カンピロバクター食中毒のリスク低減に 立ちはだか …原因菌の性状...
Post on 13-Jan-2020
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カンピロバクター食中毒のリスク低減に立ちはだかる課題
三澤 尚明
宮崎大学産業動物防疫リサーチセンター
Dr. Butzler
Dr. Skirrow
Filtration culture method
Campylobacter spp.
filter
Stool sample
filter
Dr. BlaserDr. Black
原因菌の性状1.病原体 Campylobacter jejuni, C. coli
2.主要性状
グラム陰性、微好気性、ラセン状桿菌、運動性+
43℃で発育(高温性カンピロバクター)、30℃以下では増殖せず
3.生態
家畜、家禽、ペット動物、野生動物の消化管内、河川、下水などに
分布(特に鶏が高率に保菌)
4.食中毒の特徴
感染型:少量の菌で感染成立(500個程度)
潜伏期は2~7日、下痢(水様性または粘血便)、発熱、腹痛、嘔吐
など
国内の主要な食中毒発生件数の年次別推移
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
事件数
サ ル モ ネ ラ 属 菌
腸 炎 ビ ブ リ オ
腸管出血性大腸菌(VT産生)
その他の病原大腸菌
ウ ェ ル シ ュ 菌
カンピロバクター・ジェジュニ/コリ
ノ ロ ウ イ ル ス
ぶ ど う 球 菌
カンピロバクター食中毒の原因食品内訳
0%
20%
40%
60%
80%
100%
H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27鶏(生) 鳥料理 牛(生) 焼肉 豚(生) その他 不明
食肉の生食を原因とするカンピロバクター食中毒発生頻度
337362347515419カンピロ食中毒発生件数
件数
8.35%
7.96%11.24%
8.84%
9.79%10.45%
16.16%
21.50%
307229268
0
10
20
30
40
50
60
70
H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28
鶏(生)
鳥料理
牛(生)
焼肉
豚(生)
牛レバー生食禁止19.50%
18.60%
318 339
生食の危険を理解した上で、それでも生で食べようと思いますか?
思う
思わない
無回答
回答者: 人
113人
217人
13人
引用:「食品に対する消費者の意識とは?」食肉衛生検査所見学者のアンケートについて名古屋市食肉衛生検査所 松葉玲(平成 年度)
食鳥処理場における汚染
どの処理工程でと体が汚染されるのか?
放血 湯漬け 脱羽 予備冷却 中抜き
処理数:400~500羽 / 日(小規模認定食鳥処理場)
各工程から皮膚10gを採取(背部・胸腹部より 各3カ所 )
MPN法(3本法)により菌数測定
各工程で皮膚から検出された菌数
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
背 胸 背 胸 背 胸 背 胸 背 胸
放血 湯漬け 脱羽 予備冷却 中抜き
背 背
P < 0.01
カンピロバクター
l og
cfu
/10g
放血後 湯漬け後 脱羽後 中抜き後予備冷却後
胸腹0
背 背 背背胸腹 胸腹 胸腹 胸腹
脱羽工程
食鳥処理場でのカンピロバクター制御が困難な理由
1.農場から保菌鶏が搬入される
2.生鳥の輸送中にコンテナ内で体表汚染が起こる
3.処理羽数が多いため、と体が接触して処理される
4.皮付きである(表面のキズや毛穴に菌が付着)
5.処理工程全般にわたって大量の水を使用する
6.スコルダーおよび脱毛機で二次汚染を招く
7.中抜き工程での“腸切れ”による汚染拡大
8.と体に対する次亜塩素酸などの殺菌効果が低いトリハロメタンの発生も問題
9.カット工場内での交差汚染が容易に起こる
カンピロバクターの多様な生存様式が制御を困難にしている
遊泳
バイオフィルム
付着 侵入
仮死状態
毒素
修飾
生きているが培養できない状態VBNC:viable but non-culturable
coccoid
培養: 9時間 培養: 29日
• VBNC状態へ移行した菌は、培養試験で検出できない。
Klancnik et al. Research in Microbiology 2009. 160 (345-352)
VBNC状態への移行
日
℃℃
:±
培養 日
℃
培養可能な 菌数の推移
すべての細胞の核酸を染色
:膜ダメージのある細胞(死細胞)を染色
二次元電気泳動 染色 オーバーレイアッセイ等電点 等電点
皮膚 抽出画分の二次元電気泳動と 酸抽出画分を用いたオーバーレイアッセイによる結合蛋白の検出
調理時における衛生管理の重要性
1.使用前のまな板の細菌検査
2.まな板の上で市販鶏肉を細切
3.使用後のまな板と調理人の手指の細菌検査
1 2 3
1:使用前まな板2:使用後(鶏肉細切)まな板3:洗浄(洗剤のみ)後まな板
手のひらの細菌汚染の検査結果
市販鶏肉からのカンピロバクターの分離成績
・ 分離率:96/128検体(75%)
・ 分離菌数:103 cfu/100g以上: 4検体(4.2%)
103 cfu/100g未満:92検体(95.8%)
・ 分離菌種:C. jejuni (129株)
C. coli(4株)
三澤ら 日獣会誌(2003)
2006 年10 月に当時の最新の知見をとりまとめ、「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル:鶏肉を主とする畜産物中のカンピロバクター・ジェジュニ/コリ」を公表
自ら食品健康影響評価を行い、2009 年6 月に「微生物・ウイルス評価書 鶏肉中のカンピロバクター・ジェジュニ/コリ」を公表
食品安全委員会の取組み
評価後の知見を収集し、食品健康影響評価のためのリスクプロファイルを更新(2018年5月)
2018 年4 月時点において、得られた情報から主要な問題点を抽出するとともに、求められるリスク評価と今後の課題を整理
○ 加熱用として流通・販売されるべき鶏肉の生食又は加熱不十分な状態での喫食が行われている。
① 事業者及び消費者に加熱用鶏肉の生食又は加熱不十分な状態での喫食による食中毒のリスクが十分に伝わっていない。
② 食中毒発生防止のための鶏肉における推定汚染菌数が把握できていない。
○ 効果的に鶏肉の菌数を下げることが困難である。① 生産段階・ 鶏は感染しても症状を示さない。・ 決定的なリスク管理措置が見つからない。・ 陰性鶏群を生産しても、経済的メリットがない。② 食鳥処理・流通段階・調理段階・ 迅速かつ簡易・高感度な検査法がなく、区分処理が困難である。・ 汚染鶏・鶏肉により容易に交差汚染が起こること、また調理段階において二次汚染が起こることに対する認識が低い。・ 国産鶏肉は、冷凍よりも冷蔵流通が主体である。
カンピロバクター食中毒が減らない要因
★定量的な汚染実態の把握が不十分である。
① 菌の特性上コントロールするのが難しい。
② 保菌している鶏自体は発症することなく、生産段階での鶏の生産性にはほとんど影響を及ぼさない。
③ 定量的な検査法が統一されていない。
④ フードチェーンに沿って、同一の検査法で継続的に調査された結果(ベースラインデータ)がない。
⑤ HACCP 導入前後の汚染実態の変化が把握されていない。
今後の定量的リスク評価に向けた課題
今後実施すべき事項
(1)モニタリング計画の策定及び実施・ 迅速、簡便な検査方法の開発を進める。・ 精度管理された検査法で統一的・画一的にモニタリングを実施する。・ フードチェーンの各段階(生産、食鳥処理、流通)における定量的かつ継続的なモニタリングを実施する。
(2)効果的なリスク管理措置の導入及び実施・ 新たなリスク管理技術を開発する。・ 農場における効果的な衛生対策を実施し、検証する。・ 食鳥処理場においてHACCP を導入・実施し、検証する。・ 効果的なリスク管理措置の事例等を普及する。
(1)モニタリング計画の策定及び実施関連① 消費段階までに食中毒が発生しないと推定される菌数を明らかにする。
② 菌数が多い汚染鶏肉の流通割合を減らすための菌数目標値及びそのサンプリング計画を策定するために定量的なリスク評価を実施する。
(2)効果的なリスク管理措置の導入及び実施関連生産、食鳥処理、流通の各段階におけるリスク低減対策の効果の定量的な推定を行う。なお、リスク評価後の考え得る状況において、想定し得るリスク低減策として、・ 生食の提供を行わないこと、加熱の表示・掲示の徹底・ 定量的リスク評価を踏まえた流通段階における汚染低減目標の設定・ 定量的リスク評価を踏まえた、フードチェーンの各段階における効果的なリスク管理措置の提示
食品安全委員会に求められるリスク評価
鶏肉の流通過程におけるリスクの軽減と消費者の意識改革
農 場 食鳥処理場 流 通 過 程 消費過程
雛飼料・飲水
動物薬
鶏舎環境
食鳥検査
解体・出荷
輸送
市場
小売店
調理
喫食
リスクレベル
GAP
HACCP
農場における適正な流通管理
食鳥処理場の衛生管理
流通過程の衛生基準
消費者の意識改革
限りなくリスクは0に近づく
HACCP手法研修用教材より抜粋
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