8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8...

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8 ω = δΩ/Ω Ω ω = κC s Ω M 0 (T ) 2 + κC h Ω [M 2 - M 2 0 (T )] (8.1) M 0 (T ) κ = -∂ω/∂p (8.1) (spontaneous magnetostriction) (forced magnetostriction) C s , C h 1960 1980 8.1 8.1.1 Stoner-Edwards-Wohlfarth Hartree-Fock 1 F (M,T,ω) = F (0,T,ω)+ 1 2 a(T,ω)M 2 + 1 4 b(T,ω)M 4 + Ω 2κ ω 2 - [M (H, T ) 2 - M 2 (0,T )] + ··· (8.2) 124

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Page 1: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果

磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

現象を指す。例えば、磁性体に外部から圧力を加えることによって体積が変化し、自発磁化の値や

磁気相転移温度が変化することが知られている。逆に自発磁化の発生により大きな体積歪が発生す

る場合もある。通常の格子振動などによる寄与を除くと、磁性体の示す体積磁歪(ω = δΩ/Ω、Ω

は体積を表す)の変化は次の式を用いてよく表されることが知られている。

ω =κCs

ΩM0(T )2 +

κCh

Ω[M2 −M2

0 (T )] (8.1)

ここで、自発磁化を M0(T )、圧縮率を κ = −∂ω/∂p で表した。(8.1) 式の第1項はキュリー

温度以下の低温で自発磁化が発生することによる体積変化を表し、自発体積磁歪 (spontaneous

magnetostriction)と呼ばれる。第2項は外部磁場をかけたことによる効果を表し強制体積磁歪

(forced magnetostriction)と呼ぶ。それぞれの項に現れる係数 Cs, Ch は、対応する磁気体積結合

定数(磁気弾性結合定数)である。

磁気体積効果は、ある温度範囲で熱膨張がきわめて小さいインバー合金の原因にも密接な関係が

ある。応用上有用な性質に関連があることから、この効果に関してはこれまでに多くの実験、理論

の両側面からの研究が行われている。また、特に弱い遍歴電子強磁性体については、これらが大き

な磁気体積結合定数をもつことから関心をもたれ、1960 年代後半から 1980 年頃にかけて圧力依

存性などについての多くの実験が行われた。

遍歴電子磁性体の磁気体積効果を説明するための考え方については、当初は1電子近似に基づく

バンドモデルによる理論が支配的であった。その後、有限温度の磁気的性質を説明するために導入

されたスピンの熱ゆらぎの寄与を取り入れ理論の改良が行われた。しかし、スピンゆらぎの寄与に

ついても、依然として未解決な問題が残されているように思われる。前の節でスピンゆらぎの寄与

を表す自由エネルギーを導入し、その自由エネルギーに基づいて磁気エントロピーや比熱のふるま

いを理論的に説明した。そこで導入した自由エネルギーは「バンドモデル」に対して、「スピンゆ

らぎモデル」と呼ぶことができる。この節では、スピンゆらぎモデルの自由エネルギーに基づいて

磁気体積効果を論ずるのが目的である。

磁気体積効果についての詳しい説明に入る前に、まずこれまでの研究の発展について簡単に述べ

る。その後で、自由エネルギーの体積依存性から磁気体積効果が一般的にどのように導かれるかに

ついて説明する。その際に、磁気的グリュナイゼンパラメータが導入される。得られた一般論に

従って磁気秩序状態、常磁性状態のそれぞれの相における自発体積磁歪と強制体積磁歪についての

説明が続く。実験データの解析のしかたや、すでに得られている磁気体積効果の測定結果などにつ

いてもこの節の最後に紹介する。

8.1 金属磁性体の磁気体積効果の理論の発展

8.1.1 Stoner-Edwards-Wohlfarth 理論による磁気体積効果

遍歴電子磁性体の磁気体積効果に関しても、最初は Hartree-Fock 近似など 1 電子の個別励起モ

デルに基づく理論がこの問題に適用された。それは次のような自由エネルギーに基づいて磁気体積

効果を理解しようとするものである。

F (M,T, ω) = F (0, T, ω) +1

2a(T, ω)M2 +

1

4b(T, ω)M4

2κω2 − Cω[M(H,T )2 −M2(0, T )] + · · · (8.2)

124

Page 2: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

上の最初の項は、磁気的な原因とは関係ないので以下の議論では無視する。第 2項の係数 a(T, ω)

は磁化率の逆数を表す。ここで C は以下のように定義される。

C = −1

2

∂a

∂ω

パラメータ C は (8.1) の磁気体積結合係数に対応し、磁気体積効果では重要な意味をもつ。第 4

項は結晶の弾性エネルギーを表す。

このモデルによれば磁気体積効果として以下のような結果が導かれる。

• Tc の圧力依存性

強磁性の臨界温度は a(Tc, ω) = 0の条件から決まる。したがって、臨界温度の圧力依存性は、

この条件の圧力依存性を調べることから求められる。まず a(Tc, ω) = 0 の条件の ω につい

ての変分から次の関係が得られる。

∂a

∂TδTc +

∂a

∂ωδω = a′(Tc, ω)δTc − 2Cδω = 0

ただし、a′(T, ω)は温度による偏微分を表す。したがって、Tc の圧力依存性が次のように求

まる。dTc

dp=

dTc

dp=

2C

a′(Tc, ω)(−κ) = − 2κC

a′(Tc, ω)

係数 a(T, ω) の温度依存性を以下のように仮定すれば、

a(T, ω) =1

2χ0

(

T 2

T 2c

− 1

)

, χ0 =1

2b(0, ω)M2s

Tc の圧力依存性を次のように表すこともできる。

dTc

dp= −2κCχ0Tc = − κC

b(0, ω)

Tc

M2s

χ0 は高磁場磁化率の値を表す。外部磁場が存在せず、ω = 0 のときの (8.2) から得られる

H/M , ∂H/∂M は、飽和磁化 Ms を用い次のように表される。

H

M=

1

2χ0

(

T 2

T 2c

− 1

)

+1

2χ0M2s

M2,∂H

∂M=

1

2χ0

(

T 2

T 2c

− 1

)

+3

2χ0M2s

M2

つまり、χ−10 は T = 0 K のときの ∂H/∂M の値を表す。

• 飽和磁化の圧力依存性

自由エネルギーの 4次の展開係数 b の体積依存性が小さいとして無視できると考えると、基

底状態における飽和磁化 Ms を決める式、a(0, ω) + b(0, ω)M2s = 0 の ω についての変分は

次のように表される。

∂a

∂ωδω + 2b(0, ω)MsδMs = −2Cδω + 2b(0, ω)MsδMs = 0

つまり、飽和磁化の圧力依存性として次の結果が得られる。

MsdMs

dp=

C

b(0, ω)

∂ω

∂p= − κC

b(0, ω)

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• 自発体積磁歪

磁気秩序状態において外部磁場が存在しない場合には、体積変化に伴う (8.2) 式の自由エネ

ルギー変化は次のように表される。

δωF =Ωω

κδω +

1

2

∂a

∂ωM2δω '

[

Ωω

κ− CM0(T )2

]

δω

したがって自由エネルギーの安定化の条件より自発体積磁歪として次の結果が得られる。

ω =κC

ΩM0(T )2

自発磁化の存在しない常磁性状態では、このような寄与は存在しない。

• 強制磁気体積効果

外部から磁場をかけることによってモーメントの値が変化する。自発体積磁歪の場合と同様

に、この場合は (8.2) の自由エネルギーの最後の項が磁歪に寄与する。この項の ω に関する

変分を求めることにより、以下に示す強制体積歪が余分に発生する。

ωh =κC

Ω[M(H,T )2 −M(0, T )2]

このようにして得られた磁気体積歪は次のような特徴がある。つまり、自発体積磁歪と強制体積

磁歪のそれぞれは、M0(T )2 または、[M2 −M20 (T )] に比例するが、その係数である結合定数 Cs,

Ch は、どちらも同じ C の値で与えられる。したがって、(8.1) 式は次のように表される。

ω =κC

ΩM0(T )2 +

κC

Ω[M2 −M2

0 (T )] (8.3)

また、自発体積磁歪は磁気秩序状態でのみ発生する。常磁性状態では存在しない。結合定数 C は、

自由エネルギーの M に関する2次の展開係数 a(T, ω) の ω についての微係数として定義される。

ストーナー理論によれば、係数 a がフェルミ準位における状態密度の値や、電子間相互作用パラ

メータ I を用いて表されるので、C の値はこれらの体積依存性から決ると考えられる。また、フェ

ルミ分布関数の温度依存性を反映し、次のような T 2 に比例する弱い温度依存性が存在すると考え

られる (Wohlfarth 1969, Mills 1971, Kortekaas & Franse 1976)。

C =1

4Nρ(εF )µ2B

[

∂ρ(εF )

∂ω+ I

∂I

∂ω+T 2

T 2F

(

∂ρ(εF )

∂ω+ 2

∂TF

∂ω

)]

この式に現れるフェルミ準位における状態密度の値や相互作用定数の体積依存性を実際にバンド計

算を用いて求めようとする研究も行われている。とくに状態密度の体積依存性に関係がある d バ

ンド幅は、V 5/3 の体積依存性をもつと考えられている (Heine 1967)。

参考まで、熱膨張係数 (thermal expansion coefficient または volume coefficient of thermal ex-

pansion) α は体積歪の温度係数として以下のように定義される。

α =dω

dT=

1

Ω

dT

体積歪は、ストレインゲージなどを用いて結晶の長さ変化を測定したり、熱膨張を測定などにより

行われる。最近では、キャパシタンスブリッジ法を用いた測定も行われている。

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8.1.2 磁気体積効果に対するスピンゆらぎの効果

これまでの節でも指摘したように、Stoner-Wohlfarth 理論には金属磁性の磁気的な性質を説明

する上で種々の困難があった。したがって磁気体積効果についてもスピンゆらぎの効果を考慮に入

れる必要があると考えることは当然の成り行きである。(Moriya & Usami 1980) は、スピンゆら

ぎの効果を取り入れるために (8.2) 式の磁気体積結合を表す項に、熱ゆらぎによる以下の項を追加

して磁気体積効果を論じた。

−ω∑

q

CqM2q (8.4)

結合定数 Cq は一般に波数依存性をもつと考えられた。SCR 理論のようにMq として熱的なゆら

ぎの成分だけを考えるのであれば、波数が q = 0 近傍の長波長のゆらぎだけが主に励起されるこ

とになり、結合定数の波数依存性が無視できる。つまり Cq ∼ C0 と近似できる。このような考え

方に基づいて、スピンゆらぎの 2 乗振幅の熱平均値に直接比例する項が、体積磁歪に対して余分

に付け加わることが示された。

ω =κC

Ω

q

〈Mq ·M−q〉 =κC

Ω

[

M20 (T ) + ξ2(T )

]

(8.5)

ξ2(T ) =∑

q

〈δMq · δM−q〉 , δMq = Mq − 〈Mq〉

上の ξ2(T )が熱ゆらぎの振幅を表す。また、〈M0〉が自発磁化 M0(T ) であることを用い、磁気体

積結合定数の q = 0 の一様成分を C = C0 とおいた。

この議論で用いられる結合定数 C は、SEW 理論同様に強制磁気体積結合定数と同じ値をもつ

ものと考えられる。T = 0 K の基底状態に関しては、熱ゆらぎの振幅がゼロになるので Moriya,

Usami の結果は SEW 理論の結果と全く一致する。有限温度の自発体積磁歪のふるまいに関して

は、(8.5) 式に示されているように新たな熱ゆらぎによる寄与が付け加わったことを反映し、SEW

理論とは少し異なる結果が導かれる。弱い遍歴電子強磁性体について、臨界温度における熱ゆらぎ

の振幅が次の関係を満たすことが知られている。

ξ2(Tc) =∑

q

〈Mq ·M−q〉T=Tc=

3

5M2

s

この関係を利用して基底状態と臨界温度における自発体積磁歪の値を比較できる。η(T ) = ω(T )/ω(0)

を定義すると、(8.5)式から臨界温度 T = Tcにおけるこの比の値として、η(Tc) = ξ2(Tc)/M2s = 3/5

が得られる。熱ゆらぎの寄与が存在しない SEW 理論では、ω(Tc) = 0となるためこの比の値は 0

となる。Moriya, Usamiは自発体積磁歪についての (8.5) の結果を検証するために、基底状態と臨

界温度における体積歪の差 ∆ω = ω(0)−ω(Tc)と SEW 理論で期待されるこの差の値 ωSEW との

比の値、∆ω/ωSEW を実験データの解析から求めた。η(T )の定義を用いて ∆ω/ωSEW = 1−η(Tc)

が成り立つことがわかる。Moriya, Usami の理論にしたがえば、この比の値は 2/5となり、SEW

理論によれば 1 になることが期待される。熱膨張の測定結果を利用して体積歪の差 ∆ω を求める

ことができる。ωSEW の値としては、強制体積磁歪の測定から求めた結合定数 Cと飽和磁化 MS

の測定値から求めた κCM2s /Ω の値が用いられた。得られた結果を以下に示す表 14に引用した。

熱ゆらぎの振幅が磁気体積効果に影響を及ぼすという結果は、常磁性状態においても磁気的な原

因による体積膨張への寄与が存在することを意味する。常磁性状態では熱ゆらぎの振幅が磁化率の

逆数に比例し、次の温度依存性、

q

〈Mq ·M−q〉 =3

5bχ−1(T )

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表 14: 自発体積磁歪と η(Tc) の比の値

1 − η(Tc)

Sc3In 0.3 – 0.5

ZrZn2 ∼ 0.6

NixAl1−x ∼ 0.3

(x = 0.755 – 0.76)

Ni0.452Pt0.548 ∼ 0.2

を示す。したがって、体積磁歪が磁化率の逆数に比例するという次の結果が得られる。

ω(T ) ∝ κC

Ωbχ−1(T )

詳しい熱膨張率の測定結果の解析から、格子振動以外の熱膨張への寄与が常磁性状態において存在

することが確かめられている例もある。体積磁歪に関する Moriya, Usami の理論の結果は、結局

次の式にまとめられる。

ω(T ) =κC

Ω[M0(T )2 + ξ2(Tc)] +

κC

Ω[M2 −M2

0 (T )] (8.6)

式 (8.3)との大きな違いは、第1項の自発体積磁歪にスピンの熱ゆらぎによる寄与が付け加わった

ことである。これは、有限温度の場合にも成り立つように (8.3)式を改良したものと考えることが

できる。

このように Moriya, Usami は、SEW 理論に熱ゆらぎの寄与を考慮に入れることによって、体

積磁歪の式に修正が必要であることを示し、実験的にもその結果は支持されているようにみえる。

しかしながら、この理論にも、以下に述べるような点でまだ問題が残されているように思われる。

1. 低温領域における体積膨張の温度依存姓

低温で体積膨張の温度依存性が次のように表されることが知られている。

ω = AT 2 +BT 4

比較的大きな係数をもつ T 2 に比例する寄与が存在することは、SEW 理論の考える寄与も

その中に含まれることを示す証拠であると (Wohlfarth 1980)は指摘している。熱ゆらぎの振

幅も低温で T 2 の温度変化を示すが、低温領域も含め詳しい温度依存性についての理論的な

解析はまだ不十分であるように思われる。

交換増強された常磁性体の熱膨張率の低温領域における温度係数が、磁気不安定点近傍で増

大することが観測されている。これをどのように説明するかについてさらに詳しい検討が必

要と考えられる。

2. キュリー温度や飽和磁化の体積依存性

(Moriya & Usami 1980)では体積膨張について論じられているだけで、キュリー温度の圧力

依存性についてのスピンゆらぎの寄与については触れられていなかった (Wohlfarth 1980)。

これについては次のような関係が成り立つと考えられている。

T 4/3c ∝ (pc − p)

pc は強磁性が消滅する臨界圧力を表す。

128

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3. 磁気体積結合項の起源

磁気体積結合項に関する現象論的な (8.2) 式は、1電子モデルによる磁気体積結合項を単に

拡張したものである。スピンゆらぎモデルの立場から、このような項がどのようにして導か

れるのかを明らかにする必要がある。磁気体積結合係数がどのように与えられるのかについ

ても示す必要がある。磁気グリュナイゼンパラメータをどのように定義するかに関係するこ

とである。

4. 量子スピンゆらぎの磁気体積効果におよぼす寄与

これまでは量子スピンゆらぎの磁気体積効果への寄与は最初からほとんどが無視している。

局所的な磁気モーメントの2乗振幅の値が磁歪に影響すると考えるが、磁気モーメントの振

幅に含まれる量子スピンゆらぎ成分の寄与は最初から無視するのが通例である。スピンゆら

ぎの振幅を熱ゆらぎと量子ゆらぎの成分とに人為的に分け、そのうちの一部が無視できると

最初から仮定してしまう理由は必ずしも明確ではない。(Solontsov & Wagner 1995) は量子

スピンゆらぎによる非線型項の効果を取り入れると (8.5) のゆらぎの振幅にゼロ点ゆらぎの

振幅の項が余分に付け加わり、次のように与えられるとしている。

ωm = ρκCM2 + ρκ∑

ν

[C(δm2ν)T + C0(δm

2ν)zp]

磁気体積結合については Moriya, Usami 同様に SEW 理論の考え方に基づいてたものであ

る。第 1 項は自発磁化の発生による効果を表し、第 2 項、3 項はそれぞれ熱ゆらぎ、ゼロ点

ゆらぎの寄与を表す。

上の 3. に関して、Stoner-Edwards-Wohlfarth (SEW) 理論では、結合定数が係数 a(T ) の体積

依存性に関係するので、バンド計算に基づいてこの係数を求めようとする試みがすでにいろいろな

されている。(Heine 1967)による d 電子のバンド幅の体積依存性を特徴づける指数 5/3 もグリュ

ナイゼンパラメータと考えることができる。これまでのスピンゆらぎに基づく研究は SEW 理論を

拡張した (8.4) のような磁気体積結合項の存在を最初から仮定しているため、結合定数は同じよう

な意味をもつと考えられる。

スピンゆらぎの機構に基づいて磁気体積効果を取り扱う場合、現象論的に磁気弾性結合項を導入

するのではなく、磁気的な集団運動の自由度に直接関係するパラメータの体積依存性を通して磁気体

積効果を論ずることもできるはずである。このような考えに基づき、(Edwards & Macdonald 1983)

は、電子ガスモデルによるエネルギーバンドが体積依存性をもつと考え、(Moriya & Kawabata 1973)

のスピンゆらぎの理論に基づき、体積磁歪や Tc の圧力依存性について議論した。ただし、磁場や

自発磁気モーメントに垂直なスピンゆらぎ成分だけを用いたために対称性を破るような取り扱い

となっている。それによれば、η(Tc) = ω(Tc)/ω(0) の値が、Moriya and Usamiが求めた 3/5 で

はなく、むしろ 1 以上の値となるが、スピン空間の対称性を破るような取り扱いが原因と考えら

れる。現象論的な (8.4) の項が、スピンゆらぎの自由エネルギーからどのように導かれるかについ

て、その後詳しい検討はあまりなされていない。

上の 4. に関し、量子スピンゆらぎの振幅を考慮し、熱ゆらぎと量子ゆらぎの振幅を合わせたゆ

らぎの全振幅が保存されるとすると、磁気体積結合定数が波数依存性を示さない場合には磁気体積

効果の説明は困難となる。しかし、波数依存性があれば、この場合でも磁気体積効果の存在が導か

れ (Takahashi 1990)、その場合の説明は、ハイゼンベルグモデルの場合と類似したものとなる。た

だし、このような議論でも出発点として (8.4) のような結合項が仮定されていた。

129

Page 7: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

以下では、(Edwards & Macdonald 1983)と同様に、ゆらぎの自由エネルギーの体積依存性を考

慮することによって磁気体積効果を議論する。ただし、量子スピンゆらぎの寄与を取り入れ、スピ

ンの成分についても対称性を考慮し、3成分すべてを取り入れる。体積依存性については、より実

験と比較しやすいパラメータの体積依存性を考えることにする。すでに第 7 節の比熱に関する説

明において、磁気的な自由度に関係する自由エネルギー Fm(y, t) の具体的な形が与えられている。

この節では、この自由エネルギーに磁気的な自由度以外の寄与から生ずる弾性エネルギー項を加え

た次の自由エネルギー

F =Ω

2κω2 + Fm(y, σ, t, ω) (8.7)

を出発点として、この体積依存性から磁気的体積効果をより微視的な観点から明らかにすることが

目的である。ただし、この節では κ は剛性率を表すものとする。他の節と同様、以下ではモーメ

ント M の代わりに原子当たりのモーメント σ = M/N0µB を用いる。この単位の変更によって磁

気体積結合定数 C の単位も違ってくるので注意が必要である。

大きな振幅のスピンゆらぎを取り扱うための理論的な手法を用いた磁気体積効果について、以下

に述べるような理論計算もなされている。例えば、(Heine 1967)による d バンド幅の体積依存性

V 5/3 を利用し、tight-bindingモデルにクーロン相互作用を考慮したハバードモデルを用い、汎関数

積分で表した自由エネルギーを静的なシングルサイトの近似で求め、自発体積磁歪の温度依存性が

(Hasegawa 1981)によって得られている。同じようなモデルと計算手法を用い、Liberman-Pettifor

のビリアル定理を利用して (Kakehashi 1981b) によっても体積磁歪の温度依存性が計算されてい

る。キュリー温度の圧力依存性 (Hasegawa 1982)、有限温度における Fe の弾性定数 (Hasegawa,

et al. 1985)、インバー効果についても同様な取り扱いがなされている。(Hasegawa 1983, Kakehashi

1981a)。一方 (Holden, et al. 1984)は、キュリー温度より高温で自発磁化が消滅しても体積磁歪に

大きな変化が生じないことを説明するために磁気的な圧力に対して次の式を導いている。

V0Pmag(T ) ' 5

3[U(T ) + Im2(T )/4]

U(T ), m(T )はそれぞれ内部エネルギー、局所的な磁気モーメントの振幅を表す。この考えにした

がって (Joynt & Heine 1984)によって Fe-Co 合金の磁気体積効果が理論的に取り扱われている。

8.2 自由エネルギーの体積依存性

固体中のよく知られた集団運動である格子振動による熱膨張は、フォノンの周波数が結晶の体積

に依存して変化するために生ずると考えられる。デバイモデルなどによる自由エネルギーを用い、

フォノンの周波数の体積依存性から熱膨張の温度依存性を導くことができる。格子振動による比熱

を Clat とすると、グリュナイゼンの考えによれば、格子振動による比熱を Clat と熱膨張係数 αlat

と単位体積当りの比熱の間には次のような関係が導かれる。

αlat = κγlatClat

Ω, γlat = −d lnωD

d lnω

上の式に現れる比例係数 γlat がグリュナイゼンパラメータで、格子振動のエネルギースケールを

表すデバイ温度 ωD の対数微分によっ て定義される。

磁気的な性質に関しては、スピンゆらぎが格子振動のフォノンに対応すると考えられる。このよ

うなフォノンとスピンゆらぎの対応関係を考えることにより、磁気体積効果についても格子振動の

場合と同じような取扱いが可能である。つまり、スピンゆらぎによる自由エネルギーに含まれるパ

ラメータが体積依存性をもつと考え、他の磁気的性質を導くときと同じ自由エネルギーを用い、同

130

Page 8: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

じような取扱いによって磁気体積効果に関連する性質を導くことができると考えられる。以下では

このような考え方に基づいて遍歴電子磁性体の磁気体積効果について説明する。磁気的な自由エネ

ルギーの具体的な形としては、以下に示す第 7 節のエントロピーや比熱に関する計算で利用され

たものを仮定しよう。

Fm =1

π

q

∫ νc

0

dν[ν

2+ T ln(1 − e−ν/T )

]

2Γq

ν2 + Γ2q

+Γz

q

ν2 + (Γzq)

2

+N0TA

yσ2/4 − (y + ∆yz/3)⟨

S2i

tot

+ ∆F1(σ, t) (8.8)

上の式に現れる最後の項 ∆F1(σ, t) は、磁気秩序状態の取扱いに必要な自由エネルギーの補正を表

し、σ と t の関数であると考える。この自由エネルギーが以下の議論の対象となる「スピンゆらぎ

モデル」である。

スピンゆらぎモデルの自由エネルギーの体積依存性は次のように考えられる。格子振動の場合

との対応から、周波数、および、波数空間におけるスピンゆらぎのスペクトル幅の体積依存性が、

フォノンの体積依存性に対応すると考えられる。つまり、スピンゆらぎによるこの自由エネルギー

に含まれるゆらぎの波数や振動数空間における分布の尺度を表すパラメータ T0, TA が体積依存性

をもつと考えられる。このように考えて、自由エネルギーの体積依存性を詳しく以下に検討する

が、その際に磁化率の逆数を表す独立変数 y や yz, および σ は、常に以下の自由エネルギーの安

定化の条件や熱力学的な関係を満たすように決まると考えることにする。

∂Fm

∂y= N0TA

3T0

TA[2A(y, t) +A(yz, t)] +

δS2i

Z(y, yz) +

σ2

4−⟨

S2i

tot

= 0

∂Fm

∂∆yz= N0TA

3T0

TAA(yz , t) +

1

3[⟨

δS2i

Z(y, yz) −

S2i

tot] − λ(σ, t)

= 0

∂Fm

∂σ=

1

2N0TAyσ =

1

2N0h (8.9)

最初の条件を解くことによって、y と yz が σ と t の関数として得られる。得られた関数を代入し

たときに上の2番目の式が成り立つような λ(σ, t) を与えるような補正項 ∆F1(σ, t) の存在をここ

では仮定している。体積変化があっても常に上の条件が満たされるようにパラメータを決めるとす

ると、これらのパラメータ、例えば y(σ, t, ω) には体積依存性、つまり ω 依存性が現れる。上の最

初の条件を利用して磁性体の等温磁化曲線や、磁化率の温度依存性、つまり y(σ, t) の温度、磁場

依存性が導かれることについてはすでに説明した。したがってこれらは体積依存性を示すことにな

る。熱ゆらぎの振幅を無視すると、自由エネルギーの補正項 ∆F1 は次のように表される。

λ(σ, t) = − 1

30y10∆yz(σ, t) −

σ2

12(8.10)

温度変化がないとして、熱平衡状態における体積 V0 の近傍で体積歪の変化 ω = δV/V0 が生じ

たときの自由エネルギーの変分は次のように表される。

Fm(y, yz, σ, t, ω) = Fm(y(σ, t, ω),∆yz(σ, t, ω), σ, t, 0) + δFm (8.11)

上の第1項は、体積変化がないとた場合の (8.9)を用いて決めたパラメータの値を入れて得られる

自由エネルギーの値を表す。第2項はパラメータが体積依存性もつことから導かれる自由エネル

ギーの変分を表す。つまり第2項の δFm は、パラメータの体積依存性から導かれる直接的な体積

依存性の寄与を表すものとする。(8.11) 式の第2項は次のようにして求めることができる。例え

131

Page 9: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

ば、自由エネルギーの式に含まれるスピンゆらぎのスペクトル幅Γq の変分は一般に次のように表

される。

δΓq = 2πδT0x(y + x2) + 2πT0xδy =

(

δT0

T0+

δy

y + x2

)

Γq

δΓzq =

(

δT0

T0+

δyz

yz + x2

)

Γzq

パラメータ y, yz の変化の他に、ここでは体積変化に伴いパラメータ T0 の値も変化すると考えた。

ただし、パラメータ y や yz を通した間接的な体積依存性は (8.9)の条件によってすでに考慮され

ていると考えられる。これらの項はしたがって δFmには寄与しない。自由エネルギーの変分は次

のように表される。

δFm =δT0

T0

q

∫ νc

0

π

2+ T ln(1 − e−ν/T )

]

×

2Γq∂

∂Γq

(

Γq

ν2 + Γ2q

)

+ Γzq

∂Γzq

(

Γzq

ν2 + (Γzq)

2

)

+ · · · + δFmσ

= δFm0 + δFmσ (8.12)

第1項の δFm0 は熱ゆらぎの寄与 δFT とそれ以外からの寄与 δFR とに次のように分けられる。

δFm0 = δFT + δFR

δFT =δT0

T0

q

∫ νc

0

π[1/2 + n(ν)]

2νΓq

ν2 + Γ2q

+νΓz

q

ν2 + (Γzq)

2

+ δF1T (8.13)

δF1T は、熱ゆらぎに関する補正項の寄与を表し、δFmσ は磁場依存性に関係する自由エネルギー

の体積変化を表す。また、上の式を変形する際に、次の関係が成り立つことを利用した。

∂Γq

(

Γq

ν2 + Γ2q

)

= − ∂

∂ν

(

ν

ν2 + Γ2q

)

外部磁場の影響による σ 依存性は、(8.12) の第2項によって与えられる。したがって、上のそれ

ぞれ第1項の δF 0m が自発体積磁歪に、第2項が強制体積磁歪に関係する。

8.2.1 自発体積磁歪

まず最初に自発体積磁歪に関係する項についてさらに詳しく調べてみることにする。式 (8.13)

の最初の式の第1項は、ボース因子を通した温度依存性が含まれ、この項は熱ゆらぎによる寄与と

考えられる。一方第2項の δFR は、量子ゆらぎの寄与や、ゆらぎの振幅が一定であることを保証

するための補正項の体積依存性に関係がある。この項には、磁化率の逆数を表すパラメータ y0 や

∆yz0 = yz0 − y0 が含まれ、その体積変化は次のように表される。

δFR(y0,∆yz0, 0) = FR(y0,∆yz0, ω) − FR(y0,∆yz0, 0)

このエネルギー変化 δFR は微小なこれらのパラメータに関して次のような展開ができる。

δFR(y0,∆yz0, 0) = δFR(0, 0, 0) +∂δFR

∂yy0 +

∂δFR

∂∆yz∆yz0 + · · · (8.14)

y0, ∆yz0 は、外部磁場 H = 0 のときの y, ∆yz の値を表す。秩序状態では y0 = 0 であるが、常

磁性状態では y0 > 0、∆yz0 = 0が成り立つ。

132

Page 10: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

上の1次の展開項の係数は、パラメータ y についての微分と体積に関する変分の順序の入れ換

えにより、次のように表される。

∂δFR

∂y= δ

(

∂FR

∂y

y0=0

)

= N0δ

TA[⟨

S2i

Z(0) −

S2i

tot]

+1

4N0σ

20(t)δTA

∂δFR

∂∆yz= δ

(

∂FR

∂∆yz

∆yz=0

)

=1

3N0δ

TA[⟨

S2i

Z(0) −

S2i

tot]

+1

12N0σ

20(t)δTA

δFR の y に関する偏微分は (8.9) の最初の式で熱ゆらぎの振幅の寄与を除いたものである。式

(8.8)、または、(8.9) からわかるようにパラメータ σ は自由エネルギーの独立変数であり、ここ

では σ が一定の条件で y に関する微係数を求めているので σ2/4 の項からの寄与はない。変分を

行った後に σ の値を、外部磁場 H = 0 のときの自発磁化の値 σ0(t) に置き換えた。展開の第1項

δFR(0, 0, ω)は、温度変化がほとんどないと考え今後無視することにする。自発体積磁歪に関係す

る自由エネルギーの変分は次の形にまとめることができる。

δFm(σ, ω) = δFT (y, yz, ω) −N0Crδω(3y + ∆yz0)

3Crδω = δ[

TA∆⟨

S2⟩]

− 1

4σ2

0(t)δTA (8.15)

∆⟨

S2⟩

=⟨

S2i

tot−⟨

S2i

Z(0)

基底状態では熱ゆらぎの振幅が存在しないことから、スピン振幅について

S2i

tot=⟨

S2i

Z(yz0) +

σ2s

4=⟨

S2i

Z(0) − 3T0

TAczyz0 +

σ2s

4

の関係が成り立つ。したがって、∆⟨

S2⟩

は次のように表される。

∆⟨

S2⟩

= − 1

20y10yz0 +

σ2s

4=

3

20σ2

s , (yz0 = 2y10σ2s) (8.16)

ただし、y10 = TA/60czT0は、自由エネルギーの磁化 σ に関する4次の展開係数を無次元化した

パラメータである。交換増強された常磁性体の場合には、∆⟨

S2⟩

は負の値となり、T = 0 K にお

ける磁化率の逆数 y0(0) を用いて次のように表される。

∆⟨

S2⟩

= −3y0(0)

20y10< 0 (8.17)

8.2.2 自発体積磁歪に対する熱ゆらぎの寄与

次に熱ゆらぎの自発体積磁歪に及ぼす影響について調べてみよう。まず、(8.13)の各成分の周波

数に関する積分は、ダイガンマ関数 ψ(u) を用いて次のように表すことができる。

0

dνν

eβν − 1

1

ν2 + Γ2=

1

2[logu− 1/2u− ψ(u)], u = x(y + x2)/t

この結果を元の式に代入し、さらに波数についての和を実行すれば、熱ゆらぎによる寄与は次のよ

うな積分で与えられる成分の和となる。

q

0

π

ν

eβν − 1

Γ

ν2 + Γ2= 3N0T0t

∫ 1

0

dxx2u[logu− 1/2u− ψ(u)]

133

Page 11: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

最初に磁気体積結合項 (8.4)が仮定されてしまうので、スピンの熱ゆらぎによる自由エネルギーの

体積依存性が、このような形になることについてこれまであまり問題にされることはなかった。し

かしながら、得られた結果は格子振動の場合のグリュナイゼンの熱膨張の式によく対応する。自由

エネルギーの体積依存性に対する熱ゆらぎの寄与は、結局次のように表される。

δFT = 3N0T0δT0

T0t

2

∫ 1

xc

dxx2u[logu− 1/2u− ψ(u)]

+

∫ 1

0

dxx2uz[loguz − 1/2uz − ψ(uz)]

ただし、u = x3/t, uz = x(yz0 + x2)/t である。したがって、熱ゆらぎの自発体積磁歪への寄与は

次のように与えられる。

ωT (t) = 3ρκT0γ0t

2

∫ 1

xc

dxx2u[logu− 1/2u− ψ(u)]

+

∫ 1

0

dxx2uz[loguz − 1/2uz − ψ(uz)]

(8.18)

ここで密度 ρ = N0/Ωと、パラメータ γ0 = −d lnT0/dω を新たに定義した。第1項のスピンの横

ゆらぎに関する波数積分の下限 xc は、原点近傍のスピン波の存在によるものである。

低温領域での熱ゆらぎの寄与 ωT (t) の温度依存性を調べるために、上の式の被積分関数につい

て次の性質を利用できる。

u[logu− 1/2u− ψ(u)] '

1/2 u ' 0 のとき

1/12u u→ ∞ のとき

つまり、低温で t 1, y 1が成り立つとき、この項は熱膨張に次のような T 2 に比例する温度

依存性を与える。

8ωT (t)

ρκT0γ0'

t2[2 lnx−2c + ln(1 + y−1

z )], 0 < yz 1 のとき

2t2 ln(1/t), yz = 0 のとき

強磁性発生寸前の交換増強 (exchange-enhance)された常磁性体の場合には、低温極限で次のよう

に表される。

ωT (t) =3ρκT0γ0

8t2 ln[1 + y0(0)−1]

T = 0 Kでの規格化された磁化率の逆数を y0(0)で表した。すでに述べたように熱ゆらぎの寄与を

除いた自由エネルギーの体積依存性、δFR については、(8.14) のように微小なパラメータ yz0 に

ついてその原点のまわりで展開できた。それに対し、熱ゆらぎの寄与についてはこのような展開は

不可能である。上の結果からわかるように yz = 0に関する微係数が原点において発散し、定義で

きないためである。

エントロピーや比熱についての説明の際、弱い遍歴電子強磁性体の低温比熱がスピンの熱ゆらぎ

の寄与を反映して次のように与えられることについてすでに述べた。

C ' 3N0T

2T0ln

1

σs

これは自由エネルギーが低温で以下のような T 2 に比例する温度依存性を示すことに対応する。

F (T ) = F (0) − 3N0T2

4T0ln

1

σs+ · · · (8.19)

134

Page 12: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

上の式のパラメータ T0 の体積依存性から、体積変化に伴う自由エネルギーの変分が次のように与

えられることがわかる。

δF = −3N0

4γ0t

2 ln1

σsδω

つまり、(8.18)は、よく知られたスピンゆらぎによる低温比熱の温度依存性を反映して現れる熱膨

張への寄与である。比熱と熱膨張の温度依存性の間に密接な関係があることを考慮すると、スピン

の熱ゆらぎの熱膨張への寄与が (8.18)式で表されるという結果は極めて合理的である。この項は、

Moriya, Usami による熱ゆらぎの振幅 ξ2(T ) に比例する項とは異なる温度依存性を示すこともわ

かる。熱ゆらぎの振幅 ξ2(T ) も低温で t2/σ2s に比例する温度依存性を示すが、その係数が磁気的

不安定点近傍で対数発散を示すことはない。つまり、この寄与は低温比熱の温度依存性に対応する

ものではない。SEW 理論の拡張として導入された熱ゆらぎの振幅 ξ2(T )に比例する磁気体積結合

項は、スピンゆらぎモデルの自由エネルギーに含まれる熱ゆらぎの寄与の直接的な体積依存性から

は得られない。

臨界温度 T = Tc における熱膨張の値は次のように与えられる。

ωT (tc) = 3ρκT0γ0t2c

∫ 1/tc

0

du u[logu− 1/2u− ψ(u)] (8.20)

' 1

4ρκT0γ0t

2c ln(1/tc), (tc 1)

同様に常磁性状態で y 1が成り立つ場合には次のように表される。

ωT (t) ' 3

8ρκT0γ0t

2 ln

(

1 +1

y

)

自由エネルギーの補正項に含まれる熱ゆらぎの体積歪への寄与を求めるために、補正項について

次の関係が成り立つことに注意しよう。

∂∆F1(σ, t)

∂σ= −N0T0

[

2(A(yz, t) −At(y, t) − cz∆yz) −TA

12T0σ2

]

∂∆yz

∂σ

最後の2項は量子ゆらぎの寄与などの寄与を表し、これらはすでに δFR に取り入れられている。

体積変化による上の式の変分を求めてから、σ について積分を行うと考えれば、補正項に含まれる

熱ゆらぎが体積変化に次の寄与を与えることがわかる。

δ∆F1T ' −2N0δT0[A(yz0, t) −At(0, t)]∆yz0

= 2N0T0γ0∆yz0

A(yz0, t) −At(0, t) − t

[

∂A(yz0, t)

∂t− ∂At(0, t)

∂t

]

δω (8.21)

∂∆F1/∂σ の体積についての変分を考える際に yz は変数であると考え。自由エネルギーに含まれ

るパラメータに関する直接的な体積依存性だけ考慮し、上の式でも yz0 の体積による変化は無視

した。補正項による熱膨張は次のように与えられる。

∆ωT (t) = 2ρκT0γ0∆yz0

t

[

∂A(yz0, t)

∂t− ∂At(0, t)

∂t

]

−A(yz0, t) +At(0, t)

(8.22)

参考まで、熱膨張率の温度係数の増強の様子を図 20に示す。ωs(t)/3ρκT0γ0 の値を t で微分し

た値は熱膨張率に比例する。これをさらに t で割った値を T/Tc の値でプロットしたものが図に

示されている。点線、破線、実線はそれぞれ、tc = 0.01, 0.05, 0.1の場合に対応する。これらの順

に、σs の値が増大するので、増強は逆に減少する。

135

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0.0 1.0 2.0 3.0T/Tc

0.0

1.0

2.0

α(t)/t

図 20: 低温熱膨張率の温度係数の増大

結局、自発体積磁歪はスピンの熱ゆらぎによる寄与と、それ以外の寄与との和として次のように

表される。

ωs(t) = ωT (t) + ρκCr(2y0 + yz0) (8.23)

上の ωT (t) には補正項の寄与も含まれる。磁気秩序状態では、y0 = 0, yz0 = 2y1(t)σ20(t)が成り立

つので、第2項は自発磁化 M20 (T ) に比例する。常磁性状態では y0 = yz0 が成り立つので、この

項は磁化率の逆数に比例する。上の第2項が自発磁化の振幅の2乗M20 (T ) やゆらぎの2乗振幅に

関する展開として得られたものではなく、磁化率の逆数 y, yz に関する展開として得られたという

ことには特に注意が必要である。

Ni3Al と Ni-Pt 合金について、強磁性発生寸前の常磁性から弱い強磁性を示す組成範囲につい

て、低温での熱膨張の測定が報告されている (Kortekaas, et al. 1974)。それによれば、熱膨張の温

度依存性が、次のように T 2 と T 4 の項の和としてよく表される。

∆L/L = AT 2 +BT 4

係数 A の符号は、常磁性から強磁性への移り変わりに際し、正から負に変化する。T 2 の温度依存

性を与える原因には、電子的な寄与と磁気的な寄与があると考えられている。ただし、上に述べた

ような熱ゆらぎの寄与の存在は考慮の対象外である。ここで得られた結果は、常磁性状態において

も、磁気的な原因から T 2 のように振る舞う項(実際は、t2 ln(1/t) に比例する項)が存在するこ

とを意味し、電子的な寄与と見なされる T 2 に寄与に関する実験データの解析には再検討が必要で

ある。

8.2.3 磁気グリュナイゼンパラメータ

まず、自発体積磁歪について自由エネルギーの体積変化に含まれる自由度について考えてみよ

う。強磁性体の場合の (8.15) 式の第2項に現れる y や ∆yz0 の体積依存性に関係する係数は、以

136

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下の3つのパラメータを用いて表すことができる。

d∆⟨

S2⟩

dω= γm

∣∆⟨

S2⟩

0

∣ , γA = −d lnTA

dω, γ0 = −d lnT0

dω(8.24)

すでに (8.18)式に関係して導入したパラメータ γ0 と上で新たに定義した γA は、格子振動の場合の

グリュナイゼンパラメータの定義に対応する。グリュナイゼンパラメータは、現象を特徴づけるエネ

ルギースケールの対数の体積歪に関する微係数に負の符号をつけて定義される (Fawcett 1989)。上の

定義に現れる負の符号はこの定義に従ったものであり、圧力を加えることによる体積の減少に伴いス

ペクトル幅が増大する傾向を表す。これらの体積依存性がそれぞれ V −γ0 ∝ e−γ0ω, V −γA ∝ e−γAω

に比例すると考えたことになる。γm の定義にゆらぎの振幅差 ∆⟨

S2⟩

0の絶対値を用いた理由は、

この値が強磁性体、常磁性体のそれぞれの場合に異なる符号をもつためである。強磁性、常磁性の

間で転移が生じても γm の符号に不連続な変化が生じないようにするため、このように定義した。

強磁性体、常磁性体の場合のそれぞれについて γm の定義は次のように表すこともできる。

d∆⟨

S2⟩

dω=

3

20σ2

s0γm,d∆⟨

S2⟩

dω=

3y0(0)

20y10γm (8.25)

(8.24)の最初の式の右辺に現れる∆⟨

S2⟩

0は(ω = 0の)基準となる体積に関する値を表す。∆

S2⟩

の値ではなく、あえてこの値を用いた理由は、∆⟨

S2⟩

がゼロや負の値を取り得ることを考慮し、

この値が体積歪 ω の 1 次に比例することをはっきり示すためである。同様に、上の常磁性体の場

合の γm の定義についても、y0(0), y10の値はある基準となる体積 ω = 0についての値を表す。後

の便利を考えて、(8.24) で定義したパラメータから次の2つの比もここでさらに定義しておく。

gA =γA

γm, g0 =

γ0

γm(8.26)

これらのグリュナイゼンパラメータを用いて (8.15) の係数 Cr は次のように表される。

Cr =1

3

[

−γATA∆⟨

S2⟩

+ γmTA∆⟨

S2⟩

0+

1

4TAγAσ

20(T )

]

=1

20TAσ

2s0

[

γm − γA

(

σ2s

σ2s0

− 5σ20(t)

3σ2s0

)]

(8.27)

ただし、∆⟨

S2⟩

= 3σ2s/20が成り立つことを用いた。

格子振動の場合との類似から、ここで定義した3つのパラメータを遍歴磁性体についての磁気グ

リュナイゼンパラメータと呼ぶのがふさわしい。その中でも特にパラメータ γm は、遍歴電子磁性

体に特有のパラメータである。全ゆらぎの振幅、ゼロ点ゆらぎの振幅のどちらが変化しても影響を

受ける量である。γA と γ0 はハイセンベルグモデルにおける交換積分の体積依存性に相当すると考

えることもできる。f 電子を含む重いフェルミ粒子系 Ce1−xLaxRu2Si2 の示す磁気体積効果につ

いて、(Kambe, et al. 1997)が SCR モデルにグリュナイゼンパラメータを導入して解析を行った。

ただし、パラメータの導入のしかたと理論的な取り扱いはここで述べる方法と少し異なっている。

飽和磁化の圧力依存性は、これらの定義から次のように表される。

σ2s = σ2

s0(1 + γmω)

= σ2s0(1 − κγmp) = σ2

s0(1 − p/pc), (pc = 1/κγm)

つまり、飽和磁化の圧力依存性を測定することによってパラメータ γm の値を実験から見積もるこ

とができる。

137

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式 (8.23) から、T = Tc の体積を基準とした基底状態の自発体積磁歪について次の結果が得ら

れる。

∆ω = ω(0) − ω(Tc) = 2ρκCry10σ2s − ωT (tc)

一方、Moriya, Usami の ∆ω = 2ρκCσ2s/5 の値には、単一のパラメータ C が含まれるだけであ

る。∆ω に2つの寄与が含まれ、複数のグリュナイゼンパラメータが複数存在するような状況では、

∆ω/ωSEW の比は 2/5 の値に固定される必要はなくなりいろいろな値を取り得る可能性がある。

8.2.4 基底状態における磁気体積効果

これまでに得られた結果を利用して比較的取り扱いの容易な基底状態における自発体積磁歪と

強制体積磁歪についてまず調べてみる。磁化率の逆数 y, yz が以下のように与えられることに注意

する。

y(σ, 0) = y10(σ2 − σ2

s ), yz(σ, 0) = y(σ, 0) + 2y10σ2

∆yz(σ, 0) = yz(σ, 0) − y(σ, 0) = 2y10σ2 = 2y10σ

2s + 2y(σ, 0)

y ∝ H/M , yz ∝ ∂H/∂M の定義から、上の式は、基底状態において等温磁化曲線に関する Arrott

プロットが、よい直線性を示すことに対応する。まず、外部磁場が存在しない場合については (8.23)

と (8.27) より、自発体積磁歪として次の式が成り立つ。

ωs = ρκCs0σ2s , Cs0 =

1

10TAy10σ

2s0

(

γm +2

3γA

)

(8.28)

ただし、σs = σs0 とおいた。

一方、強制磁歪は (8.12) 式の自由エネルギーの体積変化 δFmσ に関係する。体積についての変

分と σ に関する微分の順序を入れ換えると次の式が得られる。

∂δFmσ

∂σ= δ[TAy(σ, 0)]σ (8.29)

また、この右辺に現れる (TAy) の体積依存性は次のように表される。

δ(TAy) = δ(TAy10)(σ2 − σ2

s) − TAy10σ2s0γmδω ' −TAy10σ

2s0γmδω, (σ ' σs) (8.30)

(8.30) を (8.29) に代入し、(8.29)を σ について積分することにより強制磁歪に関係する自由エネ

ルギー変化 δFmσ は次のように得られる。

δFmσ = −1

4N0TAy10σ

2s0γm(σ2 − σ2

s )δω

つまり、強制体積磁歪についての次の結果が得られる。

ω = ρκCh0(σ2 − σ2

s ), Ch0 =1

4TAy10σ

2s0γm (8.31)

(8.28) と (8.31) との比較から、自発磁歪と強制体積磁歪に関する結合係数の間に次の関係が成り

立つこともわかる。Cs0

Ch0=

2

5

(

1 +2γA

3γm

)

=2

5

(

1 +2

3gA

)

(8.32)

基底状態に関して得られた磁気体積効果についてのこれらの結果は次の形にまとめられる。

ω =ρκCs0

N20µ

2B

M2s +

ρκCh0

N20µ

2B

[M2 −M2s ] (8.33)

138

Page 16: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

すでに述べたように、熱ゆらぎの振幅 ξ2(T ) を無視した Moriya, Usami の式 (8.6)は SEW によ

る式 (8.3)と一致する。これらどちらの式も単一の磁気体積結合係数を含むだけである。同じよう

な形に表した上の (8.33) 式は、これら2つの式と大きな違いがある。つまり、(8.33) 式の自発体

積磁歪を表す第 1 項の M2s の係数と、強制磁歪を表す第 2項の (M2 −M2

s )の係数が互いに異なっ

ている。パラメータ γm が他の2つのパラメータより大きな値をもつ場合、自発体積磁歪と強制磁

歪の結合定数の比は、ほぼ 2/5 の値になる。

基底状態については、y の 具体的な σ 依存性が簡単な形に求まっていたため、磁気体積効果に

ついての取り扱いは容易であった。一般の温度の場合には数値的に微分方程式を解くことによって

y の体積依存性を求める必要がある。基底状態の場合について一般的な取り扱いを行うと次のよう

になる。基底状態の磁化曲線が次の微分方程式を解くことによって得られることについてすでに等

温磁化曲線に関する説明の際に述べた。

5y10σ2 −

(

3y + σ∂y

∂σ

)

= 3y10σ2s

上の式を ω に関して微分することにより導関数 yω = ∂y/∂ω の σ 依存性についての方程式が次の

ように得られる。

5dy10dω

σ2 −(

3yω + σ∂yω

∂σ

)

= 3d(y10σ

2s )

これを解くことによって次の解が得られ、これは上で得られた結果と等価である。

yω = −d(y10σ2s)

dω+

dy10dω

σ2 =∂

∂ω[y10(σ

2 − σ2s )]

つまり、一般の場合にも yω = ∂y/∂ω に関する方程式が得られれば、これを解くことによって強

制体積磁歪についての結果を導くことができる。

8.3 Maxwell の関係式と強制体積磁歪

熱力学の Maxwell の関係式を利用することにより、強制磁気体積効果に関係して一般に成り立

つ式を導くことができる。まず、圧力 p および 磁化 σ の値の変化に伴う自由エネルギーの変分に

関して次の関係が成り立つ。

dF (σ, p) = Ωωdp+1

2N0hdσ (8.34)

これは次の Maxwell の関係式が成り立つことを意味する。

Ω∂ω

∂σ=

1

2N0

∂h

∂p=N0σ

2

∂(TAy)

∂ω

∂ω

∂p= −N0κσ

2

∂(TAy)

∂ω

つまり、体積歪の σ 依存性が次のように求まる。

∂ω

∂σ= −1

2ρκσ

∂(TAy)

∂ω(8.35)

我々の取扱では、自由エネルギーが極値の条件を満たすので、この関係は常に満足されている。一

方、強制体積磁歪についての定義から次の関係式が成り立つ。

∂ω

∂σ= 2ρκChσ (8.36)

上の2式 (8.35), (8.36) の比較から強制磁気体積結合定数 Ch は一般に次のように与えられる。

Ch = −1

4

∂(TAy)

∂ω=TA

4

(

γAy −∂y

∂ω

)

(8.37)

つまり、Ch の値は磁化率の逆数 y の体積歪 ω に関する導関数から求まる。得られた結果を (8.36)

に代入し、これを σ について積分すれば強制磁歪 ω の σ 依存性が得られる。

139

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8.4 磁気秩序状態における磁気体積効果

基底状態の場合と同様に、弱磁場下で σ ' σ0(t)が成り立つ場合には、磁気秩序状態について次

のような等温磁化曲線が一般に成り立つ。

y(σ, t) = y1(t)[σ2 − σ2

0(t)], ∆yz = 2y1(t)σ2 = 2y1(t)σ

20(t) + 2y

係数 y1(t) は、自由エネルギーの磁化M に関する4次の展開係数を無次元化した値である。自発

磁化 σ20(t) や y1(t) の求め方についてはすでに等温磁化曲線に関する節で説明した。これらのパラ

メータの温度依存性やその体積依存性が以下の磁気体積効果の議論に必要となる。これらの体積依

存性を用いて自発体積磁歪と強制体制磁歪がどのように表されるかについて以下に述べる。

8.4.1 自発体積磁歪

まず、自発体積磁歪については y0 = 0が常に成り立つことに注意し、(8.27) 式の結果を (8.23)

に代入することから次の結果が得られる。

ωs(t) = ωT (t) +1

10ρκTAy1(t)σ

2s0

γm +γA

3σ2s0

(

5σ20(t) − 3σ2

s

)

σ20(t)

= ωT (t) +2

5ω0V (t)

[

1 + gA

(

5

3U(t) − 1

)]

, (σs ' σs0) (8.38)

U(t) =σ2

0(t)

σ2s

, V (t) =yz0(t)

2y10σ2s

ただし、磁気体積磁歪の単位として ω0 = ρκCh0σ2s を定義した (ωSEW とほぼ同じと考えてよい)。

U(t) は基底状態の値を 1 とした自発磁化の 2 乗の相対的な温度依存性を表すパラメータである。

同様に、V (t) は基底状態の値を 1としたときの高磁場磁化率(縦磁化率)の逆数の温度依存性を

表す。t → 0 の極限で、ωs(0) はすでに求めた基底状態についての結果 (8.28) と一致する。この

ω0 を用い、熱ゆらぎによる寄与 ωT (t) を次のように表すこともできる。

ωT (t)

ω0=

g0t

5cz(y10σ2s)2

2

∫ 1

xc

dxx2u[logu− 1/2u− ψ(u)] (8.39)

+

∫ 1

0

dxx2uz[loguz − 1/2uz − ψ(uz)]

+∆ωT (t)

ω0

∆ωT (t)

ω0=

2g0yz0

15cz(y10σ2s )2

t

[

∂A(yz0, t)

∂t− ∂At(0, t)

∂t

]

−A(yz0, t) +At(0, t)

積分の下限に現れる xc はスピン波の存在による波数積分の切断の効果を表す。

140

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体積歪の温度微分から得られる熱膨張係数は次のように表される。

α(t) =dωs(t)

dT=ω0

T0

dωs(t)

dt=ω0

T0α(t) =

ω0

T0[αt(t) + ∆αt(t) + αr(t)] (8.40)

αt(t) =g0

5cz(y10σ2s)2

−2

∫ 1

xc

dxx2u2

(

1

u+

1

2u2− ψ′(u)

)

−∫ 1

0

dxx2u2z

(

1

uz+

1

2u2z

− ψ′(uz)

)

+dV (t)

dt

[

− txc

V (t)x2

cuc

(

lnuc −1

2uc− ψ(uc)

)

+ 2y10σ2s

(

A(yz0, t) − t∂A(yz0, t)

∂t

)]

∆αt(t) =4g0

15czy10σ2s

V ′(t)

[

t

(

∂A(yz0, t)

∂t− ∂At(0, t)

∂t+ yz0

∂A′(yz0, t)

∂t

)

−A(yz0, t) +At(0, t) − yz0A′(yz0, t)

]

+ tV (t)

[

∂2A(yz0, t)

∂t2− ∂2At(0, t)

∂t2

]

αr(t) =2

5

(1 − gA)V ′(t) +5gA

3[V ′(t)U(t) + V (t)U ′(t)]

, (uc = x3c/t)

式 (8.38) の第2項の σ20(t) の係数は、定義より自発体積磁歪の結合定数を表し、次のように与

えられる。

Cs(t) =2Ch0

5

y1(t)

y10

1 +gA

3σ2s0

(

5σ20(t) − 3σ2

s

)

=2Ch0

5

V (t)

U(t)

1 + gA

[

5

3U(t) − 1

]

, (σs ' σs0) (8.41)

磁気体積結合定数 Cs(t) は、この結果からわかるように温度依存性を示す。そのひとつの原因は、

自由エネルギ の展開係数 y1(t) の温度依存性によるものである。この取り扱いでは磁気体積結合

定数が σ20(t) に関してではなく、∆yz0 についての展開係数として定義されているためである。得

られた体積磁歪についての結果を σ20(t) に比例する形に表すと、∆yz0 と σ2

0(t) との間の比例係数

に含まれる温度依存性が係数 Cs(t)に現れる。これ以外に γA の値が有限の場合には、自発磁化の

2乗に比例した依存性も含まれている。温度が臨界温度に近づくとともに y1(t) の温度依存性を反

映し、Cs(t) はゼロに近づく。低温極限と臨界温度近傍における結合定数と体積磁歪の温度依存性

は次のように表される。

低温極限では、y1(t)と σ20(t)が次のような t2 に比例する温度依存性を示すことについてすでに

述べた。

y1(t)

y10=

V (t)

U(t)= 1 − 3 + 2r2

480cz(y10σ2s )2

t2 + · · ·

σ20(t)

σ2s

= U(t) = 1 − 4 + 5r + r2

360cz(y10σ2s )2

t2 + · · · (8.42)

ただし、r = π2/4である。これらの温度依存性を反映し、結合定数は次のように t2 に比例して減

少する。

Cs(t) = Cs0

1 − t2

120cz(y10σ2s )2

[

3 + 2r2

4+

5gA

3 + 2gA

4 + 5r + r2

3

]

+ · · ·

自発磁化の温度依存性の寄与も含めると、自発体積磁歪 (8.38)の第2項も次のような t2 に比例す

る温度依存性を示す。

ωs(t)

ω0=

g0t2

120cz(y10σ2s )2

[

2 lnx−2c + ln y−1

z0

]

+g0(1 − r2)t2

180cz(y10σ2s )2

+2

5

(

1 +2gA

3

)

1 − t2

120cz(y10σ2s )2

(

3 + 2r2

4+

3 + 7gA

3 + 2gA

4 + 5r + r2

3

)

+ · · ·

141

Page 19: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

上の式の第1項と第 2項以降に含まれる t2 の係数を比較すると、同じ t2/(y10σ2s)2 の係数に第1

項は ln(1/σs) の依存性が現れるのに対し、それ以外の項から生ずる係数はある一定の有限の値で

ある。弱い強磁性の極限で σs 1が成り立つ場合、低温領域で第1項が他の項に比べ支配的な大

きさとなる可能性がある。また、パラメータの比 gA の符号によっては、熱膨張の温度依存性は定

性的に異なる温度依存性を示す可能があることもわかる。低温での熱膨張率の温度係数に ln(1/σs)

に比例するような増大の存在を実験的に確認することは興味がもたれる。

臨界温度近傍では、σ20(t), y1(t) の温度依存性は次のように与えられる。

U(t) =σ2

0(t)

σ2s

=7

5

[

1 −(

t

tc

)4/3]

V (t)

U(t)=

y1(t)

y10=

[

2√

2(2 +√

5)

7

]2ycσ

20(t)

y10= y10σ

2s

[

20√

2cz7πtc

]2

U(t) (8.43)

yc =

[

20czy10

π(2 +√

5)tc

]2

これらを (8.38) に代入すれば、臨界温度近傍における結合定数と体積磁歪の温度依存性が次のよ

うに求まる。

Cs(t)

Ch0=

14

25(1 − gA)y10σ

2s

(

40√

2cz7πtc

)2 [

1 −(

t

tc

)4/3]

+ · · · , (8.44)

ωs(t)

ω0=

ωT (t)

ω0+

98

125(1 − gA)y10σ

2s

(

40√

2cz7πtc

)2 [

1 −(

t

tc

)4/3]2

+ · · ·

つまり、温度が臨界温度に近づくと、結合定数 Cs(t) は (T − Tc) に比例し、また熱ゆらぎの寄与

を除いた体積磁歪 ωs(t) は (T − Tc)2 に比例する温度依存性を示す。同様に熱膨張率 α(t) につい

ても ωT (t) の寄与を別にすれば、(T − Tc) に比例する。SEW 理論や Moriya, Usami 理論では熱

膨張率 α は T → Tc の極限で有限の負の値となることが示されている。これと異なる結果がここ

では得られた。

8.4.2 強制体積磁歪

強制体積磁歪は (8.36) を利用し、σ に関する次の積分から求められる。

ωh(σ, t) =1

2ρκTA

∫ σ

σ0(t)

dσ′σ′

[

γAy(σ′, t) − ∂y(σ′, t)

∂ω

]

(8.45)

上の被積分関数に現れる磁化率の逆数 y の体積微分 ∂y/∂ω は、磁気秩序状態における等温磁化曲

線を求めるための次の式を利用して求めることができる。

2At(y, t) +A(yz , t) − cz(2y + yz) + 5czy10σ2 = 3A(0, tc) (8.46)

この方程式を ω に関して偏微分することによって次の式が得られるが、これを yω の σ についての

常微分方程式と考えることによって解くことにより、その解として yω が σ の関数として求まる。

2[At′(y, t) − cz]yω + [A′(yz, t) − cz]

(

yω + σ∂yω

∂σ

)

+ 5czy10(−γA + γ0)σ2

= 3czy10[σ2s0γm − σ2

s(γA − γ0)] (8.47)

142

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y(σ, t) とその ω に関する導関数の σ-依存性を求める微分方程式 (8.46), (8.47) と次の式を連立さ

せて解くことにより任意の σ の値に対する体積磁歪の値を求めることができる。

∂u

(

ωh(σ, t)

ω0

)

=1

y10σ2s

[

gAy(σ, t) −1

γm

∂y(σ, t)

∂ω

]

, (u = σ2/σ2s)

ただし、初期条件として yω(σ0, t) の値は、σ = σ0(t) のとき成り立つ y = y1(t)[σ2 − σ2

0(t)] を用

いて次のように与えられる。

yω(σ0, t) = −y1(t)∂σ2

0(t)

∂ω= −y10σ2

sV (t)

[

γm +1

U(t)

∂U(t)

∂ω

]

(8.48)

σ = σ0(t) における σ2 (u = σ2/σ2s) についての微係数も次のように表される。

∂yω

∂u= σ2

s

∂y1(t)

∂ω= y10σ

2s

V (t)

U(t)

[

−γA + γ0 +1

V (t)

∂V

∂ω− 1

U(t)

∂U

∂ω

]

(8.49)

弱磁場の極限で σ ' σ0(t) が成り立つとき、(8.48)を (8.45) に代入することによって強制磁歪は

次のように求まる。

ωh(σ, t) = ρκCh(t)[σ2 − σ20(t)] (8.50)

Ch(t) = −1

4TAyω = Ch0V (t)

[

1 +1

γmU(t)

∂U(t)

∂ω

]

磁気秩序状態の場合について得られた自発体積磁歪と強制体積磁歪の結果をまとめると、磁気体

積磁歪の温度、磁場依存性は次のように表される。

ω(t) = ωT (t) + ρκCs(t)σ20(t) + ρκCh(t)[σ2 − σ2

0(t)] (8.51)

この結果は、SEW 理論の (8.3) 式や、SCR 理論による (8.6) 式に対応するものである。ただし、

それらとは次の点で違いがある。

1. 自発体積磁歪と強制磁歪のそれぞれの結合定数 Cs(t), Ch(t) は互いに異なる値をもち、異な

る温度依存性を示す。SEW 理論や Moriya, Usami 理論ではこれらは同じ値であり、その温

度依存性はフェルミ分布関数の温度依存性を反映した弱い T 2 依存性が現れるだけと考えら

れる。

2. 熱ゆらぎによる自発体制磁歪への寄与 ωT (t) が余分に存在する。同じ熱ゆらぎの寄与でも、

この項は Moriya, Usami による ξ2(T ) に比例する項とは全く異なる温度依存性を示す。

これまで行われた磁気体積効果についての実験データの解析は、ここで示した ωT (t) の項の存在

が全く考慮に入っていない。低温で熱膨張率の温度係数が磁気的不安定点近傍で増強されるという

実験データや、常磁性状態でもかなり大きな電子的な温度 T に比例する寄与が熱膨張率に存在す

るなどの指摘もあり、実験データの解析には再検討が必要であると思われる。

基底状態と臨界温度における体積磁歪の差∆ω = ω(0)− ω(tc) を用いて Moriya, Usamiが導入

したパラメータ η = 1 − ∆ω/ωSEW は、(8.51) の結果を用いて次のように表される。

η = 1 − ∆ω

ωSEW= 1 − ρκCs(0)σ2

s − ωT (tc)

ρκCh(0)σ2s

= 1 − Cs(0)

Ch(0)+ωT (tc)

ωSEW

=3

5− 4

15gA +

ωT (tc)

ωSEW, ωSEW = ρκCh(0)σ2

s

143

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ただし、ωSEW の値は Moriya, Usami にしたがって強制体積磁歪の結合定数を用いて定義した。

3個のグリュナイゼンパラメータの大きさと符号や、熱ゆらぎの寄与 ωT (tc) の存在により、この

比の値は 3/5 に固定されるのではなくいろいろな値を取り得る。Moriya, Usamiが実験の解析か

ら求めた値が実際に分布しているように見える結果は、(8.51)が成り立つことを支持するようにも

考えられる。ただし、これまでの熱膨張の解析は、電子的な寄与の見積もりに問題がある可能性も

あり、これまでの結果を用いた判断は未だ時期尚早である。

磁気秩序状態と常磁性状態の両方について、自発体積磁歪の温度依存性を計算した結果を図 21に

実線で示した。3つの理論の定性的な違いをわかりやすく示すために、参考として SEW 理論(点

線)と Moriya, Usami の理論(破線)による結果も示した。tc = 0.1, g0 = gA = 0.1, TA/T0 = 10

とおいた場合の計算結果を表している。図からわかるように、M-U 理論では η の値は 3/5 とな

るが、この例ではこれより大きな値となっている。T = 0 Kでの値が 1 より小さな値となるのは、

Cs と Ch の結合定数が異なるためである。また、常磁性状態では、熱ゆらぎの寄与 ωT (t) の存在

のために、M-U 理論より温度勾配が急になっている。

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5T/Tc

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

ωs(t

)/ω0

図 21: 自発体積磁歪の温度依存性: SEW 理論、M-U 理論との比較

Uω, Vω の計算のしかた 任意の温度において、σ の関数として体積磁歪を求めるための連立微分

方程式の初期条件 (8.48) には、2つのパラメータ U , V の体積に関する導関数 Uω, Vω を求める

必要がある。これらは 以下の2つの連立方程式を数値的に解くことによって求めることができる。

F1(U, V ) = V

[

1 − 3

5czA′(yz0, t) −

2

5czA′

c(0, t)

]

− U = 0

F2(U, V ) = U − 2

5V − 3

5+

1

5A(0, tc)[A(yz0, t) + 2At(0, t)] = 0 (8.52)

これらの式に現れる 2つのの関数 U(t)と V (t)は、(8.38)に定義されている。得られた関数 U(t),

V (t) を (8.48), (8.49) に代入し、y(σ, t) の ω に関する微係数を求めることができる。それらの式

に現れる ω に関する導関数 Uω = ∂U(t)/∂ω や Vω = ∂V (t)/∂ω も、(8.52) をさらに ω で微分し

144

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て得られる次の連立方程式を解くことによって求められる。

U

VVω − V

5cz

[

3∂A′(yz0, t)

∂ω+ 2

∂A′

c(0, t)

∂ω

]

− Uω = 0

Uω − 2

5Vω +

(

U − 2

5V − 3

5

)(

σ2s0

σ2s

γm − γA + γ0

)

+1

5A(0, tc)

[

∂A(yz0, t)

∂ω+ 2

∂At(0, t)

∂ω

]

= 0 (8.53)

ただし、σs ' σs0 が成り立つとすれば、熱ゆらぎの振幅についての体積微分は以下の式にしたがっ

て求められる。

∂At(0, t)

∂ω= x2

cA′

c(0, t)

(

γm − γA + γ0 +1

V (t)

∂V (t)

∂ω

)

+ γ0t

[

∂Asw

∂t+∂Ac(0, t)

∂t

]

∂A(yz0, t)

∂ω= yz0A

′(yz0, t)

(

γm − γA + γ0 +1

V (t)

∂V (t)

∂ω

)

+ γ0t∂A(yz0, t)

∂t

∂Ac′(0, t)

∂ω= x2

cAc′′(0, t)

(

γm − γA + γ0 +1

V (t)

∂V (t)

∂ω

)

+ γ0t∂Ac

′(0, t)

∂t

∂A′(yz0, t)

∂ω= yz0A

′′(yz0, t)

(

γm − γA + γ0 +1

V (t)

∂V (t)

∂ω

)

+ γ0t∂A′(yz0, t)

∂t

A′(y, t), A′′(y, t) は、変数 y に関する導関数を表す。これらを代入することにより (8.53) は、最

終的に次のように書き換えられる。

U(t)

V (t)− 1

5cz

[

3yz0A′′(yz0, t) + 2V (t)

∂Ac′(0, t)

∂V

]

Vω − Uω

=V (t)

5cz(γm − γA + γ0)[3yz0A

′′(yz0, t) + 2x2cAc

′′(0, t)]

+γ0V (t)t

5cz

[

2∂A′

c(0, t)

∂t+ 3

∂A′(yz0, t)

∂t

]

2

5− 1

5A(0, tc)V (t)[yz0A

′(yz0, t) + 2x2cAc

′(0, t)]

Vω − Uω

= (γm − γA + γ0)

U(t) − 2

5V (t) − 3

5+

1

5A(0, tc)[yz0A

′(yz0, t) + 2x2cAc

′(0, t)]

+γ0t

5A(0, tc)

[

2∂At(0, t)

∂t+∂A(yz0, t)

∂t

]

(8.54)

(8.52)で定義した F1, F2 の導関数を成分とする行列を用い、これらをさらに次のような簡単な形

に表すこともできる。

∂F1

∂U

∂F1

∂V

∂F2

∂U

∂F2

∂V

(

)

= −γ0t

∂F1

∂t

∂F2

∂t

+ (γm − γA + γ0)

(

U

3/5− U

)

−(γm − γA + γ0)V

∂F1

∂V

∂F2

∂V

(8.55)

145

Page 23: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

さらに行列の性質から、上の最後の項は Uω や Vω に寄与しないことを考慮すると、これれは U ,

V の温度微分を用いて結局次のように表される。

(

)

= γ0t

∂U

∂t

∂V

∂t

+ (γm − γA + γ0)

∂F1

∂U

∂F1

∂V

∂F2

∂U

∂F2

∂V

−1(

U

3/5− U

)

(8.56)

(8.54) または、(8.56)を解いて Uω が求まれば、これを (8.48)に代入して yω を求め、さらに磁気

体積結合定数 Ch(t)を求めることができる。このようにして熱ゆらぎの振幅 A(y, t) や、その y や

t に関する導関数を用いて強制磁気体積効果に必要な値をすべて求めることができるが、一般的に

は数値計算に頼らざるを得ない。ただし、磁気体積効果に関して必要となるこれらの値は、すべて

比熱の計算でも必要な U と V の温度微分を求める計算の際に必要となるものばかりである。

低温極限、臨界温度近傍における強制体積磁歪 弱磁場で σ ' σ0(t)が成り立つ場合には、低温極

限と臨界温度近傍における結合係数 Ch(t) の温度依存性についての解析的な取り扱いが可能であ

る。まず、低温極限では σ20(t) と y1(t) の温度依存性は (8.42) で与えられる。これを利用すると

Uω は次のように求まる。

Uω =∂U

∂ω=

4 + 5r + r2

180cz(y10σ2s)2

(γm − γA)t2 + · · · (8.57)

すでに、自発磁化の温度依存性が低温極限で T 2/(TAσ2s)2 に比例して減少することがわかってい

る。上の式が (γm − γA) に比例することは、この結果から理解できる。また、(8.54) の連立方程

式の解を低温の極限で求めることによっても同じ結果が得られることも確認できる。(8.57)の結果

を (8.48) に代入することにより、低温領域での Ch(t) の温度依存性が次のように求まる。

Ch(t)

Ch0= V (t)

(

1 +1

γmU(t)

∂U(t)

∂ω

)

= 1 +t2

120cz(y10σ2s )2

[

(1 − 2gA)4 + 5r + r2

3− 3 + 2r2

4

]

+ · · · (8.58)

臨界温度近傍では、(8.43) の σ20(t) の温度依存性から、次の式が成り立つ。

∂U

∂ω=

28

15

(

t

tc

)4/3d lnTc

dω' 28

15

d lnTc

この結果を (8.48)に代入し、U ' 0が成り立つことを考慮すると、結合定数 Ch(t) の温度依存性

は次のように求まる。

Ch(t)

Ch0= V (t)

(

1 +1

γmU(t)

∂U(t)

∂ω

)

' V (t)

γmU(t)

∂U(t)

∂ω

=196

75y10σ

2s

1

γm

d lnTc

[

40√

2cz7πtc

]2 [

1 −(

t

tc

)4/3]

+ · · · (8.59)

この結果は、臨界温度の近くの強制磁歪の結合定数の温度依存性を測定することにより、Tc の圧

力依存性を見積もれる可能性を示している。キュリー温度 Tc の ω に関する変化率については後

で触れることにする。

146

Page 24: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

8.5 常磁性状態における磁気体積効果

この節では、磁気秩序は発生しないものの強磁性発生直前の磁気不安定点近傍にある常磁性体

と、強磁性体の常磁性状態についての自発体積磁歪と強制体積磁歪のそれぞれについて説明する。

8.5.1 交換増強された常磁性体

強磁性体の場合の (8.16)と磁気的不安定点近傍で強磁性発生寸前の常磁性体の場合の (8.17)と

を比較してみればわかるように、常磁性体の場合の y0(0)/y10 の値が、強磁性体の σ2s の値に対応

すると考えられる。y0(0) は T = 0 K の磁化率の逆数、y10 は自由エネルギーの磁化についての 4

次の展開係数を規格化した値である。強磁性の場合の臨界温度を決める条件、A(0, tc) = czy10σ2s

についてこの対応関係を適用すると、常磁性体の場合にも強磁性体のキュリー温度に対応する温度

Tp が次のように定義できる。

A(0, tp) = czy0(0), (tp = Tp/T0)

これは磁気不安定点にどの位近いかを表す目安になる温度と考えることができる。強磁性体との対

応関係を参考に、強磁性体の場合の (8.31)式による Ch0 の定義や、(8.38) 式の定義を用いて常磁

性体の場合にも ω0 や V (t), U(t) の値を次のように定義することができる。

ω0 =1

4ρκTA

y20(0)

y10γm,

V (t) =3y0(t)

2y0(0), U(t) =

3y0(t)

2y0(0)

y10y1(t)

(8.60)

U(t) は強磁性体の自発磁化の2乗の温度依存性に対応するものと考えられる。強磁性の秩序状態

の 2y0 + yz0 = 2y1(t)σ20(t) を常磁性状態の 3y0(t) に対応させ、この値と y1(t)σ

2s との値の比とし

て U(t) を定義した。現象として、強磁性状態における自発磁化の発生が、常磁性状態の有限の磁

化率の値に対応すると考えたことに相当する。V (t) は y1(t)/y10 = V (t)/U(t) が成り立つように

決めた。

常磁性自発体積磁歪 式 (8.25) の常磁性体の場合のグリュナイゼンパラメータの定義を用いて

(8.27) の係数 Cr 求め、これを (8.23) に代入し、さらに常磁性体で σ20(t) = 0 が成り立つことを

考慮すれば、自発体積磁歪は次のように求まる。

ωs(t) − ωT (t) =3

20ρκTA

y0(0)

y10(γm + γA)y0(t)

=2

5ω0(1 + gA)V (t) (8.61)

この結果は強磁性体の場合の (8.38) 式に対応する。この式を用いた体積磁歪の温度依存性につい

ての計算結果を図 22に示す。細い実線が熱ゆらぎの寄与を表し、細い破線と太い実線は熱ゆらぎ

以外の寄与と両方の和を表す。値の大きい方から順に tp = 0.01, 0.05, 0.10の場合についての計算

結果である。

147

Page 25: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0T/Tc

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

ωs(t

)/ω0

図 22: 体積磁歪の温度依存性

(8.40) 式に対応する熱膨張率の温度依存性も、(8.61) の温度微分から次のように求まる。

1

ω0

dωs(t)

dt= α(t) = αt(t) + αr(t) (8.62)

αt(t) =g0

5czy20(0)

−3

∫ 1

0

dxx2u2

(

1

u+

1

2u2− ψ′(u)

)

+2y0(0)dV (t)

dt

[

A(y0, t) − t∂A(y0, t)

∂t

]

αr(t) =2

5(1 + gA)V ′(t)

熱膨張率と温度 tとの比の値 g0α(t)/(3ρκT0γ0t)の温度依存性についての計算結果についても図 23

に示す。本来の意味からすれば、自発磁化の発生しない常磁性体の自発体積磁歪を問題にすること

はできない。ここでは上に述べた強磁性状態と常磁性状態の間の両者の対応関係を利用し、強磁性

体の場合の (8.41)との対応から、自発体積磁歪の結合定数を常磁性体に対し次のように定義する。

Cs(t)

Ch0=

2V (t)

5U(t)(1 + gA), Ch0 =

1

4TAy0(0)γm (8.63)

低温極限での体積磁歪の温度依存性は次のように求めることができる。まず、磁化率の逆数 y0(t)

の温度依存性は次のように与えられる。

y0(t) = y0(0) +t2

24czy0(0)+ · · ·

これを (8.61) に代入すれば、自発体積磁歪の温度依存性が t2 に比例するという次の結果が得ら

れる。ωs(t)

ω0=

3

5(1 + gA) +

t2

40czy20(0)

g0 ln[1 + y0(0)−1] + 1 + gA

+ · · · (8.64)

148

Page 26: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0T/Tc

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

α(t)/

t

図 23: α(t)/t の温度依存性

つまり、比熱と同様に熱膨張率の温度係数 α(t)/t に、低温で ln y−10 (0) に比例した増強因子が現

れることがわかる。図 23の低温極限で熱ゆらぎによる寄与が増大する様子を示すのはこの効果に

よるものである。

常磁性強制体積磁歪 弱磁場の場合の強制体積効果の結合定数についても、(8.37)にしたがって次

のように求めることができる。このとき必要となる逆磁化率 y0(t) の ω 微係数は、磁化率の温度依

存性を決める次の式を利用して求めることができる。

A(y0(t), t) − czy0(t) = −czy0(0) (8.65)

この式を ω に関して微分することにより、∂y0/∂ω を求めるための次の式が得られる。

[A′(y0, t) − cz]

(

tγ0∂y0∂t

+∂y0∂ω

)

= −tγ0∂A(y0, t)

∂t− cz

∂y0(0)

∂ω

ただし、温度微分に関する項については次の関係が成り立つので寄与しない。

[A′(y0, t) − cz ]∂y0∂t

= −∂A(y0, t)

∂t

つまり、次の結果が成り立つ。

∂y0(t)

∂ω= − cz

A′(y0, t) − cz

∂y0(0)

∂ω

=y1(t)

y10

∂y0(0)

∂ω= −y0(0)

y10(γm + γA − γ0)y1(t) (8.66)

ただし、次の関係が成り立つことを用いた。

∂y0(0)

∂ω= [−γm − γA + γ0]y0(0)

149

Page 27: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

(8.66) 式を (8.37) に代入すれば、強制磁気体積結合定数の温度依存性が次のように求まる。

Ch(t)

Ch0=

1

y0(0)

(

gAy0(t) −1

γm

∂y0(t)

∂ω

)

=

gAy0(t)

y0(0)+y1(t)

y10(1 + gA − g0)

=V (t)

U(t)

1 + gA

[

1 +2

3U(t)

]

− g0

, (8.67)

自発体積磁歪と強制体積磁歪の結合係数の温度依存性についての計算結果を図 24に示す。

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0T/Tc

0.0

0.5

1.0

1.5C s/C

h0, C

h/Ch0

図 24: 磁気体積結合定数の温度依存性

8.5.2 常磁性状態における自発体積磁歪

強磁性体の常磁性状態についても自発磁化が存在しないので、本来は自発体積磁歪やその結合定

数を定義することはできない。しかし、常磁性体の場合と同様に対応関係をうまく利用してそれら

を定義することが可能である。(8.23)によれば磁化率の逆数 y0 が有限の値であれば、外部から磁

場をかけなくても y0 に比例した磁気体積歪が存在する。(8.27) の Cr の値を用いてその温度依存

性は次のように表される。

ωs(t) − ωT (t) =3

20ρκTAσ

2s0γm

(

1 − gAσ2

s

σ2s0

)

y0(t)

=1

10ρκTAy10σ

2s0σ

2sγm

(

1 − gAσ2

s

σ2s0

)

y1(t)

y10

3y0(t)

2y1(t)σ2s

=2

5ω0

(

1 − gAσ2

s

σ2s0

)

y1(t)

y10

3y0(t)

2y1(t)σ2s

(8.68)

この結果を (8.38)と比較すれば、いまの場合には関数 U(t), V (t) を次のように定義すると都合が

よい。

U(t) =3y0(t)

2y1(t)σ2s

, V (t) =3y0(t)

2y10σ2s

(8.69)

150

Page 28: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

強磁性体の場合の y10σ2s が常磁性体の y0(0)の値に対応するとすれば、これらの定義は常磁性体の

場合の (8.60) と等価であることがわかる。V (t) も V (t)/U(t) = y1(t)/y10 が成り立つように定義

した。これらの定義を代入すれば、(8.68)は (8.38)と同じような形、つまり次のように表される。

ωs(t) = ωT (t) +2

5ω0V (t)

(

1 − gAσ2

s

σ2s0

)

(8.70)

秩序状態の場合とは異なりこの場合も自発磁化 σ0(t) はゼロである。したがって σ20(t) に比例する

項は、結合定数 Cs に現れない。得られた結果を温度について微分することにより、熱膨張係数の

温度依存性も以下のように求まる。

1

ω0

dωs(t)

dt= α(t) = αt(t) + αr(t) (8.71)

αt(t) =g0

5cz(y10σ2s)2

−3

∫ 1

0

dxx2u2

(

1

u+

1

2u2− ψ′(u)

)

+2y10σ2s

dV (t)

dt

[

A(y0, t) − t∂A(y0, t)

∂t

]

αr(t) =2

5(1 − gA)V ′(t)

磁気秩序状態との対応関係から、常磁性状態における自発体積磁歪に関する結合定数も以下のよう

に定義することができる。

Cs(t)

Ch0=

2

5

V (t)

U(t)

(

1 − gAσ2

s

σs0

)

=2

5

V (t)

U(t)(1 − gA), (σs ' σs0) (8.72)

臨界温度近傍や高温における熱膨張や磁気体積結合定数の温度依存性の様子は次のように求める

ことができる。まず、臨界温度近傍については、U(t) と V (t) は次のような温度依存性を示す。

U(t) =3

4[(t/tc)

4/3 − 1],

V (t)

U(t)=

y1(t)

y10=

[√2(2 +

√5)

5

]2

[(t/tc)4/3 − 1]

ycσ2s

y10

=

(

4√

2czπtc

)2

y10σ2s [(t/tc)

4/3 − 1]

U(t) は (t − tc) に比例し、V (t) は (t − tc)2 に比例する。(8.70) 式の第2項の温度依存性は磁化

率、つまり V (t) の温度依存性で決まり、上の温度依存性を (8.70) や (8.72) に代入すれば、熱膨

張と磁気体積結合定数の温度依存性としてそれぞれ次の結果が得られる。

ωs(t)

ω0=

ωT (t)

ω0+

3

10(1 − gA)

(

4√

2czπtc

)2

y10σ2s [(t/tc)

4/3 − 1]2,

Cs(t)

Ch0=

2

5(1 − gA)

(

4√

2czπtc

)2

y10σ2s [(t/tc)

4/3 − 1] (8.73)

Moriya, Usami は、熱膨張係数 α(t) の温度勾配が臨界温度 Tcで不連続な変化を示すという結果

を得ている。一方、(8.44) の磁気秩序状態の結果と上の (8.73) の結果を合わせると、α(t) は Tc

でも連続的な温度変化を示すことがわかる。(Ogawa & Kasai 1969) の ZrZn2 に対する熱膨張率

の実験結果は、むしろ連続的な変化をしているように見える。磁気秩序状態も含めた熱膨張係数、

151

Page 29: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

0.0 1.0 2.0 3.0T/Tc

−10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

α(t)

図 25: 熱膨張係数の温度依存性

ωs(t)/ω0 の tに関する導関数、の温度依存性についての計算結果を図 25に示す。実線、破線、点

線はそれぞれ tc = 0.05, 0.1, 0.2の場合の計算結果である。g0 = 0.1, gA = 0.1とおいた。高温で磁

化率がキュリー・ワイス則にしたがう温度変化を示す温度領域における体積磁歪の温度依存性は次

のように求められる。磁化率のキュリー・ワイス則を反映し、V (t) と V (t)/U(t) の温度依存性は

次のように与えられる。

V (t)

U(t)=y0(t)

y10' 1

10czy210σ

2eff

(t− tc), V (t) =3y0(t)

2y10σ2s

' 3

20

1

cz(y10σ2s )2

σ2s

σ2eff

(t− tc)

つまり、V (t) は (t − tc) に比例し、V (t)/U(t) は温度によらないほぼ一定の値となる。この結果

を (8.70)に代入すれば、常磁性状態の高温領域で、温度に比例して増大する (ωT の寄与を除いた)

熱膨張の温度依存性が次のように得られる。

ωs(t) − ωT (t)

ω0' (1 − gA)

3

50cz(y10σ2s )2

σ2s

σ2eff

(t− tc) (8.74)

結合定数の比 Cs(t)/Ch0 の値は、2(1 − gA)/5 と同じ程度の値となる。熱ゆらぎの寄与 ωT をう

まく分離することができれば、熱膨張と磁化率の逆数の温度依存性を定量的に比較すれば比の値

Cs(t)/Ch0 を実験的に求めることができると考えられる。この比がどのような値になるかを確かめ

ることは重要である。

自発体積磁歪の温度依存性についての計算結果を図 26に示す。細い実線が熱ゆらぎによる寄与

ωT (t) を、細い破線がそれ以外の寄与を表し、両方の和を太い実線で表した。大きな値をもつ方か

らそれぞれ tc = 0.01, 0.05, 0.1とおいた場合の計算結果を表している。なお、g0 = gA = 0.1 の値

を用い、TA/T0 = 10とおいた。興味深い結果として、tc が小さな値をとる場合には、熱ゆらぎに

よる熱膨張への寄与が相対的に大きくなるため、温度を下げたとき臨界温度以下でそれ以外の寄与

による体積膨張の効果を打ち消してしまうことがわかる。その場合の熱膨張の温度依存性は、温度

についての単調増加関数となる。このグラフでは、体積膨張を ω0 の値で割った比の値が示されて

いることに注意が必要である。小さな tc の値に対して ω0 も小さな値となるので、上の図で示さ

れている値の大小は、熱膨張の絶対的な値の大小を意味するものではないことにも注意が必要で

ある。

152

Page 30: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5T/Tc

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

ω s(t)/ω

0

図 26: 自発体積磁歪の温度依存性

8.5.3 強制体積磁歪

強磁性体の常磁性状態における強制体積効果の結合定数も常磁性体の場合と同様に求めることが

できる。(8.37) によれば、弱磁場の場合の強制体積効果の結合定数は逆磁化率 y0(t) の ω に関す

る微係数から求められる。磁化率の温度依存性が次の式を解くことによって求められることについ

てはすでに述べた。

A(y0(t), t) − czy0(t) = A(0, tc) (8.75)

この方程式に含まれるスピンゆらぎのパラメータの体積依存性によって y0(t) の ω に関する微係

数を求めることができる。上の式を体積磁歪 ω に関して微分することにより、∂y0/∂ω を求めるた

めの次の式が得られる。

[A′(y0, t) − cz]

(

tγ0∂y0∂t

+∂y0∂ω

)

= −tγ0∂A(y0, t)

∂t+∂A(0, tc)

∂ω

ここで温度微分に関する項が互いに打ち消し合って寄与しないことに注意すると次の結果が得ら

れる。

∂y0(t)

∂ω=

1

A′(y0, t) − cz

∂A(0, tc)

∂ω

= − y1(t)

czy10A(0, tc)

∂ lnA(0, tc)

∂ω= −y1(t)σ2

s0

[

γm − σ2s

σ2s0

(γA − γ0)

]

(8.76)

ただし、次の関係が成り立つことを用いた。

∂ lnA(0, tc)

∂ω=σ2

s0

σ2s

γm − γA + γ0

臨界温度近傍を除けば y1(t) の温度変化は小さいので、(8.76)の結果は体積歪に伴う逆磁化率の体

積微係数 ∂y0/∂ω が温度によらずほぼ一定であることを意味する。

153

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(8.76) 式を (8.37) に代入すれば、常磁性状態における強制磁気体積結合定数の温度依存性が次

のように求まる。

Ch(t)

Ch0=

1

y10σ2s0

(

gAy0(t) −1

γm

∂y0(t)

∂ω

)

=1

y10σ2s0

gAy0(t) +y1(t)

czy10γm

∂A(0, tc)

∂ω

=y1(t)

y10

1 − σ2s

σ2s0

[(

1 − y0(t)

y1(t)σ2s

)

gA − g0

]

(8.77)

=V (t)

U(t)

1 − gA

[

1 − 2

3U(t)

]

+ g0

, (σs ' σs0)

臨界温度近傍では y1(t) の温度依存性を反映し、結合定数 Ch は次のように (t− tc)に比例する温

度依存性を示す。

Ch(t)

Ch0= (1 − gA + g0)

(

4√

2czπtc

)2

y10σ2s [(t/tc)

4/3 − 1] (8.78)

温度の上昇とともにこの値はほぼ一定の値に飽和する傾向を示すが、gA の大きさが無視できない

場合には、(8.77) に含まれる y0(t) の (t − tc) に比例する温度依存性のためにわずかに増加する。

自発体積磁歪と強制体積磁歪の両方の結合定数の温度依存性を図 27に示す。太線が強制体積磁歪、

細線が自発体積磁歪に関するものである。また、点線、破線、実線はそれぞれ tc = 0.01, 0.05, 0.1

とおいた場合の計算結果を表す。なお、TA/T0 = 10とおいた。

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0T/Tc

0.0

0.5

1.0

1.5

C s/Ch0

, Ch/C

h0

図 27: 磁気体積結合定数の温度依存性

逆磁化率の ωに関する微係数が温度によらずほぼ一定であるという (8.76)の結果は、(Brommer,

et al. 1995)による常磁性状態における磁化率の圧力依存性の測定結果と関連がある。この論文で

示されている、Ni3Alと TiCoの圧力係数 d lnχ/dω の温度依存性が χに比例するという結果、つ

まり χ−2dχ/dω の値が温度によらずほぼ一定であるという結果は逆磁化率の ω 微分、dχ−1/dω、

が一定であることを意味する。とくに Ni3Al については、報告されている3つの温度で得られた

d lnχ/d lnV の値を χ の値に対してプロットすると正の傾きのよい直線に載ることが示されてい

る。これは、∂y0/∂ωが温度によらないという (8.76)の結果によく対応し、その傾きはここでの表

記にしたがえば次のように表される。

N0

d lnχ

d lnV= −TAy0

∂ ln y0∂ω

= −TA∂y0∂ω

= TAy1(t)σ2s

d lnA(0, tc)

154

Page 32: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

Brommer etal の論文のデータから、Ni74.8Al25.2 に対して上の左辺の値を見積もると 2.73×103 K

の値が得られる(1 emu/(g N0µ2B) = 135.2 K−1 を用いた)。この化合物についてのこれまで報告

されている実験から見積もられたスピンゆらぎのスペクトル幅、T0 ' 3× 103 K, TA ' 3× 104 K

の値を用いると y1(t) ' y10 ' 1/3が得られる。また、右辺の体積依存性を次のように見積もるこ

とができる。d lnA(0, tc)

dω= −B d lnA(0, tc)

dp= −Bd lnσ2

s

dp' 46.2

ただし、大まかな比較のため γ0, γA の寄与は無視した。バルクモジュラスの値としては B = 1.7

M bar、および d lnσ2s/dp = 27.2を用いた。自発磁化の値として、σs = 0.05、または、0.07を用

いると上の式の右辺の値としてそれぞれ、1.15× 103 K, 2.26× 103 Kが得られ、Brommer etal の

磁化率の圧力依存性についての結果をほぼ定量的に説明できる。

図 28: Ni3Al の常磁性磁化率の圧力変化

任意の強さの磁場をかけたときの体積磁歪を求めるためには、数値的な計算が必要である。これ

は常磁性状態における等温磁化曲線を求めるための次の方程式を利用して求めることができる。

2A(y, t) +A(yz, t) − cz(2y + yz) + 5czy10σ2 = 3A(0, tc), yz = y + σ

∂y

∂σ(8.79)

この方程式の体積歪 ω に関する微分は次のように表される。

2[A′(y, t) − cz]yω + [A′(yz, t) − cz]

(

yω + σ∂yω

∂σ

)

+ 5czy10(−γA + γ0)σ2

= 3czy10σ2s0

[

γm − σ2s

σ2s0

(γA − γ0)

]

(8.80)

この式は、関数 yω = ∂y/∂ω の変数 σ に対する常微分方程式であると見なすことができる。これ

と (8.36) 式を連立させて解くことによって強制体積磁歪 ω(σ) を σ の関数として求めることがで

きる。弱磁場では yω(σ, t) は微少なパラメータ u = σ2/σ2s に関して次のように展開できる。

yω(σ, t) = yω(0, t) + yω′(0, t)σ2

su+ · · ·

155

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σ = 0 のときの初期条件を与える第 1 項は (8.76) によって次のように表される。

yω(0, t) = −y10σ2sγm(1 − gA + g0)

V (t)

U(t)

展開式を (8.80) を代入し、係数を比較することにより 1 次の係数を決めるための式が得られる。

[A′(y0, t) − cz]yω′(0, t)σ2

s +A′′(y0, t)y1(t)σ2syω(0, t) +A(0, tc)(−γA + γ0) = 0

これを解いて係数の値は次のように表される。

yω′(0, t)σ2

s =A(0, tc)

A′(y0, t) − cz

[

γA − γ0 −A′′(y0, t)y1(t)

czy10yω(0, t)

]

= −A(0, tc)V (t)

czU(t)

[

γA − γ0 −V (t)

czU(t)A′′(y0, t)yω(0, t)

]

一方、体積磁歪の 1 次の係数は次のようになる。

∂u

ωh(σ, t)

ω0=

1

y10σ2s

[

gAy0 −1

γmyω(0, t)

]

8.6 臨界磁気体積効果

臨界温度における磁気体積効果については、特に強制磁歪については (Takahashi 1990) を除け

ば理論的にこれまであまり問題にされることはなかった。しかし、臨界温度 Tc の圧力依存性は磁

気体積効果の重要な性質のひとつであり、臨界温度における強制体積磁歪の σ 依存性も興味ある

現象である。ここでは、Tc の圧力依存性と臨界点における強制磁歪について説明する。

8.6.1 臨界温度の圧力依存性

まず、臨界温度 Tc の圧力依存性について調べてみよう。臨界温度は y0(tc, ω) = 0 の条件から決

まる。この式の体積依存性から臨界温度の体積依存性を求めるための以下の関係が導かれる。

∂y0(t)

∂t

t=tc

(

δTc

T0− Tc

T 20

δT0

)

+∂y0(t)

∂ω

t=tc

δω = 0 (8.81)

(8.76) と (8.75) の温度微分から y0(t) の温度と体積歪に関する導関数を次のように表すことがで

きる。

∂y0(t)

∂ω=

1

[A′(y0, t) − cz]

∂A(0, tc)

∂ω=

cz[A′(y0, t) − cz]

d(y10σ2s)

∂y0(t)

∂t= − 1

[A′(y0, t) − cz]

∂A(0, t)

∂t(8.82)

これらを代入すれば (8.81) は次のように表される。

tc∂A(0, tc)

∂tc

(

d lnTc

dω+ γ0

)

= czd(y10σ

2s)

dω(8.83)

臨界熱ゆらぎの振幅について A(0, tc) ' C4/3t4/3c /3が成り立つことを考慮すると、(8.83) の左辺

は d[C4/3t4/3c /3]/dω と表される。つまり、(8.83) の結果は、すでに得られた tc と σ2

s との関係を

表す次の関係が体積によらず常に成り立つことを意味するものである。

σ2s =

C4/3

3czy10t4/3c =

20C4/3T0

TA

(

Tc

T0

)4/3

156

Page 34: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

これは、スピンゆらぎのモデルに含まれるパラメータが体積依存性をもつと仮定したことから当然

導かれる結果である。

この結果から σs ∼ σs0 のとき、T4/3c の体積歪依存性として次の結果が導かれる。

T 4/3c = T

4/3c0

1 + ω(

γm − γA − γ0

3

)

自発磁化 σ2s とパラメータ T0, TA に対して仮定した体積依存性を用いれば、臨界温度の体積依存

性は一般に次のように表される。

(

Tc

Tc0

)4/3

= e−(γA+γ0/3)ω(1 + γmω)

この結果からわかるように、臨界温度の体積依存性はモーメントの大きさに関するグリュナイゼン

パラメータ γm だけでなく、スペクトル幅 T0, TA に関するパラメータ γ0, γA にも関係する。モー

メントの空間的な方向の乱れなども磁気相転移に関係すると考えると、これは十分理解できる結果

である。一般に Tc の ω に関する対数微分は次のように与えられ、ωc = −1/γm で発散する傾向

を示す。4

3

d lnTc

dω=

γm

1 + γmω− γA − 1

3γ0 = γm

(

ωc

ωc − ω− gA − 1

3g0

)

T4/3c を体積歪の関数としてプロットしたとき、その傾きは一定ではない。とくに ω ' 0 の近傍で

は、lnTc の傾きは次のように表される。

4

3

d lnTc

dω= − 4

d lnTc

dp= γm − γA − 1

3γ0 (8.84)

圧力依存性を用いて次のように表すこともできる。

d lnTc

dp− 3

4

d lnσ2s

dp=κ

4(3γA + γ0) (8.85)

一方、不安定点近傍、ω ∼ ωc、では、体積歪に関する微係数は次のように表される。

d

(

Tc

Tc0

)4/3

= egA+g0/3γm

8.6.2 Tc と σs の圧力変化についての一版的な傾向

すでに述べたように、大きな値のグリュナイゼンパラメータ γm の存在が遍歴電子磁性体の磁

気体積効果の大きな特徴である。ゆらぎの振幅差 ∆⟨

S2⟩

の体積依存性を用いて定義されたこの値

は、金属磁性体の場合には他の2つのパラメータ γ0, γA より大きな値をもつことが多い。また、

このパラメータ γm も含め γ0 や γA のような複数の独立な体積変化に関るパラメータが存在する

ことが、遍歴電子磁性体の Tc と σs が多様な圧力変化を示す理由であると思われる。それらの圧

力変化の符号の一般的な傾向は以下のようになると期待できる。

1. |γm| |γ0|, |γA| の場合

一般に γm が大きな値をもつときは、Tc と飽和磁化 σs のどちらも大きな圧力変化を示すこ

とが多い。その場合、2つの圧力係数、dTc/dp, dσs/dp の間に次の関係が成り立つ。

d lnTc

dp' 3

4

d lnσ2s

dp

157

Page 35: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

つまり、これらは次のようにほぼ同じ大きさで、同じ符号をもつ。

dTc

dp> 0,

dσ2s

dp> 0, または、

dTc

dp< 0,

dσ2s

dp< 0

圧力を加えることによって自発磁化の温度依存性は、図の (a), (b) のような変化を示す。符

号は γm の符号を反映したものとなる。

2. γm ' 0 の場合

スピンゆらぎの振幅が局在的な性格をもつ場合には、その振幅の体積依存性は極めて小さく

γm はほとんどゼロとなる。したがって σs の圧力依存性は極めて小さい。このような状況で

は、Tc の圧力依存性は γ0, γA の2つのパラメータだけで決まる。Tc の圧力変化は正の場合

も負の場合もありえる。つまり、

dσ2s

dp' 0,

dTc

dp> 0, または、

dTc

dp< 0

となることが期待される。この場合の圧力下の自発磁化の温度依存性は図の (c), (d) のよう

になる。

3. |γm| ∼ |γ0| ∼ |γA| の場合3個のパラメータの大きさがどれも同じような大きさをもつ場合である。このような状況が

実現しているときには、圧力変化の符号にはいろいろな可能性がある。1. で述べた同じ符号

をもつ以外にも、以下のような場合も可能となる。

dTc

dp> 0,

dσ2s

dp< 0, または、

dTc

dp< 0,

dσ2s

dp> 0

ただし、それぞれの圧力変化はあまり大いものにはならないと考えられる。この場合の自発

磁化の温度曲線の圧力変化のひとつの例を図 (e) に示す。

以上が、Tc と σs の圧力依存性に対して一般に期待できる結論である。

8.6.3 強制臨界体積磁歪

温度が臨界温度に等しい場合やその近傍では、臨界スピンゆらぎの影響で等温磁化曲線が特異な

ふるまいを示す。自由エネルギーの M 依存性にも臨界スピンゆらぎの影響が現れるので、強制磁

歪も同様に特異な σ 依存性を示すことが期待される。ただし、これはすでに述べた ∂y/∂ω の σ

依存性を求める一般的な問題として取扱いが可能である。その解を臨界温度近傍で求めることに

なる。

まず、臨界温度における等温磁化曲線も (8.79) 式を解くことによって得られ、またその式の ω

に関する微分から強制体積磁歪を求めるための式 (8.80)が得られたことに注意しておく。臨界温

度の近傍では (8.80) 式の左辺の第1項と2項は次のように近似できる。

2[A′(y, t) − cz]∂y

∂ω+ [A′(yz , t) − cz]

∂yz

∂ω' −πtc

8

(

2√y

∂y

∂ω+

1√yz

∂yz

∂ω

)

熱ゆらぎの振幅 A(y, t) について、最初から t = tc とおいて ω に関する微係数を求めると異なる

結果が得られることに注意する必要がある。これらを (8.80)に代入することにより ∂y/∂ω に関す

る次の式が得られる。

−πtc8

(

2√y

∂y

∂ω+

1√yz

∂yz

∂ω

)

= 3czy10σ2sγm(1 − gA − g0) (8.86)

158

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図 29: σs と Tc の圧力依存性。実線は p = 0、破線は p > 0 の場合の自発磁化の温度依存性を

表す。

T

σs

(a)

T

σs

(b)

T

σs

(c)

T

σs

(d)

T

σs

(e)

159

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臨界温度で y, yz が σ4 に比例することがすでにわかっている。したがって、ここで得られた式が

成り立つためには ∂y/∂ω ∝ σ2、∂yz/∂ω = 3∂y/∂ωが成り立つ必要がある。これらの σ 依存性を

(8.86) に代入することから y の ω 微分が次のように求まる。

1

γm

∂y

∂ω= − 24

√5

3 + 2√

5(1 − gA − g0)

√yc

πtcA(0, tc)σ

2su, (u = σ2/σ2

s)

強制磁気体積結合定数についての (8.37) 式と (8.35)を用いることにより、臨界温度では強制体積

磁歪が次のように σ4 に比例するという結果が導かれる。

ω

ω0=

12√

5

3 + 2√

5(1 − gA − g0)

√yc

πtcy10A(0, tc)u

2 (8.87)

8.7 Invar 合金、メタ磁性転移に伴う体積効果など

遍歴電子(金属)磁性体の大きな特徴は、大きな振幅の量子ゆらぎ⟨

S2i

Z(0) の存在である。

Stoner 励起に代表される比較的広いエネルギー幅をもつ磁気励起スペクトルの存在がその原因で

ある。このことは、磁気グリュナイゼンパラメータ γm の存在と関係がある。遍歴電子磁性体で

は、スピンゆらぎの2乗振幅の差 ∆⟨

S2⟩

の値が、他の場合と比較して大きく変化する可能性がそ

もそも大であることをこれは意味する。絶縁体の磁性体の場合には、局所的なスピン振幅の値の体

積依存性は通常極めて小さく、金属磁性体の場合のようなスピンの量子ゆらぎ成分は存在しない。

遍歴電子磁性体の磁気体積効果を記述するために3個のグリュナイゼンパラメータが必要であるこ

とを示した。そのうちの2個は、スピンゆらぎのスペクトル幅の体積依存性によるもので、ハイゼ

ンベルグモデルの交換積分の体積依存性に対応すると考えられる。したがって、金属の場合に特有

の大きな磁気体積効果が発現する理由は、∆⟨

S2⟩

の値が体積変化に伴って大きく変化するためと

考えられる。ただし、これはスピンの2乗振幅全体の値⟨

S2i

totだけが変化することを必ずしも意

味しない。量子ゆらぎの振幅⟨

δS2⟩

Z(0) の値が体積変化によって大きく変化しても、同じ効果が

期待されることについても注目すべきである。

8.7.1 Invar 合金

インバー合金は磁気体積効果が大きく、自発体積磁歪の効果が通常の熱膨張の効果を打ち消し、あ

る温度範囲で結晶の熱膨張が非常に小さいことが知られている。以前から大きな体積膨張が局在モー

メントの収縮によるものと考えられている。ただし、絶縁体磁性の場合とは異なり、量子スピンゆら

ぎが存在する金属の場合には、局在モーメントが何を指すかについて必ずしも明確でなかった。こ

れまでの説明で明らかになったことは、モーメントの2乗振幅の差、∆⟨

S2⟩

=⟨

S2i

tot−⟨

S2i

Z(0)

の体積依存性が磁気体積効果に関係するということである。インバー合金では、体積歪の変化にこ

の値が敏感に影響を受ける状況が実現していると考えられる。通常、この値の体積依存性はあまり

大きくないが、磁気的不安定点近傍などでは体積変化に敏感に影響を受けると考えられる。その場

合には、γm は大きな値をもつ。弱い遍歴電子磁性体も、磁気的不安定点近傍にあることから大き

な γm の値をもつと考えられる。

8.7.2 メタ磁性転移

(Goto & Bartashevich 1998) は、Y(Co1−xAlx)2 について常磁性状態と強磁場によって誘起さ

れたメタ磁性転移によって生じた強磁性状態の両方で強制体積磁歪の測定を行った。その結果は、

160

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それぞれの状態で異なる磁気体積結合定数が得られることを示している。常磁性状態と1次転移で

あるメタ磁性転移によって生じた強磁性状態のそれぞれで、∆⟨

S2⟩

=⟨

S2i

tot−⟨

S2i

Z(0) の値は

不連続に異なっている。この差が、飽和磁化の値に関係があるためである。したがって、その体積

依存性で定義されるグリュナイゼンパラメータ γm の値もこれら2つの状態で異なる値をもつと考

えるのは極めて自然である。異なる γm の値は異なる磁気体積結合定数を意味する。

(Fujita, et al. 2001)は、La(Fe,Si)13 化合物において1次転移的なキュリー温度の近傍で大きな

磁気体積効果を観測している。キュリー温度近くの秩序状態で温度を上げると、モーメントが急

激に減少して常磁性状態に転移し、それに伴って結晶の体積が不連続的に収縮することが見いだ

されている。次の図に示すように、強磁性状態 (F) と常磁性状態 (P)がエネルギー的に近接して

いる場合、ある温度で大きな ∆⟨

S2⟩

の値をもち、大きな自発磁気モーメントの発生した強磁性状

態 (F) から、小さな ∆⟨

S2⟩

をもつ常磁性状態 (P) に不連続な1次転移が生ずる可能性が期待さ

れる。実際に転移が発生するかどうかは、これら2つの状態の自由エネルギーの差の温度依存性に

依存する。図に示されているように、もし転移が生ずると、転移に伴って不連続な大きな体積変化

が生ずる。転移点近傍では ∆⟨

S2⟩

の値が大きく変化することから、γm が実質的に大きな値をも

つように見え、Invar 合金の場合と同じような状況にあるとみなすこともできる。

ω

∆⟨

S2⟩

ω1 ω2

Ferro (Low T )

Para (High T )

F

P

8.8 実験データを用いた磁気グリュナイゼン定数の決定

これまでに得られた理論の結果を利用して、我々が導入した磁気グリュナイゼンパラメータの値

を実験的に決定することができることについて述べる。

1. γm の決定

(8.24) によって定義された γm の値は、基底状態(低温極限)での飽和磁化 σs の体積(ま

たは、圧力)依存性から直接求めることができる。

2. γ0, γA の決定

直接的には、圧力下における NMR の緩和時間の温度依存性や中性子散乱実験を用いてスピ

ンゆらぎの減衰定数や散乱強度の波数依存性の圧力依存性を測定することによりこれらのパ

161

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ラメータを求めることができる。

熱力学的な測定を用いても間接的にこれらの値を評価することもできる。例えば、臨界温度

の体積(圧力)依存性から dTc/dpの値が実験で求まれば、(8.84)の関係を利用して 3γm/4−d lnTc/dω の値を求め、したがって (3γA + γ0)/4 の値が得られる。さらに、別の方法でこの

うちのどちらかの値が求まれば、他方の値も決まる。

等温磁化曲線の圧力依存性も解析に利用することができる。低温領域の磁化過程に関する

Arrottプロットの傾きについて次の関係が成り立つ。

F1 =2T 2

A

15czT0(8.88)

これを利用して、圧力依存性に関する次の関係式が得られる。

d ln F1

dp= 2

d lnTA

dp− d lnT0

dp(8.89)

また、(8.84) に対応する次の関係も成り立つ。

4

3

d lnTc

dp=

d lnσ2s

dp+

d lnTA

dp+

1

3

d lnT0

dp(8.90)

これら2つの式を連立させて解くことによって、γA, γ0 の値を次のように求めることがで

きる。

γ0 =1

κ

d lnT0

dp= 3γm +

1

κ

(

5

2

d lnTc

dp− 3

2

d ln F1

dp

)

γA =1

κ

d lnTA

dp=

3

5γm +

1

κ

(

4

5

d lnTc

dp+

1

5

d ln F1

dp

)

(8.91)

圧力の値を変えて磁化測定を行うことにより、σ2s、Tc、F10 の値を求めることができれば、

(8.88) 式から導かれる次の関係を用い、T0, TA の値を圧力の関数として評価することもで

きる。

(

Tc

T0

)5/6

=

√30czσ

2s

40C4/3

(

F10

Tc

)1/2

,

(

Tc

TA

)5/3

=σ2

s

20C4/3

(

2F10

15czTc

)1/3

(8.92)

スピンゆらぎのスペクトルのエネルギー幅の体積依存性に関する γ0, γA が γm に比べ比較的小

さく、無視できる場合には、以前 Takahashi (1990)が指摘したように臨界温度と飽和磁化の圧力

依存性に対して次の関係が成り立つ。

d lnσs

dp=

2

3

d lnTc

dp(8.93)

一方、Hartree-Fock 近似に基づく SEW 理論では次の関係が導かれる。

d lnσs

dp=

d lnTc

dp(8.94)

特にスピンのゆらぎの効果が支配的な弱い強磁性体などの場合で、大きな値のグリュナイゼンパラ

メータ γm が存在する場合には、(8.93) の方がよく成り立つと考えられる。ただ、一般にはパラ

メータ T0, TA の体積依存性を無視することはできないので、実際に成り立つのは (8.90)であるこ

とを忘れてはならない。

162

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8.9 磁気体積効果の実験

多くの実験が 1960 年代後半から 1980 年代の初めにかけてなされた。その大部分が、Stoner-

Edwards-Wohlfarth理論の検証を目的としたものであり、実験の解析についてもその理論に基づく

ものである。これらについてのレビューとして、(Franse 1977, Franse 1979)などがある。(Brommer

& Franse 1984)は、ZrZn2, MnSi, Ni3Al についてMoriya and Usami の理論に基づくスピンゆら

ぎの効果も考慮に入れた磁気体積効果の解析結果を報告している。ハンドブックの中でも Brommer

and Franse (1990)は遍歴磁性体の磁気体積効果についての解説を行っている。これまでの説明か

らもわかるように、特に交換増強の著しい場合の熱膨張の解析は、電子的な寄与と磁気的な寄与を

どのように分離するかについて再検討が必要であると考えられる。以下は、主に弱い遍歴電子強磁

性体についてなされた実験結果を簡単にまとめたものである。

8.9.1 Ni3Al

この物質(密度は ρ = 7.4 g cm−3)についてはこれまで特に多くの磁気体積効果の実験が行われ

ている。(Buis, et al. 1976)は 5 kbar までの圧力下の等温磁化曲線の測定から、自由エネルギーの

磁化 M による2次の展開係数を求め、その温度磁場依存性から臨界温度の圧力依存性や磁気体積

結合定数 C を求めた。臨界温度 Tc は Arrottプロットが原点を通る温度として決めたものである。

Niと Al の組成比によって、∂Tc/∂p = −0.58 ∼ −0.36 K/kbar、C × 10−6 = 0.12 ∼ 0.16 (g/cm3)

の値を報告している。圧縮率として、κ = 4.2 × 10−13 cm2/dyne の値がこの論文では引用されて

いる。(Kortekaas & Franse 1976)は磁気秩序状態において強制体積磁歪の測定から磁気体積結合

定数 C の値を求めた。得られた値はバンドモデルを用いて解析が行われている。温度を変えた測

定から結合定数 C が温度変化することを示しているが、それはバンドモデルによる T 2/T 2F の温

度依存性によるものと考えている。4.2 K では、ρκC × 106 ∼ 0.6 (G−2g2cm−6) 程度の値を得て

いるが、この値が T = Tc では 0.4 程度に減少する結果となっている。C の値の見積に必要な圧縮

率としては κ = 4.18× 10−13 cm2/dyne の値を用いている。(Buis, et al. 1981)は、圧力下の磁化

測定によって求めた自由エネルギーのM2 の展開係数(磁化率の逆数)の温度、圧力依存性を求

め、その組成依存性の解析から理想的な組成比の Ni3Al 化合物についての飽和磁化や臨界温度の

圧力依存性を導いている。得られた結果は次の通りである。

∂ lnσ0

∂p= −5.29 M bar−1,

∂ lnTc

∂p= −6.35 M bar−1, (σ0 = 0.077µB/at, Tc = 63K)

すでに触れたように、(Brommer et al. 1995)は、常磁性状態における磁化率の値の圧力依存性に

ついての実験結果を報告している。

(Suzuki & Masuda 1985a, Suzuki & Masuda 1985b) も強制体積磁歪と熱膨張の測定を行った。

強制磁気体積結合定数は温度変化を示し、温度の上昇とともに値が減少し、その依存性は T 4/3 に

したがうとしている。磁性に関係のない熱膨張係数の温度依存性として低温で次のような温度依存

性を仮定して測定データを解析した。

αnm = aT + bT 3

2項目が格子振動の寄与を表すが、デバイモデルによってその寄与を差し引くことにより磁気的な

寄与 αm を取り出した。磁気的な寄与は常磁性状態でも存在し、高温では αm が飽和する傾向が

あると結論づけている。

163

Page 41: 8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 - 兵庫県立大学理学部8 遍歴電子磁性体の磁気体積効果 磁気体積効果とは、磁性体の磁気的な性質とその体積が互いに影響を及ぼし合いながら変化する

8.9.2 ZrZn2

(Ogawa & Waki 1967)が 4.2 K から 40 K までの温度範囲において 10 kOe までの磁場をかけ

て強制磁気体積効果について次のような結果を報告している。

ω = 1.02× 10−10M2 (M in emu/mole)

(Meincke, et al. 1969) も 6.8 K までの温度範囲での熱膨張 ω(T ) と 4.2 K で 35 kOe までの磁場

をかけた場合の強制磁歪について報告しているが、その結果は次の通りである。

ω(T ) = −10.6× 10−8T 2, ω = 1.80× 10−10M2 (M in emu/mole)

(Wayne & Edwards 1969) は Tc の圧力変化について −1.95 K kbar−1 (Tc = 21.5 K のサンプル)

という結果を得ている。その後、(Smith, et al. 1971)は 25 kbar までの Tc の圧力変化の測定を行

い、弱い圧力の領域では Tc = 22.2− 1.9P K (P は kbar 単位) にしたがう圧力の減少を報告して

いる。(Huber, et al. 1975)は、dTc/dp = −1.29 K/kbar (Tc = 27.6 K) の値を報告している。

8.9.3 MnSi

熱膨張率の温度依存性と強制磁気体積磁歪の測定が (Fawcett, et al. 1970)によって報告されて

いる。磁化の体積依存性として、∂σ/∂ω = 8.5 の値を得ている。また、(Bloch et al. 1975)は 4.2

K における磁化の圧力依存性と Tc の圧力依存性として、d logM/dp = −1.15 × 10−2 kbar−1、

d logTc/dp = −3.9× 10−2 kbar−1 の値を示している。観測で得られた圧縮率 κ−1 = −1.36× 106

kbar−1 の値を用いると、磁化および Tc の体積依存性として、d logM/dω = 16、d logTc/dω = 53

が得られる。

一方、(Matsunaga, et al. 1982)は 200 K までの温度領域について、熱膨張と強制体積磁歪の測

定を行い、スピンゆらぎの効果についての検証を行った。強制体積磁歪については、4.2 K の結合

定数として次の値を得ている。

ω = 1.49× 10−10M2, (M in emu/mole)

この結合定数の温度依存性として T =4.2 K, 29 K, 40 K, 50 K のそれぞれの温度に対して、

ρκC = 10.25, 5.88, 5.63, 6.08×10−7 (g/emu)2 の値が示されている。熱膨張の測定から得られた

結合定数の値は、ρκCT = 6.33 × 10−7 (g/emu)2 である。また、常磁性状態においても格子振動

によるもの以外に有限の寄与があると結論づけている。

(Thessieu, et al. 1998) は飽和磁化を Tc の圧力依存性を独立の測定し、スピンゆらぎの温度ス

ケールの圧力依存性を実験的に導いている。

8.9.4 Sc3In

臨界温度の圧力依存性について (Gardner, et al. 1968) によって、キュリー温度 Tc = 6.1 K の

試料について、dTc/dp = 0.19 kbar−1 (d lnTc/dω = −13) の値が得られている。

(Grewe, et al. 1989)は 6 kbar までの圧力下で、57 kOe までの磁場をかけた測定を 3 – 300 K

までの温度範囲で行った結果について報告している。それによれる臨界温度の圧力変化は以下の通

りである。

dTc

dp=

0.15 (K/kbar), Tc = 5.5K, for 24.1 at % In

0.195 (K/kbar), Tc = 6.0K, for 24.3 at % In

164

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これらは、それぞれ d lnTc/dp = 2.7, 3.25 % kbar−1 に対応する。3 K における自発磁気モーメ

ントの圧力依存性については、上と同じ In の組成に対し、d lnM0/dp = 0.85, 0.94 % kbar−1 の

値が得られている。

8.9.5 Y(Co,Al)2

メタ磁性転移を起こすことで関心をもたれているこの化合物の Coを Alに置換した Y(Co1−xAlx)2

系についての磁気体積効果が (Armitage, et al. 1990)によって x ∼ 0.15の場合について測定されてい

る。それによれば、d lnTc/dω = d lnσs/dω = 120±17の値が得られている。その後 0.025 ≤ x ≤ 0.2

の組成範囲において、強磁場、高圧下の磁化測定と熱膨張、磁歪の測定が (Duc, et al. 1993)によっ

てなされている。これらのどちらも (Yamada & Shimizu 1989)の用いた κ = 9.4× 10−4 (kbar)−1

の値が解析に用いられている。

8.9.6 Ni-Pt およびその他の化合物

(Kortekaas & Franse 1976)は Ni-Pt 合金 (密度 ρ = 17 g/cm3)についても強制体積磁歪の測定

結果を報告している。4.2 Kでは、ρκC × 106 = 4.50 (G−2g2cm−6) 程度の値を 36.6 at % Niにつ

いて得ているが、この値は Niの濃度とともに減少し、45.2 at % Niでは、3.32の値となっている。

これらの値は温度の増大とともに減少を示す傾向が観測されている。この他にも、(Fe,Co)Si につ

いての熱膨張の測定 (Shimizu et al. 1990)、(Parviainen & Lehtinen 1982)による YNi3 について

の熱膨張の温度依存性についての測定、(Oraltay, et al. 1984)による Y9Co7 の熱膨張、比熱、強制

磁歪の測定、(Frings, et al. 1985)による U(Fe-Co)2 の Tc と飽和磁化の圧力依存性、(Syshchenko,

et al. 2001)による ErCo2 について高圧下での電気抵抗や Tc の圧力依存性などの報告もある。

上に挙げた自発磁化と臨界温度の圧力依存性をまとめたものを表 15に出典とともに示す。表に

示した κ(3γA + γ0)/4 の値は、(8.85) 式にしたがって Tc と σs の圧力依存性から求めたものであ

る。(Buis et al. 1976)によれば、Ni3Al の等温磁化曲線の Arrottプロットの傾きは圧力に対して

あまり変化がないように見える。そこで、傾きに対応する自由エネルギーの磁化に関する4次の展

開係数 F1 の圧力依存性が小さいと仮定すると、γ0 ' 2γA が成り立つ。このとき、κ(3γA + γ0)/4

の値は、ほぼ −(5/4)d lnTA/dpで与えられる。この表から判断する限りにおいては、γ0 や γA の

値は γm に対して無視できない大きさをもつことがわかる。

8.10 この節のまとめ

この節では「スピンゆらぎモデル」に基づく自由エネルギーに含まれる直接的な体積依存性から

磁性と結晶の体積との関係に関わる磁気体積効果を議論した。従来のスピンゆらぎ理論による磁気

体積効果についての取り扱いは、バンドモデルに立脚した磁気体積相互作用を、ゆらぎの効果を付

け加えて拡張したものである。このような考え方に基づくことからスピンゆらぎの自由エネルギー

との関係が明白でなく、したがってこの効果と他の磁気的性質との関係、例えば比熱の温度依存性

などとの関連も特にあまり問題にされることはなかった。ここで説明した理論は、比熱の取り扱い

と同じ自由エネルギーを用いて磁気体積効果の取り扱いがなされた点に大きな特徴がある。

格子振動の熱膨張への影響についてのグリュナイゼンの考えかたを参考に、自由エネルギーの体

積依存性を導いた。格子振動にスピンゆらぎが対応すると考えることにより、デバイ比熱による熱

165

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−d lnσs/dp −d lnTc/dp κ(3γA + γ0)/4 文 献

(10−3 kbar−1) (10−3 kbar−1) (10−3 kbar−1)

Ni76Al24 6.27 5.0 4.40 (Buis et al. 1981)

Ni75.5Al24.5 5.55 7.12 1.21 同 上

Ni75Al25 8.69 11.6 1.44 同 上

Ni74.8Al25.2 13.6 19.3 1.1 同 上

ZrZn1.9 44 47 19 (Huber et al. 1975)

MnSi 11.5 39 -21.8 (Bloch et al. 1975)

Sc75.9In24.1 -8.5 -27 14.3 Grewe etal (1989)

Sc75.7In24.3 -9.4 -32.5 18.4 同 上

Y(Co0.855Al0.145)2 145 179 38.5 (Duc et al. 1993)

Y(Co0.85Al0.15)2 120 113 67

Y(Co0.84Al0.16)2 107 130 30.5

Y(Co0.815Al0.185)2 140 164 45

Y(Co0.8Al0.2)2 110 156 9

表 15: ゆらぎのパラメータの圧力依存性

膨張に対応する項が、スピンゆらぎが重要な遍歴磁性体の場合にも存在することが新たに示され

た。この項は、磁気不安定点近傍で交換増強された常磁性体や強磁性体の低温比熱の温度係数の増

大にも関係し、比熱の場合と同様に熱膨張係数の低温における温度係数が磁気不安定点近傍で大き

く増強される可能性が示された。従来の取扱いでは無視されていた項である。また、直接自由エネ

ルギーの体積依存性を問題にすることによって、自由エネルギーに含まれる温度スケールの体積微

分として磁気グリュナイゼンパラメータを定義した。格子振動の場合と異なり、複数のパラメータ

が磁気体積効果に関係することを示すことができた。これによって、自発磁化と臨界温度の圧力依

存性の違いを明らかにできただけでなく、絶縁体磁性の場合の磁気体積効果までを視野に入れた取

扱いが可能となった。従来の理論では単一の弱い温度依存性を示すにすぎない磁気体積結合係数が

あるだけである。

強磁性体だけでなく、強磁性の発生寸前にある交換増強された常磁性体についての磁気体積効果

についても同様な取り扱いが可能であることを示し、自発磁化の存在しない常磁性状態の場合に

も、磁気秩序状態の場合と同様に自発体積磁歪、強制体積磁歪の温度依存性やそれぞれの磁気体積

結合係数が定義できることを示した。ここで説明した取扱いによって得られた主な結果は以下のよ

うにまとめられる。

1. 体積磁歪に関し、この節で説明した結果と従来の理論による結果との違いは次のようにまと

められる。ただし、秩序状態の場合の式を示し、比較のために同じ表記で表した。

SEW: ω = ρκCσ20(t) + ρκC[σ2 − σ2

0(t)]

MU: ω = ρκC[σ20(t) + ξ2(t)] + ρκC[σ2 − σ2

0(t)]

この節で導いた結果 ω = ωT (t) + ρκCs(t)σ20(t) + ρκCh(t)[σ2 − σ2

0(t)]

この節で導かれた結果は次のような特徴がある。

• 第1項の ωT (t) は格子振動のデバイ比熱による熱膨張に対応し、スピンの熱ゆらぎの

効果による寄与である。ただし、Moriya, Usami 理論のように ξ2(T ) に比例する形に

166

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表すことはできない。この項は低温の熱膨張率の温度係数に log(1/σs) に比例する増強

因子をもたらす。低温磁気比熱の温度係数の増強と同じ原因によるものである。

この項は、温度が上昇しても熱膨張に t2 log(1/t) に比例する温度依存性を与える。常

磁性状態における熱膨張の解析には、この項の存在をを考慮に入れる必要がある。高温

で磁気的な寄与による熱膨張率の温度依存性が一定になることは一般に期待できない。

• 自発体積磁歪と強制体積磁歪とで結合定数の値は互いに異なる。従来の理論では、これらの結合定数は同じ値であると考えられていた。何らかの方法で両者に違いがあること

を実験的に確かめることができればたいへん興味深い。

• 磁気体積結合定数は、一般に温度依存性を示す。自発体積磁歪と強制体積磁歪の結合定数はそれぞれ異なる温度依存性に従う。

強制磁気体積磁歪の測定から得られた結合定数は温度依存性を示すという測定結果の報

告もある。SEW 理論や Moriya, Usami 理論では単にフェルミ分布関数の温度依存性を

反映した弱い温度依存性が期待されるだけである。

この温度依存性の現れる原因のひとつは、上の熱膨張の式がモーメントの振幅に関する

展開ではなく、磁化率の逆数に関する展開として得られていることによる。

2. 磁気体積効果を記述するために、独立な3個のパラメータ(磁気グリュナイゼンパラメータ)

が必要であることが示された。SEW 理論や Moriya, Usami 理論には1つのバラメータ C

が含まれているだけである。とくにパラメータ γ0, γA は、局在モーメント系の交換相互作

用の圧力依存性に対応するものである。この理由から、得られた結果はより広い適用範囲を

もつと考えられる。

3. 飽和磁化 σs や臨界温度 Tc の圧力依存性に対する説明を与えることができた。磁気体積効果

を表すバラメータの自由度が増えたことによって、これらの圧力依存性の示す多様性につい

ての説明が可能となった。実験的に得られる、Tc と σ2s の圧力依存性の差、

d lnTc

dp− 3

2

d lnσ2s

dp

は実験的に得られるグリュナイゼンパラメータについての重要な情報である。

4. 臨界温度では臨界スピンゆらぎの存在を反映し、強制体積磁歪は M4 に比例する。

5. ゼロ点ゆらぎの振幅の圧力変化の重要性が明らかになった。スピンの振幅が一定であっても、

ゼロ点ゆらぎの振幅の変化によって γm の値を通じて大きな磁気体積効果が現れる可能性も

ある。

6. インバー効果に関し、∆⟨

S2⟩

の値の変化が大きな磁気体積結合係数に関係があることが明

らかになった。

167

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