合,その従業員はホテ

ルでの接客サービスに魅力を感じて就職した人が多く,また離職したとしても

再び他のホテルで勤務する人が多いことから,所属組織(ホテル)よりも職務

のほうにコミットメントする傾向があると考えられるからである。

� 職務関与の効果

職務関与の効果としては職務成果に対する影響が考察されており,両者の間

に明確な関係を確認できなかった研究もあるが(Lawler and Hall,1970; Siegel

and Ruh,1973; Brown,1996),関連性を見いだしている研究もある。たとえ

ば,エンジニアや製薬の基礎研究者などの理系専門職を対象とした研究では,

職務関与と業績(職務成果)の間にポジティブな相関関係が見られているが(石

-42- 香川大学経済論叢 394

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川,1996,1998; Keller,1997; 義村,1999),職種を限定しない分析では関連性

は明らかにされていない(Brown,1996)。

このように職務関与と職務成果との間に明確な関連性が見いだされていない

理由としては,職務関与の定義が研究者によって異なり,また職務関与や職務

成果の測定が困難であるということも考えられるが(義村,2007),前述の組

織コミットメントと職務成果との間の関係と同様に,職務関与が直接的に職務

成果を高めるのではなく,職務意欲やその意欲を発揮する方向性に影響を及ぼ

すことで,それらを通じて職務成果に間接的に影響を及ぼすにすぎないという

ことも考えられる。さらに,職務成果は従業員の職務意欲だけでなく,職務遂

行能力にも影響され,また組織コミットメントの影響も受けることから,職務

関与の職務成果に対する効果だけを評価することが困難になっていると考えら

れる。

� 職務関与の先行要因

職務関与に影響を及ぼす要因としては様々なものが明らかにされているが,

それらは大きく個人的要因と組織的要因に分けることができる。個人要因とし

ては,個人のパーソナリティや価値観,年齢,学歴,性別,婚姻状態などが影

響を及ぼし,組織要因としては個人キャリア,職務特性(専門性,自立性,意

思決定の参加,職種),職場での人間関係,人的資源管理施策,職務満足,組

織コミットメントなどが影響を及ぼすことが明らかにされている(Rabinowitz

and Hall,1977; Morrow,1983; 義村,2007)。

本稿での実証分析と関係のあるものは職種,職務特性,職場での人間関係,

および職務満足であることから,これらの要因と職務関与の関連性について概

観しておきたい。

職種については,Mannheim(1975)は7職種の従業者の職務関与を比較す

ることで,職務関与が最も高いのは科学者などの専門職従事者であり,次いで

高いのはホワイトカラーおよびブルーカラーなどの従業者であり,最も低いの

はサービスや娯楽産業の職務従事者であるという結果を得ている。前述の義村

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察395 -43-

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(1996a)は基礎研究者と他の4職種の従業者を比較し,営業職や事務職に比

べて基礎研究者は職務への情緒的職務関与が著しく高く,行動的職務関与も高

いことを明らかにしている。このような研究結果に基づくならば,実証的考察

において調査対象としたホテル・サービスの従業員の職務関与は相対的に低い

とも考えられるが,一方で,前述のようにホテルの従業員はホテルでの接客サ

ービスに魅力を感じて就職した人が多く,また離職したとしても再び他のホテ

ルで勤務する人が多いことから,職務関与は比較的高いことが予想される。

職種ではなく,職務特性が職務関与に影響を及ぼすという指摘もある。

March and Simon(1958)は,意思決定への参加度が職務関与を高める可能性

を示唆しているが,White and Ruh(1973)や Siegel and Ruh(1973)は,両者

の間にポジティブな相関関係があることを実証的に明らかにしている。また,

本人が自覚している職務特性が職務関与に影響を及ぼすという指摘もある。義

村(2007)は,職務関与の3つの次元(情緒的職務関与,認知的職務関与,お

よび行動的職務関与)それぞれに影響を及ぼす要因を分析し,職務の専門性は

情緒的職務関与と行動的職務関与に対してポジティブな影響を及ぼし,アイデ

アの必要性は3次元のいずれの職務関与に対してもポジティブな影響を及ぼす

ことを明らかにしている。

職場での人間関係では,上司のリーダーシップが部下の職務関与に影響を及

ぼすことが明らかにされている。たとえば,Brown(1996)は,上司の部下へ

の配慮と職務関与の間に有意な関係があることを明らかにしている。ただし,

上司と部下とのコミュニケーションと職務関与の間には有意な関係は見られて

いない。また,義村(1996b)は職務関与の3つの次元(情緒的職務関与,認

知的職務関与,および行動的職務関与)について上司などが及ぼす影響を考察

し,上司への信頼感が情緒的職務関与および認知的職務関与を高める方向に作

用することを明らかにしている。

また,職務満足と職務関与についても,両者の間には相関関係が存在するこ

とが明らかにされている(Lodahl and Kejner,1965; Brown,1996)。

-44- 香川大学経済論叢 396

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�.サービス・ブランド構築による従業員の組織コミットメント・職務意欲の向上

1.サービス・ブランドの価値次元

ブランド概念は時代とともに変遷しているが(青木,1999),Aaker(1991)

などによって,それまでバラバラに議論されていたブランドの諸概念が『ブラ

ンド・エクイティ』という総合的な概念に集約されることで,エクスターナ

ル・マーケティングの結果として市場に形成された資産として認識されるよう

になっている。ブランド・エクイティ論の登場によって,ブランドを総合的・

統合的に捉えていくことが重要であり,エクスターナル・マーケティングの展

開の仕方によってブランドの資産的価値は増減する,という認識に変わってい

る。このようにブランドをエクスターナル・マーケティングの結果として市場

で形成される資産と捉えるならば,エクスターナル・マーケティングの課題は

その資産的価値を高める,すなわち高い顧客価値を継続的に提供することでブ

ランドという器の中に評判や名声などを蓄積し,信頼を形成するとともに,ブ

ランドの有する意味や価値を積極的に発信することで“共感できる顧客”�を吸

引・維持し,さらにその積み重ねによって資産的価値を高めていくことである

(11) あえて“共感できる顧客”としたのは,ブランドは信頼の印として機能することで顧客を吸引・維持することが強調されるが,ブランドの本質的機能はむしろ“望ましくない顧客”の排除にあると考えられるからである。前述のように顧客価値の実現においては顧客が重要な役割を果たすために,製造企業やサービス組織が高い顧客価値を提供することが可能な価値源泉を構築したとしても,顧客がそこから価値を実現させるのに必要な役割を十分に果たすことができなければ潜在的に可能な顧客価値は実現されない。あるいは価値実現のための活動が不適切に行われることによって,その顧客自身だけでなく社会も何らかの損害を被る危険性もある(藤村,2003,2010)。さらに,ブランドの利用者の属性や利用の方法(マナー)は市場資産的価値に影響を及ぼすだけでなく,サービス消費の場合には,サービス・デリバリー・プロセスに参加する従業員の職務満足や職務意欲にも重大な影響を及ぼす。このように,ブランドの価値や意味に共感し,それに適合した役割を果たすことので

きない顧客の吸引・維持はブランドの市場資産的価値を低下させるとともに,その本来の意味や価値の発信も妨げることになるので,ブランドの機能はそれが保有する意味や価値の観点から望ましい顧客を積極的に吸引・維持するとともに,一方で,望ましくない顧客を積極的に排除することにあると考えられる。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察397 -45-

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と言える。

このような資産的価値を高めることにおいて従業員は重要な役割を果たす

が,前述のような理由から,その重要性は製造企業よりもサービス組織におい

てのほうが高いと考えられる。したがって,サービス組織においてのほうが,

従業員の組織や職務に対するコミットメントを高めることによる職務意欲の向

上を図る重要性は高い,と言えるであろう。

では,エクスターナル・マーケティングの結果として形成されるどのような

ブランド価値が顧客の吸引・維持だけでなく,従業員の組織や職務に対するコ

ミットメントの向上,さらには職務意欲や職務成果の向上に影響を及ぼすので

あろうか。前述のように,ブランド価値は市場ベースにおける資産的価値(以

下では,市場資産価値)として捉えられるようになっているが,従業員への影

響の観点から捉えるならば,ブランドの価値次元として個客資産価値および労

働市場価値も加える必要があると考えられる。

� 顧客との間に個別的に形成されるブランド価値の側面

前述のようにブランドは市場資産的な価値を有するものとして捉えられ,エ

クスターナル・マーケティングを通じてその価値を高める対象であるととも

に,その価値を通じて顧客との関係性を構築・維持する手段と位置づけられて

いる。すなわち,ブランドは顕在的および潜在的顧客集合としての市場,ある

いは競争の場としての市場の中に存在し,その中においてその提供組織にはブ

ランドの有する意味や価値に共感できる顧客の吸引や彼らとの関係構築といっ

た効果を,顧客には使用価値だけでなく記号的価値といった効用をもたらすも

のとして捉えられている。

しかしながら,サービス組織の場合には,狭いエリアを対象とした地域密着

型や限られた層を対象とした顧客密着型が多いために,モノのブランドのよう

に市場を広く,あるいは抽象的に捉えることができない。つまり,地理的に広

く(全国的あるいは世界的に)評判や名声が形成されていなくても,特定の狭

い地域や特定の狭い層に受け入れられているサービスは多い。また,モノのブ

-46- 香川大学経済論叢 398

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ランドの場合には,顧客価値が高く,かつ均一なものを長期的に提供すること

で市場において信頼が形成されるが,サービスのブランドの場合には,サービ

ス・デリバリー・プロセスへの顧客の参加が必要不可欠であるために,個客化

対応によるニーズ充足(あるいは問題解決)によって個々の顧客の中に信頼が

形成される。当然,モノのブランドでも,それを反復的に選択・消費するごと

に満足を享受できれば,その利用者である個々の顧客の中に信頼が形成される

が,そのようなミクロ的な信頼よりも,顕在的および潜在的顧客集合としての

市場,あるいは競争の場としての市場の中で共有されるマクロ的な信頼のほう

が顧客およびその製造企業にとってはより効用が大きいであろう。一方,サー

ビスのブランドの場合には,個客化対応によってより高い顧客価値を提供する

ことを可能にする能力こそがブランドの価値であり,信頼の源泉となってお

り,個々の顧客との間で形成されるミクロ的な信頼がサービス組織に顧客の吸

引や彼らとの関係構築といった効用をもたらしている。また,サービス組織は

その経営資源の限界のために,地理的に広い,あるいはニーズの異なる広い顧

客層のすべてに高い顧客価値を提供できないだけでなく,提供できたとして

も,顧客によってニーズやサービス・デリバリー・プロセスへの参加の仕方が

異なるために,すべての顧客が高い顧客価値を享受できるわけではない。その

結果,顕在的および潜在的顧客集合としての市場,あるいは競争の場としての

市場の中で共有されるようなマクロ的な信頼は形成されにくく,個々の顧客と

の間にミクロ的な信頼(あるいは信頼関係)が形成されるにすぎないことが多

いであろう。

このようなことからサービスのブランド価値には,サービス組織の規模と事

業展開エリアの拡大によって形成されるマクロ的信頼に基づく市場資産価値だ

けでなく,多くの地域密着型あるいは顧客密着型のサービス組織が限定された

顧客を対象として個客化されたサービスを提供し,高い顧客満足を達成するこ

とで個々の顧客との間で形成されるミクロ的信頼に基づく価値,すなわち“個

客資産価値”も重要な次元として存在していると考えられる。従来のブランド

論で展開されているブランドは,顧客集合あるいは競争の場という抽象的な市

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察399 -47-

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場で形成されるマクロ的資産価値であるが,サービス組織のブランドの場合に

は,個客化対応によって個々の顧客との間に信頼が形成されていることから,

これも資産価値として捉える必要があるであろう。したがって,サービスのブ

ランド価値は,組織の規模と事業展開エリアの拡大に伴って形成される顧客集

合としての市場あるいは競争の場としての市場において形成されるマクロ的信

頼に基づく市場資産価値の側面からだけでなく,個客化対応と高い顧客満足に

よって個々の顧客との間で形成されるミクロ的信頼に基づく個客資産価値の側

面からも捉える必要があると考えられる。

� 労働市場におけるブランド価値の側面

サービスのブランドは,労働市場においても重要な役割を果たすと考えられ

る。従来のブランド論では,ブランド価値は市場を構成する顕在的および潜在

的顧客をベースとして捉えられているが,それらの顧客が就職先としてその提

供サービス組織を選択するという可能性を考慮すれば,労働市場を構成する顕

在的および潜在的労働者をベースとして捉える必要もあるであろう。

サービス・デリバリーには顧客の参加が必要とされ,多くのサービス・デリ

バリー・プロセスでは顧客と従業員の間でサービス・エンカウンターが展開さ

れるために,従業員の特性(性別,年齢,人種など),身なり,行動,態度な

どもサービス品質を構成する重要な要因となっている。さらに,従業員の特性

や身なり,行動,態度などは顧客のサービス・デリバリー・プロセスへの参加

と協働のあり方に影響を及ぼし,これらはサービスの結果品質および過程品質

の形成に重大な影響を及ぼすことから,従業員は顧客のサービスに対する知覚

品質や満足/不満足の形成だけでなく,ブランドの意味や価値の形成において

重要な役割を果たしている。このようなことからサービス組織では,顧客の知

覚品質や満足の向上によって彼らとの間に良好で長期的な関係性を構築するだ

けでなく,ブランドの意味や価値の形成の観点から質の高い従業員を吸引し,

さらに彼らの知識・技能を育成しながら良好で長期的な関係性を構築していく

ことも必要とされる。

-48- 香川大学経済論叢 400

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市場資産としてブランドは労働市場でも機能し,有能な人材の獲得を可能に

するだけでなく,彼らの職務意欲を高めることに貢献すると考えられる。組織

の内部に向かって展開されるインターナル・マーケティングは既存従業員の組

織コミットメントや職務意欲の向上にとっては有効であるが,新規従業員の吸

引という点では有効性は低いであろう。むしろ市場資産価値が強力なブランド

の方が,資金を投入することなく,有能な新規従業員を吸引できるという点で

優れているかもしれない。『フォーチュン』は2000年に,2つの企業グループ

の求人に対して,平均で何人の応募者がいたのか,という興味深い比較を行っ

ている。2つのグループとは「称賛される会社トップ10」というリストに載っ

ている企業と「働きたい会社ベスト100」というリストに載っている企業であ

る。前者のリストはマーケティングと経営の実績が指標となっており,マイク

ロソフト,デル,インテル,ウォルマートなどの市場資産価値の高いブランド

を擁する企業が含まれていたのに対して,後者のリストは従業員の働きやすさ

が指標となっていた。その比較の結果では,一人の求人に対し,市場資産価値

の高いブランドを擁する企業の方が,懸命に従業員を満足させようとする企業

の2倍の応募者を集めていた(26人 vs.13人)�。

労働者が強力な市場資産価値を有するブランドに引きつけられる理由の一つ

は名声であり,もう一つは職場の雰囲気である。名声は,従業員のアイデン

ティティを示すものとなるだけでなく,将来の活動あるいは転職の可能性を拡

大するためである。また,有能な従業員が集まることで,全員の目標や能力が

向上し,職場が活力のあふれた場所となり,新しいアイデアに満ちていること

が多いためである。このために,強力な市場資産価値を有するブランドは有能

な従業員を吸引し,彼らのパフォーマンスを高めるだけでなく,職場を活性化

することで,さらにそれ自身を強化するという好循環を生みだすことが可能と

なる(藤村,2003)。

(12) D’Alessandro, D. F.(2001), Brand Warfare :10Rules for Building the Killer Brand,McGraw-Hill. 鬼澤忍訳,『ブランド戦国時代 キラー・ブランド構築の10の鉄則』,早川書房,2001年,208-209頁。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察401 -49-

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このようにブランドは労働市場においても就職にかかわる意思決定に影響を

及ぼし,有能な人材の獲得可能性を高めるだけでなく,採用後の職務意欲の向

上にも貢献することから,ブランドは労働市場においても価値を有していると

考えられる。本稿では,このブランドの労働市場における価値もブランド価値

の1つの次元として捉え,以下ではブランドの“労働市場価値”と呼ぶことに

する。

� サービス組織における3次元のブランド価値の関連性

前述のようなことから,サービス組織のブランド価値は市場資産価値,個客

資産価値,および労働市場価値といった3つの次元から構成されていると捉え

ることができるが,これらのブランド価値は個々別々に形成されるのではな

く,サービス組織のエクスターナル・マーケティングの展開の方向性と時間経

過の中で順次形成され,それらが適切に活用されることで最終的に好循環が形

成されると考えられる。

サービス・デリバリーには顧客の参加が必要とされるために,サービス消費

には顕名性という特質が備わっており(藤村,2006),サービス組織がこの特

性を積極的かつ適切に活用し顧客の利用データを蓄積するならば,サービス自

体やそのデリバリー・プロセスの個客化が可能となる。一方で,サービスのデ

リバリーは顧客の選択意思決定後にしか行われないことや,サービス自体は無

形であることなどのために,潜在的顧客はサービス・ブランドに対する認知や

理解を形成することが困難になっている。このようなことからサービスのブラ

ンド価値は当初,実際に利用した顧客とサービス組織の間において個別的な信

頼や関係性というかたちで形成されるために,最初に形成されるブランド価値

はそのミクロ的側面である個客資産価値である。そして,この個客資産価値

は,既存顧客の利用回数が増加し,個々の顧客との間で形成されるミクロ的信

頼が強まることで,高まっていくことになる。

ブランドの個客資産価値が形成・強化された段階で,サービス組織がその個

客資産価値の形成・強化能力を維持しながら事業展開エリアやターゲット層の

-50- 香川大学経済論叢 402

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拡大を行うならば,市場での認知率や評判が高まることで,ブランド価値のマ

クロ的側面である市場資産価値が形成・強化されるであろう。さらに,ブラン

ドの市場資産価値が形成・強化されるならば,労働市場においても組織の成長

性や安定性,事業内容などの魅力が向上することから,就職希望者が増加し,

ブランドの労働市場価値も高まると考えられる。

あるいは,サービス組織における経営資源の制約あるいは顧客価値へのこだ

わりから事業拡大が行われなければ,市場資産価値は形成されない,あるいは

低い水準に留まるであろう。つまり,ブランドは個客資産価値の次元では高い

価値を有するが,市場資産価値の次元では低い価値しか有しないことになる。

ただし,この場合でも,個客資産価値が長期・継続的に維持・強化されるなら

ば,それに共感する有能で職務意欲の高い従業員を吸引する方向に作用するこ

とから,地理的エリアあるいは人材の特性は制限されるが,労働市場価値の形

成・強化が促されることになる。

事業拡大によって市場資産価値の形成・強化が行われるか否かにかかわりな

く,労働市場価値が形成・強化されることによって,サービス組織はより高い

個客資産価値や市場資産価値の形成を可能にするような有能な人材を容易に獲

得できるようになる。そして,有能な人材の獲得・育成が適切に行われること

によって,有能な人材はミクロ的側面での個客資産価値やマクロ的側面での市

場資産価値を向上させることに貢献するようになり,図1のような好循環が3

つの次元のブランド価値の間において形成されることになると考えられる。

図1:3つのブランド価値間の好循環関係

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察403 -51-

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2.サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響

サービスのブランド価値は市場資産価値,個客資産価値,および労働市場価

値の3次元から構成されると捉えることができるが,これらはインターナル・

マーケティングを補完するかたちで組織コミットメントや職務意欲の向上に貢

献し,循環的にサービス品質や顧客満足の向上,さらにはブランド価値の強化

にも貢献すると考えられる。

� サービスのブランド価値が組織コミットメントに及ぼす影響

ブランド価値の3つの次元のすべて,あるいはいずれかにおいて強力なブラ

ンドは従業員の組織コミットメントに影響を及ぼすと考えられる。就職後の従

業員に対する影響に絞れば,市場資産価値と個客資産価値は情緒的コミットメ

ントに,労働市場価値は存続的コミットメントに対して特に重大な影響を及ぼ

すと考えられる。

情緒的コミットメントは従業員の組織との一体化であるため,ブランドの市

場資産価値や個客資産価値として形成された意味や価値の方向性が従業員の価

値観や望む方向性と一致している場合,あるいはそれらに従業員が共感できる

場合には,従業員は組織に対して一体感を感じるために,情緒的コミットメン

トは高まるであろう。逆に,一体感や共感を感じなければ,存続的コミットメ

ントは高まるとしても,情緒的コミットメントは低下すると考えられる。ま

た,市場資産価値や個客資産価値の高さは名声であり,名声は従業員のアイデ

ンティティを示すものとなることから,市場資産価値や個客資産価値の高さは

情緒的コミットメントを高める方向に作用すると考えられる。

また,存続的コミットメントは功利に関係していることから,サービス組織

が高い労働市場価値を有するほど,従業員はその組織からの離脱に対してより

高い損失を知覚するために,存続的コミットメントは高くなると考えられる。

しかしながら,当初から従業員に長期・継続的に同じ組織で勤務する意思が

なく,将来の転職を有利にするためだけにブランド価値の高い組織を選択して

いる場合には,ブランド価値はいずれの組織コミットメントにも影響を及ぼさ

-52- 香川大学経済論叢 404

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ないと考える。したがって,同一の職業・職種内での昇進を目的として会社を

変わることの多い米国と長期的に同じ会社で働き続けながら昇進することが多

い日本では,ブランド価値の従業員の組織コミットメントに対する効果は異

なっており,日本においてのほうがより強いことが推察される。

� サービスのブランド価値が職務意欲およびその方向性に及ぼす影響

ブランド価値は組織コミットメントの向上を通じて,従業員の職務意欲を間

接的に向上させるだけでなく,直接的にも影響を及ぼすことが考えられる。ブ

ランドの労働市場価値の高さによって有能な従業員が集まることによって,職

場が活力やアイデアに�れた場所となり,そのことは彼らの職務意欲を高める

ことになると考えられるからである。

また,市場資産価値や顧客資産価値としてのブランドの意味や価値が従業員

にとって共感できるものであるならば,それらは職務意欲を高める方向に作用

すると考えられる。従業員,特にフロント・ルームにおける従業員は,様々な

コミュニケーション・ツールを通じて顧客に提供することを約束したサービス

の中核的価値を経験へと転換する重要な役割を担っている。しかし,彼らは,

サービス・デリバリーにおいてどれだけの努力をするのかについてかなりの自

由裁量が認められている自発的な労働者であるために,最高の努力を行わせる

ようなモチベーションの提供が必要とされる。ブランドの市場資産価値や顧客

資産価値はこのモチベーション機能を果たすと考えられる。

また,職務意欲が高くても,その意欲が発揮される方向性が適切でなけれ

ば,図1で示したような好循環は形成されない。ブランドの市場資産価値や個

客資産価値は従業員が当該サービスの中核的価値を体現できるように行動や態

度を方向づけることに貢献することを通じて,好循環の駆動因として働くと考

えられる。ブランドの市場資産価値や個客資産価値として形成された意味や価

値の方向性が従業員の価値観や望む方向性と一致することによって,あるいは

それらに従業員が共感し共有することによって,彼らは当該サービスの中核的

価値を実現させる方向に意欲を発揮し,提供サービスは卓越したものになる

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察405 -53-

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し,さらにこれらの積み重ねによってブランドの個客資産価値や市場資産価値

はより高いものとなる。つまり,リーダーは組織の内部から彼らの行動や言葉

を通じて提供サービスの中核的価値を伝え,組織全体にそれを浸透させるが,

ブランドの市場資産価値や個客資産価値は組織の外から同じような役割を果た

すということである。当該サービスが提供しようとする中核的価値があらゆる

従業員に浸透することで,デリバリー・プロセスにおける彼らの役割やその重

要性の理解が促され,権限委譲が行われているならば,彼らはデリバリー・プ

ロセスの各場面において必要とされる意思決定や行動を適切かつ迅速に遂行す

ることが可能になり,顧客は価値が高く,個客化されたサービスを享受できる

ことになる。

� サービス・ブランドの構築とインターナル・マーケティングの展開に

よる職務成果向上モデル

インターナル・マーケティングは組織内部に直接働きかけ,従業員による組

織の目標や価値の共有を図ることで行動のベクトル合わせを行うとともに,従

業員に対する内部サービスの品質を向上させることで彼らの職務満足や組織コ

ミットメント,職務意欲などを向上させることを目的としているが,前述のよ

うにエクスターナル・マーケティングも市場でのブランド価値の形成・強化を

通じてこの目的の達成を補完できると考えられる。

前章および本章の考察に基づくならば,図2のように,ブランド価値(個客

資産価値,市場資産価値,および労働市場価値)は組織コミットメントと職務

意欲にポジティブな影響を及ぼすだけでなく,その意欲発揮の方向性を組織の

目的や価値に沿ったものとすることによって,職務成果の向上を導くことが期

待される。そして,職務成果の向上がサービス品質に反映され,さらにこれが

ブランド価値の向上を導くことによって,ブランド価値を駆動因とした好循環

が形成されることになる。

また,インターナル・マーケティングは職務満足や組織コミットメントに直

接的に影響を及ぼすことを通じて職務関与や職務意欲を向上させ,さらに,職

-54- 香川大学経済論叢 406

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【市 場】 【組 織 内】

++

++

ブランド価値

サービス品質 職 務 成 果

職務意欲(方向性)

組織コミットメント

職 務 環 境

職 務 関 与

職 務 満 足

エクスターナル・マーケティング

インターナル・マーケティング

務意欲は職務成果の向上を促すことで,サービ品質やブランド価値の向上を導

くことになる。したがって,エクスターナル・マーケティングとインターナ

ル・マーケティングはそれらが向けられる対象においては異なっているが,と

もに従業員に影響を及ぼし,最終的にはブランド価値を高めることに貢献する

ことから,両マーケティングは相互に補完関係にあると考えられる。

次章では,図2におけるブランド価値の組織コミットメントおよび職務意欲

に対する影響をホテルの従業員を対象とした量的調査によって実証的に考察し

たい。

�.ブランド価値の従業員に対する影響に関する実証的考察

本章では,ブランドの従業員に対する影響について,ホテル・サービスを対

象として実証的に考察を行いたい。ホテル・サービスを考察の対象としたの

は,宿泊者,飲食店利用者,あるいは宴会客のホテルに対する評価において

は,部屋やロビーなどのハードの側面だけでなく,従業員の活動や態度などの

ソフト面も重要な役割を果たしていると考えられるからである。

図2:ブランド価値の従業員に対する影響モデル

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察407 -55-

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1.調査項目

前節で提示したブランド価値の従業員への影響モデルを検証するために,以

下の質問項目を設けた。

� 個人特性

性別,年齢,勤務ホテル,所属部門,雇用形態,役職(正社員の場合),現

在の勤務ホテルでの勤務年数,当該ホテル・グループでの勤務年数(複数のホ

テルがある場合),他のホテルでの勤務経験にかかわる質問項目。

� ブランド価値

勤務するホテルの個客資産価値,市場資産価値,および労働市場価値にかか

わる質問項目(「そう思わない」~「そう思う」の5点尺度)。

なお,ホテル・グループが複数のホテル・ブランドを保有している場合に

は,ホテル・グループ(会社)のブランド価値についても聴取した。さらに,

ホテル・グループが他の事業も展開する企業グループに所属する場合には,企

業グループ全体のブランド価値についても聴取した。

� 組織コミットメント

情緒的コミットメント,規範的コミットメント,存続的コミットメントにか

かわる質問項目(「そう思わない」~「そう思う」の5点尺度)。

なお,項目の作成においては,Mowday, Steers, and Porter(1979),Allen and

Meyer(1990),田尾(1997)などの尺度を参考にした。

� 職務関与および職務環境

職務関与および職務環境にかかわる質問項目(「そう思わない」~「そう思う」

の5点尺度)。

なお,職務関与にかかわる項目の作成においては,Kanungo(1982a)の尺

度を参考にした。

-56- 香川大学経済論叢 408

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� 職務意欲(方向性)

職務意欲とその方向性(顧客価値体現意欲およびブランド価値体現意欲)に

かかわる質問項目(「そう思わない」~「そう思う」の5点尺度)。

なお,職務意欲にかかわる項目の作成においては,Lodahl and Kejner(1965)

を参考にした。

� 職務満足

職務満足,および今後の行動意向(継続勤務意向,推薦意向)にかかわる質

問項目(職務満足は「不満足である」~「満足である」の5点尺度,行動意向は

「そう思う」~「そう思わない」の5点尺度)。

2.調査実施概要

ホテル・サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響を明らかにするため

に,3つのホテル・グループの協力を得て従業員を対象とする量的調査を実施

した�。3つのホテル・グループをAホテル・グループ,Bホテル・グループ,

Cホテル・グループとすると,Aホテル・グループは全国的に事業展開を行っ

ており,ホテル・カテゴリーごとに異なる複数のブランドで宿泊や飲食,宴会

などのサービスを提供している会社である。Bホテル・グループは特定地域で

のみ事業展開を行っており,ビジネスホテルを中心として複数のブランドで宿

泊や飲食,宴会などのサービスを提供している会社である。Cホテル・グルー

プも特定地域でのみ事業展開を行っているが,1ブランドで1つのシティホテ

ルでのみ宿泊や飲食,宴会などのサービスを提供している会社である。した

がって,ホテルの規模および市場資産価値としてブランドはAホテル・グルー

プが最も大きく,Cホテル・グループが最も小さいことになる。

これらの3つのホテル・グループに対する調査の実施概要は以下のとおりで

(13) 調査実施にご協力いただいた3つのホテル・グループの担当者およびご回答をいただいた従業員の方々には,ここに感謝いたします。また本調査は,科学研究費補助金(基盤研究�:平成21年度~平成25年度 課題番号:20330090)を受けて実施したものである。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察409 -57-

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ある。

【Aホテル・グループに対する調査】

調査対象者:Aホテル・グループ内の全ホテルおよび管理部門で働いて

いる全従業員(契約社員,派遣社員,およびパート・アル

バイトも含む)

調 査 票:A4版8頁

調 査 方 法:各ホテルの総支配人あるいは管理部門の役員を通じて所属

する従業員に調査依頼および配布を行い,郵送回収(従業

員ごとに回答後に投函)

調 査 時 期:2010年2月

調査票配付数:3,614票

有効回収数:2,182票(有効回収率:60.4%)

【Bホテル・グループに対する調査】

調査対象者:Bホテル・グループ内の全ホテルおよび管理部門で働いて

いる全従業員(契約社員およびパート・アルバイトも含む)

調 査 票:A4版8頁

調 査 方 法:各ホテルの支配人あるいは管理部門を通じて所属する従業

員に調査依頼および配布を行い,郵送回収(従業員ごとに

回答後に投函)

調 査 時 期:2010年2月

調査票配付数:180票

有効回収数:138票(有効回収率:76.7%)

【Cホテル・グループに対する調査】

調査対象者:Cホテルで働いている全従業員(契約社員,派遣社員,お

よびパート・アルバイトも含む)。なお,このホテルは他

事業を本業とする会社の関連会社であるため,正社員はい

ない。

調 査 票:A4版6頁

-58- 香川大学経済論叢 410

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調 査 方 法:ホテルの代表を通じて従業員に調査依頼および配布を行

い,郵送回収(従業員ごとに回答後に投函)

調 査 時 期:2010年2月

調査票配付数:33票

有効回収数:25票(有効回収率:75.8%)

これらの3つの調査から得られたデータ(共通に聴取した項目に対する回答)

を用いて分析を行うことになるが,その分析に用いる調査対象者(有効回収票)

の特性をまとめると表1のようになる。

ホテル・グループ

属性

Aホテル・グループ Bホテル・グループ Cホテル・グループ

人 数 (構成比) 人 数 (構成比) 人 数 (構成比)

男性 1,433 (65.7) 78 (56.5) 10 (40.0)

女性 673 (30.8) 53 (38.4) 15 (60.0)

不明 76 (3.5) 7 (5.1) 0 (-)

合 計 2,182 (100.0) 138 (100.0) 25 (100.0)

10代 23 (1.1) 5 (3.6) 2 (8.0)

20代 457 (20.9) 40 (29.0) 5 (20.0)

30代 633 (29.0) 27 (19.6) 1 (4.0)

40代 539 (24.7) 25 (18.1) 5 (20.0)

50代 262 (12.0) 11 (8.0) 6 (24.0)

60代以上 73 (3.3) 13 (9.4) 6 (24.0)

不明 195 (8.9) 17 (12.3) 0 (-)

合 計 2,182 (100.0) 138 (100.0) 25 (100.0)

正社員 1,546 (70.9) 68 (49.3) 0 (-)

契約社員 332 (15.2) 16 (11.6) 11 (44.0)

派遣社員 7 (0.3) 0 (-) 2 (8.0)

パート・アルバイト 225 (10.3) 39 (28.3) 12 (48.0)

不明 72 (3.3) 15 (10.9) 0 (-)

合 計 2,182 (100.0) 138 (100.0) 25 (100.0)

表1:ホテル・グループ別の調査対象者特性

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察411 -59-

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3.分析に用いる概念の基本的次元の抽出と傾向分析

� ブランド価値の基本的次元の抽出

ブランド価値の基本的次元を抽出するために,表2の14の質問項目を用い

て因子分析を行った。表2は,バリマックス回転後の因子負荷行列である。3

因子が抽出され,因子負荷量の大きい質問項目の内容から,第1因子はブラン

ドの「労働市場価値」にかかわる次元,第2因子はブランドの「個客資産価値」

にかかわる次元,第3因子はブランドの「市場資産価値」にかかわる次元と解

釈できる。

この3次元のブランド価値に対する知覚をホテル・グループ間で比較する

と,表3のようになる。ブランドの「労働市場価値」と「個客資産価値」につ

いてはホテル・グループ間で統計的に有意な差異は見られないが,「市場資産

価値」については統計的に有意な差異が見られ,Aホテル・グループが最も高

く,Cホテル・グループが最も低くなっている。この結果は,ホテル・グルー

プの規模と事業展開エリアの広さによって生じていると考えられる。ホテル・

グループの規模と事業展開エリアが大きいほど,マーケティング活動を積極的

かつ全国的に行っており,市場での認知率や利用経験も高いために,従業員の

ブランドの「市場資産価値」に対する知覚も高くなっていると考えられる。

この結果の興味深い点は,ホテル・グループの規模と事業展開エリアが大き

く,マーケティング活動が積極的かつ全国的に行われているほど,従業員の市

場資産価値に対する知覚は高まるが,個客資産価値と労働市場価値については

それとは独立して知覚されているということである。つまり,事業エリアや顧

客層が限定された小規模のサービス組織でも,ブランド価値としての個客資産

価値と労働市場価値を形成・強化することは可能であり,インターナル・マー

ケティングを実施しなくても,それらの向上を通じてインターナル・マーケ

ティングの代替的な役割の遂行が期待できると言うことである。

表4は,従業員の特性別に3次元のブランド価値に対する知覚を比較したも

のである。

性別では,ブランドの「個客資産価値」と「市場資産価値」について統計的

-60- 香川大学経済論叢 412

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因子

質問項目

第1因子

第2因子

第3因子

共通性

労働市場価値

個客資産価値

市場資産価値

私は現在勤務しているホテルの事業内容に魅力を感じて就職(勤め先として選択)した。

0.859

0.113

0.136

0.769

私は現在勤務しているホテルの職場環境に魅力を感じて就職(勤め先として選択)した。

0.788

0.124

0.120

0.650

私は現在勤務しているホテルの成長力に魅力を感じて就職(勤め先として選択)した。

0.770

0.175

0.141

0.644

私は現在勤務しているホテルでの仕事のやりがいに魅力を感じて就職(勤め先として選択)した。

0.765

0.155

0.108

0.620

私は現在勤務しているホテルのブランドに魅力を感じて就職(勤め先として選択)した。

0.684

0.165

0.181

0.527

価格が同じならば,現在勤務しているホテルは同一エリア内の他ホテルよりも品質の高い(=価

値のある)宿泊サービスを提供している。

0.083

0.720

0.278

0.603

総合的に見て,現在勤務しているホテルは品質の高い宿泊サービスを提供している。

0. 153

0.649

0.425

0.625

現在勤務しているホテルの宿泊客は非常に満足している。

0.123

0.642

0.310

0.524

私の周りにこの地域(現在勤務しているホテルの立地地域)でホテルを探している人がいれば,

現在勤務しているホテルを勧めたい。

0.158

0.625

0.190

0.452

この地域で私が宿泊することになった場合,私は現在勤務しているホテルを第一に選択したい。

0.231

0.578

0.120

0.402

市場では,現在勤務しているホテルに対して良いイメージが形成されている。

0.156

0.349

0.764

0.729

市場では,現在勤務しているホテルは高い信頼を得ている。

0.159

0.406

0.731

0.725

市場では,現在勤務しているホテルの知名度は高い。

0. 146

0.149

0.672

0.496

市場では,現在勤務しているホテルはそのホテルの属するブランドカテゴリーにおいて一流のブ

ランドとして認知されている。

0.175

0.280

0.605

0.475

寄与

率23.1%

18.4%

17.4%

58.9%

表2:ブランド価値にかかわる基本的次元の抽出

注1)回答は「そう思わない」を「1」,「そう思う」を「5」とする5点尺度で聴取している。

注2)主因子法,バリマックス回転。

注3)因子は固有値が1以上のものを抽出。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察413 -61-

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に有意な差異が見られ,どちらのブランド価値も男性のほうが高く知覚する傾

向がある。男性のほうが勤務しているホテルのブランドの「個客資産価値」や

「市場資産価値」を高く評価する傾向があるということであるが,この結果は,

後述の組織コミットメントや職務関与に関する分析結果に見られるように,男

性のほうが「情緒的コミットメント(内在化要素)」が高く,「職務関与」も高

い(職務によりやりがいを感じている)ことと関係していると考えられる。つ

まり,男性のほうが勤務しているホテルのブランドの「個客資産価値」や「市

場資産価値」を高く評価しているから,組織に対する一体感がより強くなり,

職務のやりがいもより高くなり,逆にまた,組織に対する一体感や職務のやり

がいが高くなることによって,ブランドの「個客資産価値」や「市場資産価値」

に対する自信が強くなっていると考えられる。このような好循環が形成される

ことには,男性のほうが労働市場において長期的かつ継続的に働き続ける傾向

があることも関係しているであろう。

雇用形態別では,統計的有意な差異は見られなかった。この結果は,ホテル

のブランド価値に対する知覚は雇用形態に影響されない,つまりホテルのブラ

ンド価値は市場や労働市場において共有されているということを表していると

考えられる。

ホテル・グループ別ブランド価値

労働市場価値 個客資産価値 市場資産価値

Aホテル・グループ

平均値 0.001 0.002 0.007

度数 2,029 2,029 2,029

標準偏差 0.944 0.864 0.873

Bホテル・グループ

平均値 0.011 -0.050 -0.038

度数 132 132 132

標準偏差 0.941 0.863 0.955

Cホテル・グループ

平均値 -0.134 0.074 -0.375

度数 24 24 24

標準偏差 0.870 0.980 1.036

差の統計的有意性 *

表3:ホテル・グループ別のブランド価値に対する知覚

注)***は0.1%水準で,**は1%水準で,*は10%水準で統計的に有意である。

-62- 香川大学経済論叢 414

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性 別ブランド価値

労働市場価値 個客資産価値 市場資産価値

男 性

平均値 -0.015 0.023 0.033

度数 1,419 1,419 1,419

標準偏差 0.956 0.872 0.887

女 性

平均値 0.049 -0.046 -0.047

度数 696 696 696

標準偏差 0.913 0.860 0.871

差の統計的有意性 * ***

雇用形態別 労働市場価値 個客資産価値 市場資産価値

正社員

平均値 0.004 0.005 0.005

度数 1,522 1,522 1,522

標準偏差 0.933 0.866 0.879

契約社員派遣社員

平均値 0.018 -0.062 0.038

度数 345 345 345

標準偏差 0.964 0.828 0.834

パートアルバイト

平均値 -0.031 0.064 -0.094

度数 256 256 256

標準偏差 0.946 0.903 0.934

差の統計的有意性

現ホテルでの勤務年数別 労働市場価値 個客資産価値 市場資産価値

1年未満

平均値 0.112 0.358 -0.105

度数 100 100 100

標準偏差 0.925 0.856 0.949

5年未満

平均値 -0.024 -0.020 0.002

度数 802 802 802

標準偏差 0.942 0.881 0.881

10年未満

平均値 -0.023 -0.063 -0.065

度数 474 474 474

標準偏差 0.890 0.853 0.865

20年未満

平均値 -0.095 -0.026 0.036

度数 348 348 348

標準偏差 0.998 0.853 0.905

20年以上

平均値 0.146 0.039 0.081

度数 298 298 298

標準偏差 0.911 0.877 0.866

差の統計的有意性 * ***

表4:従業員特性別のブランド価値に対する知覚

注)***は0.1%水準で,**は1%水準で,*は10%水準で統計的に有意である。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察415 -63-

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次に,現ホテルでの勤務年数別では,「労働市場価値」と「個客資産価値」に

ついて統計的に有意な差異が見られるとともに,どちらのブランド価値におい

ても同じような傾向が存在している。すなわち,現ホテルでの勤務年数が1年

未満の層と20年以上の層において,この2つのブランド価値に対する知覚が

比較的高くなっている。この2つの層において「労働市場価値」が比較的高く

知覚されているのは,就職環境が悪いことと関係していると考えられる。就職

環境が悪い中で,1年未満の層においては就職(勤務)できたという意識が,

20年以上の層では転職が難しいという意識が強く働いていると考えられる。

また,「個客資産価値」については,1年未満の層では価値の高いサービスを

提供しているとの認識から就職(勤め先として選択)したという意識が,20

年以上の層では価値の高いサービスを提供しているから働き続けているという

意識,あるいは長い間頑張っているから価値の高いサービスを提供できている

はずだという自信が強く働いていると考えられる。さらに,勤務年数が長い層

ほど管理職(支配人やマネージャー)の割合も多くなるため,「個客資産価値」

および「労働市場価値」に対する知覚も高くなっているとも考えられる。

� 組織コミットメントの基本的次元の抽出

次に,組織コミットメントの基本的次元を抽出するために,表5の22の質

問項目を用いて因子分析を行った。

表5は,バリマックス回転後の因子負荷行列である。3因子が抽出され,因

子負荷量の大きい質問項目の内容から,第1因子は「情緒的コミットメント(愛

着的要素)」にかかわる次元,第2因子は「情緒的コミットメント(内在化要

素)」にかかわる次元,第3因子は「規範的・存続的コミットメント」にかか

わる次元と解釈できる。本調査結果では,情緒的コミットメントは「愛着的要

素」と「内在化要素」に分かれ,規範的コミットメントと存続的コミットメン

トは1つにまとまってしまった。

情緒的コミットメントが「愛着的要素」と「内在化要素」に分かれたことに

ついては,田尾(1997)の結果と同じである。田尾(1997)は情緒的コミット

-64- 香川大学経済論叢 416

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因子

質問項目

第1因子

第2因子

第3因子

共通性

情緒的

コミットメント

(愛着的要素)

情緒的

コミットメント

(内在化要素)

規範的・存続的

コミットメント

他の会社ではなく,○○○を選んで本当によかったと思う。

0.705

0.349

0.316

0.718

友入に,○○○がすばらしい働き場所であると言える。

0.667

0.256

0.301

0.601

○○○の一員であることをうれしく思う。

0.666

0.376

0.303

0.677

○○○はつくす価値がある。

0.610

0.383

0.418

0.693

もう一度就職(勤め先として選択)するとすれば,○○○に入る。

0.599

0.235

0.371

0.552

私は,○○○に愛着を感じている。

0.548

0.500

0.275

0.626

現在○○○にいるのは,それが望みであると同時に必要だからである。

0.498

0.420

0.355

0.551

○○○にいるのは,他によい働き場所がないからである。

-0.476

-0.226

0.144

0.298

○○○に多くの恩義を感じる。

0.474

0.371

0.327

0.469

○○○の悪口を言われると腹が立つ。

0.422

0.415

0.255

0.415

○○○の発展のためなら,人並み以上の努力を喜んで払うつもりである。

0.349

0.706

0.289

0.703

○○○の問題はあたかも自分自身の問題であるかのように感じる。

0.228

0.692

0.261

0.599

○○○にとって重要なことは,私にとっても重要である。

0.349

0.691

0.268

0.671

いつも○○○の人間であることを意識している。

0.379

0.618

0.213

0.571

○○○に自分を捧げている。

0.289

0.512

0.384

0.493

私は,○○○の一員であると感じている。

0.370

0.505

0.197

0.431

○○○を離れたら,どうなるか不安である。

0.157

0.246

0.666

0.528

○○○で働き続ける理由の一つは,ここを辞めることがかなりの損失を伴うからである。

0.095

0.136

0.627

0.420

○○○を辞めるということはほとんど考えられない。

0.419

0.300

0.616

0.645

私の仕事生活(キャリア)の残りを○○○で過ごせれば,幸せである。

0.443

0.395

0.586

0.696

○○○を辞めたら,家族や親戚に会わせる顔がない。

0.096

0.158

0.536

0.321

たとえ自分にとって有利な仕事があったとしても,今,○○○を辞めることが正しいこ

ととは思えない。

0.434

0.318

0.522

0.562

寄与

率20.7%

18.7%

16.2%

55.6%

表5:組織コミットメントにかかわる基本的次元の抽出

注1)○○○は,ホテルの会社名である。

注2)回答は「そう思わない」を「1」,「そう思う」を「5」とする5点尺度で聴取している。

注3)主因子法,バリマックス回転。

注4)因子は固有値が1以上のものを抽出。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察417 -65-

Page 38: サービスのブランド価値が 従業員に及ぼす影響に関する考察shark.lib.kagawa-u.ac.jp/kuir/file/27502/20190528144439/... · サービスのブランド価値が

メントが2因子に分かれたことから,情緒的コミットメントの多次元性を示唆

している。情緒的コミットメントを多次元的に捉える考えとしては,O’Reilly

and Chatman(1986)があることから,田尾(1997)は「愛着的要素」と「内

在化要素」は彼らの「同一視」と「内在化」に近い概念であると論じている。

なお,O’Reilly and Chatman(1986)は,Kelman(1958)の態度変化の3様態

を参考に,「服従(compliance)」「同一視(identification)」,および「内在化

(internalization)」の3次元で捉えることを提唱している。Kelman(1958)の3

様態とは,人が態度変化を起こす過程について記述したものであり,服従,同

一視,内在化へと深まっていくと考えられている。服従は損得勘定が念頭にあ

り,表面的である様態であるが,同一視は他者や集団の意見や価値を受け入れ

ることを意味している。また,内在化は他者や集団の意見や価値が自らのそれ

と一致しているような状態である。O’Reilly and Chatman(1986)は,態度変

化が服従,同一視,内在化として捉えられるように,組織へのコミットメント

もこの3要素で捉えられると提案している。そして,彼らはこれらの3要素を

測定する尺度を開発することで役割内行動や役割外行動との関係について考察

し,内在化と同一視は役割外行動(正規に与えられた役割以上の働き)との間

に有意な関係があることを明らかにしている。

このような O’Reilly and Chatman(1986)の考察に基づくならば,本調査結

果で分かれた「愛着的要素」と「内在化要素」については,両者とも情緒的コ

ミットメントであるが,「内在化要素」は「愛着的要素」よりもより組織への

コミットメントが高まった(組織目標と個人目標が一致した)心理的状態とし

て捉えることができるであろう。

また,規範的コミットメントと存続的コミットメントは概念的に異なるもの

であるが,1つにまとまった理由については今後の検討課題である。なお,田

尾(1997)が,規範的コミットメントについて「とくに愛着を感じているわけ

でもなく,また,とくに損得を計算してのことでもないけれども,組織にはコ

ミットすべきであるからコミットしている,といった意昧を内包しているこの

規範的コミットメントは,わが国における会社へのコミットメントを語る上で

-66- 香川大学経済論叢 418

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も,きわめて有効な概念になるかもしれない」�と指摘しているように,日本で

は規範的コミットメントと存続的コミットメントが特殊な形で存在していると

も考えられる。

抽出された3つの組織コミットメントをホテル・グループ間で比較すると,

表6のようになる。「情緒的コミットメント(愛着的要素)」と「情緒的コミッ

トメント(内在化)」についてはホテル・グループ間で統計的に有意な差異が

見られ,Cホテル・グループが最も高く,Aホテル・グループが最も低くなっ

ている。この傾向はブランドの「市場資産価値」に対する知覚とは正反対の結

果であり,ホテル・グループの規模と事業展開エリアが小さいほど2つの情緒

的コミットメントは高くなっている。この結果から,事業規模や事業展開エリ

アが小さいほど,経営者と従業員間および従業員間での接触や協働が多くな

り,また転勤も少ないために,ホテルやホテル・グループに対する「情緒的コ

ミットメント」も高まると考えられる。したがって,ホテル・グループの規模

(14) 田尾雅夫編著(1997),前掲書,270頁。

ホテル・グループ別

組織コミットメント

情緒的コミットメント(愛着的要素)

情緒的コミットメント(内在化要素)

規範的・存続的コミットメント

Aホテル・グループ

平均値 -0.013 -0.018 0.003

度数 2,073 2,073 2,073

標準偏差 0.868 0.857 0.851

Bホテル・グループ

平均値 0.126 0.248 -0.076

度数 128 128 128

標準偏差 0.929 0.992 1.005

Cホテル・グループ

平均値 0.417 0.268 0.156

度数 24 24 24

標準偏差 0.789 0.883 0.803

差の統計的有意性 * ***

表6:ホテル・グループ別の組織コミットメント

注)***は0.1%水準で,**は1%水準で,*は10%水準で統計的に有意である。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察419 -67-

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と事業展開エリアが拡大するほど,従業員の「情緒的コミットメント」の低下

を防ぐ,あるいはより積極的に高めるための施策が必要とされることになる。

表7は,従業員の特性別に組織コミットメントを比較した結果である。

性別では,3つの組織コミットメントのすべてについて統計的に有意な差異

が見られる。しかし,その方向性は異なっており,「情緒的コミットメント(愛

着的要素)」については女性のほうが高く,「情緒的コミット(内在化要素)」

および「規範的・存続的コミットメント」については男性のほうが高くなって

いる。この傾向は,男性のほうが長期的かつ継続的にホテル・グループに所属

するだけでなく,辞めることによって失うものも大きいことから生じていると

考えられる。

雇用形態別でも,3つの組織コミットメントのすべてについて統計的に有意

な差異が見られる。しかし,その方向性は異なっており,「情緒的コミットメ

ント(愛着的要素)」については正社員が最も低く,逆に「情緒的コミット(内

在化要素)」および「規範的・存続的コミットメント」については正社員が最

も高くなっている。理論的に考えれば,正社員のほうが長期的かつ継続的にホ

テル・グループに所属するだけでなく,辞めることによって失うものが多いた

めに,組織コミットメントのいずれの次元についても正社員が最も高くなると

推測される。それにもかかわらず,正社員において「情緒的コミットメント(愛

着的要素)」が比較的低くなっているのは,ホテル業界における市場環境の悪

さから生じている労働条件の悪化や人員削減の影響によるものと考えられる。

ホテル・グループが長期的に存続・成長するには,競争優位を形成できるよう

なエクスターナル・マーケティングを策定するとともに,それを積極的かつ適

切に遂行できる従業員が必要不可欠であることを考えれば,いずれの組織コ

ミットメントも正社員において最も高くなるような施策を行う必要があるであ

ろう。

次に,現ホテルでの勤務年数別でも,3つの組織コミットメントのすべてに

ついて統計的に有意な差異が見られる。「情緒的コミットメント(愛着的要素)」

については1年未満の層において比較的高く,10年未満と20年未満の層にお

-68- 香川大学経済論叢 420

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性 別

組織コミットメント情緒的

コミットメント(愛着的要素)

情緒的コミットメント(内在化要素)

規範的・存続的コミットメント

男 性平均値 -0.055 0.113 0.112度数 1,459 1,459 1,459標準偏差 0.873 0.872 0.853

女 性平均値 0.134 -0.198 -0.233度数 705 705 705標準偏差 0.873 0.821 0.834

差の統計的有意性 *** *** ***

雇用形態別情緒的

コミットメント(愛着的要素)

情緒的コミットメント(内在化要素)

規範的・存続的コミットメント

正社員平均値 -0.098 0.058 0.044度数 1,549 1,549 1,549標準偏差 0.846 0.857 0.848

契約社員派遣社員

平均値 0.125 -0.074 -0.142度数 346 346 346標準偏差 0.869 0.893 0.894

パートアルバイト

平均値 0.441 -0.228 -0.048度数 253 253 253標準偏差 0.861 0.863 0.845

差の統計的有意性 *** *** ***

現ホテルでの勤務年数別

情緒的コミットメント(愛着的要素)

情緒的コミットメント(内在化要素)

規範的・存続的コミットメント

1年未満平均値 0.422 -0.066 0.116度数 106 106 106標準偏差 0.873 0.961 0.904

5年未満平均値 0.085 -0.056 -0.111度数 805 805 805標準偏差 0.878 0.900 0.872

10年未満平均値 -0.140 -0.077 -0.089度数 478 478 478標準偏差 0.846 0.849 0.843

20年未満平均値 -0.128 0.011 0.040度数 349 349 349標準偏差 0.832 0.829 0.799

20年以上平均値 0.004 0.308 0.356度数 295 295 295標準偏差 0.872 0.798 0.791

差の統計的有意性 *** *** ***

表7:従業員特性別の組織コミットメント

注)***は0.1%水準で,**は1%水準で,*は10%水準で統計的に有意である。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察421 -69-

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いて比較的低くなっている。「情緒的コミットメント(内在化要素)」について

は,勤務年数が長くなるほど高くなる傾向があり,20年以上の層で最も高く

なっている。「規範的・存続的コミットメント」についても,1年未満の層を

除いて,勤務年数が長くなるほど高くなる傾向があり,20年以上の層で最も

高くなっている。概念的に勤務年数が長くなるほど組織コミットメントは高く

なると考えられることから,「情緒的コミットメント(愛着的要素)」の傾向は

異常な結果とも考えられるが,一方で,ホテル業界における市場環境の悪さか

ら生じている労働条件の悪化や人員削減の影響によるものとも考えられる。

� 職務関与・環境にかかわる基本的次元の抽出

職務関与および職務環境にかかわる基本的次元を抽出するために,表8の

14の質問項目を用いて因子分析を行った。

表8は,バリマックス回転後の因子負荷行列である。3因子が抽出され,因

子負荷量の大きい質問項目の内容から,第1因子は「職務関与」にかかわる次

元,第2因子は職務環境の「評価・育成体制」にかかわる次元,第3因子は職

務環境の「上司との関係」にかかわる次元と解釈できる。

表9は,抽出された「職務関与」および2つの職務環境(「評価・育成体制」

と「上司との関係」)に対する評価をホテル・グループ間で比較した結果であ

る。「職務関与」と「上司との関係」評価についてはホテル・グループ間で統

計的に有意な差異が見られ,ホテル・グループの規模と事業展開エリアが小さ

いほど,「職務関与」および「上司との関係」は高くなっている。この結果か

ら,ホテル・グループの規模と事業展開エリアが大きくなるほど,勤務先の移

動や職務に細分化が行われ,特定の職務や上司とのかかわり合いが少なくなる

ために,「職務関与」や「上司との関係」評価は低下すると考えられる。

表10は,従業員の特性別に「職務関与」および職務環境(「評価・育成体制」

と「上司との関係」)評価を比較した結果である。

性別では,「職務関与」について統計的に有意な差異が見られ,男性のほう

が高くなっている。この傾向は,男性のほうが長期的かつ継続的に特定の職務

-70- 香川大学経済論叢 422

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因子

質問項目

第1因子

第2因子

第3因子

共通性

職務関与

評価・

育成体制

上司との

関係

仕事場を離れても,今後の仕事の進め方について,自分なりに考えることがよくある。

0.729

0.068

0.074

0.541

プライベートな時間にも,仕事に役立てるための勉強をしている。

0.645

0.088

0.088

0.432

今の仕事を自分でいろいろと工夫して,改善していきたい。

0.600

0.061

0.303

0.455

自分の生活の中で,現在の仕事は中心的な位置を占めている。

0.553

0.093

0.194

0.352

家に帰ってからも,やり残した仕事のことが気にかかる。

0.471

0.088

-0.019

0.230

自分の生活の目標は,ほとんど仕事に関してのものである。

0.453

0.225

0.071

0.261

○○○では,個人業績に対して適切な評価がされている。

0.070

0.644

0.362

0.550

○○○は賃金がよい。

0.015

0.578

0.137

0.353

○○○は私が人間的に成長できる機会を豊富に与えてくれる。

0.383

0.571

0.318

0.573

○○○は福利厚生が充実している。

0.154

0.547

0.140

0.343

○○○は私が知識・技能を身につける機会を豊富に与えてくれる。

0.328

0.515

0.317

0.474

○○○では,上司は部下の意見をよく聞いてくれる。

0.126

0.392

0.733

0.708

私は上司に自分の意見を言いやすい。

0. 185

0.203

0.656

0.505

私の上司は部下の状態をよく把握している。

0.112

0.393

0.637

0.573

寄与

率15.7%

14.7%

13.9%

44.3%

表8:職務関与・環境にかかわる基本的次元

注1)○○○は,ホテルの会社名である。

注2)回答は「そう思わない」を「1」,「そう思う」を「5」とする5点尺度で聴取している。

注3)主因子法,バリマックス回転。

注4)因子は固有値が1以上のものを抽出。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察423 -71-

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を担当し,また職務の専門化・高度化も行われやすいことから生じていると考

えられる。

雇用形態別では,「職務関与」および2つの職務環境(「評価・育成体制」と

「上司との関係」)評価について統計的に有意な差異が見られる。「職務関与」に

ついては,正社員が最も高く,パート・アルバイトが最も低くなっている。一

方,「評価・育成体制」と「上司との関係」については,どちらも正社員の評

価が最も低く,パート・アルバイトの評価が最も高くなっている。これらの結

果は,パート・アルバイトや契約社員・派遣社員よりも,正社員のほうが長期

的かつ継続的に職務や職務環境とかかわることから生じていると考えられる。

つまり,正社員は長期的かつ継続的に特定の職務を担当し,また職務の専門

化・高度化も行われやすいことから,「職務関与」は比較的高くなっていると

考えられる。また,正社員のほうが「評価・育成体制」と「上司との関係」の

影響を受けやすく,またホテル業界における市場環境の悪さが原因となって労

働条件の悪化や人員削減などが起こっていることによると考えられる。

現ホテルでの勤務年数別でも,「職務関与」および2つの職務環境(「評価・

育成体制」と「上司との関係」)評価について統計的に有意な差異が見られる。

「職務関与」については,現ホテルでの勤務年数が長くなるほど高くなってい

ホテル・グループ別職務関与・環境関係

職務関与 評価・育成体制 上司との関係

Aホテル・グループ

平均値 -0.012 -0.006 -0.017

度数 2,101 2,101 2,101

標準偏差 0.866 0.817 0.826

Bホテル・グループ

平均値 0.159 0.105 0.175

度数 128 128 128

標準偏差 1.021 0.873 0.927

Cホテル・グループ

平均値 0.207 -0.081 0.602

度数 21 21 21

標準偏差 1.214 0.884 0.883

差の統計的有意性 * ***

表9:ホテル・グループ別の職務関与と職務環境評価

注)***は0.1%水準で,**は1%水準で,*は10%水準で統計的に有意である。

-72- 香川大学経済論叢 424

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性 別職務関与・環境関係

職務関与 評価・育成体制 上司との関係

男 性

平均値 0.097 0.002 0.001

度数 1,473 1,473 1,473

標準偏差 0.860 0.833 0.822

女 性

平均値 -0.164 -0.012 0.015

度数 717 717 717

標準偏差 0.894 0.801 0.872

差の統計的有意性 ***

雇用形態別 職務関与 評価・育成体制 上司との関係

正社員

平均値 0.059 -0.067 -0.017

度数 1,567 1,567 1,567

標準偏差 0.850 0.811 0.824

契約社員派遣社員

平均値 -0.033 0.111 -0.009

度数 351 351 351

標準偏差 0.926 0.819 0.857

パートアルバイト

平均値 -0.286 0.297 0.138

度数 257 257 257

標準偏差 0.936 0.783 0.848

差の統計的有意性 *** *** *

現ホテルでの勤務年数別 職務関与 評価・育成体制 上司との関係

1年未満

平均値 -0.011 0.406 0.361

度数 106 106 106

標準偏差 0.949 0.804 0.831

5年未満

平均値 -0.058 0.053 0.022

度数 822 822 822

標準偏差 0.928 0.807 0.848

10年未満

平均値 -0.024 -0.178 -0.058

度数 482 482 482

標準偏差 0.852 0.811 0.864

20年未満

平均値 0.038 -0.035 -0.083

度数 353 353 353

標準偏差 0.858 0.824 0.798

20年以上

平均値 0.172 0.061 0.047

度数 298 298 298

標準偏差 0.837 0.797 0.761

差の統計的有意性 ** *** ***

表10:従業員特性別の職務関与と職務環境評価

注)***は0.1%水準で,**は1%水準で,*は10%水準で統計的に有意である。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察425 -73-

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る。この結果は,勤務年数が長くなるほど職務との関わりが強くなることや,

職務関与が高いから現ホテルで継続的に働き続けている(職務関与の低い人は

退職している)ことから生じていると考えられる。また,「評価・育成体制」と

「上司との関係」に対する評価については,10年未満の層と20年未満の層に

おいて比較的低くなっている。この傾向も,現ホテルでの勤務年数が10年未

満の層と20年未満の層は中間管理職として「評価・育成体制」や「上司との

関係」の影響を受けやすく,またホテル業界における市場環境の悪さが原因と

なって労働条件の悪化や人員削減などが起こっていることによって生じている

と考えられる。

� 職務意欲およびその発揮の方向性にかかわる基本的次元の抽出

職務意欲およびその発揮の方向性にかかわる基本的次元を抽出するために,

表11の18の質問項目を用いて因子分析を行った。

表11は,バリマックス回転後の因子負荷行列である。3因子が抽出され,

因子負荷量の大きい質問項目の内容から,第1因子は「職務意欲」にかかわる

次元,第2因子は「顧客価値体現意欲」にかかわる次元,第3因子は「ブラン

ド価値体現意欲」にかかわる次元と解釈できる。第2因子と第3因子は職務意

欲の発揮の方向性にかかわるものであり,職務意欲とは独立して抽出されたこ

とから,職務意欲が高くても,それが顧客価値やブランド価値を体現する方向

に必ずしも発揮されないことがあり得るということである。

表12は,抽出された「職務意欲」および意欲発揮の方向性(「顧客価値体現

意欲」と「ブランド価値体現意欲」)をホテル・グループ間で比較した結果で

ある。「職務意欲」および意欲発揮の方向性(「顧客価値体現意欲」と「ブラン

ド価値体現意欲」)のいずれにおいても,ホテル・グループ間で統計的に有意

な差異が見られる。「職務意欲」および「ブランド価値体現意欲」については,

Aホテル・グループが最も低く,Cホテル・グループが最も高くなっており,

ホテル・グループの規模と事業展開エリアが大きくなるほど低くなっている。

この傾向は「情緒的コミットメント(愛着的要素)」,「情緒的コミットメント

-74- 香川大学経済論叢 426

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因子

質問項目

第1因子

第2因子

第3因子

共通性

職務意欲

顧客価値

体現意欲

ブランド価値

体現意欲

私は今の仕事にやりがいを感じている。

0.794

0.188

0.233

0.721

私は現在の仕事を誇りに思っている。

0.713

0.165

0.365

0.669

今の仕事に心から喜びを感じる。

0.684

0.209

0.206

0.555

私は現在の仕事を通じて高い達成感を得ている。

0.671

0.135

0.201

0.509

私は仕事の中で自分の能力を精いっぱい発揮できている。

0.642

0.274

0.144

0.508

最も充実感があるのは仕事をしているときである。

0.539

0.150

0.045

0.315

私は自分が職場や○○○を支えているという実感がある。

0. 485

0.340

0.121

0.365

我を忘れるほど仕事に熱中することがある。

0.479

0.227

0.157

0.306

私は「これだけは誰にも負けない」といった仕事の領域を持っている。

0.423

0.366

0.143

0.333

出勤前,職場に出るのが嫌になって,家にいたいと思うことがある。

-0.356

-0.084

-0.089

0.142

私は仕事の上で重い責任を負わされることを避けたい。

-0.233

-0.163

-0.109

0.093

私は「顧客満足(CS)」を高める方法を積極的に実行している。

0.270

0.829

0.162

0.786

私は「顧客満足(CS)」を高める方法をよく理解している。

0. 262

0.786

0.112

0.699

私は常に「顧客満足(CS)」を意識して仕事をしている。

0.186

0.591

0.450

0.587

私の仕事は「顧客満足(CS)」にとても関係が深い。

0.110

0.508

0.385

0.418

私は顧客と良好な関係を築けている。

0.360

0.451

0.298

0.422

私は現在勤務しているホテルのブランド・イメージを壊さないように,行動や態度には

十分な注意を払っている。

0.302

0.256

0.651

0.581

私は現在勤務しているホテルのブランド・コンセプト(価値)を実現するために,大い

に努力をしている。

0.398

0.331

0.534

0.553

寄与

率23.1%

15.8%

8.7%

47.6%

表11:職務意欲および方向性にかかわる基本的次元の抽出

注1)○○○は,ホテルの会社名である。

注2)回答は「そう思わない」を「1」,「そう思う」を「5」とする5点尺度で聴取している。

注3)主因子法,バリマックス回転。

注4)因子は固有値が1以上のものを抽出。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察427 -75-

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(内在化)」,および「職務関与」と同じであり,これらの3要因が「職務意欲」

および「ブランド価値体現意欲」に強く影響していると考えられる。つまり,

ホテル・グループの規模と事業展開エリアが大きくなるほど,「情緒的コミッ

トメント(愛着的要素)」,「情緒的コミットメント(内在化)」,および「職務

関与」は低くなり,その結果として「職務意欲」および「ブランド価値体現意

欲」も低くなっていると考えられる。

また,「顧客価値体現意欲」については,Bホテル・グループとCホテル・

グループにおいて比較的低くなっているが,これらのホテルでは正社員や男性

の割合が低いことが影響していると考えられる。

表13は,従業員の特性別に「職務意欲」および意欲発揮の方向性(「顧客価

値体現意欲」と「ブランド価値体現意欲」)を比較した結果である。

性別では,「職務関与」と「顧客価値体現意欲」について統計的に有意な差

異が見られ,どちらも男性のほうが高くなっている。この傾向は,男性のほう

が「情緒的コミットメント(内在化要素)」や「職務関与」が高いことから生

じていると考えられる。

雇用形態別では,「顧客価値体現意欲」と「ブランド価値体現意欲」につい

て統計的に有意な差異が見られ,パート・アルバイトにおいて「顧客価値体現

ホテル・グループ別職務意欲・方向性

職務意欲 顧客価値体現意欲

ブランド価値体現意欲

Aホテル・グループ

平均値 -0.026 0.022 -0.023

度数 2,018 2,018 2,018

標準偏差 0.905 0.889 0.782

Bホテル・グループ

平均値 0.293 -0.316 0.278

度数 129 129 129

標準偏差 0.972 1.097 0.619

Cホテル・グループ

平均値 0.623 -0.179 0.455

度数 22 22 22

標準偏差 0.828 0.995 0.800

差の統計的有意性 *** *** ***

表12:ホテル・グループ別の職務意欲・方向性

注)***は0.1%水準で,**は1%水準で,*は10%水準で統計的に有意である。

-76- 香川大学経済論叢 428

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性 別職務意欲・方向性

職務意欲 顧客価値体現意欲

ブランド価値体現意欲

男 性平均値 0.055 0.104 0.007度数 1,413 1,413 1,413標準偏差 0.894 0.905 0.763

女 性平均値 -0.094 -0.192 0.035度数 696 696 696標準偏差 0.946 0.882 0.783

差の統計的有意性 *** ***

雇用形態別 職務意欲 顧客価値体現意欲

ブランド価値体現意欲

正社員平均値 -0.011 0.074 -0.010度数 1,519 1,519 1,519標準偏差 0.889 0.866 0.756

契約社員派遣社員

平均値 0.019 -0.109 -0.059度数 345 345 345標準偏差 0.977 0.975 0.835

パートアルバイト

平均値 0.045 -0.299 0.149度数 251 251 251標準偏差 0.940 0.972 0.821

差の統計的有意性 *** **

現ホテルでの勤務年数別 職務意欲 顧客価値

体現意欲ブランド価値体現意欲

1年未満平均値 0.121 -0.136 0.211度数 100 100 100標準偏差 0.988 0.948 0.874

5年未満平均値 -0.044 -0.052 0.008度数 799 799 799標準偏差 0.938 0.956 0.788

10年未満平均値 -0.032 -0.107 -0.067度数 470 470 470標準偏差 0.880 0.860 0.787

20年未満平均値 0.007 -0.002 -0.074度数 347 347 347標準偏差 0.917 0.864 0.762

20年以上平均値 0.111 0.307 0.131度数 297 297 297標準偏差 0.864 0.854 0.726

差の統計的有意性 * *** ***

表13:従業員特性別の職務意欲・方向性

注)***は0.1%水準で,**は1%水準で,*は10%水準で統計的に有意である。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察429 -77-

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意欲」は最も低く,逆に「ブランド価値体現意欲」は最も高くなっている。パ

ート・アルバイトの場合,その雇用形態のために顧客価値の体現に対して責任

を感じない一方で,知名度の高いホテルで働けることを強く意識することでそ

の価値を気づけないように行動や態度に注意を払っている,あるいはブランド

価値にそぐわない行動・態度によって容易に解雇される可能性を意識している

ことによると考えられる。

現ホテルでの勤務経験別では,「職務意欲」,「顧客価値体現意欲」,および

「ブランド価値体現意欲」のすべてについて統計的に有意な差異が見られる。「職

務意欲」と「ブランド価値体現意欲」については,1年未満の層と20年以上

の層において比較的高くなっており,「顧客価値体現意欲」は20年以上の層に

おいて比較的高くなっている。いずれの意欲においても20年以上の層が比較

的高くなっているのは,この層では「職務関与」,3つの組織コミットメント,

および3つのブランド価値に対する知覚のいずれも高いことと関係していると

考えられる。一方,1年未満の層において「職務意欲」と「ブランド価値体現

意欲」が高くなっているのは,この層では職務環境の「評価・育成体制」と「上

司との関係」に対する評価,ブランド価値における「労働市場価値」と「個客

資産価値」に対する知覚,および「情緒的コミットメント(愛着的要素)」が

比較的高いことと関係していると考えられる。

4.ブランド価値の組織コミットメント・職務意欲に対する影響分析

� ブランド価値の組織コミットメントに対する影響

抽出された3つのブランド価値(「市場資産価値」,「個客資産価値」,および

「労働市場価値」)が組織コミットメントに及ぼす影響を明らかにするために,

組織コミットメントを被説明変数として重回帰分析を行った。なお,被説明変

数には,抽出された「情緒的コミットメント(愛着的要素)」,「情緒的コミッ

トメント(内在化要素)」,および「規範的・存続的コミットメント」をそれぞ

れ別々に用いた。また,前掲の図1でモデル化したように,組織コミットメン

ト研究では,職務満足や職務環境も組織コミットメントに影響を及ぼす重要な

-78- 香川大学経済論叢 430

Page 51: サービスのブランド価値が 従業員に及ぼす影響に関する考察shark.lib.kagawa-u.ac.jp/kuir/file/27502/20190528144439/... · サービスのブランド価値が

要因であることが明らかにされていることから,「職務満足」,「評価・育成体

制」,および「上司との関係」も説明変数として採用した。

表14はその結果であり,カッコなし数値は回帰係数,その下のカッコ付き

数値は�検定量,��は自由度調整済み決定係数,�は�検定量,�はサンプル

数を表している。また,表15は組織コミットメントに対して統計的に有意な

影響を及ぼしている要因のみを影響の大きい順に並べ直したものである。

表14および表15から明らかなように,組織コミットメントの次元によって

影響を及ぼす要因およびその影響の強さは異なっている。「情緒的コミットメ

ント(愛着的要素)」に対しては,ブランドの価値の3つの次元を含むすべて

の要因が統計的に有意なポジティブな影響を及ぼしている。最も大きな影響を

及ぼしているのは「評価・育成体制」であり,次いで「職務満足」,「上司との

関係」,「ブランドの労働市場価値」,「ブランドの個客資産価値」,「ブランドの

市場資産価値」の順で影響を及ぼしている。この「情緒的コミットメント(愛

着的要素)」については,エクスターナル・マーケティングを通じて構築・強

化されるブランド価値よりも,インターナル・マーケティングを通じて形成さ

れる内的要因のほうが重要な役割を果たすようである。

「情緒的コミットメント(内在化要素)」に対しては3要因のみが統計的に有

意なポジティブな影響を及ぼしており,最も大きな影響を及ぼしているのは

「ブランドの労働市場価値」であり,次いで「ブランドの個客資産価値」,「評

価・育成体制」の順で影響を及ぼしている。市場で形成されたブランド価値は

組織内部にも影響を及ぼし,組織と従業員(成員)の目標や価値のギャップを

埋め,両者の一体化を促すことに貢献するようである。

また,規範的・存続的コミットメントに対しては4要因のみが統計的に有意

なポジティブな影響を及ぼしており,最も大きな影響を及ぼしているのは「評

価・育成体制」であり,次いで「職務満足」,「ブランドの労働市場価値」,「ブ

ランドの個客資産価値」の順で影響を及ぼしている。しかし,ブランド価値の

影響は極めて小さく,当然の結果ではあるが,功利的なコミットメントに対し

てはブランド価値の影響は弱いようである。

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察431 -79-

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従属変数

説明

変数

自由度調整済み

決定係数

定数項

ブランドの

市場資産価値

ブランドの

個客資産価値

ブランドの

労働市場価値

職務満足

評価・

育成体制

上司との関係

情緒的コミットメント

(愛着的要素)

(� =1,741)

-0.567

(-10.190)***

0.040

(2.339)*

0.137

(7.251)***

0.150

(8.971)***

0.185

(10.549)***

0.364

(17.397)***

0.172

(8.595)***

�� =0.539 � 値340.309***

情緒的コミットメント

(内在化要素)

(� =1,741)

-0.107

(-1.459)

0.031

(-0.772)

0.152

(6.102)***

0.241

(10.895)***

0.035

(1.519)

0.104

(3.742)***

0.017

(0.652)

�� =0.157 � 値55.066***

規範的・存続的コミットメント

(� =1,741)

-0.381

(-5.096)***

-0.014

(-0.596)

0.073

(2.868)**

0.096

(4.281)***

0.128

(5.447)***

0.163

(5.809)***

0.030

(1.110)

�� =0.137 � 値47.048***

被説明変数

ポジティブな影響要因(影響の大きい順)

(影響順位)

��

��

��

情緒的

コミットメント

(愛着的要素)

評価・

育成体制

職務満足

上司との関係

ブランドの

労働市場価値

ブランドの

顧客価値

ブランドの

市場資産価値

0.364

0.185

0.172

0.150

0.137

0.040

情緒的

コミットメント

(内在化要素)

ブランドの

労働市場価値

ブランドの

顧客価値

評価・

育成体制

0.241

0.152

0.104

規範的・存続的

コミットメント

評価・

育成体制

職務満足

ブランドの

労働市場価値

ブランドの

顧客価値

0.163

0.128

0.096

0.073

表14:組織コミットメントに影響を及ぼす要因分析

注1)職務満足は5点尺度で聴取したデータを用い,他の独立変数および従属変数は因子得点を用いている。

注2)上段は回帰係数,その下のカッコ付き数値は� 検定量,

�� は自由度調整済み決定係数,� は� 検定

量,� はサンプ

ル数である。

注3)***は0.1%水準で,**は1%水準で,*は10%水準で統計的に有意である。

注4)網かけをしているセル(独立変数)は,統計的に有意でない回帰係数である。

表15:組織コミットメントに影響を及ぼす要因(影響の大きい順)

注)数値は回帰係数である。

-80- 香川大学経済論叢 432

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以上の結果から,エクスターナル・マーケティングによって形成されるブラ

ンド価値は情緒的コミットメント,特に内在化要素の向上,すなわち組織と従

業員の一体感の形成に貢献すると考えられる。

� ブランド価値の職務意欲およびその発揮の方向性に対する影響

抽出された3つのブランド価値(「市場資産価値」,「個客資産価値」,および

「労働市場価値」)が職務意欲および意欲発揮の方向性に及ぼす影響を明らかに

するために,職務意欲および意欲発揮の方向性のそれぞれを被説明変数として

重回帰分析を行った。なお,前掲の図1でモデル化したように,職務意欲研究

では,組織コミットメントや職務関与,職務環境なども職務意欲に影響を及ぼ

す重要な要因であることが明らかにされていることから,「情緒的コミットメ

ント(愛着要素)」,「情緒的コミットメント(内在化要素)」,「規範的・存続的

コミットメント」,「職務関与」,「評価・育成体制」,および「上司との関係」も

説明変数として採用した。

表16はその結果であり,カッコなし数値は回帰係数,その下のカッコ付き

数値は�検定量,��は自由度調整済み決定係数,�は�検定量,�はサンプル

数を表している。また,表17は職務意欲および意欲発揮の方向性に対して統

計的に有意な影響を及ぼしている要因のみを影響の大きい順に並べ直したもの

である。

表16および表17から明らかなように,職務意欲や意欲発揮の方向性によっ

て影響を及ぼす要因,その影響の強さおよび方向は異なっている。「職務意欲」

に対しては,ブランドの「市場資産価値」と「個客資産価値」以外の要因のす

べてが統計的に有意なポジティブな影響を及ぼしている。最も大きな影響を及

ぼしているのは「職務関与」であり,次いで「情緒的コミットメント(愛着要

素)」,「上司との関係」,「情緒的コミットメント(内在化要素)」,「規範的・存

続的コミットメント」,「評価・育成体制」,「ブランドの労働市場価値」の順で

影響を及ぼしており,ブランド価値の影響は比較的小さくなっている。

一方,職務意欲の発揮の方向性である「顧客価値体現意欲」については,「情

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察433 -81-

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従属変数

説明

変数

自由度調整済

み決定係数

定数項

ブランドの

市場資産価値

ブランドの

個客資産価値

ブランドの

労働市場価値

情緒的

コミットメント

(愛着要素)

情緒的

コミットメント

(内在化要素)

規範的・存続的

コミットメント

職務関与

評価・

育成体制

上司との関係

職務意欲 (� =2,006)

0.003

(0.252)

0.005

(0.308)

0.016

(0.855)

0.058

(3.402)***

0.300

(12.607)***

0.150

(6.869)***

0.093

(5.250)***

0.330

(15.514)***

0.070

(2.988)**

0.203

(10.499)***

�� =0.547 � 値270.096***

顧客価値体現意欲

(� =2,006)

-0.004

(-0.220)

0.119

(5.448)***

0.111

(4.472)***

0.073

(3.214)***

-0.005

(-0.168)

0.305

(10.508)***

0.062

(2.661)**

0.104

(3.664)***

-0.172

(-5.536)***

0.037

(1.418)

�� =0.197 � 値55.785***

ブランド価値体現意欲

(� =2,006)

0.005

(0.332)

0.070

(3.865)***

0.141

(6.884)***

0.108

(5.689)***

0.103

(3.923)***

0.178

(7.348)***

-0.036

(-1.859)*

0.141

(5.987)***

-0.168

(-6.497)***

0. 063

(2.923)**

�� =0.238 � 値70.515***

被説明変数

ポジティブな影響要因

ネガティブな影響要因

(影響順位)

��

��

��

��

職務意欲

職務関与

情緒的

コミットメント

(愛着的要素)上司との関係

情緒的

コミットメント

(内在化要素)

規範的・存続的

コミットメント

評価・

育成体制

ブランドの

労働市場価値

0.330

0.300

0.203

0.150

0.093

0.070

0.058

顧客価値

体現意欲

情緒的

コミットメント

(内在化要素)

ブランドの

市場資産価値

ブランドの

個客資産価値

職務関与

ブランドの

労働市場価値

規範的・存続的

コミットメント

評価・

育成体制

0.305

0.119

0.111

0.104

0.073

0.062

-0.172

ブランド価値

体現意欲

情緒的

コミットメント

(内在化要素)

ブランドの

個客資産価値

職務関与

ブランドの

労働市場価値

情緒的

コミットメント

(愛着的要素)

ブランドの

市場資産価値上司との関係

評価・

育成体制

規範的・存続的

コミットメント

0.178

0.141

0.141

0.108

0.103

0.070

0.063

-0.168

-0.036

表16:職務意欲および方向性に影響を及ぼす要因分析

注1)職務満足は5点尺度で聴取したデータを用い,他の独立変数および従属変数は因子得点を用いている。

注2)上段は回帰係数,その下のカッコ付き数値は� 検定量,

�� は自由度調整済み決定係数,� は� 検定

量,� はサンプ

ル数である。

注3)***は0.1%水準で,**は1%水準で,*は10%水準で統計的に有意である。

注4)網かけをしているセル(独立変数)は,統計的に有意でない回帰係数である。

表17:職務意欲および方向性に影響を及ぼす要因(影響の大きい順)

注)数値は回帰係数である。

-82- 香川大学経済論叢 434

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緒的コミットメント(愛着要素)」と「上司との関係」以外の要因が統計的に

有意な影響を及ぼしているが,その影響の方向は異なっている。すなわち,「顧

客価値体現意欲」に対して「評価・育成体制」はネガティブな影響を及ぼし,

他の要因はポジティブな影響を及ぼしている。ポジティブに最も大きな影響を

及ぼしているのは「情緒的コミットメント(内在化要素)」であり,次いで「ブ

ランドの市場資産価値」,「ブランドの個客資産価値」,「職務関与」,「ブランド

の労働市場価値」,「規範的・存続的コミットメント」の順で影響を及ぼしてお

り,ブランド価値の影響は比較的大きくなっている。

もう一つの職務意欲の発揮の方向性である「ブランド価値体現意欲」に対し

てはすべての要因が統計的に有意な影響を及ぼしているが,その影響の方向は

異なっている。「ブランド価値体現意欲」に対して「評価・育成体制」と「規

範的・存続的コミットメント」はネガティブな影響を及ぼし,他の要因はポジ

ティブな影響を及ぼしている。最も大きなポジティブな影響を及ぼしているの

は「情緒的コミットメント(内在化要素)」であり,次いで「ブランドの個客

資産価値」,「職務関与」,「ブランド労働市場価値」,「情緒的コミットメント

(愛着的要素)」,「ブランドの市場資産価値」,「上司との関係」の順で影響を及

ぼしている。

これらの結果から,ブランド価値は職務意欲の向上にはほとんど影響を及ぼ

さないが,職務意欲の発揮の方向性に対して比較的大きな影響を及ぼすことが

窺われる。すなわち,従業員はブランド価値を知覚・認識することによって,そ

の価値にふさわしい行動や態度をとる傾向がある。したがって,ブランド価値

は提供するサービスの品質を約束することによって市場における顕在的および

潜在的顧客の選択行動に影響を及ぼすだけでなく,組織内においてその約束を

実現する方向に従業員の行動や態度を導くことに貢献すると言えるであろう。

お わ り に

本稿では,サービス組織におけるエクスターナル・マーケティングはブラン

ド価値の向上を通じて,インターナル・マーケティングを補完するかたちで従

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察435 -83-

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業員の組織コミットメントおよび職務意欲の向上に貢献することを理論的およ

び実証的に考察した。

第�章では,インターナル・マーケティングが直接的に目標とする職務意欲

の向上に関わる概念である組織コミットメントと職務関与について概説し,第

�章では,サービスのブランド価値は市場資産価値,個客資産価値,および労

働市場価値の3次元から構成される概念として捉える必要性を提唱するととも

に,これらのブランド価値が組織コミットメントおよび職務意欲の向上に及ぼ

す効果について理論的に考察した。そして第�章では,3つのホテル・グルー

プの従業員を対象として実施した量的調査の結果を用いて,従業員の所属する

ホテルのブランド価値に対する知覚が彼らの組織コミットメントや職務意欲に

及ぼす影響を実証的に考察した。

3つのホテル・グループの従業員を対象として実施した量的調査の結果を分

析することで,ブランド価値の次元として市場資産価値,個客資産価値,およ

び労働市場価値の3つが抽出された。この3次元のブランド価値に対する知覚

をホテル・グループ間で比較すると,市場資産価値に対する知覚については,

ホテル・グループの規模と事業展開エリアが大きくなるほど高くなっている

が,個客資産価値と労働市場価値についてはホテル・グループ間で統計的に有

意な差異は見られなかった。この結果の興味深い点は,ホテル・グループの規

模と事業展開エリアが大きく,マーケティング活動が積極的かつ全国的に行わ

れているほど,従業員の市場資産価値に対する知覚は高まるが,個客資産価値

と労働市場価値についてはそれとは独立して知覚されるということである。つ

まり,事業エリアや顧客層が限定された小規模のサービス組織でも,ブランド

価値としての個客資産価値と労働市場価値を形成・強化することは可能であ

り,インターナル・マーケティングを実施しなくても,それらの向上を通じて

インターナル・マーケティングの代替的な役割の遂行が期待できると言うこと

である。

組織コミットメントの次元としては3つのものが抽出され,情緒的コミット

メントが「愛着的要素」と「内在化要素」に分かれ,規範的コミットメントと

-84- 香川大学経済論叢 436

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存続的コミットメントは1つにまとまった。この抽出された3つの組織コミッ

トメントをホテル・グループ間で比較すると,ホテル・グループの規模と事業

展開エリアが大きいほど,2つの情緒的コミットメントは低くなっており,ホ

テル・グループの規模と事業展開エリアが拡大するほど,従業員の「情緒的コ

ミットメント」の低下を防ぐ,あるいはより積極的に高めるための施策が必要

とされることが推察された。

職務意欲およびその発揮の方向性にかかわる基本的次元の抽出では,職務意

欲とその意欲の発揮の方向性は独立して抽出されたことから,職務意欲が高く

ても,それが顧客価値やブランド価値を体現する方向に必ずしも発揮されない

ことがあり得ることが推測された。

このように抽出した組織コミットメントおよび職務意欲(その発揮の方向性)

を従属変数,ブランド価値などを独立変数として回帰分析を行った結果,以下

のようなことが明らかになった。

� 「情緒的コミットメント(愛着的要素)」については,エクスターナル・

マーケティングを通じて構築・強化されるブランド価値よりも,インター

ナル・マーケティング通じて形成される内的要因のほうが重要な役割を果

たす。

� 「情緒的コミットメント(内在化要素)」に対しては,ブランド価値は比

較的大きな影響を及ぼし,組織と従業員(成員)の目標や価値のギャップ

を埋め,両者の一体化を促すことに貢献する。

� 規範的・存続的コミットメントに対しては,ブランド価値の影響は極め

て小さい。

� 「職務意欲」に対しては,ブランド価値の影響は比較的小さい。

� 職務意欲の発揮の方向性である「顧客価値体現意欲」と「ブランド価値

体現意欲」に対しては,ブランド価値は比較的大きな影響を及ぼす。

以上のような結果から,エクスターナル・マーケティングによって形成・強

化されるブランド価値は「情緒的コミットメント(内在化要素)」を高めるこ

サービスのブランド価値が従業員に及ぼす影響に関する考察437 -85-

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とによって組織と従業員の目標や価値のギャップを埋め,両者の一体化を促す

ことに貢献するとともに,職務意欲の向上に対する直接的な影響力は弱いが,

その意欲の発揮の方向性を適切化することに貢献すると言えるであろう。すな

わち,ブランド価値は組織が市場に対して提供を意図するブランドの意味や価

値を従業員自身の意味や価値として受け入れることを促すとともに,その意味

や価値にふさわしい行動や態度を取る方向に導くことに貢献するようである。

したがって,インターナル・マーケティングは組織内部に直接働きかけ,従業

員による組織の目標や価値の共有を図ることで行動のベクトル合わせを行うと

ともに,従業員に対する内部サービスの品質を向上させることで彼らの職務満

足や組織コミットメント,職務意欲などを向上させることを目的としている

が,エクスターナル・マーケティングによるブランド価値の形成・強化はこの

目的の達成を補完できると言えるであろう。

本稿での考察から,ブランド価値(個客資産価値,市場資産価値,および労

働市場価値)は組織コミットメント(特に,情緒的コミットメント)を向上さ

せるとともに,職務意欲の発揮の方向性を組織の目的や価値に沿ったものにす

ることによって,職務成果の向上を導くことが期待される。そして,職務成果

の向上がサービス品質に反映され,さらにこれがブランド価値の向上を導くこ

とによって,ブランド価値を駆動因とした好循環が形成されることになる。イ

ンターナル・マーケティングは職務満足や組織コミットメントに直接的に影響

を及ぼすことを通じて職務関与や職務意欲を向上させ,さらに,職務意欲は職

務成果の向上を促すことで,サービ品質やブランド価値の向上を導くことにな

る。したがって,エクスターナル・マーケティングとインターナル・マーケ

ティングはそれらが向けられる対象においては異なっているが,ともに従業員

に影響を及ぼし,最終的にはブランド価値を高めることに貢献することから,

両マーケティングは相互に補完関係にあると言えるであろう。

今後の課題は,継続的に調査・分析を進めることで,本稿で提示したエクス

ターナル・マーケティングとインターナル・マーケティングの補完モデルの一

般化・精緻化を図るとともに,職務意欲やブランド価値が職務成果,すなわち

-86- 香川大学経済論叢 438

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サービスの顧客価値や顧客満足,生産性などに及ぼす影響を明らかにすること

である。また,職務意欲が職務成果に結びつくために必要とされる環境要因や

条件を明らかにすることである。今後,これらの理論的・実証的考察を通じ

て,サービス・マーケティング理論やサービス・ブランド理論の構築に貢献し

ていきたい。

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