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資料3 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報告書(案) 平成 26 5

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Page 1: 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報 …...資料3 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報告書(案) 平成26

資料3

「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」

報告書(案)

平成 26 年 5 月

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目次

始めに~サービス産業を経済成長の源泉に~ … 1

第1章・・・我が国サービス産業の現状 … 3

(1)サービス産業の定義 … 3

(2)GDP比 … 4

(3)就業者数 … 5

(4)事業所数 … 6

(5)年間の新設事業所の割合、廃業事業所の割合 … 8

(6)中小企業性 … 9

(7)個人経営比率 …11

(8)生産性 …12

(9)一人当たり付加価値額 …16

第2章・・・サービス産業が目指すべき将来像 …17

(1)高生産性・高付加価値化産業 …17

(2)地域における社会構造変化への対応 …17

第3章・・・目指すべき将来像を実現するための3つの視点 …18

(1)企業におけるイノベーションの促進 …18

(2)産業の新陳代謝の促進 …19

(3)地域における社会構造変化への対応 …20

第4章・・・政策の方向性 …23

<Ⅰ.企業のイノベーションの促進> …24

1.人材の育成・確保 …24

2.攻めの IT活用の促進 …34

3.ビジネス支援サービスの活用 …38

4.マーケティング力の強化(価格競争からの脱却) …44

<Ⅱ.産業の新陳代謝の促進> …47

1.企業の新規参入の促進:「サービスベンチャーの創出」 …47

2.次世代へのバトンタッチの円滑化 …50

<Ⅲ.地域における社会構造変化(少子高齢化、人口減少等)への対応> …51

1.地域社会の変化に即した稼げるビジネスの創出 …51

2.コンパクトシティの推進におけるサービス産業政策の検討 …54

<Ⅳ.政策実施体制の整備> …55

第5章・・・今後の検討課題 …56

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1

始めに~サービス産業を経済成長の源泉に~ 今、我が国は、急速な少子高齢化に直面している。そのため、経済成長の低

下が懸念される一方で、高齢化社会を経済面から支えるために経済成長が求め

られるという厳しい状況が生じている。 経済成長は、労働投入の拡大、投資の拡大、生産性の向上、という3つの経

路によって実現していく。少子高齢化に直面する我が国の実情に照らせば、政

策という観点からは、①女性・高齢者の就業の促進、②国内外からの投資の拡

大、等と並び、③生産性向上の促進、が経済成長実現に向けた重要な課題であ

る。 これらのうち生産性向上の促進については、従来から、GDP 比においてウエ

イトが大きい一方で、概して低いとされるサービス産業の生産性をいかに向上

させていくかが政策的な課題として認識されてきた。 例えば、既に 1970 年代には「70 年代の通商産業政策」(産業構造審議会、1971)

において、サービス産業の生産性上昇が具体的な政策課題とされた。近時では、

2006 年に「新経済成長戦略」(経済産業省)及び「経済成長戦略大綱」(財政・

経済一体改革会議)においてサービス産業の生産性向上が重要課題として指摘

され、これを受けて 2007 年には、産官学が連携してサービス産業の生産性向上

を進めるために「サービス産業生産性協議会」が発足した。同協議会について

は、その後活動が停滞していたところ、2013 年の「日本再興戦略」(平成25

年6月14日閣議決定)において、国民運動として再構築していくこととされ

た。また、経済団体からもサービス産業の生産性向上を求める声が高まってお

り、最近では経済同友会から、サービス産業の生産性向上のための各種施策(KPIの設定、倒産関連法制の見直し、政府におけるサービス関連部局の拡充等)が

提言されたところである。 このように、サービス産業の生産性向上に向けては長らく議論が重ねられ、

具体的な取組も進められてきたところであり、従来の取組を引き続き進めてい

くことが重要であることは論をまたない。しかし、依然として我が国の経済成

長を実現していく上で、サービス産業の生産性向上・高付加価値化が重要な課

題であるという状況は変わっていないことも事実である。着実に我が国経済の

サービス化は進展しており、このままでは、生産性上昇率の低いサービス産業

のウエイト拡大が経済全体の成長率を抑圧していくことになりかねない。 幸いにも、このような成長率抑圧という事態は回避不能なものではない。例

えば、米国でも、経済のサービス化が長らく経済全体の成長率を抑圧してきた

との指摘があったが、1990 年代後半以降、サービス産業の生産性上昇が加速し、

むしろサービス産業が成長の源泉となってきた。

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我が国においても、サービス産業の生産性向上・高付加価値化によって、経

済全体の成長を実現していくことが必要であり、そしてそれは十分に可能であ

る。むしろ、経済のサービス化が進展する中、創意工夫によって生産性を上昇

させる余地が大きいサービス産業こそは「宝の山」である。サービス産業の生

産性向上・高付加価値化が実現すれば、そこで働く人々の所得を拡大し、更に

サービス需要が拡大・高度化していくという好循環をもたらす。 このような視点に立って、本研究会では具体的な政策の方向性について議論

を重ね、この度、その結果を①企業レベルでのイノベーションの促進、②産業

レベルでの新陳代謝の活性化、③少子高齢化等に伴う地域の社会構造変化への

対応、という3つの視点から整理した。 そもそも、サービス産業の生産性については、サービス産業に特有の課題か

ら我が国経済社会全体の構造的課題まで多くの要因が関連している。したがっ

て、サービス産業の生産性向上のための政策的処方箋も、「これをやればすべて

うまくいく」というものはない。このような多面的・複合的課題に対しては、

サービス産業特有の問題だけではなく、我が国経済社会全体に目配りをして対

応策を検討していく必要がある。今回は、従来の議論が、個々の企業レベルで

の生産性向上・高付加価値化を促進するための方策だけに着目しがちであった

のに対して、産業レベルでの新陳代謝の活性化を生産性向上の経路として重視

し、また、近時の少子高齢化に伴う地域の社会構造変化をチャンスとしてとら

える視点を加えることで、サービス産業政策の在り方に新たな局面を拓こうと

したものである。例えば、本報告書で指摘する新陳代謝の活性化、多様で柔軟

な働き方の実現、地域の構造変化への対応といった論点は、サービス産業のみ

ならず、広く我が国経済社会全体に関わる改革の要請でもあり、サービス産業

政策をより広い構造改革のコンテクストの中で展開していくことが重要である。 更なる検討を要する残された課題も少なくないが、この提言を受けて、サー

ビス産業の生産性向上・高付加価値化に向けた政策展開が有効な形で具体的に

進むことを期待する。

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第1章 我が国サービス産業の現状 (1)サービス産業の定義 サービス産業の一律の定義は存在せず、用途等に応じ多様に捉えられて

きたが、一般的に広義と狭義に大別される。 広義のサービス産業とは、図 1 で示すとおり、農林水産業、鉱業、製造

業、建設業を除く第 3 次産業を指し、具体的には電気・ガス・水道、卸・

小売、金融・保険、不動産、運輸、情報通信、サービス産業(狭義)、政府

サービス、民間非営利サービスを指す。 また狭義のサービス産業とは、娯楽、飲食、旅館(宿泊)、洗濯・理容・

美容・浴場、教育、医療・福祉等の対個人サービス、広告、業務用物品賃

貸、自動車・機械修理、研究等の対事業所サービスが含まれる。 本報告書での政策対象は、幅広いサービス産業(広義)とすることとし、

以下で「サービス産業」と記す場合には、特段の断りがなければ広義のサ

ービス産業を指すものとする。

図 1.各業種の GDP に占める割合(2012)

(出典:内閣府「国民経済計算」)

農林水産業

1% 鉱業

0%

製造業18%

建設業

6%

卸売・小売業

14%

金融・保険業

5%不動産業

12%

運輸業

5%

情報通信業

6%

政府サービス

9%

民間非営利サー

ビス

2%

電気・ガス・水道業2%

サービス産業(広義)

75%

資料:内閣府「国民経済計算」

(注) 民間非営利サービス生産者は、労働組合、政党、宗教団体、私立学校。

サービス業(狭義)20%

※サービス業(狭義)娯楽、飲食店、旅館、洗濯・理容・美容、その他の対個人サービス、その他の対事業所サービス、教育、医療・福祉等

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(2)GDP 比 我が国のサービス産業は GDP 比で約 70%を占め、一貫して拡大傾向に

ある。他方で製造業の比率は低下しており、諸外国同様、経済のサービス

化が進展している【図 2】。 サービス産業を業種別に見ると、卸・小売業、不動産業、情報通信業、金

融・保険業、運輸業の順で GDP の規模が大きい【図 1】。 また、飲食・宿泊、洗濯、理美容等の「狭義のサービス産業」は、GDP

の約2割を占める【図 1】。

図 2.我が国 GDP に占めるサービス産業・製造業等の割合の経年変化

(出典:内閣府「国民経済計算」)

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(3)就業者数 全産業の就業者数が 97 年をピークに減少する中、全産業に占めるサービ

ス産業の就業者の割合は拡大傾向にある(約 62%(1997)⇒約 72%(2012))【図 3】。 近年の動きを見ると、特に医療・福祉業の就業者数が増加している【図 4】。

図 3.各業種の就業人数の変化(1981~2012)

(出典:総務省「労働力調査」)

図 4.業種別従業員数の増減率(2009→2012)※

(出典:総務省「経済センサス」)

-4.5%

-10.3%

-5.9%-3.5%

-5.6%-7.6%

-5.1%-8.6%

0.1%

-4.7%-6.6%

-4.9%-6.2%

-0.2%

9.8%

-15.8%

-1.5%

-20.0%

-15.0%

-10.0%

-5.0%

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

全産業

建設業

製造業

サービス業(広義)

情報通信業

運輸業,郵便業

卸売業

小売業

金融業,保険業

不動産業,物品賃貸業

学術研究,専門・技術サービ

ス業

宿泊業,飲食サービス業

生活関連サービス業,娯楽業

教育,学習支援業

医療,福祉

複合サービス事業

サービス業(他に分類されな

いもの)

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(4)事業所数 サービス産業(広義)の事業所数は約 440 万と、我が国産業全体(約 545

万)の約 80%を占めている。 サービス産業(広義)の事業所数のうち、平成 21 年~24 年の間に約 26

万事業所が新設された一方、約 78 万事業所が廃業している【図 5】。 さらに、業種別に見ても、程度の差はあるが多くの業種で廃業が進んで

いることがわかる【図 5】。 また、業種別の事業所数の増減率を見ると、医療・福祉業の事業所数が

増加している【図 6】。

図5.業種別の事業所数・新設事業所数・廃業事業所数

(出典:総務省「経済センサス」)

545万(28万)

440万(26万)

(1.3万)

(1万)

(0.02万)

(0.4万)

(0.5万)

(8万)

(0.6万)

(1万)

(1万)

(7万)

(2.5万)

(1万)

(3万)

(0.03万)

(1.6万)

600万100万 150万50万

サービス業

事業所数

( うち新設事業所数)

廃業事業所数

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7

図6.業種別の事業所数の増減率(2009→2012)

(出典:総務省「経済センサス」)

-7.3%

-10.0%-8.1%

-7.0%

-13.7%

-8.2% -7.6%

-10.4%

-3.3%

-6.9%-8.5% -8.5%

-5.8%-4.1%

4.3%

-13.6%

-3.0%

-15.0%

-10.0%

-5.0%

0.0%

5.0%

全産業

建設業

製造業

サービス業(広義)

情報通信業

運輸業,郵便業

卸売業

小売業

金融業,保険業

不動産業,物品賃貸業

学術研究,専門・技術サービ

ス業

宿泊業,飲食サービス業

生活関連サービス業,娯楽業

教育,学習支援業

医療,福祉

複合サービス事業

サービス業(他に分類されな

いもの)

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8

(5)年間の新設事業所の割合、廃業事業所の割合 年間の新設事業所の割合、廃業事業の割合(※)を見ると、サービス産業は

新設事業所(2.2%)よりも廃業事業所(6.4%)が高い。(09 ~12 年におけ

る年間平均) ※年間の新設事業所の割合、廃業事業所の割合とは 新設事業所の割合とは、ある特定の期間において、「〔1〕新規に開設さ

れた事業所を年平均にならした数」の「〔2〕期首において既に存在してい

た事業所(又は企業)」に対する割合であり、〔1〕/〔2〕で求める。廃業

事業所の割合も同様である。

また年間の新設事業所の割合、廃業事業所の割合を比較すると、特に以下

の顕著な傾向が見られる【図 7】。 ・ 新設事業所の割合は、特に医療・福祉や宿泊・飲食サービス業で高い。

・ 廃業事業所の割合は、特に情報通信業、宿泊・飲食サービス業で高い。

図 7.業種別の年間の新設事業所の割合、廃業事業所の割合(2009~2012 年の年平均)

(出典:経済センサス)

1.9%

0.8% 0.7%

2.2%1.7% 2.1%

1.3%1.9%

2.5%

0.9%1.8%

3.3%

1.9%2.4%

3.5%

0.4%

1.7%

6.3%5.7% 5.7%

6.4%

4.3%

9.8%

6.1% 6.5%7.3%

5.3%

7.1%

8.2%

5.5%

6.7%

4.3%

2.0%

5.9%

0.0%

2.0%

4.0%

6.0%

8.0%

10.0%

全産業*

建設業

製造業

サービス業(広義)

電気・ガス・熱供給・水道業

情報通信業

運輸業,郵便業

卸売業,小売業

金融業,保険業

不動産業,物品賃貸業

学術研究,専門・技術サービス

宿泊業,飲食サービス業

生活関連サービス業,娯楽業

教育,学習支援業

医療,福祉

複合サービス事業

サービス業(他に分類されない

もの)

開業率 廃業率

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9

(6)中小企業性 ① 中小企業数の比率

全産業で見ると中小企業数の比率は 99.7%。製造業は 99.5%、サービス産

業では 99.7%と同程度の数値となっている。 サービス産業の業種別に見ると、電気・ガス・熱供給・水道、情報通信を

除き、各業種で 99.0%を越えている【図 8】。

図 8.規模別・業種別の企業数の割合(2012 年)

(出典:中小企業白書より作成)

② 資本金規模別の売上高比率 製造業と比較すると、サービス産業は中小規模(資本金 1 億円以下※)の

事業者が生み出す売上高が全体の売上高に占める割合が高い。 サービス産業の業種別に見ると、特に医療・福祉業、飲食サービス業、宿

泊業等において、中小規模の事業者が生み出す売上高が事業者全体の売上高

に占める割合が高い【図 9】。 ※法人企業統計調査においては、資本金規模 1 億円未満を中小企業、1 億円以上 10 億円未

満を中堅企業、10 億円以上を大企業としている。

0.3

0.1

0.5

0.3

3.3

2.4

0.3

0.7

0.3

0.7

0.1

0.3

0.2

0.1

0.1

0.1

0.1

0.6

99.7 (87.0)

99.9 (96.1)

99.5 (87.9)

99.7 (85.4)

96.7 (64.9)

97.6 (68.1)

99.7 (76.4)

99.3 (72.1)

99.7 (85.9)

99.3 (96.0)

99.9 (97.8)

99.7 (85.6)

99.8 (86.7)

99.9 (92.1)

99.9 (90.3)

99.9 (73.6)

99.9 (99.6)

99.4 (71.5)

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

全産業

建設業

製造業

サービス業(広義)

電気・ガス・熱供給・水道業

情報通信業

運輸業,郵便業

卸売業

小売業

金融業,保険業

不動産業,物品賃貸業

学術研究,専門・技術サービス業

宿泊業,飲食サービス業

生活関連サービス業,娯楽業

教育,学習支援業

医療,福祉

複合サービス事業

サービス業(他に分類されないもの)

大企業 中小企業 うち小規模企業( )

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10

図 9.規模別・業種別の売上高の割合

(出典:財務省「法人企業統計(2012)」)

【資本金規模】

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ガス・熱供給・水道業

製造業

運輸業、郵便業

卸売業

情報通信業

小売業

生活関連サービス業、娯楽業

宿泊業

教育、学習支援業

学術研究、専門・技術サービス業

飲食サービス業

医療、福祉業

1千万円未満 1千万円以上 - 5千万円未満 5千万円以上 - 1億円未満 1億円以上 - 10億円未満 10億円以上

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(7)個人経営比率 製造業と比べ、サービス産業の個人経営比率は高い(製造業 31.8%、サ

ービス産業 42.8%)。 特に医療、福祉、生活関連サービス、娯楽、宿泊、飲食業といった一人

当たり付加価値額の低いサービス産業において、個人経営比率が突出して高

いが、いずれの業種も減少傾向にある【図 10】。

図 10.各業種の個人経営比率(2009⇒2012)

(出典:総務省「経済センサス))

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(8)生産性 ① 製造業との比較 ⅰ)全要素生産性

製造業と比較してみると、サービス産業が大部分を占める非製造業は

長期にわたり生産性(全要素生産性;TFP)の伸びが低い【図 11】。 この背景として、製造業が技術革新等による効率化により生産性を高

めてきたのに対し、生産と消費の同時性の特性を持つサービス産業は一

般的に生産性が高まりにくかったと指摘されている。

図 11.製造業と非製造業の生産性(TFP)の推移(日本)

(出典:深尾京司「失われた 20 年(2012)」)

生産性(TFP)の企業間格差を見ると、上位 10%と下位 10%との格差

は、サービス産業において製造業より約 2 割大きい。つまり、サービス

産業は高生産性企業及び低生産性企業の割合が製造業より相対的に多い

【図 12】。

図 12.製造業とサービス産業の生産性の企業間格差(分布)

(出典:RIETI 森川正之氏)

0.2

.4.6

.81

dens

ity

-2 -1 0 1 2TFP

Manufacturing Service

TFP Density, 2010

0.2

.4.6

.81

dens

ity

-2 -1 0 1 2TFP

Manufacturing Service

TFP Density, 2010

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13

ⅱ)労働生産性 製造業と商業・サービス業(卸売、小売、サービス業(飲食宿泊等)の労

働生産性を比較すると、企業規模に関わらず以下の傾向が見られる【図 13】。 ・労働生産性の上位 10%は商業・サービス業の方が高い。 ・労働生産性の下位 10%は製造業の方が高い。

また、業種別に労働生産性の上昇率を要因分解してみると、サービス 産

業では特に資本装備率上昇率の上昇による労働生産性の上昇が起きていな

いことがわかる【図 14】。このことから、サービス産業の労働生産性を向上

させるためには、人材の質等の TFP の要素が重要であるとともに、投資の

質を高めなければならないことが示唆される。

図 13.製造業とサービス業の労働生産性比較(出典:中小企業白書 2013) (備考)「商業・サービス業」には卸売、小売、飲食、宿泊業等が含まれる。

図 14.労働生産性の上昇率要因分解

(出典:「選択する未来」委員会 第 2 回成長・発展ワーキング・グループ(H26.3.20) 『資料 2 産業別生産性の動向等について』より引用)

商業・サービス業製造業

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14

②他国との比較 ⅰ)全要素生産性

アメリカと比較してみると、概ね製造業では生産性(TFP)は近い水準に

ある一方、金融、保険業を除き、多くのサービス産業において我が国はアメ

リカより生産性が低い【図 15】。 また、ドイツとアメリカと比較してみると、特にドイツは卸・小売業の生

産性(TFP)が高い【図 16】。 ただし、ドイツの小売業は営業時間規制(8 時間/1 日)があるなど、個

別事情を考慮する必要がある。 このように、他国では規制によって生産性が高く出ている場合もあり注意

が必要であるが、概して我が国のサービス産業の生産性は他国よりも低い傾

向にあると考えられる。

図 15.日本の産業別の TFP 水準(米国を 100 とした場合の値。2003~07 平均)

(出典:経済産業省「通商白書(2013)」)

図 16.ドイツの産業別の TFP 水準(米国を 100 とした場合の値。2003~07 平均)

(出典:経済産業省「通商白書(2013)」)

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15

ⅱ)労働生産性 また、業種別に労働生産性の水準を日米比較してみると、卸・小売、飲食・

宿泊、その他サービス、ビジネスサービスなど幅広いサービス産業で日本は

米国より停滞していることがわかる【図 17】。

(備考) 1.EU KLEMSデータベースより作成。 2.同データベースにおける産業別の購買力平価(1997 年値)を用いて、労働生産性水準を比較し、各産業の実質労働

生産性上昇率を用いて前後の期間に延伸。 3.産業別の労働生産性と各産業の就業者数のシェアは、2000-04 年平均。 4.「ビジネスサービス」にはリース、情報サービス、研究開発、法務・技術・広告、人材派遣、その他が含まれる。 5.「その他サービス」には「洗濯・理容・美容・浴場業」と「その他の対個人サービス」が含まれる。

図 17.業種別労働生産性の水準の日米比較 (出典:「選択する未来」委員会 第 2 回成長・発展ワーキング・グループ(H26.3.20)

『資料 2 産業別生産性の動向等について』より引用)

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16

(9)一人当たり付加価値額 製造業と比較すると、情報通信業、学術研究、専門・技術サービス業等の知

識集約型のサービス産業は、一人当たり付加価値額の水準が高い【図 18】。 加えて近年のトレンドについては、 ・一人当たり付加価値額は全産業平均で上昇傾向 ・特に情報通信、学術研究、専門・技術サービス等の知識集約型のサービス

産業で上昇傾向 ・一方、医療、福祉、飲食、宿泊、小売業などの労働集約型のサービス産業

では減少傾向 にあることがわかる。

図 18.業種別一人当たり付加価値額の推移

(出典:財務省「法人企業統計」)

3.9%

9.8%

8.9%

20.4%10.3%

14.9% 1.9% 1.1%

-14.9% -11.3%

-30%

-20%

-10%

0%

10%

20%

30%

0

200

400

600

800

1000

1200

全産業

製造業

情報通信業

学術研究、専門・技術サービス業

卸売業

生活関連サービス業、娯楽業

小売業

教育、学習支援業

医療、福祉業

宿泊業、飲食サービス業

2009年度 2012年度

(万円)

(注)全産業は、金融・保険業除く。数値は、当期末。

サービス業

知識集約型 労働集約型

Page 21: 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報 …...資料3 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報告書(案) 平成26

17

第2章.サービス産業が目指すべき将来像 我が国経済・社会の現状を踏まえ、今後、我が国サービス産業が目指す将来

像は、以下のとおりである。 (1)高生産性・高付加価値化

我が国サービス産業が高生産性・高付加価値産業へと転換していくこと

は、我が国経済の成長実現のために非常に重要である。 また、サービス産業全体で人手不足も懸念される中、今後、生産性向上は

ますます必要になる。また、サービス産業自身のブランディング、イメージ

向上も必要である。 そのためには、サービスの特性に起因する問題への対応にとどまらず、我

が国において高生産性・高付加価値化を阻害している具体的な要因を洗い出

し、その改善を図ることが求められる。 サービス産業の高生産性・高付加価値化が実現することで、そこで働く

人々の所得が拡大し、更にサービス需要が拡大・高度化していくという好循

環を実現していく。

(2)地域における社会構造変化への対応 我が国の少子高齢化の進展は、特に地域において人口が減少する中、医

療・福祉サービス等の需要が拡大するといった社会構造の変化をもたらしつ

つある。 加えて、特に人口減少により、サービス産業の生産性に大きな影響を与え

る需要の密度が低下することが予想される。 こうした中、医療福祉サービス等においては、例えば自宅の見守りサービ

スなど、新しいタイプのサービスの需要が生じてくると見込まれる。 こうした変化に適切に対応したサービスの提供がなされることで、地域住

民による必要なサービスの購入を確保しつつ、サービス産業が高付加価値化

を実現していく姿を目指す。

Page 22: 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報 …...資料3 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報告書(案) 平成26

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第3章.目指すべき将来像を実現するための3つの視点 目指すべき将来像を実現するには、(1)企業におけるイノベーション、(2)

産業の新陳代謝、(3)地域における社会構造変化への対応という3つの視点か

ら、検討を加える必要がある。 (1)企業におけるイノベーションの促進

生産性の向上は、①内部効果(個々の企業の生産性向上)、②再配分効果

(生産性の高い企業と低い企業のシェア変化による生産性向上)、③純参入

効果(優れた企業の参入と非効率な企業の退出による生産性向上)の 3 つ

の経路に分解できる。 我が国の各業種における生産性向上を要因分解してみる【図 19】。

図 19.生産性(TFP)上昇の要素分解(2001~10 平均)

(出典:「企業活動基本調査」(2001~2010)から森川(RIETI)が試算)

内部効果について、 ・製造業では大幅なプラスであり、生産性向上を大きく牽引している情報

通信産業ではプラスであり、生産性向上の一因となっている ・主に卸小売、娯楽・飲食・旅館等のサービス産業では、ゼロ又はマイナ

スとなっている ことが見てとれ、特にサービス産業(卸小売、娯楽・飲食・旅館等)企業に

おけるイノベーションによる生産性の向上が不活発であり、イノベ-ション

の促進が重要であると考えられる。

Page 23: 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報 …...資料3 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報告書(案) 平成26

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(2)産業の新陳代謝の促進 上記の生産性向上の 3 つの経路のうち、いわゆる産業の新陳代謝を示す再

配分効果・純参入効果を見ると【図 19】、 ・製造業では、一定程度、純参入効果が見られる ・情報通信産業では、特に純参入効果による生産性向上が非常に大きい ・卸小売業では、再配分効果による生産性向上が見られる一方、純参入効

果はゼロ又はマイナスとほとんど効果が見られない ・娯楽・飲食・旅館等のサービス産業では、再配分効果はほとんど見られ

ず、純参入効果が大幅なマイナスとなっている ことがわかる。 サービス業(娯楽、飲食、旅館、洗濯・理容・美容、教育、医療・福祉等)

については、特に顕著な傾向として、少子高齢化の進展により、医療・福祉

サービスの新規参入が拡大していることがわかる【図 6】。 図 18 で示したとおり、医療・福祉サービスは他の産業に比べて一人当たり

付加価値額(生産性)が低く、「サービス業(娯楽、飲食、旅館、洗濯・理容・

美容、教育、医療・福祉等)」に占める生産性の低い群のシェアが拡大するた

め、業全体で見ると、新規参入による生産性停滞(純参入効果がマイナス)

が起きると考えられる。 図 7 で示したとおり、サービス産業では特に廃業が進んでいる状況も見て

取れるが、生産性向上に結びつく新陳代謝はあまり活発でないと考えられる。 このような状況にあって、産業レベルの新陳代謝の促進により生産性を高

めていくことも重要であると考えられる。

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20

(3)地域における社会構造変化への対応 我が国では、近年、特に地域において顕著な「少子高齢化」や「人口減少」

といった社会構造変化が生じており、サービス産業の生産性・付加価値に大

きな影響を与えているものと考えられる。

ⅰ)地方の人口減少に伴うサービス需要密度の減少 特に地方の人口減少に伴うサービス需要の密度減少が起き、これがサービ

ス産業の生産性に影響を与えていると考えられる。 2005 年と比べ、2050 年には人口が半分以下になる地域が、現在の居住地

域の 6 割以上を占めると言われている【図 20】。特に人口集中地区の人口密

度について、大都市圏等を除く 34 都道府県で減少しており【図 21】、一般

的に生産性と人口密度は相関関係があることから【図 22】、こうした地域の

サービス産業の付加価値・生産性も減少していると考えられる。 こうした地方においても、地方社会の変化をチャンスととらえて、生産性

向上・高付加価値化を図る「稼げるサービスビジネス」を生みだすことが重

要である。

図 20.人口増減(05 年→50 年、予測値)別の地域の割合

(出典:国土交通省「新たな国土のデザイン」)

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図 21.各都道府県における人口集中地区の密度推移(00 年⇒10 年)

(出典:内閣府「地域経済 2011」)

※なお、森川(RIETI、2008)によれば、サービス産業の生産性と人口密

度の関係について、仮に市町村人口密度が 2 倍になった場合、生産性は

約 16%上昇すると試算されている【図 22】。

図 22.市町村人口密度が 2 倍になったときの生産性(TFP)への効果 (出典:森川(RIETI,2008)「サービス業の生産性と密度の経済性」)

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ⅱ)少子高齢化に伴うサービス需要の変化 また少子高齢化に伴い、サービス需要の変化が起きているものと考えら

れる。 具体的には、医療・福祉サービスへのニーズが拡大している。図 6 で示し

たとおり、他のサービスと比べ、医療・福祉サービスの事業所の増加が顕著

であることからもこれは明らかである。 例えば高齢の要介護者が可能な限り自宅で自立した生活を送りつつ、家

族の介護負担を軽減することを目的とした「デイサービス」等の、福祉・介

護事業等が増加している【図 23】。 こうした少子高齢化によるサービス需要の変化を踏まえた、高付加価値

な「稼げるビジネス」を創出していく視点も重要である。

図 23.医療・福祉の業種別従業員数の増減(2009→2012)

(出典:総務省「経済センサス」)

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第4章 政策の方向性 我が国サービス産業の高生産性・高付加価値化に向けた政策の方向性につい

て、前章で示した 3 つの視点に基づく抜本的な対応が必要と考えられる。この

際、以下のようなサービス産業の特性を踏まえて取り組むことが重要である。 ① 無形性を踏まえた「見える化」 モノと異なりサービスは物理的な形を持たないため、サービスの生産性の

評価がしにくく、サービスの生産性向上の課題になっていると考えられる。

このため、サービス提供プロセスやサービス品質等の「見える化」を図り、

効率化等を容易にすることが重要である。

② 中小企業性を踏まえた対応

第1章で見たようにサービス産業も中小企業の比率が高い。ヒト、モノ、

カネ、情報等のリソースが限られていること等の中小企業の特性を踏まえた

政策アプローチが重要である。この観点から、「サービス高度化ガイドライ

ン(仮称)」を策定し、このガイドラインに沿って、サービス産業の生産性

向上に取り組むことが重要である。

③ 繁閑差が大きい特性を踏まえた多様で柔軟な働き方の促進

サービス産業では、生産と消費の同時性から繁閑差が大きい特性を持ち、こ

れに合わせた多様で柔軟な働き方へのニーズが大きい。こうした働き方を促進

していくことが重要である。

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<Ⅰ.企業におけるイノベーションの促進> 企業レベルのイノベーションを促進するためには、特に産業横断的に以下の 4つが重要な要素と考えられることから、その現状・課題、政策の方向性を以下

のとおり整理する。 1.人材の育成・確保 (1)サービス経営人材の育成 ① 現状・課題 ⅰ)経営人材の重要性の高まり

消費者嗜好の多様化、国内市場の縮小、競争激化などの厳しい経営環境

の中、設備投資ではなくビジネスモデルで他と差別化が必要なサービス産

業において、経営人材のリーダーシップによるイノベーションや、経営人

材による新たなサービスベンチャーの創造の重要性が特に増している。 また、サービス産業の経営人材自身も、次世代の経営人材の育成・確保

が重要課題と認識している【図 24】。

図 24.ビジネスの高付加価値化を図るための課題

(サービス産業の経営者へのアンケート) (出典:日本生産性本部「平成 20 年度サービス産業生産性向上支援事業報告書」)

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ⅱ)サービス産業の経営を学べる教育機関の不足 海外に目を転じると、サービス産業の経営を学べるレベルの高い教育機

関(大学院・大学)が存在し、多くのサービス経営人材を育成・輩出して

いる。 一方、我が国の大学院・大学については、一部で始まりつつあるものの、

サービス産業向けの体系的な経営学を学べるものが少ない。 また我が国の専門学校についても、多くは職の技能の習得が目的で、経

営を学べるものは少ない。一方、飲食業やアパレル業などの、技能を持つ

者が将来的に店舗経営を担うケースが多い業種では、教育機関で経営を学

んだ上で店舗経営を行う人材はあまり多くないと指摘されている。

【宿泊業】コーネル大学ホテル経営学部 ホテル経営学の世界最

高峰と評されている。

【流通業】オックスフォード大学院ビジネススクール 流通部門の経営学で

は、世界のビジネススクールでNo1。

【飲食業】カリナリー・インスティテュート 飲食業界のハーバード大学と

呼ばれる。

シンガポールが飲食分野の経営人材の育成のため誘致。

諸外国のサービス関連大学/大学院の例

Cf.)日本のサービス関連プログラムを有する主な大学院【サービス産業全般】京都大学経営管理大学院サービス価値創造プログラム

【サービス産業全般】筑波大学大学院社会工学専攻(サービス工学修士)

【ビューティ産業】ハリウッド大学院大学(ビューティービジネス修士)

(参考)

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26

ⅲ)サービス産業のビジネスに関心を持つ仕組みの不足 一般的にサービス産業は人材が集まりにくく、人材が定着しづらいと言

われており【表 2、図 25】、サービス産業のブランド力の向上が重要な課

題の一つである。こうした人材が集まりにくい・人材が定着しづらい理由

の一つとして、日本ではサービス産業の人材ニーズと大学院・大学等の教

育機関が輩出する人材のミスマッチが存在していると言われている。 従来、我が国の大学・大学院等の教育機関は、サービス産業との連携は

必ずしも多くなく、製造業系の企業との連携(共同研究など)が中心であ

った【図 26】。 これは、これまで、教育機関が学生に対し、サービス産業と連携してサ

ービス産業のビジネスに関する学問を提供する機会が少なかったことが一

因と考えられる。

表 2.日米の就職人気企業比較

図 25.産業別 3 年以内の離職率比較

(出典:厚生労働省「新規学卒者の事業所規模別・産業別離職状況(2012)」)

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27

図 26.大学における共同研究の分野別の割合(2012 年度)

(出典:文部科学省「大学等における産学連携等実施状況について」(2012))

Page 32: 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報 …...資料3 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報告書(案) 平成26

28

② 政策の方向性 ⅰ)大学院

社会人や学生がサービス産業の経営を学ぶ専門教育機関を増やすべ

く、大学院とサービス産業との連携を進め、ITやマーケティングとい

った分野を含め、サービス産業の専門性に即した高度な専門経営カリキ

ュラムの創設を進めていく。

ⅱ)大学 大学では、サービス産業と大学の連携を推進し、特に学生がサービス

産業に関心を持つ仕組みとして、サービス産業に必要な経営の基礎を学

ぶとともに実践的な体験ができるようなプログラム等の創設を促し、学

生がサービス産業に関心を持つ仕組み作りを行う。

ⅲ)専門学校 現在、文部科学省において、専門学校(専修学校専門課程)に対し、企

業と連携した実習や実技の授業を重視する「職業実践専門課程」事業を実

施している。このような流れの中、専門学校のカリキュラムに産業界のニ

ーズが反映されるよう連携を促す。

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29

参考:大学院における取組 ハリウッド大学院大学の取組

大正 14 年の設立以来、ハリウッド美容専門学校の運営を始め、ハリウッド

ビューティグループは、ビューティビジネスを広めてきた。ハリウッド大学院

大学は、その成果を結集した世界初のビューティビジネス専門職大学院である。

ビューティビジネスで活躍するリーダーとなる経営者、管理者、教育者を生み

出すため、ビューティビジネス研究科において、高い学識を持つ研究者教授と、

豊富な実務経験を持つ実務家教授との連携による「理論と実践の有機的結合」

の教育システムで、ケーススタディを中心に教育を行っており、ビジネスに直

結した高度な知識・スキルを効果的に修得できるようにしている。 忙しい社会人が仕事と両立させて経営スキルを磨き、キャリアアップや独立

開業を目指せるように「平日夜間・土曜開講制」を採用し、社会人でも 2 年で

修了できるようにしている。 卒業生は、ビューティビジネス修士(専門職)(Master of Beauty Business)

の学位が授与される。こうして、社会に出る卒業生、学び直した社会人は、高

い経営知識を習得し、ビジネスを発展させている。 また、ハリウッドグループは、たゆまぬ研究開発のため、ビューティビジネ

ス研究所を所有しているが、当該研究を、ビューティビジネスのみならず、飲

食、宿泊、スポーツ、教育、冠婚葬祭業等、幅広いサービス産業に対応する、

サービスビジネス研究の拠点へと発展させている。

Page 34: 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報 …...資料3 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報告書(案) 平成26

30

参考:大学における取組 千葉商科大学の取組

千葉商科大学サービス創造学部では、学生を、「『学問』×『企業』×『活

動』の学びのスパイラルで、 サービスを“する”のはなく、サービスを“創造”できる人材の育成」をコンセプトに取組を進めている。 具体的には、教授陣とサポーター企業 53 社(サービス産業が中心)が独

自の教育プログラムを共同で策定している。学生は本プログラムにより、サ

ービス産業の経営に関する理論や実践、サービスの創造を、実体験を通じて

学んでいる。 また、学生ベンチャーの創出を後押しすべく、大学会館における食堂経営

を行う学生ベンチャーを募集し、審査に合格した学生ベンチャー「BENI」は、学生が企業のサポートを受けながら、ダイニング経営の他、イベント運

営等をビジネスベースで行っている。 加えて、大学会館内に SOHO(Small Office/Home Office)スペースを

設け、企業・学生・地域住民の集まるサービスイノベーション拠点としてリ

ノベーションしている。 このような取組を進めサービス産業界で活躍できる人材を育成し、99.3%

という高い就職率を実現している。

(学生が経営に携わる食堂)

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31

(2)多様で柔軟な働き方の実現(人材の確保) ① 現状・課題

サービス産業は繁閑差が大きく需要と労働供給のギャップが出易いこと、

在庫を持てないため在庫による供給の調整が難しいこと(需要と供給の同時

性)、サービス提供主体である「人」に付加価値が大きく依存すること等の

特性を有するため、これらに合わせた働き方の仕組みが必要である。 ⅰ)非正規雇用への依存 まずサービス産業の顕著な傾向として、労働集約性が強い一方、繁閑差が

大きいことから、労働供給量の調整を行い易い非正規社員に依存しがちであ

ることが挙げられる。具体的には、飲食・宿泊業、卸売・小売業、医療、福

祉業等の対人サービス産業を中心に非正規雇用の割合が高い【図 27】。

図 27.正規雇用・非正規雇用の産業別の割合(2009 年度)

(出典:総務省「就業構造基本調査」(2009)) 一方、最近では景気回復に伴う人手不足を背景に、一定のスキルの蓄積

を目的として、非正規職員の正社員化が進みつつあるとも言われている。

このように、繁閑差が大きく非正規雇用に依存せざるを得ない側面を持つ

サービス産業において、非正規雇用は相対的にノウハウや技術の蓄積が進み

にくいことから、生産性向上・高付加価値化に向けては、サービス産業に合

わせた、より多様で柔軟な正社員制度が求められる。

Page 36: 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報 …...資料3 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報告書(案) 平成26

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ⅱ)労働時間と成果のミスマッチ さらに、こうした繁閑差が大きいという特性のため、特に専門性の高い一

部のサービス産業では、労働時間と成果が必ずしもマッチしていない現状が

指摘されている。

(参考:ウェディングプランナー業 A 社の声) 専門性が必要なため正社員採用しているが、顧客要望に応じたサービス

提供が必要で空き時間や残業が発生し易く、労働時間と成果が必ずしもマ

ッチしていない。

② 政策の方向性 繁閑差が大きく非正規に依存しがちなサービス産業の特性を踏まえつつ、

サービス産業の生産性向上・高付加価値化の観点から、女性の活用促進等

も含め、サービス産業の実態に即した、多様で柔軟な正社員制度のあり方

等を検討する。

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33

参考:沖縄県における人材育成の取組1

① 人材育成推進者養成講座

沖縄県は、第 3次産業への就業者数が全体に占める割合が、87.1%(全国平

均は、76.8%)であり(2009年)、言わずと知れたサービス産業県である。2010

年度から、慶應大学大学院特任教授の高橋俊介氏が、地元の有志経営者たちか

ら支援を受けて、那覇シティーキャンパスと称し、80時間の人材育成に特化し

た研修演習コースを実施した。この取組は非常に好評で、県内企業へその効果

を波及させるべく、2012年度から、時間も 100時間に拡大し、沖縄県の事業「人

材育成推進者養成講座」として実施されている。本事業は、テーラーメードな

人材育成施策の立案推進を行うプロフェッショナルを育てることが主目的であ

る。

講師の多くは、東京などで活躍する最先端第一線のプロフェッショナル主体

である。サービス産業が直面するいわば最先端の問題への挑戦なので、最先端

のノウハウのテーラーメード展開が欠かせないためだ。当初 50名定員で募集し

たが、応募 140名となり、急きょ 50名増員した。人材育成に悶々とする経営者

や担当者がいかに多いかが、この数字からも分かる。

この講座では、参加企業の一部をケースにしての演習も行われ、最終日はそ

れらケース企業の経営者を招いて、チーム演習の成果である人材育成推進案を

提案させる。これらの経験から、顧客接点の人材育成はもちろんだが、その上

司に当たる管理職層の気づきと行動変容の重要性も浮かび上がってきている。

② 人材育成企業認証制度

さらに、沖縄県では、英国のIIP(サッチャー政権で生まれた、中堅中小

企業の人材育成力と生産性向上を後押しする企業認証制度)を参考にした、「人

材育成企業認証制度」が 2013年 11月に開始された。経営者インタビュー、社

員アンケートやインタビューなどの質的な組織人材育成力を判定し、優れた企

業は県知事名で認証する制度である。

これにより認証された企業は、一般的には観光やBPO、シェアードサービ

ス、介護福祉などの業界でも、個別企業として社会的に認知されることを目指

している。もう一方、社会的に認知され採用にも有利となれば、この認証を受

けることを目標に人材育成努力をスタートさせる企業が増えることを狙ってい

る。そのため当初のハードルは高くして、外部コンサルタントの支援を受けな

がら、1年かけて人材育成努力を支援し、その取り組み努力部分を高く加点的

に評価する仕組みとなっている。

1 http://www.pref.okinawa.jp/site/shoko/koyo/koyotaisaku/h24/koyoukankyoukaizen.html

Page 38: 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報 …...資料3 「サービス産業の高付加価値化に関する研究会」 報告書(案) 平成26

34

2.攻めの IT 活用の促進

① 現状・課題 近年の IT の高度化と普及により、ビジネス用途の IT 製品やサービスも、

かつてない程に充実。米国をはじめ海外のサービス産業は積極的に IT 投資

を実施している。 先行する海外企業では、最先端の IT 技術を自社のサービスに組み合わせ、

顧客に新たな付加価値を提供することでビジネスを拡大。技術革新によるデ

バイスの高性能化、ネットワークの高速化・大容量化により、多種多様な情

報を収集・分析することが可能となっており、IT をマーケティング等に積

極的に活用することで、サービスの質の向上や新サービスの開発・提供を図

っている。 他方、我が国の企業においてはいわゆる「攻めの IT 投資」が十分な水準

に達していない。我が国において「攻めの IT 投資」が低位にとどまる要因

としては、経営者の IT 活用に対する重要性の認識が不十分であること、企

業内の IT 部門が主体的にビジネスに関与する組織と認識されていないこと、

既存の情報システムの運用コストが負担となっていること等が考えられる

【図 28】。

図 28.IT予算を増額する企業における、増額予算の用途

(出典:一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)・IDC Japan 株式会社

「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査結果(2013年 10月)

より経済産業省作成)

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35

特に、サービス産業における IT 投資に対する取組状況については、従来

構築してきたシステムの運用にとどまる企業の割合が高く、国内の製造業の

企業と比較しても新規投資が進んでいない【図 29】。

図 29.情報システムへの取組状況(業種別)

(出典:平成 24 年情報処理実態調査)

経営における IT 活用の重要性に対する経営者の認識向上を促し、攻めの

IT 投資を推進するためには、株式市場やメディア等の外部からの評価を活

用することも有効と見込まれる。 中小企業については、IT 投資が進まない理由は、コストの負担以上に、

「導入の効果がわからない」という旨の回答が最も高いとの調査結果が出て

いる【図 30】。

図 30.中小企業における、IT の活用が必要と考えているが、IT を導入していない理由

(出典:中小企業白書 2013 年版)

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36

中小企業における攻めの IT 投資促進のためには、IT 投資効果の「見える

化」が課題であり、事例を用いての IT 投資の取組とその成果の紹介や、攻

めの IT 投資の具体的進め方の手引等により中小企業の課題に対応すること

が必要である。 企業で攻めの IT 投資が進まない理由として、セキュリティやプライバシ

ーへの不安が導入の障害となっている場合もあると考えられる。攻めの IT投資に必要なセキュリティ知識を持った人材の育成や、パーソナルデータの

ビジネス活用のための制度整備も図っていくことが必要と考えられる。

② 政策の方向性 ⅰ)攻めの IT 投資に対する企業の取組状況の評価指標の策定、評価の促進

企業の経営者に対し攻めの IT 投資の重要性の認識を促すため、IT 投資の

取組状況に対する評価や情報発信を実施するための指標をグローバルな動

向を踏まえつつ策定する。この指標の普及啓発を通じて、投資家やメディア

等の経営者の意識に訴求する媒体での企業各社の IT 投資の評価の実施や、

企業の IR 情報における IT 投資情報の掲載が促進されることを目指す。 ⅱ)中小企業に向けた「攻めの IT 導入ガイド」の作成

導入により高い効果が見込まれるクラウドサービスやソフトウェア製品、

その他の効果的な活用のあり方等を提示する「攻めの IT 導入ガイド」を策

定する。 また、策定した「攻めの IT 導入ガイド」をより多くの中小企業等への普

及させるための取組を実施する。具体的には、IT コーディネータ(全国 約6300 人)等との連携等による地域に密着したきめ細かな支援を通じ IT 投資

を促進する。

ⅲ)セキュリティやプライバシーへの懸念の払拭 攻めの IT 投資に必要なセキュリティの知識を持った人材の育成のため、

スキルの明確化や能力試験の整備を行っていく。また、パーソナルデータの

ビジネスへの活用を促進するため、関連する制度見直し、法的措置の整備を

進める。

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37

参考:IT 活用事例 株式会社ビームスの取組

株式会社ビームスでは、電子タグの価格が低下したことを受けて、電

子タグシステムを導入。店舗内のアパレル商品(約6000点)に電子

タグを装着し、店舗での棚卸の作業を大幅に短縮した。また、出荷・検

品、登録・売上登録までを電子タグを利用して管理することで、本部か

ら店舗間の商品移動、売価の変更等を指示することも可能になり、販売

機会のロスも防止している。 日本アパレル・ファッション産業協会のデータでは、棚卸に要する時

間は、2万5千着の場合、電子タグの導入により、2日半から2時間半

に短縮することが実証されている。

POSシステムと電子タグリーダ・ライタを連携することで、適正在

庫の維持等により、在庫切れによる販売機会のロスを未然に防止するこ

とができる。 また、物流センターでは、入荷された商品が、段ボール箱ごとコンベ

ヤに流しながら自動読み取りが可能となり、作業効率の向上につながっ

ている。

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38

3.ビジネス支援サービスの活用 ① 現状・課題

市場には、企業の様々な業務を代替する、ビジネス支援サービスが存在する。

大別すると、産業横断型(①ITO※1、②BPO※2、③KPO※3)、④産業特化

型に整理できる【図 31】。

図 31.ビジネス支援サービスとは

(デューク大学 Center on Globalization, Governance & Competitiveness より作成)

企業においては、BPO サービス等の外部リソース(ビジネス支援サービ

ス)を戦略的に活用することで、当該業務のコスト削減のみならず、ビジネ

スプロセス全体の見直し等につながると言われている。実際、ビジネス支援

サービスを利用したサービス事業者の多くは、経営資源のコア業務への集中、

コスト削減、業務の効率化といった生産性・付加価値向上の効果を得ている

【図 32】。 ビジネス支援サービスは、それ自体が成長の期待できる一つのサービス産

業であるとともに、他の産業の生産性への波及効果も大きく、これを促進し

ていくことはサービス産業の高生産性・高付加価値化のための重要な手段の

一つと考えられる。

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図 32.ビジネス支援サービス利用(うち BPO)で得られた効果についてのアンケート調査

(出典:平成 25 年度経済産業省 「アウトソーシングやシェアードサービスの企業による利用の実態調査」)

しかし、我が国のサービス産業等の企業は、米国と比べコア業務への集中

等を意図した外部リソースの活用が遅れており、特に BPO サービスは市場

規模で見てもその活用が遅れていることがわかる【図 33】。

図 33.BPO 市場規模の日米比較(2012)

(出典:矢野経済研究所)

活用が遅れている要因として、以下のような要因が考えられる。

ⅰ)コスト削減以外のメリットの理解不足 BPO に期待した効果について日米を比較すると、「コスト削減」「業務の

効率化」がどちらの国でも最多となっている。しかし、米国では「経営資源

のコア業務への集中」「業務拡大への柔軟な対応」などのプラスαの効果へ

の期待も高いのに対し、日本はそうした効果への期待が低い【図 34】。つま

り、日本ではメリットへの理解が不足しているため、コスト削減を目的とす

る場合以外では BPO が選択されにくいと考えられる。

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図 34.BPO に期待した効果(日米比較、2014)

(出典:平成 25 年度経済産業省 「アウトソーシングやシェアードサービスの企業による利用の実態調査」)

ⅱ)ベンダーに関する情報不足

BPO 未経験企業は、セキュリティなど基礎的なサービス水準に不安を持

つ中で、「BPO ベンダー企業に関する情報が少ないことにより、BPO ベン

ダー企業を信頼しにくい」(平成 20 年度経済産業省 BPO 研究会報告書)と

感じている。そのため、日本企業は「アウトソーシング事業者の能力を客観

的に評価できる指標・認定制度」へのニーズが高い【図 35】。

図 35.BPO 利用に必要な仕組みに関するアンケート調査

(出典:平成 25 年度経済産業省 「アウトソーシングやシェアードサービスの企業による利用の実態調査」)

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ⅲ)中小企業の利用率の低さ 企業内の間接部門が小さく、BPO 利用による間接業務コスト削減効果が

相対的に出にくい中小企業において BPO サービスの活用が遅れている【図

36】。 しかし、近年、クラウド技術と組み合わせ、中小企業にも効果の高い新

たな形態での BPO サービスも現れているが、「特に中小サービス業ほどあ

まり知られていない」(経産省による BPO ベンダーへのヒアリングと言わ

れている)。

図 36.BPO利用有無の企業規模別比較

(出典:経済産業省委託調査)

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ⅳ)当該業務に従事していた人材の処遇が困難 企業内のある間接部門で BPOを導入した場合、一般的には当該業務に

必要な企業内の人員は減少する。この場合、従来当該業務に従事していた

人員を、社内のより戦略的な業務へ配置転換することで、企業は競争力の

より高い体制を構築できる。しかし実際は、日本では戦略業務が定義でき

ていないことなどにより、戦略的配置転換が困難との指摘がある。また、

米国学識者等へのヒアリングでは、日本は米国と比べ従業員の解雇規制が

不明確であることも、BPO 利用時に企業の懸念材料となっていると指摘

されている【図 37】。

図 37.従来業務に従事していた社員の取り扱い(日米アンケート調査比較、2014)

(出所:平成 25 年度経済産業省 「アウトソーシングやシェアードサービスの企業による利用の実態調査」)

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② 政策の方向性 ⅰ)BPO サービスの「質」の見える化 ユーザーが自社の課題に合致したソリューションを提供するベンダー

を選択し、安心してアウトソーシングできる環境を作るため、BPO ベ

ンダーの情報セキュリティ対策や、提供するサービスの範囲やパフォー

マンスといった品質を見える化し第3者機関が認証する制度を創設す

る。 ⅱ)攻めの IT 投資とのパッケージ(特に中小サービス事業者への BPO 普

及) BPOサービスの利用は、一般的に IT投資と併せた導入が必要となる。

これを踏まえつつ、BPO サービスの様々なメリットへの認識を高め、

中小サービス事業所による活用を促すため、BPO サービスの利用も含

めた「攻めの IT 導入ガイド」を策定し、IT コーディネータを通じた普

及啓発を行う(p.39②(2)再掲)。

短期的にまず取り組む上記の施策の他、更なる BPO 活用促進のためには、

社内の人材の配置転換や社外転籍といった「人材の流動性の円滑化」や、BPOベンダーが提供する業務領域のグレーゾーンの解消等も中長期的に検討する

必要がある。 また、BPO ベンダーが、日本国内のユーザーにのみ合致するサービスを提

供し海外企業のニーズと異なる方向に特化してしまうという懸念を回避し、海

外企業の BPO 需要も取り込んでいくため、「BPO ベンダーのグローバル化」

も、成長産業である BPO を育成していくという観点から、検討していく必要

がある。

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4.マーケティング力の強化(価格競争からの脱却) ① 現状・課題

国際的な価格戦略コンサルティング会社によると、先進国間で比較した

ときの日本の「価格戦争」の頻度は高い。英米企業が 50%以下であること

と対照的である【図 38】。

図 38.価格戦争の頻度についての国際比較

(サイモン・クチャーアンドパートナースジャパン㈱ 代表取締役 イエンス・ミュラー氏による講演資料より) (出典:経済産業省「消費インテリジェンス報告書」)

この背景には、他社との差別化を図るマーケティングが必ずしも適切に

行われていない可能性が高い。例えば、日本のサービス産業のマーケティン

グへの投資額は、英米のサービス産業と比べて少ない【図 39】。

図 39.「無形資産投資額/対粗付加価値額」の日米比較 (出典:深尾京司「失われた 20 年」と日本経済」)

※緑塗りは経済競争力への投資(マーケティング投資等)を表す。

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効果的なマーケティングを行う上では、データの戦略的活用が重要である。 特に、小売販売の約3割を占める生鮮食品に関し、商品コードが不統一

であるなど、技術的制約が大きかったが、民間企業が共通コードを開発し、

データ分析に基づくマーケティングを行う基盤が整いつつある。しかし企業

系列を超えた活用は、そのモデル設計ができておらず、オーガナイザーがい

ない等のため、進んでいない状況にある。 こうしたデータを用いた最新のマーケティングが技術的に可能となる中、

マーケティングの重要性を理解し、データの分析結果から企業の戦略を描け

るようなマーケティング人材の育成も重要である。 加えて、例えば口コミサイト等、多くのサービス産業が活用しうる新た

なマーケティングのプラットフォームが現れてきていることについても、サ

ービス産業のマーケティングを捉える上で、押さえておかなければならない。 さらに、メーカーがマーケティングに利用するために小売の販売データ

を入手しようとする際、独占禁止法上のグレーゾーンが存在するため、メー

カーが躊躇していることも課題の一つである。 具体的には、流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針において、通

常、メーカーが小売に対し販売価格や販売量を調査することは独占禁止法に

は抵触しないとされているが、その調査結果を元に小売への販売価格を強制

することは独占禁止法違反とされているところ、データマーケティングがこ

のどちらに該当するか不明確であり、メーカーはデータマーケティングに躊

躇しているとの指摘がある。こうした課題もあり、独占禁止法の指針の明確

化が、内閣規制改革会議で議論されているところである。

② 政策の方向性 データを活用したマーケティングを高度化していくためには、企業それ

ぞれの保有するデータ分析に留まらず、地域単位でのビックデータ分析を可

能とするインフラを整備することが有益と考えられる。 地域において企業系列を超えたビッグデータの組成と分析・活用を進め

て、各企業のマーケティングの高度化や新たなサービスの創出等に繋げるた

め、まずは経済産業省と自治体がオーガナイザーとなって、地方の流通業等

の参画を得て、各社が競争すべき領域と協調が望まれる領域の別を明確にし

つつ、各社の購買データ等の共同活用のモデル設計を行う。 さらに、実証事業を経て、モデルを確立するとともに、本モデルの全国

への普及を図るため、全国各自治体や流通業界へ広報していく。 また、大学院や大学等の教育機関でサービス産業の経営を学ぶプログラ

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ムの中に、マーケティングも位置づけていく。

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<Ⅱ.産業の新陳代謝の促進> 1.企業の新規参入の促進:「サービスベンチャーの創出」 ① 現状・課題

サービス産業の生産性の向上を図るためには、高い生産性を有する新た

な企業の新規参入が有効であり、特に IT ベンチャーは、日々進歩している

最新の IT 技術を活用することで、既存ビジネスモデルからの革新や生産性

の向上等を実現するサービスベンチャーを創出する可能性を有している。 IT ベンチャーは、①少額のコストでの起業が可能 、②比較的短期間での

起業が可能等の特徴を備えており、個人の能力次第で起業に挑戦しやすいた

め、今後非常に多数のサービスベンチャーを創出することも期待される。 IT ベンチャーの起業を促進するためには、起業後のスタートアップ期(起

業直後から事業の確立までの期間)に必要な支援を得ることのできるエコシ

ステム(ベンチャー起業を取り巻く生態系)が極めて重要である【図 40】。 ベンチャーのスタートアップ期においては、①資金の不足、②経営ノウ

ハウの不足等の課題を有していることが特徴である。 米国においてはシリコンバレーを中心として起業経験者や大学、ファン

ド、ベンチャーキャピタル等の連携によるエコシステムが機能しており、起

業を目指す個人に対する機会の提供と起業後のスタートアップ期に必要と

なる支援が行われている。 シリコンバレーにおけるベンチャーのスタートアップ支援では、Y

Combinatorをはじめとするスタートアップアクセラレータが重要な役割を

果たしている。スタートアップアクセラレータは、①起業成功者が中心とな

った運営、目利き、②個人の能力や人物に着目した投資、③起業成功者によ

る経営者の育成、④起業成功者や大企業経営者とのネットワークの提供、⑤

失敗者への再チャレンジの機会の提供等の特徴を備えている。 他方、我が国においてはベンチャーのスタートアップを促進するための

エコシステムが十分に確立していない。今後、民間のスタートアップアクセ

ラレータの活用も通じ、起業を促進する環境を整備することが重要である。

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図 40.スタートアップ企業のライフサイクル (出典:http://silicon-valley-history.com/)

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② 政策の方向性 ⅰ)スタートアップ期のベンチャーに対する支援の提供

ベンチャーの起業と成長を促進するためには、①個人の能力に着目した

投資、②スタートアップ期からの経営者育成、③起業成功者や大企業経営者

とのネットワークの提供、④(失敗経験も含めた)起業ノウハウの伝授等の

支援が重要である。このため、独創的なアイデア・突出した能力を持つ個人

を発掘し、上記のような支援により、ベンチャーのスタートアップを集中的

に支援する民間スタートアップアクセラレータ群の創出を目指す。具体的に

は、起業成功者等が、起業家を発掘・養成・支援するスタートアップアクセ

ラレータを日本に創出し、根付かせるための実現可能性調査を実施し、必要

要件の整理を行う。 また、独創的アイデア・突出した能力を持つ個人の発掘の促進に関して

は、(独)情報処理推進機構がこれまで実施してきた未踏 IT 人材育成事業を

より発展させ、新事業創出の第一線で活躍する指導者が、社会人層を対象と

して即起業を目指す突出人材を発掘し、技術的な助言に加え、起業に不可欠

なノウハウを伝授していく仕組みを構築し、さらに、発掘された人材に対し、

スタートアップアクセラレータがシームレスに起業支援を行っていくこと

が可能となるようにする。民間スタートアップアクセラレータにおけるファ

ンドの組成については、公的なファンド組成支援の活用の促進等も図ってい

く。 ⅱ)大学との連携による突出した能力を有する人材の発掘と育成・起業促進

大学における突出した能力を有する人材の発掘と、起業に向けた実践的

教育の実施を拡大するため、先進的な取組を実施する大学間での連携や、大

学とベンチャー等との連携を促進するための協議会を設置する。 ⅲ)ベンチャーによるサービス普及のための積極的政府調達

ベンチャーの提供する優れたサービスの普及を促進するため、政府にお

ける創業後間もないベンチャーからの調達を推進する。 ⅳ)新事業を起こしやすくするデータ環境等の整備

ベンチャーのビジネス機会を増やしていく上で、ビジネスに利用可能な

データを豊富にしていくことが重要である。行政機関が保有する公共データ、

特に、地理空間情報に関するデータ等は、サービスの付加価値向上やマーケ

ティングの観点から民間企業のニーズが高く、今後、地方自治体等を含めた

オープンデータの取組も推進する。

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さらに、2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、訪日

外国人に向けたサービスの ID(観光、交通、決済、情報通信等)を連携さ

せるなど、高度な情報サービスの提供を可能とする枠組みの構築を目指す。

こうした基盤整備により、新たなサービスの創出を後押しする。 2.次世代へのバトンタッチの円滑化

廃業後の「生活資金」を支援する小規模企業共済(123 万人が加入)の機

能強化による経営者の引退の円滑化や、中小企業が抵抗感なく事業売却

(M&A)に取り組めるよう、ガイドラインを策定する。

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<Ⅲ.地域における社会構造変化(少子高齢化、人口減少等)への対応> 地域においては、人口減少に伴い、特に地方でサービス需要密度が減少し、

サービス産業にとって厳しい市場環境にある。 少子高齢化に伴い医療・福祉サービスへの需要が高まる【図 6】などの新しい

サービス需要の変化が起きている。こうした変化をチャンスと捉え、変化に即

した「稼げるビジネス」の創出を図ることが重要である。 またサービス需要密度の変化に対応すべく、コンパクトシティのようなサー

ビス需要そのものを高める都市政策も重要である。 これらの視点を踏まえ、以下 2 つの柱を中心に政策の検討を進める。

1.地域社会の変化に即した「稼げるビジネス」の創出 ① 現状・課題 ⅰ)新サービス創出を阻むグレーゾーンや規制の存在

少子高齢化に伴い、医療・福祉業等のサービス産業への需要が増大し新

たなサービスの創出が期待される一方、こうしたサービス創出にあたり規制

のグレーゾーン等がネックとなっているケースが存在する。 例えば健康寿命延伸分野に関するサービスについては、医師法や医療法

のほか、医療行為に近接することに起因するその他の関係法令の複雑な運用

のもとに事業展開がなされており、新事業の実施の可否が不明確であるケー

スが存在している。 また現在、兵庫県養父市が国家戦略特区を活用して農地における飲食サ

ービス(農家レストラン)の展開を検討しているように、既存規制の存在が

新たなサービス創出を阻んでいるケースも存在する。

ⅱ)「医・農商工連携」という新たな可能性

国民の健康意識の高まり、健康寿命延伸分野のサービス・製品への需要

は今後大きく高まっていくことが想定されるが、特に地域においてサービ

ス・製品の供給主体が育っていない。

その原因の一つとして、他の事業分野からの業態転換や健康寿命延伸分

野における事業拡大に向けた資金ニーズ、人材の充足が不十分であることが

挙げられる。

現在、生活習慣病等の慢性期医療にかかる費用を、公的保険外のサービ

スを活用した予防・健康管理にシフトさせ、「国民の健康増進」、「医療費の

削減」、「新産業の創出」に実現に対して、期待が高まっている。

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ⅲ)IT等を活用した外需獲得の新たな可能性

特に地方においてサービス需要が減少する中、需要を「外」からとると

いう視点も、生産性向上・高付加価値化にとって重要である。

例えば徳島県上勝町では、特産品である和食で使われる「つまもの」に

ついて、全国の発注に対して即座に販売できる ITシステムを構築し、大き

な利益をあげている。

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② 政策の方向性

ⅰ)グレーゾーン解消制度等の活用促進

規制のグレーゾーンの存在により、事業者が新事業の開始に躊躇するこ

とがないよう、産業競争力強化法等を活用しながら、グレーゾーンを適切に

解消していく。

(取組例)

以下の 2 例について、本年 1 月下旬、事業者よりグレーゾーン解消制度

の申請があり、厚生労働大臣及び経済産業大臣により、それぞれ「医行為」

及び「医業」に該当しないことが確認された。 ⅰ)スポーツクラブ等における、医師の指導・助言を踏まえた生活習慣

病予防の為の運動指導サービス ⅱ)薬局等における、血液の簡易検査とその結果に基づく健康関連情報

の提供サービス ⅱ)土地利用等の規制と新たなサービス創出のあり方の検討

既存規制の精神を尊重しつつ、既存規制と新たなサービス創出のあり方

を検討する。 ⅲ)地域における「医・農商工連携」の促進

地域の医療機関、健康サービス事業者、農業・観光関係者等による新事

業創出のために、必要な資金・人材等の供給を支援する。

ⅳ)IT 活用等により外需を獲得する新たなビジネスモデルへの支援 地方の地理的制約を越えて、外需を獲得していく新たなビジネスモデル

について、資金支援等を行う。

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2.コンパクトシティの推進におけるサービス産業政策の検討 ① 現状・課題

地域における人口減少・少子高齢化を踏まえると、今後は行政サービス

の提供等が厳しくなるものと考えられることから、行政サービスの効率化、

省エネルギー、自動車に依存しない都市づくり等の観点から、政府はコンパ

クトシティ化を推進しているところである。 サービス産業の観点からは、コンパクトシティ化による人口需要密度の

上昇はサービス需要を高め、一義的にはサービス産業にとって高付加価値

化・生産性向上に資するものであると考えられる【図 22】。 一方で、コンパクトシティ化を進める中で、例えば土地・建物所有等に

おける権利関係の整理が煩雑であるなど、サービス産業のコンパクトシティ

への立地を阻害する要因も存在している。 ② 政策の方向性

コンパクトシティ化を進める上でのサービス事業者の望ましい立地のあ

り方や、上述のようなサービス産業のコンパクトシティへの立地に際する障

害について検討を行う。

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<Ⅳ.政策実施体制の整備> 経済同友会においても提言されているとおり、上記の政策を具体的に進めて

いく上で、政府側の実施体制を整備していくことも重要である。 (参考)経済同友会の提言「第 2 弾成長戦略」に向けた提言(抜粋) 2.1 既存産業の生産性の高い分野・企業への集中 2.1.1. 国内市場で競争するサービス産業の生産性向上を

⑤内閣官房または内閣府における「サービス産業改革本部」の設置、経済産

業省での抜本的な組織再編によるサービス産業関連部局の拡充(p.16) サービス産業にかかわる所管事務は、経済産業省の他にも、農林水産

省、国土交通省、厚生労働省などに分散しており、統一した政策が採り

にくい。 したがって、内閣官房や内閣府に「サービス産業改革本部」のような

組織を設置することが考えられる。 また、内閣府の業務について肥大の懸念があるのであれば、経済産業

省にサービス産業関連部局を集約すべきである。その際、現在の経済産

業省の組織を見ると、既に成熟しつつある製造業に比べ、サービス産業

に関する部局の数は圧倒的に少ない。スクラップ・アンド・ビルド方式

により、大胆な組織再編を行うべきである。例えば、商務情報政策局に

ついては、少なくとも情報通信(ICT)局、流通産業局、サービス産業局

の 3 局に分けて運営することが考えられる。

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第5章 今後の検討課題 (1)個別サービス分野ごとの分析・政策の検討

今回の研究会では、サービス産業横断的に重要な課題を中心に議論して

きたところ、今後は業種や企業規模別の課題をより細やかに実態に即した分

析、政策の検討を行う。 特に、今回、その活用を提言した BPO サービスについては、健全な発展

に向けた支援策を検討するともに、医療・福祉サービスについてもその支援

策等の検討を進める。 (2)社会構造変化を踏まえた地域のサービス産業のあり方及び政策の検討

地域の社会構造変化によるサービス産業への影響等の現状分析を含め、

更に検討を行う。 (3)サービス産業の国際展開に関する分析・政策の検討

サービス産業の国際展開は、国内需要が縮小する中で、サービス産業の

付加価値向上にとって大きな可能性を秘めている。今後、伸びゆく海外のサ

ービス市場をいかに取り込んでいくか、更なる検討を行う。