1771

115.

616.715.1-0.18.46-002

後頭骨ニ發生シタル急性化膿性骨髓炎ノ1例

岡山醫科大學三宅外科教室(主 任三宅教授)

副 手 黒 田 孝 重

[昭 和17年6月13日 受稿]

第1章 緒 言

頭 蓋骨 ニ於 ケル 骨髓 炎 ハ長 管 状 骨 ノ夫 レ ト同様

ナ ル疾 患 ニシ テ1778年Pottノ 骨 打 撲 症 ニ關 スル

症 状 群 トシテ ノ記載 ヲ以 テ嚆 矢 トス.氏 ハ打 撲 激

烈 ナ ル場 合外 硬 腦 膜 ノ血 腫 ニ ヨ リ硬 腦 膜 ノ剥 離 サ

ル ル タ メ本症 状 群 ヲ惹 起 シ,其 ノ際 生 ジ タ血 腫 ニ

ヨ リ硬 腦 膜 ニ刺 戟 ヲ與 ヘ,次 イデ化 膿 性 炎 症 ヲ誘

發 スル ナ ラ ン ト論 ゼ リ.

一般 骨 髓 炎 ニ關 シ テハ1859年Chassaignacノ

記述 ニ始 マ リ,更 ニ1879年Lannelongneハ 其 ノ

著"Uber die Akute Osteomyelitis Wahrehd

des Wachstum"ニ 於 テ扁 平 骨及 ビ短 骨 ノ化 膿

性炎 症 ノ極 メテ鑑 別 困 難 ニ シテ然 カ モ其 ノ症 状 ノ

輕視 スベ カ ラザ ル ヲ述 ベ,1882年Fischerハ 頭 蓋

骨 ニ何 等誘 因 ナク シ テ來 タ リシ炎 症 トシ テ本 症 ヲ

論 ジ,遂 ニ1900年 ニ至 リテBergmannハ 原 發性

血行 性 頭 蓋骨 々髓 炎 トシ テ本 症 ノ詳 細 ナル 記 載 ヲ

ナセ リ.

斯 ク ノ如 ク扁 平 骨 及 ビ短 骨 ニ發 生 セル骨 髓 炎就

中頭蓋 骨 々髓 炎 ハ其 ノ解 剖 學 的 位 置腦 ニ近 ク,其

ノ病變 又 生命 ノ危 險 ヲ招來 シ易 キハ 明 白 ナ ル事 實

タル ベ シ.從 ツテ本 症 ニ於 ケル症候 學 的竝 ニ治 療

學 的 意義 ハ他 骨 ノ骨 髓 炎 ト區別 サル ベ キモ ノ ニ シ

テ,之 ヲ診 斷學 上及 ビ轉歸 ノ點 ヨ リ觀 察 スル ニ臨

牀 上 極 メテ意義 大 ナル ヲ思惟 セ ザル ベ カ ラズ.

本 症 ノ短,扁 平 骨 々髓 炎 中極 メテ稀 有 ナル ハ從

來 ノ統計 ヨ リ觀 察 スル ニ明 白 ニ シ テ,文 獻 ヲ渉獵

スル ニ催 炎 菌 ヲ記 載 セ ルモ ノ尠 キ タ メ不 詳 ナ ル モ

ノ多 ケ レ ドモ本 症 ハ 一 般 骨髓 炎 ト同様 其 ノ病 原 菌

ハ 葡 萄 状球 菌 ヲ主 トシ,之 ニ比 シ連 鎖 状 球 菌 ハ遙

ニ尠 キ ヲ普 通 トシ,コ ノ兩者 ノ混 合 感 染 ニ ヨル ハ

更 ニ其 ノ數 ヲ減 ズ ル モ ノ ナ リ.

余 ハ最 近原 發 性 ニ發 生 セ リ ト認 メラル ル稀 有 ナ

ル 本 症 ノ1例 ニ遭 遇 シ,外 科 的 療 法 ニ ヨ リ幸 ニモ

全 治 セ シ メ タル ヲ以 テ茲 ニ報 告 セ ン トス.猶 ホ 本

症 ニ就 テ,殊 ニ化 膿 性 骨 髓 炎 ノ統 計 的觀 察數 多 存

スル ヲ以 テ之 ガ重 複 ヲ避 ケ,本 篇 ニ於 テ ハ 自家 症

例 ノ考 按 及 ビ聊 カ從 來 ノ文 獻 ニ乏 シ キ ト思惟 サ ル

2, 3統 計 的觀 察 即 チ病 原 菌,發 生部 位 及 ビ原 因 等

ヲ論述 シ,以 テ本症 ノ文獻 ニ補遺 セ ン トス.

第2章 自家症例

患者 平○毅○ 男子 43歳 農業

初 診 昭 和17年3月27日

主訴 後頭部疼痛性腫脹

家族歴 特 記 スベキモノナシ.

既往症 早産 ニ シ テ26歳 ニ至 リテ急性脊髓前

角 炎 ニ罹患 シ,當 科 ニ入 院 約2箇 月 ニシ テ全 治 シ

タル 以外 著患 ヲ認 メズ.

現 病 歴 昭 和17年2月 下 旬 後 頭部 ニ結 痂 性 濕

疹 ヲ生 ゼ シ モ約20日 位 ニ シ テ 全 治 セ リ.然 ル ニ

3月23日 後 頭 部 ニ何等 誘 因 ト認 メラ ルル モ ノ ナ

ク疼 痛 性 腫 脹 ヲ來 タセ ル ト同時 ニ熱 型 不定 ノ惡 寒

ヲ伴 ヒ,3月26日 ニ至 リ再 ビ頭 痛 ヲ來 タセ リ.當

103

1772 黒 田 孝 重

時 耳 鳴及 ビ惡 寒等 ハ 伴ハ ザ リシ モ該腫 脹 ハ約 鷄 卵

大 ニ達 セ リ.此 腫 脹 ニハ壓 痛 存 在 シ タル モ波 動 ハ

證 明 セザ リキ.3月27日 早朝 ヨ リ38℃ 以 上 ノ突

發 的體 温 上 昇 及 ビ前 記 ノ腫 脹 益 々増 大 スル ノ傾 向

ヲ有 シ,局 所 熱 著 明,壓 痛 酷 シ キ タ メ同 日午後4

時 頃來 院 ス.

現 症 體 格 頑 強,榮 養 良 好,皮 膚 色,濕 度 正常

ナ レ ド顏貎 少 シ ク苦 悶 状 ヲ呈 シ,瞳 孔 正 圓 形 ニ シ

テ對 光 遠近 反射 敏 感.眼 瞼結 膜 ニ貧 血 ナ シ.口 腔

粘 膜 ニ變化 ナ キ モ舌 ニハ輕 度 ノ白苔 ヲ認 ム.胸 廓

ニ異 状 ナク,心 濁 音 界 正 常 ニシ テ病 的雜 音 ヲ聽 カ

ズ.肺 臟 ニ病 的所 見 ナク.肺 肝 境 界 ハ 右 乳 腺 ニ於

テ第5肋 間腔 ニア リ.體 温38.3℃ ニシ テ脈 搏 整調,

中等 大,緊 張良 好1分 時 ニ74ヲ 算 ス.呼 吸 安靜,

睡眠 及 ビ食 慾 ハ 疼痛 ノタ メ少 シク障 碍 サル.胸 腹

部諸 臟 器 ニ異 状 ヲ認 メズ.

尿.黄 色 透 明弱酸 性,糖,蛋 白,「 イ ンヂ カ ン」,

「ウ ロビ リン」,「 ビ リル ビ ン」何 レモ陰 性,顯 微 鏡

的 ニ病 的所 見 ヲ認 メズ.

血 液 檢 査.A型,血 色 素78%(ザ ー リー氏 法)

赤血 球472×104,白 血 球7200

局 所 所 見 後頭 部 ニ於 テ正 中線 ヨ リ稍 々右 側 ニ

偏 シ約 超鷄 卵大 ノ楔 状 ヲ呈 スル腫 脹 ア リ.該 表 面

ハ 光澤 ヲ有 シ,輕 度 ノ發 赤 及 ビ熱 感 ヲ認 メ境 界 比

較 的 著 明 ナ リ.觸 診 スル ニ輕 度 ノ波 動 ヲ中心 部 ニ

於 テ證 明 シ,硬 度 ハ 骨様 ニ シ テ壓 痛 激烈 ナ リ.

レン トゲ ン所見 初 診 時(27/III, 1942)

骨膜 ハ天幕状 ニ肥厚シ,腫 脹 セル部 ニ相當 セル

骨髓 ノ一部ハ空洞様形成 ヲナシ,(→ 印)其 ノ邊縁

ハ不規則 ニシテ一部 ニ透 明部 ヲ認 ム(第1圖) .

診斷 急性後 頭骨化膿性骨髓炎

手術所見 昭和17年3月27日(入 院當 日)急

患 トシテ後頭部正中線 ヨリ稍 々右側 ニ偏 シテ腫脹

最モ著明ナル部 ニ於 テ約3cmノ 皮 膚切開 ヲナス.

濃厚,黄 白色 ノ少量 ノ膿 汁流 出セ リ.該 切開創 ヨ

リ消息子 ヲ以 テ檢 スル ニ骨膜表面ハ粗〓 ニシテ,

コノ周圍 ニ結締織ハ瘢痕様 ニ癒着 シ,一 部 ニ壊疽

第1圖 レン トゲ ン像

様 ナル 部 ヲ認 ム.剥 離 困 難 ニ シ テ骨 ノ一部 ニ骨 髓

〓 把 術 ヲ行 ヒ「ゴム」管 及 ビ「ヨー ドホル ムガ ー ゼ」

ヲ挿 入 シ手 術 ヲ終 ル.

膿 汁 檢 査 塗 抹標 本 及 ビ培 養 ニ ヨ リ連 鎖 状 球 菌

及 ビ少量 ノ白 色 葡 萄 状球 菌 ヲ認 ム(第2圖).

第2圖

104

後頭骨 ニ發生 シタル急性化膿 性骨髓炎 ノ1例 1773

術後 經 過 一 般 化 膿 創療 法 ニ從 ヒ毎 日 「タ ンボ

ナーデ 」ノ 交換 ヲナ シ「ゴム」管 及 ビ「ヨー ドホル ム

ガ ー ゼ」ハ 術後3日 目ニ抜 去 セ リ.「ズル フ ア ミン」

劑 ノ注 射 及 ビ投 與 ヲ繼 續 シ,4日 目ニ至 リ平 熱 ニ

復 ス.19日 目 ニ退 院 シ,以 後 通 院加 療 シ35日 ニ シ

テ全 治 セ リ.

第3章 自家症例ノ文獻的考察

及ビ考按

既 述 セ ル グ如 ク本 症 ニ關 スル古 今 ノ文 獻 ヲ渉獵

スル ニ,泰 西 ニ於 テ ハKlemmeハ 扁平 骨 ニ來 タ

リシ62例 中 頭 骨 ニ來 タ リシ2例 ヲ報 告 シ コ ノ中

1例 ハ顱 頂部 ニ,他 ノ1例 ハ後 頭部 ニ來 タ リシモ

ノナ リ(1.6%). Trendelハ169例 中 同 ジ ク後 頭

部 ニ發 生 セル2例 ヲ報 ジ(1.2%), Scheinzi ?? ハ

化 膿性 骨 髓 炎1728例 中10例 ニ之 ヲ證 明 シ,同 ジ

クKielハ400例 中4例,Poppert, Gie ?? enklinik

ニ於 ケル620例 中僅 カ3例,Alfredハ 頭 骨 ニ來

タ リシモ ノ31例 中後 頭 骨 ニ來 タ リシ モ ノ ハ3例

ナ リ ト.

從 ツテ上述 ノ統 計 ヨ リ考 察 セ ンニ短,扁 平骨 ヲ

侵 ス事 ハ長 管状 骨 ニ比 シテ極 メテ稀 ナル ハ 贅言 ヲ

要 セ ズ斯 ク泰 西 ニ於 ケル報 告 ヨ リ觀 察 スル モ 頭骨

ニテ ハ僅 カ ニ20數 例 ヲ算 スル ノ ミ.飜 ツ テ本 症 ノ

頭 部 ニノ ミ來 タ リシ本 邦 ノ統 計 ヲ窺 フニ仲 田氏 ノ

5例.志 田氏 ノ2例,中 野 氏 ノ2例,根 鈴 氏 ノ1

例,堤 氏 ノ2例 等存 在 スル モ頭 部 ノ何 レニ來 タ リ

シ カ,其 ノ發 生 部 位 ノ詳 細 ナ ル 記載 ナ キ タ メ滿 足

シ得ルニ足ル統計的觀察ハナ シ得ズ.少 ク トモ原

發性ニ然 カモ後頭骨 ニ發生セル化膿性骨髓炎 ハ泰

西竝 ニ本邦 ニ於 ヶ ル ヲ綜合 スルモ僅 ニ10數 例 ヲ

出デザルベシ.

從 ツテ下記 ノ統計 ヨリ按ズル ニ非特異性急性炎

症 ガ短,扁 平 骨 ヲ侵 ス コ ト稀 ナ ル ハ骨 結 核 ノ ソ レ

ト對蹠 的 ニ シ テ只 短,扁 平 骨 中,骨 盤,下 顎 骨 及

ビ鎖 骨 ヲ除外 スル 時,短 骨 及 ビ頭 骨 罹 患 ニ至 リテ

ハ稀 有 ナ リ トTrendelハ 論 ゼ リ,而 シ テ後述 セ ル

第1表 (Trcndel)

第2表 (Klemme)

第3表 (Alfred Kallenbach)

ガ如 ク發生部位 ト豫後 トハ重大 ナル關係 ヲ有 スベ

ク,本 症 ニ於 テハ腦膜炎或 ハ腦炎 ヲ合併 スル ノ危

險少ナ カラズ(Klemme).

猶 ホ本症 ノ年齡,病 理,症 状,診 斷,經 過及 ビ

治療等爾餘 ノ事項 ニ就 テハ諸家 ノ詳細ナル統計 的

觀察 ニ委 ネ,本 篇 ニ於 テハ專 ラ原因,病 原菌及ビ

發生部位 ト豫後 ニ就 キ2, 3統 計的觀 察 ヲ試 ミン ト

ス.

1. 原 因

本症 ト原因 トノ關係ハ甲論 乙駁 ニシテ,然 カモ

臨牀 的 ニ又實驗的 ニ統計的觀 察或 ハ動物實驗 ニ ヨ

リ各 々研究立證 サ レ居ルモ尚 ホ一 定セズ.即 チ誘

因中第1位 ヲ占ムルハ外傷 ナ リト.而 シテ其 ノ比

105

1774 黒 田 孝 重

率 ハ75%ナ リトBarrieハ 述 ベ,Haagaハ14%,

Trendelハ4%ナ リ ト報 ゼ リ.更 ニKocher及 ビ

Rosenbach兩 氏 等 ノ意見 モ亦 然 リ.飜 ツテ本 邦

ニ於 ケル統 計 的 觀 察 ヲ窺 フニ外 傷 性 起 因 ニ就 テ池

田,熊 谷 兩氏 ハ約17%,菰 田氏 ハ 約21%ヲ 擧 ゲ

タ リ.反 之Sturmerハ 外 傷 性 骨 髓 炎 ハ稀 有 ニ シ

テ外 傷 ノ誘 因 タル 率 ハ漸 次 低 下 シ ツ ツ ア リ ト論

ジ,甚 ダ シ キ ハ外 傷 ハ本 症 ノ誘 因 タ ラズ ト述 ブル

學 者 ア リ(Demme).而 シ テ コ ノ中 間 ヲ論 ズル モ

ノハ 本症 ハ「ヴ イ タ ミン」缺乏 至 大 ノ關係 ヲ有 スル

モ ノナ ル ベ シ ト論 ジ,Wachsmuthハ 溶 血 性 連鎖

状 球 菌 ノ左 橈 骨 ニ來 タ リシ骨 髓 炎 ニ「ヴ イタ ミン」

ヲ供 給 シ タ ル ニ迅 速 ニ全 治 シ タ ル點 ヨ リ本 症 ヲ

「ヴ イ タ ミ ン」ノ新 陳 代謝 ト關 係 アル ベ シ ト主 張 セ

リ.而 シテ 日常 見 ラル ル モ ノ ノ大 部分 ハ身 體 ノ何

レカニ病 原菌ガ感染 シ,又 ハ原發竈不 明ナル原發

性感染存 在スル モ,其 ノ原發竈 ヨリ或 ル動機 ニ依

リ血 行 ヲ介 シ テ該 病原 菌 ハ骨髓 ニ達 シ,茲 ニ於 テ

化 膿 竈 ヲ形 成 シ本 症 ガ惹 起 サ ル ル ハ論 ヲ俟 タザ ル

所 ナ レ ドモ假 令 細菌 ハ骨 髓 ニ達 スル トモ必 ズ シモ

骨 髓 炎 ヲ發 生 スル ニア ラズ,細 菌 ノ數 及 ビ毒 性 モ

之 ニ因 スベ ク,或 ハ全 身 ノ抵 抗 力 減弱 又 ハ 局所 ノ

抵 抗 力低 下 等 モ本 症 發 生 ノ條件 タル ベ シ.而 シテ

其 ノ侵 入 門 戸 或 ハ經 路 タ リ得 ベ キ モ ノハ 總 テ ノ創

傷,濕 疹,口 腔 及 ビ鼻 咽 喉粘 膜 ニ於 ケル 諸疾 患,

或 ハ消 化 器,泌 尿 生殖 器,呼 吸 器 系 統 等 ノ炎 衝 性

疾 患 モ本 症 發 生 ニ意 義 ヲ有 スル モ ノ ニ シ テ,更 ニ

延 イテハ 遠 隔部 位 ノ化 膿 性 炎症 ニ續 發 スル場 合 モ

存 スルモ ノ ナ リ.

然 レ ドモ 余 ノ例 ニ於 テハ 病原 菌 ノ明 カナ ル侵 入

門 戸 ハ 認 メ難 キ モ,人 體 皮膚 面 ニ於 テハ 葡 萄状 球

菌數多存在 スル ヲ以 テ,夫 レガ皮膚孔或 ハ創傷孔

又ハ濕疹 ヨリ血行 ヲ介 シ骨髓 内ニ侵入セ シモノ ト

思惟 セバ蓋 シ余 ノ症例 ノ如 ク濕疹 ハ既 ニ全治 シ本

症發生 トノ間 ニ一定時ノ介 在ア リト雖 モ尚 ホ或 ハ

之 ガ侵 入門戸 タ リ得 ベク又塗抹標本及 ビ培養 ニ ヨ

リ立證 サルル連鎖状球菌 ト葡萄状球菌 トノ混合感

染 ナ リシ點 ヨ リ濕疹 ハ本 症 發 生 ノ誘 因 ナ ラ ン ト思

考 ス.

2. 病 原 菌

本 症 ヲ惹 起 スル病 原 菌 ニ シ テ最 モ屡 々其 ノ原 因

トナ リ得 ル モ ノ ハ 葡 萄 状球 菌 及 ビ連 鎖 状 球 菌 ナ

リ.又 コ ノ兩者 ノ混 合 感 染 ニ ヨル場 合 モ ア リ.然

レ ドモ其 ノ他 肺炎 菌,「 チ フ ス」菌,「 イ ン フル エ ン

ザ 」菌,「 バ ラチ フ ス」菌,淋 菌,大 腸 菌 等 モ本症 ノ

病 原 菌 タ リ得 ル モ ノナ リ.就 中黄 色 葡 萄 状球 菌 ガ

其 ノ大 多數 ヲ占 ムル コ トハ周 知 ノ事 實 ニ シテ 白 色

葡 萄 状球 菌及 ビ枸櫞 色 葡 萄状 球 菌 ニ ヨル場 合 ハ少

シ トサ ル.

泰 西 ノ文獻 ヲ觀 ル ニMakowsky, Ludwigハ

70年 間1503例 ニ於 テ黄 色葡 萄 状 球 菌 ハ87.3%,

Klemme 87%, Sobernheimハ83.9%ト ナ シ,

コノ 中黄 色 葡 萄 状球 菌 ニ ヨル モ ノハ80.3%,白 色

葡 萄状 球 菌 ニ ヨル モ ノ ハ僅 ニ3.6%ヲ 占 メ リ ト報

ジ,又Pyrah及 ビPain兩 氏 ハ 黄 色 葡 萄状 球 菌 ニ

ヨル モ ノ60.0%ナ リ ト論 ゼ リ.飜 ツ テ本 邦 ノ文 獻

ニ徴 スル ニ志 田 氏 ハ葡 萄 状 球 菌 ニ ヨル モ ノ85%,

連 鎖 状 球 菌 ニ ヨル モ ノ6.07%ナ リ ト云 ヒ,齋 藤,

關 口兩 氏 ハ 黄 色 葡 萄状 球 菌 ヲ見 ル コ ト75.9%ナ

リ ト.Klemmeハ54例 中連 鎖 状球 菌 ニ ヨル モ ノ

6例,葡 萄状球 菌及 ビ連鎖状球菌ノ混合感染 ニヨ

ル モ ノ僅 カ ニ1例 ナ リ ト報 ゼ リ(1.85%6).

緒 言 ニ於 テ既 述 セ ル ガ如 ク從 來 ノ統 計 ヲ觀 ル ニ催

炎菌 ノ細別的分類 ナキ タメ之 ヲ斷言 シ得 ザ レドモ

余 ノ蒐集 セル文 獻 ヨリ之 ヲ按 ズル ニ葡萄状球 菌ハ

其 ノ80%以 上 ヲ占 ム ル 事 ハ 泰 西 及 ビ本 邦 文 獻 的

統 計觀 察 ノ一致 スル所 ナ リ.次 ニ連鎖 状球 菌 ニ ヨ

ル モ ノ10%内 外 ナ リ.更 ニ コ ノ兩者 ハ混 合感 染

ニ至 リテハ 僅 カ ニ2%前 後 ナ リ.從 ツ テ余 ノ症 例

ノ如 ク兩 者 混 合感 染 ニ ヨルハ 稀 有 ニ屬 ス ト云 ヒ得

ベ シ.尚 ホ發 生 部位 ト細 菌 トノ關 係 ハ 不 定 ナ レ ド

「チ フス」 菌 ニ ヨル モ ノハ 肋 骨 ニ好 發 シ,「 バ ラチ

フ ス」 菌 ニ ヨル モ ノハ 多 ク ハ大 轉 子 ヲ侵 襲 ス ト云

フ.

106

後頭骨 ニ發生 シタル急性化膿性骨髓炎 ノ1例 1775

第4表

3. 發 生 部位 ト豫後

化膿 性 骨髓 炎 ハ 身體 何 レノ骨 ニモ發 生 シ得 ベ キ

モ ノ ニシ テ其 ノ發 生 頻度 ハ 長 管状 骨 ニ比 シ短 骨 及

ビ扁平 骨 ヲ侵 スコ ト稀 ナル ハ從 來 ノ文 獻 ニ徴 スル

ニ炳 ラ カ ニシ テ扁平 骨 就 中 頭骨 ヲ侵 ス ニ至 リテハ

更 ニ甚 ダ稀 有 ナル モ ノ ナ リ.

既 述 セ ル ガ如 クKlemmeノ2例 ハ顱 頂 部 及 ビ

後 頭 骨,Trendelノ2例 ハ 何 レモ後 頭骨,Alfred

ノ31例 中15例 ハ 前 頭部,8例 ハ顳 〓 部,5例 ハ

顱 頂部 ニ シ テ3例 ノ ミ後 頭 骨 ナ リキ.Harryハ

顳〓 部 ニ來 タ リシ1例 ヲ,Freyハ 頭 部 ニ來 タ リ

シ3例 中1例 ノ後 頭 骨 ニ發 生 セ シ ヲ報 告 セ リ.又

Tommssoノ 顱 頂 部 ニ來 タ リシ8例 ノ追 加 例 等 モ

ア リテ頭 骨 中 前額,顱 〓 及 ビ顱 骨 ハ比 較 的屡 々犯

サル モ ノナ リ ト云 ヒ得 ベ シ.

上述 セル ガ如 ク本症 ハ合 併 トシ テ外 硬 腦膜 炎,

血栓 性 靜脈 炎 及 ビ腦 膜 炎 ヲ續 發 シ不 良 ノ轉 歸 ヲ ト

ル コ ト多 キ モ,其 ノ經 過 ハ 病 原菌 ノ種 類 如 何 ニ依

ル ハ勿 論,葡 萄 状球 菌 ニ ヨル モ ノハ 局所 ノ病 變 甚

ダ大 ナ ル ニ反 シ,全 身症 状 ハ連 鎖 状球 菌 ニ ヨル モ

ノニ比 シ輕度 ニ シ テ後 者 ニ ヨル場 合 ハ急 激 ニ全 身

感染 ヲ起 シ不慮 ノ轉歸 ヲトルベキハ發 生部位 ト豫

後 トノ關係 重大 ナ ル ヲ考慮 セ ザ ル ベ カ ラズ.

第4章 結 論

1) 余 ハ43歳 ノ男子,急 性 化 膿 性後 頭 骨 々髓 炎

ノ1治 驗 例 ヲ報 告 セ リ.

2) 侵 入 門戸 ハ余 ノ例 ニ於 テハ濕 疹 ニ シ テ,本

症 ノ病 原 菌 ニシ テ其 ノ原 因 トナ リ得 ル モ ノハ 葡 萄

状球 菌,連 鎖 状 球 菌 及 ビ肺 炎 菌 等 存 在 ス ル モ余 ノ

例 ニテハ連鎖状球 菌及 ビ少量 ノ黄色葡萄状球 菌 ノ

混合感染 ニシテ就 中黄 色葡萄状球 菌ガ其 ノ大部分

ヲ占ムルハ周知 ノ事實 タル ベシ.

3) 發生部位及 ビ病原菌 ガ本症 ノ豫後 ニ重大 ナ

ル影響 ヲ及 ボ スハ勿論本症 ノ身體 ニ於 ケル其 ノ解

剖學 的位置 ヲ考慮セバ其 ノ合併症重篤 ナル結果 ヲ

招來 スルハ論 ヲ俟 タズ.

擱筆 スル ニ當 リ終始御懇篤 ナル御指導 ト御

校閲 ノ勞 ヲ賜 リタル恩師三宅教授 ニ滿腔 ノ謝

意 ヲ表 ス.

主 要 文 獻

1) Haaga, Beitr. z. kl. Chir. 1889. Bd. 5,

Heft. i. S. 49. 2) Trendel, Beitr. z. kl. Chir.

1904. Bd. 41. Heft. 3, S. 607. 3) Klemm, Beitr.

z. kl. Chir. 1913, Bd. 84. Heft. 2. S. 352. 4)

Boyd-Snee, Harry., Journ. of the Indiana State

med. assoc. B. 14, Nr. 11, S. 147-151, 1922. 5)

Alfred, Bruns' Beitr. z. klin. Chir, Bd. 128, H .

3, S. 725-729, 1923. 6) Tommaso. (Repartchir;

Osp, "Bambino Gesu" Roma) Polichinico Sez .

Prat. 1929. 1, 920-922. 7) Makowsky, Ludwig,

(Chir. Univ-Klin, Tubingen) Tubingen; Diss.

1932. 31. S. 8) Wachsmuth, W.u.G. Heinrich,

Klin. Wschr. 1938 1, 269-271. 9) 池 田,熊 谷,

日本 外 科 學 會 雜 誌,第10囘,第1號,63頁,明 治42年 .

10) 菰 田,臨 牀 醫 學,第5年,第22, 23號,1685頁,大

正6年. 11) 齋 藤,關 口,日 新 醫 學,第23年,第9號,

107

1776 黒 田 孝 重

1959頁,昭 和9年. 12) 仲 田,日 本 外科 寳函,第13

卷,第2號,251頁,昭 和11年. 13) 志 田,實 地 醫 家

ト臨 牀,第13卷,第1號,61頁,第2號,173頁,昭 和11

年. 14) 鷲 見,千 葉 醫學 會 雜 誌,第15卷,第7號,

251頁,昭 和12年. 15) 澤 井,若 原,グ レン ツゲ ビ

ー ト,第13年,第12號,1467頁,昭 和14年. 16) 野

島,日 本 外 科 學 會雜 誌,第41囘,第2號,306頁,昭 和

14年. 17) 根 鈴,日 本 整形 外 科 學 會 雜 誌,第15卷,

第2號,301頁,昭 和15年.

Aus der 1. Chirurgischen Klinik der Medizinischen Fakultat Okayama

(Vorstand: Prof. Dr. H. Miyake).

Ein Fall von akuter eitriger Osteomyelitis

in der Hinterhauptgegend.

Von

Takashige Kuroda.

Eingegangen am 13. Juni 1942.

Der Verf. konnte einen 43 jahrigen Mann, der an einer seltenen primaren infektiosen

Osteomyelitis in der Hinterhauptgegend litt, durch Operation glucklich heilen. Die

bakteriologische Untersuchung ergab eine primare Knochenentzundung, die an der Hin-

terhauptgegend infolge eines Hautekzems entstanden sein musste. Als Erreger dieser

Krankheit werden Staphylo-, Strepto- und Peumococcen usw. angesehen. Am haufigsten

tritt der Staphylococcus pyogenes aurens auf. Im herausgenommenen Eiter wurde bei

meinem Fall das Vorhandensein von Mischinfektionen, Streptococcen und geringen

Staphylococcen festgestellt. Dabei scheinen die einzelnen Schadelknochen verschieden

haufig zu erkranken. Die Hauptgefahr bei der Erkrankung beruht in der Verteilung

der Lokalisation und des Erregers. Die Osteomyelitis der Schadelknochen teilt mit

einer Reihe anderer Knochen das wichtige Moment der Eventualitat der Infektion

lebenswichtiger Organe. (Autoreferat)

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