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1 Gender Summit 10 (GS10) 参加報告 2017/8/2 【会議名】Gender Summit 10 【会期】2017 5 25 -26 日(2 日間) 【開催場所】一橋講堂 (東京) 【開催主催】科学技術振興機構(JST)、日本学術会議、Portia Ltd. 【目的】ジェンダーとダイバーシティ推進を通じた科学技術とイノベーションの向上をテ ーマとし、ジェンダーの多様性を通して、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の 実現をめざす。 【参加・発表状況】23 カ国(地域)から 585 名(事前登録数)、口頭発表(招待)77 件、ポ スター発表 104 【日物応物連絡会からの参加者】合計 9名 (敬称略順不同) 初果 東京大学 教授 日本物理学会 野尻美保子 高エネルギー加速器研究機構 教授 日本物理学会 遠山 貴巳 東京理科大学 教授 日本物理学会 福島 孝治 東京大学 准教授 日本物理学会 鹿野 東京大学 特任准教授 日本物理学会 増田 産業技術総合研究所 副研究センター長 応用物理学会 松木 伸行 神奈川大学 准教授 応用物理学会 庄司 一郎 中央大学 教授 応用物理学会 河西奈保子 NTT 主任研究員 応用物理学会 【会議概要】 Gender Summit10 は、“Better Science and Innovation through Gender, Diversity and Inclusive Engagement” (ジェンダーとダイバーシティ推進を通じた科学技術とイノベーシ ョンの向上)をテーマとする 2 日間の国際会議。欧州で始まった Gender Summit でありア ジアでの開催は 2 回目。日本での開催は初めて。主にアジアを中心にプログラムが編成さ れた。2015 年に採択された国連の持続可能な開発目標(SDGs, Sustainable Development Goals)の実現のための、ジェンダーの多様性のあり方について議論し、世界に向けた提言 Tokyo Recommendation を発表した。 【主な登壇者】 スマヤ・ハッサン氏(ヨルダン王女) 鈴木 大地氏(スポーツ庁 長官) 浅川 智恵子氏(日本IBM フェロー)

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Gender Summit 10 (GS10) 参加報告 2017/8/2

【会議名】Gender Summit 10 【会期】2017 年 5 月 25 -26 日(2 日間) 【開催場所】一橋講堂 (東京) 【開催主催】科学技術振興機構(JST)、日本学術会議、Portia Ltd. 【目的】ジェンダーとダイバーシティ推進を通じた科学技術とイノベーションの向上をテ

ーマとし、ジェンダーの多様性を通して、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の

実現をめざす。 【参加・発表状況】23 カ国(地域)から 585 名(事前登録数)、口頭発表(招待)77 件、ポ

スター発表 104 件 【日物応物連絡会からの参加者】合計 9名 (敬称略順不同) 森 初果 東京大学 教授 日本物理学会 野尻美保子 高エネルギー加速器研究機構 教授 日本物理学会 遠山 貴巳 東京理科大学 教授 日本物理学会 福島 孝治 東京大学 准教授 日本物理学会 鹿野 豊 東京大学 特任准教授 日本物理学会 増田 淳 産業技術総合研究所 副研究センター長 応用物理学会 松木 伸行 神奈川大学 准教授 応用物理学会 庄司 一郎 中央大学 教授 応用物理学会 河西奈保子 NTT 主任研究員 応用物理学会 【会議概要】 Gender Summit10 は、“Better Science and Innovation through Gender, Diversity and Inclusive Engagement”(ジェンダーとダイバーシティ推進を通じた科学技術とイノベーシ

ョンの向上)をテーマとする 2 日間の国際会議。欧州で始まった Gender Summit でありア

ジアでの開催は 2 回目。日本での開催は初めて。主にアジアを中心にプログラムが編成さ

れた。2015 年に採択された国連の持続可能な開発目標(SDGs, Sustainable Development Goals)の実現のための、ジェンダーの多様性のあり方について議論し、世界に向けた提言

Tokyo Recommendation を発表した。 【主な登壇者】 スマヤ・ハッサン氏(ヨルダン王女) 鈴木 大地氏(スポーツ庁 長官) 浅川 智恵子氏(日本IBM フェロー)

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阿部 玲子氏(オリエンタルコンサルタンツグローバル インド現地法人 社長) アンデーシュ・カールソン氏(エルゼビアグローバル・アカデミック・リレーションズ 副

社長) キンレイ・ツェリン氏(ブータン農林水産省 園芸課長園芸師) フィリップ・キャンベル氏(ネイチャー 編集長) ロウェナ・ゲバラ氏(フィリピン科学技術省 事務次官) ロンダ・シービンガー氏(スタンフォード大学 教授) セン・マム氏(カンボジア王立農科大学 副学長) 山極 壽一氏(京都大学 総長) 原山 優子氏(総合科学技術・イノベーション会議 議員) ほか

【日物応物連絡会および日本物理学会・応用物理学会からの発表】

日物応物連絡会(代表 日本物理学会 森 初果(東京大学))はパラレルセッション 2の企画実行を行った。日本物理学会 鹿野 豊(東京大学)はパラレルセッション 5 の企画

実行および国連持続可能な開発目標 (SDGs) 提言ワーキンググループに参画した。日本物

理学会・応用物理学会はそれぞれポスター発表を行った。パラレルセッション、ポスター

発表のそれぞれの著者とタイトルは以下のとおりである。

Parallel Session 2 Promotion of Gender Equality by Improving Access and Use of Researcher Database 1. Making Gender-related Database <Chair> Hatsumi Mori - The University of Tokyo [Japan] <Panel> Noriko Arai - National Institute of Informatics [Japan] Sveva Avveduto - National Research Council [Italy] Monika Raharti - Center for Young Scientists Indonesia [Indonesia] Nan Zhang - The National Audit Office of the People's Republic of China [China] 2. Analyzing Gender-related Database <Chair> Chikako Yoshida-Noro - College of Industrial Technology, Nihon University [Japan] <Panel> Anders Karlsson - Elsevier [The Netherlands] Youngah Park - Myongji University [South Korea] Naomi Shibasaki-Kitakawa - Japan Inter-Society Liaison Association Committee for Promoting Equal Participation of Men and Women in Science and Engineering [Japan] Parallel Session 5 Gender Equality from Perspective of Men and Boys <Chair> Kimio Ito - Kyoto Sangyo University、Keiko Ikeda - Shizuoka University [Japan] <Keynote Speakers> Francesca Borgonovi - Organisation for Economic Co-operation and Development [France] Wayne Martino - The University of Western Ontario [Canada]

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Futoshi Taga - Kansai University [Japan] <Commentator> Mario Liong - Ritsumeikan University [Japan] <Facilitator> Reiko Motohashi - Shizuoka University [Japan] Hiroshi Yamanaka - Osaka University [Japan] Yutaka Shikano - The University of Tokyo [Japan] ポスター発表 •N. Matsuki, N. Kasai and A. Masuda, “Actions of the Japan Society of Applied Physics on women's empowerment and diversity” P1-1. •I. Shoji, N. Kasai and A. Masuda “The Japan Society of Applied Physics (JSAP) career advice meeting - an activity for promoting diversity of young members' career paths” P8-1 •M. Nojiri, “Recent activities of gender equality promotion in the JPS”. P8-4 【会議日程・内容および本書記載ページ】(※Gender Summit における初セッション) 5 月 25 日 Opening Session .................................................................................................................... 4 Plenary 1. History and Future of Gender and Diversity ................................................. 4 Plenary 2. Female Researchers Tackling Global Serious Issues .................................... 5 Plenary 3. Gender-based Research and Innovation ......................................................... 5 Parallel Session 1.Benefits from Women's Participation in Science, Technology and

Innovation (女性参画拡大により期待されるイノベーション上の利点の具体化) .. 6 Parallel Session 2.Promotion of Gender Equality by Improving Access and Use of

Researcher Database (男女共同参画推進のための研究者情報の整備と活用) ...... 6 Parallel Session 3.Gender Dimensions in Sport (スポーツにおける身体とジェンダー・サ

イエンスの推進)※ ................................................................................................... 8 5 月 26 日 Parallel Session 4.Developing Evaluation Methods for Diversity in Research (ダイバー

シティ推進に係る評価手法の提示) ......................................................................... 9 Parallel Session 5.Gender Equality from Perspective of Men and Boys (男性・男子にと

ってのジェンダー平等)※ ........................................................................................ 9 Parallel Session 6.Equal Opportunities for Women & Men in STEM Education (中等教

育における女子学生の文理選択の健全化) .......................................................... 10 Poster Exhibition ................................................................................................................. 11 Plenary 4. Social Responsibilities of Science .................................................................. 12 Plenary 5. Conclusions / Next Steps: Report of Working Groups (Parallel Sessions) . 13 Plenary 6. Conclusions / Next Steps: Proposal on Gender Equality for UN SDGs ..... 13 Closing Session .................................................................................................................... 13

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Opening Session 特別ゲストとして招かれたヨルダン皇室スマヤ・ハッサン・ヨルダン王女 (Royal

Scientific Society)から開会のあいさつがあった。世界における科学技術の重要性、その中

で課題になっている STEM(Science, technology, engineering and mathematics、日本語の

「理工系」に相当する)分野での女性比率の低さを解決することの重要性、この GS10 の意

義について述べた。次のゲスト、水落敏栄文部科学副大臣からは、日本国内の STEM 分野

の女性研究者比率が 15%であることに触れ、諸外国の平均 28%まで増やす努力をしなくて

はならないという課題が述べられた。さらに Pinto 氏(カナダ、Natural Sciences and Engineering Research Council of Canada 理事長)は、次回の Gender Summit (GS11)がモントリオールで開催されることを踏まえ、Research と Development の間に Diversityを織り込む、すなわち男女異なる視点を持つことによる R&D へ与える影響の重要性につい

て述べた。Gao 氏(中国 National Natural Science Foundation of China 副理事長)は決

定権を持つ女性を増やすことで、産業の発展につながると述べた。Murofushi 氏(お茶ノ

水女子大学長)は、ジェンダーと名がつく日本で初めての研究所の所長として、グローバ

ルリーダーを育てることの重要性、国境を越えた関係を作り上げていくことの重要性を述

べた。Moedas 氏(ベルギー EC)は、ビデオレターにより、EU では女性の比率、特に

相談役クラスの女性比率を 50%にすることを目指していること、それにより多角的な視点

により Innovationがもたらされることを示した。Duncan氏(カナダ Ministry of Science)もまたビデオレターにより、カナダのジェンダーに富んだ政府の組織 Cabinet について紹

介した。最後に主催者側として、日本学術会議会長の Onishi 氏は、科学が政策や産業に与

える影響の大きさについて述べ、科学におけるダイバーシティが進めば、組織の多様性に

関する議論が深まり、産業・政策にプラスの効果があることを述べた。 Plenary 1. History and Future of Gender and Diversity

History and Future of Gender and Diversity について 3 件のキーノート講演があった。

Asakawa 氏(IBM, Carnegie Mellon Univ., USA)は、視覚障害者の立場から、イノベーシ

ョンにより他者に依存する人生から脱却することを目指し、IBM に入社後はデジタル点字

をはじめとして視覚障害者の情報アクセスを容易にする技術開発に取り組んできた。とり

わけ、インターネットの普及は視覚障害者の情報へのアクセスを飛躍的に容易にし、活躍

の場を広げた。次に目指したのが、インターネットのような架空世界ではなく、実世界で

アクセスを容易にすることであり、AI と IOT を駆使して、実際の路上ですれ違う人の顔認

識や、都会の複雑な道路や建物内等においても目的地を案内するシステムを開発した。こ

のシステムは視覚障害者のみならず、健常者にも大いに役立つシステムであり、当初は障

害者支援を目指して開発した技術が、更に広く世の中に貢献可能な技術となった例である。

また、同質の人から構成されるグループよりも、多様性のある人から構成されるグループ

の方が、創造性が高いことも示された。 Leung 氏 (Univ. Hong Kong, Hong Kong)は、父兄主義的な儒教が東アジアにおける男女

不平等の原因であるとの説に異論を唱えた。纏足はその典型として挙げられるが、纏足の

歴史には曖昧な点も多く、そもそも纏足は儒教の教えに合っていない。儒教の教えでは、

男性は外域を、女性は内域を担当し、このことが男女の役割の固定化を促しているように

考えられるが、内域は家計の管理、財産の分配、社会的教育といった重要な役割を担い、

企業も母系親族で経営された。東アジア地域において、女性は政治や経済に関わることを

否定されていたわけではなく、当時の歴史や文化について再考する必要があると纏められ

た。

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Yamagiwa 氏 (Kyoto Univ., Japan)はゴリラの研究者として名高いが、類人猿と人につ

いて身体的特徴と社会科学的観点の双方から比較した。人は類人猿と比較して固有の幼児

期と青年期があることや、出産間隔、脳の大きさの差異等について紹介し、人と類人猿の

家族(群れ)の構成や育児等と関連付けて議論した。 Plenary 2. Female Researchers Tackling Global Serious Issues

このセッションは科学技術振興機構の Hamaguchi 氏を座長として、三名のパネリストに

よる講演が行われた。最初はインドのコンサルタント会社の Abe 氏によるインドのメトロ

建設に関する迫力満点の講演があった。会社で唯一の女性として、建設現場を取り仕切っ

ている様子が、インドの現状とともにユーモアを交えてよく伝わってきた。その背景には、

日本ではトンネル採掘現場に女性は立ち入れないことから海外に出向くしかない現実があ

り、日本の女性技術者が直面する深刻な事実である。続いて、Daw Than Nwe 氏よりミャ

ンマーの教育環境の問題が報告された。国連の SDG (Sustainable development goals) 4 に

掲げられている教育に関する目標を実現するための法整備やその現場レベルでの環境整備

の問題点が指摘された。教育における女性の役割の重要性は普遍的であることが認識され

た。最後に、カンボジア王立農業大学の Seng Mom 氏より女性の農業教育に関する講演が

あった。女性研究者のキャリアパスについてご自身の経験を踏まえて報告された。カンボ

ジアの文化に由来する問題点もあるが、周囲の理解や家族の協力の必要性など共通課題も

多く、それゆえに解決も容易でないことが想像された。三名ともに共通して、うまくいく

例を社会全体で共有することの重要性を認識した。 Plenary 3. Gender-based Research and Innovation

Gender-based Research and Innovation においては、司会者 Londa Schiebinger 氏(米

スタンフォード大)を含め5件の講演があり、新しい Gendered Innovation の取り組みに

ついての紹介があった。氏は生物学的性差 Sex と社会学的性差 Gender の違いについて述

べ、たとえば、生物学的性差については(たとえば心疾患における男女の罹患率)、統計的

処理が可能であるが、社会的性差については(たとえば「男らしさ」「女らしさ」)、ふさわ

しい評価軸がないため、新しい指標を提案し、7 項目をその指標として挙げた。その指標に

より、ジェンダーに対する許容範囲を評価することで、Innovation に繋がると述べた。 Wolfgang Burtscher 氏(ベルギー EC)は、EU での Horizon2020 というプログラムについ

て述べた。ジェンダーの視点(Gender Dimension)を評価し研究費を拠出している。たと

えば、プログラムの策定や評価・申請者の男女比、コンソーシアムの設立における男女比

を評価する。さらにプログラム参加者をトレーニングすることで、Gender Dimension の進

んだプロジェクトが増加していると述べた。 Hee Yong Paik 氏(韓国 Center for Gendered Innovations in Science and Technology

Research)は、GS6 の開催者であり、韓国における Gendered Innovation (GI)を積極的に進

めている。GS6 の韓国での影響は大きく、政治も含め韓国内での啓蒙活動が広まった。韓

国科学財団での取り組みとして、GI という指標を研究に導入した。たとえば、2014 年に米

国 NIH で細胞の性別の記載、男女のバランスに留意するよう勧告されたが、韓国でも食物

摂取の影響の性差を調査した。 Xueyan Yang 氏(中国 西安交通大学)は、青少年の自殺以外の自傷行為 Non-suicidal

self-injury (NSSI)に関する性差について報告した。大学においては、NSSI は男子が女子よ

り有意に多いが、中高校生については有意な性差は見られないものの、性的な役割分担に

ついての偏見が NSSI に影響を与えているということが明らかになった。 Mathias Wullum Nielsen 氏(米 スタンフォード大)は、米 NIH と EU が共同で講じてい

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る科学における Gender Equality 政策について述べた。医学分野では女性やマイノリティ

がリーダーになりづらく、世界的な健康や知識向上を抑制していると言われている。NIHは医学分野で多様性がどのように研究成果に影響を与えているかを科学的に調査した。540万件の医学系論文において①著者②筆頭著者③最終著者、の性別について分析し、研究内

容に GSA (Gender sex analysis)(性差に関する分析)が含まれるかとの関係について検討

した。その結果、①~③すべてにおいて女性が研究グループに入ると GSA の割合が増加す

ること、特に最終著者が女性の場合影響が大きいことが分かった。このことから、Gender Diversity と研究成果の間に関連があり、多様性により科学の進歩が促されることを見出し

た。 Parallel Session 1.Benefits from Women's Participation in Science, Technology and Innovation (女性参画拡大により期待されるイノベーション上の利点の具体化)

このパラレルセッションでは女性参画による利点が様々な視点から議論された。

1. Gendered innovations from research, data and case examples 前半は日本 IBMのNameki氏の座長の元で4名のパネラーによる講演を基本として活発

な議論が行われた。女性参画の効果やその役割の重要性をタイの Area Based Collaborative研究や東日本大震災の復興など具体的な事例として紹介されていた。特に後者は時系列の

ステージ毎に女性の役割が変遷する様子が細かく伝えられており、報道などで知ることの

ない貴重な事例を共有する場になった。また、研究開発において女性参画による効率向上

が具体的な数値データとして紹介された事例は大変印象的であった。統計の母集団が大規

模な企業に限定されていることなどは解釈の必要なこともありそうであるが、調査も含め

て実証データを増やすことは社会の変革には必要と思われる。 2. Real cases of innovation generated by women's participation in the business world

後半はカタリスト・ジャパンの Tsukahara 氏が座長となり、ビジネスにおけるジェンダ

ーイノベーションの事例紹介に関して4名のパネリストにより話題提供と議論が行われた。

日本の経済産業省から企業の成長戦略としてのアクションプランであるダイバーシティ

2.0 が紹介されるとともに、日産自動車、日本 IBM、インドの IT 企業である Wipro からそ

れぞれの企業でのジェンダーダイバーシティの取り組みと成功事例が紹介された。ここで

も女性参画による経済効率の上昇やダイバーシティによる製品設計・販売促進効果が実証

された。企業における女性比率の向上は一つの目標であるが、日産自動車の成功事例は衆

目を集める点であった。企業でのダイバーシティへの取り組みの事例は社会的なインパク

トも大きく、注目を集めたセッションであったと言える。 Parallel Session 2.Promotion of Gender Equality by Improving Access and Use of Researcher Database (男女共同参画推進のための研究者情報の整備と活用)

このパラレルセッションでは、研究者データベースの構築と、研究者データの分析結果

を男女共同参画の促進に活用するための課題等について議論が展開された。 2-1. 男女共同参画関連データベースの構築 国立情報学研究所の新井紀子氏より、同氏が主導して構築を行ってきた研究者データベ

ースの活用について講演があった。researchmap は、人工知能データ解析を行っており、3人の共同研究者あるいは 5 報の論文を入力するだけで自動的に他の研究業績も検索し、ま

た共同研究者の候補なども挙げるという機能が備わっている。この機能を活用することに

よって、女性研究者のネットワーク構築と女性研究者の直面している諸問題の可視化も可

能であるとの提案があった。 次に、イタリア国立研究協議会の Avveduto 氏より、欧州研究分野男女共同参画ネットワ

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ーク(Gender Equality Network in the European Research Area)に参入している欧州各

国で設定された「物理における男女共同参画の日(Gender-in-physics days)」に行われた

国立研究所による大規模調査のデータにおける情報不足問題に焦点があてられた。取得が

不足している情報としては、例えば、未婚・非婚・同棲・寡婦・寡夫などの結婚情報、育

児家庭における親族のサポート環境、学位取得までにかかった年数、パーマネント制に移

行するまでの任期契約の内容(期間等)、所属機関における責務の内容、雇用期間中の育児

や介護による休職・非常勤の内容、研究業績の詳細(研究環境と業績との相関調査に必要)、

などがあげられた。これらの不足情報は、新たなアンケート調査だけでなく各研究機関で

保有している既存の情報からも抽出可能なものが多くあり、各研究機関は積極的にこのよ

うなデータ抽出の方法を見出す努力を行う必要があるとの結論が述べられた。 インドネシア若手研究者センターの Raharti 氏からは、「インドネシアにおける教育機会

の性差減少と女性達の意見反映」と題する講演が行われた。インドネシアでは、科学技術

系学部における女性教員の割合は全体の 57%、女性研究者の割合は、物理系で 69%、生物

系で 59%といずれも男性よりも高い割合となっている(2016 年)。また、34 名の大臣中 9名が女性(2016 年)となっており、政策における意見反映の男女格差も縮小されていると

の報告があった。 中華人民共和国会計検査院の Zhang 氏からは、中国の科学技術における女性人事の優遇

政策とその効果について発表があった。その結果、科学分野において現在も卓越した業績

を有する研究者で女性が占める割合は医学関係が多く、また 45 歳以上に偏っていること、

依然として女性研究者は男性に比べて少ないといった特徴が述べられた。提言として、研

究者における男女格差を無くすための法整備をすすめること、女性と男性の定年年齢を社

会全体で同じくすること、女性研究活動支援のための助成基金を施行すること、出産・育

児休暇期間を長期化することが挙げられていた。その後、東京大学 森初果氏を座長として

2-1 の 4 名の登壇者により「如何にしてより多くの人々と科学分野における男女格差の問題

を共有するか」というテーマでパネルディスカッションが行われた。researchmap に関し

ては、情報開示範囲は制限できるのか、統計として使う時の情報利用はどうするのかとい

う質問が寄せられた。情報開示範囲は各登録者が自由に設定でき、また、統計目的利用に

ついては、あらかじめ登録の際に登録者の承諾を得ているので、日本政府機関又は政府よ

り許諾を得た機関は非公開の情報も統計調査に利用することができるとのことであった。

また、他のネットワークとの接続状況についての質問に対しては、各国で構築している研

究者データベースとの接続(検索の横断化等)も検討しており、他の研究者データベース

(ORCID、 PubMed 等)に掲載されている業績データの取り込みはすでに可能とのこと

であった。インドネシアで科学技術系の女性教員が 6 割近くを占めるのは何故か?という

質問に対しては、この割合の中には研究者だけではなく小・中・高等学校、専門学校の教

員も含まれているからであり、研究に従事している女性教員に限るとまだ男性と比較して

低い比率である、との答えであった。 2-2. 男女共同参画関連データベースの解析

エルゼビア社の Karlson 氏より、全研究分野の包括的見地からみた男女格差というテー

マで、エルゼビア社の論文検索抄録・引用文献データベース Scopus を用いた分析結果の一

部が紹介された。各国の研究者における、男女比、一人当たりの出版論文数、インパクト

ファクター、主著・責任著者、流入・流出研究者数等が列挙され、日本の特徴的な点とし

て、一人当たりの出版論文数および日本国外へ流出する研究者は女性研究者のほうが男性

研究者よりも多いという興味深いデータが紹介された。 次に、韓国明知大学校(Myongji University)の Park 氏より男女共同参画イノベーショ

ン指数の新規提案に関する講演があった。これまで、医療・自動車・社会インフラ整備な

どの開発が、殆どの場合男性の生理機能・身体的スケールをベースに行われていた。その

ため、女性にはうまく適合しない事例が多々あり、さらには副作用や事故にまで発展する

ことさえあった。従来、男女性差と、科学技術革新性に対する国際的指数はそれぞれ独立

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に存在したが、その両者を組み合わせた観点での指数は存在しなかった。そこで、男女共

同参画支援環境充実度、女性参加率、研究開発活動度の観点からレーダーチャートを作成

し、それを基に男女性差と科学技術革新性を兼ね合わせた指数を定義するという試みが紹

介された。これにより試行的に算出された総合指数はマレーシア(0.64)> 韓国(0.41)> 中国(0.39)> シンガポール(0.37)> 日本(0.29)の順位であった。男女共同参画学協

会連絡会の北川氏からは、科学・技術・工学・数学(STEM)分野における潜在力を最大化

するために今後何をすべきか、というテーマで、国内 95 の学協会(正加盟 53、オブザーバ

ー42)により構成される同会により 5 年毎に行われる大規模統計調査結果の考察がなされ

た。その結果、2012 年と 2016 年の状況を比較すると以下の結論が得られた。(1) 女性会員

比率が 20%を超える学協会では、女性の学会長が高確率で存在する。(2)博士前期・後期課

程および、教員の女性比率が大学および国公立研究所で増加傾向にある。 (3)役職就任指数

の男女格差は減少傾向にある。 (4)1 人当たりの平均養育子数がわずかではあるが増加し、

また育児者の職場滞在時間が減少傾向にあり、ワークライフバランスの改善がみられる。

その後、日本大学 野呂氏を座長として 2-2 の 3 名の登壇者により男女共同参画関連データ

ベースの解析についてパネルディスカッションが行われた。データを集めることも重要で

あるが、どのように分析するかという点もさらに重要であるとのコメントが野呂氏よりあ

った。大規模調査の人数規模は各国で同様にしたほうがよいのではないか、との意見など

もあった。企業では性差の大きさを企業のランキングに反映させることが行われているが、

大学・国立研究所においても性差を評価に加えたランキングなどを導入してはどうかとい

うような意見も出された。また、エルゼビアの論文を用いた調査では、看護学の分野では

特に女性の第一著者・責任者の率が男性よりもかなり高くなっている点はなぜか、異分野

横断的研究における男女の差異はあるのかといった質問がなされ、看護学においては研究

者の女性比率が高いこと、異分野横断研究においては、女性の方が男性よりも共同研究を

行う傾向にあることなどが言及された。 Parallel Session 3.Gender Dimensions in Sport (スポーツにおける身体とジェンダ

ー・サイエンスの推進) 「スポーツにおける性別の特質」に焦点を当てたセッションであり、具体的には各国の

オリンピックにおける男女共同参画の取り組み、スポーツに関する性別の違い、社会・経

済活動に対するスポーツの意義など、ジェンダーという観点からから見たスポーツ全般の

課題が取り上げられていた。 前半は、まず來田享子氏(中京大学スポーツ科学部)による講演で、オリンピックにおける

各国の女性アスリートの活躍とその国の男女共同参画レベルとの相関を国際比較した話題

が中心であった。日本は女性トップアスリートはいるがそれが社会の男女共同参画には結

びついていないという指摘が印象的であった。次いで、ニュージーランドの Toni Bruce 氏

(Sociology of Sport, University of Auckland)による、ニュージーランドにおけるスポーツ

と社会の男女共同参画に関連する講演であった。スポーツと男女共同参画に関する各種統

計を紹介しながら、いろいろな角度からこの問題を議論していた。ニュージーランドはオ

リンピックの女性アスリートの活躍とスポーツ活動を含む社会の男女共同参画とがうまく

リンクしている例であることが分かった。Gilda Lasat-Uy 氏(College of Human Kinetics, University of the Philippines Diliman)からはフィリピンの実情が報告された。2016 年リ

オオリンピックでは 2 個のメダルがどちらも女性アスリートによるものであり、それが

Global Gender Gap Index (GGGI)でフィリピンが世界第 7 位(もちろん東アジアではトッ

プ)であることと相関があるかもしれないというポジティブな指摘は興味深かった。 後半は井谷惠子氏(京都教育大学副学長)による、「前例のない超高齢化社会」を迎える

日本におけるスポーツ振興について講演があり、スポーツに対する意識の男女差などに基

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づいて、これまでの競技主体のスポーツ振興から、性別に関係ない多種多様な人々の要求

に応じたスポーツ振興に変えていくことの重要性が指摘された。次は、Payoshni Mitra 氏

(インド)による講演があった。インドの女性リオオリンピック陸上選手 Dutee Chand が高

アンドロゲン症で悩まされ、その結果、体内のテストステロンのレベルが基準値より高い

という理由で、国際陸上競技連盟より参加資格を失っていたが裁判で見事勝利して参加資

格を勝ち取った話とその教訓が、それに関わった立場から紹介された。報告者は全く知ら

ない話だったので大変印象的であった。カナダの Sophie Briere 氏(Faculty of Business Administration, Laval University) と Guylaine Demers 氏(Department of Physical Education, Laval University)による講演では、様々な数値をもとに、カナダのスポーツ振

興・運営での男女共同参画の実態、とくに女性がリーダーシップを果たしていることが生

き生きと紹介された。最後の講演は、スポーツ庁長官で、ソウルオリンピック 100 メート

ル背泳ぎで金メダリストの鈴木大地氏によるものであった(日本語講演)。様々なデータを

示しながら日本のスポーツ行政の現状と課題について紹介があった。現在、スポーツ庁に

は女性のスポーツについて専門に取り組んでいる部署・課はないが、各課をまたがる横断

的な体制を作っていると強調されていた。 報告者にとっては、これまで聞いたことや考えたことがない話題が多く、またスポーツ

庁長官の鈴木大地氏の講演もあったこともあり、大変興味深く聞くことができたセッショ

ンであった。

Parallel Session 4.Developing Evaluation Methods for Diversity in Research (ダイバーシティ推進に係る評価手法の提示)

Craig Henderson 氏(National Science Foundation, NSF)は、アメリカにおける一般

的な diversity 政策について報告した。アメリカは男女とともに人種の問題が大きいため、

これらは NSF の評価項目に入っている。また評価は PI が行うだけでなく、評価過程に ジェンダー 問題についての専門家をいれている。また 2001 年から NSF で行われている

STEM の 分 野 を 対 象 に し た diversity 促 進 プ ロ グ ラ ム ( ADVANCE 、

http://www.portal.advance.vt.edu/index.php/about)の成果についても紹介し、 マサチ

ューセッツ大学ではこのプログラムをきっかけにして科学技術分野から法律などの他の分

野にも広がったことや、プログラム実施後に具体的な変化があったかどうかについての評

価事例が紹介された。 (http://advance.umich.edu/index.php) Yusof 氏は robotics の研究者で、マレーシアの STEM policy について報告した。マレー

シアでは、1970 年から科学技術分野:人文社会学分野の学生比を 60:40 になるような政

策を採っており、現在、STEM 分野では女子学生のほうが人数も多く成績も良い。ただし

教授レベルだと女性比率は少ないなど企業、大学の意思決定の場における女性の参加が少

ない。アンケートとして、男性は女性がストレスの高いポストをこなせないと考えている

が女性はそう思っていないなど、興味深い結果が示された。 イギリスの Hyams 氏は SWAN 憲章の活動について紹介した (SWAN= Scientific

Women’s Academic Network、http://www.ecu.ac.uk/equality-charters/athena-swan/ ) 。 この憲章は当初は物理からスタートし STEMM (Science, technology, engineering, mathematics and medicine) の分野に広がっている。さらに 2017 年からは文系分野にも

拡大し、現在大学や学部などを含めて 143 のメンバーがいる。 Parallel Session 5.Gender Equality from Perspective of Men and Boys (男性・男

子にとってのジェンダー平等) このセッションでは、Gender Summit では初めてとなる男子・男性の問題に焦点を当て、

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中でも男子の学力低下問題に焦点が絞られ議論がなされた。前半は、京都産業大学の伊藤

公雄教授が座長を務めた。OECD の Francesca Borgonovi 氏からは、未公開の PISA レポ

ートを含む統計データから、男子は女子よりも数学と科学で点数が高い一方、読解力は低

いこと、また、トップ層と下位層両方に男子が多いこと、世界全体の男子の学力低下がは

っきりと起こっていることが示された。下位層の男子は、学校へ行くことへのモチベーシ

ョンが低く、インターネットやゲームに時間を費やす傾向があるというのは世界共通のよ

うである。西オンタリオ大学の Wayne Martino 教授より社会学の観点からどのように問題

を整理すれば良いかが提示され、関西大学の多賀太教授よりアジア諸国では現状の調査が

世界の他の地域と比べ遅れていることが示された。多賀氏の講演では、アジア諸国での男

子の “underperformance” の状況が報告された。マレーシア、フィリピン、タイ、ミャン

マーといった国々では、国内の地域によって違いがあるものの、全般的に男子は女子より

も成績が低く、高等教育機関に進学する割合も低く、その理由として、男子は体罰を受け

やすかったり、早期に肉体労働に駆り出されたりすることが挙げられた。これは日本とは

かなり状況が異なり、ジェンダー問題といっても世界的に見ると様々な多様性があること

がわかる。 休憩をはさみ後半では、静岡大学の池田恵子教授が座長を務め、立命館大学の Mario

Liong 准教授より3人の講演を簡単にまとめた後、「どのような現状で、今後どうすれば良

いか?」という問題提起がなされた。そして、6~7人でのグループディスカッションに

おいて、国籍や分野も違う参加者同士が男子の学力低下問題の現状を議論し、その共通点

を見出そうと議論された。男子がゲーム好きなことを逆手に取り、ゲームを学習教材に活

用して勉強に興味を持たせようとしていることが紹介された。統計データだけでは見えて

こない実感としての男子の学力低下問題は、今後の社会問題としてきちんと認識されてい

くべきではないかと思われ、今後の Gender Summit においても話題に取り上げるにふさ

わしいという意見に集約された。 Parallel Session 6.Equal Opportunities for Women & Men in STEM Education (中等教育における女子学生の文理選択の健全化)

STEM 教育が扱う話題は科学・技術・工学・数学の初等教育から高等教育までと実に幅

広い。このセッションでは STEM 教育における女性と男性の機会均等が主題であった。前

半、後半ともに 4 件ずつの講演があった。 前半はまず英国の Clem Herman 氏(Director of eSTEeM, The Open University)より、

セッションの導入的な内容も含めた STEM に関する国際的な共同研究の現状と今後の課題

について講演があった。特に STEM の分野で女性が平均よりも少ないことを理解するため

の国際比較や、IT 分野での英国とインドの女性によるプロジェクトの比較などを示し、女

性に対する STEM 教育の現状を、国を超えた共同研究によって明らかにしていくことの重

要性が強調された。次に、シンガポールのサイエンスライターLakshmi Ramachandran 氏

は、シンガポールの例も引きながら、大学院生までは女性がかなりの比率で STEM 分野に

いるが、ポストドクさらには PI やグループリーダーのレベルになるとその比率が極端に減

ることを紹介するとともに、その様々な要因の中で“無意識のうちの男女差別”について強調

し、それを減らしていくことが重要だと指摘していた。質問に対する答えで、「男性が状況

をよく理解することが大切」と言っていたことが印象的であった。次は、佐藤明子氏(お

茶の水女子大学理系女性教育開発共同機構)による女子中高生が理系を選択するように援助

するための活動について紹介があった。女子中高生の進路選択には家族、とくに母親から

の影響が強いこと、理系を選択にしたことによるロールモデルを示すことの大切さが強調

された。「物理はお友達」ブックレット作成などの同大学の多彩な活動も紹介された。前半

最後は、韓国の Center for Women in Science, Engineering and Technology (WISET)の

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Wha-Jin Han 氏より、韓国での STEM 教育の取り組みが報告された。WISET は 2004 年

から女性の R&D の能力を高めるための大学院生育成プログラム“Postgraduate-led Research Term Project”を開始した。女性大学院生をリーダーとして 7 か月間、大学生や高

校生と一緒に研究プロジェクトを進めるという活動である。すでに、963 チーム、6,441 名

がこのプロジェクトに参加し、その多くが STEM 分野で活躍していると報告があった。韓

国での女性PI 比率は 9%ほどだがこれからこのプロジェクトの出身者がPIとして活躍して

いくと期待される。 後半最初はドイツの Sonoko Dorothea Bellingrath-Kimura 氏(Leibniz Centre for Agricultural Landscape Research / Faculty of Life Science, Humboldt University of Berlin)によるドイツの STEM におけるジェンダーギャップの講演であった。様々な統計

データから女性が STEM 分野で活躍する傾向が上昇しているのは明らかだが、いまだドイ

ツでは女性が STEM 分野に進む際の様々な偏見が見られるということが強調された。また、

それを克服するには女性だけでなく男性も広い視野を持つべきことが指摘された。次に、

伊東昌子氏(長崎大学・副学長)による長崎大学の「リケジョ育成プログラム」(2015 年~)

の紹介があった。このプログラムは女子中高校生、保護者、教員を対象とした理系への進

路選択を支援する取り組みで、高校などでのセミナー、ラボツアーなどを行っている。保

護者、教員を含む参加者は当初の予定を上回り、満足度も高いと報告された。次は、ユネ

スコの SAGA(STEM and Gender Advancement)プロジェクトの報告が Alessandro Bello氏(フランス)からあった。SAGA の目的は、STEM 分野の教育・研究に関するすべての段階

でジェンダーギャップを明らかにすることにある。そこで開発される手法や指標が今後の

STEM 分野の女性進出に対する各国の活動に影響を与えると期待される。最後の講演は、

我々に関係が深い「女子高生夏の学校(略称、夏学)」の報告であった。横倉隆和氏(沖縄

科学技術大学院大学)と夏学にティーチング・アシスタントとして参加している朝井都氏

(芝浦工業大学修士学生)の二名が夏学の現状について報告した。 社会の持続的発展のためにも STEM 分野での女性のリーダーシップが求められている。

女性の比率を上げていくには、何が克服すべき課題でそのためには何が必要かという点に

ついて様々な角度から議論されたセッションであり、各講演に対する質問も活発に行われ

た。 Poster Exhibition 9 分野で計 104 件のポスター発表があった。ここでは担当の報告者が興味を持ったポスタ

ーについて報告する。 応物の発表

応物が若手会員のキャリアパス支援のひとつとして実施している「応物キャリア相談会」

について紹介した。ポスター作成にあたって、文科省が毎年公表している学校基本調査の

過去 27 年分のデータを元に、分野別の博士後期課程進学者数の推移をまとめた。1990 年

代のポスドク等 1 万人計画により文理問わず全ての分野で進学者数が増加し、2003 年に合

計 18,000 人を超えてピークとなった後、いわゆるポスドク問題が顕在化して医学分野を除

いて減り続け、2016 年度は合計で 15,000 人を切っている。この状況を少しでも改善し、

優秀な学生に博士課程に進学してもらうべく、応物では 2008 年からキャリア相談会を開始

した。企業所属の会員が 34 %を占めるという応物の特徴をいかし、博士を積極的に採用し

ている企業にブースを出してもらい、博士が企業でどのように活躍しているか、また、ど

のような人材を望んでいるか等を、参加者がじかに聞ける機会を設けている。このイベン

トがきっかけとなって企業への就職が決まった女子学生の例も紹介した。 P1-2 では、日本のダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ 女性研究者研究活動支援事

業として 特色型として採用されたプロジェクトの成果報告を実施した。平成 27 年度採択

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連携型「ダイバーシティダイアモンドユニット事業」東京医科歯科大 順天堂大 株式会

社ニッピが発表。JST のプロジェクトは、6 年間であり、JST から補助されるのは最初の 3年間という。その間の成果を求められるが、成果としては「組織内の女性比率の向上」と

いう目に見える形でしか評価されないことが問題とされた。本テーマの取り組みの質から

考えると数値に現れるのはかなり先のことであると考えられるため、本当に身がある取り

組みを行ったかどうかの正当な評価とは言えない。それよりも、本取り組みにより、女性

職員(研究者も含め)の考え方が徐々に変化してきていることを紹介し、より高い職位を

目指す女性が増えていることを示した。 P1-7 では、エルゼビアが有する大量の情報を活用し、ジェンダーバランスの向上を目指し

た試みについて紹介した。地域によるジェンダーバランスの相違を可視化し、Gender Equity により得られる利点について述べた。特に物理分野においては、男女共同参画に課

題が残り、男女それぞれの一人当たりの論文数から考えると、日本の女性研究者は、多数

の論文を書くことができなければ生き残れない、という現実を示しているのかもしれない、

と考察した。 P6-2 では、応用物理学会も参加している「女子中高生夏の学校」の取り組みについて紹介

があった。高校生には学校の理科や数学の授業を通じて理学部の研究内容はイメージしや

すいが、工学部の研究内容はイメージしにくいとの課題が挙げられた。また、高校生は経

験が少ない分、視野が狭く、例えば、物理学と医学が関連していることや、学際的領域の

重要性、社会との関わり等についての理解が不充分である。文理選択に関しては、世の中

が文理に単純に二分化できるようなものでないことや、多くの学問分野が相互に密接に連

関していることなど、広い視野を持たせることも夏の学校の役割ではないかといったこと

を、ポスター発表者と議論した。また、ポスター発表者からは、女性研究者の育成に携わ

ったシニアの男性会員を応用物理学会から派遣してほしいとの要望があった。 P6-6 では、女性の科学技術人材を増やすための政策モデルであるパイプライン理論と、そ

れに基づく政策に関する議論について紹介があった。パイプライン理論とは、パイプライ

ンの入り口に女子を送り込めば送り込むほど、専門職として有能な女性が増え、科学技術

職に就く女性が自ずと増えることを想定する政策モデルである。中国では女性研究者が増

えなかったという報告があり、また、博士号を取得しアカデミックポストを得るという直

線的なキャリア形成を「パイプライン」と比喩し、アカデミックな「パイプライン」を外

れた場合に「脱落」したというネガティブな見方をすることに対して批判があるとのこと

であった。多くの女子に科学技術への関心を持たせるという入り口に異論はないが、実際

の女性研究者のキャリアは直線的ではなく、企業への就職や、専門と異なる職種に就くと

いった出口の多様性があって然るべきであること、日本の女性研究者増加政策に名前を付

けるのであれば、幅広い職業選択がイメージされるような言葉を選ぶ必要があるのではな

いかといったことを、ポスター発表者と議論した。 Plenary 4. Social Responsibilities of Science

Social Responsibilities of Science について、Harayama 氏 (Council for Science,

Technology and Innovation, Japan)の司会のもと、3 件の講演があった。Campbell 氏 (Nature, UK)は、自身の経験から、資金配分機関は資金提供するのみならず、研究内容に

ついても充分に理解し、研究者と議論すべきと述べた。アテナ・スワン憲章の重要性につ

いても述べた。Tshering 氏 (Ministry of Agriculture & Forests, Bhutan)は、国土の 71%が森林で耕作可能地が 7.8%しかないブータンの経済成長と幸福度の指標について紹介した。

都市への人口流入や地方の貧困の問題はあるものの、教育を受けている人の幸福度は高く、

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女性が高等教育を受けることの重要性について論じた。Guevara 氏(Univ. Philippines)は、

フィリピンの STEM 分野における女性の進出について紹介した。1987 年に Aquino 氏が女

性として初めて大統領に就任する以前は、STEM 分野は男性の比率が支配的であったが、

Aquino氏の大統領就任後は女性の進出が目覚ましく、半数以上を占めている。女性は理学、

医学系が多く、男性は工学系が多い。今や女性の賃金は男性よりも高く、女性議員も増え

るなどの波及効果もあり、Univ. Philippines の工学部長は三代続けて女性であることなど

も紹介された。3 件の講演に続くディスカッションでは、幸福度は GDP よりも重要とブー

タンでは考えられていること、Nature の論文の分析を通じて、多様性のあるグループでは

異なる視点で研究を進め、結果的に成功に結びつきやすいことなどが論じられた。セッシ

ョンの最後に Chair の Harayama 氏によって社会改革のためにも科学は必要と纏められた。 Plenary 5. Conclusions / Next Steps: Report of Working Groups (Parallel Sessions)

パラレルセッション1~6それぞれのテーマと議論された内容が、各セッションの Chair

から報告された。特に、セッション2の森氏から、GS10 初日に S&T Gender Portal サイ

トがオープンしたことが報告されたのが印象的であった。 Plenary 6. Conclusions / Next Steps: Proposal on Gender Equality for UN SDGs

UN SDGs(United Nations:Sustainable development goals)のための提言、「東京提

言:架け橋(BRIDGE)」として以下が発表された。 1.ジェンダー平等は持続可能な社会と人々の幸福に不可欠な要素であり、科学、技術及

びイノベーションが人々の生活をどれくらい良いものにできるか、その質を左右する。

それは、男女間の機会均等に加え、ジェンダーの科学的理解とジェンダーの差違が科学

技術の主要因と捉えられ分析されてこそ社会にイノベーションをもたらし得る。 2.ジェンダー平等は17ある SDGs すべての実践に組み込まれることが必要であり、

科学技術イノベーションと共に歩むジェンダー平等は、国連の持続的な開発目標(SDGs)のそれぞれと結びつき、17すべての目標の実現を促す架け橋となる。

3.SDGs に掲げるジェンダー平等は、社会における多様性、とりわけ、女性や女子、男

性や男子、民族や人種、文化等が果たす意味や役割を社会がどのように認識して定義し

ているか、その関係性を考慮して進める必要がある。それはジェンダー平等 2.0 として、

産業界を含むすべての関係者にとって自らが取り組む持続的課題のひとつとすべきであ

る。 Closing Session

閉会のセッションでは、「ジェンダーサミットの将来」のタイトルで、オーストラリア大

使館のWalsh氏、カナダ王立協会会長のLassonde氏、チリ大使館領事のStockins氏、Portia社の Pollitzer 氏による講演が行われた。

Walsh 氏の「豪州の STEM 分野における男女平等の検討課題」では、豪州では STEM分野で学位・資格を取得した女性が増加しているものの、依然として女性は全体の 1/4 程度

の比率にとどまっているとの報告があった。この対策として、STEM 分野での女性の増進

を図るため、アテナ・スワン憲章に基づいて国から 1300 万豪ドルを 4 年間助成し、STEM教育およびベンチャーの起業も支援するとともに、男性からの変革を支援する体制を整え

る旨が述べられた。

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Lassonde 氏の「Gender Summit 11―研究開発分野における多元的、包括的、倫理的な

多様性」では、2017 年 11 月 6-8 日にモントリオール(カナダ)で開催される GS11 の内容

について発表があり、女性・男性に加え、その他の性も含めた異性共同参画の拡大、工業

分野および学術関係機関における男女共同参画、多様性とリーダーシップのあり方、カナ

ダおよび世界の先住民族コミュニティーに於ける諸問題等をテーマにするということが述

べられた。 Stockins 氏は 2017 年 12 月 6-7 日にサンチャゴ(チリ)で開催される GS12 について紹

介した。南米での Gender Summit 開催は初であるということと、官民・NGO 団体ととも

に開催を推進していくことが言及された。 Pollitzer 氏は「ともに架け橋(BRIDGE)を造っていきましょう」というタイトルで

GS10 を総括した。この Gender summit は、「池に小石を投げてみる」という試みであっ

て、今回 600 以上の小石が集まり、それぞれの投げ入れた小石によってできた波が重なり、

大きなインパクトを生み出すことができた。また、現在起ころうとしている第 4 次産業革

命を男女共同参画とともに進めていかなければならない。このためには、科学者・政策立

案者の専門知識とサポートが欠かせない、との言及があった。 また、最後に GS10 議長、科学技術振興機構副理事 渡辺美代子氏より、今回の事前参加

登録人数は 585 名、当日登録参加を含め 600 名以上が会議に参加し、また 114 の政府関連

機関・企業・学協会から協賛を得られた旨が報告された。

図 パラレルセッション2のオーガナイザと発表者の集合写真 会議全般に関して

Gender Summit 自体が、科学技術だけでなく、政策・社会学などの多様な分野の集まっ

た国際会議であるため、内容は多岐にわたり濃いものであった。特に、Plenary 4 で提言さ

れた新しい指標については、なかなか Gender Equality が進まない日本にとって新しいア

イディアになるとされ、今後の Gendered Innovation への展開を期待したい。 セッションは、アジア各国が中心になるように企画され、日本や EU・北米の発表は一部

であった。アジア各国の男女共同参画に関しては、日本よりも女性比率が圧倒的に高く、

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韓国でも女性比率はやや高く、日本がアジアの中においても女性研究者比率が上昇してい

ない。日本でも EU・北米でも、男女共同参画委員会の活動は活発に継続しているものの、

活動が限界に直面しているからか、これまでの Gendered Innovation から一歩進んだ、新

しい Gender Equality の指標が打ち出され、さらに国連の SDGs の提言でも挙げられてい

ることから、今後5~10年でさらに変化していくものと期待される。少しずつではある

が、ジェンダーの多様性が、組織、学問分野、次世代人材に反映されていってほしいと強

く願う。 特に日本においては、STEM 分野で Gendered Innovation の研究者はほとんどおらず、

参加者のほとんどは、自分の研究テーマと並行して Gender Equality へ貢献していると考

えられる。このような努力が女性研究者技術者の公正な活躍へつながるように、活動を続

けていく必要がある。そのためには、現在の「女性比率」が上がったか下がったかを指標

にしたゼロ・イチの評価だけでなく、社会全体でジェンダーに対する意識がどのように変

化したかというより深みがある評価軸の確立を望みたい。

一方、特に口頭発表においては以下の点が原因で分かりにくくなっている発表が多かっ

た。 (1) 文章が長く文字が小さい(見づらい)スライドが多い。:異分野の聴講者に理解させよ

うと思うのであれば、シンプルで見やすいスライドにしなければ印象に残らない。 (2) 課題・目的・対策・対策実施の効果・残された課題・まとめ、といった流れで区切って

おらず、混然一体となっている。 (3)数値による結果の提示・具体的な Recommendations の内容の提示がされていない これらも多様性の一環ともいえるが、会議の目的のためには聴講者への理解を促すことが

重要で、そのためには理系の発表における常套のながれ(1) 背景 (2)目的 (3)実験方法 (4)実験結果 (5)考察 (6) 残された課題と対策 (7)結論・まとめ といったような発表形式で、

もう少し具体的な数値を示しながら発表を構成していく努力をできればと考える。

(報告者) 森 初果 東京大学 教授 日本物理学会 野尻美保子 高エネルギー加速器研究機構 教授 日本物理学会 遠山 貴巳 東京理科大学 教授 日本物理学会 福島 孝治 東京大学 准教授 日本物理学会 鹿野 豊 東京大学 特任准教授 日本物理学会 増田 淳 産業技術総合研究所 副研究センター長 応用物理学会 松木 伸行 神奈川大学 准教授 応用物理学会 庄司 一郎 中央大学 教授 応用物理学会 河西奈保子 NTT 主任研究員 応用物理学会

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(参考) Gender Summit 10 プログラム

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(参考)ポスター発表リスト

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