magneticresonancecholangiopancreatography...

4
厚生連医誌 第18巻 1号 51~54 2009 51 症例報告 Magnetic Resonance CholangioPancreatography (MRCP、胆嚢胆管膵管撮影)における ボースデル(陰性造影剤として)の使用経験 村上総合病院放射線科;診療放射線技師 まつ こう 松田 康司 背景:Magnetic Resonance Imaging(MRI)検査におけ る胆嚢胆管膵管撮影(Magnetic Resonance Cho- langioPancreatography,MRCP)は、内 視 鏡 的 逆 行性胆管膵管造影(Endoscopic Retrograde Cho- langioPancreatography, ERCP)を行えない患者 にとって有用な検査と考えられる。MRCPは いまや必要不可欠な検査方法となっており、そ の非侵襲性などの特徴から、スクリーニング検 査として重要な役割を担っている。MRCP用 造影剤塩化マンガン四水和物(ボースデル内用 液)(図は、添加物の還元水アメとキサンタン ガムによって、消化管内の水信号を特異的に抑 制する働きがある。 症例内容:今回の症例は CT により腹部領域に病変を 指摘。ボースデル内用液を使用し MRCP を施 行した。 結論:当院では一昨年の9月より使用を開始し、以前 に増して診断に有用な画像を医師に提供する事 が可能となっている。 キーワード:胆嚢胆管膵管撮影(MRCP)、消化管内 水信号 MRCP では静止した水がすべて高信号として描出 される。いわば水が強調された画像とも言える。腹部 領域では、消化管内の水分があり、胆管、膵管と重なっ て描出されてしまい、診断の妨げになる。ボースデル 内用液は、添加物の作用で消化管信号を抑制する。主 成分はマンガンで、以前当院で使用していた鉄製剤の クエン酸アンモニウム(フェリセルツ)で行っていた 鉄アレルギーの問診が不必要となった。キサンタンガ ムは、マンガンを腸管内に均一に拡散させ、還元水ア メは検査後、マンガンを速やかに排出させる効果があ る。副作用として軟便や下痢などがあるが、症状は軽 く一過性なので、一般的には問題視することはないと 言われている。ただし、副作用が起こる可能性を患者 に説明する事を忘れてはいけない。実際の画像を参照 しつつ、ボースデルの概要、問題点を提示する。 使用機器、薬剤 ① Gyroscan 1.5T(Philips社製) ②ボースデル内用液(協和発酵) 方法;検査直前に患者にボースデル内用液250mlを服 用してもらう。当院では、ルーチン検査として4 種類の撮影をしており、その1つで2D の MRCP 画像を撮影している。MRCP 画像は、一回当た り3秒の息止めで、総胆管を中心に15度ずつ回転 させ、計9回撮影する(図2)。大半の患者は無 理なく撮影が可能である。息止めが困難な患者で は、他のシーケンスで使用するためレスピレー ターを装着しているので、呼吸の波形を見て患者 の呼吸に合わせ、撮影者がタイミングを計り撮影 する。 図3!" CT で膵体部に Low Density Area を認め、MRCP を 施行した所、嚢胞性病変が確認された。この患者は主 膵管型の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMT)と診断された。 ボースデル内用液の使用により、消化管内の水信号 が良好に抑制され、主膵管が明瞭に描出されている。 図4!" CT で膵頭部に腫瘍性病変を認め、MRCP を施行。 膵頭部癌と診断。ボースデルにより、総胆管起始部が 狭窄し、総胆管・膵管の拡張が鮮明に描出されている。 当院では、以前フェリセルツを使用していたが、フェ リセルツは本来消化管における陽性造影剤として使用 する造影剤であり、本来とは異なる使用方法をしてい たので、保険対象外の薬剤として使用していた。また、 味も甘みが強く、酸味や鉄味もあり、比較的高齢者が 対象となる事が多い検査なので、飲みづらく感じる方 が多数いた。また、画像も陰性造影剤としての効果も 薄く、十分な診断効果を得られない症例が存在した。 対してボースデルは、MRCP 用造影剤として保険適

Upload: others

Post on 20-Mar-2020

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: MagneticResonanceCholangioPancreatography …janiigata.sakura.ne.jp/JMNK/18-1/051.pdfMRCPにおいて、ボースデル内用液の使用は、診 断においてよりよい画像を提供する事を可能とした。使用した経験上、250mlで水信号を抑制するには十分

厚生連医誌 第18巻 1号 51~54 2009

― 51 ―

症例報告

Magnetic Resonance CholangioPancreatography(MRCP、胆嚢胆管膵管撮影)における

ボースデル(陰性造影剤として)の使用経験

村上総合病院放射線科;診療放射線技師

まつ た こう じ

松田 康司

背景:Magnetic Resonance Imaging(MRI)検査における胆嚢胆管膵管撮影(Magnetic Resonance Cho-langioPancreatography,MRCP)は、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(Endoscopic Retrograde Cho-langioPancreatography, ERCP)を行えない患者にとって有用な検査と考えられる。MRCP はいまや必要不可欠な検査方法となっており、その非侵襲性などの特徴から、スクリーニング検査として重要な役割を担っている。MRCP 用造影剤塩化マンガン四水和物(ボースデル内用液)(図は、添加物の還元水アメとキサンタンガムによって、消化管内の水信号を特異的に抑制する働きがある。

症例内容:今回の症例はCTにより腹部領域に病変を指摘。ボースデル内用液を使用しMRCP を施行した。

結論:当院では一昨年の9月より使用を開始し、以前に増して診断に有用な画像を医師に提供する事が可能となっている。

キーワード:胆嚢胆管膵管撮影(MRCP)、消化管内水信号

背 写

MRCP では静止した水がすべて高信号として描出される。いわば水が強調された画像とも言える。腹部領域では、消化管内の水分があり、胆管、膵管と重なって描出されてしまい、診断の妨げになる。ボースデル内用液は、添加物の作用で消化管信号を抑制する。主成分はマンガンで、以前当院で使用していた鉄製剤のクエン酸アンモニウム(フェリセルツ)で行っていた鉄アレルギーの問診が不必要となった。キサンタンガムは、マンガンを腸管内に均一に拡散させ、還元水アメは検査後、マンガンを速やかに排出させる効果がある。副作用として軟便や下痢などがあるが、症状は軽く一過性なので、一般的には問題視することはないと言われている。ただし、副作用が起こる可能性を患者に説明する事を忘れてはいけない。実際の画像を参照しつつ、ボースデルの概要、問題点を提示する。

症 例

使用機器、薬剤①Gyroscan 1.5T(Philips 社製)②ボースデル内用液(協和発酵)方法;検査直前に患者にボースデル内用液250ml を服用してもらう。当院では、ルーチン検査として4種類の撮影をしており、その1つで2DのMRCP画像を撮影している。MRCP 画像は、一回当たり3秒の息止めで、総胆管を中心に15度ずつ回転させ、計9回撮影する(図2)。大半の患者は無理なく撮影が可能である。息止めが困難な患者では、他のシーケンスで使用するためレスピレーターを装着しているので、呼吸の波形を見て患者の呼吸に合わせ、撮影者がタイミングを計り撮影する。

所 見

図3�、�CT で膵体部に Low Density Area を認め、MRCP を施行した所、嚢胞性病変が確認された。この患者は主膵管型の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMT)と診断された。ボースデル内用液の使用により、消化管内の水信号が良好に抑制され、主膵管が明瞭に描出されている。図4�、�CT で膵頭部に腫瘍性病変を認め、MRCP を施行。膵頭部癌と診断。ボースデルにより、総胆管起始部が狭窄し、総胆管・膵管の拡張が鮮明に描出されている。

考 察

当院では、以前フェリセルツを使用していたが、フェリセルツは本来消化管における陽性造影剤として使用する造影剤であり、本来とは異なる使用方法をしていたので、保険対象外の薬剤として使用していた。また、味も甘みが強く、酸味や鉄味もあり、比較的高齢者が対象となる事が多い検査なので、飲みづらく感じる方が多数いた。また、画像も陰性造影剤としての効果も薄く、十分な診断効果を得られない症例が存在した。対してボースデルは、MRCP 用造影剤として保険適

/【K:】Server/08120656 新潟県厚生農業協同組合/本文/19   051~054 2009.02.12 14.25.07 P

Page 2: MagneticResonanceCholangioPancreatography …janiigata.sakura.ne.jp/JMNK/18-1/051.pdfMRCPにおいて、ボースデル内用液の使用は、診 断においてよりよい画像を提供する事を可能とした。使用した経験上、250mlで水信号を抑制するには十分

Magnetic Resonance CholangioPancreatography(MRCP、胆嚢胆管膵管撮影)におけるボースデル(陰性造影剤として)の使用経験

― 52 ―

図1;ボースデル内用液

応され、無味無臭に近いため飲みやすく、消化管の水信号も広範囲で抑制でき、目的部位が明瞭に描出されるようになった。しかし問題点として挙げられる事は、ボースデルに

より消化管の水信号は抑制されるが、同領域に存在する腎などの尿路系や脊髄の水信号は抑制されずに描出することが挙げられる。当院では対処法として、Satu-ration(SAT)Pulse を計画段階でかけて、診断の妨げになる信号の抑制に努めている(図5)。

結 語

MRCP において、ボースデル内用液の使用は、診断においてよりよい画像を提供する事を可能とした。使用した経験上、250ml で水信号を抑制するには十分な量であり、僅かに甘味を感じるが、飲みにくさは無く、患者が負担を感じる事は少ないと考える。技師・患者双方にとって有益のある薬剤と考える。今後もさらなる画像の向上に努めたい。

参 考 文 献

原留 弘樹 ボースデル内用液(小冊子)、協和発酵工業株式会社、2007年9月;3-6

英 文 抄 録

Case Report

A case of use experience of the oral manganese chloride

tetrahydrate(Bothdel OralSolution 10, Meiji Dairies Co.and Kyouwa Hakko Kogyo Co.)pretreatment in magneticresonance cholangio-pancreatography(MRCP)for a nega-tive contrast medium of intestinal fluid on T2 weightedimage(T2WI)

Murakami General Hospital, Department of radiology ;Radiological technologistKouji Matsuda

Background : On diagnosing cholangio-pancreatic dis-eases, MRCP was one of effective diagnostic toolsfor instead of endoscopic retrograde cholangio-pancreatography(ERCP).The additives in BothdelOralSolutin 10A were expected to specifically re-strain a water signal in digestive organs as nega-tive contrast medium, obtaining clearer cholangio-pancreatic image.

Case : We experienced a case of intraductal papillary mu-cinous tumor of main pancreatic duct type, whichcould be disclosed clearly by MRCP with bothdelOralSolution 10.

Conclusion : Bothdel OralSolution 10 was demonstratedas an effective negative contrast medium inMRCP.

Key Words ; magnetic resonance cholangio-pancreatogra-phy(MRCP), manganese chloride tetrahydrate(Bothdel OralSolution 10, Meiji Dairies Co. andKyouwa Hakko Kogyo Co.), negative contrast me-dium

/【K:】Server/08120656 新潟県厚生農業協同組合/本文/19   051~054 2009.02.12 14.25.07 P

Page 3: MagneticResonanceCholangioPancreatography …janiigata.sakura.ne.jp/JMNK/18-1/051.pdfMRCPにおいて、ボースデル内用液の使用は、診 断においてよりよい画像を提供する事を可能とした。使用した経験上、250mlで水信号を抑制するには十分

厚生連医誌 第18巻 1号 51~54 2009

― 53 ―

図2;当院のルーチン検査

図3�;CT画像

図3�;MRCP画像

/【K:】Server/08120656 新潟県厚生農業協同組合/本文/19   051~054 2009.02.12 14.25.07 P

Page 4: MagneticResonanceCholangioPancreatography …janiigata.sakura.ne.jp/JMNK/18-1/051.pdfMRCPにおいて、ボースデル内用液の使用は、診 断においてよりよい画像を提供する事を可能とした。使用した経験上、250mlで水信号を抑制するには十分

Magnetic Resonance CholangioPancreatography(MRCP、胆嚢胆管膵管撮影)におけるボースデル(陰性造影剤として)の使用経験

― 54 ―

図4�;CT画像

図4�;MRCP画像

図5;対処法2008/11/17 受付(2009-04)

/【K:】Server/08120656 新潟県厚生農業協同組合/本文/19   051~054 2009.02.12 14.25.07 P