専門家業務完了報告書 - jica · ⑤合調整委員会(...

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1 専門家業務完了報告書 2009 3 26 日~2010 3 25 日の任期分) 1. 専門家氏名:栗原 敏昭 2. プロジェクト名:エルサルバドル東部地域零細農民プロジェクト 3. 指導科目:業務調整員/農家経営改善 4. 派遣期間:2008 3 26 日~2010 3 25 (延長決定後 2011 3 25 日) 5. 本邦所属先:独立行政法人国際協力機構 国際協力人材部援助人材育成課

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Page 1: 専門家業務完了報告書 - JICA · ⑤合調整委員会( jcc)の準備と開催(第2回:2009年5月21日、第3回:7月2日、第4回: 11月24日、第5回:2010年1月26日)

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専門家業務完了報告書

(2009 年 3 月 26 日~2010 年 3 月 25 日の任期分)

1. 専門家氏名:栗原 敏昭

2. プロジェクト名:エルサルバドル東部地域零細農民プロジェクト

3. 指導科目:業務調整員/農家経営改善

4. 派遣期間:2008 年 3 月 26 日~2010 年 3 月 25 日

(延長決定後 ~2011 年 3 月 25 日)

5. 本邦所属先:独立行政法人国際協力機構 国際協力人材部援助人材育成課

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6. 専門家活動内容と成果達成状況

6.1 活動内容

6.1.1 プロジェクト運営の業務調整活動

6.1.1.1 チーフアドバイザーの補佐

プロジェクト全体の運営管理業務として下記業務においてチーフアドバイザー(松田明専門家)の補

佐を行った。

①2 年次年間詳細活動計画案の作成支援

②各種報告書案(事業進捗報告書、月例報告書、出張報告書など)作成

③月例会議への出席と JICA 事務所への報告

④各種投入計画(事業予算、機材調達、第三国研修、短期専門家派遣など)作成と実施管理

⑤合同調整委員会(JCC)の準備と開催(第 2 回:2009 年 5 月 21 日、第 3 回:7 月 2 日、第 4 回:

11 月 24 日、第 5 回:2010 年 1 月 26 日)

6.1.1.2 第三国研修の立案と実施

2009 年 10 月 19 日~25 日の間に、コスタリカ共和国において第 2 回有機農業(生産・流通)コース

のプロジェクトカウンターパート(以下、「CP」)農業普及員(6 名)及びリーダー農家(9 名)を対象

とした研修を実施し、下記調整業務を行った。

①コース内容設計

②受入機関である CEDECO(コスタリカ開発のための教育機関)との内容調整・契約書作成、

③JICA コスタリカ支所との調整と予算執行依頼

④ロジスティクス業務全般(宿泊手配、航空券・旅行保険手配、公金管理、研修生のパスポート取得支

援)⑤研修生の選抜と研修説明会の実施

⑥現地運営監理と実施報告書の作成

⑧研修生の帰国後フォロー(報告会実施、報告書の回収)

⑨JICA 事務所と第 4 回 JCC 会議にて帰国報告会の実施

6.1.1.3 海外調査の調整

2009 年 9 月 20 日~25 日の間に、CP3 名を引率しニカラグァ共和国において「2KR 積立資金の活用

によるマイクロクレジットの優良事例調査」を実施し下記業務を行った。

①2KR に関する事前勉強会への参加

②コース内容検討と調査受入れ機関との調整

③JICA ニカラグァ支所との調整

④ロジスティクス業務全般(宿泊手配、航空券・旅行保険手配、公金管理)

⑤調査員の選抜と引率

⑥調査への参加と運営管理

⑦報告書の作成

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6.1.1.4 短期専門家の受入

2010 年 2 月 15 日~3 月 19 日の間、短期専門家(流通情報整備)を招聘し下記業務を行った。

①短期専門家の活動業務・成果目標などの TOR 内容の作成

②短期専門家公示案の作成支援

③受入れに関わる JICA 事務所・相手国関係者との調整

④短期専門家の執務環境整備と受入れ準備

6.1.1.5 中間レビュー評価団受入

2010 年 1 月 13 日~26 日の間、プロジェクトの中間レビュー評価調査団の受入れを行い、下記業務

を行った。

①専門家事前調査表の作成・提出

②日本側・エルサルバドル側関係者の実施調整

③現地調査と団内打合せへの参加

④最終報告書作成会議への参加

⑤評価報告を含む合同調整委員会の開催

6.1.1.6 促進業務

プロジェクトの円滑な運営のために、下記のとおり関係者間の調整・連絡を行った。

①プロジェクト人員体制の整備

2009 年 6 月に政権交代に関わるプロジェクト幹部と CP の変更があった。幹部交代の際、チーフア

ドバイザーを補佐し共に新幹部へのプロジェクト理解促進を目的に、表敬訪問、JCC 会議の開催、農

牧新次官(プロジェクトディレクター)の農場への招待などを実施した。CENTA 新長官(プロジェク

トサブマネージャー)に関してもプロジェクト理解を促進する説明を行い、その後もコミュニケーショ

ンを深めるよう努めた。CP においてはサブマネージャーの東部事務局長の降格、2 名の普及員の普及

所長への昇進による CP 離脱などがあったが、チーフアドバイザーを補佐し替りの人材確保や実施体制

の確定に尽力した。

②関係者往来・視察受入

主に下記視察ミッションを受入れ、調整を行った。

・JICA 本部農村開発部視察(3 名、2009 年 9 月 10、11 日)

・JICA 本部中南米部長視察(2009 年 11 月 13 日)

・青年海外協力隊員視察(国内隊員は随時、コスタリカより 2 名)

・パナマで JICA 実施中の「ベラグアス県コミュニティ栄養改善プロジェクト」より第三国研修を

受入れ、9 名の農業普及員に農業研修を実施(2010 年 3 月 9 日~13 日)

6.1.1.7 庶務・会計業務

一般臨時会計役として公金管理、物品調達・検収と管理を取りまとめ、適切な時期(四半期毎)に

JICA エルサルバドル事務所に報告を行い承認を受けた。

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6.1.1.8 広報業務

広報業務を下記のとおり行い、多くの関係者に JICA と CENTA の実施する当プロジェクトに対し一

定の認識を得た。

①JICA 技術協力ホームページ内にウェブサイトを設置

2009 年 7 月にプロジェクトウェブサイト1(日本語)を立上げ、プロジェクトの概要・活動内容・主

要ニュース・成果品資料などを公開し、隔月で更新した。日本の一般国民をはじめ、主に学生、農業・

国際協力関係者などを対象ととらえ、最大限現場の顔が見えるよう配慮しながら制作した。また、資料

集では類似プロジェクト関係者にもプロジェクトの成果品(教材、ツール、報告書、個別活動実施要綱

など)を応用して活用できるようほとんどの資料を公開している。サイト管理担当者よりの聴取による

と、2009 年 11 月以降、毎月 1000 件以上のアクセス数があるとのこと。

②マスメディアを活用した広報活動

マスメディアによる広報は日本の協力を相手国の国民へ伝えることやプロジェクトのインパクトを

広げることために重要なツールである。全国・東部地域のメディアをリストアップし、農業公開や式典

などイベントを実施する際にアナウンスをして取材を促進した。また、イベント毎に農牧省・CENTA

の広報部を招聘したところ、両機関の運営するウェブサイトに掲載された。

JICA エルサルバドル事務所主催の東部地域広報プレスツアーを受入れ、プロジェクトのサイト紹介

等を実施(2009 年 11 月 17 日)。また、当専門家も取材依頼を受け、ACOPACANES 農協立上げに関

してウスルタン県のローカルテレビ出演(2009 年 11 月 4 日)と東部地域農業情報普及システム(SIDIA)

立上げの広報にサンミゲル市のローカルテレビ局に出演し(2010 年 3 月 16 日)同活動の目的や内容を

PR した。

③公式式展の開催

プロジェクトの主要活動の節目に以下表 1 のとおり各式典を開催した。

表 1 開催した広報式典

開催日 式典の目的 参加人数 主要参列者

2009 年

4月 17日

ウルスタン県ファーマーズ

マーケット設立記念式典

約 100 名 ウスルタン県知事、ウルスタン市長、

CENTA 長官、在エ国日本大使館参事

官、JICA 事務所次長、ローカルメディ

ア、農家等

2009 年

11月 4 日

ACOPACANES 農協設立

記念式典

約 60 名 農牧次官、ヒキリスコ市長、JICA 事務

所長、ローカルメディア、農家等

2010 年

3月 17日

東部地域農業情報普及シス

テム立上げ及び農業情報セ

ンター開設の記念式典

約 120 名 農牧次官、在エ国日本大使、JICA 事務

所長、東部地域 3 県知事、ローカルメ

ディア、農家等

1 プロジェクトのウェブサイトアドレス;http://www.jica.go.jp/project/elsalvador/0603028/index.html

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6.1.2 農家経営改善に関する専門家活動

PDM の成果 2 を達成すべく活動項目 2 の内容に沿い、農家経営改善分野における支援業務を表 2 の

とおり実施した。

表 2 PDM 活動項目 2 に沿った活動内容

PDM 活動項目 専門家活動内容

PDM 活動 2-1

東部地域におけ る 農 家 経営・生産者組織および野菜流通の現状を調査分析する

(1) モデルプロジェクト農家のベースラインサーベイ

CENTA 普及員 CP がリサーチャーとなり、プロジェクト作成の質問表を基に、各担

当のモデルプロジェクト参加農家のプロジェクトに参加する前(2008 年)の年間営農

状況調査(約 80 戸)(ベースラインサーベイ)を実施した。調査結果においては、現

在チーフアドバイザーが取り纏め中。(初年度に東部地域の調査分析は終了しているた

め、上記活動のみ実施)

PDM 活動 2-2

各種農家経営改善手段(組織化を通じた資材 の 共 同 購入・生産物の共同集出荷、金融へのアクセス、付加価値の創出等)を普及

員、零細農民および支援機関に紹介する

(2) C/P 研修プログラム・優良事例調査の企画・実施

下記のとおり CP や関係機関担当者を対象とした経営改善・組織化分野の支援のた

めの集合研修を企画・実施した。

① 国内研修1「チャラテナンゴ県有機農業優良事例研修」の実施

2009 年 6 月 17 日~19 日の間、エ国北西部にあるチャラテナンゴ県ロス・プラネ

ス地区で有機農業の生産・販売活動を行っている ACOPO 農協にて事例調査を行い、

この調査結果に基づき 7 月 7 日~8 日に普及員 12 名・農家リーダー11 名を対象とし

た有機農業(生産・流通)研修を実施し、続けて 9 日には他の農家リーダー3 名を加

え農牧省の運営するサンタテクラ市のファーマーズ・マーケットを視察し研修ワーク

ショップを実施した。

② 国内研修 2「小農のための農業協同組合設立支援研修」の実施

プロジェクトの推進している小農組織化におけるグループ活動の発展形としてフ

ォーマルな農協を設立したいとのニーズが出てきたことや、多くの CENTA 農業普及

員が農牧省の農協設立支援の仕組みを不理解であったことから、農牧省農業協同組合

課と研修を共同で実施した。本研修は 2009 年 8 月 31 日~9 月 2 日の 3 日間実施し、

CP 普及員 13 名、農家リーダー12 名、農業ビジネスセンター職員 3 名の合計 28 名が

参加した。

【研修内容】

1 日日:農協設立の意義や農牧省における認可の手続きなどのセミナー講義

2 日目:グループワーク形式にて農協設立までの作業の模擬実習

3 日目:東部地域の 2 つの優良農協の視察訪問と組合員との意見交換

③ 海外調査 1「ニカラグァ国 2KR 活用によるマイクロクレジット優良事例調査」の

実施

当調査は、2009 年 9 月 20 日~25 日の間、ニ国チナンデガ県における 2KR 積立資

金の活用における小農へのマイクロクレジットの仕組みやエルサルバドルへの適応

を考察するために実施され、2 人の CP が参加した。

④ 第三国研修「コスタリカ国における小農のための有機農業(生産・流通)コース」

の実施

2009 年 10 月 19~25 日の間、農家リーダー9 名と CP 普及員 6 名の合計 15 名を対

象とした研修を実施した。本研修は前年度(2009 年 1 月)に実施された CP 普及員

対象の内容を踏襲して企画された。生産技術に関する実習に加え、有機農産物朝市や

ローカルマーケット・集出荷センターの視察、流通・農民組織化支援のセミナー、ブ

ランド形成、認証制度に係るワークショップなどを実施した。

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⑤ 海外調査 2「コスタリカ国レモン県における耐暑性作物の生産・流通事例調査」

の実施

2009 年 10 月 25 日~29 日の間実施され、CP 普及員 2 名が参加した。この調査に

おいては、高温化にある地域における有機農業に取組んでいる優良な小規模農家の環

境保全型の生産活動や複合農業・営農体系・小農の組織化形態などを調査した。

PDM 活動 2-3

経営改善策の実施を促進すべく、既存の生産者団体等の組織化の手法を整理する

(3) 農民組織化に関わる支援手法整理に関わる活動

CENTA が普及すべき組織化支援の整備のために下記活動を行った。

・農牧省が認可する農協法人の設立支援方法の調査と資料収集

・下記表 3 に示す農牧省や他団体の認可農協団体の仕組み事例調査

表 3 事例調査を実施した農協団体

チャラテナンゴ県 ACOPO 農協

サンミゲル県 SCCCB 農協、ACOPACIBA 農協

モラサン県 CAPCYSA 農協

コスタリカ国 APOC 農協、APODAR 農協

・初年度に作成しプロジェクトが推進した農民組織化手法とツールの改訂

・モデルプロジェクトでの定期的な組織運営のモニタリング

・農業普及員が活用しやすく農民のニーズに適した組織化支援の検討

PDM 活動 2-4

野菜生産者団体および現地関係機関とともに、有望な経営改善手段を実証する

(4) 各普及所におけるモデルプロジェクトの実施支援

① モデルプロジェクトの実施支援

初年度に行った小農の営農調査分析と活動を通じて分析した問題点から、推進すべ

き有望な農家経営改善手段として「農民の組織化」「農業資機材の共同購入」「会計管

理」「営農計画の作成」「共同直売方式」「投資コストと販売管理」の 6 つを選定した。

当専門家から CP に指導、その後各 CP が初年度に 7 普及所に設置したモデルプロジ

ェクトにて対象農家と実証する活動を下記のとおり行った。

【農家経営改善手段 1:農民の組織化と運営支援】

各モデルプロジェクト活動のコアとなる小農の組織化の最初の活動として、①理事

会メンバーの選定、②共同基金の設立、③組合内規の作成、を推進し初年度にインフ

ォーマルな 8 つの組織を形成支援した。2 年次は、これらの形を持続的なモデルとな

るよう各普及員 CP が定期的なモニターと運営指導を行った。

【農家経営改善手段 2:農業資機材の共同購入】

農家一個人にとって支出が困難な農業資機材や共同で使用する施設などの費用な

どを組織で負担できるよう、組合費を各自が組合に定期的に支払い共同基金を形成し

共同購入を推進した。また、売上げの一部も共同基金に組み入れ、次期投資に備える

よう指導した。

【農家経営改善手段 3:会計管理】

組合の基金を管理する会計係に対して会計実習を実施し、後に OJT 方式で普及員

CP が会計帳簿の記帳支援を随時行った。同時に共同購入した物品領収書を管理簿に

保存しておくことを指導した。また、資金管理の透明性を図るために、監査役の会計

監査と会議における会計報告をすることを推進した。

【農家経営改善手段 4:営農計画の作成】

プロジェクトで取り扱う野菜の適期生産や価格の高い時期に販売することを目的

により効率的な作業を行うために、農家全員で決める「参加型営農計画」を推進した。

これは、生産から販売活動に至る計画カレンダーと、輪作の概念を取り入れた作付け

マップを作成するものであり、効率的に作業工程がわかるように視覚化した。計画後

は進捗を随時実作業と確認し修正するよう支援した。

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【農家経営改善手段 5:共同直売方式】

モデルプロジェクトでは、元々販路が確立されていない農家グループもあり、その

ようなグループを対象に、出来るだけ圃場から近く人の集まる場所で生産者の直売を

推進した(ただし、特定の流通業者への販路が確立されているグループに関してはこ

の限りではない)。プロジェクトではイベント用テントを各普及所に供与しているた

め、そのテント貸出しの下、直売所を立てて定期的に収穫期に生産物を販売し販路を

確保した。また直売所を運営するにあたり、プロジェクトで作成した販売管理台帳を

提供し、日々の販売記録の記帳を推進した。

【農家経営改善手段 6:投資コストと販売管理】

普及員 CP を対象に、モデルプロジェクトでの生産から販売までのサイクル毎の投

資コストと販売管理を統一フォーマットを与えて記録するよう指導した(モデルプロ

ジェクト 1 年目は供与資機材が多いため、農民にとって全てを記録することは複雑な

ので基本的には普及員のみ)。これは、各活動が収益を上げているのか、どの作物が

収益性や生産性が高いのか、どのコストを抑えると効率的か、など様々な経営分析を

行う目的としている。

② ファーマーズ・マーケットの設立・運営支援(農家経営改善手段 7)

各モデルプロジェクトにおける通年栽培や作物多様化の実証にはまだ遠い道筋で

あることから直売所が開催できる日数も限界がある。加えて、地産地消の推進や他の

農産物を生産する農家を地域ぐるみで共同直売に参加を促す試みとしてファーマー

ズ・マーケット(農家市場)をウスルタン県で立ち上げた。

プロジェクトは、支援チームを結成し「ファーマーズマーケット設立・運営支援プ

ログラム」を計画し 2008 年 12 月から 1 年間支援を実施した。組合形成や運営方法

の決定をはじめの 4 か月で運営研修や設立準備を行った。その後、2009 年 4 月 18 日

に開始式典と第 1 回目の直売を行い、以降隔週、そして 6 月からは毎週金曜日に常時

13~16 程の農家が出店しウスルタン市役所内の施設を借りて開催した。設立後は、

ウスルタン県の普及員 CP を中心に各農家の販売状況のモニタリング、運営会議への

参加、規約の改正、評価会の開催など運営支援を行い、計画どおり 1 年間で支援を修

了した。

PDM 活動 2-5

実証の結果を野菜生産者団体及び現地関係機関とともに整理し、東部地域の零細農家及び生産者団体に広く紹介する

(5)経営改善手段の他農家や他団体への紹介

モデルプロジェクトで実践している7つの経営改善手段の紹介を下記のとおり実施

した。

・サンタエレーナ普及所、ヌエバ・グアダルペ普及所、ゴテラ普及所、ウスルタン普

及所が開催した計6回の農場公開イベントにて各グループ農家が実践している経営改

善手段(組織運営や営農計画、会計管理など)を参加した近隣農家や関係団体(地方

行政団体、マスメディア、NGO 等)に紹介した

・ヌエバ・グアダルペ普及所管轄モデルプロジェクト農家のリーダーが講師となり、

サンミゲル普及所とラ・カニャダ普及所管轄の農家グループに対し会計研修を実施し

た(2010 年 2 月 3 日)

PDM 活動 2-6

支援ニーズに基づいた経営改善策を、普及員 研 修 用 教材・農家への普及用ガイドブックとして纏める

(6)農家経営改善手段の普及ツールの開発

・モデルプロジェクト等で効果的に活用できる普及員の補助ツールを開発し、普及員

CP に配布する際にその都度説明会や研修を実施した。

・普及用のツールは選択された上記経営改善手段に即して当専門家が普及員や農家の

レベルに合わせて、会計帳簿、販売管理帳、参加型計画シートフォーマット、インフ

ォーマルなプレ農協の組合内規フォーマット、投資と販売管理表を作成した。

・モデルプロジェクト活動の進捗を経ながら、「小農の組織化(プレ農協)」と「ファ

ーマーズマーケット設立・運営」において、教材作成における検討を CP と進行中で

ある。(プロジェクト 3 年次以降、上記ツールの見直しを経て教材として作成予定)

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PDM 活動 2-7

経営改善策実施の際に零細農民が必要とする情報を定期的に収集し、また、零細農民に理解しやすい形で広く率的に提供する体制を確立する

(7) 東部地域農業情報普及システムの構築

・初年度に収集した農牧省や関係機関の資料から農業情報提供の仕組みを分析し、当

システム構想の企画を立案した。2009 年 10 月 7 日 CENTA 長官とのシステム立上げ

計画について合意を得、当プログラムの運営チームを CENTA 東部事務局内で組織し

た。

・仕組み作りの実作業では、短期専門家(流通情報整備 2010 年 2 月 15 日~3 月 19

日)の協力を得ながら農家に対する情報ニーズ調査と CENTA 東部地域各普及所のキ

ャパシティ・アセスメントを実施し、提供情報の特定・農業情報センターの全普及所

への設置と運営の仕組み・定期機関誌の編集と発行方法・CENTA ホームページ内に

て東部地域農業情報ウェブサイトの立上げと管理の仕組みを整備した。

・立上げ時には、各情報センターで実務にあたる農業普及所秘書と普及員を対象に研

修会を実施し、2010年 3月 17日にキックオフ式典を開催して関係者に周知を図った。

6.2 達成状況

6.2.1 プロジェクト運営・調整業務の成果

6.2.1.1 相手国機関の R/D 項目の遵守とオーナーシップ

1 年目に引き続き、CENTA のプロジェクト運営への積極姿勢や本部幹部のバックアップ、普及員た

ちの個々の活動に取組む熱意などから、2 年次の活動においても組織的に十分なオーナーシップを発揮

したと評価できる。CENTA は、R/D 条項で取り決められた責任範囲を順守しており協力関係は良好で

ある。

CENTA は、これまで施設維持費用、運営補助スタッフの傭人費、プロジェクト車両の燃料費の負担

を継続しているため、プロジェクト終了後においても業務が進められることが期待できる。しかしなが

ら、CENTA 予算から運営事業費の捻出がないため、プロジェクトが普及所のモデルプロジェクトや展

示圃場などに提供している資機材などの提供がプロジェクト終了後は完全になくなる可能性が高く、普

及活動を予算なしでいかに維持していくかが課題となる。また、資料制作費なども捻出が困難であり、

定期機関誌の発行・印刷費の工面もプロジェクト終了後の課題となる。

6.2.1.2 政権交代にかかるプロジェクト実施体制の維持

2009 年 6 月に右派 ARENA 党より中道左派 FMLN 党に政権が移った。これにより、農牧省も幹部

が軒並み交替、CENTA 東部地域局も局長と普及所長レベルのほとんどが交替となった。この政権交替

により、プロジェクト幹部や CP の交替を余儀なくされプロジェクトディレクター(農牧次官)とプロ

ジェクトマネージャー(CENTA 長官)の退任、普及所長昇格による 2 名の CP 離脱、プロジェクトキ

ーパーソンであるアンヘル・ガルシア東部局長(プロジェクトサブマネージャー)の降格人事、新人

CP1 名の退職など実施体制に影響を与えた。しかしながら、チーフアドバイザーを補佐しこの影響を

最小限に抑えるべく尽力し、プロジェクト幹部引継ぎの JCC 会議開催と個別会議による理解促進、埋

め合わせとなる新 CP の獲得などにより、人数上 CP の減員は避けられた。現在は、ディレクター(農

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牧次官)、マネージャー(CENTA 長官)以下、2 人のサブマネージャー、4 人のプロジェクト専属運営

スタッフ、9 名の普及員 CP のチーム体制となっており、加えて新人 CP 普及員 1 名が追加される予定

であることが、2010 年 1 月 26 日の JCC 会議で確認された。

新農牧大臣やプロジェクト新幹部、協力関係にある農牧省新局長(農業ビジネス総局、農業経済総局、

農業協同組合課など)とも公私にわたり積極的にコミュニケーションを取ることができ、信頼関係が前

政権幹部以上に構築されつつあり良好な協力関係となっている。

6.2.1.3 プロジェクトマネジメント支援

運営管理に関してはチーフアドバイザーを補佐する形で、適宜年間計画の立案支援、進捗の確認、在

外事業強化費の執行と管理、各種報告書の作成、JCC や CP 定期会議・JICA 事務所との定期会議の開

催補助、式典などのイベント企画と開催、などを行った。これにより、2 年次のプロジェクト運営に関

しても、特段大きな問題や事故等もなく円滑なプロジェクト運営支援が図れた。

6.2.1.4 2009 年度プロジェクト予算の執行と供与機材の調達・管理

エルサルバドル事務所長より任命された一般臨時会計役として、プロジェクト事業予算となる在外事

業強化費の申請・執行・報告を遅滞なく行い、供与機材に関し検収と管理を下記のとおり行った。

①在外事業強化費の執行と報告

・2009 年度は、合計 84,636.20 US ドルを執行した(概算申請額に対し 99.7%の執行率)。

執行割合内訳:航空賃 16.4%、旅費(航空賃以外)17.6%、会議費 1.7%、一般業務費 64.3%

・在外事業強化費は、展示圃場及びモデルプロジェクト実施に必要な農業資材等の購入、教材制作

や農業情報普及のための資料制作、プロジェクト事務所や CP 用の事務機器、国内外出張費、第

三国研修・調査費を中心に活用した。

・四半期毎に概算払受払報告書と次四半期予算申請を JICA 事務所に提出し承認を受けた。

②供与機材の検収と管理

・JICA 事務所の調達支援による機材供与を申請し(在外事業強化費とは別枠)、農業普及員 CP 用

のバイク 3 台、CP 用と農業情報センター設置用のパソコン等情報機器の調達行い、供与式を実

施した。

・全ての供与資機材において動作確認等検収を行い、規定に沿って JICA ステッカーの添付、管理

簿(西語・日語)への登録を行い、普及所への供与は管理する所長・普及員の受領書を適宜取り

付けた。

・消耗品を除く 2 万円以上の物品に関しては物品管理簿を作成し、JICA 事務所に 4 半期毎に提出し

た。

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10

6.2.2 農家経営改善業務の成果

プロジェクト 2 年次は各種研修プログラムや実証活動を経て、プロジェクト推奨の各農家経営改善手

段を活用したモデルプロジェクトの設置、農協法人設立、ファーマーズ・マーケットの自立、農業情報

普及システムの立上げなど多くの活動成果を達成することができた。これらを普及拠点として支援方法

を整理・反復することによりプロジェクト終了までには成果 2 の達成が十分可能であることが 2010 年

1 月の中間レビュー評価で確認された。

表 4:PDM におけるプロジェクト目標

・上位目標:東部地域において零細農民の野菜栽培による収入が増加する

・プロジェクト目標:東部地域における零細農民の野菜栽培への支援体制が強化される

・成果 2:東部地域の零細農民及び野菜生産者団体に経営改善手段を指導する体制が構築される

選択された前述 7 つの農家経営改善手段の有効性において、研修やモデルプロジェクトでの実践を通

じて普及員や農家リーダーの能力向上が図られ活動成果から実証されつつあることや、東部地域の農業

情報普及体制の枠組みが出来たことが、CENTA 東部事務局の農業普及体制の強化に大きく貢献するも

のと考えられる。限られた投入と期間に鑑み、プロジェクト後半においては、さらに新しい経営改善手

段を習得し実証作業をするのではなく 1・2 年次の経験をレビュー・整理し数多くの農家やグループに反

復することが重要と考える。

以下、CENTA 東部地域の普及体制強化に向けた当専門家の指導科目に関する活動成果を報告する。

写 真

モデルプロジェクトでの農協法人の設立 農家経営改善手段の支援研修 ファーマーズ・マーケットの設立

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6.2.2.1 東部地域で適応可能な農家経営改善手段の事例調査における成果 (PDM 活動 2-1 の成果)

CENTA 東部地域局の農家経営改善分野の支援メニューを強化するために、近隣の先進事例をリソー

スに調査することは重要である。調査で得た成果を他の関係者に発表したり、支援活動に取り入れるた

りすることは農業普及員 CP のキャパシティビルディングにもつながった。2 年次に当専門家が CP と

実施した調査とその成果は以下表 3 のとおりであり、これらの成果をプロジェクト活動の農家経営改善

手段の見直しやツール開発などに活用した。

表 3 プロジェクト 2 年次に実施された調査とその成果

調査名 場所・実施日 参加者 成果

① 有機農業(生産・流通)

事例調査

チャラテナンゴ県

ロス・プラネス地

区(09.6.17-19)

CP3 名 ・共同での集出荷から流通販売の仕組み、組合の運営

方法などを研究

・農家リーダーなどの集団研修先としてプログラム化

② 東部地域農協事例調査 シウダバリオス

市、ホコロ市

(09.8.10)

CP1 名 ・東部地域での組合認可機関と認可の仕組みを研究

・普及員などの集団研修先としてプログラム化

③ 2KR 活用によるマイク

ロクレジット優良事例

調査

ニカラグァ国・

チナンデガ県

(09.9.20~25)

CP2 名 ・小農が利用するマイクロクレジットの手法や利用に

よるインパクトを研究

④ 耐暑性作物の生産・流通

事例調査

コスタリカ国・

レモン県

(09.10.25~29)

CP2 名 ・多様な作物を営農につなげる複合農業について研究

・農家の個別のメリットに合ったグループ活動を研究

⑤ 小農の情報ニーズサー

ベイおよび普及所の情

報キャパシティアセス

メント

東部地域各普及

所、ローカルマー

ケット等

(10.2.16~26)

短 期 専

門家

CP2 名

・東部地域農業情報普及システム開発に関する小農の

ニーズを把握、普及所の情報提供能力の診断(後に情

報普及システムを立上げ)

※各事例調査の結果詳細については、プロジェクト事務所保管(及びウェブサイトで公開)の実施報告書を参照

6.2.2.2 農業普及員・リーダー農家を対象とした研修事業の成果 (PDM 活動 2-2 の成果)

2 年次においても東部地域における普及体制強化、問題解決を目的とした多くの研修を実施し、各研

修受講者は研修で得た知識をモデルプロジェクト等で実践しその効果が確認されていることから、必要

な基本的な農家経営の手段の理論的知識の習得はほぼ達成されたといえる。

農家経営・組織化分野の研修は、CP 農業普及員・リーダー農家(モデル協力農家の中から先進的な

取組みをしている農家を選抜)・関係機関職員などを対象に、理論セミナー、事例調査・発表、優良事

例視察、優良農家・団体との意見交換、他国の事例分析、模擬実習(ロールプレイ)などの手法を用い

て実施した。特に多くがモデルプロジェクトでの実践活動と平行している内容になっているので終了時

のアンケートや評価会における参加者の発言などから、一定のキャパシティビルディングが図れたと思

料する。研修テーマに関しては、選択された農業経営手段と関連するテーマとなる、共同販売、協同組

合の運営、会計、農牧省のビジネス支援経験、有機作物認証制度、マーケティング、プロモーション、

流通チェーン、農業情報の普及などであり、総じて受講生の積極的な参加が得られた。また研修の企画

立案から実施、報告までのプロセスを CP が主体となって実施できるよう促進したため、CP の研修プ

ログラム運営能力も向上したと考える。各研修の結果詳細については、プロジェクト事務所保管(及び

ウェブサイトで公開)の実施報告書を参照。

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表 6 プロジェクト 2 年次に実施した能力強化研修の成果

研修会名・日 場所 参加者 成果

① 有機農業優良事例研

修(09.7.7-9)

チャラテナンゴ県

ロスプラネス村、サ

ンタテクラ市農牧省

CP12 名

農家 14 名

・流通・組織化の国内優良事例を参加者が習得

・研修後同じグループの他の農家に研修内容をシ

ェアし実践

② 小農のための農業協

同組合設立支援研修

(09.8.30 - 9.2)

サンミゲル市

シウダバリオス市

ホコロ市

CP14 名

農業ビジネスセ

ンター職員 3 名

農家 8 名

・農牧省の農協設立支援方法を参加者が習得

・2 ヶ月後にヒキリスコ農家グループが支援を申

請、農協法人設立

③ 小農のための有機農

業(生産・流通)コー

ス(09.10.19 - 25)

コスタリカ国サンホ

セ市、サルセロ地区

CP4 名

農家 9 名

・流通・組織化の国外優良事例を参加者が習得

・帰国後同じグループの他の農家に研修内容をシ

ェアし実践

④ 農 業 情 報 普 及 研 修

(10.3.16)

ヌエバ・グアダルペ

普及所

CP11 名、普

及所秘書 8名

・新規に立ち上げた東部地域農業情報普及システ

ムや農業情報普及の重要性について習得

6.2.2.3 モデルプロジェクト活動の成果(PDM 活動 2-4 の成果)

農家経営改善分野の技術移転に関しては、プロジェクトの推進する手段を当専門家より普及員 CP に

指導し、その後CPが農家グループにモデルプロジェクトを通じて指導し実践するという形体をとった。

これまで経験のなかった指導分野であったため農業普及員の習熟レベルには差があるが、全てのモデル

プロジェクトにて実践され総じて農家の経営改善に寄与したものと思われる。

(※モデルプロジェクト活動とは、各普及所管轄の 6 戸以上の野菜農家グループを選抜し自立した反復

普及モデル作りを目指す「組織化→生産→販売」の一貫した活動であり、将来これらのモデルを拠点と

して活用し東部地域全域へ「農民から農民へ」の普及ステージへつなぐ目的を持つ、いわば当プロジェ

クトの根幹事業である。)

モデルプロジェクトは、初年度後半の活動により 7 つの CENTA 東部地域農業普及所において各普及

所長と CP が中心となり開始された。初年度の 2009 年 3 月までに全てのグループ選定調査、契約締結

を終え最初の活動としてプレ農協2となる小農の組織化が図られた。以降、このモデルプロジェクト活

動に選択された農家経営改善手段の導入を行ったところ、CP は農民グループにおいてファシリテータ

ーとして管理・指導できるようになった。また、新人研修プログラム(後述)を終えた新しくプロジェ

クト CP として配置された女性普及員 2 名は、新設のセソリ普及所(サンミゲル県)とヌエバエスパル

タ普及所(ラ・ウニオン県)にて行うモデルプロジェクトの候補農家グループの選定を終えた(2010

年 6 月より活動開始予定)。

活動の進捗が良好なグループは、ヒキリスコ、ヌエバグアダルペ、サンタエレーナ、ゴテラの各普及

所管轄のモデルプロジェクトである。どのグループもプロジェクトの推進する全ての経営手段を実践し

販売活動までつなげ、活動が良好に継続している。

特にヒキリスコ普及所のグループにおいては、1 年間のインフォーマルな組合活動を経て 2009 年 11

月に農協法人として正式な団体となった。その後、その組織運営能力と活動が高く評価され活動支援の

2農業協同組合が認可される前にある程度運営システムを持った農民のグループはエ国では Pre-Cooperativa と呼ばれており、ここでは

便宜上プレ農協という語を用いる。

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オファーが他ドナーより相次ぎ生産施設や事務所などの建設費用の外部資金を獲得したり、有料での有

機農業研修の受入や有機資材の販売などの事業多角化や各種展示会への参加など様々な成長を遂げて

いる。

以下、表 7 は 2010 年 3 月末日時点における各グループ概要である。

表 7 モデルプロジェクトで設立支援された農家組合の概要(2010 年 3 月末日時点)

CENTA

担当普及所

担当

普及員

CP

農家組合名 県・村名 設立

年月日

共同基金

計(US$)

組合人

数☆

自立

レベ

ル※

サンミゲル マヌエル・

ヌニェス

Asociación de Productores de Hortalizas

Orgánicas, Los Venados. Caserío La Ceiba,

Cantón El Havillal, San Miguel (APRHOVE)

サンミゲル県

Havillal 村 09.2.16

55→

約 40 5→10 D

ヌエバ・

グァダルーペ

ロベルト・

カンポス

Asociación para el Desarrollo Local de los

Agricultores de Nueva Guadalupe (ASODLA)

サンミゲル県

San Isidro

地区

09.2.27 56→

230 8→6 B

ウスルタン グレゴリオ・

アルカンタル

Asociación de Productores de Hortalizas

Semi-Organica, en el Cerrìto , la peña y el

Ojuste Usulután (APHSOU)

ウスルタン県

Cerrito 村 09.3.1 50→239

25→

17 C

ヒキリスコ

ルイス・アビレ

ス→フランシス

コ・ハビエル

ACOPOCH→(名称変更)

Asociación Cooperativa de Productores

Agropecuarios en Cabos Negros de R.L.

(ACOPACANES de R.L)

ウスルタン県

Cabos

Negros 村

08.8.11 411→

2822

23→

30 A

サンタ・

エレーナ ウゴ・ラモス Unidad Productiva HORTIPLAN

ウスルタン県

Plan

Grande 村

08.12.23 22→

133 13→8 B

ゴテラ

シルベル・ゴ

メス→ルティリ

オ・アルゲタ

Asociación Productiva Familiar de San Lucas

モラサン県

San Lucas

09.2.24 35→441 7→7 B

ラ・カニャダ ミルトン・

ディアス

Asociación de Regantes Nueva España

→組合中止(組織化検討中)

ラ・ウニオン県

Llano Los

Patos 村

09.1.5 156.00→

基金なし

13→

10 D

セソリ マルガリータ・

サラマンカ 2010 年 7 月より組織化予定

サンミゲル県

Minitas 村 ― なし 6 ―

ヌエバ・

エスパルタ アルマ・ソト 2010 年 7 月より組織化予定

ラ・ウニオン県 Honduritas 村

― なし 9 ―

☆共同基金と組合人数は 2009 年 3 月よりの推移

※自立レベル:A 優良、B 良好、C 途上、D 不良(当専門家見解により財政・生産と販売実績・組織運営の観点より判断)

1 年のモデルプロジェクト活動を経て、普及モデルとして自立できそうなのは、①水や土地など生産

資源に恵まれ、②生産に関する投資資金がある、③習得した技術をすぐに実践に移せる若い農家グルー

プ、であると考える。高齢者の多いグループ、援助に依存して投資ができないグループ、農民間のコミ

ュニケーションの悪いグループなどは良い結果を生んでおらず、今後の自立発展性も薄いと見える。ま

た、農業普及員の指導力量や自主性も大きく成果を左右している。

この 1 年間での活動の結果、モデルプロジェクト事業の今後の課題は「生産性向上」と「資金確保」

であると思われる。比較的生産量を確保できたグループでも年間 2 度の収穫期、合計年間 3~4 ヶ月程

度の販売ができれば良い方であった。例えば、年間の販売実績が最も良かったヌエバ・グアダルペ普及

所管轄のモデルプロジェクト(6 名のグループ)では、2 度の販売期を経て、952.25 米ドルの総売上で

あった。これに対し育苗ハウス・灌漑システムなど初期費用と人件費を除く純粋な農業生産資材のコス

トが 759.13 米ドルであり、持続的な生産性の拡大と周年出荷が可能にならないと野菜のみの経営モデ

ルとしては成立し難い。施設などの初期投資分 2000~3000 ドルを考慮すると支援のない農家グループ

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が借金をして事業だけで返済し切るのは相当の年月がかかるものと想像する。また、販売量の尐なさと

組合費の徴収が極めて小額(1 人 1 ドル~2 ドル/月)であるため次期作への投資に対する共同基金の

内部留保が出来ていないグループが大半である。この結果を受けて、小農の共同菜園の運営による事業

はプロジェクト終了後の自立発展性に未だ目処が立っておらず、安定した生産性の拡大による基金の強

化が望まれる。

◎モデルプロジェクトで推進した農家経営改善手段の検証

【農家経営改善手段 1:農民の組織運営】

CENTA の普及戦略には農民組織化が重要なコンポーネントのひとつとして取り上げられている。

CENTA の限られたマンパワーを考慮すると、農民をグループ化して技術指導するという有効性は高い。

小農の経営改善にとって一人では解決できないこともグループで活動することにより解決・改善できる

効果が期待される。1 年間のプロジェクト活動では小農の組織化により、共同による学習効果とモチベ

ーションの持続、分業による効率的な生産・販売活動の実現、コミュニティ活動としての人間関係の改

善、農民間の情報交流など様々な効果が確認された。

プロジェクトでは、担当普及員がファシリテーターとなり、組織化の重要性を考えるワークショップ

を最初に行い、次にインフォーマルなプレ農協として①理事会メンバーの選定、②共同基金の設立、③

組合内規の作成、をフォーマットを与えて農家に決定させ文書化した。モデルプロジェクトに合意した

7 つ全ての農家グループが実践したが、1 年間組織運営に定期的に活かせたのは 5 つのグループであり、

これらのグループは組合員間の信頼関係や規範が向上していることが確認され組織の継続性が認めら

れた。逆にこの運営手段を十分に実践できなかった 2 つのグループは組織として機能せず活動も中途半

端になっている。このことからこの組織運営手法をしっかり根付かせることは CENTA の普及活動上、

重要と思われる(組織化手法の整理については後述)。

【農家経営改善手段 2:農業資機材の共同購入】

小農個人では多すぎる量の農業資材や高すぎる機材を購入する時に、共同で調達し分配するのは有効

な手段である。モデルプロジェクトでは、全グループが基金を設立し毎月組合費を集めながら農業資材

や共同利用している機材メンテナンスの費用などを支払った。将来的には、定期的に決められた金額を

集める基金方式でも良いし、組織形態になっていなくてもその都度必要な農家が必要なだけ集金して共

同購入をするなど、グループの規模や目的にあった方策に柔軟に取組むのが良いと思われる。過去に援

助慣れしている農家が多い中、容易なことではないが共同でも投資を促すことは農家を自立した経済活

動に組み込む上で重要なことである。

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【農家経営改善手段 3:会計管理】

農業を単なる自家消費のみならず経営として取組む際に、資金管理は重要な作業である。いくら投資

していくら儲かっているのかを理解している小農は非常に限られている。一般的に小農にとって(特に

高齢者には)会計管理は不得手な分野であり、指導する普及員にとっても食わず嫌いな分野である。し

かしながら、利益を上げている篤農家は例外なく数字に強く儲けや投資の割合など確実に把握している。

また、共同資金を管理する際に記録と透明性の確保は不可欠な作業であり、資金管理のできないグルー

プは組織の自立性や相互の信頼関係を失う。つまり財政基盤とその管理が収入向上を目指す組織にとっ

ては避けては通れない課題である。

そこで当専門家がプロジェクトで推進する会計フォーマット、実習フォーマット、領収書管理簿を作

成し、普及員 CP を通して全農民グループに研修を実施し、各フォーマットを簡易製本した帳簿の配布

を行った。1 年間で、7 つのモデルプロジェクト中 5 つは、普及員の指導どおり出納係による記帳・領

収書の保管が正確にされるようになり、監査係のチェックを随時受けるようになった。組合員からは、

組織内の資金の透明性から生まれた信頼感や資金活用を計画できるメリットを感じているとの意見が

聞かれた。

会計フォーマットの内容は年間・月間の収支のみに限定した基本的な単式簿記タイプであり、読み書

き計算のできる農家に実習形態の研修を行えば誰でも使いこなせるものと思われる。特にヌエバ・グア

ダルペ普及所管轄の出納係は成長著しく、他の農民グループへの講師を務めたことは特筆に値する。今

後もこのように農家→農家への伝達が普及できるようになると望ましい。

写 真

先進農家から他農家への会計研修 月別に管理している帳簿 共同購入した資材の領収書の保存

【農家経営改善手段 4:営農計画の作成】

モデルプロジェクトの開始時に、農家のみならず農業普及員も生産から販売まで計画的に活動を実施

する者はいなかった。このため野菜栽培において、適期播種を逃す、適期施肥を忘れるか量が不足、高

価格での販売期に合わせた栽培ができない、ローテーションを考慮した植付けができない、などといっ

た営農のロスが多かった。これを改善するために、普及員と農家全員が決める「参加型営農計画」を推

進した。

営農計画においては、当専門家が作成した横軸カレンダータイプの計画フォーマットを各普及員が大

きな模造紙上に写して作成し、これを基に栽培予定の各野菜の品種ごとに、育苗土や有機肥料作製、播

種、育苗、定植、施肥、収穫、販売などの日程を◎や■などのシンボルと矢印を記入しながら予定を決

定するというものである。また、ローテーション栽培を実践するための作付けマップの作成も別の模造

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紙を用いて圃場のそばで実施した。全てのモデルプロジェクトが 2 回ずつ生産サイクル前に実施し、仕

事の分担がわかりやすくなった、会議で進捗を確認できるようになった、との意見が聞かれた。普及員

によっては、エクセルシート上に完成された計画表を落として管理している例も出てきている。

写 真

参加型での営農計画書の作成 グループで作成された営農計画書 圃場での栽培マップの作成

【農家経営改善手段 5:共同直売方式】

プロジェクト初年度の調査では、「中間業者への販売価格が低い」「大量の安価な輸入作物による国内

市場の占有」「輸送手段とコスト高」等の問題が指摘されたことから、輸入作物との競争を避ける形で

近隣地における共同での直売方式を推進した。

販路を確立していなかったヌエバ・グアダルペ普及所とサンタ・エレーナ普及所管轄のグループは、2

度の収穫期において前者は週 1 回、後者は週 3 回の共同直売所を近隣のダウンタウンや県道沿いで開催

した。直売所は人の集まる時間と場所が選定され、プロジェクトが各農業普及所に供与したイベント用

テントを貸し出して実施された。2 つのグループともに、初めての試みであったが販売日には持参した

ほとんどの作物が販売できたとのことで今後も継続したいとのことである(需要は旺盛で常に供給を上

回っており、機会損失をおこしているためより一層の生産性の拡大が望まれる)。顧客は近隣家族や簡

易食堂などを中心にローカルマーケットの中間業者などが多くほとんどはリピーター化している。また、

参加農家の意見によると、販売機会が確保できたことに加え顧客との会話から新規作物などのニーズな

ども把握でき何を生産すべきかが把握できるとのメリットも感じているとのことである。

さらに、普及員 CP を通じて農家に販売管理の実習を行いプロジェクトで作成した販売管理台帳を各

グループに供与し、直売所の日々の品目別売上げの記録を農家グループが行った。これにより、売れ筋

の野菜や販売実績を記録し実績を生産活動に活用することが可能になった。

写 真

N グアダルペ市での直売所 サンタエレーナ市での直売所 CP による農家へ販売管理の実習

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他方、ヒキリスコ普及所やゴテラ普及所管轄のグループに関しては、近隣のマーケットや食堂に販路

がもともと出来ているため生産物を共同で卸売りした。ウスルタン普及所管轄グループのケースでは、

ウスルタン市役所で開催しているファーマーズ・マーケット(後述)にて収穫期に販売した。それぞれ、

無理のない独自の販売ルート確保が出来ており良い成果が確認された。

【農家経営改善手段 6:投資コストと販売管理】

農家も農業普及員も、自分のモデルプロジェクト活動にいくら投資しいくら儲けがあるのかを正確に

把握している者はいなかった。特にプロジェクトからの支援物資の割合が多ければ多いほど、管理をし

なくなり、その事業が本当に儲けがあるのかわからなくなる傾向がある。つまりこれでは、プロジェク

ト卒業後に自分たちで効率的な投資を行えないし、また普及の際に利益のある活動であることが証明で

きない。これを改善するために、当専門家が作成した「投資コストと販売分析フォーマット」を基に農

業普及員に作成方法と必要性を指導し、播種から販売までの1サイクル毎の投資と収入を記録すること

を推進した。この管理は、作物別の収益性と生産性、各事業の収益性、財政的自立度合い、コストの効

率性などの分析を可能にし、各サイクルの比較による改善ポイントや同じ時期における他のグループと

の比較による強み弱みなども分析できるため使いこなせば有効な営農改善計画につなげられるもので

ある。

しかしながら、これまで 1~2 度の作成機会が各モデルプロジェクトにあったが、普段の資材管理と

帳簿がつけれらているグループを支援している普及員 3 名のみが作成できたものの、他の 4 名は管理が

できていないため作成できなかった(特にプロジェクト支援物資の投資コストを把握していない)。こ

こでも各普及員により理解の差があり、粘り強く指導していくことが求められる。最終的には農家グル

ープが独自に行えるように普及させたいが、まずは普及員がその重要性を理解し指導スキルをつけるこ

とが必要と思われる。

◎モデルプロジェクト考察

これまでのモデルプロジェクトの実践における考察であるが、一連の生産・販売活動を全て義務化し

ているフルパッケージの組織活動は、一部の普及員や農家にとって重過ぎる時があるとしばしば感じる。

ラ・カニャダ普及所とサンミゲル普及所管轄の両モデルプロジェクトがこれにあたり、組織活動が停滞

している。フルパッケージのモデルプロジェクト活動は一定の管理能力が求められるが、グループが高

齢化していると組織運営管理能力がかなり落ちる傾向があり(文書や資金管理など)支障をきたしてい

る。

そこでグループ活動の「縮小」「切り売り」を普及員と農家のレベルに合わせて推進する仕組みに今

後取組んでいきたい。例えば、「共同販売を行うグループ」「資材を共同購入し育苗を行うグループ」「有

機資材を制作・販売するグループ」「協働菜園を通じた新規作物の研究会」など農家のニーズに合わせ

た組織活動を促進するのが有効と思料する。この場合組合費の徴収や理事会選出なども不要なことがあ

り、管理の負担が相当に軽減して最低限の作業計画と役割分担さえすれば良く、小さくてもより小農の

身の丈にあった持続的な活動になると思料する。これまで推進してきたフルパッケージのモデルプロジ

ェクトの推進が「組織のための個人」型になっているが、これからは徐々に個別活動の切り売りとなる

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「個人のための組織」型のグループモデルを作る必要があり、これはプロジェクト活動後、事業費が捻

出できない CENTA の支援体制にとっても身の丈に合うと思われる。

6.2.2.4 ファーマーズ・マーケット(農家市場)設立・運営支援(農家経営改善手段 7)

プロジェクト初年度に「ウスルタン県ファーマーズ・マーケット設立運営支援プログラム」を 2008

年 12 月より立上げ、4 ヶ月間の設立支援(販売/マーケティング研修・組織化支援など)と 2 ヶ月間

の運営支援(モニタリング・会議参加)を経て、ウスルタン県の地域農業生産者による販売組合

(Asociación de Productores Agropecuarios para el Agromercado de Usulután:プレ農協の形体)の

形成と、組合の独自運営によるファーマーズ・マーケット(以下、FM)の定期的な開催が達成された(そ

の後ウスルタン普及所に引継ぎ 6 ヶ月間の支援を継続)。

写 真

市役所内で毎週金曜に開催 地元のリピーターがほとんど 年末に実施された組合員総会

参加する販売農家はウスルタン県の生産者に限り、これまで野菜・フルーツ・穀物・魚介類・農産加

工品(野菜酢漬け・ジャムなど)・蜂蜜・ププサ・コーヒー・有機肥料・花きや果物などの苗・鶏肉・

手工芸品などが直売された。この取組みにウスルタン市役所が賛同し、販売の宣伝や市役所内の施設と

備品の無料貸出しを得られるなど連携が図れた。2009 年 4 月 18 日に第 1 回目(式典を同時に開催)

の開催以降隔週、6 月以降は組合の決定により毎週金曜日に開催され、毎回 10~16 ほど出店し、現在

(2010 年 4 月現在)までの 1 年間の自主運営による継続された。組合では毎週販売が終わった後の組

合員同士の定例会議に加え、年一度総会にて内規や活動の見直し、活動評価などが行われた。これによ

り、一定の自立発展的な FM 支援モデルが確立されたと思われる。

同プログラムの成果分析は、2009 年 7 月 10 日付けで当専門家が作成した実施報告書3と後半支援担

当を引き継いだヒキリスコ普及所長の実施報告書(2009 年 12 月 20 日作成)に詳しいが、以下に主要

な成果を抜粋する。

①自立発展性の見込める生産者の組織化

下記点より、同 FM 生産者組合が自立発展性が見込める組織に成長したと考えられる。

・モデルプロジェクト同様、理事会メンバーの決定、共同基金の設立、組合内規の制定、などを行い定

期的な会議の開催を行っている。また、支援の区切りの 6 月、12 月には評価ワークショップを行い、

3 プロジェクトウェブサイト http://www.jica.go.jp/project/elsalvador/0603028/pdf/07_6.pdf にて閲覧が可能

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現状に合わせた内規の改定や活動のレビューを行った。組合独自の決定事項を基に自主運営されている。

・本プログラムにおいては、一切の物資援助を行わなかった。必要な宣伝費用、備品、バナー、イスの

レンタルなどを、組合費の定期的な集金により共同基金の中から支出しており財政的にも自立している

・出納係が組合名義の銀行口座を開設し基金を正確に記帳管理し定期的に報告しており、資金流動の透

明性が図られメンバーの信頼を得ている

・会議や活動を重ねる毎に、理事会メンバーを中心に組合員間相互のコミュニケーションが向上し、活

動規範が芽生え協働活動を楽しむ様子が窺え、組合員間の「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」

が形成されつつある

②地域の零細農民の新規事業と販路の創出

組合員の大半は尐量・尐品目の供給能力に限られる零細農家と零細農産物加工業者であり、農産

物の販路がローカルマーケットの中間業者や地域への行商などに限定される等、販売活動に課題を

抱えていた。FM にに参加することにより、組合員は継続した新規事業を立上げ販路を増やした効

果が認められる。また、直接に消費者へ販売することから商品規格(形や大きさが不揃いでも販売

可能)も価格も各自が自由に設定でき、市場価格より安く販売しても中間業者との取引より高く販

売できることが実証され、参加者は大きなメリットを感じていることが評価ワークショップで確認

された。さらに、ヒキリスコ・サンタエレーナ・ウスルタン各普及所管轄のモデルプロジェクトか

らも収穫期に出店されたように、通年出荷ができない小農でも収穫期に売り先が確保されていると

いうのもFMの強みとなっている。

下記グラフは、2009年4月18日の第1回より支援終了の12月18日までの31回にわたるFM開催におけ

る一店舗平均の1日の売上高と出店数の推移である。販売する品目と持参する量により一店舗あたり

の売上にばらつきはあるが、各店舗$30~50程度を毎回平均的に売り上げた結果が出ており一農家

あたり月間約200米ドルの売上げが十分可能であることがわかる。週4回の販売活動でおよそ当国最

低賃金水準程度を販売できる場が零細農民に提供されたという意義は大きな成果であるといえる。

顧客は、中間所得者層である市役所員や近隣の主婦等が多くリピーターがほとんどという状況で、

今後も安定した販売が見込まれる。

グラフ 支援期間中のウスルタン県 FM における一店舗あたりの平均売上と出店数 (2009 年)

(CP の聞取り調査により当専門家が集計・作成)

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③CENTA 流通・農家組織化分野の支援能力の向上と普及モデルの実証

支援プログラムにおける他方の成果としては、CENTA の流通販売の支援能力向上があげられる。

プログラムの計画・立案段階から組織化、FM 設立、顧客調査・活動モニタリング、参加型活動評

価ワークショップ、成果報告まで、CENTA 東部地域局長、ウスルタン県3 名の普及所長、5 名の

普及員CP が一連の活動を農家側と一緒に実施したことにより支援能力が向上したと認められる。

キックオフ式典より1年が経過した現時点においても、FMは継続的に自主運営されており完全に

プロジェクト支援からは卒業している。これまでの達成度の分析のとおり自立発展性を認める一定

の成果が発現していることから、零細農民の流通チャネルの拡大というCENTA のひとつの支援モ

デルを実証したものであり、今後この経験を他地域に広めていくことが可能となったと考える。

また、聞き取り調査において利用者(消費者)にとっても生産者から直接購入できることは食の

安心・安全などにもつながるという意見が多く、この取組みは、零細農家の所得向上支援のみに留

まらず、生産者と地域の消費者をつなぐ「地産地消」や現在エ国で農業セクターの最重要課題とな

っている「食糧保全」にも貢献するものである。地域ぐるみでの活動としてのFM支援は東部地域

の活性化にもつながるものであり、地方行政団体やNGOなどを巻き込みながら、CENTAが今後FMを

普及する意義は大きい。

6.2.2.5 組織化手法の整理(PDM 活動 2-3 の成果)

PDM 活動 2-3 の活動として、初年度より農牧省農協ユニットの農協設立・運営支援や東部地域の農

民団体などの情報収集を行い、東部地域の農民組織化支援に関する分析を行った(農牧省以外にも、協

同組合の設立認可を行っている INSAFOCOOP などの地域行政団体があるが、CENTA との正式な協

働関係にはないため、今後の連携先からは外した)。

農協ユニットでは、2 種類の組合を 15 名以上の組合(Asociación Cooperativa)と 25 名以上の組合

(Asociación Agropecuaria)に区分し、組合設立申請があった団体に数名の職員を派遣し、それぞれの形

態に合わせた 3 度の研修(テーマは「Organización」「Promoción」「Constitución」、各 3 時間程度)

を経た上で書類の審査を通じ農協を正式認可している。これにより多くの農業団体が組合認可を受けて

活動を行っているが、エ国東部地域において組織化支援に関する下記問題点を表 8 のとおり指摘する。

表 8 エルサルバドルの組織化支援体制の問題点

a) CENTA 農業普及員は、農民組織化普及のために農牧省農協ユニットの推進している農協設立支援メ

ニューを熟知している必要があるはずだが、多くの農業普及員が不理解であった

b) 農協ユニットが農業普及員を交流する機会がなく研修プログラムがない

c) 農協ユニットの農民への研修は、農牧省に提出する書類や運営理論に関するものが多く、農協で行

われるべき自立的な組織運営の能力強化が欠如しており実践的でない

d) 組合形成後は、報告書類を定期的に農協ユニットに提出するのみで体系的な運営支援はない

e) 東部地域において農牧省認可の組合はリスト上で 100 以上存在するがその多くは機能していない

f) 農協ユニットが義務づけている組合の内規フォーマット等の書類が複雑で多くの農民は理解困難で

あり、農民によるルールの意思決定が内規に反映されていない

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これらの点を整理すると、①農協ユニットの組合支援は CENTA には浸透しておらず推進活動は行われ

なかった、②農家グループが認可をとっても(研修を受けさえすればどんな団体でも認可を受けられる)

運営実務がわからず機能しなくなる(形だけできて中身がない)、という問題点に行き着く。

これらの改善を図るべくプロジェクトは、問題点①については、2009 年 8 月 30 日~9 月 2 日に CP

に農協ユニットの支援メニューを研修した。農協ユニットの講師を招いて 2 日間の研修(3 日目は視察)

を行ったが、農協ユニット側にとっても現場の普及員に支援方法を説明できる機会を得て有意義だった

とのコメントを得ており、農協ユニットと普及員のさらなる連携が望まれる。また、プロジェクトが立

ち上げた CENTA 東部地域のホームページ(後述)においても農協ユニットの申請に関する農民団体の

リクワイアメントと農協ユニットの農協設立支援資料を掲載し、普及員が農民団体に説明するツールを

いつでも入手できるようにした。この活動を経て、今後は農業普及員が農家団体より農協設立へのニー

ズが出てきた時に対応ができるようになった。

問題点②に関しては、農協ユニットの限られたマンパワーを考えると農民団体への直接指導を強化す

るなど、これ以上の改善は難しい(文書などは法定)と思われ、CENTA 普及員が如何に現場でソフト

支援を出来るかに限られると思料する。そこで、モデルプロジェクトに組み込まれている組織化コンポ

ーネントが普及員を通した組織運営支援の強化につながり農民に支援の促進を可能にすると考える。プ

ロジェクトは、CENTA 普及員を通じて組織運営の推進を、「組合内規の作成」「共同基金の管理」「理

事会の選定」をその基礎に行っている。内規に関しては、プロジェクトが作成したフォーマット(6 ペ

ージのみ)を活用し、これに沿って農民が最低限決めるべきことを農民の決定を促し文書化する内容に

なっているためより活用しやすい簡易なものとなっている。また共同基金の設立と出納係による管理に

より運営に必要な財政的自立を促進することが可能になり、理事会のリーダー選出による共同作業の決

定や、定例会議や総会からメンバー間のオーナーシップや責任感を高め各個人の活動参画の質を向上さ

せている。

プロジェクトおよび CENTA では当然農協の法的認可は出来ないため、CENTA は、「プレ農協」と

してインフォーマルな組織化の推進と運営支援を行うことが零細農家にとって重要であると考える。こ

の仕組みであれば法的な縛りが何もないので、農牧省の定める下限 15 名未満であっても組織化が可能

であるし、また、農民のニーズに合わせて規模や活動内容を好きにデザインできる。さらに、このプレ

農協で組織運営のノウハウをしっかり見につけてステップアップした結果、正式な農協として認可を受

けるというのが中身も形もしっかり整った良い団体になり得る。これを実践したのが、ヒキリスコ普及

所管轄の ACOPACANES R.L.農協である。当農協は、1 年間じっくりプロジェクト活動で上記 3 つの

基礎など組織運営を実践してきたため、独自に組織運営のできる企業的な農協法人となった。CENTA

は、数名の農家組織を支援して、十分組織が自立運営を行い農牧省に登録申請をした時に農協ユニット

に支援を引継ぐという仕組みであり、これにより小農がどのレベルでも組織を作ることを可能にするこ

ととなる。

換言すれば、この「プレ農協」支援の仕組みがエ国に欠けていたために小農の組織化推進が遅れた、

若しくは農協となっても持続性に乏しい団体が多かったと考えられる。また、優秀な農協には必ず数名

の優秀なリーダー(元々気質を備えている)がいたために機能したという傾向が調査から判明したため、

優秀なリーダーが始めに不在でもこの「プレ農協」でリーダー教育が可能になった考える。

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下記表 9 に、プレ農協と農協のメリット・デメリット比較を整理した。このように、東部地域の組織

化を推進するにあたり、農家のニーズと身の丈に合わせてプレ農協とフォーマル農協の選択を農家と普

及員が提示できることが望まれる。

表 9 プレ農協(インフォーマル)VS 農協(フォーマル)

メリット デメリット

プレ農協

(インフォ

ーマル)

・法的手続きが不要で事務手続きが簡便

・ルールは全て組合員が決め理解が容易

・人数に制限がなく組織可能

・ニーズにあった協働のメリットを享受

・意思決定がしやすく柔軟

・各メンバーの責任の所在が不明確

・社会的信用力が低く対外的な交渉力が弱い

・各メンバー間において仕事の配分にムラができやす

く不公平感が生まれることがある

農協

(フォーマ

ル)

・メンバー間にオーナーシップと責任感が生

まれる

・信用力が増し金融機関やドナーなど資金調

達力が増す

・ネームバリューを高めブランド形成が可能

・事務手続きや報告義務などが品雑

・法的な書類が複雑でわかりにくい

・15 名未満では組織化できない

・一定の経費が必要で管理義務が生じる

・優秀な運営リーダーが必要

6.2.2.6 東部地域の農業情報普及システムの構築(PDM 活動 2-7 の成果)

プロジェクト初年度より農牧省農業経済総局、農業ビジネス総局、CENTA にある既存の情報センタ

ーなどからエ国の情報普及体制における情報収集を進め現状と課題を分析したところ、農牧省や

CENTA では農産物の市場価格情報(毎日更新)や農業技術情報など一定の蓄積があり、情報の作成と

蓄積に関しては他国に比べ大きな遅れを感じなかった。むしろ、問題はこれらの情報をいかに必要とす

る農民に提供するかということにある。農牧省や CENTA が発信する情報媒体は主に独自のウェブサイ

トやメーリングリストであり、また農牧省が NGO や生産者団体などに委託している地方機関である農

業ビジネスセンターや CENTA の情報センターが訪問者を対象に情報提供を行っている。東部地域には

3つの農業ビジネスセンターと 2つの情報センターがあるが、多くはすでにサービスを停止しているか、

サービスをしていても利用者が尐ないという現状にある。農民に情報を提供するのは、CENTA の農業

普及員であるべきなのだが、普及員の多くが情報アクセス方法を知らないか情報伝達の重要性を知らな

いかという現状であった。

これを改善すべくプロジェクトでは、「東部地域における農業情報普及システム」(SIDIA Oriente と

命名、以下 SIDIA と略す)の構築を行うべく、当専門家が同システム構築プログラムを作成し CENTA

長官と合意を経て短期専門家(若松聡美専門家:流通情報整備)を招聘した。短期専門家との活動によ

り、以下 4 点の成果を達成した(詳細については、同短期専門家の現地業務報告書に詳しい)。

① SIDIA 運営メンバーのチームビルディングと運営の仕組みの構築

SIDIA 運営メンバーにおいては、CENTA 東部地域局長(プロジェクトサブマネージャー)を責任者

に、プロジェクト CP を中心に CENTA 東部事務局で実施中の他のプロジェクト担当者も含めチーム形

成を行った。これは、SIDIA が当プロジェクトのためだけではなく、オール CENTA 東部事務局の管

理するシステムで持続発展することを目的としている。

チームビルディングの後、短期専門家と他地域の情報センター優良事例や各普及所の情報普及におけ

るキャパシティアセスメントと農家の情報ニーズサーベイを実施し、SIDIA でどう情報を提供でき、

農家はどんな情報を必要としているのかを特定し、情報発信の方策(下記②~④)と発信情報をチーム

内で決定した。SIDIA 発足に際し、情報普及の重要性や SIDIA の仕組みについての研修会と広報式典

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を関係者向けに 2010 年 3 月に行った。

② 農業情報提供ウェブサイト「Quiero Saber」を開設

CENTA 東部地域局の農業情報を提供するウェブサイトを CENTA ホームページ内に開設し、農家や

農業普及員が活用できるようにした。当ウェブサイトにおいては、「組織化」「生産」「農家経営」「プロ

ジェクト情報」「他プロジェクト情報」「CENTA 東部の活動機関誌(NotiCENTA)」「農業情報機関誌

(Amigo de la familia productora)」「農産物価格情報」と分類して各情報をダウンロード可能にした。

特に、組織化・生産・農家経営部門では、プロジェクトの作成した教材や普及ツール・他に利用可能と

思われる資料などを掲載し農民や普及員が活用できるようになっており、「プロジェクト情報」では、

これまでプロジェクトが活動してきた各個別プログラム企画書、プロジェクト戦略、PDM、調査報告

書などが掲載されているためマネージャークラスが類似プログラムを企画するときに参考にできるよ

うになっている。サイト内情報は東部の SIDIA 運営チームが随時更新する。

(※SIDIA のウェブサイトアドレス:http://www.centa.gob.sv/sidia/inicio.html)

③ 農業情報普及センター「Agro Punto Informativo (API)」を CENTA 農業普及所に設置

農業情報普及センターを初めに CENTA サンミゲル普及所に設置した。センターには、情報検索用の

コンピュータ一式(供与機材)と農業教材や情報資料が閲覧できる棚を設置し、普及所長(責任者)と

秘書(農家アテンド)が管理する仕組みとなっている。短期専門家の活動により管理者用のセンター運

営マニュアルと利用案内(3 つ折情報誌)が完成した。2010 年 6 月より東部地域の全ての農業普及所

に情報センターが正式に設置される予定。

④ 農業情報定期機関誌「農家の友(Amigo de la Familia Productora)」の発行体制の整備

SIDIA の編集チームが 3 ヶ月毎に機関誌を編集し発行する仕組みを立上げ、2010 年 3 月に第 1 号機

関誌を発行した。農業情報センターやウェブサイトだけでは、コンピュータが使えないなどの農家の情

報アクセス改善につながらないため、小冊子というアナログ媒体で CENTA 東部地域の普及員が農業情

報をまとめ農家に提供するという仕組みである。これは活動広報誌ではなく、栽培技術や経営改善手段

の紹介、新規作物のプロモーション、市況情報など農家のニーズや潜在ニーズに基づいて掲載情報が選

定されており、農家の営農オプションを積極的に提供する目的を持っている。今後はこの機関誌を配布

する際に農家と普及員の意見交換会を開催するなど、情報センターが主催してより情報を活用してもら

う工夫が必要となる。

写 真

SIDIA 説明会の実施 農業情報ウェブサイトの立上げ サンミゲル普及所に設置した農業情報センター

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6.3 具体的成果品 (PRODUCTS) リスト

(1) 各種個別プログラムにおける成果品

成果品タイトル 作成年月 成果形体

チャラテナンゴ県におけるリーダー農家と農業普及員のための有機農業

(組織化・生産・流通)研修」

2009 年 7 月 実施要綱

実施報告書

ファーマーズ・マーケット設立・運営支援プログラム(前半) 2009 年 7 月 実施報告書

ニカラグァ国 2KR 活用による小農のマイクロクレジット優良事例調査 2009 年 8 月 実施報告書

ファーマーズ・マーケット設立・運営支援プログラム(後半・ウィルメ

ル普及所長により作成)

2009 年 12

実施報告書

農業協同組合設立支援研修 2009 年 9 月 実施要綱

実施報告書

研修教材

第 2 回第三国研修「コスタリカ共和国における小農のための有機農業(生

産・経営改善)コース」

2009 年 10

実施要綱

実施報告書

研修教材

コスタリカ国レモン県における耐暑性作物の生産・流通事例調査 2009 年 10

実施報告書

プロジェクト中間レビュー評価用専門家事前調査表 2010 年 1 月 調査票

(2) 農家経営改善手段支援の補助ツール(組合内規フォーマット、会計帳簿等)

ウスルタン県ファーマーズマーケット概要パンフレット 2009 年 4 月 小冊子

参加型計画表フォーマットと計画ワークショップガイド 2009 年 6 月 ツール

投資/販売分析フォーマット 2009 年 8 月 ツール

販売管理帳簿フォーマット 2009 年 9 月 ツール

農業協同組合設立支援研修テキスト(農牧省農業協同組合ユニット作成) 2009 年 9 月 テキスト

(3) 東部地域農業情報システム(SIDIA Oriente)関連成果品

東部地域農業情報システム開発プログラム実施要綱 2009 年 11

実施要綱

東部地域農業情報ウェブサイト「Quiero Saber」(CENTA ホームページ

内)

2010 年 3 月 ウェブサイト

SIDIA 仕組み概要書(若松短期専門家により作成) 2010 年 3 月 概要書

農業情報センター利用ガイドと管理マニュアル(若松短期専門家が中心

になり作成)

2010 年 3 月 マニュアル

農業情報機関誌「農家の友」第 1 号 2010 年 3 月 機関誌

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(4) 広報関連

プロジェクト日本語ウェブサイトの開設・更新

(JICA 技プロホームページ内)

2009 年 7 月、9 月、11 月、1 月、2010

年 3 月更新

ウェブサイト

(5) その他定例報告書関連

月例報告書 2009 年 4 月~2010 年 3 月末に毎月

事業進捗報告書作成支援 2009 年 4 月、2009 年 10 月

各国内出張報告書 随時

在外事業強化費概算払受払報告書 各四半期末(4 回)

6.4 計画と進度に咀嚼があった場合、その理由

当該専門家の指導分野(PDM 活動 2:農家経営改善)において、初年度同様 2 年目においても計画

どおりにプロジェクト活動が進み、特に支障をきたす大きな問題はなかったと考える。2010 年 1 月に

実施された中間レビュー調査においても特に計画と進度における租借は指摘されず、順調に進捗してい

るとの評価を得た。在外事業強化費、第三国研修費、短期専門家経費などの予算もほぼ 100%計画どお

り執行した。2009 年度中に政権が変わりカウンターパートや農牧省・CENTA 関係の幹部も大幅に変

更になったが、当年度においてはプロジェクトへの悪影響は回避できた。しかしながら、2010 年度(プ

ロジェクト 3 年目)においては新しく CP として配属された経験のない新人普及員を新たに教育する必

要があり、進捗の影響を考慮する必要がある。

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6.5 プロジェクト事業進捗に果たした専門家業務の役割

(PDM における成果に、個々の専門家業務および成果がどうかかわるか)

本専門家は、PDM 成果目標 2(東部地域の零細農民及び野菜生産者団体に経営改善手段を指導する

体制が構築される)に関しての責を負っており、この成果に対する PDM 内の指標とこれに果たした専

門家業務の役割は表 10 のとおり。

表 10 PDM 成果の指標に貢献した専門家業務の役割

1

2-1 農業経営改善(組織化、流通販売等)の普及資料が作成される。

・農家経営改善手段にかかる普及補助ツールを開発し、モデルプ

ロジェクト等にて活用し適宜改善した

・農民組織化支援に関する教材とファーマーズ・マーケット設立・

運営支援に関する教材の検討を CPと行った

・これまで作成した教材やツールなどの成果品を SIDIAウェブサ

イト内でダウンロードできるようにした

・国内外の調査に参加し当分野支援の情報・資料収集を行った

2

2-2 経営改善に係る研修の実施により、普及員及び農民代表の能力が向上する。

・リーダー農家と農業普及員を対象に、国内外の農家経営改善・

組織化支援分野の研修を企画・実施し、能力向上を図った

・3 ヶ月の新人普及員研修プログラムを企画立案し OJT、OffJT

研修を経て農家経営改善分野の基礎能力向上を図った

・先進農家を講師として他の農家グループへ会計研修を実施支援

し双方の能力向上を図った

・ウスルタン県のファーマーズ・マーケット組合に参加型評価ワ

ークショップを 2度実施支援し、活動評価に関する農家と普及

員の能力向上を図った

・研修・調査などを CP と企画・実施し管理者レベルの個別プロ

グラム運営能力向上を図った

3

2-3 農民組織による経営改善モデル(モデルプロジェクト)が各普及所に設置される。

・当年度に新設された 2ヵ所の農業普及所にてモデルプロジェク

トを設置すべく事前調査を行い農家グループを特定した

・選択された農家経営改善手段の指導を CPに対し行った

・7ヶ所の東部農業普及所で実施中のモデルプロジェクト内で普

及員による農家経営改善手段の指導を支援した

・ウスルタン県ファーマーズ・マーケットの普及員の指導を支援

し、1年間の継続を達成した

4

2-4 農業情報普及センターに零細農民が必要とする経営改善(生産技術を含む)に係る情報が集積されるとともに、定期情報誌が発行される。

・東部地域の農業情報普及システム(SIDIA)を企画立案し、短

期専門家の協力を得て 2010年 3月に立上げた

・2010年 3月に第 1号定期情報機関誌を発行した。3ヶ月毎に発

行する体制を構築した

・農業情報を蓄積し普及するセンター(API)が東部地域の各農

業普及所に設置される体制を構築した

・農業情報ウェブサイトを立ち上げ、プロジェクトで作成した経

営改善手段のツールや教材などを普及員・農家が入手可能にした

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7. 指導分野およびその関連分野にかかる受入国、協力先の現状と問題点

(1) 政権交代による影響

政権が交代となり、農牧省・CENTA の幹部も交替となった。これに CP からも 2 名の普及所長への

昇格と東部事務局長の交代などがありプロジェクトで研修・技術移転して育成した優秀な CP がプロジ

ェクトから抜ける事態となった。また、国家事業である穀物の種子・肥料配布では 1、2 年次は CP は

配布活動が免除になったが、CENTA 新長官によると CP も例外なく配布活動(年間 2~3 ヶ月)に参

加させるとの方針であり、3 年目以降、この時期におけるプロジェクト活動の停滞が予想される。

(2) 体系的な人材育成システムの不備

現在エ国では、新人普及員の大幅増員計画があるが、雇用される多くの農業普及員は大卒タイトルは

保持しているものの、農場での経験・普及の経験は乏しい。また総じて、CENTA での業務経験年数は

多くても指導レベルの低い普及員も尐なくない。このため CENTA の農家への指導能力が不十分であり、

普及員の能力強化の体系的な研修システムの整備が重要と考える。また、地域局長や普及所長クラスな

どに対するマネジメントに関する管理者研修も重要であり、CENTA 人員のレベル別の人材育成システ

ムの整備が必要である(プロジェクトでは OJT と OffJT を組み合わせた CP の新人教育プログラムな

どを実践したので時期を見てシェアしていきたいと考えている)。

(3) 小農の援助慣れと投資意欲の不足

東部地域には多くの国際ドナーや開発 NGO が存在し、いわゆる箱物のみを提供する支援に終始して

いる例が散見される。多くの小農は何らかの物資支援を受けており、逆に自分で投資する意欲を失って

いるケースがも尐なくない。CENTA の中にも物資援助がないと活動ができないと頭から考えている者

も尐なくない。期限のあるプロジェクトでは、物資支援をしないと短期的に活動が進まず、逆に物資支

援を安易に増やせば長期的に小農の自立心を妨げる、という協力現場にいると常にその葛藤に悩まされ

る。

小農が自ら投資を行いリスクを負って「事業」をしない限り自立はなく、小農が自給レベルを脱し経

済活動に参入する支援をいかに行えるかがひとつの課題であるため、CENTA や支援側のメンタリティ

がまず変化していくことが重要と考える。プロジェクトの経験においても、資金の全体投入量の差では

なく、農家が投資した金額や仕事量の差に比例して成果に違いが出てきていると感じる。

(4) 農業資材の高価格化

エ国では官民ともに野菜種苗の生産・配布体制がないため、コスト高の輸入品に農家が頼らざるを得

ず、小農の経営をひっ迫している。また、農家が野菜栽培品目の多様化を図ろうとしても種苗の品目及

び優良品種が尐なく(特に地方においては顕著である)入手すら困難な状況にある。また、肥料や有機

資材なども価格が上昇しており価格変動の影響を受けやすい。優良な固定種の普及や安価に入手できる

代替ローカル資材などの推進が小農の経営コストダウンにとって重要であると考える。

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(5) 農家経営改善分野の支援体制

CENTA 各普及所には、農家経営改善分野の支援を専門とするスタッフが配置されていない。CP は

一定の能力向上をプロジェクトで果たしたが、多くの普及員が同分野の指導経験が尐なく CENTA とし

て生産から販売まで一体化した包括的な指導が出来ていない(普及員が栽培技術指導のみで経営を意識

した指導をしない限り、小農の市場における競争力向上に限界がある)。農牧省側には農業ビジネス総

局などに一定のノウハウの蓄積があるが、CENTA 末端組織(農業普及所)との連携体制が十分でない。

8. 専門家指導分野およびその関連分野で、今後プロジェクト目標を達成するために残さ

れた課題

2010 年 1 月の JCC にて中間レビュー評価調査団よりの提言によると、農家経営支援分野における活

動はここまで順調に活動が進捗し、プロジェクト終了まで成果 2 とプロジェクト目標達成が見込まれる

との評価を得た。プロジェクト残期間(2 年間)の活動としては、選択された 7 つの経営改善手段の支

援定着、教材・ツールの開発、農業情報普及体制の強化を中心に、中間レビュー評価調査団により専門

家指導分野において提言された、(1)有機野菜の認証制度の調査、(2)ファーマーズ・マーケットの設置

推進、(3)農業情報普及システムの構築、に関する活動に注力することが望ましいと考える。

一方、生産体制の確立・実証の遅れからモデルプロジェクトの販売まで至っていないグループも散見

され、一部の農家経営改善手法が導入できない課題も存在する。また、生産がうまくいかないと組織は

活動に対する興味を失い参加者が減尐し自立発展性が失われるという傾向もでている。当専門家の指導

分野ではないが、とにかく生産性向上のための体制が望まれる。研修や実習により農業普及員は技術を

習得し指導できる普及体制の強化(プロジェクト目標)は十分達成可能であるが、上位目標である安定

した所得向上に数年後つながるかというと生産体制がプロジェクト中に確立されないと困難である可

能性がある。

9. 専門家指導分野およびその関連分野で今後受入国が取組む必要があると考えられる

課題

食糧自給の乏しいエルサルバドルにおいて農業開発は避けて通れない喫緊の課題である。2009 年 6

月に交替した政権において、既に食料の安全保障や経済格差是正は重要な政策目標と掲げられ、益々

CENTA の果たす役割が大きなものとなっている。CENTA において、現在の人員や新規に採用される

人員の体系的なキャパシティデベロップメントと効率的活用などを図り、組織のダイナミズムを高め東

部地域に持続的なインパクトを与える必要性を課題とし、下記の点を提言する。

(1) CENTA の各地域事務局に最低 1 名ずつ市場支援担当者、農家組合(組織化)支援担当者の採用と

配属、もしくは農牧省よりの出向やコンサルタントの配置などを行い全普及員・地域関連機関と連携さ

せ、農家の「生産と経営」を両立して指導する体制作りに取り組む

Page 29: 専門家業務完了報告書 - JICA · ⑤合調整委員会( jcc)の準備と開催(第2回:2009年5月21日、第3回:7月2日、第4回: 11月24日、第5回:2010年1月26日)

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(2) ウスルタン県のファーマーズ・マーケット支援プログラムのように、地方公共団体との連携を具

体的に進め、経験を蓄積する。さらに地域のネットワーク形成を推進し、地産地消運動や特産物の生産

性を高める支援など、地方の「地域力」を高める工夫が必要である。

(3) 人事制度を改革し、有能な人材を適材適所に配置したり給料制度を見直したりするなど、成果主

義を導入し各自の仕事のモチベーションを高め効率的に行政サービスを行えるようにする

(4) 当プロジェクトへの参加農家も全体的に平均年齢が 40~50 代と高齢者が多い。これらの参加者は

一般的に革新的な活動を行うダイナミズムが乏しいと感じることが尐なくない。若者の農業参加を学生

や就業前の人向けに取組むなど、長期スパンで農業の担い手を育てていくことが重要である。外国の出

稼ぎから戻ってきて仕事がない者や仕事がなく犯罪に手を染めてしまう者のためにも農業の知識は身

近な企業手段として育成の重要性が高く、CENTA が若者向けに包括的なプログラムを作成し実施する

意義は大きい。

10. 類似プロジェクト、類似分野への今後の協力実施にあたっての教訓、提言等

(1) 当プロジェクトで成果目標の半分を担っている流通や経営改善支援のコンセプトの導入は極めて

重要と思われる。実際に当プロジェクトの CP である農業普及員は生産技術のみ指導していたが、投資

コストや販売を見据えた指導ができるようになってきた。このように、他の農業普及の技術協力プロジ

ェクトにおいて「経営改善」や「市場形成」支援のコンポーネントを考慮した案件が増えることが望ま

れる。

(2) 同じセクター間でのJICA案件に関わるCPや専門家間の地域内交流は有意義かつ援助効率を高め

るため積極的に推進すべきものと考える。ニカラグァにける 2KR 事例の視察や農業プロジェクトに配

属されている JICA 専門家とのコスタリカ第三国研修の情報交換、パナマで実施中の JICA プロジェク

トより研修生の受け入れなど、本年度においては中米地域における他の JICA 案件の関係者との活発な

交流ができより業務に活用できた。また、南南協力の一貫として第三国との交流・技術移転は域内の双

方のメリットをもたらすもので有効と考える。

(3) 地産地消の取り組みとして設立・運営支援を行ったウスルタン県のファーマーズ・マーケットは物

資援助を一切行わず生産者の組織化・研修・関係機関連携などを行った結果、自立的なモデルとなり週

1 度 1 年間の継続の下、参加者の一定の所得向上が確認されプロジェクトを卒業した。設立・運営支援

ステップやツールが SIDIA ウェブサイトに蓄積されているため、農産物流通支援の要素のある類似案

件にてぜひ活用されれば幸いである。

以上