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MEDIX VOL.48〉 25 SPECT/CT 時代の 新しい3次元画像再構成法(Astonish) New Three-dimensional Image Reconstruction Method(Astonish) in the Era of SPECT/CT 論 文 熊本大学医学部 保健学科 放射線技術科学専攻 冨口 静二 Seiji Tomiguchi Key Words: 3D-OSEM, Attenuation Correction, Scatter Correction, Collimator Detector Response Compensation Astonish 法は、system response function を用いたcollimator distance response CDR)補正、減弱補正および散乱線補正を 3D-OSEM法で行う画像再構成法である。 CDR補正は、点広がり関数の線源と検出器の距離に依存するボケを3 次元で補正する。 減弱補正にはCT 像より作成した減弱補正係数が用いられる。また、散乱線補正には吸収体中の散乱線の動向をモデル化し、投影 像の散乱線成分を推定するeffective scatter source estimation ESSE)法が用いられている。臨床的には、腫瘍シンチや心筋シ ンチにおいて、病変検出能や特異度の向上による病変診断能の向上が期待される。 The Astonish software package uses a three-dimensional ordered subsets expectation maximization 3D-OSEMalgorithm for image reconstruction, which includes a collimator distance response CDRcompensation, attenuation and scatter correction. The CDR compensation is performed with convolution method to model the varying resolution at different distances from the detector far 3D depth-dependent resolution recovery. An attenuation correction is performed using attenuation coefficient maps converted from a CT images. A scatter correction is also performed with effective scatter source estimation ESSEmethod to model the spatially-varying, object-dependent scatter response function SRF. The Astonish software improves the contrast of the true activity of the hot spots relative to the background, signal to noise, and spatial resolution on reconstructed images. In clinical, improvement in the detection of the lesion and specificity are expected on a SPECT imaging using the tracers for the evaluation of the tumor and myocardial perfusion. 1.はじめに 最近の分子生物学の進歩により、分子レベルでの変化を評 価する方法が注目されている 1。この点、分子レベルの変化に 対する検出感度の高いpositron emission tomography PETsingle-photon emission computed tomography SPECT)検査のこの分野で果たす役割は大きい 1。しかし、 PET SPECT 撮像では、消滅放射線、γ線の体内での減弱 および散乱線発生による画像劣化が起こる。さらに、 SPECT 撮像では、コリメータ装着による計数率の低下や深さ方向で の分解能の劣化により、PET 撮像に比べ感度や分解能が劣 る。このような問題を解決するためには減弱補正、コリメータ 開口径補正(分解能補正)および散乱線補正が必要となる。ま た、PET SPECT 像には解剖学的情報が乏しい問題点もあ る。このような問題を背景にPET SPECT 装置とcomput- ed tomography CT)装置を一体化したPET/CT SPECT/ CT 装置が開発され、臨床導入が進んでいる。 本稿では、画像再構成に SPECT および CT 像を用い減弱 補正、分解能補正および散乱線補正を再構成アルゴリズム に組み込み 3D ordered-subset expectation-maximization 3D OSEM)法で行う統計学的画像再構成法(Astonish: 以下 Astonish 法)について、臨床的有用性も含め解説する。 2.SPECT/CT装置 Astonish 法にはプラナーおよびSPECT 像に分解能補正の

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Page 1: SPECT/CT時代の 新しい3次元画像再構成法(Astonish) · SPECT imaging using the tracers for the evaluation of the tumor and myocardial perfusion. 1.はじめに

〈MEDIX VOL.48〉 25

SPECT/CT時代の新しい3次元画像再構成法(Astonish)

New Three-dimensional Image Reconstruction Method(Astonish)in the Era of SPECT/CT

論 文

熊本大学医学部 保健学科 放射線技術科学専攻

冨口 静二 Seiji Tomiguchi

Key Words: 3D-OSEM, Attenuation Correction, Scatter Correction, Collimator Detector Response Compensation

Astonish法は、system response functionを用いたcollimator distance response(CDR)補正、減弱補正および散乱線補正を3D-OSEM法で行う画像再構成法である。CDR補正は、点広がり関数の線源と検出器の距離に依存するボケを3次元で補正する。減弱補正にはCT像より作成した減弱補正係数が用いられる。また、散乱線補正には吸収体中の散乱線の動向をモデル化し、投影像の散乱線成分を推定するeffective scatter source estimation(ESSE)法が用いられている。臨床的には、腫瘍シンチや心筋シンチにおいて、病変検出能や特異度の向上による病変診断能の向上が期待される。

The Astonish software package uses a three-dimensional ordered subsets expectation maximization(3D-OSEM)algorithm

for image reconstruction, which includes a collimator distance response(CDR)compensation, attenuation and scatter

correction. The CDR compensation is performed with convolution method to model the varying resolution at different

distances from the detector far 3D depth-dependent resolution recovery. An attenuation correction is performed using

attenuation coefficient maps converted from a CT images. A scatter correction is also performed with effective scatter source

estimation(ESSE)method to model the spatially-varying, object-dependent scatter response function(SRF). The Astonish

software improves the contrast of the true activity of the hot spots relative to the background, signal to noise, and spatial

resolution on reconstructed images. In clinical, improvement in the detection of the lesion and specificity are expected on a

SPECT imaging using the tracers for the evaluation of the tumor and myocardial perfusion.

1.はじめに

最近の分子生物学の進歩により、分子レベルでの変化を評価する方法が注目されている1)。この点、分子レベルの変化に対する検出感度の高いpositron emission tomography(PET)や single-photon emission computed tomography

(SPECT)検査のこの分野で果たす役割は大きい 1)。しかし、PETやSPECT撮像では、消滅放射線、γ線の体内での減弱および散乱線発生による画像劣化が起こる。さらに、SPECT

撮像では、コリメータ装着による計数率の低下や深さ方向での分解能の劣化により、PET撮像に比べ感度や分解能が劣る。このような問題を解決するためには減弱補正、コリメータ開口径補正(分解能補正)および散乱線補正が必要となる。また、PETやSPECT像には解剖学的情報が乏しい問題点もあ

る。このような問題を背景にPETやSPECT装置とcomput-

ed tomography(CT)装置を一体化したPET/CTやSPECT/

CT装置が開発され、臨床導入が進んでいる。本稿では、画像再構成にSPECTおよびCT像を用い減弱補正、分解能補正および散乱線補正を再構成アルゴリズムに組み込み3D ordered-subset expectation-maximization

(3D OSEM)法で行う統計学的画像再構成法(Astonish:以下Astonish法)について、臨床的有用性も含め解説する。

2.SPECT/CT装置

Astonish法にはプラナーおよびSPECT像に分解能補正の

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保ったままノイズを低減する方法がとられているところである。逆投影される更新近似された投影像に最適なHanning

filterを掛け、逐次近似を繰り返すことによるノイズの増加を低減している。結果的にOSEM再構成後にButterworth

filter処理した結果に比べ、再構成像の画質は向上すると報告されている 2)。

3D-OSEM法の概念は、以下のように要約できる。まず、計測した投影像のカウント(Pi)と、各ボクセルの検出確率を基に推定された投影像のカウント(Pi+1)との比率(Pi/Pi+1)が計算される。次に、この投影像の比率を逆投影し各ボクセルの比率を求める。最後に、これを更新前の各ボクセル値に掛け、新しいボクセル値とする。以後、計測された投影像と更新された投影像の比率が1に近づくまで更新近似を繰り返し、真に近いボクセル値が推定されている。

Astonish法で用いられる3D-OSEMアルゴリズムでは、散乱線の影響、減弱およびコリメータ開口径による分解能劣化が、検出確率に組み込まれている。式中のxは、再構成された像で、newはoldを更新近似したものである(図3)。Nは総ボクセル数、Snはサブセットの投影データポイントのセット数である。Fは投影マトリックス(Fx=p)で、この部分に各ボクセルの検出確率が組み込まれている。pは計測された投影データである(図3)。

4.システム分解能補正

システム分解能は、コリメータの厚さおよび開口径と線源の検出器からの距離および検出器の固有分解能に依存しており、この関係はcollimator distance response(CDR)と呼ば

みを適用する機能もあるが、SPECT像にはさらなる高画質化のために、CT像を使用し減弱および散乱線補正を適用することも可能である。この場合、SPECTおよびCT像が必要となり、SPECT/CT装置による撮像が基本となる。図1が当施設にて使用しているSPECT/CTシステムである。CT寝台でSPECTおよびCT撮像を可能としたシステムで、2検出器型SPECT装置(SKYLight※1 :フィリップス社製)と8列のmulti-slice CT(MSCT)(Lightspeed※ 2 ultra:GE社製)を組み合わせたものである。図2には、現在開発されているハイブリッド型を示す。これらはいずれもSPECT装置およびCT装置を一体化したもので、同一寝台でSPECTおよびCT撮像が可能なものである。SPECT/CT装置の有用性は、CT像による解剖学的情報をSPECT像とともに表示する融合画像が得られる点と、CT像を用いた減弱補正など、SPECT画像の画質改善が可能な点である。

3.Astonish法

図3にAstonish法の概要を示す。本法の特徴は、計測された投影像および更新近似で推定された投影像に対し、Matched filter(同じHanning filter)処理を行い、分解能を

2-head SPECT system(SKYLight: Philips)

8-row MSCT system(Lightspeed ultra:GE)

図1:SPECT/CT combined systemこれは、同室に2検出器型SPECT装置(SKYLight: フィリップス社製)と8列のmulti-slice CT(Lightspeed ultra: GE社製)を設置し、CT寝台でCTおよびSPECT撮像ができるSPECT/CT撮像システムである。

Infina Hawkeye※3 4SPECT + 4 MSCT

PrecedenceSPECT + 16 MSCT

Symbia※4SPECT + 6 MSCT

PhilipsSIEMENSGE

図2:SPECT/CT hybrid systemこれは、CTおよびSPECT装置を一体化したものである。GE社製(図左)、シーメンス社製(図中央)はすでに発売されている装置である。フィリップス社製(図右)は、現在薬事申請中である。

3D-OSEM algorithm

Finalimage

3D-collimator DetectorResponse(d)

CT-basedAttenuationModelling(a)

ESSE法3D-scatter Modelling(s)

Estimationstep

SPECT CT

3D-OSEM3D-OSEM

Measuredprojectiondata(p i)

ith iteration

Matched filter

図3:Astonish法の概略図Astonish法で用いられる3D-OSEMアルゴリズムでは、散乱線の影響(s)は順投影部(右端の括弧内でこれがxoldの投影データに相当する)にのみ組み込まれている。減弱(a)およびコリメータ開口径による分解能劣化(d)は逆投影および順投影部双方に組み込まれている。式中のxは、再構成された像で、newはoldを逐次近似したものである。Nは総ボクセル数、Snは投影データのsubset数である。Fは投影マトリックス(Fx=p)で、各ボクセルの減弱や散乱線などの影響が組み込まれている。pは計測された投影データである。

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6.散乱線補正

散乱線補正については、従来 double energy window

(DEW)や triple energy window(TEW)法といったマルチウィンドウ法が主流であったが、SPECT/CTやPET/CT装置では、SPECT像あるいはPET像とCT像を用いモンテカルロシミュレーションにより散乱線成分を求め、逐次近似法により補正する方法が用いられるようになった 6)。

Astonish法では、散乱補正法としてeffective source scat-

ter estimation(ESSE)法が用いられている7)。図7は、ESSE

法で用いられている散乱線のモデルである。Aが散乱線の原因となる線源で、BはAより発生した散乱線が最終的に検出器に垂直に向かう点である。本法は、A点の線源(A(x))より

れている。図4は、CDRの模式図である。CDRでは、コリメータと線源の距離が離れるほど点広がり関数(point spread

function: PSF)が広くなり空間分解能が劣化する(図4)。3次元のCDRは、投影データ上の点線源が、再構成されるボクセルには逆円錐として投射されるモデルとなる(図5)。実際には、この線源と検出器の距離に依存するボケは、ガウスフィルタで近似でき、各線源と検出器の距離に応じたガウスフィルタを用意し、これを逐次近似の検出確率に織り込むことでCDRは補正されている 3)。

5.減弱補正

Astonish法では、CT値より各ボクセルの線減弱係数を求め、これをボクセル値の検出確率に織り込み、逐次近似で補正されている。X線CTを用いる場合には、99mTcなどのγ線より低いX線エネルギーより変換するために、骨と軟部での減弱係数の差が大きく、CT値と線減弱係数を単純な直線関係より求めると骨の減弱が過大評価される(図6)。実際には、CT値0で勾配を変化させたbilinearな直線により線減弱係数は算出される(図6)4)。臨床的には、外部線源を用いたトランスミッション法と同等の補正が可能である 5)。

図4:Collimator distance response(CDR)の模式図AおよびBは、点線源で、A点はB点より検出器(detector)より離れている(Dが大きい)。検出器上部は、投影されるA点(赤)およびB点(青)の点広がり関数(PSF)である。A点に比べB点のPSFは劣化しており、これが深さ方向のボケの原因となる。

図5:三次元CDRの模式図投影像中(Projection)の点線源は、再構成されるボクセル中

(Recnstruction)の放射能分布としては、“逆円錐”として投影される。

図6:CT-based attenuation correctionCTで使用されるX線のエネルギーは99mTcのエネルギーより低いために、骨と軟部組織との減弱補正係数の差が、99mTcの場合より大きい(エネルギーの低い領域では、光電効果が減弱の主役:CT、エネルギーが高くなるとコンプトン散乱が減弱の主役:PET)。従って、そのまま適応すると骨は過大評価となる。これを防ぐためにCT値を減弱補正係数に変換する際には、CT値0で、傾きが変わるbilinearの関係で変換される。

吸収体(水)

図7:ESSE法で用いられている散乱線モデル水中にあるA点の線源:As(X)より発生した散乱線は、水中でさまざまな方向に散乱し、最後に散乱を受け発生した散乱線が検出器(detector)に垂直に入射する点がB点である。このモデルでは、Aより発生した散乱線がB点に至る確率(P1)、B点から発生した散乱線が検出器に垂直に向かう確率(P2)、この散乱線が検出器で減弱を受けずに検出される確率(P3)、減弱は受けるがエネルギーウィンドウ内で検出される確率(P4)が定義されている。ESSE法では、このモデルを利用して、B点で発生した散乱線が体表までの距離:τ(X’)で減弱を受け検出器で計測される散乱線線源:As(x’)として求められ、これより投影データ中の散乱線成分を推定している。

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7.Astonish法の臨床的有用性

NEMAファントムを用いた陽性像の検討では、Astonish

法でコントラストおよび信号 /雑音(S/N)比が、filtered back-

projection(FBP)法 やMaximum-likelihood expectation-

maximization(MLEM)法に比べ改善し、特に分解能はカメラ中央の full width at half maximum(FWHM)値でFBP法の10.3mmからAstonish法では4.4mmに改善する 8)。

67Ga SPECTにおいて、TEWやESSE法による散乱線補正を加えると、コントラストの改善により、病変検出能が向上すると報告されている 9)。図9に 67Ga SPECT例を示す。肝内腫瘤への集積を認めるが、3D-OSEM法に比べAstonish法で、病変のコントラストが向上している。このようにAstonish法は、腫瘍シンチにおいて、病変検出能の向上に寄与するものと考えられる。

B点で発生し投影像に含まれる散乱線成分(scatter response

function:SRF)を吸収体中の散乱線の動向をモデル化し推定する方法である。モデルでは、SRFは4つの成分より計算される。1)Aより発生した散乱線がさまざまなルート(多次数の散乱線を含む)でBに至る確率(P1)、2)Aより発生した光子がBで散乱され検出器に垂直に向かう確率(P2)、3)Bより発生したコリメータに対し垂直に向かう散乱線が減弱せずに検出される確率(P3)、および4)Bより発生したコリメータに対し垂直に向かう散乱線が減弱を受けるがエネルギーウィンドウ内で検出される確率(P4)である(図7)。図8にESSE法の実際を示す。まず、モンテカルロシミュレーションを用い、モデルよりP1-P4を考慮した散乱線線源カーネル(Scatter source

kernel:k)が計算される。また、最後に発生した散乱線の減弱係数(μs)から水の減弱係数(μ0)を減算した相対的散乱線減弱係数カーネル(relative scatter source attenuation ker-

nel:Δμs)もシミュレーションにより算出される。次に、これらよりさらに3つのカーネルを作成する。ここまでは、事前にモンテカルロシミュレーションで計算されたものを用いる。次に、この3つのカーネルを線源(A)の放射能分布にコンボリューションし、3つの像を作成する。これに、それぞれ係数1、-1xτ(散乱線発生部(B)と体表までの距離)および0.5xτ2を掛け、総和して一つの像にする。この像に電子密度(ρs)分布を掛けたものが実効散乱線線源(As)分布になる。これを順投影(forward projection)することで、ある収集角度での投影データに含まれる散乱線成分が推定されている。なお、順投影される場合には、CDRによるボケを考慮して散乱線成分は計算される。これにより、投影データ中に含まれる減弱およびCDRによるボケを含んだ散乱線成分が推定されることになる。

図8:ESSE法の実際図上段に方法の概略、下段に推定式を示す。まず、3つのカーネル、k、kxΔμS、kx(ΔμS)2は、モンテカルロシミュレーションで事前に作成されたものを使用する。これらに放射能分布(A)をコンボリューションし、3つの像を作成する。次に、それぞれに、1、-1xτS、1/2xτS

2の係数をかけ、総和し1つの像を作成する。これが、式中の括弧内に相当する像である。従って、この像に電子密度の分布(ρS)を掛けることで、実効散乱線線源

(ESS):ASの像を得ることができる。さらにCDRによるボケを加え順投影することで、投影データ中の散乱線成分が推定できる。図中、 はコンボリューションを表す。kはscatter source kernelで、P1からP4より計算される。なお、scatter response function(SRF)はkに電子密度ρSを掛けたものである。μS : scatter attenuation coefficientは散乱線減弱係数、μ0は水の減弱係数で、散乱線の減弱に関するカーネル(ΔμS)は、μS-μ0で推定されている。

図9:67Ga SPECT3D-OSEM法に比べAstonish法の方が、肝内病変のコントラストが向上している。

3D-OSEM

Astonish

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図10および図11は、201Tl負荷心筋SPECT像である。図左が3D-OSEM、右がAstonish法で再構成したものである。正常例(図10)においては、Astonish法により、心筋壁厚は薄く描出され、これはCDR補正の効果と考えられる。しかし、散乱線補正まで加えた像(CDR+AC+SC)では、前壁から心尖部に相対的集積低下が認められる。図11は左回旋枝(LCX)領域の虚血例である。Astonish法でコントラストが向上するために、虚血領域が明瞭に検出されている。表1は、90%以上の狭窄を有する冠動脈病変の診断能を比較したものである。3D-OSEM法に比べAstonish法では、右冠動脈(RCA)領域および左回旋枝領域で、感度および特異度共に向上している。しかし、前下降枝(LAD)領域では、感度は向上するが、特異度の低下が認められる。この原因としては、下壁の減弱補正による前壁の相対的集積低下がAstonish法では強調さ

れるためと考えられる10)。

8.おわりに

Astonish法の基礎的事項および臨床的有用性について概説した。本法は、CDR補正、減弱補正および散乱線補正を加え3D-OSEM法で再構成するものである。これにより、再構成像のコントラスト、空間分解能および均一性が向上する。

図10:201Tl SPECT正常例図左が3D-OSEM法、図右がAstonish法で再構成されたものである。上段のセットは減弱補正(AC)、散乱線補正(SC)ともにしていないもので、左が3D-OSEM法(NC)、右がAstonish法(CDR: CDR補正のみ)である。また、それぞれのセットでは上段が負荷像で下段が遅延像である。中段のセットは、それぞれに減弱補正(AC)を加えたもので、下段のセットは、減弱および散乱線補正(AC+SC)を加えたものである。Astonish法では、CDR補正により壁厚が薄くなり、ACで下壁の減弱が補正され、分布が全体に均一になっている。さらに、SCを加えることで心筋とバックグラウンドのコントラストが向上している。しかし、Astonish法(CDR+AC+SC)では、前壁に虚血を疑わせる所見が出現している。

NC CDR

AC CDR+AC

AC+SC CDR+AC+SC

図11:201Tl SPECT虚血例図左が3D-OSEM法、図右がAstonish法で再構成されたものである。上段のセットは減弱補正(AC)、散乱線補正(SC)ともにしていないもので、左が3D-OSEM法(NC)、右がAstonish法(CDR: CDR補正のみ)である。また、それぞれのセットでは上段が負荷像で下段が遅延像である。中段のセットは、それぞれに減弱補正(AC)を加えたもので、下段のセットは、減弱および散乱線補正(AC+SC)を加えたものである。LCX領域の後側壁に認められる虚血はAstonish法で良好に描出されている。

NC CDR

AC CDR+AC

AC+SC CDR+AC+SC

表1:3D-OSEM法とAstonish法による冠動脈病変診断能の比較

TerritoryRCA(%) LAD(%) LCX(%)

Sen. Spe. Acc. Sen. Spe. Acc. Sen. Spe. Acc.

3D-OSEM 33 65 57 34 83 59 16 97 71

Astonish 47 93 81 62 66 64 26 97 74

Sen.: sensitivity, Spe.: specificity, Acc.: accuracy

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臨床的には、再構成像の画質が改善するので、病変検出能や特異度に加え定量性の向上も期待される。このような臨床的有用性を明らかにするためには、SPECT/CT装置の臨床現場への普及が必要である。

※1 SKYLightはADAC Laboratoiesの商標です。※2 Lightspeedはゼネラル・エレクトリック・カンパニイの登録商標

です。※3 HawkeyeはGeneral Electric Companyの商標です。※4 SymbiaはSiemens Medical Solutionsの商標です。

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