熱処理シミュレーション利用の...

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42 SOKEIZAI Vol.55 2014No.2 熱処理シミュレーション利用の 現状と将来動向 渡 邊 陽 一  パーカー熱処理工業 ㈱ 1.はじめに 熱処理シミュレーションは、1980年代の理論の構築以来現在に至るまで に数多くの研究開発が行われ、高精度・高速化および利便性が格段に進 んだ。このシミュレーションの応用技術に焦点を当て、これまでの取り 組みや成果を整理し今後の展望を述べる。 素形材業界、とりわけ熱処理部材を扱う業界に とって、新商品の開発期間の短縮、あるいはものづ くりにおける高精度化、品質安定化や製造コスト低 減のための熱処理設計工程(素材成分を含め鍛造や 機械加工の影響を考慮した工程)の最適化は、最重 要課題であり、また最も労力を要する。熱処理シミュ レーションの意義は、この課題解決の最有力ツール として利用できることにある。鋼の熱処理、たとえ ば浸炭焼入れや高周波焼入れでは相変態を伴うため 現象は極めて複雑である。一連のプロセスを把握す るには、時間と共に変化する組織、温度、応力・ひ ずみ場の相互作用を時間の関数として正確に評価し なければならない。井上らは、1980年代にこのよう な変態・熱・力学理論 1) を提唱し、その後 1992年 には実用的な 2 次元解析ソフト“HEARTS (HEAt tReaTment Simulation program)”を米国で初めて 発表 2) した。これが契機となり、海外でも熱処理解 析ソフトの研究開発の機運が高まり、溶接や鍛造の 解析ソフト(夫々 SYSWELD, DEFORM)への熱処 理解析機能を追加させるなど、現在の主要な市販ソ フトの実現につながっている。 熱処理シミュレーションの起源をはじめ詳しい原 理やそのシステム開発に関しては、すでに多くの優 れた解説記事や論文 3)~8) がある。ここでは、実際の 熱処理部材の歪み低減などの課題解決を目的とした シミュレーション技術に焦点を当て、最近の報告事 例や活動を整理し将来動向を展望したい。 現在、実用可能な市販ソフトとして、HEARTS の 他、GRANTAS, DEFORM-HT, SYSWELD, DANTE, FINAS/TPS そして COSMAP がよく知られている。 また、ABAQUS などの汎用有限要素解析ソフトを利 用し、ユーザーサブルーチンを付加して計算している ところもある。 シミュレーションを行うには、入力値として、被 処理材の各種物性値と冷却剤の特性値が欠かせな い。主なものとして、鋼材の熱伝導率や比熱、密度、 潜熱といった熱伝導特性値、鋼中 C や N(浸炭窒化 の場合)の拡散定数、力学特性値として、処理温度 までの各温度での応力―歪み線図、ヤング率(縦弾 性係数)、ポアソン比、加工硬化係数、熱膨張係数、 鋼材の変態特性データとして、TTT か CCT 線図、 2.浸炭焼入れシミュレーション

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42 SOKEIZAI Vol.55(2014)No.2

熱処理シミュレーション利用の現状と将来動向

 渡 邊 陽 一 パーカー熱処理工業㈱

1.はじめに

熱処理シミュレーションは、1980年代の理論の構築以来現在に至るまでに数多くの研究開発が行われ、高精度・高速化および利便性が格段に進んだ。このシミュレーションの応用技術に焦点を当て、これまでの取り組みや成果を整理し今後の展望を述べる。

 素形材業界、とりわけ熱処理部材を扱う業界にとって、新商品の開発期間の短縮、あるいはものづくりにおける高精度化、品質安定化や製造コスト低減のための熱処理設計工程(素材成分を含め鍛造や機械加工の影響を考慮した工程)の最適化は、最重要課題であり、また最も労力を要する。熱処理シミュレーションの意義は、この課題解決の最有力ツールとして利用できることにある。鋼の熱処理、たとえば浸炭焼入れや高周波焼入れでは相変態を伴うため現象は極めて複雑である。一連のプロセスを把握するには、時間と共に変化する組織、温度、応力・ひずみ場の相互作用を時間の関数として正確に評価しなければならない。井上らは、1980年代にこのような変態・熱・力学理論1)を提唱し、その後 1992年

には実用的な 2 次元解析ソフト“HEARTS (HEAt tReaTment Simulation program)”を米国で初めて発表 2)した。これが契機となり、海外でも熱処理解析ソフトの研究開発の機運が高まり、溶接や鍛造の解析ソフト(夫々 SYSWELD, DEFORM)への熱処理解析機能を追加させるなど、現在の主要な市販ソフトの実現につながっている。 熱処理シミュレーションの起源をはじめ詳しい原理やそのシステム開発に関しては、すでに多くの優れた解説記事や論文 3)~ 8)がある。ここでは、実際の熱処理部材の歪み低減などの課題解決を目的としたシミュレーション技術に焦点を当て、最近の報告事例や活動を整理し将来動向を展望したい。

 現在、実用可能な市販ソフトとして、HEARTS の他、GRANTAS, DEFORM-HT, SYSWELD, DANTE, FINAS/TPS そして COSMAP がよく知られている。また、ABAQUS などの汎用有限要素解析ソフトを利用し、ユーザーサブルーチンを付加して計算しているところもある。 シミュレーションを行うには、入力値として、被

処理材の各種物性値と冷却剤の特性値が欠かせない。主なものとして、鋼材の熱伝導率や比熱、密度、潜熱といった熱伝導特性値、鋼中 C や N(浸炭窒化の場合)の拡散定数、力学特性値として、処理温度までの各温度での応力―歪み線図、ヤング率(縦弾性係数)、ポアソン比、加工硬化係数、熱膨張係数、鋼材の変態特性データとして、TTT か CCT 線図、

2.浸炭焼入れシミュレーション

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特集 熱処理技術の最新動向

変態膨張係数、そして焼入れなど相変態を伴う場合に重要となる変態塑性係数 9),10)などである。さらに、境界条件として、焼入れ冷却剤の冷却曲線から算出される熱伝達率が温度の関数として必要となる。これら一連のデータの収集には大変な労力を伴い、またデータの精度が計算精度を大きく左右する。鋼材物性値については、(公社)日本材料学会塑性工学部門委員会材料データベース研究分科会が、2001年、各種構造用鋼、工具鋼および耐熱鋼などのデータベース “MATEQ”11),12)を開発している。現在もデータの追加・更新が図られており、熱処理シミュレーションに必要なほぼすべての材料特性値が整備されている13)。焼入れ油など冷却剤の熱伝達率も宇都宮大の奈良崎や油剤メーカーらが中心となって、各種冷却剤 (水、熱処理油、食塩水、ポリマー水溶液、溶融ソルト、溶融金属)の熱伝達率特性に及ぼす液温、濃度、攪拌速度、圧力などの影響を調査し、後述する日本熱処理技術協会研究部会活動と併せてデータベース化が進められている14)。 しかし、シミュレーションの高精度化や生産現場への応用には、多様な形状の実部品を用いた地道な実験検証や熱処理ノウハウのデジタル化が不可欠であり、大掛かりな共同研究体制による推進が待ち望まれてきた。

2.1 �国内初の国際プロジェクトによる浸炭焼入れシミュレーションの新たな展開

 この分野では初の国際的な大型プロジェクトが、2002年 9 月から2005年 3 月までの 2 年半、(一財)製造科学技術センター(MSTC; Manufacturing Science and Technology Center)15)の下部団体である IMS

(Intelligent Manufacturing System)の国際共同研究プログラムとして、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や経済産業省の支援を受けて進められた。プロジェクトコード VHT(Virtual heat treatment tool for monitoring and optimizing HT process)、課題名「熱処理プロセスのモニタリングと最適化のための仮想熱処理ツールの構築」である。参加機関は、国内では自動車会社や建機メーカーなど 4 企業と 3 大学の計 7 機関、海外では、フランス企業やドイツ IWT など世界的研究所を含む 6機関を中心とするEU(European Union)グループとカナダや韓国の機関を加えた 14 機関に上る。主な課題は、熱処理ノウハウに関するナレッジ(knowledge)データベース(KBS; Knowledge Based System)構築、材料特性値のデータベースの構築、これらの有限要素シミュレーションへの適用(新規開発を含む)、ナレッジデータベースと有限要素シミュレー

ション結果に基づいた意思決定支援システム(DSS; Decision Support System)の構築と適用、そして、この意思支援システムの生産現場への応用である。残念ながら各地域(EU や各国)の足並みが揃わず、構想通りの成果が得られたとは言い難い。しかし、このプロジェクトは、熱処理シミュレーション自体の学術研究やソフト開発に留まらず、それを生産現場で発生する課題解決のツールとして実用化を目指したことが意義深い。 主な成果としては、まず井上、巨らが中心となって新たな熱処理シミュレーションソフト“COSMAP

(COmputer Simulat ion of MAnufacturing Process)”16)が開発された。これは先の“HEARTS”をベースとしているが、解析機能の充実に主眼を置き、浸炭に加え浸炭窒化及び局部加熱の機能が追加されている。更に、マルチソルバ機能や、プリポストとして FEMAP や GiD のサポートも可能となっている。これにより、既存の熱処理シミュレーションソフトより高速で柔軟性に富むシミュレーションが可能となった。このソフトは、現在、NPO法人

「変態・熱・力学研究協会(MTM)」17)を通じて、㈲アイデアマップ(IDEAMAP)から頒布されている。また、市販ソフトを含めた複数のシミュレーションソフトのベンチマークを実施し、鋼材や冷却剤データの信頼性検証や新たな収集・蓄積がなされた。 さらに、実際の自動車用ファイナルギヤ、アウトプットギヤおよびピニオンリダクションギヤを取り上げ、浸炭焼入れ歪みを支配している主要因を絞り込みその寄与度を明確にする手法を提案している。熱処理製造現場で収集した処理条件(部品形状、装入ロット、ジグへのセッティング位置、雰囲気条件、焼入れ温度、油槽温度など)と熱処理品質(歪みなど)の 1 対 1 対応の多量のデータの中から、意味のある相関関係を抽出(データマイニング)するため、相関がツリー状に出力される決定木法 J. R. Quinlan18)

を応用しソフトウエア・See5® を用いて解析した。歪みへの寄与度が大きいとして抽出された要因について、要因に関する入力値を変えて歪みシミュレーションを繰り返し、得られた歪み量が最小になる時の入力値を見出す。例えば、アウトプットギヤでは、熱処理前後での歯の圧力角変化量θが最小になるよう熱処理条件(データマイニング結果:1st ~ 3rd 因子;焼入温度および油槽温度)の最適化を行った。簡単な試みとして焼入温度;1093K~1153K、油槽温度;363K~383Kの範囲で、最適化ソフトウエア iSight®

による DoE(Design of Experiment 実験計画)法とSA(Simulation Annealing)法を用いて θ が最小となるまで自動でくり返しシミュレーションを行い、

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その時の焼入れ温度と油槽温度が夫々の最適値と判断した。 以上のような手法を用いて、計算機シミュレーションを品質予測・課題解決のためのツールとして実用可能なものにする熱処理品質データベース、データマイニング、最適化ソフトウエアおよび熱処理シミュレーションソフトウエアを統合した “熱処理シミュレーションシステム”19)が提案されている(図 1)。このシステムは生産上のトラブル・課題が発生した場合、その対象となる熱処理品質について、熱処理データベースからデータマイニングを行い主要因を抽出する。次に、抽出された主要因について、最適化ソフトとソルバーである熱処理シミュレーションを連動させて繰り返し計算による最適化を図る。最終的には、このような個々の計算およびデータの受け渡しをシームレスに自動で行えるようなシステムの開発が望まれる。 このプロジェクト国内主メンバーは、その後MSTC のアイデアファクトリー(IF; Idea Factory)20)

事業で、幅広く熱処理 CAE(Computer Aided Engineer-ing)としてシミュレーション関連の課題を取り上げ、調査研究活動が継続されている。

2.2 �シミュレーションを活用した浸炭焼入れ歪み対策の実際

 熱処理歪みやそのばらつきは、材料成分や鋳造時の偏析、棒材圧延、鍛造や機械加工の履歴に少なからず原因があるが、熱処理後に顕在化し、熱処理条件の影響が最も大きい。相変態を伴わないオーステナイト系ステンレス SUS304 鋼製の歯車を 860℃から 100℃の油に急冷しても歯型に大きな変化が生じない(図 2)ことから、熱処理とりわけ浸炭焼入れでは、冷却時のマルテンサイト変態をその開始タイミングを含め均質化するような冷却の制御が重要である。図 3 は、アウトプットギヤのブランク(歯切り前)材を平置きで油焼入れした際の各部位の熱伝達率を比較した結果である。最も熱伝達率の大きい inside

(内径面)と最も小さい bottom(底面)とでは、最大 3 倍ほどの差異がある。歯切りした歯部ではもっと顕著となることは容易に想像できる。これが歪み量を大きくしている一因であり、計算機シミュレーションを難しくする要因でもある。また、平置きで浸炭焼入れする量産ハイポイドリングギヤは、一般に図 4 のように変形(計算機シミュレーションで再

SUS304

2 5

860 - 1h →

2.5

125.0mm

130.0mm

117.46mm117.46mm

20

25.0mm

50

20mm

図 2 SUS304 鋼歯車の焼入れ変形

図 3 歯車(アウトプットギヤのブランク材)の熱伝達率

図 1 熱処理シミュレーション生産活用システム構想例

図 4 ハイポイドリンギギヤの浸炭焼入れ変形

FastSlow

Fast

Slow

Slow/Fast

Fast

(Fast; 熱伝達率大,slow; 熱伝達率小)

iSight

COSMAP,DEFORM-HT

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特集 熱処理技術の最新動向

その他、サンギヤなどリングギヤの浸炭焼入れ後の内径真円度を確保するために行っている研削の取代を最小化するには熱処理前の内径形状を最適化する必要があり、さまざまな形状での変形を予測できるシミュレーションが極めて有効である。

図 7 複雑形状歯車部品における必要な硬さ分布が求められる各部位

現結果;変形量はわかりやすくするため拡大している)する。均一な熱伝達率を与えた計算では、このような変形は生じない。実際の変形を再現できたのは、境界条件として円周方向の熱伝達率を変化させたためであり、このことは実際の焼入れでは円周方向の冷却が均質でないことを意味する。これが、歪みのばらつきを生じさせる一因である。そこで、冷却油の熱流体解析(CFD; Computational Fluid Dynamics)を実施し、治具や部品間に設置するスペーサー形状を適正化することにより円周方向の流れを均質化できた(図 5)。その結果背面平面度のばらつきが低減し従来のプレス焼入れを廃止することに成功している。 図 6(a)のような断面形状の歯車では、内径と歯面のいずれの部位にも表面硬さが必要となる。最適な J 値(焼入れ性)の鋼材を選択するためには、現状では多くの歯車試作と焼入れ実験が必要であるが、硬さ分布をシミュレーション(図 6(b))することで効率的に選択することが可能となる。また、図 7のような複雑形状の歯車において、各部位の表面硬さを同時に満たす適正な焼入れ性の鋼材を選択する際にも活かすことができる。

クラッチギヤクラッチギヤ

図 6 歯車部品の硬さを満たす最適鋼材の選定

(a) 歯車断面

(b) 断面硬さ分布の計算結果

 窒素などのガスを冷却媒体とする焼入れは、環境負荷低減やクリーンな製造現場の実現だけでなく、油槽によるものより冷却を制御しやすく、歪み低減技術としても期待が大きい。この加圧ガス焼入れ技術について、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機

構(NEDO)の研究開発プロジェクト「高精度真空浸炭加圧ガス冷却システムおよびその制御技術開発」

(2005年 7 月~ 2007年 3 月)が、計算機シミュレーションを駆使することで成果を上げた。

3.シミュレーション利用による加圧ガス焼入れの研究開発

図 5 ハイポイドリングギヤの配置断面における油流れの解析結果        

(a) ジグおよびハイポイドリング   ギヤ配置外観(改良前)

     (b) 改良前         (c) 改良後

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 ガス窒化やガス軟窒化は、浸炭に比べ硬化深さは浅いが低温処理で変態を伴わないため歪みが小さいこと、耐食性や耐摩耗性に優れること、また各種ハードコーティングの下地処理などで最近改めて注目され、研究活動も活発化している。特に、ガス雰囲気制御技術が急速に進歩し、化合物層厚さやその組成、拡散層深さまで高精度に制御できるようになりつつある。その背景には 1980年代ころからの窒化の数値シミュレーション研究がある。 Rozendaal と Mittemeijer ら28)は、純鉄を 560℃の NH3/H2 の混合ガス雰囲気で窒化し時間と共に変化する窒素濃度分布やそれによって生じる表面の最大残留応力および g’-Fe4N 相形成の計算予測を試みている。さらに Somers と Mittemeijer 29)は、純鉄のガス窒化における g’-Fe4N1-x および e -Fe2N1-z/g’-Fe4N1-x 化合物層中の窒素の自己拡散係数を評価し、反応速度論に基づいて、a -Fe 界面からの化合物層の形成・成長をシミュレートしている。また、Schacherl ら30)は、Fe-4.3~21.5at%Cr 合金のガス窒化を扱い、内部窒化31),32)すなわち窒素拡散層において、過剰窒素による合金窒化物 MeNnの析出(実験では CrN の析出)を溶解度積モデルから算出している。鋼の窒化における窒素濃度分布は、1997年にY. Sun と T. Bell 33)によって計算されているが、実用Fe-Mn-Cr-Mo お よ び Fe-Si-Mn-Cr-Mo-V系 窒 化用鋼の合金成分 Me(Cr, V)の影響を考慮、すなわち固溶窒素と MexNy の析出を考慮したものとして、窒

素が鉄合金窒化物として析出する前に一時的に Fe-Me-N 配列としてトラップされるという窒素トラップモデル34)に基づいた計算が報告35)されている。平岡ら36)は、S40C をベース鋼とした鋼のガス窒化による拡散層の窒素濃度分布について Si, Cr, Mo, V および W 添加すなわち合金窒化物析出を考慮して計算し、構造用鋼や工具鋼まで広く実用鋼に応用できるとしている。 Christiansen や Somers ら37)は、オーステナイト系ステンレス鋼(AISI304, 316)のガス窒化について、拡張オーステナイトの成長における窒素濃度分布を数値シミュレートしている。 硬さ分布の計算機シミュレーションについては、井上ら38)が、C, Si および Cr 量の異なる中炭素フェライト・パーライト鋼のガス軟窒化による硬さ向上が、窒素濃度に比例すると仮定して、窒素濃度分布から硬さ分布を計算している。窒化元素を含有する実用窒化鋼での硬さ分布シミュレーションでは、合金窒化物の析出による析出強化や分散強化を考慮する必要があるが、楠見ら39)は、Ti 添加鋼のガス窒化において TiN の析出を計算し、硬さ上昇が析出物の体積率 f と平均粒径 d の関数で表現されるという Ansell-Lenel の析出強化理論40)を使って、∆σy=

式(G, G* は夫々a -Fe, TiN の剛性率、b はバーガースベクトル)から硬さ上昇を計算している。 残留応力のシミュレーションに関する報告は少ないが、最近井上ら41)~ 44)は、ガス窒化によるa -Fe

4.窒化シミュレーションの研究と応用への期待

 真空浸炭処理後最大 30Bar にまで加圧冷却できる半量産型の焼入実験機を設計・製作 21),22)し、実部品(アウトプットギヤやハイポイドリングギヤ)を用いた実験を繰り返して、窒素ガス流れ及び冷却状態と熱処理品質(硬さ・組織および変形)との関係を詳細に調べた。炉内冷却過程について、乱流モデルを用いガス温度の変化を考慮した非定常 CFD 解析によるシミュレーションを実施した23)~ 25)。その結果、窒素ガス圧力 3.0MPaで焼入れた場合、1.5MPa(ガス流速はより高速)の場合に比し、冷却速度のばらつきが小さいことや、同圧でも縦置きでは横置きに比し冷却速度が低い上、冷却速度のばらつきが大きくなることなどが予測され、実験結果とも一致した。このような基礎知見や確立した評価解析手法を応用して、図 8 に示すように冷却速度の異なる冷却を三段に分けて焼入れする改良型ガスマルクエンチ法が提案されて

いる25)~ 27)。今後、計算機シミュレーションを駆使して、さらにデータを積み上げ、同時に設備やランニングコスト低減の研究開発が活発化することで、実用化が一層進んでいくものと予想される。

通常焼入れ(内部)

三段焼入れ(表層部)

第一段冷却2MPa, 12m/s, 25s

第二段冷却

0.6MPa, 2.5m/s, 120s

2MPa, 12m/s, 455s

第三段冷却内部のMs(マルテンサイト変態開始)温度

表層部のMs(マルテンサイト変態開始)温度

(自動車用ハイポイドギア,歯部の熱電対による実測)

三段焼入れ(内部)

通常焼入れ(表層部)

一段の2MPaガス焼入れに対し,背面平面度が約54%改善

時間(s)

温度(℃

)2101801501209060300

900

800

700

600

500

400

300

200

100

0

(自動車用ハイポイドギヤ、歯部の熱電対による実測)

図 8 ステップガス焼入れ(改良ガスマルクエンチ)

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特集 熱処理技術の最新動向

中の侵入・拡散窒素と窒化物形成の逐次的シミュレーションを行い、固溶窒素と g’/e 窒化物生成による体積変化から歪み分布を算出し、弾塑性解析を行って残留応力を評価している。 最表面に形成する窒素化合物層は、耐摩耗性や疲労強度などに大きく影響するため、その構成相の計算機予測は極めて重要である。平岡ら45)は、鉄窒化層の平衡状態図に相当するレーラー線図を合金鋼に応用し、合金鋼でのレーラー図を熱力学計算により作成し、e や g’相と共存する合金窒化物の領域を示すと共に、a /g’境界および g’/e 境界が、Si, Mn, Ni,

Cr, Mo, V, Al に比べ C 量によってより大きく影響されることなどを報告している。 以上紹介した窒化シミュレーションは、生産技術では、表面硬さを含め最適な硬さ分布と窒化組織を最短時間で効率的に確保できる材料設計、ならびにその窒化条件の最適化のためのツールとして活用できることに最大の意義がある。すでに、一部メーカーからは、化合物層厚さや窒化深さなどを予測できる窒化プロセスパラメータ決定支援ソフト46)が提供されている。

5.熱処理シミュレーションに関する研究開発活動の現状と将来

5.1 日本熱処理技術協会・研究部会の活動 この分野では、(一社)日本熱処理技術協会47)において、企業や大学から先鋭分子が集まって 1993年に発足した「冷却剤評価研究部会」(1993年度~1996年度)活動に遡るが、その後、焼入れ組織やひずみの制御に関する研究部会活動を経て、2001年から本格的な熱処理シミュレーションに関する研究部会活動がスタートしている。まず、「焼入れとシミュレーション研究部会」(2001年度~2004年度)、そして「焼入冷却剤の冷却能データベース研究部会」(2005年度~2008年度)、「焼入れ残留応力の数値シミュレーション研究部会」(2009年度~2011年度)などの場が核となって、鋼円柱や歯車などを対象にした各種焼入れ実験、冷却剤の冷却能測定、材料物性値の収集、そしてベンチマークシミュレーションなどを実施し、シミュレーションの精度検証と精度向上活動が行われてきた。シミュレーションの精度を左右する材料物性値に関しては、先の(公社)日本材料学会塑性工学部門委員会材料データベース研究分科会と連携した形で活動が進められてきた。これら活動の成果は、日本熱処理技術協会の協会誌「熱処理」に技術解説や論文として掲載されたり、協会主催の熱処理セミナーの場で公表されているので参照いただきたい。主な成果として例えば、信頼性の高い熱伝達率の測定とそのデータベース化が挙げられる。これは、銀棒を用いた冷却性能評価法(JIS K2242)に基づいて得られる冷却曲線から集中熱容量法により熱伝達率を求め標準的熱伝達率データとして収集し、扱いやすいエクセル・データとしてデータベース化したもので、近々、日本熱処理技術協会から公開(時期は未定)される。 現在は、「焼入冷却と変形シミュレーション研究部会」(2012年度から活動中)として、前活動を継承し、鋼部材の焼入れに伴う残留応力の発生と変形の予測・制御技術の向上を目指した活動となっている。対象と

なる熱処理は、これまでの浸炭焼入れや高周波焼入れだけでなく、窒化や軟窒化も加えられている。また、生産現場における課題解決への関心の高まりから、流体解析や気液混相流解析に関する実験や調査も新たに盛り込まれている。ワーキンググループ(WG)形式で活動を進めており、主な課題を表 1 に示す。WG Ⅰは、熱処理シミュレーションで最も重要な入力値の一つである、冷却特性、特に熱伝達率の高精度測定に関するものである。中心式銀プローブを用いた冷却能測定法に関する JIS B 法(K2242-B)の ISO 規格化に向けた検討準備を進めているが、すでに、ASTM 規格化(D7646;アルミニウム合金の溶体化後の急冷用冷媒の冷却能測定法)が実現しており、さらに従来の標準液 DOP(フタル酸ジ 2-エチルヘキシル)に加え鉱油系標準液を採用する改正を行った。現在、この鉱油系標準液を使ったラウンドロビンテストを実施中である。WG Ⅱでは、関心の高い非対称形状部材で発生する曲がり変形について、浸炭油焼入れした場合を取り上げ、残留応力予測の高精度化を含めたメカニズムの解明に取り組んでいる。実際のシミュレーションでは、浸炭層のメッシュ分割法が課題の一つに挙げられ、材料物性値や計算条件などを含めて最適化を検討している。また、円板状試験片の高周波焼入れにおける変形と残留応力について、シミュレーションと実験検証が精力的に進められており、正確な熱伝達率や材料物性値を取得することが重要課題となっている。さらに、自動車用の浸炭焼入れ部材の量産現場における歪み対策への応用を目指し、自動車会社はじめ、部品メーカー、炉メーカーや油剤メーカーが連携・協力し合い、ハイポイドリングギヤや CVT プーリーなど実部品を対象とした活動を加速している。団体焼入れ時の部品間や部品位置の冷却ばらつきの実測とシミュレーションへの反映が大きな課題であるが、解析の簡素化に関するノウハウも積み上がりつつあり、成果が期待

48 SOKEIZAI Vol.55(2014)No.2

されている。WG Ⅲでは、窒化シミュレーションを取り上げ、これまであまり詳細な研究報告のない窒化時の変形や残留応力についての文献調査を進める一方、Cr 鋼や Cr-Mo 鋼など JIS 規格鋼の窒化による表面化合物層や拡散層硬さ分布のシミュレーションが試みられている。検証用の窒化実験も実施し、データの収集と化合物層形成過程の解明48),49)が進められている。

5.2 ドイツIWT変形工学プロジェクト 一方、ドイツでは、DFG(ドイツ研究振興協会)からファンドを受け、 IWT(材料熱処理研究所)6)、ブレーメン大学が中心となり焼入歪みの低減を目標とした CAE のプロジェクト;The Collaborative Research Center SFB570 “Distortion Engineering” 50)が2001年から 2011年までの 10年間に渡り進められた。これは、製造工程、すなわち自動車変速機部品を例にすれば鋳造、圧延、機械加工、熱処理および研削における各プロセスをつながったものとして “プロセスチェイン(Process chain)” という概念を導入し、歪み発生に影響する重要因子ならびに連続する各プロセスの優先度を決めて制御し、これまでの個別プロセスではなく全体としてプロセスを最

適化することを狙いとしている。これを実現するには、各プロセスからの歪み要因の相互作用を測定し評価しなければならないため、高精度な計測技術と共に計算機シミュレーションの研究が中核をなす。プロセスチェインシミュレーションの統括的成果として、リング、シャフトおよびディスク / ギヤを対象に結論50)が提示されているが、熱力学や機構的な限界から最終目的である歪み対策は十分ではなく特にシャフトやディスク / ギヤでは難しいと総括している。今後、工程別に異なったシミュレーションツールの必要性、材料特性や熱処理条件などのデータ管理・データベース化がキーとなることから国際的協働が期待される 51)

とも報告している。2005年、2008年および 2011年の 3 回に渡って国際会議 IDE を開催し成果が公表されている。最終年 2011年の国際会議では、ベアリング、シャフト、ディスク / ギヤの製造で発生する歪みに関する発表、また、自動車用アルミダイカスト部品の歪みや航空機部品での残留応力、溶接歪み、そして浸炭焼入れ歪みや高周波焼入れ歪みの研究成果も多数発表されている。このプロジェクトならびに成果の今後の展開が注目される。

表1 焼入冷却と変形シミュレーション研究部会活動内容

WG 主な課題Ⅰ:冷却能測定および規格化

(1) 冷却性能測定法の ISO と JIS 規格における不整合性の解消(2) IFHTSE-Liquid Quenchants Database Project を通じた JIS

法の普及活動(3) 冷却能の定義をその研究経緯の調査に基づき確認(4) 相対流れのある小型球プローブを用いた冷却能測定の精度と

再現性の確認

a JIS 冷却能測定法の ISO 規格化の提案

b 冷却能とその規格に関する調査研究

Ⅱ:�焼入変形と残留応力シミュレーションの高精度化と実用化研究

  ― 実部品の冷却による残留応力・変形発生機構の解明とその防止

a 長尺鋼部品の熱処理変形と残留応力b メッシュ分割方法と残留応力や変形との関係についてc 丸棒を用いた高周波焼入れにおける変形と残留応力

d 浸炭実操業におけるシミュレーション活用のための課題と解決に関する調査・研究

Ⅲ:窒化シミュレーションの高精度化と実用化研究(1) 窒化の変形・残留応力シミュレーション実用化(2) 化合物層と拡散層の発生モデルの厳密化による上記シミュ

レーションの精度向上

a 窒化の変形・残留応力シミュレーションに対する検証問題の設定

b 化合物層と拡散層の発生モデルの調査と実験検証に関する調査・研究

 熱処理シミュレーションは、理論や計算原理の構築以来、計算結果の精度向上を主目的とした研究が行われてきた。しかし、精度の検証のための熱処理品質の実測値、とりわけ歪み量や残留応力値には測定精度そのものに限界がある。浸炭歯車では、ミクロンオーダーの歪みを、シミュレーション結果と厳格に対比できる測定法は存在しない。また残留応力分布については、X線回折法で電解研磨しながら深

さ方向に測定する現在の一般的方法では真の値は得られない。 熱処理シミュレーションの今後の発展を考える時、計算精度の向上を目的とした精度の高い入力物性値の取集や計算法の改良は重要ではあるが、熱処理プロセスの最適化や適用部品の最適形状設計、そして歪みや割れの原因解明とそれら問題解決のためのツールとしての利用技術開発が不可欠である。工

6.おわりに

49Vol.55(2014)No.2 SOKEIZAI

特集 熱処理技術の最新動向

学的視点から熱処理現場で抱える現実の課題をよく認識した研究開発が期待される。

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