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コミュニティホーム長者の森 取締役  石原孝之 2005年4月1日にコミュニティホーム長者の森を開設し,介護部門では デイサービス長者の森,グループホーム長者の森,ショートステイ長者の森, ケアプラン長者の森を,保育部門では保育所もりのくまさんを運営。ま た,介護保険外事業としてカフェコラレ,オープンスペース森のこかげ,森 de朝市を展開。これらはすべて同一建物内にあり,0~100歳の“ふじの くに型共生施設”として経営。コミュニティビジネス研究所コンサルティン グマネージャー,焼津市認知症対策連絡会委員,医療介護無料情報誌 『メディけあ』の編集長も務めている。介護福祉士・介護支援専門員。 地域に開かれた施設を演出! フロントエンドとしての 保険外サービスの 実践と効果 「地域で話題の施設ってどこですか?」 そんな質問を投げかけて真っ先に出てくる施 設名があるとするならば,その施設は地域での ブランディングがすでにできています。先行き の不安定な介護保険制度,そして,これだけ介 護施設が乱立する中,どこの施設にも負けない 地域一番の部分は,施設経営において大事な要 素の一つとなっていくことは間違いありません。 一般的に,介護施設は要介護(要支援)状態 になってからお客様(利用者)と出会いますが, その前から出会う仕組みが弊社の行っている地 域貢献事業=保険外サービスです。マーケティ ング用語で言えば“フロントエンド”という形 になります。一般的に知られてる例として,居 酒屋で言えばランチがフロントエンド商品,夜 の飲み会はバックエンド商品です。また,化粧 品で言えば無料サンプルがフロントエンド商 品,定期購入がバックエンド商品です。 結論から言うと,介護施設も絶対にフロント エンドサービスとして何か行った方がよいと思 います。そして,それを必ずバックエンドにつ なげていくのです。実践して分かったことです が,弊社のバックエンドは利用者獲得または求 人に跳ね返ってきました。 弊社も含め,介護サービスの売り上げの大半 が介護保険による収益で成り立っていますが, 5年先,10年先も主軸となる施設経営をして いくのであれば,保険外事業(フロントエンド サービス)の構築は経営者にとっては急務で す。しかし,どこから始めたらよいのか全く分 からないという経営者が後を絶ちません。もっ と言えば,「まだ何とかなるであろう」という 考えや,「日々の仕事で手一杯」という経営者 が多いのも事実です。保険外サービスを開始し たいといっても,収益の大半のウエイトを占め る介護施設経営を安定させなければ,本末転倒 になりかねません。本稿が,そんな悩める経営 者の同志にとって少しでもヒントになれば幸い です。 地域コミュニティの創造と その生かし方がカギ 一般的に介護施設を地域に開放しているのは1 年に1回,夏祭りか納涼祭などがほとんどです。 これで本当に地域密着と言えるのでしょうか。 77

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Page 1: ÑéïĤïÅq`ow -e ± ϵw î«q®Lいという目的で,奇数月には朝市(森de朝市) を開催してきました(2019年から1月,4月,7月,10月に変更)。

コミュニティホーム長者の森取締役 石原孝之

2005年4月1日にコミュニティホーム長者の森を開設し,介護部門ではデイサービス長者の森,グループホーム長者の森,ショートステイ長者の森,ケアプラン長者の森を,保育部門では保育所もりのくまさんを運営。また,介護保険外事業としてカフェコラレ,オープンスペース森のこかげ,森de朝市を展開。これらはすべて同一建物内にあり,0~100歳の“ふじのくに型共生施設”として経営。コミュニティビジネス研究所コンサルティングマネージャー,焼津市認知症対策連絡会委員,医療介護無料情報誌『メディけあ』の編集長も務めている。介護福祉士・介護支援専門員。

地域に開かれた施設を演出!

フロントエンドとしての保険外サービスの実践と効果

 「地域で話題の施設ってどこですか?」

 そんな質問を投げかけて真っ先に出てくる施

設名があるとするならば,その施設は地域での

ブランディングがすでにできています。先行き

の不安定な介護保険制度,そして,これだけ介

護施設が乱立する中,どこの施設にも負けない

地域一番の部分は,施設経営において大事な要

素の一つとなっていくことは間違いありません。

 一般的に,介護施設は要介護(要支援)状態

になってからお客様(利用者)と出会いますが,

その前から出会う仕組みが弊社の行っている地

域貢献事業=保険外サービスです。マーケティ

ング用語で言えば“フロントエンド”という形

になります。一般的に知られてる例として,居

酒屋で言えばランチがフロントエンド商品,夜

の飲み会はバックエンド商品です。また,化粧

品で言えば無料サンプルがフロントエンド商

品,定期購入がバックエンド商品です。

 結論から言うと,介護施設も絶対にフロント

エンドサービスとして何か行った方がよいと思

います。そして,それを必ずバックエンドにつ

なげていくのです。実践して分かったことです

が,弊社のバックエンドは利用者獲得または求

人に跳ね返ってきました。

 弊社も含め,介護サービスの売り上げの大半

が介護保険による収益で成り立っていますが,

5年先,10年先も主軸となる施設経営をして

いくのであれば,保険外事業(フロントエンド

サービス)の構築は経営者にとっては急務で

す。しかし,どこから始めたらよいのか全く分

からないという経営者が後を絶ちません。もっ

と言えば,「まだ何とかなるであろう」という

考えや,「日々の仕事で手一杯」という経営者

が多いのも事実です。保険外サービスを開始し

たいといっても,収益の大半のウエイトを占め

る介護施設経営を安定させなければ,本末転倒

になりかねません。本稿が,そんな悩める経営

者の同志にとって少しでもヒントになれば幸い

です。

地域コミュニティの創造と その生かし方がカギ

 一般的に介護施設を地域に開放しているのは1

年に1回,夏祭りか納涼祭などがほとんどです。

これで本当に地域密着と言えるのでしょうか。

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Page 2: ÑéïĤïÅq`ow -e ± ϵw î«q®Lいという目的で,奇数月には朝市(森de朝市) を開催してきました(2019年から1月,4月,7月,10月に変更)。

 そして介護施設と言えば,暗いニュースばか

りが世間に広まっています。また,施設の日常

に目を向けると,施設で働くスタッフをはじ

め,家族,業者,慰問や地域のボランティア,

運営推進会議の関係者しか施設に出入りしてい

ません。外からは全く見えませんし,気軽に施

設の中に入れないのが現状ではないでしょうか。

 そうした現状を受けて,私は「地域の人たち

が日頃からふらっと寄れる場所をつくりたい! 

富山型デイサービスのような地域のプラット

ホームでありたい」という思いが強くなりまし

た。そんなことを思いはじめている時に,静岡

県社会福祉協議会が居場所事業を公募している

ことを知りました。

 居場所事業は,常設型(居場所)の「まちの

縁側」や「コミュニティカフェ」などとも呼ば

れ,近年全国的に広がっています。東日本大震

災では,地域の絆づくりや支え合いの大切さを

再認識する契機ともなりましたが,常設型(居

場所)の取り組みは,介護予防・認知症予防,

引きこもり・孤独死予防,子育て支援・障がい

者支援など,たくさんの社会的な効果が期待さ

れています。弊社がある静岡県内においても,

その必要性を感じて活動に取り組んでいる人々

が増加し,潜在的なニーズがある地域を含め

て,今後の常設型(居場所)を推進する意義は

高まっています。

 私は地域コミュニティの創造とその生かし方

がカギを握っていると感じ,2014年度に公の

場で,弊社が描く居場所事業の内容として地域

にいる元気なシニアのチカラ(社会資源)を活

用したビジネスモデルのプレゼンテーションの

機会をいただき,協力者を募らせてもらいまし

た。そして,弊社はその地域のチカラを活用し

た保険外サービスを開始しました。

 以前から言われていることですが,特に今後

の介護施設経営にとっての最大のリスクは報酬

減と人材確保です。本稿でお伝えしたい内容

は,報酬減を補う保険外サービスではなく,も

う一つのリスクである人材確保と利用者獲得を

補う仕組みとしての保険外サービスです。

 弊社が開設10年目を機に,地域の居場所事

業の推進に力を入れて展開している保険外サー

ビスは,「カフェコラレ&ネロリカフェ」「森

de朝市」「森のこかげ」の3つです。次に,そ

の具体的な内容を説明していきます。

カフェコラレ&ネロリカフェ 弊社では,元気なシニアのチカラを生かした

「カフェコラレ」というカフェの運営を,2015

年5月31日より始めました。カフェといって

もハードを建てたわけではなく,弊社のデイ

サービスが休みの日曜日にデイルームで運営し

ています(毎月第1,第3日曜日開店)。

 飲食店としての登録を保健所に申請し,キッ

チンスペースを改装し,食品衛生責任者などの

営業許可を取りました。カフェ店員として無償

ボランティアで,地域の元気なシニアに「認知

症の予防,やりがい,生きがいになっているよ」

カフェではさまざまな催し物を行っています

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と楽しみながら笑顔でお手伝いしてもらってい

ます(午前午後の交代制,3時間程度)。

 本来,カフェの原価率は3割が目安と言われ

ていますが,無償ボランティアに手伝ってもら

うことにより,フードとドリンクの料金を低価

格にすることができました。カフェの売り上げ

ももちろん大事ですが,それより一番大事にし

たのが,地域との接点を持ち(関係性をつく

り),地域の拠点になるということです。

 最近では,第3日曜日は「ネロリカフェ」と

いう名前で認知症予防カフェを開催しています

(「ネロリ」はアロマでオレンジの花です)。弊

社の看護師でありケアマネジャーでもあるス

タッフが店長をしています。

 カフェでは毎回催し物を行ったり,社会福祉

協議会や地域包括支援センターの方を講師に招

いて知って得する情報を提供したりと,さまざ

まなパフォーマンスでお客様を楽しませていま

す。今ではリピーターのお客様が何組もいます。

森de朝市 少しでも「カフェコラレ」を知ってもらいた

いという目的で,奇数月には朝市(森de朝市)

を開催してきました(2019年から1月,4月,

7月,10月に変更)。

 なぜ朝市を始めたのかというと,昨今,まち

おこしのため各地で朝市やマルシェのようなイ

ベントがあり,地域の小売店を一同に集結させ

てそのイベントを施設の駐車場で行えないかと

考えたからです。

 私はいろいろなマルシェや朝市に足を運び,

名刺交換をすると共に,趣旨を伝えて出店を呼

びかけました。最初は6店舗から始まり,来場

者もポツポツという状況でした。それでも,人

が賑わい出店者も喜ぶ…そんな風景をイメージ

しながら開催してきました。

 森de朝市は徐々に地域に浸透していき,今

では33店舗の出店者(パートナー)と毎回300

人を超える来場者が集まっています。延べ出店

者(パートナー)の数も100小売店を超え,現

在では会場のキャパシティもいっぱいになり,

出店をお断りしている状態です。

 一般的に施設の利用者は,ケアマネジャーか

カフェのリピーターのお客様

無償ボランティアとネロリカフェの店長

地域の人々でにぎわう森de朝市の様子

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らの紹介というケースが多いのですが,朝市に

来場してくれた人が直接施設利用を申し込むこ

ともあります(半年で新規59人)。また,朝市

の風景をSNSやブログにアップすることで,そ

れを見た人からスタッフとして見学依頼や求人

の申し込みがあり,雇用にもつながっています

(半年間で10人)。

森のこかげ 弊社の「もりのくまさん保育園」が休みの日

曜日を活用したオープンスペース「森のこか

げ」は,地域の公民館をモデルにさせてもらい

ました。多目的ルームとして活用してもらえな

いかと思い,場所貸しとして収入を得ています

(2時間1,300円)。使用用途は,ヨガ教室,ア

ロマリトミック教室,介護予防教室,誕生日会,

会議としてなどさまざまです。

保険外サービス展開の メリットとデメリット

 保険外サービス展開のメリットとしては,次

のような点が挙げられます。

・実際に施設に来てもらうことで施設の雰囲気

を知ってもらい,接点を持つことができる。

・潜在的利用者または潜在的社員の発掘につな

げることができる。

・地域に対し開かれた施設(透明性)であると

いうことが浸透する。

・接点を持った顧客リストは,継続的にアプ

ローチできる資産になる。

・施設入所を検討する前段階のニーズを持った

ユーザーに受け入れてもらうことで,競合他

社との比較競争にさらされる前にコミュニ

ケーションを取ることができる。

 一方,デメリットとしては次のような点が挙

げられます。

・運営に手間がかかる。

・継続するモチベーションを保つのに相当の根

気がいる。

・変化をしていかないと地域の人々に飽きられ

てしまう。

・社員の理解に時間がかかる。

まとめ 弊社の保険外サービスの取り組みを紹介しま

したが,今では継続は力なりと実感していま

す。アイデアを組み合わせ,施設を地域に開放

することで,地域や地域以外からも問い合わせ

や施設見学の依頼を多くいただき,思いがけな

い求人や利用者獲得につながっています。

 また,スタッフからも斬新なアイデアや提案

保育園の休日を活用した貸し会場での催し

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が出たり,社内によい風土ができたりしていま

す。よい意味で,介護施設の概念を壊して新し

い価値を生んでいると実感しています。そし

て,何よりも施設にかかわる人が増えたこと,

ファンが増えたことが本当にうれしく思います。

 保険外サービスを行うことは,自施設のブラ

ンディング構築としても有効であり,本体の介

護施設を地域の人に知られるようになりまし

た。地域との関係性づくりには特効薬はなく時

間がかかります。辛抱強くリサーチを重ね,何

のためにやりたいのかをスタッフやボランティ

アに伝え続け,やり続けるしかないと思います。

 百聞は一見に如かず。ぜひ一度,静岡県焼津

市にある自慢の当施設「コミュニティホーム長

者の森」に足を運んでいただければ,喜んで対

応させていただきます。

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和が家介護グループ代表 直井 誠埼玉県在住。現在,主に認知症を対象とした古民家デイ2カ所,商業施設内で予防事業の買い物リハビリ専門デイサービスを運営し,代表,管理者,生活相談員,現場の介護職として日々奮闘している。7月には駄菓子屋やサロンなどごちゃまぜ型デイを開設予定。また,地域活動で認知症啓蒙活動を頻繁に行っており,昭和の古民家ならではの独自の実践を地域に,専門職に,講演,セミナー,オレンジカフェなどを通じて伝え,地域を巻き込んだ事業を推進している。「人間性・社会性・関係性の回復により,生きる活力を取り戻し,在宅生活をいつまでも続けられるようになること」がモットー。

小倉小倉記念病院医療ソーシャルワーカー 長嶋史門大分大学大学院福祉社会科学研究科を修了し,2006年より現職。福岡県医療ソーシャルワーカー協会の理事の経験などがある。地区の院福祉社会科学研究科を修了し,2006年より現職。福岡県医療ソーシャルワーカー協会の理事の経験などがあ科学研究科を修了し,2006年より現職。福岡県医療ソーシャル医療ソーシャルワーカーの勉強会の世話人を務め,多職種連携会へ参加するなど,多職種,他機関との連携について積極的に活動している。

医療ソーシャルワーカー 長嶋史門大分大学大学院福祉社会科学研究科を修了し,2006年より現職。福岡県医療ソーシャルワーカー協会の理事の経験などがある。地区の院福祉社会科学研究科を修了し,2006年より現職。福岡県医療ソーシャルワーカー協会の理事の経験などがあ科学研究科を修了し,2006年より現職。福岡県医療ソーシャル医療ソーシャルワーカーの勉強会の世話人を務め,多職種連携会へ参加するなど,多職種,他機関との連携について積極的に活動している。

地域連携拠点実践事例その1

和が家介護グループの

認知症ケア、予防ケア、

地域ケア

地域連携拠点実践事例その1

和が家介護グループの

認知症ケア、予防ケア、

地域ケア

認知症の人の

〝その人らしさ〞の

アセスメントと

ケアプラン立案のコツ

〜サブタイトル

認知症の人の

〝その人らしさ〞の

アセスメントと

ケアプラン立案のコツ

〜サブタイトル

和が家介護グループの紹介

 現在,和が家介護グループ(以下,当グルー

プ)は埼玉県下で3つのデイサービスを運営し

ており,2019年にはもう1カ所新設する予定

です。各施設のコンセプトは次のとおりであり,

隣接した地域でそれぞれ運営しています。

①和が家の学校デイ(桶川市)……尋常小学校を

コンセプトにした小規模デイサービス

②和が家の古民家デイいぶき(伊奈町)……住み

慣れた昭和の古民家でのケアをコンセプトに

した通常デイサービス(写真1)

③ひかりサロン蓮田(蓮田市)……買い物リハビ

リをコンセプトにした,商業施設内にあるデ

イサービス&総合事業サロン

④コミュニティデイMUSUBI(蓮田市,2019年

7月新設予定)……地域のコミュニティの中心

となれるようなデイサービスを設計していく

予定。駄菓子や子どもの遊び場,認知症の人

のボランティア活動など,さまざまな取り組

みを予定している。

 当グループは,「認知症ケア,予防ケア,地域

ケアの3本立てのケアで地域を支える場になる」

という理念の下,活動しています。そのため,ま

ず大きなテーマでお伝えすると,「地域の高齢化

社会を守るために,私たちはどんな存在になり,

どうあるべきか」を考えて運営,行動していま

す。そして,「認知症ケア,予防ケア,地域ケア」

をしっかりできるよう,必要なスキルの取得や

人材教育研修,採用もこだわって行っています。

地域活動&地域ケアを 開始した背景

 現在,埼玉県は日本で最も早いスピードで高

齢化が進んでいます。私たちが認知症ケアを中

心としたデイサービスを運営する中でも日々,

ケアマネジャーや地域包括支援センターから認

知症の人の利用に関する問い合わせや相談が多

●写真1 和が家の古民家デイいぶきの外観

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くあり,家族や地域のケアが大切になってくる

ことを痛感していました。問い合わせが来た時

にはすでに中重度化している人も非常に多く,

徘徊する高齢者も地域に多くなり,家族の負担

も大きくなっていました。

 そのような中で,私たち介護の専門職は地域

で最も専門知識を持っている存在であり,社会

資源であるはずなので,要介護者だけでなく,

高齢化した街をしっかりとケアしていく必要が

あるのではないかと思うようになりました。

 「早期発見,早期治療,早期理解ができたら,

もっと長く在宅生活ができるだろう」「デイ

サービスでのケアだけでは認知症の改善には限

界がある。家族も含め,地域の一人ひとりが

『自分事』として理解できれば,きっともっと

優しい世の中になるに違いない」。これらの思

いが日に日に強くなり,2015年度の介護保険

制度の改正をきっかけに,当グループのデイ

サービスがかかわる地域での活動に力を入れは

じめました。

 それに伴い,会社としても「2025年の超高

齢社会を支えられる集団になる」ことを目標と

して,スタッフにアナウンスを開始しました。

そして,自分も含めスタッフが地域活動や地域

貢献ができるよう,研修教育も開始しました。

地域活動の目的と概要●目的 当グループでは,次の6つの目的を持って地

域活動を実施しています。

①介護をしている家族のケア

②地域の介護・認知症予防

③地域の認知症の普及啓発

④地域の見守り合い普及啓発

⑤高齢者の生活での困り事を解決する

⑥高齢化社会の拠点となるべき動き

●これまでの活動内容 これまでさまざまな取り組みをしてきました

が,その一例を次に示します(写真2)。

地域サロンでの講演

地域の認知症予防研修会

地域サロンでの予防活動

(お手玉まわしを実践中)

●写真2 地域サロンでの活動

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・オレンジカフェの定期開催

・認知症サポーター養成講座やフォローアップ

講座の講師

・認知症の紙芝居による地域サロンや小学校で

の啓発活動

・認知症予防を目的とした予防サロン

・民生委員向けや高齢化した団地での認知症講話

・認知症家族の会への参加

・専門職向けの認知症の理解啓発活動

・地域の専門学校生の研修受け入れ

・地域向けの認知症の映画「ケアニン」の上映会

・みまもりあいプロジェクトのアプリを生かし

た「みまもりあい訓練活動」をお祭りで普及

・高齢者買い物難民や引きこもり対策として

「ショッピングリハビリ」を商業施設内で開始

・近隣の人々にデイサービスのイベントなどに

来てもらえるよう,高齢者と一緒にチラシを

持って周囲に案内する

・休日にデイサービスのスペースを医療と介護

の連携した学びの場所として無料提供し,専

門職の学びの場とする

地域活動の実際●行政や地域への周知 いざ,介護施設が「地域活動を行いたい」「地

域の役に立ちたい」と思っても,なかなか介護

施設に周囲の住民が来てくれるわけではありま

せん。ですから,まずは行政の開催する認知症

サポーター養成講座やオレンジカフェや認知症

予防講座の開催のほか,地域の自治会で積極的

に認知症の話をしたり,認知症予防の訓練をし

たりしました。また,施設内でも認知症予防と

認知症ケアを実践として日々行うことにより,

実際に利用者が維持・改善している事例も多数

あります。そこで,それを強みとして,「認知

症関連の講座なら和が家介護グループにお願い

すると協力をしてくれる」という理解が行政や

地域で得られるよう尽力しました。

 何より大切なのは,地域で継続的に活動を行

う上でのベースをつくるため,まずは地域の困

り事は何でもお手伝いするという視点を持つこ

とです。それが私たちの場合,「認知症」とい

うテーマであれば地域の役に立てるというイ

メージが伝わり,今ではそれが当たり前のよう

に行政・地域包括支援センター・社会福祉協議

会に知れ渡っているのではないかと思います。

●地域での活動例①「ケアニン」の上映会 こうして,地域の教室などで講座を行ってい

るうちに,市民全体に「認知症の理解」を深め

ていく機会を得ました。それが認知症を題材に

した映画「ケアニン」の上映会です。この映画

を初めて見た時,私はこれまで研修や教室で認

知症のことをたくさん話してきましたが,この

映画ほど普及啓発できるツールはないと感じま

した。そこで,埼玉のデイサービス経営者の友

人と「ケアニン普及委員会埼玉」を立ち上げ,

地元の市民や専門職,子どもたちに認知症の啓

発目的で「ケアニンの自主上映会」を開催する

ことにしました。

 当初は地元では1人の協力者と,また当グ

ループのスタッフで普及活動を行っていました

が,徐々に賛助者が地域にも現れ,さまざまな

市町村でケアニンの自主上映会を開催すること

ができました(写真3)。上映会を開催するた

め,行政の講演や自治会回り,施設回りを繰り

返しました。その結果,地元の上尾市では約

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500人,桶川市では約400人,北本市では300

人以上の人が集まり,その普及の輪が広がって

いきました。この映画の普及活動だけでも,同

地域で1,200人の方々に視聴してもらえたこと

になります。2019年は在宅医療・介護連携の

映画「ピア」の上映も行っていきます。

●地域での活動例② お祭りでの「みまもりあいアプリ」の普及 地元で認知症の人の行方不明事件が多発して

おり,認知症の人の見守りをどうすべきかが課

題であった時,「みまもりあいアプリ」(主催:

一般社団法人セーフティネットリンケージ)と

出合いました。みまもりあいアプリとは,簡単

に説明すると,アプリをスマートフォンにイン

ストールしてもらい,認知症の人が行方不明に

なった時にそのアプリで捜索依頼をかけると,

アプリ会員に捜索情報が伝わっていくという仕

組みで,現在約40万人の会員がいます(みま

もりあいプロジェクト:mimamoriai.net)。

 「みまもりあいアプリ」を地域に普及させる

ことで,認知症の人が一人歩きした時に見つか

る確率を高めることができます。そのための仕

掛けとして,地域のお祭りで「大かくれんぼ大

会」と称したイベントを数カ所で行いました

(写真4)。これは,子どもやその家族にアプリ

をインストールしてもらい,いなくなった地域

の方々を探してもらおうという趣旨のイベント

で,地域包括支援センターや地域の商工会,青

年会議所の方々や学生の協力を得て,お祭りの

各所に隠れてもらい,アプリを通じて参加者に

探してもらいました。このアプリは周囲の福祉

祭りなどにも広まり,「大かくれんぼ大会」は

地域で広がり,施設の生活相談員がお祭りの

ブースで見守り合い活動を行うといった事例も

つくることができました。

●地域での活動例③ 「ショッピングリハビリ」を開始 蓮田市は,埼玉県の中でも高齢化率が高く,

買い物難民や認知症の人が多い街です。そこで,

この地域の課題の一つである買い物難民対策

と,買い物という外出によりリハビリテーショ

ンを商業施設内で一緒にやってしまおうという

「ショッピングリハビリ」を始めました。これ

は,商業施設内に,総合事業と地域密着型通所

介護を兼ねたサロンを設けており,送迎付きで

週1~2回程度,リハビリテーションと買い物

1,000人以上の市民が地域で視聴してくださいました。地域の仲間でつくり上げた上映会は格別です。

●写真3 認知症の映画「ケアニン」の上映会

地域の見守り合い活動の一つ。「みまもりあいアプリ」を使い,大かくれんぼ大会を実施。たくさんの家族が参加して,認知症の人の見守り合い活動を楽しんでくださいました。

●写真4 大かくれんぼ大会

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目的で通所するサービスです(写真5)。

 これにより,独居高齢者や買い物難民,引き

こもりなどの地域課題をより明確に訴求し,地

域包括支援センターともより連携が濃密になり

ました。2018年5月に始まったサービスです

が,徐々に地域に浸透し,通常のデイサービス

とは異なる新しい地域活動の形として注目を浴

びています。

 また,商業施設内には相談窓口を設けている

ため,市民の方々が困った時に気軽に相談でき

るようになっており,こちらも地域住民と高齢

者の買い物課題を解決する地域連携拠点として

力を入れていく予定で,他の自治体からの視察

も増えています。

●その他の活動例 ほかにも,認知症の普及啓発活動の「ラン伴

イベント」では,認知症の利用者とスタッフが

デイサービスで午前中に200個のおはぎを作り

上げ,マラソン完走者に配布するといった,地

域活動と認知症の利用者の役割づくりを兼ねた

活動を行ったり,行政の認知症施策担当者から

の依頼で夏休み中に地域の学童保育で認知症の

紙芝居を読む活動を行ったりするなど,行政と

連携した取り組みができるようになりました。

地域活動の効果

 このように,地域の行政や社会福祉協議会,

地域包括支援センターと連携しながら認知症の

普及啓発活動を行ってきたことで,デイサービ

スの知名度向上はもちろん,さまざまな地域活

動を行う上での素地ができつつあり,各機関と

スムーズに連携しながら,地域活動が地元で当

たり前のように行えるようになり,依頼もいた

だけるようになりました。

課題と今後の展望●スタッフのスキルアップ 「デイが高齢化社会の拠点に,地域貢献する

デイに,地域貢献できるスタッフに」。このミッ

ションの下,当デイサービスでは生活相談員を

中心として,主に常勤スタッフがさまざまなス

キルや資格を取得し,地域活動に生かしていま

す。例えば,笑いヨガリーダー,認知症予防

ひかりサロン入り口

スタッフと共にショッピングリハビリを行う利用者

ショッピングリハビリに笑顔の利用者

●写真5 ショッピングリハビリ

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ゲームリーダー,きらめき認知症シスター,ブ

レインマネージャー,シナプソロジー,笑い文

字など多岐にわたります。

 高齢化に伴い地域の悩みも増える中,住民の

ニーズに応えるには,より広範な相談に乗れる

よう,スタッフの知識向上やスキルアップが欠

かせません。そのため,スタッフには一般市民

の前で話をする機会を増やして慣れてもらうこ

とや,施設内での活動やサービス担当者会議へ

の参加だけでなく,地域の顔となることを目指

して,地域活動に参加するのが当たり前の風土

がよりつくられるよう,活動領域を広めていま

す。採用要項にも「地域活動に興味のある方歓

迎」とうたっています(笑)。

●今度の活動目標①認知症予防活動の強化

 地域に体操教室はたくさんありますが,認知

症予防教室はほとんど見受けられません。2025

年以降,後期高齢者が増大していきます。それ

を見据え,地域で定期的に認知症予防教室を行

政と連携しながらできるようになることを目指

します。

②地域の家族支援の強化

 高齢化が進行するにつれ,認知症の老老介護

などが増えていきつつあります。そのため,家族

の相談ができる場を定期的に設けていきたいと

考えています。名称は「家族デイ」でしょうか。

③「みまもりあいアプリ」の普及

 今後,認知症の人は525万人から毎年5~

10%ずつ増えていくと言われている世の中で,

認知症の人の見守りを強化していく流れをつく

りたいと思っています。例えば,地域の専門職

や認知症の人の家族に「みまもりあいアプリ」

をインストールしてもらえば,地域の見守り力

を強化することができると考えます。ただ,こ

のようなツールを普及していくためには行政の

協力が不可欠です。そのため,行政との連携を

より深めながら進められたらと思ってます。

④コミュニティデイサービスの開設

 冒頭でも触れたとおり,2019年は「地域を

守るコミュニティデイサービス」を開所する予

定です。高齢化した田舎で高齢者が活躍し,地

域の人々が集えるデイサービスとして,駄菓子

屋やおにぎり屋,子どもの遊び場を施設に併設

し,要介護・要支援者以外の地域のコミュニティ

をつくっていくという構想です。こちらも一歩

一歩進めていく予定です。

* * *

 このように,地域を守るという観点で,当グ

ループでは今後もデイサービスの運営だけでな

く,生活相談員を中心として地域活動を進めて

いきたいと思ってます。

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