慢性骨髄性白血病 cml - jspho.jp · 60*慢性骨髄性白血病 cml Ⅲ...

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略語一覧 59 クリニカルクエスチョン一覧 ▶ CQ 1 小児 CML の標準的治療は何か ▶ CQ 2 小児 CML 治療における造血幹細胞移植の役割は何か 略語一覧 CML (Chronic Myelocytic Leukemia,慢性骨髄性白血病) TKI (Tyrosine Kinase Inhibitor,チロシンキナーゼ阻害薬) CHR (Complete Hematological Response,血液学的完全寛解) CCyR (Complete Cytogenetic Response,細胞遺伝学的完全寛解) PCyR (Partial Cytogenetic Response,細胞遺伝学的部分寛解) MMR (Major Molecular Response,分子生物学的寛解) SCT (Stem Cell Transplantation,造血幹細胞移植) QOL (Quality of Life,生活の質) EBMT(The European Group for Blood & Marrow Transplantation) RIST (Reduced−intensity Stem Cell Transplantation) (ガイドライン掲載順) 慢性骨髄性白血病 CML

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Page 1: 慢性骨髄性白血病 CML - jspho.jp · 60*慢性骨髄性白血病 cml Ⅲ クリニカルクエスチョン 小児cmlの標準的治療は何か 慢性期例には慢性期の維持を目標としてイマチニブ内服を行う。

慢性骨髄性白血病

CML

略語一覧 * 59

Ⅰクリニカルクエスチョン一覧

▶ CQ 1 小児CMLの標準的治療は何か▶ CQ 2 小児CML治療における造血幹細胞移植の役割は何か

Ⅱ略語一覧CML (Chronic Myelocytic Leukemia,慢性骨髄性白血病)

TKI (Tyrosine Kinase Inhibitor,チロシンキナーゼ阻害薬)

CHR (Complete Hematological Response,血液学的完全寛解)

CCyR (Complete Cytogenetic Response,細胞遺伝学的完全寛解)

PCyR (Partial Cytogenetic Response,細胞遺伝学的部分寛解)

MMR (Major Molecular Response,分子生物学的寛解)

SCT (Stem Cell Transplantation,造血幹細胞移植)

QOL (Quality of Life,生活の質)

EBMT(The European Group for Blood & Marrow Transplantation)

RIST (Reduced−intensity Stem Cell Transplantation)

(ガイドライン掲載順)

慢性骨髄性白血病CML

Page 2: 慢性骨髄性白血病 CML - jspho.jp · 60*慢性骨髄性白血病 cml Ⅲ クリニカルクエスチョン 小児cmlの標準的治療は何か 慢性期例には慢性期の維持を目標としてイマチニブ内服を行う。

60* 慢性骨髄性白血病 CML

Ⅲクリニカルクエスチョン

小児 CMLの標準的治療は何か

慢性期例には慢性期の維持を目標としてイマチニブ内服を行う。

  エビデンスレベル:Ⅰ

  推奨グレード:A

推奨1

▪解 説成人の慢性期慢性骨髄性白血病(CML)に対する第一選択の薬剤はイマチニブであ

り1),小児も同様である2)。最近,第二世代チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)のダサチニブおよびニロチニブにおいて,初発慢性期 CML の成人患者を対象にイマチニブとのランダム化比較試験の結果が報告され,いずれもイマチニブより細胞遺伝学的効果,分子遺伝学的効果が高く,耐容性も優れていることが示された3,4)。成人では今後,これらの第二世代 TKI がイマチニブに代わる第一選択の薬剤として用いられる可能性があるが,長期成績が不明のため現時点で標準的治療とするには時期尚早である。

小児に対するイマチニブの投与量は成人標準の 400 mg/日に相当する 260 mg/m2/日から開始する5)。イマチニブに不耐容の場合には第二世代 TKI に変更する。定期的に血液学的効果,細胞遺伝学的効果,分子遺伝学的効果を評価する(表 1)。CML の病態

1CQ

表1 治療効果の定義血液学的効果(HR) 細胞遺伝学的効果(CyR) 分子遺伝学的効果(MR)

血液学的完全寛解(CHR):以下の全項目を 2 週間以上持続すること。・�白血球数 10,000/μL 未満・�血小板数 450,000/μL 未満・�白血球分画の正常化 −�幼若顆粒球の消失かつ −�好塩基球 5%未満・�脾腫(触診)の消失

Complete(CCyR)

Ph+�0%

Complete(CMR)

末梢血 nested�RT−PCR による定性検査で BCR−ABL1 キメラmRNA が検出されない。nested�RT−PCR による評価ができない場合には,末梢血 Amp−CML�5コピー未満を判定の代替とする。

Partial(PCyR)

Ph+�1〜35%

Minor Ph+�36〜65%Minimal Ph+�66〜95%No Ph+�>95%骨髄 G バンド分染法にて,20 個以上の細胞の分裂像を分析する。骨髄細胞の分裂像が得られない場合や Gバンド分染法で評価できない場合には,CCyR の確認に限って,FISH 法で末梢血 200 細胞以上調べることで代替してもよい。

Major(MMR)

国際スケールで,末梢血 BCR−ABL/ABL1�mRNA 比が 0.1%以下。国際スケールでの測定ができない場合には,末梢血 Amp−CML�50 コピー以下を判定の代替とする。

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CQ1 * 61

慢性骨髄性白血病

CML

には成人と小児に差はないと考えられるため,効果判定に関しては成人の推奨案に基づき,イマチニブ開始後,所定の時期に到達目標を達成できたか否かで治療方針を決定する(表 2)6)。3 カ月時 minimal�CyR(Ph+�66〜95%)と評価した患者については予後に関するエビデンスが定まっていない。第二世代 TKI へ変更した場合には,ニロチニブ・ダサチニブ治療効果判定基準(CQ2 参照)に従って,変更後からの月数に基づいて治療効果を判定する。

表2 イマチニブ治療効果判定基準および治療方針

判定時期Optimalresponse

WarningsSuboptimal�response

Failure

診断時・高リスク*1

・�Ph+細胞のクローン性染色体異常*2

開始後 3 カ月CHR かつ

minor�CyR 以上(Ph+≦65%)

no�CyR(Ph+>95%)

CHR 未達成

開始後 6 カ月PCyR 以上

(Ph+≦35%)PCyR 未達成

(Ph+>35%)no�CyR

(Ph+>95%)

開始後 12 カ月CCyR MMR 未達成 PCyR

(Ph+�1〜35%)PCyR 未達成

(Ph+>35%)開始後 18 カ月 MMR MMR 未達成 CCyR 未達成

開始後時期を問わず

・�安定した状態または MMR 達成後 BCR−ABL1キ メ ラ mRNA値の上昇なし

・�BCR−ABL1 キメラ mRNA 値 の 3倍以上の上昇*3

・�Ph−細胞のクローン性染色体異常

・MMR の消失*4

・�イマチニブ高度耐 性 以 外 のBCR−ABL1 キメラ遺伝子変異*5

・CHR の消失*6

・�CCyR の消失*7

・�イマチニブ高度耐性の BCR−ABL1 キメラ遺伝子変異*5

・�Ph+細胞のクローン性染色体異常*2

治療方針

・�イマチニブ同量継続

・�イマチニブを同量継続するが慎重なモニタリングのうえ,他のwarnings の特徴が出現した場合に は suboptimal�responseに準ずる

・�イマチニブ同量継続

 または・�イマチニブ増量(340〜570 mg/m2/日: 上 限600 mg/日)

 または・�第二世代 TKI へ

変更

慢性期かつ T315I 変異がない場合・�第二世代 TKI へ変

更移行期・急性転化期へ病期進行または T315I変異がある場合・同種 SCT

* 1:Sokal あるいは Hasford スコアによる評価。* 2:同一の異常を 2 細胞以上に認めることが必要。* 3:�CHR または CCyR の消失を伴わない場合には再検査による確認要。また,5 倍以上の上昇時は BCR−ABL1 キ

メラ遺伝子変異解析を推奨する。* 4:CHR または CCyR の消失を伴わない場合には再検査による確認要。* 5:�IC50 値から G250E,Y253F,Y253H,E255K,E255V,T315I,H396R,H396P,F486S などが高度耐性の遺

伝変異と予測される。* 6:移行期/急性転化期への進行を伴わない場合には再検査による確認要。* 7:CHR の消失または移行期/急性転化期への進行を伴わない場合には再検査による確認要。

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62* 慢性骨髄性白血病 CML

移行期・急性転化期例には治癒を目標として同種SCTを行う。

  エビデンスレベル:Ⅰ

  推奨グレード:A

推奨2

▪解 説寛解後の再発率が高いため,TKI に良好な反応であっても同種造血幹細胞移植

(SCT)を行う2,7)。移植時病期は生存率に影響するため,移植前処置開始までに慢性期に導入し維持しておく。イマチニブ耐性の遺伝子変異がなければイマチニブ 340 mg/m2 から開始し,効果が不十分であれば 570 mg/m2(最大 800 mg,分 2)まで増量,あるいは第二世代 TKI に変更する。ただし,急性転化期例にはニロチニブの保険適用はない。急性転化期および急性転化期に近い移行期の患者には,急性白血病に対する従来の化学療法を併用する7)。

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慢性骨髄性白血病

CML

CQ2 * 63

小児 CML治療における造血幹細胞移植の役割は何か

同種SCTは,移行期・急性転化期例および病期進行する可能性の高い一部の慢性期例に対す

る標準的治療と位置づけられる。

  エビデンスレベル:Ⅳ

  推奨グレード:B

推奨

▪解 説CML は慢性期には通常,生命の危険はなく QOL を損なうような症状も出現しない

疾患である。したがって,イマチニブによる慢性期の維持が治療目標であり,同種SCT の適応は,①移行期・急性転化期例,②病期進行する可能性の高い一部の慢性期例に限られる。European�LeukemiaNet による成人 CML 治療の改訂推奨案では,移行期・急性転化期例に同種 SCT の適応があり,慢性期例はイマチニブ抵抗性のみでは同種 SCT の適応はなく,第二世代 TKI への変更が推奨されている6)。T315I 変異を認めた場合は早急な同種 SCT の適応である6,8)。

第二世代 TKI に failure は同種 SCT 絶対適応,warnings は同種 SCT 第一選択,suboptimal�response は EBMT リスクスコア 2 以下または変更時 warnings の条件で同種 SCT 第一選択が推奨される(表 3)6,9,10)。ただし,小児では治療反応が良好であっても,TKI 長期投与による成長障害,骨代謝障害,免疫機能障害,性腺機能障害など成長期特有の問題が生じる可能性がある。QOL を損なうコントロールのできない有害事象が TKI 内服中に発生する場合には,同種 SCT のリスク11)を説明し同意を得たうえで同種 SCT を選択するのは妥当である。海外では,成人の慢性期 CML に骨髄非破壊的前処置による同種 SCT(RIST)を実施し良好な移植成績をあげている12,13)。RISTは慢性期 CML 治療の選択肢の一つである。

2CQ

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64* 慢性骨髄性白血病 CML

表3 ニロチニブ・ダサチニブ治療効果判定基準および治療方針

判定時期Suboptimalresponse

Warnings Failure

変更時

・�イマチニブに血液学的抵抗性

・�Ph+細胞のクローン性染色体異常

・�TKI 高 度 耐 性 の BCR−ABL1 キメラ遺伝子変異

変更後 3 カ月

minor�CyR(Ph+�36〜65%)

minimal�CyR(Ph+�66〜95%)

no�CyR(Ph+>95%)

TKI 高 度 耐 性 の BCR−ABL1 キメラ遺伝子変異のあらたな出現

変更後 6 カ月

PCyR(Ph+�1〜35%)

minor�CyR(Ph+�36〜65%)

minimal�CyR(Ph+�66〜95%)

TKI 高 度 耐 性 の BCR−ABL1 キメラ遺伝子変異のあらたな出現

変更後 12 カ月

MMR 未達成 PCyR 未達成(Ph+>35%)

TKI 高 度 耐 性 の BCR−ABL1 キメラ遺伝子変異のあらたな出現

治療方針

・�ニロチニブまたはダサチニブ継続

 または・同種 SCTただし,EBMT リスクスコアが 2 以下の場合,または変更時 warnings に該当していた場合には同種 SCTを推奨

・同種 SCT(第一選択)・�ニロチニブまたはダサチ

ニブ継続(第二選択)

・同種 SCT

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慢性骨髄性白血病

CML

文献 * 65

Ⅳ文献検索と文献採択初版のガイドラインの更新。

Medline による過去 4 年間(2007〜2010)の文献検索に加えて,専門学会・研究会や班会

議等の研究報告書なども参考にした結果,初版のガイドラインに記載されている文献 12 件

から 9 件を削除し,あらたに 10 件の文献を追加して最終的に 13 件を採用した。

【文献】� 1)�Druker�BJ,�Guilhot�F,�O’Brien�SG,�et�al� ;� IRIS�Investigators� :�Five−year� follow−up�of�patients�

receiving�imatinib�for�chronic�myeloid�leukemia.�N�Engl�J�Med�355�:�2408−2417,�2006. (Ⅱ)(構造化抄録)

� 2)� Suttorp�M� :� Innovative�approaches�of� targeted�therapy�for�CML�of�childhood� in�combination�with�paediatric�haematopoietic�SCT.�Bone�Marrow�Transplant�42�:�S40−S46,�2008. (構造化抄録)

� 3)�Kantarjian�H,�Shah�NP,�Hochhaus�A,�et�al�:�Dasatinib�versus�imatinib�in�newly�diagnosed�chronic−phase�chronic�myeloid�leukemia.�N�Engl�J�Med�362�:�2260−2270,�2010. (Ⅱ)

� 4)� Saglio�G,�Kim�DW,�Issaragrisil�S,�et�al� :�Nilotinib�versus� imatinib� for�newly�diagnosed�chronic�myeloid�leukemia.�N�Engl�J�Med�362�:�2251−2259,�2010. (Ⅱ)

� 5)�Champagne�MA,�Capdeville�R,�Krailo�M,�et�al� :� Imatinib�mesylate(STI571)for�treatment�of�children�with�Philadelphia�chromosome−positive� leukemia� :�results� from�a�Children’s�Oncology�Group�phase�1�study.�Blood�104�:�2655−2660,�2004. (Ⅲ)(構造化抄録)

� 6)�Baccarani�M,�Cores�J,�Pane�F,�et�al� :�Chronic�Myeloid�Leukemia� :�an�update�of�concepts�and�management�recommendations�of�European�LeukemiaNet.�J�Clin�Oncol�27� :�6041−6051,�2009. (構造化抄録)

� 7)�Goldman�JM� :� Initial� treatment� for�patients�with�CML.�Hematology�Am�Soc�Hematol�Educ�Program�453−460,�2009.

� 8)�Velev�N,�Cortes�J,�Champlin�R,�et�al�:�Stem�cell�transplantation�for�patients�with�chronic�myeloid�leukemia�resistant�to�tyrosine�kinase�inhibitors�with�BCR−ABL�kinase�domain�mutation�T315I.�Cancer�116�:�3631−3637,�2010. (Ⅳ)

� 9)� Jabbour�E,�Cortes�JE,�Kantarjian�HM�:�Suboptimal�response�to�or�failure�of� imatinib�treatment�for�chronic�myeloid�leukemia�:�what�is�the�optimal�strategy?�Mayo�Clin�Proc�84�:�161−169,�2009.

�10)�Gratwohl�A,�Hermans�J,�Goldman�JM,�et�al�:�Risk�assessment�for�patients�with�chronic�myeloid�leukaemia�before�allogeneic�blood�or�marrow�transplantation.�Chronic�Leukemia�Working�Party�of�the�European�Group�for�Blood�and�Marrow�Transplantation.�Lancet�352�:�1087−1092,�1998.(Ⅲ)

�11)�Cwynarski�K,�Roberts�IA,� Iacobelli�S,�et�al� :�Stem�cell� transplantation� for�chronic�myeloid�leukemia�in�children.�Blood�102�:�1224−1231,�2003. (Ⅳ)

�12)�Crawley�C,�Szydlo�R,�Lalancette�M,�et�al� :�Outcomes�of�reduced−intensity�transplantation�for�chronic�myeloid�leukemia�:�an�analysis�of�prognostic�factors�from�the�Chronic�Leukemia�Working�Party�of�the�EBMT.�Blood�106�:�2969−2976,�2005. (Ⅳ)

�13)�Kebriaei�P,�Detry�MA,�Giralt�S,�et�al�:�Long−term�follow−up�of�allogeneic�hematopoietic�stem−cell�transplantation�with�reduced−intensity�conditioning�for�patients�with�chronic�myeloid�leukemia.�Blood�110�:�3456−3462,�2007. (Ⅲ)