社会保障論 -...
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社会保障論第2回
藤田 益伸
社会保障の歴史的展開(p18~)
•近代化の過程、経済政策遂行の過程から「社会保障」が生まれた
•地縁・血縁
•宗教による救済
•国家による救済
エリザベス救貧法(1601)
•世界初の行政組織による公的扶助
•対象は労働能力のない貧困者に限定(病人・障害者・身寄りのない子ども)
•貧困者の就労促進に重点が置かれる。働ける人はワークハウス(労役場)に送って強制労働
•救済よりもあくまで治安維持・貧民管理が目的
救貧法から新救貧法までの間
•定住法(1662)•救済を求めて教区に流入することを防止(教区≒市町村)
•ワークハウステスト法(1722)•就労の強制の強化が目的。•労役場で多分に懲罰的な処遇が行われる
救貧法から新救貧法までの間
•ギルバート法(1782)•有能貧民を失業者と認定して雇用の斡旋を行う。
•不可能なら院外救済(在宅保護)。
•スピーナムランド法(1795)•物価連動制の院外救貧制度。•パンの価格に下限収入を連動させ、働いていても下限収入を下回る家庭には救貧手当が支給された。
新救貧法(1834)
1.ワークハウス・テストの原則・院内救済を原則、在宅救済は不可
2.劣等処遇の原則・自立生活を送る最下層の労働者の生活レベルよりも低い救済水準
3.救貧行政の中央集権化の原則・行政の効率化と権限強化・救済水準の全国一律
貧困問題の科学的調査
•ブース(C.Booth)「ロンドン市民の生活と労働」
•ロンドン市民全体の30.7%が貧困と想定する生活ライン以下の生活しかできていない
•ここでの「貧困」=標準的な大きさの家族で週当たり18シリングから21シリングというような、わずかではあるが十分規則的な収入のある人々……彼らの収入は十分であるかもしれないが、それはかろうじて十分であるにしかすぎない
Boothの指摘した貧困の原因
•社会的な原因•雇用の問題:「臨時的労働」「不規則労働・低賃金」「少額稼得」
•環境の問題:「病気または虚弱」「大家族」「不規則労働に結合される病気又は大家族」
•個人的な原因•習慣の問題:「飲酒(夫または夫婦共)」「酩酊または浪費家」
総じて、「社会的な原因」の影響が強い
貧困問題の科学的調査
•ラウントリー(S.Rowntree)
「貧困ー地方都市生活の研究」
•ヨーク市において27.84%の民衆が貧困線以下の生活をしていた。
第一次貧困と第二次貧困
•第一次貧困…世帯の総収入が、家族員のたんなる肉体的能率を維持するための最小限度にも足りないほどの貧困
•第二次貧困…その収入の一部が他の費途に転用されないかぎり、たんなる肉体的能率を保持できる程度の貧困
•まず成人と子供の平均栄養必要量を推定し、それを食物量、食品に換算をした。
•さらにその食品を買うのに必要な現金を算出し、被服・燃料・家庭雑費を加えた金額を第1次貧困線とした。
マーケット・バスケット方式
第1次貧困線の決め方
引用:https://www.albert2005.co.jp/knowledge/marketing/customer_product_analysis/abc_association
ドイツにおける社会保険制度(p20)
•疾病保険法(1883)
•労働者災害保険法(1884)
•養老及び廃疾保険法(1889)
•ビスマルク首相が導入•社会主義鎮圧法による労働者への思想弾圧と抱き合わせで行った。
•社会政策3部作
疾病保険法
•世界初の社会保険立法である
•工業,手工業,商業,内水航行船,特定のサービス業に働く一定所得以下の労働者を強制加入させる
•労働者3分の2、事業主3分の1の割合で分担される賃金の最高6%までの拠出金(保険料)によってまかなわれる
•無料の医療、最高13週間まで最低賃金の50%の傷病手当金、分娩後最低4週間の出産手当金
•家族への医療の給付は疾病金庫の任意給付
イギリスにおける社会保険制度(p21)
•民間保険の種類や技術が発達していたため、当初はあまり注目が集まらなかった。
•社会改良の手段としてドイツの社会保険制度を導入する機運が高まる
•国民保険法(1911)•健康保険と失業保険を含む
• 1946年に改正され、出産給付、退職年金、寡婦給付などが定められた。
社会保障法の誕生(p21)
•世界大恐慌(1929)の勃発
•アメリカ、ルーズベルト大統領による「ニューディール政策」の実行
•経済保障委員会を設置し、老齢年金や失業保険などが実現した。
•後に、議会においてこの法を社会保障法と呼ぶべきだとし、世界ではじめて「社会保障」という言葉が使われた。
ベヴァリッジ報告(1942)(p23)
•正式名称は「社会保険と関連サービス」(Social Insurance and Allied Services )
•五大悪 (FIVE GIANT'S EVILS) 1. 窮乏(want)
2. 疾病(disease)
3. 不潔(squalor)
4. 無知(ignorance)
5. 無為(idleness)
•ナショナルミニマム
•均一給付、均一拠出を適用する均一主義の原則
公的扶助医療公衆衛生教育就業支援
均一拠出均一給付(flat late of subsistance, flat late of contribution)
•全ての人が同一額の拠出をし、同一額の給付を受ける。•金持ちも貧乏人も均一の保険料
•所得の多寡によらず、最低限の生活費を保障
「ゆりかごから墓場まで」
•給付を改善するために拠出額を上げれば、低所得者には重い負担となり、逆に拠出額を抑えれば、給付額が低くなってしまう困難がある。
•そのため制度上は所得比例拠出・給付へと変容していった。
社会保障の前提
•ベヴァリッジは社会保障の実現だけで図れるものではないとして、国家による以下の3つの前提が必要であるとした。
1. 完全雇用の維持
2. 包括的な国民保健サービス(NHS:National Health Service)制度およびリハビリテーションの確立
3. 児童手当制度の確立
福祉国家
•国家の機能を安全保障や治安維持などに加え、社会保障制度の整備を通じて国民の生活の安定を図ること。
夜警国家(安全保障と治安維持のみ)
•フランス…ラロック計画(1945)
•ニュージーランド…ニュージーランド社会保障法(1938年)はすべての市民とその被扶養者を対象とする初めての制度
•北欧諸国…1960年代以降、急速に整備
福祉レジーム論
•エスピン=アンデルセンによる福祉国家の3分類
•国家の福祉体制を、3つの基準で分けてみた。
•すると3つに類型化できた、という話。
引用:平成24年度厚生労働白書より詳しい解説は、 https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/12/dl/1-04.pdf
3つの基準
1.参加支援指標(=脱商品化)
•疾病や加齢などの理由で労働市場を離脱した人が生活を維持できるか否かの指標
•個人又は家族が(労働)市場参加の有無にかかわらず、社会的に認められた一定水準の生活を維持することがどれだけできるか。
→お金を払わなくても、高い福祉サービスを受けられる
3つの基準
2.平等化指標(=社会的階層化)
•各人の階層や職種に応じた給付が行われた結果、格差が固定化されているか否かの指標
•職種や社会的階層に応じて、給付やサービスの差がどれだけあるか
→すべての国民に一律平等のサービスを提供できない、またはしたくない政府のもとでは、階層化の度合いは高まる。
3つの基準
3.家族支援指標(=脱家族化)
•家族による福祉の負担がどれだけ軽減されているか
→家族介護が前提で、その穴埋めに社会保障がある、という場合には家族の負担軽減になっていないので、指標は低くなる
→指標が高いと女性の社会進出が進んでいることが多い
レジームモデル国家
参加指標指数
平等化指標
家族支援指標
社会民主主義
北欧 高 高 高
自由主義 米国 低 低 低
保守主義 西欧 高 低 低
社会民主主義
•高所得者であれ低所得者であれ、皆が同じ権利を持ち、同じ給付を受けるというものであり、
•「参加支援指標」は高い。
•普遍的な連帯を構築するために労働者階級と中間階級の間に二重構造が生じることを容認していない点で、
•「平等化指標」が高い。
自由主義
•社会保障給付(支出)は比較的低水準で限られた人に給付され、
•社会保障負担は比較的低水準。
•多くの人は民間企業が提供する医療保険サービスに加入するなどの自助努力的な対応をとっており、
•その結果として「平等化指標」は低い。
保守主義
•男女の性別役割分業などの伝統的な家族主義やギルドに代表される封建的な職域を重視している。
•その影響から、社会保障制度は職域ごとの社会保険制度を中心に発展しており、
•職業的地位による格差が維持されているという意味で「平等化指標」は低い。
日本のレジームは?
•エスピン-アンデルセンは、日本の現状の福祉システムは、自由主義レジームと保守主義レジーム双方の主要要素を均等に組み合わせているが、いまだ発展途上であり、
•独自のレジームを形成するかどうかについては結論を留保している。
(平成24年度 厚生労働白書p78-86)
福祉国家の危機
•1973年と1979年のオイルショックを引き金に高度成長が終焉•税収の落ち込みと産業構造の変化•社会保障を最小限に切り詰めるように変化した
世界の福祉のその後
•イギリス-1979年、サッチャー首相が福祉国家の抜本的改革に着手した。
•アメリカ-1980年、レーガン大統領が、福祉国家の解体に着手した。
•日本-小泉政権が、米英に20年遅れる形でケインズ型福祉企業モデルの打破に取り組んだ
「小さな政府」をスローガンに
新自由主義(Neoliberalism)
•小さな政府、市場の自由を目指す考え方
•ミルトン・フリードマン•経済停滞の原因は、政府の規模が大きくなったことで非効率化が進み、多くの規制や税の負担が自由な経済活動を妨げているからだと、ケインズを批判
•フリードリヒ・ハイエク
も同様の主張
•民間でできることは民間で•規制緩和、雇用の自由化
•社会保障費の削減
新自由主義(Neoliberalism)
•社会保障費の削減の補足
•個人の特殊事情を考慮せず、所得額という一元的な観点から支給額を決める
•社会保障についても一律に公平に行うことで生活の見通しを立てやすくなり
•人々の生活に政府が干渉することがなくなる上に、社会保障にかかる経費そのものを圧縮できる、という考えに基づく
新自由主義とグローバリズム
•グローバリズムとは、地球を一つの共同体と見なして、世界の一体化(グローバリゼーション)を進める思想
•新自由主義とグローバリズムは、親和性が非常に高い
•George Ritzer(1999).マクドナルド化する社会
「マクドナルド化する社会」より
•ファストフードを支える原理•合理化(マニュアル化)
•効率性、計算可能性、予測可能性・制御
•たとえば効率性は、次の3つの課題を解決できれば増大する。多様な過程を簡素化すること。製品を単純化すること。従業員よりも客に働かせること…。
•こうした作業に従事することは、しかし、まともな大人には耐えがたい。
•そこで、「ファストフード・レストランはふつう、軍隊と同じように十代後半の若者を雇う。なぜなら、彼らはおとなよりも、簡単に自律性を放棄して機械や手順や規定に従うからだ」。
新自由主義とグローバリズム
•グローバリズムは、多国籍企業による市場の寡占もしくは独占、固定化に至る可能性が高い。
→資金力・人材野多い大企業が有利
•アメリカ合衆国の無比の軍事力を背景とした世界の画一化や、新自由主義(アメリカ流の無規制資本主義)を指す事が多い。
•「グローバリズムはアメリカニズムでありアメリカ帝国主義だ」として嫌悪される。
新自由主義の弊害
•新自由主義は、国民が福祉や雇用保障と引き換えに、自由と責任を受け取る経済思想。
•五体満足で健康で、経済についての知識も仕事の能力もある人にとっては、願ったり叶ったりの考え方
•市場は失敗する
•格差が固定化、拡大する
•国家によって雇用が守られる産業が減り、福祉も乏しくなる
安全基地の必要性(心理学的考察)
引用:https://www.crn.or.jp/KONANWU/bulletin/vol.14/80_ENDOU.pdf
ビスマルク「賢者は歴史に学び愚者は経験に学ぶ」
•世の中には、障害や病気、介護や子育て、教育の機会が与えられないなど、さまざまな事情を抱えた人がいる。
•社会保障がない市場に放り出され、「生きるも死ぬも自己責任」となった場合、果たして生き残れるのだろうか?
•ケインズの福祉国家が提唱された歴史を振り返り、一人ひとりが共存できる社会を再構築する必要があるのでは?
課題
•指定されたURLへ、以下の内容を入力することで、出席したことを確認します。
•あなたは、①高福祉高負担、②中福祉中負担、③低福祉低負担のうち、どれが良いと思いますか?理由も考えてください。
•締切 毎週水曜日23:59まで